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2023.01.25
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カテゴリ: 報徳
だいぶ前にがんで若くしてなくなった友人木谷は【木谷ポルソッタ倶楽部】というメールマガジンを出していた。


由布院の小さな奇跡 (新潮新書) | 検索 | 古本買取のバリューブックス


――【木谷ポルソッタ倶楽部】―――――――――――――――――<2008/4/9.>――――

            ■ 無気力 ■

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

無気力、生まれて以来、最大の「気力のなさ」を味わっている。
ご飯を食べる気がしない。嫌ではない。食べる気力が湧かない。


それになにより、酒を呑む気がしない。蕎麦を食べる気がしない。

「抗ガン剤を投与しているから、体力が衰えるのはあたりまえです。
 木谷さんの体力が落ちている間に、薬が癌と闘っているのです。
 癌との勝負に決着が付いたら、木谷さんの身体ももとに戻ります」

看護婦さんから言われた。なるほどと納得した。
私の身体を弱らせて、そのすき間を狙って癌(敵)を叩く。
うん、喧嘩の弱い私でもその方法なら戦えそうな気がしてくる。


この三ヶ月で、抗ガン剤を四度もたっぷりと打たれた。

「木谷さんの身体は不思議ね」
看護婦さんが驚くほど、「発熱」「痛み」「下痢」「脱毛」「口内炎」などの
抗ガン剤による副作用はひとつも出ていない。

ただ、先週から、気力が急激に衰えてきた。
おのれが「無気力」ということを教えられた。
先週の木曜日、朝、起きる。顔を洗って、食事を済ませる。
九時出勤と決めているので、時刻までベッドに寝ころんだ。

目を覚ました。夕陽が沈みかかっていた。
朝の九時から夕方の五時まで熟睡していたということだ。
夕食を食べた。部屋に戻るとまたベッドに倒れ込んだ。朝まで目を覚まさなかった。

それからである。起きられなくなった。動けなくなった。無気力になった。
ずーっとベッドの中で「眠り姫」の状況である。
「本を読む」「蕎麦を戴く」「映画を見る」そんな気力も湧いてこなかった。
うん「酒を呑む」……みなさんは驚かれるが、そんな気力も湧いてこなかった。

木曜日から、水曜日まで、眠り続けだった。
眠っていると電話の呼び出し音が聞こえる。
「出なければいけない。出れ、出るんだ、出よ」
おのれに言い聞かせるのだが、「無気力感」に押し負けてしまう。

今朝、出勤しようと決心した。勢いをつけてベッドを抜け出た。
ブルブル、寒くはないのに震えが来た。眠たい証拠だ。
ベッド横のガラスの机の上に置かれた携帯電話に目が入った。

寝ていた、呼び出し音は聞こえていた、出る気力はなかった、話す気力はなかった。
ベッドの上に座った。九人の人から電話が入っていた。
すまない、電話に向かってただお詫びするだけだ。

おっと、伝言メモがふたつ入っている。
ふたつとも健太郎さんだ。どんな電話だったのだろう。気にかかる。

伝言メモ・その一「健太郎です。別に用事はないけれどね」

伝言メモ・その二「健太郎です。三十秒以内にまとめろって言われてもな。
もう三十秒たっちゃうよな。今、東京に来ています。
木谷さんよ、早う元気になって、東京で蕎麦を喰った一杯呑みましょうぜ」

ヨイショ、ベッドからお尻をあげた。
後は、前に向かって歩くだけだった。
一週間ぶりの研究室出勤が始まった。

ゴールには東京のお蕎麦屋が待っているのだ。 

―――――――――――――――――――――――――――――――
  木谷 文弘(きたに・ふみひろ)





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最終更新日  2023.01.25 10:47:29


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