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講談社文庫著者/訳者名 : 村上龍/〔著〕 出版社名 : 講談社 発行年月 : 1990年08月 価格 : 770円(税込) <感想> 村上龍の小説は不思議な香りがする。 高尚だが俗っぽく、真面目だが退廃的な雰囲気も漂う。この「愛と幻想のファシズム」は近未来小説という位置付けになるのだが、同時に政治経済小説でもあり、SFでもあり、恋愛小説でもあり、男の友情の物語でもある。 その圧倒的な情報量は読者を知的興奮に酔わせる。 筆者はあとがきで「システムに抗する人間を描きたかった」といっているが、日常というシステムは確かに強固だ。 9・11のアメリカ同時多発テロの翌日にも、自分の町のマクドナルドでは家族連れがニコニコしてハンバーガーを食ってたりするくらい強固だ。 ちょっとやそっとじゃ崩れないシステムを緻密かつ大胆な行動で崩していく、主人公達には確かにシビれる。 しかし新しい体制(作中ではファシズム)ができたらできたで、それは新しいシステムの構築に他ならず、それはまた一部の人の憂鬱になっていくに違いないのだ。 もはやシステムの破壊などありえない。唯一できるとすれば、脳の中でのシステムの破壊しかない。 その意味で、脳の中でシステムを破壊してくれるこの小説は意義がある。 それにしてもこの小説はうまそうな食い物他ががたくさん登場する。肉、酒、煙草・・・嗜好品に埋没するという世界もシステムへの反抗には有効なのだといわんばかりの感もある。 ところで「皆、楽だから奴隷になる」という主人公の言葉があるが、村上龍という作家は、自分のことを奴隷と思っているのだろうか。人気作家だから奴隷じゃないのか?(笑) とにかく今後も村上龍は読みつづける必要がある。
2005.02.24
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新潮文庫著者/訳者名 : 畠山清行/著 保阪正康/編 出版社名 : 新潮社 (ISBN:4-10-115521-6) 発行年月 : 2003年08月 価格 : 900円(税込) 目次 第1編 諜報戦の内幕(戦争とスパイ講和に負けた日本 ほか)第2編 陸軍中野学校の「秘密教育」(兵務局分室と海狼艦隊後方勤務要員養成所 ほか)第3編 開戦前夜の南方工作(淡路町謀略事務所マレーの虎『ハリマオ』 ほか)第4編 日米開戦と対外工作(開戦秘匿の『寿』無電真珠湾に吹いた神風 ほか)第5編 戦慄の国内工作(狙われた吉田茂吉田邸に二人の女スパイほか)本の内容 「謀略は『誠』なり」―欧米諸国に対して情報戦に出遅れた日本は、昭和十三年、秘密裏に工作員養成機関「陸軍中野学校」を誕生させた。軍部の因習から離れた合理的、開明的な教育は、敗戦までの僅かな間に驚嘆すべき成果を挙げるが…。諜報とは何か、謀略とは何か。出身者たちの活躍と失敗を徹底的に追いながら、戦争の裏面と工作員の実態に迫った傑作ノンフィクション作品。<感想> 「スパイ」というと映画やドラマでおなじみの「黒メガネに黒いコート」なんて姿を連想しますが、ちょっと考えればわかる話で、そんなアヤシイ格好では日常社会で目立って仕方ないわけです。「諜報活動」というものは、そこの世界にしっくりと馴染んで生活し、目立たず騒がす、長期的に情報を本国に送るのが使命なわけです・・・ なんてこと書いてますが、この本を読むまでは「リアルなスパイ活動」なんて想像できるものではありませんでした。 第二次世界大戦時、遥か彼方の異国に潜入し、民間人を装って生活しながら情報を送り続けた日本人がたくさんいたということは私にとってなかなか衝撃でした。 「陸軍中野学校」とは第二次世界大戦中に実在した、日本陸軍によって設立された当時世界でも珍しい「国立スパイ養成学校」です。国際的に見て諜報の分野で出遅れた日本が、よりすぐりのエリートを密かに集めてスパイを作り出そうという目的のもと設立されたものです。 驚きだったのが中野学校内では思想的にもかなり自由であったということ。「天皇制の是非」などという議論もされていたというから驚きです。 「外国へ行って、天皇の存在、尊厳を説いても通じるはずがない。もっと現実性と合理性をもってあたらねば諜報活動などできるわけがない」というわけです。 現代では当たり前の考えですが、この当時の軍部にそういった考えを持つ若者がいたというのはさすがはエリートの集まりというべきでしょうか。 この本は中野学校を中心に書かれてありますが、第二次大戦中の諜報活動に関する事件・人物がたくさん登場します。その手の話が好きな人はかなり面白く読めるのではないかと思います。 本当に数奇な事件、悲しい運命、感動的な人生というのはあったもので、ほんの数十年前にそんなことがあったんだなあなんて思うと、なんというか胸が熱くなります。 最後に世界各国に単身散っていく卒業生たちに送った中野学校の教材にある明石元二郎大佐の言葉を 「諸君は輝かしい未来を持っている。諸君の才能を持って努力したならば、未来の大臣も、大学総長も、あるいは会社の社長にもなれるだろう。だが国の発展を期するためにもっとも必要なのは、大臣でも大学総長でも会社の社長でもない。名利を求めず、一身一家を捨てて、日本民族発展の礎となる人物である。」感動・・・彼らが礎となった日本は今どうなんでしょうか?彼らに恥ずかしくないような行き方をしたいと思いました。
2005.02.22
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著者/訳者名 : 宮部みゆき/著 出版社名 : 新潮社 (ISBN:4-10-136923-2) 発行年月 : 2004年07月 価格 : 900円(税込) 本の内容 事件はなぜ起こったか。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか―。東京荒川区の超高層マンションで凄惨な殺人事件が起きた。室内には中年男女と老女の惨殺体。そして、ベランダから転落した若い男。ところが、四人の死者は、そこに住んでいるはずの家族ではなかった…。ドキュメンタリー的手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。<感想> 直木賞受賞のミリオンセラー。 東京荒川区の高層マンションでおきた一家四人殺害事件の驚愕の真相とは? 宮部みゆきのこの息のつまりそうな設定のリアリズムは何なのだろうと思います。現代社会という「高層マンション」をどこかの面でスパッと斬ったらその断面に浮かび上がりそうな人々の生活、表情、息づかい・・・その一つ一つを丁寧に描いたらこうなったという感じの小説です。そこには背中をぞくっとさせられる質感があります。 劇中、社会や親、親戚といった係累から逃げようとしてもがく登場人物のあたりは、現代人なら誰しも持ったことのある不安や願望をえぐるような思いをさせます。しかも誰かが言う「そんなに簡単に過去や血のつながりからは逃げられない」と・・・。 「火車」でもそうでしたが、宮部みゆきにはリアルとファンタジーのぎりぎりのラインにいる感じがします。確かに設定はすごく現実的なのですが、話は都市伝説的というか、ちょっと「おとぎ話」チックになる気がする。 でもその辺が面白いところでもあり、魅力でもあるわけです。現実よりも虚構がいい場合もある。回転寿司でエンガワ食ってたとして、実は遠洋から採ってきた名前も知らないような魚だったりするわけで、でも実は本物よりウマイみたいな。ちょっと違うか(笑) 宮部みゆきにはそういうアヤシサも感じるわけです。でも、現代社会なんてまさにそういうアヤシサの上に立ってるようなもんで、それはそれで、もう想像を超えたリアルなのかもしれないとも思うけど。
2005.02.08
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