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今回の台風はものすごく大きいということで、雨戸のない我が家はベランダに防風ネットをかけ、台風にそなえた。けれど、目の前のはげかけた瓦がとんでくることもなく無事通過しつつある~(ホッしかーし、朝、暴風圏内に入り、もう夕方の5時になろうというのにまだ、外では強風が吹き荒れている~~~。被害はないけど、家に閉じ込められている子供達が走り回り、家の中が台風が通った後のように、すごいことになってしまった~~~。(><)ところで、バイト決まりました~~。某ブランド服の販売のパートです♪(^^)v9月中旬から働く予定!がんばるぞ~~~い♪
2004.08.30
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(6)帰宅 照正は春奈の病室に入り、心が高校生に戻った妻を見つめた。 妻は、右の手足を固定して吊るされた状態で眠っている。怪我は痛々しかったが、口元に笑みを浮かべて眠っている妻は幸せそうに見えた。「本当に心配したし、おまえがいなくてたいへんだったんだぞ」 照正は優しく話しかけると、汗をかいた額と首元をハンカチでそっとふき、病室の隅に椅子をもってきて静かに座った。 照正はうとうとしながら10時まで、付き添っていたが、この日春奈は起きなかった。 照正のアパートは、病院から大通りを5分程歩いたところにある。 行き交う人々の声、車や電車の騒音は、照正の耳には全く届かず、暗いヌメヌメした洞窟をただただひたすら歩いているような感覚におちいる。 事故を知らせる電話、悲鳴をあげたあの時の妻の他人を見るような表情、あどけない表情で眠る妻、睡眠不足でミスを連発してしまい怒鳴る上司の表情が照正の脳裏を駆け抜けていく。 とにかく今日は何も考えず眠ろう。なるようにしかならないのだから。 とにかく妻は生きていたのだから。
2004.08.17
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(5)待合室で・・・ 春奈が入院している総合病院は午前中しか診察しないため、午後の待合室はガランとしている。 しかも夕方の5時を過ぎていることもあり、まばらに人がいるきりの待合室の黒いソファに腰掛けながら、男は春奈の母をじっと見つめた。この男は春奈の夫で原田照正という。 「で・・・・春奈はどうなんでしょうか。」「心配いりません。4ヶ月程で退院できるみたいです。ただ、右手と右足を複雑骨折しているので、退院後もしばらくは家事は無理かも・・・」「そうではなくて・・・・」春奈の夫はまどろっこしそうに春奈の母の言葉をさえぎった。「春奈は僕の事、わからないようなのですが・・・」 春奈の夫がそう言った後、二人の間に重たい沈黙が流れた。拓哉は炭酸入りのオレンジジュースを喉を鳴らしながら飲んでいる。 春奈の母は、ため息をついた。「先生の話は聞かれましたか?」「はい。頭を強く打ったせいで、一時的な記憶の錯乱がおきているのでしょう・・・と。」「そのようです。今の春奈は頭を打って少し混乱しています。でも一時的なものだと先生もおっしゃっている事ですし、退院するまでには、多分・・・・。」「私を見て、悲鳴をあげたんですけれど、拓哉を連れて今から会いに行けますか?」「それが・・その・・・・」 春奈の母は言いにくそうに言葉を濁した後、春奈の夫の目をじっと見つめ言葉を継いだ。「春奈は記憶が混乱しているようで、言いにくいのですが記憶が結婚前に戻っているようなんです。正確には17歳頃に・・・・」 春奈の夫は眉をよせた。「それで、その・・・。多分拓哉をみても、自分の子だとわからないかもしれません。というか解らないでしょう。まだ8歳の拓哉にそんな春奈の姿は見せたくありませんし、拓哉も傷ついてしまうと思うのです。」 春奈の母はここまで一気に言ってしまうと目を一瞬閉じ、ゴクンとツバを飲み込み言葉を継いだ。「それでその・・・・・拓哉と会わせるのはせめてもう少し・・・・・」 春奈の夫は辛そうにうなずいた。「春奈が無事だっただけで十分です。私は・・・私は会えるでしょうか?」「もちろんです。会ってやってください。会えば今は解らなくても、記憶が少しずつ戻ると思います。ただ・・・・今は寝返りもできないような状態なのです。さっきのように興奮してしまうと怪我に障るので、本人が自分で照正さんの事が解るまで、春奈に会う時は自分が夫だという事を伏せてもらえないでしょうか?」 春奈の夫はフーーーーーッと深くため息をつく。「解りました。私も今朝方のように悲鳴上げられるのは辛いので・・・・、そうします。」 春奈の母は言いにくい事を言い終えホッとしたようにうなずくと拓哉に優しく笑いかけた。「拓哉、お母さんは大丈夫だけど、まだ誰にも会える状態じゃないの。今からおばあちゃんと何か食べに行こうか?」「お母さん大丈夫なの?死んじゃったりしない?」「大丈夫!早く治って拓哉に会えるようにお母さん頑張っているから、拓哉は沢山食べて大きくなってお母さん驚かしてやろう?」 春奈の母は明るい声でそういうと、春奈の夫に目で軽く合図をし、拓哉の手をひき病院を後にした。
2004.08.16
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春奈の病室の窓からは、病院を縁取るように3メートル位の間隔で植えられたまだ若い桜の木と、申し訳程度に植えられた盛りを過ぎたおしろい花が見えるのだが、起き上がることのできない春奈には西日を肌で感じ空の色が変わっていくのをぼんやりと見る位が精一杯だ。 しかも、西日が強くクーラーが効かないので、母がカーテンを閉めてしまった。 個室なので、母が去った後は話し相手もなく、春奈は病室の天井をぼんやりと見つめていた。 耳をすますと、子供の甲高い声が窓の外から聞こえてくる。「お父さん!!ここに蝉がいるよ!!!捕って!」 ああ、蝉の声も聞こえる。 この鳴き声はツクツクボウシだ。 ツクツクボウシは木の高い所にとまるから、なかなか捕りにくい。春奈は顔が緩むのを感じた。 夏の終わりを告げる頃に鳴くツクツクボウシ。 春奈の頭の端に、日に焼けた畳の上に寝そべって蝉の名前と姿が羅列する図鑑らしい本を読む小さな男の子の風景がチラリとよぎった。 あれっ?あの男の子は誰だっけ? しかし、背中が痛くて体の向きを換えようとモゾモゾし終わった後、春奈の頭の中に、その男の子のことは消えていた。 春奈の母は、春奈の病室を出た後、1階の待合室に降りキョロキョロと人を捜した。 いない。 1階の売店、食堂をキョロキョロしながらウロウロと歩く。 売店と待合室をつなぐ廊下の窓から、男の子が木によじ登っているのを見て、窓を開けた。「拓哉!そんなところに登って!危ないから降りなさい!」 春奈の母の声で、拓哉という少年と側に立っているがっしりした男が振り返った。「おばあちゃん!ツクツクボウシだよ!今年は、アブラとクマとニイニイは捕ったけれど、まだツクツクボウシは捕えていないんだ!」 アブラとクマとニイニイというのはどうやら蝉の種類らしい。「それでも、手で捕るのは無理でしょう?降りてらっしゃい。」「んーーーーっ」拓哉はくやしそうにうなると、ぴょんと2メートル半程の高さを飛び降り、窓から顔を出す春奈の母の側にかけてきた。「今度来るときは、虫取り網と籠をもってこよ~。おばあちゃん、お母さんどうだった?」「玄関周っていらっしゃい。」 拓哉の後ろでがっちりした男は暗い顔で会釈をし、拓哉を玄関の方へ促した。
2004.08.15
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3 診断 40代の眼鏡をかけた白衣の男が春奈のベッドの横に立った。 ベッドから起きあがろうとする春奈を寝たままでいいからと手で制して、「名前と年齢を確認していいですか?」「山中 春奈。17歳です。」 母が病室の端で不安顔で小さく立っているのが視界の端に見える。「お母さん。お母さん。手をにぎっていて。」春奈がつぶやくと、母ははじかれたように顔を上げ、春奈の側にきて手をにぎりしめた。 白衣の男は、春奈に、住んでいる場所、簡単な計算などを質問した。 質問に答えるのは簡単だった。春奈は母を安心させようとよどみなく答える。 ひととおりの質問が済むと、白衣の男は無表情でうなずき去っていった。 母の手は冷たく汗でぐっしょりだった。化粧のはげかけたつやのない母の肌を眺めながら、カズくんの事を考える。「ねえ、お母さん。学校には何と言ってあるの?きっとお友達が心配していると思うの。」 母は目を見開き何かを言いたそうに口を開いたが、何も言わなかった。 病室の窓から西日が差し込んでいる。母はぼんやりと病室の窓から外を眺め、ため息をついた。 耳を澄ませば、自動車の音、電車の音、子供の甲高い笑い声が窓の外から聞こえてくる。「もう寝なさい。何も考えなくていいから。ね?」 母は、西日の差し込む窓の白いカーテンを閉め、小さなため息をついた。「そう、今は何も考えてはいけません。眠りなさい。」
2004.08.14
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(2)そしてまた夢の中 カズクン・・・。 毎日、春奈はカズクンはサッカー部で部が終るのを教室から眺めながら待っていた。 春奈は、カズクンがサッカー部の人達と練習しながら笑ったり汗をかいたりしているのを見るのが大好きで、5分ほどで帰れる道を20分かけて一緒に歩く時間は宝物だった。 時には一緒に図書館で待ち合わせをした。一緒に映画も見た。 ただ目的もなく街を一緒に歩いてみたり、公園のベンチに座り一通りしゃべった後、一緒に空をみあげコバルトブルーの空をざっくりと切った飛行機雲を見つめた。「ねぇ、飛行機雲のできた次の日は、雨が降るって知ってる?」 カズクンは優しい瞳でちょっと見開いた。「えーっ明日は試合だぜ~。」そうだ。サッカーは少々の雨や雪でも試合をするんだったなあ。春奈はずっと昔の知識をたぐりよせるように思い出して、クスクスと笑った。「ねえ、私のどこがすき?」 バカな質問だ。でも優しい返事が聞けるとわかっているからこそ、春奈はからかうように、恋を確かめるようにその言葉を口にした。 カズクンはこんがり焼けた茶色い顔を少し赤らめて照れたように笑い、「春奈は気が強くてはっきりものをいうだろ?」「うん?」「結構クラスでも目立っていたし、誤解されやすい子だなーってハラハラして目が離せなかった。」「で、私のどこが好き?」「目が離せなくて」カズクンはあらぬ方向を向いていた。「うん」春奈は声がうわずっていた。「もっと春奈と話してみたいと思ったんだ。」そしてカズクンはゆっくり視線を春奈に合わせ「好きなのは好きで、どこと言われてもうまくいえないよ。」と優しく早口でつぶやいた。 春奈は体の中に甘い電気が走りぬけ、幸せで泣きそうになる。 こんなにも優しい眼差しで自分を見ていてくれた男の子がいたのだ。同じ教室に。「で?春奈は俺のドコが好きなんだよ?」「え・・・・、笑った顔とか・・・なんとなく。」「なんだそれー」カズクンは呆れた顔で笑った。 ある冬の帰り道、 「寒い。手袋忘れちゃったー。」と吐く息で手温める春奈の手をカズクンは引き寄せキュッとにぎりしめた。 温かい手だった。初めて男の子と手をつないだ瞬間。 この年の冬はとても寒かったけれど心の奥からホカホカしていて春奈はいつも笑っていたような気がする。 カズクンとの思い出を記憶のなかで優しく何度も何度も繰り返し温かい気持ちに満たされていると、急に真っ暗な空間に突き落とされた。 夜のコンビニの前に春奈は立っていた。 真っ暗な空間に白く浮かび上がるコンビニは、まるで砂漠の中のオアシスのように、若者が夜中でもたむろっている。 ガラス張りの中で本の立ち読みをするオジサンがふいに顔をあげ何かを叫んだ。 背後から鼓膜を震わす悲鳴と地響きを感じ、振り返るとすでにダンプカーが春奈の背後まで迫っていた。 激しい痛みと衝撃で悲鳴すら声にならない。 !!!!!!!「春奈!春奈!」 ふいに体を揺らされた。 ハッと目を開けると、そこに小柄な女性が顔をくしゃくしゃにして泣きながら春奈の肩をゆすったり擦ったりしている。「お母さん!」 めっきり老け込んだ母の顔を覗き込み、「わたし・・・・」何かを言葉にしようと思うのだけれど、頭が働かず言葉にならない。「びっくりしたねー。本当に無事で良かった。ダンプカーの居眠り運転に巻き込まれて無事だなんて本当に運のいい子だよ。よかった。本当に良かった。」 ああ、やはり私はダンプカーにひかれてここにいるのだと思いなおし春奈は母の涙に濡れた頬にそっと触れた。 きっと母は私を心配しすぎてショックでこんなに老け込んでしまったのだ。 春奈は母に対して心配かけて申し訳なく気持ちと母が側にいる安心感で大きく息を吐いた。「学校は?」やっと言葉にすると、母は涙ぐんだ顔で何度もうなずき、息をスウッと吐いて春奈を優しくさすりはじめた。「大丈夫。拓哉はきちんと学校に通っていますよ。明日あたり、学校帰りにこさせようね。」 春奈は首をかしげた。「?拓哉くん?そんなお友達いないけど?カズクンと間違えているんじゃない?」 母は涙がとまり首をかしげた。「カズクンって誰よ?拓哉は春奈の息子でしょう?あんな小さい子が、春奈の事故の事で、どんなに心配して、胸を痛めたか・・・。あれだけ心細い思いさせといて、変な冗談言うのはやめなさい。照正さんもどんなに心配したか。」ピシャリと言われ、春奈は本気で首をかしげた。「何を言っているの?私の高校は?お休みしているの?」 母は瞳を大きく広げ、ナースコールを押した。「先生!春奈が変です!先生!」------------------------------------------------あとがきえーーっと(汗書きながら何度か訂正しました。名前とか(汗訂正中に読んでくださった方すみません。目下就職活動頑張っていて、仕事につくまで小説を1つ仕上げようと書き始めました。来週の月曜日も正社員の面接があります。条件が良いので決まるといいな。では、続きも頑張って書いていきますので、読んでもらえたら嬉しいです。
2004.08.13
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(1)目覚め 真っ白な空間にもうずいぶん長い事放り出されていたような気がする。 その間、誰かが自分の名前を呼んだような気がするけれども、それも定かではない。 ものすごく頭が痛い。割れそうだ。 ただ、痛みだけが春奈をこの世の形あるものとしてとどめていた。 春奈は自分の額を左手で押さえうずくまった。左手にべっとりと脂汗を感じ、嘔吐しそうになる。 目が覚めるときはいつもそうなのだが、顔が目が口が春奈の思うとおりにならない。 ああ。夢を見ている。これは夢だ。 そろそろ起きなくては・・・。 春奈は顔をゆがめるようにして目をそうっと開けてみた。 耳元で鍋をガンガン叩かれているような頭痛を感じ、春奈は道ではない赤茶色い煙の中のような空間をよろりと歩き始めた ああ、これも夢だ。 春奈はそう感じ、ふと顔をあげると、そこは教室だった。というか赤茶色い煙の中で、唯一浮かび上がった高校の2年5組の教室。 春奈はひんやりとした壁に手をあて教室の入り口から、西日のあたる窓際で笑う男の子達をぼんやりと見ている。数人いる男の子の中でたった一人の男の子の笑い声と表情だけがクッキリ浮かび、教室の入り口に立つ春奈を振り返った。 その男の子と目が合った瞬間、切ないような幸福感が春奈を満たし、頭痛がスウッーとひいていった。 その男の子はガタリと席を立ち、春奈の立つ入り口に近づいてきた。 そして春奈の横まで来てピタリと止まると耳元でささやいた。「好きだよ」 春奈は一瞬硬直し、その後からだが気体になってしまったかのように自分がなくなってしまった。「好きだよ」「好きだよ」「好きだよ」 男の子の言葉だけが春奈の頭の中の空間に何度も何度もこだまする。 私の大好きな男の子。 しかも私の事を好きだと思ってくれる男の子。 春奈はたまらず声をあげた。「カズくん!」 自分の声で、目を覚ました。 白い天井、消毒液の匂い。 なにより体が重くて起きあがれない。 必死で目だけで周りを見渡すと、見知らぬがっしりとした男が春奈の手を握って春奈の枕元でウトウトと眠っている。 春奈は見知らぬ男が手を握って寝ている事にびっくりして、手を振り払おうともがくと、男はガバッと起き上がり、春奈をじっと見つめたのち、ガバッと春奈をだきしめた。「きゃーーーーーーーっ」 恐怖のあまり悲鳴を上げると白衣の女性が2人かけつけてきて、春奈を抱きすくめる見知らぬ男を慰めるように諭しながら追い出してくれた。 春奈は自分がいるのが病院だという事を推測しながらも何が起こったのかわからず、子供のように泣きじゃくり始めた。「お母さんは?お母さん・・・・。お母さんは?私なんでこんな所に?」 何がなんだかわからない。 お母さん。助けて。 年配の浅黒いがしかし優しい顔つきをした女性が春奈の母の代わりを努めようかというように、春奈の手や頬を優しく擦り始めた。「大丈夫ですよ~。お母さん呼びましたからね。目を覚ましたと聞いたらお喜びになりますよー。もう大丈夫安心してくださいね~。」 歌うように優しく話しかけてくれた後、点滴を入れられた。 春奈は体中の痛みがひいていき、また意識が遠のいていくのを感じた。 ともかく眠ろう。 お母さんが来るまで・・・・。 何が起こったのかはよくわからないけれど、お母さんが来てくれたらきっと大丈夫。 お母さん・・・。
2004.08.12
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宇宙が透けそうなほど透明に近い水色の空の東側に島のようにデーンと構える入道雲。 ワカメ色の海水は表面に金粉を散りばめキラキラと光っていて、その上を漁船や水上スキーを楽しむ人々が、スウーッと白い線をひいていく。 もったりとした海水に浮かぶ島々。 旧式のあちらこちら錆び付いたフェリーの手すりに寄りかかり、夏の鮮やかな景色を無言で眺める私の脳裏に浮かぶのは、寒々とした冬のフェリーの錆びた鉄階段にハンカチをひきチョコンと座る私の祖父母の姿。 私の母は人口5千人程の小さな島に生まれた。 その小さな島で、祖父はミカンを作り、祖母はお菓子やパンを作り生計をたてていた。 小さな島ながら港に近く家の前が銀行だということが母の小さな小さな自慢だった。 かつかつの生計ながら、子供にしっかり学問をつけたいと願う祖父母は2人きりの子供を大学に入れた。 県外の大学に通う母はそこで父と知り合い、他県に嫁いだ。 母の弟は大きな会社に就職し、全国を転々としている。 2~3年に1度の盆と正月に帰ってこられるかどうかの子供や孫達を、笑顔と採れたての魚で迎えてくれる祖母。 すっかり遠くなった耳をかたむけ、何度も何度も優しくうなずく祖父。いろんな色の石がはめ込まれた広い玄関から入ると、古く広い部屋が4つあり、みんなが集まる仏間には線香と湿気の匂いがまとわりついていて、この匂いを嗅ぐと祖父母の家に来たのだという実感が幼い頃からあった。 そんな祖父が、私が高校に入った年の冬に足を悪くして、もう起き上がれないと宣告された。 しかし、「祖母の手厚い看病と祖父の生命力もあって杖をついて歩行できるまでになった。」というのは遠い実家になかなか帰れない私の母のさみしさを紛らわすような自慢話の一つ。 短大に入った年の冬のある日、法事の為2年ぶりに実家に帰った母を、子供の頃は思い及ばなかったガイドマップと少し稼ぐようになったアルバイト代を片手に私はウキウキと旅行気分で追っかけた。 いつものフェリーに乗り、冷たく刺さるような甲板に立っていられず客席のある部屋に座ろうとした所、フェリーの上り口の錆びた鉄階段にちんまり私の祖父母が座っている。 「おばあちゃん、おじいちゃん!!!」 祖父母にフェリーで会えた驚きと喜びと、風の吹きすさぶ階段に祖父母が座っている不思議さで一瞬言葉に詰まった。 「ああ。○○ちゃん、ようきたねー。」 笑顔で祖母は振り返った。「どうしてこんなところに・・・」言葉にならない言葉をどう伝えていいものか頭をめぐらせていたところに、母が私の背を叩いた。 「○○、このフェリーできたの?会えてよかった。」 「なんで、おじいちゃん達あんなところにすわってると?こんなに寒いのに、風邪ひくよ。」 「いいから、あんたは客室に入っていなさい。あんたこそ風邪ひくよ。」と有無を言わせず、私を客室に押し込んだ母は、刺すような北風の吹き込む甲板から祖父母から見えない場所から、祖父母を見守っていた。 後から話を聞くと、杖をつけばなんとか歩けるようになった祖父だけど、フェリーの急な階段の上り下りは時間がかかるしものすごく大変らしい。 そんな訳で、「ここにいれば、人に迷惑をかけずにすぐ降りられるから」と真冬のフェリーの鉄階段にハンカチを敷き、祖父母は北風にさらされながら、30分会話もなく座って病院へ通っているのだった。 孫の私や娘である母が風除けにと側に立つと、「お前達がここにいると風邪引くから」と本気で嫌がる祖母が気になり、結局甲板の端で祖父母に見つからないように祖父母を見守る母。 私にとってフェリーに乗るという行為はほとんど母方の祖父母の家に遊びに行く事だった。 そんな訳で、この光景が、フェリーに乗るたび昨日の事の様に私の目の前にまざまざとよみがえり、私の胸をチクチクと刺したり重たいものを飲み込んだ気分にさせるのだった。 今年の夏は祖父の一周忌。 優しくて穏やかな祖父だった。「年をとるという事はなんと残酷なことだろう」 自分の老いた両親に接したあと、母が必ず漏らす言葉。 私の子供達が甲板を走り回り、ハッとする。「危ないから、お父さんと客席のある部屋に入っていなさい」 夏の湿気を帯びた海風に目を細めアキラが私を見上げた。 祖父の冷たく刺すような風に目を細め私を見上げた笑顔と一瞬重なった。 アキラの戦う事が嫌いなおっとりとした気質は祖父の血からくるものだと、母は嬉しそうによく言っていたことが私の頭をよぎる。 ともかく、芽吹き初めたばかりの命がここにある。
2004.08.11
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