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July 14, 2013

元禄時代の愛すべき釣りバカたちそして別の面からみた討ち入りの顛末とは～小説『大江戸釣客伝』(上下)

テーマ：今日どんな本をよみましたか?(91627)

カテゴリ：日本の作家が書いた歴史小説

みなさん、連休中も暑いですね。ひと雨くらい降ってほしいものです。
さて、こちらは釣りにとりつかれた江戸時代の人たちの物語です。

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　表紙の人物は津軽采女。日本最古の釣り指南書『何羨録』を著した実在の人物です。とても穏やかに釣果を眺めていて、てっきり“江戸時代に彼をはじめ釣りが好きだった人が、あれやこれやと戦果を綴ったものかな？”と考えます。その予想は、あながち外れてはいません。しかし、その“江戸時代”が五代将軍綱吉の時代だったとしたらどうでしょう？“おかしくて笑える釣り自慢”ではなさそうですね。
　綱吉といえば、生類憐みの令という天下の悪法で有名ですね？綱吉の時代も憐みの令も小説で数多く取り上げられてきましたが、“釣り”と関連付けた作品は少なかったと思います。
　もう一つ、元禄時代の有名な事件である“赤穂浪士の討ち入り”が、吉良側から描かれる点も新鮮でした。実は津軽采女は、吉良上野介の女婿なのです。先ごろTV放送された『薄桜記』もそうでしたが、赤穂浪士視点と吉良視点では、出来事一つ一つの受け取り方が真逆です。高家筆頭を鼻にかけ、一本気な浅野内匠頭に嫌がらせをし続けた老獪な老人は、ここにはいません。不遇な女婿を気遣い、世間の悪評によって実像を歪められていく、哀れな男がいるだけです。ほら、見方一つで、題材一つで、同じ歴史でも随分と違うものでしょう?同様に、天下のご意見番を任じるあのお方も“『光圀伝』を読む前に本書を読んでも彼のファンになっただろう”と感じる、ただ一人綱吉にモノ申すカッコイイキャラクターになっています。誰ひとり敵わない綱吉ですが、彼もまた心安らかではありませんでした。常に自ら生み出した闇に脅かされる姿は、とても天下を統べる将軍とは思えません。この物語に、勝者は誰ひとりとしていないのです。
　上巻では、
（1）宝井其角、英一蝶、紀伊国屋文左衛門、水戸光圀公が身分の差を忘れて釣り話に花を咲かせる様子
（2）憐みの令が制定されて、あれこれと細かい決まりが発令されてゆく様子
が並行して描かれ、前者が後者によって次第に圧迫されていくことで不安を煽り、うまく下巻へと繋げています。元禄の釣りバカたちに興味を持った方は、是非上下巻通してお読み下さい。