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戦後体制への憤懣
日本会議の源流となったのが新興宗教・生長の家に出自を持つ右派の政治活動家だったとするならば、現在の日本会議を主柱的に支えているのが、伊勢神宮を本宗と仰ぐ神社本庁を頂点とした神道の宗教団体である。いくら生長の家出身の活動家らが熱心かつ執拗だとはいっても、彼ら自身が巨大な運動力や資金力を持っているわけではない。
この点において宗教団体としての神道と神社界には、けた外れの動員力と資金力と影響力がある。いまも全国 8 万を超える神社があって各地に根づき、その大半を傘下に収める神社本庁は、日本の宗教界でも比類ないほどのパワーを持っている。
しかも明治維新から第二次世界大戦が敗戦によって終結した 1945 年まで、国家が管理した国家神道体制の下、神道神社は国家による手厚い庇護を受けた。そして天皇中心主義や軍国主義体制を強力に裏支えし、無謀な戦争への人びとを駆り立てていく駆動装置のひとつにもなったのである。
国家神道にかんする名著として知られる村上重良「国家神道」( 1970 年、岩波新書)は、その国家神道のあらましと問題点について簡潔にわかりやすくまとめている。同書から関連部分を抜粋してみたい。
〈明治維新から太平洋戦争の敗戦にいたる約八〇年間、国家神道は、日本の宗教はもとより、国民の生活意識のすみずみにいたるまで、広く深い影響を及ぼした。日本の近代は、こと思想、宗教にかんするかぎり、国家神道によって基本的に方向づけされてきたといっても過言ではない〉
〈国家神道は、民族宗教としての神社神道を、二〇世紀半ばにいたるまで固定化した、時代錯誤の国境制度であった。こんにちの日本における、政治と宗教をめぐる問題の基底には、国家神道がつくりだした、前近代的で歪んだ政教関係の遺産があり、神社神道もふくめて、日本の諸宗教は、国家神道によって、近代社会に対応する自主的で創造的な自己展開を阻まれてきた〉
〈国家神道は、世界の宗教史のうえでも、ほとんど類例のない特異な国教であった。それは、近代天皇制の国家権力の宗教的表現であり、神仏基の公認宗教のうえに君臨する、内容を欠いた国境であった〉
そんな国家神道はしかし、日本の敗戦によって 80 年近い歴史に一応は幕を降ろした。敗戦日本が受諾したポツダム宣言が第 10 項で、言論や思想の自由とともに信教の自由などの基本的人権を確立するように要求していたからである。
これを受け、 GHQ は日本を占領した直後の 1945 年 10 月、「政治的社会的及び宗教的自由に対する制限除去」の覚書を発し、治安維持法などとともに戦前の宗教団体法も廃止されることになった。
また同年 12 月に GHQ は、いわゆる「神道指令」を発した。計 4 項から成る同指令は、国家神道が「国民を欺いて侵略戦争に誘導するために意図」されたもので「軍国主義や過激な国家主義の宣伝に利用」されたと断じ、「国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督ならびに弘布の廃止」などを命じて国家と神社神道の完全分離が目指された。
さらによく 1946 年の元日、天皇が年頭にあたって勅書——俗に「人間宣言」と呼ばれる勅書を発し、「天皇を以て現御神とし、且日本国民を以て他の民族に優越せる民族にして、延て世界を支配すべき運命を有す」というのは「架空なる観念」などと自ら断じた。そして同年 11 月 3 日、信教の自由や政教分離の原則が明確にうたわれた現行憲法が公布され、天皇を求心点として国教化されていた戦前の国家神道は葬り去られたのである。
だが、日本の右派勢力や神道神社界の中には、戦後体制への憤懣と戦前体制への憧憬、回帰願望がくすぶりつづけた。英語圏における現代天皇制研究の第一人者として知られるケネス・ルオフ(米ポートランド州立大学教授、同日本センター所長)は、 2003 年に発表した名著『国民の天皇——戦後日本の民主主義と天皇制」の中で、戦後における神社本庁などの動向を次のように分析している。
〈日本が独立を回復してから数十年の間、神社本庁は政治体制とイデオロギーを復活させる足がかかりとなる施策を強く支援してきた。米国製の憲法に象徴される戦後体制を拒否しながら、戦後、主として(1)政教分離を定めた憲法第二〇条の廃止もしくは別の解釈の確立、(2)皇室崇敬の教化——を目標に掲げてきた。そして日本の四七都道府県にまたがる支部を通じて、 8 万以上にのぼる神社の活動を統合している。神社本庁はまたいくつかの関連団体を支援しているが、その中には神道青年全国協議会や全国敬神婦人連合会なども含まれており、これらの団体は紀元節復活運動と、それ以降の政治運動で大きな役割を果たしていた〉
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