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January 2, 2016
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カテゴリ: 歴史人物
「何となく、/今年はよい事あるごとし。/元旦の朝、晴れて風無し」。新春のおだやかな空に、石川啄木のこの歌はよく似合う。借金と病気に苦しんだ啄木だが、それだけに新しい年への思いも強かったのだろう。ほかにも「悲しき玩具」に正月の歌はいくつかある。

たとえば「年明けてゆるめる心!/うつとりと/来し方をすべて忘れしがごとし」。元旦を迎えれば気分一新、いやなことも消し飛んでいくというものだ。なれば朝酒など口にして眠くなり「腹の底より欠伸(あくび)もよほし/ながながと欠伸してみぬ、/今年の元日」。心はいよいよゆったりと、そしてしばし夢を見たかもしれない。

啄木が新年にこうも希望を寄せたのは、明治末という時代ゆえでもあろう。駆け足で近代化を達成した日本はロシアとの戦争にも勝って列強の仲間入りをする。けれども次の時代が見えない。政府は大逆事件で社会運動を封じて体制維持に躍起となる。自我に目覚めた青年に出口がない……。啄木の言う「時代閉塞」である。

そんな状況を現代になぞらえる声は昔からあったし、いささか安易だ。とはいえ世の閉塞感は昨今もなかなか強いから、正月ぐらいは啄木にならって「今年はよい事あるごとし」と希望を持つとしよう。この明治の異才は時代閉塞を唱えつつこんな詩も残している。「見よ、今日も、かの蒼空(あおぞら)に/飛行機の高く飛べるを。」

【春秋】日本経済新聞2016.1.1





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Last updated  January 2, 2016 06:55:01 AM
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