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先月後半は数年ぶりに、ある大手編プロからの発注(つまり孫請け)で、ムック制作の仕事をさせていただいた。 弊社はいくつかの理由から、企業(代理店)や出版社など、おおもとからの直請けを原則としている。「原則」には「例外」がつきものだが、弊社の場合、定期的に意図した「例外」を作る。そのねらいのひとつは、プロダクション他社の“請け方”を知るためだ。 クライアントの要求はどこまで「イエス」と言えるのか、言ったとして料金はどうなるのか。もちろん全てがわかるわけではないが、仕事を進めていく上で担当者と話をすれば、編プロとしての常識や相場を知るよすがになる。 で、今回の仕事は、幸か不幸か、ちょうどその目的にピッタリの展開になってしまった。構成案から台割、カンプまでOKが出ているのに、再校の時点で文体を変更させたり、おおもとのクライアントが求めるレイアウトのコンセプトがそのときになってから出たりするなど、“今更”というような「修正」があった。 その編プロとクライアントとの交渉はわからないが、少なくとも弊社にとっては、「そうか、ここまではやっぱりやるんだな」と、「イエス」の範囲を勉強させられた。 ところで、今回のように最初の打ち合わせになかった作業が生じた場合、外注を使っているといささか面倒な展開になることが多い。それも仕事のうち、と柔軟に考えてくれる人ばかりではないからだ。 私の知っているフリーライターは、書き直しが生じると新たに原稿料の上乗せを要求するし、資料の提供が遅れればちょうどその日数だけ納期も遅らせる。文句もドンドン言う。 私が今までお願いしたSOHOの「デザイナー」を名乗るレイアウターの中にも、わずかな納期のずれと、仕事に対する本質的でない齟齬を理由に、仕事そのものを途中で投げ出す人もいた。 たしかに、相手の都合で変更した部分について、その尻ぬぐいはできないとする態度は間違いではない。だが、そのように、「労働力」を杓子定規に主張する態度というのは、この仕事が「裁量労働である」という前提を見失ったものとはいえないか。 出版業界では、というと大上段に構えた物言いになるが、少なくとも私の経験では最初に取り決めた通りに仕事が進むことはまずない。大抵はスケジュールがずれたり、方針が多少変わったりする。それは、必ずしもクライアントのわがままばかりが原因ではなく、自然的経過と割り切らなければならないこともある。我々の側が、クリエーターとしてのプライドから、むしろ当初の予定を変更してもここはこうしたい、と考えることだってある。 SOHO関連の掲示板などでは、「仕事の内容が最初の約束と違うが、SOHOは弱い立場だからいいように使われている」と嘆く声が聞かれる。職種やケースにもよるので一概にその賛否は言えないが、少なくともそのような機会にあたった人は、仕事に対する自らの価値観とクライアントとの力関係をその場でもう1度考えてみるといい。 いいものを作ることが目的なのか、労働力を切り売りする感覚なのか。後者なら、その質で価値が変わらない別の仕事(例;時間給パートなど)をした方がいいと思う。 資本主義社会は露骨な市場社会なのだから、「いいように使われている」のは、その人の仕事が市場で“その程度”であるということにほかならない。「弱い立場」に「よりまし」の改善はあり得るかもしれないが、「弱い立場」であることに変わりはない。資本主義社会では、ひっきょう、「弱い」という「質」を変えるのは自分自身にあることを忘れてはならない。
2003年05月04日
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