しあわせのかたち

しあわせのかたち

2004/12/08
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 浅利慶太という劇作家がいて、有名なところでは(具体的には日本演劇界とかね)とことん有名で、無名なところではとことん無名である。まあ所属する分野が戯曲界であるし、もうずいぶんと御歳を召してらっしゃるから、この先大注目されることは少なかろう。

 興味がある人にはいまさら過ぎる話であり、興味がない人は「だから?」と思うような話ではあるが、この浅利慶太氏、「劇団四季」の主催者であり旗揚げ以来の脚本・演出担当。石原慎太郎氏や小沢征爾氏、故江藤淳氏らの若い頃からのマブダチである。

 で、そういう玄人好みする作家が好きだったりするのが変態の変態たる所以であって、いわゆる本格的な「本の虫」たち(リアル変態は年に500冊とか読むらしい。変態め)には遠く及ばないものの、いちおう履歴書には「趣味/読書」と書く程度には本好きな私は、この浅利慶太が書くものが好きだったりする。

 その最新エッセイ集に『時の光の中で』(文藝春秋刊)があり、現在モソモソと読んでいる最中。そのなかにとても印象的な説話があったので簡単に紹介したい。

 浅利氏が1963年11月、天下の日生劇場で昭和天皇とドイツ連邦共和国(西ドイツのことね)のリュプケ大統領を招いての公演を仕切った時の話だ。当時世界最高峰であった「ベルリン・ドイツ・オペラ」を招聘しての公演で(ドイツ人はいつでも「自分たちのオペラが世界最高だ」と主張する)、その時の演目のひとつである『フィガロの結婚』で「スザンナ(ソプラノパート)」を歌ったエリカ・ケート氏が、雑談のなかで各国語の比較論を浅利氏に語ったそうだ。

 いわく。

 イタリア語は歌に向く言葉。
 フランス語は愛を語る言葉。
 ドイツ語は詩をつくる言葉。


「シェイクスピアが聞いたら怒り出しそうだが」という前置きを置いて、
 英語は商売をする言葉。

「独ソ戦終結からまだそう年月が経ってない状況での、ドイツ人である彼女の分析であるから」(大意)と浅利氏は断りを入れつつ、
 ロシア語は人を呪う言葉。

 そして最後に浅利氏は質問する。「では日本語は?」

「人を敬う言葉です」


 日本語を解さない、あるオペラ歌手の感性をして「人を敬う」と感じせしめた日本語を操り、現在ネット上ではさまざまな誹謗中傷罵詈雑言が飛び交っていたりする。私はそれを一概には否定しない。火事とケンカは江戸の華。それで現実社会の鬱憤やしがらみがほんの少しでも解消されるなら、どんどんやればいいんじゃないかな、とも思う。

 しかし、ソシュールやバルトの指摘を待つまでもなく、人の思考というものは母語により大きく規制される。母語によってのみ思考は形成される、とさえ言える。「人を敬う」と評されたイディオム(idiome=「言葉」から「民族/国家」といった政治的要素を排した純粋言語概念)を持つ「日本語」は、ネット上で交わされることは本当に少ない。

 探し物はまだ見つかっていない。


 追記)12月は更新が著しく滞る予定。ま、気長に待ってくだせい。





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Last updated  2004/12/08 05:39:01 PM


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