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主婦は、文通の中で、生業を持ちたいと繰り返していた。夫にもそのことは書いておいた。そのへんのコミュニケーションがないとにらんだからだ。だから、不満が募って文通に走るんだ。それについては、こんな返事が来た。「私は両親が離婚し、小さい頃、田舎に預けられて寂しい思いをしたので、子どものことを考えて、妻には家にいて欲しいと思っています」もっともらしいじゃないか。まあいいや。「で、そういうことは、夫婦で話し合っているんでしょうね」翌日、簡単な返事が来た。「私のメールは、このへんにしておきます」うっ、逃げた(笑)回答もなければ、結局そもそも何を言いたかったのかもわからなかった。やっぱり、こっちから文通をやめると言って欲しかったんだな。ところが案に相違した展開になったので、スゴスゴと逃げたと。おそらく、子育てについての夫婦の会話なんてないんだろうな。くだらない奴だ。一方、主婦の方はこの数日前から、電話をかけてくるようになっていた。メールは夫にのぞかれるからだろう。といっても、午後6時の退社時に数分間なのだが。用件は、「また夫が何かしなかったか」という確認だった。会話のない夫婦はまどろっこしいねえ。悪いけど、夫の奇々怪々な「示威活動」は全部ばらしてやった。1月13日の日記で、夫に内緒事をしたのは大変なことだと主婦を脅かしたことは書いたが、どうやら、そのへんで、気に病んで、彼女は結構やつれてしまったらしい。しかも、夫も「俺はやつれた」と彼女を責めたらしいが、私はそっちは同情しない(笑)そして、この日は、池袋のサンシャインビルで行われている印刷関係の展示会に一緒に行かないか、と誘われた。彼女は派遣先で、そんな仕事をしているらしかった。
2002.01.28
会った感想のメールが来て以来、メールはお休み中だ。会ったから熱がさめたのかも知れない。……と思って油断したとき、メールが入ってきた。といっても、主婦からではない。「はじめまして、私が夫です。いつもお世話になっています」でたーっ!夫からだった。自分で女房にメールを勧めておきながら、いざ、メル友ができると激怒して拷問にはしり住所を調べて女房を送り出そうとしながら、本当に出かけようとすると嫌みを言ってまんじりともせずに心配する。そんなマッチポンプ野郎からとうとうメールが来てしまった。だいたい、こいつと私は何のつながりもないんだから、こうやってメールを出してくるということ自体、自分は女房のアドレス帳をのぞく見下げた出歯亀野郎でございます、と言っているようなもんなんだけどなあ。まあ、いい。くだらないメンツを捨てて、「女房との文通をやめて下さい」と言いたいのかも知れない。やきもちやきのつまらない男だが、そう言われてまで出しゃばろうというほどその主婦と深い絆で結ばれているわけでもない。で、そこにはなんて書いてあったのか。「このたびは、ただ、ただ、ありがとう。そしてすいません。そう言いたい気持ちで一杯です」なんだそりゃ。メールはたったこれだけだった。ははあ、なるほど。要するに、私の方から彼女のメールを断って欲しい、そういうことなんだな。しかし、そういうことなら、ちゃんと言わないのは気にくわない。こういう男は、ホントイライラしてくるね。人にものを頼むときは、もっとまじめにやれ。体面かなんかしらんが、メールまで出してくるんだから、必死なんだろう。だったら、もっと必死になりふり構わずお願いすべきではないのか。私は返信としてこう書いてやった。「こんなこと頼むのも変ですが、お願いですからメールはこのへんでやめてください、と正直に書いてみたらどうなんですか」翌日その返事が来た。なんて書いてあったか。「それは、アナタの勘違いです」再び脱力した。なんなんだこいつ。「私は、ただお礼を言いたかっただけです。いろいろな事に気づき、勉強させられたのです」なんだかサッパリわかんねえよ(笑)主婦は、文通の中で、ライフプランを立てられてかつきちんと稼げるというか、生業を持ちたいと繰り返していた。彼女は派遣社員である。要するに登録制のフリーターだ。夫にもそのことは書いておいた。それについては、こんな返事が来た。「私は両親が離婚し、小さい頃、田舎に預けられて寂しい思いをしたので、子どものことを考えて、妻には家にいて欲しいと思っています」ほう。マイホーム主義なのね。そこで、こう返事を書いてやった。「で、そういうことは、夫婦で話し合っているんでしょうね」
2002.01.26
この日は、親類の結婚式が終わり帰宅。電話を見ると、留守番電話がチカチカいっている。何も言わずに切ったものが10件以上。しかも、バックの音から推理すると、かけているのは2人で、1時間ほどの間に集中している。1人は静かなところ(家の中か)、もう1人は外の公衆電話からかけているようだ。何か、こういうのってちょっと気味悪い。12時をまわり、風呂に入ろうとしたとき、電話が鳴った。そのうちの1人だろう。「もしもし、只野です」「もしもし、ワタシですけど……」何と、主婦からの電話だった。電話番号を教えてから2日あいたし、何より夜遅くだし。意表をつかれたというか、ビックリした。「今、オタクのお近くだと思うのですが、スナックの『ワンフィンガー』でビールを飲んでいました」「何でウチの近くで?」「さきほども電話したんですけど、お留守だったんで、時間つぶしというか、ここで待ってようと思って」声を聞くのは初めてだが、それでも彼女が緊張していることはわかった。「いや、だから何で今頃、私をたずねてくるの?だいたい、何でウチがわかったの?」「……」カラオケでうまく聞き取れない。その店は、たしかに私の家から下駄履きで行ける所だった。私は彼女に、その店を出て、家との中間あたりのところまで出てくるように言い、急いでそこまで迎えに行った。行ってみると、彼女は、電信柱にもたれかかるようにして立っていた。身長は150センチ前半、ヘアスタイルはソバージュで、バツが悪そうにしていた。「なんだい、今回のことで亭主と喧嘩になったのか」「ちょっと……」「まさか。それで飛び出してきたんじゃないだろうな」終電もなくなった時間に人妻が男に会いに来るのは尋常なことではない。「いえ、出てきたのは合意です」「亭主が承知の上で送り出したというのか?」「ええ」それもまたおかしな話だが、飛び出してきたんじゃないと聞いて、こちらとしてはちょっとホッとした。とにかく話を聞こうと、そのまま彼女をファミレスに連れて行った。「どういうことなんだい?」席に着いたところで、改めて彼女に尋ねた。彼女は、頭の中で話すことを整理しているかのように一呼吸おいてから、座り直してこう切り出した。「会いに行けといったのは夫の方です。このままじゃ、納得いかないだろうからと言って」「納得って、実在するかどうかは電話でもわかることだろう。だいたいここまでどうやってきたの」「タクシーで」「住所はどうやって調べた?」「夫が、自分には住所を探せるとっておきの方法があると言って、教えていただいた電話番号からエンジェルラインで住所を逆引きしました」何が「とっておき」なものか。エンジェルラインは「電話番号調べ」であり、そういう使い方は禁じられているはずだぞ。「実在というか、実際に会った方がいいって夫に言われて」「それ、変じゃないの? 夫が止めてもあんたが振り払って来たのならともかく、夫が勧めるなんてあるのか?」「それで私の気が済むならいいそうです。私も夜中になってしまうからまずいんじやないかと言ったのですが、夫の方が、『これだけ大事になって、今更会うのを渋っても白々しい』とか何とか言って、かなり強引に送り出されました。でも、いざ出かけるとなると、いろいろ嫌みを言ってましたけどね」メル友に嫉妬するような小さな人間と思われたくないわけか。「嫌み」を言うということは、自分は送り出したけど、女房が行かない、と突っぱねて欲しかったのかもね。それにしてもなあ、どんな思惑や夫婦間の話し合いがあったか知らないが、夜中に見知らぬ男に会わせるというのはちょっとおかしいぞ。だいいち、そのためならこっちの迷惑を考えなくてもいいのか。「夫の方からも、電話が行っていると思うんですが、来ませんでしたか?」「無言メッセージが何件も入っていたね」「ああ、たぶんそれだと思います」この夫、絶対におかしいね。結局閉店まで話した後、私は自分の車で彼女を送っていくことになった。そのまま帰してもよかったんだが、夜中のタクシーは高いからな。派遣をやってる共働き家庭には気の毒だと思ったし、今回の原因となる人物ということで、道義的責任も感じたわけだ。ああ、そうか。こういう人のいいところがいけないのか。夫はそのとき、一睡もせず彼女を待っていたという。アホか。
2002.01.23
電話番号を教えたが、この日はかかってこなかった。まさか、わざわざ架空や嘘の番号を教えやしまい、と、「私」が実在することを信用したのかもしれない。今度こそ、これで一段落かな。……というわけにはいかなかった。ここで終わったら、この日記も終わっちゃうもんね。そ、今までのはプロローグ。いろいろあるのは、これからなんですよ(苦笑)
2002.01.21
亭主の、主婦に対するチクチク嫌みがひどいらしい。そして、夫婦で共有しているMacintoshのメールソフトから、どうやら文通の中身をのぞいているらしい。私の予想通り、主婦は現在の家庭に不満を持っていたようである。「文通トライアスロン」の中で、ボチボチそれを語り始めていた。たとえば、亭主とは会話がないという。文通についても、嫌なら自分の女房なのだから「止めろ」と一言言えばいいものを、それも言わない(言えない)らしい。では「嫌み」はどうやって言ってるかって?何でも、Macintoshをアップルトークでつなげたり、フロッピーディスクを使ったりして文通しているらしい。なんかこの夫婦、変だぞ。そして、主婦からこの日、質問が来た。私が「実在するのかどうか知りたい」という。亭主は、メールの「私」は、何人かの人間がからかって分担執筆しているに違いないと主婦に吹き込んでいるようだ。「まさか」とは思っても、耳元で繰り返しささやかれると「もしや」という気になるのだろうか。別にそう思われても構わない……というか、そっちの方が本当は気楽でいいのだが、この拷問亭主の嫉妬によるマインドコントロールから出た言葉というのが、何か気にくわない。よし、そういうことなら個人情報、ちょっとだけ教えようじゃないの!私は折り返しのメールで、自分の仕事用の電話番号を記した。「確認したかったらかけてください」
2002.01.18
主婦から返事が来た。何でも、文通の件を話したら夫は激怒し、ファミレスに連れて行かれ、徹夜で飲まさず食わさずでチクチク責められたのだという。しかし、主婦はこう反論している。「そもそも夫は、自分もオフミに出たり、メール友達を見つけたりしたから、私にもすすめたはずなのに、実際に私がメールをはじめると、話が違う……」自分ですすめといて、本当にやったら拷問とはひでえ話だ。おそらくその亭主は、自分の女房をコバカにしていたんだろうな。まさかこいつがメールなんかできないだろうって。たしかにアーカイブした添付ファイルを開けられなかったぐらいだから、パソコンに精通していたわけではないのだろう。しかし、これは女房の人格と人権を愚弄した話だ。飯も食わさない、ねせないんじゃ、これも一種のDVだな。許せないね。続いて送られてきたメールには、彼女の亭主の、私に対する中傷の数々について報告だった。わざわざ報告してくれなくてもいいのに(笑)私は実在しない人物だの、反応を見て楽しんでいるだけだの……なんかくだらない中傷を一杯言われているようである。そして、事あるごとに自分と私を比べるのだそうだ。ばーか、会ってもいない、自分で存在すらも疑っている人物と張り合ったって仕方ないだろうが。「実在しない人物」が「反応を見て楽しんでいるだけ」だと思ってるなら、そこまでムキになって嫉妬するなよ(笑)
2002.01.15
「会いましょう」という趣旨のメールを出した日も、その翌日も返事は来なかった。たぶん、迷っていたのだろう。 そこで私は催促のメールを出した。 本人の顔を見ているわけではないから、別にどうしても会いたいわけではなかったが、だからこそ、会うのか会わないのか、とっととケリをつけたいという気持ちだった。 このまま、目的もなく文通を続けることに、私にはメリットもなかったし、「抜き差しならない」なんていうことを書いてくる熱意が本気かどうかも知りたかった。いや、もっとはっきりいえば、顔も見ないうちからそんなことをシャアシャアと書ける人の顔を見てみたい、という気持ちだった。 まあ、こっちも何通も出したんだ。そういう「お駄賃」ほ欲しがってもいいではないか。 そんなふうに思ったのだが、先方には、何か焦っていると思われたのか、断りのメールが来た。 ちょっとばかり焦りすぎたかな。でも、そういうことならこれっきりだな。 ただ、「抜き差しならない」という表現だけは気になった。そんな言葉を気安く使うなよ、という気持ちはあった。そこで、何か、ちょっと遊ばれたような自尊心を傷つけられたような心境にもなってしまった。 私は、よせばいいのにちょっと捨てぜりふを書いてしまった。「あなたはずるい。いんや、きたない」 すると、今度は一時間後に返事が来た。「きたないなんて、ひどすぎます」 捨てぜりふを書いたら、それが煽りになったようで、それをもとにまたあれこれやりとりがはじまってしまった。 というか、こっちも心のどこかでそれを願っていたのかな。とにかく、百行文通トライアスロンは復活したわけだ(笑) この主婦、もしかしたら夫婦関係とか家庭(嫁姑関係とか)がうまくいってないんじゃないだろうか。 何しろ、派遣社員として朝から夕方まで働き、かつ子どもの面倒と主婦業もやっているのだ。 本当なら、忙しくて顔も知らない人間とメールどころではなかろう。それでも、こんなに熱心にメールが来るんだからね。よし、煽りついでにもうちょっとイジワル書いてみよう。私はそう思った。「あなたは夫に内緒でメールを出してしまった。何もなくてもそれは夫婦の信頼関係を壊したことになる。ルビコン河を渡ってしまったのだ。亭主に話してみるといい」 もちろん、会ったこともない人とのメールのやりとりぐらいで「不貞行為」が問われるはずがない。しかし、田舎臭い主婦をちょっとからかってやれというイタズラ心もあってそこまで書いてしまった。 この、「亭主に話してみるといい」は、後々私自身の大変な苦しみにつながっていくことになる。
2002.01.13
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