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先日、メールアドレスの設定を変更したので、現在使用中のタブレットに、楽天様よりメールが届くようになりました。 毎朝、ブログ更新メールが届き始めて半月程経ち、今日 久々にアクセスしてみましたが... 最終UPから5年半程経過していて、ビックリ(*_*) 当時、小説(もどき)を書いていた為、途中で止まっているのです。 しかも、当時使用していたパソコンは 既に壊れて立ち上がらないので、続き不明...です。 もし、続きを待っていて下さる方がいらっしゃいましたら、ゴメンなさいm(_ _)m なるべく早く仕上げて、続きをUPしたいと思いますので、その時は よろしくお願いします♡ 最近、ユーチューブにハマっていて、仕事をしながら いろんな動画を観て(聴いて)います。 数日前、久々に『泣ける動画』に出会い、ハマってしまって。 アニメなんですが... 題は、ハイブリッド チャイルドです。 本当に泣けます。 声優さんも、上手過ぎ。 この作品を観て、また書きたくなりました。 他人を感動させる事ができる 作品(物語)を作れるって、凄いですよね。 私も頑張りたい、と思う、今日 この頃です。
2016年11月19日
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そして、照れ屋が故に、こういう態度に出る・・・いいや、こういう態度しか取れないことも、もう判っている。頭の中で、冷静な(?)分析をしていると、スカートのポケットから携帯を取り出し、時間を確認しながら遥が立ち上がった。「そろそろ、行かないと。今日、日直なの」「もう、そんな時間か。じゃあ、俺も」遥に続いて 立ち上がろうとする俺を、勇平の声が引き留めた。「涼、午後の授業は、なかったよな」(うっ・・・チェック済みかぁ~★)内心ドキッとしながら、小さく頷く。「大事な話がある。もう少し、付き合ってくれ」「・・・・・・・・・はい」諦めて腰を下ろしながら、何気なく窓から外を見ると、すっかり雨は上がっているようだ。そして、遥へと視線を向けると、空になった弁当箱を携え、教室を出ようと重い扉に手を掛けているところだったが、俺の視線に気付いたのか、突然振り返った。「霧野先生」「うん?」「今朝、言ったこと・・・本気ですから」瞬間、遥が総一に放った言葉が甦って来た。『私の好きな人は、霧野先生よ』と。おまけに、生徒を恋愛対象として見たことは 1度もない、と言った俺に、『これからは、見て下さい。そして、私のこと、好きになって下さい』って・・・そりゃ、俺だって、先生である前に 1人の男。告白されて、嬉しくないと言えば嘘になる。だが、相手は生徒・・・こんな時、どんな態度を取ればいいんだ!?頭の中で自問してみるが、返す言葉が見つからず 押し黙っていると、心の内を知ってか知らずか、微笑みながら お礼を言われてしまった。「貴重な時間を、有難うございました」「いいや、こちらこそ。いろいろ、話してくれて 有難うな・・・雨は止んだようだが、地面がぬかるんでいるから、気を付けて戻れよ」「はい。あっ、勇平さん」「何だ?」「余り、霧野先生を困らせないでね」「どういう意味だ・・・★」返事代わりに、遥は悪戯っ子のようにペロッと舌を出した。「お先に失礼します」そう言って 軽く一礼すると、ガラガラッと重い音を立てながら出て行った。その姿を、廊下側の窓越しに見送った俺は、妙なことに気付き、小さな声を上げた。「あれっ?」「うん?」「ああ、いえ・・・別に、大したことじゃないですが。今、鈴木が右側・・・西側へ向かったような」「それが、どうかしたのか」口に運んでいた箸を止め、怪訝そうな表情で訊ねて来る。「俺は東側から来たので、てっきり、向こうへ行くものだと」新米教師の悩み(54) おわり
2011年10月07日
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「後は、おざなりの結末で。結局、私が原因で 離婚したんです。皮肉なことに、マリーは その離婚が話題となり、一躍“時の人”に。私は、彼女の親戚中をたらい回しにされたあげく、養護施設へ」俺は、言葉が出なかった。何を言っても、きっと偽善にしか聞こえないだろう。「祥平さんが私の存在を知り、引き取ってくれたのは、5つの時でした。施設に迎えに来てくれた祥平さんは、人目もはばからず『ごめん・・・ごめんな』って、ポロポロと涙を流して謝りながら、力強く抱きしめてくれたんです。あの日のことを、今でもハッキリと覚えています」遠い目をしながら、遥はそう語った。「・・・・・・知らなかった・・・すまない」絞り出すような声で、俺は無意識に呟いていた。「どうして、霧野先生が謝るんですか?」「知らなかったとはいえ、今まで 随分と余計なことを言ってしまった」心からそう思い、詫びた。そんな俺を見詰めていた遥は、微笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。「先生、さっきも言いましたよ。現在(いま)は幸せだって。だって、あのアパートに居れば、祥平さんは 必ず帰って来てくれるんです。私はあの家で、ただ、帰りを待っていればいい・・・それに、忙しい合間を縫って、メールもくれるんですよ。さすがに、時差や仕事等があるから、お互いに電話は控えていますが」普通に考えれば、極当たり前のことなのに、遥は嬉しそうに言う。そんな彼女が、健気でいじらしく思えた。「・・・・・・微力ではあるが、俺も協力している積りだ」弁当の大半を平らげてしまった勇平が、不機嫌そうに呟いた。(早っ! この細い身体の、どこに入るんだ・・・☆)そんなどうでもいいことに、呆れ半分で感心していると、表情を引き締めた遥は、真っ直ぐ勇平の方へと向き直った。「もちろん、勇平さんには 感謝しきれない位の、感謝をしています」「フッ、どうだか」「勇平さんが、いつも身近で 支えてくれるからこそ、私の生活は成り立っているんです」いささか、大袈裟では? と思いながらも、あえて突っ込みは入れないことにする。「判っているなら、それでいい」少し照れているのか、勇平は視線をそらしながら、ぶっきらぼうに呟いた。残念ながら、俺は末っ子の上に、姪や甥、年の離れた従兄弟等も居ないので、良く判らないが。俺が想像している以上に、勇平は遥を大切に思い、可愛がっているんだろう。新米教師の悩み(53) おわり
2011年09月25日
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「そうでしたね・・・・・・祥平さんと、マリーは、渡米してすぐに知り合ったそうです。一目惚れをしたのは、まだ無名に等しかった彼女の方。祥平さんは、押し切られる形で付き合い出したとか。そうですよね、勇平さん」話を振られた勇平は、水筒のお茶を一口飲んだ後、相槌を打った。「ああ。当時のことは、良く覚えてる。渡米して少し経った頃、孝平兄貴宛に届いた手紙に『同じダンススクールに通う女に、付きまとわれて困ってる』って書いてあったらしい」「へぇ・・・その女性が、マリーだったのか」俺の呟きに、遥は微かに笑った。「その1年半後、彼女は私を生みました。祥平さんは17才。そして、彼女は4つ上の21才の時です」(年齢からして、シングルマザーってヤツか・・・?)俺の心を読み取ったのか、遥は こう続けた。「念のために言って置きますけど、決して シングルマザーではありませんせしたよ。相手は、祥平さんではありませんけどね」「えっ!?」「彼女の男性遍歴は、周知の事実・・・彼女が妊娠に気付いた時には、祥平さんは既に“過去の人”でした。勇平さんを前に、言うのもなんですが。祥平さんは“ダンス馬鹿”で、ダンスのコト以外は、全く頭になくて。お世辞にも“マメなタイプ”とは言えませんから、愛想を尽かされたんです」「ウチの家系は、俺も含めて、みんな無精者だからな」開き直った様子で、勇平が呟いた。かくいう俺も、周囲の人間から、(特に恋愛に関して)“無精者”のレッテルを貼られ続けているので、コメントは控えておくことにした。「鈴木家のコトは置いといて。話を戻しますが・・・恋多き女性の、代表とも言えるマリーですから。祥平さんに飽き始めた頃、大物俳優とも付き合い出してて。祥平さんを捨てた後、妊娠に気付いた彼女は、それを理由に、そっちの男性と結婚したんです」(そ、それって、どうよ? 二股の挙げ句に、できちゃった婚ってか~!?)口には出さなかったが、俺の表情が 全てを物語っていたらしい。遥は小さく苦笑を浮かべた後、他人事のように淡々と呟いた。「瞳の色はともかく。夫婦揃って金髪なのに、生まれた子供が黒髪の私では、上手くいきませんよね。もちろん、隔世遺伝とか、突然変異って可能性もありますから、DNA鑑定までしたそうですよ。記憶には、ありませんけど」「・・・・・・・・・」新米教師の悩み(52) おわり
2011年09月03日
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そっちの方が気になるらしく、俺と遥を見比べながら、いつになく怪訝そうな表情で訊いてくる。「いつまでも、秘密にして置きたくないから・・・両親のことを、先生に話していたところ」遥の言葉に、勇平は鋭い視線を向けて来た。「涼、全面的に信用しているが・・・・・・他言無用だぞ」「判っています」そう答えながら力強く頷き、空になった弁当を片付け始めた。勇平は、俺達と向き合うように椅子を反転させ、無言のまま腰を下ろすと、紙袋からタッパを取り出して、俺が陣取っている机の上に並べ始めた。(す、凄い量・・・☆)ドラえもんのポケットじゃないけど、大小さまざまなサイズのタッパが、次々と出て来る。全部で5つのタッパと、サンドイッチ用ボックス、水筒を机の上に並べると、順番に蓋を開けた。1つ目には、美味しそうなお稲荷さんと俵型のおにぎりがギッシリ詰まっている。2つ目を開けると、唐揚げやエビチリ、春巻きに棒々鳥等が入った中華風のおかず。3つ目は、大根とイカの煮物、魚の照り焼き、厚焼き卵に肉じゃが等が入った、和食メニュー。小ぶりの4つ目には、彩り鮮やかなサラダが。そして、大振りの5つ目には、苺に さくらんぼ、1口大にカットされた、メロンやオレンジ、スイカ等のフルーツが、美しく盛られている。最後に、サンドイッチボックスを開けると、卵にハム、野菜やツナ、カツ等がたっぷり挟まったサンドイッチが、たくさん入っていた。『一体、何人前だ~!? 誰が、こんなに食べるんだよ~?』と訊いてみたくなる程の食べ物が、机の上を所狭しと 覆い尽くして行く。「うちのシェフ達が拵えたものだ。2人共、遠慮しないで 適当につまんでくれ」そう言いながら、小袋に包まれたウェットティッシュと割箸を差し出して来た。「あ、有難うございます」お礼を言いながら、俺も遥も、一応、受け取った。「遥、お前が何を話そうが、口出しする積りはない。俺のことは気にせず、話を続けてくれ」素っ気なく言い捨て、頂きますと手を合わせてから、割箸を使って稲荷寿司を口へと運ぶ。そんな勇平の様子を ぼんやり眺めていると、遥がおもむろに口を開いた。「先生、どこまで話しましたっけ?」「お母さんが、マリーだって とこかな」新米教師の悩み(51) おわり
2011年08月31日
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「では、母親が誰かってことは?」「いいや、訊いてないけど・・・・・・えっ? まさか、俺の知っている人なのか!?」「多分、知らない人の方が少ないと思います・・・マリー(Mary)ってミュージシャン、ご存知ですか?」突然、そう訊かれても、すぐに、ピンッと来なかった。だが、俺の知る限り、マリーという名のミュージシャンは、1人しか居ない。しかも、“大物”と呼ばれる部類の人物だ。「それって、アメリカ人の・・・かなり有名な?」「はい。日本でも“歌姫”と異名をとる、世界的人気歌手のマリーです」特別、ファンとかではないので、CDやDVDなどを持っているわけではないが。マリーはアメリカ人で、年齢は30代後半位だったと思う。昔から、歌唱力は抜群だと定評を頂いている半面、私生活面では、何かとマスコに話題を提供する人物でもある。「もちろん、知ってるけど・・・?」「私を生んだのは、マリーなんです」そう言って、遥はおもむろに眼鏡を外すと、真っ直ぐ 俺の方へと向き直った。顔の半分近くを覆い隠す、分厚いレンズの下からは、大きな蒼い瞳が現れた。極太眉毛やソバカス群が、多少 気になるものの、明らかに日本人離れした 堀の深い顔立ちで、勇平曰く、なかなかの美貌だ。「この蒼い瞳は、母親である 彼女から受け継いだもの」俺は無言のまま、マジマジと遥を見詰めた。「驚かないんですか?」「・・・いいや、充分 驚いているよ」「そうは、見えませんけど」微笑みながら 遥がそう言った時、ガラガラッと扉を開ける音が響き渡った。ハッとして振り向くと、勇平が入って来るところだった。その瞬間、遥は素早く眼鏡を掛け直し、何事もなかったような顔をした。まさに、一瞬の出来事だ。「何だ、涼も一緒だったのか・・・お邪魔するぞ」そう言いながら、側までやって来た勇平は、持っていた大きな紙袋を、俺達が座っている前の席に置いた。「今日は、本校舎の音楽室は使えないから、ここに来るだろうと思って。お前の分の弁当も、持って来たが・・・もう、食べ終わったのか?」勇平の言う通り、今日は、午前・午後とも音楽室を使用する日なので、私的使用することができない。だからこそ、遥もこの場所を選んだのだろう。「わざわざ、私の分まで・・・有難うございます。勇平さんの気持ちだけで、充分です」「別に、礼なんていい。要らないなら、俺が食うまでだ。それより、ここで何をしてるんだ」新米教師の悩み(50) おわり
2011年08月28日
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「まぁ、俺のコトは置いといて。真面目な学生が、それ程思い込むって・・・一体、誰のコンサートだったんだ?」「ワールドツアーで来日していた、マイケルさんです」「ああ、なるほど」(15の時、家出同然で渡米した、って聞いていたが。そういうコトだったのか・・・)先日、勇平から聞いた話を思い出しながら、頭の中で納得していた。「でも、まさか、本当に“夢を実現させる”とは、誰も思ってなかったでしょうけどね」「うん? それって、どういう意味だ・・・?」少し間を置くと、遥はおもむろに こう言った。「祥平さんの職業、表向きは“フリージャーナリスト”ってことになっていますが・・・本当は、プロのダンサーなんです」「プ、プロのダンサー!?」思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。「先生、ミカエル(Michael)ってミュージシャンを、ご存知ですか?」「ミカエル? ああ、知ってるよ。先日、発売されたベストアルバムが、日本でも大ヒットして、かなり話題になったよな。そういえば、この間、勇平先生の車内で聴いたよ」「祥平さん、ミカエルのバックダンサーをしてるんです」口元に笑みを浮かべながら、まるで、弁当の批評でもしているかのように、凄い内容をサラリッと告げて来る。「えっ、と・・・・・・そういう世界のことは、良く判らないけど。それって、凄いことじゃないのか?」「もちろんです。彼のバックダンサー、日本人では 祥平さんが初めてですから」もはや、すぐには言葉が見つからなかった。というより、想像がつかない というのが、より正しい表現かもしれない。「ミカエルは、アメリカが活動拠点なので、祥平さんも、ほとんど帰国しないんです。それに、先月から始まった、ワールドツアーのメンバーにも選ばれて。かなり過酷なスケジュールで、世界各地を飛び回っているみたいで」そこまで 話を訊いた時、『その話、どこかで訊いたような・・・?』と思いながら、記憶の引き出しを必死に引っ張り出していた。だが、すぐには思い出せず、そのまま固まっていると、心配そうな表情で声を掛けて来た。「先生?」「・・・・・・ああ、ゴメン。余りに衝撃的な内容だったから、頭の方が着いて行けなかった」苦笑いしながら呟くと、遥は口角を上げて微笑んだ。「じゃあ、衝撃序に もう1つ。私の母親のことは、ご存知ですか?」「ああ。それも、少しだけ訊いたよ。再婚されて、異父兄弟が居るって」新米教師の悩み(49) おわり
2011年08月25日
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「私の父のことは、ご存知ですよね?」「実際に、会ったことはないが。勇平先生の、1番上のお兄さんってこと位は知っているよ」「父・・・すみません。普段から、“祥平さん”って呼んでいるので、何だか 言いにくくて」少し照れたような口調で、そう呟いた。「普段通りの呼び名で、構わないよ。続けてくれ」話の腰を折りたくなかった俺は、さり気なくそう言って 先を促す。「祥平さんの父親は、“鈴木コンツェルン”の会長をしています」「確か、名前は鈴木潤平さんだったな。日本でも5本の指に入る、家電・OA機器メーカー『鈴木コーポレーション』の元社長だろう」偉そうに答えてはいるが、2~3日前に、偶然ネットで仕入れた情報だ。「はい。良くご存知ですね・・・昔から、凄く厳しい人だったそうです」「鈴木のお父さんは、長男だったな」「そうです。そのせいで、幼少時代から、後継者になる為の あらゆる英才教育を施されていたそうです。物心が付いた頃から、友達と遊んだ記憶がないって」「・・・・・・・・・」「そんな、祥平さんの人生を変えたのは、母親でした」遥の話を聞きながら、見合い会場で出会った、勇平と良く似た 和服姿の女性を思い出していた。「中学1年になった、ある日。勉強ばかりで、無趣味だった祥平さんを心配した母親が、気晴らしにと、コンサートに連れて行ってくれたそうです・・・でも、それが切っ掛けで、祥平さんには『大きな夢』ができた」「夢?」「夢っていうより、将来の目標かな。そのコンサートを観ている内に、“ダンサーになりたい”って、真剣に思ったそうです」「憧れた、ってことか。その気持ち、判らなくはないなぁ。俺も昔、アクションスターになりたかったんだ」つい、余計な言葉が、ポロっと出てしまった。「はぁ? 先生が・・・ですか!?」(う~ん・・・誰に話しても、この反応が返って来るが。そんなに、おかしいだろうか?)そう思いながらも、気を取り直し、いつものように サラッと説明した。「俺の場合、格闘が大好きだった兄達の影響でな。『中学を卒業したら、JAC(ジャパン・アクション・クラブ)に入門しよう』って、真剣に思ってた位だ。ちなみに、現在はJAE(ジャパン・アクション・エンタープライズ)に商号変更したらしい」「・・・先生が、アクションスターとは。意外ですね」意外に小心者の俺は、しみじみとした口調で そう言われると、複雑な気分に陥ってしまう。これも、毎度のコトではあるけれど~★新米教師の悩み(48) おわり
2011年08月10日
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「そんな少しで、足りるのか?」もはや、完全なお節介なのは判っているが。見て見ぬ振りはできない。「はい、大丈夫です」「大丈夫って・・・育ち盛りなんだから、もっと食べなきゃダメだよ。その体型で、まさか、ダイエットだなんて思ってないよな?」「ダイエットではありませんが、これ以上 太らないよう、努力はしています」俺は、遥のシャープなフェイスラインを、マジマジと見詰めながら口を開いた。「これ以上って・・・どう見ても、“痩せてる”としか思えないよ」「フフッ・・・有難うございます。先生、私の身長、いくつ位だと思いますか?」「えっ? そ、そうだなぁ・・・俺が178センチだから・・・・・・165センチ位か?」「惜しい! 166センチです。そして、体重は・・・48キロもあるんです」「“も”って、その身長で48キロは、痩せ過ぎだろう」ちなみに、俺は57キロなので、決して他人のコトは言えないが~☆「普通の人なら、ね。でも、私は・・・」遥は、そこで言葉を切った。俺は自分の弁当箱から、自慢の一品・肉じゃがコロッケや筑前煮、厚焼き卵、タコさんウィンナー等のおかずを蓋の上に取り出すと、彼女に差し出した。「とにかく、食え」「先生・・・?」「美味いぞ」「・・・・・・はい。頂きます」素直に 肉じゃがコロッケを口に運ぶ遥を見ながら、俺は微笑んだ。「美味しい!」「だろ? そのコロッケ、俺の得意料理だからな」「これ、先生の手作りなんですか?」「そうだよ。学生時代から、自分の弁当は、自分で作ってたからな」「・・・私と同じですね」「鈴木は1人っ子だから、父親の帰りを待っている間、ずっと独りだもんな・・・・・・随分、辛い思いをして来たんだろうな」俺の呟きに、遥は顔を上げると、真剣な口調でこう言った。「それでも、現在(いま)は、とても幸せです」「・・・・・・・・・?」どういう意味で、放った言葉だろうか。気にはなったが、何となく訊き返すことができずにいた。しばらくして、俺より少し先に食べ終わった遥は、『ご馳走様』をした後、小さな溜息を付いてから、重々しく口を開いた。「先生、これから話すこと、誰にも言わないって約束して下さいますか」「えっ? ああ、もちろんだ。約束しよう」力強く答えると、遥は大きく頷き、少し間を置いて話し始めた。新米教師の悩み(47) おわり
2011年08月09日
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「失礼します」重い扉を開き、一応、声を掛けてから足を踏み入れ、薄暗い教室内を見回したが、2人の姿はどこにもなかった。(あれ? ・・・まだ、来てないのか)遥より先に着いていたかった俺は、少しホッとしながら、閉ざされたカーテンを開け、雨が降り込まないことを確認してから 窓を開けた。だが、窓際はともかく、廊下側は薄暗いままだ。今や、廃墟と化してしまった旧校舎は、電気も水道も止められているので、これ以上の明るさは望めない。有難いことに、時折、湿気を多量に含んだ風が吹き込んでくるので、我慢できない程の暑さではなかった。窓際の席を陣取って腰を下ろすと、鞄から弁当を取り出した。一緒に食べよう、と言われたわけではないので、さっさと済ますことにしたのだ。誰に言うでもなく、『頂きます』と呟いてから蓋を開け、厚焼き卵に箸をつけた時だ。先程と同様、大きな音を立てながら、前方の扉が開いた。「本当に、立て付けが悪いんだから~★」少し大きめの独り言を言いながら、鈴木遥が顔を出した。「あっ、鈴木。ここだ」先に気付いた俺は、軽く手を振って見せた。「先生! 遅くなって、すみません」「俺も、今しがた来たところだよ。あれ? 勇平先生は、一緒じゃなかったのか?」俺の問いに、遥は驚いたように呟いた。「勇平さんも、来てるんですか?」「多分、間違いないと思う。ここへ来る時、この建物に入って行くのを見掛けたから」「ふ~ん・・・・・・先生も、お弁当なんですか?」大して気に留めた様子もなく、何事もなかったように、右手に持っていた小さな包みを、隣の机に置いた。「鈴木も、弁当か。今、食べ始めるところだったんだ。一緒に食べよう」「はい」遥は隣の席に座り、その包みを開くと、コンビニのおにぎりより さらに小ぶりなのが1つと、小さなタッパが出てきた。他人の食事内容など、見る積りはなかったのだが・・・その小さなタッパの蓋を開けると、予想通り、レタスにキュウリ、トマト等が入った、野菜サラダだった。俺と同様、小声で『頂きます』をすると、フォークを使ってサラダを食べ始めた。(ドレッシングも掛けずに、美味しいだろうか?)余計なことを思いながら、その様子を横目で見ていた俺は、思い悩んだ挙句、やはり訊いてしまった。「昼飯、それだけなのか?」「えっ? ああ、はい」新米教師の悩み(46) おわり
2011年08月06日
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朝から降り出しそうだった雨は、3時間目の授業が終了する頃から、本格的に降り出した。午前の授業が終了し、一端 職員室へ戻った俺は、自分で拵えた弁当の入った鞄を抱えて、約束の旧校舎へと向かう。雨脚は強くなる一方で、傘を叩く雨音も次第に強くなっていく。旧校舎へ近付くにつれ、水はけの悪い地面に足を取られる。(学校に1足、長靴を持って来るべきだなぁ・・・)そんなことを考えながら、泥はねは元より、あちこちに出来ている水溜りを踏まないよう 注意しながら歩いて行くと、前方に人影が現れた。傘を差し、足早に歩いている その人物は、遠目でもハッキリと判る長身に、白衣を羽織った勇平だった。一足先に 旧校舎の入口へ辿り着いた勇平は、傘をすぼめると、大きな紙袋を左手に下げ、中へと入って行く。(呼ばれているのは、俺だけじゃなかったのか・・・?)どこか ホッとしたような、少しガッカリしたような、不思議な気分に捕らわれた。遥と勇平が一緒だということは、ベールに包まれている プライベートを、話す積りなんだろうか。(そう言えば、俺もまだ、勇平さんに“返事”をしてなかったなぁ・・・☆)もちろん、会う機会があれば 訊かれるだろうと、予想はしている。考える時間も、タップリとは言えないまでも、そこそこあり、自分なりに結論を出していた。少し遅れて、俺も旧校舎へと足を踏み入れた。土間の端に置かれた、ペンキが剥がれ 錆だらけの傘立てには、既に、ずぶ濡れの傘が2本、立てられている。1本は、男物の大きな傘、もう1本は、女物とみられる 地味な色合いの花柄の傘だ。持っていた傘を 同じように立てると、靴を履いたまま 中へと続く廊下を歩き始めた。湿り気を帯びた足音を響かせ、薄暗い廊下を奥へと進むと、やがて 第一音楽室と書かれたプレートが見えて来る。先日訪れた時とは違い、ピアノの音はおろか、話し声さえ聞こえて来ない。聞こえるのは、ザーッという、叩きつけるような雨音のみ。目的の教室の前で足を止めると、扉をノックした。トントンッ湿気を含んではいるものの、木製ならではの軽い音がする。だが、中からの反応はない。一瞬 ためらいながらも、目の前の扉をスライドさせた。ガラ、ガラガラ・・・ガラッ・・・ただでさえ、立て付けの悪い扉は、湿気を含んでいる分、以前よりも さらに動きが鈍くなっていた。新米教師の悩み(45) おわり
2011年08月05日
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「さっきの、沖田との会話。どこから訊いていたのか、知らないが・・・生徒を恋愛対象として見たことは、1度もないんだ」「・・・そうですか」俯いてしまった遥を見ながら、気の利いた言葉を必死に探していたのだが・・・「じゃあ、これからは、見て下さい」顔を上げるなり、明るくそう返された。今まで、遥のことを、おとなしい娘だと思っていた俺は、正直、意外な一面を見た気がした。「そして、私のこと、好きになって下さい。私、勇平さんには、負けませんから」「・・・勇平先生、君にも 何か言っているのか?」「何かって?」「えっと・・・例えば、先日の、見合いの時のこととか」勇平が、俺にプロポーズしたことを、遠回しに訊いた積りだったが。それを、知ってか知らずか、当たり障りのない返事が返って来た。「あの節は、勇平さんが強引にお願いしたそうで。申し訳ありませんでした」そう言いながら、深々と頭を下げた。「あの件に関しては、君が謝ることではないよ」「いいえ。私がドタキャンしたせいで、結果的に、霧野先生にご迷惑をお掛けすることになったんです」「・・・東京へ行ってたんだって?」「勇平さん、そんなことまで 先生に話したんですか」「デートだって訊いてるよ。遠距離恋愛も、大変だな」さり気なく放った俺の言葉に、何故か 気分を害したらしく、遥はポツリと呟いた。「・・・・・・信じられない」「ああ、すまない。こんな話、軽々しく口にしない方が良いよな。大丈夫、これは、ここだけの話しだ。もちろん、誰にも言わないから」「はぁ? いいえ、そうじゃありません! あの日、確かに私は、東京へ行っていましたが・・・デートではありませんから!!」「そ、そうか・・・」予想外にムキになるなぁ、と思いながらも、生徒のプライベートな部分を 詮索する気は毛頭ないので、それで済ます積りだった。本格的に運動部の朝練が終了したらしく、体育館から 生徒達が出て来始めた。ズボンのポケットから携帯を取り出すと、時間を確認しながら呟いた。「そろそろ、朝の職員会議が始まる時間だ。じゃあ、教室でな」何事もなかったように歩き出そうとした俺に、遥は駆け寄ってきた。「あの・・・先生に、お話ししたいことがあります。昼休みに、旧校舎の第一音楽室で待っています」耳元でそう囁くと、俺の返事も待たずに走り去った。新米教師の悩み(44) おわり
2011年08月01日
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「朝から、楽しそうな話題ですね」ハッとして 振り返ると、鈴木遥・本人が立っていた。相変わらず、瓶底眼鏡を掛けているので、表情は読み取れない。「す、鈴木!? いつから、そこに?」声を上ずらせながら、総一が訊ねた。「少し前からだけど。何となく、声を掛け辛くて」「今の話・・・聞いていたのか」「まぁ、ね」遥は曖昧に答えると、俯いてしまった。そして、少し間を開け、再び口を開いた。「沖田くんは、私の気持ちに気付いているみたいだから、正直に伝えて置くわ」「えっ?」ちょ、ちょっと待て! ま、まさか、本当のことを言う積りなのか!?初対面の親戚と会うより、デートを優先させるほどの 恋人が居るって。沖田を傷付けるな、とは言えないけど。せめて、傷が浅く済むように、ソフトに伝えてやってくれよ・・・ただでさえ、女嫌いらしいからなぁ~★心の中で、要らぬお節介を焼いていると、遥はおもむろに口を開いた。「貴方が想像している通り・・・私の好きな人は、霧野先生よ」俺は、自分の耳を疑った。はぃ~? 今、何と言いましたか?いくら、本当のコトを隠したいとはいえ・・・それは、マズくないかな?心の中で突っ込んでみるものの、言葉にすることはできなかった。「・・・やっぱり、か。判ったよ」それだけ言うのがやっとだったらしく、総一は踵を返し、足早に体育館へと消えて行った。そんな総一を、俺は黙って見送ることしか できなかった。「改めまして。霧野先生、おはようございます」「お、おはよう。あっ、えっと・・・いいのか、あれで」「何がですか?」「だから、沖田のヤツ。今の話、本気にしたんじゃないか? 相手が俺って言うのは、説得力もイマイチだと思うが」複雑な気持ちのまま、正直に告げてみる。だが、返って来た答えは、あっさりとコレだった。「そのことでしたら、大丈夫です。ホントのコトですから」「・・・・・・はぁ?」「私、嘘は嫌いなんです。真剣な気持ちには、真剣に応えたいと思っています」この台詞。勇平と遥は、やはり 同じDNAなんだ、と確信した瞬間だった。「ねぇ、先生」「うん?」「先生は私のコト、どう思っていらっしゃるんですか?」「ど、どうって」「好き? それとも、嫌い?」ストレート過ぎる質問に、内心ドキドキしながら、それでも、平静を装ってこう答えた。新米教師の悩み(43) おわり
2011年07月22日
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確信があった訳ではないが。以前から、なんとなく そう思っていた。「ええっ!? な、何を言い出すかと思えば。俺は、女嫌いで有名なんだぜ。知らないのか」「その噂は、聞いたことがあるよ。今も、見てたし。だが、本当は居るんだろう? 隠さなくていいよ」「どっから、そんな発想が・・・・・・ で? 誰だって言うんだよ」「間違っていたら、すまない。隣の席の、鈴木じゃないのか」小声でそう囁いてみると、総一の頬は 瞬く間に染まっていった。「なっ、何で、よりによって アイツになるんだよ? 『アレは、生きた化石だ』って、みんなが言ってるぜ。アンタ、目が腐ってないか?」「・・・随分な、言いようだな~☆ だが、誰が何と言おうと、お前は好きなんだろう」爽やかな微笑み付きで訊ねると、少し間を置いて 総一は観念したように 小さく頷いた。「沖田、その気持ち 大切にしろよ。誰を好きになろうが自由だし、その人の魅力を知っていれば、他人から どう思われようが関係ない。そうだろう?」「だけど、アイツ・・・他に、好きなヤツが居るみたいなんだ」祖母との対面より、優先させる程の相手が居るらしいと、勇平に聞いて知っている。だが、それを、俺の口から言うわけにはいかないが。「本人に、確かめたわけじゃないんだろう?」「そんなこと、直接 訊けるわけないだろう!!」「そうだな・・・」自分のことのように思い悩んでいると、総一がポツリと呟いた。「先生は、アイツのこと、どう思ってるんだ」「うん? そうだなぁ。見た目よりしっかりした、礼儀正しい 良い子だと思うよ」当たり障りのない返答をした積りだが、胡散臭気な表情で睨んで来る。「・・・・・・好きなのか?」「もちろん、好きだよ。自慢じゃないが、この学校で、嫌いな生徒は1人も居ないからな」「はぁ? そうじゃない! 生徒としてじゃなく、女として、好きかって訊いてるんだよ!!」俺は、思わず目を見開くと、まじまじと総一を見詰めた。「生徒を恋愛対象としてか? 考えたこともなかったなぁ~★」「じゃあ、考えてくれよ。先生にとって 鈴木は、恋愛対象になるのか、ならないのか。今すぐ、ハッキリさせてくれ」「今すぐって・・・沖田、何をムキになってるんだ?」「べ、別に、ムキになんか」総一が、そう答えるのと同時に、背後から聞き覚えのある声がした。新米教師の悩み(42) おわり
2011年07月20日
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「じゃあ、自己紹介からするね。隣のクラス、B組の大橋美弥です。この格好を見れば、判るだろうけど・・・私達も剣道部なんだ。それも、知らない・・・よね?」探るように訊ねてみるが、総一からの返事はない。「話をするのも これが初めてだし、判らなくて当然だよね。えっと、1年前から、竹刀を振っている沖田くんの姿に憧れていました」総一は無表情のまま、心の中で大きな溜息を付いた。「いきなり、彼女にして下さいとは言いません。まずは、顔だけでも覚えて下さい! そして、私のことを少しでも気に入ってくれたら・・・その時は、メルアドとか教えて下さい。お願いします」勇気を振り絞り、耳朶まで真っ赤に染めながら、一生懸命 告白したのだが・・・「・・・・・・悪いけど、そういうの苦手なんだ。ゴメン」ポツリと呟くと、何事もなかったように歩き出す。いつものように裏門から登校し、体育館の裏手を横切り、職員室へと向かっていた俺は、その様子を 偶然目撃してしまった。(朝っぱらから、青春だなぁ~☆)などと感心していると、俺の視線に気付いた総一が、珍しく素っ頓狂な声を上げた。「リョーちゃ・・・き、霧野先生!?」面と向かって言う生徒は少ないが、陰で俺のコトを『リョーちゃん』と呼んでいることは知っている。「おはよう」「お、おはよう」「朝練か。いつの時代も、運動部は大変だな」爽やかな微笑み付きで話し掛けたが、表情から察するに、すっかり警戒されてしまったようだ。「いつから、そこに居たんです?」「いつって。今、通り掛かったところだが」「見てました、よね」「・・・最後の方だけ」「・・・・・・・・・」「別に、プライベートに立ち入ろうとは 思っていないから」さり気なくそう言うと、微笑んだ。「・・・・・・・・・」「朝練の邪魔をしたな。じゃ、頑張れよ」総一の肩をポンッと叩き、歩き出そうとした時だ。「待って!」「うん?」「先生は、付き合ってる人とか居るのか?」「朝っぱらから、凄い質問だな・・・☆」苦笑しながら呟くと、真剣な表情で総一が迫って来た。「真面目に答えてくれよ」「・・・残念ながら、居ないよ」「ふ~ん。フリーってわけだ」「何だ?」「いいや、別に」総一は、そう呟くと視線を逸らした。「・・・・・・沖田、恋の悩みか」「はぁ?」「お前、好きな娘(コ)が居るんじゃないのか」新米教師の悩み(41) おわり
2011年07月18日
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光の怒声から、『触らぬ神に祟りなし』だと判断し、車の“玄関横付け”を辞退したのだが・・・律義にそれをし、なおかつ、玄関先まで着いて来てしまった勇平は、仁王立ち状態で待ち構えていた兄達に、俺に代わって経緯を簡単に説明し、一緒に謝ってくれた。さすがに、見合いをぶち壊す役を・・・とは言わなかったが。だが、ただでさえ、言い訳が通用する相手ではない上に、怒りが頂点に達している兄達は、納得するどころか聞く耳さえ持たず、俺は勇平の目の前で、門限まで言い渡された~☆まぁ、スーパーへ買い物に行ってくる、ってメモを残したまま、連絡するのを忘れて、9時過ぎに帰宅した、俺が悪いんだケド。しかも、携帯を車内に置きっ放しにして、連絡も取れなかったし・・・・・・とは思うけど。俺だって、一応、社会人だぜ?いくら、その状況下だったとはいえ、9時過ぎに帰宅しただけで、この騒ぎってどうなんだろう・・・過保護の度を、越してるだろう~★そう思いながらも、結局、口には出せなかった。俺は、一体 いつまで兄達に頭が上がらないんだろう・・・・・・深~い溜息を付きながら、今日もまた 生徒達に交じり、学校へと向かっていた。その頃、2年A組の生徒・沖田総一は、剣道部の朝練を終え、数人の仲間と一緒に体育館の外に設置されている、水飲み場に来ていた。意志の強そうな眼光を放つ双眸、すらりと通った鼻筋に、少し薄い唇の、端正な顔立ち。それ程大柄ではないが、剣道着がやたらと似合う、美青年タイプ。順番待ちをしていた総一は、目の前の蛇口を捻ると、何の躊躇もなく頭から水を被った。バシャ、バシャバシャ・・・「フゥ・・・」首に掛けているタオルで、無造作に頭や顔を拭いていると、背後から声を掛けられた。「沖田くん」振り返ると、剣道着姿の小柄な女の子が2人、立っている。顔に見覚えなど、全くない。「・・・何?」「美弥が、話したいことがあるって」そう言いながら、総一の横に立っている石井智に視線を向けた。「んじゃ、総。俺達、先に行ってるから」「・・・ああ。悪い」「行こうぜ」智は、その場に残っていた仲間に声を掛けると、体育館へと歩き出した。「ほら、美弥」「うん・・・えっと。沖田くんは、私達のこと 知らないよね?」「・・・・・・・・・」新米教師の悩み(40) おわり
2011年07月16日
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少々(かなり?)変わっているし、口数が少ない上に、かなり強引だけど。総合的には“良い人”だと思う。それに、家柄、品格、気品、容姿(美貌)、頭脳と、全てを兼ね揃えているのも確かだ。女性から見れば、結婚したい男性、そのものとも言える筈だが・・・遊ぶ相手に不自由していない、と豪語し、ノーマルだと言っておきながら、何故、俺なんだ?そこが、最大の謎だった。少しばかり考えたところで、簡単に結論を出せる問題ではない。ゆっくりと勇平に視線を向けると、口を開いた。「・・・・・・少し時間をください。俺なりに、考えてみます」「涼、俺は真剣だ。これから先、お前を守り抜く自信もある。良い返事を待っている」真剣な表情の勇平に 力強くそう言われ、俺は、小さく頷くしかなかった。*勇平に告白(プロポーズ?)されてから、既に2週間が経っていた。本格的な梅雨に入り、毎日雨かと思いきや、今にも泣き出しそうな雨雲が、空一面覆っているにも関わらず、なかなか降らないので、湿度と共に、不快指数も上昇中。相変わらず、学校では美術室に居ることの方が多い勇平とは、滅多に顔を合わせることもないので、返って有難い。あの日、一応、携帯の番号とアドレスを教え合ったが、お互いに連絡さえしていない。まぁ、あれだけ気まずい思いをしたら、連絡し辛いよなぁ・・・★余り思い出したくない出来事が、また、脳裏を横切る。ことの発端は、寿司屋で『何か忘れているような・・・?』と思いつつ、結局、思い出せなかったこと――それは、携帯電話をGパンのポケットに入れたまま、車内に放置していたことだった。夕食をご馳走になり、家まで送ってもらう車内で、そのことに気付いた俺は、スーツの入っていた箱から Gパンを取り出し、ポケットを探った。出てきた携帯の画面を見ると、不在着信が28件!?履歴を見ると、自宅、光携帯、桂携帯の文字が、ズラリッと並んでいる。ヤ、ヤバいっっ~!!慌てて、まずは光の携帯に連絡を入れると・・・「涼!? 今、どこに居る? 何の連絡もなしに、何時だと思ってるんだっっ~!!!」開口一発、予想通りの怒声が響き渡った。2人の兄は、鈴木家から届けられた豪華な夕食もそっちのけで、連絡なしに居なくなった俺を、当所もなく捜しまわった挙句、光が捜索願を出す一歩手前だったとか~★新米教師の悩み(39) おわり
2011年07月14日
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「考えてもみろよ。仕組まれたとはいえ、見合いの席に、男のお前を連れて行ったんだぜ? 普通の親なら、『ふざけるな!!』って怒るトコだろう。それを、あっさり受け入れた位だからな」「そのことについては、俺も気になっていました。常識的に言うなら、本気だとは受け止めていないからでしょう」苦笑しながら、見合いの席を思い出しつつ、思っていることを さらに続けた。「でも、あの時の勇平さん、迫真の演技だったから・・・事情を知っている俺でも、本気でカミングアウトしているよう見えて。正直、ハラハラしましたよ」「・・・・・・俺は、嘘は言ってない」「えっ?」「お前さぁ、ちゃんと 俺の話を聞いてるか?」「勿論です」「・・・何が、勿論だ。お前こそ、嘘つきだな」勇平は、吐き捨てるように呟いた。「はぃ?」「余程の決意をしなければ、親に会わせたりはしない、って言ったよな?」「それは覚えています」「形はともあれ、俺は“お前を、お袋さんに会わせた”んだぜ」一瞬、意味が判らなかった。「そりゃ、お見合いを壊す役で、同席したわけですから・・・」「だが、誰でも良かったわけじゃない。それに、俺は“嘘は付かない”って言ってるんだぜ。この意味が、判るか」男の俺でもドキッとするような、妖艶な笑みで問いかけて来る。そう言えば、行きの車内で『俺が貰ってやる』って・・・?嘘はつかない、って・・・・・・ま、まさか、アレも本気ってことなのか?本気で俺のことを、“嫁さんに”って思ってるのか・・・!?「どうやら、少しは理解してくれたようだな」俺の表情を窺いながら、おもむろに訊いてくる。「え、えっと・・・本気、なんですか?」「ああ、もちろん。涼、正直に答えてくれ」「・・・・・・・・・」「お前、俺のことを どう思っているんだ?」「どうって・・・」「先輩、後輩だとか、職場の同僚なんて、在り来たりな答えは要らない。はっきり言ってくれ。俺は 四六時中、お前と一緒に居たい。ずっと、側に居て欲しいと、真剣に思っている」切な気な表情をした、絶世の美青年に、こう言われても・・・☆自分が、勇平のことを、どう思っているのか?正直、今まで、考えたこともなかった。キスされても、付き合ってやる(付き合おう)と言われても。からかわれているのか、変わった人なんだ、と思い込んで、本気にしなかった。当然、恋愛対象として、見たことさえない。新米教師の悩み(38) おわり
2011年07月11日
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真っ直ぐな視線を俺に向けると、勇平はこう言った。「・・・・・・もう少し、待ってくれ」「ですから、話して頂ける時で結構です」「俺は、全面的にお前を信用しているから、知っていることを全て話してしまいたいんだが。これは、兄貴や遥のプライバシーだからな」「判っています。理由はともあれ、肉親なのに、普通に会えない関係・・・お兄さんの年齢から察するに、おそらく、デキてしまった責任を取られたのでしょう。そして、実家から勘当され、音信不通状態ってところですか」「フッ・・・鋭いな」「でも、それだけのことなら、たいして 隠す必要はありませんよね?」今度は、勇平が黙り込む番だった。「ああ、すっかり忘れていましたが。勇平さん、鈴木コンツェルンの御曹司でしたね。後継ぎとして、期待されていた“長男がしたこと”となると、話は別ですか」「・・・祥平兄貴は、俺や、すぐ上の兄貴と違って、親の期待を一身に受けていたからな。まさか、15で家を飛び出すとは、誰も思わなかっただろうけど」「15才で家出!?」「それも、単身で渡米したんだぜ。向こうに知り合いが居る、って訳じゃなかったのにさ」「単身で・・・凄い~☆ でも、何故 アメリカへ?」「当時、兄貴には夢があったんだ。どうしても、その夢が捨てられなかった兄貴は、“夢に向かって進みたい”と、何度も両親を説得しようとした。だが、当然のように、反対され続けた・・・そんな、ある日。遂に、家を飛び出したんだ。何の前触れもなく、突然さ。昔から、猪突猛進型で、恐ろしく行動力のある人だったからな」どこか遠い目をした 勇平の横顔を見ながら、俺は大きな溜息を付いた。「・・・・・・気の毒ですね」「うん?」「自分の人生なのに、自由に選択できないなんて。普通、御曹司と聞けば、何不自由なく育ったお坊ちゃん、って思いがちですが・・・その体裁を整える為に、何よりも 家柄の為に、努力や我慢を 余儀なくされて来たんでしょう。平凡な家庭に生まれた、俺の方が、ずっと自由な気がします」そう言って、目を伏せた。「兄貴達は、少なからず そうだったと思う。祥平兄貴が あんな形で家を出てから、両親の期待は、次男の孝平兄貴に向かっていたからな」「じゃあ、勇平さんは?」「俺? 俺は三男だし、両親の期待も なかったからな。大して自慢できることじゃないけど、見掛け通り、好きなことを 好きなだけやって来た」「そんなこと・・・」新米教師の悩み(37) おわり
2011年07月10日
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曖昧な微笑みを浮かべながら、俺の反応を窺っている。「お待たせしました。特上寿司、二人前です」美しく盛られた、大ぶりの寿司桶を目の前に差し出しながら、タイミングを見計らったように、大将が声を掛けてくれた。俺にとっては、渡りに船。話題を変えられるチャンスだった。「勇平くん、悪いが 俺も上で食事をして来るよ。俺が居ない方が、会話も弾むだろうからな。30分程で戻るつもりだが、用がある時は大声で呼んでくれ。テレビのリモコンは、ここに置くから」「判りました。すみません」大きめの急須を勇平に手渡しながら、それだけ言うと、大将は店の奥へと入って行った。「涼、俺の奢りだ。遠慮せずに食えよ」「はい。頂きます」俺達は、無言で食べ始めた。店内には、テレビから流れる音だけが響いている。何か話した方が良いだろうか? と思っていると、先に勇平が口を開いた。「俺にも、上に2人の兄貴が居るんだ」「へぇ・・・知りませんでした」「俺のことなんて、知ろうとも思わなかっただろ」妖艶な微笑み付きで、鋭い突っ込みを加えて来る。「遥は、いちばん上の兄・祥平の娘だってことは、知ってるよな」「ええ。一応、副担任ですから。家庭調査票に記載されている範囲ですが、父親の名前くらいは」「俺と祥平兄貴は、9才違い。遥は、兄貴が17の時の子・・・当時俺は、8才のガキだった」17才といえば、まだ、高校生。父親の生年月日を見た時、書き間違いでは? と疑った位だった。結婚できる年齢、日本では男性18才、女性は16才だった筈・・・今まで、遥について 訊ねようとする度に、はぐらかされて来た。やはり、隠したいような、複雑な事情が背後にあるのだろう。だが、今なら、勇平は何でも答えてくれる気がする。迷った末、俺は最大の疑問を口にした。「それで・・・彼女の母親は」「生きてるよ。確か、7年前に2度目の結婚をして、子供は遥以外に2人居る筈だ」余りにも素っ気なく返って来た。「そ、そうですか~☆ でも、母親の近況をご存知だということは、少なくとも 交流があるってことですね」「ない」勇平は即答すると、表情を硬くした。どうやら、いきなり 彼の中の“地雷”を踏んだようだ。気まずい雰囲気が漂い始めた。「遥のこと、聞きたいか?」「そりゃ、副担任とはいえ、受け持ちの生徒のことですから。知りたくないと言えば、嘘になります。でも、俺が想像している以上に、複雑そうなので・・・無理にとは、言いません」新米教師の悩み(36) おわり
2011年07月08日
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「何故、それを? ・・・ああ、翔ですか」「いいや。だが、お前のことは、何だって知ってるぜ。食べ物に好き嫌いがないってことも、学生時代は真面目で、成績も良かった。そして、見掛けによらず、喧嘩が強かったんだろう」「・・・・・・翔じゃないなら、俺のコト、調べたんですか?」「悪いとは思ったけどな」正直に告白されたところで、決して気分の良いモノではない。勇平のことを、かなり見直していたのに。その一言で、裏切られたような気分に陥った。「とは言っても、最近の話じゃないぜ」「えっ?」「お前は、俺のことを知らなかっただろうが・・・俺が お前を知ったのは、高3の夏休みだったから・・・もう、6年位前になるかな。翔の家に遊びに行った時、アイツが持っていた写真を見たんだ」思い出を懐かしむような表情で、勇平は続けた。「翔のヤツ、凄い形相で必死に隠そうとするから、てっきり、ポルノ写真とかの類だろうと思って、取り上げたんだが・・・まさか、学生服を着た、野郎の写真だとは思わなかった」「・・・・・・・・・」「だが、その写真を見た瞬間、ドキッとした。女顔負けの、愛くるしい表情(かお)で微笑んでいる、中性的な美少年・・・アイドルにも無関心だった俺が、写真に写っていた お前に一目惚れしたんだ」なっ・・・そんなコト、真剣な表情で言われても。どう 突っ込めばいいんだよ~☆どうやら勇平は、パニックになり掛けた、俺の反応を楽しんでいるようだ。「涼、お前のことを 少しでも知りたくて。嫌がる翔を問い詰め、名前や、同じクラスで 片思い中だってことを、強引に聞き出した」その姿が、容易に想像できるところが凄いかも。と思いつつも、あえて口には出さない。「学校と名前は判ったから、後は、知り合いの探偵に、いろいろと調べて貰った」「・・・・・・知りませんでした。翔からも、聞いたことはなかったし」「だろうな。我儘(わがまま)な従兄弟の、一時的な気まぐれ。どうせ、その程度に思っていただろうし」俺の横顔を黙って見詰めた後、おもむろに こう付け加えた。「実際、その程度だったけどな」「はぁ?」「俺、飽きっぽいからさ。いくら顔がタイプでも、会ったことのない人間に、いつまでも執着できなくて。別に、遊び相手に不自由していたわけじゃないし。学生時代は 特に、来る者拒まず、去る者追わずの生活を送ってたから。瑞貴でお前を見掛けるまで、正直、忘れてた位だ」新米教師の悩み(35) おわり
2011年07月06日
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魚が旨いと書いて、鮨(すし)。まさに、その通りだよなぁ。美味しい寿司に感動していると、目の前で握っている大将が、俺を直視しながら口を開いた。「ウチの寿司は、お口に合いますか?」「はい。とても美味しいです」「それは良かった」一見、強面(こわおもて)な大将・斎藤俊哉は、ニッコリと人懐こい微笑みを浮かべた。「斎藤さん、今日は無理を言って、すみませんでした」右隣に座る勇平は、真剣な表情で大将に頭を下げた。「良いってことよ。祥平の、弟の頼みだ。俺ができる範囲のことだったら、何だってきいてやる」「有難うございます」俺には余り聞かれたくない話しなのか、大将は少し身を乗り出すと、勇平に囁いた。「俺のことは気にせず、しっかりやんな」「はい」そして、爽やかな微笑みを浮かべると、黙々と寿司を握り始めた。俺は、美味しいお茶を味わいながら、何気なく店内を見回していた。『寿司には、日本酒が合う』と聞いたことがある。だが、体質的にアルコールが合わない俺は元より、運転手の勇平も お茶で我慢している。運転を代わってやりたいところだが、左ハンドルの車は自信がなくて、買って出ることができなかった。「今日は、もう 誰も来ないぜ」「はぃ?」「斎藤さんにお願いして、この店を貸し切りにして貰ったから」「なっ・・・貸し切りって、どうして?」「お前と、ゆっくり話がしたくて」「ええっ!? たった、それだけの理由で?」「・・・そんなに驚くことか?」「普通、驚きますって! お店を貸し切りにするのに、いくら掛かるのか 見当も付きませんが・・・ゆっくり話がしたいなら、家に来て下されば良かったじゃないですか」勇平はジッと俺を見詰めていたが、おもむろに口を開いた。「突然、押し掛けて行っても、迷惑なだけだろう」「そんなことないですよ。今日は、すぐ上の兄が帰って来てるので、騒がしいとは思いますが。普段は、両親も家に居ないことが多いし・・・俺の幼馴染は、いつも 何の連絡もなく、突然 押し掛けて来ますから」この時、何か大切なことを忘れているような・・・? と思いながらも、結局 思い出せなかった。「幼馴染、か」「そいつとは、家も近所なんですが。小1からの腐れ縁で、大学まで一緒でした。就職先は違うけど、彼も高校の教師をしています」「日下部 慎也くん、だっけ?」俺は目を大きく見開くと、勇平の整った横顔をマジマジと見詰めた。新米教師の悩み(34) おわり
2011年07月04日
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どんな形であれ、祖母や親戚と初対面する以上に、“外せない急用”って何だろうか?しかも、地元ではなく、東京へ出向いてまでの用事とは。俺が知る限り、“デートを優先させる”ような、情熱家タイプには見えなかったが・・・って、俺自身、女心を容易に理解できる程、恋愛経験が豊富ってわけじゃないからなぁ~☆あれこれ考えを巡らせていると、勇平がポツリと言った。「涼、腹が減っただろう」「えっ? ああ、そう言えば」どうやら、空腹感さえ気付かない程、緊張していたらしい。緊張が解けた今頃になって、腹の虫がグゥ~と主張し始めた。「寿司でも食って行くか? この先に、行きつけの店があるんだが」「食べ物に好き嫌いはないので、どこでも構いません」「そうか」勇平は、鮮やかな微笑みを浮かべた。それから程なく、俺達は“湊屋”という名の、寿司屋のカウンターに並んで座っていた。“長瀬”とは違い、店内は小ぢんまりしていて、カウンターに8席、4人用のテーブルが3つ、奥に少し大きめの座敷が1部屋あるのみ。ちなみに、霧野家では、寿司屋といえば1皿百円の回転寿司店を指す。2人の兄に、そう教育されて育った俺にとって、“値札がない店”というのは、何とも心もとなく、落ち着かない。おまけに、既に7時を回っているというのに、カウンター越しに大将1人が居るだけで、俺達以外に誰も居ないというのが、居心地の悪さに拍車を掛けている。極めつけは、顔見知りが故の“暗黙の了解”なのだろうか。店内に入ってから、世間話はするものの、何1つ注文していないのに、いろんなネタの握り寿司が タイミングを見計らって、つけ台の上に一貫ずつ出てくる。多分、これが『おまかせコース』なのだろう。入店したことはないが、知識としては知っている。食べやすい順として、白身から始まり、トロ、光り物、イカ、タマゴ、貝類、海老、アナゴ、かっぱ巻き・・・だとか。もちろん、回転寿司店に行けば、好きなネタしか注文しないので、この順番を試したことはない。既に、真鯛、トロ、真アジと出てきたので、順番からいうと 次はイカだ。「アオリイカです」一貫ずつ丁寧に醤油をはけで塗り、ネタに応じて塩を振ってくれるので、勇平に習って手で頂く。「ん~ 甘い! もっちりしてて、美味しい!!」回転寿司や、スーパーとかコンビニに並ぶ寿司位しか知らなかった俺は、まさに、目から鱗だった。新米教師の悩み(33) おわり
2011年07月02日
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「おそらく、あの店で食事会でも するついでに、“見合い”と称して俺を引っ張り出せば、遥と対面できる、とでも踏んだんだろう。今頃は、楽しく食事をしながら、互いの演技を褒め合ってるんじゃないか」勇平は素っ気なく、事実を言い捨てた。「でも、その話・・・勇平さんに“恋人がいない”って前提でなければ、成り立たないですよね? もし、今回のお見合いが、半年も前から計画されていたとしたら、矛盾が生じませんか」「・・・・・・お前、恋人ができる度に、親や家族に会わせたりするのか」「えっ? いいえ、それは・・・」「だろう。俺だって、そうだ。余程の決意をした相手でなければ、会わせたりしない。いいや、できないよな」勇平の言わんとすることが、何となく理解できた。“心に決めた人”が、同性の俺なら、普通、誰も本気にはしない。そう考え、俺に白羽の矢を立てたのだろう、と。「なるほど・・・だから、遥さんの代役が、俺だったんですね」俺は納得顔で微笑んだ。「涼・・・・・・判ってくれたか」「はい」俺のことは、さて置き――鈴木家に、どんな経緯(いきさつ)があるのかは、知らないけれど。孫と祖母が会う、ただ、それだけのことなのに。こんな回りくどい“演出”をしなければならない、というのは、どうなんだろう?ごく平凡な家庭に生まれ育った俺には、上流階級の人間の心理が 理解できなかった。「それで・・・遥さんは、今どこに?」「東京」「と、東京!? まさか、1人で?」「さすがに、1人で行かせたりはしない。だが、遥は高校生だぜ。テスト明けの休日といえば、デートの1つや2つ、入っていたところで不思議はないだろう」「確かに、そうですが・・・」口にするべきかどうか 言い淀んでいると、からかうように訊いてくる。「何だよ? あの遥に、彼氏が居るのかって?」「いいえ、そうじゃなくて」「言っておくが、俺に似て、なかなかの美人だぜ」「別に、そんなこと 訊いてませんって!」「じゃあ、何だよ? 勿体ぶらずに、言ってみろ」『別に、勿体ぶってるわけではありません・・・★』心の中で呟いてから、思っていることを口にした。「確かに、見合いをぶち壊す役なんて、楽しいことではありませんが・・・来なかったということは、自分の祖母に“会いたくない”ってことですか?」「・・・そのことか。会いたくない、ってわけでもなかったんだが。外せない急用が出来たらしい」「急用・・・ですか」新米教師の悩み(32) おわり
2011年07月01日
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このブログに目を通して下さっている、優しい皆様、こんばんは。今月に入り、順調(?)に再掲載させて頂いております、新米教師の悩み(小説)ですが・・・仕上がっている文字数が、後2,500文字程度となってしまいました~☆頭の中では、ほぼ出来上がっているのですが、最近、本当に時間が取れなくなってしまいまして、なかなか進めません(T_T)大半の原因は、超・甘えっ子(下の子)による、泣きべそ攻撃です。2才半ともなると、昼寝をしない日もポツポツと出始めます。おまけに、朝方(3時)起床して初めていると、泣きながら起きて来て邪魔をする。我が子ながら、睡眠時間が心配です(~_~;)そんな訳で、またまた、毎日掲載できなくなり、ご迷惑(?)をお掛けすると思いますが・・・気長にお付き合い頂けましたら、幸いです(*^_^*)昨日のお話です。上の子にせがまれ、13年程前に段ボールに詰めたまま、倉庫に眠っている ある1冊の本を探していた時のこと。独身時代の、私の財産は千冊を超える単行本でした。多少、処分したとはいえ、現在も かなりの冊数が倉庫に入っています。その中の、3~4個の段ボールを開いた時のこと。見覚えのあるノートが、数冊出てきました。開いてみると・・・なんと、中学か高校時代に書いた、小説(モドキ)が出て来たのです!しかも、ご丁寧にイラスト付きで(~_~;)当然のことながら、内容なんて全く覚えていません。勇気を出して読んでみると、現在では思い付かないような、突拍子もないものが多数でしたが・・・少し手を加えれば、きちんとした(?)モノになるのでは?というものまで、様々でした。捨てていなければ、8年程前に、思い付いたストーリーを片っ端から書き殴ったスケッチブックなども出て来るかも?と、淡い期待を抱きながらも、無造作に突っ込んだままの、倉庫の段ボール山を見ると、大きな溜息と共に、諦めの境地に陥ってしまいます(;一_一)いつになるかは判りませんが、学生時代に考えたストーリーをベースに、きちんと書いてみたいと思います。新米シリーズも、ランダム更新になりますが、時々 覗いて頂けましたら幸いです。長々とくだらないお話に、最後まで お付き合い下さいまして、有難うございました。香蓮らんど・李 香蓮
2011年06月17日
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「とても残念ですが、本人の気持ちが いちばん大切ですもの。こればかりは、何ともなりませんわね」そう言って、娘の愛美を見やる。「ええ。とても誠実そうな方で、好感が持てました。私も残念ですが、仕方ございませんわ」母親の意見に同調しながら、愛美は勇平へと視線を移すと、清楚な微笑みを浮かべた。「勇平さん、貴方からも きちんとお詫びなさい」「はい。ご迷惑をお掛けしまして、本当に 申し訳ございませんでした」勇平の隣に座る俺も、つられて頭を下げた。一部始終を見詰めていた享子が、深い溜息の後、重い口を開いた。「そうですか・・・私からは、何も申し上げることはございません。京橋さん、本日はご多忙の中、ご足労下さいましたのに、大変申し訳ございませんでした」「いいえ」調度 その時、タイミングを見計らったように料理が運ばれて来た。が、失礼ついでに、俺達は逃げるように御暇(おいとま)させて貰った。駐車場を出て、勇平の運転するBMWは来た道を戻り始めた。車内のデジタル時計を見ると、6時45分に変わったところ。”紫陽花の間”に居た時間は、多分、15分もない位だったのに、その何十倍も長く感じられた。俺は、助手席のシートに身体を預けると、大きな溜息を付いた。「涼、変なことに付き合わせて、悪かったな」「・・・正直、疲れました。まさか、お見合いを断る為に呼ばれたとは」苦笑を浮かべながら、勇平の横顔を見やる。俺の視線に気付いた勇平が、チラッと視線を向けて来た。「どうかしたのか?」「鈴・・・遥さんに、この役をさせる積もりだったんですか?」「多分、それが、今回の“目的”だった筈だからな」「目的?」「ああ見えて、おふくろさん、俺以上の負けず嫌いだから。口にも態度にも出さないが・・・遥に会いたいんだ」先程の、美代子の言葉が甦って来て、何となく判ったような気がした。「涼、お前も知っていると思うが。あの店、結構有名で、例えお得意様でも、半年先まで予約が取れないらしい」「そ、そんなに!?」「それに、見合い相手の京橋さん。俺の記憶に間違いがなければ、おふくろさんが通っている茶道の家元夫人だ」俺は返事に困り、黙って前方を見据えた。「半年も前から、この見合いを決めていたなんて。普通は、あり得ないよな」「それって・・・4人はグルだった、ってことですか?」新米教師の悩み(31) おわり
2011年06月15日
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あまりに、迫真に迫る演技だった為なのか、芝居だと判っているのにドキッとした。その半面、見合いを断るための大芝居だとはいえ、言い過ぎだろう、とも思う。ノーマルだと言っておきながら、これじゃ、本気で“カミングアウト”しているようにしか見えない。親や親戚の前で、こんなことをして、大丈夫なんだろうか?自分が高校時代、倉本翔と付き合っていた時のことをダブらせ、他人事ながら、つい、心配になる。もう、昔の話だが・・・“同性の恋人がいた”ことなど、家族は知らない。両親よりも、厳格な兄貴達が怖くて、最後まで言い出せなかった。嫌いになって別れたわけではなく、“お互いに、重荷にならないように”と納得の上、高校卒業と同時に“友人”という関係に戻っただけのこと。だけど、もし、あの時、正直に話していたら・・・現在(いま)が、少しは違っていたのだろうか?もし、俺が異性だったら、どうなっていただろう?享子と勇平のやり取りは続いていたが、俺の耳には 全く入っていなかった。もし、かぁ・・・・・・ここに座っているのが、同性の俺ではなく、勇平の同僚・佐伯香夏子だったら?その時は、この見合い話も、もっと簡単に片付けられただろう。少なくとも、佐伯先生は勇平さんに好意を持っている。いいや、好意以上の、恋愛感情と言うべきだな。心から愛する相手が、反対する親族達を説得している姿を見たら、誰だって悪い気はしない。むしろ、嬉しいだろう。好感度さらにUP、間違いなしだろうな・・・そんなどうでも良いことを ぼんやりと考えながら、俯き加減に座っていると、それまで沈黙していた美代子が、納得顔で俺を見詰めて来た。「貴方、霧野さんと おっしゃいましたわね」「・・・は、はい」「判りました」「えっ?」美代子は素早く立ち上がると、京橋親娘のすぐ側、勇平の反対隣りへとやって来た。そして、俺達同様 畳の上に正座し直すと、ピシッと背筋を伸ばした。「京橋様」「はい」「本日は、ご足労下さいましたのに、大変申し訳ございません。誠に勝手なお願いではございますが・・・このお話は、なかったことにして下さい」そう言って、畳に額が着く位、頭を下げたのだ。「おふくろ・・・」咲子は、驚いたように声を上げた。「す、鈴木様、どうか お手をお上げください。そういう理由でしたら、仕方がありませんわ」「京橋様・・・本当に、申し訳ございません」美代子は顔を上げると、京橋親娘を見詰めた。新米教師の悩み(30) おわり
2011年06月13日
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冷静沈着を絵に描いたような美代子は、大きな溜息をつくと、冷やかな表情で口を開いた。「それは、遥さんのことですか」「・・・遥を、ご存知なんですか?」勇平の言葉に、俺は疑問を抱いた。だが、その疑問は美代子の言葉によって、すぐに解消された。「もちろん、存じております。祥平さんの娘・・・いいえ、祥平さんが認知なさった娘でしょう。直接、会ったことはありませんが。貴方が、懇意になさっていることなど、調べはとっくに付いています」「遥のこと、調べたんですか」勇平はそこで、言葉を切った。そして、少し間を置いて、再び口を開いた。「いずれ、調査されるだろうこと位、想定内でした・・・確かに、遥は かわいい姪です。しかし、残念ながら、彼女ではありません」「遥さんではない・・・? では、心に決めた人って・・・・・・まさか!?」勇平に向けていた 射るような視線を、俺の方へと移した。顔色が、少々青ざめて見えるのは、気のせいではなさそうだ。「ええ、そのまさかです。私は涼を・・・ここに居る、彼を愛しているんです」やっぱり、こういう役回りかぁ・・・☆嫌な予感が、的中してしまった瞬間だった。入って来た時以上に、張り詰めた空気が漂っている。それを打ち破ったのは、享子だった。「何をおっしゃるのかと思えば。勇平さん、その方は男性ではありませんか」「それが?」「いくら“心に決めた方”だとおっしゃられても。同性では、説得力不足ですわね」同性間での恋愛感情など認めない、とでも言いたいのだろう。遠回しに 牽制球を投げた後、同意を求めるように、美代子へと視線を移した。だが、当の美代子は、話を振られたことにさえ気付かぬ様子で、何やら思案中のようだ。享子は諦めたような表情で、勇平に視線を戻すと、再び口を開いた。「勇平さんの、そのお話。百歩譲って、本当だったとします。もし、本当に“心に決めた人”が居らっしゃるのなら、何故、事前に断って下さらなかったのですか?」勇平は一瞬、困ったような表情を見せた。「そのことにつきましては、弁解の余地もありません・・・以前から、彼のことは好きでした。でも、自分の中の“本当の気持ち”に気付いたのは、ついさっきなんです!」「本当の気持ち・・・?」「日本では、同性間の結婚は認められていません。しかし、これからの長い人生を、共に歩んで行きたいと本気で思ったのは、涼が初めてなんです。彼しかいないんです!」こんな歯の浮くような台詞を、真剣な表情で力説する。新米教師の悩み(29) おわり
2011年06月12日
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「遅かったですね、勇平さん。時間厳守だと、念押しした筈ですが」冷やかな口調で、上座に座る 美代子が窘(たしな)めた。「申し訳ありません。いささか所用が重なり、遅れてしまいました」そう言って、深々と頭を下げた。素直に謝罪する勇平を見るのは、もちろん初めてだった。「まぁ、まぁ、美代子さん。堅いことはおっしゃらずに。少し遅れてしまったとはいえ、勇平さんも、こうして駈けつけて下さったことですし。良いではありませんか、ねぇ 京橋さん」恰幅の良い女性・池上享子が、見合い相手の母親・京橋咲子に視線を移しながら、おっとりとした口調で言った。鈴木家と遠縁にあたる享子は、いわゆる“世話好き”で、勇平にとって 迷惑以外の何モノでもない この一席も、彼女が持ち掛けたものだ。「ええ、勿論でございます。私どもは、全く気にしておりませんので。どうか、お気になさらずに」そう言いながら、娘の愛美に視線を向けた。「ええ、私も同感ですわ」「本当に、申し訳ございません」美代子は、見合い相手の京橋親娘に深々と頭を下げると、勇平に手招きした。「勇平さん、皆さん お待ちかねです。こちらへいらして」「いいえ、俺達・・・私どもは、ここで」そう返事をし、襖の陰に隠れるように立っている俺を促した。「涼、入って」ええっ!? この雰囲気の中に、入れと言われても・・・って、もう入ってるし~★心の中で拒否したが、腕をグイッと引っ張られ、中へ連れ込まれていた。突然現れた侵入者に、誰もが戸惑っているようだ。お見合いの席に、見知らぬ他人が入って来るなんて、普通、あり得ないよなぁ。勇平はテーブルには着かず、入口の襖に背を向けるように正座すると、俺にも座るよう 目だけで指示した。「・・・・・・勇平さん、そちらの方は?」誰もが固唾を飲んで見守る中、鋭い視線を向けながら 美代子が訊ねてきた。「は、初めまして。私は、勇平さんと同じ職場で、数学の教師をしております、霧野と申します」緊張の面持ちで、自己紹介し始めた俺の言葉を、勇平が遮った。「申し訳ありません。この話は、なかったことにして下さい!」そう言うと、深々と頭を下げた。勇平の言葉に、真っ先に反応したのは享子だった。「ゆ、勇平さん!? 突然、何を言い出すんですか?」「御怒りなのは、御尤もです。しかし、私には、既に 心に決めた人が居るんです!」新米教師の悩み(28) おわり
2011年06月11日
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「6時より予約の、池上ですが」えっ、池上・・・?疑問に思いながらも、あえて口にはしなかった。「池上様でございますね。はい、承っております。ご案内致します、どうぞこちらへ」すぐ側に立っている若い店員さんに、にっこりと微笑みながらスリッパを差し出されては、観念するより他はない。「涼、何も心配することはない」「・・・・・・・・・」美しい微笑み付きで、力強くそう言われても、心は依然として鉛のように重かった。女将に案内されるまま、勇平の後に続き、磨きこまれた長い廊下を奥へと進んだ。右手のガラス越しに、美しい庭園が一望できるようになっている。四季折々の木や草花が、見る者の心を楽しませ、あるいは癒してくれるであろう。今にも降り出しそうな 曇り空だった為、いつもより若干早く 外が薄暗くなり掛けているが、所々に灯篭が配置されているところを見ると、黄昏時には、また別の顔が一望できるのだろう。残念ながら、時間的にも、心理的にも、それらをゆっくりと鑑賞する余裕はないが~★俺達を案内してくれた女将が、いちばん奥の部屋の前で足を止めた。「こちらの、紫陽花の間でございます」俺は無意識の内に、ごくりっと唾を飲み込んだ。「失礼いたします・・・」目の前の襖を開くと、15畳ほどの書院造の座敷だった。真新しい青畳を敷き詰めた座敷からは、い草の香りが ほのかに漂って来る。部屋の奥の 床の間には、“紫陽花の間”というだけあり、紫陽花画の掛け軸が。細部まで神経を使い、出過ぎることなく整えられた、総檜の部屋。そして、中央に配置された 大きめの檜テーブルを囲むように、和服を着た4人の女性が座っていた。床の間に背を向け、鋭い視線をこちらに向けているのは、勇平の母・鈴木美代子。西陣織の訪問着をさらっと着こなした美代子は、御歳55才になるというのに、見た目は40代半ば位。勇平と良く似た、目鼻立ちのはっきりとした 目の覚めるような美人だ。その斜め横には、同じく訪問着姿の、60代前半と見られる、恰幅の良い女性が座っている。さらに、入口に背を向けるようにして、やはり訪問着姿の40代前半位の女性と、その隣には、振り袖姿の女性が座っていた。ほとんど会話もなく、ピリピリと張り詰めたような 妙な空気が漂っている。親族会議か、お見合いだろう、と踏んでいたが。後者らしいことが、すぐに見て取れた。新米教師の悩み(27) おわり
2011年06月10日
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「身体つきを見れば、大凡の見当はつく。お前は華奢に見えるが、見た目より筋肉質だよな。抱き締めた時、そう思った」そう言って、鮮やかな笑みを浮かべた。うっ・・・恥ずかしげもなく、抱き締めたとか言うな~!心の中で悪態をついた後、平静を装って、最大の疑問を口にした。「そろそろ、教えて貰えませんか」「ん?」「俺、何をすれば良いんですか」「別に、何も」「何も・・・って?」「黙って、俺の側に居てくれれば、それだけでいい」凛とした表情で 真っ直ぐ俺を見詰める勇平は、もはや、俺が見知っている“ちょっと変わった美術教師”ではなく、気品漂う“鈴木コンツェルン御曹司”の顔だった。上着の内ポケットから携帯を取り出し、細長い指で器用に操作する その仕草でさえ、優雅に見えるから不思議だ。「涼、悪いが ここからは、マナーモードにしてくれ」携帯をポケットに戻しながら言う。俺は無言で頷くと、上着のポケットに手を入れた。が、肝心の携帯が入っていなかった。勇平に急かされながら 慌てて着替えた為、Gパンのポケットから出し忘れたのだ。「どうかしたのか?」「車の中に忘れて来たみたいです」「取りに戻るか」「いいえ。失くした訳ではないので、後で良いです」「そうか。悪いな」そう言う間も、勇平の足は前へと進んでいるところを見ると、余程 急いでいるのだろう。ここまで来た以上、前に進むより道はない・・・か。自分にそう言い聞かせながら、無言のまま勇平の後に続いた。石畳の続く庭園を進んで行くと、老舗と呼ばれる日本料理店、長瀬の暖簾が掛った入口が目前に迫って来た。『鈴木の代わり』と聞いた瞬間から、嫌な予感がしていた。いつもとは明らかに違う、勇平の身なり。前もって用意されていた、俺用のオーダーメイドのスーツ。そして、何より・・・俺の給料では身分不相応、無縁だとも言える、この店。得体の知れない胸騒ぎに苛まれ、無駄だとは思いつつも、最後の悪あがきに出てみる。「・・・やっぱり、帰っていいですか?」「この期に及んで、まだ、そんなことを。涼、これは“俺達のため”なんだぜ」「俺達の? それって、どういう」そこまで言い掛けた時、逃がさないとばかりに俺の腕を掴むと、店内へと足を踏み入れた。「いらっしゃいませ。ようこそ、おいで下さいました」50代位とみられる、和服姿の女将が、深々と頭を下げた。新米教師の悩み(26) おわり
2011年06月09日
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「ええっ!? ちょ、ちょっと待って下さい! いくら何でも、こんな恰好では入れませんよ!!」何度も言うようだが、近所のスーパーへ向かう途中だったので、TシャツにGパン、スニーカーを履いている。「ああ、そのことか。悪いが、後ろで着替えてくれ」そう言って、後部座席を指差した。「着替えるって・・・着替えなんて、持ってませんが」勇平は無言のまま車を降りると、外から助手席側のドアを開けた。「自分で降りないなら、お姫様抱っこで降ろすぞ」その言葉に、慌てて車を降りると、絶妙のタイミングで後部座席のドアを開いた勇平は、モタモタしている俺を中へと押し込み、自分は運転席へと戻って行く。広めの後部座席には、大小2つの箱が置いてあった。「時間がないから、さっさとソレに着替えてくれ」「はぁ・・・」大きい方の箱を開けると、品の良いダークグリーン系のタータンチェックのスーツに、生成りのブラウス、グリーン系のネクタイ。そして、ベルトや靴下、ハンカチといった小物まで入っている。小さい方は、新品の黒い革靴だった。値踏みする積りなど、毛頭ないけど。どれも、俺が持っているモノの数倍・・・いいや、それ以上はすると思う。「これを、着るんですか?」「俺の趣味で悪いが、お前に似合うと思って」「・・・・・・ありがとうございます」お礼を言うのも変かな? と思いながらも、一応、言ってみる。「涼、時間がないんだ。お礼は良いから、とにかく 急いでくれっ!」「はい」無精者(?)の勇平が、何故、店の目の前にある駐車場が空いていたにも関わらず、一番遠い第三駐車場に わざわざ駐車したのか、疑問に思っていたが・・・まさか、俺が『車内で着替えるため』だったとは、思いもしなかった。時々、視線を感じて顔を上げると、ルームミラー越しに 急き立てるような“無言の圧力”を掛けて来る。深く考える暇すら与えられず、無言の圧力に苛まれながら、後部座席で着替えた俺・・・★「思った通り、ピッタリだ。涼、良く似合ってる」勇平からプレゼントされた(?)スーツも 靴も、驚くほどピッタリだった。自分で設えたことなど到底ないが、九分九厘オーダーメイドだろう。だが、勇平は元より、他人にサイズを教えた覚えも、もちろん、店へ行った覚えもない。「・・・ありがとうございます。俺のサイズ、知っていたんですか?」どうにか着替えを済ませ、鏡を見る代わりに勇平のチェックを受けた後、駐車場から足早に歩きながら訊ねてみた。新米教師の悩み(25) おわり
2011年06月08日
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今度は、驚いたような表情で見詰めて来る。「もしかして、料理とか 作れるのか?」「ええ。ウチの両親、昔から共稼ぎでしたから。小さい頃から、家事は兄弟で分担していました。おかげで、ウチの三兄弟は、家事全般 一通りできます」目の前の信号が青に変わり、再び車は走り出した。「ちなみに、得意料理は」「和食、かな。自分で言うのもなんですが、煮物は家族内では好評です」「肉じゃがもか?」「時々、拵えますよ。少し多めに作って、翌日 コロッケにしたり。肉じゃがのコロッケって、美味しいですよね」そう言って、思わず微笑んだ。「クスッ・・・花嫁修業は完璧、いつでも嫁げるってわけだ」「嫁ぐ気は ありませんけどね」もちろん、“俺が嫁ぐ”のではなく、“嫁さんを貰う”つもりだから。と、心の中で付け加える。妙な間を置き、勇平がポツリと言った。「俺が貰ってやるよ」「ん? 何を」「もちろん、涼。お前をさ」「結構です!」冗談だとは判っているけど、これ以上、誤解されないためにも即答する。「フッ、照れなくてもいい」どうして、そうなるんだか・・・☆「そういうわけで、夕飯の仕度があるので、早めに帰宅しないと」「それは無理だ」俺の言葉が終わらない内に、今度は勇平が即答した。「む、無理って・・・?」「よし! こうしよう。ウチのシェフが拵えた料理を、お前の家に届けさせる。それなら、良いだろう」いきなりそう言うと、俺の返事も聞かぬまま、車を路肩に停め、上着のポケットから携帯を取り出した。「ああ、もしもし、俺だけど・・・・・・」この、光並の行動力は、素晴らしいと思うのだが。俺には、ちょっと付いて行けないなぁ~☆だが、他愛のない この会話が、現実になろうとしていることなど、まだ知る由もなかった。6時を少し回った頃、勇平の運転するBMWは、名古屋の中心街から少し離れたところにある一軒の店の、第三駐車場に停まった。前方には、落ち着いた和風モダン庭園が広がり、その先には、純日本建築の立派な建物が、言葉通り そびえ建っている。暖簾を見なくても判る。そこは、グルメ雑誌やテレビ等にも時々登場する、老舗の日本料理店として有名な『長瀬』だった。「さっ、着いたぜ」「あれって、“長瀬”ですよね・・・まさか、長瀬に入る、なんて言わないですよね?」「その、まさかだが」何の躊躇もなく、あっさりと返された。新米教師の悩み(24) おわり
2011年06月07日
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「涼、家まで迎えに行く手間が省けた。俺と一緒に来てくれ」「はぃ?」「ゆっくり説明している暇はない。とにかく、乗ってくれ」「えっ!? ちょ、ちょっと、待って!」有無を言わさず とばかりに、俺の腕を掴むと、半ば強制的に助手席へと押し込む。そして、エンジンが掛かったままの運転席に乗り込むと、すぐに発進させた。全く、強引なんだから・・・☆乗ってしまったのものは仕方がないので、俺は出方を窺(うかが)った。蒸し暑かった外とは大違い。クーラーの掛かった車内は、快適そのもの。と言いたいところだが・・・どことなく、気まずい雰囲気が漂っている。日本でも話題となった、アメリカを拠点に活躍中のアーティスト・Michael(ミカエル)の、発売されたばかりのベストアルバムがBGMとして流れているので、静まり返っている、というわけではないのだが。そういえば、職員室での、“あの一件”以来、勇平と話すのは初めてだった。何はともあれ、まずは お礼を言うべきだよな、と思い直し、重い口を開いた。「先日は、有難うございました」「ん? 何の話だ」「あの時・・・貴方のお陰で、ふっきれたような気がします」「顧問、する気になったのか」透かさず、そう返って来た。「いいえ、そこまでは・・・もう少し、考えさせて下さい」「いい返事を待ってるぜ」それ以上、会話が続かなかった。しばらくして、再び口を開いた。「ところで、どこへ向かっているんですか?」この質問には答えようとせず、勇平は真っ直ぐ前方を見据えたまま運転を続けた。そして、目の前の信号が赤に変わり、車を止めてから ようやく口を開いた。「さっきは、手荒なことをして すまなかったな。悪いが、このまま 遥の代わりに協力してくれ」「鈴木の代わりって・・・?」「一緒に来れば判る」「それじゃ、答えになっていません。それに俺、忙しいんです」「忙しい? ああ、そういえば 歩いてたな。用事でもあったのか?」「用事って程でもありませんが。スーパーへ行く途中だったんです」「スーパー? 何しに」真顔で、そう返して来た。まさか、『スーパーへ行ったことがない』なんて言わないですよね?そう訊きたいのを堪えながら、極普通に答えた。「もちろん、夕食の材料を買いに、ですよ」「・・・・・・おつかいの途中だったのか。邪魔をして、悪かったな」「おつかいって、俺、幾つですか・・・☆ そうじゃなくて、食材を購入して、俺が拵えるんです」新米教師の悩み(23) おわり
2011年06月06日
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梅雨入り間近ということもあり、一歩外へ出ると 蒸し暑く、どんよりと垂れ込めた曇が、どこまでも続いている。目的のスーパーは、自宅から徒歩で10分程のところ。いつものように 運動不足解消も兼ね、車や自転車など使わず、もちろん徒歩。Gパンの後ろポケットから携帯を取り出し 時計を見ると、5時半を回ったところだった。曜日の加減なのか、交通量も、歩道を行き交う人の姿もまばらだ。とはいうものの、国道等の主要道路から1本外れた、ガードレールさえない細い道なので、通勤・通学の時間等しか混まないとは思うが。傘を持ってくれば良かったかなぁ、と後悔しつつ、半分位まで来た頃、前方から黒いBMWが勢いよく走って来た。特別 珍しいわけではないが、横を通り過ぎた後も 何気なく目で追っていると、突き当たりの角を曲がる直前、何を思ったのか急停車した。な、何だ・・・?何をするかと思いきや、次の瞬間、いきなりバックし始めた!ウィーンという音を響かせながら、凄いスピードで。『後続車がなかったから良いものの、一体、何を考えてるんだ~★』口には出さず、心の中だけで抗議していると、その車は 俺の目の前でピタリッと停まった。ま、まさか、心の呟きが 聞こえたってか!?内心焦っていると、スモーク張りの窓が静かに下り、モデル並みの男の横顔が そこにあった。一目で上質だと判るブルーグレーのスーツに身を包み、白いカッターに、控えめだが品の良いタイで渋く決めている。「道を訊ねたいんだが。この辺に、『霧野』という家があると思うが」それが他人にものを訊ねる態度か? と言ってやりたい位、ぶっきらぼうに言い放った後、俺に視線を向けて来た。緊張しているのか、切羽詰まっているのか判らないが。それは、紛れもなく鈴木勇平だった。トレードマークだとも言えるサラサラの長髪も 短く整えられ、いつもの白衣姿からは想像もできないような、見事な変身ぶりだ。「勇平さん、どうしたんですか?」「りょ、涼!?」やっと気付いた勇平は、慌てて車から降りて来た。「・・・にしても、私服を着ると別人だな。てっきり、高校生だと思った」その嬉しくもない呟き声は、俺の耳にもしっかり届いた。いくら普段着のTシャツにGパン、スニーカー姿だとはいえ、高校生に間違われるのはなぁ。慣れているとはいえ、ちょっとショックかも~★新米教師の悩み(22) おわり ☆補足コーナー☆最後までお付き合い頂きまして、有難うございます<m(__)m>霧野涼シリーズ『蒼い中学時代』から、お付き合い下さった方はご存知だと思いますが・・・上記を書いたのは8年前、2003年のことです。当時、涼は就職3年目、24歳という設定で書き始めたので、計算から行くと、その2年前のお話ということになります。(今、蒼い中学時代を読み返してみて、前回の1年前ではなく、2年前だと気付きました~☆ ごめんなさい)長々と引き摺っている、中間テストの日付は5月28~30日頃、そして、今年の(東海地方)梅雨入りは5月27日ですが、10年前は6月5日だったようです。なるべく違和感のないように書いていくつもりですが、若干ずれているのは、このお話は10年前が舞台だということで、予めご了承下さい。・・・って、10年前の世界って、どんなだったでしょうかね。正直、覚えていませんが(ーー゛)李 香蓮
2011年06月05日
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「涼、どこへ行くんだ?」リビングを出ようとした俺に、透かさず訊いて来る。「お茶でも淹れて来るよ」「お茶? どうせなら、ビールにしてくれ」「ビールって・・・勤務中じゃないの? それに、車は」光は大あくびをすると、ウーンッと伸びて見せた。「このところ、張り込みが続いてな。だが、その甲斐あって、抱えていたヤマが、やっと解決したところだ。それに、明日は久々に非番だから・・・今夜は、泊って行く」俺は、一瞬 自分の耳を疑った。「何だよ、その表情(かお)は。俺が泊ったら、悪いのか?」「そんなこと、言ってないけど」「けど?」「久々の非番なら、家に帰った方が良いんじゃないかと思って。新婚なんだから・・・友里さん、光兄さんの帰りを待っているだろう」一般論を述べた積りだが、何故か、鋭い視線を向けられた。「ごめん・・・余計なお世話だね」そう言って光に背を向けると、呟くような声が聞こえた。「別れようと思ってる」へっ?反射的に振り返ると、どこか遠くを見詰めた光が ポツリと呟いた。「・・・・・・長過ぎた春、なのかな。俺達は」今まで、自信に充ち溢れた姿しか見たことがなかった俺は、意外な一面を見た気がした。「ビールと、つまみを持って来るよ。ちょっと、待ってて」聞こえなかったフリをするのが、精一杯だった。キッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールと、つまみになる物を物色し、取り敢えず お盆に乗せる。そして、冷凍室から枝豆を取り出し、皿に移し替えると、電子レンジへ放り込み スイッチ・オン。レンジが解凍している間に、お盆に乗せた物をリビングへと運ぶ。ハァ・・・どんな顔をすれば良いんだろう。難しいよな・・・☆大きな溜息を付いた後、意を決し、リビングのドアを開けると、光が絨毯の上に倒れていた。いいや、正確には 爆睡状態だった。運んで来たお盆ごとテーブルの上に置くと、無駄だとは思いながらも声を掛けてみる。「光兄さん、寝るなら自分の部屋で寝ろよ・・・・・・って、起きるわけないか~☆」仕方がないので、2階の自室からタオルケットを取って来ると、光に掛けてやった。余程、疲れていたんだな・・・でなきゃ、あんなコト、軽々しく口にしないよな。そんなことを考えながら、無邪気な表情で 寝息を立てている光を覗き込んだ。「よし、今夜は光兄さんの好きな、焼肉にしよう」そう呟くと、急いで買物に出掛けた。もちろん、テーブルの上に、光宛てのメモを残し、玄関の鍵を掛けることも忘れてはいない。新米教師の悩み(21) おわり
2011年06月04日
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*生徒達への テストの返却も無事に終え、長かった1週間が終わろうとしていた。土曜日の夕方、自宅のリビングにあるソファーに座り、独り読書に勤しんでいると、ドアを開ける音と共に、不機嫌そうな声がした。「何だ、居たのか・・・玄関、鍵が掛かってたから留守かと思った」顔を上げると、ダークグレーのスーツに身を包んだ、すぐ上の兄・光が入って来た。ゲッ! な、何で光が ここに!? しかも、思いっきり不機嫌そう・・・★我が霧野家・次男の光は、3つ上の25歳。長男・桂と同様、父親似の光は 男らしい顔立ちで、無駄な贅肉が全くない、筋肉質のがっしりとした体型。同性の俺から見ても、カッコいいと思う。おまけに、桂程ではないが、幼少の頃から 表向きは優等生。微笑みながら生徒会長をやってのける半面、中学では伝説を残すほど喧嘩が強かった。俺に言わせれば、最強の二重人格者だ。「学校、今日は休みだろう。折角の休みだっていうのに、家に居るとは・・・それに、また読書か? そんな暇があったら、女の1人もナンパして来い」それが、妻帯者の言う台詞か!?しかも、刑事だろう~☆光が選んだ職業は、警察官。いわゆるキャリア組ってヤツで、役職は警部。捜査第一課の、鬼係長らしい。頭の回転は速いくせに、自分を基準に物事を考えるので、周囲の人間を無能扱いする。体力や行動力が、せめて人並み位なら救いようもあるが。体育会系の体力馬鹿で、行動力もずば抜けているから、始末に負えない。光が直属上司だなんて・・・考えたくもない。何人居るかは知らないけれど、さぞや部下は大変だろう・・・★左手でネクタイを緩めると、上着を脱ぎ、無造作にソファーの上へ放り投げた。それを横目で見ていた俺は、本を閉じると、壁に掛っていたハンガーに掛けてやる。「・・・涼、良い嫁さんになれそうだな」そう言って、絨毯の上に胡坐(あぐら)をかいた。「それ、誉め言葉には聞こえないよ。で? 今日は、どうしたの」「何が」「突然、家へ来るなんて 珍しいから」「ああ。近くを通り掛かったから、ちょっと寄ってみただけだ。実家に来るのに、いちいち連絡しなくたって良いだろう」「・・・確かに」高校時代から付き合っていた彼女・美崎友里と、1年程前に結婚した光は、実家から少し離れたマンションに住んでいる。離れたとは言っても、車で30分程の距離だが。新米教師の悩み(20) おわり
2011年06月03日
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おはようございます。あっと言う間に、6月に入りましたね。イメージ的には、衣替え ですが・・・雨降りのせいか、私の住むこの地は、昨日も、そして今朝も肌寒いです~★とても、半袖の服を着る気にはなれません(;一_一)皆さんのところは、いかがでしょうか?なかなか進まない、新米教師の悩み(霧野シリーズ)ですが、昨日、やっと(少し)書き進め、完結までは行きませんが、1つの問題を乗り越えました。裏話をするのもなんですが、自分に経験したことのないシーンを強引に書き進めていたので、いろんな意味で、普段以上に悩みました(ーー゛)おまけに、いつもの悪い癖で、別のストーリーを思い付き、そちらも並行して書いていたり・・・☆ちなみに、以前 掲載させて頂いていた、Time traveller'sと、小悪魔(グレムリン)に魅入られた俺 は、同時進行で書き上げたもです。悩んでいると、全然違うことが思い浮かぶ・・・昔から、悪い癖は直らないですね(~_~;)話がそれてしまいましたが、明日より『新米教師の悩み』を再連載させて頂きますので、よろしくお願いします<m(__)m>このブログを、今日 初めて読んで下さった方の中で、もし 興味を持って頂けましたら、明日も覗いて頂ければ幸いです。補足ですが、新米教師の悩み(小説です)は、1~19話まで、掲載しています。ちなみに、このお話は、霧野涼シリーズ『蒼い中学時代』より、一応 繋がっていますので、まだ読まれていない方も、読んで頂けると、より判りやすいのでは・・・と思います。それでは、またお会いできるのを、楽しみにしています。香蓮らんど 李香蓮
2011年06月02日
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なんだかんだで、18日振りの更新となってしまいました(~_~;)当初の予定では、新米教師の悩み(小説)は完結し、再連載させて頂いている時期だったのですが・・・この時期は体調を崩し易いらしく、家族の誰かがダウンする、という状況が続き、正直なところ、余り進んでいません(*_*;続きをお待ち下さっている方がいらっしゃいましたら、本当にゴメンなさい。余談ですが・・・最近、太り始めた(4キロUP!)私は、自分のブログに載っていた『カプシエイト』を試してみました。6日分で500円(送料込)なら、試してみよう。そんな軽い気持ちで購入したのですが・・・『自分に合った飲み方を見つけて下さい』とパンフにあり、食後すぐ位に飲んでおけばよかったのですが、忘れんぼの私は、就寝する頃思い出して飲んでいました。それが、いけなかったんでしょう。一応、6日間飲みきり、定期購入しようか迷っていた金曜日の夜・・・胃が痛い!痛くて寝れない感じでした(;一_一)翌日から、胃腸風邪の時以上の胃の痛みに襲われ、正直なところ、昨日の夜までの5日間、まともな食事をしていません~☆確かに、体重は落ちましたが、それって・・・という感じです~★体質によって、私のように合わない人も居るようです。くれぐれも、注意して下さいね(^_-)胃腸薬と、氷砂糖、そして栄養ドリンクの生活から脱出できそうですので、今日から小説の続きを書きたいと思っています。最後まで、お付き合い下さいまして、ありがとうございました<m(__)m>
2011年05月25日
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このブログを、読んで下さっている優しい皆様、おはようございます(^^)GWも今日で終わり、という方もいらっしゃるかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?ちなみに、我が家は農家なので、私は子供たちの面倒を、それ以外の家族は もうすぐ始まる田植えの準備に追われています。毎年恒例なので・・・ GWはこんな感じです。このところ、順調(?)に掲載させて頂きました、小説・新米教師の悩み(霧野涼シリーズ続編)ですが・・・ 最近、なかなか時間が取れなくなり、未だ未完成のまま(~_~;)気持ち的には、思っているストーリーの半分位なんですが、後4日分程で、掲載できなくなりそうです~☆中途半端に見て頂くより、きちんと出来てから掲載したいと思いますので・・・しばらくの間、お休みさせて頂きます。続きを待って下さっている方、もし、いらっしゃいましたら、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願い致します<m(__)m>香蓮 らんど 李 香蓮
2011年05月07日
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必死に堪えようとしているのに、俺の意思に反し、涙が後から後から溢れて来る。もう、人前では絶対に泣かないって、決めていたのに・・・こんなにも、泣きたかったのか・・・・・・「・・・うっ・・・・ひくっ・・・ひくっ・・・・・・・」肩を小さく震わせ、声を押し殺して泣いた。悲しいとか、悔しいという感情ではない。むしろ、ホッとした時の 安堵感だ。勇平と翔の容姿は、どことなく似ているという程度だが・・・何故か、一緒に居ると安心できた。子供をあやすように、優しく頭を撫ぜながら、勇平は俺が落ち着くのを待っていた。どの位、ハンカチ代わりをしてくれただろう。しばらくして、勇平がポツリッと呟いた。「涼・・・泣くのは、俺の前だけにしろよ」顔を上げると、頬を伝っていた涙の跡を、勇平はそっと右手で拭った。「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」「いいや、そうじゃなくて・・・泣き顔を見ると、理性が吹っ飛ぶから」「えっ・・・?」「お前の泣き顔、凶悪的に可愛くて。理性を抑えるのが大変だ」ゆっくりと整った顔が近付いて来て、次の瞬間、またもや 勇平に唇を奪われていた。勇平という人間を把握し始めた俺は、これは“ハンカチ代わりをして貰ったお礼だ”と割り切ることにした。これさえなければ、良い人かも・・・・・・と思うのだが。「ハァ・・・残念だが、この続きは また今度だ」唇を離すなり、大きなため息交じりに勇平が呟いた。「つ、続きって、俺は別に」「今夜は、先約があるんだ。涼、近い内に埋め合わせはするから。送ってやれないが、気を付けて帰れよ」素早く自分の席から鞄を引っ張り出すと、白衣を脱ぐ時間も惜しいらしく、そのまま職員室を後にした。もしかして、俺のコト、“彼女”だと思っているとか・・・?やっぱり、俺には理解できない~★新米教師の悩み(19) おわり
2011年05月05日
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「クスッ、な~んてな。偉そうなコト言ったけど、俺も以前、お前と同じような状態に陥った時期があった」限りなく整った 勇平の顔を、俺はマジマジと見詰めた。「・・・意外ですね」「だろ? 俺自身、信じられなかったさ。原因は、倉本翔の美的センス、才能への嫉妬だな」勇平は瞳を伏せると大きな溜息をつき、話し始めた。「幼少時代から、周囲のヤツらに“お前は天才だ”とか、“才能がある”って煽(おだ)てられて来たから、自分の力量を過信していたんだよな・・・アイツが同じ美大に入学して来て、初めて作品を見た時、俺は震えた。『こんなに凄いモノが描ける学生が居たなんて! これを描いたのが、何故、俺じゃないんだ!!』ってな」「その気持ち、何となく判ります」「絶望の淵に立たされて、大学を辞めようとまで考えていたのに・・・夏休みに入る直前、アイツの方があっさり辞めちまって。おまけに、フランスへ留学したって聞いた時には、怒りを通り越して、呆れた位だ」「・・・フランス留学は、高校在学中から決めていたみたいです。卒業式当日、翔から直接聞きました」そう呟いた途端、今まで必死に抑えていた感情が、怒涛のごとく込み上げて来た。「翔のヤツ、そんなに前から決めていたのか・・・・・・俺でさえ、あのスランプから立ち直るのに、半月は掛ったからな。アイツの身近な存在だったお前が、ずっと引き摺っていたとしても」勇平はハッとしたように、一瞬 目を見開くと口を噤んだ。冷静沈着を絵に描いたような男が、明らかに動揺している。しかも、うっすらと頬を染め、戸惑っているようにも見えた。「・・・す、すまない。また、余計なことを言ったようだな」「いいえ。俺の方こそ」口を開いた途端、温かいものが頬を伝い始めた。「あ・・・れっ? 涙が勝手に・・・・・・すみません。俺、涙腺弱くて」慌ててポケットからハンカチを取り出そうとした俺を、勇平は強い力で抱き締めた。「ゆ、勇平・・・さん?」「生憎、ハンカチとか持ってないんだ。涼、今まで辛かったな・・・思いきり、泣いていいぜ」その言葉が心に染み込んで、熱いものが込み上げて来た。新米教師の悩み(18) おわり
2011年05月03日
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「何だ、そんなことか」「そんなことって・・・★」「やってみなけりゃ、判らないだろう?」「他人事だと思って簡単におっしゃいますが、やらなくたって、大凡の見当は付きます。折角誘って頂いたのに、お役に立てなくて 申し訳ありません」丁寧に詫びると、机の引出しから鞄を取り出し、立ち上がった。「話がそれだけでしたら、俺はこれで。お先に失礼します」「待てよ! まだ、終わってないだろう」歩き出そうとする俺の腕を掴むと、強引に自分の方へと向けた。「高校時代、美術部だったことは翔から聞いている。そして、お前の腕前も。かなり上手かったと」「それは、昔の話です! もう、俺のことは放っといて下さい!!」反射的に勇平の言葉を遮り、腕を振り払っていた。「あっ、と。すみません。つい、感情的になってしまって・・・・・・もう、絵は描けないから」高校を卒業して以来、落書き程度の絵でさえ描いたことがない。当時使用していた道具類は、捨てることもできず、現在も家の倉庫の片隅で眠っている。「それって、“描けない”じゃなく、“描かない”じゃないのか?」「・・・・・・・・・」「翔のことが忘れられない、とか」突然の言葉に顔を上げると、何とも形容し難い表情をした勇平の顔があった。いつもの自信に充ち溢れた、俺様的な表情ではなく、どこか儚げな、愁いを帯びたような表情だ。「ハァ・・・勇平さん、貴方って人は。本当に、次から次へと、突拍子もないことを思い付く人ですね。確かに、今でも翔のことは好きですよ。でも、多分・・・貴方が考えているような意味ではありません。俺にとって翔は、高校時代の恋人であり、現在は大切な友人です」「だったら・・・」「絵が描けなくなったのは、自分に才能がないことを自覚したから、かな。貴方が言う通り、“描けない”というより、“描く気になれない”という方が、近い気がします」「なるほど・・・と言いたいところだが。絵を描くのに、才能なんて必要あるのか」えっ・・・!?ガツンッと、頭を殴られたような衝撃を受けた。「プロになろうってなら、話は別だが。絵なんて、描きたいと思った時に、自由に描いたら良いんじゃないのか」まさに、言葉は“魔法”だと思う。勇平が放ったこの一言は、今まで、俺の心に深々と突き刺さっていた棘を、いとも簡単に抜き去ってくれた。新米教師の悩み(17) おわり
2011年05月02日
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*何事もなくテスト週間へと突入し、3日間に渡る中間テストも、1人の欠席者もないまま最終日の今日、無事に終了した。ちなみに、3年生の補充授業に関しては、香夏子の助言で、学年主任の中川先生に相談したが、予想通り却下された。まぁ、3年生の担当である 柏木先生達の立場や気持ちを考えれば、当然の結果だけど。だが、音楽室に関しては、『発表会が終わるまで』という期間限定ではあるものの、音楽室を使用していない休み時間に限り、許可を得ることができた。担当している数2のテストは 本日行われ、一通り採点を終えた俺は、ホッと息を付いた。みんな、頑張ったな・・・予想していた以上に、平均点が良かったことが、何よりも嬉しかった。ちなみに、数Bは高岡という講師の先生が担当している。「こんな時間まで残ってるなんて、珍しいな」顔を上げると、白衣姿の勇平が近付いて来た。美術室で“お礼のキス”をされて以来、何故か、行く先々に現れるような気がするが・・・気のせい、だよな?「ああ、テストの採点か。ご苦労さん」俺が口を開くより先に、状況を察し、興味を失ったと言わんばかりに呟いた。採点に夢中になり気付かなかったが、既に 職員室に人影はなく、壁に掛っている時計を見ると、6時を差すところだった。「もう6時か・・・先生こそ、こんな時間まで何を?」「“勇平でいい”と言っただろう。テストの最終日は、授業はないが、部活は任意だからな。熱心な生徒が 今し方帰ったから、美術室の戸締りをして来たところだ」「・・・もしかして、美術部の顧問なんですか?」「俺が顧問をしたら、おかしいか」「いいえ、別に」美術教師が、美術部の顧問をする。それは、極当たり前の流れだと思う。ただ、それをしているのが、この勇平だということが意外だった。「一緒にやらないか」採点したばかりのプリントを片付けていると、いきなりそう訊ねて来た。「はぃ?」「美術部の顧問を、一緒にやらないかと聞いているんだ」「まさか! 冗談はやめて下さい」苦笑しながら顔を上げると、真剣な瞳をした勇平の整った顔が、すぐ目の前に迫っていた。「俺は、真面目に話しているんだ」「・・・・・・折角ですが、お断りします」「また、その台詞か。理由は?」「理由も何も。俺は数学の教師ですよ? その俺に、何が教えられると言うんです。どう考えたって、無理ですよ」一般論を並べてみたが、勇平には通用しなかった。新米教師の悩み(16) おわり
2011年05月01日
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「折角だから、何か弾いてくれないか」「えっ?」「得意な曲を、弾いてくれよ」「・・・何が良いですか」「じゃあ、練習していた曲でいいよ」遥は大きく頷くと、弾き始めた。それは、クラッシック曲ではなかった。懐かしいような、切ないような、不思議なメロディーを奏でて行く。どこかで聞いたことのある曲だが、残念ながら思い出せなかった。「今の曲、聞き覚えはあるんだが・・・何て曲だっけ?」弾き終わった彼女に、拍手をした後、訊ねてみた。だが、俺の質問には答えず、背筋を伸ばすとこう言った。「Listen to the song.」再び、同じ曲を弾き始めた。そして、今度は歌い出した。「 She Always Takes It With A Heart Of Stone 'Cause All She Does Is Throws It Back To Me I've Spent A Lifetime Looking For Someone Don't Try To Understand Me Just Simply Do The Things I Say・・・・・・ (Michael Jackson-Give In To Me 歌詞)」先程も思ったことだが、ピアノの腕前はプロ級だ。おまけに、その歌声は 話している時とは違い、少しハスキー掛かった、何とも言えない魅力的な声だった。歌が終わった後も、しばらくの間、俺は身動きできずにいた。「・・・・・・先生?」「ハッ! ああ、すまない。思わず、聴き惚れてしまった」お世辞でも何でもなく、本当にそう思った。「その歌、マイケルだよな」「Give In To Me です」「ピアノも上手いけど、歌い方から声までそっくりだったよ! 正直、ビックリした」「有難うございます。お世辞でも嬉しいです」「お世辞じゃなく、本当に上手いよ。どんな発表会に、出場するのか知らないが。これなら、優勝間違いなしだ!」「・・・霧野先生って、良い人ですね」何気ない遥のこの一言が、俺も嬉しかった。「発表会まで、時間がないんだろう? 邪魔して悪かったな」「いいえ。先生、このこと・・・誰にも言わないで貰えますか?」「もちろん。ここへ来たことは秘密だ。それから、休み時間、本校舎の音楽室を借りられないか聞いてやるよ」「えっ?」「だから、ここに1人で来るのは止めろよ。いろんな意味で、何かあってからじゃ遅いからな」「・・・はい」俺は、歩き掛けて足を止めた。「なぁ、今の曲以外にも弾けるのか?」「CDさえあれば、多分」「今度、聴かせてくれよ。発表会が終わってからで良いからさ」「リクエストは?」「そうだなぁ・・・それまでに、CDを用意して置くよ」「判りました」「その辺で用事を済ませているから、俺のことは気にせず、練習を続けてくれ」「えっ?」「そう言われても、気になるよな。だが、お前がここで練習していると知った以上、1人残して 立ち去るわけにはいかないから」「先生・・・」「悪いが、性分なんだ。観客だとでも思ってくれ」そう言って、わざとピアノから死角になる位置に座り、遥が練習する曲に耳を傾けた。新米教師の悩み(15) おわり
2011年04月28日
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午前の授業が終了し、昼休みとなった。今朝の、3年生達との約束を果たす為、まずは、余り人目に付かない場所を探してみることにした。急いで昼食を摂り、使用していない教室を探す。本校舎の方は、余分な教室など ほとんどない上に、どうしても人目に付いてしまうので、狙い目は、やはり旧校舎だろう。とはいえ、築年数が相当経っている上に、旧校舎は昔、病院を買い取って そのまま使用していたとか。螺旋階段の下には霊安室があり、夜な夜な泣き声が聞こえる・・・という、噂のある場所なので、余り良い気分ではない~★だが、背に腹は代えられないので、取敢えず、行ってみることにした。昼食時間ということもあり、他に人影もないまま、旧校舎のすぐ側までやって来た。その昔、いわくつきの病院だった、という古めかしい建物を見上げると、やはり、1人で来たことを後悔しそうだ。俺はともかく、生徒達は来たくないよなぁ・・・等と思っていた時だ。微かだが、ピアノの音が聞こえて来た。ピアノ・・・一体、誰が!?耳に神経を集中させて辺りを見回すと、どうやら、旧校舎の中から聞こえて来るようだ。誰か、居るのか?怖いというより、好奇心だったのかもしれない。いつの間にか、音のする方へと、吸い寄せられて行った。その音は、旧校舎一階の一角にある『第一音楽室』から聞こえていた。緊張の面持ちで近付くと、目の前の扉に手を掛け、ゆっくりとスライドさせた。ガラガラガラ・・・立て付けの悪い扉は、派手な音を立てて開き、当然のように、ピアノの音はピタリッと止まってしまった。シーンと静まり返った 薄暗い音楽室は、不気味そのもの。「あの・・・誰か、居るんですか?」教室の片隅に置かれた、グランドピアノの方に向かって声を掛けてみたが、返事はない。「気のせいだったかな」そう呟きながら、光を閉ざしている 目の前のカーテンを開けた。すると、薄暗かった室内が明るくなり、聞き覚えのある声が響いた。「霧野先生・・・」振り返ると、ピアノの陰から遥が顔を出した。「す、鈴木!? どうして、こんなところに」俺は、側へと駆け寄った。「勝手に入って、すみません。練習時間が欲しかったんです」そう言って、頭を下げた。「発表会でもあるのか?」「・・・・・・そんなところです」曖昧に答えると、遥は俯いた。「確かに、旧校舎へ勝手に入るのは、良くないことだよな・・・って、俺も同罪だから、他人(ひと)のことは言えないな」「クスッ、クスクス・・・」彼女がこんな風に笑うところを、初めて見た気がした。新米教師の悩み(14) おわり
2011年04月27日
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一時間目の授業が終了し、遥が職員室へとやって来た。来週の月曜日から、いよいよ中間テストが始まるので、生徒達は入室禁止となっている。「霧野先生」職員室の出入口で、俺を呼ぶ声がした。慌てて席を立ち、声の主・遥の側へと向かう。「わざわざ呼び出して、すまなかったな」相変わらず分厚い眼鏡を掛けているので、表情がハッキリとは読み取れない。「先週の金曜は、学校へ来ていたから・・・5日振りに、顔を合わせたんだよな」「はい」「話というのは、他でもない。お前の出席日数のことだ」「・・・・・・・・・」「ここ2日の欠席理由は、風邪ということだったが。何度か自宅へ電話を掛けたが、出なかったな。どうしていたんだ?」「・・・熱があったので、寝ていました」「電話にも出られない程の熱だったのか?」「風邪薬を飲んで寝ていたので、気付かなかったのかも」そう言って、遥は俯いた。俺は更に声を低くし、周囲に聞こえないように訊ねた。「そうか・・・お前の父親、フリーのジャーナリストだそうだな」「えっ? ああ、はい」「ほとんど、家には帰って来ないんだろう?」「それが、何か」「寂しくないか」俺の言葉に、一瞬、戸惑っているように見えた。「・・・・・・いいえ、別に」「そうか。なら、良いが」俯き加減で 黙り込んでしまった遥を見ながら、話すべきか迷った末、口を開いた。「ウチは両親揃っているが、小さい頃から ずっと共稼ぎだった。父親は長距離トラックの運転手、母親は看護師だから、今でも 家に居ないことの方が多くて。だから、親が不在中の寂しさは判る・・・とは言え、俺は3人兄弟の末っ子。両親より口煩い兄貴達が居たから、鈴木とは随分違うと思うけどな」「・・・・・・・・・」「もし、また今回のようなことがあったら、遠慮なく言ってくれよ。頼りないかもしれないが、いつでも駈けつけるから」「ありがとうございます」「それから・・・これは、余計なお世話かもしれないが。休んでいる間のノートとか、どうしてるんだ」「えっ?」「ああ、いや・・・鈴木が、他の生徒と話しているところを、見たことがなかったから。正直、気になっていたんだ」「・・・・・・・・・」「休みがちなのに、成績は良いようだから、誰かに見せて貰っているとは思うが」「はい。大丈夫です」そう言って、遥は微笑んだ。「そうか」「先生、話はそれだけですか?」「最後に、これだけは忘れないでくれ。俺はお前に、1日でも多く、学校へ出て来て欲しいと思っている。たくさんの友達や、思い出を作って欲しいから」「・・・・・・・・・」「話はそれだけだ。呼び出して、すまなかったな」遥は一礼すると、足早に立ち去った。新米教師の悩み(13) おわり
2011年04月26日
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かなりの長身で、遥と同様、均等の取れた細めの体型。サングラスを掛けてはいるものの、かなりの美青年ではないか、と思わせる雰囲気。赤いジャケットに、洗いざらしのGパンをサラッと着こなした祥平は、今年34才になるのだが、20代後半で十分通用しそうだ。祥平はダッシュボードの中から、瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡を取り出すと、彼女に差し出した。遥は大きな溜息を付くと、祥平から受け取った眼鏡を仕方なく掛けた。「何だよ? 不服なのか」「・・・別に」「風邪、悪化させないようにしろよ。それから、送ってやったのは、貸しだからな」ウィンクしながら祥平が放ったこの一言で、遥の怒りは頂点へ達した。「はぁ!? 誰のせいで、風邪をひいたと思ってる? 帰国する度に、足腰立たなくなるまで、一晩中、付き合わせて!! 今朝だって、誰のせいで遅刻しそうになったわけ? その辺の、どこが“貸し”なんだか」「クスッ それだけ、元気があれば大丈夫だな。じゃ、行って来る。お土産を買って来るから、良い子で待ってろよ」そう言い残すと、祥平の運転するジャガーは、あっという間に視界から消えて行った。「いつまで経っても、子供扱い・・・か」ポツリと呟くと、足早に裏門へ向かったが、既に門は閉じられている。注意深く辺りを見回したが、人影はない。自分の身長と変わらない高さの門に右手を掛けると、何の躊躇もなくヒラリッと身を踊らせた。次の瞬間、トンッという軽い音と共に見事な着地を決め、何事もなかったように自分の教室へと向かった。誰にも見とがめられることもなく 2年A組に辿り着いた遥が、教室の後ろ側のドアをこっそり開けると、調度、担任の佐伯香夏子が出席を取っている最中だった。「川島」「はい」今、川島さんが呼ばれたってことは、セーフだな・・・そんなことを考えながら、遥は音を立てないよう 細心の注意を払ってドアを閉めると、身体を屈め、廊下側の一番後ろの席に着いた。教室の後ろの壁にもたれ、その一部始終を見ていた俺は、すかさず遥の側へと向かうと、他の生徒に聞こえないように、耳元で囁いた。「おはよう」「お、おはようございます」「残念ながらセーフじゃない。遅刻だぞ」「すみません。以後、気を付けます」「ちょっと、話したいことがある。後で、職員室へ来てくれ」「・・・はい」それだけ言うと、俺は元の位置へと戻り、普段通りHR(ホームルーム)を見守っていた。新米教師の悩み(12) おわり
2011年04月25日
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「では、数3を・・・じゃなくて、数2から教えて下さい」「私は、数Cをお願いします」「志望校を狙うには、弱点の数学を克服しないとマズイので」「判った・・・取り敢えず、他の先生に相談してみるよ。許可が出たら、その時は、俺が補充授業をしよう」「ありがとうございます」「お礼を言うのは、実現してからにしてくれよ」「アハハ・・・そうですね」そんな会話をしながら、時間ギリギリまで立っていたが、鈴木遥の姿はなかった。「そろそろ、門を閉めます。みんな、ご苦労様。教室へ戻ってくれ」時計を見ながら、水原先生が声を掛けた。その言葉に、風紀委員の生徒達は、自分の教室へと戻り始める。そして、予鈴が鳴り始めたのと同時に、彼は門を閉めた。「霧野先生、お疲れ様でした。我々も、戻りましょう」「はい」職員室へと向かいながら、水原先生が話し掛けて来た。「待っていた生徒は、来ましたか?」「いいえ。僕の見落としがなければ、今日も来ていません」「そうですか・・・不登校の原因は、いろいろですから。きちんと生徒と向き合って、話し合うのが いちばんですね」「僕も、そう思っているのですが。本人とも、親御さんとも連絡が取れなくて、困っているんです」「誰ですか、その生徒って?」「ウチのクラス・・・2年A組の、鈴木遥です」「鈴木? ああ、鈴木財閥の孫娘ですね」水原先生の呟きに、俺は一瞬、自分の耳を疑った。「えっ? 今、何て」「ああ、ご存知なかったのですか。鈴木遥の父親は、あの鈴木コンツェルの御曹司です」「・・・・・・ってことは、鈴木勇平先生も・・・ですよね」「ええ。彼女の父親は長男、鈴木先生は三男だそうですよ」だから、俺のような普通の人間とは、考え方が違うのだろうか?職員室へ戻るまでの間、水原先生はいろいろと話してくれたが、俺の耳には入っていなかった。その頃、鈴木遥を乗せた黒いジャガーが、瑞貴高校の裏門近くに停まった。女の子にしては長身で、均等の取れた細めの体型。膝より長めのスカートから覗く、長く細い脚は、まさに美脚と呼ぶにふさわしい。「ここでいいよ。ありがとう」「おっと、忘れ物だ」助手席から降りようとする遥に声を掛けたのは、彼女の父親・鈴木祥平だ。新米教師の悩み(11) おわり
2011年04月24日
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*翌朝、いつもより30分以上早く学校へ辿り着いた俺は、生活指導の水原先生や、風紀委員の生徒達と一緒に、正門前に立っていた。別に、生活指導を任されたわけでも、他の先生と当番を代わったわけでもない。どうしても、鈴木と話がしたい。そんな衝動に駆られ、居てもたっても 居られなくなったのだ。職員室で待っているより、こうして校門に立っている方が、少しでも早く話せるだろう、と考えたわけだ。最も、今日も欠席でなければ、の話だが・・・☆「霧野先生、朝から張り切ってますね」身だしなみチェック表を持った、風紀委員の生徒達が話し掛けて来た。「これからも、一緒にいかがですか?」「今日は早く着いたから、特別なんだ。君達の邪魔をして、すまないね」「いいえ。邪魔どころか、こうして先生と話せて、嬉しいです。ねっ」「うん。私、先生の授業を一度受けてみたかったけど・・・3年生だから、無理ですよね」「そうだな・・・・・・授業としては無理だけど。個人的になら、教えてあげられないこともないよ」「えっ、本当ですか!?」手放しで喜ぶ 目の前の女子生徒達に、俺は声を潜めて付け加えた。「但し、担当の先生方には内緒だよ」「どうしてですか?」「俺は、あくまでも2年生の“数2”担当だからな。他の学年の、担当の先生を差し置いて、勝手に教えるのはマズイだろう」「確かに・・・」「数3の柏木先生は、俺なんかより ずっとベテランだし、教え方も上手いと思うけど」「それでも、霧野先生に習いたいんです」「どうして?」「先生は、向陽高校へ行かれたことがありますよね」「えっ?」「中学時代の友達が、通っているんです。昨年、教育実習の先生が来たって、話してくれました」向陽高校は、俺の母校であり、教育実習の会場でもあった。2年3組の副担任代理という名目で、2週間に渡り実習させて貰ったのだ。「その先生の名前は、霧野涼。『可愛い顔立ちの先生で、凄く判りやすい授業だった』と誉めていました。先生のことですよね」「ああ、確かに。昨年、教育実習で向陽高校へ行ったよ」「やっぱり! 相田さん、今年 先生に会えるのを、楽しみにしていましたよ。彼女のこと、覚えていますか?」俺は、教育実習のことを思い出してみた。「相田・・・ああ、覚えているよ。学級委員をしていた子だろう」「さすが! 記憶力抜群ですね」「おだてたって、何も出て来ないよ」そう言って微笑むと、彼女達は小声で囁いた。新米教師の悩み(10) おわりお詫びローマ数字は、機種依存文字ということで、そのままでは公開できませんでした。その為、”数2”等という見慣れない表記にさせて頂きました。予め、ご了承下さい。
2011年04月23日
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