歌 と こころ と 心 の さんぽ

歌 と こころ と 心 の さんぽ

2025.08.21
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 富士山はすぐに雲が全体を覆ってしまった。頂上はやっぱり気持ちがいい。しばらくそこらの大岩の上に横になって、山の空気を存分に吸った。抜けるような青空は、吸い込まれそうに深い色である。余りに穢れがなく澄んでいて、ジッと見ていると目眩がしそうだった。そのまま目を閉じて風に吹かれている。あんなに辛かった今日の登山だったが、このひと時はすべてを忘れていい気分だった。

 しばらくして、風が冷たくなって来たのでぼつぼつ下ることに。砂走り風の道はやはり走って下りることになる。靴の中に砂が入る。急な坂を走って下るのはけっこうキツイものだ。調子づいてここで走ったのが後になって効いてきた。如何にも足がくたびれている。小屋まで登って来て精も根も尽き果てたののに、それから余分に1時間、最もキツイところを登って来ている。足が動かなくなってきた。腿が痛い。登る時と違う痛さがある。登りと違ってゆっくり歩を進めるということが出来ない。どすんどすんと下りる。そのたびに腿に力が加わり、ビリビリっと来る。後ろ向きに下りるのが楽だ。だからといってすっと後ろ向きで下りられるものでもない。急な段の部分だけ後ろ向きに下りる。木につかまり、根っ子にしがみつき、出来るだけ足に力を入れない様に上半身を使いながら下りる。腕の力を利用してぶら下がる様にして、ゆっくりゆっくり下りる。どんなにシンドくても今日はここで泊まるのだ、我慢が出来る。小屋へ着けばもう今日は何もしなくていいのだ。食事して寝るだけだ。酒を飲んで寝るだけだ。
 夕食までの間、掘りごたつに入って泊り客と小屋の主人と歓談する。真っ暗の中、わずかにランプの明かりが有るもののほとんど相手の顔は分からない。5時半ごろには日も落ちて、山は静かな眠りに入ってしまう。ワンカップの酒を飲む。500円。この暗い中で本を読んでいる宿のオヤジは、生活に暗順応している。我々ではとても本など読める明るさではない。
 夏の本格的登山シーズンは終わり泊り客も少ないので、本がよく読めると言う。一日一冊のペースとか。

 夕食は5時半。この時だけ小型の発電機を回す。薄暗い蛍光灯の下での食事。今夜はカレーライスの簡単料理。山小屋でカレーを食べるとは思っていなかった。熱いご飯に山菜に魚、それに味噌汁とかを想像していた。昨晩はキノコを出したそうで、そういえば登山中にも食べられそうなキノコが何種類か生えていたのを見た。白いシメジの様なもの、チャコールグレーのもの、茶色のもの紫いろのものなどあり、白いのとグレーのものなど食べられそうだった。カレーなんかよりキノコが食べたかった。
 夕食後、夕陽に輝く富士山を見に行く。もう一つの登山ルート、御座石鉱泉ルートを少し下がったところから富士山が見えるという。真っ赤に染まる富士山を期待したが、ピンク色からすぐグレーに変わって、そのまま暗くなってしまった。小屋の周囲の山は夕陽を受けてオレンジ色に染まっていたのに、富士山は思ったような鮮やかな色には染めてくれずがっかりして小屋へもどる。しばらく炬燵で談笑する。
 今日の客は中年以上の熟年登山者ばかりで、男の最年少が34歳。あとは俺が2番目で、50代の夫婦夫婦や40代の後半から50代初めぐらいの女性二人のパーティー。それに独身女性の二人組。40代の男性。他に何人かいたようだが顔を見ていないので良く分からない。昭和11年と15年生まれのご夫婦は子離れし、孫がいるとか。共通の趣味を登山にして楽しんでいるらしい。50歳の奥さんは俺と同じドンドコ沢を登って来たそうだ。41歳の自分があんなに苦労して登って来た道を孫のいる(おばあちゃんとはまだ呼びにくい)人が登って来たということに驚いた。自分がいかに登山の素人か、甘い人間かを思い知らされた。
 そして中年女性の二人連れにも驚かされた。年に6-7回の他に月に一回は登ると言い、疲れた風もなく淡々としていてこのぐらいの山は朝メシ前という感じ。夕陽を見に行った時もこの二人はヘッドランプを着け、一眼レフのオートマチック・カメラを派手にガシャガシャやっていて、いかにもこういうシチュエーションに慣れている。34歳の男性は学生時代に良く山登りをしたが、結婚して子供が出来て遠ざかっていたが久し振りに登ったのだとか。お盆休みに4日程縦走して今日また一人で出て来たという。
 3-4日の登山となると、テント、シュラフ、食料などなど何と20kgのリュックを背負って登るという。ビール大瓶20本入りワンケースの重さだ。とても考えられない。5kgでヒーヒー言っている私には10kgだって無理だ。知人の神谷氏も家族で涸沢へ行った時は20kgほどを担いで登り、徳沢で一泊して涸沢に着いた時はメシもノドを通らなかったと言っていたっけ。

 7へ続く
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最終更新日  2025.08.21 11:16:45
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
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