
灰蘇の剣銃
38
「柄留と亜瑠」
言葉に詰まり肩を震わせる亜瑠。それを見た柄留はオロオロと和音の顔を見ている。
「亜瑠、お前が寝ている間に何があったか聞いてくれ」
和音が言った。
M (亜瑠)の足取りを追っている内にオータムホースの問題に巻き込まれ、蒐魅の事を知り、院瀬見派閥と戦い第六区を解放、 DMC のトップを斃した事を話した。
「そうなんだ……蒐魅のやりたかった事を和音と柄留がやり遂げたんだね……あたしと蒐魅であんた達二人のように大活躍のあげく解決したかったなぁ……」
「オレと柄留だけでやり遂げたんじゃないぞ。守山探偵事務所に比留山さん、鈴村功太朗、 G/T の連中に LOKI ……それと亜瑠と蒐魅が居たから出来たんだ」
「そうだよ亜瑠ちゃん!」
柄留が急に大きな声を出した。
「全部繋がってるんだよ……亜瑠ちゃんがこの流れを引き寄せたんだ!」
「……でも肝心の蒐魅がいない」
「うぅ……」
「グレイキャリバー蒐魅との最後の戦いの時、あの子はもうおかしかったんだ。限界を超えたサイバネ改造手術にグレイキャリバーの融合。最終的には院瀬見、 DMC のクソ野郎を殺して回る殺人マシーンみたいになってた。蒐魅は何をすれば第六地区を救えるのか DMC は何をすれば潰せるか解らないままがむしゃらに突き進んだ。あの子の知り合いで歌手の夢を追いかけてた少女が DMC に騙されてドラッグ漬けにされたあげく歌えなくなり自殺したり、知り合いの子供が企業のカス共の娯楽の為に残虐猛獣ショーで生餌にされたり。何も悪い事をしていない必死に働いてた家族の店があらぬ疑いをかけられクソサイバネの襲撃をうけたり……蒐魅から話を聞くたびにあたしは協力してどうにかしてやりたいって思ってたのよ。鈴村功太朗が蒐魅の協力者で負担を軽くするために戦闘フレームを使わせてた事を知ってた、だけどそれは蒐魅を救う事にはならなかったグレイキャリバーの影響を緩やかにはしてたけど」
「あ、ああああ……」
眼球を揺らして頭を抱える柄留。
「どうした柄留?」
「辛い辛いよ和音君……亜瑠ちゃんの話を聞くと蒐魅の思いがいっぱい流れてきて頭の中ぐちゃぐちゃになる」
「落ち着け、大丈夫だ」
柄留の背中をさすってやる和音。
「やっぱりお前は蒐魅でもあるしミレーヌでもあるんじゃないかな……白魔女の力とグレイキャリバーの力が相殺し合って蒐魅だけ取り出せると思ったけど体が無ければどうしようもない。消滅の前にミレーヌが自分の召喚体を使って蒐魅を拾ってくれた……のかな?ミレーヌの召喚体はあたしからできてる物だし奇跡を起こす代償で力を使い果たして意識を失った……戻って来るまで 1 カ月かかるほどね」
「うう……」
「ビルの屋上に変なトゲトゲの殻があったって言ってたでしょ?そこから柄留は生まれたんでしょきっと。あたしが意識を失った一か月後ビルの屋上で誕生した」
「え……じゃあボクってまだ 0 歳……?」
「でかい赤ちゃんだな。しっかし話し方はミレーヌそっくりだね……姿顔はあたしだし蒐魅っぽい所はなんかないの?」
「えっと……姿はきっと蒐魅の願望なんじゃないかな?亜瑠ちゃんの事大好きで憧れてたし生まれ変わったら亜瑠ちゃんみたいになりたいって思いがこの姿にしたんだと思う」
「ばっかやろう……あたしの姿なんかになるんじゃなくて蒐魅のまま戻って来いよ」
亜瑠が見つめると柄留は照れくさそうに微笑んだ。
「あぁ……今の表情とか蒐魅だ……はぁ、でももう居ないんだなあの子は……ミレーヌと蒐魅が残したのがお前なんだね」
立ち上がる亜瑠。枕元にあった小さなかばんを持って病室を出ていく。
「亜瑠ちゃん……」
「オレが追いかけてくる。お前は比留山さんとここで待ってろ」
病室を出る和音、亜瑠はエレベーターを待っていた。
「なぁに?ちょっと一人になりたいだけだってば……」
「話があってな……ちょうど二人で話したいことなんだ」
「ふ~ん……最上階のテラスに行くけどそこでいい?」
「ああ」
最上階の防弾ガラスで囲まれたテラス。亜瑠はカバンからミント吸入器を取り出して吸い始める。
「やばい物じゃないってば」
「知ってる。見栄えはよくないがな」
「学校とか家じゃ吸えないからね……別にこんなの飴ガムと変わんないのに」
「親父とお袋がそれ吸ってるの初めて見た時大騒ぎになったな」
「あ~不良になったとかなんとかね」
「吸い始めたきっかけは何だったんだ?」
「蒐魅のタバコ止めさせる為に買ったのがきっかけ……アイツ昔はタバコ吸ってなかったのに急に吸い始めたんだ。臭いし嫌で咳き込んでたしどうしても吸いたければこれにしなって渡したの。あの子はストロベリーバニラが好きだったよ」
「今考えると夏休みとか長い休みの時だけ会ってた亜瑠の友達の話、蒐魅だったんだな」
「そうだよ。あの子がウチの家に来たがらなかったし他の子に紹介して欲しそうじゃなかったしあたしと蒐魅だけで遊んでたね」
「話は変わるが……亜瑠、家の裏山での事覚えてるか?」
「裏山?変な仙人を名乗るおっさんとバチボコの特訓してた事?」
「覚えてたか。オレはこの街に来てその事を思い出したんだ」
「そうなの?」
「名前は確か輸波だった。」
「そうそう!そんな名前だった!!思い出しただけであのニヤケ面、腹が立ってきたわ」
「龍の力の事もこの街で思い出してきた。どうやら輸波に記憶を封じられてたっぽい」
「マジで!?高校生になって大人しくなったな和音~とか思ってたけど忘れてただけなんだ。でも結果良かったんじゃない?和音の力危険だったし……一番喧嘩っ早い時期に封じ込んだ輸波のオッサンいい仕事したよ」
「……そんなにオレは喧嘩っ早いか?」
「自分から仕掛けないけどアホが突っかかってきたら退かないじゃん。絶対ボコボコにするか圧かけて黙らせるかしてたし」
「……そう言われればそうか」
「和音は見た目が中性的だしバカ男からしたらちょっかいかけて反応見てやろうとか思われてたんじゃない?昔一度家に殴りこんで来た珍走団 100 人、二人でぶちのめしてバイクも全部スクラップにしたじゃない。丁度父さんも母さんもおじいちゃんも居ない時」
「あったなそんな事も」
「だから輸波のオッサンは封印したわけよ。あたしはか弱いからそのままだったけどね」
「亜瑠がか弱い……バイクを投げ捨ててたお前が……」
「和音に比べたらって事よ。あの珍走団事件の後から大人しくなったから……アイツが封印したんだね。してなかったらその後何が起こってたか……周囲一帯吹き飛んでたんじゃないかなぁ」
「……何とも言えないな」
「 TV で見た第五地区の光景があたしたちの地元で起きてたんだよ」
「あれは怪人がだな」「あはは……」
「龍の力は解ってきたがオレたちの龍種なんなんだ?何の由来だ?」
「倶利伽羅龍王って輸波が言ってた」
「倶利伽羅龍王……なるほど。色々合点いった」
「輸波いわくそのおかげで刀造りに向いてんだって。それ聞いてあたしは家業の刀鍛冶継いでもいいかなって思った訳よ」
「そうだったのか」
「こうやって二人で話し合うの久しぶりじゃない?子供の時はよく話したけど」
「そうだな……あの珍走団事件の後くらいから亜瑠とはあまり話さなくなったな」
「マジであれからだね。高校受験もあったしお互いすれ違うようになった。別に仲悪くなった訳じゃないし単純に顔合わす時間無くなったんだよね」
「確かに」
「そういえば和音って仲良い友達居た?」
「特別仲のいい奴はいないな……同級生は皆よそよそしいぞ」
「多分怖がってんだよそれ。表情全然変えないし背高いし声に圧感じるし勉強も運動も出来るし見た目もいいから目立つし」
「普通にしてるつもりなのだが怖がらせていたか……」
「陰で憧れたりしてる子結構いたと思うよ?あたしは周りからよく声かけられたけど凄く仲のいい友達はいなかったね、皆遠慮してるというか……対等なのは蒐魅だけ」
「蒐魅と会ってみたかったな」
「会わせればよかったなぁ~」
和音と亜瑠はしばらく黙って空を眺める。
「先に戻ってるぞ」「うん、もうちょっとしたら戻るから」
***
病室に戻る和音。柄留は布団を抱えて丸まっていた。
「柄留、なにしてるんだ?」
「ボク……蒐魅になれないかなって。もう一回トゲトゲの殻に入って生まれ直ししたい。望まれた存在じゃないんだ……」
「お前が悪い訳じゃない」
「亜瑠ちゃんが怖いよう……ねぇボクどうしたらいいの?和音君……」
「お前は柄留だ。亜瑠がどう言おうとオレはお前を柄留という一人の人間として接する。柄留として生きろ」
「あああああああん!知らなきゃよかったぁ~……出生の事知って辛いよう……!!和音君だけがボクの味方だ……」
「ああ、オレはお前を見捨てない。お前に名前を付けて保護した者としてな」
「はぁはぁはぁ……ヤバイ鼓動が速くなってきた……嬉しすぎてさっきまでの悲しい気持ちからの落差で体が……和音君結婚して……」
「……どさくさに紛れて何を言ってる」
「だってぇ……和音君がボクの全てなんだもん」
「いいか、お前はミレーヌと蒐魅の記憶があるとはいえ 0 歳児。これから色んな事を経験して成長していく。オレが全てじゃあない」
「ボクは和音君とずっと一緒に居たいよ」
「一緒には住めない。お前は兜金柄留として一人の人間として生きていく。比留山さんのいう事を聞いて警察学校に入り特殊課の配属されるんだ」
「えええええええええええええええええええええっ!!??」
「デモンズエッジ・スキャバード、グレイキャリバー。それを使いこなすお前が普通に生活は無理があるだろ」
頷いている比留山陶子。
「ドラゴンの和音君が一般生活できてるならボクも大丈夫だよ!」
「ウチに来たとしてどうするんだ?」
「えっと……和音君と一緒に暮らす」
「オレは学校があるし大学受験も控えてる。お前はするんだ?」
「う~~~~~~~~~~~ん……居候?掃除くらいならできるよ」
「いいか、お前が何かやりたいことがあるなら協力する。今の所なにもないだろ?それなら比留山さんのいう事を聞いてこの街の平和の為に働くんだ」
「え~……」
「オレも大学卒業したら警察官になる。比留山さんの特殊課に入るつもりだ」
「和音はキャリア組で特殊課に入ってもらうつもりだ。後 4 年以上待たなければならないのが辛いがな」
「ボクの方が和音君より先輩になるって事?」
「先輩だがオレの方が役職は上になるぞ」
「えーーーーーーー!!??」
***
――数時間後。
諸田家の両親が病院に到着。担当医の話を聞いた後、比留山陶子から説明を受ける。
亜瑠は午後の検査で問題無ければ退院と決まった。和音は一旦両親と伯父の瞬栄の家に向かう。
諸田両親が帰ったのを確認して病室のベッドの仕切りカーテンを開ける柄留。
「もぅ~!なんでボクが隠れてなきゃダメなの?」
「父さん母さんには関係ないからね。あたしと同じ姿してややこしいんだよお前」
向かいのベッドの亜瑠が言った。
「死にかけるほどの重傷負ったくせに元気じゃない」
「ボクは回復力凄いんだよ二つの力を宿す者だからね!」
「さっきまでメソメソしてたくせに急に威勢が良くなったね」
「元気なのが取り柄だから」
「元気『だけ』が取り柄なんじゃないの?」
「む……亜瑠ちゃんきらーい」
「あたしもお前なんか嫌いだよ」
しばらく沈黙が続く。亜瑠は小さなかばんを持ってベッドから降りた。それを見た柄留は亜瑠に付いて行く。
「……」
「……」
最上階のテラスに到着。亜瑠はミント吸入器を口にして吸い始める。
「何?吸いたいの?」
「うん……」
亜瑠は予備の吸入器を取り出す。
「味は何がいい?ウルトラミントとストロベリーバニラしか持ってないけど」
「ストロベリーバニラ」
亜瑠はストロベリーバニラのカードリッジを取り付けて柄留に渡す。
「ゆっくり吸うんだよ、初心者は口に含ませて吹かすんだ」
恐る恐る吸う柄留。口の中に甘さと酸味が広がりバニラの風味が鼻を通り抜ける。
「甘酸っぱい!美味しい!!」
「そう、良かった」
「これってお薬?」
「医療用の吸入器から生まれた嗜好品。薬系のカードリッジは薬剤師しか買えない……そういやミレーヌの前では吸ってなかったっけ」
「ボクはミレーヌじゃないよ」
「……そうだった。話し方があいつに似てるから」
亜瑠が視線を向ける。
ストロベリーバニラを吸う仕草はミレーヌではなく蒐魅を思わせた。
「左利きなんだ?」
「どうかなぁ……両ききだけどつい左手使う事が多いかな?お箸とかペンは右だし剣も右手で振るよ?」
防弾ガラス張りのテラスに今は亜瑠と柄留の二人だけ。
「お前……柄留は退院したら警察学校に入 るんだって?」
「うん……いつの間にかそうなってた。なんかおまわりさんになるとかじゃなくて陶子さんの課に入る為に手続き上必要だからだって……」
「そっか、がんばれよ……」
「う、うん……」
「ねぇ……今なら誰も居ないしデモンズエッジ・スキャバード出してみて」
「おっけー」
柄留は右手から脈打った白い鞘のデモンズエッジ・スキャバードを出現させる。
続く
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