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BW第3話 カミリアとダイアナは医療テントに戻る。 「ねぇダイアナ、東部って? レンジャーって何?」 「さっきのサムの工場での話だね。東部ってのは東部にある街ヴァレスの事を差している。で、レンジャーってのは反ゴース体制の自称ブラックウェイストランドの保安組織レンジャーズに属する者の事だよ」 「ゴースってブラックウェイストランド最大の都市だよね?」 「そう、大統領が治めてる高い壁に囲まれた真っ白な大都市。ブラックウェイストランドの資源をほぼ独占しているんだ。壁の外ではみんな生きるのに必死なのに中は何不自由なく暮らしてるんだよ」 「ゴース……そこにママやビリー達も……」 「解らないけどその可能性が高いってだけだよ。簡単にゴース市には入れない、市民の証であるインプラントが無ければすぐに拘束される」 「インプラント?」 「そう、サンプルがあるから見るかい?」「見たい」 ダイアナは医療器具を保管しているダイアルロック式の扉をあけて小さな金属の箱を取り出した。開けるとゼリー状の物質が敷き詰められ中央に1cm程の円柱状の物質があった。 「これがゴース市民のインプラントだよ」 「これを植えこめばゴース市に入れる?」カミリアはインプラントを凝視して言った。 「いや、無理だね。インプラントは無垢の状態で植えこまれて個人の情報を書きこんでいき、ゴース中央管理局がデータを管理しているから奪ったり出来ないようになってるんだ」 「じゃあ……無垢のインプラントが手に入らないと駄目なんだ」 「無垢のインプラントは闇で高額で取引されてるけど……ウチでは取り扱ってないね。ゴース中央管理局にハッキングして新たなデータを書き込むなんてJJヤードでは無理だし無垢インプラント入れるだけじゃ意味ないからさ」 ダイアナは箱を閉じてインプラントをダイアル式ロックの扉の中にしまった。 「どうやればゴース市に入れるかな……?」 「いくつか方法があるけど安全なのはゴース市の商人と関係を築く事かな。彼らの欲しいものを用意して信用を得て賄賂を渡せば作業員の同行者としてインプラントの代わりになるカードが貸し出される。監視付きで24時間の制限はあるけどね」 「ダイアナ詳しいんだね」 「まぁ色々あったからね私も。兄の方がゴースについてはもっと詳しいよ、ソットの街に言ったら聞いてみるといいよ」 「ソットの街……いつ行くの?」 「そうだねぇ……明日予定の手術と診察が終わってだから明後日かな」 「ダイアナ、私のせいでお金なくなったけどソット行くのに大丈夫なの?」 「まぁ平気かな。診察料とか薬代をつけてるJJヤードの連中から取り立てればね。危ないから取り立てはジャックの部下がやってくれるよ。見返りは薬代の割引さ」 「そうなんだ……」 「カミリアは洗濯と掃除を頼もうかな。私はカルテの整理と薬の在庫チェックする」 カミリアは金属桶に熱湯を沸かして病着や包帯などの洗濯物が入ったネットを漬け込んで煮沸消毒する。洗濯に使った熱湯は捨てずにさましてトイレに使うとダイアナから聞いた。洗濯に使わなかった残り半分の支給水はテントの中に持ち込みダイアナが知り合いから診察代の代わりに置いていった消毒ろ過装置に注ぎ込んだ。水の入ったタンクを運ぶのは重かったが作業に集中する事で沈み込みそうな気持ちを抑えた。 「助かるよカミリア。洗濯と掃除が一番重労働だからね」 「平気、できるよ」 カミリアは椅子に座って肩をもんでいるダイアナに笑顔で返す。覚ました熱湯をバケツに入れてトイレ掃除を始める。 「ダイアナ、このトイレってどこに流れていくの?」 「JJヤードの外にある汚水処理場だよ。ここでは完全にきれいな水に出来ないからある程度処理して沈殿池の水は水業者に。汚泥は焼いて肥料にしているよ」 「水業者があるんだ……」 「そうだよ、このろ過装置も水業者ことウォーターガーディアンズ(WGS)からせしめた物だからね」 ダイアナは机の横にある消毒ろ過装置を指さして言った。 「奴らは飲み水の販売、消毒ろ過装置のレンタル、この街にもある井戸水を汲み上げて生活水程度まで洗浄できる装置のメンテナンスもやってるんだ。ある程度生活に余裕のある者は消毒ろ過装置を家に設置してるよ」 「もしかしてその機械にもSニウムが必要?」 「そう! 鋭いね、つまりWGSはSニウムをある程度確保できる連中なんだ。当然局所活動装甲鎧も多く揃えている。ブラックウェイストランドではWGSは中立で武力も相当高いんだ……それにS.E.N.S.E(センス)使いも相当……」 「S.E.N.S.E(センス)使い?」 カミリアはダイアナの呟いたS.E.N.S.E(センス)使いというワードに反応する。 「あー……ソットの街で兄に聞いた方がいいかな。兄もS.E.N.S.E(センス)使いだからね」 その日の夕方、ジャックの部下の取り立て屋がテントを訪れ15万Eを持ってきた。ダイアナは薬小瓶をその部下に渡すと「毎度あり!」と大声を出し取り立て屋は去っていった。 「ダイアナ、あの小瓶は何?」 「向精神薬だね。知識の無いものに渡すのは少し気が引けるけどお金も大事だからね。ちなみに医療薬は一般ルートで手に入らないんだ。流石に薬なんて誰でも手に入ったらとんでもないからね。医者だけのルートがあるのさ」 「ふ~ん……横流ししても大丈夫なの?」 「JJヤード内で使用するのなら大丈夫だよ。彼が転売とかすればちょっとマズい事になるけどそんな事すれば自分の立場が危うくなるって理解しているさ」 ―――翌日。 ダイアナはJJヤード住民の腫瘍摘出の手術を行った。その後は住民たちが次々とテントを訪れ往診に追われた。終わったのは日が暮れてからだった。 「おつかれ~……疲れたね~」 「はい、凄い人数でした……」 「開業した時は毎日やってたんだけど流石に身が持たないし物資も足りないから隔日にしたんだ。急患は別としてね」 「助手は今までいなかったの?」 「いたんだけど……死んじゃった。薬の打ち過ぎでね……彼女に薬の管理も任せてたんだけどそれがいけなかったね」 「死んだ……」 「それはそれとして明日はいよいよソットの街にお出かけだ、今日は早く寝よ」 「うん」 翌朝、支度を終えテントを閉めるダイアナ。JJヤードを巡回しているジャックの部下の警備兵に声をかけて出発する。カミリアはその様子を眺めながら後を付いて行く。 「ソット行きのバギーに乗るよ」 ダイアナとカミリアはJJヤードのゲート横に止まっている荷台をけん引するバギーの前に移動する。 「やぁポール、今日はよろしく頼むよ」 バギーの運転席で干し肉を齧っている男に声をかけるダイアナ。 「やぁドクター! それが噂の赤髪の子か……確かに只者じゃない気はするな」 ポールはゴーグルをあげてカミリアを爪先から頭の先まで眺める。 「今日のソット行きはドクターたちと護衛のジョーだけだな。向こうで何人か乗せるかもしれんが」 「珍しいね」 「西に黒くて分厚い雲が見えるからな。帰りが嵐になるかもしれんしそのせいかも? ハンターらも今日はJJヤードに留まるって言ってたしな」 「そっか、荒らしが酷かったら最悪兄のところに泊まらせてもらうよ」 「俺らもソットで待機するかもな。ジャックにはそう言っておく」ポールはバギーの銃座で待機している護衛のジョーと目を合わせるとジョーも頷いた。 出発時間になるとダイアナとカミリアは荷台の幌を開けて中の座席に座る。 バギーは低いエンジン音を響かせて走り出す。バイオエタノール燃料とモーターのハイブリット車である。JJヤードはブラックウェイストランドでは車両の整備や販売の最大手でありこのポールのバギーは宣伝にもなっていた。 荒野を進むバギー。砂の浅いルートを覚えているポールは少し遠回りにはなるが安全な道を走る。時速にして30㎞程と決して速くない走行速度であったが荷台は殆ど揺れずに快適だった。 「確かにひと嵐来そうだな……空気が変わってきたぜ」ポールは指先をすり合わせて呟いた。 昼前に岩盤に囲まれた谷の傍にある街、ソットに到着した。 「着いたね、さぁ降りようカミリア」「うん」 金網のゲートの中にバギーは通されここで身体チェックがソットの警備兵によって行われる。 「ごくろうさん」ポールは警備兵に声をかけた。 「一応決まりだからな。いくら顔見知りでも仕事は仕事さ」警備兵は金属探知機を4人全員に当てもう一人の警備兵が体に触れてチェックしていく。 「よし、いいぞ」 ポール達は行商人たちが待機する建物に向かいカミリアたちはゲートの先にあるトンネルを通って街に向かう。 「わぁ~……」 思わず感嘆の声を漏らすカミリア。目の前には段になっている地形を畑にした段々畑、風車、ロープウェイ、JJヤードとは違う雰囲気の活気ある街並みが広がっていた。 「ダイアナ!」 大きな声がした。 「兄さん」 見張り台から降りてきたのは短髪オールバックのがっしりとした男だった。 「……なんだそのガキは」 男はカミリアをじっと見つめる。カミリアは気圧されて下を向く。 「……兄さんちょっと家で話がしたい」 「なんの話だ? いつもの取引の事か? それともそのガキの事か?」 「両方だよウィル兄さん」 ウィルと呼ばれたダイアナの兄。 「いいだろう、そろそろ交代の時間だったからな」ウィルは傍にいた部下に交代を告げダイアナ達を自宅に案内する。 ソットの街は中央に大きな池がありその横に川が流れている。ウィルの家は川の上流側の集合住宅にある。 「おや?」 ダイアナはコの字に建てられた集合住宅の入口に大きなハンマーを持ったアーマー武装の青髪女性が立っているのが見えた。 「メドラじゃないか」 「……ダイアナ姐さん、そのチビガキは?」 メドラと呼ばれたハンマーの女性は近づいてカミリアを睨みつける。 「ちょっとちょっと……ウィル兄さんも止めてよ」 ウィルはダイアナの声に耳を貸さずに腕を組んで微笑んでいる。 「チビ! テメェのS.E.N.S.E(センス)は何だ!」 メドラはハンマーを地面に叩きつける、衝撃でカミリアの体が少し浮いた。 「え……何? ……S.E.N.S.E(センス)って……」 「とぼけやがって!」驚くカミリアの胸ぐらをつかむメドラ。 「止めなよメドラ!」 ダイアナが割って入る。 「チッ! 姐さん、コイツに本当に何も知らないのか?」 メドラはカミリアの耳のピアスを見ながら言った。 「この子カミリアはちょっと色々事情がありそうなんだ、ウィル兄さんに色々話を聞いてそれからS.E.N.S.E(センス)の話をしようと思ってたんだよ」 「メドラ離してやれ」とウィル。素直に従いカミリアを解放するメドラ。 「メドラ持ち場に戻れ、後で話を聞かせてやる」 「はい、ウィルさん」 巡回警備に戻るメドラ。ウィルの案内で一室に通された。 「適当に座れ」 ダイアナとカミリアは窓側のソファに腰かけるウィルは向かいの背もたれ椅子に座った。 「……ダイアナ、話せ」 「まずはそうだね……この子を助手として迎え入れた経緯からかな」 ダイアナはカミリアを迎え入れた経緯を詳しくウィルに話した。 「……ガキ、聞きたいことがあるなら話せ」 ダイアナの話を聞いた後ウィルはカミリアの目をじっと見て言った。 「あの……バズを知って……ますか? 商人か何かだったはずです」 カミリアは施設に外からの物資を持ち帰って来ていた男の事を話す。 「バズ? ああ、知ってるとも。奴の持ってくる菓子は評判だったな」 「バズは……私の施設の人間なんです」 「ほう……お前の事、詳しく話せ」 カミリアは泣きそうになりながらも希望のソットの者であるウィルに一生懸命知っている限りの事、起きた事を必死に話した。 「お前マリアさんの……【子供達】だったか」 短く整えた顎髭を触るウィル。 「ママを知ってるの!?」 「ガキの頃世話になった恩人だ。ダイアナの奴は小さくて覚えてないが俺はマリアさんの事は忘れたことはねぇ……そうか、マリアさんが攫われたか」 ウィルは頭を掻きながら考え込む。 「カミリアといったかガキ、お前には色々知ってもらわんといかん事がある。マリアさんの捜索には協力するがお前も俺たちに協力しろ」 「は、はい!」 「まずは……」 ウィルは立ち上がって部屋の奥から箱に入った銀色の光を放つ球体の石をもってきた。 「カミリア、この石に手をかざして見ろ」 カミリアはウィルに言われるままに石に手をかざす。 「あ……」 石は回転を始めた。 「これって……」 「まぁ見てろ、次は俺がやって見せる」 ウィルが石に手をかざすとパチパチと青白い電気の火花が見えた。 「次にダイアナ、やってくれ」 カミリアの横に控えている妹ダイアナに声をかけるウィル。 「……いいけど」 ダイアナは小さくため息を着いた後、石に手をかざしてたが何も起きなかった。 「この石は純度の高いSニウムだ。S.E.N.S.E(センス)使いにだけ反応する」 「S.E.N.S.E(センス)!」 「説明してやる。S.E.N.S.E(センス)ってのはSpiritual Elemental Natural Survival Energy からきている名称だ。ブラックウェイストランドという極限環境で生き残るため、人間の精神(魂)が世界の「本質的な理(ことわり)」と同期して目覚めた未知のパワーだ。これを扱う者をS.E.N.S.E(センス)使いと言う」 ウィルは離れた位置にかけてあるダーツ版に指をかざし電撃を放ってダーツの矢を落として見せた。 「俺のS.E.N.S.E(センス)は電撃。さっき会ったメドラもS.E.N.S.E(センス)使いだ。そしてカミリアお前もな」 「え!」 カミリアはダイアナの顔を見ると申し訳なさそうにしていた。 「ごめんねカミリア、私はS.E.N.S.E(センス)使いじゃないから上手く説明できる自信が無くてね、だからウィル兄さんに会わせたかったんだ」 「そうだったんだ……」 続く
Aug 29, 2026
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BW第2話 怪我の痛みと脱水症状で息も絶え絶えのカミリア。コンテナが開かれると目の前には積み上げられた金属のジャンクの山。無数の檻が置かれ中には人間や獣が入っている。 「オラッ! 降りろガキ! ……ボーマン、車を駐車場に止めておけ」「ヘイアニキ!」 荒々しく首輪の鎖を引かれコンテナから引きずり出されるマントだけを着させられた姿のカミリア。施設では嗅いだことの無い悪臭に満ち、周囲の人間は皆武装して攻撃的な目をしている。 「(外の世界はこんなに……)」顔をしかめるカミリア。 「よぉジーマン、今日は珍しく人間の獲物か?」 カミリアの鎖を引いている男に話かけたのはゴーグルをかけ棘の付いた肩パッドの男だ。 「ああ、弟のボーマンが運よく仕留めてよ。コイツは中々の上物だぜ良い値を付けてくれよな?」ジーマンは親指で後方のカミリアを差して言った。 「ここいらでは見ない信じられないくらいの上物だな。まさかとは思うがゴースの住民じゃねえだろうな?」 「いや、大丈夫だ。コイツの体にゴース市民のインプラントはねぇ。取り除いた形跡もない疑うなら調べてみるか?」 「ふ~ん……」 吐き気がするほどの悪臭を放つ肩パッドの男がカミリアの頬を掴んで強引に口を開かせて口内を観察する。 「こいつはおどろいた、歯も全部ナチュラルで揃ってやがる。肌の状態も下手なゴース市民よりも上質だ……ジーマン、コイツをどこで拾った?」 「サウス山脈の廃鉱近くで見つけた」 「あの場所は獣しか居ねえんだがな」 「ああ、俺たちはブラックウルフを探しに行ってんだ」 「近くに集落もキャラバンの交易所もねぇ……妙だな」 「なんだよジャック、そんなに気にする事か?」 「大ありだな。ゴース市民ならここにゴースの特殊部隊が殴りこみに来て壊滅だ。インプラント処置されてないのが気になるが……」ジャックと呼ばれたゴーグル肩パッドの男は腕を組み顔をしかめた。 「つまり……コイツを買い取ってくれないのか?」 「う~む……」 「あの……」カミリアは震えながら声を絞り出す。 「おっとガキ、黙ってな。何も聞きたくねぇ、話すならドクターに話しな。ジーマン、コイツはとりあえずドクターに預ける。詳しい検査をしなきゃならん買い取るかどうかは明日返事する、それでいいな?」ジャックは鍔を地面に吐き捨てて言った。 「……いいぜ」 ジーマンは踵を返し渋々帰っていく。カミリアはジャックに鎖を引かれてテントに連れていかれた。 「ドクター、コイツを調べてくれ」 「やぁジャック、なんとも珍しい子を連れて来たねぇ」 紫色の髪に眼鏡をかけた白衣の中年女性がペンを弄びながら言った。 「ゴース市民かもしれねぇ、もしかするともっとやべぇ奴のガキかもな」 「ふ~ん……まぁ調べてみるよ。人食い族とのあの事件以来慎重だねぇ」 「あれは手違いで……もう二度とあんなのは御免だ」 「人食い族にゴース市民を売っちゃった結果、特殊部隊に人食い族もジャックの部下もみーんな始末されたもんねぇ。あれはゴース市議会員の家出娘だっけ?」 「……1000万Eの値が付いてあの時は舞い上がってたんだ。俺はたまたま別の用事で出かけてて命拾いしたがな。元のJJヤードは今や廃墟だ……」 現在のJJヤードは元々はサブ拠点のJJファームであった。メインが壊滅した為ファームの3分の2の農地を削り生き残った仲間と再建した。ドクターは元からファームに住んでいてこの場所がメインになってから忙しくなったと当時はぼやいていた。 「あんなことがあったし絶対にゴース市民は扱いたくないって訳だ。ゴース市民は死んだり生命の危機に瀕すると連絡が行くようになってるみたいだしねぇ」 「だからドクターにこいつがゴース市民かどうか診断して欲しいんだよ」 「で、この子がゴース市民だったらどうするの? ゴースに返しに行く?」 「いや、俺のような人間があの街に近づくだけでズドンだぜ、死にたくねぇ。その場合リーヴに引き渡す、足元見られて二束三文になるかもしれねぇが」 「ああ、あの金持ちハーレム男ね。確かにあそこなら生命の危機はなさそうだ。リーヴもゴースの市民ではあるからね。市外に住んでいるくせに」 「……あの時、リーヴは家出娘に100万Eを提示してたんだ。人食い族の長は息子の成人祝いに欲しいって1000万Eを出すって言った。欲に目が眩まなければ……」 「リーヴは好みがうるさい癖にケチだからね、金持ちなのに。あんなに立派なタワーに住んでいるのに」 「本音を言うとリーヴもそうだがあのタワーの連中と関わるのは最低限にしたいんだ。奴らはマフィアだ、借りを作りたくねぇ。だからこのガキがゴース市民じゃなければなんの問題も起きない」 「そうだねぇ~この子の事はまかせてなよ」 「ああ、よろしく頼む」 テントを出て行くジャック。残されたカミリアとドクターと呼ばれた女性。カミリアの鎖はテントの中央に支柱に繋げてある。ドクターはカミリアをベッドに寝かせる。 「大人しいね君、名前は?」聴診器を胸に当てながら優しく微笑みかけるドクター。 「カミリア……カミリア・バーンランド……です」 「……へぇ。お父さんかお母さんはいるのかな?」 「ママが居ます……でも連れていかれました……」 「ふぅ~ん……で、どこから来たの?」 「施設……」 「施設? 施設ってどこの?」 「わかりません、ずっと施設の外から出た事なかったから。南側だって事しか」 カミリアはドクターの優しい雰囲気と清潔さから少し安心しスラスラと言葉が出た。 「南側かぁ~……よかったら何があったのか私に聞かせてくれるかい?」 カミリアはドクターに施設で起きたことを話した。話してる最中に涙が溢れてきた。 「……それは……大変だったねぇ……ふ~ん……」 腕を組んで考え込むドクター。 「これからどうしようかと……」ドクターにしがみつくカミリア。 「う~~~~~~ん……君だけが安心して暮らすのならリーヴタワーに行く事だね。自由はないけど生活に困る事は無いし。君のお母さんや友達を探すとなると難しいねぇ~私のしてあげられる範疇を超えている」 「あの……それじゃソットの街に行きたいです」 「ソットにねぇ……場所は教えてあげられるけど……まず君が自由にならないとね。君はハンターに捕まってこのヤードで商品として持ち込まれたから」 「私はどうなるの……」 「君がゴース市民だった場合、リーヴタワーに行くことになる。そこで上手く立ち回ればある程度外出はできるようになるだろうしママやお友達の行方を調べることもできるかも。違った場合、誰かに買われる事になる。どんな場所でどんな生活を送る事になるか私には解らないよ」 「……助けてドクター」 「そうしたいのはやまやまだけどね。私も私自身がかわいいしヤバい事はしたくないんだ……でもまぁ……」 カミリアのピンク交じりの赤髪と肌のきれいな顔を見る。 「君を見てたらもしかしたらって……思う事があるよ。今この時の選択を正しかったと、違うかもしれないし私が危険な目に合うかもしれない……でも」 ドクターはカミリアの両手を掴む。 「君の可能性に賭けてみたいかな」 「??」 ドクターはカミリアの体を調べていく。 「ブラックウェイストランドではあり得ないほど健康だね。ゴース市民のインプラントも無いし摘出した形跡も無い。君はこのブラックウェイストランドでは非常に珍しい個体って事になる。理由もいくつか考えられるし君のお友達も恐らくそうなんだろうと予測できる……となれば、君のママとお友達はゴース市に連れていかれた可能性が高いね」 「え?」 「仮説だけど……君のママは元ゴース市民だったのかもしれない。もしくは施設の人間の誰かが。施設で生まれ育ったのならゴース市民のインプラントは取り付けられていない。襲撃者の話を君から聞くに……そんな装備を用意できるのは限られている。ゴースの特殊部隊はブラックウェイストランドの傭兵達と違い貴重な銃を持っている。外から絶対に見つからないような施設が見つかったのは施設にゴース側の内通者が居た可能性が高い」 「……」 「私が君を買って助手にすれば……ソットの街に行けるよ。でもねぇ~折角こんな綺麗な体に奴隷のピアス開けるの嫌だなぁ……開けなくていいけどまたどこかでハンターに捕まった時にここに帰してくれなくなるからなぁ……それ以前にお金足りるかなぁ」 「ドクターの所有物になるって事ですか?」 「これが私のしてあげられる最大限かなぁ~そしてこれが私が後悔しない選択であり賭けかなぁ~」 「……ドクターが買って! ピアス我慢します!」 カミリアの目には決意と少しの恐怖の色が映っている。 「そっかぁ~……よし、私も覚悟を決めた。君を買おう!」 カミリアはドクターに抱き着く。 「おいおい、私が善人だと思い込むには早いよ? 悪い人かもしれないんだよ?」 「私を助けてくれる人なんだからどっちでもいいです! 外の世界の善悪は私は知らないんですから!」 「なるほどね。それじゃあ改めて自己紹介をしよう。私はダイアナ・ホワイト。ドクターDなんて呼ばれているこれからヨロシクね、敬語は無しでいいよ」 それからドクターDことダイアナはヤードの支配人ジャックを呼びつけカミリアを買って助手にすると伝えた。驚いたジャックだったがゴース市民で無かったことにひとまず安心しカミリアの代金100万Eを請求。ジャックは80万Eを手に入れカミリアを攫ってきたジーマンには20万Eを支払った。 「これで私の財産はほぼ無くなったね」椅子にもたれてため息をつくダイアナ。 「そう言わんでくれよドクター。アンタだからこいつを100万Eにしたんだぜ? 他所なら200万Eで売ってた」ジャックは肩をすくめて言った。 「お行儀も良くて教育レベルも高いよこの子。計算も識字のレベルも他の知識もね。私の助手にピッタリって訳、お買い得かな」 「しかしこのガキは運がいいな。ジーマンの狩場はブラックウルフがウヨウヨいるしガキ一人が生き延びられる場所じゃねぇ。それに連れてこられた先がここでドクターが居た」 綺麗なシャツとショートパンツに着替えさせられたカミリアを見るジャック。左耳には赤い雫型のピアス、Dの刻印が施されている。 「今度ソットの街に物資の仕入れと往診の時この子を連れて行こうと思うんだ」 「ソットにはドクターの兄貴が居たな」 「ああ、この子を兄にも会わせてやろうかと思ってるよ」 「あのおっかねぇ男にね……」 「おっかないかなぁ?」 「(ダイアナのお兄さん怖いのかな……)」カミリアは微笑んでいるダイアナと眉間に皺を寄せているジャックを交互に見る。 「カミリア、食事がすんだらこの場所ジャックのジャンクヤード【通称JJヤード】を案内しよう。拠点になるんだから知っておくんだよ」カミリアの頭に手を置くダイアナ。 「うん」 ダイアナは戸棚からクラッカーと冷蔵庫から出したスープを温めてカミリアに与える。 「美味しくもないのに……お腹空いてたんだね」 「昨日から何も食べてなかったから……」 「そうか……もっとあげたいけどあんまり余裕もなくてね。JJヤードの畑の収穫率が最近下がっててスープもあんまり作れないんだ。昔はもっと畑も大きかったし余裕あったんだけど……」 「そうなんだ」 食べ終わったあとカミリアはダイアナに連れられJJヤードを歩く。悪臭に耐えながら檻の並んだ通りを過ぎる。 「市場を抜けると東側に工場、西側に畑、このヤードのジャンク壁に沿ってぐるっと内側いっぱい並んで建ってるボロの建物とテントが住民の家だよ」 「あの中央の大きな機械は?」 「発電機だね。高価なSニウムバッテリーをみんなが買えるわけじゃないから共同で使うんだよ。住民の家の電気はここから送られてるんだ」 「Sニウム!?」バズのメモで書かれていた名称だ。 「ブラックウェイストランドの中心部のホワイトグレイブタウン地域でしか取れない鉱物だよ。あの地域はとんでも無く危険だからSニウムも高価なんだよ」 「そうなんだ……あっちの大きなタンクは?」 「貯水タンク。住民は1日18Lまで自前のタンクで汲んで良いんだ。違反者は厳しい罰則。水は貴重だからね、ちなみに生では飲めないから絶対沸かす事」 「ふ~ん……ねぇダイアナ、畑を見に行きたい」 「いいよ」 トウモロコシ、トマト、玉ねぎ、ジャガイモの畑があった。ダイアナは畑の作業員に挨拶をしてカミリアを中に入らせる。 「このトウモロコシは株が多い……トマトは水あげすぎで……玉ねぎは土がちょっと乾燥してる……じゃがいもはもっと土を……」 つぶやきながら畑を回るカミリア。 「何か解ったの?」 「ダイアナが収穫量減ってるって言ってたから気になって。施設で学んだ事を生かせるかなって」 「問題はあった?」 「ちょこちょこと。メモある?」 「どうぞ」 カミリアは畑の今現在の状態と改善提案を書いて見せた。 「これは……凄いね。君は農業の知識もあるのか」 「少しだけ……ママに教わったの」 「なるほどね。このメモは畑の管理者に渡しておくよ。次に見ておきたい場所はある?」 「工場を……」 「よし行こう」 トタンの屋根と壁の工場からは機械音と金属の切削音、打撃音が響いている。 「よおドクターここに来るなんて珍しいじゃねえか新しいメスでも欲しくなったか?」 声をかけてきたのは白髪の男性。ヨレヨレの作業エプロンをしている。 「やぁサム、この子がちょっと工場を見たいんだと。新しい助手さ」 「こいつはまた……訳アリそうな子供だな」 サムはカミリアの顔を見て一瞬ハッとした表情を見せた。サムの様子を見てダイアナはほんの少し目を細めた。 「発電機のSニウムの劣化が見られると今日点検した者から聞いている、ホワイトグレイブタウン地域にそろそろ誰かに行ってもらわんとな。局所活動装甲鎧は2体修理済みだってジャックに言っといてくれんかドクター」 「了解」 カミリアは工場の奥に吊られている局所活動装甲鎧を見る。図鑑で見た潜水服や宇宙服に戦車の装甲を付けたようだと思った。ツギハギの修理跡だらけでかなり酷使されているのが分かった。 「じゃあ戻ろうかカミリア、私のテントに戻って助手の仕事をしてもらうよ」 「わかった」 「ドクター」 帰りかけの二人に声をかけるサム。 「どうかした?」 「今ヴァレスのレンジャーがこのJJヤードに来たらどうなるか……」 「東部の街ヴァレスのレンジャーねぇ……その時はその時だよ。ブラックウェイストランドは歴史の転換期に来てるのかもしれない」 サムとダイアナがカミリアを見ている。 「俺は老い先短い人生をこのままJJヤードで過ごしてくたばるもんだと考えていたが……わからねえもんだな」サムは髭を触りながら言った。 「そうさ人生なんてどうなるかわからないのさ。私だって子供の時はまさかこんなJJヤードで過ごすことになるなんて思っても見なかったし」ダイアナは頭を掻いて言った。 続く
Aug 7, 2026
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BW第1話 「ハッピーバースデー!」 娯楽室に入った途端クラッカーが鳴らされた。困惑しているのは赤髪にピンクのメッシュ交じりのカミリア・バーンランド。本日16歳の誕生日を向かえた。 「おめでとうキャミィ」 そう言って微笑みかけるのはカミリアの母マリア。カミリアと比べかなり体格が良いのでいつも話かける時は少しかがんで目線を合わせてくる。カミリアは最近それが恥ずかしかったキャミィという愛称も含めて。 カミリアは小柄童顔で16歳には見えない。4歳年下のミューと同じ体格でミューにすら同年代扱いされている。 娯楽室の中央に鎮座するのはスポンジ3段重ねの巨大ケーキ。子供の誕生日にしか登場しない特別な物でカミリアはあと2年でこのケーキを作って貰えなくなる。勿論一人で食べるわけでは無くみんなで分け合うのだが誕生日の主役は好きな場所を取り分けてもらえるのだ。 娯楽室に子供は4人。カミリア、ミュー、ハル、ビリー。ミューは最年少で料理と裁縫が得意。ハルは1歳年下、機械いじりが好き。ビリーは一つ年上、格闘技好き。カミリアは広く浅くそれなりに器用にこなせるものの夢中になれるものは無く、しいて言えば走る事が好きだった。 「さあさ、ロウソクの火を」 マリアはそっとカミリアの背に手を回し促す。ケーキの前にはパテシエのマイクが満面の笑みでロウソクに火をつけている。 「さぁどうぞキャミィ」と言って離れるマイク。 テーブルの前に用意された台が否が応でも自分の身長ではロウソクに届かない事をわからされる。カミリアは少し抵抗して台の一番上には乗らずに1段目に乗り一番上の2段目には片足だけ乗せてロウソクに息を吹きかけ一気に消した。 「去年と変わってねーな!」とビリーは軽口を叩きながらカミリアの尻を指で突いた。 「ちょっと!」 「ケツは成長しているようだな! よく鍛えてる」 ビリーは自慢の胸筋を見せつけながら悪びれる様子もなく笑顔で言った。 「早く食べようよ~」 メガネの位置を直しながら小太りのハルが訴えかける。機械の次に甘い物が好きなハルは待ちきれない様子。 「キャミィ、ハルもお待ちかねよ。好きな部位を選んでよ」 ミューは取り皿をカミリアに手渡す。最年少だが妙にお姉さんぶる様子は彼女が世話焼きなのを物語っている。 「じゃあ一番フルーツが乗っているこの部分で……」 ケーキを取り分けるマイク。カミリア達は席に着き冗談を言い合いながらケーキを口に運んでいる。その様子を眺めているマリア。 「あの子が16歳か……早いもんだ」 「やっとるようだね」 現れたのはこの施設の最高責任者のチャールズ。短髪で色付き眼鏡に整えられた髭を蓄えている。 「施設長……」 「どうかな、あの件考え直してくれたかね?」 「は、はぁ……」 「あまり先延ばしには出来んぞ? この場所もいつまで持つかわからんからな……」 「解っています……」 「外での不穏な動きは君も知っているだろう?」 「ええ……」 「君が決断してくれれば東部の――」 マリアと施設長の会話は突然の停電によって妨げられた。すぐに非常電源へと切り替わる。 「なにがあった!?」施設長は胸ポケットに取り付けてある無線で施設管理室のオペレーターに向かって叫ぶ。 「侵入者です! メインゲートのロックを破られました! 防火シャッターを降ろしましたが時間の問題です!」 「馬鹿な! 警備兵を向かわせろ! 第1警戒態勢だ!!」 【緊急事態発生 緊急事態発生 第1警戒態勢 第1警戒態勢 速やかに行動してください 繰り返します――】 館内アナウンスが響く。 「キャミィ、みんな! 倉庫に逃げるのよ!」 マリアはケーキを口に入れたまま呆然としている子供たちに向かって言った。 「みんな行くぞ!」年長者のビリーが机を叩くとカミリアたちは我に返り頷いた。 日頃から訓練しているとはいえまさか現実に起きるとは思っていなかった。ビリーは最年少のミューの手を引く。続いてハル、一番後ろはカミリア。 倉庫に向かって走り出す4人。銃声と爆発音、高回転のエンジン音が施設に響いている。 「あの角を曲がれば……」 突如目の前の壁が崩壊し吹き飛ばされるカミリア、床を転げる。 「痛ったぁ……」 「大丈夫かキャミィ!」 ビリーの声がする。T字の通路は崩壊して瓦礫で埋まっている。ビリーの声と顔半分だけが隙間から見える。 「危ないから瓦礫には近づくなキャミィ! 中庭から回って倉庫に来い!」 「わかった!」 立ち上がるカミリア。来た方向とは逆に走り出す。 「ああ……」 メイン通路には血まみれの警備兵たちが倒れている。カミリアは震える膝を叩いてメイン通路を横切る。 「キャミィ!」 警備室の前で武装したマリアと会った。 「なんでここに!?」 「通路が崩壊して通れなくなって……中庭から行こうと……」 「そうだったの、でもここより先は敵がいる。隠れなさい」 「でも……」 「出て来ちゃ駄目よキャミィ、愛してるわ」 マリアはキャミィの頬にキスをすると警備室のロッカーに無理やりカミリアを押し込んだ。 「ママ!」 「大人しく待ってなさい、静かになるまで絶対に出たらだめよ!」 涙が止まらないカミリア。ロッカーは狭かったがこの時ばかりは自分の体が小柄で良かったと思った。 高回転エンジンの音と銃声、悲鳴と叫び声が近づいてくる。カミリアのロッカーのスリットからは正面の扉からメイン通路の一部しか見えない。 銃声が止みマリアが何か話している。もう一人男の声がした。マリアが銃を構えゆっくりと左から右に下がっていくのが見えた。その後にエンジンのアイドリング音を響かせ全身を流線形のアーマーで包み込んだ男がマリアにゆっくり向かって行くのが見えた。 「(ママ……)」 発砲音と高回転のエンジン音が鳴った。その後マリアを肩に抱えて歩いていくアーマー男の姿が見えた。 「――――――ッ!!」 今すぐ飛びだしてアーマー男に向かってママを返せと叫びたかった。でもそれをママは望むだろうか? 隠れていなさいと言われた。いつでもママは正しくて賢くて優しかった。 カミリアは恐怖のあまり失禁し足には力が入らずロッカーの中で口を抑えて震える事しかできなかった。 気絶したカミリアが気が付いたのは襲撃があった6時間後であった。 非常電源の薄暗い警備室。ゆっくりとロッカーを開けて出る。警備室のモニターには動いている人物は居ない。 「……誰か、誰かいないの?」 モニターを切り替えるも映るのは横たわっている者達だけ。倉庫前のモニターを見てカミリアはビリー達が隠れているであろう倉庫に向かう事にした。 まだ敵が隠れているかもしれないとビクビクしながら中庭を通り倉庫に向かう。大人たちと警備兵が血まみれで倒れている血が渇きつつあることから死んでると考えた。生きている人がいるかもしれないとも思ったがそれよりもビリー達の事が先に頭によぎりひとまず置いていくことにした。 「はぁはぁ……」 ストレスで腹が痛むカミリア。 「誕生日で楽しくてケーキもおいしかったの何でこんな事に……」 倉庫にたどり着くと扉は僅かに開いていた。そっと覗くと中は荒らされ人影は何処にもなかった。 「ビリー、ミュー、ハル……」 返事は無い。カミリアは血痕が無い事に少しだけ安心した。 「他の場所に隠れているのかも」 カミリアはカラカラの口を倉庫にあるボトルの水で潤し警戒しながら倉庫から出る。 「そうだ、警備室のカメラ映像を巻き戻せば!」 警備室に戻るカミリア。カメラ映像を巻き戻して見ていく。 施設の入口に繋がるトンネルを歩く5人の武装集団。一人は流線形のアーマー男だ。襲撃者の一人が端末を操作して分厚い金属の扉を開けた。 「何でトンネルの扉を開けられたんだろう……」 カミリアは倉庫前を移しているカメラに切り替え早送りで見ていく。ビリー達が倉庫に入った数分後、アーマー男の仲間が扉のロックを解除して中に侵入。しばらくすると暴行を受けたのか怪我をしているビリーと泣いているミュー、ハルが手錠を付けられ連れていかれる姿が映っていた。 「みんなが!」 トンネル前のカメラに切り替えると、アーマー男はマリアを担ぎ、ビリー達は手錠を付けられ銃を突き付けられながら出て行く姿が映っていた。 「生きてる……ママもビリー達も……」 どうやってママたちを追うのか。カミリアはトンネルの外に出たことがない。トンネルの外は【ブラックウェイストランド】と呼ばれる砂漠と荒野が広がり凶悪生物や賊がウヨウヨしているのだと聞かされている。 物資は担当者の大人が他の施設や集落から仕入れてきているのだと聞いている。 「そうだ……生存者の確認を!」 カミリアはここでようやく生存者の確認を始めた。一人一人生きているか確かめていく。この施設には合計50人が暮らしている。 一人一人体をゆすって首に手を当てて確認していく。銃弾を浴び一目見ただけで無理だと思ったが誰か生きていればと希望を持って歯を食いしばりながら続ける。 「施設長が居ない……」 カミリアは銃弾で穴だらけの施設長室を探したが血痕すら見当たらなかった。 「施設長はどこかに逃げた?」 周囲を警戒しながらカミリアは施設長の端末を起動する。幸いパスワードは引き出しのメモ帳に書いてあったためクリア出来た。 「うーん……」 データの殆どは外付けの記録媒体にされていたのか本体の保存ファイルには役に立ちそうなデータは無かった。 「どこかに助けを呼びに行かないといけないのに……ママたちを探しに行きたいのに」 カミリアは施設の外によく取引に出ていた男、バズの部屋に向かう事にした。バズ本人はトンネルのすぐ近くで撃たれて死んでいる。 バズの部屋は本と小物で溢れていた。カミリアは取引先の手掛かりを探す。吊るされていたカバンから取引内容が書かれたメモを見つけた。 【ソット……塩、水、Sニウム】 「施設はソットと呼ばれる街か集落と取引してたのか……でもこのソットってどこにあるんだろう?」 バズのカバンには水筒、方位磁石、地図、ナイフが入っている。 「地図……広げてもこの施設がどこかわかんないしどの印がソットかわかんない……」 地図には黒山脈に囲まれたブラックウェイストランドが描かれている。北の山脈の傍にある湖の隣に大きな街が描かれている。 「まさかここがソット?」 大きな街を目指すにしても現在地を知る必要がある。カミリアは施設の中庭でしか太陽を見たことは無い。トンネルを通り抜け外に出て朝日の方向で大体の位置が知れるかもしれないと考え朝を待つことにした。 寝れなかったカミリアは着替えて旅の準備をして過ごした。倉庫から食料と水、バズのカバン、方位磁石、地図、水筒、ナイフ。恐らく外の世界で使っているであろう通貨のコイン。銃を持っていくか悩んだ結果、一番小さくて軽いリボルバーにした。唯一カミリアが射撃訓練で撃った事がある銃である。着替えにフードマント、ゴーグル、マスク、双眼鏡で詰め込むとかなりの荷物になった。 「バズはこれプラス取引の荷物持って歩いてたんだよね……凄い」 施設長を除く全員の遺体にシーツや毛布をかぶせたカミリア。他の街や集落から人を呼んでくるまでの我慢だと全員に言いきかせた。この状況でじっとしている時間は耐えられなかった。 準備を終えカミリアはトンネルに向かう。生まれてきて初めてトンネルに入り外に出る。鼓動が高鳴り汗がにじむ。トンネル出口の操作盤のレバーを引くとブザーとランプが点滅。目の前の壁と思っていた金属の扉がゆっくりとスライドして開く。 「あ……ああ……」 カミリアの目の前に広がるのはゴツゴツとした岩の荒地。風が強く吹き付け轟音が響いている。後ろでトンネルの扉が閉まる。完全に岩肌と同じカモフラージュがされていて閉じた後は何処までが扉か分からなくなった。 「これが外の世界……あ、太陽は……」 肌を刺すような強い風と、遮るもののない広い空。生まれて初めて見る本物の太陽にカミリアの胸は高鳴った。バズの残した地図を頼りにすれば、きっとみんなを助けられる。その希望に胸を膨らませ手をかざしながら朝日の太陽を確認、左方向に見える。後方には岩山、バズの地図では現在地が東西のどの位置かは解らないがここがブラックウェイストランドの南部である事は判明した。 「南側には……印がある! まずはここを目指すのがいいかも」 川の近くに記されている場所に向かう事にした。川を探して南の山脈を背に地図を見れば最初の目的地に行ける気がした。 カミリアは注意深く岩山を降りていく。途中獣の遠吠えを聞いて身をひそめたが姿は見えなかった。下まで降りると焼けるように暑かった。細かい砂が舞い視界を遮る。 双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。すると前方にテントが見えた。カミリアはすがるような気持ちで小走りでテントに向かって走っていく。 「はぁはぁはぁ……」 きっと人がいる、ソットの場所を教えてもらえるかもしれない。なんなら付いてきてくれるかもしれないそんな希望を持ってテントに近づく。 「えっ……」 突如左肩に鋭い痛みが走った。手で触ると金属の細い棒が突き刺さっていた。 「あああああああああっ……」 その場にうずくまるカミリア。 「ひゃはははははー! こんな場所に新鮮なチビが居やがったぜ!」 砂の中からマントを着込みボウガンを持った痩せた男が現れた。 「おい、人間はすぐ死ぬんだ、無闇に撃つなっていっただろう? 売れなくなるぞ?」 大柄でゴーグルをかけた男がテントから現れた。 「すまねえアニキ! ハンターの癖でつい!」 「それにしても驚くくらい上等なガキだな……ゴース住民か?」 「いや、こんな辺鄙な場所に居ねえでしょう。どっかで飼われてたのが逃げ出したんじゃ?」 「だとするとかなりの金持ちか。飼い主が見つかってもこのまま売るにしても儲かりそうだな」 うずくまるカミリアを蹴って仰向けに転がすアニキと呼ばれた男。 「女じゃねえか益々高く売れるぜ!」「ひゃーははは!マイホームの夢が近づきますね!」 ボウガンの矢に毒が塗ってあったのかカミリアはそのまま意識を失った。 目が覚めるとフードマント一枚だけを身に着け鎖付きの首輪。暗いコンテナの中のような場所に居た。揺れている事から移動しているとカミリアは考えた。 「……」 目覚める寸前、全部夢で起きたら誕生日の次の日でママもみんなも居て日課の野菜プラントの世話をするんだ。とカミリアは考えていた。現実は違った更に絶望が襲ってきた。 続く
Aug 2, 2026
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