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帝国アメリカがゆずるとき
玉置 敦彦 著
同盟が持つ不思議な力学
二松学舎大学教授 手賀 裕輔 評
11 月のアメリカ大統領選に世界の注目が集まっている。孤立主義的で近視眼的な行動をとりトランプ氏が大統領の座に返り咲くことを懸念する声が支配的だ。しかし、トランプ氏の主張は多くのアメリカ人の本音でもある。なぜ、我々が犠牲を払ってまで海の向こうのよその国を助けねばならないのか、こうした主張に頷くアメリカ人は多いし、それは今に始まったことでもない。それでも、アメリカは冷戦期に結んだ同盟を今に至るまで維持、拡大してきた。それがアメリカの望む国際秩序を形成する上で必要だったからであるが、「尾が犬を振る」の喩えのように、ときに超大国アメリカは同盟相手の中小国に振り回され、譲歩を行ってきた。こうした同盟が持つ不思議な力学を説き明かしたのが本書である。
戦後アメリカは自らにとって望ましい「リベラルな国際秩序」を支えるための制度として、同盟を形成した。著書によれば、「非公式帝国」アメリカが各国と結んだ同盟は、国力差の大きな非対称同盟であり、それは独自の力学を内包していた。超大国たる手動国(アメリカ)は、追従国(中小国)が同盟から離反することの内容繋ぎ止め(校則)、勝手な外交・軍事行動をとらないよう誓約し(行動抑制)、そして同盟のコストを共に分担すること(負担分担)を求める。その過程で主導国は圧力を行使したり、譲歩を行ったりする。
著者が提示する同盟の提携理論によれば、主導国による圧力行使と譲歩の選択を左右するのは、追従国の国内状況であるという。追従国内には、権力を握り、主導国との同盟を利益とみなす提携勢力とこれに反対する抵抗勢力が存在する。この提携勢力がどのくらい役に立ち信頼できるのか(信頼性)、そして提携勢力の統治は安定しているのか(安定性)これらの要因が主導国の行動を決定するという。
もし主導国が追従国の提携勢力は信頼できず、当地も不安定だと見なせば、圧力が選択される。他方で、提携勢力が信頼でき、安定している場合には、その対応如何によって圧力と譲歩を使い分ける。主導国にとって難しいのは、自分たちの要求が引き金となって提携勢力が不安定化するような場合だが、その場合、提携勢力が配慮すべき相手かどうかが主導国の判断の分かれ目となる。配慮すべき提携勢力に対しては、主導国は譲歩し支援を提供する。
見本では、アメリカとの同盟管理についての議論になると、とかく相手の懐に飛び込む打とか、交渉技術の巧拙が強調されがちである。もちろんそれは重要ではあるが、非対称同盟が持つ力学を踏まえ、より巨視的な視点からアメリカとの付き合い方を考える必要性を本書は示唆している。
最期に付言すれば、本書の実証部分は、膨大なアメリカの実証部分は、膨大なアメリカ政府の外交文書を地道に渉猟し、丹念に読み込んだうえで書かれている。実証に関しては既存の歴史研究のみに依処する理論研究も多い中で、著者の真摯な姿勢には敬意を表したい。
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たまき・のぶひこ 1983 年生まれ。 中央大学法学部准教授(国際政治学)。東京大学法学部卒業。博士(法学)。 専門は同盟論、日米関係史、アジア太平洋国際関係。
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