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作家・ジャーナリスト 佐々木 俊尚
インターネットでは最近「フェイク(偽)ニュース」という問題が議論されている。ありもしないデマが流れるのは、情報が精査されないネットでは昔からある現象だが、米大統領選挙に絡んで様々なフェイクニュースが溢れだしたことから、改めて表面化した。たとえば選挙中に、「ローマ法王がトランプ氏を支持した」「ヒラリー・クリントンが小児性愛犯罪者になっている」というようなデマが多く流れたのである。後者のデマでは、フェイクニュースが首都ワシントン DC のあるピザ店を売春の拠点となっていると名指ししたため、 20 代の男が店に銃を持って押し入って発砲、警察に逮捕される事件にまで発展したほどだった。
フェイクニュースがトランプ当選を後押ししたのではないかという憶測もある。どの程度の影響力だったのかははっきりしないが、パブリックポリシーリングという世論調査企業がピサ店のデマについて調べたところ、トランプ支持者の 46 %は「クリントンが関与している」「わからない」と答え、「関与していない」と答えたのと比べれば、違いは明らかだった。
またネットメディア「バスフィード」の分析では、大統領選終盤に SNS で拡散したフェイクニュースは、ニューヨークタイムズなどの権威のあるメディアよりも大きな影響力を発揮し、多く「いいね」され、友人間で共有もされていたという。
このような事態に対処するため、検索エンジン大手のグーグルや SNS のフェイスブックは、フェイクニュースに広告を配信させないなどの排除対策を打ち出している。だがここで問題となるのは、フェイクの基準だ。何が偽で何が真実なのかというのは、党派や思想、価値観などさまざまな要因によって左右されてしまう。実際、トランプ大統領は就任後に米大手のケーブルテレビ局 CNN を「フェイクニュースだ」と非難し、物議を醸している。日本でも、福島第一原発事故後の放射能汚染の評価をめぐっていまだに見解が分かれ続けている現状を思い起こせば、その難しさが理解できるだろう。フェイクニュースは決して米国だけの問題ではなく、また怪しげなサイトを避難していればすむ問題でもない。この問題は、メディア全体にも刃を突きつけているのだ。
昔のように新聞やテレビの報道だけを信じていれば済むという状況ではなくなった以上、私たちは個人としてフェイクニュースに対処していく必要がある。第一に、自分がもともと信頼しているメディアや個人がそのニュースは冷静に書かれているか? ということを確認すること。もし読者の怒りを引き起こすためだけに書かれているのであれば、そのニュースには要注意だ。
(ささき・としなお)
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