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2017.08.28
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カテゴリ: 教養書

『東京大学で世界文学を学ぶ』から4年後の東大での14回の講義集で、世界文学や自作の解説をまじえつつ近代小説やドストエフスキーや谷崎について講義している。

●面白かったところのまとめ

第一講義 小説家が小説を解剖する
・散文であれば小説はどう書いてもいい。
・近代小説の誕生によって我々は新しい現実、新しい世界を発見した。小説は文学による現実の発見だけれども、その小説を創造するためには文学ではなく、現実を見る目、現実から入っていかなければならない。
・近代小説の最大の特色は描写。描写は普段我々が使わない文体で書かれていて、目で読むことを前提に描写が成立する。リアリズムは近代に登場してきた表現に対する概念。
・小説における会話は映画のセリフとは違う。小説における会話は会話のふりをした描写かもしれない。小説は会話という声を排除する目的に向かっている。
・すべての近代小説は探偵小説である。犯人が誰かよりも動機が重要で、動機から行為に移る流れが小説のリアリズムをつくりあげる。

第二講義 ドストエフスキー『罪と罰』を読む──人殺しの残酷な物語はなぜ読み継がれてきたのか
・作者の妄想を言語化して他者にその夢を味わわせるためには方法と技術が必要で、すぐれた作家は場面に集中する。
・作家は常にラストから小説を考えている。
・小説そのものが夢なので、ストーリーを展開するために夢を使うのは安易。
・手紙は作劇場の重要手段で、擬似場面をつくることができる。
・トリックスターは閉塞した共同体を壊す役割を果たすお祭り男。
・小説家は人間は基本的に悪なんだという認識から出発する。

第三講義 「もはや誰の息子でもない」──犯罪小説、探偵小説、家族小説を読む
・16-18世紀の冒険は新しい世界を発見することで、過去という未知の世界を対象とする歴史小説、地理上の未知の世界に出かける海洋冒険小説、犯罪が多発する大都会が近代小説になった。20世紀の未知の世界は無意識。
・最初の家族小説は捨子物語、第二段階の家族小説は私生児物語。捨子物語は父と母の両方を否認して、私生児物語は立派な父親の物語を作る。

第四講義 『古事記』と神話批判としての『源氏物語』・古代の英雄のいろごのみは土地の霊力を身につけるために土地を代表する女性をわがものにしている。江戸時代の好色ではない。

第五講義 谷崎潤一郎──渡りをへたる夢のうきはし
・芥川との筋のない小説論争で、谷崎のベクトルは源氏物語を目指している。
・探偵推理小説は谷崎の小説の構造とかかわる重要な部分で、『アクロイド殺し』の方法を谷崎は『夢の浮橋』で美的に深化させた。
・長編小説は建築物と一緒で、その土台は作者の思想で、しっかりしたテーマや思想を持っていないと物語建築は崩壊する。
・東京から関西に移住して古典回帰して、関東大震災で粉々になった東京や近代日本を関西によって再構築しようとしたのが谷崎のモダニズム。

●感想
「はじめに」で小説の構造を読み取るには要約しかないと言っているけれど、これには私も同意である。小説を要約するとストーリーとプロットの最重要部分だけが残って、そこで物語の基幹となる構造部分と装飾の部分がわかるようになるし、要約のしやすさで作家の構成力や技術水準も判断できる。著作物を要約して主要な内容がわかるようにすると翻案権侵害になる可能性があるので、私はブログを書き始めたころは読んだ小説のあらすじを要約していなかったのだけれど、そのぶん本の内容を忘れることが多かった。しかし要約するようになってからは内容を忘れても思い出せるようになったので、要約するほどの価値もないようなつまらない小説やオチがわかると読む価値がなくなるような短編以外はなるべく要約してプロットの構造を把握するようにしている。それにあらすじに触れずに書評を書くのも難しいので、たぶん翻案権侵害で訴えてくる作者もいないだろうと思う。
『東京大学で世界文学を学ぶ』に比べて内容は包括的でないものの、ベテラン作家が作家の視点から解説していて辻原登の文学観がわかるので面白い。辻原登の『冬の旅』は私にとってはあまり面白くなかったけれど、この本を読んで『罪と罰』の逆の構図で書いたという作者の狙いがわかったので、再読したときに違った面白さがあるかもしれない。文学部の学生や小説を書こうとしている人なら買って損はないので、『東京大学で世界文学を学ぶ』と一緒に読むとより文学を理解できるようになると思う。

ちなみに紀伊國屋の1000円のクーポンをもらったのでこの本の電子書籍版を買ってKinoppyで読んだ。気になるところにマークしようとしたら文章を選択しようにもクリックするとページをめくってしまってどうにもならないのでKinoppy for Windows Desktopのヘルプを見てみると、「マウスの左ボタンを押し下げマウスを動かさずに1秒弱待つと、黒い四角形がマウス付近に表示されて消えます。これが文字選択モード開始の合図です。」だそうで、初見殺しのわかりにくい仕様だけれど、慣れれば付箋代わりに使えるので便利である。

★★★★★

東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ【電子書籍】[ 辻原登 ]






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最終更新日  2018.12.03 05:36:57
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