歌 と こころ と 心 の さんぽ

歌 と こころ と 心 の さんぽ

2025.08.21
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 ヒマラヤを想ったら元気が出た。登ることに決めた。とに角もう少し登ろう。あといくつかの滝は見よう。その時点でもどれるか上へ登って小屋で泊まるか考えよう。こんなチャンスはそう何度もない。またすぐ出直すということも出来はしない。たぶん来年になってしまうだろう。いやそれもどうだか怪しいものだ。それなら全力を出し切ってやれるところまでやってやろう。何とかなるだろう。行き倒れになるかも知れない。でもそうはなるまい。人間の力はその気になりさえすればかなり出る。ダメだと思っても実際はまだ余裕があるものだ。
 この南精進ヶ滝はまあまあの滝であった。落差もありスケールも大きく苦しい思いをして登って来た甲斐があった。ただ滝の下までは下りられず、途中から不安定な場所で眺めるだけしか出来ない。荷物を持ったまま行くのは無理な場所で、絵を描いたりできそうもない。仕方がないので写真だけ撮り、頭の中に描いて焼き付けておくことにする。この滝が良かったので次の滝への期待が膨らむ。
 ここからの登りは小さな山を尾根伝いに登って行き、小山を一つ越える格好だ。根っ子の間や石の間を真上に登るような急な道で、一歩一歩がかなりキツイ。しばらく登ると今度は沢に下り、沢を横切り、再び向こう側の山腹を前と同じように登る。沢を二つ越して漸く二つ目の滝、鳳凰の滝が見えて来た。ここまで来るのに小一時間かかった。この滝はかなり上から落ちて来る、左側からと右の奥からとの二方向からのかなりスケールの大きな滝だ。しかし、距離があり過ぎるのと河原に大きな岩がブラインドとなって、右側の本流の滝が良く見えない。遠くの山から水が落ち込む垂直の滝からここまで10m以上もあるだろうか。もう少し良く見えればかなり面白い滝だと思うのに。ここでもスケッチすることは出来ず、写真撮影だけで、あまりゆっくり眺める気にもならず、少し休んで次の滝を目指すことにする。

 かなり疲れているが体が慣れてきたのか、けっこう急な道だが何とか登って行ける。地図で見ると次の滝までの距離が一番近く、30分でたどり着けそうである。それにしても登りは増々キツクなる。階段と梯子の中間ほどの傾斜がある。それを真っ直ぐ上に向かって登って行く。キツイが登りはけっこう登れるものだ。ヨイショ、ヨッコラショと思わず声が出る。クソッタレ、ナニクソと力が入る。絶対登ってやる。征服してやる。負けるものか。一歩一歩に声をだして力を振り絞る。富士山に登った時よりキツイ。登山道の巾が狭く直登攀ばかりでジグザグに登って行くというより真上へ向かってハシゴをよじ登っていく感じだ。登りもキツイが下りはもっとキツそう。とても今日おなじ道を下る気にはなれない。下っても途中でギブアップだろう。
 登る時は一歩一歩目標に向かって時計が秒針を進めるように、着実に前へ進むという本能的闘争心みたいなものが、苦痛を超えて足を前へと運ばせる。まさしく山と格闘している気分だ。頂上を極めることを征服という言葉で表現する、まさにそういう気持ちで登っている。やっつけてやる、負かしてやるという思いで一心不乱にその事だけを考えて登る。周りの景色や他のことに気を回す余裕がない。ただただ足元の木の根や石の露出したワイルドで不規則な地面を見つめながら、他の人が付けた靴跡を同じように踏みしめていくだけだ。他の人に出来て自分に出来ないはずはない。他人が登った山に登れないはずがない。

 靴跡というのはけっこうな存在意味のある貴重なものだ。ほとんど人には会わず、小鳥以外の動物にも会わない。最初の滝までの道で猿をチラッと見掛けた以外は、心を通わす対象や意志の交感をするものが何もない。靴跡だけがそこに人間の存在を証明するものとしてあり、登山コースの案内役でもある。道に迷いそうになった時に周囲の靴跡を見つけることによって正しいコースを発見することができる。もし最後に通った登山者の靴跡が雨で流されてしまったとしたら、迷ってしまうだろうと思われる所が数か所あった。
 登山者にとって、雨の日と日没後の登攀はかなり危険なものだ。雨が降れば流されてしまうコースや鉄砲水で水没したりして通れなくなる所や、がけが崩れて通行不可能になる所など至る所にある。夜間の登攀も怖い。今回は雨具も懐中電灯も用意しておらず、もし途中で雨が降ったらずぶ濡れになって体温が下がり、当然気温も急降下するため体力を消耗して衰弱していまう。下山途中で日が暮れてしまえば真っ暗で一歩も歩けず、ビバークを余儀なくされる。その結果、寒さに凍えて遭難という事にもなり兼ねない。

 今日はどう足掻いても下山して車に戻ることは無理になって来た。30分ほどで着くはずが1時間近くもかかってやっと三つ目の滝にたどり着いた。何とキツかったことか。もうどんな事が有っても下山ということは考えられない。足がもたない。登るよりも数倍疲れる感じ。今から下山したとしても、とても明るい内に麓までたどり着けそうにない。
 登り始めてから4時間以上経っている。10時50分。コースの所要時間をもうじき過ぎようとしている。考えが甘かった。思ったよりも山は手強かった。日帰りなどとんでもない話だ。標準タイムもクリアできない。まだもう一つの滝を越えて、それからかなりの距離を登ってやっと鳳凰小屋までの所要タイムとなる。この分だと小屋まで行くのに7時間以上掛かりそうだ。標準の5時間を2時間も余分に掛かることになる。もうこうなったら小屋で泊まるより仕方がない。そうと決まれば急ぐことはない。今日一日をゆっくり過ごせばいいわけだ。たっぷり時間をかけて滝を観察し、山登りというものを堪能すればいい。

 4へ続く
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最終更新日  2025.08.21 11:06:26
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
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