PR

×

コメント新着

masashi25 @ コメント失礼します☆ ブログ覗かせてもらいましたm(__)m もし…
美歩鈴 @ Re[1]:【アシュ千】 発熱 その3(終)(12/02) あやめのめさん  どうやって自分の感…
あやめのめ @ Re:【アシュ千】 発熱 その3(終)(12/02) アシュヴィンもっと素直にならないとダメ…
美歩鈴 @ Re[1]:【アシュ千】 発熱 その1(11/30) あやめのめさん  あやめのめさんが思…
あやめのめ @ Re:【アシュ千】 発熱 その1(11/30) 確かに、アシュが不機嫌になると一番の被…

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2012年01月20日
XML
 通された部屋は友雅のよく知る部屋だった。が、主の姿はない。

「主はお方様の御前です。私が申しつかっておりますので。」

 門前に宿る人影の報を仕える貴人の前で聞いたのだろう。助けてくれようというのは心根からか、或いは場の空気からやむを得ず、か。
 女童が設えてくれた座に腰を下ろし、友雅は部屋主の記憶を辿っていた。心ざまはどんなだったろうか、なぜ、通うのをやめたのだったか……。

「お召し物を乾かしますから、どうぞこちらへ。」

 女童が神子を部屋の奥に几帳を立て回した中へ誘っている。どこまで言いつけられているのか、どうやら几帳の中には女物のひと重ねが用意されているらしい。今着ている物を脱ぐように言われて神子が戸惑いの声を上げた。

「神子殿、こちらからは見えないから安心していいよ。」
「友雅さん!!」

 声がとがっている。



 促されてしぶしぶとかどうかはわからないが着替えを始めたらしい。衣が擦れる音が几帳の中から聞こえてきた。
 見ないようにしていることなど神子には見えまいが、友雅は体を庭に向けた。夜更に訪れて日の昇る前に去るのだったから、この家の庭を明るいうちに眺めるのは初めてだった。家主はかなりの趣味人と見える瀟洒な作りの庭だ。女房の部屋に面した部分でこれだから、母屋の方はいったいどれほどか。

(何かの遊びに招かれたのだったはずだが……)

 朧な記憶からは何も思い浮かばない。自分から求めて通ったのではなく、何かのはずみでそうなったはずだ。おそらく、この部屋主の方から文がつけられて、何となく興惹かれて返り事をして、そして。

 調度に見覚えがあるのだからかなり足繁く通ったのだろうに、なぜ覚えていないのか……。

 はたはたと足音がして、手元に衣装箱が置かれた。

「少将様もどうぞお着替えなさいませ。」

 女童が持ってきたのだった。開けてみると、いかにも友雅の好みそうな色目の真新しい装束がひとそろい入っていた。
 驚きの目を女童に向けると、得意そうに鼻をうごめかせて言った。

「見事なできばえでしょう? 私もお手伝いさせていただけてうれしゅうございました、少将様。こうしてお役に立つ日が来て、主もとても喜んでおります。」

 衣まで縫って待っていた……自分はこんなに忘れているというのに。



「友雅さんの恋人でしょう? この子のご主人って。」
「ああ…そのようだ。」
「そのようだって……違うんですか?」
「別れたのだよ……いつだったかも忘れるほど前にね。」
「忘れちゃったんですか!?」


 からかう顔を女童に向けると、目にいっぱい涙をためているのが見えた。泣きそうなのをこらえて女童は言った。

「主に……少将様がお部屋にお入りくださったと伝えて参りますから……どうぞお召し替えくださいませ。」

 どこまで伝えるのかと問う暇も与えず、女童は部屋を後にした。友雅は仕方ないねと嘆息して着ている物の紐をほどき始めた。心当たりが見つかったような気がしていた。もし自分の勘が間違っていなければ、自分が通わなくなった理由を女はよくわかっているはずだと思った。ちょっとしたすれ違い、どちらが悪いというわけでもなく、自然と消えてしまった恋だと友雅は思っていたのだが……。
 濡れて少し重さを増した直衣の紐を解いた。単衣も湿って雨臭かった。衣装箱のひと重ねは心憎いほどに友雅の好みに合わせてあったから、若干心が痛まないわけではなかったけれど、友雅は遠慮なく濡れた物すべてを脱ぎ捨てた。

「さて、と……」

 一人で着られないこともないが、手伝いの手があった方が望ましい。後朝の名残に人目を避けて帰るならともかく。
 手伝いと言っても結びにくい紐を見栄よく結んでくれればいいので、先ほどの女童でもと思っても女主の元へ行ったまま戻ってくる様子もない。

(猫の手よりはましかな)

 異世界の少女だが、紐の結び方くらいは知っているだろう。毎朝自分で着て出てくるのだから。

「神子殿。すまないが、少し手伝ってはもらえまいか。君がいつも結んでいるようにこの紐を結んでくれればいいのだが。」

 友雅が近寄る気配を察してか、几帳の内から悲鳴があがった。

「いや、だめ、来ないで、友雅さん!」
「どうして。」
「ダメ、いやなの、近寄らないで、お願い! 恥ずかしいから!」

 何を恥ずかしがっているのかは想像できた。いつもの服装と違うことが面映ゆいのだ。

「かまうことはないよ、今ひとときの借り着だろう? 君が嫌だというなら無理は言わないつもりだが、この紐を自分で結ぶとどうにも見栄えが悪いから、こんな昼間に女性の屋敷で何をしてきたかとまた余計な浮き名が立つのも面倒でねえ……」

 大げさな嘆息をまぜて几帳の内へ言ってみた。どのような衣装を着て神子がどんな風に変わったかを見てみたかった。
 友雅の思惑通り、几帳の端がもぞと動いた。神子の小さな頭が少しだけ布端から覗いた。

「友雅さん、困ってるんですか?」

 笑い出したいのをこらえ、困り切った顔をわざと作って、友雅はうなずいた。

「そうだよ。こんな昼間から着崩れた姿では外へ出られない。助けてもらえまいか、神子殿。君の力が必要なのだよ。」

 着ている物を隠すように尼削ぎの頭が几帳から出てきた。神子にとっても、身仕舞いのできていない友雅は初めてだ。だらしなく直衣がたるんでいる姿に驚いたのか、隠れることを忘れたように几帳から急いで出てきた。

「どこ、結んだらいいんですか?」

 こことこことと指さして教えた。言われるままに丁寧に蝶結びしていく神子を、友雅は黙って見下ろしていた。それなりの年齢なのに童女のように切り揃えてある髪の先がゆらゆらと袿の襟元にかかっている。神子のいた世界では髪を長く長く、身の丈に余るほどにも伸ばすことはないのだそうだ。その若さで出家したかと思われるような髪と華やいだ撫子色の衣の不釣り合いさは最初こそ友雅の目には滑稽だったが、今こうして改めてみるとかえってかわいらしく、どこか友雅の好色心をくすぐる危うさまでも感じさせる。

(これが龍神の神子たる所以かな。)

 手の届くところまで近づいている不用意な体を抱きしめてしまいたい衝動。そしてそれを押さえる自分でも笑い出したくなるほどの自制心。そんなものが自分にあったとは思えなかったが、どこかからわいてきたにしろ外から与えられたにしろ、それはきっと龍神やこの少女のもつ力のせいだろう。
 直衣の前垂れの下で帯を結べば終わり。おぼつかない手では無理だろうと前垂れをたくし上げておくのを神子に頼み、友雅は帯を締め上げた。締めにくかろうと後ろから友雅を抱えるようにたくし上げている神子の手は衣の重みに負けて下がり、帯を締める友雅の手に触れてしまう。その感触にびくっと怯えてまたすぐに戻るが、どんな顔をして持っているのかと思うと自然にくすりと笑える。
 飾り帯を着けるのももどかしく、友雅は神子の手を捕らえた。逃げようとする手をしっかりつかみ、体の向きを変えて神子の顔をのぞき込んだ。
 案の定、恥ずかしさに真っ赤に染まった顔。

(可愛い……)

 口づけてしまいたい衝動が突き上げる。逃れようと身をもがく神子の体をすくい上げ、強く抱きしめたその時。

「神子殿!」

 よく知る声が庭から聞こえた。友雅の手から力が抜けた。慌てて逃れる神子の顔には安堵の色があからさまに見える。華やいだ撫子の重ねの愛しいものは、あんなに友雅の目に触れることを嫌がったのに、迎えに来た武士の前には何事もないように出て行くのだと見える。

(妬いているのか? 私は。)

 自分の心の動きの一つ一つが不思議だった。友雅の所行を目にしただろう武士は友雅には警戒心に満ちた視線を向けるが、神子のことはついぞ見せたこともないだろう優しい瞳で見下ろしている。見上げる神子も信頼しきった目で武士を見つめている。この二人の関係も神子とそれを守る八葉であることに変わりないのだが、それ以上の想いを通じ合ってはいないか?

(だとしたらどうだと言うんだい?)

 自分はいったいどうしたいのだと自問自答する。普段ない屈託はつい外へ出てしまうものか、神子が怪訝そうに友雅を見た。

「どうかしたんですか? 友雅さん。」

 ……君のせいだよ。
 こぼれた屈託を拾い集め、いつもの余裕を努めて前に出す。

「……お迎えも来たようだ。失礼しようか、神子殿。」

 借りた衣装のことを気にする神子を促し、車に向かった。

「どうして頼久さんがお迎えに来てくれたんですか?」
「友雅殿の御車が空でどこかへ行くという知らせがありましたので、藤姫様が私にお命じになりました。」

 あの小さい姫君は聡すぎると友雅は苦笑した。出かけた衣装と異なる姿で館に戻ったならどうなることか。
 友雅は空を仰いだ。降り止まぬ雨が冷たい。

「馬を。」

 従者が引いてきた馬に跨がった。
 神子を乗せた牛車が静かに進み出した。共に乗らなかったからか武士の警戒の色が少し薄らいだように感じられる。牛車からも大きな安堵のため息が聞こえた気がした。

(嫌われたものだねえ……)

 ふふと笑むと、友雅は馬を駆けさせた。この訳のわからない想いを振り捨ててしまいたかった。お待ちくださいと止める従者の声は遠かった。 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2012年01月20日 16時23分04秒
コメントを書く
[遙かなる時空の中で] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: