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みなさんこんばんは。大相撲の元横綱・白鵬の宮城野親方が弟子の暴力問題で、日本相撲協会から最下位の年寄への「2階級降格」と「報酬減額」の懲戒処分を受けました。また、師匠としての素養や自覚が大きく欠如しているとして宮城野部屋については、春場所は、所属する伊勢ヶ濱一門の中で任命された師匠代行が監督することになりました。今日も韓国小説を紹介します。小さな町 ソン・ボミ亜紀書房表紙に登場する人達は、皆赤い服を着ている。赤い服といえば、ソウルの広場が赤で染まったワールドカップを想起するが、そのような熱気は表紙から感じられない。むしろ表情を決定する目が描かれないため、不穏な印象である。赤は情熱というより、血を想起させる。口が書かれている人物もいるが、口を開けているのは赤ん坊くらいで、それ以外の人たちは閉じている。 結婚してソウルに住んでいる時間講師の私は36歳。芸能プロダクションで働く夫との関係は冷えている。日課として、夫が毎日せっせとスクラップしているノートをこっそり見るが、そこで見つけた、北朝鮮のスパイ容疑で冤罪だったにも関わらず20年も服役した男の記事がなぜか頭から離れない。あるとき落ちぶれた女優が突然姿を消したことを契機に、私は「消えていた」幼い頃の過去について回想していくことに。 父が出ていった後母で暮らしたのはタイトルの『小さな町』。母は私が目出すことを異様に嫌がり、外に出さないようにした。その態度は行き過ぎた過保護とも見えたが、母の死後、なぜか父がしきりにコンタクトを取ろうとしてくる。森の中に隠れて暮らす女性と母との関係は。火事で死んだ兄の記憶が一切ないのはなぜか。 主人公の一人称語りで、探偵を雇うなど積極的な捜索活動をするわけではないため、謎の解明はさほど早くない。むしろ事実を知った時の私の決断に主眼が置かれている。家族は、私がもっと深い傷を負わないようにを守るために、敢えて母親は消す決断をした。しかし結局自分の家庭は壊れてしまった。事実を知らせていれば、そうはならなかったのか。もしかしたら誰にも、記憶から消えてしまった(あるいは消してしまった)小さな町があるのかもしれない。さて、全てを知り、これから私はどう生きるのか。都合の悪い事は全て消していく、軽々とした暮らしをするのか。それとも全てを背負って重たく生きるのか。小さな町 [ ソン・ボミ ]楽天ブックス
April 13, 2024
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みなさんこんばんは。マ・ドンソク&女優イェ・ジョンファは2016年から公開熱愛を始め2021年に婚姻届を出して法的夫婦となったそうです。結婚式は今年5月静かに行う予定とか。今日から韓国小説を紹介します。八重歯が見たい (チョン・セランの本)チョン・セラン亜紀書房「有史以来のすべての姉御たちの教えによれば、世の中には二種類の男がいる。生涯を一緒に過ごしたい男と、とうてい生涯を一緒に過ごす気にはなれないけれど、もし地球が滅びるのであれば最後の一日を過ごしたい男。ジェファにとってヨンギは、決まって後者だった。」 という、微妙な紹介のされ方をしたヨンギ。彼は、エンタメ作家ジェファの元カレで、警備会社で働いている。今カノはいる。しかし、なぜか彼の体には文章の一部がタトゥーのように浮き出るようになる。病院にかかっても、誰も有効な答えをくれない。次第に今カノも気味悪がり、文章の意味を知ると怒り出す。全く、災難この上ない。 ところで、件の文章の書き手はジェファだ。その事は冒頭から読者に明かされている。ならば、ヨンギがどうしようもなく彼女に熱愛されているかといえば、そのような描写はない。ただ彼は、作中で必ず殺されている。それも必ずしもヒロイックな殺され方ではない。毎回登場させるのは、結構心に残っているからでは? しかし本作、単なるコメディで終わらない。また、別れた元カレ、元カノが、次第に互いの良さに気づくほんわかラブストーリーでもない。八重歯はジェファのチャームポイントだが、タイトルの言葉を言うのは、とんでもない奴だった。奇想天外な設定と、韓国で実際に起きている女性を対象とした残忍な事件をベースに、ホラーとコメディをアクロバット技でエンタテイメントにねじり上げた。ジェファの作品とされる作中作も、それぞれ面白い。八重歯が見たい/チョンセラン/すんみ【1000円以上送料無料】bookfan 2号店 楽天市場店
April 9, 2024
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みなさんこんばんは。センバツ高校野球は、群馬の高崎健康福祉大高崎高校が兵庫の報徳学園に3対2で勝って初優勝しました。群馬県勢の甲子園での優勝は、春は初めてです。今日はミステリを紹介します。薬屋の秘密 (ハーパーBOOKS)The Lost Apotherapyサラ・ペナー新井ひろみ訳 夫の浮気が発覚し、怒ったキャロラインは、結婚10周年記念のロンドン旅行がセンチメンタルジャーニーに。テムズ川の宝探しである泥ひばりにひょんな事から参加し、そこで見つけた小瓶に興味を惹かれる。今後の彼女の人生を大きく変えることになるとも知らずに。 18世紀、ロンドンの路地裏にひっそりと佇む薬屋があった。客は男に苦しめられた女性のみで、店主ネッラがつくる“毒”に助けを求めやってくる。ネッラは女たちのため毒を処方し続けたが、ある少女が店を訪れたことで運命の歯車が狂い始める。 現代と過去を交錯させながら物語を展開させていくパターン。共通要素は「夫の浮気」と「毒」だが、現代パートの毒の使い方がどうもうまくない。過去パートの毒は、確かに証拠を残さず、長年隷属状態にある女性達が、思い余った末の犯行である点、主張する場を持たない女性の復讐手段として理解できたが、わざわざ現代パートに毒を絡ませる必要があったのか。 それよりも、彼女とイライザの交流がほほえましかっただけに、現代パートは過去パートへの導入部と割り切って尺を削り、過去パートの謎めいた女主人ネッラの過去をもっと掘り下げて欲しかった。薬屋の秘密/サラ・ペナー/新井ひろみ【3000円以上送料無料】bookfan 1号店 楽天市場店
April 1, 2024
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みなさんこんばんは。きょうは、東京都心では午前中に26℃を超えて、3月としては観測史上最も気温が高くなっていますが、午後はさらに気温が上昇し、午後1時半過ぎに28.1℃を観測したそうです。今日はミュリエル・スパーク作品を紹介します。邪魔をしないでNot To Disturbミュリエル・スパーク早川書房暗い嵐の夜、スイスにあるクロップシュトック男爵の屋敷では、執事のリスターを中心に、リスターの若い叔母エリナー、誰とでも関係を持ち妊娠しているメイドエロイーズ、バイクで乗り付けてくる牧師、最近雇われ首にされようとしている門番夫婦クララとテオ、腕のいいコッククロヴィス、見習いコックハドリアンたちが、書斎に閉じこもったきり、誰一人寄せ付けない主人たちのことを噂しあっている。時折彼らの会話に「屋根裏のあのひと」の話が混じる。どうやらシスター・バートンが世話をしているらしい。 最初に男爵夫妻の共通の愛人!!秘書のヴィクトル・バセラット、次に男爵夫人、最後に男爵がやってきて書斎に閉じこもる。男爵はリスターに「もし来客があっても、われわれは絶対に邪魔されたくないんだ」と言い捨てる。使用人たちは、男爵が妻と秘書を撃ち殺し、自殺するのではないかと予期しているが、先に言われた命令があるため、断じて部屋の中に入らない。 TVドラマ『ダウントン・アビー』では階下と階上でそれぞれ使用人、主人たちのドラマが繰り広げられていたが、少なくとも使用人たちには主人たちへの敬意があった。しかし本作にはそれがない。なぜならば、本当に主人への愛情があれば、スキャンダルよりも人命優先で、修羅場に割って入るからだ。実際、有能なリスターにはその能力が十分ある。それをわざわざ「主人がそういったから」という、まるで子供の言い訳のような理由で、これ幸いと傍観者ポジションに収まり、彼らがまだ生きているにも関わらず、亡くなったあとのインタビュー画像を撮影するなどやりたい放題。本作は、小説というより舞台に近い。台詞以外の感情描写はほぼ無い。本当の主夫妻&愛人たちに何が起こっているかという本筋は表には出てこず、読者は舞台の幕間をずっと見ているイメージだ。使用人たちはまるであらかじめ何が起こるか知っていたようだが、XDAYをなぜ知っていたかは説明なし。脇役があっけなく死んでしまう意地悪スパーク節健在。
March 31, 2024
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みなさんこんばんは。香港の活動家周庭氏が中国に指名手配されましたね。今日もリサ・ガードナー作品を紹介します。完璧な家族 (小学館文庫)Look For Meリサ・ガードナー まあ“完璧な”などというタイトルが胡散臭い。フツーでいいのだ、フツーで。でも、そのフツーの基準がわからなかったら? ある朝突然、何者かに銃撃された一家。思春期の次女と幼い長男、母親とその恋人は一瞬にして命を奪われた。二匹の犬とともに姿を消した16歳の長女ロクシーの行方と事件の真相を追うのは、ボストン市警の豪腕女刑事D・D・ウォレン。さらにもう一人、472日間にわたる壮絶な監禁事件から生還した女性フローラ・デインもまた、ロクシーを見つけ出そうとしていた。果たして一家を襲ったのはロクシーなのか。彼女はどこにいるのか。やがて平穏に見えた一家の凄まじい過去が浮かび上がる。 養子縁組は国から援助が出ないが、里親を引き受けると国から何某かの援助が出る。その金を目当てに劣悪な環境で子供たちを育てる里親の例は、何も海外に限らない。子供たちは幼く声を上げる術を知らない。結局年長の里子が親代わりとなって子供たちの面倒を見る羽目になる、今回のロクシーのように。荒んだ環境で自分を保っていられる里子の方が珍しい。悪は悪に染まりやすく、また、彼らを受け入れる仲間もいる。“そうなってもおかしくない”と周囲も色眼鏡で見る。被害者である彼らを悪人呼ばわりするだけで、救いの手を差し伸べない。 そうした隙間の人たちに手を差し伸べるのがフローラだ。フローラが登場すればもう一人、タフな刑事のD・D・ウォレン。今回は傷も治ってフル回転。しかしこの犯人はなかなかわからなかった。完璧な家族 [ リサ・ガードナー ]楽天ブックス
March 24, 2024
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みなさんこんばんは。大谷選手の通訳が解雇されましたね。今日もリサ・ガードナー作品を紹介します。無痛の子Fear Nothingリサ・ガードナー 小学館文庫自宅のベッドで殺された女性の遺体からは、小さな皮膚片がいくつも剥がされ、持ち去られていた。現場を検証していたボストン市警殺人課の女刑事D・D・ウォレンは、何者かの気配を感じたはずみに階段から転落し、左肩に大怪我を負う。リハビリ中、ペインコントロールのためにクリニックを訪れたD・Dは、精神科医の女性アデラインに出会う。先天性無痛性であるが故に「痛み」を専門にした、という彼女。その矢先、第二の事件が発生した。ふたつの事件の類似性を辿ると、やがて40年以上前の連続殺人事件が浮かび上がる。その犯人はアデラインの実父であり、さらに彼女の姉もまた14歳で初めての殺人を犯し服役中だった。 D・D・ウォレンが拉致監禁を生き抜いたフローラと出会う『棺の女』前日譚。『棺の女』前日譚。『棺の女』でD・Dがフルで復帰できていないのはこの時の怪我が治っていないからだ。。フローラとの出会いは最悪だったが、見るからに武闘派フローラに対して本編のメインヒロインアデラインは知性派。自分と正反対のタイプだからやり辛い。最初の診療で「痛みに名前をつけて」と言われて何それ?と最初は不信感。うーん、痛みを客観視するため?次第に彼女の家族について知るうちに、興味を惹かれていく。三人称視点でアデラインについても書かれているため、彼女の性癖が早いうちに読者に知らされていく。殺しはしないけど本人意識がないうちに皮膚を切り取ってくレクションするなんて、いい目くらまし。 主人公がタフでハードボイルドな主人公の場合、大抵家庭が破綻しているものだが、本シリーズでは夫とは職場結婚で仕事に理解がある。子供もいて、今回の怪我で抱っこできないのを悔しがるくらいだから母性愛もある。D・Dは家庭人とタフな刑事のミックスというなかなか珍しいキャラクター設定である。 それにしてもカリン・スローターといい、本編の著者といい、痛い思いをさせることを厭わない登場人物が多すぎる。想像力が豊かな人はきついかも。無痛の子 FEAR NOTHING【電子書籍】[ リサ・ガードナー ]楽天Kobo電子書籍ストア
March 23, 2024
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みなさんこんばんは。愛子様が学習院大学を卒業されましたね。今日からリサ・ガードナー作品を紹介します。棺の女 (小学館文庫)Find Herリサ・ガードナー棺の下に埋められているであろう女性の姿が浮き彫りになっている表紙絵。何とも不穏。 ガレージで発見された、黒焦げの男の遺体。殺したのは、男にさらわれ全裸で監禁されていた20代の女性フローラ。現場に駆けつけた女性刑事D・D・は、フローラの素人離れした身の守り方に不信感を抱く一方で、男と3人の女性失踪事件との関連を疑う。そして、フローラもまたかつて世間を震撼させた誘拐監禁事件の被害者であることを知る。ところがその矢先、フローラがまたも失踪する。未解決失踪事件の被害者、フローラを取り戻そうとする母と、彼女が唯一頼るFBI捜査官、そしてかつて彼女を監禁した男。一見バラバラだったピースがつながった時、あまりに壮絶な過去が浮かび上がる。 はみ出してはいない女性刑事と、壮絶な過去を持ちながら、同じような体験をした女性達を助ける活動を始めたフローラのファースト・コンタクト。体ほどの大きさの松の箱に 472 日間監禁された後、脱出したフローラ。こうした壮絶な体験をした女性の場合、二通りの道が考えられる。一生恐怖に怯えて暮らすか、或いは復讐に立ち上がるか。フローラはより厳しい後者を選んだ。カリン・スローター作品のヒロインも相当ひどい目に遭わされるが、本編でも皆痛い思いをしている。ところで、本作はD・D・ウォレンシリーズの8作目なのでできれば時系列順にこのシリーズを読みたい。刊行の順番はどうにかならないのか。棺の女【電子書籍】[ リサ・ガードナー ]楽天Kobo電子書籍ストア
March 22, 2024
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みなさんこんばんは。日本ゴルフツアー機構の青木功会長が東京都内で退任会見に臨みました。2016年からの4期8年を振り返り、「もう私も82になります。この8年間、力の限り男子ゴルフの発展のために働いてまいりましたので、悔いはありません。今後は陰ながら男子ゴルフを応援したい」と心境を口にしました。今日は実在の狙撃手をモデルにした小説を紹介します。狙撃手ミラの告白 (ハーパーBOOKS)The Diamond Eyeケイト・クイン加藤洋子訳本編の表紙も、ヒロインの表情が見えないパターンだ。右側に照準が見えるが、これでは当たらず威嚇にしかならない。それは下手な射撃手のやることで、彼女は絶対やらない。彼女とはリュドミラ・パヴリチェンコ=通称ミラ。歴史の中に埋もれてきた、或いは消されてきた女性達を掘り起こしてきたケイト・クインが、今回選んだ女性だ。 ミラはウクライナのキエフ近郊で生まれている。かつてはナチスに蹂躙されたウクライナが、ソ連に蹂躙されている今この作品を読むのも感慨深い。彼女のつまずきは、わずか15歳でいかにも女馴れした男性にひっかかったことだ。その一度で妊娠し、結婚。狙撃学校を優秀な成績で修了したミラは、5歳の息子を残して軍隊に志願。しかし予想されたことだが「女性に銃が打てるか?」と軽蔑され、なかなか任務を任せてもらえない。ならば実績を示すしかないというわけで、殺した人の数を数え始める。やがて凄腕の狙撃手として知られるようになったミラは、苛烈な戦いの仲でかけがえのない仲間を失っていく。このパートが前半。 後半はアメリカに参戦して欲しいソ連の宣伝部隊として派遣団として赴くミラの姿が描かれる。Lady Death=死の淑女の異名を持つ彼女は、恰好の広告塔だ。一刻も早く戦地に戻りたいミラの意に反して、チャーリー・チャップリン、ローレンス・オリヴィエ、ウディ・ガスリーなど当代の有名人が彼女に会いに来る。社交の場では銃は封印かと思ったが、こちらもミラを狙う何者かの第三者視点が挿入されている。第三者の正体と狙いは次第に明かされる。 前半、後半ともミラのロマンスが描かれ、これまでのクイン作品の中では、かなり多めと感じる読者もいるようだ。そしてミラの天敵ともいえる夫もなぜか彼女の周辺をうろつく。但しミラの心は全然夫に残っていないので、三角関係にはならない。今回相手が大統領夫人なので、女性同士の友情は、さほど深くならない。 帰国後あれほど戦場に戻ることを切望していたパヴリチェンコは、女子狙撃教育隊の教官として後進の指導に当たった。赤軍はその名声を利用して多くの女性を新たな狙撃手候補生として獲得した。その中には優れた女性狙撃手も含まれていたが、彼女たちの多くは戦場でその命を落とした。第二次大戦において赤軍は約2000人の女性スナイパーを戦場に送り込んだが、パヴリチェンコのように終戦まで生き残れたのはその内の500名に満たない。自身の戦争体験によるPTSDによりアルコール依存症となり、1974年10月、58歳で病死。物語は、敢えてミラの輝かしい部分にのみスポットを当て想像を膨らませたと言える。狙撃手ミラの告白/ケイト・クイン/加藤洋子【3000円以上送料無料】bookfan 1号店 楽天市場店
March 6, 2024
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みなさんこんばんは。大谷翔平選手が結婚しましたね。さて今日はファンタジー小説の短編集を紹介します。金剛石のレンズThe Diamond Lens and Other Storiesフィッツ=ジェイムズオブライエン創元推理文庫『From Hand to Hand手から口へ』作家ウルマン氏はオペラの帰りに鍵を開けようとするが、なぜか開かない。外は雪で寒い。ぼろを着た少年達の所にでもしけこもうか、と考えていた時に「私のホテルでただで一晩過ごさない?」と、めっちゃいい話を持ち掛けられる。はい、いい話には裏がある。そのホテルの壁には目、口、鼻、手がついていた(キモすぎる!)。そしてウルマンに課されたのは、毎日コラムを書く事だった。作家とはいえ気難しいウルマンは、原稿なんてまっぴら御免だったが、何とそこで金髪の美女(そうなんだよ美女は金髪なんだよアメリカの場合)ロザモンドと出会い、彼女と一緒にホテルを出るために奮闘し始める。しかし彼女「足がない」とヘンな事を言い始めて。いや、いや、このオチは反則だと思うぞ。『The Worndersmithワンダースミス』表向きは修理屋だと思われているヘル・ヒッペの正体は、人形に邪悪な魂を込めて、キリスト教徒の子供達を抹殺しようとするバルタザール大公ワンダースミス氏だった。ヘル・ヒッペはジプシーからさらってきた娘ゾーニラと猿ファーバロウに芸をさせていた。そんなゾーニラに、背中に瘤のある青年ソロンが恋していたが、二人の仲を知ったヒッペは激怒。仲間の産婆で占い師のマダム・フィロメル、ジプシーのケルブロネとオークスミスと運命の夜に彼も一緒に殺そうとする。そして人形たちがまず向かった先は。ありがちだ。『A Dead Secret絶対の秘密』医師を訪ねてきた青年は「自分は絞首刑になるはずなのに、こうして生きている。そもそも私は絞首刑になるはずじゃなかった!」と言いながら延々自分のこれまでを話し出して、最後は隙を突いて姿を消してしまう。ホントか嘘か煙に巻いた話。『The Dragon -Fang Posessed by the Conjuror Piou-Lu手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙』皆が集まる広場で、手妻使いパイオウ・ルウが手品を披露する。その夜官人ウェイ・チャン・ツェの家を訪ねたパイオウ・ルウは自分の正体を明かすのだった。当時中国は漢民族の明が亡び、清だったという点がミソ。『The Bohemianボヘミアン』21才になった貧しい私は雑誌原稿を書いて暮らしていた。そんな私の前に「君やわたしのような心を持つ者に、労働を期待するのは冒涜だよ。明らかに楽しむためにつくりだされたわれわれが、繊細な好み、洗練された感受性、高度に鍛えられた肉体を具えながら、どうして他人の楽しみに奉仕して、人生を費やさなければならないのだね」とめっちゃ上から目線の「ボヘミアンとして暮らそう!」誘いを受ける。しかしその代償はもちろん甘くはないわけで。後に著者の生涯を述べるが、ボヘミアンと、彼に目を付けられる男性には、著者自身が投影されている。『Seeing the World世界を見る』優れた詩人になることを夢見る男性が「すべてを見ることができる力」を与えられる。しかしこれ、透視力を手に入れたもので、所謂見たくないものまで見てしまう。さて、詩人は幸せだったのか。『Jubal,The Ringer鐘つきジューバル』ノートルダムの鐘ダークバージョン。『The Pot of Tulipsチューリップの鉢』資産家が妻の不貞を疑い続けて亡くなった。孫娘と婚約中の男性は「貧しくても彼女と結婚する」と誠実な態度を見せるが、そんな彼の前に資産家の幻が現れて。珍しいハッピーエンド。他『The Diamond Lens金剛石のレンズ』『What Was It?A Mysteryあれは何だったのか』『The Lost Room失われた部屋』『The Child That Loved a Grave墓を愛した少年』『Mother of Pearlパールの母』『How I Overcame My Gravityいかにして重力を克服したか』 本邦初訳作を含む14篇を収録。 著者はかなり裕福な家の一人息子として育ち、莫大な遺産を相続した。ロンドン、パリで遺産を蕩尽するボヘミアン的生活を送り、借金取りからの逃亡を兼ねた心機一転で渡米、ケルトのポオと異名を取る幻想科学小説や戯曲を発表、南北戦争に志願従軍し、負傷して死亡。何不自由ない富豪として生涯を送る事もできたのに、それだけではない何かを求め続けた生涯だった。【中古】 金剛石のレンズ (創元推理文庫)AJIMURA-SHOP
March 4, 2024
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みなさんこんばんは。作家の酒見賢一さんが亡くなりましたね。まだ若いのに。今日は有名な怪盗が活躍する小説を紹介します。紅はこべ【新訳版】The Scarlet Pinpernelバロネス・オルツィ創元推理文庫1792年、9月。フランスでは、次から次へと貴族が貴族であるというだけで、ギロチン台に送りこまれていた。貴族たちは安全な海の向こうのイギリスを目指すが、変装はたやすくばれていた。そんな時、逃亡貴族をイギリスに逃がす謎の集団が現れた。その名も紅はこべ。由来は、逃亡計画が記される紙に書かれた紅はこべの印だ。告知が届いてから数時間ののちには、公安委員会のもとに、相当数の貴族達が安全なイギリスの地に逃れたという報告が入る。 コメディ・フランセーズの女優として成功したマルグリートは、サー・パーシー・ブレイクニー準男爵と結婚した。しかし社交界の女王と謳われたマルグリートに対して、“救いがたき鈍物”ブレイクニーは、結婚相手としては不釣り合いと周囲には思われていた。しかし皇太子ともマブダチで、英国でも有数のお金持ちであるパーシーを、皆表向きは敬っていた。マルグリートも「結婚した時は、あの人の事好きだったはずなのに。なんであの人ああなっちゃったのかしら?」とやや倦怠期。ところがフランス共和国政府全権大使ショーブランが彼女の前に現れ、兄アルマン・サン・ジュストが紅はこべ団の協力者だと告げる。兄を処刑されたくなければ、貴族の妻の特権を生かして、紅はこべを探るよう脅迫されたマルグリートは渋々従うが。 マルグリートはフランスでは平民出身で、演劇界のトップに上り詰めた庶民代表の成功者だ。おまけに才気煥発とくれば、どこでも人気者のはずだ。しかし彼女は亡命貴族からは冷たい眼で見られている。かつてマルグリートは、貴族令嬢に求婚した兄に乱暴したサン・シール侯爵を告発した過去があったのだ。マルグリートは「自分を革命政府に協力する裏切者と考えて居るのではないか?」と思い、夫に正面からぶつかれないでいた。 好きで好きでたまらないのに、夫に素直な感情をぶつけられず、つい冷たく接してしまうツンデレマルグリートと、同じく妻を熱愛しているのに、とある秘密のためにすぐどこかに行ってしまうブレイクニー。ああ、このすれ違いがたまらない!いや別に貴族夫婦の倦怠期を見たいわけじゃないのよと言いたげな皆さん。わかってますって。これから正体を見せない怪盗とフランス革命政府の攻防戦が展開します。ドラマ版ではショーブランがマルグリートの元カレ設定。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。紅はこべ【新訳版】 (創元推理文庫) [ バロネス・オルツィ ]楽天ブックス
March 2, 2024
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みなさんこんばんは。堂本剛&百田夏菜子が結婚したそうです。今日は小説を紹介します。となりのブラックガールザキヤ・ダリラ・ハリスThe Other Black Girl早川書房ネラは、白人だけの出版社ワグナー社で唯一の黒人として、毎日厳しい綱渡りをしている。ネラは「黒人はどう思うのか?」「黒人としては、これOK?」などの質問に答えるために待機しているが、正直になりすぎないように注意している。ある日、職場にもう一人の黒人女性ヘイゼルが加わる。ヘイゼルの存在は励みになるとネラは意気込むが、一方で自分より上司ヴェラといい関係を築く彼女に不安も覚える。そして「今すぐワーグナーから離れるように」というメモを受け取る。差し出し人は不明。ヘイゼルなのか、それとも社内の誰かなのか。 本作は現代パートでネラの被る苦難と、手紙に関するミステリ要素を描き、並行して、ネラが憧れるワグナー社で、かつて働いていたもう一人の黒人編集者ケンドラ・レイ・フィリップスの体験が描かれる。彼女は親友のダイアナ・ゴードンが書いた『バーニング・ハート』をベストセラーに押しあげた、いわばネラのヒーローだ。しかし彼女は35年間公の場所に姿を見せておらず、その所在を知る者は誰もいない。過去パートでは1983年頃、ケンドラに何が起こっていたかを描く。ネラが白人の同僚の罪悪感やマイクロアグレッションに激怒する一方で、寛大なヘイゼルは黒人文化の陽気な代表として彼らにおいしい食べ物とクールな音楽を紹介。いちいち立ち止まって考えるネラの方が誠実に見えるが、処世術として役立っているのはヘイゼルの方。謎の手紙の差し出し人、ネラにとって敵か味方かわからないヘイゼルの正体、ケンドラの失踪の謎などが絡み合って、最後に大きな陰謀が明らかになっていくサスペンス。となりのブラックガール [ ザキヤ・ダリラ・ハリス ]価格:3,080円(税込、送料無料) (2023/12/3時点) 楽天で購入
February 29, 2024
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みなさんこんばんは。昨日の積雪で大変です。今日もタヘラ・マフィ作品を紹介します。イグナイト・ミー 少女の想いは熱く燃えて 上 (シャッター・ミー3)Ignite Meタヘラ・マフィ―潮出版社 オメガポイントにやってきたジュリエットは、アダムの「他人の能力を打ち消す能力」が、彼女といると弱まってしまう事を知り、彼と別れる決意をする。納得できないアダムへの想いを振り切り、訓練に取り組むジュリエットは、ウォーナーとその父アンダースン総督と出会う。オメガポイントの仲間4人が捕えられ、人質との交換条件としてジュリエットが指名される。オメガポイントのリーダー、キャッスルは襲撃計画を知り、応戦の指揮を取ると共にジュリエットたちを送り出す。総督はジュリエットに「恋愛感情は息子の人生の妨げになる」と言い、いきなりジュリエットの胸を撃つ。しかし彼女を助けたのはウォーナー。ここまでが前作『アンラヴェルミー』の粗筋。 目覚めてオメガポイントが壊滅したことを知ったジュリエットは、わずかな望みをかけて仲間の行方を捜す。再建党の打倒を決意したジュリエットにウォーナーから思わぬ申し出があり。さあ、泣いても笑っても最終巻。 本編はサブタイトル通り。「少女の想いは熱く燃えて」ええ、もう燃え盛っておりますとも、彼と彼女のラブストーリー。だが、相手が第1巻からすっかり変わってしまった。帯もかっこいいぜ。「宿命も、彼も、愛してみせる」強くなったねえジュリエット。そして彼女の相手はやはり。「わたしも彼も、すがりつける相手を心から必要としていて、たまたま共有していた過去の思い出にすっかりその気にさせられてしまっただけ。でも、それだけじゃだめだったのよ。もしそれでじゅうぶんだったら、こんなにあっさり彼のもとを離れられるわけないもの」ジュリエット、醒めてる。つまり、ずっと隔離された環境のなかに置かれて、自分に優しくて触れてくれる(ここ重要)相手がアダムだけだったから、彼一択だった。しかし、アダムの条件を全て備え、一才年上でルックス良しのウォーナーが出てきたから…まあ、アダム、捨てられたんですな。やはり家族はいるが愛されていないため影のある一見屈折優等生タイプは最強だ。再建党のリーダーで総督と、地位こそ高けれど、父親は「”Hell is empty and all the devils are here.”地獄はもぬけの殻だ。すべての悪魔はここにいる」なんつーシェイクスピア『テンペスト』の文言を、眉目秀麗の長男の腰骨(うわ微妙な場所!なぜそこに?)にイレズミし、異母弟のアダムも放置しっぱなしの毒親。貧しくても弟と仲良しアダムに比べて、名ばかりの家族との縁が切れないウォーナーに、やはりジュリエットが同情的になるのもむべなるかな。更に、ウォーナーの母親がジュリエットと同じ体質で、母親を亡くして打ちひしがれている時に、まるで母の身代わりにようにジュリエットがウォーナーの目の前に現れるという、このタイミングの絶妙さ。もうこれは二人くっつけよとしか言ってない。結ばれてからの二人がもう甘々すぎ。言葉攻めがなくなってつまんなーい。 メインストーリーは再建党VSオメガポイントの残留の戦いだが、数では圧倒的に前者が有利だ。というわけで、やっとジュリエット、SF小説のヒロインとしての仕事をする。ただ、呆気なさすぎないか?あ、いいのか、これ、近未来を舞台にしたハーレクインロマンスだから(笑)。イグナイト・ミー 少女の想いは熱く燃えて 上 (潮文庫) [ タヘラ・マフィ ]イグナイト・ミー 少女の想いは熱く燃えて 下 (潮文庫 シャッターミー 3) [ タヘラ・マフィ ]楽天ブックス
February 6, 2024
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みなさんこんばんは。脚本家の山田太一さんが亡くなりましたね。今日はタヘラ・マフィの三部作第二作を紹介します。アンラヴェルミー ほんとうのわたし (シャッターミー)Unravel Meタヘラ・マフィ潮出版社 異常気象と環境汚染で荒廃した近未来。地球を再建すると約束し、世界を支配した再建党は、人々から自由・文化・思想を奪う。ジュリエットには、不思議な力があった。彼女の肌に直接触れた人は生命を吸い取られ、最悪の場合死ぬ。原因は医者にもわからない。ジュリエットは17年間誰にも触れられず、母にさえ抱きしめられたことがない。 危険人物として施設に閉じ込められていたジュリエットは、移された基地でアダムと出会い、触れてもなんともない彼に好意を抱く。一方基地でジュリエットを幽閉するウォーナーもまた、ジュリエットに関心を抱く。ジュリエットはアダムと共に脱出し、抵抗グループオメガポイントにやって来る。 ここまでが前作『シャッターミー』の粗筋。「私に触らないで」から本作「私を剥がして(本当の私にして)」最終作「私に火をつけて」(ハートに火をつけて、とか?)まで、人と触れ合う機会が次第に増えていくジュリエット。 ジュリエットとは、なんとも、悲恋を運命づけられたような名前だ。相手はアダム。人類最初の男性の名前で、新世紀を彼女と作っていくにはふさわしい。 本編はそんな彼と彼女のラブストーリーである。が、一筋縄ではいかない。「訓練して能力を制御したら大丈夫」と言われても、これまで接触経験がないので加減が全くわからない。スーパーパワーを持つため周囲は遠巻き。自然触っても大丈夫なアダムに頼るほかないジュリエット。しかし組織としては、最強兵器のジュリエットを少しでも早く戦に生かしたい。よって、触っても大丈夫な二人がじっくり恋愛を育む時間は、なかなか触れない。寸止めシーンの多さよ。YA小説にしてハーレクインロマンス。あっそうだ一応SF小説だった(笑)。 さらに萌え要素として、アダムには異母兄のウォーナーというライバルがいる。反抗的でアウトロー、家族の縁に薄いが年の離れた弟ジェイムズを可愛がる弟アダムと、父親のアンダースン総督に徹底的なエリート教育を施された優等生タイプの兄ウォーナー。ウォーナーの言葉攻めがすごいっすよ。 「おまえがほしい。おまえのすべてがほしい。なにもかもほしい。おまえにため息をつかせたい。わたしがお前を思い焦がれているように、おまえにもわたしを思い焦がれてほしい」 「おまえの肌の火照りを感じたい。おまえの心臓が、わたしの心臓の隣で鼓動を速めるのを感じたい。わたしのせいで、わたしがほしくて、どきどきしているのを知りたい。なぜなら、おまえは、わたしを止めたいとは思っていないからだ。わたしには、おまえがほしくないときなど一秒もない。隅々までほしい。すべてがほしい」 いやだもう書いてるそばから変な汗が。金原瑞人さん、大谷真弓さん、あっぱれ!それしか言えねぇ!念のため、SF小説だから(笑)。 正反対の男性から愛されるヒロインが、なかなかどちらかに決められなくてふらふらする辺りも萌え。二人とも母親を早く亡くしているため、ジュリエットにほのかに母性を見ているのも萌え。ここぞ、という所で別の相手の名前を口走る、結構悪女なジュリエットだが、Sっ気兄弟にはそれも(が?)たまらないらしく、タイトルのようなスピンオフ小説がある。両兄弟にそれぞれファンがいるらしい。ハピエンにならなくてもいいから、ジュリエットを巡るズッ友でいてくれよ(をい)。アンラヴェルミー 上 少女の心をほどく者 (潮文庫 シャッターミー 2) [ タヘラ・マフィ ]アンラヴェルミー 下 少女の心をほどく者 (潮文庫 シャッターミー 2) [ タヘラ・マフィ ]楽天ブックス
February 5, 2024
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みなさんこんばんは。上川陽子外務大臣について麻生大臣が容姿について発言しましたね。この人はもう。今日は特捜部Qシリーズ最新刊を紹介します。特捜部Q―カールの罪状―Natrium chloridハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックスユッシ・エーズラ・オールスン プロローグは1982年。落雷があり、一人生き残った女性マイアは救急隊員マーティンに話す。「神のご加護があれば、わたしは何でも切り抜けられるってことよ」 6年後の1988年、マイアは車を修理に預けるが、車の後部に誰かの両足が見えているので不審に思う。息子のマクスはたまらず飛び出していくが、そこで爆発が起こる。「切り抜けられない」事態が起こったことに茫然とするマイア。 真打ち登場のメインプロットでは、ここまで連続して描かれてきたマイアが既に亡くなった人として登場する。勿論この先彼女は物語上は喋れないし動けない。変わって動くのはいつもの面々だ。 コロナ禍で特捜部Qと同じフロアになって不満そうなマークス・ヤコプスン警部は、マイアの死の再調査をカールに持ってくる。ヤコプスンもカールも、くしくも爆発現場に居合わせたのだが、ヤコプスンはその際、事件現場で塩を発見していた。原題もNatrium chlorid=食塩のことだ。現場に塩を置く犯人の正体と意図を探り始める特捜部メンバーだが、今回は最終巻ひとつ前ということで、第一巻からちょくちょく出てきた「ステープル釘打ち機事件」が登場し、捜査に集中したいカールを追い詰める。犯人は強い信念に基づいてある犯罪を実行中なので、止めなければならない。タイムリミットが提示されるが、新型コロナ流行で行動制限が敷かれ、思うように動けない状況が、カール達の活躍を追う読者の緊張感を高めていく。 ローセ、アサドと特捜部メンバーの過去が描かれ、遂に次巻はカールの過去に迫る。カールは当事者かつ本巻最後で逮捕されてしまった。当然事件の再捜査はできない、と普通は考える。しかし、性格は読者が知る通りなので、おそらく自分で動くだろう。特捜部Q-カールの罪状ー (ハヤカワ・ミステリ) [ ユッシ・エーズラ・オールスン ]楽天ブックス
February 3, 2024
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みなさんこんばんは。岸田首相が裏金事件についてお詫びしましたね。有名なミステリ小説を紹介します。毒入りチョコレート事件創元推理文庫 The Poisened Chocolate Caseアントニイ・バークリー ロンドンのピカデリー大通りにあるレインボー・クラブに、一箱の小包が届けられた。クラブの会員ユーステス・ペンファーザー卿に、チョコレート製造会社のメイスン父子商会から「新製品のチョコレート・ボンボンの試食を是非」と送られてきたものだ。「商人の売り込みなんてこざかしい」と捨てようとした所、偶々クラブにいたグレアム・ペンディックスが、「実は妻と賭けをして負けたので、チョコレート買わなきゃいけないんですよ。要らないんなら、それ下さい」と貰ってくる。帰宅したグレアムは妻ジョウンにチョコレートを渡すと、大好きな妻は七個食べる。グレアムも食べたが、舌を刺すような感覚があったので二個だけ食べる。その後グレアムは外出先で気分が悪くなり昏倒。帰宅すると妻が亡くなっていた。警察の調べで、チョコレートにはニトロベンゼンが注射されていたことが判明。 さて、この経緯には偶然がいくつもある。1.ペンディックス夫妻の賭けがどちらへ転ぶかわからない。夫が勝つかもしれなかった。2.勝った相手がどんな景品を望むかわからなかった。3.贈られた相手が、贈り物をそのまま受け取るかわからなかった。4.ちょうど要らないと思った時に、ちょうど「貰ってあげましょう」と言ってくれる相手がいるのかわからなかった。5.本当に食べて欲しい相手が適量食べるかどうかわからなかった。 これだけの不確定要素があるのだから、相手を狙った殺人とは考えられない。そもそも注射ならともかく、食べ物による毒殺は難しい。個包装であっても、必ずターゲットが食べるかどうかわからない。また、ターゲットに必ず食べさせようと手渡ししたら、渡した相手の指紋が付く。「誰でもよかった」愉快犯の犯罪と考えるのが妥当だ。 ロジャー・シェリンガム旧知のモレスビー警部が持ち込んだ、警察お手上げ状態の事件を、シェリンガムが会長を務める犯罪研究会の面々がそれぞれ推理して、お互いの推理を披露することに。推理作家モートン・ハロゲイト・ブラッドレー、劇作家フィールダー・フレミング、刑事弁護士チャールズ・ワイルドマン卿、小説家アリシア・ダマーズ、なぜこの会に入れたのかわからない平凡な男アンブローズ・チタウィック、シェリンガムの6人の推理合戦が始まる。 このスタイルは、アガサ・クリスティーの『火曜クラブ』で見たことがある。ミス・マープルと友人達が、それぞれ遭遇した事件を話して、他のメンバーがあれこれ推理する。しかし最後に真相を当てるのはいつもミス・マープル。本作は推理合戦のスタイルのはしりらしい。しかし、これ、やっぱり最後に発表する者が得だなぁ。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。毒入りチョコレート事件新版 (創元推理文庫) [ アンソニ・バークリ ]楽天ブックス
February 2, 2024
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みなさんこんばんは。京アニ放火殺人事件の青葉被告に死刑判決がでましたね。今日はSF小説の古典ともいうべき作品を紹介します。タイムマシンThe Time Machine(光文社古典新訳文庫)H・G・ウェルズ「次元は確固として四つあり。われわれのいる空間は、上下、左右、前後と、三つの方向に広がっている。これがつまり、空間は三次元であるということの意味だ。加えてここに、第四の次元、時間がある。然るに、人はややともすると、先の三つの次元と第四の次元を無理にも区別しようとする。なぜかといえば、われわれの意識は生涯のはじめから終わりまで、第四の次元である時間の軸に沿って一方向に、断続的に移動するからだ」「時間の中は動けないと言うのは違う。ゆくゆくは時間次元に沿って浮遊しながら、停止したり、加速したり、いっそのこと反転して過去に向かうことさえも可能ではなかろうか?」 名前を明らかにしないタイム・トラヴェラーは、時間もまた移動可能なものだという持論を展開し、実証するために創ったというタイムマシンを披露する。 本作により、ウェルズは時間も移動できる=タイムトラベル理論と、それを可能にするタイムマシンも発明した。 タイム・トラヴェラ―は跡形もなく消えてしまい、なかなか現れないタイム・トラヴェラ―にしびれを切らして食事をしようかという時に、ぼろぼろになった彼が現れる。戻ってきた彼は、大層腹を空かせて言ったのがこの台詞。「その羊肉を一口、取っておいてくれないか。肉に飢えているもので」一見、何てことない台詞だが、あとでじわじわ効いてくる。 p34から80万年後の未来未来へ行ってきたタイム・トラヴェラ―の語りが始まる。未来は常に発展・進歩し、人類は賢くなり、現在よりも、良い世界になっているはずだ。しかしタイム・トラヴェラーの見て来た未来は、構造を変えながらも、現在の問題点をそのまま引きずっていた。そして現在視点(未来からすれば過去の人)を持つタイム・トラヴェラーは、決してパラダイスではない未来の矛盾を指摘しながらも、自らもその習性を持っていることを、はからずも先の台詞で証明している。そう、弱い者は強い者に食べられるのだ。 ウェルズは第一次世界大戦中に論文『戦争を終わらせる戦争』を執筆し、大戦後に戦争と主権国家の根絶を考え、国際連盟を樹立すべく尽力した。しかし、結果的に発足した国際連盟は国家主権を残していたため、『瓶の中の小人』という論文で国際連盟を批判。のちに発足した国際連合も同様に批判した。ウェルズの構想しているのは、全体国家=一つの思想のもとに統一される国家であり、その方が統一が取れるというものだ。しかし一方で彼は優生学を信じており、彼の理想とする国家は、ナチスに通じる恐ろしさも持っている。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。タイムマシン (光文社古典新訳文庫) [ ハーバート・ジョージ・ウェルズ ]楽天ブックス
January 29, 2024
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みなさんこんばんは。映画『ある愛の詩』『ペーパー・ムーン』などで知られる俳優のライアン・オニールさんが亡くなりましたね。今日はウィルキー・コリンズの短編集を紹介します。夢の女・恐怖のベッド―他六篇The Dream Womanウィルキー・コリンズ訳中島 賢二(岩波文庫)『恐怖のベッドA Terribky Strange Bed』『盗まれた手紙A Stolen Letter』『グレンウィズ館の女主人The Lady of Glenwith Grange』は【暗くなってから】の、『黒い小屋The Black Cottage』『家族の秘密The Family Secret』『夢の女The Dream Woman』『探偵志願The Biter Bit』は【ハートの女王】の、それぞれ話中話となっている。【暗くなってから】あちこち旅しながら行く先々で依頼された肖像画を描く肖像画家ウィリアム・カービーの妻リアの日記。ある時ウィリアムは酷い眼病を患い、親友の医師から、少なくとも六か月間は目の安静を保たない限り失明の恐れがあると警告される。収入を断たれた夫婦は途方に暮れるが、彼等が宿を借りていた農園に、農園主の船乗りになっている息子が帰ってきていて、家族との雑談の合間に、「陸地のベッドより船のハンモックの方が寝心地が良い」と言う。それを聞いた画家は、かつて肖像画を描いた男から聞いた恐ろしいベッドに纏わる話を思い出し、農園の一家に話すことになる。彼の語る物語に農園一家が夢中になるのを見ていたリアは、面白い話を夫に語らせ、それを自分が本にして売ろうと思いつく。しかし昼間は家事育児で暇がないから、暗くなるまdえは作業ができないとリアが口にしたことで、このタイトルに。やがて六か月が過ぎ、夫の眼病も快方に向かい、妻の書きとった原稿も仕上がりロンドンに送られた。後はこれが一般読者に受け入れられるかどうかだ。リアは早くも、金が入ったらあれも買いたい、これも買いたいと胸算用の真っ最中…という所で幕。【暗くなってから】第1話『恐怖のベッドA Terribky Strange Bed』友人とパリ滞在を楽しんでいた私は、よせばいいのに「上辺だけのきらびやかさなどない、もう少し本物で、下品な貧乏じみた賭博を見られる所」に行きたいとねだる。いや、そういう所はホントの賭博師がいる所だから、素人はカモにされるんだって!案内された先は「喜劇的な面がひとつもないヤクザ連中」ばかりで、ほうら、言わんこっちゃない。更に空気が読めない私はバカ勝ちして帰ろうとするものだから、見るからに怪しい(というか、その賭博場、怪しい奴しかいない)老兵士に「今夜はここに泊まったら?で、絶対にコーヒーを飲んで酔いを覚ますんですぜ!」と言われる。さあ、泊まった先のベッドで起こったこととは?【暗くなってから】第2話『盗まれた手紙A Stolen Letter』弁護士の私は、家庭教師のスミス嬢との結婚を大反対されている友人フランクの相談を受ける。スミス嬢は唯一の身内である伯母の家に逐電し、伯母はフランクが結婚の許しを得ない限り会わせないと断言。それでも何とか結婚にこぎつけるが、実はスミス嬢の父親に秘密があって。謎のメモを巡るミステリ要素あり。【暗くなってから】第4話『グレンウィズ館の女主人The Lady of Glenwith Grange』母を亡くし幼い妹ロザモンドを育ててきた献身的なアイダの前に、魅力的な妹の婚約者が現れる。しかし彼の正体は。【ハートの女王】南ウェールズの田舎グレン・タワーという邸で、三人の老人の兄弟が隠居生活を送っている。長男オーウェンは元牧師、次男モーガンは元医師、三男グリフィスは元弁護士。グリフィスが「私」として話を進める。ある日私が後見人になっている、死んだ親友の娘ジェッシー・イェルヴァトンがグレン・タワーに六週間滞在することになる。彼女の遺産相続については、女学校を卒業してから成人するまでの毎年六週間を老人たちと暮らすという条件がついていた。私は大慌てで、活発な現代娘ジェッシーを退屈させてはならないと、ピアノや小説を取り寄せる。そもそもジェッシーは友達とハートの女王の扮装をして踊っている所を見つかるくらいのおてんば娘。田舎でも老人をからかったり、ハートの女王の異名に違わない活躍ぶりを見せる。ジェッシーの滞在もあと一週間となった頃、彼女に密かに思いを寄せていたグリフィスの息子ジョージから手紙が届く。彼女に愛を打ち明けたいので、どうしても彼女を引き止めて欲しいというのだ。老人三人が若者の愛を成就させるため、シェーラザードとなってジェッシーに話を聞かせることに。【ハートの女王】第1話『黒い小屋The Black Cottage』石工の娘ベッシーが他人から沢山金の詰まった財布を預かったために体験する恐怖の一夜。【ハートの女王】第2話『家族の秘密The Family Secret』お気に入りのジョージ伯父は、難病の姉キャロラインが死んだ日になぜ姿を消したのか。ミステリ。【ハートの女王】第3話『夢の女The Dream Woman』かつて女性に殺される夢を見た男性アイザックは母親に相談する。やがて夢の女とそっくりな女性レベッカに恋をして結婚するが、母親は大反対!さて夢は現実になるのか?【ハートの女王】第6話『探偵志願The Biter Bit』ほぼ書簡体で進行するある事件の捜査。『狂気の結婚A Mad Marriage』自分達を狂人だと思っている隣人に対して妹が宛てた書簡体。【中古】夢の女・恐怖のベッド―他六篇 (岩波文庫) / ウィルキー・コリンズ、 中島 賢二エイシンドウ 楽天市場店
January 19, 2024
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みなさんこんばんは。お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんから性的な被害を受けたとする女性の証言が一部週刊誌に掲載されたことを巡り、その場に同席したとされたお笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢一敬さんの所属事務所は、小沢さんが、芸能活動を当面、自粛すると発表しました。SF小説を紹介します。グレイス・イヤー: 少女たちの聖域THE GRACE YEARキム・リゲット/著 堀江里美/訳早川書房このキャッチがいい。そしてこの表紙。赤いリボンに、ぐっ、と前を見据えている少女。握りしめた右の掌。へちま襟なのが、彼女の幼さ=少女の証明なのもいい。そしてこの掴み。「だれもグレース・イヤーの話はしない。禁じられているからだ。わたしたちには特殊な能力があって、寝ている大人の男を誘惑したり、若い男の子の理性を失わせたり、妻たちを嫉妬に狂わせたりすることができると言われている。しかもわたしたちから剥いだ皮そのものにも強力な催淫効果や、若返りの効果があると彼らは信二ている。だからわたしたちは十六才になると追放され、その魔力を自然のなかで解き放ったあとでようやく文明に戻るのを許される。」 姉二人、妹二人がいる家族の真ん中ポジションティアニーは、息子を切望する父に可愛がられて育ったからなのか、フツーの女性が信じる幸福とは違うものを求めていた。しかし彼女の暮らすガーナー群は、男性優位社会である。グレイス・イヤーの前に女性達は品評会のように皆の前に並ばされ、妻にと望まれた男性からヴェールを送られれば勝者となる。妻として望まれなければ野良仕事をさせられる。つまり、男性の選択により女性の運命が決まる。ティアニーは最初から野良指向。幼馴染のマイケルは、街の有力者の息子なので、きっと女王様的存在のキルスティンを選ぶと割り切っていた。ところがマイケルは相手にティアニーを選んでしまう。さあ番狂わせの始まりだ。 ここで妻に選ばれた者はグレイス・イヤー送りを免れるのかと思ったらそうではなく、ごたまぜに一年間共同生活をさせられる。一年は長い。そしてもう軋轢は生まれてしまった。読者の想像通り、女性だけの社会なので次第に『蠅の王』的展開に。 本編では選ばれなかった女性達の扱いが、肉体的痛みを伴うものであり、かなり酷い。デフォルメされている事は確かだが、ガーナー群という特定の場所における不寛容や差別意識は、米国で未だ中絶を禁じる法律が成立するなど、現代社会でも見受けられるものだ。著者は女性を商品として扱う社会への抵抗として執筆したとか。頻繁に出てくる花言葉はヴィクトリア朝を参考にしたらしい。グレイス・イヤー 少女たちの聖域 / 原タイトル:THE GRACE YEAR[本/雑誌] / キム・リゲット/著 堀江里美/訳ネオウィング 楽天市場店
January 14, 2024
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みなさんこんばんは。とうとう大晦日ですね。英ロックバンドのクイーンが、「クイーン+アダム・ランバート」として大みそかの第74回NHK紅白歌合戦(後7時20分)に特別企画で出場することがわかりましたね。ジュール・ヴェルヌの作品って有名どころしか知られていませんよね?実は彼がファン目線で書いた小説があるんですよ。シャーンドル・マーチャーシュ: 地中海の冒険 (上下) (ルリユール叢書)Mathias Sandolfジュール・ヴェルヌ幻戯書房 1867年、トリエステ(当時オーストリア領)で伝書鳩から謎の暗号文が見つかる。鳩の向かう先がマジャール人富豪のシャーンドル・マーチャーシュ伯爵であることから怪しんだ発見者のサルカニーとツィローネは、伯爵には秘密があるとかぎつける。サルカニーはちょうど銀行家シーラス・トロンタルから縁切り宣言された所だったが、一口乗らせることで関係を復活させようとも目論む。密告で大金を手に入れるため、トロンタルと組んでこれを調べ上げ、証拠を押さえるべく真面目そうな使用人になって伯爵の屋敷に潜入し、さっそくオーストリア警察に密告する。ハンガリーの独立運動計画は、あと少しで流血沙汰を避けてハンガリーが自治権を手に入れられる流れになるところまで進行していた。しかしこの密告が元で、伯爵・バートリ教授・ザトマール伯爵が逮捕され、反逆罪で死刑が決まる。サルカニーらが自分たちを陥れたと知って激怒し、復讐のために脱走を決意するが、ザトマールは牢屋から出られず、逃げられたバートリも彼と伯爵を庇った漁師アンドレア・フェラートと共に、フェラートの娘に懸想する密告者カルペーナによって逮捕されてしまう。ザトマールとバートリは銃殺、フェラートは終身刑の末獄死、ただ一人伯爵だけは嵐の海に消えて生死不明となる。やがて15年後、ラグサ(現在のドゥブロヴニク)にアンテキルト博士と名乗る医者が現れる。彼こそ、嵐の海から生還してオスマン帝国に逃げのびた伯爵だった。 あのジュール・ヴェルヌがモンクリこと『モンテ・クリスト伯』を書いたらこうなる!という話。しかしモンクリはちゃんとファリア神父が託した財宝があったが、本編いきなりアンテキルト博士は金持ちになってる!スチームヨットやら調査員やらいろいろかかってる費用の財源はどこから?高名な医師らしいがほとんどすっごい治療を施しているシーンなし。そんな治療で巨額の金を稼げる?いやいやいや。 科学技術の粋を集めたスチームヨットを駆使して神出鬼没に現れるあたりが、後にノーチラス号作ったり月旅行行ったりする乗りものフェチヴェルヌ。モンクリは恋人と別れさせられたが、伯爵には娘がいた。娘なかなか出てこないなー、父親牢獄に入れられて母親は死んでるし、後見人いないの?と思ったら、とんでもない人の所に行っていた。えっ、なぜ、どうしてそうなるわけ?親戚筋ではないよね?ましてや財産もちの娘なのに、全くの他人の家になんて行かないだろ。 伯爵と知り合うや意気投合して、復讐に手を貸す軽業師コンビがいる。ポワント・ぺスカード目端が利いて身が軽く、怪力自慢のカップ・マティフーのあだ名はヘラクレス。『アドリア海の復讐』というタイトルで刊行されていた時には、とんがりペスカードと大山マティフーという名前だったのが、今回はカップ・マティフーとポワント・ぺスカードになっている。体格も性格も違うのに大の仲良しで、片方が危機に陥ると我を忘れる所が少年漫画っぽい。お前のためなら俺は命を賭けるぜ!みたいで。いやあ、昔から変わりませんな。シャーンドル・マーチャーシュ 地中海の冒険 上 / 原タイトル:Mathias Sandorf[本/雑誌] (ルリユール叢書) / ジュール・ヴェルヌ/著 三枝大修/訳シャーンドル・マーチャーシュ 地中海の冒険 下 / 原タイトル:Mathias Sandorf[本/雑誌] (ルリユール叢書) / ジュール・ヴェルヌ/著 三枝大修/訳ネオウィング 楽天市場店
December 31, 2023
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みなさんこんばんは。郷ひろみさんの「お嫁サンバ」や松田聖子さんの「青い珊瑚礁」などで知られる作詞家の三浦徳子さんが亡くなりましたね。今日は猜疑心がどんどんふくらんでいく女性が主人公のミステリを紹介します。ミセス・マーチの果てしない猜疑心Mrs.March(ハヤカワ・ミステリ文庫) ヴァージニア・フェイト 例によって表紙絵は意味深だ。実はミセス・マーチには名前がない。最初から最後まで出てこない。結婚前の生活を説明する際も、彼女は一貫して既婚者の称号で呼ばれる。彼女の姉はきちんと名前で呼ばれる。つまり、誰でも成り代われる存在ということだ。表紙絵ですら、彼女のお気に入りの手袋で顔が隠されている。 人気作家の妻、ミセス・マーチは息子ジョナサン、売れっ子作家の夫ジョージと誰もが羨む幸福な日々を送っていた。しかし、夫の新作小説の主人公であるいかがわしい職業の醜い女性は自分をモデルにしているという不名誉な噂により精神のバランスを崩してしまう。 ミセス・マーチが「登場人物が自分に似てるかどうか」なんて悩んでおらず、さっさと本を読んでしまえば解決するのだが、しない。理由は、時代が現代ではないことに起因する。女性は手袋を着用するのが望ましく(表紙絵参照)、人々は屋内で喫煙し、ストッキングを履いていない女性の脚は道徳的退廃の兆候と見做される。女性はあくまでつつましく、物事をはっきり言う女性は好まれない。 ミセス・マーチは次第に妄想を膨らませていく。彼女だけが家の中で見たというが、やってきた業者はいないと言うゴキブリも、彼女の心に潜む邪魔者の象徴である。ジョージが殺人事件の記事を取っておいたという事実だけで「世間を賑わす殺人犯の正体は夫にちがいない」と思い込むところがもう常人と違っているのだが、あいにくその変化は他人にはわからない。他人に悩みを打ち明けるでもなく、ひたすらタイトル通り妄想を膨らませていくミセス・マーチ。幼い頃から暴力への衝動があった事が明らかになるなど、彼女自身も信頼できない語り手である。書かれている事が現実なのか、それとも彼女の妄想なのか。書かれてない何かがあるのではないか。非常にわかりにくい迷路をうねうね進んでいくようなサイコサスペンス。 著者デビュー作。『ハンドメイズ・テール』主演女優エリザベス・モスが自身のプロダクションで映画化発表。ミセス・マーチの果てしない猜疑心 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ ヴァージニア・フェイト ]楽天ブックス
December 30, 2023
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みなさんこんばんは。韓国俳優で「パラサイト」にも出演していたイ・ソンギュンさんが自殺だそうです。ショック。違法薬物を使用した疑いで捜査を進めていたそうです。女性二人が営む結婚相談所で起こる様々なトラブルを扱うシリーズ最新作を紹介します。疑惑の入会者: ロンドン謎解き結婚相談所A ROGUE’S COMPANY創元推理文庫 Mモ9-3 ロンドン謎解き結婚相談所) アリスン・モントクレア/著 山田久美子/訳 戦後ロンドンで結婚相談所を営むアイリスとグウェン。ある日、アフリカ出身の入会希望者ダイーレイが現れる。流暢な英語を話す好青年だったが、一方でグウェンの直感は彼の言葉が嘘だらけだと告げていた。さらにグウェンは自宅付近で彼に出くわし、つけられていると感じた。彼には結婚相手をさがす以外の目的があるのでは? 結婚相談所を営む二人には、もれなく謎がついてくる。訳ありの申込者がいたり、疑問点が気になると、好奇心と行動力を持ち合わせている二人は、行動せずにはいられない。だから謎にはもれなく危険もついてくる。というわけで、今回はグウェンが危険を防ぐ術を学ぶ。 格闘技を習う事になったグウェンは、登場する刺激的な語句も、発音するのはためらうものの、実行自体はためらわない。強面のお兄さんたちの前に出ても、丁寧な物言いながらいつの間にか自分の言い分を通す術をいつの間にか身に着けている。息子を守り育てるという意識が芽生えてきたことが感じられ、頼もしい。そして姑カロラインとようやくいいムードになったと思いきや、舅ベインブリッジ卿が帰郷。だが彼も実際に帰国した日に直接実家に戻ってこなかったりと怪しい! 新キャラクターを投入しても、メインキャラがしっかりしているので物語がうまく動く。病院に入れられ息子の監護権すらもらえず、財産を持っていながら管理もできなかったグウェンが、ようやく世間なみの権利と立場をつかむ件が事件のサイドストーリー。一見どこにいっても動じないように見えるアイリスも、戦争のトラウマを抱えていた。スパイという非情な世界にいたのだから、日常は最も遠い。平気な顔を見せているアイリスの方が、実は闇から抜け出すのが大変だ。しかしきっと、強くなったグウェンや友人が助けてくれるはずだ。疑惑の入会者 / 原タイトル:A ROGUE’S COMPANY[本/雑誌] (創元推理文庫 Mモ9-3 ロンドン謎解き結婚相談所) / アリスン・モントクレア/著 山田久美子/訳ネオウィング 楽天市場店
December 29, 2023
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みなさんこんばんは。サザンオールスターズの桑田佳祐と、シンガー・ソングライターの松任谷由実による夢のコラボレーションが実現しました。27日午前0時から、桑田佳祐&松任谷由実名義で「Kissin’ Christmas(クリスマスだからじゃない)2023」を先行配信するそうです。今日は北欧のホームズともいうべき人物が登場する作品を紹介します。闇の牢獄Obscuritasダヴィド・ラーゲルクランツ KADOKAWA ストックホルムで起きた、サッカー審判員撲殺事件。地域警官のミカエラは捜査に参加し、尋問のスペシャリストで心理学者のハンス・レッケと出会う。独特の心理分析で捜査陣をかく乱するレッケだったが、ある日ミカエラが地下鉄に飛びこもうとした彼を救ったことをきっかけに、二人は被害者の裏の顔と、事件の奥に潜む外交機密に突き当たる。元ピアニストの経歴を持つレッケは、アフガニスタン移民である被害者の中に音楽の痕跡を見つけるが、そこには凄惨な過去が待ち構えていた。 『ミレニアム』シリーズを書き継いだ著者の三部作第一作。レッケが出会い頭に初対面の人物について次々言い当てる場面他1.兄が優等生タイプで組織に属している2。薬物中毒など、レッケについてはかなりホームズを意識したキャラクター設定である。一方相違点としては1.レッケの悪癖は過去のトラウマが原因で、離婚したが妻と子がいる2.レッケは尋問技術の権威である3.鬱病のレッケの危機をミカエラが救う4.ミカエラには犯罪者の兄がおり 警察はその事を利用する5.医師として一定の尊敬を得ているワトソンに対して、ミカエラは自身で能力を証明しなければならない6.上流階級のレッケと移民のミカエラ 二人の間に階級差があるなど、ミカエラにかなりオリジナル要素を詰め込んだキャラクター設定となっている。ワトソンは、語り手としてシャーロックの才に惚れ込んでいる。ミカエラもレッケの並外れた才能は認めつつも、彼の危うさも目の前で見ているので、気遣いつつもワトソンよりはやや対等な立場で物を言う。ミカエラの思い切りの良さが窺える。ワトソン役が女性のため周囲が恋愛関係を疑うのは、ワトソンの性別を変えたテレビシリーズと同様だ。移民問題、ISを絡めたのは現代の視点である。しぜん、世界も絡むため、落としどころは勧善懲悪めでたしめでたし、という感触ではない。ただ、ミステリの大きな要素の一つであるホワイダニットが曖昧な点は残念だ。また、事件の真相を暴く面はあるものの、二人が或る組織の所業を暴いていく告発要素もある。 第一作目ラストにレッケを訪ねて来た人物が、第二作の依頼人だ。ミカエラの父の死の真相といい、三作目までに解明されなければならない謎があちこちに散りばめられている。闇の牢獄(1) [ ダヴィド・ラーゲルクランツ ]楽天ブックス
December 27, 2023
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みなさんこんばんは。黒柳徹子の自伝的小説をアニメーションで初めて映画化する『窓ぎわのトットちゃん』(12月8日全国公開)の声優キャストとして、役所広司、小栗旬、杏、滝沢カレンの出演が決定しました。今日はミステリを紹介します。木曜殺人クラブ 逸れた銃弾 (Hayakawa pocket mystery books)The Bullet That Missedリチャード・オスマンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス大規模な詐欺事件を調査していたキャスターベサニー・ウェイツが、不可解な事故で死んだ。崖から車ごと落とされたが、遺体は見つかっていなかった。実は生きているのではないか?〈木曜殺人クラブ=オリジナルもThe Thursday Murder Club)の面々エリザベス、ジョイス、ロン、イブラヒムが動き出す。 殺人クラブというタイトルだが、決して殺人を趣味にしているわけではない…はずだったが、今回なんと訳アリ過去のエリザベスが、バイキングと名乗る男から「友人のジョイスを殺されたくなければ元KGB大佐を殺せ」と脅迫される。 解説にも書かれているように、登場人物たちのバックグラウンドや性格もそろそろ馴染んできた。多視点での物語進行は続けるようだ。4人中最も鋭いのはエリザベスで、対極にいるのがジョイス。さくさく物語を進めるならば、ジョイス視点は除外した方がいいのだが、敢えて彼女語りの部分を入れるのは、物語にある種の撓みを持たせたいからか。「見えていない素人にはこう見える」事を教えてくれる、ちょっとおとぼけコメントが並び、少し先を知っている読者から見れば、クスクス笑いながら読み進める、頭の体操の箸休め部分になるのだろう。他にも、軽妙な会話のやり取りがテンポよく進み、楽しい。 一方で、高齢者と若者の対比も描かれる。ボグダンとドナ、ドナの母親パトリスとクリスは目の前の恋に夢中だが、聡明で4人のリーダー格で、今回の事も含め不可能を可能にする事など容易そうに見えるエリザベスは、どんなに相手を愛し、愛されていても、その思いは永遠とはいかない。認知症でいずれ全てを忘れていくスティーヴンの事だけはどうにもならず、日々胸が張り裂ける思いをしているのがやるせない。木曜殺人クラブ 逸れた銃弾 (ハヤカワ・ミステリ) [ リチャード・オスマン ]楽天ブックス
December 8, 2023
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みなさんこんばんは。俳優のパイパー・ローリーが亡くなりましたね。今日はミステリを紹介します。彼が残した最後の言葉The last thing he told meローラ・デイヴ早川書房 表紙絵は背中を向ける二人の女性。こちら側を向いている女性は不満そうだ。こちらを向いているのは16歳のベイリー。向こう側を向いているのは、彼女の義母ハンナだ。ハンナはベイリーの父オーウェン・マイケルズと出会い、結婚した。ハンナを嫌いなわけではないが、オーウェン以外の親戚がいないため、ベイリーは父親が取られてしまうのでは?とハンナに反発し、そうしたベイリーをオーウェンがたしなめ、ハンナは理解しつつも受け止める。そんな日常が続くはずだった。 ところがある日夫が消えた。妻のハンナに残されたのは「彼女を守って“Protect her.” 」と書かれたメモと、夫の連れ子ベイリー。そしてベイリー宛ての大金が入った鞄。直後、夫が働くテック企業に巨額の詐欺の疑いがかかり、ハンナは失踪の謎に迫る。 プロット自体は王道だ。バックグラウンドについて話すことのなかったオーウェンの過去が、第三者の手によって明らかになる。最も自分をよく理解する人、かつ自分が理解している人だと思っていた夫が突然いなくなり、外部は犯罪者扱い。しっくりこないベイリーと暮らしていかなければならない。しかし「~しなければならない」という義務感だけで、にわか親子関係が構築できるわけがない。それでも守るべき子供を持つ母親として、かつ未成年を守る大人として、ハンナは独自に調査を開始。するとFBI調査員が彼女の前に現れる。話を聞くうち、彼等に従う方がいいのだと思いかけるが、ハンナに疑問が浮かぶ。もし最善の方法だと思うなら、なぜオーウェンは最初から彼に頼まなかったのか?さあここでハンナは誰を信じればいいのか迷う。手がかりはハンナに託された手紙だけ。過去を話さなかったので頼るべき人も見つからない。孤立無援になる中で、次第になさぬ仲の母娘が心を通わせていく。 過去を知ってからオーウェンと一切接触ができない中で、家具デザイナーのハンナが何をどう選択していくかがスピーディに描かれる。一方で、なぜハンナがそこまでオーウェンを信じるのか?という答えが過去の二人のエピソードで紹介。義母にプチ反抗期だったベイリーも成長する。文字通り、彼の最後の言葉にすがりながら、言わなかったその他を探り、自分がどう対処していくか決めていくサスペンス。彼が残した最後の言葉 [ ローラ・デイヴ ]楽天ブックス
December 7, 2023
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みなさんこんばんは。25日の最高気温は北海道から北陸を中心に今シーズンこれまでで一番低くなっています。ヘニング・マンケルの未訳本も少なくなってきました。スウェーディッシュ・ブーツSvwnska Gummistrovlarヘニング・マンケル東京創元社「およそ一年前の秋の夜、家が全焼した」という文章で始まる。ヴァランダーシリーズで知られるマンケルなのだから、当然この火事は放火であり、犯人捜しが始まると想像できる。しかし主人公フレデリック・ヴェリーンは元医師で70歳だ。捜査権限がなく、自身に降りかかった災難だとしても、おいそれと動けない。それどころか、放火の疑いをかけられ被疑者になってしまう。ところがその後、周囲の島でも放火らしき火事が連続して発生する。 本編はマンケルが58歳の時に書いた『イタリアン・シューズ』の続編である。『イタリアン・シューズ』の時66歳だったヴェリーンは70歳。主人公が捜査しないので、放火事件の真相究明のテンポは遅い。メインとなるのは、全てをなくして感じる老いと孤独への恐怖、過去の回想、前作で突如存在がわかった娘ルイースとの関係、放火事件を取材にきた地方新聞の記者リーサ・モディーンとの関係である。 小島で世捨て人同然の暮らしをしていたヴェリーンを社会に引き出すのは、リーサとルイース、若き女性二人である。事件を取材したリーサを通じて自身がどう見られているかを実感し、パリにまで行くことになったルイースを通じて、世界で問題になっている難民と直に接する。娘とのぎくしゃくした関係はヴァランダーシリーズでもおなじみだった。後者については「私は俄然元気になり、この女性に対して激しい愛情が湧き上がった」「突然湧き上がった激しい感情。我々老人にはもうこれしかないのだ」と明らかに恋心を抱いている。リーサもヴェリーンの感情に気づくが、彼女は30歳ほども年下で、はっきりと恋愛対象ではないと言われてしまう。時に滑稽にも見える行動を繰り返すヴェリーンのリーサへの想いは「年取った人間には時間がない」とあるように、老いへの抵抗も多分に影響している。しかし様々な葛藤を経て「これからどうやってこの突然の痛み、この哀しみに耐えることができるのだろうという思いに襲われた。人生をやり直すには私は年を取過ぎている。未來は?空っぽだ。」と呆然自失状態だったヴェリーンは「私はもはや暗闇を怖れてはいない」という境地に達する。暗闇=死である。ヴェリーンは冒頭の火事でスウェーディッシュ・ブーツ=長靴を片方なくし、注文するがサイズが合わなかったりしてなかなか揃わない。やっと届いた所で幕。靴が揃う→歩ける→ヴェリーンに安定が戻る、の比喩。スウェーディッシュ・ブーツ [ ヘニング・マンケル ]楽天ブックス
November 26, 2023
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みなさんこんばんは。イタリアが中国の一帯一路から脱退宣言しましたね。今日はあの有名小説よりも早く似たプロットで発表された小説を紹介します。赤い橋の殺人L’assassinat du Pont Rouge(光文社古典新訳文庫)バルバラ マックス=マクシミリアン・デストロフが本編の語り手であり著者の投影だ。解説にもあるがデストロフ=デストロイ=破壊の意味だそうだ。といってもマックスがぐいぐいと罪を犯した者を追求し生活を破壊してゆくわけではない。マックスは捜査官ですらない。三流劇場に所属するオーケストラの第二バイオリン奏者である。 19世紀中葉のパリ。急に金回りがよくなり、かつての貧しい生活から一転して、社交界の中心人物となったクレマンは、著名人との交友を楽しんでいた。変わってしまったクレマンを批判する者もいたが、基本的に“いいひと”のマックスは庇っていた。ある殺人事件の真相が自宅のサロンで語られると、クレマンが動揺する。クレマンが動揺した言葉とは何とも不思議な偶然の連鎖によって、犯さなかった犯罪のために逮捕され、人間の裁きからは永久に免れると思われた殺人の罪を認めさせられたのですである。 フランス版『罪と罰』と言われるがラスコーリニコフはすぐにわかる。「君はこう確信している。われわれは善悪の感情をもって生れ、『神』や『摂理』は存在すると。要するに、君は物理の世界を超えたこうしたあらゆる愚劣な考えの餌食になっているのだ。そんなものは人が愚か者どもを利用するために考えだした手段に過ぎない。君からひどい幻想を根こそぎひっぺがしてお人好したちの群れから引きずりだしてやりたい!僕を見たまえ!これこそ僕の喜びであり誇りなのだ。僕はこうした新興と偏見に足する活発で旺盛な、生ける否定なのだ。そればかりではない。誠実、公正、美徳と呼ばれる価値に対して、巧妙で卑劣な行為がこれほど輝かしい勝利を収めている例がかつてあっただろうか」「どうして僕が神じゃいけないんだ。」のような台詞を言う人間である。悪事が罰されないならもともと神などいないのだ、という持論で自信満々だったが、いざその家に不幸が起こると、神による罰ではないかと怖れを抱く。結局人は法による人間からの罰よりも、どのようなタイミングで降ってくるかわからない神からの罰を怖れるものなのだ。 1983年にニースで大学の博士論文で翻訳者が著者を取り上げたことから、忘れられた作家が蘇る。赤い橋の殺人 (光文社古典新訳文庫) [ バルバラ ]楽天ブックス
November 18, 2023
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みなさんこんばんは。物価高を上回る賃上げを実現するため、岸田総理大臣は、ことし全国平均で時給1000円を超えることになった最低賃金について、2030年代半ばまでに1500円に引き上げることを新たな目標にすると表明しました。今日も韓国小説を紹介します。どれほど似ているかキム・ボヨン河出書房新社『ママには超能力がある』タイトルの台詞を言った女性に、娘が「ほんとのママには試合を応援してると、応援しているチームが蒔けるという超能力があって、パパには旅行に行くと必ず雨が降る超能力があった」と言い返す。ならば、言われている女性はホントのママではない?義母?ちなみに娘は触った機械が全部故障する超能力を持っているらしい。えっ国民総エスパー時代?どうやらそうらしく、ホントのママじゃないママ(ややこしいな)にも、超能力が備わっていることや、女性との関係は、娘がやがて明かしてくれる。「みんな、自分たちは区別され、隔てられ、分離独立した、かけ離れた何かだと思ってるよね。でも私の目には、世の中の人たちが一種の気体に見えるの。みんなが混じり合っているように見える。目に見えるその境界線ではなく、それよりもうちょっと外側に境界線があるように見える。」だから「血の繋がりなんかなくても皆繋がっている」という彼女の主張が素晴らしい。『0と1の間』韓国の凄まじい受験戦争に娘スエが勝ち残れるか心配な母親キム女史は、勉強そっちのけでデモに夢中なスエとどうやら喧嘩したらしい。らしい、というのはスエとの過去が挿入され、その中に喧嘩の会話が出てくるので、どうやら、リアルタイムで喧嘩が行われたわけではなさそうだからだ。「落ちこぼれたら、あんたどうやって生きていくの?」と右に倣え方式を強制するステレオタイプな母親は、SF小説でも同じなんだなぁ。本小説の「私たちは独立した存在というより、ある波形であり、ある場だと見るべきだろう。今この瞬間にも絶え間なく、周囲にあるものと原子を交換しているから。時が過ぎれば、その体を構成している原子のすべてがほかのものと交代する。」この台詞と『ママには超能力がある』の引用文は実は同じ事を言っている。『赤ずきんのお嬢さん』街を歩いていると、なぜか周りの人が皆声をかけてくる。理由は、女性がこの世にいなくなったから。干渉されるのが嫌なお嬢さんが望むことは、実は女性が多い現代社会と共通の事である。『静かな時代』認知言語学者シン・ヨンヒは与党のアドバイザーだった。大統領候補として、無所属で立候補した男性をリアル社会のメディアで攻撃するが、彼はマインドネットというネット空間で絶大な人気を博していた。マインドネットは本心を隠すことができないし、あらゆる考えがコントロールされずに流れてくる。そんな空間で支持された者が国のトップに立つはずがない!と思うシン・ヨンヒ。これは逆説小説で、主人公の思いとは裏腹に事態が進む展開。だから読者は逆に「現実もこうなってくれたらいい」と思うはず。著者は「これは政治小説ではない」と言っているが、理想の政治について描いたSF小説だと思う。『ニエンの来る日』中国のSF団体との作品交流の一環で書いた本なので、ベースは古代中国の五帝メンバーの舜と堯。五帝の中でもこの二人は聖人と言われている。本編にも登場するように、舜の家族は何だかんだと用事を言いつけては彼を殺そうとし、にも関わらず彼が孝行を尽くしたので儒家からはほめたたえられている。本編ではなぜ彼が耐え忍んだかという本心が明かされる。『同じ重さ』『この世でいちばん速い人』『鍾路のログズギャラリー』『歩く、止まる、戻っていく』『どれほど似ているか』収録。全米図書賞にノミネートされ、キム・チョヨプら新世代韓国SFに圧倒的影響を与えるトップランナーによる、決定版作品集。どれほど似ているか [ キム・ボヨン ]楽天ブックス
November 10, 2023
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みなさんこんばんは。坂本昌行主演!ブロードウェイミュージカル『キャメロット』が2023年10月より上演されます。原作本は『永遠の王』(T・H・ホワイト著/森下弓子訳)になります。今日はミステリを紹介します。私の唇は嘘をつくThe Lies I Tell二見文庫 ザ・ミステリ・コレクションジュリー・クラークキャット・ロバーツは、自分の人生をひっくり返した女性が戻ってくるのを10年待っていた.そして今、彼女が目の前にいる。メグ・ウィリアムズ。マギー・リトルトン。メロディ・ワイルド。大学生。ライフコーチ。不動産業者。同じ人でも、町によって、仕事によって呼び名が違う彼女のことを暴露してやろうと固く決意。キャットはメグの取材中、深い傷を負う出来事に遭遇したのだ。しかしメグに接近するにつれて、キャットの長年の思い込みが崩れ始める。 前作「プエルトリコ行き477便」でも反社会的な女性を敢えて書きたかったという著者は、今回も同様の女性を主役に据える。てっきりキャットによるメグの復讐物語になると思っていたが、中盤以降勝手が違ってくる。 ところで、本編では、だめんずでパートナーの金を奪ったり、ギャンブルにはまっていたり、女性を酔っ払わせて乱暴したり…と碌な男性が登場しない。メグがこてんぱんな目に遭わせるのがそういった男性なので、行為自体は勿論悪だが、悪い男に天誅を下すような形になっているため、物語が進む毎に、彼女を悪者と断じきれなくなっていく。その想いはメグの背景を探るうちに共感していくキャットの心情に重なる。 それに、キャットが思い切ったのは、メグが酷い事をしたというよりは、母親のある一言がきっかけだった。かつ、本当にキャットを酷い目に遭わせたのはメグではないため、復讐といわれても、若干ぴんと来ない。キャットも途中でその事に気づき、本当に復讐すべき相手に向かっていく。 ドメスティック・スリラー(家族ドラマが中心になっているスリラー)というジャンル分けがされているが、ThrillというよりExciteに近い。一匹狼のメグが、彼女のモットーである「相手の望む人間を演じる」事によって、いい気になっている男達を騙してどのように金を巻き上げていくかという過程が面白く、メグの影響を受けたキャットがこの先どんな人生を選ぶのか気になった。私の唇は嘘をつく (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション) [ ジュリー・クラーク ]楽天ブックス
November 4, 2023
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みなさんこんばんは。『エクソシスト』で知られるウィリアム・フリードキン監督が亡くなりましたね。今日はテメレア戦記最新刊を紹介します。テメレア戦記 7 黄金のるつぼCrucible of goldナオミ・ノヴィク静山社 過酷な戦いと長旅の末、軍務から離れる決意を固めたローレンスは、オーストラリア内陸の地“緑の谷間”でテメレアとともに隠遁生活を送っていた。ところが、安息の日々を打ち破るように、意外な英国の使者ハモンドがやってくる。南米大陸に勢力を拡大するナポレオン軍に対抗するため、英国政府がローレンスに軍務復帰を求めていた。胸に秘めた愛国心とテメレアの闘志を支えに、ローレンスたちはふたたび大海原へ、そして未だ見ぬインカ帝国へ。 ローラン・ビネ作品『文明交錯 (海外文学セレクション)』でも登場したインカ帝国がここでもナポレオンから熱視線を送られる存在に。本作の場合アタワルパは亡くなっており、娘にナポレオンとの婚約話が持ち上がる。折しもナポレオンはジョセフィーヌとの離婚が成立しておりタイミング的には良いが、どちらも国のトップなら遠距離婚だ。 翻訳先が長らく見つからず、7作目まで随分間が空いてしまったが、あと2巻で完結らしい。次作は鎖国時代の日本とか。日本のドラゴンは朱雀とか日本名がちゃんとついているのだろうか。ローレンスの「愛しいテメレア」呼び、相変わらずいいなあ。イスキエルカがテメレアに「あなたの卵産んでもいいわよ」宣言していて、「えっあなたたちいつの間にそんな大人に」とびっくり。考えたらテメレアは懲罰として繁殖場に置かれていたし、そういう能力はあるんだな。テメレア戦記 7 黄金のるつぼ [ ナオミ・ノヴィク ]楽天ブックス
November 3, 2023
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みなさんこんばんは。大阪府などは、カジノなどが入ったリゾートIRを、海の近くの夢洲という場所に作ることを計画しています。2030年の秋ごろにオープンする予定です。癖の強い探偵アノーが活躍するA・E・W・メイスンのミステリを紹介します。オパールの囚人 (論創海外ミステリ 296)The Prisoner in the OpalA・E・W・メイスン金井美子 (訳) 『矢の家』で散々話にだけ登場していた本来の相棒ジュリアス・リカードが本格登場。「あの事件のおかげで、世の中がすっかり違った形で見えるようになった。私が立っているこの世界は、巨大なオパールのようなものだ。きらびやかだが、不透明で、外の世界のことはぼんやりとしかわからず、オパールの中の囚人にとっては、ひどく不安で居心地が悪い。いわゆるファイアーオパールというやつなのか、私をとりまく薄闇の仲に、闇夜を霧さく銃の閃光のような、深紅の明るい線が走ることもある。そして私はずっと、足元にある地面が危険なほどにもろいことを、オパールのようにもろいことを感じている」タイトルに繋がるキータームを入れて事件をざっと総括してくれる。 リカードはディナーパーティでジョイス・ウィップルと出会う。彼女はシャトー・スプラックの女城主ダイアナ・タスバーロウの友人で、ブライス・カーターと破談になったばかりのダイアナに、何か悪いことが起こるのではないか?と根拠のない不安を抱いている事を打ち明け、リカードに彼女を訪問するよう頼む。ワインに目がないリカードは、ダイアナの友人で、カッサンドル・ド・ミランドル子爵の所に滞在予定だった。教会に入った奇妙な泥棒、思わせぶりに十字を切る神父、深夜二時のあやしい物音、そして向かいの丘の屋敷にあかあかとともる灯。翌朝二人の美女の一人が片方の手首を切り取られた死体となって発見され 残る一人は姿をくらます。 はたして犯人は誰か?どうして手首を切り取る必要があったのか?失踪者はなぜ、どこに消えたのか? ざっと要素を挙げただけでも正統派ホラー&ミステリなのに、雰囲気を壊しにくるのが、相変わらず自分の事をアノー呼びする名探偵。「我こそはアノースキー、チェカスの王であるぞ!モスクワから来たアノースキー!アノースキー、草原の恐怖!」と分かりやすい付け髭変装でリカードの前に現れる。一流ホテルでおかしな行動してたらつまみ出されるぞ。「気の毒なアノー!『つけ髭をつけない男が名探偵になれるわけがない。ルールを知らないだけじゃなく、学ぼうともしないんだからな』とね。冬の間じゅう悲しみにくれていた私は、夏が来ると奮起してこう思いました。『わが友に誇りに思ってもらえるよう、何かしなくては。そうだ、彼が夢見る探偵の姿を見せてやるとしよう』と」要はサービス精神の表れで、リカードの想像する探偵像に合わせてみたとか。ヨユーですな。リカードがいかにも一般人らしく、頼み事をしてきたジョイスに心惹かれて正常な判断ができないのに比べ、やたらとイギリスのことわざをマネしては、リカードに訂正されるおとぼけ探偵アルノーが、無事事件を解決することができるのか。〈ガブリエル・アノー探偵譚〉長編第3作。オパールの囚人 (論創海外ミステリ 296) [ A・E・W・メイスン ]楽天ブックス
November 2, 2023
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みなさんこんばんは。サッカーの小野選手が引退を発表しましたね。今日はちょっと疑問符が沸いたミステリを紹介します。盗作小説The Plotジーン・ハンフ・コレリッツハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス小説講師として才能のない生徒の面倒を見る作家ジェイコブは、かつて一作だけヒットを飛ばしたことがあったが、最近はさっぱり書けない。中でも反抗的な生徒エヴァンの存在は、いまの彼の立場をより惨めなものにさせていた。そんなある日、エヴァンが思いついたプロットをジェイコブに披露する。エヴァンが死んだことを知ったジェイコブは…。 邦題がもろネタバレしている通りジェイコブはエヴァンのプロットをそのまま頂いて小説を書き、ベストセラー作家に返り咲く。そこで終わればめでたしめでたしだが、ミステリが入る余地がない。というわけで、お馴染みジェイコブは謎の相手から脅迫される。 ハヤカワはいつも表紙イラストが秀逸。この表紙の、わざとフォントを変えた文字のように、全く同じ内容を、何か特徴を変えて書くならば、100%盗用と言える。しかしプロットはいわばアイデア段階であり、これから派生の可能性はある。キャラクターの描き方一つとってもイメージは全然変わるのでは?映像作品においても、どこかで見たような似たストーリーは山ほどあるので、盗用なのか、単に似ているのかの区別の証明が難しい。要は、告発された本人が、でんと構えていれば何てことなかった問題では。いわんや他人のアイデアで一発当てたとしても、次が続かなければ結局才能がなかったと社会からは見放されるので、あせって告発したり脅迫する必要はなかった。また、好みの問題もあるが、作中作として紹介される盗用したプロットによる作品が、どこをどう見ても「誰が書いてもベストセラー間違いなし」には思えなかったのも納得いかなかった。盗作小説 (ハヤカワ・ミステリ) [ ジーン・ハンフ・コレリッツ ]楽天ブックス
October 4, 2023
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みなさんこんばんは。創業者のジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて社名変更の方針を固めたジャニーズ事務所が、タレントと社員を所属させる新会社の名称をファンから公募する方向で動いているそうです。今日はSF小説を紹介します。最後の語り部The Last Cventista東京創元社ドナ・バーバ・ヒグエラ杉田 七重 (訳) 十三歳のペトラに、大好きな祖母が話してくれた。かつて蛇が母親を慕っていたが、目が見えないため、いつも母親に会うことができない。しかしようやく母親に会うことができた。蛇とはハレー彗星、母とは地球である。つまり、地球にハレー彗星が衝突するのだ。 時は2061年。ペトラ・ペーニャは両親と弟ハビエルの家族4人で、崩壊目前の地球を脱出し新天地を目指す植民船に乗る。蛇と母親の物語を聞かせてくれた祖母は、悲しい事実を親子の情愛の物語に変えてみせた。物語の魅力に魅せられたペトラは、目的地に到着するまで眠っているあいだに、脳に膨大な民間伝承や神話のインストールを頼む。380年後に植民星に着いた時には、また家族一緒に暮らすはずだった。だが目覚めたとき、ペトラの前に現れたのは、そして家族は。 地球滅亡を前に、わずかな選ばれし者たちが密かに集められ、新天地を求めて宇宙に旅立つ。このプロットはSF映画で数限りなく使われた。そして大抵途中でトラブルが起こる。例えば、宇宙船の中にエイリアンや疫病が入り込み(映画『アンチ・ライフ』)、とても新天地に連れていけない状態になる。或いは、出発前/後の船の中で暴動が起こり(映画『グリーンランド -地球最後の2日間-』)、移民どころではなくなる。コールドスリープは、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』にも登場するが、リスキーなのだ。眠っている間に何が起こるか、何をされるかわからない。 本編もしかりで、ペトラが目を覚ました時に、他の家族はおらず、画一的な考え方を持つことだけを、奇怪な姿をしたコレクティヴに強いられる。逆らえば再教育と称して、記憶の塗り替えが行われる。脳を直接いじるのだろうから、随分と乱暴だ。画一的な支配者に対抗する手段としては、やはりそれぞれの個性を尊重する多様化社会である。今回多様化・個性を象徴するのは、ペトラの祖母の物語=物語る能力だ。真実を物語に組み込んで語る事もできる。ペトラは彼等に従っている振りをしながら、新天地で自由な暮らしを得ようとする。同じように無個性を強いられた少年少女たちの自我の目覚めと、強大な権力者と闘おうとする意志の形成を通じて彼等の成長を描き、物語の魅力を訴える物語。2022年ニューベリー賞、プーラ・ベルプレ賞受賞。最後の語り部 [ ドナ・バーバ・ヒグエラ ]楽天ブックス
October 3, 2023
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みなさんこんばんは。東海道新幹線では車内販売を10月で終了するそうですね。今日もジョン・ディクスン・カー作品を紹介します。魔女の隠れ家Hag’s Nookジョン・ディクスン…カー創元推理文庫 大学を卒業したてのタッド・ランポールは、所謂親が与えてくれるお仕着せのグランド・ツアーでは満足できず、一人旅をする。恩師メルスン教授から「無二の親友でイギリスの誇る偉大な名物男の一人だから、是非会っておいた方がいい」と言われ、チャターハムに彼を訪ねる列車の中で、何とフェル博士に名前を言いあてられる。この件はホームズが自己紹介する前のワトソンを言いあてる場面と符合する。 タッドはもう一人印象的な出会いを体験していた。イギリスの小銭計算が不得手なタッドは、つい紙幣ばかり出すためポケットには小銭がじゃらじゃら。ぶつかった拍子に小銭がばらまかれ、あろうことかタッドはぶつかった相手にしがみついてしまう。彼女はドロシー・スタバ―ス。お互いチャターハムに向かう所だと知り、俄然彼女とご一緒したくなったタッドだが、彼女は「幽霊を見たら、あたしにもとっといてね」(いや、そもそもとっとけるもんじゃないし!幽霊だし!)と何とも意味深な台詞を残してタッドを送り出す。この辺りもクリスティのポアロシリーズで、ヴェラ・ロサコフ夫人が地下鉄ですれ違いざま「地獄へ来て!」と言った場面とデジャヴ感が。 さて、なぜドロシーがそんな事を言ったかというと、実家スタバ―ス家では、これまで何人も首の骨を折って死んでいた。監獄の長官室で相続の行事が行われた夜、嫡子マーティンとその従兄ハーバートが、再び謎の死を遂げる。この邸は呪われた魔女の隠れ家なのか? ギデオン・フェル博士第一作の時は、何と47歳。この次の作品が『帽子収集狂事件【新訳版】』であり、本編で知り合ったタッド・ランポール青年も登場。彼は『三つの棺』でもフェル博士のお相手を務めている。本編の特長としては、あまり登場することのないフェル博士の夫人の登場場面があることだ。物語冒頭が水松荘というフェル博士の家から始まることもあって、プライベートの彼の姿が描かれる。夫人はしょっちゅう物を壊してせわしない。タッドは「山小屋風の箱から絶えず出たり入ったりしながら天候を教える、あのスイスの晴雨計の回転人形」のようだと言っている。今回地元の事件とあって、関係者も皆知っている人ばかりなのに、偶に「あっ、まずいことを言ってしまった!」という失言も。完全なるコメディパートとして登場している。日本人ならアニメ&漫画のサザエさんを想起するとぴったり。【中古】魔女の隠れ家 (1979年) (創元推理文庫)スカイマーケットプラス
September 24, 2023
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みなさんこんばんは。プロ野球の阪神は巨人に4対3で勝って、2005年以来、18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝を果たしました。今日もジョン・ディクスン・カー作品を紹介します。火よ燃えろ!Fire,Burn!ジョン・ディクスン・カー早川ポケットミステリー554ロンドンのユーストン・ロードでタクシーに乗ったチェビアト。気がつくと100年前のロンドンに。自分が着ているのはフェルトの帽子、乗っていたのは馬車。目の前にあらわれたフローラ・ドレイトン。創設されたばかりのスコットランドヤードで受けた命令は「コーク夫人の鳥の餌が続けて盗まれる」事件の解決。鶏の餌泥棒が捜査主任になるためのテスト。長官の主任書記ヘンリーと共にコーク夫人の聴取に当たるが、盗まれたの実は宝石。そんな時、コーク夫人の家に同居するマーガレット・レンフルーが廊下で何者かに銃撃され亡くなった。だが銃声は聞こえなかった。恋人フローラのパフから拳銃が落ちる。チェビアトは事件を無事解決して昇進を果たし、恋人を守れるのか? そもそも着ている物が変わったり、乗っているものが変わればさすがに気づくだろう。タクシーから馬車って乗り心地悪すぎだ。これはかえって映像化した方が、カットが変わると服装も風景も一変している様が撮れていいかも。文章を読んで想像すると、どうしても無理がある。 無理があるというならもう一つ。チェビアトは出会ったばかりのフローラとどうやら恋人らしいと気づく。相手はチェビアトを知っているが、チェビアトはフローラを知らない。だから一瞬パフから落ちた拳銃を見て疑う。にも拘わらず、この時代のチェビアトとしてフローラと熱烈な恋に落ち、勿論熱烈ちうもする。いや大胆だな! タイムスリップものにしてカーなので勿論ミステリもある。銃声を聞いたわけでもないのに若き女性が亡くなり、どうやら昇進テストとして課せられた宝石とも因縁があると気づいたチェビアトは、密室殺人の謎に挑む。 タイムスリップ先は時の内務大臣ロバート・ピールによりスコットランドヤードが創設されたばかりで、世間が警察に好意的ではない。今でこそ「お堅い仕事」「立派な仕事」扱いされるが、 チェビアトも社交界に出て行くと「なんでそんな仕事に就いてるんだ」と冷眼視される。数々のハードルを乗り越えていくのは美しき貴婦人への愛と使命感!わかりやすい悪漢もいて、スコットランドヤードきってのピストルの名手で筋骨たくましいスポーツマン、かつ推理能力も抜群と、ヒーロー要素を積まれまくったチェビアトがまぶしいぞ。【中古】火よ燃えろ! ジョン・ディクスン・カー 早川ポケットミステリー554光国家書店
September 23, 2023
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みなさんこんばんは。プロ野球、オリックスはロッテに6対2で勝って、パ・リーグ3連覇を果たし、前身の阪急時代も含めて15回目の優勝を決めました。今日から3日間ジョン・ディクスン・カー作品を紹介します。幽霊屋敷【新訳版】 (創元推理文庫)The Man Who Could Not Shudderジョン・ディクスン・カー コンゴ・クラブで、17年前に老執事が奇怪な死を遂げた〝幽霊屋敷〟ことロングウッド・ハウスの話題になる。イングランド東部の歴史あるその屋敷を購入したマーティン・クラークは、幽霊パーティを開こうとした。といっても幽霊に招待状を書いたのではなく、要は大人版肝試しである。語り手のボブ・モリソン、婚約者テス・フレイザー、クラークの友人アーチボルド・ベンtリー・ローガンと妻グウィネス、クラークが邸を購入する前に下見を依頼した建築家のアンディ・ハンター、テスの知人で事務弁護士ジュリアン・エンダビーが招かれる。ビジネスウーマン、夢見がちな小説家、神経過敏な商人、強固な科学的思考の持主の建築家、それぞれ人間の異なるタイプを招きたいというのがマーティンの意向だった。ボブは探偵役として、知人のエリオット警部を推薦するが却下され、弁護士が選ばれたのだ。 ところが邸に着いて早々、テスは何者かに足をつかまれたと訴える。夜には奇妙な物音がして、ボブたちは書斎を調べる。すると翌朝銃声が響き、書斎にいたボブが倒れるのをボブが目撃。書斎に居合わせたグウィネスは「銃が壁からジャンプして夫を撃った」と言うが、物理的にありえない。やがて、電報によってエリオット警部とギディオン・フェル博士がやって来る。 ちなみに銃を撃つ誰かが見えたわけではない。もとから幽霊話があり、泊り客も早速怪奇現象を体験した邸なのだから、宙に浮いた銃から弾が出ると「すわ幽霊だ!」という騒ぎになったわけだ。 ともすると風貌がサンタクロースやコール老王に例えられるフェル博士だが、彼の登場する所プレゼントならぬ殺人あり。エリオット警部は「ロンドンに帰りたい」と訴えるが、結局引き受ける。ちなみに地方警察がスコットランド・ヤードに応援を頼むと、日当を払わないといけないらしい。そりゃ首都ロンドンに比べれば、地方都市の警察の予算は微々たるものだからねぇ…。フェル博士は不可能犯罪と聞いて大喜びだが、案の定「真相はもやもやっと頭の中にあるんだけどねぇ…まだ言えないね」と思わせぶり。ラストで銃がジャンプした種明かしはされるのだが…えええ!そんなにタイミングよく、的に当てられるか? ちなみに別荘のモデルはJ・B・プリーストリーの別荘ビリンガム館。幽霊が出るという噂で出かけて行ったカーは出てこなくてがっかりしたとか。リアルフェル博士?幽霊屋敷【新訳版】 (創元推理文庫) [ ジョン・ディクスン・カー ]楽天ブックス
September 22, 2023
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みなさんこんばんは。10月2日スタートのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の主題歌が「ハッピー☆ブギ」に決まり、ヒロインを務める女優の趣里が、音楽ユニット、EGO-WRAPPIN’(エゴラッピンのボーカル、中納良恵、シンガーソングライターのさかいゆうと歌唱を担当するそうです。今日は北欧ミステリを紹介します。晴れた日の森に死すDen som frykter ulvem創元推理文庫 カーリン・フォッスムノルウェーの森の奥で老女が殺害される。被害者の左目には鍬が突き刺さっていた。第一発見者の少年が、精神病院に入所している青年エリケを現場で目撃していた。捜査陣を率いるセイエル警部は、エリケを犯人と決めつける者たちの偏見の言葉に左右されず、冷静に手がかりを集めていくが。 ヴァランダーを筆頭に、北欧ミステリの刑事は生活破綻者や性格破綻者が多い。「悲惨な事件に数多く遭遇しているのでそうなる」というのが何となく定説になっているが、本編のセイエル警部はまともである。どれくらいまともかというと「ちょっと権威主義的。無口。聡明。鎌のように鋭く、徹底的で、辛抱強く、頼りになり、けっしてあきらめない。幼い子供と年老いた女性に弱い」「中間は対象外なんですか?」「彼は男やもめなんですよ。彼が妻に約束したのは、死が二人を分かつまで忠誠を尽くすことだけなんですが、そのことを忘れていて、自分は死ぬまでそうしなくてはならないと思いこんでいるのです」と直属の部下に紹介されるほど。冒頭に登場しない主人公セイエルがまず遭遇するのは銀行強盗で、偶然実行犯と連れ去られる女性を目撃したことから、本編のもう一人の主人公との出会いが遅れる。「これはエリケの物語」と銘打っている通り、多視点の本編は収容所から脱走したエリケが中心になっている。つまり、彼がもう一人の主人公だ。セイエルが女性と間違えたのは長髪の彼であり、事件の容疑者とされたちょうど同じタイミングで、銀行にいたがために行き当たりばったりの強盗に連れ去られてしまった。人質を取って逃走するのはかなり高度なテクだが、その辺り全く考えていない強盗モルガンが素人くさくていい。プロの強盗ならあっさり早い段階で見切りをつけて人質を殺すが、モルガンはエルケを“変な奴”呼ばわりするものの、食べ物も与え監禁もせず連れ歩く。村では「悪い人間ではないが行動が読めない」と厄介者扱いされているエルケに、初めて友情らしきものが芽生えていく。ぽつんと孤立した町ほど異端者が目立つため、自分も一緒になって排除しないと異端者と同一視されるというコミュニティ故の人間関係を保つ難しさもあり、エルケを色眼鏡で見ない人はごくわずかだ。そのうちの一人であるエルケの担当医であり精神科医ソーラとセイエルの間にほんのりロマンスが生まれそうな予感。残念ながら続巻は刊行されていない。晴れた日の森に死す (創元推理文庫) [ カーリン・フォッスム ]楽天ブックス
September 21, 2023
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みなさんこんばんは。交通系ICカードのSuicaやPASMOは、8月2日から個人情報をひも付けた記名式のカードも販売が中止されることになりました。無記名で利用できるカードは先月から販売が中止されていて、世界的な半導体不足の影響が広がっています。今日はインカ帝国は滅びなかった!設定で描かれた小説を紹介します。文明交錯Civilizations(海外文学セレクション)ローラン・ビネ スペイン人のコンキスタドールであるフランシスコ・ピサロが1532年にインカ帝国の皇帝アタワルパを捕えて処刑。この時兵力はインカ帝国80000、スペイン軍200足らずだったが、栄華を誇ったインカ帝国が亡びたのは史実の通り。これをもってヨーロッパ人による新世界征服が始まったと言われる。スペイン人には銃と鉄と馬と天然痘に対する免疫があった。だが、もしそれらを全てインカ帝国が持っていたとしたら? 本編はそんな発想から生まれた。全四部構成。第一部は英リークの娘フレイディーズのサガ。北欧サガの『赤毛のエイリークのサガ』から採られている。本典ではアイルランド止まりで戻ってきた事になっているヴァイキングが、本編では南米に到着し、それによって彼等の武器、造船技術、役畜が伝えられ、更に一足先に謎の病にかかって免疫も出来た。第二部はクリストファー・コロンブスの、新大陸発見のための航海日誌だ。文章も『コロンブス航海記』から採られている。着いた場所はジパングで大ハーンに会えると喜ぶコロンブス。ああ罪作りなマルコ・ポーロよ。原住民を見て安心しきったコロンブスだが、彼等は強かで、かつ強力な武器を駆使していた。史実では新大陸にビョーキを持ち込んだのはコロンブスとされているが、本編では、何とコロンブスの仲間達が、現地で原因不明の病にかかってしまう。 第三部は『アタワルパ年代記』で本作のメインはずばりココ!アタワルパは史実ではインカ最後の王で、ピサロに殺される悲劇の役どころだ。しかし生まれ変わった新大陸では、ひょんなことから旧世界の王になる。その最期については、ルネサンス大好き!という人なら「ああ、ここをパロっている!」と言いたくなるはず。歴史逆転の過程に快哉を叫びたくなるのは、史実の旧世界の新世界に対する略奪・殺戮っぷりが容赦ないからだ。正直、どれだけやられても足りない。ただ、著者は単なるパロディとして書いたのではなく、虚構が現実を駆逐してゆく恐ろしさを描いたのだとか。確かに、現代社会を振り返れば、笑いで済まされないフェイクニュース騒ぎが起こっている。 第四部はセルバンテスとエル・グレコが登場。三部を書ききったので、余力で書いている印象。主な宗教は太陽神信仰で、キリスト教信者は目の敵にされている。塩野七生氏の著書でも有名なレパントの戦いも、布陣が一新。史実はスペイン、ローマ教皇、ヴェネツィアの連合艦隊がオスマン帝国艦隊トルコと闘うが、本編ではスペイン=インカ艦隊&フランス=メキシコ艦隊、ポルトガル艦隊、ジェノヴァのガレー船団が激突する。帝国はアタワルパの息子カール・カパックの代になっており、セルバンテスが囚われの身となるのは史実の通り。アルドンサのモデルとなるのはルネサンスを代表する某思想家の妻。さあ誰でしょう?文明交錯 (海外文学セレクション) [ ローラン・ビネ ]楽天ブックス
August 27, 2023
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みなさんこんばんは。台湾を訪問中の自民党の麻生太郎副総裁は8日、台北市内で講演し、中国の軍備増強を前に緊張感が高まる台湾海峡情勢を念頭に「戦う覚悟」を強調しましたね。今日は実在の人物も登場するフランスミステリを紹介します。鏡の迷宮 パリ警視庁怪事件捜査室 Le Bureau Des Affaires Occultesハヤカワ・ミステリエリック・フアシエフランス革命といっても、権力はかなり目まぐるしく入れ替わった。ナポレオン帝政が倒れた後、一時的にルイ18世が復位したかと思えば、1824年には王党派シャルル10世が即位。もう一度革命期に戻す動きが起こり、1830年シャルル10世は追放。しかし共和制には戻らず、ブルボン家ではなく、オルレアン家のルイ・フィリップが国王になった。本作の舞台はこの七月革命の直後になっている。 収まったとはいえ、国内外ではナポレオンの影響が消えていない。過激派はナポレオンのように海外に打って出るべきだと考えているし、海外では警戒されている。国内でも共和派、王党派が一枚岩になって現国王を支える体制ではない。だからこそ、夜会で突如身を投げて死んだ下院議員の息子の事も事件として捜査される。傍目にはどう見たって自殺なのだが、直前に彼は鏡を見ていた。また、彼は夜会で婚約を発表することになっており、世をはかなむ理由もない。 使命を受けたのが父の遺志を継いで化学者から転身したパリ警視庁の若き警部ヴァランタン。表紙イラストの通り、足元にまで届く長い縞のズボンに灰色のフロックコート、山高帽を目深にかぶり、洒落たステッキを手にしている。眼光鋭く灰色の眼はこの世に迷い込んだ天使とも形容される。一目彼の顔を見た女子は次々と落ちていくのに、彼は関心がない。彼の目的はただ一つ、ル・ヴィケール(助任司祭)と名乗る人物からダニエルを救うことだ。 ダニエルの手記が随時挿入される。父親は裕福な商人だが母親の他に妻がいた。母はお針子で、生まれたダニエルをあっさり修道院に養子に出す。修道院から養父母の家に引き取られたダニエルだが、彼を引き取ったのがル・ヴィケール(助任司祭)だった。手記なので一人称。感じたこと、起こったことが生々しく描かれる。 ところで、かたや当代の知識人と知り合いで、パリ警視庁の風紀局で働くヴァランタンとダニエルは、どこで接点があったのか。ダニエルに起こったことを知らなければ、ル・ヴィケール(助任司祭)を追う理由がない。実の元徒刑囚で元治安局長のヴィドックの助けを借り、ヴァランタンはダニエルを救うことができるのか。 シリーズ化されるので、敵と見做されるル・ヴィケール(助任司祭)は第一作では滅びない。次作タイトルが『ル・ヴィケールの亡霊』というタイトルらしいが、簡単に敵役を死なせないだろう。本編はヴァランタンと舞台となるパリの紹介編。政治機構が危なっかしいにも関わらず、出版の自由が復活し、表現の自由が保証された狭間の時代が舞台であり、ヴィドック他実在の人物も多数登場。2021年度メゾン・ド・ラ・プレス賞。鏡の迷宮 パリ警視庁怪事件捜査室 (ハヤカワ・ミステリ) [ エリック・フアシエ ]楽天ブックス
August 26, 2023
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みなさんこんばんは。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキに入った影響で来日が中止された米俳優トム・クルーズ(61)主演映画「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART TWO」の撮影が、延期されましたね。今日もウィル・トレントシリーズの紹介になります。破滅のループThe Last Widowカリン・スローター鈴木美朋 (訳)ハーパーBOOKS 冒頭は、ショッピングモールの駐車場で、疾病予防管理センターの疫学者ミシェルが拉致された事件だ。最初娘が攫われると思っていたミシェルは、自分がターゲットだったと知る。 それから一か月後。前作『贖いのリミット』でアンジーの呪縛から離れたウィルとサラは、ようやく二人の幸せを前向きに考えられるようになっていた。二人が話している時に衝撃と音が。アトランタ中心で爆破事件が発生。現場へ急行した捜査官ウィルと検死官サラは混乱の中、車の追突事故の救命にあたる。だがその車に乗っていたのは、逃走中の爆破犯たちとさらわれた疫学者だった。銃撃戦の末にサラも連れ去られ。連鎖する凶悪事件、真の目的とは!? まだプロポーズもしていないのにサラに去られて皆にもわかりやすく取り乱すウィル。サラの母キャシーから「前の夫のジェフリーだったら、サラを攫われたりしなかったのに!」と言われて、またもやわかりやすく落ち込んでしまう。勇敢かつ優秀な刑事ウィルがとことん前半は空回りしまくる。 その代わり活躍するのがウィルのパートナーのフェイスと、抜群の交渉力を発揮して物事を思い通りに運び、彼をウィルバー呼びする(サラだってしないのに!)アマンダ。クライマックスはトランプの選挙結果に納得がいかない支持者たちが国会に雪崩れ込む場面を想起させた。ところで、ミシェルのダイイング・メッセージ、あまり役に立っていないのでは。破滅のループ (ハーパーBOOKS 137) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 8, 2023
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みなさんこんばんは。大規模な改修工事のために休館を予定しているポンピドゥー・センターが、新たな休館期間を発表しました。2025年末から約5年間の休館となります。今日もウィル・トレントシリーズの紹介になります。贖いのリミットThe Kept Womanカリン・スローター田辺千幸 (訳) ハーパーBOOKS何者か(男)から身を守るために部屋に立てこもっている、誰とも知れない女性の三人称描写。女性が抱えているのは自分の娘であり、胸にナイフが突き刺さっている。意識はない。もう死んでいるかもしれない。さて、この女性-或いは娘-は、主要人物の誰と関係があるのか?これまで彼女を通り過ぎていった男達が列記されるが、一人を除いて皆ろくな男じゃない。唯一まともだった男に心当たりがあるが、果たして…? 相変わらず冒頭の掴みがうまいカレン・スローター。次に登場するのは特別捜査官ウィル・トレント。チームに加わった検視官サラ・リントンとはラブラブで、皆に隠そうとしても、出会えば笑顔がこぼれそうになるほど幸せいっぱいだ。だが、スローター作品で、こんな平和な風景が長く続くはずはない。 恋人との記念すべき初仕事は、やはり殺人事件だ。ウィルが関わったバスケのスター選手だった男性が容疑者とされた事件の関係者が、建築現場で殺されていた。被害者は元警官で、とかくの噂のある悪徳警官。となれば、容疑者探しには事欠かない。犯人などすぐ見つかりそうだ。ところで、現場は一面血の海だったが、その血は被害者のものではなく、ウィルの妻アンジ―のものと一致した。ここでウィルが取り乱してしまい、ほぅら、せっかくうまくいきそうだったサラとの仲がたちまち暗雲に。彼を心配する上司アマンダやパートナーのフェイスを振り切って「自分だけがアンジーをわかっている」という確信に基づき動くウィル。恋人を理解できずに戸惑うサラ。そして大量出血したアンジーの生死は? これまでも『罪人のカルマ』『血のペナルティ』などで、登場人物の過去を暴いてきたスローター。今回暴かれるのは、サラとウィルの恋がうまくいってほしいと願う読者にとってはお邪魔虫のアンジーだ。ウィルと今でも離婚しておらず、決して元妻ではない。彼女なりにウィルの孤独を理解し、空洞を埋めたこともあるが今では「自分のものにならないなら、いっそ壊してしまいたい」と、その先に破滅しかない関係と化している。なぜ今の性格が形作られたのか。読了後、彼女とウィルが復縁して欲しいとは思わないが、少なくとも悪役一辺倒の見方は変わるのではないか。贖いのリミット (ハーパーBOOKS 128) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 7, 2023
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みなさんこんばんは。昨日は板橋と戸田の花火大会がありましたが板橋はナイアガラの滝で火災が発生し中止になったそうです。今日もウィル・トレントシリーズの紹介になります。ブラック&ホワイトUnseenカリン・スローター田辺千幸 (訳) ハーパーBOOKS 夫は白バイ警官で妻は刑事。立場の上では男女逆転が起こっているが、年下夫は意に介さない。気にしているのは妻の方だ。妻の名は、レナ・アダムス。夫はジャレド・ロング。姓が違うが、サラの前夫ジェフリーの息子である。サラは妊娠できないので、彼女の子ではない。二人の家に、突然暴漢が押し入り、最初から命を狙っていたかのように発砲した。ジャレドは重体、レナは果敢に金槌で反撃し強盗犯一人を殺害する。警官を襲うのは重罪になり、仲間達が血眼になって捜査をするのが定石だ。そんな危険を冒すのは誰か? 襲撃の後間もなくレナの家に現れたのはGBI特別捜査官ウィル・トレントだった。彼は任務で彼女の家を張っていたのだ。サラは“夫が死んだのはレナを庇ったから”と思っており、ウィルが彼女と関わるのを嫌がる。そんな彼女を気遣いレナの家を訪れたことを黙っていたウィルだったが、次第に良心の呵責に苛まれる。 場面はジョージアの州都アトランタに飛ぶ。ジョージア州にまで市場を拡大してきた姿なき大物犯罪者ビッグ・ホワイティという大物の噂が乱れ飛んでおり、未だ姿を見せない彼を炙り出すために、広域捜査が展開される。ウィルが送り込まれ謎の人物の正体を探る過程と、彼の頼れるボス・アマンダ・ワグナー、メイコンの捜査指揮官デニース・ブランソン、レナ、サラ視点で描かれるそれぞれの言動が交錯して描かれる。主役といえどウィルはほぼ狂言回しポジションで、複数の女性達の物語である。女性ならではのきつい言葉の応酬、すれ違い、共闘してはすれ違いを繰り返しながら、どうしても理解できない部分/少しは理解できる部分の境目が曖昧になってゆく。サラ達がレナを嫌うのもわかるのだが、第三者として見ると、確かに彼女は頑なな部分もあるが、ストーリー上悪い時に悪い場所に居合わせたとも言えなくない。そんな彼女が幸せになるラストは、そうならない女性陣が多い中でちょっとほっとする。ブラック&ホワイト (ハーパーBOOKS 115) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 6, 2023
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みなさんこんばんは。自民党議員らによるフランスへの研修が物議を醸しています。エッフェル塔の前で撮影された写真には、松川るい参議院議員など自民党女性局メンバー38人の姿が。SNS上では「観光旅行にしか見えない」などと批判の声が上がっています。1週間カリン・スローター作品を紹介してきましたが今日からウィル・トレントシリーズの紹介になります。罪人のカルマCriminalカリン・スローター田辺千幸 (訳) ハーパーBOOKS冒頭は1974年。ルーシー・ベネットという娼婦が街角に立つ。彼女がそこに立つまでの過程が駆け足で綴られる。ちょっと太めになった体重が気になって、痩せるために友人の家にあった薬を使った。痩せたルーシーは人気者になり、これまでの友人とは合わなくなった。次第に薬にはまったルーシーは学業も疎かになり、やがて薬の売人と出来てしまい家出。そこからの転落はもっと早かった。男とつきあっては捨てられ、ますます薬への依存は深くなる。家族との縁が完全に切れた頃、彼女の前に一人の男が現れる。「君を救いたい」ところが彼は救世主ではなかった。 一方現在パート。女子大生の失踪事件が発生するが、ウィルはなぜか捜査から外される。過去を語らなかったウィルが、ようやく自分のいた養護施設にサラを案内し、二人の心が近づいたと思ったその時、アマンダが現れる。そして殺人で無期懲役だったウィルの父親が何故か仮釈放される。発見された女子大生には拷問の跡があり、かつてのウィルの父親の手口と酷似していた。 現代パートと過去パートが交錯して描かれる。若きアマンダとイヴリンの出会いが描かれる。まだ女性差別が色濃く残る警察では、彼女達は大した仕事を与えられていない。ましてやアマンダは父親が警察の要職にあり、完全にお嬢さん扱いだ。周囲に気を使っていたアマンダが、イヴリンとの出会いで積極的になり、彼女の義兄と運命的な出会いをする。二人は娼婦殺人事件に取り組むが、彼女達を阻むのは男性の差別主義だけではなかった。 現在パートのアマンダとイヴリンの共闘は『血のペナルティ』で描かれるが、その強い絆がどこから来たかは本編で明かされる。ラスト、わずかな登場ながらウィルの妻アンジーも存在感を放つ。罪人のカルマ (ハーパーBOOKS 90) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 5, 2023
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みなさんこんばんは。中古車販売大手のビッグモーター(東京都港区)が自動車保険の保険金を水増し請求していた問題で、兼重宏行社長ら経営陣が、不正に関する内部告発を受けながら放置していた疑いがあることが分かりました。今日もカリン・スローター作品を紹介します。グッド・ドーター (上・下)The Good Daughterカリン・スローターハーパーBOOKS田辺千幸訳誰もやりたがらない人物の弁護をする弁護士の父親ラスティ・クインは、黒人の殺人事件容疑者が無罪放免になった時に家を焼かれてしまう。放火と思われたが捜査も積極的には行われない。ラスティの娘たち、サマンサ(愛称サム)とシャーロット(愛称チャーリー)、は両親と共に引っ越しする。数日後、二人組の男が家を襲い、母親を射殺。サマンサは両目に傷を負い、銃で頭を撃たれて生き埋めにされる。サマンサは奇跡的に助かったが、重い後遺症が残り、辛くも逃げ延びたシャーロットは罪悪感から抜け出せなかった。サマンサは父を恨み、シャーロットは父の期待通りの良い娘(原題)たらんとした。 28年後父と同じ弁護士になった次女シャーロットは、検事補の夫ベンとの夫婦仲も暗礁に乗り上げ、後悔を抱えながらも前に進んでいた。だが、地元中学校で起きた銃乱射事件が、封印した過去を呼び戻す。この町で弁護を引き受けるのは、やはり萬厄介事を引き受ける父しかいない。だが、その父も何者かに刺されてしまい、シャーロットは疎遠だった姉を呼び戻す。 毎回カリン・スローターは掴みがうまいという話をするが、今回も同様。暴漢たち(名前は読者にはバレている)の残された娘に対する行為-特にサマンサに対する-は、想像力が豊かな者ほど辛いだろう。それをご丁寧にシャーロットサイド/サマンササイドで繰り返してくれる著者の親切さよ。『偽りの眼 上』といい、スローターは姉妹の葛藤ものが好きなのか。女性の方が思う存分感情を吐き出すからか。 生き延びたにせよシャーロットの心の傷は深く、最初の事件の前に、そうとは知らずイケメンと寝た過去が夫や父に知れ渡ってしまう気まずさったらない。彼女の傷の原因は下巻で明らかにされ、十分納得できる内容だが、自分を傷つけることで苦しみから逃れようとする彼女の人生が辛い。だからこそ、何を知ってもシャーロットを支えるベンのファンが多いのも頷ける。心身ともに傷を負ったにもかかわらず、真っ当な結婚生活を送り、ザ・長女らしさを示すサマンサ。最後まで読むと、“生ける三人”を支配していたのは”死せる一人”だったことがわかる。グッド・ドーター 上 (ハーパーBOOKS 142) [ カリン・スローター ]グッド・ドーター 下 (ハーパーBOOKS 143) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 4, 2023
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みなさんこんばんは。環太平洋連携協定(TPP)に加盟する日本など11カ国はニュージーランド・オークランドでの閣僚級会合で、英国の新規加盟を正式に承認しました。TPPは12カ国体制となりました。協定が2018年に発効して以来、加盟国が増えたのは初めてになります。今日もカリン・スローター作品を紹介します。今日はアンディシリーズ第二弾です。忘れられた少女(上下)Girl,forgottenカリン・スローターハーパーBOOKS警察署通信係だったアンディが警官だと勘違いされ強盗に刃物を突き付けられた時、平凡な母が取った意外な行動から過去を知る『彼女のかけら 』続編。 母というより父の過去が原因で、現在の職業を選んだアンディことアンドレア・オリヴァーは訓練センターを卒業し、連邦保安局の新米保安官補に。初任務は殺害予告を受け取った判事エスターの身辺警護。判事がいるのは忌まわしき父の故郷であり、判事の娘エミリーは38年前、父親不明の子を妊娠して殺害されていた。警護任務と並行して、アンドレアはエミリーの事件を調べ始める。仮釈放のための聴聞会が迫る父を二度と檻から出さないためだ。実はエミリーの相手と思われる男性の一人が父だったらしい。 エミリーの過去パートと、アンディの現在パートが、いずれも三人称で交錯して描かれる。ある時まではクラスで人気者集団(結社と呼んでいる)の一員だったエミリー。しかし、ある事実が知られた途端に、友達と信じていた人達からも軽蔑され仲間外れにされる。家族は大学を辞めてある事を終えてから再度学べばいいと言い、今のエミリーの気持ちを理解してくれない。家族の中で唯一の女性である母親でさえも、自分のキャリアばかり気にしている。皮肉な事に、全てからそっぽを向かれた時初めて、おバカ娘だったエミリーは賢くなる。下巻で、ある人物に熱く語るエミリーは、上巻とは別人のようだ。 本編にはもう一人の母親ローラが登場し、娘よりもキャリアの方が大事なエスターとの対比が鮮明である。キャリアでは比べ物にならないが、娘への愛情では負けていない。危険な父親の事を誰よりも知っている母は、娘が危険な任務に就くことを嫌う。一方で娘は母を気遣いながらも本当の事が言えない。上巻はこのあたりの母娘のすれ違いが描かれ、下巻で和解に至る。アンドレアの中では、個人的には危険な父が事件の容疑者であって欲しい思いと、捜査官としては真摯かつ丁寧な捜査によって導き出される真犯人を見つけたいという信念がせめぎあう。何かと訳ありの父だから、今後も同様の事態は出てくるはずだ。別れた元カレとの仲も気になる。 エンディングから、この流れは絶対続編ありとみた。忘れられた少女 上 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H185) [ カリン・スローター ]忘れられた少女 下 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H186) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 3, 2023
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みなさんこんばんは。マイナンバーカードを使ってコンビニなどで証明書を交付するサービスで、全国の自治体で点検を済ませたにもかかわらず再びトラブルが見つかった問題で、システムを運営する富士通は、原因について「品質管理のマネジメントの仕組みが不十分だった」と説明しました。今日から1週間カリン・スローター作品を紹介します。まずは過去を持つ母親がいるアンディシリーズから。彼女のかけら 上下Piece of Herカリン・スローターハーパーBOOKS「ずっと信じていたー真剣に、確たる実感を持って‐世界を変える唯一の方法は、破壊することだと。」 冒頭に掲げられた文言を言った女性は誰?という謎を提示しつつ、これもカリン・スローター定番の衝撃的な掴みシーンに入る。 田舎町のショッピングモールでアンディが母ローラと話をしている。母ローラの癌闘病のために故郷に戻ってきたアンディは、警察署通信係として働いている。しかしローラはアンディに、母親のために犠牲になるのではなく、本当に自分のやりたい事をして欲しいと訴える。そんな時銃乱射事件が発生し、偶然居合わせた警察署通信係のアンディは銃口を突きつけられる。制服のために警官だと思われたのだ。震える彼女の前に立ちはだかったのは、母のローラ。彼女は犯人の少年が差し出すナイフを手に突き通し(うわ!痛そー)相手の喉を掻き切る。 母、手を刺されているのになぜそんなに冷静に人を殺せるの?呆然自失のアンディは、自分の見た事が幻だったのでは?と疑うが、母の映像が拡散されてしまう。まあこの辺りはいかにも現代的。警官はアンディなら知っているだろうとじわじわと尋問モードに入るが、彼女にもわからない。まるっきり、初めてみる母だ。 母とじっくり話す間もないうちに、何者かが自宅に侵入し、はずみでアンディは男を殺してしまう。アンディは母の言う通り貸倉庫に逃げるが、そこには逃走用の車と大量の札束、偽の運転免許証が用意されていた。母親は政府の諜報員か、殺し屋なのか。噓のかけらを集めた時、驚愕の真実が明らかに! 邦題の彼女とはヒロイン・アンディではなく母ローラのことだ。といいつつ、途中から1986年の富豪の娘ジェインのエピソードが登場。彼女は何食わぬ顔をして女性テロリストを会場に招き入れるがその際に彼女から「あなたは素晴らしい」と声をかけられ、信念が揺らぐ。実は彼女は恋人ニックに半ば操られて過激な行動に参加していたのだ。この「女性を操ろうとする=洗脳する男性」パターンは「罪人のカルマ」にも登場。スローターは姉妹もので女性同士の確執を描いてきたが、今回は確執になる前に娘が逃亡生活を強いられる。ネトフリ版では母親の“現在”が補完されているが、それがなくとも明らかに母>娘に重点が置かれている。むしろ、ダブルヒロインとしてはアンディの陰が薄く、もどかしいという声も。彼女のかけら 上 (ハーパーBOOKS 100) [ カリン・スローター ]彼女のかけら 下 (ハーパーBOOKS 101) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
August 2, 2023
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みなさんこんばんは。サッカー女子のワールドカップで日本が決勝トーナメントに進みましたね。今日は3代続いた葬儀社の女性達が主人公のミステリを紹介します。ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たちA Dark Matter ダグ・ジョンストン小学館文庫「父を焼くには思ったより時間がかかった」思わずぎょっとする。大丈夫。犯罪ではない。仕事だ。 まるでバーベキューみたいに人間を焼くシーンから本編が始まり、結構長い。ちなみに、海外だからバーベキューみたいに焼いてよいわけではない。違法であるが、遺族にそれができるのは、彼等自身が葬儀社であり、故人が「形式的なことに飽き飽きしてた。式とか礼拝とかに」故である。亡くなったのはエディンバラで創業。100年続き、10年前からはなぜか探偵業も始めたスケルフ葬儀社社長ジム。彼を見送るのは妻ドロシー、バツイチの娘ジェニー、孫娘で大学生のハナ。 他の従業員は母親を亡くし、コタール症候群を患っているアーチ―と、両親が事故死して身寄りのないインディ。インディはハナの恋人でもある。コタール症候群なんて聞いたことないと思ってググったら本当にあった。 ドロシーは、別の女性への不思議な支払いを発見し、ジムが彼女が思っていた夫ではなかった事にショックを受ける。ハンナの親友メルは大学から姿を消し、ジェニーが引き受けた単純な浮気調査事件は、意外な副産物を生む。ドロシー、ジェニー、ハナの章に分かれて物語は進み、ボリュームも等分だが、やはりメインは三世代の要ジェニーだろう。記事を書いていたがあっという間に失職し「家業でも手伝うか」と思っていたらもう一つの家業もやや強引に引き継がされる。それにしても探偵にしても葬儀社にしても適性があるのに一切無視。探偵なんて尾行やら調査やらコネクションやら一から築いていくのは大変なのに。女性たちが家長の死という悲しみを受け入れる一方で、初めて向き合った二つの家業にいそしむうちに、家族の秘密が明らかに。 若きジェニーとハナはかなり強引な調査をする。怖い者知らずと言えなくもないが、相手にとっては傍迷惑であったり、犯罪すれすれの行為も。まあメンバーのなかに警察官がいるので、先々押さえになってくれるだろう。 混乱に陥った家族のダークで面白くて暖かい要素のある家族の肖像『ダークマター』は現在四作目まで刊行。 ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち [ ダグ・ジョンストン ]楽天ブックス
July 29, 2023
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みなさんこんばんは。ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長による性加害問題で、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が今月下旬に来日し、被害を訴える当事者への聞き取り調査に乗り出すことが関係者らへの取材で分かりました。今日はドイツのミステリを紹介します。急斜面Schwarzepisteアンドレアス・フェーア 酒寄 進一 (訳)小学館文庫いや、何より前に、何をやってるのクロイトナー?『羊の頭』で賭けで酷い目にあったというのに、またもや賭けトランプで、身ぐるみはがれてしまう。懲りないね。それにしてもお友達よ、制服分捕るのは嫌がらせだよね?だってJKのではなく、警官の制服って売れる?それも今さっきまで着てたような奴だよ、匂うよ?さて寒い中パンツいっちょ(怪しい、この後どんどん脱がされる!)で放り出されたクロイトナーは、立ち寄り先の農婦から秋波を送られるわ、別の家の夫からヘンタイ扱いされて殴られそうになるわ(これは殴る側を理解できる!)、這う這うの体で逃げ、やっと鋭い観察眼で活路を見出す。 それから三年後に物語は飛ぶ。ここでもやはり警官にも関わらず違法を覚悟で叔父の遺灰を撒くべく、クロイトナースキーシーズンのヴァルベルク山へ登る。山頂近くのレストランでベジタリアンを自称するダニエラという女と出会い、その後二人はスキーを履いてともに下山することになった。上級コースを滑り降りてしばらく経つと、月を雲が覆い隠し、辺りが闇に包まれた。ををいい雰囲気?となるかと思いきや、クロイトナー、彼女を泣かせてしまう。ゲレンデを外れた二人はやがて夏のハイキングコースに迷い込み、雪の積もったベンチを見つける。そこに雪だるまが座っていた。しかし雪だるまと思ったそれは、死体だった。 死体とクロイトナーの同伴女性が姉妹だったのは、偶然にしては出来過ぎている。しかしクロイトナー、そちらには関心が向かず、むしろ事件遭遇率が高いので「死体のレーオ」と呼ばれていると知り、あろうことかその二つ名を気に入って、死体発見ツアーまでやる。そして案内した相手を置き去りにする(どちらも、良い子も良い警官も良い人もマネしないように)。 困った困った、このシリーズはいつからコメディになったのだ?もう一人の寒がりヴァルナ―がんばれ!と思いきや、ヴァルナ―は子守をしたがる祖父を「いやそれは危ないから」という本心を言わずにどう止めるかに腐心。さあ救世主は誰?急斜面 [ アンドレアス・フェーア ]楽天ブックス
July 22, 2023
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みなさんこんばんは。 東京新宿区などにまたがる明治神宮外苑の再開発について東京都の審議会で樹木の保全のあり方について議論が続くなか、神宮第二球場の解体工事にあわせ、樹木の伐採が始まることが新宿区への取材でわかりました。今日もアン・クリーヴス作品を紹介します。新シリーズが始まりました。哀惜The Long Callハヤカワ・ミステリ文庫アン・クリーヴス 巻頭に舞台となる場所の地図が書いてある。しかし狭い場所ことなので、正直あまり必要性を感じない。おまけにイルフラクームがイルフラワームと誤記されている。 アン・クリーヴスの新シリーズ第1巻。冒頭はバーンスタブル署のマシュー・ヴェンが、父の葬儀に出向きながら、結局父を見ることなく帰ってくる場面。彼は複合施設ウッドヤードセンターの所長を務めるジョナサン・チャーチという男性のパートナーと暮らしており、母親とは疎遠。性的嗜好が親との疎遠の原因ではない。もっと若い頃に教会と決別しており、熱心な信者である両親とはその時以来疎遠になった。 今回の被害者はウッドヤードセンターにボランティアコックとして通っていたサイモン・ウォールデンだ。勢いジョナサンも内部情報を知る者として事件に関わることになり、マシューもどの程度踏み込むか様子を見ながら慎重に捜査を進めていく。 マシューにはシングルマザーのジェンと父親の縁で酔いどれ主任警部のお気に入りロスという二人の部下がいる。ジェンはロスをライバル視しているが、ロスはそれほど意識していない。捜査スタッフの紹介、マシューのバックグラウンドを紹介しつつ、メインの謎をそろそろと解いていく。同著者のヴェラ・スタンホープと違って、アン・クリーヴスの男性主人公はおしなべておとなしい。哀惜 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 17, 2023
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みなさんこんばんは。福島県の北部にある全国有数の果樹産地で、農家が桃を皇室に「献上」したところ、宮内庁から「お礼の木札」が届いた。そんな情報を発端に記者が取材を進めると、「宮内庁関係者」だと名乗る男性に行き当たったそうです。皇室詐欺事件と言われています。今日もアン・クリーヴス作品を紹介します。炎の爪痕Wild Fire (創元推理文庫)アン・クリーヴスペレス警部の自宅を訪れたのは、シェトランド本島に一家で移住してきたヘレナ。彼女は前の持ち主が納屋で自殺して以降、何者かが家に侵入して謎めいた紙片を残していくことに悩まされていた。その納屋で、今度は近所の家の子守りが死体で見つかり、ペレスが捜査担当者となるのだが。 シリーズ最終巻というわけで、ペレスとサンディに幸せが。とはいえペレスには元婚約者との間に後見者指定された娘キャシーとその実父ダンカンがいて、愛するあの人との結婚にすんなりたどり着けない。というか、大人達キャシーを軽く扱いすぎだな。彼女の意向を先に聞こうよ。 メインの事件は連続殺人。この動機はアイルランドものによく出てくる。ご近所さんなら子供時代まで何でも知っている世間が狭いシェトランドで、ターゲットになるのは目立つ新入りというわけで、事件現場となった家の妻ヘレナがターゲットに。人気ファッションデザイナーのヘレナの息子クリストファーは、周囲とうまくコミュニケーションが取れず、変な子扱いされている。夫ダニエルは泣くばかりで当てにならず、ヘレナがペレスにちょっとよろめく場面も!しかしペレスは全くよろめく気配なし。そこはいいんだが、最後の決断に至る過程が結構はしょったなという印象で、「えええいつからあなたそんな事を!」とちょっとびっくり。炎の爪痕 (創元推理文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 16, 2023
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みなさんこんばんは。「血と暴力の国」や「ザ・ロード」を執筆し、ピュリツァー賞も受賞した米小説家コーマック・マッカーシー氏が西部ニューメキシコ州サンタフェの自宅で亡くなりました。今日から3日間アン・クリーヴス作品を紹介します。白夜に惑う夏White Nightsアン・クリーヴス創元推理文庫シェトランド島に夏がやってきた。観光客の一団が押し寄せ、人びとを浮き足立たせる白夜の季節が。前作『大鴉の啼く冬』で知りあった画家のフラン・ハンターと地元警察のペレス警部は、フランが有名画家のベラ・シンクレアと開いた絵画展初日の夜、絵を前にして泣くひとりの男と出会う。ペレス警部に、自分は記憶喪失らしいと打ち明けた男は、その翌日、近くの桟橋にある漁師小屋で、首吊り死体となって発見された。なぜか、道化師の仮面を顔にかぶった姿で。身元不明の男を、だれがなぜ殺したのか。 新シリーズは開発という名のもとに外から島に入って来る人とのせめぎ合いがメインテーマだったが、旧シリーズはクローズド・サークルミステリー。今回も、事件の起きた小集落ビディスタの、少人数ゆえの緊密な人間関係が肝であり、昔からよく知っていると思っていた人達の秘密が次々に明かされる。 付き合い始めたばかりのペレスとフランがなんとも初々しい。「泊まっていったら車が誰かに見られるんじゃないか」とか「キャシーはどう思ってるんだろう」とかめちゃくちゃいろんな所に気を遣いまくりつつも、嬉しさを隠し切れない様子が窺える(君ら少年少女か)。何だか隣近所の恋愛をのぞき見しているようで、こっぱずかしい。また、新シリーズラストを読んでいる方は、「この時は“キャシーもいてこそいい関係が保たれる”みたいな事を言っていたのに!」とペレスの心変わりにプチおこモードにならぬようご用心。 肝心の事件については、検死の結果、他殺と判定された男の正体と加害者を突き止めるため、ペレス警部はイギリス本土から再度島を訪れたテイラー主任警部とともに、捜査にあたる。都会派テイラーが、ペレスの何とものんびりした島民への尋問にイライラする場面が度々出てきて笑える。性格の異なるバディが事件を解決するのは王道だが、第一作当初は二人のバディも考えていたんだろうか。白夜に惑う夏 (創元推理文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 15, 2023
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