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July 29, 2024
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みなさんこんばんは。パリオリンピック、体操の男子団体で日本が金メダルを獲得しました。日本のこの種目の金メダルはリオデジャネイロ大会以来、2大会ぶりです。
今日もゾラの小説を紹介します。


パリの胃袋 ゾラ・セレクション2
Le Ventre de Paris
エミール・ゾラ
朝比奈弘治訳
藤原書店

 『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンは、19年の間世間とは離れた場所にいても、社会に順応し市長となった。しかし、誰もが順応できるわけではない。本編の主人公フロランは、できなかった。

 物語は、まさにタイトル通り、野菜を積んだ馬車が、パリの人たちの胃袋を満たす中央市場に向かう所から始まる。そんな車の一つをひいていたフロランスのおかみさんの道をふさいだのは、行き倒れた男フロランだった。おかみさんはフロランを市場まで載せていく。こうして主人公が物語の舞台にやってくる。



 頻繁に強調されるのは、“太っている人は良く、痩せている人はダメ”という評価である。美人設定のリザの容貌は
「けっして太りすぎというわけではなく」
と書いてあるが
「三十歳くらいの成熟した体つきで豊かな胸をしている」
「肩は丸く、胴着ははちきれんばかり」
とある。クニュが再会して最初にフロランにかける言葉も
「ああ!かわいそうに あっちじゃ、立派な体格になることはできなかったようだね…僕のほうは太っちまったよ」

 フロランの父親はプロヴァンス出身、クニュの父親はノルマンディ出身で、ここでも遺伝が関係し、父親の記憶すら定かではないのに、息子たちはそれぞれの父親の気質・体質を受け継いでいた。子供の頃から太っていたクニュは、学校の勉強に身が入らず、叔父の紹介でシャルキュトリで働き、そこで働いていたリザと結婚。結婚生活も商売もうまくいって、ずっと太っている。”こちら側”の人間なのだ。

 対して“あちら側”の、痩せているフロランとクロードは、ダメ人間設定だ。
フロランは、メユーダン婆さんから
「痩せっぽちは信用できない。痩せた男は何をするかわからない。痩せた人間で、いい人に出会ったことなんか一度もありゃしない」

「溢れんばかりの食べ物はみんなブルジョアの奴らが食っちまう」
のである。富の分配がうまくいっていない。石川啄木的心境になった若きフロランは、革命思想に燃え、計画を立てるが、中身は机上の空論だった。
「絶対的な正義と真実を、逃避の場所として求めたのだ。彼が共和主義者になったのはこのころだったが、それは絶望した娘たちが修道院に入るようなものだった。自分の苦痛をいやしてくれるほど穏やかで静けさにみちた共和国はどこにも見つからなかったので、頭のなかでそれを作り上げた。」

 “現実”は不幸だから、”現実”にない共和主義が認められれば、幸せに違いないという発想である。いわれなき罪で投獄されたフロランからすれば、自分の不幸は自分のせいではない。この考えと真っ向から対立するのがリザだ。
「すべての人は食べるために働かなければならず、誰でもみな自分の幸福に責任があり、怠け者を甘やかすのは間違っている。だから不幸な人間は確かにいるが、それは怠け者にとっては当然の報いだというのだ。」



 フロランの共和主義は、後のクロードの幻の女のようなものだ。
クロードはといえば、後の幻の女性探しに繋がるこんな発言もしている。
「夜はほとんど眠れない。どうしても仕上げられないあのいくつもの呪われた習作が、頭のなかを駆けまわるんだ。ぼくにはどうしても完成できない。けっして、けっして終わらないんだ。」
 フロランが教育してやろうと自分たちの集まりに呼んでも、絵のことにしか興味がないという、この頃から芸術馬鹿ではあるが、狂気に走らず、トメの台詞を任されている。

 ところで、では太っている人が幸せなのかといえば、痩せている人の言動が気にかかり、あれこれと詮索しては密告に至る。本当に満たされていれば、他人を羨み、妬む必要はない。というならば、外見が太っている人も、誰ひとり、実のところ、決して満たされてはいないのだ。


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最終更新日  August 27, 2024 10:25:50 PM
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