hongming漫筆

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2018.07.31
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カテゴリ: その他の読書録

 この新潮文庫版を手に取るのは40年ぶりぐらいではないだろうか。
 新たな発見があったのは、読者がにやりとするようなほのかな笑いの要素を入れようという姿勢が見られることだ。

「ダス・ゲヤイネ」
 フィクションではあるが心理的にはノンフィクションなのかもしれない。暗く書こうと思えば暗い話になるはずなのに、最後も妙に滑稽な印象を与える。

「満願」
 わずか三ページの小品。
 病人の家族が出てくる話なのに、明るく、健康的でさえある。

「富嶽百景」
 半分は事実で半分は誇張ではないか。
 井伏鱒二の放屁など書く必要はないめにわざわざ書いている。
 笑えるところを入れずにはいられなかったのだろう。

「女性徒」
 これは全く理解できない。ファンの女性が書いて送ってきたものを下敷きに使っているそうだが、文章芸として書いて見せたのだろうか。

「駆け込み訴え」
 途中で誰の話かはわかる。
 太宰は「涙の谷」とか「蕩児の帰宅」とか、聖書由来の語をさらりと使う。
 キリスト教に興味を持っていたことがあるのだろう。

「走れメロス」
 教科書で読んで以来何度か読んでいる。
 あきれるのはメロスの短絡的な性格だ。町の人の噂を聞いただけで王を殺さなくてはならないと思い込み、何の計画もなくのこのこ場内に入り込んでつかまる。
 メロスの縁者なら「勘弁してくれよ」と言いたくなるところだ。
 読み直して、以前から謎のままだったことがあったのを思い出した。
 山賊が現れる場面で、
  「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな」
と言う。メロスはほとんど裸で、金目のものを待っていないことは見れば分か
るのだから、そう考えても不思議はない。
 しかし、ほんとうに王の命令だったのかどうかは明らかにされていない。話
を盛り上げるために山賊を出七ただけなのかも知れないが、こういうところは
はっきりさせてほしい。
 謎と言えば、太宰がなぜこれを書いたのかということと、三島由紀夫がなぜ
「潮騒」を書いたのか、私には永遠に謎のままおわりそうだ。

「東京八景」
 自分の半生を自虐的に書いている。 自虐的だからこそ滑稽味も感じられる。
 これで覚えているのは、太宰が薬物中毒で入院していたことがあるというこ
とだけだった。
 今回、そのきっかけが盲腸から腹膜炎になって入院していたことだと理解で
きた。もちろん、以前読んだ時にもその事は書いてあったのだが、自分が同じ
病気を経験してみると、印象が違う。
 おそらくドレーンをさして腹水を外に出すという技術が無く、ガーゼで腹水
を吸い取っていたのではないかと思う。
 痛かったろう。
 その後船橋に一時住んでいたことが簡単に触れられている。
 船橋時代にあったことは、「黄金風景」という小品に書かれている。(「青空
文庫」で読める)

「帰去来」「故郷」
 この二つはつながった話で、「故郷」の冒頭に、「帰去来」発表の経緯と「故
郷」の話になった過程が説明されている。
 資産を食いつぶし家名に泥を塗ってきた男が、周囲の力で帰郷する。
 さらりとたとえられているが、「蕩児の帰宅」がずっと頭にあったのだろう。
 そして家族も周囲の人々も、太宰が駄目な人間だということがわかっている
のだろう。ことさらその点を指摘されたり非難されたりしないのが不思議だが、
そこが「蕩児の帰宅」なのだろう。





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Last updated  2018.09.01 20:31:41 コメントを書く


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