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2023.04.12
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最近はイーロン・マスクが世界一の金持ちでなくなって、LVMHの会長のベルナール・アルノーが資産28兆円で世界一の金持ちになったそうな。LVMHとアルファベットで言うとピンとこない人もいるだろうけれど、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンとカタカナで言うと誰でも知っているフランスの高級ブランドである。生活必需品でない高級ブランドのオーナーが世界一の金持ちというのが金余りの世界経済を表しているようで面白い。というわけでブランドについて考えることにした。

●ブランドとは何か

ブランドは放牧している家畜の所有者を示すために焼き印をつけるbranderという古ノルド語から派生して、他の商品やサービスと区別しているものをブランドと呼ぶようになった。例えばチェーン店の屋号はブランドの一種で、同じ屋号ならどの店舗でも同じ品質や価格の商品やサービスを提供することが期待される。他の商品やサービスと区別できないようなものはノーブランドと呼ばれていて、例えば中国の家電メーカーがしばしば他のメーカーと機能やデザインが類似した商品をamazonで売っている。
企業は何か新しいことをやりたくなったら既に固定客がいるブランドでやるよりも、サブブランドを立ち上げて新商品を試したり新規顧客を開拓したりするほうがブランドイメージが棄損されずに済む。例えばUNIQLOはファッションデザイナーとコラボしてそこそこ高級感がありつつ値ごろな感じのブランドイメージを保っている一方で、廉価なブランドのGUを作って所得が低い若年層を取り込んでいる。バドワイザーはブランドイメージで失敗した例で、若者にアピールするためにBUD LIGHTの缶のデザインにトランスジェンダーのインフルエンサーのDylan Mulvaneyを起用したところ、既存のファンが反発して不買運動をされて製造会社のアンハイザー・ブッシュの株価が50億ドル相当(7千億円くらい)下落したそうな。欲を出して既存顧客以外にもアピールしようとしてブランド展開の戦略を間違うと、顧客を増やすどころか既存の顧客を失うことになる。
作家のペンネームもブランドの一種で、例えば栗本薫は小説は栗本薫名義で出版して、評論は中島梓名義で出版して使い分けていた。エロ漫画家が一般向け作品ではポルノと区別するために違うペンネームを使って、エロ漫画家として築いたブランドのイメージを崩さないようにすることもある。

●ブランドの役割

・差別化
独自のブランドを確立するためには他のブランドと差別化する特徴が必要になる。高級ファッションブランドはデザイナーの名前がそのままブランド名になっていたりして、デザイナーの感性で差別化している。機能性やデザインや品質だけでなく、ロハスを売りにしたオーガニック繊維のブランドとか、エコを売りにしたリサイクルしやすい服のブランドとか、発展途上国のフェアトレードを売りにしたブランドとかのライフスタイルや社会問題の次元でのコンセプトで差別化する仕方もある。

・認知度向上
農業や漁業では全国どこでも似たような作物や魚があるので、ブランド化して認知度を上げて他の産地と区別しようとしている。例えばメロンの産地は日本各地にあるけれど、夕張メロンは夕張キングという赤肉のメロンの種類よりも産地がブランドとして認知されている。

・市場のポジショニング
企業はブランド化してコンセプトを絞ることでどこを売りにするのか明確にして市場戦略を練りやすくなるわけである。例えばAKB48は商品である歌やダンスはアイドル業界の標準レベルでたいしたものでないけれど、「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしているだけあって小劇場で毎日公演していることでアクセスの良さが市場支配レベルで、握手会のファンサービスや選抜総選挙という経験価値が他のアイドルと差別化できるレベルだったので、もっと歌がうまくて見た目がいい女性歌手よりも人気になって一世を風靡したアイドルブランドになって、SKEやNMBとかのサブブランドもでてきた。これはコンセプトが成功したといえるし、個々のアイドルが平凡だという欠点も人数の多さでカバーしていて、もし3-5人の少人数のアイドルグループで同じことをやろうとしてもうまくいかなかったかもしれない。AKB48を卒業した人たちはあまり活躍していないけれど、AKB48のブランドの特徴がなくなったらアイドルの標準レベルにすぎなくなったので、知名度ほどの活躍をしないのも当然と言える。AKB48はアイドルの管理が標準以下で交際がばれたりしてスキャンダルが多いのが欠点で、それと対照的に「会いに行けるアイドル」のコンセプトをなくして専用劇場を持たない乃木坂46が人気になった。これはAKB48と差別化して清楚な感じを売りにして別のポジションを狙ったのが成功したといえる。

・品質管理
どの店や商品にも屋号や商標はあるけれど、商標があるだけではブランドとして価値があるわけではなくて、ブランドとして価値を持つにはコンセプトを体現してぶれないくらいの品質管理が必要になる。一定の品質を保つことがブランドであるための十分条件といえる。高級ブランドは価値を保つために偽ブランド品を取り締まるし、販路も直営店や代理店に絞って商品が売れ残っても安売りして在庫をさばこうとせずに廃棄する。レストランのチェーン店は覆面調査員がマニュアル通りに商品やサービスを提供しているか抜き打ち検査して品質を保っている。贈答用の果物のブランドはひとつづつサイズや糖度とかを測ってばらつきがないようにしている。買う側にとってはブランド物なら品質に問題ないはずだという安心感があるので、高くても買う理由になるし、贈答用としての需要もある。

・社会的記号
ブランドが何かのコンセプトを表しているので、そのブランドの商品を身に着けてることでブランドのコンセプトに共感する思想を持っていることを表す記号になる。コンセプトを理解せずにただ高いブランド品を寄せ集めても趣味の悪い成金扱いされる。
何百万円もするバーキンも、自作のハンドバッグも、バッグとして持ち運べる物の量自体は変わらないし、コスパだけで考えるならたかが物を運ぶための入れ物に何百万円も使うのは非効率である。それでもあてくしは金持ちセレブざます、そこいらの庶民とは違うざます、というアイデンティティを維持するための道具として必要なので高級ブランドに需要がある。パーティーとかに出かけて社交する人には高級ブランドのファッションがマウンティング合戦の武器になるし、家に客を招く人は高級ブランドの家具が自慢の種になる。楽天モバイルで何十億円も横領した部長の妻が高級ブランド品を買い漁っていたそうだけれど、盗人が高級ブランドを身に着けたところで立派な人になれるわけでもなのに承認欲求を満たしたいので散財するのだろう。最近はセレブ気取りのインフルエンサーがアリエクスプレスで安く仕入れた服を独自ブランドと称してフォロワーにぼったくり価格で売っているそうだけれど、持ち物を見ればそういう偽セレブと本物のセレブの違いがわかる。逆に大金持ちのトレーダーのBNFが家具がない生活感のない部屋でカップラーメンを食べているのも当然で、社交しないし家に人を招くわけでもないので自己プロデュースの社会的記号として高級ブランド品で部屋を飾り立てる必要がないのである。

・精神的充足
高級ブランドはしばしば庶民の憧れの的になって、ブランド品を持つことが頑張ったご褒美とか記念日のプレゼントとかの精神的充足の手段になる。しばしば日本人は不釣り合いなブランド品を持っていて、猫背でO脚で歯がぼろぼろな人が高級ブランドの靴や鞄を持っていても映えないし、物の良し悪しもわからなそうな女子高生が高級ブランドのサイフを持っていても売春してそうで似合わない。何に幸せを感じるかは人それぞれなので別にいいけれど、ブランド品を買うよりも他にやることがあるんじゃないのという感じがする。収入に見合わない買い物をして買い物依存症で破産する人もいるので、精神的充足を得たいなら他の手段のほうが良いと思う。

●人間のブランド

最近はAIチャットボットが人間っぽい返答をしたりプログラミングをしたりするようになって、情報の正確さは課題があるけれど反応の速さや処理能力は人間以上である。そのうえAIは人間と違って疲れないし、ダメ出しして何度もやり直しさせても機嫌が悪くなって仕事をさぼることもないので、電力さえあれば24時間稼働できる労働力になる。産業革命で機械が単純労働をする労働者の仕事を奪ったように、今後はカスタマーサポートや受付とかのサービスがAIに代替されるだろうし、人間がAIと同じことをやって競ってもコストや能力で勝てないので、AIと同じ分野で競争するのでなくAIに代替されないための差別化が必要になる。
人間は能力だけでなくモラルもAIより劣るかもしれない。AIは欲や感情がなくて意図的に犯罪をしないというだけでもDQNよりも労働力として優れている。AIに会計を任せればレジから金をくすねることもないし、AIに受付係をさせれば好みのタイプの客の個人情報をメモしてストーカーすることもないし、ツンデレ応答パターンとかのユーザーの好みを学習した萌えAIが出てきたら嘘をついて金をせびる場末のキャバ嬢の需要はなくなるだろうし、AIよりもモラルが低い人間は社会に必要なくなるかもしれない。中国は信用スコアでモラルを数値化しているように、今後は労働力として役に立つことよりもモラルがあって社会に悪影響を及ぼさないことが重要になって、AIの進歩が労働観や人間観を変えるかもしれない。
じゃあAIと差別化して人間だけが持ちうる長所とは何か。中世の貴族社会では貴族の血統や教養がブランドで、戦国時代は戦闘力や忠誠心がブランドで、資本主義社会では金が多いことがブランドで、SNS社会ではフォロワー数が多いことがブランドだけれど、今後はたぶん真善美のパラメーターが高くて尊敬や愛情を集められることが人間のブランドになるかもしれない。今は金持ちや有名人が成功者としてもてはやされているけれど、数百年くらい後に機械やAIが労働の主力になって人間があまり労働する必要がなくなって資本主義が終わった後は人間主義になって、古代ギリシア人が奴隷に労働させて暇になって哲学にふけったようなのをもっとハイテクにやる感じになると思う。そしたらモラルが低いサイコパス経営者や迷惑系YouTuberとかはいくら金持ちや有名でも蔑まれるようになるかもしれない。

●小説のブランド

最近はあまり小説を読んでいないけれどこのブログは主に読書ブログなので、小説のブランドについても考える。
昔は『白樺』が理想の人間像を書いた小説を載せていたり、初期の『文學界』が芸術至上主義を出版方針にしていたように、文芸誌がコンセプトを絞ってブランドとしての役割を果たしていたのだけれど、今は文芸誌のコンセプトがなくなって差別化できなくなっている。漫画雑誌はジャンプが努力友情勝利のバトル系でヤンマガがアウトロー系みたいに雑誌ごとに大まかな特徴があって看板作品があるけれど、純文学はフェミニズム特集や外国文学特集とかの企画をする程度で連載している小説自体が差別化になっていない。
村上春樹の小説ならなんでも買うハルキストがいるように作者がブランド化していて、出版社はそれに味をしめたのか芸能人だのモデルだのの変わった経歴を持った小説家を推す傾向がある。しかし商品の品質管理ができていなくて芸術観がないうえに文学理論を理解していない下手な作家だらけなので、作者で話題づくりして売ろうとせずに作品本位に戻るべきである。ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略をとるにしても、小説自体が標準レベル以下で刺激や感動がなかったら他が良くても小説としてはだめである。
本来は文学賞が作品の品質を保証したり差別化したりする役割として機能するべきなのだけれど、これも機能していない。芥川賞だろうが三島賞だろうが下手な新人の作品の中から多少ましな程度のものを選んで話題作りするおざなりな行事になっていて受賞作だからといって良い作品というほどでもないし、芥川賞と三島賞で選考委員は違うけれど候補作の作風が違うわけでもないので差別化もできていない。ブランド化するならリアリズム文学賞や私小説文学賞とかの作風やテーマごとに文学賞を作って差別化する方がよいし、似た作風の中で良し悪しを比較しないと品質を保てないだろう。
小説家はファンサービスとしてサインを必死に何百冊も書いているけれど、これはたいしたサービスになっていない。私は小説が面白ければそれでよくて作者には興味がないのでサインはどうでもいいし、サインがあるからといってつまらない本を買う理由にはならない。登場人物の一覧をつけたり難読漢字にルビをつけたり物語の舞台の地図をつけたり解説をつけたりして、読書の体験を豊かにするサービスこそ本来小説に必要なものである。
あと文芸誌はアクセスが悪くて、発行部数が少ないせいか大きな本屋に行かないと売っていないし、売り切れていたりするし、わざわざ買いに行ったり定期購読したりするほどの魅力もないので、楽天マガジンとかの電子書籍のサブスクで読めるようにしてほしい。他の雑誌が電子書籍化できているのに文芸誌の電子書籍化ができていないのでは業界標準レベル以下である。損して得取れで、紙の雑誌はどうせ売れないのだからせめて電子書籍化してアクセスが良くなれば純文学に興味を持つ人が増えると思う。





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最終更新日  2023.04.20 02:13:27
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Re:ブランドについて考える(04/12)  
ラムネ さん
最後の文芸誌についてなのですが、個人的には値段も少し高いなと感じます。原稿料の関係なのか知りませんが大体一冊千円前後で、毎月買うには手を出しづらいです。三角猫さんはどう思われますか。 (2023.04.15 16:36:09)

Re[1]:ブランドについて考える(04/12)  
三角猫 さん
ラムネさんへ

雑誌のサブスクで月額400-500円程度で数百冊の雑誌を読み放題なのに、文芸誌1冊に千円払うのはコスパが悪いです。千円は文芸誌のファンのコレクションアイテムとしての値段で、ファン以外の人が暇つぶしに気軽に雑誌を買って読み終わったら捨てようと思えるような値段ではないし、内容も値段に見合っていないと思います。私は貧乏なので、どうしても読みたい特集や新人賞とかがない限り文芸誌はわざわざ買いません。 (2023.04.16 01:16:31)

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