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April 6, 2023
カテゴリ： 海外の絵本・童話・児童書・ティーンズ小説
みなさんこんばんは。ボクシングの村田選手が引退を発表しましたね。
今日も韓国の小説を紹介します。
ユ・ウォン
ぺク・オニュ著
吉原育子訳
祥伝社
十八歳のユ・ウォンは十二年前のマンション火災事故の奇跡の生存者として有名な女子高生だった。ユ・ウォンの姉は、幼い妹を布団で巻いて十一階から投げ落とした後、帰らぬ人となった。地上で彼女を受け止めたおじさんは、足に重い障害を負った。ユ・ウォンは奇跡の象徴として、おじさんは英雄として、一躍、時の人となった。
あれから十二年。いまだに世間は「あの事件の子」という眼差しで彼女を見る。姉は神格化され「英雄」のおじさんは家をたびたび訪ねてきてはお金を無心する。そんななか、ユ・ウォンは同じ高校に通うスヒョンと知り合う。自分とは正反対のスヒョンに影響され、初めて他人に心を開いていくが。
「ごめんなさい。そう思いながら、私は目を覚ました。」
ほら、もう最初から違うのだ。どこの誰が、目覚めた時から、どこの誰とも知らない相手に謝ったりする？ウォンはするのだ。災害や事故などで九死に一生を得た人が、自分が生き残ったことに対して抱く罪悪感、「サイバーズ・ギルト」。ある時から、ウォンは罪悪感と共に生きている。自分が忘れようとしても、周囲が忘れさせてくれない。奇跡のように生きているあなたは、周囲に感謝し、幸せな生活を送るのが“当たり前”だ。「私を苦しめたのは善意」という帯の文言が秀逸。悪意ならばはっきりと反論できるが、善意には反論できない。しようがない。では誰が悪いのか？
ウォンは、友達や将来すら自由に選べない。姉が望む＝ウォンという語源でつけた名前なのに、名前とは裏腹に、望む以前に望むことすら許されていないと感じる。将来についても、自分を助け障害を負ったおじさんのために、看護の仕事につくべきではないかと悩む。あらゆるコンテストに応募して賞を取りまくるのも、周囲の目を意識してのことだ。声をかけてくれる友達も、残らず事件を知っているため、自分を哀れんで近寄ってくれているだけだという疑いが消えない。自分個人として見て欲しいというウォンの願いは、残念ながら叶わない。だから姉を実際に知らないスヒョンとその弟ジョンヒョンと出会い、やっと思っていることを吐き出せるようになっていく。両親すら、死んだ姉を憚ってウォンを愛することにためらう中で、大人の手を借りることなく、友人との出会いを通して見えない荷物を下ろしていくウォンの成長を瑞々しく描いた佳作。根っからの悪人を敢えて作らない所が良い。
チャンビ青少年文学賞」受賞作。
ユ・ウォン [ ぺク・オニュ著 吉原育子訳 ] 楽天ブックス
今日も韓国の小説を紹介します。
ユ・ウォン
ぺク・オニュ著
吉原育子訳
祥伝社
十八歳のユ・ウォンは十二年前のマンション火災事故の奇跡の生存者として有名な女子高生だった。ユ・ウォンの姉は、幼い妹を布団で巻いて十一階から投げ落とした後、帰らぬ人となった。地上で彼女を受け止めたおじさんは、足に重い障害を負った。ユ・ウォンは奇跡の象徴として、おじさんは英雄として、一躍、時の人となった。
あれから十二年。いまだに世間は「あの事件の子」という眼差しで彼女を見る。姉は神格化され「英雄」のおじさんは家をたびたび訪ねてきてはお金を無心する。そんななか、ユ・ウォンは同じ高校に通うスヒョンと知り合う。自分とは正反対のスヒョンに影響され、初めて他人に心を開いていくが。
「ごめんなさい。そう思いながら、私は目を覚ました。」
ほら、もう最初から違うのだ。どこの誰が、目覚めた時から、どこの誰とも知らない相手に謝ったりする？ウォンはするのだ。災害や事故などで九死に一生を得た人が、自分が生き残ったことに対して抱く罪悪感、「サイバーズ・ギルト」。ある時から、ウォンは罪悪感と共に生きている。自分が忘れようとしても、周囲が忘れさせてくれない。奇跡のように生きているあなたは、周囲に感謝し、幸せな生活を送るのが“当たり前”だ。「私を苦しめたのは善意」という帯の文言が秀逸。悪意ならばはっきりと反論できるが、善意には反論できない。しようがない。では誰が悪いのか？
ウォンは、友達や将来すら自由に選べない。姉が望む＝ウォンという語源でつけた名前なのに、名前とは裏腹に、望む以前に望むことすら許されていないと感じる。将来についても、自分を助け障害を負ったおじさんのために、看護の仕事につくべきではないかと悩む。あらゆるコンテストに応募して賞を取りまくるのも、周囲の目を意識してのことだ。声をかけてくれる友達も、残らず事件を知っているため、自分を哀れんで近寄ってくれているだけだという疑いが消えない。自分個人として見て欲しいというウォンの願いは、残念ながら叶わない。だから姉を実際に知らないスヒョンとその弟ジョンヒョンと出会い、やっと思っていることを吐き出せるようになっていく。両親すら、死んだ姉を憚ってウォンを愛することにためらう中で、大人の手を借りることなく、友人との出会いを通して見えない荷物を下ろしていくウォンの成長を瑞々しく描いた佳作。根っからの悪人を敢えて作らない所が良い。
チャンビ青少年文学賞」受賞作。
ユ・ウォン [ ぺク・オニュ著 吉原育子訳 ] 楽天ブックス
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