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「青春は美わし」と「ラテン語学校生」の2作の短編集。
「青春は美わし」は高給取りになって休暇で故郷に戻った青年が昔恋したヘレーネと会うとヘレーネが誰かと婚約するというので失恋して落ち込み、故郷を去る前に妹の友達のアンナに告白しようとすると誰かに片思いしているから友達でいましょう的な振られ方をする話。一人称の回想形式。どこにでもあるような失恋話でこの小説ならではという特徴がなく、あえて現代に読むほどの小説でもない。弟のフリッツの花火遊びがラストシーンの打ち上げ花火の伏線になっていて、花火と恋愛を重ねるのは日本的な情緒かと思っていたらヘッセが既に100年前にやっていたというのは面白い発見だった。
「ラテン語学校生」はラテン語学校生の16歳のカールは下宿のばあさんが飯をくれないので空腹で女中のバベットにパンをもらうようになり、バベットの女中仲間と話をするようになって、学校の悪友といたずらするのが空しくなってつるむのをやめてバベットにパンをもらう頻度も少なくなってひきこもりがちになると、バベットが心配して気晴らしに女中の婚約パーティーにカールを連れ出すと、前に一目ぼれしたティーネに再会して告白する。ティーネはカールを適当にあしらっているうちに大工と婚約したのでカールと別れ話をする。カールは学校を落第しないように奮起してバベットに支えてもらって失恋から立ち直って久しぶりにティーネに会うと、ティーネの婚約者が高いところから落ちて怪我をしたと言い、カールは幸福な人も運命の支配を受けていることを悟り、人間の弱い魂が運命に打ち勝つことを悟る。三人称。女中文化が書かれているがゆえに、表題作よりこっちのほうが外国の小説らしい特徴があって面白い。しかし構成があまりよくない。途中でちょっとだけティーネの視点に変わるところは三人称の視点移動としては中途半端で、カールの成長に焦点を当てるならティーネの視点はいらない。「幾年もたった後でも、彼は、この晩のことを思い出すごとに、幸福と感謝に満ちた好意とが輝く光のように、心にあふれるのを感じるのだった。」(p98)といきなり時間を飛ばすのは悪手で、未熟な少年時代のカールの物語を読者に読ませているのだから唐突に数年後のカールの感想をはさむ必要はない。結末も失恋から悟りを開くまでのカールの心理の変遷を端折りすぎて唐突な感じで、カールの成長に焦点を当てるなら相応の心理描写をするべきである。もっと丁寧にエピソードを書いていたらラブコメとしてアニメ化できそうな感じの惜しい仕上がり具合。
★★★☆☆
青春は美わし改版 (新潮文庫) [ ヘルマン・ヘッセ ]
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