全29件 (29件中 1-29件目)
1

添い寝を断った翌朝、不意打ちだったケースケからの2度目の「愛してる」を胸に私は家を出た。大学へ向かう道中ずっと、ケースケからの初めての「愛してる」、を思い出していた。ケースケは、ナギコさんが私の病室を出て行ってから、心配げな顔のまま、私のそばに来た。私が、「ケースケ、ごめんね」、って微笑むと、ケースケもほっとしたように微笑んで、その後で、ちょっと怖い顔になった。けれど、何も言わなかった。(多分、病院でなければ、自殺なんてしようとしたこと、怒鳴りたかったんじゃないかな。)幸い腕のケガも大したことはなく、父の仕事が明けると同時に、退院し、心配そうな父には申し訳なかったけれど、ケースケと一緒にマンションに戻った。もう、私の中に、闇はなかった。ただ、紘人を失ったツラさはまだまだあった。ケースケの、「愛してる」のことについては、どちらからも触れなかった。私は、まだ、とても、そんな気持ちにはなれなかったから、悪いけど、何も言わずに、「保留」させてもらった。ケースケも、多分、私のその気持ちに気づいたんだと思う。そして、それを受け入れてくれたんだと思う。何もなかったように、相変わらず、添い寝を続けてくれた。あれから、もう2年近くが経つんだ。大学に着き、学部の事務室に履修届を出してしまうと、今日の予定は終了。私は、たまには、と思い、自分の所属する軽音楽サークルの部室に向かう。ジュンペーがいたから、お互いの履修科目なんかをのんびり話していると、ケータイの、受信音。ケースケからだった。メールを見てみる。なんだ、今日は遅くなるんだ。「ケースケ?」とジュンペー。「うん、遅くなるんだって」「ふ~ん。女かな?」「まさか」まさか、、だよね?ジュンペーは真剣な顔で私を見て、「ほんと、お前らどうなってんの?」私は曖昧に笑ってごまかす。ごまかすっていうか、自分でもよくわかんない。結局、夜まで、ジュンペーたちといた。音楽の話をしてると、時間がどんだけあっても足りない。みんな、結局、ジュンペーの家に泊まっていくみたいだったけど、私は、帰ることにした。1人、マンションの部屋に帰り、いつもどおり、お風呂に入って、少しお酒を飲む。それから、パソコンの前に座って、小説を書き、ブログに、アップしてから、ベッドに入る。突然、ケースケの添い寝がなくなって(自分で望んだことだけど、)、今日はいきなり、隣の布団にもいなくて、もちろん、今までにも、時々、ケースケが仕事で帰って来れなくて、こんな日もあったけど、サミシイ。ケースケ、どこにいるのかな。。いつもどおり、ただ、遅くなるってだけのメール。ダレといるんだろ?ジュンペーのいう通り、もしかして、女の子?とか考えちゃうと眠れない。まさか、今朝、「愛してる」って言ってくれたばかりで、そんなこと、あるわけないか。これまで気にならなかったことが気になるのはなんで?「愛してる」、か。。私、ケースケとどうしたいんだろう?ケースケに本気で向かってこられたら、なんだかひとたまりもない気がする。だけど、やっぱり、ためらいと、とまどいと、わだかまり、がある。だから、なしくずしな感じでは始まりたくない。「さみしい」なんてメールしたら、ケースケ、どこにいても飛んで帰ってきてくれそうだけど、やっぱり、それは、今このタイミングでは意味を持ちすぎるよね?もやもやとした気持ちの中、例の、「メールするようになった人」にメールしてみる。その人のコードネームはヒイラギ。ミリ→ヒイラギ:夕べは添い寝を断ったよ。ケースケとのこと、しっかり考えてみたいんだ。今日は、ケースケ遅くなるみたい。だから今日も1人で眠ってる。ちょっと、サミシイ。ヒイラギ→ミリ:えらいえらい。眠れないなら、そうだな、自分は、添い寝はしてあげられないけど、ケータイ持って眠ってごらん。よく眠れるよ。言われたとおりにしてみる。私はいつのまにか、眠りに落ちていた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.30
コメント(0)

自宅に帰りつき、俺は、自分の部屋のベッドで、どうしようもなく考えてしまう。あのメール。あ~あ~、なんであんなの見ちゃったのかなあ。考えると全然眠れない。でも、明日も仕事。ひどい顔しては行けない。だから、必死で目をつぶって、ほかの事を考える。良かったこと、考えよう。てか、・・・最近、良かったこと、、なんて、ないよ。ミリの挙動不審に悩まされて、添い寝断られて。。だめだだめだ、眠れないじゃん。あ、一個だけあった。今日、、いや、あれはもう昨日の朝か?美莉を後ろから抱きしめて、「愛してる」って言った。美莉を腕の中に抱きしめて。幸せな瞬間だったな。ミリ、「ドキドキした」って言ってくれたし。俺のこと、ちょっとは、、なんて期待したりしたんだけど。。違ったのかなあ。。俺からミリへ、言葉での「愛してる」は2度目。もう8年近く、愛してきたけど。思い出してみると、確か、最初の「愛してる」も、あの場所で、後ろから美莉を抱きしめて(というか羽交い絞めにして)、だったな。状況は全然違うけど。何より、ミリが違う。自殺なんて事、ミリの中にはもうない。しっかりと前を見ている。ミリが、あんなに元気になっただけでも、俺、添い寝してきた意味あったんだよな?で、結局、それをかっさらわれてんじゃ、話になんないけど。って、また、暗いな。しっかりと、2度目の「愛してる」の瞬間だけを心に思う。腕の中にいるミリを想像する。大好きな大好きなミリ。忘れることも、あきらめることもできなかったミリ。あぁっ、ミリ~、俺、ほんと、お前だけ愛してるんだよ。だけどだけどだけど、ミリが他で幸せを見つけたなら、身を引くべきなのか?謙吾の言うように、絶対手を離さずにいるべきなのかな?そんな風に悩みながら、俺は、いつの間にか眠っていた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.29
コメント(4)

次に気がついたのは、病院のベッドだった。目を開けると、父の顔。もう朝だった。「どうだ?気分は?」優しくたずねる父に、何も言えず、微かにうなずく。父は白衣の手を私の額に置き、髪をかきあげる。「無事で、よかった。」「、、ごめんなさい」「謝らなくていいよ。こうして、生きてるんだから。」涙が一粒流れた。「ケースケくんと、ナギコさんに、ちゃんとお礼をいわなくちゃ、な」「うん」ドアがノックされ、看護士さんが顔を覗かせる。「高崎先生、よろしいですか?」父はそちらに目をやってから、私にもう一度振り向き、「10時まで勤務だから」私が頷くと、「また時間があったらのぞきに来るよ。大丈夫そうなら、一緒に帰ろう」「はい」「ナギコさん、すいませんが、お願いします」と、私からは見えない場所にいるナギコさんに声をかけて立ち去る父。ドアが閉まると、ナギコさんは、部屋の隅から立ち上がって、こちらに近づく。私の顔を覗き込んで、「それにしても、ほんっとに、無茶するお嬢さんね。あなたって」と、微笑みながら言う。「・・・ごめんなさい」「謝る必要なんてないわ。私も油断してたもの。・・・いつから、計画してたの?」私は、正直に、「・・・最初に、思ったのは、ナギコさんに会った日かな。。。」ナギコさんはあきれたように、「なるほどね。ずっと、機会を待ってたわけだ。3ヶ月も。すごいわね」「・・・ケースケも、ナギコさんもガードきついから、なかなかできなくて。。」「あはは、そうよね。まさか、クスリまで使われるとは思わなかったわ」「ほんと、ごめんなさい。体、大丈夫ですか?」「平気よ。私も少し休ませてもらったから」ナギコさんは、立ち上がり、窓辺に立つ。窓が開けられ、勢いよくカーテンがなびく。ナギコさんは、そのきれいな黒髪を風に泳がせながらこちらを向き、言う。「で、・・・気は済んだ?」私は、ゆっくりと目を伏せ、それから、開き、にっこり笑って、ナギコさんを見つめて言う。「はい。あんなにみっともなく失敗して、なんだかヒロトにも、来るなって言われてるような気がする」ナギコさんは満足そうに、「そう。それでいい。あなたらしいわ。これで、ケースケくんも、安心ね。」ケースケ、、。そういえば、あの時、私を愛してるって言ってた?あれは。。夢?私の表情を読んでナギコさんは言う。「ケースケくん、あなたのこと、本当に大切なのね。かわいそうに、これまで随分辛い思いしてきたんじゃないかしら?」「ケースケ、、、あれ、は、夢じゃなかったんだ・・」ぼんやりつぶやく私に、ナギコさんは首を振り、「あなたを愛してるって言ってたわ。わたしも聞いた。多分、きっと、ずっと前から、ね。きっと出会った日から。あの声、あの言い方。あなたは全然気づかなかったの?」私は、思う。まさか。ずっと嫌われていると思っていたのに。力なく、首を振る私に、「彼の気持ちに向き合ってあげなくちゃ、ね。」今は何も考えられない。「今は何も考えられなくても、あなたたち2人には、時間がたくさんある。ケースケくんは、きっと、ゆっくり待っててくれるわ、ミリちゃんのこと。だから、ゆっくり、でも、いつかきっと、・・ね?」私は頷く。ナギコさんは、言葉を切って、「ミリちゃん、いつか、あなたが、誰かとまた、幸せになれる日が来たら、会いましょうね。」「ナギコさん、どこかに行くんですか?」「私はどこにも行かない。でも、あなたには会わない。」「どうして。。?そんなの寂しい。」そう、サミシイ。この数ヶ月、一緒にすごしたことで、私はナギコさんのことをとても好きになっていた。「ありがとう。でも、私があなたのそばにいると、あなたはまた、「ヒロトの闇」の誘惑に負けるかもしれない。私には会わないほうがいいわ。」私には、そんなことない、大丈夫って言い切れるほどの自信はなかった。「大丈夫よ。いつか、またきっと会える。あなたの相手が、ケースケ君なら、また、3人で会えるの楽しみにしてるわ」ドアが開き、ケースケが勢い込んで、入ってきた。「ミリ、気がついたって?」ナギコさんは、「ええ。」と言って、バッグを持ち、「じゃあ、ミリちゃんをよろしくね。」とケースケに声をかけて出て行った。ナギコさんとはあの日以来、本当に会えていない。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.28
コメント(0)

妙な胸騒ぎの元、俺が、見つけてしまったもの、それは、美莉のケータイ電話。もちろんそれ自体は、別に、見たくないものじゃない。ただ。。美莉の寝顔をよく見ようと、少し近づいた時に、ベッドの脇に落ちていたケータイに触れてしまったらしく、ケータイが光を放ち始めた。ったく、なんで、こんなとこに?、と、拾い上げ、閉じて、美莉の枕元に置こうとして、俺は硬直する。その一瞬で、画面が目に入ってしまったから。それは、メールの画面だった。『添い寝はしてあげられないけど、ケータイ持って眠ってごらん。よく眠れるよ。』俺は、ケータイを置いて、手を離すが、見てしまった言葉は脳裏から消えない。頭に血がのぼる。一体、誰だよ、こんなメール。めちゃくちゃ親密じゃないか。メールで言われた通り、ミリはケータイを持って寝たんだろう。だから、こんなところに落ちてたんだ。。あぁぁぁ、うわ~、やっぱ、男だったのか。辛くて、悲しくて、でも、美莉をたたき起こして問い詰めたり、責めたりする権利、俺にはない。だって、ただの添い寝だったんだから。だって、ただの片思いだったんだから。ぐっすり眠ってるミリ。俺が隣にいなくても。美莉の髪に、そっと触れる。どうしようもなくため息が出る。ミリ、このメールの相手のこと、愛してるのか?美莉の気持ちが見えない。こんなに近くにいるのに、すごく遠い。もしも、この相手のことが好きなら、、だったら、、ヒロトの弟、な俺、以外の誰かの方が気楽だよな?ついさっき、美莉の自殺未遂を思い出したことで、ミリが生きる喜びを得られる相手に、ミリがまた愛せる(この言葉、正直、胸が痛いけど)相手に、出会えたなら十分じゃないか、と思ったりもした。その相手、俺じゃないのが、どうにも、情けない、し、心底、辛い、けど。俺は、音を立てないように、そっと立ち上がり、ドアを開け、部屋を出る。ヒロトが首を吊った場所、ミリが失敗した場所に、目をやる。ヒロトだって、これでいいと思ってるだろ?ミリは誰かを見つけたんだ。俺は首を振ってから、マンションを出る。夜道を実家に向かいながら思う。悠斗、謙吾、せっかく励ましてもらったけど、やっぱり俺、また、美莉をあきらめなくちゃならないみたいだよ。←クリックしていただけると嬉しいです。
2008.04.27
コメント(2)

闇の中、突然響いたケースケの声に心底、驚いた。で、一瞬何が起こったのか分からなかった。とにかく、体が痛かった。あれだけ、確認したのに、ロープがほどけてしまったらしい。。なんで?私は、みっともなく落下して、頭と体をしたたか床に打ち付けていた。いった~い。ありえない~っ。とにかく、痛みに顔をしかめ、目が開けられない。気がついたら、ケースケが駆け寄ってきて、体をゆすっていた。「ミリ、おい、大丈夫か?どこ打ったんだ?どこが痛い?」ちょ、だから、痛いって、ゆすらないで、そこが痛いンだってば、って思っても声にならない。騒ぎを聞きつけて目が覚めたらしい、ナギコさんが、出てくる。「一体、どうしたの・・・?」ぼんやりとたずねる声に、ケースケは、心底、怒り狂った声で、「ナギコ、おまえっ、一体、ミリに何を見せたんだっ?!」「・・・ちょっと、大きな声出さないで、、頭痛い」弱弱しい声のナギコさん。「何を見せたって聞いてるんだ」「分からない。。多分、私、ミリちゃんが何か、、クスリを」ケースケの手から力が抜ける。「ミリが、自分から・・・ってこと?」「多分ね」「だけど、お前、油断しすぎだろ?そんな簡単に」ナギコさんが悪いんじゃない。。私は、目を開け、起き上がろうとして、激痛が走る。「っつっ。。」「おい、ミリ、どした??どこが痛いンだ?」「もう、ケー、スケ、、、ゆすらないで、痛いんだから」ケースケはほっとしたように、「よかった、話せるんだな?」「話せるよ。。。」顔をしかめる私に、「どこが痛いんだ?」「腕」ケースケがそっと触れると、私は、痛みに顔をゆがめる。「病院いこ。お父さん、今日は夜勤か?」「知らない。。でも、お父さんの病院はヤダ」「なんで?」「・・・。」心配かけるし、怒られるし。ケースケは察したように、「隠し切れないって。救急で行く必要なさそうだし、お父さんの病院で診てもらうのが安心だよ。俺、電話してみるから、待ってろ」ケースケが私のそばを離れる。私は、ベランダの窓をそっと見た。ここは、7階。。。ナギコさんから受け取ったヒロトの闇は、まだ、私の中にたっぷりあった。私は、そっと2人の様子に目をうつす。ナギコさんはまだクスリが効いているみたいで、俯いて頭を抑えている。ケースケは、私からかなり離れている。だけど、、2人の目の前で・・・?ごめんね、ケースケ、ナギコさん。それでも、自分の中の闇にある、死の衝動に突き動かされ、私は、ベランダに向かって走った。窓を開け、手すりを乗り越えようとした時に、腕に激痛。「ミリ!」後ろから、ケースケに、すごい力で抱きとめられる。「バカ、何やってんだよ。」腕の痛みよりも、抱きしめられる力の強さに驚く。慶介は力を緩めることなく、「死んだりしちゃだめだ。」と声をしぼって言う。「いやっ、離して。私、ヒロトのとこに行くんだから。」もがいてみたって、到底、敵うはずもなく。「だめだっ」「なんで?ケースケに、関係ないじゃん。ヒロトに会って謝るんだもん。私こそごめんねって。それから、ずっと一緒にいるんだもんっ」「そんなことしたって、ヒロトは喜ばない。・・死なないでくれ。俺、ミリを愛してんだ。ずっとずっとスキだったんだよ。だから、死なないでくれよ。頼む」ケースケの必死の声。愛・・・し・て?・・・なに??一瞬気が遠くなる。ふと気づけば、私の両手を掴んでいる、ナギコさん。不思議と触れられていることでの痛みはない。そして、「吸収」されていく、ヒロトの闇。すこしずつ治まっていく高ぶった気持ち。しばらくたって、私から離れたナギコさんは、私に静かに頷いてから、「ケガまでは治せないけど、もう、死のうとはしないはずよ」と、ケースケに向いて言った。闇を取り払われ、正気に戻った私。「ナギコ、、さん、私、、、ごめんなさい」「いいのよ」と、にっこり笑うナギコさん。その様子を見て、ケースケは再び、今度は私を離さないまま、父に電話をかけ始める。私は、今起こった感情の起伏に、耐え切れず、また、気を失っていた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.26
コメント(2)

あの日、俺が、ミリを助けられたのは、ほとんど偶然だった。地方のロケが、現地悪天候で中止になり、飛行機に乗らずに、突然、スケジュールの空いたみんなで、飲みにいった。最終的には、そのうちの1人の家で、雑魚寝って感じになった。随分飲んでいたし、ヒロトが死んでからこっちの寝不足のおかげで、強烈に眠かったし、もちろん、地方で泊まりの予定で帰れないって事で、ミリにはナギコをつけておいたから、俺も、そのまま泊まってもよかったんだ。ただ、何かが、俺を呼んだ。強烈な胸騒ぎが俺を襲った。だから、俺は、突然立ち上がり、驚くみんなにロクに説明もせず、慌ててその部屋を飛び出した。タクシーに乗り、ジリジリとしながら、マンションに向かう。ナギコに何度か電話するが、出ない。ミリにも電話するが、電源が切られている。俺は、恐ろしいほど嫌な汗をかいて、やっと部屋にたどり着く。そして、ドアを開けたときに見えたのは。今、まさに、輪にしたロープに首を突っ込もうとしている、ミリだった。「ミリ!よせっ」信じられないほど、切迫した声が自分の喉から吐き出される。ミリは、驚いた拍子に、あろうことか、バランスを崩し、イスを蹴ってしまう。俺は、それこそ心臓が止まりそうになる。ミリの首がロープにかかり、体が吊られる。信じられないほど長く感じた一瞬。・・・で、その後、何が起こったかって?・・・落ちたんだよ、ミリのヤツ。ロープごと床に。・・・・ロープくらい、ちゃんと結べないわけ?って、つい、思っちゃったよ、俺。そこまで、思い出して、なんだか、ふっと笑ってしまう。いや、もちろん、決して、笑い事なんかじゃなかったし、その後、ミリが、落ち着くまで、大変だったんだけど、それでも、やっぱり。そんな、遠い日のミリの自殺未遂。あの日ほど強烈ではないけれど、やっぱり重なる胸騒ぎ。俺はまさか、と思いながらも焦って、部屋に入った。静かに、でも、相当慌てて、寝室に向かう。そして、ベッドの中に、ミリの安らかな寝顔を見つけてほっと息をつく。だけど、ほっとしたのもつかの間だった。その後で、俺は、やっぱり、見たくないものを見てしまったんだ。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.25
コメント(4)

ヒロトが死んで2週間が経った頃、ナギコさんに出会い、ヒロトの死の意味を知った。ヒロトの闇に触れた。あの日から、私は変わった。ヒロトの死から、ただ、呆然と生きていた私。そんな私に、ひとつの目的ができた。それは、ヒロトのそばにいくこと。ヒロトがいなくなってから、私は、ただ、何も考えられなくて、後を追う、なんてことすら、思いもつかなかった。だけど、もしかして、後を追うってある意味自然だよね?って、思う。とても愛していたヒロトを自殺で喪って、自分もそうしたいって。それまでそう思わなかったのが、かえって不思議に思えた。だけど、なかなか実行できなかった。いつもそばに慶介がいたから。慶介が仕事でいない日は、凪子さんがいたから。あるいは、2人とも、が、そばにいたから。布団を2組並べ、3人で川の字で寝たこともある。奇妙な3人の関係。多分、、ふたりで、私から目を離さないって約束をしたんだろうな、と思う。特に、ヒロトが死んだ真夜中は。だから、なかなか実行できなかった。第一、私は、ほんと、能天気な人間で、正直、自殺には向いていなかった。すぐに、思いとどまっちゃって。どこまでも、まとも、で、どこまでも、前向き、な、自分が、うらめしかった。だけど、それでも、、ナギコさんが、時々、渋々見せてくれた、ヒロトの闇に触れるたび、一番、「死」に近づけた。だから、私は、待っていた。ケースケがいない日を。ナギコさんと2人になれる日を。そして、ヒロトの死から3ヶ月経ち、やっと訪れたその日。私は、ナギコさんの飲むワインに、一粒、クスリをいれた。市販薬だし、別にやばくない、でも、お酒と飲むと、ちょっとハイになっちゃうって注意書きのクスリ。機嫌がよくなったナギコさんに、私は、ねだった。いつもより、多くの闇を見せてくれるように。そして、私は見た。ヒロトの闇。圧倒的な、暗闇。絶望的な、孤独。ヒロト、私、辛い。苦しい。だけどヒロトを愛したこと後悔してないよ。そして、こうして、死ぬことも。もう一杯の特製ワインで、ぐっすり寝入ったナギコさんを見つめ、心の中で、謝る。(ごめんね、ナギコさん)私は、リビングに向かう。望むことは、同じ場所で、同じ方法で。でも、なぜか、ロープをしっかりと結べなかった。私って、こんなに不器用だったかな?だからって、焦る気持ちはない。ナギコさんは、全く起きる気配はない。ケースケは、地方で泊まりの仕事。絶対に帰ってこない。だから、私は、落ち着いて、「死」に向かって作業を進めていた。そして、何とか、目的の輪を作り上げ、吊るし終わり、何度も何度も引っ張ってみる。よし、大丈夫。満足な気持ちでその輪を見上げた。もうすぐ、ヒロトに会える。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.24
コメント(4)

楽しそうにはしゃいでいたが、だんだん酔ってうとうとし始めた悠斗を壁に持たせかけて、謙吾は言う。「ったく、いつまでも頼んないんだから、こいつは」言葉はきついが、口調は優しい。俺は、「なんか、楓ちゃんに会えないときは、さみしんだろな?いっつも飲みすぎるんだよ、こうして」謙吾は、悠斗を優しく見やりながら、「そんなんじゃ困るんだけどなあ。楓と会えない期間は、これからも結構あるんだから」「謙吾は、楓ちゃんが何の仕事してるか、もちろん知ってるんだろ?」「ああ、なんで?」「教えてくれないんだよ、悠斗」謙吾は、少し眉を寄せて、考えていたが、「なるほどね。ま、言わない理由も分からなくもないけど。」てことは、謙吾も教えてくれないのか。「ケースケに隠す必要もないと思うけどなあ、、でも、またすぐ話すだろう。」仕方なく、俺は、もうひとつ気になったことを聞く。「謙吾、ほんとに、まだ、楓ちゃんのこと?」謙吾は、ゆっくりとこちらを向く。もう一度悠斗に目をやってから、静かな悲しみを湛えた瞳で、黙ったまま俺に頷く。言葉を捜す俺に、少し微笑んで、「でも、もう、どうにもならないこと知ってるんだ。楓とは、いろいろありすぎたから。今は、悠斗と幸せになってくれること祈ってるよ。悠斗は、いいやつだからな。もう割って入る気もない。あきらめなくちゃならない。それは、ちゃんと思ってる」俺は、頷く。『あきらめなくちゃならない』、いつかの、俺、みたいだ。俺は謙吾の胸の中を思って、辛くなる。「わりぃ、辛いこと聞いちゃったな」謙吾は、首を振り、落ち着いた声で、「だけど、俺が楓をあきらめるのは、相手が悠斗だからだぞ、ケースケ。お前は、、、ミリちゃんの手、しっかり握って離すなよ」と言った。自分の部屋に悠斗を泊めるという謙吾に、ほとんど眠っている悠斗を任せ、俺は、ミリの部屋を目指した。もう随分遅い。遅くなる、と、連絡はしてあるから、もう眠っているだろう。第一、もう、添い寝は断られたんだし。でも、だからって、やっぱり、実家で眠る気にはなれない。せめて、一緒の部屋で、って未練がましい?・・・てか、「未練」って。終わってんのかよっ、って、我ながら、気弱すぎる思考に自分で突っ込みを入れる。タクシーに乗り、少しずつ、マンションに近づくにつれ、なんだかもやもやした気持ちになる。車を降り、マンションのエントランスから、エレベーターに向かい、7階まであがり、廊下を進む。鍵を開け、ドアノブに手をかけたとき、何かを見つけてしまいそうな、嫌な予感が胸をつつむ。胸騒ぎってやつ?これは、ミリの自殺未遂を見つけた時に似た、気持ちだった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.23
コメント(6)

ヒロトからの手紙。本当は長かった手紙。私はヒロトの全てだったのに。ヒロトは最期まで私を想ってくれていたのに。私はヒロトのいうヒロトの中の「闇」に勝てなかった。なのに、ヒロトは、何もできなかった私に、ただ、謝って、逝った。私は、何も、、、できなかったんだね、ヒロト。謝らなきゃならないのは私の方。。。だ、よ。。。気がつくと、ベッドに寝ていた。隣にはいつもとちがう気配。はっとして、顔を見ると、それはナギコさんだった。「気がついた?」甘く覗き込む瞳に、私は慌てて起き上がりながら、「・・・はい。ケースケ、、は?」ナギコさんも起き上がりながら、「ケースケくんは、お仕事に行ったわ。そろそろ帰ってくる頃じゃないかしら?」私は、ベッドから足を下ろし、腰掛けた体勢になってから、枕元においてある時計を見る。19時少し前だった。「そう、ですか」「私とあなたを2人にするの、随分渋ってたけど。ケースケくんのお仕事は誰かに代わってもらえる様なものでもないし、ミリちゃんを1人にするよりはマシだって思ったのね」ぼんやりと頷く私に、「随分、うなされてたわ。私もなんとか手を貸そうと添い寝してみたけど。。それにしても、目覚めるまでにかなり時間がかかった。・・・きっと、全部、見ちゃったのね?」私は、どこからどこまでが全部なのか分からないまま、頷いた。ナギコさんは、心配そうに、「ねえ、ヒロトの自殺は、時期の早い遅いはあったとしても、避けられることではなかったと私は思ってる。だから、ミリちゃん。あなたは自分を責めちゃだめよ」私は、ぼんやりとナギコさんを見つめる。この綺麗な人は、ヒロトをよく理解している。私と違って。ナギコさんは、続けて、「ヒロトは本気であなたに、隠そうとしていたのね。自分の中にある闇を。」「私、、頼りないですから」ぽつりと答えるのが精一杯。ナギコさんはいたわるように、「そんなことないわ。とてもしっかりしている。いつも明るいあなたのこと、ヒロトはとても愛していたのよ」「何も、考えていないだけです。バカなんです、私。3年もそばにいて、ずっと、あんなに、大切にしてもらっていたのに、ただ、それだけで。」ただ、甘えていただけの私。ヒロトの優しさに。大切なヒロトが、あんなに深く濃い闇に包まれていることに気づきもしないで。「3年も付き合っていた恋人に死なれても理由なんて全くわかんなくて、その恋人のモトカノに全部教えてもらうような人間なんです」そう、それが、私。唇が震える。情けなさ過ぎて、涙も出ない。「ミリちゃん」ナギコさんが、私の手首をそっと掴む。私は振り払おうとして、でも、瞳を覗きこまれて、しばらくそのまま視線もそらせず、動くこともできない。そして、少しずつ。気持ちが軽くなっていく。ナギコさんがそっと、手を離したときには、私は、随分、心がラクになっていた。「少しはラクになった?」たずねるナギコさん。そうか、「吸収」してくれたんだ。ヒロトの思考から受け取った「闇」を。「はい」と答える私に、「辛い時はいつでも連絡して。あなたの中にあなた自身の闇は、見当たらないけど、それでも、今みたいな使い方、してくれていいのよ」とナギコさんは微笑んだ。だけど、、、だけど、私は、そんなこと望んでいなかった。ナギコさんが吸収したヒロトの闇をもっと受け取りたかった。ヒロトをもっと知りたかった。ヒロトにもっと近づきたかった。それがどんな結果を生むかも考えもせずに。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.22
コメント(4)

「俺が楓にプローポーズしたから、だよ。な、悠斗」悪戯っぽく悠斗を見る謙吾。天井を見上げた悠斗はゆっくりと首を回して、「相変わらず、お前は、嫌味なほど、タイミングばっちりな登場だよな」と答える。はは、と笑って、悠斗の隣に座る謙吾。「ということなんだよ、ケースケ」と悠斗は言うが俄かには理解しがたい。「・・謙吾が、楓ちゃんにプロポーズした?」「ああ」「でも、楓ちゃんは、悠斗を取ったわけ?」店員がきて、謙吾の注文を聞いていく。謙吾はおしぼりで手を拭きながら、「そういうこと。俺は振られちゃったんだよ」「信じられない。。謙吾より、悠斗を取るなんて」ぼそっとつぶやくと、「聞こえたぞ、ケースケ、失礼な」と悠斗。俺は慌てて、「ごめんごめん。」「はは、謝ることないよ。俺でもまだ信じられない」「でも、すげーな、謙吾と女取り合って、勝ったわけだろ?」「ん~、まあ、色々事情があんだよ。」2人はそれ以上は話したくない様子だったので無理には聞かない。「ま、ようは、なんかのきっかけだよ。ミリちゃんの挙動不審ったって、こんなさ、こんな派手なヤツにさ」と、悠斗は隣に座った謙吾を指差して、「派手なプロポーズされるほどじゃなくてもさ、誰かがなんかの行動を起こしてるわけで、それって、停滞してた関係を結果的に変化させるんじゃないかな」「俺たちにも、そういう変化が起こりつつあるってこと?」「そうそう、そういうこと。これまで2年間停滞してたんだろ?ミリちゃんが、何か動き出してるんなら、お前らの関係もそろそろ決まる、ってことだよ。」「だからって・・・いい結果、とは限らねえだろ?」悠斗は少し考えて、「そら、まあ、そうか。」「そうだよ。ったく他人事だと思ってさ」黙って聞いていた謙吾は、にっこり笑って、「でも、まあ、安心しろ。いい結果と悪い結果を受けた2人がここにいるからな。どっちに転んでも、ケースケ、ちゃんとその後の気持ちの処し方は教えてやれる。な、悠斗」「ああ、うまくいかなかったら、謙吾に、ミリちゃんのあきらめ方、教えてもらえ。」「は~?」とへこむ俺。でも謙吾は、意外にも、「いや~、それは、無理だな。」と、真面目な顔で、悠斗を見て、「まだ、あきらめてないから」悠斗は、一瞬、止まって謙吾の顔を見ていた。それから、慌てたように、「ちょっ、お、謙吾。。え~~~っ??」言葉にならない言葉を発する悠斗。「謙吾、それはね~だろ。お前、ほんと、もう、勘弁してくれよ。」謙吾は、しばらく、1人取り乱す悠斗の様子を見ていたが、ため息をついて、「悠斗、お前、ほんっと相変わらずだな。お前なんかに渡すか、とっととあきらめろ、ぐらいのこと言ってみろよ」「言えるかよ。お前は謙吾なのに」「ああ、ああ、ああ、まだ言ってやがる。分かった、じゃあ、いいよ。ご期待に応えて、一生あきらめないで、狙っててやるから、ずっとびびっとけ」「ご期待なんかしてねえって」謙吾は真面目な顔になり、こちらを向いて、「ケースケ、相手の気持ちを大切にするのも、もちろん大事だけどさ、あんまり大事にしすぎると、俺みたいに、掴み損なっちゃうから気をつけろよ」と言う。悠斗は、「そうそう、そこが難しいとこなんだよな、ほんと」「お前だって、やばかったくせに。ギリギリだったじゃね~か」という謙吾。悠斗は、謙吾に、「俺は、言っても、2、3ヶ月くらいの話だよ。謙吾みたいに、、何年だっけ?」「ん~、楓を想ってる期間?そうだな、もうすぐ10年くらいになるんじゃないか?」「だ~か~ら、現在進行形で計算するのはやめてくれっ」悲痛な声を上げる悠斗に笑いながら、確かに、謙吾がライバルなんかじゃ、気が休まらないなと思う。と、同時に、仮にミリの挙動不審の原因が男だとしても、謙吾ほどのヤツなわけもないが、絶対渡さないっていうくらいの気持ちでいかなくちゃな、と思ったりもする。これって、結果、この2人に励まされたってことになるわけ?「ああ、そうだ、謙吾、ミリちゃん、相当かわいいから、あっちいけ」と、こっちを指差す悠斗に、「あ、そうなの?じゃあ、そのうち、ミリちゃんにも俺が、プロポーズしようか?ケースケ」まだじゃれ合っている2人を見ながら、『2人のファンには見せられない姿だな』と、思う俺、だった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.21
コメント(2)

凪子さんは、その場所に立ち、目を閉じる。右目だけが何度か強く瞑られる。凪子さんは、今、ヒロトの最期の思考を吸収している?そう思うか思わないかの瞬間に私は、凪子さんに駆け寄り、手に触れていた。一瞬にして、流れ込んでくるものを受け取ると、私は、またその場に崩れていた。頭の中で少しずつ、受け取った情報がほどけていく。私は、ヒロトの声が語りかけてくるのを聞いていた。『美莉。今、僕は、ロープを吊るし終わり、それを視界の隅に捉えながら、君への最後の手紙を書いている。「美莉へ。・・・淡々と続いていく、ヒロトの声。それに並行して、自分に呼びかけるケースケの声。「ミリ!」体を抱き起こされる。だけど、頭の中での動きが激しいからか、体を動かすことができない。あるいは、体を動かすための指令を送ることができない。私は、頭の中でのヒロトの声と、耳から入ってくるケースケとナギコさんの声をデュアルで聞き続ける。「大丈夫、すぐに目を覚ますはずよ。」ため息が聞こえる。「ほんと、無茶するんだから」「さっきはすぐに目を覚ましたのに」心配そうにいうケースケに、「さっきは私が、コントロールして、セーブした量だったから」「じゃあ、今は?」「今のは、私が吸収している最中のものをそのまま受け取ったのよ。ショックが大きいわ」「ミリは・・・何を見たんだ?」「ヒロトの、ほとんど最期の思考よ」「・・・」「どこまで見たかは、私にも判断できないわ」「俺にも同じものを見せろ。ミリが見たかも知れない最大限の量で」「それは、やめておいたほうがいいんじゃないかしら?」「ナギコ、頼む。」凪子さんは、もう一度ため息をつき、「じゃあ、ゆっくり見せるから、ずっと手を握っていて」・・・・しばらく沈黙が流れる。そして、ぐったりとした声でケースケ。「ヒロト、ミリにこんなに遺書を?」「そうみたいね。ミリちゃんに見える形で遺すことはできなかったようだけれど」「ミリには、言うなよ」「言わないわ、でも、もう見たかもしれない」そう、私は、見た。というよりも、聞いた。ヒロトの最期の手紙。ヒロトの声で。美莉、ごめんな。 紘人。」立ち上がるヒロトの影が見える。視点はヒロトのものになる。暗い部屋。見たことのない角度から、今私がいる場所を見下ろしている。そして突然の落差。ヒロト!声にならない悲鳴のような叫び声を、心の中であげてから、私は、今度こそ本当に、気を失った。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.20
コメント(0)

悠斗は俺が話す最近の美莉のこと、黙ったまま静かに聴き終えると、ふっとため息をついて、言う。「で、ケースケはさ、実際のとこ、どう思ってんだよ?」「どうって?」「ほんとに、ミリちゃんがさ、他に男、、なんてこと思ってるわけ?」「・・・分かんねぇよ」「分かんないってことないだろ?お前の気持ちだぜ?」あきれたように言う悠斗。そこで、悠斗の電話が鳴り出す。「謙吾だ」と、悠斗が電話に出て、話している間に、俺は追加の注文をする。「分かった、待ってる」と言って電話を切る悠斗。「謙吾、くんの?」「ああ。ちょっとだけ来るって」「タフだな、あんな芝居に出といて」「謙吾だからな」新しく運ばれたビールを一口飲んで、俺はさっきの言葉を、言い直す。「・・・。他に男、なんて思ってはないけど、思いたくないってのがほんとなのかも。考えれば考えるほど、ほんとのとこは、ミリのことも、俺自身のこともよく分かんなくなってくんだ」悠斗は、きっぱりと、「そのくらいの気持ちだったらさ、美莉ちゃんが、挙動不審の理由、男じゃないって言ってんなら、信じてやれよ」「・・・だよな。分かってんだよ。でも、何度も自分にそう言い聞かせてみても、やっぱり、不安でさ、気になんだよ。どうしても」「気持ちは分からないでもないけど、俺は、美莉ちゃんが、他に男とかって、考えられないな。この世に生きてる中では、お前を一番スキだろ?」「・・なんか、、微妙な言い回しだな」悠斗は小さく笑って、「とりあえず、お前の兄さんの話はおいといて、ってことだよ。」ほんといえば、そこが一番の問題なんだけど。「悠斗は、美莉が俺のこと好きだって思ってんの?」「ああ、当然だよ。」そう、なの、か。なあ。。。?「お前は思ってないの?」「そう思える時と、違うと思う時と、両方。」悠斗はため息をついて、「好きでもない相手に2年も添い寝してもらうか?」「そういうこともあるかも知れないだろ。なんていってもヒロトと俺は兄弟だからさ」悠斗は首をかしげながら、少しビールを飲む。俺は続ける。「俺のこと好きかもしれない。でも何かがミリを留めてる。ミリがどんだけ腕の中にいても、添い寝しても、俺のものにはなろうとしてないって感じてきたんだ」悠斗は、真剣な顔で頷いて、「楓もさ、前に話したと思うけど、ずっとそばにいた恋人を亡くしててさ、俺が出会った最初はさ、それでも、もう2年経ってたけど、まだまだ前向きになんてなれてなくてさ。」2年。ミリもヒロトを失ってそのくらいになる。「付き合ってて、普通に別れることになったって、未練があったりしたら、相当あきらめるの大変じゃん?それを、楓や美莉ちゃんの場合はさ、思いっきり愛してていきなり、相手に死なれてさ、心とか感情とか、ほとんど丸ごと持ってかれたようなもんだろ?・・・キツイよ」美莉の心を思う。そして、ヒロト。「それでも、楓ちゃんは悠斗と始められた」つぶやく俺。悠斗はそれを受けて、「・・・それでも楓が俺と一緒にいること選んでくれたのは、なんか、まあ、それを促す、、簡単には説明できないけど、、いろんな出来事があったからなんだよ」「いろんな出来事?」ヒントを求めて、身を乗り出す俺に、「ん~。。ま、いろんな事だよ。」と曖昧な悠斗。俺は焦れて、「ってだけで、納得するとこ?そこが肝心なとこだろ。」「あんまり、この話したくないんだけどなぁ」「なんだよ、自分から言い出しておいて」「ん~。」「聞かせろよ。楓ちゃんがお前と始める気になった原因」そのとき、部屋の戸が開き、謙吾が入ってきた。そのまま挨拶もせずに言う。「俺が楓にプローポーズしたから、だよ。な、悠斗」悠斗は、やれやれとでもいいたそうに、天井を見上げた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.19
コメント(2)

美莉。今、僕は、ロープを吊るし終わり、それを視界の隅に捉えながら、君への最後の手紙を書いている。「美莉へ。この手紙を君が読むときにはすでに、僕は、この世にはいない。せめて何とか今の僕のことをただ正直に君に伝えたいと思っているのだけれど、はっきりいって、それすら、今の僕には難しい。でも、せめて、君に少しくらいは何か説明できるだろうか。幼い頃からいつのまにか、いや、もしかしたら先天的に僕は、闇を内包していた。歳を重ねるにつれ、その存在は僕の中で大きな範囲を占めるようになっていった。僕は僕の中で次々に分裂する闇たちに、席を譲り続けてきたようなもんなんだ。なぜ、と聞かれても答えようがない。それが、僕だから、とでもいうしかないんだ。美莉、君に出会った日のことを、僕は今でもよく覚えているよ。慶介と間違えたことで、とてもすまなそうに、恥ずかしそうに謝る君の顔。とてもとてもかわいかった。僕はもう、あの頃には、自分の死を濃密に意識していた。でも、君と出会ったことで、全ては保留された。無邪気に笑う君の笑顔、かわいい声、ころころ変わる表情。何度も君に会うことで、どんどん愛しさが増していった。前の恋人と思いも寄らない形で別れることになって、もう誰も愛することなんてないだろうと思っていた僕の心に、君は、強烈な勢いで入り込んできた。そして、いつも明るい君が、少し不安げに、それでも溢れる思いとともに、僕に、「私、あなたが、スキでスキで仕方ないの」と伝えてくれた時、「僕も」と答えながら、本当に久しぶりに、生きているのも、捨てたもんじゃないって思えたんだ。君と過ごした3年間は、とても幸せだった。でも、僕の中の闇は、弱さは、消えてはくれなかった。保留されている時間は、とても短かった。君に出会ったことで生まれた生きることの喜び、そして、生きることへの執着の中、どんどんと加速度を増していく僕の闇。僕は、君の前から消えたくない一心で、凪子(前の恋人だ)に連絡をした。凪子には僕の闇の部分を吸収するという、特殊な能力があったんだ。そして、凪子に、添い寝をしてもらい闇をわずかながら減少させることで、僕は辛うじて、闇に支配されることから免れ得ていた。ただ、こんな秘密を抱え、君をずっと裏切ってきたことはいい結果を生むわけがなかった。美莉、君が何もかも話してくれることで、僕を信頼しきっている様子を見ることで、いつも後ろめたさと、申し訳なさに包まれた。そこにつけこんでさらに、闇は増幅した。もちろん、美莉のせいなんかじゃない。全ては、僕の弱さのせいなんだ。本当は、美莉とちゃんと別れてから、美莉がちゃんと次の幸せを見つけてから、死ぬべきだったと、今、この瞬間も思っている。でも、なかなか切り出せないまま、こうして、どうしようもないところまできてしまった。君への想いが、僕をこの世に引き止めていたから。君を失って、生きていくことはできなかったんだ。僕は、今から、死ぬよ。美莉、君はきっと嘆き悲しみ、自責の念にかられ、涙にくれる日々を送るだろう。でも、美莉。君は何も僕の事で、自分を責める必要はない。君は僕に、生きる喜びだけを与えてくれた。君が笑うだけで、僕の世界は明るくなり、月明かりに照らされた、何の憂いもない寝顔は、僕に闇を忘れさせた。君は僕の光だった。ずっとずっと君に照らされて生きていけたら、と、甘い妄想も抱いたけれど、僕の中の闇は、そう簡単には僕を解放してくれはしなかった。だから、僕はこうすることを選ぶんだ。あの闇が僕の全てを包んでしまう前に。僕の光であり、僕の全てであった、君を道連れにしてしまう前に。君を連れて行かないことだけが、今の僕にできる精一杯のこと、なんだ。ミリ、ミリがいたことで、僕は、こうして、なんの恐怖もなく死の世界に入っていける。それなのに、後に残して、君だけに、辛い思いをさせること、本当にすまなく思う。僕のことは早く忘れて欲しい。僕は君に何もできなかった。僕は君に何も与えられなかった。もしも君が僕自身に、あるいは、僕といることで、何か明るい幸せなものを見ていたのなら、それは、僕が放つ光ではなく、君自身が放つ光の反射を見ていたに過ぎない。そう、君が太陽で、僕が月であるかのように。今こうして1人でいる僕には闇しかない。どれだけ、君を愛していても。美莉、ごめんな。 紘人。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、プリントアウトすることも、メール送信することもできず、僕はデータを削除する。言い訳をするくらいなら、死ななければいい。美莉の今後を心配するくらいなら、生きてそばにいてやればいい。でも、もう、無理なんだ。ただ、紙に、「ミリへ ごめんな。 紘人」とだけ書いてテーブルに置く。結局、堂々と伝えられるのは、この言葉だけ。そして、最後に思うのも、きっと、この言葉だけ。ごめんな、美莉。僕は、父に電話を入れ、ロープを見上げ、立ち上がった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.18
コメント(4)

「・・・自殺、でしょ?」凪子さんの言葉に反応したのは、私だけではなかった。私が口を開くよりも先に、慶介が聞く。「なんで分かった?何を知ってるんだ?」その言葉にも、凪子さんは、ゆったりと微笑み、「話すより、簡単に分かってもらえると思う。」と、テーブルの向こうから、私とケースケの間に、自分の左手を差し出す。「触れてみて」と言って、目を閉じ、さっきと同じように、右目だけをきつく瞑る。私は、ケースケの方を向いた。ケースケは、不満気な様子で、凪子さんを見ていた。「一体、」ケースケが話しかけようとしても、凪子さんは、さえぎるように一言、「いいから」と目を閉じたまま言う。ケースケは、ため息をついて、めんどくさそうに手を伸ばす。私も遅れないように慌てて手を伸ばして、ケースケと同時に、凪子さんの手に触れた。瞬間。ぐらりと体が揺れるような気がした。目を開いているのに、暗闇に放り出されたような感触。何かの、誰かの感情が流れ込んでくる。それは、深い深い絶望の淵に1人立っているような孤独。暗い暗い闇の中。一瞬にそれだけを感じて、私は、耐え切れず手を離す。でも、そのショックからなかなか立ち直れなかった。私は、一体何を、見たの?ふわり、と体が浮かぶ感じがして、私は気を失っていた。気を失っていたのは、時間にすれば、ほんとに短い間だったみたい。次に気づいた時、私はイスに座ったまま、上半身をケースケに預けていた。はっとして、体を動かした時に、私の方を向いたケースケの顔。その表情を見て、気づいた。慶介も同じものを見たんだ。黙ったまま、心配そうに私を見つめるケースケに頷いて、もう一度ちゃんと座りなおす。ケースケも同じように、体勢を整えた時に、凪子さんが口開いた。「大丈夫?」私は力なく頷く。凪子さんも、小さく頷いて、「見たでしょ?今のはほんの一部。ヒロトは、いつもそういう闇の中にいた。あるいはそういう闇を抱えていた。私には、添い寝をすることで、それを吸い出す能力がある。だから、最初は時々、最近は、毎週、ガス抜きにきていた。でも、私がそうすることは、また違う闇を生んだ。美莉ちゃん、どんな事情があったにせよ、あなたに対して、秘密を持っているというヒロトの罪悪感から生まれる闇。いくら性交渉はなくても。」罪悪感・・・。凪子さんは、柔らかく微笑んで、「もちろん、秘密にする必要はない。って言ってみたわ。今みたいに、私と会えば、私に触れれば、一瞬で理解してもらえることだって。でも、ヒロトは、あなたに私の存在を説明することもできなかった。あなたに私を会わせることを拒んでいた。いくら、私が、美莉ちゃんに手を出すことはないって言っても。それほど、あなたはヒロトにとって大切な存在だった。ミリちゃん、あなたは、ヒロトをある意味では救い、ある意味では、追い詰めた。だけど、人間関係なんて、みんなそんなものじゃないかしら?ヒロトはもう、どうにもならないところまできていた。だから、仕方がないことだったの。」私は目を閉じた。ヒロト・・。凪子さんの言葉は続く。「あなたに光の、私に闇の部分をみせていたからって、それでヒロトの中の優劣があるわけじゃない。何も分かってなかったことにはならない。ヒロトは、あなたが大好きだった。大切だった。あなたには、いいとこだけを見せたかったのよ。」ヒロト・・・。時々、見せた暗い横顔、ヒヤリとするような感触。ヒロト、私は一体。。。 凪子さんは立ち上がり、部屋をゆっくりと歩き、誰にも何も聞かずに、その場所に立つ。「ここで首をつったのね。」見上げた先に、私は見たはずのない、あの日のヒロトの体が見える気がした。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.17
コメント(4)

芝居が跳ねると、悠斗と一緒にちょっとだけ楽屋に顔を出して、謙吾に声をかけに行く。俺たちにすぐに気づき、気さくに手をあげてくれるが、あっちは超有名人。あまり邪魔にならないように、さらっと挨拶をするだけだ。悠斗と外に出て、いつも行く創作居酒屋へ行く。個室があって気兼ねなく話せるのでよく使う。俺はさほどでもないが、悠斗は随分テレビでの露出が多くなってきたので、人目を避けるためでもあった。ビールとつまみの注文が終わったところで、話し出す。「なんだよ、また、彼女と会えないのか?」悠斗は、軽く笑って、「ああ、そういうこと」「悠斗、彼女と付き合いだして、、」「そろそろ5ヶ月?」「だよな、長続きじゃん」「ばっか、お前と、一緒にすんなよ。俺は基本、長続きしたい方なんだよ。するかしないかはともかくとして」俺だって、そうだよ、と、心で思いながらも、「ふ~ん。。」と気のない返事を返す。「あ、信じてないな。ほんとだぞ。前の時だって、お前と浮気されてなきゃ、多分・・」「悪かったとは思うけど、でも、ま、長続きなんてしなくていい相手だったんじゃないか?」「・・・ん~、まあそうかも知んないけど、お前が言うな」2人で顔を見合わせて笑う。ビールがきて、一応、乾杯。「ともかく、俺、楓とはず~っと一緒にいる気でいるんだし」「ふ~ん、でさ、彼女、一体なんの仕事なわけ?」「それは・・・言えない。」なぜか彼女の仕事を教えてくれない悠斗。「ん~、、、気になってんだよな、ほんと」「ま、いつか分かる日がくるかもな」と適当にあしらわれる俺。「今度、お前の楓ちゃんに、会わせてくれよ。直接聞くから」「・・・」「何?」「まあ、そのうちな」「会わせてくれないのかよ?」「お前、前科があるからさ。もうちょっと俺と楓の関係が安定したら、な」「前科ってひどいな、おい。あん時だって悠斗の彼女って知ってたら、手は出さなかったよ。」不機嫌に言うと、「ま、それはそうだろうとは思うけど、女の子の好みが似てるからさ、念のため、な?」俺はため息をついて、「ほんとはさ、ケンカ、、とかで会えないんじゃねえの?」「まさか。ラブラブだよ」「自分で言うな」はは、と笑う悠斗。「それよりさ、最近、ケースケの話聞いてなかったし、どうなんだよ、ミリちゃんと、何か進展あった?」悠斗には、時々、ミリのこと話していた。だから、大体の関係を知っている。美莉にも数回会ったことがある。悠斗の彼女も彼氏を亡くしたことがあるとかで、悠斗はかなり、親身になって話を聞いてくれる。俺にとっては、時々気持ちのはけ口になってもらえて助かっていた。でも、ここは一応突っ込んでおく。「お前さ、大親友のクセ、うつってないか?」「大親友?」「好司」「うわっ。冗談じゃねえっ。いや、好司は確かに親友だけど、クセってあれだろ?詮索癖。」「そう。」「・・ああ、確かに、今のは似てたかも。」「だろ?」悠斗はため息をついて、首をふり、「やばい、知らない間に、毒されてる。大体、好司と一緒の仕事が多すぎんだよっ。」「はは」「気悪くした?」本気で気にする、気のいい悠斗に、「いや、、、ちょうど聞いてもらいたかったとこかもな」「渡りに船ってやつだな。聞くよ、なんでも」「渡りに船って、、お前表現が古くないか?」とは言ったものの、吐き出しどころがなかった俺には、確かに「渡りに船」。ここのとこの美莉の挙動不審から、添い寝を断られたこと、今朝、気持ちを伝えたことまでを、包み隠さず一気に話した。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.16
コメント(2)

「ミリ、大丈夫か?」ケースケの背中をたどりながら、ゆっくりとしゃがみこんだ(というより、へたりこんだ?)私の肩を、ケースケが抱いて気遣ってくれる。(ヒロト、、は、ナギコさんと、、浮気してたの?それとも私の方が浮気相手だったの?)私は、ナギコさんの言葉に、胸がドキドキして、力が抜けて、俯いたまま立ち上がれそうもなかった。そんな私を見て、ケースケは、怒ったように、「ナギコ、なんで、今そんなこと言うんだ?ミリは、ヒロトを失ったばっかりで、ただでさえ、」続けようとするケースケを制して、ナギコさんは私の方に近づき、ひざを曲げ、そっと顔を覗き込む。「ミリちゃん、ごめんね、驚かせて。私は、確かにここに毎週泊まって、ヒロトと一緒のベッドで眠ってた」ナギコさんの言葉が胸に突き刺さる。私は目を閉じて、体に力を込めた。「おい、まだ言う気か」と、ケースケが身を乗り出すのも気にせず、続けるナギコさん。「でも、誤解しないでね。ただ、添い寝してただけよ。ヒロトがあなたと付き合いだしてから、性交渉は一度も持っていないわ」恐る恐る、目を開け、顔を上げる私。添い寝・・・?「そんなこと信用できるか。だって、恋人だった2人なんだぞ?」ケースケは、バカにするな、とでもいいたそうに、即座に否定する。ナギコさんは、ケースケではなく、私をまっすぐに見据えたまま、「簡単には信じられないかもしれない。でも、信じてもらうしかない。事実なの。だって、私は、もう、随分前から、女性相手にしか性的興味がもてないから。」それって、レズってこと?次から次へと現れる、衝撃的な事実に頭がついていかない。ケースケは、理解が早く、ナギコさんをそれ以上私に、近づけまいとするように間に身を乗り出す。ナギコさんは、笑って、「大丈夫よ、そんな。ミリちゃんをどうこうしようなんて思ってないわ」「信じられない」ケースケは、冷たく言い返す。ナギコさんは微笑んだまま、ため息をつき、「何が?添い寝のこと?それとも、私がレズってこと?ミリちゃんに手を出さないってこと?」答えを待たずに、「だったら、あなたたちの方は?今まで一緒に寝てたように見えるけど?まさか、ヒロトが死んだばかりで、あなたたちがHしてたわけじゃないでしょう?添い寝じゃないの?」「俺たちはそうだよ」「私たちもそうだったのよ」水掛け論になると思ったのか、ケースケは話を変える。「大体、そんなに週一で泊まるほどそばにいて、なんで、ヒロトが死んだこと知らなかったんだ?それに知らなかったなら、なんでもっと、どうして死んだとか知ろうともしないんだ?」ナギコさんは、立ち上がり、「コーヒーでも飲まない?」と、慣れた様子で、コーヒーを淹れに立つ。「おい、ナギコ。話は済んでない」「長くなりそうじゃない。とりあえず2人とも、着替えたら?ちゃんとこっちで話しましょうよ」マイペースなナギコさんに仕切られて、私たちは、身づくろいを済ませて、テーブルについた。コーヒーを飲みながらナギコさんが話す。「私が、最後にここに来たのが先々週の火曜日の夜だった。8日ね。で、泊まった。翌9日の朝から、ある場所に旅行に出て、さっき、戻って来たとこなの。その次の日に、ヒロトは死んだのね?ここに来れなかったから、知るのが遅くなっちゃったわ。」8日に、泊まって、、9日の朝に帰った。。。9日。ヒロトが、珍しく水曜日なのに、私と会ってくれた日。私が最後にヒロトに会った日。ヒロトが生きていた最後の日。ナギコさんは続ける。「どうして死んだか聞かないのは、聞かなくても分かるから」私は、はっとしてナギコさんを見た。「・・・自殺、でしょ?」・・・この人は、何かを知っている。そう、ヒロトが自殺するような理由を。その事実の前には、ナギコさんが、ヒロトと性交渉を持っていたかどうかなんて、もうちっぽけなことに思えた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.15
コメント(0)

朝食を食べ終わると、まずは食器を洗う。これは、ミリの分も。作ってもらう分、俺が後に残るときは、俺が洗う。俺が食事を作ることはあんまりない。理由は単純、ミリが作る方が断然美味いから。ミリはお母さんを早く亡くしたからか、家事全般、とてもスムーズに効率よくこなす。でも、夜の食器洗いも俺がいるときは俺がする。理由はこれも単純。ミリは、その時には酔っ払ってるから。後片付けが終わると、俺は家に帰る。基本、何もない夜には、ミリとあのヒロトの部屋だった部屋で眠るが、自分の中では、まだ、自分の家は、実家だと思っている。荷物だって、少しの着替えと本を除いて、全部実家に置いている。あの部屋は、うちの親の持ち物だから、ミリはあの部屋にいつづけられる。美莉のお父さんが毎月、うちの親に家賃を払っているが、うちの親は、ミリが出て行けるようになった時には、全部まとめて返すつもりでいることを、俺だけは、知っている。ただ、ミリが住んでいる間は受け取らないと、ミリとお父さんが気を遣うから、ということなのだ。だから、あの部屋は、今はミリの部屋。俺は、添い寝に通っているだけなんだ。今のとこ。天気がいい日の実家までの道は、ゆっくり歩く。歩くのが好きなんだ。家に着くと、大体は、キッチンにいる母と少し話す。母の一言目は、決まっている。「お帰り。ミリちゃんは?どう?」ヒロトが死んでから、ずっとこうだ。ミリが自殺を図ってからは、特に。俺は、決まってこう答える。「大丈夫だよ。いつも元気だから」頼りにしていた長男のヒロトが死んでから、母は随分気弱になったみたいだ。俺は、だから、1人暮らしするつもりだったがやめた。もちろん、ミリもそんな母のことをよく分かっていて、うちにもよく来るし、マンションに両親を呼ぶこともある。だから、次の話題も、大体決まっている。前にミリに会った時のことか、次に会う予定のこと。母は、ミリがほんとに好きみたいだ。それは、ヒロトの彼女になった日からずっとだ。でもその日は、次の話題までは進まなかった。俺の携帯が鳴ったから。メール着信画面には、「広川悠斗」の文字。俺が、ボタンを押し始めると、母はまた家事に戻った。悠斗→慶介:おはよっす。悠斗です。今日、慶介も、謙吾の芝居観にいくって聞いたけど、その後、あいてたらちょっと、飲みに行かないか?慶介→悠斗:いいよ。了解。また、彼女に会えない時期なのかな?と思う。悠斗には、れっきとした彼女がいるけど、何やら、時々、会えない期間があるらしく、そうなると、こうして連絡してくる。仕事だって相当忙しいんだから、さっさと帰って寝りゃいいのにな、と思うが、きっと、淋しがり屋なんだろう。俺が女遊びをやめるきっかけになったのは、悠斗の前の彼女と寝てしまったからだ。今では、もう、あんなオンナの話題は俺たちの間に影も形もない。ただ、あのことをきっかけに、それまでは顔見知り程度だった、悠斗と仲良くなった。悠斗は、いいやつだ。だから、その点についてだけは、あの女に感謝してる。俺は、母には直接、ミリにはメールで、晩飯いらないから、と伝えて、寝不足を補うために、部屋のベッドに横になった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.14
コメント(2)

ヒロトが死んでしまってから、何がどうなっているのかも分からず、呆然と過ごしていた。ただ、時が私の上を通り過ぎていった。何をどうして生きていたのか、全てはぼんやりとしていて、うまく思い出せない。気がつけば、当たり前のように、ヒロトの部屋で、夜はケースケに添い寝してもらっていた。自分がどこを向いているのかなんて、分からなかった。ただ、1人になるのが怖かった。ケースケの腕の中は心地よく、何も考えずに済んだ。だから、ケースケの腕に抱かれて眠った。だって、私は、何も考えられなかったし、何も考えたくなんてなかったから。何かが、私をすごい力で吹き飛ばそうとしているように感じた。だから、ケースケにしがみついて眠った。だって、私は、吹き飛ばされたくはなかったから。そんな風に、あっという間に2週間がたとうとしていた朝。「あれ?」ケースケの声に目を覚ます。「・・・なに?」「なんか玄関で音しねえ?」「まさか・・・」「いや、絶対、誰か」耳を澄ますと、確かに、玄関のドアが開く音。私たちは、(別に疚しくはないけど、)一応、慌ててベッドから出る。「お父さんか、お母さん?」それしか考え付かなかった。「いや~、来ないだろ」「でも、あと、ここの鍵、持ってるのって、、、」と言い合っている時に、足音が近づいてきて、キッチンカウンターに何かを置く音が聞こえた。ケースケが立っていって、ドアを開ける。私も、追いかけて、ケースケの脇から、顔を出してみる。そこには、ぱっと目を引く綺麗な長い黒髪の女の人の後姿があった。「あら、起こしちゃった?ごめんね、ヒロ、ト・・?」言いながら振り返り、ケースケと私を見て口を閉じるその人。その親しげな口調。慣れきった様子。そして、しっかりとした意志をたたえた瞳を持ったとても整った綺麗な顔。ヒロト、と呼びかける甘い声。私は、一瞬で血が逆流する思いを味わう。「あなた、誰ですか?」ケースケが、ドアのところに立ったまま聞く。「ヒロトは?」ケースケは、ゆっくりと、「ヒロトは、、、兄は、死にました。」その人は、なぜか、あまり驚いた様子もなく、少し息をついてから、「いつ?」と静かにたずねる。「10日の早朝です。」目を閉じ、右目だけを少し強く瞑り、もう一度目を開けるその人。表情も穏やかに、「あなたは、、、慶介くんね?」「はい。」挑むように答えるケースケ。その人は、脇から私を覗き込むようにして、「で、ミリちゃん?」「はい・・・。」ケースケに隠れるようにして、消えそうな声でしか答えられない私。「ヒロトが言ってたとおり。ほんと、可愛いわね」私を甘く優しい瞳で見つめるその人から、視線がそらせなくなる。ケースケは、焦れたようにもう一度聞く。「こちらの質問に答えてください。あなた誰ですか?なんで合い鍵まで?」「私は、ヒロトの友人よ。親友って言った方がいいかもね。」「親友?」「そう。ケースケくんには、昔よく会ってたんだけど、忘れちゃったかな?」「会った?」その人は、長い髪を首の後ろでまとめ、上に持ち上げるようにして、ショートカットのようなヘアースタイルを見せる。ケースケは、確かに思い出したらしく、「凪子・・・?」ナギコ、と呼ばれたその人はケースケが思い出してくれたことが本当に嬉しそうに、にっこりと太陽の様に微笑んで、「そうよ。久しぶり、大きくなったわね」と、ケースケを見上げる。ケースケはとまどいを隠せないらしく、視線を、私と凪子さんの間に何度も走らせる。「?」私が、首をかしげると、「し、、親友って、だって、凪子は、ヒロトの・・・」慌てて何かを言いかけて、口を噤むケースケ。凪子さんは後を受けて、「あら、そこまで言ったら最後までいいなさいよ。ミリちゃん気になるじゃない、ねえ?」「恋人、、だったんですね?」聞きたくもないのに、つい聞いてしまうのは、私の悪い癖。「そうよ。もう、随分、前のことだけど」「でも、、だったら、、どうして、今も。。」合鍵を持って、食事の材料を持って、いつも出入りしていたように。と思って、ハっとする。ヒロトは、なぜかいつも水曜日は会ってくれなかった。正確に言えば、火曜日の夜から、木曜日の朝まで。。「分かっちゃったみたいね。確かに、私は、毎週ここに来ていた。泊まっていくこともあったわ」凪子さんは優しく微笑んで、でも、あっさりとそう告げた。私は、情けなく、しゃがみこんだ。それが、私と凪子さんとの出会いだった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.13
コメント(4)

俺は、ベッドに戻って、目を閉じる。途中まで、いい感じだったのにな~。なんで、今、俺、こんなにへこんでるんだ?てか、やっぱ、あれだよな。添い寝をやめるきっかけを与えた男(って決め付けてるけど)の影におびえてんだよな、俺。さっきミリが、俺の寝顔を見つめてくれてる気配を感じたから、だから、もしかしたら、俺のこと、少しは、、って、期待したりして。今までは、ぜんっぜん、ミリは、俺のこと愛してなんていないって、思ってたけど、俺は、ただの、ヒロトの身代わりの添い寝役だったんだって思ってたけど、もしかしたら、なんて、淡い期待を持ったりして。正直言って、きっかけを与えたヤツに感謝してるとこもあるんだ。添い寝を続けてる状態のままだったら、俺、いつまでも、動けなかったし。さっきもミリに言ったとおり、ミリだって随分立ち直ったんだって。だったら、俺も動けるって。だから、パソコンのキーの音が聞こえなくなってから、ミリのとこに行ったんだ。ちゃんと、愛してるって伝えたくて。今度は誰にも取られたくなくて。だから、「愛してる」って言った。久しぶりに。そう、前に、言ったのは、もう、随分前。ミリの記憶に残ってるかどうかも不明瞭な状況で。俺が、前に、ミリに、「愛してる」って言ったのは、ヒロトが死んで、3ヶ月後のこと。あんときは、、大変だった。。・・・あ~、俺、さっきの終わり方じゃ、だめだ、もっかい、ちゃんと言わなくちゃ。。誰にも、美莉を渡すつもり、ないって。あれ。・・・これは、、美莉に言っても仕方ないか??玄関のドアが閉まる音が聞こえ、ハっとする。やべ、俺、うとうとしちゃってたんだ。慌ててリビングに行ったけど、もう、美莉は出かけた後だった。今日は、大学で履修届出す日だって言ってたもんな。そうでもなけりゃ、美莉が朝から、大学に行く理由なんて、まずない。ダイニングテーブルのマットの上には、俺の分の食器が伏せてある。朝はパンよりも、白飯の俺たち。美莉は、おかずも味噌汁もちゃんと作ってくれている。茶を入れるためのお湯を沸かし、味噌汁を温め、冷蔵庫から納豆を取り出す。はぁ。傍から見りゃあ俺たち立派な、同棲カップルなのになあ。。挙動不審の理由・・・。相手・・・。物理的状況からしたら、俺ほど美莉に近い人間はいないはずだけど、心理的状況では、、どうなんだろう?俺、ほんと、自信がもてない。ああ、だめだだめだだめだ、こんなネガティブじゃ、取られちゃうじゃねえか。その姿も形も見えないライバルに、俺はかなり、ナーバスになっていた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.12
コメント(2)

しばらく書いていると、段々と夜が明けて、外が白んできた。ベランダに出て、空を見上げる。山の方はオレンジがかり、そしてまだ蒼い上空には、有明の月。空がとても広く感じる瞬間。少し冷えるな、と思った瞬間、後ろから、抱きしめられた。耳元で囁く慶介。「ミリ、愛してるよ」ありえない不意打ちに、すっごく、ドキドキしてしまう。「え?」と振り返ると、寝不足の顔をしたケースケが、「愛してるって言ったんだよ」ケースケがこんなに気持ちをストレートに伝えてくるなんて。まだまだ気持ちの定まらない私は、素直に受け取れず、ちゃかしてしまう。「何それ~。なんかドキドキしたじゃんっ」「そうか?」それでも、満足げな慶介。「よしよし、作戦成功」「作戦??なんの作戦?」「ドキドキさせる作戦だよ。俺たち、なんていうか、もう、そばにいるの当たり前すぎて、トキメキっていうの?ドキドキが足りないだろ?だから、ミリをもっと俺でドキドキさせようと思って」「あのねえ。。」「なんだよ」「そんなの落ち着かないよ~。ケースケ相手に、ドキドキドキドキしてたら」「それでいんだよ。落ち着いてちゃダメなんだから。分かってるだろうけど、俺、本気で言ってんだぞ?」「ん~。。。あ、じゃあ、ケースケは、あれだね?私にいっつもドキドキしてんだよね?」「ドキドキ?ちっげ~よ、お前。俺がミリには、ドキドキじゃなくて、ハラハラだろ?」「・・・・」「何させても危なっかしいんだからさ。いつでもどこでも、こけそうになるし、いや、実際にこけるし、ワイン1人で開けさせたら、未だに指切りそうになってるし、飲むのだけは一人前だけど。いや、一人前以上だよ、だいたい飲みすぎだし。ああ、ああ、あと、あれもあれも、外で飲んだら、絶対、他の人に間違えてついていこうとするし、誰のそばでも、すぐ眠くなるし」事実過ぎて反論もできない。。ここは、話題を変えなくちゃ。。「ねえ」「ん?」「もう離してよ」「なんで?」「なんでって、恥ずかしいでしょ」「ここ7階だぞ?こんな時間に、誰も見てないよ」「私が、ケースケに恥ずかしいんだよ」「何言ってんだか、今まで散々添い寝させといて。添い寝がいらなくなったら、抱っこもさせてくんないのかよ?すねるぞ?」ほんとにすねた言い方に、ちょっと焦る。「・・・怒ってる?」「添い寝断ったこと?」「うん」「いや、怒ってないよ。夕べはショックだったけど。でも、考えようによっちゃ、あれだろ?添い寝がいらないって、まあさみしいっちゃさみしいけど、そんだけミリが立ち直ったってことだから、今度はこっちから堂々と動けるってことだろ?」「ケースケから??」「そう。俺、これから、本気でお前に猛アタックかけるから、覚悟しとけよ」「ええええ??」「愛してるって口に出すのもそう。今まで、ガマンしてたけど、もうガマンしない。あと、」「あと?」「次、一緒に寝るときがきたら、その時は、一晩中、寝かせないからな。それも覚悟しとけ」真剣な瞳に、不覚にも、くらっときてしまう。私はごまかすために、ケースケをにらんで、「朝から、エロいよ!」って言ってやった。ケースケは、はは、と笑って、「でも、ま、猛アタックかけるけど、返事をもらうのを焦るつもりはない。ミリは、納得いくまで、自分のしたいようにしろよ。俺、答えが出るまで、ちゃんとお行儀よ~く、待ってるから」「これのどこがお行儀いいのよ?」抱きしめる腕をペチペチ叩いていう。笑って離れる、ケースケ。「なあ、、、だけど、ちょっと聞いていいか?」「何?」「俺、かなり劣勢?」「え?」「ミリが挙動不審の原因、、やっぱ、、、男なんだろ?」「はあああ?違うよ」「じゃあ、なんで隠すんだよ」「ノーコメント。」「やっぱり、、、なんだろ?」「あれ?」「ん?」「なんか、いきなりパワーダウンじゃない?ついさっき、覚悟しとけ、なんて言ってたのに??」「・・・だな。もっかい寝るわ。。」ケースケは私を連れて部屋に入ってから、自分は寝室へ、2度寝に戻っていく。私は、(朝だから)コーヒーを淹れながら、あ~あ~あ~、かわいそうに、強がってみても、やっぱり、相当、こたえてるんだよね。私が、添い寝断ったっていうことより、なんか、別の誤解がありそうな感じなのが気になるけど。と、思う。でもね、ケースケ。私が一歩踏み出したら、ケースケも、一歩踏み出そうとしてくれてる。これって、いい感じだよね。ケースケからの、「愛してる」。また思い出して、胸がドキドキする。ケースケからの、久しぶりの、「愛してる」。と、その時、前に言われた時のことを鮮明に思い出して、目を閉じる。決して、甘い記憶じゃない、ケースケの初めての告白。だって、前に、ケースケから、「愛してる」って、言われたのは、・・・私が死のうとした時だったから。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.11
コメント(4)

紘人の葬儀の日、俺はどうしても代わってもらえない仕事があって朝からでかけ、家に戻ったのは葬儀の始まる直前だった。すぐに美莉を探したが、姿が見えない。父に、尋ねようとして近づき、逆に、「あれ?美莉ちゃんは?一緒じゃなかったのか?」と言われ、俺は、ため息をついて、思う。あそこしか、ないな。すぐに、ヒロトの部屋の鍵を持ち、マンションに向かって走った。みんな美莉からよく目を離せるよな。何をするかわかんない状態なのに。と、首を振りながら。頼むから、生きててくれよ、ミリ。と、一心に思いながら。息を切らせて部屋に入り、ミリを探す。で、いた。ベッドに。恐る恐る近づき、じっと見ていると、少し体が動いている。寝息も聞こえた。俺はほっとし、息を整えて、布団ごしに体を揺らす。「ったく、やっぱりまたこんなところに。おい、ミリ。ミリ。起きろよ」「ヒ、ロト。。」寝ながらも涙を流している美莉。「うあっ、酒くせっ。お前どんだけ飲んだんだよ。」俺は、テーブルにおかれたワインの瓶を見ながらいう。美莉は薄く目を開け、「なんだ、ケースケ、、か」「なんだ、ケースケ、で、悪かったな。」「紛らわしんだよ、声、そっくりだから」「いつから、ここに?」「ん~、夕べ?」疑問系かよ?「ひとりで?お父さんは?」「夜勤」ったく、みんな、ほんと、頼むよ。俺はため息をつきながら、「起きれるか?」「無理」「無理、じゃねえだろ。葬式でないつもりかよ」美莉は痛むらしい頭を抑えながら、ゆっくりと起き上がり、「出ないよ、そんなの。」「出ないって、、葬式って、、そういうもん?」「ヒロトが死んだってことは、よく分かってるもん。」「ミリ」俺はまた、ため息をつき、「分かったよ。出なくてもいい。でも、この部屋からは、出ろよ。家まで送ってやるから」「ここがいい」という美莉。「だめだよ」「なんで?」「この部屋に1人でおいとくと、変な気起こしそうに思えるんだよ」「起こさないよ」「信用できない。じゃあ、ジュンペーか誰か、ここに呼ぶぞ?」バンド仲間の名前を出してみるが、美莉は、「やだ」と一言。どうしたものか、考えていると、「ケースケが一緒にいてよ」「はあ?兄貴の葬式に出んなっていうのかよ?」「抱っこ」俺に両手を伸ばす美莉。「ミリ、お前な~」「いいじゃん。。。ダメ?」「ありえねぇ」「お願い」「俺のこと、嫌いだろ?」「ケースケが、私のこと嫌ってるんじゃない」「お互い様だろ?」「私、ヒロトのことは大好きだったよ」「知ってるよ。だから、なんなんだよ」「だから、今、この世で一番似てるケースケにそばにいてもらいたい」「なんじゃそりゃ」「ダメ?」「嫌いな男に、抱っこされて慰められるもんなのか?」「この場合、好きな方が、まずくない?」「・・・」「・・・」「あ、妙なこと言った上に、妙な間をつくんじゃね~よ」美莉は目を閉じたまま、ぼんやりと俺に問う。「ヒロト、は、、さあ、、、私のこと、少しでも好きだったかな?」「はあ?あんなに愛されてて、よく言うよ、この酔っ払い」「じゃあ、なんで、自殺なんて」言葉につまる。俺だって、知りたい。「私、ヒロトにひどいことしたのかな?」涙が美莉の頬を伝う。「なんで?なんか思い当たることあるのか?」「・・・全然、ない。」俺は、またまたため息をつき、「じゃあ。してないだろう。ヒロトは、ミリに傷つけられたりはしてないはずだよ。」そう、いつも、幸せそうに、愛しそうに美莉の話をしていたんだ。紘人。。「だったら、なんで・・・?私、、ヒロトを助けることもできなかったよ、ケースケ。・・・全然、何にも気づかなかった。ヒロトがここで、自殺するほど、苦しんでたなんて。。」「ミリ・・」俺は、とっかえひっかえ女と寝るのは、もうやめていた。だから、そのときの俺は、正直言って、ベッドに女と寝転んだりするのはやばい状況だった。ましてや、あきらめられなかった、美莉と。だけど、さすがに、俺にも理性はある。兄貴が遺していった恋人を、兄貴の葬式の日に襲ったりしちゃいけないってことくらい、分かるよ。だから、俺は、ただ、美莉を優しく抱きしめて、横になり、背中を撫ぜてやったんだ。美莉は、ほどなく、寝息を立て始めた。そう、それが、添い寝の始まり。こんなに長い迷宮への入り口になるとも知らずにいた頃の俺。そして、美莉。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.10
コメント(4)

目が覚めるとまだ暗かった。隣に人の気配がないことで、一瞬、どこにいるのか分からなくなる。横に目をやり、ベッドを見て、思い出す。そっか、私、とうとう、「添い寝はいいや」、なんて言っちゃったんだっけ。「なんで?」って、多分、、、思いっきりへこんでる声のケースケにロクな返事もできなかった。ごめんね、ケースケ。ちゃんと説明しようとしても、うまくいかないんだ、きっと。でも、ケースケとちゃんと向き合いたいから選んだこと。3ヶ月くらい前、ケースケが仕事で遅くなった日。1人でワインを飲んで(そして、飲みすぎて)、ついつい、パソコンで始めたこと。それは、ブログを使って、連載小説を書くこと。2年間、添い寝の関係のままで、膠着状態の私たち。私を愛してくれてるのに、添い寝以上に踏み込めないケースケ。ケースケを愛しているのに、気持ちを伝えられない私。だからって、離れることなんて、できるはずもない私たち。誰にも相談できない微妙な関係。ううん、相談できないっていうのは違うな。相談しても、みんなが言ってくれる答えは分かってる。「ミリの思うままにしなよ。それを応援するから」って。時が経つにつれ、心に静かに降り積もる、不安と焦り、そして、もちろん、ケースケへの愛情もさらに加速度を増して。自分の中に積もったものを、小説という形で、吐き出すことで、何か、この状態を抜け出す、ヒントが得られればって。そうすることで、自分が何を考えているのか、客観的に見てみたかった。ケースケには言えなかった。第一、恥ずかしいし。どんな結末になるかも分かんないし。ケースケが読むと思うと、素直に書けない気もしたし。ケースケに、挙動不審って思われながらも、書き続けた。ケースケを、心配させて、不安にさせてるの分かってた。でも、書き続けた。なんとか書き上げた1作目のカップルは、ハッピーエンドになった。ほっとした。書き続ける中で、いろんな人から感想をもらった。励ましてもらった。とても嬉しかったし、救われた。そんな人たちの中で、1人。メールをやり取りする人ができた。自分の中の一番不安定なものを見せる場所、自分の中の一番不安定なものを素直に書いている場所、で、知り合った人。気づけば、「添い寝」のことを、話していた。で、言われたこと。「自分に気がある男に、添い寝してもらうのは、まずいんじゃない?」私たちのことを何も知らないからこそ、の、素直な感想。でも、言われて、ふっと、我に返った部分があった。そうだよね。確かに、いつまでも、私はケースケに、こんな風に甘えていちゃいけないんだ。甘えてるから、先に進めないんじゃないかな?まずは、添い寝を断って、それから、しっかり自分の気持ちを見つめなくちゃって。だから、思い切って、添い寝、断ったんだ。私は、起き上がり、ベッドで1人眠るケースケの寝顔を見つめる。優しいケースケ、優しすぎるケースケ。本当は、そんなとこまで、ヒロトと一緒だったんだね。音を立てないように立ち上がりドアを開け、リビングに行く。パソコンを立ち上げて、キーを叩く。今は、こうして、私たちに起こった事実に沿ってとても正直に書いている。ケースケとミリ、2人のストーリー、エンディングはどうなるだろう?もちろん、ハッピーになりたい。そこに到達する道を、こうやって探してるんだ。だから、ケースケ。もう少しだけ、見逃して?←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.09
コメント(2)

紘人と美莉が付き合いだしたことを聞いたのは、高校に入ってしばらくしてからのことだった。その時のことは、あまりよく覚えていない。頭が真っ白になったってこと以外は。だって紘人は、兄貴だぜ?しかも美莉が惚れるのもなんの不思議もない、俺だってずっと憧れてきた人間なんだ。紘人が相手じゃ、美莉を奪い取ることも、いつか2人が別れた後に、美莉に近づくことも、もうできない。限りなく近くにいるのに、恋人候補、としては、誰よりも離れた場所に立つことになってしまったんだ。俺は、仕方なく、高校の3年間、とにかく美莉をあきらめる努力をした。つまりは、物理的な距離をとことん置こうとした。美莉と一緒の高校に行けること、マジで嬉しくて、合格の日は眠れないくらいだったのに。もちろん同じ部に入るのも、バンドもやめた。放課後、学校や家で顔を合わせずに済むように、友達に紹介されたモデルのバイトを始めた。そして、相手も遊び目当ての女を選んで寝まくった。間違っても俺の気持ちがばれないように、家や、学校(嫌がらせのように何度も同じクラスになった)で美莉と会っても、必要以上に、これまで以上に、そっけなくした。ひたすらそれを続けた。途中で紘人は家を出て、1人暮らしを始めた。それで、美莉と顔を合わせる回数も随分減った。で、結局、あきらめられたか?無理に決まってんじゃん。俺って、結構、一途なんだな、って知ったよ。でも、女遊びの噂も響き渡り、美莉には愛想をつかされたと思う。ことさらに冷たい態度をとり続けたことで、美莉には完全に嫌われたと思う。美莉への想いをあきらめることはできなかったけれど、美莉に愛されることはないだろうな、というあきらめはついた。それで十分だろう?そして、いよいよ高校の卒業式も終わり、俺も1人暮らしをすることになった。やれやれだ。と思っていた矢先、紘人が死んだ。自殺だって?全く冗談じゃない。あいつ、なんで、美莉を遺して。美莉の心を思うと、胸が痛んだ。ヒロトが死んだ日に俺の腕の中で泣きじゃくっていた美莉。俺が美莉の添い寝を始めたのは、その次の日、からだった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.08
コメント(2)

誓って言うけど、ヒロトに心を移してから、またケースケと迷うってことは全然なかった。そこまで、節操なくはない。ていうより、3年間、ケースケに見込みのない片思いをしてきて疲れきっていた心に、ヒロトの温かさと優しさはとっても心地よく染み込んできて、あっという間に、めちゃくちゃスキになっていた。だから、恋人になってからも、ヒロトを愛して、ヒロトに愛されて、ケースケのことを考える隙なんてどこにもなかった、っていうのが正解かもしれない。ヒロトと付き合った3年間。私は、1点の曇りもなく、幸せだった。ケースケは相変わらず、っていうより、もっと、そっけなくなった。自分の嫌いな女が、自分の兄の恋人になって、余計にキライになるって、当たり前なのかも知れないな、って思った。ただ、ケースケとヒロトは男同士にしては、仲のいい兄弟みたいだったから、私のせいで、仲が悪くならないようにってだけ願ってた。私は、時々しか会わないケースケが、相変わらず、どんなにそっけなくても、誰とも変わらないように接していた。私の方は、もう、ケースケには普通の感情しかなかったから、片思いしながら、心のどこかでケースケの態度に傷つきながら、普通に接していた頃よりは、随分楽になっていた。ケースケが、モデルのバイトを始めて、そして、たくさんの女の子と「遊ぶ」ようになったことを知った時のショックも、最小限で済んだのは、ヒロトのそばにいたから。ずっと片思いしていた気持ちのままで、そんなケースケを見ていたら、私、きっと、耐えられなかったと思う。ヒロトは、私に辛い思いなんてさせることなかった。いつも、私のことを、私の気持ちを考えてくれて。いつも、私のことを、見守ってくれて。ヒロトが私を泣かせることなんてなかった。そう、自殺した時を除いては。もう、あれから、2年も経つなんて。。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.07
コメント(2)

「もう、添い寝は、いいや」。あまりの衝撃に、すぐに返事もできなかった。そんな俺にかまわず、「ケースケ、ベッドで寝ていいよ。わたし、おふとんで寝る」と、さっさと布団に入る美莉。俺は、言葉も出ず、もちろん、布団の方にもぐりこむわけにもいかず、ベッドに横になる。「ね、何か、修学旅行みたいじゃない?」美莉が言う。俺はそれどころじゃなかった。一体、なんだって、急に?ずっとずっと、俺の腕の中で眠っていたのに。「もう寝ちゃったの?」囁くようにいう美莉。俺は、それには答えず、「なんで?」「え?」「なんで、急に・・・?」われながら傷ついた声だが、美莉は意に介した様子もなく、「だって、いつまでも、添い寝させてちゃ悪いし。」そんなこと、、、だから、なんで、急に?やっぱり、パソコンで誰かと何か、、俺の添い寝なんて不必要になるような、誰かに・・?心の中は取り乱しきっていたけれど、俺は、ただ、「そっか」とつぶやいて、目を閉じる。ショックが大きすぎて、それ以上たずねる気力もない。「ケースケ」「ん?」「でも、、」でも、なに?「でも、、、何だよ?」「ううん。なんでもない。」俺は察して、ため息をついて、言う。「でも、いつでも、またこっちきていいよ。だから、隣に寝てるんだろ?」美莉は、嬉しそうに、「ありがとう。そういってもらえるだけで、そっちにいかなくて済みそう」という。あっという間に、寝息を立て始めた美莉。俺は、ベッドから少し顔をだして、寝顔を見つめる。あ~あ~あ~あ~、俺、また、他の誰かに美莉を取られちゃうわけ?寝顔を見ながら、思い出したくもない昔のことを思い出した。美莉とは中学の時に部活で一緒になって出会った。見た瞬間にもう、スキだった。一目ぼれ。部活は、軽音部。ギター好きな、野郎ばっかりの中、女のヴォーカルは貴重だった。何バンドも掛け持ちし、ヘタクソな演奏にもめげず、小さな体に似合わない迫力のある声で、いろんなジャンルを歌いこなす美莉に、俺はどんどんひかれた。といっても、そんな美莉に惹かれるのは、当然、俺だけじゃなかったわけで、狭い部の中、抜け駆けなんて許される状況じゃなかった。だから、俺は当然のように、自分の気持ちを隠し、バンドで自分の音と美莉の声を重ねること、そして、時々、バンド単位の少人数で誰かの家に集まり、美莉と過ごせることで満足していたんだ。もちろん、いつかは、ちゃんと気持ちを伝えたいと思っていたけれど。あんまり仲良くすると気持ちが抑えられなくなりそうで、むしろ冷たく、そっけなく接しながら、ゆっくり時期を待っていた。だから、思いも寄らなかったんだ。まさか、美莉が紘人の恋人になってしまうなんて。中学の卒業式の後、部活の中で同じ高校に合格が決まったみんなで、うちに集まろうって日に、美莉が少し早く着いた。俺は、美莉を喜ばせようと、近所で一番おいしいケーキ屋に行っていて留守だった。高校に行けば、美莉に告れるだろうって考えて俺は浮かれていた。で、そのとき、ほんの少し美莉の相手をしたのが、紘人だった。たった、それだけのことで。運命って、、なんていうか、ツラい。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.06
コメント(2)

慶介は私のことを愛してくれている。全然気づかなかったけど、出会った日から。私も慶介を愛している。本当いうと、出会った日から。部室で初めて出会った日から、大好きだった。かっこいいルックス。かっこいい声。かっこいい仕種。でも。慶介は、いつもそっけなかった。他の誰よりも私に冷たかった。多分、私は嫌われていた。だから、ずっとずっとスキだったけど、どうしようもなかった。こちらは他の誰とも変わらないように、接していたけど、せめて、これ以上嫌われないようにって、思ってた。ただ、同じバンドで、慶介の音と私の声を合わせられるなら、それで満足しようって。実際、慶介の音は、いつものそっけない慶介からは考えられないくらい、温かかった。だから、やっぱり慶介のこと、あきらめられなかった。同じ高校に受かった日は、すごく嬉しくて眠れなかった。同じ高校に行くメンバーで慶介の家に集まるからって、珍しく、慶介に優しく誘われた時は、とっても嬉しかった。嬉しくて、すごく早く着いちゃった。で、インターホンを鳴らしたら、慶介が出た。「ケースケ?ミリだよ~」「ミリ、、?」「ごめん、ちょっと早く来すぎちゃったかな?」「あ、ちょっと待ってくださいね」なんで?敬語?首をかしげる私の前に。ドアを開けて出てきたのは、初めて会う男の人だった。それが、紘人だった。「すいません。私、間違えちゃったんですね。失礼な感じ、、でした。。。」へこむ私に、優しく微笑んで、「気にしないで、よく間違えられるんだ。ケースケは、ちょっと何か買いに行ったみたいだけど、どうぞ、あがって待ってて」「いいんですか?」「もちろん。あ、今、家には僕しかいないから、君が、身の危険を感じなければ、だけど。」真面目な顔でいう紘人に、私がつい笑うと、「でも、僕は、自分でいうのもなんだけど、安全な人間だと思うよ」と言って、招きいれ、慶介が帰ってくるまで、私の相手をしてくれた。声だけじゃなく、よく見ていると、顔も、仕種も慶介によく似ていた。そして違うとこ。とっても優しいこと。言葉遣いも、話し方も、微笑み方も。慶介のちょっと大人で、優しいバージョン。私は、本当に節操なく、その日のうちにヒロトを好きになっていた。3年間、一緒にいた、3年間、片思いだった慶介よりも、もっと。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.05
コメント(0)

最初に、おかしいな、と思ったのは、3ヶ月くらい前。俺が、風呂から上がって、リビングに戻った時。リビングの隅っこにおいてあるパソコンに向かっていた美莉が、なんだかバタバタと焦って、ウインドウをいくつか消したみたいだった。「?」と、思いつつ、まあ、別に何も言わなかった。でも、そういうのが、何度か続いた。さすがに、気になってくる。だから、聞いてみたことがある。あれは、まだ疑念が口に出せるくらいの頃。2人の共通の友達であるバンド仲間が来ていたときに。「最近、ミリが挙動不審なんだよ。」「美莉が?なんで?」「なんか、こそこそやってんだよ。パソコンで」「あはは、そりゃあやしい。」「何やってんの~、美莉?」「何してると思う?」「ん~、わかんね」「せっかくだから、何か想像してみてよ」「・・・やっぱ、出会い系とか?」「あはは」「じゃあ、エロ画像?」「ちょっと、そういうのしかないわけ?」「ん~。。」「ゲーム?」「だったら、隠さねえだろ?」「やっぱ、あれじゃない?ネット恋愛?」「なにそれ?」「てか、ネット不倫?」「あのね~・・・」「不倫?あ、やっぱ、お前らそういう関係になったわけ?」「なってないない」即座に否定するミリに、軽いダメージを受ける俺。「まじで?なんで?わっかんないな~。若い健康な男女がずっと添い寝だけってありえるのか?」「若い・・」「健康な・・」「男女・・?」みんな、その発言の主、准平に目をやり。「表現が、オヤジ過ぎるっ」「ほっとけよ。」「ん~、いや、いまさら言えないだけで、俺は、ヤッてると踏んでるな」「ああ、確かに、だって、ケースケだぜ?最近、オンナといるの見ないしな」「だよね~。ケースケが2年近くもオンナなしで過ごしてるなんて、おかしすぎるっ」結局、俺たちの話になっちゃってるし。思い切って聞いてみたのに、真相は分からず。それからも、美莉の、怪しい(と言い切ってやる)行動は続いている。ていうか、自分が俺に隠して何かをしてるってことが、俺にばれたことで、吹っ切れたように、さらに、堂々と挙動不審になってるし。悪びれた様子もなく。あ~、気になる。出会い系、エロ画像、ネット恋愛、ネット不倫。。?あいつら、人の気も知らないで、ろくでもないことばっか言いやがって。表面上、気にしてないって振りして頑張ってたつもりけど、多分、気にしてるのバレバレ。でも、美莉は、そんな俺を気遣ってくれるつもりはないようだった。で、俺の悩みと心配がピークになったとき、とうとう恐れていた瞬間が訪れた。その夜、ベッドの隣には、一組の布団が敷かれていた。「何これ?」たずねる俺に、美莉は、屈託なく微笑み、こう告げた。「もう、添い寝は、いいや」。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.04
コメント(4)

夜中にふと目が覚める。慶介を起こしてしまわないように、目だけを動かして、慶介の寝顔を眺める。月明かりに照らされる慶介の寝顔。少し難しい顔をしている。悩ませているのは私、、だよね?紘人が死んですぐから、もう2年も、慶介はこうして添い寝してくれている。闇の中で目を覚ましても、悪夢に目を覚ましても、いつもそこには優しい慶介の顔。私が身動きすれば、すぐに目を覚ましてくれる。何も言わずに、優しく微笑んで、大丈夫だよって伝えてくれる。私はずっと、慶介に嫌われていると思っていた。同じバンドにいた時も、紘人と付き合いだしてからも。だから、最初はとまどった。なんで、いつもきて、添い寝してくれるのか。聞いてみたことがある。あれは、まだ、紘人が死んでまもない頃。添い寝してくれている腕の中で。「ねえ、ケースケ、なんでいつも来てくれるの?」「イヤなら来ないけど?」「イヤなんてことないよ。私は、嬉しい。添い寝してもらえると、すごく安心できるし。でも、、誰かと寝ないの?」「ほっとけよ」「いつもあんなに、次から次に女の子、とっかえひっかえ。。昼も夜もだったじゃない?」「人を変態みたいに言うな。」「だって、事実じゃない」「・・・ちょっと前に、そういうのやめたんだ」「なんで?」「・・・・」「ヒロトが死んだから?」「違う、その少し前から」「・・・?」「たまたま寝た女が、よりによって同じ事務所の仲間の女だったんだ。ふざけた女で、そんなこと何も言わなかったから、全然知らなかった。そいつは、俺を責めずに許してくれたけど、、さすがに、申し訳なくて、自粛することにしたんだよ」「今は、、、じゃあ1人で・・?」「そこまで聞くな」「・・・変態」「どっちが?・・じゃ、お前を抱こうか?」「だけど、ケースケは私に興味なんてないでしょう?こんなに一緒に寝てて、ほんとに全然、手を出さないなんて、よっぽどケースケは、私がキライなんだね。」「・・・(フーっ)」「何のため息?」「別に。・・・俺はキライでも、いい女なら抱けるぜ。」「・・・」「冗談だよ。離れんなよ。だからって俺としたくもない女を抱くほど女に困ってない」「じゃあ、やっぱり、今も昼間に、誰かと寝てるの?」「・・・もう、いいだろ?この話。あんまりしつこく聞くと、今、ヤっちゃいたくなるかもよ?」この頃はまだ、添い寝してくれる以外は、そっけなかった慶介。だから、まさか、私を愛してくれていたなんて、私は全然、気づいていなかった。その深い愛情を知ったのは、それから、しばらくして、あることが起こったから。慶介の愛情を知ってから、もう1年と半分。私は、その愛にどう答えていいのか分からないまま過ごしてきた。それでも、今も私を抱くこともなく、添い寝を続け、穏やかに変わらない愛情をくれる慶介。ごめんね、ケースケ。もう1度、慶介の寝顔を見る。少し、体が動いてしまったのか、眠そうに薄く目を開けてこちらを見る慶介。「・・ど、した?・・眠れない?」ケースケの寝起きの声は、いつもよりも低くて、とってもセクシーで私をドキドキさせる。私は、その思いをさとられないように、ゆっくり首を振ってから、微笑んで、慶介の胸に、頬をつける。慶介は、私の背中にそっと手を添えてくれる。ずっと、こうしていたい。ずっと、ケースケの腕の中で。この感情は、紛れもない、「愛」だって知っている。随分前から気づいている。私は、ケースケを愛している。でも・・・。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.03
コメント(2)

「ケー、スケ」今度は、俺の名前を呼ぶ美莉の寝言に、2年前の過去から引き戻される。俺の左腕に頭をあずけ、左胸に手を置いて眠る美莉。寝言を口にしても、さっきとは、違う穏やかな表情。美莉、俺、今、お前の中でどんな存在?聞きたいけど、聞けない。今も変わらず、俺の腕の中は、美莉のための場所。何人オンナを抱いたって、誰も腕の中で休ませたりはしなかった。誰も、泣かせたり、寝かせたりしたことはなかった。まるで母親が生まれたての赤ん坊を見つめるように、美莉の寝顔を見つめ続ける俺。美莉の未来に、特別素晴らしいことなど待っていなくていい。ただ、そう、生きることさえ困難に思うような苦しみが待っていないようにとだけ願う。安らかな寝顔を守り続けたい、と。そう願いながら、ただ「添い寝」している。ただの、「添い寝」、だ。全くばかげていると思う。俺は、自分が寝たいと思えば、たいていの女と寝れることを知っている。事実、兄が死ぬ少し前まで、とっかえひっかえ多くの女と寝てきた。その数も100人は下らないだろう。そんな俺が、もう2年も女と寝ていない。いや、美莉とは寝てる。でも、それは寝てるだけ。ヤってない。周りはみんな、当然、俺と美莉がヤッっていると思ってるだろう。そりゃあそうだろう?だって、この俺と、一緒の布団で眠ってるんだぜ?そして、ここが非常に重要なことだが、俺は、美莉を愛している。ぶっちゃけ、ずっと愛してきた。そう、紘人が美莉に会うよりもずっと前から。ずっと長い時間。だけど、・・・というよりも、だから?、、美莉のこと、抱けない。だって、美莉は俺のこと、愛してなどいないから。ただ、眠る時に、誰かのぬくもりが、必要なだけだから。だから、ずっと、添い寝、でガマンしてきた。他の男に、添い寝(だけじゃ、きっとガマンなんてできないだろうから)させるくらいなら、俺が。そう思ってきたんだ。それで、満足してきた。でも、最近、美莉の様子が少しおかしい。挙動不審って言ってもいい。夜中に、そっとベッドから抜け出して、パソコンで、こそこそ何かしていることがあるんだ。夜中に限らず、パソコンでしていることを俺から隠そうとしてる。これまではそんなことなかったのに。気になる。。一体、何やってんだろ?←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.04.01
コメント(2)
全29件 (29件中 1-29件目)
1

![]()
![]()