PR
キーワードサーチ
コメント新着
精神分析学者の著者が浮世絵の母子が同じものを見ている構図の分析を通じて、人のつながりと、つながりがあり続けているという幻想と、つながりが断ち切られることから生じる幻滅について考察した本。
●面白かったところ
・浮世絵の婦人と子供は同じものを共に眺めることで関係を保っている構図になっている。
・享保7年(1722)の好色本禁止令以来、美人画が制限されて取り締まられた結果、無邪気な男児がエロチックな女性に寄り添う家族画を装った好色本になった。
・浮世絵に女児が少ないのはエディプスコンプレックスを根底にして、男女差別の大きかった江戸時代の母親が男児に生きがいを見出したから。
・浮世絵以外の近世絵画は父親が登場するが、浮世絵は父親が不在。浮世という感覚は父子関係に伴わず、浮きと憂きという関係は母子のもの、男女のもの。
・日本語の愛は上から下に愛を与えるもので、下から上を愛することは視野の外におかれて、逆に幼いものが大人に愛を求める甘えを際立たせる。上下関係を支配構造として否定的に意識すると甘えにくくなり、上下関係を受容すると甘えることができる。
・恥が露呈して、見る側が拒否や嘲笑などの幻滅反応を起こすと、見られる側に恥の不安が発生する。
●感想
まずタイトルで何の本なのかよくわからないのがよくない。哲学的なエッセイかと思ってタイトルだけ見て買ったら全然違う内容だった。内容も精神分析というより絵画の分析なので、絵画に興味がある人のほうが面白いかもしれない。
著者のあとがきによるとこの本は錯覚と幻滅の精神分析について書いたエッセイや論文を書き直して一冊に集めたもので、元は臨床の専門家に対して書かれたそうだけれど、ちゃんとした論文の形式で書かれていないので、何をどう考察したのか、結論は何なのかがよくわからない。これは私が門外漢だから理解できないというのではなく、書き方が悪い。例えば目次やサブタイトルも意味不明で、XI章の「浮かんでで消える」だと鶴の恩返しについての考察で「見るなの禁止」というサブタイトルがついているけれど、この言葉が何を指しているのかが章の中で説明されていない。見ることを禁止するというのが普通のとらえ方だけれど、なぜ「見るなの禁止」という見ないように命令することを禁止するという誤解を招きかねないような書き方をするのか、意味が分からない。こういう作者が独自の言葉遣いをして一人合点しているような文章があちこちにあって読みにくくて、他人に理解してもらうための文章になっていない。
私が買ったのは2002年の第2刷で定価1900円になっているけれど、増補版だと定価2800円になっている。この内容でさらに値段が高くなったら、定価で買うほどの価値はない。
★★☆☆☆
幻滅論増補版 [ 北山修 ]
『小林秀雄全集第三巻 私小説論』 2024.02.25
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』 2021.12.09
シンシア・ソールツマン『ゴッホ「医師ガ… 2021.06.19