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「レジェンドアニメ!」辻村深月 マガジンハウス2020/3/3発行初出九年前のクリスマス 2014/1/1 1/8音と声の冒険 2021/2/3夜の底の太陽 2015/4/22執事とかぐや姫 2015/4/22次の現場へ 2020/6/17「ハケンじゃないアニメ」は書下ろしとあった。「ハケンじゃないアニメ」に落涙した。感動した。一筋の涙が伝わり落ちて、感無量。この本を読んだかいがある。執事とかぐや姫も面白く、次の現場へもいい。他の作品も読ませる。しかし、一番、打ちのめされたのは「ハケンじゃないアニメ」だ。人は話してみないとわからない。きいてみないとわからない。やってみないとわからない。「ハケンじゃないアニメ」だからこそ、最高なんだ。素敵な本を読めて、嬉しかった。レジェンドアニメ! [ 辻村深月 ]レジェンドアニメ!【電子書籍】[ 辻村深月 ]レジェンドアニメ!/辻村深月【3000円以上送料無料】
2023.02.08
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ユダヤ系ポーランド人。この本によると、彼女はドイツに暮らし、パリに移転後、ナチスのユダヤ人迫害を避けるべく両親とともに渡米したある。(Wikipedeliaではカルフォルニア生まれとなっているけれど…)両親の渡米後、カリフォルニアで生まれたのかなぁ…。音楽に厳格な父の下、4歳からピアノを初め5歳でリサイタルをして、7歳で音楽大学に入学し、12歳で卒業。十代でヨーロッパを演奏旅行した。「機械的」という新聞の酷評により14歳で音楽活動から身を引き絶対王者の父親と決裂。その後、紆余曲折、第二次世界大戦後のバッハ・フェスティバルでの演奏をきっかけに26歳でピアニストとして復帰。その後、破竹の勢いの活躍だったが。しかし、無理がたたり、過労で胃潰瘍となり演奏中断。音楽教師をつとめることとなる。(波乱万丈な彼女のことは下記リンクを参考にしてみて)超人ピアニスト ルース・スレンチェンスカ最後の挑戦 - ラスト・ショパン・リサイタル | Liu Mifune Art Ensemble Records ルース・スレンチェンスカ The Art of Ruth Slenczynska (liu-mifune-art.jp)この本を読んで、彼女の存在を知らなかったことを悔やんだ。ラスト・ラスト・コンサートが日本で行われたことを知り、行って聴いてみたかった。現在98歳、カリフォルニアでご健在である。
2023.02.04
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著者初の官能小説とうたわれているので、どのようなものか興味と恐れを抱きながら読んだ。この程度の、といってはおかしいが、岸惠子の「わりなき恋」と同様、驚きはすれど、いやらしいとはとらえなかった。男性作家の場合はどうなのだろうと思ったけれど好んで読んだ渡辺淳一の「失楽園」や「愛の流刑地」など記憶がない。小説の記憶がないだけで映画の「失楽園」でも「愛の流刑地」でも、その濡れ場の記憶はしっかりと残っている。小説が思い出せないのはそのせいか……。島本理生の「よだかの片想い」を読んで、その小説に惚れ込んで読み進めてはいるが、この「RED」という作品を読んでいるときに、小説という作家性ではなく作者自身に惚れ込んでいるのではないかと思えた。自身の母子家庭という体験を時折、小説に投影しているように思えて、その母子家庭の娘だった時の想いが痛切に語られている気がするのである。娘、子供であり女性であることの脆弱性をひしひしと感じる。その思いが小説の中でも散見される。さて、これは学生の時に不倫の相手を体験した女性がその十年後、自ら不倫を体験する話である。何不自由なく暮らせる家庭に嫁ぎながら、女性に無関心というより恐れをなしている夫と一人娘、同居の義父母。物は足りていても不自由さ、遠慮、気苦労を感じる主婦が一人の女性としてどのようにもがき自分らしく生きていこうとするのか、葛藤と試行錯誤の物語である。この物語、生活が破綻するのか、人生をやり直すのか、という岐路に立たされるが、時空をとんで10年後の生活で締めくくられる。どう感じるかは、読み手しだいなのかもしれない。Red (中公文庫) [ 島本理生 ]
2023.02.02
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タイニータイニーハッピー、それは都心を外れたところにあるショッピングモール。東西の端から端はとても遠い。先日いった東京ソラマチくらい距離は離れているんだろうか。吹き抜けを三階までの高さのあるツリーがシンボルとなり鎮座する。人それぞれに個性がある。8人の男女が人を気遣い、思いをはせる。小さい小さい幸せを、その幸せを感じる日々。8人の想いを連作として一つの物語として編んだ本。ほっこり感じる幸せはあっていい。と思う。タイニー・タイニー・ハッピー/飛鳥井千砂【1000円以上送料無料】
2023.01.28
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作者・森絵都があとがきに書いている”この物語は、私のまわりにいる人たちや、どこかでせっせと生きている見知らぬ人たちの夢が消えてしまわないように、消されてしまわないようにと、祈りをこめて書きました。”とあるように、夢を夢で終わらせない、夢を見続けている限り夢である。夢を実現しようと上京し、あくせくした若かりし私自身を思い起こしながら読んだ。私は3年で目が出なかったら戻ってくると約束したにもかかわらず、帰ることなく。紆余曲折を重ね、不慮の出来事で24年目で突然足を洗わなければならなくなった。しかし、田舎に帰ることをできず延々と居続けてしまっている。若い思い。真摯な願い。生きていく術。社会と世間体の重圧に押しつぶされそうになりながら、活き活きと生きるために試行錯誤する。正解な人生なんて、わからない。中学生から高校生になってしまう主人公さゆきの思いに心ゆさぶられた。ゴールド・フィッシュ [ 森 絵都 ]
2023.01.26
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「春の旅人」閉園された遊園地の中に入るとおじいさんがいた。おじいさんは51年前に空からやってくる宇宙亀を見たという。51周期で産卵に戻ってくる宇宙亀を待っているのだという。不思議な話だ。田舎の小さな町の遊園地とともに生きてきたおじいさん。そして、そこにずっと咲いていた桜の木。「花ゲリラの夜」「春の旅人」「ドロップロップ」短編三作品を収録。児童文学作家とイラストレーターによるコラボ本。春の旅人 [ 村山早紀 ]
2023.01.25
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「トロイメライ」人間そのもののロボット。2000年の人口が半減した未来。亡くなった人そっくりのロボットが作られ、亡くなった人のまま存在する。兄の代わり、母の代わり、家族でない誰かもロボットとなり共に生活する。そんな未来で戦争が起こり、当初は戦争ロボットが戦い、壊れていった。戦争ロボットが足りなくなり、亡くなった人のかわりのロボットが動員される。そして、そのロボットたちをメンテナンスする人や開発者たちが戦場へ行く。一人取り残される主人公……。声高ではないけれど、戦争反対の書である。武力よる衝突は20世紀で終焉したのではないないのか、紛争は続き、21世紀の今も戦争とは呼ばない戦闘が繰り広げられている。外交という政治力で解決できなかったのか、武力をもってことを制しようとするとは…。軍部による政権も行われている国がある……。この先の未来でも戦争はなくならないのか……。「トロイメライ」「桜の木の下で」「秋の祭り」短編三作品を収録。児童文学作家とイラストレーターによるコラボ本。トロイメライ [ 村山早紀 ]
2023.01.25
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さすがの新川帆立、次はどうなる?と読者の興味を惹きつける。だから読まずにはいられない。公正取引員会という強制力をもたない官庁の職員女性を主人公に内偵や調査を行い、悪事を取り締まるというもの。しかし、捜査相手が手ごわく難航する。談合や業者いじめなどを取り上げ、殺人未遂事件も絡んでくる。小説は読んでいてとても面白い。しかし、恋愛に関しては疑問に思うところあり、納得はいかなかった。そこは私の恋愛定義とは異なると思い気にとめないこととして読み進んだ。腕っぷしは強いが、正直すぎてバカを見る、あるいは素直すぎてバカを見る、あるいは貧乏くじばかり引く女、主人公・白熊楓。なぜ、このような名前にしたのかわからないが、どんな本にも出てきそうにない独自性あふれた名前だ。ちなみにこの本は既にドラマ化されている。読んでから見ることはできなかったので、ドラマを見たけれど一話を見て頓挫した。おもしろくないというか入り込めなかったから。主人公・白熊楓を演じてた杏も相手役・小勝負勉を演じていた坂口健太郎にも違和感があったのかもしれない。小勝負勉はシュットとしたイケメン俳優が良かったと思う。ディーン・フジオカとか向井理とかがいいけれど、年齢的に無理だったんだろうなぁ。杏が演じた主人公・白熊楓は原作で小柄な女性と明確に書かれている。原作者が想定した主人公、読者が読んでイメージする姿と全く違う長身の杏をなぜキャスティングしたのだろうか。原作ありきであるべきなのに、俳優や制作の都合で改ざんされることは良くないことと思えるのだが。競争の番人 [ 新川 帆立 ]
2023.01.21
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連続ドラマとして見られる作品だなと思った。ググってみると、2021年11月にWOWOWにてドラマ化されている。キャストはまったく思いもよらない人たちばかりでイメージにそぐわない気がした。許容できるのは志村照山役の松重豊くらいかも……。 読み始めると、次の展開が気になる。東日本大震災での原子力発電所の事故の影響から逃れるために京都に避難した妊娠初期の女性・篁菜穂(たかむらなほ)が主人公。一族の有吉美術館で副館長を務めている。絵画に慧眼を持つ女性で、とある美術商で見た小さな作品に魅力を感じ、その画家を後押ししようとする。美術館と美術商、画家と画商。実家の社業の行く末もあって興味がつかない。京都の書の大家の一人住まいに居を移し、京の世界を知ることにもなる。興味を惹きつけて離さないのは菜穂とその母、その夫との関係。世に出ていない画家。数多くの秘密があり、各人の思いが交錯する展開に、次はどうなると興味を抱かせ、読み手を離さない。ものすごい力のある作品だと思えた。ただ、難点があるとすれば連載小説ゆえか、その人物や背景をすでに説明しているにもかかわらず、新しい賞にてくどく説明する文があるように思われたこと。テレビ番組がCMあけにその前の映像を繰り返すような食傷を思えた。また、菜穂の出生や過去の秘密に加えキーパーソンと思える人が各々秘密をかかえていて、そのことが終盤一気に知らされる。この秘密の重要性、関連度が緊密で重大であることにやや“やりすぎ感”を感じた。とはいえ素晴らしく推進力があり読み手を惹きつけて離さない魅力は相当なものであった。原田マハ、さすがの小説である。異邦人 (PHP文芸文庫) [ 原田マハ ]異邦人 [ 原田マハ ]
2023.01.19
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岸惠子さんの書籍はいくつか読ませていただいた。今回も”豊穣な愛を求め彷徨う”本を読もうと意気込んだ。「愛のかたち」はとても素敵な物語であるけれど、”結”がないなと感じた。起承転結の結である。物語の終わりがなく、まだ続いている、それで終わり。終わりがない分、途中で投げ出された感じがしたが、これはこれである種の終わり方なのかもしれない。突然の衝撃な事故が起こり、さあどうなる!?というところで足早に終わってしまった物語であった。「南の島から来た男」は短編と呼ぶには長く、中編と呼ぶには短い若き日の恋物語を思い出に今を生きる女の過去の思い出との決別の書なのかもしれない。おもしろく読んだ。愛のかたち [ 岸 惠子 ]
2023.01.15
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「革命前夜」重々しいタイトルである。DDRと記述されているので、東ドイツのことだろうと思っていたが、まさに東ドイツ、正式名称はドイツ民主共和国。民主的でないところが民主とは、皮肉に思える。音楽の小説と思ったけれど、もちろん、音楽のシーンはあるけれど、それよりも恋だったり人権運動だったり、亡命だったり、東ドイツにおける日本人留学生から見た世界観というものだった。驚きの展開が次、次といくつも続くが、国の体制についてのことが重々しくのしかかるせいか、恋や友情、あるいは音楽よりも社会、体制に支配される。読んでいて囚われれの気分だったのは監視されている主人公の気持ちになったのかもしれない。めくるめく音楽の世界を味わえると思って読んだせいか、音楽小説には思えなかった。読後、朝井リョウの解説が言いえて妙だった。納得。革命前夜 (文春文庫) [ 須賀 しのぶ ]
2023.01.11
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恥ずかしながら獅子文六という作家を知らなかった。しかし、コーヒーは好物である。恋愛も好物というか、恋愛ドラマは大好きである。であるからして、好物ふたつを題名にした書物を見過ごすわけにはいかなかった。読んで見た。面白い。私が映画俳優を志し、やむなく俳優養成所に通って演劇なるものに手を染めたことがあったせいか、はたまた獅子文六が文学座に関与していたことに興味をもったせいか、興味を持って読んだ。テレビ創成期の舞台俳優たちがテレビドラマに出演し始めたころの脇役ベテラン女優が主人公である。8歳下の新劇の演芸部の夫がいる。夫がいるといっても事実婚だと、あとあとわかる。この時代に事実婚とは大いに驚いた。その夫は新劇命というほど新劇に溺れているのだが、新人新劇女優に惚れ込み女優として育てたいという意欲から抜き差しならぬ関係になって…。となるが、もう一方のコーヒーであるが脇役ベテラン女優はコーヒー愛好家のグループに属していて、彼女は雑にコーヒーを入れるが天下一品の味わい・風味を出せる。で、8歳年下の内縁夫はコーヒーの味ききが出来る男で、彼女のコーヒーに惚れて結婚したような…。といった展開で予期せぬ出来事が読んでいて面白かった。主人公の女ごころ、わかるなぁ…。コーヒーと恋愛 (ちくま文庫) [ 獅子文六 ]
2023.01.11
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読了するとこの本の題名「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」の意味が分かる。美人ではない(ブス)が人の良い仕事熱心な取材ライターをしている30代独身女性が主人公。その彼女が様々な男性と関わり合いを持つ相手は年配のイケおじや若手シンガーなどバラエティーに富んでいる。このまま一生独身かもという思いがある中で出会った中年オヤジ。彼とは…。独身三十路娘を持て余す両親や気の強い妹との軋轢。その妹も一つ章立てて妹の考え感覚を記している。その点も踏まえ、なかなかの作家だと島本理生を思った。名前が理生。理(ことわり)に生(いきる)という、シビアな生き方が求められえるような名前である。しかし、理(ことわり)に生(いきる)という小説は読みどころ読みごたえがあり読んで見たいと思う。私が作家島本理生に惹かれる理由は感性だと思う。彼女の紡ぐ物語が彼女の感覚・感性を表現し、その表現が私の心を突き刺し、鷲掴みにし、弱者としての女性の立ち位置、思いを理解させてくれる。彼女が書く主人公が愛おしい。読んでいて、親身に話を聞いてみたい気がする。この本の内容も結末も考えさせられる良いものであった。わたしたちは銀のフォークと薬を手にして [ 島本理生 ]
2022.12.30
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本屋大賞にノミネートされた朝井リョウ「正欲」。題名から下ネタ、淫靡な印象を持つとともに何か真っ当なというか清潔感を感じさせる。はたして、その内容は……。朝井リョウの本をまともに読んだことがない。一度、綿矢りさの本とともに読み始めたことがあったけれど、どちらも若くて受け付けず投げ出した、と思う。つまり、読んでいない。この「正欲」は本屋大賞にノミネートされた時から注目していて、というか2022年のノミネート本をすべて読んで見ようと思い立ったことがあった。しかし、時間も本を買い求めるお金も(余裕が)なく諦めてしまった。その結果、遅ればせながら図書館で借りようという予約待ちをしたのだが、これまたなかなか順番が回ってこない。買い求めた2位の『赤と青とエスキース』青山美智子(著)PHP研究所は二度読みしたのだが……。本屋大賞である『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(著)早川書房も先日ようやく読んだ。このような第二次世界大戦下のソ連で狙撃者として養成される少女を主人公として書いた戦記物が大賞受賞であったことに読んで見て大いに驚いた。なぜなら感動よりも驚きが多く、また大きかったからである。書店員の皆様の感性がこれを推したかったと思うと戸惑いを感じたのかもしれない。そして、この本「正欲」である。読んで見て、やはりとっつきにくく感じた。朝井リョウの文体がそうなのか、内容がそうなのか。はたまた構成のせいなのか。構成が同じなのが住野よるの『腹を割ったら血が出るだけさ』双葉社である。幾人かの登場人物がその時の行動や考えを数ページにわたって書いていて、その登場人物が入れ代わり立ち代わり展開していく。そして、クライマックス、結末に集約していく。登場人物たちも出会い、集まってくる。『腹を割ったら血が出るだけさ』では結末が存在していたが、「正欲」には結末がない。または、結末がないように思える。著者・朝井リョウとしては結末を書いたつもりであるかもしれない。しかし、読者には、いや私には汲み取れない。明確な結論や結果が提示されず、暗示されていた欲の正当性を……。んぐぐ!書けぬ。終盤の内容を提示してしまうことになるため、書けない。というわけで、いろいろな現代的思いが詰まった作品であるが、結論がないことに不満を覚えた。正欲 [ 朝井 リョウ ]
2022.12.29
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こ、これが「本屋大賞」……。これが、アガサクリスティー賞。どちらの賞にも選ばれるべく内容は異質のような気がするけれど…。第二次世界大戦にてドイツに攻め込まれたソ連を舞台にした狙撃手の戦いについて書かれたものであり、そこにミステリーとか感動といったものはないように思えるのだけれど……。この作品の長さは読む者にとって少々、骨が折れる所業であるが、主人公セラフィマを通して見えてくるのは戦争の悲惨さ、残虐さ。兵士が人間性を失う必然性というか、「行くも地獄、退くも地獄」となった苦境に陥れば何があっても仕方がないように思える。また、現世界で行われているロシアによるウクライナ侵攻において殺戮が行われていることを鑑みるに、捕虜や市民に対して人道的な取り扱いができないことを野蛮で不思議に思っていたけれど、生死の際にいて眼前に死しか見えない逃げ道のない境遇であれば何事もあり得る、他人を切り刻むことはあり得るということを認識した。このことを認識させてくれただけでも読むに値する本なのだと思える。こういった戦争に関する書物で残忍で残虐な内容がのったものが本屋大賞に選ばれたということが驚きである。評価するには唸ることしかできない私であった。同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂 冬馬 ]
2022.12.25
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これは本ではなかったのかな?「すぐそこのたからもの」文庫を読んだ。小説ではなくて、エッセイ?よしもとばななが一人息子チビちゃんに抱く思い。チビちゃんとの生活。チビちゃんとの日々。チビちゃんの行動。そういったものをわずかな漢字とおおくのひらがなでつづった本。きっとおかあさんたちだけでなく、チビちゃんのようなこどもたち、おともだちにも読めるように書いたのかなぁ。愛すべきこどもとの日々がつづられて、とても愛おしく思えた。すぐそこのたからもの (幻冬舎文庫) [ よしもとばなな ]
2022.12.24
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初めて読んだ時から、とても惹かれる青山美智子の本。短編の連作をつなげて、一つの物語をつくるというのが、ある種、彼女の方法だ。「鎌倉うずまき案内所」という、ちょっと不可思議な空間を通過して経験する思考の変換、見る目の変化。心持ちの持ち方。平成の終わりから始まるこの物語は時代を逆走していく。平成という時代を30年代から20年代10年代そして平成元年=昭和64年へと。総てを読んでみて初めて時代を逆走していることを知る。この文庫本では巻末に丁寧に年表がついている。そしてそれぞれの短編の時代を明示してある。逆走する物語を読み終えてみると、順列通りに時代の流れに沿って読み直してみたいと思う。不思議だ。とても感動し、心揺さぶられながら、夢見たように、目覚めるとともにその夢の記憶が薄れるように、青山美智子の物語の記憶は薄れていく。それゆえか、その感情をもう一度味わいたいのか、記憶を取り戻したいのか、もう一度読みたい、読む直したいという衝動に駆られる。不思議な作家である。そして私のお気に入りの作家である。鎌倉うずまき案内所 (宝島社文庫) [ 青山 美智子 ]
2022.12.24
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壮大なスケールというか時間軸としても女性の一生をほぼ描いているのだから長丁場である。第一部、第二部、第三部と発表する媒体が本、WEB,そして書下ろしとなり、とても根性がいった作品だと思う。そして、参考文献としてあげられている書物が100冊以上。この参考文献を読むだけでも至難の業である。年表を作り創作したということだけれど、どこまでが真実でどこまでがフィクションかはわからないけれど事実として新渡戸稲造をはじめとして津田梅子や平塚らいてうなど歴史に名を遺す人々が数多く表れ交流し、明治・大正・昭和という激動の時代を女学校から短大創設までの悪戦苦闘をシスターフッドとなる人を中心に描いている。天晴れというほかない作品である。女性大河小説を評したこともむべなるかな。感嘆し、圧倒された。らんたん [ 柚木 麻子 ]
2022.12.17
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「おまじない」西加奈子短編集。西加奈子の本を初めて読んだ。短編ゆえ、読みやすいのかと。短編ごとに区切って読んだ。8編の物語だが、記憶に残る物語はない。もっとも昨日読んだ「ドラゴンスープレックス」は記憶にある。おっさんが登場する物語だ。関西弁が小気味いい。そういえば他の作品でも関西弁のアクセント、ニュアンスが感じられてとても心地よかった気がする。そこのところは私自身が関西人のせいなのかもしれない。確たる芯になるものをとらえているのだけれど表現として表出していないのは表現できないからか、それとも表現しえないものとして表現しているからか。なにかわかるようなわからないような、それでいてエモーショナルなものを書いている気がした。ふむ。関西のなんでも口に出してしまうノリ、いい感じ。おまじない (ちくま文庫 にー9-3) [ 西 加奈子 ]
2022.12.14
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4人の女性が描かれた短編集である。と、こう書いても記憶にない。確かに読んだのにである。島本理生の著作は共感を持って敬愛を持って読んでいるのだが、記憶に残らないということはどういうことだろう。ネットでググって内容を思い出すも、他の人が書いているようにピンと来なかったり、キリスト教的なものが理解できなかったのかもしれない。とはいえ、島本理生である。良しとするか。夜 は お し ま い [ 島本 理生 ]
2022.12.14
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宮下奈都の本を読んでみたいと手に取った「誰かが足りない」。宮下作品としてはちょっとかわった感じがしないでもない短編連作集とでもいうべき本で、皆、駅前の評判レストラン「ハライ」に10月31日に予約を入れる。料理に絡めて作品を紡ぐところは宮下奈都らしい。私はとろとろのオムレツが好きだなぁ。失敗の臭いがわかるのかぁ。ふーむ。誰かが足りない (双葉文庫) [ 宮下奈都 ]
2022.12.04
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この散文的な表題が何を意図するものなのか読んでみてもピンとこないけれど、本書は作家島本理生の私小説とも思える内容のような気がした。出奔した父。シングルマザーの母。一人娘の主人公。彼女は一人暮らしである。徒歩圏に恋人が住んでいるけれど、断りもなく泊まることはなく、何人たりも入れない境界線のようなものを心に抱えていた。大学院生である彼女の研究材料は宮沢賢治ともう一人。その関連性と「銀河鉄道の夜」のカムパネラについて論文を書く。小説で提出することも可ということなので、彼女は小説とそれに付随する小論文を提出しようと考えていた。あれこれ模索し、思想してみるも書き始めることはできずに書きあぐね、解決策を試みて小説家の補助のバイトをしたり、気が合わないと思っていた同級生(?)たちとの交流を試みたりした。その中で、いざ交流してみると同級生の人となりに違う面を見たり発見をしたり、小説家に親近感を抱いたりと、予期せぬことが起こり、恋人とのわだかまりも頑なな自身の心持もいつしか解きほぐれ、何とか卒論(?)は書き終えた。数少ない交流の中で新たな発見をし、くぐもった心を救い出したかに見える彼女。感動も共感も特にはないけれど、これはこれで島本理生の思想、気持ち、作家性を書き表したなんともいえない小説であると思う。
2022.11.30
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これはおどろおどろしい物語なのか。史実は知らない。この戯曲のことも芝居のことも知らない。オスカー・ワイルドがオーブリー・ビアズリーという青年と同性愛関係にあったことも知らない。その関係がこの単色の毒々しい絵を世に表したということも知らない。オーブリーの姉、女優であったメイベルによって語られる物語。オスカー・ワイルドの恋人であるアルフレッド・ダグラスと四つどもえともいえる関係が大いなる醜聞と裁判と傑作をもたらす。原田マハの作品は事実をもとにフィクションを加えて、壮大なスケールで小説を書きあげる。これもまたその一つと言えそう。そして、それは私の琴線を奏でることもあれば、鳴り響かないこともある。読んでみて、今一つ響かなかったのはなぜか。隔靴掻痒のごとく感じた弟オーブリーの行動のせいなのかもしれない。姉メイベルの自作自演のような独白的展開は興味をもたらさなかったのだろうか。とはいえ、膨大な資料を読み込み、作品として結実させた手腕は明記されるべきものであろう。サロメ (文春文庫) [ 原田 マハ ]
2022.11.23
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4167919370.jpg (682×1000) (kinokuniya.co.jp)女たちのシベリア抑留 / 小柳 ちひろ【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア (kinokuniya.co.jp)”シベリア抑留”、それは男たちのものではなかったのか。終戦間際、日ソ不可侵条約が破棄され、怒涛の如く侵攻され、多くの兵士が捕獲された。本来なら、捕虜となって収容所から本国へ帰国するはずなのだが、ソ連においてはシベリア各地に送り込まれ労働力とされた。シベリアは人の住まぬ極寒である。暖をとる衣服はなく、食事もわずかで、寒さとひもじさで病に倒れ死んでいく日本人の捕虜が数多くいた。生きていたとしても凍傷で指をなくす人も多かったようだ。演歌歌手の三波春夫がシベリアに抑留され、その歌声で捕虜仲間を慰安したということを聞いた。それぐらいしか楽しみがない、凍てつく寒さのシベリア。その中に抑留された女子がいたとは、私は知らなかった。この本の存在。文庫本が発売されたことでシベリアに抑留された女子がいることを初めて知った。NHKの番組でも取り上げられたようであるが、そのことも私は知らなかった。もっと喧伝すべきではないか。日本人の多くが知らないことが良くないと思えた。この本を読んで気づく。女子のシベリア抑留は公にはされなかったのだと。なぜなら女子たちは軍属であり軍人ではなかったから。それゆえ戦後の保証もなく、戦争における年金もない。(後年、ごく一部の女子には年金(恩給か?)が支払われたようである。このことも、この本で知る)また、抑留された彼女たちもそのことをしゃべらなかった。それは、第一にまだ抑留されて解放帰国を待つ同胞たちに何らかの危害や危険や影響を与えてはならないと恐れてのこと。また、抑留されてソ連兵に”悪いこと”をされたのだと思われることを避けるためでもあったのか。戦後長らく秘密とされた女子抑留者たちの存在が明らかになった時があったけれど、その時にも彼女たちは口を閉ざし語らなかった。彼女たちが口を開くのは残り僅かな命、抑留の事実を語っておかなければという思いからなのかもしれない。それでも口を閉ざし語られなかったことはあるようだ。このシベリア抑留のなかに電話交換士や女子事務員もいたけれど多くを占めたのは150名に及ぶ看護婦である。日本赤十字の看護婦と彼女たちを手助けする民間の看護婦たちである。彼女たちはソ連による侵攻の時に自決用の毒薬を配布され、自決するよりは捕虜となる日本兵についていく道を選んだ。結果、ほぼ全員が抑留後に帰国することが出来た。ただ、その帰国へ至るまでの道のりはあまりに過酷で悲惨であったと思われる。この物語は全八章からなる。シベリア抑留の顛末を全体的とらえたもので始まり、後半は個別の女性について章を立てて語られる。途中、あまりの辛さに、また得も言われぬ情景に感情が揺さぶられ涙をにじませた。シベリアに抑留された婦女子がいたことを日本人が知らなくて良いのか、という思いに駆られた。抑留された看護婦のほとんどは16歳から20代前半の女子である。今の時代、高校生である年齢の女子が戦場の中で医療補助と看護を行うことはあまりに酷であろう。そして、国が敗れての捕虜であり、シベリア抑留である。生きた心地がせず、何度も死と隣り合わせであり、寒さと飢えがその身を襲ったのである。私は涙を禁じ得なかった。そして、思った。ぜひこの物語を同世代である日本の若者に読んでほしいと、知ってほしいと。高校1年生の夏の課題図書、推薦図書として、ぜひ読んでほしい、読ませてほしい。どんな道徳の授業よりも意味があると思える。この本はノンフィクションである。この本は事実である。文庫本あとがきに筆者が書いているけれど、この2022年、戦禍が引き起こされた。78年前の悲劇が繰り返されている。この本にも出てくるがシベリアの奥地にいるソ連人は実はウクライナ人であった。スターリンの時代に政治犯として捕らえられた無実の人たちが囚人として送り込まれ、釈放されても帰るところを持たず、その地に残ったようである。今また、この2022年、ロシアによりウクライナ東部の住民は捕縛され尋問され、家族をバラバラにされて多くは極東、シベリアの地に送り込まれている。女たちのシベリア抑留 (文春文庫) [ 小柳 ちひろ ]
2022.11.16
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「2020年の恋人たち」島本理生:著 中央公論新社島本理生はきっと聞き上手。聞く耳を持った作家だと思う。現職の総理大臣が得手として聞く力、聴く耳を持っていると自らを評したけれど、彼の場合は聞くだけで右耳から左耳へとスルーしていってる気がする。しかし、島本理生は違う。彼女の本は細やかな蘊蓄と絶妙な人間関係を描いている。読書していて、そう感じる。そして、著者のあとがき、参考文献や取材した人々への謝辞を読むときちんと話を聞いて、自らの言葉へと組成したと思える。本作においてはワインバーを経営することになるのだが、そのワインに関する知識、食べることが好きな主人公の食に関する知識、感性。スペイン旅行におけるスペインの風物詩、店がある千駄ヶ谷や新宿の地理など見聞きしたものがうまく書き表されている。引いては押す波のごとく、人間関係の出し入れの感覚の繊細さは読んでいて私の感覚を刺激する。また構成が見事である。「2020年の恋人たち」と改題した「2020年までの恋人たち」であったとのことだが、オリンピックを目指しオリンピックを開催したであろう2020年までの30過ぎの女性の生態を書き連ねようとしたところ、開催できなかったオリンピック。それゆえ変更を余儀なくされたであろう小説の結末。2020年から2019年に戻っての結末はみごとであったと思える。2020年の恋人たち (単行本) [ 島本 理生 ]
2022.11.12
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短編集であり、一話を15分から20分ほどでテンポよく読めるのでいい。それぞれの短編が関連性を持ちながら、それまでの話に登場した脇役が主役となって展開しているのも興味深い。それぞれの人がそれぞれの思いでそれぞれ感じていた思い。6つの短編である。三話目、四話目に登場する同棲している女性が飲み屋で知り合った行きずりの男と関係を持ち、その後も体の関係が続く。体の関係だけれども、体の関係だけでない、好きでも嫌いでもなく恋でもない。でも、惹かれる。惹かれるのだ。関係を断つことはできない。それは映画「ダメージ」で見たような、年老いたお琴と若い女のやむにやまれぬ体の関係と同一のような気がする。そして、この情交の描写がとてもエッチだ。香しく麗しいもののようにさえ思えてくる。作者の描写の的確さのおののく。僕はどうも島本理生に執心しているのかもしれない。だから、ずっと読んでいたい。あなたの愛人の名前は (集英社文庫(日本)) [ 島本 理生 ]
2022.11.06
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柚木麻子にはまっている。彼女の文章を読むときにワクワクが止まらない。興味と高揚感を持って、まるでこれからご馳走を食べるような、大好きな食事を始めるような喜ばしいアドレナリンが出てくるような気になる。だから彼女の書く物語は否定などするわけなく、全面的肯定にて読む。高揚感と至福感を感じながら、とてもいい気分だ。彼女が書く女同士、女友達は親近感と辛辣さをもって赤裸々に描かれる。男子の中にいるよりも女子の中に囲まれている方に安心感を感じる僕にとって柚木麻子は大好物だ。”デートクレンジング”デートを否定するのではなく、デートの呪いをぶっ壊せ!というスローガン(?)のもとに5人組のガールズグループをマネージメントする35歳独身女子の親友である主婦が主人公。彼女が女子大生の時にアイドルを目指していた時から彼女の大ファンであった主婦は妊活に励む義母のカフェ(?)を手伝っている。アイドルを諦めガールズグループのマネージメントをして10年、グループは解散、35歳独身女子は考えを改め婚活に励む。その彼女を一心に応援してきた主婦は彼女との関係の揺らぎに困惑し、妊活に徒労し、困惑するが、義母や夫のサポートが彼女を支える。そんなおり、妊娠する…。いろいろな女性が登場し、それぞれの生き方、考え方を絡み合わせ交流をうまく描いた本だといえる。読み終えてしまったが、またすぐ彼女の世界に戻りたい、次の作品を読みたい気持ちである。ああ、まったく僕は柚木麻子に毒されている。(笑)踊る彼女のシルエット (双葉文庫) [ 柚木麻子 ]
2022.11.03
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“『リトルバイリトル』は島本さんの作品の中で、いい意味でドラマチックな恋愛でない、淡々とした恋愛の作品だと思います。”と解説で松井玲奈が評したように、淡くそこはかとない想いを感じた。松井玲奈が『よだかの片想い』を映画化しなければ、島本理生との出会いは私にはなかった。映画「ハケンアニメ!」を見て、いたく感激し、原作を読んで、原作の綿密さ素晴らしさを知り、同時期に見た「流浪の月」の違和感を突き詰めたくて、原作は違うのではないかという期待感(?)で原作を読み、その小説の素晴らしさ、独特の愛の形に感動した。そんなことがあったがゆえ、『よだかの片想い』の本を先に読んだ。読んで終盤、思わず落涙。私の心は大きく揺さぶられた。そして見た映画『よだかの片想い』。映画は小説をうまく映像化できていなかったけれど、それでも松井玲奈の心意気を感じることはできた。この本を、この作品を映画化したかった大いなる思い。うまくはいかなかったけれど結実して良かったと思う。そして、島本理生の小説に感ずることがあると思えて、『ナラタージュ』を読み、映画『ナラタージュ』を見て、『ファーストラヴ』を読んだ。とても恋愛物語と思えない『ファーストラヴ』に衝撃を受けながらも、次に『リトルバイリトル』を手に取った。手に取って解説が松井玲奈であることを知り、少し驚いた。『リトルバイリトル』は家族の都合で大学受験を突然あきらめた、いや、翌年まで延期した元女子高生が主人公である。シングルマザーとしてあくせくする母をしり目に父親の違う小学二年生の妹と暮らす。そして出会う一つ年下の男の子。習字を習っていたり、池袋がホームタウン。日常の空気感がいい。どんどん、さらさら一気に読んだあとのあとがき。10年後20年後に残せる小説をこれからも書いていきたいという島本理生の表明があったあとの松井玲奈の解説。泣いた、松井玲奈の解説で泣くとは思わなかった。東京の片隅での10代の話が名古屋で暮らした松井玲奈の生活と照らし合わせて、彼女にはそのような経験はなく、経験できなかったけれど、だからこそ家族との思いを吐露した解説。とても心に響いた。解説も含めて、とてもいい文庫です。島本理生の小説をこれからも楽しみに読んでいきたい。リトル・バイ・リトル (角川文庫) [ 島本 理生 ]
2022.11.02
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「よだかの片想い」を読んで、映画を見て「ナラタージュ」を読んで、映画配信を見て「ファーストラヴ」を読んだ。島本理生に溺れる。彼女の小説に惹かれる。負のイメージのものを負のイメージでなく肯定していく気がする。裏腹な真相。彼女の本はそこはかとなく奥深く、深く、深く、ふかく……。主人公は美人の臨床心理士・由紀。由紀には大学時代に兄妹のように仲の良かった迦葉(かしょう)がいた。迦葉は弁護士。迦葉の兄・我聞に惹かれ、結婚し、一児を持つ。迦葉とは距離を置く関係であった。父親殺しの女子大生・環菜のノンフィクションライターとして白羽の矢が立った由紀は国選弁護人となった迦葉と共同して真相をつまびらやかにしていく。そこで対峙する由紀自身の過去。深い闇、閉ざされた世界、国際的画家の父親のアトリエ教室でモデルとなり男子学生の視線の数々を長時間浴び続けた環菜の精神は壊されていった、のか……。父との軋轢が……。表題「ファーストラヴ」からして、とてもこのような事件の物語だとは思ってもいず、それは宮崎あおいの映画「初恋」で描かれたのが事件であったことを思い出すと、ファーストラヴ(初恋)は”事件”なのなだなぁ、とふと思ってしまった。丹念に描かれ、心のひだに触れるような筆致の島本理生に私は心酔し始めているのかもしれない。第159回直樹三十五賞受賞作。ファーストラヴ (文春文庫) [ 島本 理生 ]
2022.10.30
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THE SCENT ofLOVE恋の香りSCENT という“匂い”という英単語を知らなかった。さて、本書は“水曜日の恋人”角田/光代(1967年神奈川県生まれ)“最後の教室”島本/理生(1983年東京都生まれ)“泣きっつらにハニー”栗田/有起(1972年長崎県生まれ)“海のなかには夜”生田/紗代(1981年埼玉県生まれ)“日をつなぐ“宮下/奈都(1967年福井県生まれ)“犬と椎茸”井上荒野(1961年東京都生まれ)の6人の女性作家の6短編からなる。なお、島本理生は「野性時代」2004年3月号掲載のものであり、他の作家は書下ろしである。作品としては島本理生の“最後の教室”は秀逸であり、異彩を放っている。作品として抜きんでている気がした。読みごたえというか、人生の長さ、味わいを感じさせたのはこの中で最年長の井上荒野の“犬と椎茸”であった。角田光代の“水曜日の恋人”は母の恋人に恋するという点が面白く、栗田有起の“泣きっつらにハニー”はおよそ書かれないであろう職種への着眼点が面白く、生田紗代の“海のなかには夜”は十代の女子の幼さが、宮下奈都の“日をつなぐ”に関しては作家としての初々しさが感じられた。素敵な短編を読めてよかった。コイノカオリ (角川文庫) [文庫] 角田 光代、 島本 理生、 栗田 有起、 生田 紗代、 宮下 奈都; 井上 荒野【中古】
2022.10.29
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Twitter を見ると読書好きでこの本を名刺代わりの10冊の中にあげているひとが散見されて、読んでみたく思った。昨今のミステリーブームもあり(?)、その一連の作品かと思ったけれど、読後知ったのは30年以上前の作品でこの文庫本も新装版として出されてからずいぶんと年月が経っていた。若手作家の中の一人かと思った綾辻行人はベテランの作家であった。読み始めて奇異に感じた回生という呼び方もあとがきで解説されているように、時代と地域性を感じた。関西出身の私には懐かしい呼び方ではあった。そして、登場するミステリー同好会の面々がミステリーの登場人物になぞった呼称で呼ばれているのが違和感を持つと同時にミステリー小説に詳しくない私を弱気にさせた。とはいえ、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」はなんとなく知っていて、次々と人が殺されるんだろうなぁという予測はできた。ただ、誰が何のために殺害するのか。おどろおどろしい猟奇的殺人が行われた瀬戸内海の孤島に6人の大学生が宿泊し、結果全員が殺されてしまうという展開はその犯人像を浮かべるのは難しく、結果、驚きの一行にて明らかになるのだそうだが、私は読み飛ばしたのか、まったく驚くことはなく、引っかかることもなくさらさらと読んでしまったようだ。それゆえ衝撃も感嘆も覚えず、粛々と終わったように思えた。もとより、この作品を読み始めてからの私の関心はひとえにこの殺人事件の発端となっている女子大生の死である。その死の真相、死因。それによって今回の犯人が皆殺しにしなければならない動機に関心があった。それゆえ、その点がほぼ描かれず、不慮の死だったかもしれないにもかかわらず復讐としての殺人に至る要因、その動機、心持の変化は明示されていない。結局、その点がないがしろにされてしまったので、私にとってはなんともいえないものとなってしまった。
2022.10.27
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作者石原慎太郎は校正ゲラを4度済ませているという。軽い脳梗塞を患ったことで半身に不自由を抱え、スポーツすることもままならず、活動は制限され、忸怩たる思いの中、晩年を生きたようである。その思いの吐露がこの本の終盤を占めるが、中盤までは石原慎太郎の生涯をたどっていた。といっても年表というほど順序だっていず、おおよそ幼少期から青年期までの前半と作家・政治家となっての中盤。終盤は都知事として活躍した思い出が綴られている。そして、最終盤は「死」への思い、考えを連ねている。この本を読んでいくつか衝撃の事実を知ることとなる。といってもすでに周知の事実であり、同時代を生きた先達の人たちは既知のことばかりなのかもしれない。それにしても赤裸々に語られる女性問題。なかでも外に作った子供の認知問題について、その母親について語られていることは衝撃であった。このようにその女性に対する嫌悪の念を表していいのかと思われた。しかるにこの本は作者存命中に、また死期を感じない80歳を過ぎた頃にやがて訪れる死への準備として書き始めたものである。それだけに驚いたのであるが、発表・出版は作者の死後ということになっていたようで、この世に存在しなくなるわが身(作者本人)を思えば、思うことを存分に記しておきたかったのだと思う。とはいえ後に残る妻や子、家族のことをまったく考えなかったわけではないであろうに、ことこの問題についてはすでに白日の下にさらされていた件なのであろう。それというのもそのあとイニシャルで表記される女性がふたりほど登場する。作者の身近な人ならば、そのイニシャルで誰だかわかるかもしれないが、実名など記すには公のことになっていず、また人知れず交際のあった女性なのであろう。また、この本を読むであろう家族に対する配慮もあったかもしれない。石原慎太郎の著書を読んだことはない。国会議員としての彼は徒党を組んだことはないようで派閥に属さなかったがゆえに活躍する場もなく、無聊をかこつような印象を記している。もちろん大臣になった時には少しは動いたのだろうが、それとて大した意味は持たなかったようだ。それにひきかえ都知事としてトップに君臨した時には数々の英断をくだし、行動し、なかでもトラックのディーゼル規制に関しては自賛する以上に都民への功績が大きかったと思われる。豪胆で英断できる人はトップに立たなければならないのかもしれない。政治や女性関係でなく一番驚いたのは津川雅彦をデビューさせたことである。芸名の名付け親も石原慎太郎とのこと。実兄・長門裕之や先祖の牧野の姓を名乗らず、違った芸名だったことの発端を初めて知った。当時のことも津川雅彦の不遇も活躍も知らなかった私は映画に関する本などで兄・長門裕之よりも人気が出て、兄を思うがゆえ映画出演を控えたなどと読み、津川雅彦の男前ぶりと演技のうまさ・妙味に兄に遠慮せず大活躍すればよかったのにと思ったものだ。とはいえ、兄が売れて人気が出てからはそのような遠慮もなくなったようだが。名画座でとある高倉健主演の映画に奇妙で光る演技をしていた若かりし津川雅彦の躍動を見た時に、彼はただ物ではない、大物スターになる片鱗を感じた。その津川雅彦は晩年、重鎮を演じる役柄がつづき、それだけではどうなのだろう(もったいないなぁ)と疑問をいだいていたら病に倒れ、早々にこの世を去ってしまった。残念である。この本の終盤に書かれているように石原慎太郎は生死の際に何度か立たされている。そのどれもうまくかわし生き延びた彼は運がよくて強くて、また世に出る勢いをもっていたのだろう。芥川賞について書いてあるところがあるが、昔はそれほど注目されなかったとある。否、文壇ではものすごく注目されていたのだと思う。それゆえ、太宰治が受賞を熱望・懇願したという逸話が残っているではないか。ただ、石原慎太郎が言うには一般の人にそれほど注目されていなかったと言いたいのだろう。今は芥川賞や直木賞だけでなく本屋大賞や「このミステリーがすごい!」大賞など一般の人が注目するイベントが多く、その最高峰として芥川賞・直木賞が君臨するがごとく扱われていることを指しているのかもしれない。作家と政治家の二足の草鞋を履いて生き抜いた石原慎太郎。その足跡、彼の思い、死への考えを読む本であった。「私」という男の生涯 [ 石原 慎太郎 ]
2022.10.27
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「よだかの片想い」を読んで島本理生に共感し、彼女の本を読んでみようと思った。手始めに「ナラタージュ」。ナラタージュとはググって”精選版 日本国語大辞典「ナラタージュ」の解説”によれば”ナラタージュ〘名〙 (narratage) 映画の技法の一つ。主人公または語り手に回想形式で過去の出来事などを物語らせながら、急速に多くの小画面を連続させ構成するもの。”とある。ナラタージュの意味を知らなければ、長年、映画ファンをやっているけれども映画技法のひとつとしても聞いたことはなかった。今回初めて、ナラタージュの言葉を知る。映画において回想シーンのある作品は失敗作が多い。現在と過去を行きつ戻りつして、時系列がこんがらがり、見る方も理解しがたい内容になっているので、成功例は少ない。この本。その技法、「ナラタージュ」が題名。内容についての題名でなく、やや不思議に思うけれど、主人公の心の中の作業、高校生時代を振り返ることによって現在の想いが進行するという意味合いを持つのであろうか。聞き慣れない未知の言葉の題名ゆえ、頭の隅に残る利点はある。作者はそのことも考えたのか?一人娘の泉は父の海外赴任に母がついていくことで、日本での一人暮らしを選ばざるを得なくなった。大学生であり、初の独り暮らしにあくせくしつつも、高校時代の恩師、演劇部顧問の葉山先生からのOGヘルプ要請に応じる。高校の後輩在校生は3人のみ。それでは芝居にならないので同期のカップルとともに参加。初めての稽古に行くと、カップルの男友達である他大学の小野君が参加していた。週1回の稽古でどれくらいの仕上がりになるのだろうか。作家、島本理生は演劇部であったと思われる体験者としての描写が感じられた。しかし、読後、参考文献をみると、演劇本が数冊あったので、演劇経験者でなく、それらを参考にして物語を構築したとするならば、なかなかのものだと感心した。女子高生が高校教師に恋する話と思えども、単純なものではなく。相思相愛であっても付き合えない。踏み出さない。それは教師に別居はしているが妻がおり、妻を愛し、妻を大切にしているから。小野君は泉に惚れる。小野君に葉山先生のことが知れる。物語はそれだけでなく、大学進学に揺れる高校在校生の後輩たちの動向。カップルの男子の海外留学。後輩女子の事件、事故。泉と小野君の恋人関係の軋轢。作者が女性であり、受け身である性の女性であるがゆえに被ってしまう性被害についても描かれている。その部分は私にショックを与え、考えさせた。赤裸々にベッドシーンを描くことはないけれど、それに関する点はしっかりと記述している。性被害を受けてしまった女性の恐怖、思いを真摯に感じた。優しいとひとことで言ってはいけない葉山先生の想いと葉山先生を思う泉にシンパシイを感じた。共鳴したと言っていい。そのように感じてくれる男性がどれだけいるだろうか。とても重要な意味を持った作品である。ナラタージュ (角川文庫) [ 島本 理生 ]
2022.10.20
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「作家の値うち」福田和也:著(飛鳥新社)を読んで気になった高樹のぶ子「透光の樹」を読んだ。恋愛小説というかエロスというか、愛の物語なのだろう。20年ぶりに会う独立映像プロダクションの社長となった元アシスタントプロデューサーの男と刀鍛冶の末裔で鍛冶の男の娘である元女子高生。20年の歳月は二人を中年に鍛冶の陶工である女の父親は引退して病気の床についている。ヘルパーがいないと体も動かせない老体だ。女は出戻りバツイチ子持ち、女児がいる。男は妻子持ち。20年前に惹かれ合った二人。借金にまみれた女に男は金を融通する。女は引き換えに一夜を共にする。体から、いや金で始まった関係。これは取引。取引だけれども、そこに愛はあるのか?愛はあるのか…。いつしか逢瀬を心待ちにしつつ、区切りをつけなくてはと。女体の描写とまぐわう体制の具体的描写はエッチでありながら香しいもののように静謐に描かれる。激しく燃える熱情を持ちながら。これが官能小説なのか。谷崎潤一郎賞受賞。透光の樹 【電子書籍】[ 高樹のぶ子 ]
2022.10.16
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「ワンさぶ子の怠惰な冒険」を読んでみて、読みたいと手に取った同じ宮下奈都のエッセイ「とりあえずウミガメのスープを仕込もう。こちらの作品の方が、少し前から書かれていて、時期的には後半かぶることもあるけれど、こちらの本が料理について書かれてあるので、同じものではない。似通ってもいない(関連はしているけれど、ね)料理好きで1000冊ほどの料理本を所有していることや初めて渡した手作りのバレンタインデーチョコの相手が旦那様だと知れるないように感心したり驚いたり。興味深く読みました。とりあえずウミガメのスープを仕込もう。 [ 宮下 奈都 ]
2022.10.16
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「百貨の魔法」で虜になった村山早紀さんの小説、児童文学の指南書。楽しみにしながら読んだ。作家としての心構えや何を書くかということだけでなく、自身の作品「トロイメライ」を引き合いに出し提示し、その分に傍線を引き、解説や注意点などを明記してくれた。とても為になる本だと思う。10年後、20年後の児童文学のために出版された本。敬意を表します。100年後も読み継がれる 児童文学の書き方 [ 村山早紀 ]
2022.10.16
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過激な題名に初めて住野よるの本を読んだ。 登場人物ひとりひとりの行動、思いが箇条書きのように数ページずつ書かれている。読みづらく感じた。と、ともにこれは小説なのか?とも思った。ストーリーを書いていないから。主人公もその周りの人間も次々と主人公となってその時を語るから、何人もの登場人物が何人もの主人公となる。これは群像劇?ググって見たら「ニコニコ大百科(仮)」で”群像劇には以下の二つのパターンがある。①同一の世界観や舞台において、それぞれ別の人物による完全に独立した短編がいくつも同時進行しているもの。例えばひとつの学校内の複数の人物を別個に描くものがこれに当たる。②①と同じく、同一の世界観や舞台でそれぞれ別の人物による独立した複数の物語がつむがれるが、一見バラバラなエピソードに見える複数の人物のストーリーが、全体を通して知ることで一つにまとまり本当の姿を現す手法のこと。”とあった。この作品は②の手法で描かれていて、群像劇ゆえに把握しづらい、とはいえ、中盤まで読むと関係性や登場人物が把握できるようになる。しかしながら、そこにこの本の中の本、小説の存在が小説の中の現実世界と関係することで話がすすむけれど、その必然性が私にはわからない。そして、クライマックス、結末と行動を理解するには二重人格者であると感じた。あいつもこいつも二重人格、と思うそれで良いのか?あるいは二重人格でないとこの世は生きていけないほどの世界なのか?サイト:住野よる『腹を割ったら血が出るだけさ』 双葉社腹を割ったら血が出るだけさ [ 住野よる ]腹を割ったら血が出るだけさ【電子書籍】[ 住野よる ]
2022.10.15
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柚木麻子にしたらちょっと異質な意外な感じのする本だった。もちろんこれまでも恋や彼氏が出てくる本があったけれど、これはほぼその相手である男を思って書き連ねた本である。時は昔、バブルに踊り、バブルにはじけた頃、栃木の田舎から大都会東京に出てきて初めて行った銀座の高級鮨屋の板前の指に魅せられる。そして、通い続けて幾年月。男を思いながら表立った行動に出なかった、出られなかった女の後悔と思い出と喜びと哀しみの物語。1年から2年ごとに描かれた彼女の青春。過激な生活を描くのはやはり柚木麻子ならでななのだろうか。その手をにぎりたい [ 柚木 麻子 ]
2022.10.15
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「かがみの孤城」がアニメ映画になるという。本日映画館での予告で知った。そのことを知らず、人気のというか評判の本を読んだ。不登校という心の問題を扱った作品である。児童や学生の頃は学校に行くことが当たり前だと思っていたし、少々の病気をおしても学校に行きたかった人間だから、不登校になってしまう子供の心は本質的にはわからないと思う。それゆえか、この作品を読了しても絶賛するほどの思いは湧かなかった。キラキラと波打つかがみの向こうの世界へ行けるなんて、それだけでファンタジー。そのファンタジーの世界が現実社会とつながっているとは、わかるけれど理解というか実感はない。この本を読んで救われる(?)子がいるなら広く読まれる方がいいと思える。この本の世界、この本を読むことによって感じ取れる世界は本を読むことでしか得られないのではないかと思う。映像化すべきなのかなぁ…。学校教育に一石を投じると思える傑作なのかもしれない。かがみの孤城 (一般書 113) [ 辻村 深月 ]
2022.10.08
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私はこの著者である作家・丸山健二を知らなかった。その人を知らずに読んだ。これはまた新たな書き手への心持に関する本であったと思うが、一作書いて新人賞に応募するのではなく、一度書いたものを二度書き、二度書いたものを三度書き、そうやって完成度を高めて保持し、続いて2作目を書いて、2作目を二度書き、そして三度書き、これまた保持して3作目を書き、3作目を二度書き、三度書き。これまた保持して、ようやく1作目を応募する。というようなことが書いてあった。応募するまでに三年ほど費やしてしまう。私は歳なので三年もかけることはできないなぁと思った。まだ見ぬ書き手へ新装版 [ 丸山健二 ]
2022.10.06
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20年以上前の本であるが『作家の値打ち 令和の超ブックガイド』(小川榮太郎:著)を読んで、その前作を読みたくて読んだ。その小川榮太郎は過激で高低の差が激しすぎる評であったが、一瞥するにこの前作の方はまともな範疇の評のような気がする。とはいえ20年前ではぎりぎり大正生まれの作家もいたようだが、年長者はことごとく消え去り、入れ替わっていると思える。しかし、たかだか20年なので、半数ほどの作家は同じく選ばれている。この本ではまたまた知らない作家が多く、自分は読書家ではなかったのだと実感する。興味を持った作家もいたので、このあと読んでみようと思う。著者である福田和也はこの本のために約一年をかけて該当する本700冊ほどを読んだそうだ。過去に読んだ本も改めて読みなおしたとのこと。感服した。
2022.10.06
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歌を、音楽を小説に書いた宮下奈都という作家に出会えて幸運だった。「よろこびの歌」「終わらない歌」は素敵で素晴らしい作品だ。そして「羊と鋼の森」。彼女の本を最近読んでいないな、と思い見つけたこの本。小説ではなくてエッセイ。日ごとのショートショート。ちょとしたメモ書きの日記のような。読みやすくて、なるほどエッセイかと読み進むうちに笑い、時として独り言をつぶやき興に乗って読んだ。3年ほどのワンさぶ子と彼女と彼女の家族の話。このエッセイが本として出ますよという話になったときに、この作品も終盤と感じて。さらに笑い、喜び、読み進めたけれど…。涙…涙…。家族と人生、いや日々の生活を思い…。このエッセイは読み終えた。今日も元気でワンさぶ子が走り回っていてほしい。宮下奈都さんのTwitterを見つけて覗いてみたら犬が走り回っていた(笑)ワンさぶ子の怠惰な冒険 [ 宮下奈都 ]
2022.10.01
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私はこの作家を知らず、小説の書き方を知りたくて読み始めた。ところが本書は小説の書き方はほぼ書いていない。作家の創作意欲というか、何をもって小説の書くのかということが何度も何度も繰り返し示されていて、動機というか気構えというか、作家として書くべく力(想い)のある人が書くべきだと説かれている。どこかの誰かさんのような作家になりたいとか、あんな風な作品を書きたいという独自性のない模倣の作品を生み出すならば書かないほうがいいという教え。作者、井上光春の書くこと。また、彼のすごく短い小説などが参考として掲示される。井上が過ごした戦中、井上が経験した戦後。今までどの書物でも映像でも示されなかった戦後の差別や侮蔑や貧しさが描かれていてショッキングであり、その意味で読む価値はあると思えた。余談だが、瀬戸内寂聴の不倫の相手だった。「全身小説家」というドキュメンタリー映画があるという。見てみようか。
2022.09.29
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「恋愛中毒」という書名に惹かれて読んでみた。これはなんだという冒頭の元カノにストーカーされる男の話から始まるので、この男が主人公と思いきや同じ会社に勤める年上の事務員、美雨の物語である。弁当屋に勤めていた美雨はバツイチであった。彼女は粘着気質のある彼氏いない歴=年齢の女子であった。恋愛に振り回される十代、あるいは二十代の恋の物語かと思いきや、それはほぼなくとんでもなく無節操な有名作家とのことの顛末であった。不可思議な人間関係、恋愛というよりも肉体関係の人間模様。想像すらできない男女関係を描いている。なんだかな…。恋愛中毒 (角川文庫) [ 山本 文緒 ]
2022.09.28
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驚愕の驚天動地の小説であった。小説なのか?フェイスブックのメール機能にてやり取りする文章。(私はフェイスブックを使っていないので、機能を知らない)こんなにも後出しじゃんけんというか隠し事が多くて、あとあとネタ晴らしのように繰り出すとは…。しかし、それが後出しじゃんけんと感じず、真相はこうだったんだ、と思わずにいられない。(それだけ私は素直な性格なのかも)作者はペンネームの宿野かほるということ以外秘密。読後、想像するに女性でバブル期まえに大学生だっと思える。で、元○○○嬢。そう、主人公のメールの相手、未帆子に相当する者。著書発表当時、いろいろと詮索されただろうし、マスコミには箝口令がしかれ、作者の素性を暴露することがなかったのだろうけれど、文壇では話題になったのだろうなぁ。老境になろうかという大学生時代に演劇部部長で人気、実力のあった男性が挙式前逃亡した彼女をフェイスブックで見つけメールするというところから始まる。そして…本音をさらけ出していくことにより秘匿しておかなければならないことが吐露されて…、本性を表す。p.170の最後の一文が衝撃であり、すさまじい!!ただ、ただ、圧倒された。
2022.09.24
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松井玲奈主演の映画「よだかの片想い」が2022年9月16日から公開されている。その原作がどのようなものかと思い、初めて島本理生の著作を読む。左の頬に青い痣がある女性の物語である。物理のリケジョとして大学から大学院に通い修士から博士課程に進もうとする女性。知人から痣を持つような人たちを取材した本を作るということでその取材対象となったことから出会いが始まる…。本を読んでいると主人公は小柄な女性のようである。松井玲奈が演じると思って読んでしまったのでイメージが松井玲奈となり162cmある彼女の体躯からすると小柄というイメージがわかない。顔に痣があることで飾ることなく真摯に生きてきた女性の話だが、そこに彼女の矜持があり、彼女にかかわる身近な人たちは彼女を気遣い、尊重する。しかし、他人は世の中の人々は辛辣だ。淡い恋心が描かれ、それが深くなり深くなり、思い余って片想いとなる。それを知った時、感じた時、私は涙した。感動した。いい物語だと思った。考えさせられた。映画「よだかの片想い」、見に行くかもしれない…。よだかの片想い (集英社文庫) [ 島本理生 ]
2022.09.23
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浅田次郎はこの作品で何を伝えたかったのだろうか。ファンタジー作品である。いま流行りの(?)ダーク・ファンタジーでなく、心温まる懐かしい思い出…。しかし、主人公・竹脇正一は瀕死の状態である。意識なくベッドに横たわっている。戸籍なく生きることを余儀なくされた赤ん坊はどのような人生を送ったのか。現実のリアリティを持って夢のように幽体離脱のような感じで描かれる。読み終えて思うが、時系列に沿って竹脇正一の一生を描いた方が骨太な読み応えのある真摯な作品が出来上がったのではないだろうか。ファンタジーにすることによって現れる人物が誰なのかが後々わかって驚く仕掛けになっているが、それは意味のない手法だと思える。作家が伝えるべくものは思いなのではないだろうか。その思いの発露によって感動や共感があるのでは。登場人物たちの思いは書き記されてはいるが一貫性はなく、竹脇正一の人生において、その物語の結末を書かない終わり方は、この作品においてよくない気がした。おもかげ (講談社文庫) [ 浅田 次郎 ]
2022.09.23
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ようやく手にして読んだ。一読。何なんだ、これは?フィクションとしてあるが小説とは思えず、記事あるいはコラムのような気がする。モデルとなる本人からつまびらやかに恋の軌跡、そのゆくえを聞いたはずなのに、当事者としての思いは伝わらず、聞き書きの体で終始一貫している気がした。情欲、愛欲、性欲についてはほぼ書けておらず、めくるめく恋の浮揚感もなく、親愛なる愛の深さもない。何を描きたかったのか。ただの記録か?道ならぬ恋路を進む男女をガラス越しに見ているような距離感を感じた。恋の焦燥感をジタバタする絵を描かず、そのように感じたというだけでは読み手には伝わらないと思う。奇跡 [ 林 真理子 ]
2022.09.22
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最近読書にはまっている。はまっているというか、一生懸命に読んでいる。読んでいるのは現代作家で、女性がほとんどである。ネットで読むべく本を探し、直木賞、芥川賞そして本屋大賞などの受賞作やノミネート作を読んでは探し、探しては読んで、より感動できる本を探している。そこでこの本の存在を知った。買うかどうかしばし悩んだが、参考までに買い求めた。買って読んだ。いや作家評のところは読んだ。書評については読んだことのない本については読んでも仕方ないと思い、読んだ本で読みたいと思う書評のみ読んだ。100点満点で書評しているのだが、恩田陸の評に驚いた。どちらも映画化された作品であるが「夜のピクニック」が76点、「蜜蜂と遠雷」が29点。70点以上は現代の文学としてすぐれた作品。29点以下は:公刊すべきでない水準の作品、とある。「夜のピクニック」は吉川英治新人文学賞と本屋大賞を受賞、「蜜蜂と遠雷」は直木賞を受賞である。「蜜蜂と遠雷」に関しては、スピンオフ作品として「祝祭と予感」が発売されている。どちらの本も素晴らしく、どちらの映画も素晴らしかった。ただ映画としては「蜜蜂と遠雷」の方がより強く感銘を受け、「祝祭と予感」を読んでは大いに涙した。この落差、違いが私にはわからない。それゆえ、著者:小川榮太郎の評はあてにならないと思えた。また、0点をつけた本が6作品あり、「燃え上がる緑の木」(大江健三郎)にはマイナス90点をつけている。あまりに無茶苦茶で、やはり評はあてにならないと思えた。29点以下の作品の中には原田マハの「本日は、お日柄もよく」も含まれ、エンタテイメント性にあふれ読書熱を奮い起こさせる作品を低評価するとは、理解に苦しむ。「本日は、お日柄もよく」は原田マハ作品の中でも一二を争う評判作であるのに。100名の作家の中には見知らぬ人物が何人もいた。その作家たちの作品を読んでみようとは毛頭思わないが、ピックアップされなかった現代作家の中に注目すべき人が数多くいると思える。作家の値うち 令和の超ブックガイド [ 小川榮太郎 ]
2022.09.22
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柚木麻子、今私が最もはまっている作家。「本屋さんのダイアナ」を読んで興味を持ち、「ランチのアッコちゃん」ではまり込み、「あまからカルテット」で入れ込み、「ナイルパーチの女子会」で衝撃を受けた。「3時のアッコちゃん」は期待を裏切らず、「マジカルグランマ」に圧倒された。膨大な読書量に裏打ちされた、確固たる構成力、予想の斜め上をいく展開力。嘆息するしかない恐るべき小説家であろう。そして、この「BUTTER」である。”バター”でなく”BUTTER”と表記したことに相当な思い入れがあるのだろう。それは…わからない。結婚詐欺師?男たち三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子の正体を記事にするために取材をする30代の女性記者・里佳が主人公。梶井に面会するために料理に取り組む必要があった。梶井が通った料理教室に潜り込み、料理を習いレシピを手に入れる。梶井の軌跡をたどることにより梶井の真相にせまっていく。明らかになっていくいろいろなこと。感じていた人物像とはかけ離れていく。そして…。思いもよらぬ展開は主人公・里佳と同様、読者を動揺させる。シンパシィも感じていた容疑者・梶井の豹変ぶりに梶井の真意がわからない。打ちのめされる事態に読者は里佳と一体となって引きずられていく。結末はなんともいえない様相となる。社会に出て、人との交流、軋轢。人間関係の構築の難しさ、不確かさ。そして感じる、温情。この本を読んでみて、ずしりと感じる重々しさは生きること、生活することの重みなのかもしれない。クライマックスに登場する七面鳥の料理であるが、作者・柚木麻子は料理したのであろうか。アメリカのクリスマスの定番である七面鳥の料理が四日もかけて作るものだとは思いもしなかった。この料理を至高そのものにする”BUTTER”。表題を容疑者の名や主人公・雑誌記者に関するものにせず、食品の英語表記にしたことに唸る。BUTTER (新潮文庫) [ 柚木 麻子 ]
2022.09.17
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