歌 と こころ と 心 の さんぽ

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2025.08.21
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 こんな山の中で見知らぬ男に変な事でもされたら逃げようもない。そういう危険を避けるためにもめったな口を利かず、接触をしない様にしているのかも知れない。しかし、失礼だがどう見ても男に襲われるタイプには見えなかった。

 三つ目の滝は白糸の滝といい名前の割には情緒がなくどこにも白糸の滝のイメージはない。中途半端な大きさで、スケール、風情などこれといって取り柄がない。糸の様に千条の水がいかにも可憐に落ちて来るという姿を想像していたのでとてもガッカリした。どうしてこんな名前が付いたのだろう。もっと水量が多い時はそういう感じの滝になるのかも知れない。
 富士山麓にある白糸の滝も水量の多い時は、シネマスコープのワイドスクリーンのように横に広がる180°のパノラマで糸状の水が無数に落下する。その様は白糸の滝の名にふさわしい美しい滝だが、水量が少ないと貧弱で見る影もない。たった一度見ただけで良いとか悪いとかを簡単に判断するわけにはいかないが、その時々のそれなりの味を見せてくれるのが名瀑というものなのだろう。ここの白糸の滝に関しては今年のこの時期の姿はあまり美しくない。本当の姿を見たいものだと思う。スケッチする気も起らない。時間はたっぷりあるが疲労のために集中力も欠いていて、とてもゆっくり絵など描いている気にもならない。

 この辺りで昼食のラーメンを食べようと思っていたが、沢まで下りる事が出来ない。急斜面の向うに沢があり、危険そうで水の流れている場所まで行けそうもない。朝5時半に稲荷ずしを3個食べただけなので腹は減っているはずが、あまりに疲れているせいか空腹感がなく、もう少し先に延ばそう。そして、次の滝が最後ということもあり、ここでゆっくり時間を楽しもう。そうは思ったものの10分休んで次の滝を目指して登り始める。
 道は増々険しくなる。かなりの勾配だ。身長ほどのところを3段4段で登る。そういう登りがづーっと続く。登っては下を見てみる。とても下るのは大変だ。どうやって下りるのだろうと思うようなところが幾つもある。木の根をつかみ、何かを掴まえながら体を支えないと登れない様なところもある。あと少し、あと1時間がんばれば最後の滝が見られる。ここまでまあまあ満足な滝に出会えた。苦労して登って来ただけのことはあった。
 こんな辛い思いをして頂上まで行く事が出来れば、この苦労はきっと何かの役に立つはずだ。創作に行き詰りイライラの毎日を過ごしていた。その欲求不満と頭のモヤモヤが晴れることは間違いなしだ。脳のパイプが詰まり心の窓が曇り、自信を無くして自己嫌悪の毎日だった。これがすべて雲散霧消してリフレッシュ出来るだろう。こんな苦しい思いをし、苦しくても尚それ以上に頑張るなんてことは登山以外には考えられない。めったに体験できないことだ。人々が登山の虜になり、苦しいけれど山へ登る魅力はそういうところにある。人間は弱い生き物だ。出来れば楽をしたい。自然のままにまかせて生きていれば、楽な方へ自然に流されてしまう。いつの間にか自分を見失い、流れの上の泡沫の様に流されてしまう。こんな事を考えながら、苦しいのにまだ上に向かって登って行く姿を愛おしいと思ったりする。

 登山というものは自己満足の最たるものだ。ただ山に登るだけで人生を知り、人の心を感じ、自然の雄大さを知り、己の内面を見つめる事が出来る。誰にも文句を言われず、嫌になったら自分を甘やかすことも出来る。それでもなお頑張る力が出てくるのは登山の魔力ではないだろうか。多くの人が一度経験すると病みつきになる登山。こうも単純で、それでいて奥深いスポーツがあるだろうか。たった一人で、自分だけの、メンタル的な地味な戦いのスポーツだ。
 苦しくても辛くてもまだ登る。目的地に着くまでは登りつづけなければならない。そうしなければ行き倒れするだけだ。入山届けが出してあるわけでもなし、滅多に人に合わず、遭難しても身元がなかなか分からない。この時期に遭難というのはそう有る事ではないと思うが、一歩間違えば可能性はある。これだけ苦しい思いをすれば体中の毒素が全部出てしまう様な気がする。
 1時間ほどして最後の滝に到着。五色の滝という。標高2,280m、美しい滝だ。スケールも大きく落差もある。すぐ下まで下りることが出来、ここでしばらく時間を過ごすことにする。まずラーメンを食べて、大きな一枚岩の上で横になる。滝の音ですべての雑念が消し去られ、うつらうつら。晴天の空に幾筋かの雲がかなりのスピードで流れて行く。山の天気は変り易いというが、大した変化もなく快晴に近く午後になっても上天気。多少の雲は有った方いい。空に動きが出て面白い。

 滝の水を上からポイントを決めて追っていくと面白い。塊となって落ちてきた水が筋となって落ち始め、途中からその筋が点に変る。下の方ではほとんど点の集合で、それぞれの水が独立して落花してゆく。岩盤の上を流れ落ちる滝は、縦波となって「くの字」を下に向けた波型を作って落ちていく。どの滝を見ても糸を引くように落ちていくものなどなく、落差があればあるほど下の方では粒となって落下していく。ただ、落差がなくて傾斜のある、変化に富んだ岩盤を滑る様に落ちて来るものは、幾筋もの線を描いて交差しながら落ちていく。こういう滝が絞り染めでは表現しやすいだろう。どう表現するかは時間をかけて、じっくり温めてイメージが広がるまで待った方が良いと思う。

 5へ続く
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最終更新日  2025.08.21 11:09:36
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
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