しあわせのかたち

しあわせのかたち

2006/01/17
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 ちと仕事で疲れている。

 メンドクセー。。。。。

      ※

 仲良くさせていただいている中マロ姐さんのところで、少し前に「第一言語(の習得)」に関する刺激的なやり取りがあったようだ。 ここ ね。リアルタイムで読んでいれば乱入したかったのだが、スカッと乗り遅れてしまったので若干悔しい。
 でもたぶん、キチンとしたものを書くと長くなりそうで、それはそれで大変そうだなあ、コトが幼児教育だけにいい加減なこと書けんしなあ、とも思ったりもして少し複雑だ。


 いま改めて当該記事をザッと読み返して、少しテーマとはズレるであろうが、吃音者(いわゆる「どもり」)のことを思い出している。


 例えば「カ行」がどもる人は、「かわいいね」と言うべき場面、言おうと思い立った瞬間でも、最初の「か」が出てこないことを恐れて「美しいね」と言い換えてしまうことがあるそうだ。



「言葉」は感情に強く影響を及ぼすから、「かわいいもの」を「美しい」と言った瞬間に、「かわいい、と思った発話者」自身も(もちろん言われた相手も)、その発話された言葉に影響を受けざるを得なくなるわけだ。

 例えばこれは、日本語話者が英語で「切ない」という表現がわからなくて、かわりに「悲しい(ex.Sad)」と言ってしまう状況と近いだろう。


 こうした吃音者の言い換えを「悲しく辛い状況だ」と、いまこのエントリを読んでいる方は思うだろうか?
 そう思った方は、では「A子さんはかわいい」という表現(文字でも音声でもどちらでもOK)と、自分のなかの「かわいい、と思ったA子さんへの感情」とがピタリと一致していると、断言できるのだろうか?


 上記は少しわかりづらいかもしれないので、補則しておく。

 例えば電車のなかで一組のカップルがいたとする。
 女性が男性に向けて、「わたしのことを、どう思っているの?」と聞く。

「愛している……うん、そうなんだけど少し違うな。いとしい……これもちょっと違う。大切だ……そうなんだけど言い切れていない。抱きたい……別の意味が入ってくるね。好きだ……薄っぺらい気がする……。一緒にいたい……そうなんだけどでも……」

 と、延々と悩む男性。
 これは鴻上尚史の著作から引いたエピソードだが、この男性の逡巡が、理解できるだろうか?
 私にはできる。そしておそらくこの逡巡は、この男性の愛情(と広く呼ばれる心情)が深ければ深いほど続くだろうと思う。



 そしてそれは、学問でもなく仕事でもなく、あるいは教育という切羽詰まった状況でもなく、ただただ「恋愛」という場面で出会うということについて、とてつもなく素敵なことなんじゃないかと私は思っている。

       ※

 学生時代に、どもりの友人がいた。
 そいつは私なんかよりよほどインテリで、だからなのか、初対面から「吃音などと言うな。どもりと呼べ」と言っていた。

 友人はインテリだけどシャイで、当時クラスで一番軽そうで女の子に顔が広くて、酒のつきあいがよくてしかもバカっぽかった私に、ある日突然「同じクラスのYさんに告白したいのだが、一緒に来てくれないか」と頼んできた。



 オレの友人でキミも知っているある男が、キミに大切な話があるんだと、そうだとわかるように含めてYさんを午後5時過ぎの空き教室に呼び出した。

 ヤツをひとり教室に残し、私は扉の前で待っていた。
 Yさんは約束の時間ぴったりに来た。
 女友達を3人連れてきたけれど、私はひとりで中に入ってくれないかと頼んだ。チラッとなかを見るとYさんは私に振り返り、わかったと頷いてひとり扉を開けて入っていった。

 扉の前に残された私と3人の女友達。
 女の子たちは一瞬中を覗きたそうにしていたが、普段ユルユルとしていた私が「ゆめゆめそんなことは許さん」という顔をしていたからか、黙って私とは反対側の壁に寄り掛かって待っていた。

 しばらくたって。
 それはたぶん10分に満たない時間だったとは思うのだけど、ひどく長く感じられたあとに。

「きっきっきっきっき……!」

 という大きな声が教室から聞こえてきた。
 私は祈るような気持ちになった。

「きっきっきっき……キミのことが、好きだ!」

 莫迦だよね。中学生じゃないんだからさ。
 オレ、覗くなって顔してたのに、意味ねえじゃん。
 そんなことを思っていたが、ヤツはすげえ。すげえヤツだ、と心の底から感動していた。

 それからまたしばらく時間がたって、ヤツはひとりで扉を開けて出てきた。
 ひとりで出てきたから、結果はなんとなくわかった。
 入れ替わりに、3人の女友達が教室に入っていった。
 チラリと見えた教室は、まだ夏の光が窓からずいぶんと差し込んでいて、逆光のためにYさんの表情はよくわからなかった。


 一緒に階段を下りて校舎を出るとき、ボソッと「ダメだったわ」とヤツは言った。

 そうか。まあ、しゃーない。
 しかしお前、告白するにしたってあのセリフ選び、どうにかなんなかったのか。

 無神経な私が笑いながらそう問い掛けると、そうだよなあ……とヤツは言った。
 笑顔と泣き顔の中間の、変な顔をしていた。

 じゃあなんて言えばよかったのか。
 わかりっこねえなあ、なんて言いながら、駅に向かってトボトボと歩いていた。
 今はまだ無理だけど、いつかわかるようになるんだと、信じて疑わなかった。
 私もヤツも、18歳の、しかも夏だった。


 私の探しものは、まだ見つかっていない。
 ヤツがもう少し頭が悪ければ、「キミが」ではなく「あなたが」と言い換えただろうことは、しばらく後になってわかった。
 そして私はたぶん、あの絞り出すようにでた重く鋭い告白の「ことば」を、カ行がどもると知っていて選んだその「ことば」を、一生忘れない。




(追記)
 これもまあなんというか、全部実話です。「ヤツ」はいま職場で知り合った美人の奥さんと結婚して子供がひとりいます。可愛い女の子です。5年くらい前にうっかり酔っぱらって奥さんの前で「あの時」の話をしてしまい、その後メールでえらくイヤミな文章をもらいました。すまぬ。だって美人妻に「学生時代の恋話、聞かせて」ってせがまれたら断われんよ。

 いっぽうYさんは夏休み明けにサークルの先輩とくっついたそうで、何度かカップルで歩く姿を見かけましたが、その後はよく知りません。女友達3人のうちのひとりとはその後何度か飲みに行くようになって、「Yちゃん、あの時泣きながら断わったんだよ」という話を聞きました。Yさんにとってもまた、18歳の夏でした。
 ヤツの想いは破れたけれど、「ことば」は届いていたんだと、なんだか不思議に嬉しくなりました。


(追記2)
 本文中にリンクのある、中マロ姐さんにTBを送りました。
 むうう、書き終えて読み返すと、ずいぶん主題とズレているような気もしないでもない。「子供を想う母の悩み」と比べてしまうと、えらく小さいなあ。まあ子供がいない小生では、どう書いたところで敵いっこないわけではありますけども。





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Last updated  2006/01/17 05:58:26 AM


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