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March 30, 2016
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カテゴリ: 文化
藤野 豊

誤った政策が社会に差別を

かつて、らいと呼ばれたハンセン病は微弱な感染症であるのにもかかわらず、国は優勢政策や社会防衛策の一環として、すべての患者を生涯にわたって強制隔離政策を進め、膨大な人権侵害を生み出した。

1907(明治40)年に法律「癩病予防ニ関スル件」が交付され、96(平成8)年に、らい予防法が廃止されるまで、法的には絶対隔離政策は維持された。この90年にわたる誤った政策により国民の間にハンセン病は恐ろしい感染症であるというイメージが浸透し、患者とその家族に対する差別が社会に根付いてしまった。

今年は、らい予防法が廃止されてから20年、ハンセン病患者への絶対隔離政策は誤りで、らい予防法は違憲であったと断じた、らい予防法違憲国家賠償訴訟の熊本地裁判決から15年、さらに、かつての植民地で、日本がハンセン病患者の絶対隔離政策を開始してから100年に当たる。

それだけではない。絶対隔離政策が患者の家族に与えた被害に対する国家賠償訴訟も新たに提起された。また、刑事事件の被告となった患者が、隔離されたなかで裁判を受けさせられた「特別法廷」の違憲性も問われようとしている。まさに今年は、ハンセン病と人権について考えるうえで大きな節目の年となった。

こうした年に、私は絶対隔離政策に抵抗した医師・小笠原の日記の解読を終え、3月に『孤高のハンセン病医師—小笠原登「日記」を読む』を六花出版から上梓する。


国策に抗し研究、治療へ

小笠原登とは、どのような人物なのか。



小笠原が勤務していた京大の皮膚科特研は、皮膚科の病棟からも独立した建物で、小笠原はここに患者を入院させることで、外見上は隔離の体裁をとり、国の法律に違反しないように配慮した。43年1月15日、小笠原は「朝日新聞」の記者に対し、「細菌性ノ病気ナレバ隔離又ヨシ。シカレドモ菌ノ発見困難ナルモノヲ家計ヲ脅カシテマデ隔離スル要ナシ」と語っている。

隔離は患者と家族から生活を奪う結果になる。軽症であったり、治癒して他者に感染させる恐れのない患者まで隔離する国策に小笠原は反対した。


学会の攻撃にも屈せず

小笠原は、ハンセン病は感染症ではあるが、感染力は微弱で、発症には体質が影響すると考えていた。ハンセン病に関わる多くの医師も同様の知見を持っていた。そうであれば、絶対隔離は不要なはずだが、多くの医師は自らの医学的知見を封印して絶対隔離とする国策に従った。これに対し、小笠原は自らの医学的知見に従って絶対隔離を批判し、抵抗した。

さらに、小笠原は、ハンセン病は治療できる確信を持って患者を治療した。したがって、皮膚科特研に入院した患者は他の病気と同等に扱われ、小笠原の許可を得れば外出も一時帰省・外泊も可能であった。病気が治癒、もしくは軽快すれば退院も認められた。当然、皮膚科特研は入院だけではなく、通院治療も行われていた。

戦時下、小笠原のこうした医療実践は国策に対するものと問題化され、対米英開戦の直前の41年11月14、15日に開かれた日本らい学会総会の場で、絶対隔離を推進する医師たちは小笠原を激しく攻撃。「朝日新聞」は小笠原が論破されたのかのように報じた。

小笠原は、15日の日記に「我ガ体質論ニ対シテ駁論アリ。余遅刻セリ。シカシテ我ガ駁論ノ終リノ頃入場質問ニ応戦シ縷々弁ゼントシタリシガ発言ヲ阻止シテ十分発言セシメズ。シカシ不利の陳弁ナカリシト雖モ新聞紙ニハ痛ク不利益ニ報ゼリ」と記し、悔しさを滲ませている。

しかし、それでも小笠原は自らの医療実践をやめることはなかった。

日記を解読した今、私は、自らの医学的知見に基づきハンセン病患者の生活と人権を守ろうとした小笠原登に、戦時下においても大学の研究の自由を守った稀有な研究者の姿を見いだしている。小笠原登、読者の方々もその名前をぜひ、記憶していただきたい。

(敬和学園大学教授)


【文化】聖教新聞2016.1.18





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Last updated  March 30, 2016 06:44:46 AM
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