





ラビット・アンダーグラウンド 9 話
―――地中深くのコンテナ。
「うああああっ! うおおおおおおっ!」
暗闇の中犠牲者の骨を指が少なくなった手で握りしめ必死に壁に叩きつけて脱出を試みている盗撮男。突如照明が付きタジマが放り込まれた。
「グッ……どこだここは?」
「これで盗撮と指示した奴がそろったな。じゃあここでお前たちを置き去りにするか」
ハートは無表情で床から半身を出して言った。
「嫌ですやめてください! ここから出してください何でもします!」
半狂乱で叫ぶ先に閉じ込められていた両手を失った盗撮男。
「駄目だな。 LOKI は因縁を残さない。全て消す始末する。どんな奴も生かして置く事は禍の種となる。裏社会での裏切りは息をするようなものだからな」
「俺は知らずに闇バイトしただけの一般人です助けてください何も誰にも言いません!」
「闇バイトに参加した時点で一般人じゃあねえんだよ。知らなかったですませんな」
「ぬん!」
二人のやり取りを見ていたタジマが電磁警棒を取り出し後ろからハートに殴りかかる。
「馬鹿が!」
ハートの腰から生えた鯱の尾が水面から突き出すように床から出現しタジマを撥ね飛ばし金属製の天井に叩きつけた。
「がは……」
「お前にも説明しておいてやる。ここは地上から 50m の深さにある厚さ 4m のコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だ。ここに置き去りにする。電波も声も届かない、空気だけは錬金術で供給されてるから好きなだけ生き延びろ」
沈んでいくハート。
「待って待って!置いてかないでええええええええええっ!」
叫ぶ盗撮男、タジマは脳震盪を起こし立ち上がれないままハートが去るのを見つめていた。その様子を車内のモニターで見せつけられるシンヤ。あまりの恐怖に失禁し号泣している。
「こんなこんな惨い……」
「理解したか? 今後はよく考えて行動するんだな」
「ハイイイイイイイイイッ!」
体中の体液を流し車の中で泣いているシンヤを置き去りにしてジャッカルは LavaGerden に戻った。
***
―――翌日。
「ん~おはようポポリン!」
なゆかは机の下でミニチュアピンシャーの姿で伏せているポポリンに話しかける。
「おはようなゆか」
なゆかに駆け寄り飛びつくポポリン。
「よーしよしよし可愛いな。すっかりミニチュアピンシャーだね」
「体温血圧心拍数チェック……異常なし。大学に行こうなゆか」
「朝ごはんは……牛乳でいっか」
牛乳を飲み支度を終えマンションを出るなゆか。バス停に向かうと狐理子が立っていた。
「おはようなゆか」
「おはよう狐理子ちゃん。偶然……だよね?」
「いや…… SliME ネットワークでなゆかがこの時間にここに来るの知って合わせた」
「ふぅん……あれか、能力覚醒のサポートもあるからか」
「そう、それと昨日変な探偵に絡まれたから心配ってのもある」
なゆかは七曲キョウヤの事を思い出す。
「あの人怪しさ全開だったよね……心配と言えば倉木ひかるさんの方が危なくない? SliME 普段持ち歩いてないんでしょ?」
「う~ん……あの子は監視カメラのある道しか歩かないし絶対人がいる所しか行かないし驚くほど目立たなくてすぐに群衆にまぎれるから今までは大丈夫だったけど……あの変な探偵の事はオーナーさんも警戒してるから心配ないかなとは思ってる。そもそもただの一般人だし」
「そっか」
なゆかはほんのりと不安を覚えながら狐理子と大学へ。その不安は的中する。
***
『ニュースです。爆破事件が発生しました。今日午後4時ごろ第一地区にあるオフィスビルの 1 階ロビーで爆発があったと通報。目撃者の話によりますと 1 階カフェの横にあるラウンジの花瓶から煙が出た後に爆発した、と話しています。この爆発で 20 人が重軽傷を負い行方不明者 1 名が出ているとの事です』
「爆破テロかなぁ怖……」
なゆかは狐理子と歩きながら携帯を見て言った。
「この大学も油断できないよ徳間の事があったから」
二人は LavaGerden に向かう。特に怪しい人物に出くわすこともなく到着。なゆかはカフェの仕事、狐理子は MGM 歌劇団のリハーサルに向かう。
――― 17 時になりカフェのバイト中は黙っていたポポリンが呟いた。
『なゆか大変な事が起きた……ラクーンが……』
「え!」
思わず休憩室で声を上げるなゆか。
「倉木ひかるさんがどうしたの?」
『第 1 区で起きた爆破事件の後から行方不明なんだ。携帯の電波もそこで途絶えてる。真面目な彼女が連絡しないで MGM 歌劇団のリハーサルを休むなんて考えられない』
「えええええっ!」
『既にクリムゾン様はラクーン捜索に何名か向かわせたよ。』
「そんな……」
『従業員の内 5 名がいきなり襲われたと先程病院から連絡が入ったよ。無差別で LavaGerden の人間を狙っているのかも』
「それって」
『昨日ちょっと店内で揉め事があったでしょ? それが関係しているかも。なゆかには詳しく教えて無かったけどね』
「そんなヤバイ事が?」
『ヤバイ犯罪組織でもこんな派手で関係の無い一般人を平気で巻き込むやり方、最近は無かったんだよ』
「狐理子ちゃんは?」
『捜索チームに入ってるから出てるよ。ジャッカルと一緒に行動してる。なゆかはこのまま LavaGerden で待機して』
「わかった……」
その時大澤垓から電話が鳴った。なゆかは出ないつもりだったがポポリンが出た方がいいと伝えたのでトイレに移動しながら通話に出た。
『なゆかぁ! 今どこにいる! 保護してやるから居場所を言え !! 』
「今お店の中に居るから大丈夫だよ」
『大丈夫な訳あるか! その店が襲撃されたらどうするんだ! すぐ警察署に行くぞ早く今いる場所を教えろ !! 』
「ちょっとまって今トイレにいるから……」
『ち…… 5 分後にまた連絡する』
「うん」
通話を切るなゆか。
「どうしよう~……倉木ひかるさんの事も狐理子ちゃんの事も気になるし……」
『正直に丹羽省羅に伝えて早退すれば? あの垓って警官を無視し続けるのは無理だよ』
「だよね……」
なゆかは省羅に事情を伝え早退する事に。
「第二地区に居たらあれこれ詮索されそうだし……ちょっと頑張って第一地区に移動しよっか。ポポリンサポートお願い!」
バッグに入っていたポポリンは薄い皮膜のようになゆかの全身を包み込む。
「よーし、ひとっ走り行くよ!」『了解!』
ジャンプで 3 階の高さまで跳び LavaGerden の隣のビルの格子を蹴って路地を進む。ポポリンはなゆかの両手両足部分を分厚いグローブ状に変化させる。
「うひゃあああっ! 楽しいぃいいっ!」
大通りを渡るように跳ぶなゆか。ポポリンは背中から蝙蝠めいた羽根を生やしてなゆかを滑空させる。
「ポポリンナイスゥ!」
『まかせてなゆかのやりそうなこと大体解ってるから』
ポポリンは外装を宅配業者のユニホームのカラーに変え一般人の目から偽装する。
「なるほどーこれで飛んだり跳ねたりしても皆気にしないって事かぁ」
『変な事しない限りはこれで誤魔化せるよ』
5 分でなゆかは第一地区の端にある公園に到着した。
『なゆかぁ!』垓から電話がかかってきた。
「今ね……第一地区の公園にいるよ。ピラミッドみたいなオブジェクトがある所」
『……よし、そこを動くなよ? 一人になるな、行き止まりの建物に入るな、何も触るな』
「わかった」
通話を切ってなゆかは大きく息を吐いた。
「や~これはギリギリだったね。でもこの公園 LavaGerden から一直線に進めば 5 分で来れるしルート覚えておいてもいいかも」
『そうだね、大学からは離れてるけど言い訳しやすいしポポもマークしておくよ』
第一地区のこの公園は静かで仕事帰りのサラリーマンやペットの散歩をしている者が居る程度。公園の真ん中にあるピラミッド型のオブジェクトが特徴的で通称ピラミッド公園と呼ばれている。階段状になっている為座って休むこともできる。
狐理子と倉木ひかるの事を気にしながら待っていると離れたところから大声がして肩をいからせて近づいてくるビジネススーツの筋肉質な男が見えた。大澤垓だ。
「なゆかぁ! 行くぞ !! 」
「はぁい」
強く腕を掴んで引く垓、ポポリンに包まれてなかったら激痛が走り痣になっていた程の力加減だった。
「痛いよ垓」
「ああスマン、もたもた出来ないからな!」
押し込むようになゆかを車の後部座席に座らせると乱暴にドアを閉め発車する。
「悪のテロリストどもが動き出したんだ…… DCM の残党かブラックヴァリーか……」
なゆかはブラックヴァリーの名前を聞いてドキッとした。狐理子にも聞いていたからだ。
「今日は警察署の保護室で一泊な。手続きはもうすませてある」
「え、そうなの?」
「明日の朝大学まで送ってやる、それまで保護室で大人しくしてろ困ったことがあったら署内の誰かに言え」
「うん……(うわぁ~朝まで出れないのかぁ……長いなぁ~)」
『なゆか、保護室って牢屋みたいになってる所だよ。知ってるの?』
「(えー嘘ぉ !? そんなひどいなんで……)」
『事件性が無くて一時的に保護する場所だけど、酔っぱらって泥酔状態だったり、暴れてどうしようもなかったり、精神錯乱状態だったり迷子だったり、体調が悪かったりする場合に使うんだよ。中から開けて出られないから牢屋と言ってもいいかもね』
「(えぇ~……)」
「どうしたなゆか?」
「保護室ってさ、牢屋みたいな所なんでしょ? 私そんな場所に入れられちゃうの?」
「牢屋ぁ? 似てるが快適さは段違いだぞ? 勝手に出れんし携帯も使えないが一番安全な場所だ、おまえはチョロチョロ勝手に動く癖があるからな守るためにはこうするしかないんだ一泊くらい我慢しろ」
『なゆかの性格把握されてるね。ホテルに居ろって言われても絶対抜け出すものね』
「(……ポポリン……サキュバスハーフの力使ってもいいかな?)」
『ここで? 運転中はマズいからせめて警察署に着いてからにしよ?』
「(わかった)」
***
黒塗りのワンボックスカーの中には運転手の他に 3 人の男女と倉木ひかるが乗っている。倉木ひかるは袋をかぶせられ手はワイヤーで拘束されていた。
車内にいる男達は運転手はヤギ、助手席の女はコマダ、倉木ひかるの両隣はヌマグチ、カガワ。全員がブラックヴァリーでヤギ、コマダ、ヌマグチは七曲キョウヤと会っていた人物。車は第五地区の倉庫街に向かっていた。
「ウィーヒヒヒ……拷問楽しみだなあ」
カガワが舌なめずりをして倉木ひかるの足を撫でまわす。
「迂闊に触るなカガワ! そいつが暮葉の忍なら何を仕掛けてくるか解らんぞ!」
助手席のコマダが叫んだ。
「薬が効いて寝ているふりをしてるかもってか? 忍ならありえるな、だがハズレの場合存分に遊べるって訳だろ? たまんねえぜ!」
「……だからお前は下忍なのだ」
「うるっせえよ!」
倉庫街に到着すると倉木ひかるの座席は電動車いすに変形し拘束したまま下車して走り出す。介護用に開発された AI 搭載の電動車椅子である。
倉庫街の A8 番倉庫に入って行く電動車椅子。そこには同じように拘束された女性たちが 6 人並んでいた。全員が LavaGerden の従業員である。
「 6 人だけか……無能どもめ!」
倉庫の奥で声がした。サイバネアーマーを身に着けた男が跳躍してコマダらの前に着地する。それに合わせてブラックヴァリーが 4 人物陰から現れる。
「テンゾウ様……申し訳ありません。警察の動きが思いのほか速くて……」
「ふん、コマダお前の他は全員下忍だったな。それにしてももう少しやれたよな」
「申し訳ありません」
「この中に暮葉一族の忍が居れば俺しか奴に対抗できる者はいない……早速術をかけていぶり出すとするか」
テンゾウが合図すると配下の中忍が車椅子の女性の袋を取り外していく。テンゾウは両手で高速で印を結びながら詠唱を始める。
「ギギギギギギ……」
不気味な声が聞こえた。テンゾウは詠唱を止めて倉庫を見渡す。
「誰だ!」
その場にいた全員のブラックヴァリーが警戒体勢をとる。
「ミツケタ!」
その声の直後上部窓から飛び込んでくる三つの人影。
「警察か!」「いや違うなにか変だ!」「獣 !? 」
緑色のぬいぐるみのような毛を生やした尾が長い子供サイズの獣、バトルスーツに身を包んだ女性、狐の仮面をつけ全身にブースターを取り付けた女性が着地した。
「シャパリュ、あなたのおかげで間に合いました感謝します!」
バトルスーツの女性が言った。
「鼻ニハ自信がアル、コイツらの気も駄々洩れ」
「全員返してもらう!」
狐仮面のフォックスこと狐理子が叫ぶ。
「なんだ……そっちから当たりが来やがったのか。野郎ども! 狐の他はぶっ殺して構わんやれ!」
続く。
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