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香りの効用
塩田 清二(湘南医療大学薬学部教授)
多様な効果を持つラベンダー
好きな香りをかげば気分は良くなり、おいしそうな香りを嗅げばおなかがすきます。さまざまな香りがどのように脳に作用し、私たちの体に影響するか。そんな仕組みやメカニズムを知ってもらいたく、近著『「植物の香り」のサイエンス』( NHK 出版新書)を出しました。
香りは、鼻の中にある嗅覚受容体で捕らえられ、脳に情報が伝えられます。植物の香りの中には、自律神経系を調節している「視床下部」に作用する者が多く、人間のやる気や集中力などに直接的に働きかけるのです。
例えば、ラベンダーの香り。古代から伝統的なハーブとして利用されています。ラベンダーの心身に対する効果は広く研究されており、香り成分を抽出したラベンダー精油は、高ストレス作用、抗炎症作用、抗菌作用、鎮静作用など、多様な効果が知られています。
特に、ストレスの緩和、リラックス効果は有名です。副交感神経を優位にした、脳を休ませる鎮静効果があるのです。同様の効果を持つ香りとして、ローズウッド、コリアンダー、イランイラン、クラリセージなどがあります。
逆に交感神経を優位にする香りに、レモングラスやグレープフルーツなど柑橘類系の香りがあります。脳をスッキリとリフレッシュさせてくれます。神経を高揚させ、集中したいときに使うとよいでしょう。
レモングラスで認知症が改善
香りの効果は、自律神経の調整による気分の改善だけではありません。ここで、認知症に対する効果を紹介しましょう。
レモングラスの香りをかぐと、交感神経が活性化します。認知症の人は、前頭葉の脳血流が落ちています。そこでレモングラスの香りをかぐと、この部分の血流が最善されることが明らかになってきました。
2014年、介護老人施設の協力を得て、レモングラスの香りが認知症の患者にどのような影響を及ぼすかの臨床試験を行いました。ディフューザーを用いて、昼の活動的な時間帯に2時間ほど、毎日対象者が集まる食堂にレモングラスの香りを流したのです。
その結果、3カ月目には、記憶などの知的機能、以下リポ差などの感情機能、トイレに行けるかという運動機能、自発性などに改善傾向が見られました。昼間に活動が活発になるため、夜は疲れてよく眠れるようになり、不眠症が改善されました。
看護する人にアンケート調査をしたところ、患者さんは、やる気が高まって活動的になり食欲も増したといいます。
アルツハイマー型認知症の場合、親交を遅らせる薬はあっても、根治できる治療法はありません。これまで運動や人とのコミュニケーションなど、複数のアプローチで症状を改善できることが報告されています。香りによる効果として期待されています。香りによる効果は、それをサポートするものとして期待されているのです。
鼻から入り脳に作用
やる気や集中力に働きかける
リラックスしつつ集中できる
美郷雪花という、色白のラベンダーがあります。濃い青紫の真性ラベンダーとは、香りの成分が大きく異なることはありません。しかし美郷雪花の場合、まったく違う成分で、香りも全く異なります。
この香りの効果が面白いのです。驚くことに美郷雪花は、交感神経も副交感神経も、両方とも活性化します。
交感神経の働きが高まると、気持ちは高揚し活動的になります。しかし、冷静さを失ってミスが増えたり、判断を間違う危険性もあります。緊張から体が硬直してしまうことも。
逆に副交感神経が高まるとリラックスして落ち着くことができます。でも、闘争心が亡くなり、集中力も低下します。
この両方が活性化されると、どうなるのでしょうか。スポーツなどで最高のパフォーマンスを発揮できる「ゾーン」に入った状態になります。
つまり、やる気はみなぎっているのに、リラックスしている状態です。試験などでゾーニング効果は働くと、リラックスしつつ集中でき、自分の能力を最大に発揮できるようになるわけです。
さいごに、香りの使い方として注目されているのは塗る方法。ラベンダー精油を塗ると、皮膚から吸収されて、香り成分が骨格筋まで届きます。骨格筋は象基幹ネットワークの基点として注目されており、運動した骨格筋はいろいろな化学物質(マイオカイン)を分泌することが分かっています。
その中には筋肉増大に効果がある物質や、脂肪の分解を促進する物質などがあり、香り成分がそれらの効果を高めるのではと期待されているのです。
=談
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