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陽気もいいし、特段やることもなくて知らぬ間に居間で午睡。ごろ寝。半時ほどして目が覚めたとき部屋の中に猛然たる黒煙が立ち込めていたらあなたならどうするだろうか?つまり火事である。睡魔に手を引かれるその手前。昼飯のおかずにしようとあなたは煮物の鍋を火にかけていたのである。鍋は昨晩の残りだからたいして中身は入っていない。加熱後15分も経てば一切の水分は蒸発し、20分の後には鍋の底には黒墨が生成され、30分で激しい燃焼臭と共に轟然たる煙が鍋から吹き上がる。いったいどれくらいの間眠っていたのか定かではないが、感覚的に小一時間が経っており、下手をすれば鍋自体が燃え上がり、コンロ周りの壁や天井だって発火延焼しているかも知れない。あたなはそこで目が覚めたのだ。さあどうしようか。この問い掛けは勿論架空のものであり、こんな事態は出来れば起きないに越したことはないが、人生一寸先は漆黒の闇である。転ばぬ先の杖的な意味でも、今後もしあなたが斯様な事態に巻き込まれたときに一つの示唆としてもらうべくある実例をご紹介しておこう。八重山の離島に住む平田念庄(ひらたねんしょう(仮名))の場合である。念庄さんの隣家に住む私の友人が異臭に気づいたのは午後二時のことだった。何かが焼け焦げる香ばしい匂いがどこからともなく流れてきて、最初は食欲を誘う良い香りであるよなぁ。おでんかなぁ。なんてのんびりと考えていた友人であったが、いつまで経っても匂いが止まず、いつしかそれに薫煙臭が混ざり始め、食材以外の何か、例えばプラスチック樹脂か何かが燃焼延焼している刺激臭を嗅ぎ分けられるに至って友人は近隣での火事、もしくはそれに類する異常事態が起きていることを確信し庭に飛び出したのである。町営団地、棟つながりの隣家の窓から吹き出る黒煙をみつけるのに時間は掛からなかった。友人はすぐさま隣家の玄関に駆け寄り、ドアノブを引っ張りながら大声を張り上げた。『念庄っさん!念庄さん、念、ねん、だ大丈夫大丈夫ですかあっ!!』玄関ドアを引き開けたのと同時にバックドラフトみたいな熱気と黒煙が噴き出して、友人は一瞬ひるみかけたが、隣人を火事で死なすのは寝覚めが悪いし、縁起でもないし、それよりも何よりも棟つながりの隣家が燃えれば自宅焼失の危機である。ま、仮に半焼程度で済み焼失まで至らぬも消防の放水によって家財道具一式が使用不能になるのは想像するに難くなく、なんとしても大火災を未遂と封じ込めるべく鬼の形相で玄関前に立ちはだかり友人は大声を張り上げ続けた。開け放ったドアから吐き出される煙の向こうに人影が見え、目を凝らすに影のぬしは念庄さんに間違いなく、座してなにやら蠢いている。よかった!生きているのだ!煙の向こうに念庄さんの影を発見して友人は狂喜した。しかし何度呼び掛けようとも座した人影は家の外へ出来こない。出てこないだけではなく、どうやら何かを探して自分の周りを手でまさぐっている様子が見て取れるから友人は訝ったのである。『火事だってのに念庄さんはいったい何をしているのだ。火事の家から逃げ出す前に財布でも捜しているのか。なんなんだ?メガネでもさがしているのか?それとも入れ歯か?』しかし念庄さんが探しているのは財布でも入れ歯でもなかった。ライターである。まさかと思うかもしれない。煙たちこめる中でライターを探すとはどういうことかと誰しも訝るだろうが、事実であるのだから仕方ない。次第に薄くなる煙の向こうにはっきりと見えてきた念庄さんは居間に置いた扇風機の前であぐらをかいてでんと座って寝起きの顔に火のつかぬタバコをくわえ、両手を伸ばして一生懸命に周囲の何処かにある筈の百円ライターを探していたのだ。そんな念庄さんの姿を見た時、友人は正味こけそうになったそうである。『おいっ!なんで逃げ出さずに一服なのかっ~!煙に巻かれているときに煙を吸うんじゃない!アホか、おやじ!』心の中でそう叫んだそうであるが、黒煙に巻かれた念庄さんの耳にも心にも届く筈がなかった。念庄さん、そんじゃそこらの駆け出し喫煙者とはわけが違うし、ものが違うのである。煙に巻かれて吸うタバコはどんな味なのだろうか。きっと午睡の夢見が悪くて吸わずにはいられなかったのだろう。念庄さんのちょっと意味不明な行動を私はそのように考えるのである。って言うかそうとしか考えようがないのである。
2008.12.22
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大方の予想通り、此処数年来の移住者がリターンし始めている。どこへリターンするって勿論『本土へ』である。安全と人情と自然と顧客本位のサービスが無条件に、無尽蔵に、向こうから勝手にやってくる思い信じ切っている方から順にリターンしてゆく。残念ながら島にそんなものはないのだ。特に顧客本位のサービスが当然と思っている信じている方の多さには呆れ返るばかりだ。仕事はお客様の為のもの。何があっても優先すべきは顧客の都合。顧客優先。顧客第一。顧客は神様です。ぐらいのもんだが、島にそんなものがあるならまず私が見たい。でもないものは見れない。じゃ、何があるかと言えばそれはリアリティだけである。悪い奴が悪いことをしているのを目撃し、人が人を殴るのを目撃し、足を引っ張り、足を引っ掛け、倒れたところに馬乗りになって得意になってる光景を誰もが目の当たりに出来るのである。実はこれは貴重な体験だ。なぜならば良い事というのは誰しもわざわざ隠さないし、自分が行った善行や殊勲や努力誠心誠意は出来るものなら表沙汰になってくれたなら他人に対して優越も覚えるし、周囲からの賞賛なんぞ受けてたいへん気分が良いのである。だから良いことは都会地方離島を問わず何処でも頻繁に目に出来るものだ。だが、悪いことは確信犯的犯罪者でない限りひたすらに隠蔽するものである。他人に悪い評価を付けれらることは決して好結果を生まないし、責められたり詰られたりすれば気分も悪くなる。なのに島ではここんところが丸見えで、良いことも「俺がやった俺がやった。どうだすごいだろう」と自慢もするが、多少の悪行狡猾乱暴狼藉は屁でもないのか随分と明け透けにやってくれるのでみんな丸出し丸見えなのだ。もしかしたら悪いことをやってる側は自分では大変手際よく物陰に隠れたり、上手に嘘をついているつもりでいるのかも知れないが、そんな方は仮にいたとしてもひどいマイノリティでしかないし、マイノリティの反対側にいるほぼ九割五分ぐらいの方々は明け透けに悪いことをやる。本人は隠蔽したり首尾よくやっているつもりかも知れないが、演技や段取りが下手すぎ悪すぎで何をやってもばればれになる。で、そこんところがリアリティなのだ。都会にはない。もしあってもひどく希薄なリアリティしか都会ではお目にかかれないが、島じゃ良くも悪くもダイレクトなリアリティがごろごろしているのである。それを以って善い悪いの評価を持ち出すのは適当ではないと私は思うのである。好き嫌いならまだしも解るが、リアリティに良いも悪いもない。リアリティのないことこそが実は気持ち悪いのである。都会の人はそれがないことが当たり前らしく、鼻先にリアリティを突きつけられると不安で仕方ないらしく、明け透けでダイレクトなリアリティに眉をしかめる方が非常に多い。都心へリターンしくいく方々も然り、彼らが欲するのはリアリティなんぞではなく、顧客第一主義のサービスや、合理的なシステムや、華燭で飽食な文化や、一切の悪を封じ込めんとする強大な警察力だ。そんなものが欲しい人は都会へ帰るべきだろう。この島をいくら探してもそんなものは見つからないし、この先10年経っても20年経っても八重山の地にそんなものは育たないだろう。此処にあるのはいつだって厄介で面倒で泥くさいリアリティだけなのである。
2008.12.19
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例えば経理担当者による会社の金の使い込みなんて巷よくある悪徳話だが、此処八重山の場合はちょっと違う。なにが違うって、差し障りがあったりするので全て仮称フィクションで説明申し上げるが、つまり悪徳のレベルが違うのである。例えばこんな具合である。市行政から各公民館に割り当てられた地域振興目的の補助金を公民館長が私的に流用してるなんて場合があったりする。ま、ここまでは普通に散見できる悪徳レベルである。でもって、その私的流用のやり方も目茶目茶杜撰で、友人知人に頼んでテキトーに集めた領収書の束を全て地域行事の経費として処理しようとするわけだが、領収書の中には那覇市内の風俗店のものが混ざっていたり、コンビニで買った歯磨き粉やエロ本系の雑誌に支払ったものまであるので公民館の会計担当者は唖然となる。「おい…、こんなものまで経費で処理させんのかよ。あり得ねぇだろ。ふざけんなよコノヤロー」ってわけで、会計担当者は市行政の担当者へ密告抗議するわけだが、この密告抗議した会計担当者の自宅が公民館と隣接していて、彼は公民館の倉庫へと電気の延長コードを伸ばし、そこから10年以上に渡って盗電を続けている。しかしその盗電もつい先日発覚してしまった。公民館の役員の中に電気工事屋がいて、接続先がカモフラージュされてる倉庫内の延長コードを不審に思った彼が探り当てたのである。正義感の強い電気工事屋は激怒した。ふざけなテメー、何様だコラっ!電気盗んでいいと思ってんのか。誰が赦しても俺は赦さんからな。告発だ告発。臭い飯食わせてやるから覚悟しな!と電気屋は日毎に会計担当者の庭先を訪れては怒りに任せて誹謗中傷罵詈雑言をなげつけた。そんな正義感の塊みたいな電気屋には妻がいて、妻は地域の小学校の事務員をやっているのであるが、あろうことか給食費を使い込んでいた。正義漢の妻としては失格も失格、犯罪がバレれば間違いなく旦那から離縁を宣告されると周囲の誰もが思ったのであるが、これが何故だか給食費の使い込みがバレても離縁されなかった。何故離縁されなかったのかと言うと給食費使込み妻の父親は地元の名士中の名士であり、何代にも渡って公民館長を務める名家であり、妻の兄は市議会員だし、弟はローカル局のテレビラジオなどにも出演する芸能人であった。故に電気屋は計算高くも考えたのである。大失態犯罪をやらかした妻を離縁することはかんたんであるが、ここはひとつ妻を赦し、名家と、その兄弟に恩を売っておこうではないかと。なれば末は俺も市議会に打って出れるな、と。そんなふうに見込まれた市議の兄は好人物ともっぱら評判で、地元紙が取材にやってくると必ずや近所の子供たちを抱き上げ、頭を撫でてながら「子供は地域の宝!」とやるのがキャッチフレーズなのであるが、これは実は取材を受けてる場合のみのパフォーマンス以外の何物でもなく、普段は子供らが騒いでいると怒鳴り散らし、威嚇し、たいそう怖がられていて、界隈の子供らからはいつも不機嫌なオッサンぐらいにしか思われていないのであるが、普段威嚇しているのが利いているらしく、取材を受けようという場合に近隣の子供らを呼び止めたり集合をかけたりするとバラバラとではあるが適当な人数が集まってくるので、取材する側はその光景を以って「子供は地域の宝を実践する者」というレッテルを勝手に貼る。それは使込み妻の弟も然りである。テレビやラジオではたいそう優しいキャラで、おばあちゃんを語り、老人と子供を何より大切に思っている僕、というのがその芸風なのであるが、これもあくまでメディア向けのパフォーマンスでしかなく、普段は老人のことを言うのにフツーにクソじじい、クソばばあとやっちゃうし、子供は大嫌いとオフレコでは放言もする。もちろんファンの女の子を妊娠させちゃうなんて日常茶飯事であるが、子供嫌いな彼は妊娠のフォローなど死んでもやらない。嗚呼、八重山の悪徳の輪はどこまで広がるか判らないので書くのはここらで止めにしておこう。
2008.12.02
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