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2009年から、当時Infoseekでウェブページを公開していた流れで楽天ブログを始めましたが、最近はすっかり更新頻度が落ちていました。楽天ブログはアフィリエイトに定評がありますが、そもそもそのような目的はありませんし、自己宣伝(セルフブランディング)にも興味はなく、ただただ文章を共有したいだけなので、twitterのように気軽に文章を投稿できて、わずわらしい装飾がなく、読者が文章を読んでいただくことに集中できるようなスペースに移したいと考えていました。そこでMediumを始めてみました。とりあえず、楽天ブログの過去記事を再掲するところから始めています。もしかしたら、いずれまた楽天ブログに戻ってくるかもしれませんが、しばらくはMediumに投稿していきたいと思います。こちらからどうぞ。https://medium.com/@lutana2
2017.04.17
この度、防災士の資格を取りました。防災士とは、特定非営利活動法人日本防災士機構による民間資格であり、一定のカリキュラムを履修してごく簡単な試験に合格すればなれるもので、はっきり言ってほぼ誰でもなれるものです。また、この資格がなければできない仕事があるという訳でもなく、単に防災に関する一定の知識があることが認証されているに過ぎません。既に十万人以上が防災士の資格を持っていると言います。これを機に、「防災」という言葉について考えてみます。実は、日本語の「防災」という言葉にぴったりはまる表現が英語にはありません。日本の「防災」を含む機関名の英訳には、"Disaster Prevention"を使用しているところが多いのですが、ネィティブスピーカーに言わせれば不自然な表現だそうです。なぜならdisaster(災害)はprevention(予防)できない不可抗力と考えられているからです。実際、"Disaster Prevntion"で検索して出てくるサイトは日本を始めアジア諸国のものが殆どです。英語では、disasterを使った近い言葉として、"Disaster Risk Reduction"(災害リスク管理), "Disaster Mitigation"(災害低減), "Disaster Preparedness"(災害準備)などがありますが、むしろdisasterに限定しない"Risk Management"(リスク管理), "Crisis Magnagement"(危機管理),"Emergency Management"(緊急管理)などの方が一般的と考えられます。これは、欧米においては、危機は自然災害に限らず、戦争やテロなども含めて包括的に扱っていることが示唆されています。一方、日本においては、台風や地震・噴火などが多い国土でもあり、「防災」といった場合は主に自然災害を扱うことを指し、戦争やテロなどとは切り離して扱ってきたという歴史が反映されているのではないかと考えられます。最近では、日本語でも「減災」「備災」など、旧来の「防災」(特にハード対策)だけでなく、ソフト対策も含めたリスク管理ということが言われるようになってきました。そろそろ「防災」という言葉を見直しても良い頃かもしれませんね。
2017.01.09
最近ちょっと思うところがあって、気象予報士になりました。実は、気象予報士には以前から興味があり、気象予報士試験を初めて受験したのは、1998年8月30日の第10回試験でした。この試験では、学科試験は合格しましたが、実技試験は不合格でした。当時は、今ほど気象予報士試験に関する参考書や問題集はあまり出回っておらず、インターネット上の情報もほとんどありませんでしたので、「一般気象学」という気象学の初学者向けの教科書と、実際の気象資料の内容について解説している「最新 天気予報の技術」という気象予報士試験受験者向けの参考書の2冊のみを使って勉強していました。気象予報士試験は学科試験と実技試験に分かれており、両方に合格しなければなりません。気象予報士試験は通常年2回行われ、学科試験に合格すると、1年間(すなわち次回と次々回)は学科試験が免除されます。このため、1999年1月31日の第11回試験と1999年8月29日の第12回試験では、学科試験は免除され、実技試験のみを受験しましたが、2回とも不合格でした。当時は実技試験に特化した参考書は少なく、独学で勉強することはなかなか困難だったため、これで一旦は断念しました。しかし、最近になって、仕事で気象のデータを扱う機会があって、それをきっかけに改めて気象に興味を持ち、せっかくだからもう一度気象予報士試験に挑戦してみようか、と思い立ちました。16年のブランクがありましたが、2015年の秋頃から再び気象予報士試験の勉強を始め、2016年1月31日の第45回試験を受験したところ、学科試験はなんとか合格しましたが、実技試験は準備不足(多少の体調不良もあり)で不合格となりました。その後さらに半年間、実技試験の勉強に集中し、2016年8月28日の第46回試験でようやく実技試験に合格し、気象予報士になりました。今は、十数年前と違って過去問も豊富にあり、インターネット上にも情報(特に実技試験に関して)がたくさんあって助かりました。これから受験する方の参考のため、私が利用した問題集や情報源を挙げておきます。1.気象業務支援センターが公表している過去問(過去3年分)http://www.jmbsc.or.jp/hp/cwfe/p0120.php受験対策はやっぱり過去問が一番です。2.「気象予報士受験者応援団」http://kishoyohoshi.com/個人の方が運営されているインターネットのサイトで、過去問の詳しい解説が公開されています。受験者目線の丁寧な解説なので、大変参考になります。また、このサイトの「語呂合わせ呪文」は覚えておくと本当に役に立ちます。3.「気象予報士試験精選問題集(平成27年度版)」手頃なサイズなのに問題数が豊富であり、毎年更新されているので比較的新しい問題が多く掲載されています。ただ、実技試験の解答用紙がないので若干使いづらかったです。4.ユーキャンの資格アプリ「一問一答『気象予報士』問題集」移動中や空き時間に使っていました。〇×形式で実際の試験と出題形式が異なること、スマホアプリのため図入りの問題や計算問題が解きにくいことなどの欠点はありますが、それでも同じ内容の書籍版より安価で、問題数も非常に多く、網羅的に知識を確認するのに役立ちました。5.「気象予報士かんたん合格テキスト 実技編」ネットの書評などで評判が良かったので使ってみました。解説に若干クセがあり、練習問題は実際の試験よりやや難しめですが、真剣に取り組めば確実に力がつくと思います。6.「気象予報士試験速習テキスト 実技編」ある程度勉強してきた人が、試験前の最後の仕上げとして読むのに適しているようです。手頃なサイズで持ち運びもしやすく、試験直前には移動中の時間も使って繰り返し読みました。7.「一般気象学」昔使っていた本ですが、たまにできなかった問題に関連した箇所を読み直したりしました。定番中の定番とされているだけあって、やっぱり名著ですね。私の場合は、大学で地球物理学(気象分野ではありませんでしたが)を専攻していたこともあり、気象学の基礎部分に関する問題についてはさほど苦労しませんでした。しかし、実際の天気図などの気象資料を見て状況を把握したり、更にその後の見通しを立てるといった作業については、やはり実際の問題を数多くこなした上で「なぜそういう答えになるのか」を深く理解するようにしなければ、なかなか身につかないものでした。今後、気象予報士の資格を直接活かす機会(予報業務の許可事業者において現象の予想に従事すること)はおそらくないと思いますが、科学コミュニケーター研修で学んだことも活かしつつ、気象に関する知識の普及啓発などの活動に関われればいいなと思っています。最後に、余計なことと思いつつ一言。気象予報士で構成された組織として一般社団法人日本気象予報士会がありますが、気象予報士試験の合格通知には、残念ながらそのことが一切触れられていませんでした。試験会場では同会のビラが撒かれていたようですが、私は受け取れませんでした。これでは、せっかく合格しても同会の存在を知らないままになってしまう方もおられるのではないかと、老婆心ながら心配しています。
2016.10.23
皆さんは、通勤・通学中、何をしていますか?私は電車と徒歩で通勤しているのですが、科学関係のポッドキャストをスマートフォンで聴くことが多いです。電車の中では、混んでいなければ読書をすることもありますが、特に朝は身動きできないほどのラッシュですので、ほとんど手を動かすことができません。そんな時、ポッドキャストは手を動かさなくても済むので、大変良い時間つぶしになります。今日は、私がよく聴いている科学ポッドキャストをまとめてみました。特に有料と記載したものを除いて、すべて無料で聴くことができます。海外のポッドキャストの配信日は日本時間で表記しました。まずは日本語のポッドキャストを紹介します。 ヴォイニッチの科学書おそらく日本で最も有名かつ最古参の科学ポッドキャストです。扱うテーマは最新の科学ニュースが中心です。わかりやすさと興味を引く語り口には定評があります。有料版と無料版があります。有料版は聴いていないのですが、内容を補足するPDF資料が添付されているそうです。<有料版>配信日:毎週土曜日配信元: [FeBe!] [Amazon Audible]<無料版(短縮版)>配信日:毎週土曜日配信元: [iTunes] [インターネットラジオ局くりらじ]青春あるでひどおそらく今やヴォイニッチの科学書と同じくらい有名と思われる科学ポッドキャストです。ネタは最先端の科学から身近な科学、サブカルまで幅広く、ゆるくて肩の凝らない番組です。どちらかというと、科学の知識を身につけるというよりは、科学的なものの見方や考え方を身につけるのに良い番組だと思います。配信日:毎週火曜日配信元: [iTunes] [青春あるでひど] そんない理科の時間そんないプロジェクトが制作する科学ポッドキャストです。身近な科学から最先端の科学まで幅広く紹介しています。どちらかというと身近な話題や天文の話題が多めです。配信日:毎週木曜日配信元: [iTunes] [そんないプロジェクト] かがく探検隊コーステップ北海道大学高等教育推進機構高等教育研究部科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の学生が制作する科学バラエティ番組です。北大の研究室を紹介したり、北大の学生にインタビューしたりする企画が多いです。配信日:不定期(2015年2月13日を最後に更新なし)配信元: [iTunes] [CoSTEP] 伊藤和明の「防災えんす」元NHK解説委員の伊藤和明さんが防災や環境について解説するポッドキャストです。配信日:不定期(月1~2回程度)配信元: [iTunes] [ケロログ] TBS RADIO 夢★夢Engine!TBSラジオで放送されているラジオ番組のポッドキャストです。パーソナリティの松尾貴史さんとアシスタントの加藤シルビアさんがゲストの研究者とトークします。高校生を中心とした若者に科学の面白さを知ってもらおうというのが番組のコンセプトのようですが、大人が聴いても面白いです。配信日:毎週水曜日配信元: [iTunes]Vixen presents 東京まちかど☆天文台TOKYO FMで放送されているラジオ番組のポッドキャストです。パーソナリティの篠原ともえさんが宇宙関連のゲストとトークしたり、天文現象の情報を紹介したりしています。ゲストは研究者から音楽関係まで幅広いです。配信日:毎週金曜日配信元: [iTunes]アストロ・ラジオカガクノトビラプロジェクトが制作する、天文関係の情報や雑学を紹介するポッドキャスト番組です。配信日:月1回配信元: [iTunes] [カガクノトビラ]お天気のタネ気象予報士のグループ「よいよい予報士~ズ」が制作するポッドキャストです。お天気にまつわる様々なネタが紹介されています。残念ながらiTunesからはダウンロードできません。配信日:不定期配信元: [ラジビジョン]ここからは英語のポッドキャストです。英語の勉強にもどうぞ。Science in the News米国政府が外国向けに放送している、英語学習者にはおなじみのVoice of America(VOA)が制作する科学ポッドキャストです。英語はゆっくりで平易な表現を用いているため、英語ポッドキャストに慣れていない方は、まずはここから始めると良いでしょう。配信日:不定期(週1回程度)配信元: [iTunes] [VOA]TEDTalks 科学と医療TED関連の科学と医療関連の講演をビデオポッドキャストで配信しています。英語ですが、日本語の字幕があるのでわかりやすいです。配信日:不定期配信元: [iTunes]Science Magazine Podcast世界の科学雑誌のトップの1つであるScienceによるポッドキャストです。Scienceに掲載された最先端の研究成果について解説しています。配信日:毎週木曜日配信元: [iTunes] [Science] Science UpdateScienceの発行元である米国科学振興協会(AAAS)による科学ニュース番組です。WeeklyとDailyがありますが、Weeklyはほとんど更新されていないので、ここではDailyを紹介します。Dailyは平日は毎日更新で、1回1分程度と短いため、気軽に聴くことができます。 原稿も配信されているため、英語の学習にも適しています。配信日:毎日(平日のみ)配信元: [iTunes] [Science Update] Nature PodcastScienceと双璧をなす、世界の科学雑誌のトップの1つであるNatureによるポッドキャストです。Natureに掲載された最先端の研究成果について、研究者へのインタビューを交えつつ解説しています。配信日:毎週木曜日配信元: [iTunes] [Nature] Science Talk米国の一般向けの科学雑誌であるScientific Americanの編集者による、科学者へのインタビュー番組です。配信日:週1回程度(更新頻度にばらつきあり)配信元: [iTunes] [Scientific American] 60-Second ScienceScientific Americanによる1分間のニュース番組です。原稿は60-Second Scienceのサイトで見ることができます。やや早口ですが、一般向けということもあり難しい専門用語はあまり使われていません。配信日:毎日(平日のみ)配信元: [iTunes] [Scientific American]Science Weekly英国の新聞社The Guardianによるポッドキャストです。遺伝子など社会に関わるトピックスが多いです。配信日:毎週木曜日配信元: [iTunes] [The Guardian]Science in Action英国の放送局であるBBCの国際ラジオ放送(BBC World Service)によるポッドキャストです。最新の科学ニュースについてゲストと語り合います。配信日:毎週金曜日配信元: [iTunes] [BBC]The Science HourこちらもBBC World Serviceによるポッドキャストです。最新の科学ニュースの紹介が中心です。配信日:毎週日曜日配信元: [iTunes] [BBC]DiscoveryこちらもBBC World Serviceによるポッドキャストです。毎回1つのテーマについて深く掘り下げていきます。配信日:毎週月曜日配信元: [iTunes] [BBC]BBC Inside ScienceこちらはBBC Radio 4(英国内向けラジオ局)によるポッドキャストです。英国内の話題が多めです。配信日:毎週金曜日配信元: [iTunes] [BBC]Science Friday米国の国際活動組織Public Radio International(PRI)によるポッドキャストです。公衆の科学理解が目的のため、内容は比較的平易ですが、英語の訛りがやや強めです。配信日:毎週土曜日(1回2本)配信元: [iTunes]The Story Collider様々な人による、科学にまつわる個人的なスピーチを配信するポッドキャストです。配信日:毎週土曜日配信元: [iTunes] [The Story Collider]NASACast米国航空宇宙局(NASA)が配信するポッドキャストです。VideoとAudioがありますが、Audioの内容(This Week @ NASA)はVideoと同じであり、しかもVideoだけで配信しているコンテンツもあるので、デバイス容量に余裕があるならVideoの方が良いでしょう。内容はNASAの広報ですが、なかなか面白いです。<Video>配信日:週2回程度(毎週金曜日+α)配信元: [iTunes]<Audio> 配信日:毎週金曜日配信元: [iTunes]
2016.03.26
地球物理学は、何を研究する学問だと思いますか?そう、もちろん「地球」ですよね!・・・でも、一口に「地球」と言っても、漠然としていて何だかよく分かりません。そこで、今日は「地球」を「物理」的観点で、少し詳しく見てみることにします。「物質の三態」って知っていますか?そう、固体・液体・気体の事ですよね。しかし、物質にはこれ以外にも「プラズマ」という状態があります。プラズマとは、原子核と電子がバラバラになった状態を言います。この固体・液体・気体・プラズマという観点で、地球を分けて考えることができます。まず、地球の内部は、大部分が固体です。詳しく見ると、一番内側がコア(核)、その周りがマントル、更にその表面を薄く取り巻く地殻と分けられます。私達は地殻の上で暮らしています。正確に言うとコアは内核と外核に更に分けられ、外核は主に液体の鉄でできていますが、とりあえず今は、これもひっくるめて「固体地球」として取り扱うことにします。この領域を対象にする地球物理学を「固体地球物理学」といいます。次に、固体地球の周りは、液体である海洋と、気体である大気に取り囲まれています。これは地球を「生命の星」たらしめている重要な要素です。海洋と大気は密接な絡みがありますので、地球物理学ではこれらをまとめて「大気海洋物理学」といいます。普通は、ここまでが「地球」だと思われているかもしれません。しかし、大気の周りにはプラズマが取り巻く領域があります。実は、これが地球の環境を維持する重要な要素となっており、地球物理学ではこれも地球の一部として扱います。これが「超高層物理学」などと呼ばれる分野です。業界では、これら3つの分野を「硬派・軟派・超軟派」と呼んだりします。しかし、地球物理学者の興味対象は、地球に留まらず宇宙へと、貪欲に広がっていきました。なぜなら、太陽系の他の惑星・小惑星などへの探査が進み、今までは天文学の対象でしかなかったこれらを、地球物理学と同じ手法で研究できるようになってきたからです。このため、地球物理学は今では惑星・小惑星などをも対象として「地球惑星物理学」へと発展を続けています。業界では彼らを何派と呼んでいるのでしょうか?私にはわかりません。
2013.02.24
※必ずしも2012年に出版された本ではありません。第1位:梅雨前線の正体 (新しい気象技術と気象学) 茂木 耕作 (著)気象学の専門書シリーズの1巻ですが、誰でも楽しめる内容になっています。気象学のみならず、研究とは何か、研究者とはどういう人々であるかを知りたい人にもおすすめです。第2位:医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書) 佐藤 健太郎 (著)科学的知識の説明と独特な業界事情の解説、筆者の見解のバランスが取れていて、新書としてはかなり質が高いと思います。第3位:クォーク 第2版 (ブルーバックス) 南部 陽一郎 (著)正直言って、物理の基礎知識がないと相当骨が折れます。しかし、数式をほとんど使っていないので、頑張れば誰でも理解することができるようになっています。ちゃんと理解したい人は、やはり読むべきでしょう。第4位:世界でもっとも美しい10の科学実験 ロバート・P・クリース (著), 青木 薫 (翻訳)その実験が美しいかどうかはともかく、科学を作ってきたことは間違いありません。私は、これは科学哲学の本だと思いました。第5位:ビッグバン宇宙論 (上・下) サイモン・シン (著), 青木 薫 (翻訳)どこまで本当かわからないけど、とにかく科学者が人間くさく描かれていて面白いです。宇宙論を初めからきちんと押さえたい方にもお薦め。第6位:代替医療のトリック サイモン シン (著), エツァート エルンスト (著), 青木 薫 (翻訳)やや冗長ですが、疑似科学に興味のある方は必読の書です。代替医療云々以前に、そもそも医療というものをどう考えるべきか、ということも隠されたテーマなのだろうなと思いました。第7位:宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書) 村山 斉 (著)講演を活字化したものと思われ、ライトな語り口ながら内容は本格的でかなり駆け足です。1つの章を1冊の本にしてもいいくらいのボリュームだと思いました。第8位:温暖化論のホンネ「脅威論」と「懐疑論」を超えて (tanQブックス) 武田 邦彦 (著), 枝廣 淳子 (著), 江守 正多 (著)地球温暖化論で鋭く対立する3人の議論が意外と噛み合っているのに驚きました。ただ、読者一人一人が考えることを訴えているのは良いのですが、そのための材料あるいは文献紹介がもっと提供されているとさらに良いと思いました。第9位:分類思考の世界 (講談社現代新書) 三中 信宏 (著)ある意味、大半の学問がしていることは分類作業なわけで。そういう人間(特に研究者)の本性を痛快に暴いた書物だと思います。第10位:動きが生命をつくる―生命と意識への構成論的アプローチ 池上 高志 (著)はっきり言って難しいです。逆にこの内容が簡単に理解できるとしたら、人は生命や意識の問題について深く悩むことはないのでしょうね。
2013.01.01

宮城県七ヶ浜町まで日帰りでボランティアに行ってきました。七ヶ浜は松島の南側にある半島で仙台に近く、外国人居留地や国際村、日本で3番目の海水浴場のあるハイカラな町です。今回は田んぼの瓦礫拾いに参加しました。大型の瓦礫は殆ど片付いているのですが、重機で拾いきれない細かい瓦礫が残っており、これらを片付けないと田んぼとして復旧できず、まだまだ人手が必要とされています。作業自体はそれほどきつくはありませんでしたが、まだ残暑が厳しく、しかも長袖長ズボン長靴という重装備のため、汗だくになりながらの作業でした。田んぼで瓦礫拾いの最中、偶然ガラスのような石を拾いました。どうやら玉髄のようです。七ヶ浜周辺で玉髄産地は知りませんが、宮城県南部の白石市には玉髄の産地があるので、その辺りから採取された砂利に含まれていたのかもしれませんし、あるいは川から海へ流れ出た玉髄が、津波で打ち上げられたのかもしれません。※玉髄目当てでボランティアに参加するのはやめましょう(そんな人いないと思いますが)。七ヶ浜は、被災地の中でもVCと地域の連携がかなりうまく機能しているようで、VCの運営自体にもかなりのボランティアの方が関わっておられるようでした。これまでにボランティアで行ったところ:気仙沼大島陸前高田
2012.09.09
地球物理学は、応用物理学の1分野です。しかしながら、純粋物理の方々から見たら「何といい加減な分野だろう!」と思われているに違いありません。さて、私が個人的に「地球物理学の3大原則」と呼んでいるものを紹介します。地球物理学者の頭の中は、だいたいこんなものでしょう・・・たぶん。 原則1.最初は単純に考える!地球物理学では、初めから複雑な自然現象をまともに扱おうとはしません。例えば、地球は初めは球体で近似します。しかし地球は厳密には球体ではないので、球体と仮定して構築した理論と観測事実には「ずれ」が生じます。次は、その「ずれ」が何かを調べる。多少の例外はありますが、だいたいの研究はこのような手順で行われます。*専門的には、このように複雑な自然を単純化して表現したものを「モデル」と呼び、観測事実のモデルからの「ずれ」を「アノマリー」と言います。 原則2.桁が合っていればだいたいOK!地球物理学では、多少の例外を除き、数値は1~2桁くらいまでしか意味を持ちません。理論があまり精密でない場合は、理論と観測の「桁」さえ合っていればOKとなることもざらです。*専門的には、物理量の桁を「オーダー」と言います。「10の6乗のオーダー」とか、「10のマイナス3乗のオーダー」といった使い方をします。 原則3.時間と空間には相関がある!地球上で起こるような自然現象を眺めると、だいたい長い時間をかけて起きる現象は広い空間で見られ、短時間で終わる現象は狭い空間で起きるものです。この性質を利用すると、どのような現象をどのような時間、空間で見れば良いかわかります。*専門的には、こういう時間や空間の代表的な長さ、広がりのことを「スケール」と言い、ある現象の性質をこのスケールによって見積もることを「スケール解析」と言います。このスケール解析において、相対的にオーダーの大きな部分は定数項として扱い、オーダーの小さな部分は無視する、というのがよくやる手順です。
2012.08.26
東京大学駒場博物館で開催中の特別展「石の世界 ―地球・人類・科学―」を見に行ってきました。駒場博物館は「美術博物館」と「自然科学博物館」で構成されており、今回の特別展は自然科学博物館が主催するものです。個人的な話になりますが、この特別展は大学時代に大変お世話になった先輩が担当されており、先輩の石に対する想いがひしひしと伝わってくる展示でした。先輩は昔からこの自然科学博物館に深く関与されており、私も所蔵品の整理などで少しお手伝い(アルバイト)をしたことがあります。入口付近で展示の解説文をまとめたものや展示物のリストなどが配布されており、家に持ち帰って復習することができるようになっています。展示内容は、岩石の分類とそれぞれの起源について丁寧に解説されており、それぞれの分類ごとに展示スペースを分けた構成となっています。展示物は岩石をつくる基本的な鉱物(造岩鉱物)を中心としていますが、さりげなくマニア向けな鉱物も置かれていたりします(某所の日本式双晶とか・・・)。展示で特徴的なのは、博物館に古くから保管されている標本については、その古めかしいラベルをも「展示物」としての扱いを受けていることです。ラベルの記載内容は改めてきれいに打ち直されているので(配布された展示物リストにも記載されている)、誰がどこで採集あるいは購入したかといった情報までわかるようになっています。先輩がいつも「標本にラベルをつけること」の大切さを説いておられたことをふと思い出しました。ラベルのない標本はそれだけで価値が半減してしまうのです。ラベルの内容を見ると、入手年代は大きく1950年前後と最近に分けられます。自然科学博物館の沿革によると、博物館の設置は1953(昭和28)年とのことですが、その数年前から準備をしていたことが伺われます。また最近のものは、やはり先輩が著者の一人になっている図鑑(子ども向けの図鑑ですが、内容はかなり本格派です)の撮影のために出版社が購入したものが多いようです。図鑑に載っているあの岩石を、間近で見ることができるチャンスですよ!しかも入場無料!!ところで、岩石の研究には偏光顕微鏡による薄片観察が欠かせません。今回は偏光顕微鏡そのものは展示されていませんが、雲母薄片を張り付けた偏光板を実際に手にとって、もう一枚の偏光板と重ね合わせてみることにより、偏光顕微鏡の仕組みを体験できるように配慮されています。この点も好ましいと思いました。8月26日(日)には関連企画「Let's理科読『岩石ガンガン』」なるものが開催されるようです。こちらも気になりますね~!
2012.08.18

横須賀市鴨居の観音崎に行ってきました。2007年5月4日に行って以来、5年ぶりの訪問となりました。京浜急行の浦賀駅からバスに乗り、自然博物館入口で下車します。道を少し戻って左折し海岸沿いの道へ出て、しばらく歩くと前方にあるのが観音崎自然博物館です。入るとすぐ、ここの目玉とも言える国の天然記念物のミヤコタナゴ(ちなみに小石川植物園で発見されたとか)の水槽があり、今は産卵前の状態でした。大規模な博物館を見慣れた人にとっては、中の展示はややクラシックに映るかもしれませんが、この博物館では観音崎の自然全体を「森と海のエコミュージアム」と位置付け、野外観察会なども精力的に行っているようですので、応援の意味でも入場料を払って見てあげて欲しいと思います。隣にビジターセンターがあり、ここでもいろいろな情報が入手できます。そのすぐ先に展望園地があり、ここから逗子層の露出する海岸へ降りることができます。近くで見るとなかなか見事です。更に海岸沿いに進むと、観音崎灯台があります。この裏側の切通しに、逗子層の上位の(逗子層より新しい)池子層の見事な露頭があります。携帯のカメラなのでピンボケになってしまいました。本当はもっときれいですので、ぜひ見に行ってみてください。明らかに逗子層とは様子が違いますね。実は、逗子層は主に粒子の細かい泥岩からなるのに対し、池子層は凝灰質砂岩と言って、火山灰などの物質が多く含まれた、粒子の粗い地層なのです。更に、観音崎灯台の下の権現洞(観音崎洞窟)の周囲にも池子層が見られます。注意:観音崎公園内の岩石や土などは採ってはいけません。見るだけにしましょう。
2012.05.20
最近オープンして話題の沼津港深海水族館に行ってきました。急速に観光地化の進む沼津港。その新しい観光客向けスポットの一角にある小さな水族館です。観光客向けの水族館かとたかをくくっていたらとんでもない。かなりディープです。まず、生のシーラカンスを冷凍展示しているのはここだけだそうです。深海魚、しかも生きた化石と呼ばれるシーラカンスを…これはすごいことです。見せ方もいろいろな角度から見られるようになっているし、スタッフの方によるシーラカンスの解説もかなり詳しく、勉強になります。シーラカンスの展示場は水族館というよりは博物館に近い感じ。シーラカンスの他にも、多種多様な深海魚が展示されており、十分に楽しめるようになっています。特にメンダコが人気でした。あと、水族館なのになぜかハリモグラもいます。とにかく小さな空間に楽しさがいっぱい詰まった水族館です。
2012.05.05
大型連休中に陸前高田にボランティア活動に行ってきました。気仙沼大島に続いて2度目の活動になります。陸前高田では、大きな瓦礫などは大分片付いているようですが、学校のグラウンドや田畑などに、重機では拾いきれない細かい瓦礫がまだ残っているそうで、今回は、それを拾う作業です。日によっては、漁業のお手伝いなどをする場合もあるようです。実は、陸前高田には2005年に巡検で来たことがありました。あまりの変貌に言葉を失いました。来るまでは現地の写真を撮ろうと思っていたのですが、目の前の風景に圧倒されるあまり、写真を撮る気も失せてしまいました。7年前、陸前高田市内にある飯森沢のペルム紀化石産地と、水晶産地として有名な玉山温泉(玉山金山)に行きました。結果的にはどちらも採集はかないませんでしたが、玉山温泉のロビーでは立派な水晶を見ることができましたし、海岸近くの「海と貝のミュージアム」では、南部北上帯で産出した貴重な古生代のアンモナイトの展示を見ました。また、高田松原の道の駅では昼食をとり、美しい松原のある海岸を散策しました。陸前高田のボランティアセンターは玉山金山の近くの山の方にありました。高田松原のあたりは、話には聞いていましたが本当に松の木が1本だけ残っていました。まわりの建物がほとんどなくなっているのに、よくこれだけ残ったものだと思いました。海と貝のミュージアムや道の駅の建物には見覚えがありましたが、内部はかなりひどく破壊されているようでした。何より、市街地がほとんど全てなくなっているのには衝撃を受けました。地元の方から、津波は海側から来ると思っていたら、山側からも来たという話を聞きました。あちらの斜面を登った波が、引くときにこちらの斜面から降りてきた、ということのようです。これまであまり言われていなかったことですが、津波は海の方から来るという固定観念にとらわれていると危険かもしれません。斜面を登って減速する波よりも、むしろ重力の方向に引いて加速していく波の方が危険な場合もあるでしょうから。
2012.05.05
当たり前ではないか、と思われる方もいるかもしれません。しかし、私たちが普通に思い浮かべる衝突(車の衝突とか)とは違って、大陸の衝突は何千万年というとてつもなく長い時間スケールで起きているのです。これだけの長い時間では、岩石は固体というよりは粘性を持った流体として振舞います。ですから私たちは想像力をたくましくして、大陸がどうやって衝突するかを考える必要があるのです。3月1日のNatureにインドとユーラシアの衝突に関する新しい研究成果が発表されました。Continental collision slowing due to viscous mantle lithosphere rather than topographyインドは元々独立した大陸でしたが、プレート運動によって北上し、およそ5~4千万年前にユーラシア大陸に衝突(いつの時点をもって「衝突」と呼ぶかは論文によってまちまち)しました。衝突直後にプレート運動は急激に減速しましたが、その運動エネルギーは大陸を押し上げ、世界最高峰のヒマラヤ山脈とチベット高原を形成しました。この衝突運動のエネルギーは現在も残っており、しばしばこの地域に大きな地震を引き起こしています。これまで大陸が衝突して減速するのは、従来は衝突によって山が高くなるからだとされてきましたが、この研究によると、大陸の下にあるマントルの粘性抵抗力の方が主要因であるそうです。その方が、衝突後のプレートの動きとモデルがよく合うからです。もしも山の高さが主要因だとしたら、大陸の減速と同期して山の成長も減速しているはずですが、観測事実として山の成長はほぼ一定の速度でした。このことから、山が高くなるから大陸が減速するという主張は退けられます。この研究は、地球表層のテクトニクスを考える上でも、マントルの働きが無視できないものであることを示唆していると思います。さてこの説は、他の大陸プレートの衝突境界にも当てはまるのでしょうか?今後の研究を待ちたいと思います。参考:ミシガン大学のプレスリリースOurAmazingPlanet.comの記事
2012.03.03
第2回「筑波大学研究成果発表フォーラム 2012」-震災に向き合う最先端研究-に参加しました。今回の目玉は、何といっても白川英樹筑波大学名誉教授(2000年ノーベル化学賞)の特別講演でしょうが、実は結構空席が目立っていました。開催場所は文京区の筑波大学東京キャンパス(かつての東京教育大学があった場所。今は放送大学も入っている)なのですが、ひょっとして宣伝が足りなかったのでしょうか。白川先生の講演って、結構珍しいと思うのですが…。白川先生は、「社会における科学・技術の役割」というテーマで、日本人の科学に対する意識の変化から、若者の理科離れのこと、最近の科学コミュニケーションの動向までお話しされていました。さすがに科学ジャーナリスト塾に塾生として入られた経験をお持ちなだけに、科学コミュニケーション界隈のことは相当詳しいようです。現在もソニー教育財団の理事として科学教室などをされているそうで、学校とは別に、地域に科学クラブのようなものができれば良いというようなこともおっしゃっていました。本当に敬服します。以下、研究発表で記憶に残ったことをメモしておきます。・山海嘉之教授(システム情報系)「健康長寿社会を支える最先端人支援技術~ロボットスーツHALの現状と未来~」山海先生はプレゼンも話術も本当に上手いです!会場からは自然と笑い声が湧きあがってきます。もちろん研究成果も超一流です。何といっても夢があっていいと思います。・八木勇治准教授(生命環境系)「東北地方太平洋沖地震は何故M9になったのか?」地震波から震源がどのように滑ったかを推定した研究。通常の地震ではある程度のひずみを残しつつ滑るのですが、東北地方太平洋沖地震では断層面の摩擦が突然小さくなり、全てのひずみを解放するまで滑り続けた、そうです。・境 有紀教授(システム情報系)「東日本大震災の揺れによる被害はどうだったのか?~地震の揺れと被害の関係~」震度が7~6弱と大きかったところでも、全壊した建物はそう多くなかったそうです。これは、建物が強かったからでなく、地震波の卓越周期が短く、建物に被害を与えるような周期1~2秒の成分が少なかったからだそうです。・榮 武二教授(医学医療系)「放射線の医学利用~陽子線治療の現状~」陽子線治療自体はそれほど新しい技術ではないと思いますが、「役に立つ放射線」の紹介という趣旨かと思います。その他、環境放射線測定に関する取り組みも紹介されていました。・鈴木石根教授(生命環境系)「炭化水素産生藻類~被災地復興に貢献する藻類バイオマス~」筑波大学は東京時代から、近所の某大学と差別化するために藻類の研究が活発だとか(笑)。藻類バイオマス自体は古くからある研究のようですが、課題も多いようです。うまく実用化して被災地の復興に役立てば良いのですが…。
2012.01.28
防災研究フォーラム第10回シンポジウム「地震・津波災害軽減のために~東日本大震災から学ぶ~」に参加しました。参加したのは午前中だけでしたが、なかなか有意義なものでした。印象に残ったことをメモしておきます。・東北地方太平洋沖地震・津波の実体 佐竹健治(東京大学地震研究所)沖合津波計の記録から、東北地方太平洋沖地震は貞観地震タイプのプレート間地震と明治三陸津波タイプのいわゆる「津波地震」(地震動の割に大きな津波を発生させるような地震)が同時発生したような地震だった、そうです。東北地方太平洋沖地震の解析により、津波の予測が難しく実態の良く分かっていない「津波地震」に関する研究が今後進むことを期待したいと思います。・東日本大震災と復旧・復興 河田恵昭(関西大学社会安全学部長)復興に向けた問題点、特に地元自治体の人が足りないこと、新しいまちづくりに向けた合意形成の難しさについての指摘がありました。地元の人間でなければ分からないこと、できないことがたくさんあると思います。よその人間でもサポートできることが何かあれば良いのですが…なかなか難しい問題です。・地震調査研究推進本部の長期評価について 北川貞之(文部科学省地震・防災研究課地震調査管理官)従来の固有地震という考え方に囚われず、新しい知見も取り入れた評価手法の導入を検討しているとのこと。個人的には、そもそもこの長期評価自体がどれだけ防災に活かされているのか若干疑問ですが、この長期評価のために様々な機関の保有するデータが一元的に集まり、地震学に新たな知見がもたらされる可能性もあると思いますし、囚われないようにしようという姿勢自体は評価できると思います。
2012.01.28

2012年1月8日に日帰りで八丈島に行ってきました。伊豆諸島へ行くのは2010年12月の伊豆大島巡検以来、約1年ぶりとなります。八丈島へは羽田発のジェット便を利用しました。羽田からわずか1時間弱で到着です。幸い私は羽田の近くに住んでいますので、玄関を出てからたった2時間の、約300kmも離れているとは思えないほど大変便利な南の島です。八丈島はひょうたん型の島で、北西部に八丈富士(伊豆諸島の最高峰で標高854m)という円錐型の新しい火山があり、南東部には三原山というカルデラを持つ古い火山があります。空港や役場など町の中心地はこの2つの山に挟まれた低地にあります。島内の移動手段としてはレンタカーが一番便利とは思いますが、今回は自然を感じたくて電動アシスト自転車をレンタルしました。八丈島では「島チャリ」の愛称で呼ばれ、風力発電機で充電するというエコで健康的な乗り物です。なお、島チャリは役場の敷地内に保管されていますが、レンタルは島内の業者が行っています(観光協会に問い合わせると連絡先を教えてくれます)。島内は結構起伏が多く、上り坂では大活躍でした。今回は南東部の海岸沿いを中心にサイクリングしました。役場を出発し、島の南東部の海岸を反時計回りに進みます。坂を上り始めるところにある大里地区には、玉石という石でできた垣(玉石垣)が多く見られます。これは流人が近くの浜から運んできたと言われ歴史的価値のあるものだそうですが、自然にある石でこんなに丸いものは本土ではあまり見たことがないので、どういうふうにしてできたのか興味深いところです(波でできたと言われていますが)。南国ムードたっぷりの植物を眺めつつ、爽やかな潮風に吹かれながら坂を登っていくと、トンネルの手前で八丈富士や西の八丈小島がきれいに見える場所に着きます。役場を出発してから1時間ちょっとで、島の最東端の末吉地区、八丈島灯台の近くにある石積ヶ鼻に着きます。排水溝のような道を伝って降りていくと、左側に崖があります。ここが観察ポイントです。ここは釣りスポットのようで、海岸には数人の釣り人がいらっしゃいました。かなり危険なようなので、海にはなるべく近づかない方が無難です。崖を観察すると、下の方は黒い玄武岩で、上の方は白っぽい軽石の層になっています。軽石の層の途中に黒くへこんだ薄い層がありますが、これは2万5000年前に鹿児島の姶良カルデラから噴出し、九州から関東まで広く降り積もった有名な火山灰の層です(姶良Tn火山灰という名前が付けられています)。このように広く分布し年代の推定に役立つ層を鍵層と呼びます。ちなみにへこんでいるのはまわりの層より風化しやすいためのようです(某書籍には採集でへこんだとありますが明らかに変です)。リュック(高さ約55cm)はスケール代わりです。玄武岩の中には苦土橄欖石、灰長石、普通輝石などが斑晶(溶岩の中にできる大きな結晶)として含まれています。苦土橄欖石はオリーブ色の透明な結晶で数mmの大きさです。灰長石は大きいもので数cmのものもあって見つけやすく、多くは白色ですが赤色を帯びているものもあります(内部に銅を含んでいるためだそうです)。普通輝石は暗褐色の不透明な結晶で数mm程度の大きさです。写真のペン先の長さは1.3cmです。次に石積ヶ鼻の南西にある汐間海岸に行きます。ここはすごく波が高く、真冬にもかかわらず大勢のサーファーの方がいらっしゃいました。海岸のすぐ後ろの崖から何本も滝が流れており、素晴らしい景色です。ここで来た道を引き返し、島の南部の中之郷地区まで戻ります。ここにも「裏見の滝」という滝があり、その名の通りハングオーバーした崖の裏側に回りこんで滝を見ることができます。この辺りには温泉がいくつかあり、そのうちの1つに入りました。その温泉は1回入っても、周囲の別の温泉にも入れるフリーパスを買っても同じ700円という、不思議な価格設定でした(もちろんフリーパスを買いました)。最初は1人でのんびり入っていたのですが、ちょうど出るときに大勢のスポーツウェアの方々が入ってきました。実はこの日は島でロードレース大会が開催されていたそうで、参加者の皆さんが汗を流しに来られていたのでした。温泉を出て少し行ったあたりから、島チャリのバッテリーが切れ始め、その先の起伏の多い道でちょっと疲れました。そこで早速、隣の樫立地区の温泉に例のフリーパスで2度目の入浴です。ありがたいことです。八丈島の温泉は南東部に集中しています。泉質はナトリウム-塩化物泉(すなわち食塩水)が多いようで、たまたま口に入ったときには確かに塩辛かったです。ここでなぜ新しい火山のある北西部ではなく、古い火山の南東部なのか、という疑問が浮かびます。これはどうやら、南東部の硅酸塩成分の多い岩石の方が、玄武岩質の岩石よりも冷めにくく、地下で熱を持っているためらしいです。そこから先はほとんど下り坂でしたので、幸いあまり困ったことにはなりませんでした。最後に、島の中央部の西側の海岸に、南原千畳岩という八丈富士の噴火によってできた溶岩地形を見に行きます。これは典型的なパホイホイ溶岩と呼ばれる、滑らかな表面をもつ溶岩の形状です。昔ハワイ島で見たような光景です。帰りに島のお土産としてムロアジの焼くさやを買いました。真空パックされているので機内で臭う心配はありません。焼いてあるのでそのまま食べられ、臭いも予想していた程にはきつくなく、味は普通の干物よりもむしろ淡白で美味しく頂きました。次はもっと暖かい季節に来て、八丈富士や三原山にも登ってみたいと思います。島チャリさん、お疲れ様でした。
2012.01.14

もうすぐ12月、そろそろ来年のカレンダーを準備しないと…ということで、1つ作ってみました。名付けて「元素記号を覚えざるをえないカレンダー2012」。日付の代わりに元素記号を使っているので、このカレンダーを見て日付を確認するには原子番号1から31までの元素記号を覚えざるを得ない、というわけです。1週間が7日間なので、周期表と違って同族元素が縦に並ばないという難点がありますが、同じ背景色にするということで妥協しました。なお、遷移金属は同じ色にしてあります。良かったら、下の画像をダウンロードしてご自由にお使いください。
2011.11.27
「大学共同利用機関」って知ってますか?大学共同利用機関は、単独の大学では所有の難しい高額・大規模な実験設備を所有したり、貴重な資料を保管するために設立された国の研究機関で、人間文化研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構の4機構があります。高エネ研以外はあまりなじみのない名前ですが、実はこれらの機構の下には国立歴史民俗博物館や国立天文台など、よく名前を聞くような研究機関が多く入っているのです。また総合研究大学院大学の大学院生の多くは大学共同利用機関で研究しています。今日行ってきた大学共同利用機関シンポジウム2011では、これらの大学共同利用機関が集結し、講演とブース展示が行われました。「宇宙の創生とマルチバース」自然科学研究機構 佐藤勝彦 機構長この講演は、遅れて行ったので残念ながら聞けませんでした。「加速器で見る宇宙・物質の変遷」高エネルギー加速器研究機構 鈴木厚人 機構長「素粒子と考えられているクォークは実は素粒子ではなく、もっと小さな素粒子があるかもしれない。それを探すために実験をしている」という話が印象的でした。どこまでも小さなものを探求していくというのは、やはり人間にとって根源的な問いなのだろうと思います。「東日本大震災と文化財」国立歴史民俗博物館 小池淳一 教授津波に流された歴史的な民家の文化財をレスキューする活動の記録映像が上映されました。「文化財を保護する活動自体も一つの文化として記録したい」という話が心に響きました。人文系の研究者の話を聞く機会はあまり無いのでとても良かったです。「防災より減災へ:情報・システムの立場から」情報・システム研究機構 北川源四郎 機構長「社会にレジリエントなシステムを」という話がありました。レジリエントというのは困難な事態に直面してもうまく回避し適応していくというような意味合いのようです。氾濫する情報をいかにうまく活用し、社会がレジリエントなシステムとして機能するようにするか、これから考えなければならない大事な問題だと思いました。各研究所のブースもとても面白かったです。パンフレットや記念品などもいろいろともらえました。
2011.11.26
すっかり秋の恒例行事となったサイエンスアゴラに今年も行ってきました。いろいろ考えさせられましたが、今年の感想を一言に集約すると、タイトルのようになります。11/19(土)、お台場は嵐の中。午前中は未来館の1階でサイエンスショーを見たり、プレゼンテーションや展示ブースをちょっとずつ見て歩いていました。いわゆる「楽しい科学」系が中心で、この悪天にも関わらず盛況でした。今年の特徴としては、カードゲームや漫画などが目立ち、いかにも実験っぽいコーナーがあまり多くなかったような気がします。一つ気づいたのは、どんなに面白いトークやパフォーマンスでも、こどもは15分もすると集中力が切れるということです。こればかりはどうにもならないんでしょうね。午後の前半は、「ジオツーリズムの楽しみ方」という企画に参加しました。今年は「震災からの再生」がテーマになっているのに、地学系の企画は少ないんですよね。そんな数少ない貴重な地学系企画の1つでした。伊豆大島ジオパークの方のお話が印象的でした。この文章ではうまく表現できませんが、とても生き生きとしていて、本当にその場に行ったような気分になりました。最近はジオパークについて説明しなくなった、お客さんに土地の恵みを楽しんでもらって、そういえばジオパークだった、という感じだそうです。また、その方自身がとても楽しそうで、人間的な魅力も大いに役立っているのではと思いました。私はここにジオパークのみならずサイエンスコミュニケーション一般にも通じるヒントを見たような気がしました。午後の後半は、「科学のハナシの届け方」という企画に参加しました。研究機関の広報担当のベストプラクティスの紹介がとても参考になりました。特に物質・材料研究機構が一般公開のための宣伝映像を作ったというのに感心しました。こういう映像を作ること自体今までなかったことだと思います。また議論の中で、多少正確性を犠牲にしても一般市民の感情に訴える広報が必要、研究機関が伝えるべきものは科学そのものよりも、科学者の人間性というような意見もありました。私も、難しい科学を全ての一般市民に正確に理解してもらうのはやはり無理があると感じています。そういうところをどこまで割り切れるかということも、サイエンスコミュニケーションに必要な要素の1つなのかもしれません。11/20(日)。昨日と違って良い天気で、屋外展示も盛況でした。何といっても「アゴラ」はギリシャ語で広場という意味ですからね。午前中は「計算科学と化学の不思議で楽しい関係 ─世界化学年に」という日本コンピュータ化学会の企画に参加しました。今年は世界化学年ですから、1つくらいはそういう行事にも参加しないと、と思ったからです。内容は「コンピュータ化学」というわりには折り紙とか分子模型といったアナログなものも登場し、とても楽しく分子の形とその役割について理解することができました。もっとこどもたちにも来てもらえると良かったのですが、場所があまり良くなかったんですかね。午後の前半は「政策形成における科学的助言のあり方」という、サイエンスアゴラでも最も固そうな企画に参加しました。録画をUstreamで見ることができます。政策形成における科学と政府の行動規範についてのルールづくりが求められており、その試案が提示されるとともに、科学と政治のあり方について議論が行われました。内閣府(科学技術政策・イノベーション担当)の大竹参事官の科学を社会に根付かせ、リーダーがより良い判断ができるような社会にしたいという熱い思いや、東大の笠木教授の日本にもAAASのような科学者が広い視野を持てるような仕組みを、という提言も良かったと思います。残念ながら現在の日本学術会議は政策提言を行うのに最もふさわしい立場にありながらその機能が十分に発揮されていないようですが、いずれにせよ、政府側にも学者側にも改善すべき点はたくさんあるのだろうと思いました。討論の中で、政治と科学の関係の前提として、まず社会と科学、科学教育の問題を何とかしなければならない、というような議論もありましたが、この場だけでそんな大きなテーマを議論するのは無理というものでしょう。しかし非常に大事な問題であることには間違いありません。私個人の考えでは、科学が政府に直接政策提言するべき重要な場というのは、特に非常時だと思います。そういったときにスピード感をもって提言し、政策に反映させるという仕組みと、政府と科学の信頼関係を普段から構築しておくべきだと思います。午後の後半は総括セッションに参加しました。見る人が見ればわかると思いますが、サイエンスコミュニケーション関係のキーパーソンが多数登壇し、震災後のサイエンスコミュニケーションが目指すべき方向について討論が行われました。この録画もUstreamで見ることができます。しかし議論が深まれば深まるほど、私には「サイエンスコミュニケーション」が主役であってはならないのでは、と思えてきてしまいました。主役はあくまでもその地域の住民であるはずなのです。多くの方の反感を覚悟で言うならば、「サイエンスコミュニケーション」は主役を助ける脇役、あるいは黒子で良いと思うのです。いま「サイエンスコミュニケーション」という言葉が独り歩きしていないでしょうか。極端な話、もう、そんな言葉すらいらないのではないかとさえ思うのです。初めから「サイエンスコミュニケーション」ありきではなく、何のための「サイエンスコミュニケーション」なのか、それぞれの立場でもう一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。モデレーターの方が最後に「サイエンスコミュニケーターのためのプラットフォームを」というようなまとめ方をされました。プラットフォームは良いのですが、それが本来目的も手段も多様であるはずの「サイエンスコミュニケーション」を縛るようなものになってしまわないか、いま若干心配しているところです。というわけでこの記事を最後に、今後はあんまり「サイエンスコミュニケーション」を強調し過ぎないように気をつけながら、少しでも社会に役立つかもしれない(あるいは直接役立たなくても社会の基礎体力の足しになるかもしれない)科学を伝えることに地道に関わっていきたいと思います。(参考)2009年の感想→その1、その22010年の感想→その1、その2
2011.11.20

ペットボトルを使ったお手軽な津波実験装置を紹介します。とても簡単にできますので、ご家庭などで是非やってみてください。●用意するもの・ペットボトル(2リットル):なるべく下半分に起伏の少ない形のものが扱いやすいです。・ビニールひも(15cm)・ビニールテープ・カッターナイフ・はさみ・水(これだけです!)●作り方1.ペットボトルの下半分の一面をカッターナイフで四角く切り抜きます。(すべりやすいので怪我をしないように注意してください。)2.切り抜いたペットボトル片を長さ5cmくらいに切ります。3.ペットボトル片にビニールテープでビニールひもを取り付け、これを寝かせたペットボトルの内側にビニールテープで固定します(写真参照)。4.ペットボトルに水を半分くらいまで入れて完成です!●実験では早速実験してみましょう。ひもを引き上げると津波が発生します(すばやく静かに引くのがコツです)。津波が伝わっていきます。津波が装置の端まで到着しました。津波が発生してからここまで0.5秒くらいでしょうか。実験の動画はこちら。●解説1.津波の発生地震は地下の断層運動(岩石が食い違うようにして動くこと)によって発生します。この断層運動が海底の下の浅いところの岩盤で発生すると、その動きによって海底が盛り上がったり沈み込んだりすることがあります。この海底の動きによってその上の海水が動かされ、波となって水平方向に伝わっていくのが津波です。今回の実験では、水面にへこみができて、水平方向に伝わっていくのが見えたと思います。また、「津波の前には必ず潮が引く」という言い伝えを聞くこともあるかと思いますが、いつもそうであるとは限りません。断層運動の方向や、地震の発生した場所と海岸との位置関係などによって、津波はいきなり押し寄せてくることもあります。「津波の前にいつも潮が引くとは限らない」と覚えておきましょう。2.津波の速さ津波の速さは水深と波高で決まります。重力加速度をg(=9.8m/s^2)、水深をh(m)、波高をH(m)とすると、津波の速さは√g(h+H)となります。実験での(h+H)を約5cmとすると、津波の速さは秒速約70cmとなります。ペットボトルの長さは30cmくらいですから、計算上は0.5秒以内に端まで着くことになります。ただし、実験ではペットボトルとの摩擦の効果もありますので、多少遅くなっているようです。なお、通常の津波シミュレーションでは、波高H(数m)は水深h(数千m)に対して無視できるほど小さいので省略されることが多いようです。なので、沖合での津波の高さが分からなくても、津波がいつ到達するかは比較的正確に予測できるのです。ちなみに、高さ10mの津波が海岸に着いたときの速さはどうなるでしょうか?計算してみると100mを10秒台で走るスピードになります。津波が来てから逃げたのでは遅いということがよく分かりますね。3.津波の長さ波の山から山(または谷から谷)までの長さを「波長」と言います。津波は海底の数十km~数百kmという広い範囲の断層面のずれによって発生するので、この波長も非常に長くなります。実験では長さ5cmくらいの板を使いましたが、波長もこれに対応して5~10cmくらいの長さになっていたのが見えたと思います(正確に言うと実験での板の動きは実際の断層運動とは違います)。先に説明した津波の速さと合わせて考えると、波長10kmなら15分、波長100kmなら2時間半は、ひと波が続くことになります。これが風によって生じる普通の波なら10秒程度で、まさに「寄せては返す波」という表現がぴったりです。これに対して津波は「ひたすら寄せ続ける波」、波というよりは洪水に近いイメージですね。津波が内陸までずっと入り込んでいくことがあるのは、このように波長が長いためなのです。
2011.11.13
11月5日に内閣府主催の「津波防災の日シンポジウム2011」に行ってきました。「津波防災の日」とは、今年の6月に「津波対策の推進に関する法律」が制定され、その中で以下の通り定められたものです。第15条 国民の間に広く津波対策についての理解と関心を深めるようにするため、津波防災の日を設ける。2 津波防災の日は、11月5日とする。3 国及び地方公共団体は、津波防災の日には、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう努めるものとする。11月5日というのは1854年の安政南海地震が発生した日です(これは旧暦。新暦ではなんと12月24日なのです)。この地震による津波の時の「稲むらの火」の逸話にちなんで、先人の知恵に学ぶという趣旨で定められたようです。ちなみにその約32時間前には安政東海地震が発生していました。いわゆる「東海・東南海・南海地震」の震源域が2~3日の間にすべて割れたということになります。このシンポジウムはニコニコ生放送でも中継されていたのですが、平野啓子さんの「稲むらの火」の朗読(語り)が生で聴きたかったので会場まで出かけたのです。ニコ生の方では来場者数25351人にまで達したようで、かなり関心を集めていたものと思われます。実際行ってみて、平野さんの朗読は臨場感があって本当に素晴らしかったし、釜石東中学校の先生や群馬大の片田敏孝教授のお話も大変良かったと思います。実は、片田先生には震災の前にお会いしたことがあります。その時にも釜石やその他の地域での防災教育のお話は伺っていたのですが、ここまで生徒の皆さんに教えが伝わっていたとは思いませんでした。また今回のシンポジウムでは「知識の防災教育」をばっさりと切られていたのですが、以前お会いしたときにはもう少し知識教育にも比重を置かれていたような印象だったので、震災後微妙にスタンスが変わられたのかな、と思いました(あくまで私個人の印象ですが)。ただ、「自分の命には責任を持つ」という「自助」最優先の考え方自体は震災前後で変わらず、むしろ強まってさえおられるようでした。これまでの防災教育も、サイエンスコミュニケーションで言うところの「欠如モデル」一辺倒だったのかもしれません。片田先生のおっしゃる「姿勢の防災教育」は、そういうところからの脱却に他ならないのではないかと思いました。
2011.11.05
科学コミュニケーター研修(1)の続きです。残りの2つの講座のことと、全体的な感想を書いておきたいと思います。プレゼンテーション講座は、具体的なプレゼンのノウハウを習うというよりは、主に他人のプレゼンを見て良いところ、悪いところを学び取るということが行われました。ファシリテーション講座では、イベントの企画と、イベントの中での場回しについて、企画書づくりやロールプレイングを通じて学びました。どれも大変有意義だったと思いますが、科学館での研修ということもあり、内容の多くは科学館での活動を想定したものだったと思います。したがって、科学館から来られた受講生の方にはそのまま使える部分が多かったと思いますが、他の職種の方にとっては、それぞれの仕事にどう活かすか考えるという作業が必要でしょう。実はそのための時間も少しあったのですが、今後も考え続けていかなければならないものだと思います。特にファシリテーションについては、科学コミュニケーションそのものをどう定義するかという根本的な問題とも密接に関係するだけに、研修で行ったことが必ずしもすべてではないように思いました。余談ですが、震災後「科学コミュニケーターは何をしているんだ!」という声がちらほら聞かれます。しかし、未来館の科学コミュニケーターのように、地道に活動されている方々も多くいます。問題はそういった活動が一般の目に届きにくいことではないでしょうか。例えばテレビの情報番組もよく分からない「文化人」をコメンテーターにするくらいなら、科学コミュニケーターを呼んでいただきたいものです。科学コミュニケーターが世間で存在を認められるためには、その数を増やすことと、その質を高めることが必要です。今はまだ専業の「職業科学コミュニケーター」が生きていくのは容易な時代ではありませんが、まずは学校や地域や職場など、いろいろな所に「兼業科学コミュニケーター」や「アマチュア科学コミュニケーター」を増殖させ、その存在を認知してもらうことが必要です。そういった人々がそれぞれの場で質の高い活動を行い、それが世間で認められてはじめて「職業科学コミュニケーター」を設置あるいは利用する機関も増えてくるのではないでしょうか。なお、この研修は休日利用で無理なく受講できるので、「兼業科学コミュニケーター」や「アマチュア科学コミュニケーター」を目指す社会人にもお勧めです。
2011.10.23
今年の東京国際科学フェスティバル(TISF)のイベントには参加できませんでしたが、有明のパナソニックセンター東京で開かれたクロージングイベントの講演を少しだけ聞いてきましたので簡単に報告します。ちなみに第1回、第2回の報告はこちらです。TISFスペシャルイベント「最新宇宙を語る・奏でる」(第1回)第2回東京国際科学フェスティバル 10月9日(日)「大人のためのギリシャ神話」講師:伊東 昌市 氏 (自然科学研究機構国立天文台)講師の伊東さんは「プラネタリウム界のドン」と呼ばれている方だそうです。エジプトの民族衣装で登場され、しかも「今日は風邪をひいているので下に着込んでいますが、本当は裸の上に着るのが正式です」と仰るほどの気合の入れようでした。神話や星座、天文学史などいろいろなお話がありましたが、中でもネブラ・スカイ・ディスクのお話は大変興味深いものでした。これは21世紀になってからドイツで発見された約3600年前の天文盤だそうで、当時のヨーロッパが未開の地であったという世界観を覆す重要な発見だったのではないでしょうか。10月10日(月)「日本の宇宙科学のこれから」講師:阪本 成一 氏 (宇宙航空研究開発機構)JAXAで広報を担当されている阪本先生のお話を伺うのはたぶん2回目だと思いますが、前回よりも更にパワーアップした感じでした。今回は月だけでなく、太陽、水星、金星、小惑星の話や、ロケット開発の話もあって盛りだくさん。たっぷりと宇宙の世界を堪能させていただきました。惑星探査は一見別々に行われているように見えますが、結局全ては我が地球を理解するためなのですよね。そういうことを再認識させられました。
2011.10.10
昨日、今日と1日半に渡って日本科学未来館の科学コミュニケーター研修プログラム(短期研修)に参加しました。このプログラムは情報コーディネーション、プレゼンテーション、ファシリテーションの3講座からなっていますが、今回は情報コーディネーション講座を受講しました。有料の研修プログラムですので具体的な内容の公表は差し控えさせていただきますが、全体的な感想だけ記しておきたいと思います。研修はグループワークを中心とした実践的な内容で、私のような実技を磨く機会の少ない者にとっては大変貴重な機会でした。今回は情報を集めて記事を書くというようなことをしたのですが、講師の方や他の受講生の方から指摘されてみると、改めて自分の文章構成力の無さを実感させられました。受講生のバックグラウンドは教師、科学館職員、研究者、大学職員、学生などと様々で、改めてサイエンスコミュニケーションの多様性を認識させられました。それぞれふだん伝える内容も相手も違うので、それが伝える時に何を重視するかという姿勢にも反映されるようです。端的に言えば、研究の現場に近い方は正確性重視、日常的にいろいろな人を相手にする仕事の方は分かりやすさ重視、といったところでしょうか。どこまで正確性を犠牲にして良いかはケースバイケースで、なかなかこれだという答えは見つかりませんが、常に何らかの犠牲は払われているのだということは頭に置いておく必要があると感じました。研修終了後、今日が最終日の企画展「メイキング・オブ・東京スカイツリー? -ようこそ、天空の建設現場へ-」を見てきました。東京スカイツリー? が見る見るうちに建ってしまったのには以前から驚いていたのですが、アンテナ用鉄塔(ゲイン塔)で採用された「リフトアップ工法」には度肝を抜かれてしまいました(詳しくはここ)。常設展も何年かぶりに少しだけ見ましたが、情報科学技術のフロアがかなり入れ替わっていたようでした。有機ELパネルになったジオコスモスはきれいでした。
2011.10.02

9月中旬に、気仙沼大島にボランティア活動に行ってきました。震災後、東北地方へ行くのはこれが初めてです。なぜこの時期に?というと、遅い夏休みがやっととれたからです。それに、学校の夏休み明けで人手の少なくなりそうなこの時期に行くというのも良いかも、と思ったからです。あと、元々熱中症になりやすい体質なので真夏は避けたかったから、というのもあります。気仙沼大島を選んだのは、離島のため他の地域よりも復旧が遅れているのではないか、と思ったからです。実際、他の地域でもボランティアに参加されていた方によると、大島はまだ他の地域の2~3か月前のような状態だとのことでした。(津波で破壊された亀山リフト。亀山は気仙沼湾の瓦礫からの引火により火災にも見舞われた。)活動内容は、大島災害対策本部の指示により海岸近くの土地の瓦礫の片づけを行いました。地盤沈下により排水されておらず、まだまだ手つかずな場所も多く見られました。しかし、驚いたことに大島ではゴミは10数種類に細かく分類されており、瓦礫の集積場所でもきちんと種類ごとに分けられていました。震災から半年ですが、大島ではこうした災害復旧のボランティアのニーズもまだまだありますし、この先には漁業や観光業などの本格復興に向けたニーズも山ほどあるとのことでした。元々大島は緑の豊かな美しい島だったとのことですし、こうした資源をうまく活用できれば力強く復興していけるのではないかと思いました。今回ボランティアに参加していたのは20~30代くらいの社会人が中心でしたが、女性も4割くらいいらっしゃって、中には還暦くらいの方もいらっしゃいました。この時期ということもありボランティア経験者が比較的多かったのは予想通りでしたが、東京発のバスツアーにも関わらず全国から新幹線や飛行機まで使って来られていた方々には驚くとともに感心しました。これは一応科学ブログなので、現地で見聞きしたことの中から科学的な話題も少し取り上げておきます。鳴き砂で知られる「十八鳴浜(くぐなりはま)」は津波をかぶった後も鳴ることが確認され、国の天然記念物に指定されることになったようです。鳴き砂は石英粒が主体でゴミが少ない浜に見られるもので、この辺りの海がきれいなことを示していると言えます。また石英は花崗岩からもたらされることが多いのですが、大島付近の地質自体は主に中生代の海成堆積物で形成されています。少し離れた所に分布している北上花崗岩類から、川の流れによってもたらされたのかもしれません。また大島には「大津波が来たら島は三つに分断される」という伝説があり、今回の津波では実際に津波が島の東西から襲い、中央の低地で本当に2分されてしまったとのことでした。3つに分断されたのがいつの話なのかは不明ですが、もしかすると869年の貞観地震かもしれません。
2011.09.22
このシンポジウムは、JAMSTECがこれまで「地球シミュレータシンポジウム」として毎年開催してきたものを、今年は「京コンピュータ」を利用する「HPCI戦略プログラム(分野3)防災・減災に資する地球変動予測」との合同開催という形で開催したもののようです。内容的には広く一般向けということでしたが、まずタイトルが非常に分かりにくいと思いますがいかがでしょうか。だいたい一般の人が「HPCI」とか「分野3」とか言われても分かるでしょうか。ちなみにHPCIとは「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」のことだそうです。参加者は、台風接近の影響もあると思われますが、大部分が関係者といった雰囲気でいわゆる「一般人」らしい方はほとんど見かけませんでした。やはり一般向けと謳っておきながら平日開催というのはあまりよろしくないのではないでしょうか。今回は、本当に一般の人にこそ聞いてほしい内容だっただけに、非常に残念でした。内容は、かつて世界最速であった地球シミュレータによる成果と、現在世界最速である京コンピュータ(まだ運用開始されていませんが)に今後期待される役割について、気候・気象分野と地震・津波分野のそれぞれの課題責任者あるいは担当責任者が紹介するというものでした。前半は気候・気象分野で、最初に木本昌秀・東京大学大気海洋研究所副所長・教授により「グローバルな気候・環境のシミュレーションと予測」と題して講演が行われました。ここでは数値天気予報の歴史が振り返られるとともに、グローバルな気候変動モデルについて(ローカルな気象も同様ですが)、パラメタリゼーションと呼ばれる簡略化の方法によってモデルはいくつもあること、そうしたいくつものモデルから京コンピュータにやらせるにふさわしいモデルは何か、といった話がありました。次に「集中豪雨/局地的大雨の予測」と題して、斉藤和雄・気象庁気象研究所予報研究部第二研究室長から講演がありました。こちらの方はもっと短時間かつ局地的スケールの予測の話でした。現在は積乱雲そのものを直接の計算対象にできていないこと、今後これを計算に入れていくことの重要性が主張されました。そのためには観測による初期値が重要なのですが、現在の予報では初期値の作成に計算資源の半分が投入されているそうです。後半は地震・津波分野で、こちらは気象分野に比べてシミュレーションの歴史も浅いせいか、シミュレーションに限らず観測なども含めた広範な話題となりました。まず「「京」コンピュータによる地震津波広域複合災害予測の展望―何が出来るか、どこまで出来るか―」と題して金田義行・海洋研究開発機構地震津波・防災研究プロジェクトリーダーによる講演がありました。地震発生のシナリオから発生後の地震波による構造物の揺れ、更には都市全体の被害想定まで行っていくという、大変野心的な展望が示されました。最後に、今村文彦・東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター教授により「東日本大震災での津波被害と数値シミュレーションへの期待」という題で、主に津波の予測や被害についての話がありました。ただし今回は津波のシミュレーションの話というよりは、数字だけでは津波の怖さが伝わらないといった、むしろ防災上重要となる観点に重点が置かれていたように思いました。シミュレーションと言うと、一歩間違えばただの計算機遊びに終わってしまうような危険性もありがちかと思いますが、このような防災上重要なシミュレーションは、現実への適用を十分念頭において開発していって頂きたいと切に希望します。http://www.jamstec.go.jp/esc/sympo2011/
2011.09.21
東大駒場キャンパスで、東大総合文化研究科教授の池上高志先生と、東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長の村山斉先生のトークセッションが行われました。お二人ともふだんから注目している研究者なので、前日の夜にイベントの存在を知ったにもかかわらず行ってきました。このイベントは東大のとある有名ゼミ(ゼミを主催していた教員が退職したため現在はサークルとして活動)が発行した本の宣伝という側面もあり、無料で入ることができました。トークに入る前のゼミや本の宣伝がやや長かったのは、まあ仕方のないことでしょう。参加者の多くは若い方で、おそらくほとんど学生でしょう。こんな贅沢なイベントがタダで聴けるなんて、本当に恵まれていますよね。このお二人、出身の東大物理学科では2年違いなのですが、実は対面するのは今回初めてとのことでした(ただし池上先生は、村山先生が去年TEDに出演したときに見ているとのこと)。物理学科は人数も多いですし、研究分野も違うお二人なのでまあ当然なのでしょう。村山先生は言わずと知れた素粒子論の正統派「スーパースター」。著書が平積みにされている書店も多いのでご存じの方も多いかと思います。第一線の研究者でありながら精力的にアウトリーチ活動をこなす「サイエンスコミュニケーション界」のスーパースターでもあり、このブログでも村山先生の講演やサイエンスカフェを何度か話題にしてきました。それに対し池上先生は同じ物理でも「複雑系」の研究者ですが、最近は計算機を使った「人工生命」の研究で一般向けの書物を出したり、アーティストと芸術活動をされたりもしている、物理学者としてはかなり「異端」な方だと思います。私も昔、駒場の教養課程で池上先生のカオス理論の講義を受けたことがありますが、非常に難解だったことを記憶しています。さて、私にとってはお二人が「スーパースター」なのですが、まず池上先生が村山先生にした質問は、池上先生にとってのスーパースターである物理学者ファインマンに会った時にした質問と同じで、脳の働きを物理で扱わなければならないとしたらどうするか、というものでした。それに対する村山先生の答えもファインマンの答えも良く似ていて、物理学では還元論的にしか扱えない(ので難しい)というようなことでした。池上先生はそうしたファインマン式の考え方には限界があり、身体性を超えたモデルが必要との考えを展開します。池上先生にとっては、生命とはある程度の操作を加えることはできるけれども、完全には動きをコントロールできない、ある種の距離を感じられるようなものだそうです。それに対して村山先生は丁寧にその意味について質問していきます。私はこの村山先生の、最初なかなか受け入れがたい意見について、丁寧な対話を積み重ねて理解していこうとする態度に、サイエンスコミュニケーションの模範を見る思いがしました。池上先生の難解な生命論が一通り終わると(私の理解不足のため内容は省略させて頂きます)、話は物理に戻り、物理と数学の関係に発展していきます。村山先生はIPMUでの数学者との関わりの経験を元に、数学は実際の世界とは関係ないけれど、時々実際の世界にも適用できる発見があり、物理に活かすことができると述べたのに対し、池上先生は数学と同じように、自然言語に頼らず生命を記述する抽象的な言語を作ろうとしていると言いました。この辺りから、池上先生は人間の知性を越えるコンピュータが出てきてもおかしくない、という発言をしだします。それに対して村山先生はかなり抵抗を示します。コンピュータに計算をさせているのは人間で、人間の考えるアルゴリズムをただ実行しているだけで、それを知性と呼ぶのか、と。池上先生のアートを取り上げ、それは本当にコンピュータだけで作られているのか、と反駁します。それで、その場で実際に池上先生のアートを上映するという流れになりました。しかしさすがの村山先生も、アートがなかなか良かったので非難しづらくなったと言っていたくらい、迫力のある素晴らしいサウンドでした。YouTubeで見られるのでヘッドフォンで聴くと立体的に聴こえて良いです。こういうのが苦手な方もいるかもしれませんが、池上先生によれば心地よいものは記憶に残らないので、人を不快にさせるものこそがアートなのだそうです。なるほど、と思いました。最後にお互いの印象を交換されていたのですが、村山先生は最初池上先生を「人工生命」とかやっていて何だか怖い人と思ったそうですが、トークを通じて考え方も分かったし、新しい言語を作るということにも共感できたとおっしゃっていました。村山先生はこのイベントに出るにあたって池上先生の論文を1本読んだとのことで、相手を知るために論文を読むというのがいかにも学者らしい、さすがだなあと感心しました。一方、池上先生は「物理は終わっている」と言いながらも、村山先生のやっているような素粒子論にもダークマターなどまだまだ面白いことはある、とエールを送っていました。「異端」の池上先生もそういう「正統」の物理が実は羨ましいのかもしれません。全体的にとても面白かったのですが、今回はどちらかというと池上先生の研究の話題が多く、村山先生の研究の話をあまり聞けなかったのがちょっと残念でした。もしこの対談の第2弾があるなら、今度は村山先生の研究をネタにして欲しいところです。http://kenbunden.net/hatachi/
2011.07.16

地学を習っていない人でも、ホットスポットやプレートという言葉は聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか?今日は、ホットスポットとプレートがどういう関わりを持っているのか、というお話です。プレートというのは地球の表面を覆う厚さ100kmくらいの岩板で、十数枚に分かれています。マントル対流に伴って移動するので、プレート境界では地震や火山噴火が起きたり、地形の変動が起きたりします。ホットスポットは、プレート運動とは無関係に火山活動が活発な地域のことで、プレートより下の地球深部の高温のマントルの上昇によってできます。このような上昇をマントルプルームと言います。よく教科書などに載っているのがハワイ諸島です。7月7日のNatureに、6,700万年前から5,200万年前までの間にマントルプルームの活動がプレート運動に影響を及ぼしたかもしれないという論文が発表されました。そのマントルプルームはインド洋のマダガスカルに近いフランス領の島、レユニオン島を形成したことで知られるレユニオンプルームです。6,700万年前、現在のインドはアフリカの東に位置していて、まだユーラシア大陸とはつながっていませんでした。インドプレートが北上してユーラシア大陸の一部となったのは、およそ5,500万年前~5,000万年前くらいのことです。一方、アフリカ(アラビア半島を含む)と西アジアもまだつながっていなくて、アフリカプレートはゆっくりと北西に移動していました。今回の論文では、6,700万年前から5,200万年前までの間にインドプレートの北上が著しく速くなったことと、同じタイミングでアフリカプレートの運動が停滞したことが示され、両者には何か共通の原因があるのではないかと考えました。両者の間にはレユニオンプルームがあり、約6,700万年前から現在に至るまで活動しています。一般的にプルーム活動の活発さは一定ではなく、初めの方が活発であとは静かになるということが知られています。これは、プルームというのは高温のマントルが周囲のマントル物質を巻き込みながら上昇するため、きのこ雲のような形になるために起きると考えられています。つまり、最初にきのこ雲の「頭」の部分が地表に現れて大規模な火山活動を引き起こし、その後はきのこ雲の「しっぽ」の部分がしょぼしょぼと出続けるというわけです。実は現在の地球上では、この「しっぽ」の部分しか活動しておらず、「頭」の活動は誰も見たことがありません。ちなみにレユニオンプルームの「頭」が作ったのがインドのデカン高原で、こういう活動でできた大量の火山岩(玄武岩)を「洪水玄武岩」といいます。たまたま恐竜が絶滅した白亜紀末期と重なるのですが、恐竜絶滅の直接の原因は隕石の衝突というのが現在の科学では圧倒的に有力な説となっています。とは言え、デカン高原の洪水玄武岩活動が当時の生態系に影響を与えた可能性は高いと思われます。話を元に戻しましょう。このレユニオンプルームの「頭」の活動がインドプレートの動きを後押しした一方、アフリカプレートの運動を抑制したのではないか、というのがこの論文の結論です。もしこれが正しければ、プルームとプレート運動には密接な関係があるということになります。実は地球科学者は長年この問題に頭を悩ませてきました。なぜなら先に述べたとおり、現在の地球上ではプレート運動に影響を及ぼし得るようなプルームの「頭」の活動は起きておらず、直接的な手がかりが得にくいからです。では、プレート運動の変化の証拠はどこに残されていたのでしょうか?プレートは海嶺と呼ばれる海底の山脈で生まれ、海溝と呼ばれる海底の谷へ沈み込んでいきます。あるプレートの運動に変化があれば、隣のプレートとの間に何らかの証拠を残しそうです。海溝に沈み込んでしまったプレートを見ることはできませんから、海嶺の方がより多くのヒントが残っていそうですよね。この論文では、海嶺付近の地形の微妙な屈曲からプレート運動に変化があったことを示しています。この屈曲、何となく芸術的に見えませんか?Steven C. Cande & Dave R. Stegman, Indian and African plate motions driven by the push force of the R?union plume head, Nature 475, 47?52, doi:10.1038/nature10174Scripps Researchers Discover New Force Driving Earth's Tectonic Plates, Scripps Institution of Oceanography / University of California, San Diego(画像はScripps Institution of Oceanographyからの引用)
2011.07.07
3月から急に忙しくなり、ブログの更新が滞っておりました。ぼちぼち再開したいと思います。さて、今日はリラックスして楽しめる話題を用意しました。Twitterで「モホの歌(Moho Song)」というものを紹介したところ少し反響があったので、改めて紹介してみたいと思います。この歌は、米国初の海底掘削計画である「モホール計画」に刺激を受けて、メリーランド在住の音楽家が1959年に作曲したもののようです。「モホール計画」サイトの下の方に、楽譜(PDF)とビデオ(YouTube)へのリンクがありますので聞いてみてください。「モホール計画」サイトにもあるように、今年(2011年)は世界で初めて深海掘削が成功してからちょうど50年になります。モホール(Mohole)とは、「モホ(Moho)面まで達する穴(hole)」という意味の造語です。「モホ面」とは、正式には「モホロビチッチ不連続面」と言って、20世紀初頭に旧ユーゴスラビア(現クロアチア)の地球物理学者モホロビチッチが地震波の研究から発見した、地殻とその下のマントルとの境界面(地震波速度の不連続面)のことです。しかしながら、1960年頃にはモホ面の下のマントルの岩石の種類は明らかになっていませんでした。地震波の速度から推定されるのは岩石の密度だけで、組成は分かりません。1つの可能性は海洋地殻を構成する玄武岩と同じ組成で高圧条件下で相転移したエクロジャイト、もう1つの可能性は玄武岩よりもマグネシウムに富んだ組成を持つカンラン岩でした。前者を支持したのはプレートテクトニクスに反発し、岩石は水平移動せず固定されていると考えた人々でした。後者を支持したのは、野外の地質調査でかつての古い海洋地殻が陸上に露出したもの(オフィオライトといいます)にカンラン岩が含まれていることを知っていた人々や、プレートテクトニクスが主張する岩石の水平移動を許容した人々でした。後者の代表格がモホール計画提案者の1人で、米国の海洋地質学者であるハリー・ヘスでした。このような背景の中で、モホ面に穴を開けて、直接マントル物質を採ってやろうじゃないか、という計画が持ち上がったのです。モホ面は大陸にも海洋にもありますが、大陸の下では深さが30km~50kmもあるのに対し、海底の下では5km程度なので、掘るなら海底だ、ということになりました。このようにして1957年、世界初の海底掘削計画であるモホール計画が立ち上がったのです。しかし、1961年に最初の試験掘削が行われた後、資金不足により計画は中止を余儀なくされてしまいます。1966年に計画を後押ししていた有力議員が死んだこともあり、予算案が否決されたのです。その後、海底掘削計画は地球環境史の解明などへ目的を変更して、DSDP(Deep Sea Drilling Project:深海掘削計画、1968年~1983年)、ODP(Ocean Drilling Program:国際深海掘削計画、1983年~2003年)といった計画が実行され、地球科学の発展に多大な貢献をしました。現在はIODP(Integrated Ocean Drilling Program:統合国際深海掘削計画、2003年~)が進められており、その中で運用されている日本の地球深部探査船「ちきゅう」は、かつてモホール計画が目指していたモホ面の掘削を目指しているのです。海底掘削の歴史に興味のある方には「地球科学に革命を起こした船―グローマー・チャレンジャー号」という本をお薦めします。蛇足ですが「モホの歌」を日本語にしてみました。良かったら歌ってみてください。海の下を掘ろう 海の下を掘ろう海の下を掘ろう ずっと下までモホロビチッチ モホロビチッチモホロビチッチ その下まで堆積層の下へ 堆積層の下へ堆積層の下へ ずっと下までモホロビチッチ モホロビチッチモホロビチッチ その下まで掘り抜け玄武岩 掘り抜け玄武岩掘り抜け玄武岩 ずっと下までモホロビチッチ モホロビチッチモホロビチッチ その下までマントルまで掘り抜け マントルまで掘り抜けマントルまで掘り抜け ずっと下までモホロビチッチ モホロビチッチモホロビチッチ その下までその下まで その下まで
2011.05.04
三省堂サイエンスカフェの日本農芸化学会との共催シリーズ(13)、「クスリが働くミクロの世界-ケミカルバイオロジーへの誘い-」に参加しました。この日本農芸化学会シリーズ、時に難しい内容もあるのですが、適度に知識欲が刺激されて個人的には結構好きです。今回は講師に独立行政法人理化学研究所基幹研究所ケミカルゲノミクス研究グループ・グループディレクターの吉田稔氏、コーディネーターに毎日新聞科学環境部の西川拓氏を迎えて開催されました。農芸化学でクスリ?というのも不思議な感じがしますが、人類が20世紀に手に入れた革命的なクスリ「抗生物質」は、微生物が産み出し微生物を殺すものであり、農芸化学がカバーする分野でもあるとのことです。なお、現代の抗生物質は、純粋に天然由来のものだけでなく、人の手が入ったものもあるそうです。抗生物質といえばペニシリンが有名ですよね。これは1929年にイギリスのフレミングという人によって世界で最初に発見された抗生物質です。実験中にたまたま培養液にアオカビが落ちたところから見つかったということで、セレンディピティの代表例とされています。ペニシリンには、細菌の細胞膜の網目構造をつくっているペプチドグリカンを分解する作用があります。この構造は細菌特有なので、人間には無害です。しかし、1940年代に抗生物質が実用化されてから、10年もたたないうちに抗生物質の効かない細菌(耐性菌)が出現しました。抗生物質の乱用が細菌の驚異的な進化を招いてしまったのです。こうした問題に対処し、抗生物質などのクスリを上手に利用するためには、化学の知識で生物のしくみを解く必要があります。これが今日のテーマにもある「ケミカルバイオロジー」です。遺伝子にはエピジェネティクスといって、DNAの中の情報以外に、ヒストン(DNAが巻きつく芯になるタンパク質)のアセチル化、メチル化といった後天的な化学修飾があります。最近ではこれがガンや糖尿病などの原因とも考えられるようになってきました。例えばカロリー制限をすると脱アセチル化が促進されて長寿になるといった研究もあるようなのですが、脱アセチル化のメカニズムの説明に対して反論があるなど、研究者の間でもまだ議論中だそうです。会場からの質疑の中で、抗生物質は天然由来のものを探すよりも大量の人工物から探す方向にシフトしていること、その背景として製薬業界の過酷な国際競争があり、海外の製薬会社が合併を繰り返して競争力を高めている中での日本の製薬会社の置かれている状況について興味深いお話も聴けました。今回の西川氏のコーディネートについては、単に会場からの質問を求めるだけでなく、最初に少しやわらかい質問(どうしてこの道に入ったかなど)をしたり、逆に講師から会場への質問はないかと尋ねたりするなど、議論が活性化するような配慮が感じられて好感が持てました。ただ、内容が盛りだくさんで、ちょっと時間が短かったです。http://www.books-sanseido.co.jp/event/sc/history/39.html全然違う話ですが、サイエンスカフェが終わった後、東京大学総合研究博物館小石川分館で開催中の「IMAGINARIA―映像博物学の実験室」展を見に行きました。映像の上映が行われているのですが、スクリーンだけでなく展示物の間のちょっとしたすき間とか、博物館のいろいろなところに映し出されています。夕方からは庭園にも投影されます。夜の博物館って、何だかワクワクしていいですよね。
2011.02.26
雪の降る中、箱根山の麓の博物館へ講演会を聴きに行ってきました。今回の講演では、前半で「三浦・房総半島/世界で最も若い陸上付加体が教えてくれること」と題して、独立行政法人海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域の山本 由弦 研究員により、プレート沈み込み帯の地震発生について、三浦・房総半島の地質研究や、「ちきゅう」による南海トラフでの調査の様子などが紹介されました。三浦・房総半島で見られる付加体は、陸上で見られるものとしては世界でも最も年代の新しいものとのことでした。城ケ島など、観光客も訪れるような海岸で、付加体の形成プロセスでできた断層や褶曲が見つかっているそうです。後半では、「宇宙から読む地形」と題して、神奈川県立生命の星・地球博物館の新井田 秀一 学芸員により、地球観測衛星による地形判読についての講演がありました。その中では、現在噴火が続いている霧島山(新燃岳)の衛星画像も紹介されました。可視光では雲などに遮られてしまう地表の様子も、電波を使うことにより地形データとして観測できること、そのデータを解析することにより様々な情報が得られることを分かりやすく紹介していただきました。また、関連展示として、エントランスホールに房総半島で収集された千倉層群畑層のはぎ取り標本が展示されていました。はぎ取り標本は、じゅうたんのように丸めて保管することもできるそうです。面白いですね。http://nh.kanagawa-museum.jp/event/kouza/jamstec/jamstec_7.html
2011.02.11
東京大学総合研究博物館の「アルディの全身化石骨」展の最終日の今日、博物館の隣の理学部2号館で開かれた公開シンポジウム「ヒトの社会と愛~ラミダス猿人化石からわかること~」に行ってきました(もちろんアルディの全身化石骨(レプリカ)も見てきました)。シンポジウムの会場は定員200人ほどの講堂なのですが、立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。最初に、東京大学総合研究博物館の諏訪元教授による講演「ラミダス猿人化石の全容」が行われました。昨年サイエンス誌に発表された440万年前のアルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人)の研究成果についてわかりやすく解説していただきました。ラミダス猿人というのは、アウストラロピテクスよりも前の段階の猿人でアウストラロピテクスとは明確に異なる段階であることが明らかにされました。アウストラロピテクスが既に直立二足歩行に特化した足を持っていたのに対し、ラミダス猿人は足の第一指が完全に開くなど、樹上性も併せ持っていました。一方、ラミダス猿人は男女差が小さいなど、人類としての特徴を既に備えていました。また、ラミダス猿人はチンパンジーなどに見られる懸垂運動やナックル歩行をしなかったと考えられることから、こうした特徴はチンパンジーなどに特殊化したものであり、ヒトとチンパンジーの共通祖先にはなかったものであることもわかったそうです。こうした成果は、「アルディ」というニックネームを持つラミダス猿人の全身化石骨の発見によってもたらされたものです。諏訪先生の講演の後、3人の人類学者によるコメントがありました。馬場悠男・国立科学博物館名誉館員からは、後半の講演につながるような話題として、男女愛の起源に関する解説などがありました。山極寿一・京都大学理学研究科教授からは、霊長類の社会型の比較から、ヒトのような一夫一婦社会では男女差が小さくなるというお話などがありました。中務真人・京都大学理学研究科教授からは、諏訪先生のお話にもあった、人類が懸垂運動を経由せずに進化したことに関する補足説明などがありました。後半では、総合研究大学院大学の長谷川眞理子教授により「ヒトにおける性差:生物学と文化の交差点」という講演が行われました。長谷川先生によれば、配偶システムと子育てシステムは切り離して考える必要があるとのことでした。「愛」と言っても、男女の愛もあれば親子の愛、あるいは社会的コミュニティ内での愛もあるわけで、それぞれ違ったメカニズムが働いているようです。http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/113-s-2-4.pdfところで総合研究博物館では、「ヒマラヤ・ホットスポット――東京大学ヒマラヤ植物調査50周年」が開催中でした。セイタカダイオウの模型やヒマラヤの多種多様な植物の標本など、見たこともないような植物が満載の展示でした。
2011.02.06
文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」が主催する「脳プロ第3回公開シンポジウム―未来を拓く脳科学研究」に行ってきました。シンポジウムと体験・ポスターコーナーが開催されていたのですが、時間の都合でシンポジウムのみ参加しました。また、シンポジウムは講演3までしか聴くことができませんでした。シンポジウムと言っても実際には講演会で、最初に基調講演「未来を拓く脳科学研究」と題して、津本忠治プログラムディレクターから、脳科学の発展の経緯と脳プロの概要について説明がありました。次に、各分野の研究成果に関する講演が行われました。講演1「BMIが拓くリハビリテーションの新たな可能性」では、慶應義塾大学医学部の里宇明元教授により、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の技術を活用したリハビリテーションに関する研究成果が紹介されました。BMIというと、私は脳のイメージ(脳波)を使ってコンピュータや機械を動かすという応用が思い浮かびますが、それだけでなく、検出した脳波を電動装具にフィードバックすることにより、麻痺した筋肉の回復が得られる可能性も示唆されているとのことです。講演2「神経回路をひも解く技術革命」では、自然科学研究機構生理学研究所の伊佐正教授により、遺伝子改改変の技術を脳の神経回路をつくる特定のニューロンに応用することにより、脳と運動機能の関係を突き止めようとする研究について紹介されました。分子生物学の進歩により脳科学にも多大な影響を与えつつあることが実感できました。講演3「心のふれあいと脳科学」では、自然科学研究機構生理学研究所の定藤規弘教授により、機能的MRIにより社会能力の発達過程を解明する試みについて紹介されました。人間はなぜ報酬が得られなくても利他的行為を行うのでしょうか?その理由は社会的承認、すなわち褒めであると考えられています。こうした仮説を機能的MRIにより明らかにすることを試みているそうです。脳科学と人文科学をつなぐ大変興味深い試みだと思いました。このシンポジウムは一般向けとされており、体験・ポスターコーナーでは高校生サイエンスコミュニケーターが解説していたそうです。しかし講演の方はややレベル高めだったかな、と思いました。http://www.srpbs03sympo.com/
2011.02.05
凸版印刷株式会社に併設されている「印刷博物館」の常設スペースの一部を使ったコレクション展「鯰絵の世界」を見に行ってきました。鯰絵というと、地震を起こすと言われた鯰を要石(後で説明します)と呼ばれる石で鎮める絵が思い浮かびますが、この展示を見て実はいろいろなバリエーションがあることが分かりました。そもそも鯰絵とは、幕末の1855年(安政2)年に江戸を襲った安政江戸地震の直後に大量発行された、鯰をモチーフとした多色摺り木版画のことです。幕府に無許可で発行され、わずか2か月で幕府により発行禁止となってしまいますが、その間に江戸市中で飛ぶように売れたと言われています。鯰絵にはいろいろな種類があります。最初、鯰は地震を起こした犯人として、江戸市民から憎まれ、鹿島大明神により懲らしめられる対象として描かれました。ちなみに鹿島大明神というのは茨城県にある鹿島神宮の御祭神で、鹿島神宮の境内には要石といって、地震を起こす鯰を押さえつけるという大きな石があります。やがて鯰には別の役割が与えられます。それは世直しです。当時高まっていた社会不安を地震によって一掃して欲しいという江戸市民の気持ちが鯰に託されたものと思われます。鯰が被災者を助けたり治療したりしている絵も見られます。また、地震によって儲けた人を風刺する絵も現れました。大工などの建築関係の職人は地震によって儲けたとされ、地震を起こしてくれた鯰を接待するなどという、ある種不謹慎な絵も登場しました。このように、鯰絵からは当時の人々が地震をどのように見ていたかを窺い知ることができます。http://www.printing-museum.org/exhibition/permanent/110118/index.html
2011.01.22

私がこれまでに参加したことのあるサイエンスカフェの中で、無料のものとしては最高評価のサイエンスカフェでした。「サイエンスカフェ in 上北沢」という名前からすると、一見何気なく街角でやっていそうな小さなサイエンスカフェのように思えますが、行ってみるとかなり大規模(たぶん50人くらい)。天井の高い講堂の中にテーブルが8つと大型スクリーンが配置され、コーヒーは「ブリュースター」という本格的なもの。各テーブルにはお菓子もたくさん用意されています。開始前にはピアノの生演奏があるなど、カフェというよりパーティーのような華やかな雰囲気。しかもお土産(絵葉書4枚セット)つき。かわいいネズミさんたちの葉書には「Le caf? scientifique de Kamikitazawa」の文字が。お洒落ですね。このサイエンスカフェは東京都臨床医学総合研究所の主催で、今回が第6回。今日の話題提供者(講師とは呼んでいませんね)は田中啓二所長代行です。実は、昨年三省堂で行われたサイエンスカフェで同じ研究所の反町洋之参事研究員がお話しされ、その時も話題になった先生。私はこの分野にあまり詳しくないのですが、毎年ノーベル賞の季節になると必ず名前が出てくる先生だそうです。これはかなり期待度が高いです。今回のタイトルは「細胞内リサイクルシステム:長く健康に生きるヒント」ということでしたが、先生のご専門の話だけがされたわけではありません。よくあるサイエンスカフェのパターンは、前半で講師の専門の話があり、後半でそれに対する質疑応答というものですが、今回はすべての人を飽きさせない工夫がいろいろと仕掛けられていました。話の流れは、科学にあまり馴染みのない方も置いていかれたりしないよう、まず新陳代謝のことや体の中のタンパク質についてのごく基本的なことから入っていきます。それもただ話すだけでなく、時々はさまれるクイズ(景品あり)がほどよいアクセントとなって参加者を飽きさせません。しかもクイズの答えが話の中にある場合があるということなので、皆さん真剣に耳を傾けます。クイズに正解するたびに、生命科学系でお馴染みのマイクロチューブがもらえます(私は物理系出身なのであまり馴染みがありません)。これをたくさん集めた人には、最後に別の景品があります。私は10問中5問正解でした。並べてみるとカラフルできれいですね。参加者を飽きさせない工夫はクイズだけではありません。タンパク質の話題ということで蛍光タンパク質(GFPやRFP)の分離実験が各テーブルで行われました。GFPといえば2008年ノーベル化学賞受賞者の下村先生がオワンクラゲから分離したことでも有名ですね。今回の実験では大腸菌の体内に遺伝子を導入して作らせた蛍光タンパク質を分離します。大腸菌のタンパク質が混ざった溶液から、ニッケルに選択的に結合するタグを利用して蛍光タンパク質だけを分離するのです。実験をやると、研究者がふだんどんなことをしているのかということが一般の方にも実感できます。また、実験の過程や結果をめぐって、テーブル内の研究者と参加者、あるいは参加者どうしの間に自然と会話が生まれるという効果もありました。後半では今回のメインテーマであるタンパク質のリサイクルシステム、特にユビキチン・プロテアソームとオートファジーの話になります。中でもユビキチン・プロテアソームは田中先生が発見されたものなので、当然話に力が入ります。プロテアソームがうまく機能しないと癌になることもあるそうです。また、オートファジーというのは自食作用とも言って、飢餓のときに自分のタンパク質を分解してエネルギーを獲得したり、細胞内のゴミを浄化したりするはたらきがあるそうです。最後は寿命に関する話で、フリーラジカルが寿命を縮めること、それを防ぐには絶食が有効かもしれないという話で終わりました(個人的には、無理して絶食するよりも、おいしいものを食べてストレスを貯めない方がいいような気もしますが、どっちにしても科学的証明は難しそうですね)。さて、クイズで10問正解した方はおらず、9~8問正解した方には今回の実験で分離した蛍光タンパク質がプレゼントされました。ちなみに使い道は「飾って眺める」だそうです(大爆笑)。7問正解した方にはヒトゲノムマップ(一家に1枚シリーズのあれ)がプレゼントされました(ちなみにWeb版はこちら)。司会の院生の方は、あまり慣れていない感じがかえって初々しく、親しみが持てて良かったです。流暢な人が常にコミュニケーション上手とは限りません。田中先生について言えば、あまりにも話が面白くて「ファシリテーターいらず」ですね。ピアノ演奏の正井先生も含め、皆さん一般市民の「研究者」のイメージを覆すような方々だったのではないかと思います。http://www.rinshoken.or.jp/event/scafe110116.html
2011.01.16
1月9日に以下の報道があり、それに対するTwitterでの議論が興味深かったのでまとめてみました。地中断層撮影:「ミュー粒子」使う方法に成功 東大地震研(毎日jp)Togetter - ミュー粒子による断層撮影に関する報道について地震研の田中准教授のグループは、これまでも宇宙線を使った火山内部構造の観測で成果を上げてきており、最近注目されています。今回は、論文あるいはプレスリリースがまだ出ていないようですので、研究内容自体へのコメントは差し控えておきますが、このニュースに対して物理学者と地質学者の双方から反応があったことが面白いと思いました。論点としては、どこまで精度があるのか、精度があったとして直ちに断層と断定できるものなのか、経費のかかるトレンチ調査の代替(あるいは外してしまうことに対するリスク回避)となり得るものなのかといった話がありました。さて、今回見つかったとされる未知の断層、果たして本物なのでしょうか?今後の展開を見守りたいと思います。
2011.01.10
東京大学医科学研究所主催第4回サイエンスアート企画展「OFFICE BACTERIA 宇宙」のアーティストトークを聴きに行ってきました。OFFICE BACTERIAは、油絵家の池平徹兵さん、アクセサリー作家のブリアンデ カナエさん、生物学者のブリアンデ ロマンさんからなるアーティスト集団だそうです。会場には、色とりどりの生物、特にバクテリアをテーマにした絵やアクセサリーが展示されていました。バクテリアというと気持ち悪そうですが、こうして色がつけられるときれいに見えるから不思議です。クラゲから取れることでも知られる蛍光性タンパク質を使って発光させたバクテリアの顕微鏡写真を見て製作されているそうです。トークには途中から医科学研究所の大学院生の方も参加され、研究者からの視点とアーティストからの視点について話が盛り上がりました。同じものを見ているのに、研究者とアーティストではまるで別のことを考えているから面白いものです。でも、好きなことに打ち込む姿は同じかもしれません。医科学研究所での展示は1月30日まで開催されているので、まだ見ていない方はご覧になってはいかがでしょうか。また、1月15日には渋谷のギャラリーコンシールでもアーティストトークがあるそうです(詳しくはこちら)。ところで、会場の医科学研究所近代医科学記念館の常設展示スペースにはカフェスペースが同居していて、何だかとても不思議な雰囲気を漂わせています。http://www.pubpoli-imsut.jp/news/?DO_SEARCH=true&cat_id=006#anc00033
2011.01.09
独立行政法人海洋研究開発機構/神奈川県立生命の星・地球博物館 共催セミナー「豊かな海、豊かな生物相:日本の海の生物を科学する」-映画「オーシャンズ」の上映と海洋生物研究-に行ってきました。前半は2名の講師による講演が行われ、後半は映画「オーシャンズ」の上映が行われました。最初の講演「浅い海には未知がいっぱい-沿岸魚類にみる生物多様性」の講師は神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能宏学芸員でした。瀬能学芸員は、相模湾などの沿岸魚類について研究されている方です。昨年末話題になった「クニマス」報道の新聞解説などもされていたそうです。魚類の種の多様性、形態や生態の多様性について、たくさんの個性的な魚たちを例にやさしく解説してくださいました。最近、相模湾でも黒潮に乗ってきた熱帯性の魚が見つかるようになってきたそうです。次の講演「深海:生物多様性のゆりかご」の講師は独立行政法人海洋研究開発機構の北里洋領域長でした。北里領域長は深海に棲む有孔虫などの微生物について研究されています。元々は古生物学の先生なのですが、現在生きている生物も使って地球の歴史を研究されているそうです。今回の講演では、小さなオスが大きなメスに寄生するチョウチンアンコウや、目が極端に退化して小さく口が極端に大きなフウセンウナギなど、深海の個性的な生き物たちを紹介してくださいました。後半は映画「オーシャンズ」の上映でした。昨年大変話題になった映画ですが、私はまだ観ていませんでした。大変良い映画だと思います。前半は海の生物の生き生きとした様子がダイナミックに捉えられています。後半は人間による乱獲の話や海洋汚染、地球温暖化の話になっていきます。子供たちにはちょっとショッキングな映像だったかもしれません。司会の方が、上映前にその部分については本物の魚でなくCGやロボットを使ったものだと説明されていました。技術的には、荒れ狂う海で、画面(カメラ)がずっと水平に保たれているのが不思議でした。船上から撮影したとすれば、必ず船も動揺しているはずです。何か特殊な技術が使われているのでしょうか。セミナー終了後、会場でパネルやプラスティネーション(生物組織を樹脂に置き換えた標本)を使ったミニ解説会が行われました。生物の画像を見せるためにiPadが使われていたのがイマドキだなぁと思いました(主催者側で何台か用意したものです)。http://nh.kanagawa-museum.jp/event/kouza/jamstec/20110108_seminar.html
2011.01.08

2010年12月28日に伊豆大島に行ってきました。伊豆大島は2010年9月に日本ジオパークに認定されたばかりです(詳しくはこちら)。当日は午後から雨も予想されていましたが、幸いにも晴れてくれました。ただ風は強く、波も高いので入出港は岡田(おかた)港となりました。伊豆大島は当日の天候により入出港が元町港(島の西側で中心街に近い)か岡田港(島の北側)のどちらかになります。冬期はほとんど岡田港のようですね。8時40分東京・竹芝桟橋発のジェット船に乗りました。ジェット船は航空機メーカーが製造したもので、ジェットエンジンで海水を吹き出し浮力を得て走るものだそうです。乗船中はシートベルト着用と、まるで飛行機に乗った気分です。10時25分に岡田港に到着しました。岡田港の周囲には崖がそそり立ち、天然の良港と言われているそうです。写真は帰りに「港が見える丘」という場所から撮影した岡田港です。岡田港で10時35分発のバスに乗車しました。このバスは元町港を経由して、島の南岸を回って波浮港方面へ向かいます。岡田港から島を一周する道路へ出るまでは急カーブの細い道が続きます。一周道路をしばらく走り島の西岸に出ると、対岸に伊豆半島と美しい富士山が見え、とても感動しました。写真を撮れなかったのが残念です。11時15分にバスを降りました。バス停の名前はなんと「地層切断面」です。ここには約1万5千年前からの噴火による火山砕屑物が堆積した地層が道路沿いに延々と露出しています。地元では「バウムクーヘン」と呼ばれているそうです。下の写真はトラックがスケール代わりです。近くで見ると、黒っぽい層と白っぽい層が繰り返している様子が分かります。黒っぽい層はスコリア、白っぽい層は火山灰や風化火山灰、あるいは腐食土で、これらが火山活動の1周期を表しています。下の写真の地層は真ん中の高さあたりで下の層が上の層に切られたようになっています。これを不整合と言います。上の層は一見すると褶曲のようにも見えますが、この不整合からも分かるように、元々の起伏に沿って堆積したということです。下に説明板があります。読んでみましょう。ところで、ここから海に目を向けると、伊豆諸島の島々が良く見えます。写真に写っている三角の島は利島です。他に新島なども見えました。天気が良ければ三宅島も見えるようですが、今回は見えませんでした。道端では椿が咲き始めていました。伊豆大島は椿の島です。ピークはもう少し先ですが。12時17分のバスに乗って、元町方面へ戻りました。途中、「火山博物館前」で下車しました。もちろん、伊豆大島火山博物館に行くためです。まるで古代ギリシャかローマの神殿のような建物です。博物館の前には溶岩樹形や、火山弾が置かれています。博物館に入ると、まず1階には防災展示室があります。1986年の噴火の際の全島避難の様子や、火山観測の機器などが展示されており、火山の恐ろしさや伊豆大島が生きた火山であることを実感することができます。2階に上がると火山展示室があり、伊豆大島はもちろん、日本や世界各地の様々な火山について知ることができます。またシミュレータ・カプセルというものがあり、地底探検の気分を味わうこともできます。全体的に展示物が古い印象はありますが、火山の基礎知識を得るには十分すぎるほどの情報量はあると思います。博物館の駐車場では、伊豆大島の現在のカルデラが形成された約1500年前の岩屑なだれの堆積物を見ることができます。リュック(高さ約55cm)はスケール代わりです。ここから歩いて元町港まで戻りました。写真の黒くて細長い岬は「長根」と呼ばれ、1338年(注:伊豆大島ジオサイトガイドでは年に「?」が付けられています)の噴火の際の溶岩流と言われています。溶岩流が固結したものは固いので、周囲が侵食されて今のような形になったそうです。14時05分に元町港で岡田港方面のバスに乗り、岡田港の手前の「さくら小学校入口」で下車しました。ここの近くの沢立(さったち)というところはタフリングと言って、火山灰が火口の周辺に堆積して浅い皿のような地形になった場所です。ここではその中央の平坦地が墓地になっています。周辺の山がこの地を中心にして皿状に湾曲している様子が分かるでしょうか?ここからは歩いて岡田港まで戻りました。15時20分発のジェット船に乗って、16時05分に熱海港に着きました。ジェット船のおかげで、伊豆大島は東京から大変近い島になったと実感しました。船はネット予約するとかなり安くなります。島内の移動手段としては、レンタカーで回るとスケジュールが立てやすくなるとは思いますが、狭い道も多いので初めての方はバスを活用した方が良いでしょう。バスもそこそこ本数はあります。認定から間もないということもあるでしょうが、まだジオパーク関連の案内看板などはほとんどないようです。今後に期待したいと思います。今回は風が強かったこともあって海岸沿いを中心に回りましたが、次回はぜひ三原山に登ってみたいと思います。
2011.01.03
あけましておめでとうございます。さて、このブログ「サイエンスをコミュニケーションする」を立ち上げてから約2年が経ちましたが、この度タイトルを変えることにしました。新しいタイトルは「サイエンスはいかがですか?」です。タイトルを変える理由は次のとおりです。まず、ブログを立ち上げた当初、私はサイエンスコミュニケーションという言葉を世間(特に科学コミュニティ)に広めたいと願い、このような大上段に振りかぶったタイトルをつけてしまいました。しかし、最近の科学コミュニティを取り巻く環境の変化により、この言葉はかなり(科学コミュニティで)市民権を得つつあるのではないか、もうタイトルとしてあえて強調する必要性はないのではないか、と思うようになりました。環境の変化としては、例えば全国各地でのサイエンスカフェの開催、ポスドク問題や事業仕分け、いくつかの大学等におけるコミュニケーター養成プログラムなどにより、科学者がサイエンスコミュニケーションに関心を持つようになったことが挙げられます。それから、実は私自身がそれほど恒久的にサイエンスコミュニケーションに関われていないにもかかわらず、このようなタイトルを掲げておくことを心苦しく感じていました。私は元々地球科学関係の仕事をしていますが、研究者ではなく、現在たまたまその中でも広報関係の仕事をさせていただくこともありますが、部署が変わってしまえばサイエンスコミュニケーションとの関わりも薄れてしまうこともあるのです。タイトルを変えるにあたって、最初に思いついたのが「科学ソムリエ」という言葉を入れようというものでした。科学を伝える人には、コミュニケーター、インタープリターなど、いろいろな呼び名がありますが、ソムリエというのも悪くないんじゃないかと。料理やお客さんに合わせてワインを選ぶソムリエのように、相手の立場や興味、タイミングなどに合わせて科学の話題を提供できる人になりたいのです。しかし、すでに「星のソムリエ」というものがあると知り、タイトルに入れるのはやめました。それで結局、「サイエンスはいかがですか?」という、やや平凡なタイトルに落ち着きました。世間の片隅でちまちまと綴るブログのタイトルとしてはふさわしいのかな、と思います。また、これを機にブログの方針も改めたいと思います。まず、常体から敬体に変更します。今までは日記(記録)的な使い方だったので常体でしたが、今後は「伝えること」を意識して敬体で書きたいと思います。それから、今まではサイエンスカフェなどの科学イベントの感想と最新の科学論文の紹介に内容を絞っていましたが、今後は科学を中心に幅広い話題について書きたいと思います。というわけで、今年もよろしくお願いします。
2011.01.01
12月10日から13日まで東京・池袋のサンシャインシティ文化会館で開催されている東京ミネラルショーに行ってきた。東京ミネラルショーは、国内や海外のディーラーが出店する鉱物や化石の展示即売会で、毎年12月に開催されていて今年で19回目になる。東京ではミネラルフェアという同類のイベントもあるが、こちらは毎年6月に開催されている。歴史はミネラルフェアの方が古いが、ディーラー数はミネラルショーの方が多く、会場も広くて見やすい。ディーラー数の増加に合わせて、会場もだんだん拡張されてきているようだ。私は基本的に海外ディーラーを中心に見て回ることにしている。国産標本を買っても、標本は国内を移動するだけだが、海外標本を買えば実質的に輸入したことになり、大げさな言い方をすれば日本としての標本総量が増えたことになる。それに国産標本は博物館などでも見る機会があるのに対し、海外標本の中にはめったに見られないようなものも時々あるので。今回はブラジル産のファントム(山入り)水晶とラオス産のジルコンを購入した。ファントムとは幽霊という意味で、水晶が一旦結晶成長を止めた後、再びその上に重なるように結晶成長したもので、あたかも中に幽霊のように入っているように見えることからそう呼ばれている。今回買ったものは三つの山が入っていた。一方、ジルコンはジルコニウムという元素を含むケイ酸塩鉱物で、世界中でわりと普通に見られる鉱物だが、結晶の大きいものは宝石にもなり、ダイヤモンドの偽物として売られることもあるらしい。ジルコニウムの一部がウランと入れ替わっていることがあり、このウランを利用して岩石の年代を測定するのによく使われている。今回はラオス産の鉱物を見かけるのが珍しかったので買った(ただしディーラーはアメリカの店)。最近は以前では見かけなかったような国(例えばタジキスタンとか)からの標本も増えてきて、見ていて楽しい。特別企画展示「メッセルの化石コレクション」では、原始的なウマの化石など、保存状態の良い化石が多く展示されていた。何も買わなくても、ただ見て回るだけでも十分面白い。入場料は博物館の企画展などと比べてもそんなに高くないと思う。http://www.tokyomineralshow.com/
2010.12.11
半年に1回開かれる東大農学部の公開セミナーに行ってきた。今回は「生物多様性」というタイムリーなテーマのためか、定員300人の会場は大入り満員。会場の一条ホールは木材をふんだんに使用したぬくもり感あふれる建物だが、それに加えて希望者には座布団というサービスも行われていた。最初に、生圏システム学専攻の鷲谷いづみ教授が「深まる生物多様性の危機」という題名で、生物多様性に関する評価文書(GBO3とJBO)の概略を紹介された。GBO3というのはCOP10に先立ち条約事務局によって公表された文書で、2010年までに達成すべきとされた21の目標について、地球規模では達成することができなかったと結論している。しかしながら、目標達成に向けて何が必要で何が効果的かといった知見を得ることはできた。そしてCOP10では2020年までに達成すべき20の目標からなる「愛知ターゲット」が採択された。これは他の国際会議のフレームワークと同様に先進国と発展途上国の意見が対立した結果としての妥協案ではあったが、経済的な観点もあってマスコミにより大きく取り上げられた遺伝子資源に関する「名古屋議定書」よりもCOP10においては主要な位置付けを持つものである(と鷲谷教授はおっしゃっていた)。また、JBOは生物多様性ホットスポットの1つである日本の生物多様性への影響要因と状態を評価したものであり、それによれば要因としては開発・改変の影響が最も大きく、それに加えて里山の縮小や外来種の影響が拡大しつつあるという。鷲谷教授によれば地球の生物多様性の損失は臨界点に近づきつつあるとのことであった。次に、水圏生物科学専攻の古谷研教授が、「海の恵みを支える生物多様性」という題名で、海洋生態系についてお話しされた。農耕の発達した陸上と比較して、人類が海洋資源を主に漁獲という手法で利用しているのは、海洋で有機物を生産する植物プランクトンの更新力の大きさのためである。海洋生態系における物質循環は大変多くの構成者からなる強靭なネットワークを作っており、環境変動に対して安定な系を維持しているのである。しかし、人間活動の影響により、海洋でも肥料用窒素の流入による富栄養化や漁業資源の乱獲、外来種の持ち込みや海洋酸性化など、生物多様性が脅かされつつあるという(が、陸上に比べて実態はよく分かっていない)。愛知ターゲットでは沿岸及び海洋の10%を海洋保護区に、ということが謳われているものの、実はこれらの用語の定義はあいまいにされたままだという。それも先進国と発展途上国の意見対立のためとのことであった。最後に、森林科学専攻の寳月岱造教授による「森林の地面の下の多様性」というお話があった。森林の安定な保全という立場から、林床の下での樹木と菌根菌との共生による物質やエネルギーのやりとりの重要性を強調された(なんと樹木の有機物の1~2割が菌根菌に渡されているとのこと)。例えば富士山の荒地の植生で菌根菌が樹木の成長を助けていることや、樹木の種多様性と菌根菌の種多様性に相関があることが紹介された。最後に、寳月教授の森林学の立場からの生物多様性に関する考えが述べられた。森林を安定に保全するためには、種多様性以外にも、種の機能の多様性や環境の多様性への適応といった要素も重要ではないか、生物多様性以外の、より具体的な新たな指標を設定すべきではないか、と問題提起されていた。生物多様性に関しては、地球温暖化などとは違って単一の指標がなく人によって考え方、向き合い方もまさに「多様」。「多様性は大事だよね」という一般論に反対する人はいないだろうが、何をどれだけ、どうやって守るべきかという具体論になると立場は人それぞれ、国それぞれ。とりあえずCOP10議長国としては、少なくとも「愛知ターゲット」には率先して取り組むべきだろうけど。http://www.a.u-tokyo.ac.jp/seminar/seminar39.html
2010.11.27
21日の午前は、聴きたい講演がいろいろとあって迷ったのだが、結局「大型研究予算のあり方 ~ 市民・科学者の関与を考える」を聴きに行った。大型研究予算がどうやって決まっているのか今までもやもやしていたからである。昨年、事業仕分けで取り上げられるまでは、巨額の予算が投入されているにもかかわらず、一般市民はそれほど関心はなかったのではないだろうか。開会挨拶では、日本学術会議の金澤一郎会長が今までの大型研究予算が不透明なプロセス(政治家の関与を含む)で決まってきたことを強調し、これからは透明性の高いプロセスで決めていきたいというお話をされた。基調講演では、日本学術会議 科学者委員会 学術の大型研究計画検討分科会 委員長の岩澤康裕先生から、日本学術会議での検討状況について説明があった。これまで大型施設を使った研究が行われてきた分野(主に物理、エネルギー、宇宙、地球など)に加え、近年個別研究の枠を超えた大規模研究がおこなわれるようになってきた人文・社会分野や生命・環境分野について、トップダウンとボトムアップの区別なく研究者コミュニティ自身でヒアリングし、マスタープランに載せるプログラムをピックアップしてきたということである。これまでは研究者自身がどのように大型研究予算が決まるのかを知らなかったというのである。次のパネル討論では、市民の立場の方も加わっての議論となった。 パネリスト 岩澤康裕(電気通信大学教授、日本化学会会長) 川本裕子(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授) 倉持隆雄(文部科学省研究振興局長) 永宮正治(J-PARCセンター長、日本物理学会会長) 司会 保坂直紀(読売新聞社 科学部次長)議論は最後まで収束しなかった。そもそも研究者も今まであまり関与できなかった予算決定プロセスにようやく学術会議が加わるようになったばかりの現時点で、市民の視点も議論に加えるというのは、もちろん正しいことではあるのだが、やや性急ではないかという印象を持った。こういう討論が行われたこと自体は大変良いことだが、もう少し論点を整理してから討論した方が良かっただろう。また、市民の立場から「巨額の研究予算に対して経済や生活にどう役立つのか説明すべきではないか」という問題提起があり、これに対して研究者側から「科学は文化でありすぐ役立つものばかりではない」というような答えがあった。もちろん「科学を文化に」というスローガンのもとに活動している方々もいるし、それはそれで良いのだけれど、こういう文脈で安易に使っていい言葉なのだろうか。なんか、そこで思考停止してしまっていないだろうか。私は科学は「文化」以上の「何か」だと思う。その「何か」を具体例を挙げて説明すべきではないだろうか。例えば、宇宙を支配する物理法則を調べて何になるのかと問われたら、それは実は素粒子スケールの物理法則の解明にも関係することで、素粒子を理解することは物質の性質を理解することにつながり、産業や生活の役に立つ物質・材料の開発につながるかもしれないのである。もちろんこれらはすべて研究者から見れば取るに足りない「かもしれない」レベルの話でしかないだろうが、そういう説明でも、「文化」というだけでそれ以上何も説明しないよりは納得してくれる市民は案外いるような気がするのである。最後に、サイエンスアゴラ全体について、もう少しだけ要望を。サイエンスアゴラも回数を重ね、議論されている話の中には前にも聴いたことのあるような話が多くなってきた。何というか、「内側の人」だけで話していないだろうか。「外側の人」を呼ぶ場合でも、あまりにも畑違いの人はそもそも議論が成立しないから呼んでもあまり意味がなく、結局「多少仲良しの外の人」くらいしか呼べないのではないだろうか。それならいっそのこと、海外の人を呼んではどうだろうか。日本人同士で話していては出てこないような、思わぬ話が出てくるかもしれない。後援を見るとブリティッシュ・カウンシルが入っているのに、そういうイベントがないなあと思ったのでちょっと書いてみた次第である。http://www.scienceagora.org/scienceagora/agora2010/index.html
2010.11.21
サイエンスアゴラももう5回目を数える恒例イベントとなった。私は3回目から毎年行っているが、今年は期間、場所とも少し規模が縮小されていた。昨年は4日間だったが、今年は3日間。しかも1日目は午後の開幕シンポジウムのみだったので、実質的には土日の2日間だ。私は土曜の終日と日曜の午前だけ見に行った。会場は昨年と同じ東京国際交流館、日本科学未来館、産総研臨海副都心センターの3つだが、未来館はジオコスモスのあるシンボル展示ゾーンが改修中で使えないため、昨年より会場面積は減っていた。それに伴ってか、展示ブースの数も昨年より少なく感じた。特に企業ブースがほとんど見当たらなかったのが印象的だった。不況の影響だろうか。予算も縮小されているのだろうか。客足も、日曜日はそれなりにあったものの、土曜日はそう多くは感じなかった。昨年は4日間に薄まって少なかったのかと思っていたが、実質2日間になった今年もそんなに変わっていないように見える。ちなみに、朝10時に未来館の入り口に行列ができていたのは、サイエンスアゴラではなくドームシアターか何かの整理券の列だったようだ。サイエンスアゴラは最近事前予約制のイベントが増えてきているような気がするが、こうした言わば「通りがかり」の人が飛び入り参加できる企画をもっと増やす、というか復活させるべきではないだろうか。今年のプログラムは時間ごとに分けられていてとても使いやすいが、唯一の難点は事前予約制かどうかが分からないことだ。行ってみて「事前予約制です」と門前払いされたのでは悲しい。ただ、私が事前予約して参加したイベントに限って言えば、どれも会場の席にはかなり余裕があったけど。去年までは行くと毎日かわいいバッジがもらえたのだが、今年はちょっと味気ない首下げカードで、2日連続で使うものだった。このカードは1日毎に一部を切り離して回収箱に入れる仕組みになっており、参加者の属性や同じ人が連続してきたかどうかといった情報も集めることができるようになっていた。今回良かった点は、食べ物の移動販売車が営業していたことである。これは食べ物の調達場所の少ないこの地区では大好評だったようで、昼時には行列ができた車もあった。グライダーや太陽観測といった屋外企画の存在もアゴラらしくて良かったと思う。20日の午前中は「サイエンス・プレゼンテーションコンテスト」の「語り部門」を見た。このコンテストを見るのは今回が初めてで、とても楽しみにしていたのだ。ゲスト審査員にはサイエンスコミュニケーション界のスーパースター、IPMU機構長の村山先生も入っておられた。6人の出場者と2人のゲストによるプレゼンが行われた。スライドは使われなかったが(たぶんそういうルールなのだろう)、紙や小道具などを使っている人もいた。どのプレゼンも大変素晴らしかったが、中でも優勝した方のプレゼンには、内容以外にいろいろと参考になる要素があった。内容は、宇宙において地球型惑星の存在が奇跡かどうかという話だった。風船を太陽、地球、木星に見立て、太陽系外で見つかっている惑星のほとんどが恒星のすぐ近くを高速で公転する木星型惑星であるということをビジュアル的に大変わかりやすく説明されていた。村山先生もコメントされていたことだが、多くの出場者が既知の科学的知識を紹介しているのに対して、このプレゼンは「現在何がわかっていないのか」を教え、考えさせてくれるものだった点、また、本番中に風船のひもがからまってしまうトラブルに見舞われたが、その最中にも地球について説明を続けるといったスキルは大変素晴らしかった。2人のゲストは英語のプレゼンを行った。日本語と違う点は、英語ということで、質問を交え観客の理解度を測りながら話していたところだった。出場者の方々を見ていて思ったのは、こういうのには個人のキャラクター(スキルだけでなく、外見とか声や話し方など)による向き・不向きもあるのではないか。こういう才能のある人を発掘して育てるのが重要なのは言うまでもないが、それと同時に必ずしも全ての研究者や教育者ができる必要はないのではないか、と。来年は実演部門も見てみたい。20日の午後は、2つの本部企画「本当の科学のハナシ、誰から聞けばいいの?」と「科学の料理の仕方~メディアの仕掛け人が教える科学の特別レシピ」を聴きに行った。前者は、タイトルは「誰から聞けばいいの?」となっているが、実際には「誰がすればいいの?」と言ったところだろうか。すなわち、研究者がサイエンスコミュニケーションをすべきなのかとか、何をどれくらいすればいいのかといった研究者の本音、悩みを語り合うという企画だったのだ。初めに、IPMUの村山先生の基調講演が行われた。村山先生の講演は何度か聴いたことがあるが(本当にいつも素晴らしい)、宇宙や素粒子の話ではなくサイエンスコミュニケーションの話を聴くのは初めてだった。村山先生はアメリカではNSFの要請により議会向けの資料を作成したり、その他にも様々なサイエンスコミュニケーション活動を行ったりしてきたが、NSFが研究者に義務付けている活動というのは、我々が普通考えるサイエンスコミュニケーションよりも広義のものであるらしい。例えば学校の教材を買ってあげるなど、お話をする以外にもいろいろな方法が認められているそうだ。日本でも一部の研究者のアウトリーチが義務付けられることになったが、先に書いたように全ての研究者が一般向けのプレゼンスキルがあるわけではないのだから、いろいろな方法を認めてあげても良いのではないだろうか。また、村山先生のお話で、サイエンスコミュニケーションをする理由はいろいろあるが、結局自分の研究内容を教えたいという素朴な気持ちがなければできないという趣旨のことをおっしゃっていたのが強く心に残った。次に、サイエンスコミュニケーションへの関わりの深い研究者や研究機関の広報担当者によるパネル討議が行われた。 パネリスト 浅川真澄(産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター 研究チーム長) 大木聖子(東京大学地震研究所広報アウトリーチ室 助教) 大河内直彦(海洋研究開発機構 プログラムディレクター) 岡田小枝子(理化学研究所広報室 主査) 福田公子(首都大学東京理工学研究科生命科学専攻 准教授) モデレーター 室山哲也(NHK解説主幹)パネリストからは、研究が本務なのでサイエンスコミュニケーションをする時間がなかなかとれないとか、そうした中でどれだけサイエンスコミュニケーションに時間を割けば良いのかといった悩みが出された。また、マスコミ相手で伝えたい内容がうまく伝わらず論点がずれてしまったりといった苦労話もあった。結局、この討議で結論らしきものは出なかったと思うが、興味深かったのは、モデレーターの室山さんが板書で図示した研究者と市民の距離の話。特に文系出身のマスコミは市民の近くでお茶を濁すようなことをしていて、なかなか研究者本人に聞きに行こうとしない。研究者の側は研究に忙しく市民の側に行って話をしようとしない。ここにコミュニケーションの断絶があるというのである。なるほどと思った。きっと、その間を埋めるのがサイエンスコミュニケーターなのだろう。ただ、ここで「コミュニケーター」と言うとかなり意味が広い(研究者自身から理科教師、マスコミ、ライターまで、科学に関わるあらゆる人を含む)ので、村上陽一郎先生が言うような「メディエーター」とでもした方が良いのかもしれない。そういう意味で、大木さんや岡田さんのような立場の方が重要になってくるのだろう。ちょっと話はそれるが、大木さんは地震分野という性質上、市民の関心をなんとか引きたいという普通のサイエンスコミュニケーション関係者とは若干異なり、「地震はいつ来るのか」といった、何もしなくても関心は高いがベクトルがちょっと違った市民からの要求に答えなければならないという特殊事情がある。私も現在似たような分野に身を置いているのでこうした事情はよく分かるのだが、サイエンスコミュニケーション関係の議論でこうした話が出るのは割と珍しいのではないか。午後の2番目の「科学の料理の仕方~メディアの仕掛け人が教える科学の特別レシピ」は、今度は研究者の対極側(?)にいるマスメディア関係者によるトークイベント。先程の討議の中で科学者側からマスコミが事実を曲解してしまうといった話もあったが、こちらに出ている方々はマスメディアの中でも科学系コンテンツを作ることを専門としており、ニュース記事を書く記者とは少し立場が異なると考えて良いと思う。 パネリスト 井上智広(NHK 科学・環境番組部専任ディレクター) 菅本裕久(静岡新聞社「静岡かがく特捜隊」担当) 樋江井彰敏 (TBS 飛び出せ!科学くん」担当プロデューサー) 湯本博文(学研 科学創造研究所所長) ファシリテーター 内田麻理香(カソウケン、サイエンスコミュニケーター)どんな特別レシピなのかというと、結果よりも過程を大事にとか、脳を喜ばせるような話にといったことだった。なぜそうなるのか、どうしたらこうなるのかといった疑問を追いかけていく過程そのものを見せる、追体験させるということが大事なのだそうだ。また、先の話とも通じるが、専門家とのコミュニケーションを大事にすることも必要とのこと。もちろん言うほど簡単にできるわけではなく、いろいろな失敗や苦労もそれぞれされているようである。会場では実際にそれぞれの方が作られた番組や新聞、教材の実演もあり、実際楽しかった。百聞は一見に如かずである。また、サイエンスコミュニケーターとして大変有名な内田さんであるが、今回は完全に進行役に徹しておられ、パネリストの話を引き出すファシリテーターとしても大変有能な方だということがよく分かった。(つづく)
2010.11.20
日本科学未来館で開催中の「ヴィジュアル・ヴォルテージ - スウェーデンのデザインとアートの視点」を見に行ってきた。スウェーデンのインタラクティブ・インスティテュートと文化交流協会が主催する企画で、スウェーデンのアーティストやデザイナーが、電気を見える形にしたアート作品展だ。「光る電気コード」は、電気が流れると光り、消費電力が増えると光り方が変化する。「電力時計」は、24時間の時計の上にその時間に消費した電力が光の筋で生じされる。色は3段階になっており、昨日と一昨日の使用量と比較できるようになっている。実際にこれを使用した家庭では、電気の消費量が減ったそうだ。「フラワーランプ」は、家庭内の消費電力が増えると閉じて暗くなるというランプ。このランプを明るく灯しておくには、家庭内で省エネをしなければならないということだ。これらはすべて、普段何気なく使っている電気を可視化し、その大切さを教えてくれるものである。他にも面白い作品が多数展示されている。展示会場では、科学コミュニケーターの方に解説していただいた。単に展示を解説するだけでなく、スウェーデンがどういう国かといった背景から丁寧に説明して頂いたので、なぜこの展示が企画されたのかということがとてもよく理解できた。スウェーデンに行ってみたくなった。http://www.miraikan.jst.go.jp/spevent/visualvoltage/
2010.11.14
実際に行ったわけではないが、Ustreamで聴講したので感想をちょっとだけ。家にいながらにしてこういう講演会が聴けるなんて、本当にいい時代になったものだ。「お肌と洗剤とコンニャクと~『やわらかなもの』を科学する」高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授 瀬戸 秀紀お肌のどの層に水分が保持されるのか、濡れた手でもよく落ちるメーク落としの秘密とは、コンニャクはなぜゼリーよりも切れにくいのかなど、固体でも液体でもない「ソフトマター」と呼ばれる物質群の様々な性質を、X線や中性子を使って解き明かす研究が紹介された。巨大な加速器を使ってこのような生活に密着した物質の性質を調べるという、なんとも奇妙な取り合わせで大変面白かった。加速器というと何だか縁遠いように思われがちだが、この講演でとても身近なものに感じられた。「宇宙の4つの謎と素粒子物理」高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授 山内 正則どちらかというとこちらの方が多くの人の持つ加速器研究のイメージに近いか。「消えた反物質」、「質量の起源」、「暗黒物質」、「加速する宇宙膨張」の4つの謎について説明するという大変盛りだくさんな内容だった。これらのうち、KEKに関係するのは「消えた反物質」のみ。どちらかというと、4つの話をする代わりにこの1つに絞って深く掘り下げてほしかった。http://www.kek.jp/koukaikouza/2010/
2010.11.13
情報と物質。考えてみれば理学というものはこの2つに集約されるのかもしれない。今日の講演会はその橋渡し的な研究の紹介だったといえよう。光でON-OFFする物質を創る(大越 慎一 理学系研究科化学専攻 教授)化学のアプローチは、原子レベルから新しい働きをする物質をつくること。有用な物作りを追求する工学と、原理の追求を基本とする理学の境界に位置する分野と言えるかもしれない。今回の講演では、光照射により金属状態と半導体状態の間を行き来する物質や、光により常磁性体と強磁性体の間を行き来する物質など、これまでになかった物質が最近2~3年の間に作られてきたことが紹介された。これらが具体的にどのように役立つのかは今後の話だろうが、これからの展開を期待したい。モデルと本物:化学と生物学の場合(萩谷 昌己 情報理工学系研究科長・理学部情報科学科 教授)二葉亭四迷の文章などを引きながら「モデル」とは何かをわかりやすく解説。更に、モデルにも様々な精度のものがあること、大雑把なモデルでも目的によっては有用なことがあること、既存のモデルを粗くすることを「抽象化」と呼ぶことなどを、電子投票プロトコルやDNAシステムなどにおける「プロセス計算」と呼ばれるモデル化やそれを一般化した「グラフ書き換え系」を例に解説されていた。情報科学は(他の)理学とは多少毛色の異なる分野に見えるが、実は化学や生物学にも同じモデルが応用されており、実はとても密接な関係にあることが理解できた。原子核の新しい顔(大塚 孝治 理学系研究科附属原子核科学研究センター長・物理学専攻 教授)原子核にまつわる様々な話題について、数式や記号を使わず分かりやすく解説して頂いた。ウランや金などの重い原子核は、超新星爆発によるrプロセスと呼ばれる現象によってできると考えられている。このとき安定には存在しないエキゾチック核が短時間のうちに作られては別の核に変化していく。このような過程を調べるためにRIビームという日本が世界に誇る技術が使われているという。原子核と言うともうよく分かっているような気がしていたが、エネルギー問題とも関係が深く、実はまだまだ解くべき謎が多い分野であるということが理解できた。今回は日常から縁遠いと思われがちな理学の中でも、比較的身近に感じられる話題が多かったと思う。また、オンライン中継も定着したようで、内容だけでなく運営面でも大変優れた講演会だと思う。http://www.s.u-tokyo.ac.jp/event/public-lecture18/
2010.11.07
早稲田大学理工学術院の大学祭「理工展」の中で開催されていたサイエンスカフェ。11月6日と7日の2日間に渡って計4回開催されていたが、6日のみ参加した。1回目は生命医科学科の朝日透教授による「キラルサイエンスへの招待」。まず、キラルとは何かをわかりやすく説明。参加者が自分で折り紙を使ってキラルの概念を理解できるように工夫されていた。そして、生物をつくるタンパク質やDNAがキラルであり、大部分その一方のみが使われていることや、サリドマイドの効果と副作用とキラルとの関係についてのホットな話題、更に話は理工学と医学の連携、学生時代のことや若い人に向けたメッセージにまで及び、終始大変熱く語っておられた。2回目は電子光システム学科の川原田洋教授による「炭素ナノテクノロジー」。合成ダイヤモンドを使った効率の良いトランジスタやカーボンナノチューブを使った集積回路、バイオ材料への応用までわかりやすくお話しいただいた。ダイヤモンドはメタンと二酸化炭素から効率よく作ることができる上、現在使われているシリコン半導体を熱伝導率の高いダイヤモンド半導体に将来置き換えれば消費電力を抑え二酸化炭素削減にもつながるという。とても夢のあるお話だった。会場はカフェテリア前のオープンテラスで、通りがかりの人でも気軽に立ち寄れるような雰囲気が良いと思った。また、このサイエンスカフェはレッドブル協賛ということで、参加者は無料でレッドブル(専用冷蔵庫でよく冷やされたもの)を飲むことができた。ただ2回目は日も暮れた夕方でレッドブルにはちょっと寒かったかも…。サイエンスカフェを大学祭で実施しているところはまだそれほど多くはないが、科学ファン以外に裾野を広げるという意味で、大学祭というのは結構良い機会ではないだろうか。これからもっと増えていけば良いと思う。http://www.rikoten.com/kikaku/kouza.html#s2おまけで、理工展の感想を少しだけ。比較的こじんまりとしていて、あまり騒々しくなくアカデミックな雰囲気を大事にしているところが良い。ただ、どこで企画をやっているのかが部外者には若干わかりにくかった。ピーター・フランクル氏講演会も聞いてきたが、これは大変良かった。やや辛口だが楽しかった。数学の問題や大道芸を織り交ぜながら、日本や世界を旅した話、人生を楽しむ話、語学の話、理系離れの話などいろいろな方面に及んだが、中でも日本のガラパゴス化の指摘は心に突き刺さった。思えば最近、日本の若者が海外留学しなくなったと言われている。確かに、わざわざ海外に行かなくても、短期的には日本国内だけで事足りてしまう分野も多いだろうが、長期的に見ると日本にとっては大きな損失だと思う。
2010.11.06
10/29(金)から10/31(日)まで科学技術館で開催された「宙博2010」。休日の土日しか行けなかったが、感じたこと、考えたことを中心に振り返ってみたい。なお、内容そのものは「デイリーポータルZ」でかなり詳しく紹介されているので一読をお勧めしたい。http://portal.nifty.com/2010/11/03/c/私は展示は土曜日の午前中にさっと見ただけで、主にサイエンスホールの講演を聴きに行っていた。ライブステージの方も面白そうだったが、一度講演会場を離れると再入場できなくなる恐れがあったため(事前登録制でないため)、初めからライブステージは諦めてずっとサイエンスホールの方に張り付いていた。日曜日は土曜日以上の混雑で、展示会場に入るための行列が外にできていた。私は展示は土曜日に見ていたので幸い影響は受けなかったが。土曜日が比較的すいていた(とは言ってもかなり混んでいたが)のは台風の影響だろう。展示会場では実際に研究に関わっている科学者や科学コミュニケーターが活躍していた。ただ物を並べるだけでなく、来場者とのコミュニケーションを重視する姿勢には関心させられた。また民間企業(ナノオプト・メディア)が運営していることもあって、国立の科学館などではあまり見られない一種の「やわらかさ」を随所に感じた。ナノオプト・メディアと言えば名古屋で常設のサイエンスカフェを運営しているが、そういうノウハウもおそらく活かされているのだろう。ただ、宙博オフィシャルショップは会場がちょっと手狭で、バーゲンのワゴンみたいなのに商品を入れているのがシャビーな感じがした。科学技術館はテーマ的にはうってつけだが、かなり老朽化して狭いので、会場としてはもっと広い場所の方が良かったと思う。講演について。講演タイトルを宙博オフィシャルサイトから引用する。これら一つ一つだけでも特別講演会として成り立ってしまうような超豪華な顔ぶれ。2日間で3000円(当日券の場合)払っても全く惜しくない。なお、土曜日の午前には山崎宇宙飛行士の講演(事前登録制)もあったようだが参加しなかった。10/30(土)●特別対談「宇宙と生命をめぐる対話/作家&記者」藤崎 慎吾(作家)×大牟田 透(朝日新聞東京本社 科学医療エディター)●宇宙はいかに始まったか? ~インフレーション理論の展開~佐藤 勝彦(自然科学研究機構長)●日本が切り拓く宇宙大航海時代 ~IKAROSが切り拓くソーラーセイル技術~津田 雄一(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 月・惑星探査プログラムグループ 助教)●火星―ウソカラデタマコト宮本 英昭(東京大学総合研究博物館 准教授)10/31(日)●リチウムイオン二次電池の現状と将来展望吉野 彰(旭化成株式会社 新事業本部吉野研究室 旭化成フェロー・吉野研究室室長)●特別対談 「科学とは」益川 敏英(名古屋大学 KMI素粒子宇宙起源研究機構長)杉山 直(名古屋大学教授 / 東京大学数物連携宇宙研究機構 主任研究員)●宇宙に終わりはあるのか村山 斉(東京大学数物連携宇宙研究機構長 特任教授・理学博士)●はやぶさ特集[第1部] 「宙(そら)から空へ ~『はやぶさ』との歩み~」川口 淳一郎(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 月・惑星探査プログラムグループ 教授/はやぶさプロジェクトマネージャ)●はやぶさ特集[第2部] 「『はやぶさ2』が目指す宙(そら)~さらなる挑戦とその可能性~」吉川 真(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 月・惑星探査プログラムグループ 准教授)●特別対談 「宙(そら)からのメッセージ ~天文学と占星術~」渡部 潤一(自然科学研究機構 国立天文台天文情報センター広報室長・アーカイブ室長 総合研究大学院大学数物科学研究科天文科学専攻教授 )鏡 リュウジ(占星術研究家/翻訳家)これだけの豪華講演会だから混雑は必至。現に、村山先生の講演とはやぶさ特集では立ち見ができるほどだった。午前の講演が終わった時点で既に行列ができ始めていたので、私はお昼も食べずにずっと会場にいた。また、土曜日の最初3つは入れ替え制だったが、その後からは入れ替え制でなくなるなど、ルールが分かりにくかった。できれば事前登録制にして欲しかったと思う。講演は質疑があったりなかったりで(講演者の判断に委ねられていたようだ)、マイク回しが追い付かないといった場面も見られた。また、村山先生の講演の直後にサイン会が行われたが、これに参加すると次の講演が聴けなくなってしまうのであきらめざるを得なかった。ちょっとだけ運営面の苦言を述べてしまったが、講演内容そのものは大変素晴らしかった。宇宙の始まりを佐藤先生が語り、宇宙の終わりを村山先生が語った。どちらも難解な話だが大変わかりやすく噛み砕いた内容になっていた。村山先生の話は何度か聞いているが、スムートがマーチングバンドでビッグバンを再現した映像は初めて見た。とても面白かった。宮本先生のアメリカでラジオ放送された「宇宙戦争」などの火星生命の話は、まるで落語のような語りで本当にうまい。話のうまさといえば、益川先生のお話も大変ユーモラスで味のあるものだった。それを引き出す杉山先生も素晴らしかった。超一流の科学者というのは本当に話のうまいものだと思った。話のうまさというのは、単にわかりやすければ良いというものでない。話す人のキャラクターとか経験、興味を引くようなエピソードによる味付けといった要素も必要なのだろう。またその話のうまさを味わうためには、聴く側もそれにアンテナを向けていないといけない。こういう話のうまい人の講演を聴くたびに、自分の聴く力が試されているように思うのである。また、各講演に共通したこととして、みな研究予算の確保を訴えていた。折しも政府では「元気な日本復活特別枠」の審議が行われており、最近までパブコメも行われていたところ。こうした研究者のプレゼンは従来は予算担当の官僚向けに行われていたのだろうが、最近は事業仕分けやパブコメばやりで、世論を味方につける必要性に迫られてきた。宙博のような一般向けのイベントは、まさにこうした世論形成の格好の場。単なる啓蒙・普及活動ではなく、研究者にとっては生き残りをかけた闘いなのであろう。宙博には、ふだん宇宙や科学にさほど興味がなくても、はやぶさ目当てで来た親子連れなども多かっただろう。こうした方々が、この機会にはやぶさ以外の日本のトップレベルの科学・技術にも触れたなら本当に素晴らしいことだと思う。こういうイベントに行くと、東京の子供たちはいつも恵まれていると思う。今後も毎年やるなら、今度は地方開催にしても良いのではないだろうか。http://www.sorahaku.jp/
2010.10.31
三省堂書店神保町本店2階にあるUCCカフェコンフォートで開催されたサイエンスカフェに参加した。テーマは「タンパク質のリサイクルと私たちの体の調子を整えるしくみについて」で講師は(財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 カルパインプロジェクト プロジェクトリーダー 参事研究員の反町洋之氏、コーディネーターは毎日新聞科学環境部記者の西川拓氏。反町さんはこのような場で話すのは初めてとのことだったが、終始わかりやすく、にこやかにお話しされたので、大変リラックスして聴くことができた。生物の体をつくるタンパク質は絶えずアミノ酸に分解されてリサイクルされている。このタンパク質を分解する酵素には4種類あり、そのうち「カルパイン」という酵素は、様々な臓器の中でタンパク質の一部を切除してその機能を変換・調節する働きをしている。ちなみに、カルパインのカルはカルシウムのカルで、ふだんは機能しないがカルシウムがくっついた時だけ機能する。例えば、カルパインがうまく働かないと筋ジストロフィーや胃潰瘍になるという。このサイエンスカフェ、いつものことながら高度な質問が多くてついていくのが大変なのだが、やりとりの中で例えば、酵素は経口摂取してもそのまま体に吸収されないとされているが例外もあるらしいといった興味深い話が引き出されたり、タンパク質のこともまだまだ分かっていないことが多いらしいということが分かったりして面白かった。ただ、もうちょっと時間が長いと良いのだけれど。http://www.books-sanseido.co.jp/event/sc/schedule/post_5.html
2010.10.23
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