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2016.02.04
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カテゴリ: 小説
2003-4年に書かれた短編・掌編集。

「白昼」は白昼堂々自分を垂れ流している男を追いかけていたら追いかけられていたという話。○○している人が実は自分が○○されていた、というのは掌編小説に良くあるパターンで、プロットとしては特に面白くもない。こういうパターンで成功したのはコルタサルの「続いている公園」で、こっちはオチに切れがあるうえに、現実と虚構の世界がつながるというオシャレな仕上がり。平野みたいにぐだぐだやると素人がこね回した寿司みたいになってネタが痛む。

「初七日」は心筋梗塞で児島康作が死んでから家族が葬式をしたり火葬をしたり康作の従軍について考えたりしていると猫が家に入ってきたので追い出した話であった。
三人称であった。なんといまどき「であった」調の文体であった。現代人が普段の作文で「であった」調を自分の言葉として使う機会はまずないので、意図的に古い小説の文体をまねて言文不一致にしたのであろう。作者は言語的擬態の器用さをみせびらかしたかったか、あるいは自分の表現方針を持っていないのではあるまいか。従軍についての思考を康作の長男の還暦越えの康蔵にさせるのは時代遅れで、なぜいまさら若い作家が戦後作家の真似をする必要があったのか。作者と同年代の登場人物が戦争について考えるというやり方もあったはずで、それが若い作家が書くべき本筋の物語展開であるが、そうしなかったのは、知識と想像だけで他人を理解できると高をくくり、なおかつ自分をさらけ出さないようにするという平野のような高学歴な人によくある自己欺瞞であろう。誰かの真似をして小説らしい小説を書いたがゆえに、作者自身が投影されておらず小説の表現としては価値がないのである。戦後世代の真似をして作者が体験してもない戦争を回想したところで、作者個人の左翼的懐古趣味を満たすだけで、過去の出来事を新しい視点でとらえるわけでもなく、読者にとってはなんら得るものがないのであった。葬式の話などは本来は私小説作家が自分の体験として語るがゆえに、作者の心情の吐露として表現が価値を持つのである。作者が育った福岡の方言を使っているあたりは唯一リアリティのかけらが残っていたが、欺瞞に満ちた文体で台無しにしたのであった。66ページもあって割りと長めなうえにつまらないので、ひーこらひーこらばひんばひんであった。

「珍事」はホテルのサラリーマンが向かいのビルの窓から見られていて、そいつに手を振られたという話。三人称。珍事を期待している相手の人生を見下しているつもりの男がつまらない人生を送っていたという、○○している人が実は自分が○○だったというパターンの一種。掌編なので特に見所がない。

「閉じ込められた少年」はいじめられていた僕が、あいつをナイフで刺した話。一人称。ABCDEDCBAというような回文的構図だけれど、改行箇所は変わっている。一人称で変なことをやったせいでナラトロジーとしての語りのリアリティはなくなり、そのうえ物語としても面白いわけでもなく、とりあえず回文的なことをやってみたという以外に見所がない。

「瀕死の午後と波打つ磯の幼い兄弟」はひとつのタイトルだけれどまったく関係のない二つの短編。「瀕死の午後」はひったくり常習犯の男が闇金から金を借りた女からひったくろうとして事故に会う話。三人称で、短編なのに男と女の視点を変えるあたりは物語の焦点がぶれてしまう悪手で、どちらか片方に視点を固定したほうがよい。内容はなんのひねりもなく、小説として金払って読む価値なし。
「波打つ磯の幼い兄弟」は幼い兄弟が波打ち際に行って、弟が潮を警戒して兄を呼ぶものの、兄が意地になってカニをとろうとするうちに帰れなくなる話。長編の中のいちエピソードとしてその後生き残った兄弟のどちらかが云々という展開になるならこれでいいけれど、短編でこの場面だけ展開されてもどうしようもない。昭和初期ならこういうリアリズムお涙頂戴系短編で十分及第点なのだろうけれど、わかりやすい悲劇をそのまま提示するのは現代の純文学作家としては芸がない。こういう素直な小説はデビュー前後の習作として書いたりするものだけれど、平野は変なデビューの仕方をしたのでデビューしてから数年たってからこういうのを書きたくなったんだろうか。

「les petites Passions」は少年が主人公の「彼方」「数」「性」「記憶」「自己」の掌編小説。「彼方」は中二病の少年が空で処刑される妄想をする話。「数」は少年が街中でいきなり消えたという話。「性」は少年の恋がクラスに知られたので全身が切断される話。「記憶」は少年が死の空を眺めて泣く話。「自己」は孤独な少年が自分が放った刺客に滅多刺しにされる話。マジック中二病イズムでもやろうとしたんだろうか。なんでタイトルフランス語なのか意味不明。そこは中二病的に難解な漢字に無理やり読み方を割り振るべきだろう。



「最後の変身」は会社をぶっちして部屋に引きこもっているネット中毒の書評家きどりの男がカフカの『変身』について考えたり虫に変身したつもりになる話。
俺の一人称の横書きの手記形式。男はバブル崩壊時に小学生なので、団塊ジュニア世代なのだろう。パソコンで遺書を書いてネットでばらまくという動機で男が自分語りをしていて、一応ナラトロジーとしての整合性はあるものの、テレヴィ、コンヴィニと書くあたりは平野臭さがプンプンするので一般人の言葉としてのリアリティはない。この小説も、星野智幸の『ロンリー・ハーツ・キラー』も2003-4年頃の同時期に書かれた小説だけれど、ネットにアップするために手記を書くということで一人称の語りの動機の整合性をつけようとするあたりは現代的ともいえるけれどもそのぶん安直な手法。紙の本で出版しないで電子書籍限定にするくらいに凝らないと芸にならない。さらには話の大部分をカフカの『変身』に頼っていて独創性がない。この小説では語り手の男の意見を垂れ流しにするだけで、それに対する外部からの批判が何一つないため、話にしまりがなくてやたら冗長。語り手の男は遺書として書いたから自分の意見が拡散されるはずと思っているけれど、命がけで書いたゴミは結局ゴミでしかない。そのゴミを文学的な遊びに昇華させるような仕掛けもなく、純文学としての構成が練られていない。ナウシカの蟲みたいに仲間を呼ぶとか、体液がでちゃうとか、触手を伸ばすとか、ピギャーと叫ぶとか、何かしら虫っぽい面白さがほしいもんである。こんなつまらない小説もどきの読書感想文を読むくらいならゴキブリの観察でもしてたほうがましやんけ。ちなみに Animal Planet Liveではゴキブリをライブカメラで放送している ので、自分でゴキブリを生け捕りにするのがめんどくさいという人はこっちで観察するとよい。

「『バベルのコンピューター』」は文芸作品が映像化されたというイーゴル・オリッチの『バベルのコンピューター』という架空の作品についての批評。内容に興味がないので流し読みしていたら、ページがペイジと書かれてある時点でジミー・ペイジが気になってしまい、これを読むのをやめてネットサーフィンすることにした。平野はせっせと脚注まで作りこんでいるものの、読者が脚注まで読んでくれると思ったら甘いのである。ジミー・ペイジの観察でもしてたほうがましやんけ。

●感想
私は平野啓一郎は嫌いなものの、実験小説は嫌いでないのでこの本のamazonの評価が悪いのを承知でわざわざブックオフで108円もの大金を払ってこの本を読むことにしたのであった。しかし実験というほど実験になっていないので期待はずれであった。せめて筒井康隆のようにギャグでもあれば実験小説でも楽しく読めるものの、平野には筒井のようなユーモアやカルヴィーノのようなおしゃれさがないのであった。
オビには「衝撃のデビューから五年、平野啓一郎が、いま、新たな頂点をきわめる!」というおおげさな宣伝文句が書いてあるけれど、これ以上成長しないよという宣言なんだろうか。言葉のうわべにだけ凝って中身が欠落した小説ばかり書いてきた平野にふさわしいオビであった。
こんな内容じゃ売れないだろうなと奥付を見てみたら、やはり初版であった。本棚に置くにも邪魔なので捨てることにしたのであった。ブックオフにキャッチアンドリリースするのさえめんどくさいのであった。

★★☆☆☆であった。

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最終更新日  2016.02.10 23:56:04
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