『リプリー』はルネ・クレマン監督の『太陽がいっぱい』のリメイクだと紹介されているが、違うと思う。もっと言えば、『太陽がいっぱい』も『リプリー』も、原作の『The Talented Mr. Ripley(才能あるリプリー氏)』を下敷きにしてはいても、それぞれ相当の脚色がなされている。
まずは基本的な人物設定からして違う。『太陽がいっぱい』も『リプリー』も、主人公のトム・リプリーとディッキー・グリーンリーフの容姿は似ても似つかない。だが小説での2人の容貌は、「よく似ている」ことになっている。『The Talented Mr. Ripley』でトムがディッキーを殺して彼になりすまそうと考えるのは、2人の背格好が同じだったということも大きく影響しているのだ。
そして、マージとディッキーの関係。『リプリー』ではマージとディッキーはステディな関係であり、そこにトムが割り込んでくるカタチになっている。ところが小説は必ずしもそうではない。『The Talented Mr. Ripley』はトムの視線で語られるストーリーになっているのだが、トムの目を通して見たマージとディッキーは最初、それほど近しいものではない。トムとディッキーが急速に親しくなり、一緒に旅などして「やや特殊な関係」になってきたとたん、ディッキーがトムによそよそしい態度を取り始め、それまで大して関心のなかった(とトムには見えた)マージに接近していく。小説では、それをディッキーの裏切りと感じたトムが殺意を募らせるという筋書きになっている。