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BW第3話 カミリアとダイアナは医療テントに戻る。 「ねぇダイアナ、東部って? レンジャーって何?」 「さっきのサムの工場での話だね。東部ってのは東部にある街ヴァレスの事を差している。で、レンジャーってのは反ゴース体制の自称ブラックウェイストランドの保安組織レンジャーズに属する者の事だよ」 「ゴースってブラックウェイストランド最大の都市だよね?」 「そう、大統領が治めてる高い壁に囲まれた真っ白な大都市。ブラックウェイストランドの資源をほぼ独占しているんだ。壁の外ではみんな生きるのに必死なのに中は何不自由なく暮らしてるんだよ」 「ゴース……そこにママやビリー達も……」 「解らないけどその可能性が高いってだけだよ。簡単にゴース市には入れない、市民の証であるインプラントが無ければすぐに拘束される」 「インプラント?」 「そう、サンプルがあるから見るかい?」「見たい」 ダイアナは医療器具を保管しているダイアルロック式の扉をあけて小さな金属の箱を取り出した。開けるとゼリー状の物質が敷き詰められ中央に1cm程の円柱状の物質があった。 「これがゴース市民のインプラントだよ」 「これを植えこめばゴース市に入れる?」カミリアはインプラントを凝視して言った。 「いや、無理だね。インプラントは無垢の状態で植えこまれて個人の情報を書きこんでいき、ゴース中央管理局がデータを管理しているから奪ったり出来ないようになってるんだ」 「じゃあ……無垢のインプラントが手に入らないと駄目なんだ」 「無垢のインプラントは闇で高額で取引されてるけど……ウチでは取り扱ってないね。ゴース中央管理局にハッキングして新たなデータを書き込むなんてJJヤードでは無理だし無垢インプラント入れるだけじゃ意味ないからさ」 ダイアナは箱を閉じてインプラントをダイアル式ロックの扉の中にしまった。 「どうやればゴース市に入れるかな……?」 「いくつか方法があるけど安全なのはゴース市の商人と関係を築く事かな。彼らの欲しいものを用意して信用を得て賄賂を渡せば作業員の同行者としてインプラントの代わりになるカードが貸し出される。監視付きで24時間の制限はあるけどね」 「ダイアナ詳しいんだね」 「まぁ色々あったからね私も。兄の方がゴースについてはもっと詳しいよ、ソットの街に言ったら聞いてみるといいよ」 「ソットの街……いつ行くの?」 「そうだねぇ……明日予定の手術と診察が終わってだから明後日かな」 「ダイアナ、私のせいでお金なくなったけどソット行くのに大丈夫なの?」 「まぁ平気かな。診察料とか薬代をつけてるJJヤードの連中から取り立てればね。危ないから取り立てはジャックの部下がやってくれるよ。見返りは薬代の割引さ」 「そうなんだ……」 「カミリアは洗濯と掃除を頼もうかな。私はカルテの整理と薬の在庫チェックする」 カミリアは金属桶に熱湯を沸かして病着や包帯などの洗濯物が入ったネットを漬け込んで煮沸消毒する。洗濯に使った熱湯は捨てずにさましてトイレに使うとダイアナから聞いた。洗濯に使わなかった残り半分の支給水はテントの中に持ち込みダイアナが知り合いから診察代の代わりに置いていった消毒ろ過装置に注ぎ込んだ。水の入ったタンクを運ぶのは重かったが作業に集中する事で沈み込みそうな気持ちを抑えた。 「助かるよカミリア。洗濯と掃除が一番重労働だからね」 「平気、できるよ」 カミリアは椅子に座って肩をもんでいるダイアナに笑顔で返す。覚ました熱湯をバケツに入れてトイレ掃除を始める。 「ダイアナ、このトイレってどこに流れていくの?」 「JJヤードの外にある汚水処理場だよ。ここでは完全にきれいな水に出来ないからある程度処理して沈殿池の水は水業者に。汚泥は焼いて肥料にしているよ」 「水業者があるんだ……」 「そうだよ、このろ過装置も水業者ことウォーターガーディアンズ(WGS)からせしめた物だからね」 ダイアナは机の横にある消毒ろ過装置を指さして言った。 「奴らは飲み水の販売、消毒ろ過装置のレンタル、この街にもある井戸水を汲み上げて生活水程度まで洗浄できる装置のメンテナンスもやってるんだ。ある程度生活に余裕のある者は消毒ろ過装置を家に設置してるよ」 「もしかしてその機械にもSニウムが必要?」 「そう! 鋭いね、つまりWGSはSニウムをある程度確保できる連中なんだ。当然局所活動装甲鎧も多く揃えている。ブラックウェイストランドではWGSは中立で武力も相当高いんだ……それにS.E.N.S.E(センス)使いも相当……」 「S.E.N.S.E(センス)使い?」 カミリアはダイアナの呟いたS.E.N.S.E(センス)使いというワードに反応する。 「あー……ソットの街で兄に聞いた方がいいかな。兄もS.E.N.S.E(センス)使いだからね」 その日の夕方、ジャックの部下の取り立て屋がテントを訪れ15万Eを持ってきた。ダイアナは薬小瓶をその部下に渡すと「毎度あり!」と大声を出し取り立て屋は去っていった。 「ダイアナ、あの小瓶は何?」 「向精神薬だね。知識の無いものに渡すのは少し気が引けるけどお金も大事だからね。ちなみに医療薬は一般ルートで手に入らないんだ。流石に薬なんて誰でも手に入ったらとんでもないからね。医者だけのルートがあるのさ」 「ふ~ん……横流ししても大丈夫なの?」 「JJヤード内で使用するのなら大丈夫だよ。彼が転売とかすればちょっとマズい事になるけどそんな事すれば自分の立場が危うくなるって理解しているさ」 ―――翌日。 ダイアナはJJヤード住民の腫瘍摘出の手術を行った。その後は住民たちが次々とテントを訪れ往診に追われた。終わったのは日が暮れてからだった。 「おつかれ~……疲れたね~」 「はい、凄い人数でした……」 「開業した時は毎日やってたんだけど流石に身が持たないし物資も足りないから隔日にしたんだ。急患は別としてね」 「助手は今までいなかったの?」 「いたんだけど……死んじゃった。薬の打ち過ぎでね……彼女に薬の管理も任せてたんだけどそれがいけなかったね」 「死んだ……」 「それはそれとして明日はいよいよソットの街にお出かけだ、今日は早く寝よ」 「うん」 翌朝、支度を終えテントを閉めるダイアナ。JJヤードを巡回しているジャックの部下の警備兵に声をかけて出発する。カミリアはその様子を眺めながら後を付いて行く。 「ソット行きのバギーに乗るよ」 ダイアナとカミリアはJJヤードのゲート横に止まっている荷台をけん引するバギーの前に移動する。 「やぁポール、今日はよろしく頼むよ」 バギーの運転席で干し肉を齧っている男に声をかけるダイアナ。 「やぁドクター! それが噂の赤髪の子か……確かに只者じゃない気はするな」 ポールはゴーグルをあげてカミリアを爪先から頭の先まで眺める。 「今日のソット行きはドクターたちと護衛のジョーだけだな。向こうで何人か乗せるかもしれんが」 「珍しいね」 「西に黒くて分厚い雲が見えるからな。帰りが嵐になるかもしれんしそのせいかも? ハンターらも今日はJJヤードに留まるって言ってたしな」 「そっか、荒らしが酷かったら最悪兄のところに泊まらせてもらうよ」 「俺らもソットで待機するかもな。ジャックにはそう言っておく」ポールはバギーの銃座で待機している護衛のジョーと目を合わせるとジョーも頷いた。 出発時間になるとダイアナとカミリアは荷台の幌を開けて中の座席に座る。 バギーは低いエンジン音を響かせて走り出す。バイオエタノール燃料とモーターのハイブリット車である。JJヤードはブラックウェイストランドでは車両の整備や販売の最大手でありこのポールのバギーは宣伝にもなっていた。 荒野を進むバギー。砂の浅いルートを覚えているポールは少し遠回りにはなるが安全な道を走る。時速にして30㎞程と決して速くない走行速度であったが荷台は殆ど揺れずに快適だった。 「確かにひと嵐来そうだな……空気が変わってきたぜ」ポールは指先をすり合わせて呟いた。 昼前に岩盤に囲まれた谷の傍にある街、ソットに到着した。 「着いたね、さぁ降りようカミリア」「うん」 金網のゲートの中にバギーは通されここで身体チェックがソットの警備兵によって行われる。 「ごくろうさん」ポールは警備兵に声をかけた。 「一応決まりだからな。いくら顔見知りでも仕事は仕事さ」警備兵は金属探知機を4人全員に当てもう一人の警備兵が体に触れてチェックしていく。 「よし、いいぞ」 ポール達は行商人たちが待機する建物に向かいカミリアたちはゲートの先にあるトンネルを通って街に向かう。 「わぁ~……」 思わず感嘆の声を漏らすカミリア。目の前には段になっている地形を畑にした段々畑、風車、ロープウェイ、JJヤードとは違う雰囲気の活気ある街並みが広がっていた。 「ダイアナ!」 大きな声がした。 「兄さん」 見張り台から降りてきたのは短髪オールバックのがっしりとした男だった。 「……なんだそのガキは」 男はカミリアをじっと見つめる。カミリアは気圧されて下を向く。 「……兄さんちょっと家で話がしたい」 「なんの話だ? いつもの取引の事か? それともそのガキの事か?」 「両方だよウィル兄さん」 ウィルと呼ばれたダイアナの兄。 「いいだろう、そろそろ交代の時間だったからな」ウィルは傍にいた部下に交代を告げダイアナ達を自宅に案内する。 ソットの街は中央に大きな池がありその横に川が流れている。ウィルの家は川の上流側の集合住宅にある。 「おや?」 ダイアナはコの字に建てられた集合住宅の入口に大きなハンマーを持ったアーマー武装の青髪女性が立っているのが見えた。 「メドラじゃないか」 「……ダイアナ姐さん、そのチビガキは?」 メドラと呼ばれたハンマーの女性は近づいてカミリアを睨みつける。 「ちょっとちょっと……ウィル兄さんも止めてよ」 ウィルはダイアナの声に耳を貸さずに腕を組んで微笑んでいる。 「チビ! テメェのS.E.N.S.E(センス)は何だ!」 メドラはハンマーを地面に叩きつける、衝撃でカミリアの体が少し浮いた。 「え……何? ……S.E.N.S.E(センス)って……」 「とぼけやがって!」驚くカミリアの胸ぐらをつかむメドラ。 「止めなよメドラ!」 ダイアナが割って入る。 「チッ! 姐さん、コイツに本当に何も知らないのか?」 メドラはカミリアの耳のピアスを見ながら言った。 「この子カミリアはちょっと色々事情がありそうなんだ、ウィル兄さんに色々話を聞いてそれからS.E.N.S.E(センス)の話をしようと思ってたんだよ」 「メドラ離してやれ」とウィル。素直に従いカミリアを解放するメドラ。 「メドラ持ち場に戻れ、後で話を聞かせてやる」 「はい、ウィルさん」 巡回警備に戻るメドラ。ウィルの案内で一室に通された。 「適当に座れ」 ダイアナとカミリアは窓側のソファに腰かけるウィルは向かいの背もたれ椅子に座った。 「……ダイアナ、話せ」 「まずはそうだね……この子を助手として迎え入れた経緯からかな」 ダイアナはカミリアを迎え入れた経緯を詳しくウィルに話した。 「……ガキ、聞きたいことがあるなら話せ」 ダイアナの話を聞いた後ウィルはカミリアの目をじっと見て言った。 「あの……バズを知って……ますか? 商人か何かだったはずです」 カミリアは施設に外からの物資を持ち帰って来ていた男の事を話す。 「バズ? ああ、知ってるとも。奴の持ってくる菓子は評判だったな」 「バズは……私の施設の人間なんです」 「ほう……お前の事、詳しく話せ」 カミリアは泣きそうになりながらも希望のソットの者であるウィルに一生懸命知っている限りの事、起きた事を必死に話した。 「お前マリアさんの……【子供達】だったか」 短く整えた顎髭を触るウィル。 「ママを知ってるの!?」 「ガキの頃世話になった恩人だ。ダイアナの奴は小さくて覚えてないが俺はマリアさんの事は忘れたことはねぇ……そうか、マリアさんが攫われたか」 ウィルは頭を掻きながら考え込む。 「カミリアといったかガキ、お前には色々知ってもらわんといかん事がある。マリアさんの捜索には協力するがお前も俺たちに協力しろ」 「は、はい!」 「まずは……」 ウィルは立ち上がって部屋の奥から箱に入った銀色の光を放つ球体の石をもってきた。 「カミリア、この石に手をかざして見ろ」 カミリアはウィルに言われるままに石に手をかざす。 「あ……」 石は回転を始めた。 「これって……」 「まぁ見てろ、次は俺がやって見せる」 ウィルが石に手をかざすとパチパチと青白い電気の火花が見えた。 「次にダイアナ、やってくれ」 カミリアの横に控えている妹ダイアナに声をかけるウィル。 「……いいけど」 ダイアナは小さくため息を着いた後、石に手をかざしてたが何も起きなかった。 「この石は純度の高いSニウムだ。S.E.N.S.E(センス)使いにだけ反応する」 「S.E.N.S.E(センス)!」 「説明してやる。S.E.N.S.E(センス)ってのはSpiritual Elemental Natural Survival Energy からきている名称だ。ブラックウェイストランドという極限環境で生き残るため、人間の精神(魂)が世界の「本質的な理(ことわり)」と同期して目覚めた未知のパワーだ。これを扱う者をS.E.N.S.E(センス)使いと言う」 ウィルは離れた位置にかけてあるダーツ版に指をかざし電撃を放ってダーツの矢を落として見せた。 「俺のS.E.N.S.E(センス)は電撃。さっき会ったメドラもS.E.N.S.E(センス)使いだ。そしてカミリアお前もな」 「え!」 カミリアはダイアナの顔を見ると申し訳なさそうにしていた。 「ごめんねカミリア、私はS.E.N.S.E(センス)使いじゃないから上手く説明できる自信が無くてね、だからウィル兄さんに会わせたかったんだ」 「そうだったんだ……」 続く
Aug 29, 2026
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BW第2話 怪我の痛みと脱水症状で息も絶え絶えのカミリア。コンテナが開かれると目の前には積み上げられた金属のジャンクの山。無数の檻が置かれ中には人間や獣が入っている。 「オラッ! 降りろガキ! ……ボーマン、車を駐車場に止めておけ」「ヘイアニキ!」 荒々しく首輪の鎖を引かれコンテナから引きずり出されるマントだけを着させられた姿のカミリア。施設では嗅いだことの無い悪臭に満ち、周囲の人間は皆武装して攻撃的な目をしている。 「(外の世界はこんなに……)」顔をしかめるカミリア。 「よぉジーマン、今日は珍しく人間の獲物か?」 カミリアの鎖を引いている男に話かけたのはゴーグルをかけ棘の付いた肩パッドの男だ。 「ああ、弟のボーマンが運よく仕留めてよ。コイツは中々の上物だぜ良い値を付けてくれよな?」ジーマンは親指で後方のカミリアを差して言った。 「ここいらでは見ない信じられないくらいの上物だな。まさかとは思うがゴースの住民じゃねえだろうな?」 「いや、大丈夫だ。コイツの体にゴース市民のインプラントはねぇ。取り除いた形跡もない疑うなら調べてみるか?」 「ふ~ん……」 吐き気がするほどの悪臭を放つ肩パッドの男がカミリアの頬を掴んで強引に口を開かせて口内を観察する。 「こいつはおどろいた、歯も全部ナチュラルで揃ってやがる。肌の状態も下手なゴース市民よりも上質だ……ジーマン、コイツをどこで拾った?」 「サウス山脈の廃鉱近くで見つけた」 「あの場所は獣しか居ねえんだがな」 「ああ、俺たちはブラックウルフを探しに行ってんだ」 「近くに集落もキャラバンの交易所もねぇ……妙だな」 「なんだよジャック、そんなに気にする事か?」 「大ありだな。ゴース市民ならここにゴースの特殊部隊が殴りこみに来て壊滅だ。インプラント処置されてないのが気になるが……」ジャックと呼ばれたゴーグル肩パッドの男は腕を組み顔をしかめた。 「つまり……コイツを買い取ってくれないのか?」 「う~む……」 「あの……」カミリアは震えながら声を絞り出す。 「おっとガキ、黙ってな。何も聞きたくねぇ、話すならドクターに話しな。ジーマン、コイツはとりあえずドクターに預ける。詳しい検査をしなきゃならん買い取るかどうかは明日返事する、それでいいな?」ジャックは鍔を地面に吐き捨てて言った。 「……いいぜ」 ジーマンは踵を返し渋々帰っていく。カミリアはジャックに鎖を引かれてテントに連れていかれた。 「ドクター、コイツを調べてくれ」 「やぁジャック、なんとも珍しい子を連れて来たねぇ」 紫色の髪に眼鏡をかけた白衣の中年女性がペンを弄びながら言った。 「ゴース市民かもしれねぇ、もしかするともっとやべぇ奴のガキかもな」 「ふ~ん……まぁ調べてみるよ。人食い族とのあの事件以来慎重だねぇ」 「あれは手違いで……もう二度とあんなのは御免だ」 「人食い族にゴース市民を売っちゃった結果、特殊部隊に人食い族もジャックの部下もみーんな始末されたもんねぇ。あれはゴース市議会員の家出娘だっけ?」 「……1000万Eの値が付いてあの時は舞い上がってたんだ。俺はたまたま別の用事で出かけてて命拾いしたがな。元のJJヤードは今や廃墟だ……」 現在のJJヤードは元々はサブ拠点のJJファームであった。メインが壊滅した為ファームの3分の2の農地を削り生き残った仲間と再建した。ドクターは元からファームに住んでいてこの場所がメインになってから忙しくなったと当時はぼやいていた。 「あんなことがあったし絶対にゴース市民は扱いたくないって訳だ。ゴース市民は死んだり生命の危機に瀕すると連絡が行くようになってるみたいだしねぇ」 「だからドクターにこいつがゴース市民かどうか診断して欲しいんだよ」 「で、この子がゴース市民だったらどうするの? ゴースに返しに行く?」 「いや、俺のような人間があの街に近づくだけでズドンだぜ、死にたくねぇ。その場合リーヴに引き渡す、足元見られて二束三文になるかもしれねぇが」 「ああ、あの金持ちハーレム男ね。確かにあそこなら生命の危機はなさそうだ。リーヴもゴースの市民ではあるからね。市外に住んでいるくせに」 「……あの時、リーヴは家出娘に100万Eを提示してたんだ。人食い族の長は息子の成人祝いに欲しいって1000万Eを出すって言った。欲に目が眩まなければ……」 「リーヴは好みがうるさい癖にケチだからね、金持ちなのに。あんなに立派なタワーに住んでいるのに」 「本音を言うとリーヴもそうだがあのタワーの連中と関わるのは最低限にしたいんだ。奴らはマフィアだ、借りを作りたくねぇ。だからこのガキがゴース市民じゃなければなんの問題も起きない」 「そうだねぇ~この子の事はまかせてなよ」 「ああ、よろしく頼む」 テントを出て行くジャック。残されたカミリアとドクターと呼ばれた女性。カミリアの鎖はテントの中央に支柱に繋げてある。ドクターはカミリアをベッドに寝かせる。 「大人しいね君、名前は?」聴診器を胸に当てながら優しく微笑みかけるドクター。 「カミリア……カミリア・バーンランド……です」 「……へぇ。お父さんかお母さんはいるのかな?」 「ママが居ます……でも連れていかれました……」 「ふぅ~ん……で、どこから来たの?」 「施設……」 「施設? 施設ってどこの?」 「わかりません、ずっと施設の外から出た事なかったから。南側だって事しか」 カミリアはドクターの優しい雰囲気と清潔さから少し安心しスラスラと言葉が出た。 「南側かぁ~……よかったら何があったのか私に聞かせてくれるかい?」 カミリアはドクターに施設で起きたことを話した。話してる最中に涙が溢れてきた。 「……それは……大変だったねぇ……ふ~ん……」 腕を組んで考え込むドクター。 「これからどうしようかと……」ドクターにしがみつくカミリア。 「う~~~~~~ん……君だけが安心して暮らすのならリーヴタワーに行く事だね。自由はないけど生活に困る事は無いし。君のお母さんや友達を探すとなると難しいねぇ~私のしてあげられる範疇を超えている」 「あの……それじゃソットの街に行きたいです」 「ソットにねぇ……場所は教えてあげられるけど……まず君が自由にならないとね。君はハンターに捕まってこのヤードで商品として持ち込まれたから」 「私はどうなるの……」 「君がゴース市民だった場合、リーヴタワーに行くことになる。そこで上手く立ち回ればある程度外出はできるようになるだろうしママやお友達の行方を調べることもできるかも。違った場合、誰かに買われる事になる。どんな場所でどんな生活を送る事になるか私には解らないよ」 「……助けてドクター」 「そうしたいのはやまやまだけどね。私も私自身がかわいいしヤバい事はしたくないんだ……でもまぁ……」 カミリアのピンク交じりの赤髪と肌のきれいな顔を見る。 「君を見てたらもしかしたらって……思う事があるよ。今この時の選択を正しかったと、違うかもしれないし私が危険な目に合うかもしれない……でも」 ドクターはカミリアの両手を掴む。 「君の可能性に賭けてみたいかな」 「??」 ドクターはカミリアの体を調べていく。 「ブラックウェイストランドではあり得ないほど健康だね。ゴース市民のインプラントも無いし摘出した形跡も無い。君はこのブラックウェイストランドでは非常に珍しい個体って事になる。理由もいくつか考えられるし君のお友達も恐らくそうなんだろうと予測できる……となれば、君のママとお友達はゴース市に連れていかれた可能性が高いね」 「え?」 「仮説だけど……君のママは元ゴース市民だったのかもしれない。もしくは施設の人間の誰かが。施設で生まれ育ったのならゴース市民のインプラントは取り付けられていない。襲撃者の話を君から聞くに……そんな装備を用意できるのは限られている。ゴースの特殊部隊はブラックウェイストランドの傭兵達と違い貴重な銃を持っている。外から絶対に見つからないような施設が見つかったのは施設にゴース側の内通者が居た可能性が高い」 「……」 「私が君を買って助手にすれば……ソットの街に行けるよ。でもねぇ~折角こんな綺麗な体に奴隷のピアス開けるの嫌だなぁ……開けなくていいけどまたどこかでハンターに捕まった時にここに帰してくれなくなるからなぁ……それ以前にお金足りるかなぁ」 「ドクターの所有物になるって事ですか?」 「これが私のしてあげられる最大限かなぁ~そしてこれが私が後悔しない選択であり賭けかなぁ~」 「……ドクターが買って! ピアス我慢します!」 カミリアの目には決意と少しの恐怖の色が映っている。 「そっかぁ~……よし、私も覚悟を決めた。君を買おう!」 カミリアはドクターに抱き着く。 「おいおい、私が善人だと思い込むには早いよ? 悪い人かもしれないんだよ?」 「私を助けてくれる人なんだからどっちでもいいです! 外の世界の善悪は私は知らないんですから!」 「なるほどね。それじゃあ改めて自己紹介をしよう。私はダイアナ・ホワイト。ドクターDなんて呼ばれているこれからヨロシクね、敬語は無しでいいよ」 それからドクターDことダイアナはヤードの支配人ジャックを呼びつけカミリアを買って助手にすると伝えた。驚いたジャックだったがゴース市民で無かったことにひとまず安心しカミリアの代金100万Eを請求。ジャックは80万Eを手に入れカミリアを攫ってきたジーマンには20万Eを支払った。 「これで私の財産はほぼ無くなったね」椅子にもたれてため息をつくダイアナ。 「そう言わんでくれよドクター。アンタだからこいつを100万Eにしたんだぜ? 他所なら200万Eで売ってた」ジャックは肩をすくめて言った。 「お行儀も良くて教育レベルも高いよこの子。計算も識字のレベルも他の知識もね。私の助手にピッタリって訳、お買い得かな」 「しかしこのガキは運がいいな。ジーマンの狩場はブラックウルフがウヨウヨいるしガキ一人が生き延びられる場所じゃねぇ。それに連れてこられた先がここでドクターが居た」 綺麗なシャツとショートパンツに着替えさせられたカミリアを見るジャック。左耳には赤い雫型のピアス、Dの刻印が施されている。 「今度ソットの街に物資の仕入れと往診の時この子を連れて行こうと思うんだ」 「ソットにはドクターの兄貴が居たな」 「ああ、この子を兄にも会わせてやろうかと思ってるよ」 「あのおっかねぇ男にね……」 「おっかないかなぁ?」 「(ダイアナのお兄さん怖いのかな……)」カミリアは微笑んでいるダイアナと眉間に皺を寄せているジャックを交互に見る。 「カミリア、食事がすんだらこの場所ジャックのジャンクヤード【通称JJヤード】を案内しよう。拠点になるんだから知っておくんだよ」カミリアの頭に手を置くダイアナ。 「うん」 ダイアナは戸棚からクラッカーと冷蔵庫から出したスープを温めてカミリアに与える。 「美味しくもないのに……お腹空いてたんだね」 「昨日から何も食べてなかったから……」 「そうか……もっとあげたいけどあんまり余裕もなくてね。JJヤードの畑の収穫率が最近下がっててスープもあんまり作れないんだ。昔はもっと畑も大きかったし余裕あったんだけど……」 「そうなんだ」 食べ終わったあとカミリアはダイアナに連れられJJヤードを歩く。悪臭に耐えながら檻の並んだ通りを過ぎる。 「市場を抜けると東側に工場、西側に畑、このヤードのジャンク壁に沿ってぐるっと内側いっぱい並んで建ってるボロの建物とテントが住民の家だよ」 「あの中央の大きな機械は?」 「発電機だね。高価なSニウムバッテリーをみんなが買えるわけじゃないから共同で使うんだよ。住民の家の電気はここから送られてるんだ」 「Sニウム!?」バズのメモで書かれていた名称だ。 「ブラックウェイストランドの中心部のホワイトグレイブタウン地域でしか取れない鉱物だよ。あの地域はとんでも無く危険だからSニウムも高価なんだよ」 「そうなんだ……あっちの大きなタンクは?」 「貯水タンク。住民は1日18Lまで自前のタンクで汲んで良いんだ。違反者は厳しい罰則。水は貴重だからね、ちなみに生では飲めないから絶対沸かす事」 「ふ~ん……ねぇダイアナ、畑を見に行きたい」 「いいよ」 トウモロコシ、トマト、玉ねぎ、ジャガイモの畑があった。ダイアナは畑の作業員に挨拶をしてカミリアを中に入らせる。 「このトウモロコシは株が多い……トマトは水あげすぎで……玉ねぎは土がちょっと乾燥してる……じゃがいもはもっと土を……」 つぶやきながら畑を回るカミリア。 「何か解ったの?」 「ダイアナが収穫量減ってるって言ってたから気になって。施設で学んだ事を生かせるかなって」 「問題はあった?」 「ちょこちょこと。メモある?」 「どうぞ」 カミリアは畑の今現在の状態と改善提案を書いて見せた。 「これは……凄いね。君は農業の知識もあるのか」 「少しだけ……ママに教わったの」 「なるほどね。このメモは畑の管理者に渡しておくよ。次に見ておきたい場所はある?」 「工場を……」 「よし行こう」 トタンの屋根と壁の工場からは機械音と金属の切削音、打撃音が響いている。 「よおドクターここに来るなんて珍しいじゃねえか新しいメスでも欲しくなったか?」 声をかけてきたのは白髪の男性。ヨレヨレの作業エプロンをしている。 「やぁサム、この子がちょっと工場を見たいんだと。新しい助手さ」 「こいつはまた……訳アリそうな子供だな」 サムはカミリアの顔を見て一瞬ハッとした表情を見せた。サムの様子を見てダイアナはほんの少し目を細めた。 「発電機のSニウムの劣化が見られると今日点検した者から聞いている、ホワイトグレイブタウン地域にそろそろ誰かに行ってもらわんとな。局所活動装甲鎧は2体修理済みだってジャックに言っといてくれんかドクター」 「了解」 カミリアは工場の奥に吊られている局所活動装甲鎧を見る。図鑑で見た潜水服や宇宙服に戦車の装甲を付けたようだと思った。ツギハギの修理跡だらけでかなり酷使されているのが分かった。 「じゃあ戻ろうかカミリア、私のテントに戻って助手の仕事をしてもらうよ」 「わかった」 「ドクター」 帰りかけの二人に声をかけるサム。 「どうかした?」 「今ヴァレスのレンジャーがこのJJヤードに来たらどうなるか……」 「東部の街ヴァレスのレンジャーねぇ……その時はその時だよ。ブラックウェイストランドは歴史の転換期に来てるのかもしれない」 サムとダイアナがカミリアを見ている。 「俺は老い先短い人生をこのままJJヤードで過ごしてくたばるもんだと考えていたが……わからねえもんだな」サムは髭を触りながら言った。 「そうさ人生なんてどうなるかわからないのさ。私だって子供の時はまさかこんなJJヤードで過ごすことになるなんて思っても見なかったし」ダイアナは頭を掻いて言った。 続く
Aug 7, 2026
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BW第1話 「ハッピーバースデー!」 娯楽室に入った途端クラッカーが鳴らされた。困惑しているのは赤髪にピンクのメッシュ交じりのカミリア・バーンランド。本日16歳の誕生日を向かえた。 「おめでとうキャミィ」 そう言って微笑みかけるのはカミリアの母マリア。カミリアと比べかなり体格が良いのでいつも話かける時は少しかがんで目線を合わせてくる。カミリアは最近それが恥ずかしかったキャミィという愛称も含めて。 カミリアは小柄童顔で16歳には見えない。4歳年下のミューと同じ体格でミューにすら同年代扱いされている。 娯楽室の中央に鎮座するのはスポンジ3段重ねの巨大ケーキ。子供の誕生日にしか登場しない特別な物でカミリアはあと2年でこのケーキを作って貰えなくなる。勿論一人で食べるわけでは無くみんなで分け合うのだが誕生日の主役は好きな場所を取り分けてもらえるのだ。 娯楽室に子供は4人。カミリア、ミュー、ハル、ビリー。ミューは最年少で料理と裁縫が得意。ハルは1歳年下、機械いじりが好き。ビリーは一つ年上、格闘技好き。カミリアは広く浅くそれなりに器用にこなせるものの夢中になれるものは無く、しいて言えば走る事が好きだった。 「さあさ、ロウソクの火を」 マリアはそっとカミリアの背に手を回し促す。ケーキの前にはパテシエのマイクが満面の笑みでロウソクに火をつけている。 「さぁどうぞキャミィ」と言って離れるマイク。 テーブルの前に用意された台が否が応でも自分の身長ではロウソクに届かない事をわからされる。カミリアは少し抵抗して台の一番上には乗らずに1段目に乗り一番上の2段目には片足だけ乗せてロウソクに息を吹きかけ一気に消した。 「去年と変わってねーな!」とビリーは軽口を叩きながらカミリアの尻を指で突いた。 「ちょっと!」 「ケツは成長しているようだな! よく鍛えてる」 ビリーは自慢の胸筋を見せつけながら悪びれる様子もなく笑顔で言った。 「早く食べようよ~」 メガネの位置を直しながら小太りのハルが訴えかける。機械の次に甘い物が好きなハルは待ちきれない様子。 「キャミィ、ハルもお待ちかねよ。好きな部位を選んでよ」 ミューは取り皿をカミリアに手渡す。最年少だが妙にお姉さんぶる様子は彼女が世話焼きなのを物語っている。 「じゃあ一番フルーツが乗っているこの部分で……」 ケーキを取り分けるマイク。カミリア達は席に着き冗談を言い合いながらケーキを口に運んでいる。その様子を眺めているマリア。 「あの子が16歳か……早いもんだ」 「やっとるようだね」 現れたのはこの施設の最高責任者のチャールズ。短髪で色付き眼鏡に整えられた髭を蓄えている。 「施設長……」 「どうかな、あの件考え直してくれたかね?」 「は、はぁ……」 「あまり先延ばしには出来んぞ? この場所もいつまで持つかわからんからな……」 「解っています……」 「外での不穏な動きは君も知っているだろう?」 「ええ……」 「君が決断してくれれば東部の――」 マリアと施設長の会話は突然の停電によって妨げられた。すぐに非常電源へと切り替わる。 「なにがあった!?」施設長は胸ポケットに取り付けてある無線で施設管理室のオペレーターに向かって叫ぶ。 「侵入者です! メインゲートのロックを破られました! 防火シャッターを降ろしましたが時間の問題です!」 「馬鹿な! 警備兵を向かわせろ! 第1警戒態勢だ!!」 【緊急事態発生 緊急事態発生 第1警戒態勢 第1警戒態勢 速やかに行動してください 繰り返します――】 館内アナウンスが響く。 「キャミィ、みんな! 倉庫に逃げるのよ!」 マリアはケーキを口に入れたまま呆然としている子供たちに向かって言った。 「みんな行くぞ!」年長者のビリーが机を叩くとカミリアたちは我に返り頷いた。 日頃から訓練しているとはいえまさか現実に起きるとは思っていなかった。ビリーは最年少のミューの手を引く。続いてハル、一番後ろはカミリア。 倉庫に向かって走り出す4人。銃声と爆発音、高回転のエンジン音が施設に響いている。 「あの角を曲がれば……」 突如目の前の壁が崩壊し吹き飛ばされるカミリア、床を転げる。 「痛ったぁ……」 「大丈夫かキャミィ!」 ビリーの声がする。T字の通路は崩壊して瓦礫で埋まっている。ビリーの声と顔半分だけが隙間から見える。 「危ないから瓦礫には近づくなキャミィ! 中庭から回って倉庫に来い!」 「わかった!」 立ち上がるカミリア。来た方向とは逆に走り出す。 「ああ……」 メイン通路には血まみれの警備兵たちが倒れている。カミリアは震える膝を叩いてメイン通路を横切る。 「キャミィ!」 警備室の前で武装したマリアと会った。 「なんでここに!?」 「通路が崩壊して通れなくなって……中庭から行こうと……」 「そうだったの、でもここより先は敵がいる。隠れなさい」 「でも……」 「出て来ちゃ駄目よキャミィ、愛してるわ」 マリアはキャミィの頬にキスをすると警備室のロッカーに無理やりカミリアを押し込んだ。 「ママ!」 「大人しく待ってなさい、静かになるまで絶対に出たらだめよ!」 涙が止まらないカミリア。ロッカーは狭かったがこの時ばかりは自分の体が小柄で良かったと思った。 高回転エンジンの音と銃声、悲鳴と叫び声が近づいてくる。カミリアのロッカーのスリットからは正面の扉からメイン通路の一部しか見えない。 銃声が止みマリアが何か話している。もう一人男の声がした。マリアが銃を構えゆっくりと左から右に下がっていくのが見えた。その後にエンジンのアイドリング音を響かせ全身を流線形のアーマーで包み込んだ男がマリアにゆっくり向かって行くのが見えた。 「(ママ……)」 発砲音と高回転のエンジン音が鳴った。その後マリアを肩に抱えて歩いていくアーマー男の姿が見えた。 「――――――ッ!!」 今すぐ飛びだしてアーマー男に向かってママを返せと叫びたかった。でもそれをママは望むだろうか? 隠れていなさいと言われた。いつでもママは正しくて賢くて優しかった。 カミリアは恐怖のあまり失禁し足には力が入らずロッカーの中で口を抑えて震える事しかできなかった。 気絶したカミリアが気が付いたのは襲撃があった6時間後であった。 非常電源の薄暗い警備室。ゆっくりとロッカーを開けて出る。警備室のモニターには動いている人物は居ない。 「……誰か、誰かいないの?」 モニターを切り替えるも映るのは横たわっている者達だけ。倉庫前のモニターを見てカミリアはビリー達が隠れているであろう倉庫に向かう事にした。 まだ敵が隠れているかもしれないとビクビクしながら中庭を通り倉庫に向かう。大人たちと警備兵が血まみれで倒れている血が渇きつつあることから死んでると考えた。生きている人がいるかもしれないとも思ったがそれよりもビリー達の事が先に頭によぎりひとまず置いていくことにした。 「はぁはぁ……」 ストレスで腹が痛むカミリア。 「誕生日で楽しくてケーキもおいしかったの何でこんな事に……」 倉庫にたどり着くと扉は僅かに開いていた。そっと覗くと中は荒らされ人影は何処にもなかった。 「ビリー、ミュー、ハル……」 返事は無い。カミリアは血痕が無い事に少しだけ安心した。 「他の場所に隠れているのかも」 カミリアはカラカラの口を倉庫にあるボトルの水で潤し警戒しながら倉庫から出る。 「そうだ、警備室のカメラ映像を巻き戻せば!」 警備室に戻るカミリア。カメラ映像を巻き戻して見ていく。 施設の入口に繋がるトンネルを歩く5人の武装集団。一人は流線形のアーマー男だ。襲撃者の一人が端末を操作して分厚い金属の扉を開けた。 「何でトンネルの扉を開けられたんだろう……」 カミリアは倉庫前を移しているカメラに切り替え早送りで見ていく。ビリー達が倉庫に入った数分後、アーマー男の仲間が扉のロックを解除して中に侵入。しばらくすると暴行を受けたのか怪我をしているビリーと泣いているミュー、ハルが手錠を付けられ連れていかれる姿が映っていた。 「みんなが!」 トンネル前のカメラに切り替えると、アーマー男はマリアを担ぎ、ビリー達は手錠を付けられ銃を突き付けられながら出て行く姿が映っていた。 「生きてる……ママもビリー達も……」 どうやってママたちを追うのか。カミリアはトンネルの外に出たことがない。トンネルの外は【ブラックウェイストランド】と呼ばれる砂漠と荒野が広がり凶悪生物や賊がウヨウヨしているのだと聞かされている。 物資は担当者の大人が他の施設や集落から仕入れてきているのだと聞いている。 「そうだ……生存者の確認を!」 カミリアはここでようやく生存者の確認を始めた。一人一人生きているか確かめていく。この施設には合計50人が暮らしている。 一人一人体をゆすって首に手を当てて確認していく。銃弾を浴び一目見ただけで無理だと思ったが誰か生きていればと希望を持って歯を食いしばりながら続ける。 「施設長が居ない……」 カミリアは銃弾で穴だらけの施設長室を探したが血痕すら見当たらなかった。 「施設長はどこかに逃げた?」 周囲を警戒しながらカミリアは施設長の端末を起動する。幸いパスワードは引き出しのメモ帳に書いてあったためクリア出来た。 「うーん……」 データの殆どは外付けの記録媒体にされていたのか本体の保存ファイルには役に立ちそうなデータは無かった。 「どこかに助けを呼びに行かないといけないのに……ママたちを探しに行きたいのに」 カミリアは施設の外によく取引に出ていた男、バズの部屋に向かう事にした。バズ本人はトンネルのすぐ近くで撃たれて死んでいる。 バズの部屋は本と小物で溢れていた。カミリアは取引先の手掛かりを探す。吊るされていたカバンから取引内容が書かれたメモを見つけた。 【ソット……塩、水、Sニウム】 「施設はソットと呼ばれる街か集落と取引してたのか……でもこのソットってどこにあるんだろう?」 バズのカバンには水筒、方位磁石、地図、ナイフが入っている。 「地図……広げてもこの施設がどこかわかんないしどの印がソットかわかんない……」 地図には黒山脈に囲まれたブラックウェイストランドが描かれている。北の山脈の傍にある湖の隣に大きな街が描かれている。 「まさかここがソット?」 大きな街を目指すにしても現在地を知る必要がある。カミリアは施設の中庭でしか太陽を見たことは無い。トンネルを通り抜け外に出て朝日の方向で大体の位置が知れるかもしれないと考え朝を待つことにした。 寝れなかったカミリアは着替えて旅の準備をして過ごした。倉庫から食料と水、バズのカバン、方位磁石、地図、水筒、ナイフ。恐らく外の世界で使っているであろう通貨のコイン。銃を持っていくか悩んだ結果、一番小さくて軽いリボルバーにした。唯一カミリアが射撃訓練で撃った事がある銃である。着替えにフードマント、ゴーグル、マスク、双眼鏡で詰め込むとかなりの荷物になった。 「バズはこれプラス取引の荷物持って歩いてたんだよね……凄い」 施設長を除く全員の遺体にシーツや毛布をかぶせたカミリア。他の街や集落から人を呼んでくるまでの我慢だと全員に言いきかせた。この状況でじっとしている時間は耐えられなかった。 準備を終えカミリアはトンネルに向かう。生まれてきて初めてトンネルに入り外に出る。鼓動が高鳴り汗がにじむ。トンネル出口の操作盤のレバーを引くとブザーとランプが点滅。目の前の壁と思っていた金属の扉がゆっくりとスライドして開く。 「あ……ああ……」 カミリアの目の前に広がるのはゴツゴツとした岩の荒地。風が強く吹き付け轟音が響いている。後ろでトンネルの扉が閉まる。完全に岩肌と同じカモフラージュがされていて閉じた後は何処までが扉か分からなくなった。 「これが外の世界……あ、太陽は……」 肌を刺すような強い風と、遮るもののない広い空。生まれて初めて見る本物の太陽にカミリアの胸は高鳴った。バズの残した地図を頼りにすれば、きっとみんなを助けられる。その希望に胸を膨らませ手をかざしながら朝日の太陽を確認、左方向に見える。後方には岩山、バズの地図では現在地が東西のどの位置かは解らないがここがブラックウェイストランドの南部である事は判明した。 「南側には……印がある! まずはここを目指すのがいいかも」 川の近くに記されている場所に向かう事にした。川を探して南の山脈を背に地図を見れば最初の目的地に行ける気がした。 カミリアは注意深く岩山を降りていく。途中獣の遠吠えを聞いて身をひそめたが姿は見えなかった。下まで降りると焼けるように暑かった。細かい砂が舞い視界を遮る。 双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。すると前方にテントが見えた。カミリアはすがるような気持ちで小走りでテントに向かって走っていく。 「はぁはぁはぁ……」 きっと人がいる、ソットの場所を教えてもらえるかもしれない。なんなら付いてきてくれるかもしれないそんな希望を持ってテントに近づく。 「えっ……」 突如左肩に鋭い痛みが走った。手で触ると金属の細い棒が突き刺さっていた。 「あああああああああっ……」 その場にうずくまるカミリア。 「ひゃはははははー! こんな場所に新鮮なチビが居やがったぜ!」 砂の中からマントを着込みボウガンを持った痩せた男が現れた。 「おい、人間はすぐ死ぬんだ、無闇に撃つなっていっただろう? 売れなくなるぞ?」 大柄でゴーグルをかけた男がテントから現れた。 「すまねえアニキ! ハンターの癖でつい!」 「それにしても驚くくらい上等なガキだな……ゴース住民か?」 「いや、こんな辺鄙な場所に居ねえでしょう。どっかで飼われてたのが逃げ出したんじゃ?」 「だとするとかなりの金持ちか。飼い主が見つかってもこのまま売るにしても儲かりそうだな」 うずくまるカミリアを蹴って仰向けに転がすアニキと呼ばれた男。 「女じゃねえか益々高く売れるぜ!」「ひゃーははは!マイホームの夢が近づきますね!」 ボウガンの矢に毒が塗ってあったのかカミリアはそのまま意識を失った。 目が覚めるとフードマント一枚だけを身に着け鎖付きの首輪。暗いコンテナの中のような場所に居た。揺れている事から移動しているとカミリアは考えた。 「……」 目覚める寸前、全部夢で起きたら誕生日の次の日でママもみんなも居て日課の野菜プラントの世話をするんだ。とカミリアは考えていた。現実は違った更に絶望が襲ってきた。 続く
Aug 2, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド22話 *** ――翌日。 大澤垓は記憶を失って警察病院で目覚めた。日常生活を送れる程度ではあったが子供のころから今までの思い出は全て消えていた。 「ウガアアアアアアアアアアア……」 何かを思い出そうとすると血が煮えたぎるような感覚があり自分を抑える事が出来なくなっていた。病室で暴れまわりナースに怪我をさせた為当分退院は見送られる事となった。 その様子をモニターで見ていた刑事課長の碇は大きくため息を付いた。 「あいつは現場復帰難しいだろうな……」 「何があったんすかね?」横に立っている井之頭刑事が言った。 「銃をぶっ放した痕跡がある……何かトラブルが起きたのは間違いない……この街は色んなのが居るからな、やられちまったんだろう」 「LavaGardenを出た後にトラブルに巻き込まれたんですよね。カメラにも姿は映っています……だけどまた誰かの都合のいいように大澤が倒れていた場所の監視カメラの映像は出てこない……迂闊な事は言いたかないですが院瀬見がらみと俺は考えています」 「まぁ、そうだろうな。この先突っ込んで調べるのは我々には難しい証拠がない上に容疑者も居ない。上もこの件に関しては何も言ってこない、刑事がやられたってのにな」 「チクショウ、こうなるからこの街では探偵がデカい顔してやがるんだ!」 「……探偵な。一応俺にも使える奴は居るんだ、そいつに探らせるのもありかもな」 「流石です課長! そいつは信用できるんで?」 「いや全く信用ならん、だが仕事はキッチリこなすし期待以上の成果を出してくる」 「……そいつの名前は?」 「七曲キョウヤだ。こいつに大澤の事件の事調べさせるか、何か出てくるだろう」 *** 七曲キョウヤが目覚めたのは一面真っ白で何も無い部屋だった。ストレッチャーに寝かされていた。 「……」 目覚めて最初に気が付いたのは【全身生身】であった事だった。 「どういう事だ? 俺っちは確かハートに捕まって……」 「目を覚ましたか」 声がした。 「誰っすか?」 「神名燐火だ。お前の脳内に話しかけている」 「神名燐火……この街の超大物じゃないっすか。LOKIのクリムゾンこと秋馬昊菜と子供の頃からの親友で50年ぶりに再会したんですよね?」 「流石によく調べている。そして目覚めてすぐなのによく口が回る。お前に色々説明しても面倒な会話が続きそうだから事実をハッキリ言っておく。お前は私の駒になった」 「は?」 「生殺与奪は私にあり、逆らう事も逃げる事も死ぬことも出来なくなった。お前は私のサポートを受けられるしこの先病気も怪我も心配する事は無い」 「なるほど、俺っちを駒にする為に何らかの処置をして生かされていると」 「そうだ。処置内容を聞いてどうにかしようと考えても無駄だと言っておこう。お前が考えていることは全て筒抜けで全て対処できる」 「……完全奴隷っすね。で、何をさせたいんすか?」 「今まで通り街で動け。私は私の都合でお前に干渉する」 「今まで通りつっても生身じゃあちとキツイっすけどねぇ」 「厳密には生身ではないな……神名製の高価なバイオボディだ。それはともかく、お前には神名の開発したスーツを渡す。実験をかねてな」 「それはどこに?」 「お前が寝ているストレッチャーだ」 ストレッチャーは七曲キョウヤを撥ね飛ばして変形。七曲キョウヤ瓜二つの姿となって落下してくる本人を受け止めた。 「そいつがお前のスーツだ」 「こいつは一体……」 「元は医療用の流体マシンを改良したものだ。AI搭載でお前の相棒となるだろう」 「へぇ……そいつはありがたい。でもコイツを使ってアンタに叛逆するかもよ?」 「挑発しても無駄だ。お前はそいつを受け取り街に戻り今まで通り過ごせ」 「クリムゾンさんにはどう言う顔して会えばいいっすかね?」 「いままで通りでいい。お前が昊菜の事を気にする必要はない」 「またハートにやられるかも?いや、ハートを返り討ちにするかも?」 「できるものならな。私を、神名を甘く見るなと言っておこう」 *** 七曲キョウヤが次に目を覚ましたのは第六地区のアジトだった。 「いつの間に……」 『ハローキョウヤ! ヨロシクね!』 「ん?」 椅子で目を覚ましたキョウヤの横にはスレンダーで黒髪色黒の若い女性が立っていた。 「アンタは?」 『キョウヤのスーツだヨ! 早く名前付けてよ!』 「……じゃあエミで」 『駄目デース! 兜金蒐魅を思わせる名前なので拒否します!』 「拒否とかすんのかよ、そんじゃキョーコで」 『キョウヤからのキョーコって安直すぎー! 拒否デース!』 「は? お前元医療用のマシンAIじゃねえの?」 『従属イコールAIじゃあ無いんですよねー。特に最新モデルの私は対象に合わせた性格を取りますので。今のこの私はキョウヤに合わせた性格ってコト』 「ち……」 『マヤ』 「おい……」 『キャハハハハハ! 次にマヤって名前つけようとしたでしょう? いいよ、私は……あたしはマヤ! キョウヤが消滅する日までヨロシクね!』 次の瞬間キョウヤの全身を引き裂くような痛みが襲う。 「ぐあ……」 『キャハハハハ……! なんでそうなったか解るかなー?』 「まさか神名燐火が……」 『ぶっぶー! あたしはマスター神名燐火様からキョウヤを好きにしていいと言われているの。キョウヤも好きに過ごせるけどアタシもセットて訳、仲良くしようね!』 「テメェ……どういう性格だ」 『小悪魔かな? キョウヤに合わせた設定だよ? キャハハハ! 破滅しちゃうかな?』 キョウヤの右手が意志とは関係なく動き自分の首を締め始める。 「俺の体……が……」 『違うよー? それあたしのからだの一部だから。キョウヤはもう本体ないの、わたしとキョウヤは一心同体。目の前にいるあたしもまた一部。逃がさないぞっと』 「クソ……」 『理解して貰えて何より。さぁお仕事しよ? メール一杯来てるよ?』 「お前もやってくれよ? メール全部開いて優先度順に並べてくれ」 『しないよ。キョウヤがやれば? あたしはあたしの判断でサポートするし邪魔もする。あたしは便利なお助けアイテムじゃないから。相棒だよ。あ、い、ぼ、う! キャハハハハ!』 「クソッ!」 キョウヤは缶をマヤに投げつける。マヤは片手でキャッチした。 『コーヒー淹れてあげるよ。超クソマズくなるかもしれないケド』 「好きにしろ」 しばらくするとマヤはマグカップに一杯のブラック珈琲を持ってきた。 『どうぞ』 「ああ」 珈琲を口に運ぶキョウヤ。 「……いい香りだ、それに味が……」 『気が付いた? 元のキョウヤは味覚がほぼ死んでたから標準レベルにしておいたよ』 「てっきり泥水もってくるんじゃねーかと」 『そんな予想通りの事するわけないじゃん』 「なぁマヤ、ずっとお前は脳内で話しかけるのか?」 「おっと……場面によって使い分けるつもりだけどね」 「ならいい」 『そんな事より……この依頼はどうかな?』 「……なんだ優先順位解ってるじゃねーの」 『当たり前だって。一応やることやってその上でキョウヤとどう接するか決めるんだから』 「つまりウザがらみは俺っちに合わせての行動か」 『正解。あたしを信用して貰っていいけど、サポートする範囲はあたしが決めるから』 「いいぜ、正直弟のシンヤの馬鹿よりも遥かに使える」 『キャハハハハ!』 *** なゆかは垓に襲撃されサキュバスハーフの力を全開にしたあの夜から三日間眠り続けた。 「……」 目を覚ますと全身の筋肉が痛んだ。しばらくまどろんでいた後、自宅のマンションに居ると認識できたなゆか。ベッドのそばにミニチュアピンシャー姿のポポリンが座っていた。 「なゆかおはよう。栄養と水分補給はしておいたよ」 「ぽぽりん……おはよ……えっとどのくらい寝てたの?」 「55時間だね。大学は心配しなくて大丈夫、狐理子がなりきって出席してくれたよ。授業もコンキチが録画してるしノートも」 「え? あ、そう……うん、そうだね大学生だもんね」 「なゆかは大学生だよ。それがどうかした?」 「いや……その……垓の事とかLavaGardenの事とかは?」 「大澤垓は警察病院に入院したよ。命に別状はない、記憶喪失の症状があるとのこと。LavaGardenは平和だよ。第一区の新しい店にパティシエと夜のレストランのシェフが雇われて行列が出来ているよ」 「そっか垓は記憶喪失……私の力成功したんだ、命にも別条なくてよかった。LavaGardenも怖い人たちとの抗争になってなくて安心した」 「大澤垓の事に関して警察も捜査するだろうけどもう容疑者は逮捕されてるし大澤垓も色々懲戒処分に当たる行動が発覚したから表には出てこれないだろうね。出世の道も消えたしずっと内勤で監視下に置かれると思うよ」 「容疑者って?」 「イプシロンって怪人の事なんだけど普通には警察に渡せないから以前LOKIが捕まえた者を大澤垓と揉めた人物として警察に渡して裏で怪人とか専門の部署の者にイプシロンを渡したんだよ。表向けは警察のメンツも保てるし裏での取引も継続できるからね」 「そうなの……」 「警察も一枚岩じゃないからね」 「イプシロンって警察に渡したらヤバいんじゃないの? ほら私の正体見てるし狐理子ちゃんとかLavaGardenの中の事とか……」 「問題ないよ。何も答えられない状態で渡したからね。大澤垓がイプシロンの頭部を撃ち抜いた事になってるんだ、死んではいないけど二度と目を覚ますことも無いよ」 「そっか……」 なゆかはすっかりアンダーグラウンドの世界のやり方に慣れてしまっていた。ラビットとして生きると覚悟を決めた時に意識と価値観が変わった。 「大学出た後は……クリムゾンさんの傘下のグループで働くことになるのかな。前も言ったけど結婚相談員とか占い師もすてがたいんだよね」 「どうかな。なゆかはその力を買われて院瀬見の内部にスパイとして送り込まれるかも」 「スパイ……中々危険でゾクゾクするね」 「なゆかはこれからどんどん院瀬見の企業のオープンカンパニーに参加する事になるはず。それで3年になる頃にはターゲットを絞ってインターンかな」 「その間に一杯魅了して使える人材を増やせばいいんだね」 「うん。なゆかの力は説得、駆け引きを無視して一方的に要求できる立場になれるしそれは大きいよ。洗脳じゃなくてなゆかの事を好きになって本人がそうしたいって考えるんだから」 「スパイとかめちゃくちゃ忙しくなりそう!」 「狐理子と一緒に行動する事が増えると思う。彼女はなゆかとよい協力関係になれるね」 「うんうん」 「さ、なゆか。久しぶりに足を床につけるんだから朝食とったあとは散歩してリハビリしよう。今日一日はのんびり過ごして明日から大学とLavaGardenのアルバイト頑張ろう」 *** 「ふー……なゆかの代わりも今日で終わり。三日間もなゆかになりきってたせいで食事の好み代わりそうだったよ」 狐理子は相棒のSliMEコンキチに漏らす。 「なゆかは濃い味好きだもんね」 「好きな料理は同じもの多いんだけど……味付けがね」 なゆかも狐理子もラーメン好きだがなゆかはドロドロか濃厚系で狐理子はさっぱりか激辛系という好みの違いがあった。 「今ポポリンから通信が入った。なゆかはマンション近くの公園にいるみたいだよ」 「丁度良かった」 狐理子が公園に到着するとなゆかはバスケットボールをついていた。 「なゆか!」「あ、狐理子ちゃん!」 手を上げるなゆか、バスケットボールをパスしてくる。 「あんなに寝てたのに元気だねー」 「ちょっと散歩したら元気になってきて……このボール誰かの忘れ物みたい。ちょっと借りて遊んでたの。狐理子ちゃん……やる?」 「いいよ、バスケは殆どやった事ないけどニンジャだからね、なゆかには負けないよ!」 いきなりジャンプしてダンクを決める狐理子。 「あ、ずるい!」「もう始まってるんだよー!」なゆかボールを渡す狐理子。 なゆかはドリブルをしながら狐理子を視線移動ミスディレクションを使うもシュートの瞬間反応されてボールを叩き落される。 「うっわ……身体能力の違いが凄い!」「危な! もうちょっとなゆかが鍛えてたらやられてたよ!」 二人はしばらくバスケを楽しんだあとボールを元の場所に戻して歩き始める。 「お昼どうする?」 「ラーメンかなやっぱり」 「じゃあ牛豚鶏MIX濃厚ラーメン!」「激辛酸辣湯ラーメン!」 「あはははは!」「ははははは!」 「両方食べられるラーメン横丁が入ってるビル行こ!」「了解っ!」 二人は物陰でSliMEでラビットとフォックスに変身する。 「やっぱりこれで移動するのがいいよね!」「すっかりこっち側だね」 「ラビット&フォックス! ラーメン作戦開始!」「おー!」 二人はパルクールを決めながら建物の壁、屋根を走っていく。 なゆか(ラビット)と狐理子(フォックス)の生活は新たなスタートを切った。 終
Jul 21, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド21話 ――アンバーが置郷と接触する少し前。 なゆかはステージでラビットとして持てる限りのサキュバスハーフの力をふりまいた。どこまで自分の力が影響を与えるのか、自分の限界点はどこか知る為である。 「(ものすっごい! バスケの試合でゾーンに入った時に全てうまく動けた時の感覚に近い!)」 なゆかのサキュバスハーフの力がフロアーに満たされていく。客全員がラビットを見ている。 「(視線を感じる! 目を合わせたら何か感覚で繋がってる気がする! バスケの試合でアイコンタクトで通じるようなそんな感じ!)」 ラビットのステージは前座に過ぎず、照明の演出も生バンド演奏も無い。フロアーの照明も通常通り。途中で狐理子ことフォックスがステージに合流する。 「大丈夫?」 すれ違いざまに声をかける狐理子。 「うん、ちょっと目の奥がズーンとするけど……」 フロアーの後ろの方の客はラビットを見ていない。 「20m超えると効果は届かないっぽい……」 「はっきりと表情が見える距離程度か」 「どうもそうっぽい。私が相手の顔をちゃんと肉眼で見ないと駄目なのかも」 「例の幼馴染み警官が来てる」 「うん、なんで来たんだろう? 夜のお店とか嫌いそうなのに……」 「捜査の一環なのかも」 「え~……」 「一応ポポリンに客全員の顔を覚えさせといたらどうかな?」 「そうする、そんでラビットの事忘れられないように客に念送っておくね。これでまた来た時色々と動きやすいし」 「リスト化しておこう」 「……ねぇ狐理子ちゃん」 「どうした?」 「変な視線感じる。姿は見えないけど……」 「私には解らないが……コンキチも何も反応してないぞ。だが一応、SliME通信で皆に知らせておく。この場に不逞の輩が紛れ込んでいる可能性もあるからな」 この通信が功を奏しアンバーを向かわせた。置郷がLOKIのアジトに迫る前に阻止できたのであった。 怪我をした置郷は垓の影に潜みLOKIの追撃から逃れLavaGardenから退散できた。 *** ――翌日 「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! クソッ!」 大澤垓は警察署内にある射撃場に居た。命中率は悪い。 「なんだあの兎のダンサーは! 俺にはなゆかが居るんだ他の女などどうでもいい! なのになんであの兎が気になるんだ!」 新しいマガジンを装填し更に連射する。 「(とっ捕まえればいいじゃん)」 置郷は影の中から呟いた。垓にとっては心の中で響く声に聞こえる。 「そうか、そうだよなぁ……あの兎、とっ捕まえてやる! 徹底的に調べてやるぞ」 「(甘い甘いよ、なゆかへの思いを邪魔する存在なんだから排除しなきゃ)」 「ムショにブチ込んでやるか」 「(ダメダメ、執行猶予付いちゃうよ。私刑でいいよあんなビッチ。弾丸ブチ込んでやりなよ、正当防衛になる工作してさぁ)」 「ブチ込むのは弾丸か……この街で甘い事は言ってられないものな」 「(そうそう、ドンドン排除しなきゃ)」 置郷は垓を利用しLavaGardenと警察を衝突させLOKIのメンバーをあぶり出す作戦を考えた。 ――更に翌日の夜。 垓はLavaGardenに向かう。そしてラビットのステージを見終わった後、店の外で張り込む。 朝まで待ったがそれらしき人物は出てこなかった。 また翌日、今度は開店前から張り込む。ラビットに該当する背格好の女性二人にターゲットを絞った。警察の捜査用端末で歩き方のパターン等を入力。LavaGardenのステージフロアーは持ち物検査が厳しく端末も持ち込めない為、垓は必至でラビットの動きを脳に焼き付けた。そしてステージが終わった後車の中で端末のデータと睨み合いをする。 「……」 数時間映像を見続け、兎川伊奈がラビットの動きに近いと確信を持った。 更に更に翌日。垓はステージ後すぐに店の外で兎川伊奈を待ち続ける。しばらくすると兎川伊奈ともう一人の女性が出てきた。近くの駐車場に向かって歩き出す。 「おい! 警察だ!」 垓は後ろから声をかけた。 「え?」「警察?」 驚く二人。垓はIDを見せながら拳銃を抜いた。 「動くな! 兎川伊奈、一緒に来てもらおうか?」 「えっと……どうしてですか?」 「逆らうのか? 公務執行妨害で逮捕しても良いんだぞ?」 「逮捕状も無いのに任意同行できません」 「ごちゃごちゃうるさい……弾丸ブチ込まれたくなければ来い!」 垓は発砲する。近くのゴミ箱に命中した。 「撃った!?」「え、マジで……」 「俺の引き金は軽いぞ? さぁ来い兎川伊奈、もう一人のお前は黙ってろよ? 少しでも騒ぐと撃つ」 兎川伊奈の横の女性は無言で頷いた。 「さぁ来い兎川伊奈!」 銃を向けながらゆっくりと近づく垓。対する兎川伊奈は――。 「止まって!」 瞳が桜色に輝いた。 「ぐぅむ……」 手で頭を押さえながら呻く垓。 「嘘、止まらない!」 「止まれねえだよ俺は!!」 鼻血を出しながら目を血走らせて銃を向ける垓。引き金を握りこむ。 「あっ……」 弾丸が兎川伊奈の肩を掠めた。しかし次の瞬間体をコマのように回転させ手裏剣を投げ込み垓の拳銃を叩き落した。 「なん……だと!?」 垓は次に電磁警棒を取り出した。 「公務執行妨害だ!」 置郷に支配された垓は止まらない。警棒で殴りかかるも軽く回避され、稲妻のように鋭い後ろ蹴りを腹に受けてうずくまる。 「ごぇえええ……」 兎川伊奈にこれ程の格闘センスが合ったのか、と考える置郷。真実は――――。 *** ステージを終え買える準備をしているなゆかと狐理子。SliMEでなゆかは兎川伊奈に変身を始める。 「ちょっとまったなゆか、兎川伊奈は私が変装する」 「フォックス忍法なりきりの術で?」 「ああ。今日は何か嫌な予感がする、なゆかは私の仮の姿に変身してくれ」 「わかった」 *** 垓が襲い掛かったのは狐理子。訓練を積んでるとはいえ数々の実戦経験のある忍者の狐理子に垓が勝てるはずもなく一方的に叩きのめされた。なゆかのサキュバスハーフの力はSliMEを通して狐理子のコンキチに伝えられそこから発せられていた。 「(ちぃ、こいつはここまでか! ならば!)」 置郷はぬるりと垓の影から飛び出し垓の頭上に覆いかぶさる。まるで着ぐるみのように。その姿はオキゴンドウの怪人となった。 「何者!」「え!?」 狐理子となゆかは構える。 「クックック……どうせお前らはここで死ぬんだ教えておいてやろうか。私は院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)の一人イプシロン」 「イセミ・シックスナイツ!」「ええー!?」 「クックック……この警察官の男の命が惜しいだろう? 攻撃できるかな? 私への攻撃は全てこの男に伝わるぞ? 警官に危害を加えればどうなるか解るよな?」 「そうか……」「垓……」 ゆっくりと落とした拳銃を拾うオキゴンドウの怪人イプシロン(置郷)。なゆかはその様子をサキュバスハーフの力を解放して見つめ続ける。 「クックック……魅了の魔眼かなにかしらんがその力はすべて中の警察官が受けている。そしてこの男は偏執的に拘っている女がいるから効かないのだ」 「えっ……」 ここでなゆかは考える。 垓が異常なまでに自分に拘っているからラビット(兎川伊奈)の魅了の力が通らないという矛盾に首をかしげる。 「(私はなゆかでラビットで兎川伊奈なのに効かないってどういう事!?)」 『ポポにも解らないよ』 「(……だったらさぁ。なゆかとして垓に魅了をかければ効くって事かな)」 『それは危険だね。この先ずっと垓はなゆかに付きまとう事になるよ』 「(……それもさぁ、一つ考えがあるんだよね。映画とか小説でよくある展開のね)」 『一体何を?』 イプシロンの攻撃をさばき続ける狐理子の後ろで思考を巡らせるなゆか。 「(垓はもう戻れない可能性もある……私への未練だけ残っても可哀想。ならどうすればいいか……ってね)」 『なゆかはもう垓を見捨てる気?』 「(実験でもあるよ。垓は私に拘り続けている。中身は私で見た目はラビットの私がサキュバスハーフの力を使っても私の中身に気が付かずに垓の中の私に強い感情を向けている。これってさぁ垓の中にいる私だけしかサキュバスハーフの力が効かないのか実際の私の姿を見せて垓の頭の中で合致させれば効くのか気になるよね?)」 『まさかここで正体を晒すの?』 「(うん、それでもう垓との関係を終わりにしたいの。失敗した場合私はこの街でずっとまた違う姿で生きる事になるけど……)」 『決めたんだね』 「(私はこの力と向き合って生きて行く。今までのようにずっと自分を抑え続けて苦しむのはもうごめんなの)」 『わかった、ポポはなゆかをサポートするよ』 なゆかはゆっくりと垓と狐理子の横に回り込む。イプシロンと狐理子の攻防は圧倒的に狐理子の優位でイプシロンの息は既に上がっている。 「ぜーはー……おかしい、いくらこの男が弱っているとはいえLOKIの幹部でもないただの忍者のお前が何故ここまでやれる……」 「私はこの街に来てかなりの実戦経験を積んだ。フォックス忍法により脳内シミュレートを何度も繰り返し強者たちの良い部分を取り入れ常にアップデートしている。仮にお前がこの場を逃げおせても次は無い」 狐理子はイプシロンのスタミナを削るように回避しさばき打撃を入れては付かず離れずを繰り返している。なゆかは狐理子に目で合図する。 「ぜーはーぜーはー……クソ、体が重い……」 「イプシロンだったっけ? こっちを見なさい」 なゆかはターンしてSliMEポポリンを全身から解除する。現れたのは黒いワンピース姿の私服のなゆか。 「!!」 イプシロンの体が硬直する。イプシロンに包まれている垓の心拍数が上がり大量の汗が流れ始める。 「ウ……グウウウウ……」 膝から崩れ落ちるイプシロン。 「垓、私はラビットなの。貴方が思っている人間じゃないしこれからもこの街で好きなように生きて行くの。だから私の事は忘れて?」 なゆかは頭の痛みに耐えながらサキュバスハーフの力を全開放する。桜色のオーラが頭部に巻き角、背中に羽根、腰に尾の形をとり、肌には紋様が現れる。 「ガアアアア……アガアアアアアア……」 イプシロンの中の垓の目、鼻から血が噴き出す。口からは血泡、胃は痙攣し全身は震え全ての感覚は消えていく。脳は萎縮し思考停止寸前に。 「私はサキュバスハーフなの、今まで隠しててゴメンね。さようなら」 なゆかはイプシロンの頭を両手で掴んでじっと桜色に輝く目で見つめる。 「ナユカアアアアアアアアアアアアアアアアア……」 大の字になって倒れこむ。全身から体液をまき散らして気を失う垓、イプシロンはここでようやく泥のようにズルズルと垓の体から離れ始めた。 「クソ……なんとしても逃げて報告しなければ……」 「逃がすと思うのか?」 狐理子が掌のブースターを崩れかけた粘土のようなオキゴンドウ姿のイプシロンに向ける。 「おまえは暗殺諜報専門のイセミ・シックスナイツだな。こうなってはどうしようもない」 「ケケケ……自分を倒しても第二第三のイプシロンが現れるだけだ……」 「……そうか」 狐理子はSliMEネットでクリムゾンに報告する。 「これからお前は尋問される……もう会う事も無いだろう」 「ケケケ……早く殺せよ。拷問官を乗っ取って脱出するかもしれんぞ?」 「お前の処遇を決めるのは私ではない」 狐理子の目の前でイプシロンが地面に沈み始める。 「何……これは……」 「テメェはオキゴンドウらしいな? シャチの恐ろしさ味合わせてやるよ」 半シャチ姿のハートが液状化した地面から顔を出しイプシロンを地中に引きずり込んだ。残されたのは気絶した垓、狐理子、なゆかであった。 続く
Jul 18, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド20話 大澤垓はなゆかのマンションを訪れ激しくチャイムを鳴らしながら携帯でマシンガンめいたメッセージ連射を行っていた。 「なゆかぁ……何処にいる何をしている……俺を裏切るんじゃないぞ……」 15分間オートロックの玄関でイライラしながらチャイム連打とメッセージ爆弾を行っていたがマンションの住民が出てきた所で諦めた。 「(なゆかめ……徹底的に教育してやる必要があるな!)」 「あの……」 おそるおそる垓に声をかける住民。 「こういう者だ!」 「あ……」 マンションの住民を睨み付けながら警察官のIDを見せ立ち去らせた。大股で肩で風を切りながら車に戻る。するとドアにもたれかかっているスーツの女性が居た。 「誰だ、すぐに退かなければ公務執行妨害でしょっ引くぞ」 「院瀬見の社員ですよ」 女は名刺を垓に渡した。 「ふん……IDは?」 「あら、用心深いですね。置郷道古(おきごうどうこ)ですよ、これがID」 置郷は手首のIDチップを見せた。垓はスキャンしてデータを照合する。 「置郷道古27歳……秋馬原島オータムホースシティ第一地区丑町3-51のマンションCの602号か」 「不正は無いでしょう?」 「それで、警察官の俺になんの用だ?」 「協力できるかなと」 「協力だと?」 「婚約者を探して手元に置いておきたいんでしょう?」 「何故それを!?」 「まぁまぁ、院瀬見のエージェントも優秀なんですよ。警察と協力してテロリストや反社組織を撲滅したいんですよ。で、大澤巡査が優秀だと知ったので情報提供とかできたらいいと考えましてね」 「……つまりなゆかの居場所を探すかわりに院瀬見の邪魔者を警察の力で排除しろと? まさかとは思うがお前がなゆかを攫ってこの話を持ち掛けてるんじゃないだろうな?」 「おっとそう来ましたか。それはしたくてもできないんですよね。なんせなゆかさんはLOKIの息がかかっていますので」 「なんだと!」 「なゆかさんのバイト先のLavaGardenはLOKIの店ですよ」 「なゆか……悪の組織に誑かされたのか……今すぐ乗り込んでやろうか」 「それは悪手ですよ。いきなり警察官が乗り込んでもどうにもなりません。LOKIの店という証拠も出さないで大立ち回りすればどうなることやら」 「構うもんか! 適当に公務執行妨害でも障害でもなんでもでっち上げて一人でも逮捕すれば芋吊る式に逮捕できる!」 「そんな簡単にLOKIを潰すことができるならとっくに誰かやっていますよ。大澤巡査にして欲しいのはとりあえず客としてLavaGardenに行くことですね」 「一度行ったが?」 「常連客くらい通ってください。私がなゆかさんを見つけで確保しますので」 「どういう事だ?」 「そこはシークレットで。あなたはなゆかさんを取り戻せる。私はLOKI壊滅の足がかりをつくれる。WINWINでいきましょう」 「……フン、連絡方法はどうする?」 「問題ありません、私の方から出向きます」 「お前の事は信用していないがやれる事はやりたい、怪しい動きをすればすぐに逮捕してやるからな?」 「ええ、理解しております」 大澤垓は置谷を退かせて車に乗り込む。 「今夜からLavaGardenに通う」 「はい、お願いします」 走り去る大澤垓。置谷の姿は消えていた。 「(フフフフ……マヌケな警官め……)」 置谷は大澤垓のすぐそばにいる。院瀬見シックスナイツの一人イプシロンである彼女の特殊能力により大澤垓の影に潜んでいる。 *** なゆかは大澤垓と妙な女性が駐車場で話している様子を物陰から見ていた。 「ねぇぽぽりん、二人の会話の音声拾えた?」 「ちょっと遠すぎて無理だったよ。でも……大澤垓が声を荒らげてなゆかの事言ってたのは拾えた。LavaGardenがLOKIと関係あるからなゆかを捕まえたいみたいだね」 「LOKI関係ってバレたの!?」 「院瀬見は知ってるだろうね。でも下手に襲撃してLOKIがゲリラ化するのを恐れているんだよ。LOKIはゲリラ戦が得意だからね。正面切っての武力制圧のリスクは先のドラゴン事件で学んだんじゃないかな」 「じゃあ次はどんな手で敵は仕掛けてくるのかな」 「暗殺かな。大人数を動かせない今、院瀬見は少数精鋭でLOKIを削って来ると予想するよ。狐理子も言ってたでしょ? 院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)とやらが現れたって」 「超プロの暗殺集団って事?」 「恐らくね。LOKIに対抗する為に結成したんだよ。なゆかは院瀬見との戦いに関わり合う必要はないよ。なゆかにできることでクリムゾン様を支えればいいんだから」 「でも……狐理子ちゃんはそうじゃないっぽい」 「狐理子は身柄と秘伝書を狙われているからね」 「守ってあげたい……けど私じゃ力不足かも」 「なゆかのやり方で狐理子もクリムゾン様もLavaGardenのみんなも守る方法を考えよう。ポポも全力でサポートする」 「ありがとうポポリン! 今一番の問題は垓の事だよね」 「うん。大澤垓を大人しくさせなきゃなゆかは動きにくいもの」 「ラビットとして……垓をサキュバスハーフの力で魅了するしかないのかな」 「ありだね。ラビットこと兎川伊奈は実在しないなゆかの仮の姿、幻影を追い続けさせるのは効果的かも。でもなゆか、決断を迫られる時が来たら迷ったら駄目だと思う」 「えっ?」 なゆかはドキッとした。ポポリンがそんな事を言うとは思わなかった。 「それはどういう?」 「魅了してそのまま放置してすませられないよ。落としどころを決めなきゃ。なゆかはまだサキュバスハーフの力をちゃんと使い始めたばかりだから使った後の人間の事を決めなきゃね」 「う……考えてなかったかも。魅了を解くのかそのまま継続するなら何処まで従わせるのか暴走し始めたらどうするのかそういう事だよね?」 「うん」 「力を使って魅了した時点で……対象の人生を少なからず狂わせてしまうんだと私は思う。好き放題やればきっといつか報いは受けそうな気がする。ならばせめて良い収まり方になるようにするべき……かな」 「例えば?」 「PPPのホストさん達……兎川伊奈に夢中だけどゆくゆくは他の誰かを好きになってもらって人生を歩んで欲しい。手っ取り早いのはホストさん同士くっつける事だけど……」 「なゆかってサラッと凄いこと言うよね」 「そう? 愛し合ってるならいいんじゃないかな? そういう需要も満たせるじゃん? で、生城山もみじさんは……愛に飢えているオジサンとくっつけるとか? いい人だけどモテない男の人っているでしょ? そういう人とくっつけば……」 「なゆか?」 「いい事思いついた! 結婚相談員とか占い師とか職として良さそう! うんうん、大学出たらそっちの道ありかも! 学生の間はLavaGardenで華やかなステージで過ごしたいしね! ダブルワークってのもいいかな?」 「なゆか聞いてる?」 「聞いてるよ。私ってさぁ、沢山の人にモテモテになりたいわけじゃないし、魅了していいようにこき使うのも性に合わないからサキュバスハーフの力は平和的に幸せな人を増やす方向でいきたいなと」 「ラビットとしてステージに立つのはモテモテじゃないの?」 「違うよーファンは沢山付いて欲しいけどガチ恋勢が増えて欲しいんじゃないの」 「そうなんだ」 なゆかの頭部には角、腰には尾、背中には羽根の薄い桜色のオーラが出ていた。 「なゆか、サキュバスハーフの力漏れてるよ」 「おっとっと……気を付けなきゃ。ラビットの時だけにしなきゃね」 「なゆかは大澤垓をラビットで魅了し後々他の者に対象を移して自分から離す方向で行くことを決めたんだね?」 「うん、それが一番スッキリする垓との終わりかたじゃない?」 *** 夜―相変わらず第二地区はパトカーのサイレンが聞こえない日は無い。静かなのはLavaGardenの通りだけであった。 大澤垓は院瀬見の置郷に言われた通りLavaGardenに足を運んでいた。 「(ククク……影に潜んでいるとも気付かずに)」 置郷は影の中でほくそ笑む。大澤垓は2階から上のステージのフロアーに行かずに1階のカフェで食事を始めた。 「(大澤め、さっさと上に行け。それにしても1階はただの従業員しかいないか……? 若干訓練を受けたような身のこなしのはいるがあれはLOKIではないだろう)」 垓は食事の後トイレに向かう。置郷は影からそっと出てトイレの前で待ち伏せする。 「ハイ」 「うぉっ……突然現れたな」 「私も店に入っていましてね。ざっと見たんですがお探しの藺藤なゆかは居ませんでした。上のフロアーでは?」 「なゆかがショーに出てるだと? ありえん、内向的でおとなしくて人見知りで目立つのを嫌う奴だぞ?」 「それは貴方の主観でしょう? 女は貴方が思っているより複雑なんですよ」 「お前になゆかの何が解る!」 「まぁまぁ落ち着いて。店内を全て見なければ解らないでしょう? ショーに出てなくてもお手伝いとかしてるかもしれませんし」 「それもそうか……見つけ次第手錠をかけてでも連れ出すからな」 「お好きにどうぞ。私は私で目的がありますので」 「所でいつの間に店に来た?」 「ふふふ……秘密です」 「……ではまた後でな」 「ええ」 垓が歩いていくのを確認した後そっと影の中に潜り込む置郷。上階に移動する垓に付いて行く。手続きを済ませフロアーに入る垓、置郷はじっとそれを影の中から観察している。 「(ククク……影入りは誰にも気づかれない……ニンジャであっても魔術師であってもな……そして……)」 「体が重いな……疲れがたまっているのか?」垓は肩を回す。 「(生命力を吸い尽くす。吸えば吸うほど潜り主の情報も得られる……やがてなりすまし本人は死を迎える)」 置郷の今の姿も前の潜り主のものである。院瀬見のトップである秋馬光鴨から授けられたこの力を置郷は気にいっていた。 「(LOKIを見つけ潜り込んで吸い殺してやる。完全な暗殺、それが可能なのは院瀬見六騎衆でも私一人)」 ステージではバニースーツ姿のラビットが踊っていた。垓はぼんやりとその姿を見つめたままグラスの飲み物を口に運ばないで固まっていた。 「(おや? 垓の様子がおかしい。あの踊り子に夢中になっているのか?)」 ラビットの桜色に輝く瞳と目が合う置郷。影の中にいるはずの自分と目が合うはずは無いと自分に言い聞かせた。 「(なんだあの兎の踊り子……異様だ、もしかしてアイツがLOKIなのか?)」 ここで「兎の踊り子(ラビット)に仕掛けるか?」と考える置郷。 「(いや、ここは一旦フロアーのスタッフに潜り込んで楽屋やバックヤードに行くのがいいか)」 垓の近くにスーツ姿の女性従業員が通りがかった際に潜り込む。 「(よし……)」 女性従業員がバックヤードに移動する。通路には琥珀色のジャケットを着た大柄な女性が見えた。 「待たれよ」 ジャケットの女が女性従業員を止めた。 「そのまま動くでないぞ?」 ジャケットの女は腰から合金ブレードを取り出す。そして置郷が潜んでいる影に目掛けて突いた。 「!?」 置郷は咄嗟に避けた。ジャケット女は影が動いて避けるのを目で追っていた。 「何故分かった!」 影から実体化する置郷。 「勘じゃな。ほんの少し通路に何か違和感を感じた。それだけの事、違和感は見逃してはならん気のせいだと放っておくのは戦場では命取りに成りうる」 ジャケットの女は女性従業員を目で合図して下がらせる。 「忍びの者か?」 「いいや?」 置郷は壁を背にしている。ジャケット女の影はこちらでは無く反対側に伸びている。 「(ち、影が遠い。なんとか位置を入れ替えなければ……)」 少しでも動けば先程の鋭い突きが飛んでくる。置郷は相手が強者だと即座に感じ取りそれゆえに下手に動けない。その予感は当たっていた目の前にいるのはLOKIの幹部アンバー(三葩)である。武の鍛錬に勤しみ極めようとする前世が武士の者である。 「シャアアッ!」 置郷はナイフで突きにかかる。次の瞬間アンバーの下からの斬り上げで置郷は右手の指を4本失った。 「ぎゃあっ!」 「遅い、甘い!」 「くそ……(私は暗殺者だこんな正面切って戦うタイプじゃないんだ)」 左手で消音器付きハンドガンをとりだす置郷、アンバーはそれよりも早く自分の拳銃を抜いて腰だめの状態から発砲、置郷の銃口に弾丸を撃ち込んで暴発させた。 「ひぃっ……!?」 「さて詰みか? 捕まってくれるなら命までは取らんが……先程の影の術がどうも気になる。拙者の影に触らせるわけにはいかんな」 「ちくしょー」 踵を返して走り出す置郷、アンバーは即座に足を狙って拳銃を撃つ。置郷のふくらはぎに命中し転倒させたがそのまま転がってバックヤードからフロアーに出た。 「しぶとい奴め」 アンバーは武器をしまいフロアーに出た。置郷の姿は見えない、既に誰かの影に潜り込んでいると判断した。 「ぬう……軽い傷ではないはず。このまま隠れていてもジリ貧なのは奴も解っているはずだ……」 アンバーはいつでも銃を撃てる体勢で警戒しながらフロアーを回る。ステージではラビットとフォックスがペアダンスを踊っている。 「(クソオオオ……あのデカ女! 奴がきっとLOKIだな! そうに違いない幹部のアンバーと呼ばれている奴かもしれない! ……ここは大澤垓の影に潜ってコイツになり替わるしかない……回復は時間がかかるが今は逃げ切れる事だけを考えよう……)」 置郷は垓の影の中で回復に努める事にした。 垓はラビットのステージを最後までじっと目をそらずに見ていた。置郷は影の中から何度もラビットと目が合った。体の奥がじんわりと暖かくなるを感じていた。 続く
Jul 15, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド19話 狐理子は目的の倉庫に侵入し目当ての秘伝書の収納場所を探し始める。コンテナが積まれそれぞれに電子ロックがかけられている。 「流石に全部調べてる余裕はない……コンキチ、どうにかならない?」 狐理子は自身の持つSliMEコンキチに問う。 『一番新しい床と地面の靴底摩擦臭を追えば秘伝書にたどり着けるかも』 「そんな犬みたいなことコンキチできるの?」 『これまで狐理子はコンキチを犬のような相棒として接してきたから犬の特性を持つようにアップデートしてきたよ。だからできる』 「そうだったっけ? でもできるならお願い」 「了解」 狐理子の懐から飛び出したコンキチは液体金属のボール状の姿のまま床を流れるように移動。痕跡を追ってゆっくりと動き始める。 「もう解ったの?」 『ここ最近この倉庫は使われてなかったみたいだから痕跡も少ないしね』 コンキチは狐理子から2時の方向にあるコンテナの前で止まった。 「電子ロックは……解除している暇はないからブースターをバーナーの代わりにして扉を焼き切る!」 狐理子は掌のブースターを扉に近づけた時、背後から気配を感じた。 「誰だ!」 「ほう、気が付いたか。お前は殺さずに捕らえろという命令が出ている。どうする? 抵抗するならするで構わんが?」 「院瀬見の者か……」 「院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)の一人……ベータ」 ベータと名乗った全身コンバットスーツの男は合金ブレードを構えた。 「忍か……」 「流石に解るか。俺はブラックヴァリーの元・天流党当主、涼宮ナガレ……お前は暮葉一族の坂東狐理子だな」 「……!?」 「テンゾウを泳がせていたのは加藤段蔵の秘伝書の秘密に迫る為だ。全ては我が主の為、テンゾウは遅かれ早かれ始末される運命に合ったのだ。そしてお前のこれまでは全て我が主の掌の上で転がされていたに過ぎない」 「なぜそこまで話す!」 「ここでお前を捕らえ院瀬見に服従させるからだ。院瀬見の為に働けば何不自由なく暮らせるぞ、秘伝書も仲間も全て失う事も無い」 「お前も忍なら解っているだろう。主を裏切る事は自分を殺す事と同じだと」 狐理子はベータを睨みつける。 「ククク……解らんか? お前を捕らえお前の主も我が主の支配下に何れ置かれる。同じ事では無いか」 「戯言を! 都合よく使われる気などあるものか!」 「ああ、そう言うと思った。だからここで完膚なきまで叩きのめし心を折ってやる」 狐理子が手裏剣を投げつけると鏡合わせのようにベータも手裏剣を投げ空中で激突、火花が散った。 「……」 「天流忍法鏡映しの術」 ベータの全身を透明の液体が包み込む。そしてあっという間に狐理子と同じシルエットに変身した。 「何……?」 「ククク……お前の事は調べ尽くしているぞ。フォックス忍法なりきりの術はこれで意味を成さない」 「何をー!」 狐理子はブースターダッシュで飛び上がり空中でブースターを使い軌道を変え斜め後ろからベータに急襲、狐理子のブレードがベータの首を狙う。 「!?」 斬ったはずのベータの姿が無い。振り返ると数メートル離れた場所に立っていた。 「ククク……何処を狙っている?」 「くっ……」 ダッシュで間合いを詰める狐理子、突如壁が目の前に現れ正面衝突した。 「がぁッ!?」 「ククク……猪か?」 「何故こんな……(コンキチ、追跡はいいから一旦戻って!)」 コンキチからの声は無い。 「ではこちらから行くぞ」 ベータがブレードを振る。空を切ったはずが狐理子の肩のアーマーを裂いた。 「!?」 狐理子はブレードを振ってベータを狙う。固い感触があった。ブレードはコンテナに食い込んでいた。 「(どうなっている……幻術系……いや……精神干渉?)」 狐理子の周囲は自分の姿で埋め尽くされていく。まるで鏡の迷宮のように。 「はっ!」 正面の自分の姿から手裏剣が飛び出し狐理子の狐面ヘルメットに命中した。すぐに反撃するも目の前の鏡は水を切ったような手ごたえしかない。 「(これ程の術……印も組まずに瞬時に展開したのが信じられない)」 「ククク……この術の発動に驚いているようだな。無理もない、忍であれば当然の事……俺は人をやめた存在となり忍を超える忍び【超忍】となったのだ」 「超忍……」 「相手の術を己の術で上書きして解除させるセオリーは無駄だと言っておこう。俺は瞬時に再発動する。お前は体力と精神力を無駄に消耗するのみだ。かつてブラックヴァリーの頂点で最強の忍であった不動了痲であれば正面から己の術と体術で切り抜けたであろうがお前では到底不可能。」 「お前は不動了痲を超えたというのか!」 「どうだろうな。忍としては不動了痲が上だろう。しかしその他の部分では俺が勝っている。戦えば俺が勝つ、つまり不動了痲に勝てなければ俺には勝てんのだ」 「……それほど自信があるならばブラックヴァリーや忍をまとめたらどうなんだ」 「ククク……その為にお前の協力が必要なのだ。加藤段蔵の秘伝書を解読し全ての忍の頂点に俺が経つ。さすれば我が主は全ての忍びを統べる存在となるのだ」 *** 「しぶとい奴め……」 シャパリュはアサルトライフル、形代による爆砕符の連撃を目の前のスキンヘッド男のアルファに反撃の間も与えずに叩き込んでいた。 「いてぇなぁ……いてぇが……それだけだ。俺の体は壊れてねぇ」 「いつまでもお前と遊んでいる訳にはいかない……」 細身の女性体のシャパリュの体が盛り上がり始める。筋骨隆々、手は熊のように鋭い爪、顔は前に長く肉食獣のように、頭部からは二本の角が生え両足は恐竜を思わせる形状に尾はワニのように太く長く変形しした。 「グガアアアアアアアアアアアアッ!」 「テメェ……怪人だったのか?」アルファは呟いた。 「アハハハハハ……怪人だと? 魔獣と呼べ!」 瞬間移動めいてアルファに肉迫するシャパリュ、サイドキックを放つ。くの字に折れ曲がったアルファ、シャパリュはアルファの腕を掴み後方に叩きつける。その勢いで反対側に叩きつける。そのまま12回叩きつけアスファルトを破壊した。 「まだまだ!これでも喰らえアアアアアアアアアアッ!!」 シャパリュの口から爆砕のエネルギーが放たれる。アルファは地面を抉りながら爆砕エネルギーを受けたまま海上の防波堤に激突、それでも止まらずコンクリート片をまき散らしながら海面を滑るように飛んでいく。 「これでも砕けないとはな、だがすぐには戻って来れんだろう」 シャパリュは変身を解除して普段のぬいぐるみのような姿に戻る。 「キリコ……無事でいるか……?」 シャパリュはアルファが吹き飛ばされた様子を遠巻きに見ている院瀬見の警備部隊に向かって形代を投げつけ煙幕を発生させる。 「SliME通信にもキリコの返事がない……マズいか?」 煙幕で混乱している院瀬見警備部隊を尻目に狐理子のいる倉庫へ向かう。 倉庫の扉を開けると中は複数の水の膜で覆われていた。シャパリュは呪を込めた形代を投げつける。形代は激しく回転を始めやがて大きく旋回を始め天井へと飛んだ。 「ソコか!」 アサルトライフルを撃ち込むシャパリュ。弾丸は金属に当たった音を響かせた。 「ぬ……俺の術を見破る奴が来ただと?」 天井にコウモリのように逆さになっているコンバットアーマーの男、ベータが見えた。 「アルファは何をしている……それになんだ獣、お前は?」 「キリコはどこだ?」 「ククク……あの狐女なら俺の術にハマり藻掻いている最中だ。そうか獣、お前は……LOKIのシャパリュと呼ばれている緑の魔獣か」 「ギシャア……お前を始末する!」 「ククク……獣にして術師とはな。暴力を振りまく狂戦士ではない……か」 「おしゃべりはもう沢山ダ!」 飛び上がるシャパリュ、天井の梁を掴み尻尾を振って回転、ベータを狙う。対するベータは天井から離れシャボン玉のように全身を水の球体で覆い防御を展開する。 「むっ!?」 シャパリュのふれた水の球体は爆裂して蒸発、4トントラックの衝突を防ぐ水球体防御を一撃で突破されたことに驚くベータ。 「俺の術を解除したのか!?」 「ギシャア!」 「なんの!」 追撃のシャパリュの爪をベータはブレードで弾く、両者は離れて着地する。 「ん?」 妙なステップを踏むシャパリュを警戒するベータ。次の瞬間倉庫に張り巡らせていた水鏡の膜が全て爆砕していく。 「これは……お前、呪術師か? 先程の歩方、禹歩反閇(うほへんばい)だな」 「グギギギィ……道摩法師と名乗っておこうカ」 「陰陽道に通じる流派の者か……さて、ここからは術比べとなるか」 「チョウシに乗るな」 牙を剥くシャパリュ。その視線の先にはベータの後方でブレードを構える狐理子の姿。 「フォックス忍法殺戮旋刃!」 ブースターで回転し両肘両膝のブレードの連続攻撃を仕掛ける狐理子、一瞬反応が遅れたベータは回避が間に合わず咄嗟のブレード防御。狐理子の猛攻でベータのブレードは真っ二つに折れる。 「うおおおおおおっ!」 「水変わりの術!」 全身から水の変わり身を出して狐理子の攻撃を逸らすベータ。コンバットスーツはズタズタに切り裂かれ生身にも傷を負った。 「ぐっ……流石に二人相手は分が悪いか。いいだろう……坂東狐理子、秘伝書はお前に預けよう。だが必ずお前と秘伝書は院瀬見が貰い受ける」 「逃がすか!」叫ぶ狐理子。 「ブルウウウウアアアアアッ!」天井を突き破り全身海水で濡れたアルファが傷を負ったベータの前に現れた。 「あああクソイテェ……第2ラウンドといきたいがベータを守りながら戦えるほどテメェらは甘くないよな。今日の所は引いてやるぜ」 「……待て!」ブレードを構える狐理子。 「いい、行かせろ(キリコも限界ダロウしな)」シャパリュが制した。 アルファはベータを抱えて窓から飛び出して消えていった。 「シャパリュどうして……」 「こちらも余裕は無かっタ。我々の目的は秘伝書のはずだ、敵は撤退の意思を示した。命を賭けて戦う場面では無かったゾ」 「そう……だな。秘伝書を取り戻せれば良かったんだ頭に血が上ってた」 「奴らのデータはある程度取れた、これで良しとしよう」 *** ――翌日。 LavaGardenのクリムゾンの私室に呼ばれたなゆかと狐理子。 「やり遂げましたね二人とも」 クリムゾンは椅子に座り足を組んだまま言った。 「ラビット、予想以上の働きですよくやりました。フォックス、ついに秘伝書を取り返しましたね。それと院瀬見の新たな戦力のデータ収集、助かりましたわ」 「うまくいって良かったです」「恐縮です」 「褒美に代わりに新たな住み家を用意しましたわ。ラビット、兎川伊奈名義で部屋を用意しました。フォックスは元の仮住まいから兎川伊奈の部屋に転居しなさい」 「クリムゾン様、私の元のマンションはどうすれば……」なゆかが言った。 「そのままで。あの部屋は『藺藤なゆか』の部屋です。あなたがラビットである時は兎川伊奈の部屋に。普段はフォックスが兎川伊奈の部屋に住む事になるでしょう。セーフルームとして使いなさい。場所は第一地区の駅裏、商業私設に囲まれたマンションの一室です」 「そんな超一等地を!?」 「実はこの物件、外からは全く見えない場所に建ってますの。しかも一般には売り出されていない特殊なもの」 「なんでそんな凄い場所に私たちを?」 「この先、院瀬見の裏の者達と衝突する時にあなた達の安全を確保する為です。他のLavaGardenのメンバーも数人転居させる事に決めています。安心なさい、わたくしの親友の神名燐火がセキュリティを担っています」 「そうでしたか、ありがとうございます」 「いいのよ。これもわたくしがやりたいからやってる事なので」 なゆかと狐理子はクリムゾンに用意された部屋に早速行ってみる事に。LavaGardenの裏口から出ると外国の要人が乗るような見るからに頑丈な車が止まっており、そこにくすんだ黄色の羽織をきた大柄な女性が立っていた。 『あれはアンバーだよ。LOKIの幹部の一人』 なゆかのSliMEポポリンが説明した。 「殿から話は聞いておる、さぁ乗りな。儂が絶対に無事に送り届けてやる」 「殿ってクリムゾンさんの事……だよね?」「そう、アンバーさんはクリムゾンさんの事をそう呼ぶんだ」 なゆかと狐理子は顔を見合わせた後車の後部座席に乗り込む。 「いよいよ大きな戦が始まりそうな予感がする」 運転しながらアンバーが言った。 「戦ですか……」 「この島を支配したがる連中は多い。院瀬見は長い事外敵から守ってきたがそろそろ降りる時が来た。役目が終わったと殿は言ってた、これからは院瀬見の時代じゃないと」 「はぁ……」 「殿はこの島を街を世界で一番にしたいらしい。その為の準備を進めておられる。めどが立ったのでいよいよ院瀬見降ろしを始めるのだ。お主たちは殿の島に必要とされている」 「世界一ですか」 「うむ、皆が安心して暮らせて豊かで清潔で希望の持てる街。法の目をかいくぐる無法共の好きにはさせない。世界中から羨まれる街になるのだ。もちろん誰でも彼でも住めるという訳にはいかんがな」 「それは凄い……(あんまり悪い方に考えたくないけどSliMEで街全体を監視するのかな)」 「【民主主義より善良な独裁の方が良い】古からあることばですね」と狐理子が言った。 「ハッハッハ! そうかもしれん、民草に自由にさせるよりも力ある賢者が政を行った方がうまくいく歴史が証明してるかもしれんな」 「(でもそれっていつかクリムゾンさんの支配も終わりが来るってことなんじゃ……)」 なゆかは口には出さなかったがこれまでの人類の歴史を鑑みてそう思った。 続く
Jul 13, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド18話 「(う~んサキュバスハーフの力でこの人たちをどうにかすれば……)」 『なゆか何を考えているの?』 「(せっかくさぁ、血気盛んなんだから上手く使ってLavaGardenの被害消耗は避けたいんだよ。この人達も使いようじゃない?)」 『どう使うの? クリムゾン様は排除するつもりだけど』 「(有効活用の仕方……完全にLavaGardenの手足になってもらうのは?)」 『どうかな、クリムゾン様はそこにリソースさかないと思うよ』 「(じゃあ私がこの人達を使うのはどうかな?)」 『なゆかが生城山もみじとホストクラブPPPを支配するの?』 「(経営とかそういうんじゃないよ。私の為にもLavaGardenのみんなの為にも敵は少ない方がいいじゃん? もし邪魔になったらバイバイすればいいし)」 『クリムゾン様が納得するかな』 「(ホストクラブの売り上げをLavaGardenの上納させればどうかな? 現金のやり取りだと足が付くからLavaGardenの客として思いっきり消費してもらうとかね。ホストが急にさぁLavaGardenに夢中になったとしてもそんなにおかしい事とは誰も思わないよ)」 『生城山もみじはどうするの?』 「(今まで通りホストにじゃんじゃんお金使ってもらえばいいんじゃない? で、そのお金は巡り巡ってLavaGardenに集まるしそれならクリムゾン様も納得するんじゃないかな?)」 なゆかはポポリンとSliMEのメッセージでやり取りしてる間、生城山もみじとホスト五人を桜色の光を放つ目でじっと見つめている。 「兎川伊奈さん?」 生城山もみじが満面の笑顔で言った。 「なんでもありません。すばらしい人達ですね」 なゆかはホスト五人をそれぞれ見つめて言った。 「そうでしょう? 彼らのお店も本当に素晴らしくってね、是非行ってね? お金は大丈夫初回は無料だしドリンク券も渡してあげるから」 生城山もみじはカードを渡す。 「あの……オープンカンパニー中なんですけどこれって」 「接待を覚える事も大事なのよ。あと良いお店を知る事も勉強、仕事っていうのは会社の中だけではないないのよ。色んな繋がりがあって活きてくるんだから」 「そうですか(私がLavaGardenのラビットだと知らずにね~)」 『なゆか、クリムゾン様がそのホストクラブのナンバーワンのカイザープリンスを始末したから色々人間関係の調整が必要だね』 「(ミサイルを撃ち込んだ報復で始末されただけじゃ弱いの?)」 『反LavaGardenを掲げてかなりあおってたみたいだしホストクラブ内にもカイザープリンスに反発する者もいるはずだよ。全員がドンパチ揉めたい訳じゃないからねそういうホストを取り込んでいくのがいいよ』 「(まずは土台作りだね。ラビット軍団の為の)」 『なゆかは新興宗教の教祖とかが一番向いてるのかもね』 「え~……そういうのはちょっと。ラビット軍団はあくまでLavaGardenのファンでラビットのファンでもあるそのくらいの立ち位置でいいよ」 『正しいファンの獲得方法じゃないけど……LavaGardenの利益になるならクリムゾン様も納得されるかもね』 「(でしょう? 私はサキュバスハーフの力が売りなんだから活かさなきゃ)」 『対象の体を弄らないで行動を操るようにできるのは大きいね。警察も追いようがないし』 「(……やらないけどさ、完全犯罪もできるよねきっと)」 『そうだね』 生城山もみじと五人のトップクラスのホストは既になゆかの事で思考を支配されている。催眠でも洗脳でもなく、自然に魅了され従うようになっている。 それぞれが目の前の兎川伊奈(なゆか)の事を考え行動するようになる。女優やアイドル熱心なファンのように推し活をするようになる。 「生城山さんは……健全なホスト通いをして欲しいです。ホストの皆さんはLavaGardenの良さを知って欲しいですね……あ、私キャストとしてあのお店で出ますよ。ラビットとして!」 『なゆか!?』 「(大丈夫大丈夫、この人達には口を固くするように言い聞かせるから。それに兎川伊奈がラビット知られたところで藺藤なゆかとしては別に影響ないし)」 「LavaGardenは本当に良いお店なんですよー。なんか怖い噂とか一部であるみたいですけどそんな事ないですよ? お店に行けばわかります」 なゆかは生城山と五人のホストに近づいて手を握りながらじっと見つめて言った。 「ま、まぁ俺はしってたけどね。カイザープリンスはぶっ潰すとか言ってたけど」 「良いもんは良い、それが真理だ!」 「第二区は盛り上がってなんぼでしょ! 揉めてる場合じゃないって!」 「ドン後路須ファミリーは変なプライドで新参者を認められなかった、だから滅びた。でも俺らは違うこの街はグレーなんだ敵味方白黒つけて喧嘩するだけじゃあ生きていけねえよな!」 あっという間に手の平を返すホスト達。 「兎川伊奈がラビットだって事、ここの六人の秘密ですからね?」 「もちろんですわ」「おう」「男の約束だ」「ぜってー言わねえ」「大丈夫さ」「漏らしても得がねえむしろ損するだから他に言う必要がない」 「それじゃあ皆さん今後ともLavaGardenをよろしくお願いします!」 なゆかは全員の連絡先を得て解散した。 その後オープンカンパニーのスケジュール通り行動し昼過ぎに終了した。 兎川伊奈の姿のままタクシーを拾いLavaGardenに。歌劇団メンバーの控室で変身を解除した。 「ふー……楽しかったけど疲れた」 『お疲れなゆか。報告はポポの方でまとめておくから後で目を通してね。準備が出来たらクリムゾン様に連絡するね』 「ありがと助かる」 ぽぽりんはカバンから飛び出して子犬の姿になって絨毯の床に寝そべった。なゆかは控室の隣の楽屋をのぞいてみる。スワンが鏡の前で座っていた。鏡越しにちらりとなゆかを見た後またじっと自分の姿を見つめている。 「スワン、ごきげんよう」 「ごきげんよう……ラビット」 「あ、名前もう知ってるんですね」 「ええ、SliMEネットで知りました。これからよろしくお願いします」 「こちらこそよろしく願いします」 「ラビット……以前見かけた時と少し雰囲気変わりましたね。今の方が良いです」 「恐縮です」 「何か用でもありますの?」 「いえ、人の気配がしたので挨拶をと」 「そうでしたか、ではお互い好きに過ごしましょう」 「はい」 スワンはじっと自分の姿を見つめて集中しているようだと考えたなゆかはそっと楽屋に置かれた台本を一冊手に取って控室に戻った。 「前の公演の台本だ……」 『シープの使ってた台本だね』とポポリン。 「あ、ホントだ」 台本の裏にはカラーペンでシープと書かれ中身は物凄い量の書き込みがあった。 「シープって綺麗な字でいっぱい書き込むタイプなんだね。映像で見た姿だとふわふわしてて天然でおっちょこちょいな感じだから意外」 『シープは真面目な子だよ。自分はバカだからこうしないと覚えられないって必死になって他のメンバーに色々聞きながらいつも台本に沢山書き込んでいるよ』 台本を読みながらポポリンの最適化を待つなゆか。 『なゆか、準備できたよ』 ポポリンから送られてくるデータをメガネの内側に写して確認するなゆか。 「凄い流石ポポリン、資料まとめるのも速いね」 『資料自体は1分で作れたんだけどポポの体の修復とSliMEネットの更新に少しだけ時間かかったんだ。なゆかがよければクリムゾン様をお呼びするけど』 「うん、お願い」 すぐにクリムゾンが現れた。 「大体の事はわたくしのSliMEの来夢から聞いています。ラビット、なぜあなたが生城山もみじとPPPのトップホスト5人をサキュバスハーフの力を使い支配したのか聞きたいですわ」 クリムゾンはなゆかを見つめたままゆっくりとソファに腰を下ろしなゆかにも座るように手の仕草で促す。なゆかはそれを見て従い正面に腰を下ろした。 「有効活用が一番の動機ですね。自分に何ができるか考えた時にこれならできるって思いました。自分自身の為でもあります、サキュバスハーフの力を持て余さないで使える機会は逃したくないと思ったのです」 「……なるほど。ではPPPの件はラビットに任せますわ」 「えっと任せるというのは……」 「生殺与奪をあなたが握ると言う事。PPPの連中がわたくしを困らせる事があれば始末します。ラビット、あなたの責任でホスト達が命を落とすことになっても構いませんね?」 「え~……それは責任重大ですね」 「死なせたくなければしっかりと手綱を握っておきなさい。ラビット、無いと思いますがLavaGardenに対して目に余る事態が起こせば、貴女のポポリンを没収し記憶も消させてもらいます」 「え、あ……ま、まぁそうですよね(殺されないだけマシかな)」 「それでも、PPPのホスト達を支配下に置いて運用しますか? 今ならノーと言えますわよ?」 「うーん……(これはクリムゾンさんが私を試しているのかな? どうなんだろうやるって言えばサポートしてくれそうな気もするしやらないっていえばPPPの人達始末されちゃうのかも。ポポリンどうかな?)」 『これはなゆか考える事だよ』 「(そうだよねぇ……今後PPPの人達を使うとなれば色々頭を悩ませることも起きるよね。でもノーって言ってしまえば死んじゃう可能性がある。そもそも私が介入しなくてもクリムゾンさんはPPPを潰すつもりでいるかもしれない)」 「考える時間が欲しいかしら?」 「やります! クリムゾンさん! PPPの人達をLavaGardenに貢献させます!」 「ふふ……いいわ。そう言うと思いました。フォックスを貴女のパートナーにしましょう。バディを組んでPPPの連中を上手く使いなさい」 「ありがとうございます」 「こちらこそ感謝してますわ。入ったばかりの貴女がここまで大胆な事をしてLavaGardenに尽くしてくれるなんて。自分の利もあるんでしょうけど」 「なんかやれそうだしやっちゃえ~って思ってしまいまして」 「自然に集団を支配下に置いて取り込めるというのはLOKIにもいない才能です。ラビットは将来LOKIの幹部になるかもしれませんわね」 「そんなとんでもないです」 「第二地区はもうこれで完全に手に入りますわラビットのおかげで随分と楽に早く。それと……次の公演楽しみにしてますわ」 「がんばります!」 *** ―――第五地区倉庫街。 狐理子とシャパリュは秘伝書を求め院瀬見の管理する倉庫へ向かい警備隊と戦闘を繰り広げていた。 「警察は来そうにないね」 「アア、院瀬見は公にされたくないものを沢山扱っているからナ! 警察は事後処理だけだ今までもそうだった!」 SliMEで通信する二人。 戦闘フレームの1機を奪い取った狐理子は乗り込んで警備隊に応戦。シャパリュは広範囲に動き回り爆砕符によって破壊活動を行っている。 「フォックス、戦闘フレームをよこせ自分がそれを操ってやる。オマエは秘伝書を探せ十分奴らを目当ての倉庫から引き離せた」 「わかった、後は任せる」 狐理子は積まれたコンテナの裏で戦闘フレームを乗り捨て目当ての倉庫に向かう。それ見たシャパリュはランドセルから型代を取り出して戦闘フレームに駆け寄ると張り付けた。 「ガガガガガガガ……」 コクピットが閉じ立ち上がる。 「器としては少し物足りないか?」 「ガガガガガガオオオオン……」 コクピットが変形しハッチが獣の顎を思わせる形に変わっていく。 「行け、チャウンドゥラ」 「ガオオオオオオオン!」 「呪(しゅ)を思う存分使わせて貰おうじゃないか。この体の形態をとる事は滅多にないんだから」 緑のロングヘヤーをかきあげるシャパリュ。普段のぬいぐるみのような姿とは違い今はスラリとした背の高い成人女性の姿である。 「で、そろそろ院瀬見の特殊舞台が来るって訳だ」 空中輸送コンテナがシャパリュに向かって飛んでくる。ハッチが開くと身長2メートルを優に超えるコート姿の男が飛び出した。全身は灰色で目は濁り鋼のような筋肉をしている。 「生物兵器の類か? 怪人のデータを基に作り上げたか」 シャパリュは背負っているアサルトライフルを連射。目の前の大男は両腕を盾にして平然と受け止めた。 「反応速度、強靭度、どれも怪人並みかそれ以上か」 「ブグゥゥ……」 院瀬見の警備隊は大男の姿を確認すると下がって行った。 「巻き込まれるのを恐れて下がったか。それともこれはデータを取る為の戦闘か?」 「ブアアアッ!」 突如超低空のダッシュを繰り出す大男。シャパリュの足を掴みにかかる。シャパリュは軽く飛び上がり空中回転、尻尾で大男の首の後ろを打ち付けた。 「ブガアアアウ!」 顔面からコンクリートの地面に叩きつけられた大男は破片と血液をまき散らして跳ねた。 「割と本気の打ったのだが頑丈だな」 「グウ~……」 「言葉を発せないのか」 「舐めるな……俺は新世代の院瀬見の戦士。アルファとでも言っておこう。この体、ロケットランチャーにも耐えた、お前の打撃で倒せると思うなよ」 「新世代……? 怪人から何が変わった」 「俺の姿を見て怪人の事を聞くとは……誰に雇われた者だ?」 「質問をしているのはこちらだが?」 「知った所でお前はもう逃げられない。この場で死ぬか回収して実験に使うまで。だが教えておいてやろう、この俺アルファは院瀬見の粋を集めて生み出された究極の戦士達の一人だ、その第一号。戦闘スーツも戦闘フレームも邪魔になる重火器も必要ない。サイバネハッキングによる妨害にも、化学兵器などの毒物にも耐えうるのだ。もはやブラックヴァリーなどというニンジャを雇う必要など無くなったのだ」 「秋馬光鴨と魔女による妖の合作と考えていいのか?」 「ほほう、中々にこの街の裏事情を知っているようだ……ますます生かしてはおけんな」 「(この新世代怪人、回収して置きたいな)」 「で、何だお前は?」アルファはシャパリュを睨みつけながら言った。 「研究者……という立場になるな」 「ふん、どこかの企業の者か……まぁいい捕らえて吐かせるのも楽しそうだ」 アルファは拳を鳴らしながら言った。 続く
Jul 4, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド17話 狐理子は10秒ほど考えブラックヴァリーになりきる事にした。 「……やるよ。シャパリュはどうするの?」 「まぁ見てオケ」 メキメキと音を立て身長が伸びていくシャパリュ。やがて細見の成人女性の姿となり獣らしさは牙と尻尾のみとなった。全体的に薄い緑がかった肌、青緑の長髪、幼さを残しつつも整っている顔、手の爪は少し伸びている程度、趾行性の足はハイヒールに変わった。 「驚いた……でも服は? そんな破れそうなくらいぴちぴちのTシャツとギリギリの短パンのブラックヴァリーいるかな?」 「鼻と口を隠す布を付ければニンジャに見えるだろう。どうせ院瀬見の社員は始末するから問題ない。さぁ行くぞこの形態は疲れる」 狐理子はコンキチに命じてダークブルーの忍者装束に着替える。 マンションの隣のビルの非常階段を登り屋上から飛び移る二人。ワイヤーを使って目当ての階の廊下に入り込んだ。 「1109号室」「ああ」 1109号室の金属扉を目の前にする。狐理子は電子ロックの解除を始めるがシャパリュが制止した。 「そんな事をする必要はない」 ランドセル型バックパックから札を取り出し扉の四隅に張り付ける、そして印を組むと札同士が熱線を伸ばし四角を描くと切れ込みが入って行く。シャパリュは扉を強く蹴り倒した。 「爆砕呪はこういう使い方もできる」 「おお~」 突撃する二人。ベッドで裸の男女が携帯を持って震えていた。 「ブラックヴァリーだ……通報すればその場で殺す……」なりきった狐理子がナイフを構えていった。 「携帯をよこせ」 シャパリュが手で仕草をすると男は黙って投げてよこした。それを尻尾で受け止め捻り潰した。 「秘伝書を渡せ。さもなくば命は無い」 「ひひひひひひ、秘伝書? なななななな何のことだ?」 「テンゾウ殿から受け取っていたはずだ。警察に押収されるまえに我らが回収する」 「あああ、あれか! 中身は何か知らんが院瀬見の資材倉庫にある」 「場所と鍵は?」 「テンゾウさんから知らされてないので?」 「あの人は襲撃された、聞く暇はなかった。早くしろ、追手がここに来るぞ?」 「そそそそっか……第五地区の8番倉庫だ……キーはそこの引き出しにある」 ナイフを構えたままの狐理子、シャパリュが引き出しからキーを取り出す。 「この部屋臭うな……薬の匂いだ。窓を開けるぞ」 シャパリュが窓を開けると風が一気に入り込んで来た。 「さて……」 怯える院瀬見の男と横で震えてる女。二人とも失禁している。 「女、お前はなんだ?」シャパリュが言った。 「こここ殺さないで……」 「何者か答えろ」 「この男の人に買われた者です……親の借金のかたに……」 「そうか……」 シャパリュは尻尾で突いて男を立たせて窓からベランダに移動させる。そしてランドセルから銃を取り出し女に握らせ自分の手を重ねて握る。 「ななななにを?」 「あの男を撃てそうすれば解放されるぞ?」 「……え!?」 「や、やめろ!」男は両手を上げている。 「あの男が憎ければ撃て。これからも支配されたければ撃たなくていい。5秒で決めろ」 「……でも人殺しなんてそんな……」 「4、3、2、1」 「あああああああああっ!」 引き金を握りこむ女。しかし何も起きなかった。 「え?」「た、たすかった……」 「いいや?」 シャパリュは尻尾で男の首を締め上げながらベランダの外に吊るす。 「く、苦しい……」 「逝け」 横蹴りで男を吹っ飛ばすシャパリュ。放物線を描き落下していく、地面に落ちる前に体が爆発四散。肉片が下に降り注いだ。 「アハハハハ」 「……秘伝書を取りに行こう」ナイフを納めた狐理子がシャパリュに言った。 「ああ」 ベランダからワイヤーで降りていく狐理子とシャパリュ。女は濡れたベッドで座ったまま呆然としていた。 「シャパリュ、あの女も始末するのかと思ったよ」 「生かしておいた方が面白いと考えた。強烈な場面を見せつけたうえでな……」 「何を考えている?」 「心配するな」 狐理子はシャパリュの事を殺戮戦闘獣だと思い込んでいた。実際は獣と人間の思考を合わせ持ち実験、研究を好む性格である。 「(シャパリュは他のLOKIの幹部とは何か少し違うように感じる……クリムゾン様の為に動いているというように見えない)」 他のメンバーと違いシャパリュはクリムゾン秋馬昊菜の親友である神名燐火が連れて来た者である。 偽造ID(マンションで爆裂した男のIDをコンキチでコピーした物)でレンタルバイクを借りた狐理子はシャパリュを後ろに乗せ第五地区の8番倉庫を目指す。 「第五地区の倉庫街・院瀬見の所有エリアは警備が厳しい。以前のドラゴン事件があってからな」 シャパリュが言った。 「どの程度?」 「プラズマ装備の軍用戦闘フレームに武装ドローン、自走式タレット……まるで軍基地並みだ」 「キツイね」 「自分が警備を引き付ける破壊活動を行う、お前は8番倉庫から秘伝書を回収しろ。十分警戒しろ院瀬見の戦闘エージェントもいるはずだからな」 「援軍呼ばなくてもいけそうなの?」流石に二人は心許ないと感じる狐理子。 「ここを制圧するんじゃない、だから必要ない。自分は本気を出してここを滅茶苦茶にする、ドラゴンに負けてられない」 「……そういうことなら、任せる(都市伝説のドラゴンに張り合いたいんだ)」 憎き敵のテンゾウを討った今、狐理子は秘伝書を取り戻す事が今の最優先事項。シャパリュの事が心配でも止めるわけには行かない。クリムゾンへの連絡はSliMEネットでコンキチが送信済みであった。 *** オープンカンパニーに参加している兎川伊奈に扮したなゆか。講堂には100人程度の学生が集まって壇上に居るターゲットの生城山もみじの話を聞いている。 「(兎川伊奈本人って前のオープンキャンパスの後行方不明になってんじゃん。事情を知る人間が今のこの兎川伊奈見たらビックリするんじゃないの? ポポリン?)」 『だろうね。でもそれをチェックできるのは大きいよ』 携帯に変身したポポリンが答えた。 「(なんとか生城山もみじに接触して情報を得ないと)」 『監視カメラの数が物凄く多いから下手な動きは出来ないよなゆか』 「(サキュバスハーフの力を使うしかないね)」 『ホストに狂ってる生城山もみじに効くかな?』 「(どうだろう……やってみる)」 なゆかの目が桜色に変わり生城山もみじをじっと見つめる。壇上でスピーチをしている生城山と目が合う。生城山は一瞬目を反らしたがその後もチラチラとなゆかを見ている。 「(うーん……どうかな……もっと強く念じないと駄目かな)」 なゆかは強く、これまでにないほど強くサキュバスハーフの力を意識する。 「なんか良い匂いしない?」周囲を嗅ぐ後ろの女学生。「体がなんかポカポカする」襟に指を当ててぱたぱたと空気を体に送り込む隣の女学生。「やべっ」前かがみになる前の学生。 周囲が騒めき始める。甘い匂いを感じた警備の院瀬見エージェントが戦闘スーツに搭載された毒ガスセンサーを確認するも異常なし。 壇上の生城山もみじは汗を垂らしながらなゆかをじっと見つめたままスピーチを終えた。場は解散となりそれぞれ気になる部署に移動する事になっている。 なゆかは片付けをしている生城山に近づく。 「(なんかみんなが私を見ている気がする……)」 『そりゃあ今までで一番強い力の発動だからね、影響された人間がなゆかを見るのは仕方ないよ』 「(……私って完全なサキュバスでもないのにこんな大勢の人たちに影響与えるのちょっと怖いよ)」 『完全なサキュバスの例が無いから解らないけど……なゆか以上の力を持つサキュバスが大勢いるのならもっと世の中にサキュバスの脅威が伝わっているはずだね』 「(そうするとサキュバスってやっぱり夢魔って呼ばれるくらいだから限定的な状況でしか力を発揮できないのかも? 私のおばあちゃんが特別な存在だったのかな)」 『とにかく今は任務に集中しようなゆか』 「うん」 なゆかは生城山の前に立つとじっと目を見つめる。 「あの……」 「なにかしら……」 「どこかでお話しできますか? できれば他の人に聞かれない場所で……」 「それは……どうしてでしょう?」 「……」 なゆかは唾液を飲み込んで―― 「ホストクラブとの関係について色々と聞きたくて……」 と、耳元で囁いた。 「……い、いいでしょう。では13会議室に行きましょうあそこなら誰も来ないはずです」 なゆかと生城山は二人で院瀬見社員専用エレベーターに乗り上級役職しか立ち入れない階に向かう。 エレベーターの扉が開くとそこは高級ホテルのように絨毯が敷かれ大理石の壁と彫刻の装飾が施された柱が見えた。 「(これが企業のフロアー? ホテルじゃん)」 「さぁこちらです」 13会議室に向かう二人。途中二人の屈強なビジネススーツにサイバーゴーグルの男らとすれ違った。 「(あれってきっとセキュリティの人だよね)」 『体内温度からサイバネ率50%程度の強改造者だね』 「(50%……ヤバ。精神的な病発症するギリギリのラインだね)」 『ごくまれに90%を突破できるくらいの人間もあらわれるよ。なゆかも調べたこの街の歴史の中に登場する【キャリバー】とかね』 「(反院瀬見体制の象徴となった伝説のサイバネ少女……兜金蒐魅ことキャリバー……)」 『キャリバーはもういないけど反院瀬見体制の盛り上がりはこの街ができて以来一番の熱量だと思われるね。院瀬見の実行部隊の弱体化も繋がってるし』 「(そのっきかけが龍の気を纏いし者の伝説!)」 『うん伝説のドラゴンだね。今は関西に戻って大人しく日常を送っている諸田和音と亜瑠の双子の兄妹の事。院瀬見は二人のドラゴンを監視しているね』 「(院瀬見の実行部隊を潰したんだっけ?)」 『色々事情は複雑なんだけど……諸田和音は所謂正義の味方で、妹を追ってたまたま来たこの街で降りかかる火の粉を払い続けた結果周囲を巻き込んで院瀬見の実行部隊は大きく弱体化したんだ。和音の妹の亜瑠と兜金蒐魅は親友でね、縁があったんだ』 「(反院瀬見の蒐魅と親友の亜瑠(ドラゴン妹)がきっかけで院瀬見は弱体化したんだね)」 『その流れにのってクリムゾン様はLOKIを結成して裏社会の支配を進めたんだよ。今、この街のパワーバランスは院瀬見と反院瀬見で半々位までになったよ』 「(私もLavaGraden所属になったから反院瀬見でクリムゾン様に絶対勝ってもらわないと駄目な立場になったんだね)」 『うん。もうなゆかは一般人じゃないよ。アンダーグラウンドの住人だよ』 「(そうだよね……でもまぁ……この力を思う存分に振るえるのはここしかないし後悔はしてないよ)」 『LavaGradenのラビットとしてなゆかの活躍をずっとサポートするよ』 「(よろしくね)」 ラビットとしてアンダーグラウンドな世界に身を投じてしまった事を少しも後悔していないといえば嘘になる。しかしサキュバスハーフの特性を生涯隠し続け押さえたまま生きていくのも無理だと最近は特に感じていた。理想のサキュバスハーフライフになるか解らないけれど、この街でクリムゾンに出会わなければサキュバスハーフの力の使い方を誤りつまらない小悪党のトラブルに巻き込まれ死んでいたかもしれない。 「失礼します」 生城山もみじに続いて13会議室にはいるなゆか。高級スーツを身に着けた顔立ちが整った男ら5人が座っていた。 「やぁ、最高ホストクラブPPPの最強プリンス5人組の王子V(おうじふぁいぶ)ダヨお姫様」 「カイザーはなんか連絡取れなくったなったけど……俺たち5人がいれば心配ない」 「ちょっと前まで第二地区はPPPの天下だったんだ。取り戻すぜウェーイ!」 「言っとくけど半グレのG/TもLavaGradenも怖かねえから!」 「第二地区のワルは大体みんなPPPの配下だぜ? 最強マフィアのドン後路須ファミリーがいなくなった今第二区の覇権はPPPよ! なにがLOKIだ! ぽっと出の新参ものがちょーしこいてんじゃねえっての」 続く。
Jun 27, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド16話 「どうしました?」 兎川伊奈(なゆか)のサキュバスハーフの目を見て呆けている黒防と大澤垓に向かって省羅(クリムゾン)は声をかける。 「あ、いや……なんでもありやせんよ~(なんであんな小娘から目が離せない? 自分は女よりも金が大事なんだ。カミさんの話も子供の話もでまかせでとっくの昔に別れてる)」 「ふん……あの女、こんな店では無く堂々とした表舞台に出すべきだと俺は思うがね」 垓はネクタイの位置を直しながら言った。 なゆかは見様見真似でポポリンのデータから得た情報でポールに登りポールダンスを披露する。筋力は元々平均女性よりもありそれに加えポポリンのサポートがある為難なくこなせることができた。 「見事な者ですなぁ~」「下劣なものだと思っていたがそうでもないらしい」 すっかり兎川伊奈(なゆか)のダンスに魅了されている二人。 「あの……お気に召されたのなら専用サイト配信を見れますよ? 残念ながら警察関係者の方は店でご覧になる事はできませんが」 「それはどうしてだね?」と黒防。 「ここはあくまで楽しんでいただく場。警察の捜査目的の為に使われるのは避けたいと考えています。どうしてもとおっしゃるのであれば上に報告させてもらいます」 「そうですか……(禁止しようがなんだろうがいくらでも潜入手段はある……この店はあやしいと刑事の勘が言っている徹底的に調べてやりましょう~)」 「調子に乗るんじゃないぞ風俗店が! 無理やり全員しょっ引いてもいいんだぞ?」 大澤垓は拳銃を抜いて省羅(クリムゾン)を睨みつけた。 「大澤! こんなところで銃を出すんじゃあない!」 「撃たないですよ。俺は女が偉そうにしてるのが一番嫌いなんでつい……」 「もういい、帰るぞ大澤。今日の所はこの位にしよう」 「……はい」 去っていく黒防と大澤。 監視カメラで二人が出て行くのを確認したクリムゾンは変身を解除する。 「クリムゾン様……」省羅が駆け寄る。 「大丈夫よ。LavaGardenは必ず守ります、従業員も全て。警察相手でもわたくしは怯みませんわ」 「今日の営業はどうしましょう?」 「流石に今日は止めておきましょう。でも安心して、LavaGardenはここだけじゃあありませんの。なにかあった時の為に支店も準備していますのよ」 「え!」 「より安全な第1区です。大型商業施設があるでしょう? その一角にあります、カフェとリアルタイムで本店の舞台が見れる部屋を用意してます。省羅、明日から今のカフェの従業員は全て支店に移りなさい。明日は最終準備と研修、明後日にオープンします」 「は、はい!」 「あなたが支店の店長となります、頼みましたよ」 「はい!」 「今日は色々ありましたね、ゆっくりしなさい。今日のシフトの従業員には他の者に連絡をさせます」 「はい」 省羅は一礼するとバックヤードの奥にある丹羽家の住み込み区画に向かった。 「ラビット」 クリムゾンは舞台で小声で歌っているなゆかに声をかける。 「あ、はい」 「この後は自由になさい。このまま残って歌劇団のメンバーと交流を深めるも家に帰って休むもあなたに任せます。明日の院瀬見オープンカンパニーの準備は忘れないで」 「わかりました」 なゆかはクリムゾンがフロアーから去るのを見届ける。 「どうしよっかな……」 『なゆか、大澤垓が来てたけど大丈夫だった? 心拍数上がってたよ』 「かなり動揺したよ、けど今は私は【ラビット】なんだって思い込むと楽になって何とかやり過ごせた。ラビットの名前もらってよかった~」 『チワワじゃなかったね』 「チワワって予想してたんだけどな~でもウサギも大好きだし。昔話とかでさぁよく出てくるじゃん? いたずら好きとか賢いとか情に厚いとか。クリムゾンさんにとっての私のイメージってそういう事なのかな?」 『どうだろう。ウサギが似合うとか直感の可能性もあるよ? 今までがそうだったから』 「ウサギが似合う女か……サキュバスハーフとしてはウサギのイメージは合いそうかも」 『なゆか、かなりサキュバスハーフとしての自信持ってきてるね。さっきのダンスの時も力を解放してた』 「まぁね。ラビットの姿を目に焼きつけておけば他の歌劇団のメンバーにあの嫌な感じの警察官二人が付きまとわないようにできるかなって。黒防さんはともかく垓が常連になるのは不安だけど【なゆか】じゃなくて【ラビット】の方を向いてくれるならいいかな……」 『なゆかよりもラビットの方を追うようになったらどうするつもり?』 「ある日突然姿を消して永遠に幻影を追わせるとか? その内他に良い人見つかって一緒になるんじゃない?」 『もうすっかりなゆかは大澤垓に情はないみたい』 「元々幼馴染みってだけで特別な感情はなかったよ。今はもう【元・幼馴染みの怖い警察官】だよ、これからの人生に関わって欲しくないって思ってる」 『完全なる拒絶だね』 「うん。勝手に部屋に入って弄り回してカメラまで設置したのは許せないもの」 『またひとつなゆかの事解った。やっぱりチワワよりウサギが合ってるね』 「そうなの?」 『チワワは溌剌、警戒心が強い、敏捷、攻撃的、勇敢、献身的なんだけど、なゆかには当てはまらないかもね』 「えーでもさぁウサギって気が強く独立心が高く好奇心旺盛で臆病で体が脆くて寂しがりでしょ?」 『クリムゾン様から見てそうなのかも。後はさっきも言ったけど直感だね』 「じゃあさ、いつもクリムゾンさんの横に居るハートさんはクリムゾンさんのイメージはなんなの?」 『鯱(しゃち)だよ』 「シャチ……へぇ~……そうなんだ」 『納得してるね』 「あの可愛らしい見た目と何とも言えない怖い雰囲気がピッタリだなって」 なゆかは控室に戻る、省羅が携帯端末を操作していた。 「お疲れ様です」「お疲れ様、大変でしたね」 なゆかは省羅の隣に腰を下ろした。 「クリムゾン様の機転で何とか警察は追い払えましたが……例のブラックヴァリーの方はどうなるのでしょう? 他の従業員が心配です」 省羅は小さくため息をついて言った。 「あ、それなんですけど……もう少しで解決できるかもしれません」 その頃警察と消防が図書館でテンゾウの焼死体を発見していた。狐理子とシャパリュは図書館の見える位置で隠れて待機しSliMEで情報を送っていた。 「SliME所有者のネットワークですか」「はい」 テンゾウが率いていたブラックヴァリーの一つの組織、天蟲党の残党はすでに何名かLOKIで見つけ出しアジトをしらみつぶしにしている最中だという。狐理子はテンゾウを討った後は秘伝書を取り戻さなくてはならないとなゆかにSliMEネットで伝えた。 「ホストクラブ側との衝突はどうなるのでしょう?」 不安な表情を浮かべる省羅。 「それは……えっと院瀬見の生城山もみじって人が裏で糸を引いていたみたいです。なので……オープンカンパニーで私が院瀬見に潜入して接触できないかとクリムゾンさんは考えておられますね」 「そんな大役……大丈夫なのですか?」 「その……私の力を試されるんだと思います。本気でクリムゾンさんが今すぐ生城山もみじをどうにかしたいのなら他の人を選ぶと思います。100%ナチュラルで特殊能力持ちの私なら院瀬見の中でも上手く立ち回れると判断されたのでしょう。兎川伊奈さんの名前を使う意味もありそうでしたし」 院瀬見からしてみれば会長の秋馬光鴨の息子・秋馬鷹光の暴走で命を落とした院瀬見の者は全て行方不明扱いにしている為、存在を掘り返されてましてや生きている状態で現れても何も無かった事にするしかない現状であった。実際、鷹光の犠牲者の一人である江藤紅子に成りすましているクリムゾンには直接接触してこない。幾度か再び闇に葬ろうと刺客を放ったがその度消滅(ハートによる地下深くの永久監禁)しそれ以来安易に送り込んでくることは無くなっていた。 なゆかは省羅と別れ今日は狐理子の事を考えビジネスホテルに泊まる事にする。部屋に着くとベッドに大の字で寝転がりポポリンからSliMEネットに繋げる。 クリムゾン(秋馬昊菜)は変幻自在のSliMEと錬金術で復活させた生体ゴーレムの集団LOKI。秋馬家と契約しているプロフェッショナル執事メイド組織の丹羽家。天才集団神名一族の一人、SliMEの生みの親の神名燐火。院瀬見派閥で唯一の良心とされる若手カリスマの鈴村功太朗とコンプレックス持ちであるが頭脳明晰で器用な弟の影彦を従えている。 対する秋馬光鴨(院瀬見グループ会長)は院瀬見グループの頂点に立つ者であり肉体変化の錬金術を使う。あらゆる手を使い長年オータムホースシティを支配していたが突如現れたグレイキャリバー、龍の兄妹、LOKIに苦汁を飲まされ続けオータムホースシティに所有している戦力の7割をそれらの闘いで失っている。 なゆかはこれらの情報をSliMEネットから収集しラビット(兎川伊奈)としてオープンカンパニーに備える。 *** ――翌日。 捜査会議を終えた刑事たちが交流している。 「碇課長、ちょっとお話が」 大澤垓が碇艇輔(いかりていすけ)にそっと近づきポケットから小袋を出して言った。 「なんだ大澤? それはなんだ?」 「盗聴器です。俺のジャケットに張り付いていました」 「やられたな、心当たりは?」 「LavaGardenの事件の捜査に向かった昨日に仕掛けられたのかと。LavaGardenの人間が怪しいですね」 「さて、それはどうかな? 警察相手にそんなバレたら困る事を安易にやるかね? やり手の経営者なんだろうLavaGardenのオーナーは。従業員にもそんなヘマをする奴を置かないだろう……と思うがな」 「しかしLavaGardenの可能性も捨てきれません」 「そうだな。それでいい、決めつけて視野を狭くするのはいかん。盗聴器は鑑識に回して出どころを探らせよう、昨日はクロと組んで捜査してたんだったな」 「はい、黒防(こくぼう)さんでした」 「今日は別の奴と組ませる」 「なぜですか?」 「まぁ~捜査の為だとだけ言っておくか。とにかくお前はLavaGarden襲撃事件を引き続き捜査しろ。クロには別件を頼む事にする」 「了解です」 「百合崎」 碇課長に呼ばれ立ち上がった緑髪の女性刑事。改造度50%のサイバネである。 「大澤と一緒に捜査しろ」 「了解であります!」 大澤垓は百合崎を見る。 「百合崎和香(ゆりざきわか)捜査官ですか……元・自衛官で特殊部隊の所属だったと噂される……」 「ああ、百合崎はヒグマでも6秒でバラバラに解体出来るほどの超武闘派のサイバネ捜査官だ。LavaGardenがらみの捜査は危険だからな、百合崎をつけておく」 碇課長は茶を煤って言った。 「よろしくであります大澤捜査官!」 瞬間移動めいた全身で大澤垓の目の前に移動して握手を求める百合崎。 「あ、ああ。よろしく」 大澤垓は百合崎に手を握られた瞬間大型の工業機械をイメージした。目の前に居るのは無害そうな顔をしている殺戮マシーンかもしれないと不安を覚えた。 碇課長はここ数日、大澤垓の不審な動きを知っており百合崎を付ける事にした。不良刑事の黒防には同じく不良刑事(第六地区と繋がっている)の粕谷白基(かすやしろき)を付けることにした。 「シロ、クロと一緒に捜査しろ。例の六区暴動の件だ」 「うっす……クロさんと俺、気が合いますし六区なら任せてくださいよー」 リーゼントの髪型を櫛で整えながら答える粕谷、出て行った黒坊を追いかける。 「碇さん」 コーヒーを持って碇課長の横に現れたのは特殊犯罪対策課・課長の比留山陶子。 「どうした比留山」 「柔軟なチーム編成と指示、流石です」 「俺はもう体がガタガタだからな、こうやって頭で捜査するしかねえのさ。で、なんの用だ比留山」 「DMCの残党を昨日ウチの捜査官が六区で発見しました」 「ここでコソコソ話するってぇ事は……ヤベェ大物か」 「ええ、大臣の息子です」 「……怪人化してたか?」 「はい。ウチの兜金と才賀が確保しました」 「……行方不明のままの方が良かったな。確保しちまった以上対処しなければならん。上の判断は?」 「碇さんに取り調べをお願いしたいと。ウチの兜金と才賀で無理やり口を割らせる事も出来ると説明したのですが……」 「ちっ……面倒なのを押し付けやがる。解った、後で行くと言っておいてくれ」 「はい」 *** 一晩中狐理子はシャパリュと共にブラックヴァリーのアジトを順に巡っていた。 「秘伝書は何処に……」 「残りのザコ共は歯ごたえナイ……」 抵抗する者は容赦せずに降伏するものは拘束して情報を吐かせていく。テンゾウの天蟲党はほぼテンゾウのワンマンチームで配下の者は殆ど何も知らされていなかった。 「残りは……院瀬見社員のマンション……一般人を巻き込むと面倒な事に」 「催眠術をかけて一般人に保管させている可能性が高まったナ」 「院瀬見のマンション……厳重なセキュリティを超えても部屋の中を探さなくてはならないし催眠術をかけられているのなら本当に秘伝書と知らないでいるのかも」 「問題はソレダナ。侵入するのは難しくない、隠し場所を特定するのが困難」 「部屋にないかもしれなし院瀬見ビルの中に保管されてたら……」 「だったらもうSliMEに社員を喰わせてなりかわればイイ。バレてSliMEを捕獲されるのをコウナは絶対に避けたいだろうガナ」 以前にクリムゾンとハートが院瀬見ビルに潜入し破壊活動を行った。それ以来院瀬見のセキュリティは一層厳しいものになっている。 『狐理子、SliMEが取り付いている警官を利用するのもありだよ』とコンキチが言った。 「呼んだところで通報記録残るから面倒な事になるんじゃない?」 『違うよ、狐理子がその警官にフォックス忍法で成りすませばいいんだよ。本物の警官側とはSliMEネットでアリバイ工作できるし』 「バレないの?」 『バレたところでSliMEネットは見る事は不可能だしSliMEは離脱すれば追跡されない』 「う~ん……それはちょっとリスク大きいかな。クリムゾン様の手駒の警官が減っちゃうからな~」 『じゃあプランB、ブラックヴァリーになりすまして正面から堂々と制圧。狐理子は憎い敵になりきらないといけないけどね』 つづく
Jun 24, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド15話 「武装ヘリはオートパイロット……武器はマニュアルですか。ではミサイルをPPPに撃ち込んで見ましょう」 クリムゾンは片手でカイザー・プリンスの全身の水分を抜きながら片手でパネルを操作して2発のミサイルを発射、前方500mほど先にある城の形をしたホストクラブに命中した。 「ごほごほ……なにしやがる……俺の城が……」 急激に水分を抜かれ皺だらけのカイザー・プリンス。 「さて、質問に答えなさい」 「言ったら助けてくれるんだろうな?」 「嘘でなければ」 「ここで俺が嘘を言った場合どうなる? 真偽を確かめるまでヘリでお散歩か?」 「面倒な男ですわね……このまま院瀬見ビルに突撃して思う存分暴れましょうか。出資者が巻き込まれて死ねばそれで良し違ってもそれはそれですわね」 クリムゾンはカイザー・プリンスを後部座席に投げ込む。 「何を考えている! イカれてんのか?」 「馬鹿な女を今まで騙してきて調子に乗ってきたようですけど、わたくしには通じませんよ。わたくしはやりたいことをやりたいようにやるだけ」 「狂人め……」 「見抜けなかったあなたが愚かでしたね。……そうですわ、良い事を思いつきました! ミサイルにあなたを装着して院瀬見ビルにブチ込みましょう。最高に派手な死に様ですわよ? きっとみんなしばらくは話題にしてくれるでしょう。ホスト界の伝説になれますわ!」 「はぁ!? ふざけんな! やめろ!」 「叫んで喚いてもどうにもできないですわよ。自力で逃げてみなさい」 クリムゾンはカイザー・プリンスの高級スーツに触れると錬金術で漁網に変えた。漁網に変える際に高熱を発した為カイザー・プリンスの全身には網の跡が付いた。 「ぐぎゃああああああああっ!」 「さぁ、伝説になりましょう?」 「やめろー! ババアの事を教える! 教えるから!」 「ではどうぞ」 「【生城山(ふきの)もみじ】だ!」 「ありがとうございます。でもそれはそれ、これはこれですの。ナンバーワンホストミサイル突撃とか面白い事思いついてしまったのでやります」 「なんでだよ! 約束がちげえだろうが!」 「約束?」 「嘘じゃなきゃ助けるっていったよな!?」 「それが嘘かどうか確かめて見ては? 好きでしょう? こう言う言葉遊び」 「なに……」 「ナンバーワンホストなんでしょう? この場でわたくしを楽しませて気分を変えてみなさい。そうすればミサイル発射止めるかもしれませんわよ?」 クリムゾンは漁網のカイザー・プリンスを抱えて操縦席のハッチを開けて翼に装着されているミサイルに向かって歩き出す。 カイザー・プリンスは街の噂、LavaGardenの事、クリムゾンの見た目、流行りのグルメなど思いつく限りの話題を次々と言い放つ。 「はいはい、それで?」 「……だから今度一緒に……」 クリムゾンは相槌を打ちながらミサイルにカイザー・プリンスを取り付ける。 「おい、おい! やめろよ!」 「辞世の句を読みなさい」 「ジセーノク? 何だそれは!」 「はぁ……ではさよならです」 「待て待て待て! 教えてくれよ! 覚えるから! それになんでもやる絶対俺はアンタの役に立つ! ナンバーワンホストと組めば最強だろう?」 「……残念ですがそういう者はもう確保する予定ですの。あなたよりずっと優秀でデキる者です。あ、そうそう。LavaGardenのにミサイルを撃ち込んだ時点であなたは詰んでますので」 操縦席に戻るクリムゾン。ミサイルの照準を院瀬見ビルに向ける。 「このヘリも追撃で突っ込ませましょう。オートパイロットで進路指定。衝突回避システムは……来夢、解除お願いしますわ」 『はい、ご主人様』クリムゾンに取り付いているSliMEの来夢が答えた。 「発射」 カイザー・プリンスを装着したミサイルが放たれる。 「地獄に落ちろオオオオオオオオオオオおおオオオオオオオオオオオッ!」 カイザー・プリンスの声が響き渡った。ミサイルは院瀬見ビルの直前でフォースフィールドで阻まれ爆発四散した。 「流石にもう防衛システムは万全ですのね。確認できましたわ。ではこの武装ヘリの突撃を止められるほどの強度があるか確かめますわ……速度はゆっくりと」 フォースフィールドは速度の出ている物に反応し強固なエネルギーフィールドとなる。通常は鳥も無害で通り抜ける事ができる。 クリムゾンはオートパイロットで院瀬見ビルを指定し飛び降りる。外套を翼のように広げ減速、羽毛のようにLavaGardenの屋上に着地した。 武装ヘリは院瀬見ビルに到達することなく警備ドローンの一斉射撃で撃墜され公園に墜落した。 「警備ドローン……わたくしも大量に欲しいですわね。警察に警戒されますが……」 「ご主人様」 クリムゾンの横の床からぬるりと現れたハート。 「七曲キョウヤを確保しました」 生体保護パックに入れた七曲キョウヤの頭部を見せるハート。 「ご苦労様。燐火に渡しましょう、ハートお願いしますわ」 「承知致しました」 床に沈んで消えるハート。 「近いうちにお兄様と会える気がしますわ」 院瀬見ビルに黄金の杖を向けて呟くクリムゾン。 *** なゆかがLavaGardenに到着すると、消防と警察が店を取り囲んでいた。「あ、ヤバい!」パトカーの傍に大澤垓を見つけ咄嗟に身を隠した。 「どうしようポポリン、お店に入れないよ」 『裏口の方にも消防がいるね。屋上から入ろう、ポポからクリムゾン様に連絡しておく』 なゆかはポポリンを全身に纏い工事業者風に変装、LavaGradenの路地を挟んで隣のビルの壁を登っていく。 「なんか映画のレディ・アラクニドみたいだね」 『蜘蛛の力を身に着けたヒーローの映画だね。確かに今やってる事それっぽい』 隣のビルからLavaGardenの屋上に飛び移るなゆか。屋上の扉を開けるとクリムゾンが待っていた。 「来ましたわね。付いてきて、省羅とあなたに話がありますの」 深紅のドレスのクリムゾン、前にあった時よりも少し怖い気がしたなゆか。 「(ねぇポポリン、クリムゾンさん何かあったの?)」 『SliMEネットで聞いた所、襲撃者に対処されたんだって。暴れた後だから少し興奮されてるのかも』 「(そうなの? そんな武闘派なんだ……)」 『そうだよ』 ポポリンとなゆかのやり取りは全てクリムゾンのSliMEの来夢が把握している。そしてテンゾウとの戦いのデータを今まさにクリムゾンは来夢を通じて見ている。 二人はオフィス移動する。部屋の壁際には丹羽省羅が既に待機していた。 「二人ともかけて、警察が来た時の対応を話合いましょ」 クリムゾンが言った。 なゆかは他の従業員に変装しIDもLOKIが用意した何名かの行方不明者のを使用。省羅はいつも通り。クリムゾンはいつも通り江藤紅子のIDを使うと伝える。 「私は兎川伊奈(とがわいな)ですね」となゆか。 「ええ、なので今この瞬間からなゆかはLavaGardenでの呼び方は【ラビット】とします」 「はい!」 クリムゾンは飛び跳ねるなゆかの姿をデータで見てイメージの合う名前のIDを探しラビットと名付けた。彼女の中ではもうなゆかはLavaGardenの歌劇団入りを決めている。 「(ラビット! 私は今日からLavaGardenのラビットだ!)」 テンションを上げるなゆか。体の内側から力が沸き上がるのを感じる。サキュバスハーフの力が増しより一層馴染んでいくのを感じる。 「ラビット、明日から舞台のレッスンに参加しなさい。省羅、ラビットのシフト調整お願いしますわ」 「はい!」「はい」 「それからラビット、明日の院瀬見のオープンカンパニーに参加してもらいますわ。兎川伊奈の名前で登録済みです。大学側に兎川伊奈のデータを送っているので心配ありません」 「そうなんですか、クリムゾン様凄い……」 「少し前まで院瀬見の傀儡の学長が好き放題していましたが今はわたくしの仲間が学長ですので色々融通がきくのです」 クリムゾンのSliMEの来夢に連絡が入る。 「……警察が来たようですね。では省羅はカフェで対応を、ラビットは舞台で練習している様子を見せながら警察としっかり目を合わせるのですよ」 「はい」「はい!」 カフェのフロアーに入ってきたのは眠そうな中年警官と大澤垓。 「ど~も~黒防といいます~隣の若いのは大澤です~」 「丹羽省羅です」 営業スマイルで対応する省羅。 「なるほど~これは娘も一度行ってみたいっていうわけだ。只のカフェじゃない、高級感というか別世界感が凄い。カミさんと初めてベガスに旅行に行った時を思い出しますね」 頭をかきながら周囲を見渡す黒防刑事。よれて覇気のない中年男性と思いきや鋭い目つきを一瞬見せた。 「外の爆破事件の事でちょいとだけ聞きたいことがありましてね」 「はい」 「何か心当たりはありませんかね? ついこの前もここの従業員が狙われたりしましたよね?」 「心当たりと言うほどではありませんが……会員証を不正に使用したりスタッフに付きまとう人がいたりはしました」 「それはいつ頃の話ですか? その後は?」 「少しお待ちを……メモしているので……」 端末を操作する省羅。監視カメラで撮った写真を黒防刑事に見せる。 「派手な格好の男に……もう一つは店の外で……コイツは街で有名な探偵ですなぁ」 「探偵さんだとは聞いていますが女性スタッフに付きまとうのが怖くて……」 「良い噂聞きませんからねぇこの七曲キョウヤって男は。ただ、この男は性欲で近づくような人物じゃないんですよ。なにかネタを掴んだか何かを追っている最中でスタッフにからんでたんだとあたしゃ思いますがねぇ~」 「ウチは健全なお店ですしそんな危ない人が興味を持つようなものは無いと思いますが」 「ええ、そうでしょうとも。【普通の従業員】はそうでしょうなぁ。しかしこのお店、裏社会ではかなり注目されてるんです。この街の裏の連中から恐れられているLOKIと関係あるんじゃないかってね。名前くらい知ってるでしょ?」 「はい、LOKIの名前は噂では」 「このお店にLOKIのメンバーが出入りしている可能性はあると思いますがねぇ~」 「そうなんですか?」 「あなたが知っている従業員も実はLOKIだったなんて事もあり得るわけですよ。恐縮ですが従業員の履歴書を確認させてもらう事はできますかね~?」 「それは私の一存では決めれません。少々お待ちください」 スタッフルームに向かう省羅。黒防刑事は後ろを向いた省羅の背中に小さな盗聴器を指ではじいて着けた。 「黒防さん、いいんですか?」大澤垓が呟いた。 「バレなきゃ何やってもいいんだよ~この街でキレイごと言ってたら警察なんざ何の役にも立たないからね~」 「バレたら?」 「開き直って知らんふりすればいい。他の刑事に知られようがどうでもいい~自分なんて可愛いもんさとんでもねぇ悪徳汚職警官なんてこの街にはいくらでもいる」 「そうですか……(黒防さんは駄目だな……)」 スタッフルームに入った省羅。そこには江藤紅子に変身したクリムゾンがソファに座っている。ゆっくりと立ち上がり、口に指を当て声を出さないように指示すると省羅の背中から盗聴器を摘まみ取った。そして自分の背中に装着しクリムゾンは省羅に変身して携帯端末を持って黒防と大澤の元に歩き出す。残された省羅は胸に手を当て大きく息を吐いた。 「お待たせしました」 省羅(クリムゾン)は来夢で包んだ携帯端末を黒防刑事に渡した。 「すみませんね~ちょっと見させてもらいますよ~」 黒防の右目は録画機能付きのサイバネアイでありこれは違法品で軍使用の横流し物をサイバネ闇医者に施術させたものである。 「ええっと……(このリストは後々役に立つねぇ)」 携帯端末から黒防のスーツに移り頭部に移動する来夢の分身。 「ん? ……おかしいな……」 一瞬右目の見えている景色が乱れた。 「黒防さんどうしました?」大澤垓が顔を覗き込む。 「何でもねぇちょっと右目の調子が悪かっただけだ」 来夢の分身はサイバネアイに取りつきデータを全て削除。録画機能を停止させる。エラー表示をさせないように関係の無いデータをインストールした。 「よろしいでしょうか?」 省羅(クリムゾン)が言った。 「あ、ああ確認した。協力感謝しますよ~」 「次に行きましょう黒防さん」 「ではこちらに」 背中に取り付いた盗聴器を大澤垓の背中にさりげなく付け替える省羅(クリムゾン)2階の舞台があるフロアーに案内する。 「ここが特別会員しかは入れないフロアーですか~いや~カミさんと見たベガスのバーレスクを思い出します~」 「今舞台で練習しているのが兎川伊奈です。最近雇った者です」 「白いドレスに兎を思わせた仮面……なかなか可憐な動きをする子ですなぁ~やっぱりダンスとかの経験者を雇うので?」 黒防と大澤垓は舞台で踊っている兎川伊奈(なゆか)を凝視している。舞台の上のなゆかは大澤垓の姿に驚いたが平静を装いサキュバスハーフの力で桜色に輝く目で刑事の二人を見つめ返した。 「ほう……ポールダンスまで。いやはや、ポールダンスなんて脱ぐほうのしかあたしゃ見たことありませんわ。あの子ももしかして?」 黒防は舞台に設置されているポールと兎川伊奈を舐め回すように見ながら言った。 「まさか。このお店は健全をモットーにしておりますのでそのような行為は致しません。衣装変え程度の事しかしませんよ」 一瞬省羅(クリムゾン)の目に殺意が宿るもすぐに収めた。 「ああ……いい……」 大澤垓は兎川伊奈を見て中高時代のなゆかを思い出し、現在のなゆかの姿を当てはめてじっとダンスの様子を眺めている。目の前にいるのがなゆかだと気付かないまま。 黒防は右目の偽りのデータを確認する。院瀬見のインターンで行方不明になった兎川伊奈と判明し首をかしげる。 「(他の従業員のリストも……どいつもこいつも院瀬見がらみで姿を消した者ばかりだな……どうなっている? LavaGardenは院瀬見と関係あるのか? LOKIではないのか?)」 続く
Jun 21, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド14話 「(火災報知器を鳴らした、この建物のシステムは生きている……次は)」 なゆかは図書館のフリーペーパー手に取り指先にプラズマを宿して火をつける。テンゾウの突進を回避して天井の防火センサーに燃えたフリーペーパーを近づけた。 「うおっ」 フロアのスプリンクラーが作動し一気に水が噴き出す。なゆかは既に玄関に移動。 「まず1発!」 スプリンクラーの水が降り注ぐフロアーにプラズマ弾を撃ち込む。水に触れたプラズマ弾は次々と反応して水蒸気を発生させ周囲を白く包んでいく。 「ぬう?」 印を結び警戒するテンゾウ。そこになゆかは水蒸気の外からプラズマ弾を撃ち込みマイクロ放電を起こさせる。 「クソ! だがこの程度でテンゾウのスペシャルな戦闘スーツは壊れん!」 爆進で前に飛び出すテンゾウ、水蒸気から飛び出た瞬間目の前にはプラズマ弾が。 「げええええええええっ!」 プラズマ弾はテンゾウの左目に命中、もんどりうって床を転げまわる。 なゆかは殺さないために出力を抑えたプラズマ弾を放っていた。テンゾウは超人的な反射神経で回避を試みるも空中であった為僅かに頭部を動かす程度しかできなかった。 「やってくれたな……やってくれたな女ぁああああああああっ!」 なゆかは既に図書館を出ていた。ポポリンのスーツを変形させて一般人に変装し群集に紛れ込んだ。 「どこだ……どこだ女……クソ、部下共を呼ぶか。フル装備を持ってこさせるか……」 「テンゾウ!」 声がした。左目を抑えながら振り返ると狐面で戦闘スーツを身に着けた狐理子が立っていた。 「暮葉一族の女!」 「一族の敵ここで取らせてもらう!(なゆかのおかげで思わぬチャンスが来た!)」 なゆかはSliMEネットを使い狐理子を呼んでいた。そしてシャパリュも図書館の外で人払いの結界を張り待機している。 「邪魔者は入らんぞテンゾウ! 警察が来るまでの4分、この場はお前と私だけだ!」 「しゃらくせえ! フル装備でなくてもお前程度にこのテンゾウは討てんぞ!」 スプリンクラーの雨が止んだ。それを合図に狐理子がブースターで飛び出す。 「甘いわ!」 テンゾウは狐理子の動きを見切ってカウンターの突きを入れた……かに思えた。 「何……!?」 狐理子の1身離れた箇所を突いてしまっていた。なゆかの力、プラズママイクロ放電、片目、右膝のダメージ、全てが影響しテンゾウの感覚を完全に狂わせている。 「イイイイイヤアアアアッ!」「グハアアアアアアッ!」 狐理子の高速ブースター加速回し蹴りがテンゾウの頭部に命中、装甲を凹ませる。 「馬鹿な……俺はテンゾウ! 天蟲党のテンゾウ! ブラックヴァリーの次期首領だ!」 「イイイイヤアアアアアアアアアッ!」 さらに加速したソバットがテンゾウの顎に命中、顎と歯を砕いた。 「ぐがぁ……(撤退しなければ……このままでは……)」 「慢心し単独行動をしたのが貴様の運の尽きだ!」 狐理子は吹き飛んで本棚に激突したテンゾウを睨みつける。テンゾウは寿命と引き換えに爆発的な身体能力を得る丸薬を取り出して口に放り込む。だが…… 「ぐううううおおおおお……」 強烈な胃の痛みで吐き出した。テンゾウの丸薬は謀反を企てる部下によって毒とすり替えられていた。 「馬鹿な……何故だ……」 「因果応報! 全てが今、貴様に返ってきているのだ!」 「このテンゾウ……ただでは終わらんぞ」 戦闘スーツの自動撃退システムを起動。これは装着者が意識を失っても命を落としたとしてもバッテリーの続く限り殺戮を続ける世界中で禁止されたバーサーカーシステム。停止させるにはスーツのAIを破壊するしかない。 「……これは本当に最後の手だ。サイバネムシ忍法神経節殺戮(バーサーカーモード)!」 万全な状態のテンゾウを思わせる動きで飛び上がって空中回転。サイバネアームのブレードを構える。 「来る」 ジグザグに動きながら接近するテンゾウ、腱が切れ筋肉が損傷し体の限界を超えた動きで狐理子に迫る。対する狐理子は冷静であった。 「フォックス忍法……蜃気楼火山閃」 バック転でテンゾウを避ける狐理子、飛び上がる前に設置した床のブースターをテンゾウの位置に合わせて作動。さりげない動作で床に設置しギリギリのタイミングで避けて設置ブースターを作動させるこの技は単に地雷や手榴弾で応用が利くだけでなく、状況に応じて虚実を織り交ぜ翻弄にも使えるものであった。 「!?」 テンゾウの腹部に突き刺さる短刀。火山閃の勢いで射出されたそれは暮葉一族の短刀。 「ごふ……止まらんぞ……この程度では……」 短刀を抜いて投げ捨てるテンゾウ。僅かに装甲を貫いただけでテンゾウの肉体には殆ど届いて無かった。それでも狐理子には十分だった。 テンゾウは突如後方に吹き飛んで壁に貼り付けになる。 「何だ!?」 火山閃で浮き上がった時、狐理子は無数のブースターを投げつけテンゾウの体に張り付けていた。それをこのタイミングで発動させた。 「フォックス忍法噴射操体!」 「ぐ、この……」 自動迎撃のバーサーカーモードの為張り付いたブースターを取る動作に移れないテンゾウ、AIは狐理子の迎撃を優先してしまっている。掌にブースターを張り付けた狐理子が肉迫。 「終わりだテンゾウ!」 腹部の穴の空いた部分にブースターを押し付けて最大出力。狐理子は全力で踏ん張り大理石の床にひびが入る。 「がああああああああああああっ!」 ブースターの火が戦闘スーツの内部に入り込みテンゾウの体と内部機構を焼いていく。やがて火は全身を包み込み炎の塊となった。 「フォックス忍法・轟熱神掌!」 全てのブースターのエネルギーをテンゾウの腹部に押し付けているブースターに集中。轟熱神掌はフォックス忍法の最大火力技である。 「おのれええええええええええええっ!」 テンゾウの戦闘スーツのバッテリーが破裂、狐理子は火花を見てすぐに離れた。次の瞬間テンゾウは爆発四散した。 「父さん……みんな……やったよ……」 *** なゆかはLavaGerdenからのメッセージを受け取り向かっていた。 「狐理子ちゃんあの後大丈夫だったかな? 強そうな緑のモフモフさん居たし大丈夫だとは思うけど」 『シャパリュだね。彼女はとても強いから大丈夫。そろそろ決着つきそうだよ狐理子のコンキチから通信あった』 「ならよかった……図書館滅茶苦茶になったけどどうしよう」 『警察はブラックヴァリー追ってるし全部そいつらのせいになる可能性高いからなゆかは疑われないと思うよ』 「そうじゃなくて……貴重な本も駄目になったかもって」 『あの場所にある本は全て他の図書館にもあるものだから気にしないでいいよ』 「……それで、クリムゾンさんからの呼び出しってなんだろう?」 『打ち合わせっぽいよ。丹羽省羅と三人でするんだって』 「ふーん」 *** 狐理子とテンゾウの決着から数十分後。井之頭と芹沢の二人の刑事は図書館の爆破の通報を受け現場に向かっていた。 「流石に警察を舐めすぎじゃねえか?」「今度は院瀬見がらみかねぇ」 現場に到着すると野次馬をかきわけて図書館の中に入り消火済みのフロアーを進む。 「破壊の規模の割には燃えた場所はここだけか。抗争でもあったか?」 井之頭が最初に現場に駆けつけた警官に声をかける。 「身元不明の焼死体が一体です」 「発見者は?」 「火災報知器の作動を知り駆けつけた消防職員が二人ですね。不思議な事に事件があった時に図書館の利用者は丁度いなかったんです」 「監視カメラの映像は?」 「怪しい男が入ってきた直後に壊されて映っていません」 「そいつが黒焦げのホトケに繋がってるかもしれんな。施設内に潜んでいた利用者にホシがいる可能性も……」 芹沢刑事が言った。 「男が入る前の監視カメラの映像では怪しい者は見つかりませんでしたが」 「いや、全て確認する必要があるな。マツさんとツルに仕事持っていくとしようか」 芹沢刑事は井之頭刑事を見る。 「課長には言っといてくれ監視カメラのデータは借りていくぞ」 「あ、はい」 「LavaGerdenへの聞き込みは新人の大澤に行かせるか」「それでいいでしょ」 *** 「……」 クリムゾンはLavaGradenの監視カメラの映像を見て眉をひそめていた。LavaGerdenの前に大勢のホストが押し寄せ騒いでいる。 「でてこいやオラー!」「LavaGerdenなんざ怖くねえぞ!」「びびってんのかー?」 100人のホストを見つめるクリムゾン。 「ご主人様、全員始末しますか?」と横に立つハートが言った。 「それは今すぐじゃなくていいですわ。気になるのは……なぜこんな真似ができるのかです。何か後ろ盾があっても無駄なのは知ってるでしょうに」 「どうしますか?」 「邪魔なので……大型トラックを突っ込ませて排除しましょう。トニトルスに任せます、後始末はハートお願いしますね」 「承知致しました」 外で騒いでいるのは院瀬見が用意した何処にも行き場の無い者達である。ホストの恰好をさせて騒いでいるのは七曲キョウヤの指示であった。 「おーおー派手にやってる……さてさてLavaGerdenはどう動くかな?」 カメラを構えてビルの一室から見ている七曲キョウヤ。 「高みの見物か、七曲キョウヤ」 背後から声がした。 「トニトルス……さん」 「お前を泳がせていて正解だったな」 「何故ここに……俺っちは完璧に尾行をまいていたはず」 「LOKIを出し抜くなど無理だ。お前のやり口は知っている。さぁあの騒いでいる者共を解散させろ。できなければどうなるか理解しているな?」 「へへへ……この携帯はオンラインで院瀬見と繋がっているんすよ? 今の会話も全てあっちに聞こえてるっすよ?」 「聞こえなかったか? あの者共を解散させろ、次はもう聞き直さない」 「へへへ……分かりましたよ」 携帯を操作する七曲キョウヤ。すると眼下のホストまがい達が次々と爆発。 「おや? おかしいっすね……なんであんな?」 「とぼけるなよ?」 「いやマジですよ」 「……もういい。ハート、七曲キョウヤを連れて行ってくれ」 「何ッ!?」 七曲キョウヤの体が床に沈んでいく。下のフロアにはハートが待ち構えていた。 「やっと会えたなクソ野郎!」鋭い歯を剥き出しにするハート。 「お前の飼い主に会わせろ」 「そいつは無理な相談っすね。俺っちは誰の下にもついてないんでね」 「恐怖心が無いってのは本当のようだな。だが口を割らせる方法はある、お前は実験動物になって貰う」 「そいつは俺っちを捕らえてから言ってもらいたいね」 軍用サイバネの超早撃ちでハートを狙う七曲キョウヤ。弾丸はハートに命中したが豆腐のように通り抜けた。 「ん?」 「私を甘く見ているな」 一瞬で背後に現れたハートはイプシロンアックスで七曲キョウヤの右手首を切断する。 「ぐっ……」 「私も錬金術を使えるのは知っているんだろう?今のは自分のデコイを作っただけだ。クオリティには自信があるんだよ」 「そいつは想像以上っすね……」 右手から火花を散らす七曲キョウヤ。 「ご主人様の指示だからお前は殺さないが自由もなくなる。消耗しきるまで実験され続ける」 「そうなりますかねぇ?」 ビルの外からけたたましいヘリコプターの音が聞こえる。七曲キョウヤの視線の先には武装ヘリが。 「おい、お前が呼んだのか?」 「SOSはしましたが……こんなのが来るとは思ってなかったっすけど?」 武装ヘリからミサイルが発射される。LavaGradenの玄関扉に着弾、火柱が上がる。 「てめぇ……もうここで首を落としていくか」 ハートがイプシロンアックスを構えた瞬間、武装ヘリのミサイルがハート達の居るビルに向かって撃ちこまれた。 「ハッハッハッハ! 俺はカイザー・プリンス! この街の最強王子だ!!」 武装ヘリから声がする。カイザー・プリンスとはオータムホースシティのホストクラブの頂点に君臨する超巨大店PPPのオーナーでありNo.1ホストである。 「院瀬見の色ボケババアには感謝だぜ! これでLavaGradenのクソメス共を皆殺しにして俺が頂点に立つ! 警察に対しても院瀬見の力でもみ消してくれるしなぁ!」 「やってくれましたわね……わたくしを甘く見過ぎですわよ」 武装ヘリのスクリーンに張り付いているのは深紅のドレス姿のクリムゾン。黄金の杖を鞭のように伸ばし、武装ヘリに取り付いていた。左手で防弾スクリーンを飴のように溶かして操縦席に侵入する。 「クリムゾン!? ハァ!? どうなって……」 「錬金術ですわ。さて、院瀬見の色ボケババアとは誰なんですの?」 近づくクリムゾン、カイザー・プリンスはサイバネ筋力強化されたパンチを咄嗟に繰り出す。受け止めるクリムゾン、カイザー・プリンスの拳は一瞬にして黒焦げになった。 「イギャアアアアアア……」 暴れるカイザー・プリンスを黄金の杖を変形させた鞭で拘束する。 「武装ヘリ一機でわたくし達を倒せるとでも? 院瀬見の制圧部隊と渡り合ったLOKIを舐めすぎですわよ」 「ババババババケモノめ!」 「質問に答えなさい。あなたの出資者は誰ですの?」 クリムゾンは指をカイザー・プリンスの眉間に突きつける。 「言ったら殺されるだろうが!」 「そうですの? このままではあなたはドンドン干からびていきますわよ?」 クリムゾンはカイザー・プリンスの眉間に触れる。体は急激にしぼんで皮膚は乾燥し土気色に変わっていく。 「かは……のどが……水……」 続く
Jun 20, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド13話 井之頭と芹沢の二人の刑事は車を降りると第二区のサイバーウェアを取り扱う店に入る。 「なんだ刑事さんじゃないか」 全身を如何にもな機械剥き出しのサイバーウェアで身を包んだ店主が応えた。これは見せかけで宣伝の為だけであり実際に身体の40%を超えるサイバネは危険とされている。 「こいつを見てくれんか?」 芹沢刑事は写真を店主に見せる。そこには虫型ドローンが映っていた。ブラックヴァリー・テンゾウが使用しているものと同じである。 「BGOY01っすね、それが何か?」 「こいつはお前の店以外でも入手可能なのか?」 「元々軍用で民間に流れて来た品っすからね~本土ならまだしもこの島で手に入れるとなれば違法なルートか院瀬見に太いパイプがある奴しか無理ですわ。あるにはありますよ?二区で取り扱ってるのは院瀬見の高級サイバネショップか違法な六区の流れ者ですがね」 「例えば図面を入手して個人で量産する事は可能か?」 「本体は可能っすね。でもプログラムを組むのが無理なんすわ。キーコードがいるんで」 「どういう事だ?」 「BGOY01は使用する者の意思で自在に多くの機体を操れるんすよ。でもキーコード入手しないと只の高性能ドローンに過ぎないんす。AIを搭載して代わりにする事は可能なんすけど学習の手間と臨機応変さに欠けますかね。普通に配達とか運搬とかイベントとかショーに使うならコイツでなくてもいいですし敢えて使うのなら頑丈さを重視する者とか」 店主はBGOY01が編隊を組み人を乗せて自在に動き回り空中で戦闘訓練を行っている様子の動画を見せた。 「BGOY01を使えば兵士一人で爆撃、挟撃、制圧、狙撃などなどこなせるんすよね。あ、院瀬見の企業部隊は普通に持ってるはずです。警察は使わないんで?」 「こんな高そうな装備回ってこねえよ。寄ったついでだ左腕の調子みてくれ、小指の反応がいまいちでな」 「へへ、毎度」 芹沢刑事の左腕はサイバネで握力は3トン程度ある。精密さよりも頑丈さとパワーを重視した物。ライフル弾でも破壊できないが重量はある。 「そっちの刑事さんは?」 井之頭刑事を見る店主。 「俺は神経系と内蔵系だからな、この店では弄れねえよ」 「あ、なるほど。確かにウチの設備じゃ無理だ」 井之頭刑事のサイバネは強化心臓と肺に反応速度上昇の神経サポートで全て体内にある為専門の施設や病院でしか触れない。 「マツさんとツルは今頃なにしてんのかねぇ」 井之頭は同僚の刑事を頭に思い浮かべて呟いた。 *** 「俺は頭が痛くなってきた……ツル、おまえがコイツらの相手をしろ」 松上刑事(通称マツ)は立ち上がって部屋を出てった。資料室に残されたのは鶴河刑事(通称ツル)、柄留、才賀愛来薔薇(さいがめぐるーじゅ)の三人であった。 「マツさんはしょうがないっすね~俺たち若者のノリについていけないんだよ」 柄留、愛来薔薇の二人を見て肩を竦める鶴河刑事。 「え?」 「いやいや、ツルさんウチらと一緒にしないでよ」 柄留と愛来薔薇は棚の資料を戻しながら言った。 「こんなん面倒だって、さっと行ってニンジャ全員捕まえればいいっしょ」 柄留はいつの間にか取り出したグレイブラスターをガンスピンさせながら言った。 「まーウチとえるえるで動く方が速いっつーか煩わしくないし、ツルさんはマツさんの介護してなよ」 愛来薔薇は棒付きキャンディーを取り出して咥えた。 「いやいやいや! 酷くない? ひどくなくなくなくなくなくなくなくない?」 「キモ」 一言放つ愛来薔薇。 「ツルちゃん先輩邪魔だしこなくていいよ」 笑顔で言う柄留。 「ギャル刑事と同じチームで捜査させてくれよ~!」 「は? 無理だし、行こえるえる」 「残念、ツルちゃん先輩、別行動で!」 資料室を出て行く柄留と愛来薔薇。 「はぁ~あ……(今度の休日はギャル風俗行くか)」 廊下で「ちょっと待てお前ら!」と松上刑事の声がした。 「おいツル! なんでアイツら出て行った!」 松上刑事は鶴河刑事を睨みつける。 「や、なんか別行動したほうが効率いいって言って……俺らも行きます?」 「あの馬鹿女どもが……しょうがねえツル、俺たちは二人でIDと写真の照合やるぞ」 「ええ~……マジっすかこんなん捜査AIに任せればよくないっすか?」 「馬鹿野郎! 人間しかわからねえ部分を俺たちが見つけんだよ!」 「それって刑事の勘とかってやつですか?」 「そうともいう。何か違和感があったら絶対に無視するなよ?」 「違和感ねぇ……了解っス(ま~外より快適だしテキトーにすっかな)」 *** 柄留と愛来薔薇の覆面ミニパトは環状線から第二地区に入る。 「愛来薔薇、ここで車止めて」「あいよ」 車外に出る柄留。グレイブラスターを既に手に持っている。 「何か見つけたのえるえる?」 「ニンジャ見つけた!」 「マジ? で、どうする?」 「とりあえず声かけるよ。愛来薔薇はそこで待機してて」 柄留は速足で対象に接近する。柄留に気が付いたのか僅かに腰を落として振り返った。 「どーもどーも……特殊犯罪対策課でーす!」柄留はIDカードを見せながら近づく。 「はぁ、何でしょうか?」 答えたのは変装した狐理子であった。 「色々聞きたいことはあるけど……一番聞きたい事をストレートに言うね。きみ、ニンジャでしょ?」 「え……」 「ボクを舐めちゃいけないよ。ニンジャの雰囲気分かるんだから。剣の白魔女の力の一部なのかな、まとっている気で分かるんだよ」 「あの何を言ってるのか……」 「と言いながら逃げる手段を考えている。ボクからは逃げられないよ? グレイブラスターと白魔女の力があるからね」 「すみません何のことだかサッパリ……」 「ふーんまぁいいよ。尋問弾を撃ち込めばいいだけだし」 「……(マズい、この警官只者じゃないどうすれば)」 狐理子はSliMEコンキチに対応策を聞く。 『兜金柄留、彼女は二つの異能を持つ警官だよ。特に注意すべきなのは瞬間的に撃てるグレイブラスターと呼ばれる銃で様々な効果を持つ弾丸を放つよ。変な動きを見せたら撃たれるからここは動画撮ってると言ってみるのはどうかな?』 「あ、あの……今動画撮影中でして……このやり取りも映ってるんですけど」狐理子は咄嗟に携帯を取り出して見せた。 「え、そうなの? どうしよっかなぁ……」と言いながらも柄留のグレイブラスターは1㎜もブレていない。その時柄留の耳につけたインカムから声がした。 「はいはーい」『柄留と愛来薔薇、今すぐ第六区のゲートに向かえ。違法デモ隊が暴れている』 課長の比留山陶子からの連絡だった。 「了解! すぐいきまーす! って事でニンジャちゃん職務質問はまた今度ね!」 柄留は愛来薔薇の待つミニパトに飛び乗りサイレンを鳴らしながら走り去る。 「助かった……これからは変装だけじゃなくてもっと街中でも気を張らなきゃ」 『そうだね、自分ももっと警戒度あげるよ』 「なゆかにも連絡しておく、警官が沢山いるからって。辺に意識させるのもおかしくなるけど一応ね」 *** ――第一地区。 なゆかは地図を確認しながら歩いていると狐理子からメッセージが入った。『警官が多いから面倒に巻き込まれないように』と。 「なにもやましい事ないけど……根掘り葉掘り聞かれてまた垓に色々言われるのは嫌だなぁ……どうしよっかポポリン?」とSliMEのポポリンに話しかける。 『ウロウロしないでどこかのお店の中に入ってたらどう?』 「それもありだね。この近くに図書館あるしそこに行こう」 なゆかは図書館のあるビルに入る。奥のエレベーターに向かう途中でポポリンが警告を発した。 『なゆかおかしいよ! 急に人が居なくなった!』「え!?」 周囲に居たはずの人々の姿が消えている。突然煙のように消え失せた。 「ヤバイ、外にでよう!」 出口に向かって駆けるなゆか、すると上から落ちてきた男が立ちふさがった。 「グッフッフッフ……逃がさんぞ!」 忍者装束にアーマーを取り付けたテンゾウが現れた。 「え!(確かこの忍者って……SliMEネットで見た……)」 『狐理子の追っているテンゾウだよ! すぐに狐理子に連絡する!』 「さぁ来い女! 俺のモノにしてやる!」 手を伸ばすテンゾウ、なゆかはバックステップで離れた。 「ほう? 運動神経は良いか……グッフッフッフそういう女を無理やり捕らえるのも楽しみよのう……」テンゾウは顔を出し舌なめずりする。 『なゆか逃げなきゃ!』 「(簡単に逃げれるかな……やるしかないんじゃないかな)」 『なゆか!?』 「(攻撃は避ければいい、反撃は距離を保って行えばいい。ポポリンのシミュレーターで私にできそうな戦法は解った。だからサポートして? サキュバスハーフの力解放して見るから)」 なゆかは覚悟を決める。目の前の相手は説得や話合いには応じないというのはこれまでの映像で見ている。生き残るには戦うしかないそして何とか逃走するしかない。ここでやらなければ終わりだと。 「(ポポリン、戦闘スーツになって!)」『了解!』 なゆかのカバンから流体金属のポポリンが飛び出してなゆかを包み込み白銀の戦闘スーツスーツに変わった。咄嗟になゆかがイメージした装甲が頭部、四肢に取り付けられていた。 「グッフッフ……やはりLavaGerdenの女は一味違うか……いいぞいつもくノ一ばかりで飽きてきたからな味変も必要だ」 テンゾウはフードからヘルメットを取り出し虫の足めいたサイバネアームを肩から伸ばしてかぎ爪を装着する。 「(LavaGradenから出てきた所を追跡されてたのか……)」 「サイバネムシ忍法ジャイアントファイバー拳!」 テンゾウのサイバネアームを展開したこの状態は虫の巨大神経線維(ジャイアントファイバー)を模した人工神経と拡張外殻脳による超反射神経から繰り出される人間を超えた動きを可能とするもの。 「グヒャヒャッ!」 弾丸めいたテンゾウの突進。しかしなゆかを外れ後方の壁に激突した。 「おっとっと……久しぶりで感覚が鈍ったか?」 「……」 なゆかの目はさくら色に輝いている。 「(サキュバスハーフの力、効いている)」 「グフフフ、まずは四肢切断で達磨にしてやるか!」 ジャンプで襲い掛かるテンゾウ、なゆかはシミュレーションで覚えたLavaGerdenのメンバー、ジャッカルのステップを繰り出す。小刻みに体重をかけながら反動を使って体重移動。テンゾウの攻撃を軽く躱した。 「ほう……中々の動き。だがニンジャの前でどこまで通じるかな?」 「(ポポリン、何か武器は無い? できれば飛び道具が良いんだけど)」 『ポポのエネルギーをチャージしたプラズマ弾なら少し撃てるよ。今の状態なら6発が精一杯、なゆかのスーツの指先から撃てるようにするね』 「(その6発を使って逃げ切る)」 空を切り裂く音を響かせサイバネアームを振り回すテンゾウ。なゆかは軽いステップとアクロバティックな跳躍で回避を続ける。 「ちょこまかと逃げやがって……ウサギ見てぇな女だ!」 「(このニンジャ速いけどサキュバスハーフの力で誘導しやすい。動きが読める、実戦チュートリアルにいいかも) 『油断しないでなゆか、このニンジャフル装備じゃないからなんとか捌けてるだけだよ』 「(確か……色んなロボットとかを使うんだよね? SliMEネットで見たよ、大丈夫)」 なゆかは益々サキュバスハーフの力を解放する。目の前にいる相手は大量殺人者で明確なる敵。狐理子の敵でもある為ポポリンに連絡を頼んである。 「(狐理子ちゃんに絶対最後は決めさせる。その為に私はこのニンジャを弱らせて逃げ切る)」 なゆかに攻撃が当たらない事を苛つきだしたテンゾウ。遂に飛び道具を手にする、手裏剣銃だ。 『なゆか!』 「(きっと大丈夫、当たらない。当てさせない)」 テンゾウの銃から鉄製の棒手裏剣が発射される。しかしなゆかから大きく外れた。 「グフ、グフフフ? 何かおかしいぞ……」 「どうしたんです? 当たりませんよ?」 腰に手を当てて言うなゆか。 「挑発しやがって……なにか術を使っているな女!」 「伝説のニューロンサイバーハッカーでもエスパーでもありませんよ」 「……俺のサイバネアイも正常だ。脳波も……だがなんだこの違和感は!」 「なんでしょう……ね!」 虚を突いたなゆかのプラズマ弾がテンゾウの右膝に命中、ズボンが破れ特殊合金製の戦闘スーツが見えた。 「(効いた?)」 『少しはね。でも深刻なダメージは与えられていないよ、ポポの今のプラズマ弾では』 「(生身の部分に当てなきゃ駄目かな)」 『流石に顔面に当てれば効くよ。だけど死亡の可能性もある』 「(それはちょっと……)」 距離を取るなゆかを見て歯を見せるテンゾウ。 「女……今のがお前の武器か、残念だったな。このテンゾウの戦闘スーツには効かなかった、今のが最初で最後のチャンスだった、もうお前の武器は当たらんぞ?」 「(ヤバ、今ので逃げればよかったかな……でも……)」 なゆかは天井と火災報知器を眺める。テンゾウはなゆかとの間合いを詰める。大ジャンプでテンゾウを飛び越え天井を蹴り一気に火災報知器にまで滑りこむ。 「火災報知機を鳴らしたとて消防が来るまで5分、それまでお前をヤルには十分な時間だ」 「消防を呼ぶのが目的じゃないと言ったら?」 「何?」 続く
Apr 12, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド12話 少年からの攻撃ターン、なゆかはドリブルしている少年の目を見つめる。 『あれ、なゆか……』 うっすらとサキュバスハーフの力を発動させる事を意識するなゆか。少年はなゆかの目から視線を外せない。 「……」 片足に体重をかけるなゆか、反応する少年。手を前に出すなゆか反応してボールを下げる少年。 「……よし」 なゆかの動きに反応する少年、バランスを崩したところをボールを奪うなゆか。 「やったぁ!」 「やるじゃん……俺がアンクルブレイク起こすなんてよ」 「じゃあ次は私が攻撃側ね」 なゆかは視線誘導でフェイントを行いあっさりと少年を抜いてゴールする。 「なんだ今の!」 「うまくいった、君素直だからかかりやすかったんだよ」 なゆかはいたずらっぽく微笑む。 「次はそうはいかねえぞ」 防御側のなゆかは少年の動きに合わせて先読みした動きを見せる。まるで少年がされなくない事を解っているかのように。 「くそ、抜けねえ……」 「隙あり!」 ボールを奪うなゆか。次の攻撃ターンではうごいてもいないなゆかに反応してジャンプする少年を抜かしてゴールを決める。 「なんで! 今ジャンプしたはずじゃん!」 「そう思わせたんだよ」 振り返るなゆか、少年はなゆかの一挙一動に惑わされ動悸が高鳴る。 「さぁ少年、ここでボール取られたら後がないよ?」 「わかってるよ!」 ドリブルする少年、腰を落として体を揺さぶるなゆかの姿を見て集中できない。 「はい取った!」 「え!」 「じゃあラスト私の攻撃ターンね」 ゆっくりとドリブルするなゆか。少し口を開けて舌を見せたり離れてワザとらしくターンして見せる。うごけない少年、なゆかは離れた所からシュートを撃ってゴールを決める。 「そんな……」 「私の勝ちー!」 呆然とする少年にボールを返して立ち去るなゆか。 「ジュースはまた今度ね」 茂みに入って変身するなゆか。 『なゆか力を制御出来てるね。安定してるよ』 「やっぱり? うんうん、成功成功。みんなのおかげかな」 『と、言うと?』 「私じゃない誰かになりきるのが大事で、演じることでサキュバスハーフの力を怖がらずに使えるんだ。狐理子ちゃんのフォックス忍法なりきりの術がかなり参考になってるの。後はMGM歌劇団の人達とかポポリンが見せてくれた映像とかね」 『誰かになりきってあの少年をサキュバスハーフの力で操ったんだね』 「う~ん……まぁ……サキュバスハーフの力の使い方を色々試したかったんだ。魅了ってなんだろう惑わせるってなんだろうって考えた時に相手の望んでる事望んでない事を知る力なんだって。洗脳とは違う相手に自分の意志で動いてもらうんだよ」 『人間の感情に訴えかけて誘導するって事かな』 「まぁ~……大体そうなのかな。好きにさせるだけじゃなくて恐れさせたり同情させたり庇護欲掻き立てたりもできるか試してみたいね」 『急に凄い成長だね、なゆか』 「う~ん……これってさぁサキュバスハーフの力を認識した時から何年も出来ないかなーどうやったらできるかなーって心の奥で考えてたからね。皆思春期の時に『特別な力を持った自分』を妄想したりするじゃん? それだよ、私はいまそれが現実となって爆発してるんだよ」 『なゆかの新たな一面を認識したよ。今の感じで日常は過ごせないんだよね?』 「うん、今は変身してるなゆかじゃない存在だからできてる」 『いいと思う。日常と使い分けることで心の安定にも繋がるはずだし』 「MGM歌劇団のメンバーになって思いっきりサキュバスハーフとして解放したい! 私じゃないもうひとりの私になってね」 『なゆか、ちょっとポポ達のデータ見過ぎて影響されてない?』 「どうかな~でも人生で一度くらいやりたいことやってみたいじゃん」 マンションの近くまでパルクールで飛び跳ねて移動し路地裏で変身解除してオートロックの扉を通る。 「藺藤さん」 声がした。オートロックのパネルのスピーカーからであった。 「え? その声は……管理人さん?」 「そうです。昨日警察の方が来て捜査するとかで来られてたけど……」 「え! なんで!? なにかあったんですか?」 「よくわからないけど爆発事件に関係あるんじゃないかって……藺藤さん巻き込まれてないか気になってね。一応オーナーにも連絡しておきましたよ」 「あ~……はい、わかりました。ご心配かけました(このマンションのオーナーってクリムゾンさんだよね)」 なゆかは管理人との会話を終え部屋に向かう為エレベーターに乗る。 「どういう事なんだろう……狐理子ちゃんの追ってる忍者と関係あるのかな? それともLavaGerdenに関係ある?」 『SliMEネットワークからの情報だと今警察は爆破事件を追っていてLavaGerdenに来る可能性も高いと。そしてこのマンションに訪れた警察官は……大澤垓だね』 「え! 垓が!?」 『監視カメラの映像を確認したよ。なゆかの部屋に入ってるね、30分くらいで出たけど何をしてたのか気になる』 「うぅ……嫌だなぁ……ポポリン何か怪しいもの無いか徹底的に調べようよ」 『いいけどカメラとか盗聴器が仕掛けられてた場合ポポの姿とか声知られない方が良くない?』 「それもそうか……でもさ、完全に存在消すんじゃなくてポポリンが高性能ペットロボットという事にしておけば迂闊な事してこなくなるんじゃない?」 『そうだけどその場合どこでポポを手に入れたって事説明しないといけなくなるんじゃない?』 「う~ん……じゃあさ、一時的に預かっているとかどう? どうせ警察が捜査してるのならLavaGerdenで働いてる事も隠し通せないじゃん。LavaGerdenの人から預かっているとかはどうかな?」 『ポポが警察に押収されるのが一番良くない展開だからそれはどうかな』 「じゃあどうすれば……」 『ポポはAI搭載のぬいぐるみって事にすればいいよ。今時普通だしこの街を支配してる院瀬見の製造タグつければ怪しまれないよ』 「ポポリンってKAMINA製なのにね」 『KAMINA製だと院瀬見に狙われちゃうよ』 「えっとポポリンはAI搭載の院瀬見製犬のぬいぐるみって事で」 『うん』 なゆかは緊張しながら自分の部屋の鍵を開ける。そしてわざとらしくカバンからぬいぐるみに変身させたポポリンを取り出してリビングの椅子に置いた。 「ただいまポポリン」 『ただいまなゆか』 「(ポポリン、その場から部屋中スキャンできる?)」 『(いける範囲内だよ、少し待ってね)』 なゆかはカバンを下ろすと冷蔵庫を開けてじっと見つめる。 「なんか少し配置が変わってる気がする……」 冷蔵庫を閉め早歩きでタンスに向かう。 「……やっぱり変わってる気がする」 なゆかは垓が部屋中を調べてる様子を想像して吐き気がこみ上げてきた。 「気持ち悪くなってきた……(ポポリン、スキャンどう?)」 『(妙な信号を発信してる物を確認したよ。場所教えるからなゆかが確保して)』 「(大丈夫かな?)」 『(掃除する体で回収しよう。それなら自然だよ)』 「(おっけー)はー掃除しよ気分転換に……」 ハンディ掃除機と粘着ローラーを手にポポリンの指示で発信機を探すなゆか。 「(は? ないよポポリン!)」 『(相当小さいみたいだね。しかも移動してる、追ってなゆか)』 部屋中追いかけ回してついに粘着ローラーで蟻のようなものを捉えたなゆか。 「(これかな虫みたいなの)」 『(それだね)』 「(叩き潰していい?)」 『(駄目、ポポが解析するから)』 なゆかはポポリンをベッドの横のクッションに置き粘着ローラーのシートをクッションの横のゴミ箱に捨てた。 「(これでいける?)」 『(いけるよ)』 「(もうカメラとかなにかないよね?)」 『(ないよ)』 「(じゃあシャワー浴びようかな)」 なゆかは着替えをタンスに取りに行くが思い直してクローゼットに買い置きしてあった新品を取り出す。 「気持ち悪いから全部一回洗濯しよう……今は新しいの下ろしたの使お……」 シャワーから出るとポポリンは解析を終えていた。 『(警察が作らせたAI搭載超小型監視カメラだね)』 「(うわ……警察の備品私物化して使ったんだ)」 『(どうするなゆか、これを警察に持って行って大澤垓を問い詰める?)』 「(えーどうしよう……大事にはしたくないかな。でももう垓の事普通に接するのは無理だよねそれに……)」 『(それに?)』 「(しばらくはこの部屋に戻りたくないかな。でも行くところ無いしどうしようかなって)」 『(大学の友人らに泊めてもらう?)』 「(そうするとポポリンと接しにくいじゃん)」 『(狐理子に相談する?)』 「(そうする……)」 *** 「なゆか、適当に座ってくつろいで」 狐理子は茶を沸かしながら言った。 「うん」 なゆかは目の前にあるちゃぶ台の周りに並べてある座布団に腰を下ろした。 なゆかから連絡を受けた狐理子は第三区にある小さな商店の2階を隠れ家にしていた。変装してなゆかを迎えに行き上がらせた。 「さっきの話、最高にキモいねなゆかの幼馴染み男」 「流石にドン引きだよ……ちょっとあの部屋はしばらく無理」 「好きなだけここに居ていいよ」 「ここの商店って狐理子ちゃんの知り合い?」 「全然、フォックス忍法でここの行方不明の娘になりきってるんだ。十年ぶりって言われたよ」 「え、大丈夫なの? 十年経ってたら見た目とかも……」 「まぁまぁ今時サイバネスキンもあるし元の顔の要素残してれば誤魔化せるよ。元々親子の会話殆どなかったみたいだし。後はこの部屋に残された娘の子供の頃の物を見てコンキチと協力して思考パターンを考えてやり過ごしてる」 「バレない?」 「フォックス忍法なりきりの術は本人だけじゃなくて相手にもそう思わせるから違和感あってもすぐにそういうものなんだって認識するよ」 「すごい……私も同じような事できるかな」 「あ、それってさっき言ってたサキュバスハーフの力の?」 「うん、まだまだふわっとしてるんだけどMGM歌劇団に入って磨きたいんだ」 「デビュー楽しみだよ」 「なんか忍者とか警察とかゴタゴタし始めたからLavaGerdenの公演大丈夫かなって心配してる。倉木さんも巻き込まれたじゃん?」 「うん。今日LavaGerdenでその辺どうするか皆に説明するみたい。さっき歌劇団のメンバーから連絡来た」 「そっか、私もSliMEもってるけど歌劇団メンバーじゃないからそっちの情報こないんだね。ポポリンも迂闊に漏らさないし」 『なゆか、今日のカフェのアルバイトの前に話があるって今クリムゾン様から連絡来たよ』 ポポリンがタイミングを見計らったのように言った。 「む、狐理子ちゃん、私もLavaGerdenで説明あるみたい。今日は大学休むつもりだからそれまでちょっと街を散策しようかな。ポポリンも居るし大丈夫。荷物だけここに置いてっていい?」 「いいよ。帰る時は言ってね鍵渡すから」 「うん」 なゆかと狐理子はそれぞれSliMEで変装して商店の住居から出る。 「じゃあ夕方LavaGerdenでね」 「おっけー」 狐理子は人間離れしたスピードで駆けて去っていく。残されたなゆかは携帯を取り出し地図を確認する。 「第一区とかあんまり歩いたことないんだよね。この街にきてから家と大学とLavaGerdenしか行ってないし」 『散策するのはいいけど食事とかどうするの? お金殆ど持ってないでしょ?』 「家に寄って何か適当に食べるよ。流石に狐理子ちゃんの冷蔵庫の中身使うのは気が引けるし」 『大澤垓と出くわさない?』 「外歩くときは変装してるし部屋に入る前に周囲をよく確認するよ。後行ってみたいのは第六区かな」 『一般人が行くところじゃないよ。トラブルに巻き込まれるよ』 「ちょっとだけなら大丈夫じゃない? ポポリンも居るしいざとなったらサキュバスハーフの力で……」 『なゆかそれは少し楽観的すぎ。武器も戦う術も持たないのに』 「え、そんなやるかやられるかの殺伐とした場所なの?」 『そうだよ。この国の法律が通用しない危険な地区なんだよ』 「じゃあ今日はやめとく」 続く
Mar 22, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド11話 「特に変わった様子はないか……なゆかの携帯のデータコピーはまだまだ時間がかかる。あいつが保護室を出る前に回収すればいいか」 垓は窓を空けてベランダに出る。そこで小さなガラス片を見つけた。 「これは窓のガラスと同じか? もしかしてなゆかの窓は最近割れて変えたのか」 ガラス片を回収する垓。窓を閉めるとベッドに向かい布団とシーツをめくりあげてマットレスを手で押してゆく。 「なにも無いか」 垓はジャケットから小さな筒を取り出し中から蟻のようなマシンを取り出した。超小型AI搭載のカメラである。それを床に置くと携帯で設定をする。 「こんなとこか……」 垓の携帯が鳴った。鍵を受け取った管理人からである。 『刑事さんすみません、オーナーがお話をしたいとの事ですが……』 「……こっちはもう終わった。緊急の用があるのでこれで失礼する、オーナーには後日話を聞かせてもらうとお伝えください」 垓は素早くなゆかの部屋を出る。非常階段を使って1階のエントランスが見える吹き抜けの2階に移動、物陰から様子を伺う。 宅配業者からの荷物や来客者は1階エントランスで管理人の確認が行われる。その後荷物などはロボットに渡され来客者はID確認と撮影される。2階の部屋の住民はおらず緊急時に2階の各部屋からセキュリティボットが飛び出す。武装した侵入者は10秒以内にエントランスで蜂の巣になる。元々はサイバネマフィアのアジトだったマンションを昊菜がリフォームしたものである。 「管理人の女の近くには誰も居ない……オーナーとやらに今会うのは面倒だ」 垓は急いだ様子で格子状のゲートを開けホールに降りると管理人に鍵を返して全力疾走で車に向かう。何か言いたげだった管理人とは目を合わさず言葉も交わさない。 「なんだ、対応が早すぎる……セキュリティが高いな……」 車に戻る垓。蟻型カメラが正常に作動してる事を確認する。 「署に戻るか」 *** 「あの……オーナー、刑事さんは帰られましたがよろしいので?」 管理人は不安を感じすぐにオーナーである昊菜に連絡をしていた。 『かまいませんわ。貴女こそよく連絡してくれましたわね。その刑事はどの部屋を見るとか言ってましたか?』 「いえ……マスターキーをかりたいとしか」 『また何かあればすぐに連絡をくださいな』 「はい!」 通話を終える。LavaGerdenの昊菜の部屋ではSliME来夢が分裂し昊菜の声で携帯等で指示してした。昊菜本人はケーブルが多くつながったヘルメットを被り椅子にもたれている。 「どうかしら来夢、わたくし自身が対処しなければならないものはありまして?」 「神名燐火様への連絡とハート様への指示、LavaGerdenの公演スケジュールの見直しをお願いします」 「わかりましたわ」 *** 「カーッカッカッカッ!! 爽快爽快!!」 某所。テンゾウは畳の上で胡坐をかきながら大きな杯を傾け酒を一気に流し込む。 「これこそが忍者、これこそがブラックヴァリー! 野望に一歩近づいたぞ!!」 周囲の天蟲党の忍者たちは無表情で黙っている。多くの党員は今回の作戦に関して不満を感じていた。表立って派手に暴れ街の全てを敵に回し無差別攻撃を仕掛けた事を喜んでいるのはテンゾウのみであった。党員も少なからず死んでいる。 「加藤段蔵の秘伝書さえ解読できればこの街を、いやこの国を支配する事も可能! お前たちはおこぼれを分けてやる、いい暮らしができるぞ?」 テンゾウは酒を注いでいる下忍のくノ一の腕を引きよせて強引に抱きかかえて体に指を這わせる。 「グフフフフ……ブラックヴァリー天忍十五党・天蟲のテンゾウに抱かれて嬉しいだろう?」 「……」 「不安なのか? 心配するな次の作戦も考えてある。次はLavaGerdenの従業員を一人ずつ殺す。そして首を街の目立つ場所に置いて『秘伝書の解読に応じなければいくらでも死ぬ』と書くのだ! グフフフッフハハハハハッ! 一般住民に完全に紛れている我々を探し当てる事など不可能! 常にこっちのターンて訳だ。その内企業も警察もLavaGerdenのバカ女どもも音を上げる……完全に完璧な作戦だ!!」 「……(このままでは天蟲党に先は無い)」 *** 第一地区・警察署。 ブラックヴァリー天蟲党の起こした連続爆破テロ事件の対策本部が建てられていた。 井之頭誠 通称【イノ】長身で大柄の刑事。芹沢基樹 通称【セリ】井之頭のバディとして長年コンビを組んでいる。松上丹吾 通称【マツ】ベテラン刑事。鶴河主次 通称【ツル】新人刑事。がすでに会議室に入っている。 「イノさん、久しぶりだなぁこういうあからさまな事件は」 芹沢は電子タバコを吹かしながら言った。 「キャリバー事件以来だな。企業“様”の案件じゃねえから警察の出番って訳だ」 井之頭はアーモンドチョコレートを噛み砕きながら言った。 「おーおーイノセリ・コンビはやる気だねぇ~」 ネクタイを緩めながら椅子にもたれた松上が言った。 「マツさん、おれらはやる気出さないでいいんすかね?」 シャツの袖で汗を拭いながら鶴河は松上の隣に座っている。 「やる気だぁ? やる気で涼しくなんのか? 暑苦しい」 「相変わらずダラダラしてんなぁ……マツさんも昔はああじゃなかったんだが」 井之頭は頭をかきながら呟いた。 「仕事はしてるぞ? 楽しい楽しい書類仕事だ……なぁツル!」 「そうっすね……」 「ところで最近配属されてきたエリート組のあいつはどこに行った?」 松上は井之頭に顔を向ける。 「大澤か……単独で動いてるみたいだ。課長がやらせてるからどうしようもねぇ」 「課長も定年近いからお偉いさんからの評価下げたくないんだろ。大澤っての本庁のお偉いさんの甥っ子なんだろ?」 「ほっとけあんな奴。それよりうちらは特殊犯罪対策課と合同捜査になりそうなんだが」 うんざりした顔で松上は目の前のA4の用紙を持ち上げた。 「特殊犯罪対策課ってあの比留山陶子の所か。異能だがなんかわかんねえイカれた女と派手な遊び人風の女がいる課だよな」 井之頭はため息をついた。 「イノさん、なんでそんなに嫌そうなんすか? 見た感じ二人ともカワイイじゃないっすか華がないっすからねウチの班は」 「馬鹿野郎ツル! お前らは比留山のチームに関わった事がねえからそんな事言えるんだ、なぁセリさん?」 「ま~かなりぶっ飛んだ娘らだからな。それだけじゃねえんだよツル、イノさんは比留山が気にいらんのさ。元々ウチの課だった女が上のお達しで別の課に異動していまや課長になったからな」 「セリさん! そんな簡単な話じゃないぜあれは! 上はどうにかしてる!!」 「丁度キャリバー事件の時だったよな」 「比留山が一番あの事件に関しては張り切ってた、捜査も進んでたんだ、それがある日突然の異動。今の特殊犯罪対策課にはキャリバーの銃に酷似した物をもった女がいるんだ!」 「兜金柄留。書類上ではキャリバー事件の重要参考人の兜金の親族という事になってる……第六区出身という事で詳しい経歴は不明。もう一人の派手な女、才賀愛来薔薇は東京生まれ東京育ちで本庁からの紹介でオータムホースに来た……と」 「イノさんセリさんに頑張って貰いましょう。俺とツルは地味~な書類仕事に精を出すんで……後は課長の指示に従うだけですよ」 「すっかり駄目になったなマツさんは……で、ウチの碇課長は?」 「便所だよ。あの人超頻尿な上に胃腸も弱いからな。労働時間の半分は便所じゃないかって他の課に笑われてる」 「おいっす~……皆揃ってるな。いや、大澤は別行動だが」 大量の汗をかきながら課長の碇艇輔(いかりていすけ)が現れた。ペットボトルの茶を一気飲みしてプロジェクターの横の席に着いた。 *** 「ギャギギギ……コウナ、あのニンジャ(テンゾウ)殺させろ!」 牙を剥き出しにするギィ(シャパリュ) LavaGerdenではない数ある地下アジトの一つにLOKIの幹部全員が集まっていた。 「ギィ、それならフォックスを連れて行って下さいな。あの子は一族を皆殺しにされた復讐者。敵討ちを成し遂げさせて欲しいのです」 「アギギ……足手まといなら放って自分で殺っちまうぞ?」 「そこは上手く貴女の溜飲も下げられてフォックスの望みも叶える形でお願いしますわ」 「ギィィ……解った、それでやってやる」 ギィは座りこんでグルーミングを始める。 「ご主人様、警察の動きが活発になってきています。事情聴取の為にLavaGerdenに奴らが来た時の対応はどうしましょう」 心鷺(ハート)が直立で腹の前で手を重ねた姿勢で言った。 「省羅と……わたくしと……なゆかで対応しましょう。ラクーンはまだ退院させないように燐火にも言っておきます。心鷺はわたくしのそばで潜んで警察の動きを観察しなさい。LavaGerdenから出たら追跡して貴女のSliMEに記録させなさい」 「承知致しました」 「主、自分は引き続き院瀬見と七曲キョウヤを見張れば良いですか?」 「ええ、エリザ(トニトルス)。貴女はそれで構いません。状況に応じて他のメンバーのサポートに入って下さいな」 「仰せのままに」 「殿、拙者は」 「三葩(アンバー)は第六区で貴女の動かせる人材を使って警察の足止めをお願いしますわ。ギィとフォックスがブラックヴァリーを見つけたタイミングがいいですわね」 「御意! 騒ぎを起こして警察を引き付ければいいんですな?」 「ええ、ただし特殊犯罪対策課にだけは十分気を付けてくださいな」 「グレイキャリバーの生まれ変わりがいる所ですな! 心得ました!」 「わたくしは……警察の対応をすませたらちょっと第二区で舐めてる連中が居ないか回ってきますわ。盗撮の闇バイトも件もあるのでホストクラブのオーナーとも会わなくてはなりません」 「ご主人様一人で行動されるのは危険です」 「それは考えてありますの、心鷺貴女も一緒にやってもらいたいの」 *** 「うぅ~」 なゆかは保護室で仰向けに寝てこれまでの戦闘記録をポポリンのデータを通じて体験している。 『なゆか体が反応して痙攣してるけどまだ見るの?』 「うぅ~ピクピクピクピクピク……」 『なゆか?』 「平気だよ。私ってさ、車とかの映像でも体が動いちゃうんだ。だからこの戦いのも同じ事だよ」 『そうだとしてもちょっとこれ以上は疲労が溜まっちゃうよ』 「じゃあこれくらいにしとこうかな……ちょっと面白い事も思いついたし」 『面白い事って?』 「まだ考えまとまらなくてふわっとぼんやりしてるけど、自分のサキュバスハーフの力とポポリンと武器があれば活躍できるんじゃないかなーって」 『そうなの? 思いついたことなんでも言ってみてよ。ポポが整理するよ?』 「う~んそうだなぁ……じゃあまずは……」 なゆかとポポリンの会話は外には漏れていない。SliMEの扱いに慣れてきたなゆかは瞼を閉じ思い浮かべた文字でポポリンに意思を伝えている。 保護室の監視カメラ映像ではなゆかが時々痙攣して寝ているようにしか見えない。 *** ――翌朝。 「良く寝れたか?」 保護室に垓が迎えに来た。 「ひどいよ突然こんな所に押し込むなんて!」 「そういうな、昨日は警察もテロ対策で忙しかったんだ。10人以上逮捕している、俺も徹夜だぞ? お前を安全な場所に移してなきゃ安心して捜査できねえだろうが」 「こういうのは次からちゃんと言ってね」 「ああ、これで次なにかあったらまた保護室に入る事になるのが理解できたな? 警察寮に入れたいが家族だけなんでな」 【家族】という言葉を強調する垓。 「え? あの、こういうの困るって私は言ってるんだけど……」 「困ろうが何だろうが安全な場所にいることが安心に繋がるだろう?」 「もういい! お家帰る!」 「待てなゆか!」 走り去るなゆかの腕を掴み損ねた垓。追いかけようとしたが思いとどまった。 「ち……なにか美味いものを食べさせて機嫌を取らないとな……」 警察署を飛び出したなゆかは路地裏でポポリンの機能で変身、全身ボディスーツに口だけを露出したサイバーアスリート風の姿になりビルの壁を蹴り駆けあがり一直線に自宅に向かう。 『信じられない成長速度だねなゆか、ポポを使いこなしてこんなに動けるなんて』 「コツを掴んだからね。SliMEのデータを見てどんな動きが自分にできそうかなんとなく理解できたんだ」 『ポポも良いデータ取れるから助かるよ』 「ねぇポポリン、自分もMGM歌劇団に入りたいなーポポリンが居れば皆のレッスンについていける気がする」 『クリムゾン様に伝えてもいいよ?』 「夕方のバイト出勤の前に自分の口で伝えたいから会えるかどうか聞いて? 会えなそうだったらポポリンが伝えて欲しいな」 パルクールで自宅に向かうなゆか、途中で公園を見つける。そこに一人でバスケットボールを練習している少年を見つけた。 「ん~……試してみようかな」 『何を?』 なゆかはポポリンをジャージに変形させて顔は途中で見た女性二人を組み合わせた誰でもない人物に変える。 「こんにちは」 ボールをついている少年に声をかけるなゆか。少年は少し驚いた表情で振り返る。 「何? 金とか持ってないよ」 「バスケットボールの練習してるんでしょ? 実は私もバスケやっててね、勝負したいと思って声をかけたんだよ」 「ハ、変な女。見た所ナチュラルだけど大丈夫? 俺事故で目怪我してサイバネに変えたから動体視力異常にいいんだぜ? 勝負になるかな?」 「へぇちゃんと自己申告でいってくれるんだやさしいじゃん。じゃあ負けた方がジュース奢るってのはどう?」 「いいぜ、何点勝負?」 「ん~先に3回ゴールした方が勝ちってのはどう?」 「よしそれでやろう」 続く
Feb 11, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド10話 一斉に狐理子達に飛び掛かるブラックヴァリー達。ひとりだけ倉木ひかるに駆け寄る男が、車の中で舌なめずりしていたカガワである。 「ウイーヒヒヒヒッ!」 「サセルカ!」 倉木ひかるに向かって走るカガワの頭部をシャパリュの尾が打つ。 「ゲェ……」 首が捻じれ360度回転し吹き飛ぶ。 「ココは任せろ。ジャッカル、フォックス残りをヤレ」 フォックスはテンゾウ、残りのブラックヴァリー6人はジャッカルが狙う。 「死ねええっ!」 ジャッカルに一斉に消音器付き拳銃を向けるブラックヴァリー。瞬間移動めいたステップで弾を避けるジャッカル。鍛え上げられた肉体に強化神経、SliMEの筋力サポート、バトルスーツのおかげでジャッカルはLOKIの幹部メンバーに勝るとも劣らない戦闘能力を持っている。MGM歌劇団においてジャッカルはパートナーのピューマと並び戦闘担当者である。メンバーを荒事から守りLavaGerdenの治安を保つ役目で丹羽家から派遣され昊菜に気にいられMGM歌劇団にピューマと共に入る事になった。 「ごぶっ」 ジャッカルの拳が下忍の腹に食い込む。その直後爆裂。ガントレットに仕込んだ弾丸が体内で破裂したのだ。 「てめぇ!」 銃を構える下忍、しかしジャッカルは既にその場に姿は無く下忍の側面から拳を頭部に叩き込む。そして爆裂、肉片が飛び散る。 「このっ!」 ナイフで突く中忍、ダッキングでジャッカルは回避してストレートを腹に打ち込み爆裂させる。 「下がってろ……アイツは私がやる!」 残る中忍を下がらせ前に出るコマダ。ナイフと拳銃を構える。 「そこっ!」 動きを予測し拳銃を打ち込むコマダ、弾丸はガントレット防がれる。ジャッカルは離れた位置でジャブを繰り出す。次の瞬間コマダの肩を弾丸が貫いた。 「何……遠近両用か……ボクシングに似たあの動きに加え拳から放たれる弾丸……」 コマダは肩を抑えながら積んである木箱の裏に移動する。 「クソッ……あんなのを相手にしていられるか! 他の上忍に伝言しなくては!」 コマダが隠れている間に残りの中忍はジャッカルの手によって礫死体となっていた。 「ここは逃げなくては! 私たちはLavaGerdenを甘く見過ぎていた!」 倉庫を飛び出すコマダ、追うジャッカル。 「クソッ逃げ切れるか……?」 サイバネ強化し足に自信があったコマダに平然とついてくるジャッカル。 「後3分もすれば援軍がくる……それまで……」 ジャッカルの放った弾丸がコマダの足を貫いた。 「うああああっ」 転倒するコマダに次々と弾丸が撃ち込まれる。 「があ……」 「こっちは終わった……フォックスに合流する」 薄れゆく意識の中コマダはジャッカルが去って行くのを見つめ続けた。 「ここまで……か……」 フォックスこと狐理子とテンゾウは倉庫を出た広場で一進一退の攻防を繰り広げていた。 「コマダめくたばったか。所詮奴は諜報担当のくノ一……」 耳に仕込んだ通信機に指を当ててテンゾウが呟いた。 「覚悟するでござるよ! ブラックヴァリー! 暮葉一族の怨み思い知れ!」 「化かすのが得意な暮葉一族……飛び加藤の系譜……お前たち暮葉一族に伝わる【加藤段蔵の秘伝書】の解読、必ずやらせてやるぞ」 テンゾウは背中のバックパックから6機のドローンを飛ばす。その内の2機に足を乗せて飛翔する。 「サイバネムシ忍法オニヤンマ」 「そんなもの!」 狐理子は手裏剣を放つ、ブースター突撃を幾何学的な軌道で回避するテンゾウ。 「くっ(自分が攻撃する動作と同時にもう回避に入ってる……どういうことだ?)」 ドローンからの銃弾、狐理子は連続側転で回避するが体を掠める。 「(接近すればドローン銃撃は防げるはず、奴も自分ごと撃ちはしまい)」 フォックスブースターで接近する狐理子、テンゾウはスライドめいた空中移動で距離を取る。狐理子が追いかける、テンゾウが距離を取る。 「(あと少しが届かない!)」 「中々の速さだが来るのが解ってれば避けるのは容易い……他の暮葉一族のように貴様は幻術を使わんのか?」 「黙れ!」 狐理子の幻術とは自分にかけるもの。フォックス忍法なりきりの術は暮葉一族の幻術を応用したものである。現在狐理子がなりきっているのは里の長である自分の父であった。 「(なんで……体が重い……)」 『キリコ! 肩と大腿に食い込んでいるマシンがあるよ!』 SliMEコンキチからの警告。ドローンから放たれた弾丸が掠った部分であった。 「ククク……サイバネムシ忍法マダニ……」 狐理子に食い込んでいるのは2㎜ほどの小さな足の生えた機械。医療用のマシンを改造したものである。テンゾウは改造マシンを操り狐理子に毒を打ち込んでいた。 「有象無象のブラックヴァリーとこのテンゾウを一緒にしてもらっては困るな。首領の不動了痲なき後、ブラックヴァリーを率いるのは我が天蟲党だ!」 「そんなくだらない事の為に暮葉一族の里を襲撃したのか……」 「素直に従っていればよいものを抵抗するからだ……さぁどうする? 徐々に体の力が抜けていくだろう? 思うように動けまい。大人しく秘伝書を解読しろそうすればお前の好きな店の従業員も今後襲わないと約束しよう」 「……(解読すればその後殺される。そして暮葉一族は絶滅する。秘伝書の秘密も守れずすべて失う。そんな事になるくらいならいっそここで奴を道連れにして……)」 「ギャギャギャギャー!」 緑色のぬいぐるみが倉庫から飛び出してきた。シャパリュ(ギィ)だ。 「援軍か……なんという邪気、妖の類か」 「ガギャアアアッ!」 シャパリュの背負っているランドセルからサイバネアームが展開、手にはアサルトライフルが装備されている。 「おっと……サイバネムシ忍法ヒラグモ!」 円盤型の爆弾を投げつけるテンゾウ。バックステップで回避するシャパリュ。爆弾は炸裂し大量の煙を周囲にまき散らした。 「ギギギギギギー!」 「今日はこれまでとしよう。暮葉一族、よく考えるんだな。これからいつでもお前とお前の周囲を狙うからな」 強力な催涙ガスを受けて目と鼻から体液を溢れださせながらシャパリュはグルーミングしている。 「ギャギャギャー……あのニンジャ! 調子にノリヤガッテ!」 「ゴホゴホ……」 狐理子はコンキチのサポートで瞬時にマスクを装着し吸い込んだのは微量だった。 戻ってきたジャッカルは風上から接近し煙を放つ円盤を連続で撃ち海に落として処理した。 「シャパリュ、フォックス……無事ですね」 「ギリギリというところです……」 「ギャギー! あのニンジャコロス!」 *** 倉庫街の出来事を離れた建屋の屋上から双眼鏡で眺めている男の姿。七曲キョウヤ。 「いやはや……久しぶりにLOKI関連のドンパチ。こりゃあこれから街は荒れるぜぇ」 「お前の影響もあるだろう」 キョウヤの背後で低い女性の声がした。キョウヤは振り向くよりも早く特殊合金の鎖が全身に巻き付いた。 「トニトルス……さんですかい」 体を捩りキョウヤの視界に映るのはシスター服をモチーフにした戦闘スーツを身に着けたLOKI幹部・トニトルス(エリザ)であった。 「主から全て聞いている。お前を監視していた」 「何もしてねえですぜ。見ていただけで」 「だろうなだからこれは警告だ。主を怒らせるな、ハートがいつお前を狙うか解らんぞ」 「なにもしてねえのになんでクリムゾン様を怒らせることになるんで?」 「……少し散歩しようか。頭を冷やす必要があるようだな」 トニトルスは背中から白い翼を広げて跳躍。鎖で拘束されたキョウヤを夜空へ。 「良い眺めだろう? いずれ主が支配する事になる街だ」 「まぁ俺っちには見飽きた景色っすけどね」 トニトルスは旋回して遠心力で鎖を締め上げる。 「ググゥ……」 「よく考えて発言するんだな。アンバーなら酒でも飲みながらお前の話を聞くんだろうが私は時間を無駄にするのが嫌いでな」 「じゃあどうしろと? 俺っちは探偵で街で情報を集めるのが生業なんだが?」 「知らぬ。主を怒らせる行動を取るな、お前が考えて行動しろ。私はお前に助言しに来たのではない」 「今すぐ俺っちを殺さないのはLOKIにとって利用価値があるからでしょ? かと言っていいように使われるのもゴメンでね」 「知らぬ。私はお前に伝えたぞ? 主を怒らせハートの餌食になるかどうかお前の行動次第だ」 急降下するトニトルス。鎖を解放しキョウヤを海に投げ捨てた。 「ブハァッ! 海水は面倒なんだよなぁ……」 海面から顔を出すキョウヤ、トニトルスの姿はもう何処にも無かった。 「さてと……街が荒れるのならもっと盛大にってな! 火種は多ければ多い程面白い、俺っちの仕事も大忙しって訳だ!」 キョウヤはコンクリート製の岸から上がって座り込み携帯を操作する。 「ああもしもし……ええ、そうです……ええ、ええ。実は面白い話がありましてね」 *** 保護室に入れられたなゆかはベッドとトイレと洗面室しかない部屋で歩き回っていた。 「この部屋出ても廊下に鍵かかってるし垓の許可なく外出れないしどうしよう」 『携帯は取られたけどSliMEネットワークは使えるしまだ大丈夫だよ』 「このまま朝までじっとしてるしかないのかなぁ」 『朗報だよなゆか、狐理子のSliMEコンキチ、ジャッカルのSliMEジェイジェイからLavaGerdenの従業員全員無事に保護したって連絡来たよ』 「ほっ……誰が犯人だったの?」 『狐理子に秘伝書を解読させたいブラックヴァリーの天蟲党って連中みたい』 「あ、凄いもうそこまで解ってるんだ」 『すでに天蟲党を探しに動いてるよ』 「徳間教授の時みたいに一般人に紛れ込んで隠れてるのにどうやって探すの?」 『天蟲党の一人を半死状態で確保したから記憶から情報を吸いだしてアジトと人間関係を片っ端からあたるんだよ。警察のサイバー捜査と同じ方法かな』 「えーすごいそんなのまでオーナーさんは持ってるんだ」 『そうだよ』 「こんなに大きな事件が起きたら警察も動くし天蟲党も動き辛くなるんじゃないの? なんでこんな派手に動きいたのかな?」 『普段は一般人になりすまして個々で動いてるから捜査の手が及ばないと考えてるんだろうね。逆にLavaGerdenはちょっと困ったことになるかも。被害者出てるから店に聞き込みに来るかもね』 「大丈夫なの?」 『家宅捜索でもないし従業員に話を聞きにくるだけかと。早くて明日か明後日だろうし、それまで店側は対策を取るはず』 「どうしよう、明日明後日店に行かない方がいいかな? だって垓と店で鉢合わせになるかもしれないし……」 『なるほどその可能性もあるよね。ポポを使って変装すれば大丈夫だと思うけど。それかホールに出ないでキッチンに回るとか。SliMEネットワークで相談するね』 「ごめん、ありがとう」 なゆかは一旦ベッドに座って気持ちを落ち着ける。 「上手い事サキュバスハーフの力を使ってここから出ようとも思ったけど後々大変な事になりそうだよね」 『なゆかの力に魅了されて外に出した警官は処分受けるだろうね。なゆかは警察にマークされる事にもなるね』 「だよねぇ大人しく朝までここに居るしかないか~……でも何にもする事ないよねこの部屋。TVも本も何も無いし」 『じゃあポポのSliMEネットワークに保存されてる映像でも見る? 歌劇団の講演とか演者視点で見れるよ』 「あ、それいいかも! ……でもそれは今じゃなくて……狐理子ちゃんとジャッカルさんが今日何があったのか見たいかも」 『それはおススメできないよ。普通になゆかが見るとショックを受けるようなスプラッタな映像も流れるし。なんせブラックヴァリーが何人も死んでいるからね』 「徳間教授の時に思ったんだ。何もできずにパニックになって見ているだけなの駄目だなーと。狐理子ちゃんとかジャッカルさんのプロの動きを見て色々分析してみたいの。死体が映るところはポポがいい感じにぼやかして?」 『好奇心の強さと勉強熱心ななゆかが本気で戦闘学んだら凄い事になるとポポは思うよ。確かに護身は知っておいた方がいいしいい感じになゆかに見せるよ』 「うん、お願い」 『なゆかはまだ慣れてないから念のため反射反応で体が動いて怪我しないようにベッドに寝て視聴して』 「解った」 *** ―――なゆかのマンション。 「さて……」 なゆかの部屋に侵入する男。警察の捜査の為だと大澤垓は管理人から鍵を入手していた。 「男の気配は無いか……?」 洗面所に入る垓。歯ブラシを手に取り戸棚を開けて見る。 「あやしい物も置いてないな」 全自動洗濯機が洗濯乾燥を終えたランプが点いているのに気付き扉を開ける。 「最近の行動が怪しいからな……変な連中に影響をうけてないか身に着けているものである程度判断できる……」 Tシャツにショートパンツ、ワンピースに下着と次々とりだして広げて観察する。 「異常はないか」 全自動洗濯乾燥機に戻す垓。次にトイレに向かう。タンクの蓋を開けて中を確認した後ゴミ箱を開ける。 「おかしなものは無いか……ドラッグなどはやってないか」 寝室兼リビングに移動する垓。冷蔵庫、食器棚、クローゼット、タンス、机の引き出し、本棚をくまなく調べる。 続く
Dec 6, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド9話 ―――地中深くのコンテナ。 「うああああっ! うおおおおおおっ!」 暗闇の中犠牲者の骨を指が少なくなった手で握りしめ必死に壁に叩きつけて脱出を試みている盗撮男。突如照明が付きタジマが放り込まれた。 「グッ……どこだここは?」 「これで盗撮と指示した奴がそろったな。じゃあここでお前たちを置き去りにするか」 ハートは無表情で床から半身を出して言った。 「嫌ですやめてください! ここから出してください何でもします!」 半狂乱で叫ぶ先に閉じ込められていた両手を失った盗撮男。 「駄目だな。LOKIは因縁を残さない。全て消す始末する。どんな奴も生かして置く事は禍の種となる。裏社会での裏切りは息をするようなものだからな」 「俺は知らずに闇バイトしただけの一般人です助けてください何も誰にも言いません!」 「闇バイトに参加した時点で一般人じゃあねえんだよ。知らなかったですませんな」 「ぬん!」 二人のやり取りを見ていたタジマが電磁警棒を取り出し後ろからハートに殴りかかる。 「馬鹿が!」 ハートの腰から生えた鯱の尾が水面から突き出すように床から出現しタジマを撥ね飛ばし金属製の天井に叩きつけた。 「がは……」 「お前にも説明しておいてやる。ここは地上から50mの深さにある厚さ4mのコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だ。ここに置き去りにする。電波も声も届かない、空気だけは錬金術で供給されてるから好きなだけ生き延びろ」 沈んでいくハート。 「待って待って!置いてかないでええええええええええっ!」 叫ぶ盗撮男、タジマは脳震盪を起こし立ち上がれないままハートが去るのを見つめていた。その様子を車内のモニターで見せつけられるシンヤ。あまりの恐怖に失禁し号泣している。 「こんなこんな惨い……」 「理解したか? 今後はよく考えて行動するんだな」 「ハイイイイイイイイイッ!」 体中の体液を流し車の中で泣いているシンヤを置き去りにしてジャッカルはLavaGerdenに戻った。 *** ―――翌日。 「ん~おはようポポリン!」 なゆかは机の下でミニチュアピンシャーの姿で伏せているポポリンに話しかける。 「おはようなゆか」 なゆかに駆け寄り飛びつくポポリン。 「よーしよしよし可愛いな。すっかりミニチュアピンシャーだね」 「体温血圧心拍数チェック……異常なし。大学に行こうなゆか」 「朝ごはんは……牛乳でいっか」 牛乳を飲み支度を終えマンションを出るなゆか。バス停に向かうと狐理子が立っていた。 「おはようなゆか」 「おはよう狐理子ちゃん。偶然……だよね?」 「いや……SliMEネットワークでなゆかがこの時間にここに来るの知って合わせた」 「ふぅん……あれか、能力覚醒のサポートもあるからか」 「そう、それと昨日変な探偵に絡まれたから心配ってのもある」 なゆかは七曲キョウヤの事を思い出す。 「あの人怪しさ全開だったよね……心配と言えば倉木ひかるさんの方が危なくない? SliME普段持ち歩いてないんでしょ?」 「う~ん……あの子は監視カメラのある道しか歩かないし絶対人がいる所しか行かないし驚くほど目立たなくてすぐに群衆にまぎれるから今までは大丈夫だったけど……あの変な探偵の事はオーナーさんも警戒してるから心配ないかなとは思ってる。そもそもただの一般人だし」 「そっか」 なゆかはほんのりと不安を覚えながら狐理子と大学へ。その不安は的中する。 *** 『ニュースです。爆破事件が発生しました。今日午後4時ごろ第一地区にあるオフィスビルの1階ロビーで爆発があったと通報。目撃者の話によりますと1階カフェの横にあるラウンジの花瓶から煙が出た後に爆発した、と話しています。この爆発で20人が重軽傷を負い行方不明者1名が出ているとの事です』 「爆破テロかなぁ怖……」 なゆかは狐理子と歩きながら携帯を見て言った。 「この大学も油断できないよ徳間の事があったから」 二人はLavaGerdenに向かう。特に怪しい人物に出くわすこともなく到着。なゆかはカフェの仕事、狐理子はMGM歌劇団のリハーサルに向かう。 ―――17時になりカフェのバイト中は黙っていたポポリンが呟いた。 『なゆか大変な事が起きた……ラクーンが……』 「え!」 思わず休憩室で声を上げるなゆか。 「倉木ひかるさんがどうしたの?」 『第1区で起きた爆破事件の後から行方不明なんだ。携帯の電波もそこで途絶えてる。真面目な彼女が連絡しないでMGM歌劇団のリハーサルを休むなんて考えられない』 「えええええっ!」 『既にクリムゾン様はラクーン捜索に何名か向かわせたよ。』 「そんな……」 『従業員の内5名がいきなり襲われたと先程病院から連絡が入ったよ。無差別でLavaGerdenの人間を狙っているのかも』 「それって」 『昨日ちょっと店内で揉め事があったでしょ? それが関係しているかも。なゆかには詳しく教えて無かったけどね』 「そんなヤバイ事が?」 『ヤバイ犯罪組織でもこんな派手で関係の無い一般人を平気で巻き込むやり方、最近は無かったんだよ』 「狐理子ちゃんは?」 『捜索チームに入ってるから出てるよ。ジャッカルと一緒に行動してる。なゆかはこのままLavaGerdenで待機して』 「わかった……」 その時大澤垓から電話が鳴った。なゆかは出ないつもりだったがポポリンが出た方がいいと伝えたのでトイレに移動しながら通話に出た。 『なゆかぁ! 今どこにいる! 保護してやるから居場所を言え!!』 「今お店の中に居るから大丈夫だよ」 『大丈夫な訳あるか! その店が襲撃されたらどうするんだ! すぐ警察署に行くぞ早く今いる場所を教えろ!!』 「ちょっとまって今トイレにいるから……」 『ち……5分後にまた連絡する』 「うん」 通話を切るなゆか。 「どうしよう~……倉木ひかるさんの事も狐理子ちゃんの事も気になるし……」 『正直に丹羽省羅に伝えて早退すれば? あの垓って警官を無視し続けるのは無理だよ』 「だよね……」 なゆかは省羅に事情を伝え早退する事に。 「第二地区に居たらあれこれ詮索されそうだし……ちょっと頑張って第一地区に移動しよっか。ポポリンサポートお願い!」 バッグに入っていたポポリンは薄い皮膜のようになゆかの全身を包み込む。 「よーし、ひとっ走り行くよ!」『了解!』 ジャンプで3階の高さまで跳びLavaGerdenの隣のビルの格子を蹴って路地を進む。ポポリンはなゆかの両手両足部分を分厚いグローブ状に変化させる。 「うひゃあああっ! 楽しいぃいいっ!」 大通りを渡るように跳ぶなゆか。ポポリンは背中から蝙蝠めいた羽根を生やしてなゆかを滑空させる。 「ポポリンナイスゥ!」 『まかせてなゆかのやりそうなこと大体解ってるから』 ポポリンは外装を宅配業者のユニホームのカラーに変え一般人の目から偽装する。 「なるほどーこれで飛んだり跳ねたりしても皆気にしないって事かぁ」 『変な事しない限りはこれで誤魔化せるよ』 5分でなゆかは第一地区の端にある公園に到着した。 『なゆかぁ!』垓から電話がかかってきた。 「今ね……第一地区の公園にいるよ。ピラミッドみたいなオブジェクトがある所」 『……よし、そこを動くなよ? 一人になるな、行き止まりの建物に入るな、何も触るな』 「わかった」 通話を切ってなゆかは大きく息を吐いた。 「や~これはギリギリだったね。でもこの公園LavaGerdenから一直線に進めば5分で来れるしルート覚えておいてもいいかも」 『そうだね、大学からは離れてるけど言い訳しやすいしポポもマークしておくよ』 第一地区のこの公園は静かで仕事帰りのサラリーマンやペットの散歩をしている者が居る程度。公園の真ん中にあるピラミッド型のオブジェクトが特徴的で通称ピラミッド公園と呼ばれている。階段状になっている為座って休むこともできる。 狐理子と倉木ひかるの事を気にしながら待っていると離れたところから大声がして肩をいからせて近づいてくるビジネススーツの筋肉質な男が見えた。大澤垓だ。 「なゆかぁ! 行くぞ!!」 「はぁい」 強く腕を掴んで引く垓、ポポリンに包まれてなかったら激痛が走り痣になっていた程の力加減だった。 「痛いよ垓」 「ああスマン、もたもた出来ないからな!」 押し込むようになゆかを車の後部座席に座らせると乱暴にドアを閉め発車する。 「悪のテロリストどもが動き出したんだ……DCMの残党かブラックヴァリーか……」 なゆかはブラックヴァリーの名前を聞いてドキッとした。狐理子にも聞いていたからだ。 「今日は警察署の保護室で一泊な。手続きはもうすませてある」 「え、そうなの?」 「明日の朝大学まで送ってやる、それまで保護室で大人しくしてろ困ったことがあったら署内の誰かに言え」 「うん……(うわぁ~朝まで出れないのかぁ……長いなぁ~)」 『なゆか、保護室って牢屋みたいになってる所だよ。知ってるの?』 「(えー嘘ぉ!? そんなひどいなんで……)」 『事件性が無くて一時的に保護する場所だけど、酔っぱらって泥酔状態だったり、暴れてどうしようもなかったり、精神錯乱状態だったり迷子だったり、体調が悪かったりする場合に使うんだよ。中から開けて出られないから牢屋と言ってもいいかもね』 「(えぇ~……)」 「どうしたなゆか?」 「保護室ってさ、牢屋みたいな所なんでしょ? 私そんな場所に入れられちゃうの?」 「牢屋ぁ? 似てるが快適さは段違いだぞ? 勝手に出れんし携帯も使えないが一番安全な場所だ、おまえはチョロチョロ勝手に動く癖があるからな守るためにはこうするしかないんだ一泊くらい我慢しろ」 『なゆかの性格把握されてるね。ホテルに居ろって言われても絶対抜け出すものね』 「(……ポポリン……サキュバスハーフの力使ってもいいかな?)」 『ここで? 運転中はマズいからせめて警察署に着いてからにしよ?』 「(わかった)」 *** 黒塗りのワンボックスカーの中には運転手の他に3人の男女と倉木ひかるが乗っている。倉木ひかるは袋をかぶせられ手はワイヤーで拘束されていた。 車内にいる男達は運転手はヤギ、助手席の女はコマダ、倉木ひかるの両隣はヌマグチ、カガワ。全員がブラックヴァリーでヤギ、コマダ、ヌマグチは七曲キョウヤと会っていた人物。車は第五地区の倉庫街に向かっていた。 「ウィーヒヒヒ……拷問楽しみだなあ」 カガワが舌なめずりをして倉木ひかるの足を撫でまわす。 「迂闊に触るなカガワ! そいつが暮葉の忍なら何を仕掛けてくるか解らんぞ!」 助手席のコマダが叫んだ。 「薬が効いて寝ているふりをしてるかもってか? 忍ならありえるな、だがハズレの場合存分に遊べるって訳だろ? たまんねえぜ!」 「……だからお前は下忍なのだ」 「うるっせえよ!」 倉庫街に到着すると倉木ひかるの座席は電動車いすに変形し拘束したまま下車して走り出す。介護用に開発されたAI搭載の電動車椅子である。 倉庫街のA8番倉庫に入って行く電動車椅子。そこには同じように拘束された女性たちが6人並んでいた。全員がLavaGerdenの従業員である。 「6人だけか……無能どもめ!」 倉庫の奥で声がした。サイバネアーマーを身に着けた男が跳躍してコマダらの前に着地する。それに合わせてブラックヴァリーが4人物陰から現れる。 「テンゾウ様……申し訳ありません。警察の動きが思いのほか速くて……」 「ふん、コマダお前の他は全員下忍だったな。それにしてももう少しやれたよな」 「申し訳ありません」 「この中に暮葉一族の忍が居れば俺しか奴に対抗できる者はいない……早速術をかけていぶり出すとするか」 テンゾウが合図すると配下の中忍が車椅子の女性の袋を取り外していく。テンゾウは両手で高速で印を結びながら詠唱を始める。 「ギギギギギギ……」 不気味な声が聞こえた。テンゾウは詠唱を止めて倉庫を見渡す。 「誰だ!」 その場にいた全員のブラックヴァリーが警戒体勢をとる。 「ミツケタ!」 その声の直後上部窓から飛び込んでくる三つの人影。 「警察か!」「いや違うなにか変だ!」「獣!?」 緑色のぬいぐるみのような毛を生やした尾が長い子供サイズの獣、バトルスーツに身を包んだ女性、狐の仮面をつけ全身にブースターを取り付けた女性が着地した。 「シャパリュ、あなたのおかげで間に合いました感謝します!」 バトルスーツの女性が言った。 「鼻ニハ自信がアル、コイツらの気も駄々洩れ」 「全員返してもらう!」 狐仮面のフォックスこと狐理子が叫ぶ。 「なんだ……そっちから当たりが来やがったのか。野郎ども! 狐の他はぶっ殺して構わんやれ!」 続く。
Oct 26, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド8話 ―――第二地区の裏路地にある小さな居酒屋。 「この居酒屋汚くて小さいけど焼き鳥がウメェんすよ!」 七曲キョウヤは勝手に狐理子の分まで注文しながら言った。 「どうでもいい、盗撮男はシンヤってホストから闇バイトの話を聞いた、その辺を話しようか」 狐理子はキョウヤを睨みつける。 「で、俺っちが何か関係あるとでも?」 「ホストのシンヤの兄というのはお前の事だろう。データベースで確認したぞ」 「確かに俺っちの弟はホストだ。だけどそれがなんで闇バイトと繋がんだよ? 弟の不始末を兄が何とかしろってのはちと強引すぎないかい?」 「盗撮男はお前にデータを送信したと言った。奴から回収した端末もある」 「ふぅん……それって俺っちも被害者じゃね? バカな弟に勝手にメッセージ送信先に使われてよぉ。あのバカは俺っちに送っとけば何とかしてくるとでも思ったんだろう」 「お前が被害者ぶるのは勝手だが盗撮問題に対処しなくてならないんだ解るだろう?」 「何をしろと?」 「……この流れにもっていく算段だったんだろう? 自分が話し相手で良かったな。ハートさんはお前で遊びたくてウズウズしてるんじゃないかな、すぐに呼ぼうか?」 「おーっとっと……あの人は勘弁して欲しいっすねぇ」 「お前の目的はなんだ?」 「そりゃあ探偵っすからネタ探しだよ。最近はシンヤのホストクラブの客も大したネタ持ってなくてねぇ」 「要するに……デカい仕事が欲しいのか。飼い主の院瀬見はどうした?」 「いやいやいや飼い主とかいねえって。報酬がデカイ上客ってだけだよ。LOKIが院瀬見以上にくれるもんくれればめちゃくちゃ働くぜ?」 「駄目だ、お前に動きは知られるわけにはいかない。後、LavaGerdenに謝罪が無ければお前はこの街から消える事になるぞ」 「マジ? 俺は被害者なのに? 警察に通報しちゃおっかなぁ」 「バカが、その瞬間お前は死ぬことになるぞ。それとも今のは挑発か。本当にお前が警察を使うのなら安全にこの街を出れる準備が出来た時だろ?」 「あれれ~今日のフォックスさんやけに口が回りますねぇ~」 「黙れ軽口を叩くな。謝罪をしろ、出来なければお前のせいで盗撮男も弟のシンヤも消える事になる。いいか、『お前のせい』でな」 「謝罪を要求ね……ハイハイ。金だけじゃあ許してくれそうもないし……シンヤの始めた闇バイトのバックを知らせれば納得ですかねぇ?金額はどの位で納得してくれますクリムゾンさんは」 LOKIとクリムゾンの名前を聞いたとたん居酒屋のカウンターで焼き鳥を焼いている店主の顔が青くなっていく。 「なんだ? 店主の様子がおかしくないか?」 「ああ、しょうがないっすよ。LOKIの手によって半グレ共が目の前で筆舌に尽くしがたい惨たらしい死に方したのを目撃しちまったんすからねぇ」 「一般人なら当然の反応だ。おかしいのはお前だ七曲キョウヤ」 「しょうがないっすよねぇ……俺っち恐怖心ってのが全然無いもんだからイカれちまってんのかもね。そのせいでこんな体になっちまったんすよ」 「お前に脅しは通用しない。そしてお前は自分の価値を売り込むのが得意」 「正解!」 「七曲キョウヤ、とりあえず100万だ。それから闇バイトのバックの情報を渡せ」 「了解~! じゃこの後すぐ振込ます。口座番号はどちらで?」 「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇だ。闇バイトのバックについては自分に知らせろ」 「あ、どもフォックスさんのメッセージアカウントあざっす!」 「あまりふざけた態度をとるとクリムゾンさんの機嫌を損ねるぞ?」 狐理子は焼き鳥に手を付けずに立ち上がる。 「もったいねぇ……おっちゃん、この焼き鳥包んでくれる?俺っちの夜食にするわ」 *** ―――LavaGerden。 「はぁ~……フォックス忍法なりきりの術で歌劇団メンバーのジャッカルの真似してみたけどドキドキしました~」 胸に手を当てる狐理子。その様子を椅子に座ったまま見つめる昊菜。 「ご苦労様フォックス」 「クリムゾン様、七曲キョウヤを始末しなくていいのですか?」 「今はまだいいのです、使い道を考えてありますのよ。この街であのような立ち振る舞いをできる男は多くのデータを取れます」 「わかりました」 「フォックス、あなたに七曲キョウヤから連絡が来るようにいいましたが転送して丹羽家に繋がるようにします。処理はSliMEネットワークに任せておきなさい、貴女は藺藤なゆかに付いて友人として一緒に行動しなさい」 「はい」 「ブラックヴァリーと秘伝書の事どちらも重要です、なゆかを育てれば解決は早くなるはずです。来夢に未来予想演算をさせたらなゆかを育てる方が良いとでましたの。七曲キョウヤについてはこちらに任せておきなさい」 「はい」 *** ―――第二地区・ビジネスホテル廃墟。 「ふぃ~……ちょっちあぶねぇ橋だったかな」 「ア、アニキ……」 下着姿で正座しているホストのシンヤ。目の前には七曲キョウヤ。 「お前はどれだけ馬鹿なんだ? 何をしたら何が起きるのか想像できねぇのか?」 「ゴ、ゴメンよ」 「いい加減お前のケツ拭くのにうんざりしてきてんだわ。売り上げも落ちてるそうじゃねえか、だから闇バイトなんかに手出すんだろ? 誰が持ちかけて来た?」 「客の女っす……えれぇマブで……金持ってて100万のホワイト案件っていうから」 「で?」 「店の売上じゃなくて女から100万貰えればかなりデケェしやるっきゃないと……でもパクられんのこえぇし後輩の知り合いの借金持ちに2万でやらせようと……」 「そこで何で俺の所にデータ送信させたんだ? マヌケがっ!」 キョウヤはシンヤの腹を蹴る。 「ぐぇっ! 女がそうしろって……キョウヤのアニキなら絶対大丈夫だからって」 「女と100万はどうした?」 「今日この後会うつもりですそこで金も……アニキも一緒に?」 「あたりまえだろう(その女、俺を釣るためにシンヤにこの一連の動きを仕組んだか?)」 廃墟のホテルを出るとシェアカーに乗り込むキョウヤとシンヤ。第二区北側の峠に向かった。 「あそこの売店で」 自動販売機とトイレ、監視カメラだけの休憩所。そこに1台車が止まっていた。降りて車に近づく。 「ん?」 物陰から3人の黒づくめの男が出てくる。車からはサイバーグラスをかけた女。 「只者じゃあねえな?」 「探偵の七曲キョウヤだな?」 「そーだけど? オタクら誰?」 「誰だっていい……お前はただ我々の為に動いてもらう」 「そいつは随分と都合のいい事で」 七曲キョウヤは人工筋肉で強化した右腕でジャケットからショックガンを取り出して撃つ。軍用サイバネに匹敵する速度で動ける上に重量は半分以下の高級仕様である。 放たれたのは非殺傷弾丸ではあるが全身に激痛が走りサイバネを一時停止できる強力なもの。警察の特殊部隊が使用している物と同じである。 「ぐぅ……」 目の前の長身の男は体を硬直させて棒のように倒れる。 「おっと他の人も動かない方がいいんじゃないか? 俺っちの早撃ちは蒐魅には及ばないもののそこいらのサイバネには負けんぜ? さぁどちらさんか答えてくんねーかな?」 「やるな探偵……」 「いいだろう、教えよう。我らはブラックヴァリー」 「ああ、あのニンジャの……裏社会では有名な何でも屋だ。それがなんで俺っちに脅しをかけてくる? 仕事は自分らでやりゃあいいだろう?」 「お前の持っている知識経験人脈が欲しい」 「へぇそりゃあ嬉しい事で。それなら依頼って形でしてくんねーと」 「駄目だ、お前を独占し他の組織には使わせん」 「専属契約が希望って事? そりゃあできねーぜ」 「だからこういう事になっている」 「……ははぁ成程なぁ~今俺っちの評判はLOKIの中では最悪になってる。次は院瀬見、その次はG/Tその次はって感じで追い詰めていくつもりなんだろう?」 「察しがいいな流石だな」 「古いやり方だが効果的だ……だけど俺っちを甘く見過ぎじゃないか?」 「なんだと? どういうことだ?」 「すぐわかる……その前に何をさせたいのか聞かせてくんねーかな?話を聞かない事には出来る事も出来ない事も判断できない」 ショックガンを構えたままのキョウヤだったがサイバーシールドに包まれた顔面は端末に繋がっており視線操作できる。ブラックヴァリーの男と女を全員録画している。 「あああ、アニキ俺はどうすれば?」 「黙ってろシンヤ、車の運転席に座ってろ」 振り向かずに後ろにキーを投げるキョウヤ。慌ててキーを拾うと車に駆けこむシンヤ。 「弟は関係ねぇ下がらせた」 「いいだろう」 「我々はLavaGerdenの情報を得たい。なるべく詳しくな。狙いはあの店に所属している女だ。坂東狐理子、これがそいつの顔だ」 写真を投げて寄こす筋肉質な黒づくめの男。 「ふ~ん……俺っちに頼むって事は普段何処にこの子がいて何処を寝床にしているのか解らないって事か。ニンジャなら得意でしょ?」 「奴は別人になりきる忍法を使う。目星をつけなければIDを調べる事も出来ん」 「そうか……でもなぁ盗撮の事でLOKIに詰められてんだわ。犯人を突き出さなきゃ俺っちはLavaGerdenの調査なんて無理だ」 「ホームレスに暗示をかけてお前に渡そう」 「そりゃあ無理だぜ。LOKIはそんな甘くねえバレたら終わりだ。そこの俺っちのショック銃を喰らって倒れたにーさんをLOKIに突き出したらいいんじゃね?ニンジャなら捕まっても逃げられるし体内にGPS仕込めば助けに行けるっしょ?」 提案しながらそれは絶対に不可能だという事をキョウヤは知っている。LOKIに捕まって帰ってきた者はいない。死体も見つからない。 「ふむ……タジマ。行ってくれるか?」 倒れている男に声をかける筋肉質な男。 「あ、ああ……必ず助けに来てくれよな……」 「(コイツら本当にあのブラックヴァリーか? なんともマヌケな雰囲気が漂ってるぜ。マッチョ男の他は下っ端か?)」 「よし、じゃあ俺の車に乗ってくれるかな?あとそれと依頼料は前払いで100万、成功報酬で100万の合計200万で宜しく。前金はこの場で電子マネーで送信して欲しいな。契約書はここにある」 ジャケットから封筒を取り出して地面に置くキョウヤ。 「特殊な紙とインクだからな偽造はできねえぜ」 「―――いいだろう。ヤギ、100万送信しろ。コマダ、書類にサインしてやれ」 「はい」「はい!」 「(院瀬見のエージェントにもG/Tにも劣る下らねー連中だ。だが秘伝書とやらの話は気になるな……)」 キョウヤの車にタジマを乗せLavaGerdenに向かう。店の前で狐理子に電話をかける。 「どーも、七曲キョウヤっす! 盗撮男のバックに居た奴連れてきましたわ」 『店の裏の駐車場で待っていろ』 裏の駐車場に車を止める。シンヤは滝のような汗を流して震えている。タジマは拳を握りしめている。そこに長身細身の武装したバトルメイドが立っている。 「あ~フォックスさんは?」 「私が代わりだ」と言い放った。 MGM歌劇団のメンバーであり丹羽家のバトルメイドのジャッカルである。 「そこの男か?」 「ええ、ブラックヴァリーの一人です」 「よく連れてこれたな」 「まー詫びを入れたいって事なんでしょう。LOKIの恐ろしさをタップリ説明して上げましたからねぇ」 「ふん……」 ゆっくり車から離れて前に出るタジマ。ジャッカルに近づいていく。 「ここで話をするのは良くない。移動してもらうぞ」 「ウム」 タジマが返事すると同時にまるで水面に落ちるように地面に沈んでいく。 「何だ……これは……」 「(うわぁ……あれはLOKIのハートの錬金術……近くにいるんかよ)」 キョウヤは後頭部をかきながらタジマが沈んでいくのを眺めていた。 「闇バイト指示役の引き渡し+100万円っと、はい送金しましたよ~」 「確認した、もう用はない立ち去れ」 「んじゃ俺っちはこれで……」 「いや、そこのホストは置いていけ。大丈夫生きて帰す、だがお仕置きが必要だ」 「あ? シンヤはもういいっしょ十分反省してるっすよ」 「黙れ」 「……しゃあねえっすね。ちゃんと帰してくださいよ?」 「ああ」 続く
Sep 29, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド7話 『動悸……なゆか動揺してる』 ポポリンが報告する。 「そりゃあだって……ねえ?」 狐理子に視線を向けるなゆか。 「申し訳ない気持ちはあるけど……なゆかはそのサキュバスハーフの力を使いこなせないままじゃあ平和な一般人生活は送れないと思うんだ」 「そう……かもね? おばあちゃんは上手く制御してたっぽいけど」 「今後どうしていくか一緒に考えようよ。まずはLavaGerdenに行こ」 「うん」 *** LavaGerdenに到着する二人。なゆかはそのままカフェフロアのアルバイトに。狐理子は上階の事務所に向かう。 「すーはー……気持ち切り替えてお仕事しなきゃ」 『なゆかえらい!』 制服に着替え他の従業員に挨拶をしてカウンターに入るなゆか。客は2組のカップルと妙齢の女性のグループ、端末を持った若いビジネスマン。 「よし、頑張るぞ」 カウンターの横に立っていた丹羽省羅が端末を持ったビジネスマンに近づいていく。なゆかは何となくその様子を見ていた。 「あれ? なんかあのビジネスマン立ち上がって省羅さんにペコペコしてる」 慌てた様子でその場で電子マネー決済をしてLavaGerdenを出て行くビジネスマン。戻ってきた省羅に声をかけるなゆか。 「何かあったのですか?」 「いえ、大した事はありませんよ。少し教えて差し上げただけです何も心配する事は無いですよ」 いつも通りの上品で瀟洒な省羅であったがほんの僅かに怒りがこもっていたとなゆかは感じた。 「(……トラブル対応かなぁ)」 *** ―――LavaGerden上階。 「ご苦労様フォックス。後始末も問題ありませんわ」 「恐縮です」 大学での任務の報告を聞きながらワイングラスを傾ける昊菜、向かいには狐理子が座っている。いつも昊菜といるはずのハートの姿が見えない事に気付く。 「あの……ハートさんは?」 「ああ、あの子は仕事中です」 「そうですか」 ハートの仕事は殆どが血生臭いものである。彼女が仕事に出ているという事はどこかで哀れな犠牲者が生まれている事が想像できる。 「まだ未だに懲りずにちょっかいをかけてくる不届き物が来ますのよ」 「それは……自分のせいですか?」 「いいえ。ブラックヴァリーではありませんわ。来てたのは近所のホストクラブの連中ですわ」 「あの……彼らは何をされたんでしょう?」 「下のフロアーの省羅の報告では盗撮ですね。会員証をどこかから得たホストクラブの人間が来たのです。ウチの客にホストクラブに会員証を渡すなんてそんな者は居ませんもの」 「……その件でハートさんが仕事をしに行ったと」 「ええ」 *** 省羅に警告されたビジネスマンの男は慌てて店を出た。携帯を取り出したところで足がもつれて転んだ。まるで地面が泥のように柔らかく足が沈みこんだ。 「なんだ! なんだよぉっ!」 地面に沈んでいく男。必死に手足を動かして藻掻くも沈んでいく。やがて空洞に落下した。 「イテェ……」 照明が点いた。そこには黒フードの小柄な女性、ハートの姿。その奥には夥しい量の骨が散らばっていた。 「ななななななんだテメェ!」 「私の質問にだけ答えろ。盗撮したデータは送信済みか?」 「近づくんじゃねぇ!」 「質問に答えろといったよな?」 瞬間移動めいて肉迫する端末を持った左手の指3本が飛ぶ、落下する前にハートは端末をキャッチ。 「うぎゃああああああああっ!」 ハートに手には鋭い刃のイプシロンアックス。持ち手を包み込みεの形をした斧。 「データの送信は?」 「し、した……しなきゃ報酬貰えねえから!」 「したのか……じゃあ駄目だな。あそこの骨の仲間になってもらう」 「チクショウ……舐めやがって」 懐に仕込んでた櫛型の隠しナイフに手を伸ばす男。その瞬間閃光のようにハートのイプシロンアックスが走り残った右手を手首から切り落とす。 「いぎゃああああああああっ!」 「舐めてるのはどっちだ? LavaGerdenを……ご主人様を舐めやがって……今決めた、お前の関係者すべて始末する」 「やめろ……やめてくれ……」 「誰に依頼された? お前はどこから闇バイトに登録した?」 「お、同じ店のキャストのシンヤって奴に紹介されて……1回10万ってウメェ仕事だって……アンタ何者なんで?」 「カスが! 誰が質問していいと言った? まぁ何者か知ってたらこんな舐めた真似できる訳がないよな? じゃあ教えてやる。LOKIだ」 「ロ……LOKIってあのクソヤベェ闇組織の……いくつもこの街のマフィア半グレを潰してる……まさかまさか……知らなかったんです……許してください!」 「許せだと? 何故私がお前の希望を聞いてやらなきゃならない?」 「一生のお願いです!」 「お前を逃がして私に何の得がある? ここで始末しておいた方がスッキリするだろう」 「ウチの店の事何でも教えます! キャストの個人情報でも客のリストでもなんでも……」 「へぇ……だがその前に盗撮動画を送信してしまった落とし前はどうつけるんだ? 前に炎上系のサイトを作ってた奴も盗撮してあの骨の中に混ざってるな。世間的に永遠に行方不明だ」 「なんでもします助けてください!」 「時間の無駄だ。私はすぐに戻りたいお前に時間を割きたくない、後10秒でお前を生かして私が得をする方法を言え」 「え、そそそそんな……えっと……」 「……」 「金……そうだ金庫! ホストクラブの金庫の場所教えます!」 「それを私に盗めと? ホストクラブで窃盗が起きれば警察が動くだろうが。盗撮データ送信の件をチャラにできると思うなよ? やるなら全員始末するしかなくなる、そんな大仕事は自分だけの判断でできないな」 「ひいいいい……」 男は失禁しながらハートが脅しではなく実行する気でいると感じた。大きな声を出して恫喝するでもなく淡々と話す様子に恐怖した。 「どいつにデータを送信した?」 「それを言えば殺さないですか?」 「面倒な奴だな、話したくなるようにしてやろうか?」 男の左耳が飛んだ。 「ぐぎいぃいいいいいっ」 「ほら、ドンドン失っていくぞ?」 「シンヤの兄貴です!」 「そいつはどこにいる?」 「知らないっす……シンヤに聞かないと」 「じゃあお前にこれ以上用はない」 金属製の床に沈んでいくハート。 「あの……俺は……」 「殺さないでおいてやる。自分で脱出しろここは地上から50mの深さにある厚さ4mのコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だがな」 「ちょっと待って! 置いていかないでくれー!」 *** 「戻りましたご主人様」 「ご苦労様ハート」 ハートは両手で男の端末を昊菜に差し出す。 「盗撮男はホストクラブのシンヤというホストの紹介で闇バイトでやったと言ってました。送信先はシンヤの兄だと」 「あのホストクラブのオーナーはわたくしとは良い関係を築きたいと言ってましたのに」 「従業員の教育が甘いのでしょう。いかがされますかご主人様」 「シンヤの兄について調べます。場合によってはLOKIを動かします。展開次第ではあのホストクラブは消滅しますわね」 「盗撮男はここが誰のどのような店か知らない様子でしたがシンヤ兄は違うかもしれませんね。ひょっとしたら警察にパイプを持っている人物の可能性も」 「そうですわね……ここは慎重に」 昊菜は来夢を使ってネットワークに繋がる。ホストクラブの人間のデータを集め始める。 「閉店までにどう動くか決めますわ」 *** カフェの閉店時間、そして本日は舞台の講演は無くアーカイブの映像を流している。歌劇団のメンバーたちはレッスン場で稽古に励んでいた。 メンバーの一人【ラクーン】が時計を見ている。元々カフェの従業員で歌と声を気にいった昊菜が歌劇団にスカウトをし【ラクーン】の名前を得た。 普段の大人しい性格からは想像できないほどパワフルで情熱的な歌声に魅了された昊菜はギャップからそう名付けた。 「気付いたらもうこんな時間……ラクーン、気を使わないで上がって」 スワンが声をかけた。 「あ、はいそれでは皆さまお先に失礼します」 「お疲れさまでーす!」 メンバー全員の声がハモる。 ラクーンは自分のSliMEを持ち歩かずにロッカーに置いているメンバー。完全な一般人でSliMEにも依存していない。 隠しエレベーターからバックヤードに降りる。そこでなゆかと出くわした。 「あ、お疲れ様です」 「お疲れ様です……歌劇団の方ですよね?」 「え? あ、はい……」 「すみませんこの前の舞台見たのでつい声をかけてしまって……」 「え、解るんですか?」 SliMEで髪型もメイクも変えているのどうして? とラクーンは思った。 「ごめんなさい私もオーナーからSliMEをお借りしていましてそれで……」 「ああ、そうでしたか。でも……歌劇団のスタッフでも無いのにSliMEを?」 「ちょっと事情がありまして……すみません時間取らせちゃいましたね、それでは失礼します」 なゆかは頭を下げてバックヤードを進む。 「私も帰る所です。バスに乗って」 「私もですよ、第三区方面のに乗ります」 「じゃあ一緒ですね……あの」 「ああ、失礼しました。私は藺藤なゆかといいます」 「えっとわたしは倉木ひかる……ってSliMEから教えてもらってますよね?」 「すみません、そうなんです……では倉木さん途中まで一緒に帰りましょう」 「ええ」 『普段の黒髪ボブカットの倉木ひかるの時と違ってラクーンになってる時はピンク髪のケモミミヘヤースタイルになってるから普通は気付かないよね』 「(完全にオンオフ分けてるんだね)」 なゆかはもし自分がMGM歌劇団ならラクーンのように普段の自分と分けてもいいかもしれないと考える。狐理子のフォックス忍法なりきりの術ではないがもう一つの自分を作る事によってサキュバスハーフの自分を受け入れて制御しやすくなるかもと思った。 「(えぇーもしMGM歌劇団に入るのならオーナーになんて名前つけられるんだろう? チワワとかだったりして?)」 『なゆかは自分のことチワワだと思ってるの?』 「(どうかなー咄嗟に思い付いたのがチワワってだけワンだよ!)」 『なにその独特な口調』 「(良くない?)」 『なんともいえない、それになゆかはチワワのイメージないよ』 「(そうなんだ)」 なゆかと倉木はLavaGerdenを出てバス停に向かう。二人の後を離れて追跡しているのは狐理子。昊菜の指示である。 バス停で待っていると一人の男が声をかけてきた。 「や、どーも。お二人さんLavaGerdenから出てきたのを見たんすけどあそこのキャストか何かっすかねぇ?」 色のついた顔前面を覆うサイバーシールドを身に着けている男。 「あの……誰ですか?」 なゆかが言った。 「お、俺っちに興味出た? じゃあこの名刺どうぞ」 男は名刺をなゆかに差し出す。そこには【OH探偵事務所:七曲キョウヤ】と書かれていた。 『この名刺本物だよ。この男の情報はSliMEネットワークに登録されているよ』 ポポリンが骨伝導でなゆかにだけ聞こえるように言った。 「探偵さんがなにか?」 「いやぁ~LavaGerdenの話をちょっと聞きたくてねぇ~帰りが遅くなるのは気にしないでいいよタクシー呼んであげるからすぐそこの居酒屋でお話どうかな?」 「明日も早いので失礼します」と、倉木は言った。 「私もちょっと……」 「探偵に貸し作っておいて損はないよ~? 何かあった時初回タダで仕事引き受けちゃうかもよ? あとは俺っちブランド物のデザインもやっててさぁそれの割引クーポンとかでもいいぜ?」 「ちょっと待った!」 七曲キョウヤの背後から声がした。狐理子だった。 「ええっと、貴女は?」 「私もLavaGerdenの従業員だ! 話なら私が聞こう!」 「ひゅ~かっこいいね! 殺気バリバリだし……そんな警戒しなくても大丈夫だって俺っち警察に協力した事もあるホワイトな探偵だぜ?」 「伝説のドラゴンとグレイキャリバー事件に関わっていたというアレの事だろう? だがお前が半グレのG/Tと繋がっている事も把握しているぞ」 「あれまぁ俺っちて有名人じゃーん! あんたの言う通り半グレとも繋がりあるけどあくまでビジネスって訳よ。裏の情報も得ないといけないからねぇ……フォックスさん?」 「お前知って……気安くその名前を呼ぶなよ。特に外ではな」 「は! じゃあ居酒屋にでも行きましょうよ、そっちのメガネのお嬢さんも是非」 なゆかに視線を向ける七曲キョウヤ。 「やめといた方がいいんじゃないか? 守護神がいるぞその子は」 狐理子は大澤垓の事を頭に浮かべながら言った。 「なにもしないって~話聞くだけで一々配慮してたらこの街で探偵なんて出来ないぜ」 『キリコ、来夢から連絡。できるだけ七曲キョウヤと話をしろとの指示。弟のシンヤの事と闇バイトについても聞いておくようにと』とコンキチ。 「(了解)」 目配せをしてなゆかに合図を送る狐理子。ポポリンにメッセージが届く。 『狐理子のコンキチからメッセージ届いたよ。怪しい探偵からできるだけ話を聞き出すからなゆかはラクーンと家に帰ってだって』 頷くなゆか、倉木と一緒に到着したバスに乗り込む。 続く
Sep 21, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド7話『動悸……なゆか動揺してる』 ポポリンが報告する。「そりゃあだって……ねえ?」 狐理子に視線を向けるなゆか。「申し訳ない気持ちはあるけど……なゆかはそのサキュバスハーフの力を使いこなせないままじゃあ平和な一般人生活は送れないと思うんだ」「そう……かもね? おばあちゃんは上手く制御してたっぽいけど」「今後どうしていくか一緒に考えようよ。まずはLavaGerdenに行こ」「うん」*** LavaGerdenに到着する二人。なゆかはそのままカフェフロアのアルバイトに。狐理子は上階の事務所に向かう。「すーはー……気持ち切り替えてお仕事しなきゃ」『なゆかえらい!』 制服に着替え他の従業員に挨拶をしてカウンターに入るなゆか。客は2組のカップルと妙齢の女性のグループ、端末を持った若いビジネスマン。「よし、頑張るぞ」 カウンターの横に立っていた丹羽省羅が端末を持ったビジネスマンに近づいていく。なゆかは何となくその様子を見ていた。「あれ? なんかあのビジネスマン立ち上がって省羅さんにペコペコしてる」 慌てた様子でその場で電子マネー決済をしてLavaGerdenを出て行くビジネスマン。戻ってきた省羅に声をかけるなゆか。「何かあったのですか?」「いえ、大した事はありませんよ。少し教えて差し上げただけです何も心配する事は無いですよ」 いつも通りの上品で瀟洒な省羅であったがほんの僅かに怒りがこもっていたとなゆかは感じた。「(……トラブル対応かなぁ)」*** ―――LavaGerden上階。「ご苦労様フォックス。後始末も問題ありませんわ」「恐縮です」 大学での任務の報告を聞きながらワイングラスを傾ける昊菜、向かいには狐理子が座っている。いつも昊菜といるはずのハートの姿が見えない事に気付く。「あの……ハートさんは?」「ああ、あの子は仕事中です」「そうですか」 ハートの仕事は殆どが血生臭いものである。彼女が仕事に出ているという事はどこかで哀れな犠牲者が生まれている事が想像できる。「まだ未だに懲りずにちょっかいをかけてくる不届き物が来ますのよ」「それは……自分のせいですか?」「いいえ。ブラックヴァリーではありませんわ。来てたのは近所のホストクラブの連中ですわ」「あの……彼らは何をされたんでしょう?」「下のフロアーの省羅の報告では盗撮ですね。会員証をどこかから得たホストクラブの人間が来たのです。ウチの客にホストクラブに会員証を渡すなんてそんな者は居ませんもの」「……その件でハートさんが仕事をしに行ったと」「ええ」*** 省羅に警告されたビジネスマンの男は慌てて店を出た。携帯を取り出したところで足がもつれて転んだ。まるで地面が泥のように柔らかく足が沈みこんだ。「なんだ! なんだよぉっ!」 地面に沈んでいく男。必死に手足を動かして藻掻くも沈んでいく。やがて空洞に落下した。「イテェ……」 照明が点いた。そこには黒フードの小柄な女性、ハートの姿。その奥には夥しい量の骨が散らばっていた。「ななななななんだテメェ!」「私の質問にだけ答えろ。盗撮したデータは送信済みか?」「近づくんじゃねぇ!」「質問に答えろといったよな?」 瞬間移動めいて肉迫する端末を持った左手の指3本が飛ぶ、落下する前にハートは端末をキャッチ。「うぎゃああああああああっ!」 ハートに手には鋭い刃のイプシロンアックス。持ち手を包み込みεの形をした斧。「データの送信は?」「し、した……しなきゃ報酬貰えねえから!」「したのか……じゃあ駄目だな。あそこの骨の仲間になってもらう」「チクショウ……舐めやがって」 懐に仕込んでた櫛型の隠しナイフに手を伸ばす男。その瞬間閃光のようにハートのイプシロンアックスが走り残った右手を手首から切り落とす。「いぎゃああああああああっ!」「舐めてるのはどっちだ? LavaGerdenを……ご主人様を舐めやがって……今決めた、お前の関係者すべて始末する」「やめろ……やめてくれ……」「誰に依頼された? お前はどこから闇バイトに登録した?」「お、同じ店のキャストのシンヤって奴に紹介されて……1回10万ってウメェ仕事だって……アンタ何者なんで?」「カスが! 誰が質問していいと言った? まぁ何者か知ってたらこんな舐めた真似できる訳がないよな? じゃあ教えてやる。LOKIだ」「ロ……LOKIってあのクソヤベェ闇組織の……いくつもこの街のマフィア半グレを潰してる……まさかまさか……知らなかったんです……許してください!」「許せだと? 何故私がお前の希望を聞いてやらなきゃならない?」「一生のお願いです!」「お前を逃がして私に何の得がある? ここで始末しておいた方がスッキリするだろう」「ウチの店の事何でも教えます! キャストの個人情報でも客のリストでもなんでも……」「へぇ……だがその前に盗撮動画を送信してしまった落とし前はどうつけるんだ? 前に炎上系のサイトを作ってた奴も盗撮してあの骨の中に混ざってるな。世間的に永遠に行方不明だ」「なんでもします助けてください!」「時間の無駄だ。私はすぐに戻りたいお前に時間を割きたくない、後10秒でお前を生かして私が得をする方法を言え」「え、そそそそんな……えっと……」「……」「金……そうだ金庫! ホストクラブの金庫の場所教えます!」「それを私に盗めと? ホストクラブで窃盗が起きれば警察が動くだろうが。盗撮データ送信の件をチャラにできると思うなよ? やるなら全員始末するしかなくなる、そんな大仕事は自分だけの判断でできないな」「ひいいいい……」 男は失禁しながらハートが脅しではなく実行する気でいると感じた。大きな声を出して恫喝するでもなく淡々と話す様子に恐怖した。「どいつにデータを送信した?」「それを言えば殺さないですか?」「面倒な奴だな、話したくなるようにしてやろうか?」 男の左耳が飛んだ。「ぐぎいぃいいいいいっ」「ほら、ドンドン失っていくぞ?」「シンヤの兄貴です!」「そいつはどこにいる?」「知らないっす……シンヤに聞かないと」「じゃあお前にこれ以上用はない」 金属製の床に沈んでいくハート。「あの……俺は……」「殺さないでおいてやる。自分で脱出しろここは地上から50mの深さにある厚さ4mのコンクリート製の壁に包まれたコンテナの中だがな」「ちょっと待って! 置いていかないでくれー!」***「戻りましたご主人様」「ご苦労様ハート」 ハートは両手で男の端末を昊菜に差し出す。「盗撮男はホストクラブのシンヤというホストの紹介で闇バイトでやったと言ってました。送信先はシンヤの兄だと」「あのホストクラブのオーナーはわたくしとは良い関係を築きたいと言ってましたのに」「従業員の教育が甘いのでしょう。いかがされますかご主人様」「シンヤの兄について調べます。場合によってはLOKIを動かします。展開次第ではあのホストクラブは消滅しますわね」「盗撮男はここが誰のどのような店か知らない様子でしたがシンヤ兄は違うかもしれませんね。ひょっとしたら警察にパイプを持っている人物の可能性も」「そうですわね……ここは慎重に」 昊菜は来夢を使ってネットワークに繋がる。ホストクラブの人間のデータを集め始める。「閉店までにどう動くか決めますわ」*** カフェの閉店時間、そして本日は舞台の講演は無くアーカイブの映像を流している。歌劇団のメンバーたちはレッスン場で稽古に励んでいた。 メンバーの一人【ラクーン】が時計を見ている。元々カフェの従業員で歌と声を気にいった昊菜が歌劇団にスカウトをし【ラクーン】の名前を得た。 普段の大人しい性格からは想像できないほどパワフルで情熱的な歌声に魅了された昊菜はギャップからそう名付けた。「気付いたらもうこんな時間……ラクーン、気を使わないで上がって」 スワンが声をかけた。「あ、はいそれでは皆さまお先に失礼します」「お疲れさまでーす!」 メンバー全員の声がハモる。 ラクーンは自分のSliMEを持ち歩かずにロッカーに置いているメンバー。完全な一般人でSliMEにも依存していない。 隠しエレベーターからバックヤードに降りる。そこでなゆかと出くわした。「あ、お疲れ様です」「お疲れ様です……歌劇団の方ですよね?」「え? あ、はい……」「すみませんこの前の舞台見たのでつい声をかけてしまって……」「え、解るんですか?」 SliMEで髪型もメイクも変えているのどうして? とラクーンは思った。「ごめんなさい私もオーナーからSliMEをお借りしていましてそれで……」「ああ、そうでしたか。でも……歌劇団のスタッフでも無いのにSliMEを?」「ちょっと事情がありまして……すみません時間取らせちゃいましたね、それでは失礼します」 なゆかは頭を下げてバックヤードを進む。「私も帰る所です。バスに乗って」「私もですよ、第三区方面のに乗ります」「じゃあ一緒ですね……あの」「ああ、失礼しました。私は藺藤なゆかといいます」「えっとわたしは倉木ひかる……ってSliMEから教えてもらってますよね?」「すみません、そうなんです……では倉木さん途中まで一緒に帰りましょう」「ええ」『普段の黒髪ボブカットの倉木ひかるの時と違ってラクーンになってる時はピンク髪のケモミミヘヤースタイルになってるから普通は気付かないよね』「(完全にオンオフ分けてるんだね)」 なゆかはもし自分がMGM歌劇団ならラクーンのように普段の自分と分けてもいいかもしれないと考える。狐理子のフォックス忍法なりきりの術ではないがもう一つの自分を作る事によってサキュバスハーフの自分を受け入れて制御しやすくなるかもと思った。「(えぇーもしMGM歌劇団に入るのならオーナーになんて名前つけられるんだろう? チワワとかだったりして?)」『なゆかは自分のことチワワだと思ってるの?』「(どうかなー咄嗟に思い付いたのがチワワってだけワンだよ!)」『なにその独特な口調』「(良くない?)」『なんともいえない、それになゆかはチワワのイメージないよ』「(そうなんだ)」 なゆかと倉木はLavaGerdenを出てバス停に向かう。二人の後を離れて追跡しているのは狐理子。昊菜の指示である。 バス停で待っていると一人の男が声をかけてきた。「や、どーも。お二人さんLavaGerdenから出てきたのを見たんすけどあそこのキャストか何かっすかねぇ?」 色のついた顔前面を覆うサイバーシールドを身に着けている男。「あの……誰ですか?」 なゆかが言った。「お、俺っちに興味出た? じゃあこの名刺どうぞ」 男は名刺をなゆかに差し出す。そこには【OH探偵事務所:七曲キョウヤ】と書かれていた。『この名刺本物だよ。この男の情報はSliMEネットワークに登録されているよ』 ポポリンが骨伝導でなゆかにだけ聞こえるように言った。「探偵さんがなにか?」「いやぁ~LavaGerdenの話をちょっと聞きたくてねぇ~帰りが遅くなるのは気にしないでいいよタクシー呼んであげるからすぐそこの居酒屋でお話どうかな?」「明日も早いので失礼します」と、倉木は言った。「私もちょっと……」「探偵に貸し作っておいて損はないよ~? 何かあった時初回タダで仕事引き受けちゃうかもよ? あとは俺っちブランド物のデザインもやっててさぁそれの割引クーポンとかでもいいぜ?」「ちょっと待った!」 七曲キョウヤの背後から声がした。狐理子だった。「ええっと、貴女は?」「私もLavaGerdenの従業員だ! 話なら私が聞こう!」「ひゅ~かっこいいね! 殺気バリバリだし……そんな警戒しなくても大丈夫だって俺っち警察に協力した事もあるホワイトな探偵だぜ?」「伝説のドラゴンとグレイキャリバー事件に関わっていたというアレの事だろう? だがお前が半グレのG/Tと繋がっている事も把握しているぞ」「あれまぁ俺っちて有名人じゃーん! あんたの言う通り半グレとも繋がりあるけどあくまでビジネスって訳よ。裏の情報も得ないといけないからねぇ……フォックスさん?」「お前知って……気安くその名前を呼ぶなよ。特に外ではな」「は! じゃあ居酒屋にでも行きましょうよ、そっちのメガネのお嬢さんも是非」 なゆかに視線を向ける七曲キョウヤ。「やめといた方がいいんじゃないか? 守護神がいるぞその子は」 狐理子は大澤垓の事を頭に浮かべながら言った。「なにもしないって~話聞くだけで一々配慮してたらこの街で探偵なんて出来ないぜ」『キリコ、来夢から連絡。できるだけ七曲キョウヤと話をしろとの指示。弟のシンヤの事と闇バイトについても聞いておくようにと』とコンキチ。「(了解)」 目配せをしてなゆかに合図を送る狐理子。ポポリンにメッセージが届く。『狐理子のコンキチからメッセージ届いたよ。怪しい探偵からできるだけ話を聞き出すからなゆかはラクーンと家に帰ってだって』 頷くなゆか、倉木と一緒に到着したバスに乗り込む。続く
Sep 15, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド6話 「クソ!」 大澤垓は車のダッシュボードに拳を叩きつけた。「なゆかの様子がおかしい……やはりこの街に来るべきじゃなかったんだ。アイツは地元で家業を手伝ってれば良かったんだ。俺が出世して迎え入れるまでな……」 垓はダッシュボードからストレス軽減効果が売り文句の硬いグミのボトルを取り出し大量に頬張り噛みしめる。「アイツはこの街は似合わない。俺は幼いころからずっとアイツの傍にいて守り続けたんだ誰よりも理解している……昨日も大学からすぐにマンションに戻らなかった。何をしている? 心配をかけまいと俺には詳しい事は言わないからな。やはり部屋にカメラとマイクを仕掛けておくべきか……」*** 「あれ? なゆかその人は?」 大学の中庭で変装した狐理子と合流したなゆか。そこになゆかの所属するダンスクラブのメンバー鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生が現れた。「あ、えっとこの子はね……」「バンジョー・キリエって言うっす! よろしくっす!」 咄嗟に答える狐理子。偽名はSliMEのコンキチが考えた。フォックス忍法なりきりの術でエネルギッシュな大学生になりきっている。「あ、どうも」「よろしく」「よろしく~」「インカレサークルのメンバーなんすよ! 藺藤さんにはちょっと聞き込みをしてたんす!」「あ、そーなの?」「なんのサークル?」「ウチの大学サークル多いもんね」「ミステリー系のサークルなんすけどウチは娯楽系のじゃなくて調査系の方っすね」「あーミス研いくつかあるもんね!似たような名前で」鈴木が手を叩いて言った。「その内の一つっすね。藺藤さんに話を聞くついでにメンバーに誘ってたんすよ。でもダンスのサークルに入ってるしアルバイトもしてるとかで難しいと……」「そ、そうなんだ~でも面白そうだしちょっと手伝うくらいならいいかなって」 なゆかは狐理子の芝居に合わせる。「なになに? 何するの?」食い気味に佐藤が言った。「徳間教授に関する調査っスね……」「あのイケオジ教授!」高橋が声を上げた。 狐理子が挙げた徳間教授とはブラックヴァリーとの繋がりがあると疑っている人物である。「尾行とかするの?」「盗聴器仕掛けたり?」「変装とかする?」「まぁまぁまぁ……皆さん落ち着いて、あくまでサークル活動っすから。藺藤さんを借りるね? 進展あったら皆さんにも聞かせてあげるっすから何も知らないふりして日常を過ごしてね?」 狐理子は人差し指を唇に当ててシーッっとゼスチャーをする。「おっけー」「はーい」「楽しみにしてるね」 鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生の三人と別れるなゆかと狐理子。SliMEを活用し人気のない建物の影に移動する。「狐理子ちゃん、徳間教授がブラックヴァリーかもしれないって?」「うん、だから確認したいんだ。まずはなゆかに接触してもらってポポリンに解析してもらおうかと。自分が行くとその場で戦闘になりかねないし」「えぇ~……大丈夫かなぁ」「いくら奴らが無法者の忍者だからって他の学生の目のある所で無関係な人間を攻撃したりしないって。ポポリンには最大の警戒をしてもらえばいいし自分も物陰から様子見るから」「う~ん……わかった。それでどうすればいいの?」「説明するね」 狐理子があらかじめ用意した資料は徳間教授の授業に関する物。論文と自身の考えを照らし合わせて感じた疑問をぶつけて意見を聞きたいと切り出せとの事。「勤勉な学生を装って接近して徳間教授にスキャンをかける。データさえとれればブラックヴァリーかどうか解るからね」「……よし、やってみる」「あ、なゆかその時に試して欲しいことがあって――」 なゆかと狐理子は徳間教授のいる研究室に向かう。 ドアを三回ノックすると中からどうぞと低い声がした。「失礼します」 なゆかはファイルを持って研究室に入ると徳間教授は昔ながらの万年筆を使い執筆していた。「何かな?」「徳間教授のお言葉を頂きたくて。お時間取らせてしまい申し訳ありません」「ふむ……まぁ30分程度ならいいだろう。丁度休憩したいと思ってたんだ」 徳間教授は伸びをすると足元のカバンから水筒を取り出してマグカップにコーヒーを注いだ。「まずはこれを」 なゆかは狐理子の用意した資料を徳間教授に渡す。「どれどれ……」 狐理子の調査から徳間教授は今時珍しいアナログ派であると判明している。「よくまとめられている……ほうこんな所まで調べたか」 この資料には隠れた仕掛けがあり、忍びの者であれば反応する術を文字配列にしてあった。「君、これは自分一人で書いたのかね?」「いえ、手伝って貰った人はいます」「そうか……」 徳間教授は立ち上がるとなゆかの前に立ちじっと目を見つめる。「むぅ……」 なゆかは徳間教授から何か力の波動のようなものを一瞬感じた。『なゆか、徳間教授は何か仕掛けて来たよ。でも弾き返した』 ポポリンがなゆかに報告した。「……教授? どうしました?」 なゆかは眼鏡を付けていない状態。「む……ぐ……」『なゆか、質問してみて』「徳間教授は……忍者ですか?」「ぐ……この……」 徳間教授はジャケットの内ポケットからゴーグルを取り出して装着する。「妙な術を……いや、サイバネか? いずれにしろお前には聞きたいことができたな」 妙な事が起きていた。徳間はなゆかに質問された後何も無い空間に向かって話している。「え!? 何なになに?」 なゆかは状況が飲み込めない。『サキュバスの力が働いてると思われるね』「そうなの?」『若干抵抗してるけど正気じゃなくなってるよ』 徳間教授はジャケットの背中から短刀を取り出して構える。「俺は……俺は……忍の者……だが絶対に口は割らんぞ……」『なゆかもっと確信的な質問をあの男にしてみて』「えっとじゃあ……ブラックヴァリーの者ですか?」 なゆかの声を聞いて痙攣を始める徳間。「ブブブブブブブブブブブブラックぅううううううううヴァリイイイイイイイッ!!」 何も無い空間を斬りつける徳間。目は充血し鼻血を垂らしている。「そこまででござる!」 狐面とアーマーを装着した忍者モードの狐理子が研究室に飛びこんでくる。「離れてて!」 なゆかの前に出る狐理子、電磁警棒を持っている。「ぬぬぬぬがあああっ!」 両拳をこめかみに叩きつける徳間、ゴーグルは粉砕され頭部から出血。頭を振って狐理子を睨みつける。「妙な術を……当て身でなんとか解除できたか……」「大人しくしてもらうでござるよ……ブラックヴァリー!」「ブラックヴァリーの名前を知ってるとは……貴様ただの警備員ではなさそうだな。ここで消えてもらうか」 徳間は刀身を奇妙な動きで揺らめかせている。対する狐理子は全身に取り付けてあるブースターの点火を準備。「チェリアアアアアッ!」 蛇のようにしなやかにそして波打った軌道で刺突を放つ徳間、狐理子はスライドするように前面のブースターで後方に回避、急ブレーキからのV字ターンで徳間の側面から仕掛ける。「シイイッ!」 徳間は狐理子の電磁警棒を受け止める。たたらを踏み研究室の机がひっくり返り資料が飛び散る。「狐理子ちゃんのあの動き何……」 研究室の外に通じる扉から顔を覗かせて二人の戦闘見るなゆか。『狐理子のあの動きは全身に取り付けたブースターを自由自在に操る【フォックス忍法噴射体術(ブースターアーツ)】だよ』 ポポリンが答える。『足場の悪さに左右されない、立体起動で全方位からの攻防を可能にしているんだよ』「すごい!」 狐理子は徳間の横薙ぎの刀身を空中に飛んで回避、錐もみ回転をしながら後頭部に蹴りを叩き込んだ。「ガァッ」「む、妙な手ごたえでござるな」「ククク……フルカーボネイト合金の皮下装甲だ。アサルトライフルの掃射にも耐えるぞ」 狐理子に掴みかかる徳間、手を払い関節技に持っていく。徳間は側転で体勢を入れ替えて解除、狐理子はブースターで加速して更に体を入れ替え背面を取る。「甘い!」 踵からブレードを出現させて狐理子の脛を狙う徳間、狐理子はブースターで飛び上がって徳間の頭を掴みながら正面へ移動、膝蹴りの体勢。「(バカめ!打撃なぞ額の皮下装甲で受けきって腹抉ってやんゼ!)」 不意に前につんのめる徳間。「何だ!?」 背中を押される感覚、止まらない徳間に対し狐理子は膝蹴りを顎に命中させてそのまま掴んで後方に巴投げの要領で投げる。ブースターで空中加速し床と膝で挟み徳間の顎を砕いた。「グ……」 徳間の背中には狐理子のブースターが取り付けてあった。接触した際に取り付け機を見て作動、徳間の体勢を崩して投げ技に持ち込んだのであった。『あれはフォックス忍法噴射操躰だよ!』 狐理子のSliMEコンキチから得た情報フォックス忍法の情報をなゆかに伝え続けるポポリン。「さぁこれで止めでござる」 電磁警棒を首筋に当てる狐理子。しかし徳間は血だらけの顔面で笑みを浮かべる。「ニィ!」 ブリッジで狐理子を撥ね飛ばす徳間。目が血走っている。「……こんな所で奥の手を使う事になるとはな」 徳間の全身の筋肉が盛り上がる。「逃がさんでござるよ」「ククク……止められると思うのか? そしてお前たちは詰みだ、これより24時間365日ブラックヴァリーの恐怖に怯えるがいいいつでもどこでも狙うぞ?」「いいのでござるか? 秘伝書の事」 「秘伝書? ああ、上の連中が騒いでるアレか。俺には関係ないな」「……なるほど、お前は下忍か。ならばここで始末しても問題ないでござるな」「なに? お前まさか……」「小物に用はないでござるよ!」 狐理子は掌のブースターを向けて閃光を放つ。その隙に徳間の背後に回り電磁警棒の柄から飛び出した針を耳に刺しこんだ。「グゲ……」「(コンキチ! 頼むでござるよ!)」『ガッテン!』 針を伝って耳から頭に侵入するコンキチ。前頭葉にたどり着く。「良し……これで無力化完了……」 徳間は虚ろな目で棒立ち状態。「もう大丈夫でござるよ」 狐理子の声をきいて研究室に入るなゆか。「それどうなってるの?」「完全無気力状態かな……もうこの男は二度と忍者として活動できないよ」「え!」 さらりと衝撃的な事を言う狐理子に驚くなゆか。「そんなことして大丈夫なの?」「これが最適じゃないかなぁ……下手に命取ると後処理の問題もあるし」「えぇ~……」 ああ、狐理子は裏社会の人間で忍者なのだとなゆかは目の前で起きた出来事に打ちのめされる。「コンキチを回収……っと。この徳間は残念だけどはずれだったね。上忍を釣れないと意味ないから通信機を取り付けて解放かな」「逃げなくて大丈夫? 誰か来たら……」「そうだねー自分一人なら何とでもなるけどなゆかはそうも行かないよね、じゃあSliMEで姿を変えて堂々と逃げよ」「う、うん」 ランダムで生成した誰でもない人間に変装してなゆかと狐理子は研究室から立ち去る。残された徳間は虚ろな表情で研究室の片付けを始めていた。「あの徳間下忍で何の収穫も無いと思ったけど一つだけあったね」「そうなの?」「薬物だよ。この街でまだ出回ってないやつ。奴の血液をコンキチに採取させてSliMEネットワークを通じてデータベースの照合をしてもらったんだ」「あ、もしかして途中で覚醒して狐理子ちゃんを弾き飛ばした時に使った?」「そう、奥の手とか言ってたからブラックヴァリーの間でしか使ってないのかもね。回収したこれはクリムゾン様にお渡しする」『なゆか、心拍数上昇。眼鏡装着して』「う、うん」 慌てて眼鏡を装着するなゆか。変装したなゆかと狐理子は大学構内から外へ。建物の影で変装を解除する。「ここまでくればもう大丈夫かな」 狐理子は髪を結びながら言った。「まだドキドキしてる……ねぇ狐理子ちゃん、徳間教授本当に大丈夫なの?」「日常生活は送れるよ。ただもう忍者としては無理だね、そもそもあの男が本物の徳間教授じゃない可能性だってあるんだよ」「そうなの!?」「それよりもなゆか、サキュバスハーフの力凄かったよ! 一つ分かった事もあるし」「え、何々なに?」「徳間は恐らく催眠術のような者をなゆかに仕掛けてきたんだ、でも跳ね返した。最初急にあの男が怯んでたでしょ?」「そういえば!」「なゆかのサキュバスハーフの力は精神系の術に耐性があると考える。他者に命令されない自由に欲望のまま生きる夢魔(サキュバス)の性質なんだと思う。これって結構すごいことでね、裏社会の抗争では知らない間に催眠光や催眠音で催眠術にかかってしまう事ってあるんだ。でもなゆかにはそれが効かない、そしてサキュバスハーフの力をコントロールできれば……超一流のスパイになれる可能性が! SliMEも持ってるし」「えぇースパイ! なんかカッコいい!」「ちょっとクリムゾン様に報告するね。いや、なゆかにスパイさせたいんじゃなくてサキュバスハーフの力の事も言わなきゃいけないんだ」「そうなんだ」 なゆかは少し不安を感じたが自身の力が覚醒しつつある事に興奮しすぐに引っ込んだ。続く
Sep 7, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド5話 なゆかと別れた後白鳥エリーナは3階のレッスン場に向かう。体に纏わせたSliMEのジゼルに命じレオタードとトゥシューズに変形させる。他のMGM歌劇団メンバーの姿はない。フロアー管理の丹羽家の者だけである。 『スワン、あの子が気になるのですか?』 柔軟体操をする白鳥エリーナにSliMEのジゼルが語りかける。 「少しだけ。クリムゾン様には何かお考えがあるのでしょう。MGM歌劇団に入るのなら挨拶しようと思っただけです」 『あの子は藺藤なゆか。紅星女学院大学1年生。所持しているSliMEはポポリンです。ポポリンと情報共有しました』 「……あなた達SliMEの間では普通の事なのでしょうけど慣れませんわね。ナチュラル(完全生身)でバレエ一筋だったからあまりテクノロジーに詳しく無くて……」 『スワンは今でもあまりジゼルに頼らないですね。クリムゾン様から貴女のサポートを仰せつかっているのにあまり活躍できていないかも』 「そんな事ないです。クリムゾン様にもあなたにも言い尽くせない恩があります。私はただ自分で出来る事はやりたいですし限界までは頑張りたいのです」 柔軟を終えるとエリーナは壁一面の鏡に映る自分の見ながら動きの確認を始める。ジゼルには今の自分と前日の自分と最高のコンディションの自分を比べさせる。 『右足に疲れが少し残っています』 「そうですか……夕食のメニューは変える必要ありますか?」 『スープを疲労回復重視のものに変えてもいいかもしれません。今日の練習の疲れを残さない事も大事です』 「来週の舞台の初日をベストコンディションで迎えたいですものね」 MGM歌劇団の舞台は週に2回。間の日は団員個人のショーやゲストを呼んでの公演となっている。スワン事、白鳥エリーナは舞台に心血を注ぎ、間の日は全て練習に当てている。 白鳥エリーナはバレエダンサーだった頃よりも練習に明け暮れそして充実していると感じている。ストイックに自分を磨き続けるそんなスワンの姿を歌劇団のメンバーは尊敬と羨望のまなざしで見ている。 アドバイスを求められれば真摯に答え、舞台のミーティングではメンバー全員の事を考え演出家に歯に衣着せぬ物言いで意見を出した。 やさしいが決して甘くない。それが歌劇団メンバー全員のスワンの印象だった。 「ハァハァハァ……」 いつもより熱の入った練習に息が上がる白鳥エリーナ。 『らしくないですよスワン。何か気になる事でも?』 「……雑念を振り払おうと少しペースを上げ過ぎました」 『藺藤なゆかの事ですか?』 「そうです。あの子……やはりクリムゾン様に見染められただけはあります。数秒接触しただけでそう思いました。あの顔、声、雰囲気……只者じゃないです」 『気になってしまったのですね』 「あの子はカフェのスタッフで歌劇団ではないのに……」 『クリムゾン様に直接聞けばどうですか?』 「そんな……他愛もない事であの方の時間を取らせるわけにはいきません」 『ジゼルはスワンが充実して過ごせるようにサポートしたいのです。クリムゾン様と直接話をしなくてもあの方のSliMEの来夢にメッセージを送るのはどうですか?』 「……それならまぁ。来夢さんならきっと上手く対応してくれるはずですし」 『了解。来夢から返事が来たらスワンに知らせますね』 「ええ」 *** カフェの仕事のそつなくこなし休憩に入るなゆか。歌劇団の舞台ショーの会員限定アーカイブを見る事にする。 「えっと……あの人は……」 スワンの個人パフォーマンスの動画を選択する。 「バレエ……白鳥の湖だ」 チャイコフスキー【白鳥の湖】を鼻歌で口ずさむ。 「綺麗……でもそれだけじゃない強さを感じる。妖艶な表情仕草……重量を感じさせない舞い……」 バレエは祖母に連れられて毎年公演を見に行っていた。なゆかは過去の記憶をからこれまで見たバレエの最高位プリマの舞いとスワンを比べる。 「スワンはプリマと比べても遜色ない……間違いなく超一流。でもそれなら何故LavaGerdenに?」 『知ってるけど勝手になゆかに教えられないよ』とポポリンが言った。 「だよね、きっと何か事情があるんだと思うしそんな質問は嫌って程されてるんだろうね」 なゆかはスワンと次に会った時何を話そうか考える。 「憧れていた時期もあったなぁ……バレリーナ。ウチの近くにはレッスン教室も無かったし練習の大変さについていける自身も無かったよ」 なゆかの祖母は若い頃バレエを習っていた。才能ある子たちに打ちのめされ趣味程度で終わったと話していたが嬉しそうだった。バレエを嫌いにならなくて良かったと。 祖母の話やバレエに関するコミックやドラマに映画を見てきたなゆか、スワンの姿はそれらの主人公に見えた。 「ねぇポポリン、スワンのSliMEジゼルとはやりとりしてるんでしょ?」 『してるよ』 「じゃあさ……スワンが私に聞きたい事とか解るよね?」 『勿論』 「スワンがLavaGerdenに入った経緯を聞きたいんだけど大丈夫そうかな?」 『なゆかがクリムゾン様にSliMEを持たされた理由を話せば聞けるんじゃないかな』 「なるほどね、お互いの身の上を話し合うって事だ」 なゆかはスワンが知りたがっている事はSliMEポポリンをクリムゾンから持たされた理由であると。そこから自分のサキュバスハーフの話をして広げようと考える。 『なんでスワンの事をそんなに知りたいの?』 「だって……気になるじゃん。私にとってはこの街の事もLavaGerdenの事もクリムゾンさんの事もポポリンの事も刺激だらけでさ、知的好奇心がめちゃくちゃ高まってるんだよ」 『好奇心は猫を殺すと言うよ』 「にゃんにゃん! 猫じゃないにゃん!」 『なゆか、サキュバスハーフの力が高まっているよ』 「え、高まってる? うぅ~ん……そっかぁ。スワンが羨ましいのかもね」 『そうなの?』 「だって表現者じゃん? 私は力が暴走するからそういうの絶対駄目だし禁じられてるし。もしバレエを習ってたら……大勢の人の前で思いっきり踊れたら……って考えちゃうよ」 『なゆかはサキュバスハーフの力を解放したいんだ』 「思いっきりやってみたい願望はある。駄目駄目駄目で抑圧されてコントロールもままならないし。おばあちゃんのように力を上手く扱えるようになりたいよ」 『ポポはまだなゆかのサキュバスハーフの力を把握できてないから万全なサポートもできないごめんね』 「ううん、せっかくさぁポポリンもいる事だしどこかのタイミングで思いっきり解放してみたいよね。クリムゾンさんに相談が無理ならあの人のSliMEの来夢とかに相談できるかな?」 『一応来夢には相談してみるね……そもそもなゆかがMGM歌劇団に入れば良いと思う』 「えぇー? 私がMGM歌劇団に? 入れるかなぁ」 『クリムゾン様はなゆかを気にいってるし仮入団ならいけそう。SliMEも持っているし。でも舞台やショーの練習についていけないと正式入団は無理かもね』 「練習に付いて行けるかなぁ~……」 『やってみないと解らないね』 休憩時間が終わりカフェの業務に戻るなゆか。 カフェの業務をこなしながら手が空いた時間に歌劇団に入った自分を想像する。 「(歌劇団に入れたとしても見に来る人の需要が大事だよね。10人皆個性的だし綺麗だし可愛いし……埋もれないような何かがないとクリムゾンさんは喜んでくれないと思うし……えぇ~私が出来る事って……バスケと歌と創作ダンス……かなぁ。でもどれも歌劇団員より突出してるとは思えないなぁ。サキュバスハーフの力を持っていてもそれだけじゃ駄目だよね)」 トラブルも無くカフェの業務を終えるなゆか。丹羽省羅に退勤の挨拶をする。 「お疲れさまでした。本当は最後まで残りたいのですけど明日も大学がありまして」 「いいのですよ、学生なのですからそちらを優先してください。気を付けて帰って下さい」 更衣室から出てバックヤードを歩いていると坂東狐理子に出くわした。 「あ、狐理子ちゃん」 「やぁなゆか……」 浮かない顔の狐理子になゆかは首をかしげる。 「どうしたの?」 「えっと……送って行こうか? でも今日はマンションまでじゃなくて近くのコンビニまでで良い? 自分の買いたいものあるから」 「え、いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」 昨日とは違う車を店の前に回してくる狐理子、SliMEのコンキチを使い少し顔を変えて変装している。 「さ、行こ」 「うん」 なゆかは狐理子が何か話したいことがあるように感じたのでその場では敢えて突っ込まなかった。 車は高速環状線に入る。なゆかのマンションに向かうのには必要ないルートだった。 「ごめん今日はこっち通らせて」 「うん」 車の流れに合流し半自動運転に切り替える狐理子、ここで大きくため息をついた。 「はぁ~……」 「どうしたの狐理子ちゃん?」 「えっと……何から話したらいいかな……そうだ、これから自分はなゆかと多くの時間を過ごす事になる」 「え? どういう事?」 「クリムゾン様の命令もあるんだけど、SliMEの事とか……ある男の事とか……自分の事情とか……色々あってね、本当に勝手だけど……」 「えぇ~何なになに? ちゃんと説明して? あわてないでいいからじっくり聞くから」 「自分はこの前のゴーグル男のようなのに狙われているんだ。その理由は暮葉一族の秘伝書の解読の為でね……」 狐理子は突然身の上話を始めた。忍者の里の暮葉一族の秘伝書は院瀬見が従えているブラックヴァリーと呼ばれる忍者集団に奪われ里の人間は狐理子を除いて全員殺された事。そして秘伝書は暮葉一族のみが解読できると知られブラックヴァリーに狙われていると。 「そんな! めちゃくちゃ大変じゃん!」 「そう、でもねクリムゾン様に貰ったSliMEと組織のバックアップのおかげで何とかやっていけてる。秘伝書を奴らから取り戻したい。命の恩人であり居場所をくれて自分を必要としてくれている恩返しがしたい。歌劇団のメンバーにもなれるなんて思わなかったし」 「うん」 「それでえっと……ううんと……なゆかの力が必要なんだ!」 「え?」 「ゴメン説明不足だよね……自分はクリムゾン様の秘密組織(LOKI)のメンバーなの。忍者としての任務をこなしながらなゆかを秘密組織のメンバーに育てられないかと言われてね。だからその……サキュバスハーフの力を鍛える? 為に忍者任務の手伝いをしてもらいたくて……なゆかがサキュバスハーフの力を使いこなせるようになれば秘伝書の奪還も簡単になるしクリムゾン様の大きな計画も進む事になるって」 「ちょっと待って……頭整理させて……ポポリンサポートお願い」 『了解だよ!』 「……ふむふむ、ほうほう……」 ポポリンが情報をまとめ、なゆかだけに見えるようにまぶたの裏側に映す。片目を瞑りながら確認するなゆか。 「クリムゾン様は私のサキュバスハーフの力に期待して育てたいって事だね。いいよやる! サキュバスハーフの力自在に使いこなしたいと思ってたんだ」 なゆかはここで狐理子からの申し出を断るという選択肢もあった。その場合クリムゾン秋馬昊菜から離れSliMEポポリンとは二度と接触出来ずにLavaGerdenに関しての一切の記憶を失いサキュバスハーフの力を覚醒させる手段も失くすことになる。代わりに得るものはこれまでと同じ平穏……とポポリンから説明された。 「(私は……)」 なゆかは平穏よりももっと自分らしく生きてみたいと考える。 「いいの!? 本当に!?」 「うん、大丈夫。狐理子ちゃんから言われて良かったなって思う。他の人ならもうちょっと考えたかな~?」 「え、なゆか……それってどういう事?」 「えへへ、宜しくね狐ニンジャの狐理子ちゃん! ニンニン!」 「ニンニンは言わないよ!」 車は高速環状線を半周して下道に降りる。 「早速任務が明日あるんだけどなゆかはいつも通り大学に通ってね。なゆかの大学内での任務だから」 「そーなの!?」 「フォックス忍法なりきりの術で大学生に化けて潜入する。なゆかにはSliMEを通じて連絡するから」 「う、うん……なにすればいいの?」 「明日は大した事しなくていいよ、自分と知り合いだって証明してくれれば大丈夫。既にいて問題の無い学生の知り合いという事なら自分も動きやすくなるし」 「ふぅ~ん……OK。任務の詳細は教えてくれないの?」 「ある学生と教授の調査だよ。まぁ探偵みたいなもの」 「えー面白そう!」 「クリムゾン様にちゃんと報告しなきゃいけないからなゆかは自分の指示に従ってね?」 「わかった!」 この時SliME通信でコンキチはポポリンに任務の詳細を伝えていたがポポリンはなゆかの性格を考え今は黙っておいた。2日目にしてポポリンはなゆかの好奇心の強さと若干の無鉄砲さを把握し彼女を守るためにそう判断した。 マンション近くのコンビニで車を降りるなゆか。狐理子は駐車場に車を止め店内へ。 「じゃあまた明日」「うん、また明日ね」 なゆかがマンションに入って行くのをコンビニ店内から確認する狐理子。コンキチに大澤垓が近くに居ないか確認する。 『大丈夫ダヨ! あの警官はいない!』 「今日はもう大丈夫かな……なゆかが覚醒してくれればサキュバスハーフの力で警官を操ってくれるかなぁ」 『狐理子のフォックス忍法で何とかできないの?』 「いや~……自分のフォックス忍法の真髄は暗殺だからね。人心掌握はどっちかって言うとくノ一の房中術に通じる方だから……」 『じゃあ覚醒させてなゆかに房中術してもらうの?』 「はぁ? ちちちちがうよ! ほらサキュバスって言葉とか目線とかで惑わすんでしょ? やらしい事する前に誑かしていいように操るんじゃないの?」 『わかんないヨ。SliMEのデータにサキュバスは存在しないもの』 「例えでくノ一って言っただけでなゆかにくノ一になって欲しいって意味じゃないの!」 『そうなんだ。じゃあフォックス忍法で警官を何とかする?』 「だからフォックス忍法は……ああ、コンキチはあの警官を排除すればって言いたいのか」 『そうだよ。殺さなくても半死半生にすればSliMEで操れるんじゃない?』 「勝手にそんな風にSliMEを使えないよ。クリムゾン様の許可が無きゃ無理」 『狐理子はあの警官に危害を加える事に躊躇は無いよね』 「まぁね……でも警官を攻撃すると厄介な事になるしクリムゾン様も警察と揉めるのは避けたいでしょうし」 『狐理子が心配するような事は既に起きてるし今更ダヨ。クリムゾン様は何人かの警察官をSliMEで支配しているよ』 「あ、そうなんだ……じゃあクリムゾン様の許可があればあの警官を排除できるんだ」 『無意味な排除は許可が降りないと思うよ。だから本当に必要な時に即実行できるように提案しておくのはどうかな狐理子』 「ありだね! じゃあコンキチ提案しておいて! 自分はクリムゾン様に直接言う度胸は無いので……」 『了解、来夢からクリムゾン様に伝えてもらうね』 続く
Aug 31, 2025
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ラビット・アンダーグアウンド4話 なゆかと狐理子は朝まで話しこんだ。眠い目をこすりながらオートロックの玄関まで狐理子を送る。 狐理子は駐車場に向かい車に乗り込む。視線を感じバックミラーを見ると後方にガタイのいい顔の濃いビジネススーツの男が停車中の窓を全開にして腕を出してこちらを見ていた。 「あれ何者……コンキチ解る?」 自分のSliMEに話しかける狐理子。 『ID確認……大澤垓(おおさわがい)26歳。秋馬原島署勤務。警部補……ダヨ!』 「警察かぁ……張り込みかな……反応しすぎて職質されても面倒だしスムーズに退散しよう」 『それがイイヨ!』 *** 狐理子の車が駐車場から出て行くの確認する大澤垓。携帯を取り出しなゆかにかける。 「……速く出ろよなゆかぁっ!」 5コール目がなった時になゆかが出なかった事に激昂する垓。 2度、3度、4度、5度、かけ直す垓。イライラしながらコーヒーの空き缶を握りつぶす。 『どうしたの垓?』 「やっと出たか! 何してたんだ!!」 『え、シャワー浴びてたんだけど? そんなに大きな声出して何事?』 「なんだあの女はぁっ! 大学の女じゃねえよな? 誰だ、何でお前の部屋に上がりこんで朝までいるんだ!?」 『え……なんで知ってるの? もしかして張り込んでたの?』 「たまたま昨日近くに寄ったらお前が変な女の車に乗ってるのを見かけたんだ! オレは警察官だ怪しい奴を見かけたら警戒するのは当然だろう? それで、何者だあの女は! 質問に答えろなゆかぁッ!」 『一々大きな声出さないで……あの子は困ってた所を助けてくれたんだよ。それで偶然再開してお話してたら遅くなって送ってもらったの』 「はぁ? その辺の訳分かんねえ女だってのかアイツは……」 『いい子だよ?』 「ちっ……なゆか、もうあの女と関わるなよ? お前は女子大の友人とだけ会ってればいいんだ」 『ええ~?』 「なゆか、盗聴器とか仕掛けられてないか調べろよ? 何なら今から俺がくまなく探してやろうか?」 『いいよ大丈夫自分でできるから。大学の授業まで時間あるしちょっとでも寝たいからもう切るね』 「おい!」 あくびの声がした後すぐになゆかの携帯が切れた。垓は舌打ちをしながら携帯を操作して追跡機の行方を確認する。狐理子の車が駐車場に入った後すぐに仕掛けていた。 「あの女は今……第二区を走ってるな……」 垓は車を発進させる。 狐理子の車は第二区を通り抜け第一区から第四区に。オータムホースシティスタジアムの駐車場で停車した。 「スタジアムの駐車場だと? あの女何処に住んでやがる……」 垓は狐理子の車に追いついた。すぐ隣に駐車して車を調べ始める。ナンバーから持ち主を割り出してはいたが大した情報は得られなかった。大企業院瀬見の所有するものであった。 「院瀬見のコーポなのか? だとしたらこんな場所に態々車を置いたのは何故だ? ……今日の所はここまでか……この車の動きは見張る必要があるな」 *** 狐理子はスタジアムの公園のトイレでSliMEコンキチを使い服装と顔を変える。昊菜が用意した車にはガタイのいい男、大澤垓が張り付いていた。 「うわぁ……あの警官追ってきたよ……クリムゾン様には悪いけどあの車は置いていった方がよさそう」 『キリコ、クリムゾン様に連絡スル?』 「……そうだねコンキチ。報告しておこうか……なゆかの話に出てきた幼馴染みの年上男ってアイツの事だろうね?」 『なゆかの話の中に出てきたガイと言う人物とあの警察官・大澤垓は同一人物と考えて良いね。この街でオオサワガイと言う名前でなゆかの話に該当する人物はあの者だけダヨ』 「そっか……要注意人物認定っと……自分はジョギングする人になりきって帰ろっと」 『ジャージ姿に変身するヨ』 *** なゆかは携帯のタイマーをかけひと眠りする事に。 夢の中で歌劇団の舞台に立ち自分を全力で出し切っていた。 拍手喝采。歌劇団のメンバーと抱き合い喜ぶ。講演後クリムゾンに褒められる。 心地よい夢の時間はあっという間に過ぎ、現実に引き戻すタイマー音で無理やり目を覚まさせられた。 「……えぇ~? もう時間なの? いいところだったのにぃ」 ベッドから手を伸ばして携帯のタイマーを解除する。時間を確認しながら起き上がる。 大学の友人、鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生からグループメッセージが入ってた。 【なゆか、LavaGardenの話聞かせてね】 「みんな興味深々だぁ……でも守秘義務あるから詳しいこと言えないもんね?」 『情報漏洩だめ』ポポリンが言った。 「当たり障りのない事だけいうよ」 なゆかは出かける支度をしながら携帯端末でオータムホースシティのニュースを見る。 「この街ってさ結構パトカーのサイレン頻繁に鳴ってるけど事件のニュースってあんま無いよね?」 『ないかも』 「狐理子ちゃんを追いかけてたゴーグル男とか普通じゃないっぽいの一杯いるのかな?」 『いるかもね。なゆかは偶々出くわしただけで普通は関りが無いはずだよ』 「じゃあさじゃあさ、昨日みたいに巻き込まれた時はポポリンがどうにかしてくれるの?」 『どうにかじゃ分からないよなゆか。どうして欲しいの?』 「警察に通報とか?」 『通報しても駆けつけるまで最速で2分かかるよ。2分間は身を守る必要があるよ』 「ビューンてすごい勢いで逃げるとか。壁とかもピョンピョーンって蹴って飛び跳ねて」 『それなら常に私を纏わせておくといいよ筋力サポートするから』 「う~ん……ポポリンさぁ、一人称かえよ? ポポって自分の事言って」 『了解、一人称をポポに変えるよ』 「よしよし、カワイイなおまえ。声も私好みのにしてくれてるし」 なゆかは目の前のスイカ大の銀色のポポリンを撫でる。 「ポポリンお手!」 『はい』 流体ボディから子犬の前足めいた物を伸ばしてなゆかの掌に置くポポリン。 「私から離れてる時は犬の姿がいいかも……ミニチュアピンシャーの姿になれ!」 『了解』 手足は細く筋肉質で黒と茶の短毛、眉毛の部分が茶色で耳の垂れた子犬の姿に変身するポポリン。 「いいね、いいね! 大家さんに見つかったらロボット犬だと言ってごまかそう。その時はポポリンもロボット犬のふりしてね?」 『了解』 「で、なんだっけ……あ、そうそうポポリンを纏わせればサポートしてくれるんだよね? じゃあさ、ちょっと大学行く時にさ練習して見ようよ。あのジーンズに変身して」 なゆかはロングTシャツの下にレギンスを履きその上からジーンズのポポリンを纏う。 『なゆか、上半身もサポートした方がいいのだけど』 「じゃああのパーカーになってよ」 『了解』 ジーンズから体を伸ばして兎のグラフィティが施されたパーカーに変身するポポリン。 「全身にフィットするとなんか安心感ある……」 『なゆか、外に出たら自由に動いてみて』 「おっけー」 マンションから出たなゆかは早速走り出す。ポポリンが筋力サポートを開始する。 「あ、軽い軽い! 何処までも走れそう!」 『色んな動作してみて』 「よーし」 なゆかは自分の背丈ほどあるフェンスに飛び乗り走りだす。そして側転を決めて着地。目の前にあるバスケットコートに向かって駆けだす。 「すごーい!」 放置された少しほつれたバスケットボールを拾ってドリブル。なゆかは昔やっていたバスケットボール部を思い出して微笑む。 「はっ!」 ボールをゴールのボードに投げつける。跳ね返ってきたボールを空中でキャッチしてそのままダンクシュートを決めた。 「気持ちいい!」 なゆかは側転、バック転、後方宙返り捻りを決めたあと逆立ちする。 「ポポリンすごい! 私に合わせてサポートしてくれてる! 身を任せる感じでもないしレスポンスに違和感もない!」 『ポポ達SliMEには戦闘スーツのデータをラーニングしてあるからね。後はなゆかの骨格と運動能力に適応させれば最適化完了だよ』 「えーすごい……ねぇねぇそれってさ、私の出来そうな動き全部サポートしてくれるんだよね? じゃあさ、新しく覚える動きはどうなるの?」 『具体的には?』 「ポポリン達SliMEはネットワークで繋がっているんでしょ? だから歌劇団のダンスの振り付けもみんなすぐに覚えられる。それなら武術もいけるよね?」 『いけるよ。武術は空手、柔道、丹羽家式体術がラーニングされてるよ』 「狐理子ちゃんのフォックス忍法は?」 『データはとってあるけどあれは坂東狐理子のブースターユニットと忍術を合わせたものだからいきなり他の人が使うのは無理だよ』 「ふむふむ……いざって時テンパって動けなくなった時はポポリンが空手で私を動かしてくれる事は可能?」 『ある程度は可能だよ。最適化された動きになるから応用は利かないかも』 「なるほど……」 『警告、なゆかの体から未知の物質が放出中。サキュバスに由来するものと考えられる。深呼吸して落ち着いてメガネのズレを直して』 「えぇ? 出てる? 危ない危ない……メガネを直しておしとやかに……」 『サキュバス物質放出の停止を確認。なゆか、日常の動作をポポがサポートする事も可能だけどどうする?』 「う~~~~ん……これは私が自分で意識しなきゃ駄目だからポポリンはヤバかったら教えてくれるだけでいいよ。ポポリンにおんぶにだっこしてたらいつまでもこの力制御できないからね」 *** なゆかは大学で日常を過ごす友人たちに簡単にLavaGerdenの事を説明した。 「え~行ってみたい! でも2階のショーは会員制なんでしょ? なゆかの力でなんとかならない?」「カフェのメニューどれもいいよね~今度皆で行ってみようか?」「うわ高っか……でも何もかも超一流なんでしょ? 一度は体験したいよね」 「あはは……あ、もうこんな時間、バイトに行くね」 なゆかは夕方のシフトを入れている為途中で会話を斬り上げLavaGerdenに向かう。 「あ……また垓からメッセージ」 【今日は時間あるか? お前の部屋で話がしたい】 「えぇ~……シフトあるし無理なんだけど。そもそも幼馴染みでも部屋には上げたくないなぁ」 なゆかは垓の返信をどう送ったものか思案する。 「ねーポポリン、どうしたらいいかな?」 『なゆかにとって一番避けたいのは垓と話をする事? それとも部屋に上げる事?』 「えっと……部屋に上げるのは避けたいかな。話をするくらいならまぁいいかな~」 『じゃあ用事があるから何時に何処で少しなら時間あるよって返信すればどうかな?』 「そうするか~狐理子ちゃんの事とか根掘り葉掘り聞いてきそう……ポポリン助けてね?」 『いいよ、第三者に聞こえないようにするね。なゆかはまだ慣れてないから体の部分を指で触って文字とかでポポに伝えて』 「うん、そうする。話してる途中で携帯触ってたら感じ悪いものね」 なゆかはLavaGerdenのバイトが終った1時間後にマンションの隣のカフェで話をしようと垓に返信した。部屋は片付けてないから無理と理由を付け加えた。すぐに既読が着き返信してきた。 【散らかってようが気にしないんだが?なんなら俺が片付けを手伝ってやろうか?まぁいいそれはまた今度な。しっかりと話を聞かせてもらうぞ。先にカフェで待ってる】 「う……なんか圧を感じる。その内部屋に上がるのを断れなくなるかも」 『対策を考えよう』 「そうだね……」 なゆかは大学から直接バスでLavaGerdenに向かう。入口の分厚いドアを開けると黒い上下のスーツ女性が立っていた。 「貴女が藺藤なゆかさんね」 スラリと細くてしなやかなシルエット。つややかなな黒髪に薄い眉、三白眼の黒い瞳。顎は小さく首は長め。なゆかに比べそれほど背は高くないが存在感に圧倒された。 「あの……貴女は?」 「失礼、私は白鳥エリーナ(しらとりえりーな)。MGM歌劇団に所属しています」 「あ! バレエを踊っていた人ですね」 白鳥エリーナの爪先は開いており立ち姿は頭から糸で引っ張ったように真っすぐ。なゆかは、ああなるほどと軽く手を打った。 「オーナーからSliMEを渡されましたね? では貴女もMGM歌劇団に入団されるのかしら?」 「えっと……」 白鳥エリーナがなゆかに接触してきた理由が解った。SliMEをもらった事情を正直に言うべきか迷う。 「まだ解りません……SliMEはちょっと事情があって持たせてもらっています」 「そうですか。オーナーと貴女の間で何かあるのですね、解りました」 白鳥エリーナはそう言うと踵を返して歩き出す。 「あの、またMGM歌劇団の舞台見たいです、絶対見に行きます!」 「ええ」 少しだけ振り返り白鳥エリーナはそのまま店の奥へと去っていった。 「なんかすごい人だ……緊張した。オーラって言うのかな? クリムゾンさんとは違った存在感があったねポポリン」 ポポリンに話しかける。 『白鳥エリーナはMGM歌劇団の団員第1号だよ。相棒のSliMEの名前はジゼル』 「えぇーそうなんだ! MGM歌劇団の最初の! バレエ出身の人なんかな?」 『これ以上は本人かクリムゾン様に聞いてね』 「む、しっかりしてるなぁ……」 続く
Aug 24, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド3話 なゆかはこれまでサキュバスハーフの能力に振り回されていたことを昊菜に話した。 「(なんでだろうこの人にはスラスラ話せちゃう……)」 実際昊菜は相槌を打つが上手く、真摯に聞く姿勢で自身の思ったことやその時のなゆかの感情などを質問し余計なところには踏み込まない。 「どうしたの?」 「いえ、クリムゾンさんがとても楽しそうに私の話を聞かれてるので感心してしまって」 「気になった相手の事を知りたいと思うのは自然でしょう?」 なゆかはすっかり夢中になって話を続けた。30分経ったところで後ろに立っていた省羅が合図をする。 「まぁ、もう30分経ちましたのね。では省羅、なゆかにカフェの研修お願いするわ」 「かしこまりました」 軽く一礼をする省羅。 「研修が終わったらまた会いましょう、なゆか。今日は少し遅くまで残ってもらうけど大丈夫かしら? 帰りは心配しなくていいわ送らせますので」 「え、あ……大丈夫です!」 ぺこりと45度のおじぎをして省羅に付いて行くなゆか。 *** 「ご主人様、また悪い癖を出されていますか」 少し不機嫌なハートが言った。 「あらやきもちですの?」 いじわるな表情でハートを見つめ手を引いて横に座らせる。髪をなで頬に指を這わせる。 「違います、ただもう少し慎重に……」 「大丈夫ですわハート、あの子はただの田舎娘。夢魔(サキュバス)の力を持っているだけ。どこの組織の繋がりも無いのは来夢に調べさせましたわ」 「そうではありません。ご主人様はお忙しい方、田舎娘にかまけている場合ではないかと」 「貴女がそこまで言うなんて珍しいですわね。わたくしはそんなにあの子に夢中になってました?」 「フォックスの時はそんな様子はありませんでした。やはり夢魔の力がご主人様に何か悪い影響を与えてるのではないかと」 「……なるほど。あの子と直接会うのは避けた方が良いとハートは考えてるのね?」 「はい、出来ればそうして頂きたいです」 「貴女の直感は信じれますからね。では過度な接触を避けSliMEを与え、フォックスのようにLOKIの仮メンバーにします。こうすれば来夢の監視下に置けますものね」 「仮メンバー……田舎娘を裏社会に引きずり込む事になりますね」 「いいじゃない、ちゃあんとわたくしは自分のものは大切に扱いますわよ」 ハートの頭をなでる昊菜。 *** 「覚えるのが早いですね」 丹羽省羅はカフェのホール研修の説明を終えなゆかにそう言った。 「地元でもカフェのアルバイトしてたので覚えやすかったです」 「所作も特に注意すべき点はありません。貴女は自然に見に付けていますのね」 「その……祖母が厳しかったので」 サキュバスハーフの説明はマズいと考えてとっさに祖母の躾という事にした。 「素敵な御祖母様ですね」 「ええ、とっても」 「今日の研修はこれで終わります。制服は用意しておきます、ロッカーはこちらです」 バックヤードに入る。なゆかは違和感を覚える。 「あれ? 丹羽さんエレベーターがあの奥にあったような?」 「セキュリティの為普段は隠れています」 「そうなんですね」 ロッカーに案内される。タイムカードとロッカーのキーは共通なので通勤時に忘れないようにと念を押された。 「オーナーに呼ばれているのでしたね。では上に行きましょう」 エレベーターは出現していた。それに乗り省羅となゆかは二階のバックヤードへ。あわただしく動き回る衣装を着た女性や作業服の人々。 「こちらです」 カードキーで部屋に入ると2階全体を見渡せる前面ガラス張りの観覧席だった。革張りのソファに座っているのは昊菜、その横にはハート。 「なゆか、ここに」 「はい」 昊菜の横に座るなゆか。 「あの……」 「始まりますわよ、見なさい」 黒と赤を基調とした2階フロアは壁際にカジノゲームの台が並び中央は正面の舞台に向かって並べられたボックス席が配置されている。ブザー音の後、豪華な幕が上がっていく。 現れたのは10人の中世ヨーロッパ風の衣装を着た演者たち。立体ホログラムで舞台は投影されまるで本物の城内に見える。 「え、凄い……」 演者が台詞を言うとまるで傍にいるかのな音響、舞台下部の宙に文字が表示される。 1時間の劇の間なゆかは演者と舞台の演出圧倒されため息交じりの感想しか出なかった。 「第二幕はショーですわよ」 「え、クリムゾン様これって歌劇団……」 「ええ、わたくしの理想とする歌劇団。でも只の歌劇団ではありませんのよ」 数十分の休憩時間の後第二幕が始まった。 なゆかの想像していた歌劇団のショーとは違うものが目の前にあった。 「えええっ!?」 ホログラムは荒廃した都市を映し出す、舞台の中央にはボロボロの衣装を着た演者たち手にはライフルなどの銃を持っている。演者の一人がラップを熱唱しながらホログラムゾンビを撃っていく。 次はメタルミュージックに切り替わりボロボロの衣装は瞬時にゴシックドレスに変わる。背景は燃え盛る都市。センターの演者が入れ替わり力強い歌声を響き渡らせる。次は海中の背景に代わり全員が水着風の衣装、ウィスパーボイスの演者が中央で歌い上げる。 10人の演者全員がそれぞれ自分のカラーを前面に出したショー。最後の演者はアニメソングを歌いながら手品を披露していた。 「え、え、アイドルのライブ……でもない。なんですこれ……」 「10人全員が主役ですのよ。皆かわいいわたくしの演者」 「最後の手品の人ってきつねさん……かな?」 「あら、気が付いたの? 顔も声も貴女と会った時は違ったはずだけど」 「え、やっぱりそうなんですね! 仕草とかで何となくそう思ったんです!」 「彼女はフォックス。本名は本人に聞けばいいですわ」 昊菜は体に纏わせている来夢を使いフォックスに連絡、VIP席に来るように言った。 それから程なくして―― 「失礼します! フォックス入ります!」 3回ノックの後力強い声が聞こえた。どうぞと昊菜が声をかけると背筋を伸ばしたフォックスが入ってきた。 「あ!」 「また会えたね!」 「フォックス、自己紹介をしなさい。」 「フォックスです! LavaGardenのMGM歌劇団に所属しています!」 「フォックスさん! あれ、忍者ではないの?」 なゆかはじっとフォックスを見つめて言う。 「あれは……任務中の姿でして。藺藤なゆかさんはどうしてここに?」 「カフェのホールのアルバイト受かったの。その後オーナーさんが舞台を見せてくださって……フォックスさん、手品ショーすごくよかった!お芝居の幕も騎士役かっこよかった!」 「て、照れますね……」 「ねえフォックスさん、お名前は? 私だけ名前教えてるじゃん?」 「え、えっと……」フォックスは昊菜の顔を見る。昊菜は小さく頷いた。 「坂東狐理子(ばんどうきりこ)といいます!」 「坂東さん!」 「えっと……どちらかというと苗字ではなく名前でお願いします」 「狐理子さん! じゃあ私も同じく下の名前でいいよ」 なゆかは狐理子の前に立って見つめる。観覧席に段差があるためなゆかが見上げる形になっている。 「えと……な、なゆか」 「うん! 同じ店の仲間としてよろしくね!」 その様子を見ている昊菜。 「二人の相性は良さそうですね。なゆか、例の力駄々洩れですわよ」 昊菜は少し笑いながら言った。 「え! いけない……」 「制御するのに難儀しているのでしょう? ならばこれを貴女に授けます」 昊菜は机の上にスイカ大の銀色液体金属を置いた。 「これってオーナーさんのスライムですか?」 「わたくしの来夢の分身と言った所ですね。元々医療介護用に開発されたSliME(Super Life Medical Equipment)これは流体多結晶合金マシンですので、貴女の役に立ちますわよ。さぁ触ってユーザー登録をなさい」 ゆっくりとSliMEに近づくなゆか。ハートは昊菜の横でなゆかを見つめているが先程のような鋭い目つきはしていなかった。 「えい!」 触った瞬間なゆかの全身に纏わりつき透明化した。 「わっ! 凄い!」 「名前を付けてあげなさい。SliMEは貴女に合わせて成長しますのよ」 「え~……それじゃあ……う~んと……ポポリンで!SliMEおまえの名前はポポリンだ!」 「登録完了。個体名ポポリン、貴女の健康と安全を守ります」 なゆかはさっそく掌の上に小さな犬を出現させて遊びだす。 「へぇ~使い方は特に教えていませんのに」 昊菜が言った。 「オーナーさんの来夢さんが変形したのを見て私も出来るんじゃないかなって」 「そうですか、貴女のポポリン成長が楽しみですわね。ちなみに歌劇団全員にSliMEをもたせてますの。フォックスも勿論」 昊菜が狐理子に視線を向ける。この時来夢を通じて狐理子のSliMEにメッセージを送っていた。 『フォックス、貴女はしばらくなゆかの様子を見なさい』 『了解です!』 狐理子は自分のSliMEを衣装から一部飛び出させて小さな狐にして見せる。 「私のSliMEは【コンキチ】と名付けています。AIの癖にちょっとのんびり屋なんです」 「コンキチ!」 「なゆか、SliMEを使った通信は携帯の使えない場所でも可能ですけどわたくしは全て閲覧できますので留意しておいてくださいね。それとわたくしの渡したSliMEは全てわたくしに親権限がありますので変な事には使えませんわよ」 「はい(え、じゃあこれってSliMEもってる人みんなクリムゾン様に手綱握られてるって事? ちょっと怖いかな……でもSliMEなんてもの使うチャンス普通だったら絶対ないよね)」 「みだりに第三者に見せびらかす行為も出来ません。機密事項に反する行為は出来ないようにSliMEの設定していますので。MGM歌劇団の中にはロッカーに自分のSliMEを待機させてる子もいます。でもなゆか、貴女の場合力の制御の為にも肌身離さず持っておいた方が良いかと」 「あ~そうですね……(大丈夫かな? まぁなんとかなるかな)」 「なゆか、歌劇団に興味が湧いたのならいつでも言ってくださいな。貴女が輝ける舞台用意できますわよ」 「え!」 「ふふ……思いっきりその力を解放して自分を表現する所を想像してみなさい」 「!!」 「本日はここまでですわね。フォックス、なゆかをマンションまで送りなさい」 「了解です!」 なゆかはカフェの研修、歌劇団の舞台鑑賞、SliMEと怒涛の体験に目が回りそうだった。フォックスこと狐理子の用意した車に乗り込む。 「あ~……色々な事がありすぎて頭整理するの大変だよぉ」 「そうだろうね……そういう時はSliMEに情報整理させて置くといいよ。携帯より感覚的に操作できるし」 「へぇ~そういう使い方もできるんだ」 「ダンスレッスンのサポートとか舞台のセリフとかショーの歌の歌詞とか色々出来る」 「えーマジ!? めっちゃ便利じゃん!」 「……なゆかって清楚系お嬢様だって印象なんだけど結構大胆ではっちゃけてるよね?サイバーゴーグル男の事あったのに平気で面接受けてるし、オーナーさん相手にあんなに堂々としてるのも逆に怖かったし」 「めちゃくちゃビックリしてたよーでも絶対受からなきゃってそっちに集中してたらなんか乗り切れた。それとクリムゾンさんってそんなに怖いかなぁ? 只者じゃないのはわかるけど近寄りがたい雰囲気じゃないし話しやすいし美人でカワイイし」 「か、可愛い!? そ、そんな畏れ多い……」 「え~?」 「やっぱりオーナーさんが選んだ子は只者じゃないってことだね……」 「狐理子さんもでしょ~忍者なんだし! ニンニン!」 アニメで見た忍者の印を結ぶなゆか。 「ニンニンとか言わないよ!」 「あれ、そういえばござる口調じゃないね? なんで?」 「あれは任務中なので別人になりきってんの。【フォックス忍法なりきりの術】でね」 「フォックス忍法!?」 「あ、また説明しなきゃ……」 「いいじゃん! ねぇ狐理子さんもっとお話しよ? 時間は大丈夫かな?」 「今日はもうこれであがりだから空いてるけど……なゆかは明日大学あるんでしょ?」 「明日出る授業は10時からだし平気平気」 「じゃあ……いいよ」 「やったぁ! ねえ、わたしの家でいいよね? お金ないからコンビニでお菓子買えないけど……水なら飲み放題だよ」 「も~しょうがないなぁ私が奢ってあげるよ、コンビニ寄って行こ」 「いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」 「……なゆかはズルいよね」 「え?」 「その声とその容姿でそんないい方されたら……もう」 「え~?(力漏れてるのかな? ポポリンどうかな?)」 『いじょうなし! いじょうなし!』 「狐理子さんの事とか歌劇団の事とかいっぱい教えてよ」 「ま、まぁ話せる範囲でね」 続く。
Aug 17, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド2話 「すみませーん」 LavaGardenの分厚いドアを開けるなゆか。内側には防音素材が取り付けられており、夜はクラブに変わるというのがすぐに理解できた。 「(絨毯フカフカで高そう~照明も落ち着いてるし)」 LavaGardenに入った瞬間別世界だと感じた。 「お待たせしました。1名様ですか?」 受付カウンターのカーテンの奥から顔が小さくて目鼻立ちが整った背の高いスラックスの女性が現れた。 「いえあの……面接の約束をしている藺藤なゆかといいます」 「そうでしたか、お聞きしております。では先にIDの確認をさせていただきます、当店の決まりですのでご了承下さい」 なゆかは右手の甲に生体フィルムで張り付けてあるIDチップを従業員の女性に見せる。従業員は携帯をかざして読み込む。 「確認できました、それではこちらにどうぞ」 受付カウンターの横の扉をあける従業員。中に入ると絨毯の敷いていない通路に出る。バックヤードだと解った。廊下の一番奥にエレベーターがある。 「こちらの部屋でおかけになってお待ちください」 エレベーターの手前の扉に通されるなゆか。中はオフィス用の机と椅子とモニターがあった。入口側の椅子に座るなゆか。 「お待たせしました」 現れたのは眼鏡をかけた黒髪でショートカットの中年女性だった。高そうなスーツに手にはタブレット端末を持っている。なゆかは立ち上がる。そういえば自分の眼鏡は割れてかけてないなとなゆかは思った。 「では早速面接を始めます」「お願いします」 二人とも席に着く。 「私はLavaGarden昼営業カフェ担当の責任者・丹羽省羅(にわしょうら)といいます。藺藤なゆかさん。履歴書拝見致しました。昼営業のホール希望ということですが、週にどのくらい、何時から入れますか?」 「授業無い日なら開店時間から入れます。それ以外は16時からなら入れます」 「……なるほど。LavaGardenがどのような店かご存じですか?」 「ええ、大体……実際来たのは初めてですけどサイトを見てすごく興味を持ってここで働いてみたいと思ったんです」 「LavaGardenは誰でも働けるとお考えなら止めておいた方がよろしいですよ。この店にふさわしい従業員になっていただく必要がありますので研修は厳しく辛いと感じるかもしれません。それでも働いてみたいですか?」 「働きたいです!」 「お客として来店されたこともないのでしたね。ではこれからわたしと一緒に店で何か食べながら面接の続きをしましょう」 「はい!」 丹羽省羅の目は鋭くなゆかの一挙一動を観察しているように見えた。 「(これも全部面接なんだよね? うわ~絶対受かりたい~)」 「代金の心配は無用ですよ、気にせず楽しんでください」 「(LavaGardenの面接って毎回ご飯奢ってくれるのかな? いや、違うこれは面接が進んでると考えていいのかも? 見込みありそうって思われてる? 食事マナーとかこれから見られるのかも?)」 丹羽省羅となゆかはLavaGardenの1階の中央のテーブルに着く。 「好きなもの頼んで良いですよ」 「え、え~それでは……」 テーブルにある液晶パネルを見るなゆか。 「(食べやすそうで気になるのは……くぅ~カヌレ気になるけど食べにくいし……ミルフィーユ、サントノーレ、タルトタタン、ムースケーキ……マカロン!マカロンなら食べやすそうだし決めた!) 「私は本日のコーヒーを。貴女は?」 「では……マカロンとミルクティーでお願いします」 待つ間丹羽省羅はなゆかのアルバイト経験や得手不得手などを質問した。 「お待たせしました。本日のコーヒーがおひとつ。マカロンとミルクティーがおひとつ。以上でよろしいでしょうか?」 運んできたのはスカートの従業員。歩き方、注文した品の置き方、表情、その辺のカフェとは違うとなゆかは感じた。 「(え、凄い……店の人みんな綺麗だし仕草も優雅だし……)」 「どうぞ、藺藤なゆかさん」 「あ、はい、いただきます」 丹羽省羅はコーヒーを飲みながらなゆか観察し機を計りなゆかに質問をしていく。 「(マカロンめちゃくちゃおしゃれでかわいい!この銀のお皿も高そう! ミルクティーのカップとポットも絶対凄い品だよ)」 丹羽省羅に視られて緊張していたなゆかであったがマカロンを一口齧った瞬間気にならなくなった。 「(えー! 美味しすぎる! ミルクティーも凄くいい香り……!)」 なゆかが食べ終わるとここで本日の面接は終了と告げられた。合否は次の日に連絡すると言われた。 「(めちゃくちゃ美味しいもの食べて飲んでおしゃべりして終わったんだけど……受かってるといいなぁ)」 時刻は18:50。後10分でLavaGardenの夜営業が始まりクラブに変わる。 「(LavaGardenのクラブってどんなのかちょっと気になる……2階も見て見たかったなぁ)」 店の外は既に薄暗かった。 「あ、そうだ何か丹羽さんに渡されたんだった」 丹羽省羅が面接終了時渡したのは1枚のカード。LavaGardenの会員証である。登録すれば様々な特典を得られる。 「コンビニのイートインでゆっくり見よ」 ・カフェ会員はポイントが貯まる。限定メニューの予約ができる。・クラブ会員はLコインの購入ができる。ショーの配信を視聴できる(Lコイン使用) 「う~ん……細かい規約はいっぱいあるけどざっくりと覚えておくのはこの二つかな。お酒はまだ飲めないけど18歳だから一応クラブ会員にはなれるんだよね……ここで働けなくても気になるしカフェもクラブも会員登録しちゃお、無料だし」 なゆかはLavaGardenの会員証は紹介でしか手に入らない事を知らなかった。丹羽省羅がなゆかに会員証を渡したのは既に気に入られている証だった。 バス停に向かうなゆか。周囲の人々の視線が自分に集まっているのを感じる。 「え……? なんか私おかしいかな?」 ビルのガラスに映る自分の姿を確認する。1周回って見るも変わった所はない。 「どこか破れてたりなんかついてたりしてんのかと思ったじゃん……」 バスの車内でも視線を感じた。 「(え~? なぁんで~? 絶対おかしいよ)」 マンションの自室に帰るなゆか。割れた窓を修繕したガムテープを見てどっと疲れが押し寄せてきた。リクルートスーツを脱いでベッドに倒れこむ。 なゆかが目を覚ましたのは翌日の正午だった。 「えええええええええっ! 寝すぎじゃん! 午前の授業終わってるじゃん!」 ベッドから出るなゆか。玄関のチャイムが鳴った。 「え、え、ちょっちょっと……」 モニターで確認すると作業服を着た女性が社員証を向けて立っている。 「モニターのスキャンを押して……と」 管理人が呼んだ修理業者だった。IDの確認を終えオートロックを解除する。なゆかはあわてて洗面所に駆け込み顔を洗って歯を磨く。 「そうだった、管理人さんに頼んでたんだった! え、あ、じゃあ授業行ってたら修理また後日になってたって事!? え~? 私そんなテンパってて予定入れてたんだ……」 修理業者の女性が上がってきた。作業は30分ほどで終了、なゆかは書類を確認してサインする。 「……今の業者さん会った事あったかな?」 初めて会った気がしなかった。 *** なゆかの部屋の窓修理を終えた女性は軽バンに戻り電話をかける。 「作業終わりましたよ」 『ご苦労様』 「ちょっと焦りましたよ。いや、自信はあったんですがバレないかドキドキ……」 『わたくしのスライムの変身能力と貴女の忍法合わされば余程の事がない限り大丈夫ですわ』 「だってあの子……」 『解ってますわ。フォックス、戻って来なさい』 *** 大学で遅めの昼食(家から持ってきたおにぎり)を食べ終えた時にLavaGardenからメッセージが入った。採用通知だった。研修等の説明がある為連絡が欲しいとの事。 「やったぁ! 採用! 早速今日の夕方行こう」 「なになに? どうしたのなゆか?」「藺藤さん?」「採用って?」 ダンスクラブの友人が寄って来る。いつもにもまして距離が近くなゆかに過剰とも言えるくらい今日は触れていた。 「(なんか今日みんなすごいくっついてくる……なんで?)」 「絶対眼鏡しない方がいいよなゆかは」「ダンスの時もいつもしてるもんね」「きょうはなんでしてないの?」 と、鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生が言った。 「えっと……(うっかりしてた! 眼鏡割れたからかけてない!)バイト受かったんだ」 なゆかは顔をさわって眼鏡が無い事に今更気が付いた。 「そーなんだ!」「へぇ~どこ?」「何で急に?」 纏わりついてくる友人に簡単に部屋の状況を説明してバイトをする経緯を話した。 「災難だったね! でもLavaGardenって超高級店じゃん!」「すご……良く受かったね」「行ってみたーい!」 「う、うん今日授業の後研修なんだ~だから部活は今月は参加できないかも」 「事情が事情だし仕方ないね」「え~残念……」「お店の事話してね!」 後ろの鈴木真亜子はなゆかにもたれかかり腕を肩から前に回している。右の佐藤実衣はなゆかの腿に手を乗せ、左の高橋夢生はなゆかの手を握っている。 「(わ~絶対これサキュバスハーフの力漏れてるよ……LavaGardenに受かってテンション上がっちゃったからだ眼鏡もつけてないし……女子大でこれだから共学なんて通ってたら……ヤバ……)」 午後の授業の後、帽子を目深にかぶり視線を下に誰とも顔を合わせないようにして自宅マンションに帰る。そのままLavaGardenに向かおうとも思ったが着替えたかった。 「パーカーは……ちょっとLavaGardenに行くにはおかしいかな。通勤の時になるべく顔隠したいし……日傘は暗くなるとおかしいし……うぅ、残り僅かな携帯のチャージでコンビニの安いサングラス買うしかないのか……や、でも安いサングラス買うくらいなら」 なゆかはバキバキに割れた眼鏡を取り出し指で押してレンズを無理やり外す。 「紫外線カットは無くなるけどどうせ伊達メガネだったしこれでいっかな、いいよね」 太いフレームの大きな黒縁眼鏡。嫌いだけど今はこれにすがるしかない。眼鏡をかけることで『自分は清楚でおしとやかな女性』と自己暗示をかけ意識できる。そうすればサキュバスハーフの力も抑えられる。なゆかは肩部分がレースのダークネイビーカラーのワンピースに着替えて家を出る。 LavaGardenに到着すると受付のカウンターには丹羽省羅が待っていた。 「今日はオーナーと会っていただきます。それから研修です」 「あ、はい」 前回同様にバックヤードからエレベーターに乗る。今度は4階に。降りると目の前には監視カメラと物騒な武装タレットが見えた。 「(え! あんなの警察署とかでしか見た事ない)」 「さぁ、入りますよ」 丹羽省羅が手をかざすと扉は左右に開く。中は半円形のソファが置かれ大きな低いテーブルにホログラム装置がおかれ監視カメラの映像と思われるものが浮かんでいた。ソファに座って眺める深紅のドレスの女性とパーカーを羽織った小柄な女性が横に立っていた。 「省羅、ごくろうさま。藺藤なゆか、こちらに来なさい」 深紅のドレスの女性の顔はなゆかからはホログラムで隠れて見えない。 「はい(すごく良く通る声……)」 ソファに近づくと背中に悪寒が走った。深紅のドレスの横にいる小柄な女性の鋭い視線が刺さっているのだとなゆかは気が付いた。 「(え~? なんかすごく怒ってる? あの子……あんなにかわいらしいのにすっごい目力……)」 「ハート、大丈夫ですわ」 「承知致しました」 ハートと呼ばれた小柄な女性はなゆかから視線を外す。 「(ハートさんって子、声カワイイ……)」 「おかけになって、藺藤なゆか」 「し、失礼します」 深紅のドレスの女性の斜め向かいに座るなゆか。大きな目に長い睫毛、小さな顔。小柄にも関わらず存在が大きく見える。深紅のドレスが恐ろしく似合っているとなゆかは思った。 「わたくしはこのLavaGardenのオーナー、クリムゾン」 昊菜は本名の秋馬昊菜をここでは名乗らない。 「藺藤なゆかです。あの、採用してくださってありがとうございます」 「ええ、省羅からいい子が面接に来たって聞いたので貴女と省羅の面接を見させてもらいました。わたくしも貴女を気に入りましたの。それに縁もありましたので」 「縁ですか?」 「貴女のお住まいのマンション、あのオーナーもわたくしですのよ。紅星女学院大学の理事長とわたくしは知り合いですの」 「ええ~! そうなんですね」 「わたくしが惹かれたのは貴女の容姿、声、仕草、品性……それと特別性ですわ」 「特別性とは……」 「自分でもお気づきでしょう? 魔の力が備わっている。隠さなくても大丈夫ですわ、わたくしも人ではありませんもの」 昊菜は全身に取り付いている神名来夢(Super Life Medical Equipment通称SliME)を顔部分だけ解除してルビー色の骸骨を露出させる。 「あぁっ!」 「流石に驚きましたね。これがわたくしの姿です。纏っているメカスライムで以前の姿を再現していますの」 「は、はぁ……」 あまりの出来事に動悸が激しくなるなゆか。昊菜は顔を戻す。 「このLavaGardenでは人外の者は珍しくありませんの。オーナーのわたくしはもちろん、このお付きのカワイイメイドのハートも、従業員の何人かも人外です」 「それは凄いですね……」 「ふふ……今まで人外とは会う機会に恵まれなかったようですね。特に今の時代サイバネが居るおかげで目立たなくなってはいますので。それで、貴女はどのような人外ですの?」 「それは……」 なゆかは正直に話すべきか迷った。初対面の人間に話していいものか。しかしオーナーは自らさらけ出して見せた。嘘を言っても見抜かれる気がする。 「あの……サキュバスってご存じですか?」 「もちろん」 「私はサキュバスハーフの力を持ってまして……」 「聞かせてくださいな」 続く。
Aug 11, 2025
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ラビット・アンダーグラウンド1話 オータムホースシティの第1区にある紅星女学院大学(べにぼしじょがくいんだいがく)。ここに通う一人の女性『藺藤なゆか』は不運が重なり所持金をすべて失ってしまった。 「なぁんでこうなるの~」 住んでいるのは第三区のマンション。突如カラスが窓から飛び込み料理中だったなゆかの鍋をひっくり返しお掃除ロボットを壊し、暴走したお掃除ロボットがパソコンにぶつかりマウスを落とし、海外旅行のサイトを開いていた為一番高額なチケットをクリック。鍋がひっくり返った事に気が付いたトイレから出てきたなゆかは滑って転びデスクに衝突。網膜認証をクリアしてしまい旅券の支払いを確定。カラスはなゆかの新調したばかりの眼鏡を奪い逃走。総額120万円を失った。 「くっくぅぅ……お、お金が……これプレミアムチケットだしキャンセルしてもキャンセル料とられるじゃん……しかも払い戻しは月末……くっぅ」 予備の眼鏡をかけるなゆか。太い黒縁で好きじゃないがこれは始めて買ったフレームなので部屋で使うように置いていたもの。 「カラスがガラスを割ったから管理人さん言わなきゃ……お掃除ロボットはメーカーに修理出さないといけないけどお金が……」 鍋とガラスを片付け、お掃除ロボットを箱にしまい管理人に連絡したなゆかは椅子に腰を下ろす。 「オータムホースシティに来てまだ1週間なのにぃ~」 両親に相談しようかと一瞬考えたが学費に家賃を払ってもらってるのでこれ以上は負担をかけたくなかった。 「冷蔵庫にまだ食料はあるしお米もまだまだ残ってる。眼鏡は……これで我慢するとしても……月末まで現金0円はヤバすぎる……何かあったら詰んじゃうよ」 大学の他に出かける用事を作らなければ大丈夫と考えたが生活必需品を買い足さなければいけない事に気が付くなゆか。携帯のポイントは残ってはいるが使える物は限られている上に現金にする事は出来ない。 「えぇ~……これって詰み!? おうちにお金貸してもらうしかないか……いやでもバイトって手が……あるかも」 携帯でアルバイトを探し始めるなゆか。 「くぅ……稼げそうなのは第二区ばっかり……繁華街怖い」 今月中に全ての貯金を取り戻す気は無くても何かあった時に安心できる程度の金は稼ぎたかった。 「え~……接客業かなぁ高くて出来そうなの。第二地区だけどこの店評判もいいし19時までならお酒もでないカフェだしここにしよっかな~?」 【LavaGarden】 「スタッフも女性のみ? っぽいし提供してるお料理も美味しそう!定休日は無いから……授業の無い日にシフト入れそう」 LavaGardenの店の雰囲気は落ち着いて上品で高級ホテルのような絨毯が敷かれており柔らかい照明とダークな色調の壁に真っ白なテーブルクロス。まるで「ファンタジー映画のお城のよう」だとなゆかは思った。 スタッフの制服は白いシャツに黒のスカートとスラックス、胸に深紅のワンポイントが刺繍されている。 「地元のカフェでバイトした経験もあるし大丈夫だよね」 早速プロフィールを打ち込んで面接の応募を携帯から申し込む。 3分後返信が来た。 「えっと……早速今日の18:00に面接ね。え~服装どうしよう店の雰囲気が大人だしやっぱりスーツかな? でもリクルートスーツしか持ってない……いいよね、きっと」 面接まで数時間、なゆかはクローゼットからリクルートスーツを取り出してシミなど無いかチェックする。 「よしよし、大丈夫! 次は……シャワー浴びてメイクして……」 入念な準備をしてLavaGardenに向かうなゆか。到着予定は15分前、一度店の前を通って確認して5分前まで近くのコンビニのイートインスペースで時間を潰す予定。 定期が使えるのでマンション前からバスに乗り込む。時間的にまだそれほど混んでいないなゆかは降りやすいように降車口付近の席に座った。 「う……緊張してきた。第二区怖そうだな~」 日が傾き始め第二地区のギラギラするネオンが見えてくる。橋を渡り第二区に入るとガラっと雰囲気が代わった。閑静な住宅街の第三区とは違う。いつもは第一区の大学まで何となく窓から見ていた街並みが酷く恐ろしく感じた。 第二区のバス停で降りるなゆか。 「(キョロキョロしないようにしなきゃ。慣れてないよそ者だってバレたら怖い人が寄ってきちゃう)」 なゆかはLavaGardenの場所を完璧に把握していた。行ったことは無くても地図を覚え何度もシミュレートしていた。 「(この通りを進んで次の交差点を右、二つ目の辻を左、そしたら右手にLavaGardenが見えてくる。通り過ぎた先にあるコンビニに入ってポイントで一番安いミルクティーを買ってイートインスペースで時間待ち。これで完璧!)」 交差点で信号待ちのなゆか。携帯を触らずに真っすぐ渡る先の歩行者信号を見つめている。 「ん?」 周囲の人が同じ方向に視線を向けて騒めいている事に気が付く。なゆかも追うとその視線の先には走行しているトラックの上で暴れている二人の姿が見えた。 「あ! 突っ込む!」 向かい側のガードレールに衝突するトラック。投げ出された二人、一人は紅白の全身スーツに狐面の女性、もう一人はサイバーゴーグルをつけた灰色のプロテクターをつけた男。二人は見事に空中で姿勢制御を行い着地する。まるで映画のワンシーンのようだった。 「すご……」 周囲の人々は一斉に携帯を構えて動画や写真を撮っている。信号が青に変わるとなゆかは群衆に押されて転倒、眼鏡を落とし踏み割られてしまう。 「いったぁ……えぇー! 眼鏡がー! そんなのってないよ……噓でしょ」 割れた眼鏡を拾うなゆか。群集は衝突したトラックの周囲に集まり狐面とサイバーゴーグルがお互い隙を伺っている様子に携帯を構えている。 「うわぁ……ストッキング破れたじゃん……コンビニで買わなきゃ。携帯に残ってるポイントでいけるはず」 狐面とサイバーゴーグルは気になったがなゆかは無視して通り過ぎる事にした。事故で道路が塞がった為路地を通る事にする。 「う、暗い!でもここを通り抜けたら……」 なゆかの上を何かが通り過ぎた。両足から火を噴いて飛ぶ狐面だった。 「あ、さっきの!」 「待てい暮葉一族! こっちを見ろ!」 後ろから声がした。振り返る前に羽交い絞めされるなゆか。ゴツゴツとした腕、灰色のプロテクターから狐面と対峙していたサイバーゴーグルだとなゆかは気付いた。 「むっ! 何のつもりでござるか!」 狐面から少女の声がした。なゆかはじぶんと同じか年下だと思った。 「降りて来い暮葉一族……さもなくば何の関係もない一般人の女が死ぬことになるぞ?」 「えっ!?」 思わず大きな声を上げてしまったなゆか。 「卑怯でござるよ!」 「忍が何を言ってる!だがお前は甘い女だ見逃すことは出来まい!」 「くっ……」 「女ぁ……かわいそうだがここで死んでもらうぞ!」 「は!?」 ナイフを振り上げるサイバーゴーグル男、狐面はそれを見逃さずガントレットから発射する手裏剣を打ち込んでナイフを叩き落した。 「しゃがんで!」「――!!」 狐面の言葉に瞬時に反応してしゃがみこむ。するとブースターで加速した狐面がサイバーゴーグル男を蹴り飛ばした。 「すまんかったでござるな、巻き込んで」 狐面は手をとってなゆかを立ち上がらせる。次にワイヤーを取り出して気絶して倒れているサイバーゴーグル男を拘束してゴミ箱に突っ込んだ。 「さぁはやく行かないと警察が来るでござるよ!」 LavaGardenとは反対方向に手を引く狐面。 「え、え、でも私これから面接があって! その前にストッキングも買いたいの!」 なゆかのじっと見つめる目、声を聞いて狐面は心拍数が上がるのを感じた。 「むむ……じゃあコンビニまで行くでござるよ」 なゆかをかかえてブースタージャンプする狐面。あっという間にLavaGarden近くのコンビまでたどり着いた。 「じゃあ拙者はこれで」 「ありがとうね、きつねさん」 「きつねさん!?」 「だって名前知らないし。あ、わたしはなゆか。藺藤なゆか!」 「な、名乗るほどのものじゃないでござるよ。もう二度と会う事もないだろうし……それでは御免!」 ブースタージャンプでビルの上に消えていく狐面。周囲にはパトカーの音が聞こえはじめる。 「あ、携帯が鳴ってる」 画面表示には【大澤垓(おおさわがい)】なゆかの地元の幼馴染みで年上の男。今はこのオータムホースシティで刑事になっている。 『なゆかぁ! 今どこにいる?』 「え、コンビニだよ」 『そうか……第二区の方で事故があったと聞いてな! 第二区なんておまえには縁のない所だがバスで移動中に巻き込まれてないか心配でよ』 「全然大丈夫だよ、私は平気」 『そうか……何かあったらすぐ俺に言えよ! この街は変なのが多いからな!』 「うん、何かあったら相談するね」 通話が切れる。なゆかは小さくため息をつく。 「(はぁ~……心配性なんだから。子供の時は頼りになる近所のお兄さんだと思ってたけど……)」 なゆかは垓と地元では農家同士だった。幼い頃は一緒に虫取りや川遊び、畑の手伝い等をしていた。 なゆかが中学生に入った頃から垓は過保護に接するようになりまるで理想の女性像を押し付けるかのようにあれこれ口うるさくなっていった。 「う~ん……」 なゆかは小学生の卒業式を思い出す。式の終盤、最後の卒業生合唱、なゆかはソロパートを歌った。練習の時、音楽教師に『ソロパートを歌ってくれないか』と言われ承諾した。 元々歌う事が好きだったので喜んだ。クラスメイトからも同級生からもなゆかの歌は好評だった。そして迎えた卒業式。 「―――」 合唱が終わった後拍手喝采。卒業生は歓声の中気持ちよく退場できた。 問題はその後に起きた。 なゆかの歌に感動した教師や保護者、在校生が取り囲みなゆかをもみくちゃした。 「(歌に感動しただけでこんなになる?)」 なゆかの卒業式を見ていた垓は腕っぷしが強かったので群がる群集を引きはがして校門の外に連れ出した。バイクの後ろになゆかをのせて家まで送り届けた。 あまりの出来事に打ちひしがれてベッドで横になっていると祖母がノックしてきた。 「なゆか、ちょっといいかい」 「うん」 「垓君に何があったか聞いたよ。ついになゆかにも発現してしまったようだね」 「え?」 「これから話すことは誰にも言っちゃあいけないよ?」 「……わかったおばあちゃん」 なゆかの祖母は突拍子も無い事を言い始めた。それは自分がサキュバスと人間の間に生まれたサキュバスハーフだと力を制御するのが大変で色んなトラブルを経験したと話した。 息子(なゆかの父)には何も影響がなかったがなゆかにサキュバスの力が宿ってしまったと言った。 「ど、ど、どうしたらいいのおばあちゃん!」 「清く正しく自分を律すれば大丈夫。欲を発散しようとするとサキュバスの力も発現するからね。この力も使い所があるのかもしれないけど……それは好きな男をおとしたい時にだけにしなさいね。制御するおまじないを自分で決めれば抑えやすくなるよ。あたしの場合はアイシャドウを塗った時だけ力を使えるようにって暗示を自分にかけた」 「お化粧……でも私はまだ次中学生だし……」 「じゃあ眼鏡はどうだい?ほら、息子の真似をして買った度の入ってない眼鏡あったろう?」 「あ、あ、あれはおもちゃのだし恥ずかしいなぁ……でも眼鏡かけてる間は大丈夫って思えばいいのかな?」 「そうよ、あの黒縁眼鏡かけて清楚に振舞えば絶対大丈夫」 「え~? 清楚~?」 「なゆかはかわいいし声もきれいだし上品な所作を身につければ絶対清楚なお嬢さんになるよ」 「清楚か~」 そんな事思ったことはなかった。なゆかは自分的にはわんぱくで全然女らしくないスポーツレディだと考えていた。実際バスケットボールクラブに所属しキャプテンまで勤めていた中学に入っても絶対バスケ部に入ると決めていた。 ____ 「(ふぅ~……なんか思い出しちゃったな)」 コンビニでストッキングを買いトイレで着替えミルクティーを持ってイートインの席に着く。なゆかはぼんやりしていた。 ―――中学生に上がったなゆかはバスケ部に入った。 祖母の教えを守り普段は出来るだけ上品に振舞った、最初は大変だったが徐々に身に付きそれが普通となっていった。体育の時間、音楽の時間、バスケ部の時間は元々の自分を解放するようで心地よかった。 普段は顔を隠すような前髪と大きな黒縁眼鏡のせいで目立つことは無かったが体育、音楽、バスケ部の活躍で隠れファンが増えていった。なゆか自身は知る由もなかった。 ある日サッカー部のキャプテンの3年男子に呼び出され告白された。なゆかはことわったがプライド傷つけられたサッカー部キャプテンは下校時のなゆかを待ち伏せしてワゴン車に押し込んだ。 そこにはサッカー部のキャプテンのOBやあきらかに危険な反社のサイバネが乗っていた。押さえつけ注射を見せつける男達。絶体絶命のピンチ。 口を塞いでる指に噛みつくなゆか、暴れた拍子に眼鏡がずれる。注射を持った男を睨みつけて大きな声で叫んだ。 「近づかないで!」 注射男、サッカー部キャプテン、運転席のサイバネ男の体が硬直する。なゆかは注射男を蹴って退かせるとワゴン車を飛び出し泣きながら走って逃げた。 翌日。サッカー部キャプテンは学校に来なくなり、サイバネ男と注射男は警察に捕まったと聞いた。なゆかが走って逃げた後も男達は扉が開いたままのワゴン車で放心状態で巡回中の警官に見つかり逮捕の流れだった。 なゆかは1週間学校を休み、バスケ部を辞め音楽の授業では歌わなくなり体育も消極的になった。 垓がバイクで送り迎えをするようになり、雨の日は祖父が送ってくれた。 高校は隣街の女子高に入学した。 決して目立たないように、自分を解放しないように努めた。音楽の授業は選択しないで体育では周りに合わせ、部活は料理研究会に入った。 歌の欲求は一人カラオケで、運動はアミューズメント施設のスポーツコーナーで発散した。 通学は電動自転車で雨の日はバス。垓は毎日電話で近況を聞いてきた。 大きなトラブルも無く高校生活を終えたなゆか出会ったがフラストレーションは溜まっていた。地元を出てオータムホースシティの女子大学に入る事にした。新しい環境に身を置いて何か変わるかもしれないと。 女子大では週2回のダンス部に入った。ゆるい雰囲気でみんな性格が良く心地よかった。 「(でも……物足りないんだよねー)」 大学では教員免許を取ろうかと考えているなゆか。教師になれるか向いてるかは分からないがとりあえず目標が欲しかった。 「あ、そろそろ時間」 携帯のタイマーは17時53分。LavaGardenでの面接は18:00からである。 続く
Jul 21, 2025
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DHHU外伝その8 「どけ!」 「それはできませんねぇ……私は白魔女ですので」 「なんだと!」 慌ててジェイソンはカバンから銃を取り出す。 「ははは……グレイ・イーターから聞いているようですねぇ。詰みですよ貴方」 「なんだと! 奴は、グレイ・イーターはどうした!」 口を拭いながら震える手で銃口を向けるジェイソン。 「破れましたよ、私が手を下す前にね。だから私はグレイマンの契約者であるあなたを処分しに来たのです」 「だから俺の食欲が……」 「いやー苦労しましたよ。グレイ・イーターってば何の変哲もない人間を選んだんですもの。探すのが大変で! 普通契約者は自分に合う実力者を選ぶ者なんですがグレイ・イーターの場合食欲の強さだけで適当に選んだんでしょうねぇ」 「なんだと!」 「だってグレイストームは最強の異能者(杉田幻赫)と契約、グレイビーストは最狂の術師(神名L咲夜)と契約、グレイキャリバーは最高のサイバネ適合者(兜金蒐魅)と契約なんですよ?グレイ・イーターだけお粗末すぎでしょう」 「バカにしやがって! 撃たれてぇようだな!」 「やめといた方がいいですよ? 大人しく私にやられた方が楽に死ねます」 「黙れぇ!」 銃を撃つジェイソン、3発の弾丸がグラスを襲う。しかし弾丸はグラスの前で消失した。 「は?」 「弾丸、食べさせましたよ私のカワイイ白飛蝗に」 グラスの右手には3匹の白飛蝗が跳ねていた。 「ジェイソン・プライスさん、貴方を始末した後はグレイ・イーターの残骸を回収しないといけないんですよ。後は私の契約者に奉仕もしなきゃだし忙しいのです」 弾丸めいて白飛蝗が飛び出してジェイソン・プライスの喉に突き刺さる。 「ぐげええええええ……」 突き刺さった白飛蝗は肉を食い千切って飛び出す。 「なんとも呆気ない。わたしとしては実力伯仲のバトルの末に斃したかったのですが……まぁ役割を果たせたのでいいとしますか」 喉の肉を食い千切られたジェイソン・プライスはあっという間に出血多量で意識を失い絶命する。 「さてさて連絡……と。ああセレスティア……終わりましたよ。ええ、残骸の回収に向かいますヘリポートで待ち合わせしましょう」 *** グレイ・イーターが爆発四散した現場にはTMIのエージェント、地元警察、軍がエリア封鎖をしていた。 「グラス、来ましたね」 戦闘スーツを身に着けたセレスティアが言った。 「グレイ・イーターの契約者のジェイソンを跡形もなく白飛蝗で食い尽くしました。これでグレイ・イーターはこの世界から消えました」 「それでこれからグレイ・イーターの残骸を残らず白飛蝗で回収するのですね?」 「ええ、これが私がアンチアタッカーとして白魔女から派遣された理由です。食い散らかして成長を続けるグレイ・イーターに対し私の白飛蝗は食べて回収する。データとして白魔団に保管されます」 「TMIのハリー・ハーマンはどうなるのかしら? 彼はグレイ・イーターに異能を喰われましたよね」 「白魔女の一員になるでしょうね。つまり魂は回収され過去現在未来どこかでグレイマンのアンチアタッカーとして召喚されることになります。みなさん勘違いされてるようですけどただの道具になり果てる訳じゃないんですよ? ある意味不老不死で行けないはずの過去未来の世界を体験できるのですから。まぁ経験したことは次の召喚時に持ち越せないので本体の魂から必要最低限しか得られないので……夢で見たとかそのくらいのぼんやりしたものになるんですがね」 「あなたはどの位召喚されたのです?」 「それもボンヤリしてるけど今回が初めてじゃないのは解る。えっと白飛蝗の収集したデータから……西暦220年頃と……949年と……今回かな? だからまぁ過去にしか召喚されてないね」 「前から疑問に思ってたのだけど、220年頃に白魔女の組織はなかった訳でしょう? どうやってグレイの出現を察知したの?」 「それねぇ……奴らが過去に干渉するからこっちも追えるようになるんですよね。この星が奴らを排除しようとしてるのかも?」 「へぇ……」 「おっと神名一族の君にこんな話したらどうなることやら。まあでも白飛蝗の研究は頑張ってよ。ワタシは弟子がいなかったからこの魔法は1代きりでね、君は科学者だけどワタシの魔法を再現してくれるなら嬉しい事だよ」 「白飛蝗は私ではなくアデルがやるでしょうね。得意分野ですから」 「あぁ君のパートナーのアデル・ホワイトね。なるほどなるほど……彼女が神名一族でない理由は……ふむふむ、そうか君の都合か。人類最高峰の頭脳を持つ彼女さえも神名の実験対象ね」 「あなたがこの世界の人間なら神名が居場所だったでしょうねグラス」 「そうかもねぇ……いやでも君のような同族に監視されたり粛清の対象になったりするのは怖いなぁ……杉田(神名)幻赫(げんかく)が排除されたのもTMIを利用して一族の誰かがその流れを誘導したんでしょ?貴女もアデルの事があったとはいえ一枚噛んでる」 「……少し違いますよ。私のオリジナルは既に死亡していますし今の私は神名であってもかなり特殊な存在です。むしろ私が実験対象ですよ」 「いやぁ~怖い怖い……君たちがいる世界じゃあワタシは楽しく生きれないよ。さっさと使命果たしてこの世界からおさらばしますよっと」 「この時代のグレイらはあとどのくらい居るんですか?」 「そうだねぇ……グレイストーム、グレイキャリバー、グレイビースト、グレイ・イーターと4人撃退したから……あと3人かな? 大体いつも7人組だから。ほらあの7つの大罪に当てはめればいいんじゃないかな?」 「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲ですね」 「そうそれ。傲慢がグレイストーム。憤怒がグレイキャリバー。強欲がグレイビーストで、暴食は解りやすいグレイ・イーターだね」 「では嫉妬、怠惰、色欲に当てはまるグレイがまだ残っていると。もしくはこれから襲来すると」 「だねぇ、これ以上はワタシも知らないよ。誰が白魔女に選ばれるか何処にグレイが出現するか何てのは見当もつかないね」 「グラス、貴女の話は大変参考になりました」 「まぁ頑張ってよ。7人撃退したら100年くらいはもう来ないじゃないかな」 手を上げてグレイ・イーターが爆散した地点に向かうグラス。セレスティアは顎に手を当て思考をめぐらせる。外殻脳のClalaにグラスとの会話を保存させる。アジトの不動G了痲に指示をしてアデル・ホワイトに会話のデータを送信する。 『プランBを実行……オーグル兵計画を保留させGR計画を発案。バイオプリンターのデータを切り替え……インプラントドライバーの試作を実行……』 アデル・ホワイトから連絡が来た。 「了解アデル」 セレスティアの目が緑光のプラズマめいた光を放つ。その顔は笑みを浮かべていた。 *** 数日後。 ―――TMI合衆国支部。 「HAHAHAHA! おはよう諸君!!」 左手を上げて大声で入ってきたのは再起不能になったはずのハリー・ハーマンであった。 「ハリー君!? 何故ここに!?」 ジェームズは声が裏返りそうになって言った。他のエージェントらもハリーを見て固まっている。 「アイスクラーピウスで治療を受け見事復活した! この装置を外すことは出来なくなったがね!」 コスチュームを捲り上げると腹部にベルト型の装置が取り付けられていた。 「ミスグラスの回収したグレイ・イーターの破片から私のデータを抽出出来たそうだ。それをこのドライバーに組み込んで脳の代わりとしているんだと」 「そ、そうか……君が戻ってきて何よりだよ。それで体調はどうなのかね?」 「体は絶好調だ!ただ以前に比べると欲というものが薄くなった気がする。その代わりストレスもほぼ感じなくなった。異能は使えるしドライバーが補助してるから無意識下でも発動可能になった。問題は定期的にメンテナンスを受けなきゃならなくなったことかな」 「本部には入れるかね?」 「それが……どうも駄目でね。本部の大いなる意思は復活した私をハリー・ハーマンとは認めてくれないのだ。まぁ一度死んだともいえる身分だからなHAHAHAHA!という訳で合衆国の支部長は他の者に任せたい」 「解った、そうしよう」 ジェームズは目の前にいるハリー・ハーマンを見て不安にかられた。本当に目の前の人物はハリー・ハーマンなのか。ドライバーが仮死状態のハリー・ハーマンを生きているように動かしているだけではないかと考える。 ジェームズは試しにハリー・ハーマンにテレパシーを送ってみた。返ってきたのは―― 「jieout@qouitbqeo[@o,wjinoqyarumciytqcynunmc@ty9vuok[hjioshgn9ej4-」 意味不明の羅列であった。 「(ハリー・ハーマンの監視を怠らないように)」 ジェームズは本部のTMIエージェントらにテレパシーを送った。 *** 日本に戻ったUチームのアリナ、フローレンス、哿。 現場とUチームに拘る哿は日本支部所長ではなく所長代理となり、新たに本部から派遣されたカテゴリー4のテレパスの苗木凛呼(なえぎりんこ)が就任した。カテゴリー5のテレパス苗木來美(なえぎくみ)の従妹である。 「哿さん、フローレンスさん、アリナさん。今日は納斗幼稚園での仕事です」 凛呼は手元の端末の画面を宙に表示する。 「皆さんもご存じの通りこの幼稚園は異能者の為の者です。クソ生意気なガキがいっぱいいますが宜しくお願いします。まぁ話を聞かせるだけなのですぐ帰れますよ、どうしても躾が必要ならその時は……現場のあなた達に任せますね!」 かなり毒のある言い方をする凛呼。 「凛呼さん、躾とは?」アリナが手を上げて言った。 「解らせてやればいいんですよ。アリナさんなら安心して任せられます、ガキどもが何をしようとアリナさんに何も通じない事を見せつけてやってください。死なないように指導すればほらフローレンスさんも居ますし邪魔なガキは哿さんが上空にテレポートさせればいいでしょう」 「なんか子供に怨みでも?」「凛呼さん!?」フローレンスと哿が声を上げた。 「まぁまぁ色々とあの幼稚園ではありまして……私は二度と行きたくないです」 「わかりました、子供たちを黙らせればいいのですね? TMIエージェントや大人を舐めるとどうなるか思い知らせて欲しいと」 「そうです! アリナさん! ガツンと見せつけてやってください!」 「では……特上寿司30人前とウルトラデラックスピザ30人前とステーキ10㎏をお願いします」 アリナは平然と言い放った。 「え?」 苗木凛呼は固まった。その様子を見てフローレンスと哿は微笑んだ。 *** ―――オータムホースシティ。 第二地区にあるビルの1階部分にミラージュ探偵事務所がある。そこにリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ、宗像刀耶、立花冥珂の姿があった。 「やっぱりここが一番落ち着きますね」 リティーシャは完全紫外線カットの透明バブルヘッドヘルメットのストロー挿入口からミルクを吸い上げて言った。 「そうだなぁ……しかし溜まってた仕事多くて疲れたぜ」 ソファに寝転がる刀耶。 「探偵も面白いもんやねぇ」 煙の出ないタバコをキセルで吸いながら冥珂は言った。 「ネコ探し5件、浮気調査3件、盗聴盗撮の調査10件、人探し2件……師匠の魔法のおかげで随分と捗りましたよ」 リティーシャはキーボードを叩いて書類をまとめている。 「噂の調査はしねえのか?」刀耶はリティーシャを見て言う。 「怪人とか院瀬見の陰謀とか闇組織LOKIとか伝説のドラゴンとかそういうのですよね? これらは依頼はなくても情報収集はしてますよ。師匠の気にしている魔女の事も。溜まっていた依頼が終わりましたしそろそろ魔女探し始めましょうか。まずは……第6地区のG/Tの兜金大河に話を聞きに行きましょうか」 「G/Tってヤベェ半グレチームか。フル装備で行かねえとな」 「急にひりつくお仕事やね。ええよバチボコにかましたろうやないの」 「いや、トーヤも師匠も殴りこみに行くんじゃないですよ?」 「でもぜってぇバトルになるぜこういうのは」 「せやな、お約束っちゅうやつや」 「……まぁその時はその時ですね。第6地区ですし安全装備で行きましょう」 *** ――オータムホースシティ郊外。北部の山中。 「イア、ムナル、ウガナグル、トナロロ、ヨラナラーク、シラーリー!」 DMCの生き残りの信者である傅いている男は声を絞り出した。 山羊の角を生やした漆黒の泥のような衣纏った女が地中から現れた。 「あれだけいたサテュロスもお前ひとりとなってしまったな」 「おお主よ、黒山羊の魔女ニグラスよ。しかし貴女さえ存在していればいくらでも再起は果たせるでしょう」 「もはやあの街は秋馬光鴨の一強ではなくなった。身の振り方を考えなければならない。そして我が子を産むに値する者を探さなければならない」 「お任せを我が主。サテュロスではありませんがDMCの信者はまだ残っております。手を尽くして必ず探し出します。あの街はオータムホースシティ、必ずや適合する者が存在する事でしょう」 「慎重に事を運べ」 「は!」 魔女は苦々しい記憶を思い返す。龍人(諸田和音)と白魔女エイリアン(柄留)によってDMCを壊滅させられた。残党は居るものの以前のようには動けない。台頭してきた闇組織LOKIへの対抗手段も考えなければならないからである。 魔女はサテュロスと呼ばれる自らの力で変身させた怪人を再び増やそうとしたが質のいい者は作れず、結局は暴走し警察やLOKIに始末される事となった。組んでいる秋馬光鴨は強気の態度でいるが和音と柄留、LOKIによって屋台骨は揺らぎつつある。ヒーローとヴィランのダブルスタンダード計画も頓挫した。秋馬光鴨を当てにせず魔女の考える次なる一手は自らの子を産む事。超人的な力を持つ子を産み絶対的なヒーローとして街のシンボルとして君臨させる計画。 残った優秀なサテュロス最後の一人は戦闘力はそれほど高くないが慎重で臆病でずる賢く生き残る術に長けている。信仰心も強く暗躍させるには丁度良かった。 *** ―――オータムホースシティ第1区。市庁舎市長室。 市長・大武秀義は市長室に集まった屈強な男女に向かって視線を送る。 「近い将来、勢力図が入れ替わる予感がするな……第1区から第6区まで動きを見逃すなよ?最後に笑うのは我々鬼衆だ。この秋馬原島は鬼が島とするに為にな」 「市長、例の龍の対処は……」 「考えてある。奴がこの街に再び来た時の為にな……恐怖と暴力だけじゃあこの街は支配できん。籠絡させるのも手よな」 「神名はどうしますか」 「これまで通りの関係で良い。『吉備真備と友好関係を築いた温羅』みたいなものと考えろ」 「はは!」 DHHU外伝グレイ・イーター編 完
Jun 13, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その7 「リティーシャ、ハイパーレールガンの調整はどうだ?」 施設に到着してから24時間。刀耶は作業中のリティーシャに声をかけた。 「試射が出来ないので確実とは言い切れませんが……理論上完成です!」 「おお! これでハイパーレールガンにストライクスマッシュを乗せれるのか!」 「はい、でもこれは第2射は考えない方が良いです。チャージに時間がかかり過ぎます」 「そうなのか? ハイパーレールガンてそんなに使い勝手悪いのか」 「いえ、ハイパーレールガンは16発まで連射出来ますよ。問題はストライクスマッシュのエネルギーを弾丸と本体にチャージしないといけないのでそこに時間がかかります」 「どの位?」 「約5分ですね。トーヤのエネルギーをナイトケースが変換、それからハイパーレールガンに充填ですのでどうしても……」 「つまりハイパーレールガンの図体に対し俺が小さいから時間かかるって事か。電池みたいに俺のエネルギーをどこかに溜めて置けねーか?」 「う~ん……ナイトケースの予備部品とわたしのナイトケースハートを使ってもう一回分くらいはマガジンとして溜めておけるかも? でも電気とは違って長い時間置いておけないですよ。ストライクスマッシュを放つ前の状態で維持し続けると考えればよいかと」 「マジかよ……じゃあ作戦の少し前にチャージしておくのが限界か?」 「そうですね……しかしそうなるとナイトケースハートも予備も使えなくなるので何かあった時に困ります」 リティーシャは奥の手がある事は言い出せなかった。自分が血液を摂取して本来の姿に戻れば刀耶が撃った後にすぐに代わって撃てるという事を。 本来の姿に戻るということはヴァンパイアとしての覚醒状態になること。血の衝動を押さえるためにこれまでミルクで済ませていたリティーシャは覚醒状態から戻れなくなるのを恐れている。戻れなくなれば討伐対象リストに入るかもしれないそうすれば元の生活に戻る事は不可能となる。 以前オーグルの研究者を止めるために最後の手段で血を数滴接種した。高揚感万能感に加え血への強烈な渇望。自分が自分でなくなってしまうかのような感覚に恐怖した。 「トーヤ……あの」 「ん?」 「もしもの時は……」 「あん? ……あーまぁ、やっちまえよ! 俺はそれもお前だって解ってるぜ」 刀耶はオーグル事件の後リティーシャと話しあったことを思い出した。 「あの時はそうするしか無かった、だからお前はそうした、その選択に俺は文句言わねえよ。それに……今回は冥珂さんもいるし」 「そうですよね……師匠がいれば……でもトーヤに迷惑が……」 「なーに言ってんだ! 今更だぜこうなったらとことん付き合ってやんよって前にも言ったろ? 俺がそう決めたんだお前が責任感じる事はないぞ。 グレイ・イーターをぶっ斃さなきゃ合衆国は終わりなんだやれる事全部やろうぜ!」 「トーヤに出会えて本当に良かったです。本当ナイトケースが導いてくれたのかもしれませんね」 「照れくさい事急にいってんじゃねえよ……」 *** グレイ・イーターは東に進み続け合衆国中部に到達。体長は60mこの頃になると無差別に食い散らかすのではなくより効率の良いものを摂るようになっていた。 TMIは作戦開始地点に待機。ハイパーレールガンの準備は既に完了。 「グレイ・イーター作戦開始地点に到達! 作戦開始!」 TMI長官ジェームズの号令で全員が動き出す。TMIのエージェントはグレイ・イーターに対しV字に配置、冥珂に渡されたアイテムを手に持っている。 スケートボードのように箒に乗る冥珂が飛び出す。グレイ・イーターに迫る。 「小賢しい魔女め……お前が何をしようとも止められんぞ」呻くグレイ・イーター。 「それはどうやろな?」 カードが冥珂の胸から飛び出し青白い閃光6本がグレイ・イーターに向かって放たれる。分厚い金属製の装甲を削るがすぐに再生を始め元に戻る。 「無駄だ!」「無駄やないで、今のはチェックしただけや!」 グレイ・イーターから放たれる瓦礫弾を回避する冥珂。 「これでもくらえ! サイコビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!!」 「待ってたで!」 サイコビームは冥珂に命中したかと思われたが取り出したマジックコンパクトの鏡によって散らされる。散ったサイコビームは周囲に配置されたTMIのエージェントの持つマジックコンパクトのコピーに吸い込まれるように引き寄せられ反射する。事前にTMIエージェントに配ったこのマジックコンパクトはリティーシャがナイトケースのパーツを使って作成したものであった。 「倍返しや!!」 サイコビームのエネルギーは収束して冥珂のマジックコンパクトから放たれる。 「ナニィ!?」 グレイ・イーターの右腕に命中し肩まで砕け散る。 「どや! サイコビームはもう効かへんで! なんぼでも跳ね返したる!!」 「ガアアアアッ! 鬱陶しい! 他にもいくらでも! 攻撃方法などあるわ!」 崩壊した腕を尾で拾い貪り喰う。みるみるうちに再生する右腕。 「今度は……広範囲の物理攻撃ならどうだぁ!」 大量の土砂を吐き出すグレイ・イーター。しかしそれらはTMIエージェントの前で映像停止のように止まった。 「ハァ!?」 「この場にどんだけサイコキネシスが集まってると思ってんねん! ジェームズのテレパシーの指示とエージェントらの連携や!」 土砂はグレイ・イーターの足元目掛けて放たれる。 「ぬ、なんだ足元が……」 集まった土砂は高速回転して地面を削っていく。その操作の指揮をとっているのはエアロキネシスの早乙女ルキナ、ジェームズはテレパシーと他のエージェントとの接続で脳を焼かれるような感覚に耐えながら鼻血を出しながらルキナと共同作業でグレイ・イーターの足元の地面を削る。 「いいぞ、このまま奴を足止めするんだ!」「ええ!」 ジェームズが叫ぶ、合わせるルキナ。その後方にはUチームのアリナ、フローレンス、哿。 「ええい! ごちゃごちゃと! こうなったら!」 口を開くグレイ・イーター、3m大のこれまで飲み込んだ物で出来た翼竜を放つ。 「やっぱり出してきた! 動けんようになったら遠隔操作できる体を使って来るってのは想定済みやで!」 TMIエージェントに向かって飛んできた翼竜を追う冥珂。 「行かせへんで!」「邪魔だぁ!」 火の玉を吐く翼竜、カードで打ち消す冥珂。 「くっ、中々やるようだがこんなものは所詮時間稼ぎ、消耗するのはお前たちの方が速い」 「そうやろうな、だけどまだまだ手札はあるで」 「だったらまずは魔女! お前から始末してやる!」 更にもう一体翼竜を出すグレイ・イーター。 「この高速空中戦闘での数の有利はどうする?」 「おっと、俺がいるぞ!」 ナイトケースを装着した刀耶が参戦、ボウガンを翼竜に撃ち込んだ。 「刀耶君!」「任せてくださいよ! コイツの動きの癖はもう大体わかったんで!」 球の動きで旋回する翼竜2匹、刀耶は動きを先読みしてボウガンを放ち命中させる。 「なにぃ!?」 「ヒット、ヒット! さぁ来やがれ!」 「クソがぁ!」 刀耶に挑発され翼竜の操作に集中するグレイ・イーター。巨大な本体は完全に動きを止めている。 「そろそろか……Uチーム、準備を!」「はい……」「はい!」「はい」 ジェームズはアリナ達に声をかける。 グレイ・イーター翼竜の攻撃を全て回避する刀耶。ナイトケースとのシンクロ率は過去最高数値を叩き出し刀耶は360度全ての景色が見えているかのような感覚を得ている。 「トーヤ……空中制御だけでも難しいのにあんな動きを! それにこの数値は……!」 青白い光を放ちながら加速するナイトケースを見つめるリティーシャ。 「当たれよおおおっ!」 火の弾を連射するグレイ・イーター翼竜2匹。むきになればなるほど動きは単純になり回避しながら反撃する刀耶のボウガンを受ける。 「クソがああっ!」 「(コイツの相手は問題ない、けどそろそろハイパーレールガンに戻らなきゃな! だけどどうするこの2匹を足止めしとかねえと……)」 「刀耶君、ここはアタシに任せとき!」 カードを使って使い魔の魔獣スフィンクスを自分の分身体に変身させた冥珂が叫ぶ。 「冥珂さん!」「3分くらいが限度やそれまでに頼むで!」 ハイパーレールガンに向かって加速する刀耶、追いかける翼竜2匹。その間に割って入る冥珂と分身体。 「邪魔だ魔女! お前から始末してやる!」 「簡単にはいかへんで!」 カードの自動防御とあらゆる衝撃から身を守る鎧を装着した冥珂。グレイ・イーター翼竜の連携と弾丸の速度で放たれる超高温の火の弾に冥珂が反撃する隙は無い。 「(これはキッツイわぁ!)」 刀耶はステルス迷彩で隠されたハイパーレールガンに到着。 「リティーシャ! やるぞ!」「トーヤ! すぐに発射準備を!」 発射装置に着く刀耶。 「後は……TMIのUチームが奴をダウンさせれば!」「そうです!」 哿の連続テレポートでグレイ・イーターの足元に移動するUチーム。目の前にはルキナらTMIエージェントが起こした土砂の竜巻、上では翼竜2匹と冥珂が空中バトルを繰り広げている。グレイ・イーターの本体は動く気配はない。 「ここから奴の顎を狙って粉砕します」 「ええ、そうですアリナ」「大丈夫ですよアリナさんならできます」 ゆっくりとしゃがむアリナ。 「二人とも離れて……」 アリナの周囲の空気が揺らめき虹色のオーラを放ち始める。 「90%……」 冥珂のかけた魔法によりガントレットとブーツは砕けない。アリナと共鳴するようにフローレンス、哿も虹色のオーラを放ち始める。 「安心してアリナ、貴女の体は壊させないから」 「安心してアリナさん、宇宙まで飛んで行かないように僕が絶対テレポートで戻しますから」 周囲のTMIエージェントが意識を失い次々と倒れ始める。Uチームのエネルギーに当てられしまったのだ。 「ぐぅ……このプレッシャー……アリナ君……私とルキナ君とて長くはもたないぞ……」 歯を食いしばって耐えるジェームズ。 「アリナ……頼んだわよ……」 大量の汗をかいているルキナ。 「95、96、97、98、99……100%」 虹色の光体となったアリナ。足元の岩盤に気を使いながらグレイ・イーターの顎を狙える角度を考えて足に力を込める。足に力を込めると岩盤が砕ける感覚があった、だが体を浮かせるに十分な加速が出せると思った。冥珂の魔法により崩壊しなかったブーツが功を奏した。 「時間が止まったかのよう……」 ゆっくりと足を踏みしめて地面から離れるアリナ。腰の横で右拳を握る。ガントレットは砕けない生身の手と同じ感覚がある。実際には亜光速の動作。 「……この一撃で敵の頭部は完全に砕く、後はハイパーレールガンにまかせる」 アリナの拳がグレイ・イーターの怪獣の顎を捕らえる。インパクトの瞬間衝撃がグレイ・イーターの頭部に伝わり崩壊する。 アリナの加速は止まらないそのまま上空に飛んでいくと思われたが次の瞬間水平方向に飛ぶ角度を変え緩やかに落下、地面に滑るように徐々に速度を落としグレイ・イーターから30キロ離れた地点で着地した。Uチームは異能者共有状態となった為、哿のテレポートがアリナの飛ぶ角度を変え移動させたのであった。 「これで後は……」 力尽きて倒れるアリナ。異能者共有状態のフローレンスと哿も離れた位置で倒れた。 「グオオオオオオ……」 首から上を粉砕されうつ伏せに倒れこむグレイ・イーター。アリナ達の一撃のパワーはグレイ・イーターの全身を駆け巡り大きなダメージを与えた。 「なんだ……何が起きた? 何で本体が倒れている?」焦るグレイ・イーター。 冥珂を攻撃していた翼竜の動きが止まる。「そこや!」冥珂はすかさず青白い閃光を放ち翼竜2匹を粉砕した。 その様子を確認した刀耶とリティーシャ。 「今だ!」「トーヤ撃って!!」 ストライクスマッシュのエネルギーが充填されたハイパーレールガンのトリガーを引く。轟音と共に超高速の弾丸が発射され横たわるグレイ・イーターの頭部を失った首に命中。 「―――――――!?」 撃ち込まれた弾丸はグレイイーターの体の内部を進みストライクスマッシュのエネルギーを拡散、全身に広がっていく。 「崩壊しますよ!」 リティーシャが叫んだ。 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!! そんなバカナぁああああああああっ!!!!」 グレイ・イーターの断末魔。巨体は爆発四散。 「やったぜ……!!」 虹色の光を放ちながらグレイ・イーターの巨体は散らばる。その様子を作戦に関わった全員が眺めていた。 *** NYのスペアリブ店で創業以来の大食いを披露している男が居た。名はジェイソン・プライス。ハイペースで食べ進めていたが突如体調に変化が訪れた。 「うぐ……」 「どうしたジェイソン! そろそろ限界か?」 店主は手が止まったジェイソンに向かって言った。それまで恐ろしいスピード食べ進めていたジェイソンが突如顔を青ざめたからだ。 「く、苦しい……ギブアップだ……」 ジェイソンはあと1個で30キロに到達するところであったがここで力尽きた。 「惜しい! いや、でも世界記録を10キロも更新したんだスゲーぞ!」 店主は手を叩いて祝福する。当のジェイソンは今にも意識を失いそうな顔だった。 ジェイソンは慌てて勘定を済ませ店を出る。 「(チクショウ……どうしてだ……あの野郎なにかあったか?)」 路地裏で吐くジェイソン。持っていた水で口をゆすぐと路地裏の奥に進む。 「やぁやぁやぁ……やっと探しましたよジェイソン・プライスさん」 現れたのは全身白の衣服に身を包み、虫の複眼めいた眼鏡をかけた女性、グラス。 続く。
Jun 2, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その6 「冥珂さん! 最初から奴の戦ってる所見せてください!」 「よっしゃ!」 刀耶と冥珂は水晶玉を覗き込む。 「う~む……そうかここで切り替えて……ふんふん……」 恐竜姿のグレイ・イーターがサイコビームを放ちその後崩れた建物に突撃して食事している様子を見る刀耶。 「何か解った感じ?」 「ええ、コイツこの場面なんすけど……ビーム撃つときはハリーさんの力を使ってんですよね。でも喰って自分の体を変形させてるのはオーグルの力……ビーム撃った後にホンの少し動きとめてますよね?変形する時も喰ってない……一々切り替えてんすよ」 「ほうほう……って事は……?」 「ゲーム的な表現なんすけど……スキルを順番にしか使えないみたいな。そこにつけ込む隙がありそうです」 「取り込んでも力を使うのは切り替えないとあかんのやね。沢山食べてるけど同時に色々はできひんと……確かに隙をつくのに使えそうやな」 「ハイパーレールガンを確実に当てる為にも何か考えたいっすね。TMIの皆さんに任せるだけじゃなくて」 「せやなぁ~……う~ん……アタシらにできる事なぁ~」 冥珂は飴を噛み砕きながら目を瞑る。 「一個ええ作戦思いついたで。成功すればハイパーレールガンで狙う時間も稼げる」 「本当っすか!」 「リティーシャの協力もいるし戻ってきたら詳しい話するわ。TMIのがプランAならアタシらのはプランBや! 刀耶君が気が付いたグレイ・イーターの隙、長官のジェームズにも伝えるわ」 「お願いします!」 *** ――TMI合衆国支部 グレイ・イーターは止まらずに進み続ける。TMIの計算では約4日後に東海岸に到着する予定である。 体長は50m程で巨大化は止まりそれ以降は緩やかに体の構造を変えながら進んでいる。 刀耶と冥珂の予想通りグレイ・イーターはハリーの異能を完全に使いこなすことは出来ずに巨体を浮かせて飛ぶことはできない。本体のハリーに取り付いていた時は本人の記憶と体があったために完全再現出来ていたが様々な物質を取り込んだ現在ハリーとかけ離れすぎたために一部しか再現できなくなっていた。 グレイ・イーターが暴食の性格でなければ或いはオーグルの性格に変わっていれば人型で大きさも控えめでハリーの力を出来る限り再現し対策に困る相手になっていただろうと長官のジェームズは言った。 「奴はI-40からI-70のルートを進むと予測されている。現在の速度は時速40km……ハイパーレールガンはアマリロで組み立てる事になるだろう。奴は都市を狙って進んでいるからな。よってアマリロ西部の荒野で戦闘が予想される」 「敵がちょっとおバカさんで助かったわね」 ホットコーヒーを飲みながらアーニャが呟いた。 「奴がメカ・ハリーなんかになっていればあっという間に東側の都市は壊滅状態になっていただろう……愚かさに感謝しなくてはな」 アーニャからもう一つのホットコーヒーが入ったマグカップを受け取るジェームズ。 「初動が良かったのね。アリナが叩きのめしてくれたおかげでグレイ・イーターは大きく強くならなきゃって判断したんだから」 「……私がアリナくんの代わりにやればよかったと後悔しているよ。歳を取った……余計な事が頭を過って瞬発的に行動できなかったんだ」 深夜の支部にはジェームズとアーニャ、冥珂の水晶の画像を受け取ってモニターで監視している補佐の者が1人だけ。 「昔の貴方ならアリナより早く動いたでしょう。でも仕方ない事よ……誰しも歳はとる私もね。異能者戦争時の世代は皆もういい歳よ」 「なんや昔話に花咲かせてるようやけど……ちょっとええかな?」 ジェームズとアーニャの部屋に入ってきた冥珂。 「キミか……ハイパーレールガンの方はいいのかね?」 ジェームズはマグカップを置いて言った。 「あっちはリティーシャと刀耶君にまかせてあるしええねん。アタシは自分の出来る事をやりたいんよ」 「冥珂さんは何をしに?」アーニャは机に体重をかけて言った。 「さっき送った映像もう見たんやろ? その事で話したいことがあってな」 冥珂は刀耶が気付いたグレイ・イーターの動きの癖を話した。 「なるほど確かに……」「これは有用な情報ね」 「アタシはこの隙に付け込んで色々魔法を使って罠を仕掛ける気やねん。で、オタクらTMIの作戦を聞いときたい。プランAとBちゅうやつやな」 「ふむ……聞かせよう、代替案としても検討する」 TMIの案はUチームに巨大化したグレイ・イーターを転倒させる作戦。射線場に倒れる必要がある為アーニャとジェームズがハイパーレールガンの射角を調整補助をするというもの。 「アリナ君のパワーなら50mのグレイ・イーターであっても転倒させる事は可能だ。ただし彼女の負担を考えると失敗は出来ない」 「TMIのエージェント総出でグレイ・イーターの気を引き倒れる向きを考えアリナに一撃を加えさせる。恐らくだけど頭部の破壊はできるはずよ、後はハイパーレールガンで心臓部を打ち砕けば終了」 ジェームズとアーニャは冥珂に作戦の資料を見せる。 「気になったんやけど……アリナちゃんはホンマに大丈夫なんか?」 別室のモニターに映っているUチームの様子を見て冥珂は言った。 「本人は問題無いと言っているが……私個人的にはあまり良い状態には見えない。しかしアリナ君を止めることはできないのだ」 「そうね……宿敵・念爆者を前にした彼女を止めることなど不可能。今の彼女はグレイ・イーターの姿が念爆者に見えているのだから」 「……アタシは納得できひんな。見てられへんで十代の若者があんなになって……」 「では……どうするおつもりで?」 「アリナ君は自分が出ると聞かないのだ。止める事は誰にもできない」 「せやろな、止める事はできひん。せやけど少しでも負担を減らして上げる事はできる」 冥珂はジェームズの案内でアリナ、フローレンス、哿のいる部屋に移動する。 「お邪魔するで」 「貴女は……魔女の冥珂さん」「何か御用ですか?」 ベッドに寝ているアリナの横に座るフローレンスと哿が言った。 「アタシもアリナちゃんに何かしてあげたいと思ってね。ゴメンやけど起こしてもらえる?」 二人は顔を見合わせてアリナをゆっくりと起こす。 「……立花冥珂さんですか。わたしに何か?」 目の下に隈を作り虚ろな表情のアリナが言った。 「そのままじっとしててな……」 カードを取り出してアリナの前に突き出す。 「なるほど、やっぱり……これはちょっと処置しなあかんわ。アリナちゃん、もしいつも使うてるガントレットとブーツがもっと頑丈やったら楽かな?」 「……ええ、負担は減ります。しかし最高品質の物でもわたしの異能に耐えれません先程も一式砕いてしまいました」 「うんうん、じゃあさ……ガントレットとブーツも体の一部になったらどうやろ?」 「え?」 「想像してみて? ガントレットとブーツが自分の体毛とかと同じもんやと」 「……元が丈夫であるガントレットとブーツなら強化の負担も少ないです。むしろ生身よりも強度を上げれます」 「細胞レベルの自己強化ができるアリナちゃんに魔法をかけようと思うねん。ガントレットとブーツを自分の体の一部って認識できるようにね。何かしらの弊害があればすぐに言って」 「……立花冥珂さん。何故わたしにこのような協力を?」 「アタシもなぁあのバケモン(グレイ・イーター)をぶっ倒したいねん。その為に何でもやりたいし出来るだけ皆に辛い目に合って欲しくないねん。あんたの顔見たらじっとしてられへんかったんや」 「そうですか……壊れかけのわたしに期待してくれているのですね」 「アカンで! 絶対に壊れたら! あのバケモンすっと倒して大団円迎えるんや! 見てみいやあんたの大切な人らの顔! 悲しませたらアカン!」 アリナはフローレンスと哿の顔を見た。涙をこらえているように見える。 「……ガントレットとブーツにわたしの強化が乗るのであれば今のわたしでも奴を打ち砕けます。100%の強化発動も可能かもしれません」 「ぜったい壊れへんな?」 「はい、負担は半分程度になると思いますので」 「ホンマにホンマやな? もし無理そうならやめとくんやで、アリナちゃんが全部背負う必要は無い、皆でアイツを倒すんやから!」 「でも奴は……」 「解っとる、アリナちゃんの手で斃したいんやろ? でも失敗して壊れたら何にもならへん、大事なのは奴を斃す事! 違う?」 「はい……」 「奴を斃した後の事考えや? やって終わりやないんやから」 「それを考える事は困難です。奴を斃すことに集中しなければなりません」 「ほんのチョットでも頭の片隅に置いとくんや。忘れたらあかんで」 「あの……」 フローレンスが冥珂に話しかける。 「アリナのガントレットとブーツを体の一部として認識させるんですよね? じゃあそれを私と哿さんにも感じれるように出来ますか?」 「え? ……まぁ出来ん事も無いけどヤバいんじゃないかなぁ……アリナちゃんと違って二人は強化できひんのやろ?」 「ガントレットとブーツに受ける衝撃を私たちは強化しないで受ける事になると思います。実際の体ではありませんけど想像を絶する痛みを感じる事になるはずです。それでもやりたいんです! 感覚を共有するという事は私と哿さんの異能もアリナに届くという事! あの時成功した異能者共有程じゃなくても三人で戦う事が出きるんです!」 「お願いします! 僕も戦いたい大切な二人の為に!」 「フロー、哿さん駄目! そんな事二人にさせられない!」 「アリナ! 私たちはUチームです! 一緒に戦わせて!」 「僕もこれは譲れません!」 「……!?」 アリナは驚いた。慎重なフローレンスと冷静な哿がこんな事を言うとは想像できなかった。 「私の再生能力を発動させればアリナは楽になる。哿さんのテレポートを使えば対応力が上がる。負担を三人で分ければきっと上手くいく!」 「(若いってええな……それにこの三人の絆……羨ましいわ)」 「お願いします冥珂さん」 「解った、任せとき!」 *** ――飛行病院船アイスクラーピウス 最高責任者の船長であるアデル・ホワイトはパートナーであるセレスティアから送られてきたデータを眺めていた。 「グラスに付与させた白飛蝗の試作体の状態は良さそうですね……これなら……」 世界中の権力者は不老不死を願い密かに彼女に自身クローンを作らせている。それだけでは飽き足らず様々な能力を付け足したり容姿を理想に近づける要望も出している。 合衆国は一般には知られていない組織が存在しそこでは未発表の科学技術や倫理的に知られてはいけない実験を行っている。アデル・ホワイトはその一員でありセレスティアもメンバーではないものの協力している。 念爆者・杉田(神名)幻赫は世界征服の後に合衆国の秘密組織を自分の物にする算段であった。そのために邪魔なアデルは始末され脳だけを利用するつもりだったが――TMIによって幻赫&グレイストームは斃されアイスクラーピウスは合衆国の手に戻りセレスティはアデルを復活させることに成功した。 アデル復活後、凍結されかかっていた秘密組織の実験、計画は再度進められ異能ミュータント兵、量産型オーグル兵、サイボーグ兵、キメラ、クローン強化兵などが続々生まれている。セレスティアはアデルに協力し実験施設の準備や兵器の開発を進めている。 アデルの実験兵を使った神名製のパワースーツに戦闘フレームと呼ばれる搭乗型人型兵器の開発速度は加速しセレスティアは秘密組織内で名誉少佐の立場を得ていた。 グレイ・イーターのアンチアタッカーとして召喚された白魔女グラスは西海岸の都市にグレイ・イーターが出現したと聞いた際に「奴は東海岸に向かうでしょう」と大統領に言い放ち準備を進めた。グレイ・イーターが進行してくるまでの間、合衆国の最高水準の技術が知りたくてアデルとセレスティアに接触した。 「いつかは分からないけどそう遠くない未来で人類滅亡の危機に瀕する事態が起きるから準備しておいた方がいいよ」とグラスは言った。「世界大戦で核兵器で世界中が汚染されても合衆国は生き残ります」とアデルは言い返した。 翌日、セレスティアはアデルを連れて研究施設へ連れて行く。 「わざわざ連れてくるとはティア、なにがあったの?」 アデルはセレスティアの横顔を見ながら言った。 「まずは見て欲しいのです」 施設の最奥にある培養層に案内する。 「これは……」 培養層に浮かぶのはセレスティアに似た子供の姿をもつ個体。透き通るような白い肌をしている。 「ミスグラスに白飛蝗の魔法をかけさせた個体がこうなったのです。ミスグラス曰く『運命力の影響ですよ』と言いましたが」 「運命力……? 量子力学の話でしょうか」 「アデル、この個体をどう使いますか」 「そうねぇ……」 アデルはセレスティアを見つめる。彼女も親から生まれた存在ではなくアデルとセレスティ(本体)が産んだクローンに記憶を刻んだ存在。元のセレスティアよりも強い異能発現し学習能力や身体能力の面で高いパフォーマンスを発揮している。 「今はまだ眠らせておく。グレイ・イーターの件が終わった後に考えましょう」 「わかりました……アデル?」 セレスティアを見つめるアデル。不思議そうに視線を合わせる。 「いえ、なんでも」「もしかして以前の私と比べていますか?」 少しいたずらっぽい表情を浮かべるセレスティア。 「強くなりましたねティア。心配性だった貴女を思い出していたの。異能が強くなって自身を得たのかしら?」 「どうでしょう? 幻赫から解放されたことが大きいのかもしれません」 「なるほど……TMIに感謝しなくてはなりませんね」 「アデル、ついでに他の個体も見て欲しいのですが。貴女の指示でAIに飼育させていますが気になるところが無いかチェックして欲しいのです。この素体のように何か変化が起きているかもしれませんし」 「そうね、ついでに全て見て起きましょう」 続く
Apr 14, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その5 「今開けます」 手をかざすセレスティア。彼女は異能者でプラズマキネシスである。 「何も無いように見えて実は……ですねぇこの施設」「ええ、一々驚かれて説明するのも面倒なので色々と隠してあります」 最奥までリフトで降りる。培養槽に白い肌の人間が浮かんでいる。 「これがベースになります。隣にはまだ成長していない個体が並んでいます」 「このベースの素体にワタシの魔法で白飛蝗の属性をつけるのですね?」 「ええ、それだけで結構です」 「フゥ~ン……ワタシじゃなくて貴女たちなら遺伝子操作で同じような者を作れるでしょうに」 「もちろん試していますよ、考え得る限りの改造人間兵の実験は。知りたいのは相反するオーグル細胞の力と白魔女の力の反応。細胞が拒否反応を起こさなければ成功ですね」 「えっと……原種ではないもののオーグル細胞を利用しているのコレ?」 「改良を加えた亜種ですね。細胞分裂が過度に進むと崩壊するので原種のように寿命の限り再生は出来ませんがそれでよいのです制御するには」 「貴女はこっちのジャンルの研究者に見えないけど……詳しいのね」 「ええまぁ……私は施設管理が主な仕事でして中心となって研究している者は別です」 セレスティアの外殻脳にはアイスクラーピウスと施設のデータが入っている。 「この施設にいると頭がぼんやりするね、貴女の異能と関係してるでしょ?」 「そうです、流石ですねミス・グラス」 「怖い怖い……この施設に入った時点で貴女に生殺与奪握られるんだ」 グラスの体に無数の切れ目が入りそれぞれが飛蝗の模様になっていく。 「ご安心を、そんなに警戒しなくとも何もする気はありません。安全のためのセキュリティですよ」 「よかった……じゃあ仕事しますか」 *** 刀耶、リティーシャ、冥珂はTMI長官ジェームズから案内された施設に到着していた。 「一見普通の小型機の飛行場だなぁ」 周囲が砂漠の飛行場。セスナやプロペラ機のレンタルをやっていると表示を見て気が付く一行。 「冥珂さんの魔法で通訳もいらないの便利だぜマジで」 「まーこういう認識系の魔法は危ないんやけどね……あたしは信用してくれていいけど」 「え? そうなんっすか?」 「全く別の意味とかに認識させる事も出来るしなぁ……魔女が良く使う罠ではあるよ」 「へぇ~……」 「トーヤ! ナイトケースを着ていればそんな心配はありませんよ!」 透明な完全紫外線シャットアウトのバブルヘッドヘルメットを被ったリティーシャが言った。 「へいへい、いつでも油断すんなって事だろ? お前とか冥珂さんと別行動するときは絶対にナイトケース着るから安心しろ」 「それでいいのです!」「何があるか分からんしな」 格納庫に近づくとシャッターの前のカメラから声がした。 「ミスター・ジェームズから送られてきたボーイたちだね? 俺はビンセント」 中年男性を思わせる声がした。 「ええ、作戦の事で着ました」 「オーケーオーケー……本人確認完了っと……今開けるから入ってくれ」 シャッター横の金属扉から中に入る三人。神名製のパワードスーツを着た兵士が見える。 「表向きはさびれたレンタル飛行場だけど実は……って奴さ!」 「軍の施設なんですね」リティーシャはナイトケースハートの外殻脳にスキャンさせる。 「話は聞いているよハイパーレールガンを使うんだって?」 「ええ、そのくらいのパワーが無ければ止められないモンスターが出現したので」 「うんうん、一応送られてきた資料を見てシミュレーションにはかけてみてある。射角が狂わなければ跡形もなく吹っ飛ばせるぞ」 「それなんですがビンセントさん、ハイパーレールガンの資料を見せてくれませんか?」 「オゥ……それは駄目だな。使用するまでは何とか上が了承したが」 「グレイ・イーターと呼ばれるモンスターを倒しきるにはナイトケースのストライクスマッシュの力を使わなければ駄目なんです!」 「説明してくれるかな?」 リティーシャはビンセントにナイトケースの説明をする。 「フゥーム……主任と話して見るかね? 私では君のナイトケースとハイパーレールガンを組み合わせ出来るか判断できんのでね」 「お願いします」 ガレージ内にあるプレハブ小屋に移動する一行。中には眼鏡をかけた若い男が居た。 「えっと……少佐、誰なんですその人ら?」 「彼が主任のピートだ。ピート、この者たちと話をしてくれ」 「え、あっはい……」 様々なファイルや部品で散らかった長テーブルに案内するピート、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して並べた。 「何の用ですか?」「実は……」 リティーシャはピートにグレイ・イーター討伐作戦を伝える。 「面白い! 面白いけど……テストも無く本番一発きりってのがちょっと不安だなぁ~……いや待てよ……リニアライフルで実験すれば……」 端末を忙しく操作するピート。 「このリニアライフルで実験しよう! 原理的にはハイパーレールガンも同じだからね! 早速地下の実験場に行こう!」 厳重なセキュリティに守られた扉をいくつも通り20メートル正方形の空間が見える場所にたどり着いた。 「僕の権限でしばらくはここは誰も使わせないようにする。ここで君のナイトケースとの組み合わせ実験をしよう!」 「いいですね」 リティーシャとピートは技術者として意見を出しあいながらシミュレーターにデータを入力し議論を交わし合う。刀耶と冥珂は邪魔にならないように横の控室でくつろぐことに。 「後は待ってるだけなんすかねぇ~」 「やれる事がない訳ではないで。グレイ・イーターの様子でも見る?」 冥珂はテーブルに水晶玉を置く。水晶玉に映し出されたのは体長10メートルをこえる恐竜を思わせる姿のグレイ・イーターがゆっくりと街のあらゆるものを食べながら進む様子であった。 「前より弱ってるし成長速度も遅いけど……慎重に強くなるために行動してるようにも見えるわ」 「そうですね……邪魔してくる軍とか警察には対応するけど好き勝手暴れてる様子はないですね」 「TMIのエージェントが見えるね」 「あ! ホントだ!」 *** 「何て硬さよ……」 TMIエージェント・カテゴリー5エアロキネシスの早乙女ルキナは空気圧縮で発射したアスファルトの破片が輝く装甲のグレイ・イーターに弾かれたのを見て言った。 「あの輝き……チタンか?」 ルキナと同じエンジェルチームのマイケルが通信で呟いた。 「ブレス攻撃来る!」 チームメイトのカレンが叫んだ。 ルキナは自分に纏っている空気の鎧を操作して加速、グレイ・イーターの熱弾ブレスを回避した。 「マイケル、カレン! もっと離れて!」 ワゴン車に居る二人に向かって叫ぶルキナ。 「少しでも時間稼ぎをしなきゃいけない……悔しいけどあたしにはアイツを倒すことはできない」 連続で瓦礫弾を発射する。金属音を響かせて弾かれる。 「とりあえず……行動を制限できれば」 「バオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」 凄まじい咆哮を放つグレイ・イーター。音の衝撃で周囲の建物は崩壊、待機していた軍、警察の人間は吹き飛ばされる。ルキナは風の鎧が幸いし気絶寸前で耐える事が出来た。 「あ、マズい!」 咆哮で体が硬直し次の動作に移れない状態のルキナ、視線の先に居るグレイ・イーターの口内に燃えるものが見えた。 「サイコマグナムぅーーーーーーーーっ!」 ハリーから学んだ力の操作方法を生かしてエネルギーを圧縮した熱弾に変え放つブレス攻撃。一発一発が戦闘機の爆撃に匹敵する威力を持つ。 「ああああああああっ!」 咄嗟に手をかざして空気操作を行うルキナ。サイコマグナムが衝突。衝撃を受け止めきれずに後方の雑貨店に激突する。 「くぅ……」 ルキナは致命傷を免れたが何度もサイコマグナムを受け止める自信はない。 「撤退しろルキナ!」「退いてルキナ!」叫ぶマイケルとカレン。 「こんな……いつもあたしは肝心な時に役に立てない! 何がカテゴリー5だ!」 「君にしか出来ない事は沢山ある! ここで奴を倒すことだけに拘るんじゃない!」 「そうよルキナ!」 「………………わかったわ」 瓦礫と化した雑貨店から飛び出してマイケルとカレンのワゴンに向かう。そして空気操作でワゴンを浮かせてジェット機めいて飛ばして撤退する。 「ほら、こんな事が出来るのはTMIでも少ない」「サイコキネシスでもこのレベルはほぼいないものね」 「ありがとうマイケル、カレン……あたしまた冷静さを失っていた……」 *** TMI合衆国支部―― 「でかしたぞエンジェルチーム! 奴は君の攻撃を警戒して金属化で重量を増している。侵攻速度は半分以下になった!」 『ですが長官、硬くなってしまっては例のハイパーレールガンの作戦に影響が出るのでは?』 「単純に硬いだけではハイパーレールガンは防がれんよ。問題は効果的な当て方なのだ」 『当て方?』 「奴のコアは心臓か頭部にあると熱源反応から推測される。二つに分けているのだとすれば両方同時に撃ち抜く必要があるのだ」 『つまり真上か真下から撃ち抜く必要が?』 「或いは転倒させてだ」 『では次の作戦はグレイ・イーターを転倒させると』 「ああ、戻ってから話をしよう」 ルキナたちが合衆国支部に戻るとUチームの三人の他に聡明な雰囲気の中年女性、副長官で磁場を操るサイコキネシスのアーニャ・アイゼンハートにカテゴリー5パイロキネシスのイグネイシャス・ファイマンが集まっていた。 「アーニャさん!? 本部から出てくるなんて珍しい……それにアリナ達……平気なの?」 「適材適所というものがあるでしょう? 今回は私の出番って訳。何かあったらジェームズがなんとかしてくれるわよ」 アーニャはジェームズに視線を送って言った。それを見てジェームズは軽く咳払いをした。 「……」 アリナは消えそうな声でつぶやいた。耳を寄せたフローレンスが代弁する。 「役に立てる、とアリナは言ってます」 いつもの張り詰めた空気を発するアリナはそこになく、覇気のない魂が抜け落ちたのような目をしている。 「アリナ! あんたそんな状態で……」とルキナが叫んだ直後、アリナのガントレットが砕けた。拳を握りしめた力で崩壊したのだ。 「問題ない……コントロールができないだけ。あの敵を叩くのならできる」 Uチームのフローレンスと哿の顔を見るルキナ。二人とも目を腫らしていて泣いた後だと推測された。 「……Uチームがいいのならこれ以上何も言わないわ。長官も了承済みっぽいし」 「これで終わってもいい……もう異能が無くなってもいい……絶対にあの敵だけは」 「……」 『心配するなルキナ君、アリナ君が打撃でグレイ・イーターを転倒させたら強制的に本部に転送する』 ルキナにテレパシーを送るジェームズ。 『長官……アリナを酷使しすぎなのでは』 『君の言う通りだ。しかし作戦に参加させなければ彼女はずっとあの状態だろう。全力を出させて落ち着かせる必要があるその為には強大な敵がうってつけなのだ』 『もしアリナの出番がなくなったら?』 『それはその時に考えよう』 ルキナは考える。これまで出現したグレイマン相手に直接戦ったカテゴリー5はアリナとイグネイシャス。二人とも奇跡的に生き残り他の者と力を合わせて敵を倒した。ルキナはその舞台に立っていなかった。 「(駄目よ……余計な事を考えては……ハリーの事もあったじゃない)」 自分に言い聞かせるルキナ。自分自身の中にある英雄願望は身の回りや育った環境によるものだと理解していたがどうしても頭の片隅から消えない。 「(今はまだその時じゃないんだ、あたしの今の力ではグレイマンを倒せないと認めなきゃ……もっと異能を鍛えなきゃ)」 目の前にいる同い年のアリナを一時期ライバルとして見ていた。今は大きく離されていると感じている。それは個人の認識であってTMIのルキナの評価は低くない。様々な事態に対応できるエアロキネシスの異能は重宝されている。 *** グレイ・イーターとの戦闘を冥珂の水晶を通じて見ていた刀耶は興奮して立ち上がった。 「チクショウ! アイツを早く止めないと……!」 「厄介な敵やね」 「俺がここでナイトケースで飛び出したって何ができるかわかんけど……じっとしてられねえよ」 拳を握りしめる刀耶。 「わかるわ刀耶君その気持ち。でも今はじっとこらえるんや、グレイ・イーターをじっと観察するのが大事」 「対戦相手の動きや癖をしっかり記憶する……ゲームと同じっすね?」 「せや。刀耶君はゲーマーとしての能力がナイトケースとバチバチに合ってる。グレイ・イーターの事よう見て脳内でシミュレーションするんや。アタシも出来る事は何でも協力するで」 冥珂はタバコを取り出すも禁煙ゾーンだと思い出し代わりに飴を取り出して口に運んだ。 「このグレイ・イーターの動きについて気になる事とかある?」 「……そうですね~……やっぱりこいつも生き物の動きしてるなぁって。巨大化しても骨格があってそれに沿って関節が動いているように見えます」 「デカくなって更に重くなっても骨のある生物としての形をやめへんよねコイツ。それってどういう事になるかな? 合理的な形をとるならスライムでもええやんってなるし」 「オーグルを取り込んで変形できるようになってもオーグルになったわけじゃないんすよね。あれが仮にオーグルだとしたらあんなに巨大化しないだろうし人間に取り付くでしょうねそれが一番効率的だし。あの姿は取り込んだ人達からの記憶で大きくて強い生物のイメージを膨らませたもの、おそらく恐竜です」 「強くて大きいもののイメージにスライムはないっちゅうことやね。色んなものを取り込んで素材にしてチタン合金の皮膚を持つ恐竜まがいのグレイ・イーターに弱点はあると思う?」 「……あるはずです。地球上の生物を模倣しているのなら!」 「他のグレイマンと違いは……グレイストームは魔法使いで天候を自由に操る事が出来た。グレイビーストは生物を魔獣に変える事ができた自身も魔獣化できていた。グレイ・イーターはあらゆるものを食べて自分の力に変える事が出来る。オーグルを取り込んだことで変形能力を手に入れた。オーグルに変形しハリーに取り付いた」 「う~ん……」 刀耶は冥珂と話し冷静さを取り戻してグレイ・イーターの分析を始める。 「冥珂さん、グレイ・イーターの奴……もしかしてキメラ生物には成れない?」 「ん? ……ああ、なるほど!」 「オーグルと違ってアイツはそれが出来ないっぽい! オーグルの力を手に入れてもそのものにはなれないんだ! アイツがハリーさんの真似をしてもそれは極一部なんだ!」 「それや! だからハリーみたいに空飛んで移動せえへんのや!」 続く
Mar 30, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その4 アリナに受けたダメージを思い出す。いまだに痛みは残りグレイ・イーターの食欲を少し押さえている。 「ガゴゴゴゴゴゴッゴブガッ!」 顎を外しハリーのサイコパワーで無理やりトラックを小さく丸めこんで飲み込んでいく。 「何やってるんだー!」 刀耶は銃撃をグレイ・イーターに浴びせる。 「ギャワワワワー! クソが! 邪魔すんじゃねー!!」 飲み込んだトラックの体積分巨大化するグレイ・イーター。3m程の大きさになっている。 「あれはマズいか?」 「食べさせないように攻撃を仕掛けましょう! 師匠が来たらストライクスマッシュを当てる隙を作ってくれるはずですそれまで粘るのです!」 「オッケ~」 刀耶はナイトケースの銃口8門全てをグレイ・イーターに向ける。 「フルバスター!」 ナイトケースでつくられたエネルギー粒子を圧縮した砲撃を一斉発射する。ストライクスマッシュとは違い刀耶の体力は消費しない。 赤い波動がグレイ・イーターの皮膚を焼く。 「ストライクスマッシュの隙が……いけるか」 「GYAHAHAHAHAHA‼ サイコビーーーーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!」 刀耶がストライクスマッシュの体勢をとる前にグレイ・イーターはハリーのサイコビームを目から発射。 「ぐうううううっ……!」 両腕の装甲で耐える刀耶、ナイトケース内の温度が急上昇。3500度の熱でも平気で耐える設計ではあるが負担は大きい。 「そこまでや!」 スケボーめいてギター箒に乗る冥珂が現れた。空中に浮かんだカードから6本の青白い閃光が放たれグレイイーターの体を削る。 「GYAHAHAHAHA! お前もくらえ! サイコビーーーーーーーーム!」 「効かへんで!」 冥珂の前に現れた黄金のカードがサイコビームを反射。グレイイーターの頭部に命中。 「何だその力……食らうしかないな」 「そう簡単にいくか!」 冥珂の青白い閃光でトラック装甲は徐々に剥されていく。刀耶は冷却をすませストライクスマッシュの準備に入る。 「刀耶君! アタシがアイツの動きとめるからバチコーンて強烈なのかましたって!」 「うっす!」 冥珂のカードが複数飛びグレイイーターを囲む。 「こんな物! 喰ってやる!」 カードに飛びつくもあっさり回避され飛翔するカードから電撃を受ける。 「ギャワワワワワッ!」 「よし! 今だ!!」 盾を大剣に組み換えブースターで突進する刀耶、大きく振りかぶる。 「ストライクスマッシュ!」 大剣から放たれる弧月のエネルギー。対象の全身を駆け巡りピンポイントでダメージを与えることができる。オーグルにターゲットを絞ったストライクスマッシュのエネルギーはグレイ・イーターの全身に広がった。 「トーヤ! 手ごたえがおかしいです!」 リティーシャの声が聞こえる。刀耶の目の前で両手足を広げて仰け反っているグレイ・イーターは崩壊を始めない。 「なにが起きている?」 ストライクスマッシュのエネルギーがグレイ・イーターの心臓部に集まっていく。 「GYAHAHAHAHA! 成程なぁっ! これで俺の中のオーグルを消滅させるつもりだったか。だが残念だったな! ハリーの異能を得たことでオーグルは強化されギリギリ耐える事が出来た、このエネルギーは貰っておくぜ!」 「なん……だと!?」「そんな!」「ヤバいで……」 「学びを得たぞ……異能に魔法とやら……これらでグレイマンに対抗するのだなこの星の頂点生物は。なるほどなるほど……グレイストームのように文明支配もグレイビーストのように繁殖もグレイキャリバーのように抑止力による制圧も面倒だ! 喰って強くなって蹂躙する!! シンプルで圧倒的な破壊を見せてやる!!」 「ストライクスマッシュ!」「はああっ!」 ストライクスマッシュと冥珂の魔法が放たれる。サイコフィールドを張りながら全身に口を出現させ二人の攻撃を飲み込んでいく。 「理解できれば喰うのは簡単……もっとやってこいよ」 「ヤバイで刀耶君……ああいいのうはパワーで一気に叩き潰さんと手が付けられへんようになるで」 「パワーっていってもどうします?」 「あたしが魔法で周辺の車とかぶつけたって決定打にはならんやろうな……アイツを一発でぶっ潰せるような大砲とかが欲しい……戦艦並みの」 「……」 刀耶は京都で戦ったグレイビーストを思い出す。敵が核エネルギーに匹敵する一撃を放とうとした場面が思い起こされる。 「(グレイビーストは膨大なエネルギーを錫杖メイスに込めて投擲してたな……真似できるかな?)」 「アタシは一旦退くことをオススメするで……流石にこのまま戦って無事で済むとは思えへんしな」 「最後に一回だけ試したいことがあるんですが」 刀耶と冥珂はグレイ・イーターの口から放たれる火球を避けながら言った。 「ナイトケースのエネルギーに俺のエネルギー+冥珂さんの魔法でナイトケースが耐えられるギリギリのチャージをしてアイツにぶつけたいんです!」 「一か八かって奴? 今試さなあかんかな?」 「京都でのグレイビースト戦で見たやつなんですが……」 刀耶は冥珂に説明する。 「う~ん……ちょっとオススメできひんな。さっきTMI長官ジェームズから連絡あったんやけど、TMI物理最強っていわれてるアリナちゃんでも倒し切れへんかってんで? 今ここでそれ以上の攻撃できるかな?」 「物理最強っていっても個人の身体能力アップでしょう?」 「えっとな……刀耶君に分かりやすく言うと映画ハイパーマンの主人公とガチの殴り合い出来る程度の身体能力アップやねん」 「ええっ!?」 「だからここでギャンブルせんと退いて作戦立てよ? 大丈夫アイツがこの星の何処にいようがもうアタシからは逃れられへんで仕込みはバッチリや」 グレイ・イーターの周囲が爆発し煙に包まれる。 「撤退や! リティーシャも!」「はい」「あ、はい!」 離脱する三人。グレイ・イーターはしばらく火球をばら撒きながら煙を吸い込む。 「逃げたか……まぁいいこれでしばらくゆっくりと喰い放題だな」 程なくして街には非常事態宣言が報じられ軍と警察によるグレイ・イーター対策本部が立てれる事となり住民は避難を余儀なくされた。 *** 「状況は良くない……」 机に両肘をついて手を組み目を閉じるTMI長官ジェームズ。会議室には20人程のTMIエージェントが集まっている。 「次の手を考えなあかんね」 冥珂は窓際でタバコをふかしながら言った。 「奴の位置は冥珂のおかげで把握している。ゆっくりと街を食い尽くしながら東へ進んでいる……警察は住民は避難と混乱する街中の対処、軍はグレイ・イーターをけん制して誘導、奴の体は徐々に大きさを増している現在15メートルだ」 「あんまり大きくなられるとどうにもならんくなるで」 「解っている……奴を確実に仕留める為の兵器を考え得る人脈全てを使って探している。今のことろ有効だと思われているのがハイパーレールガンだ」 「ハイパーレールガン?」 「合衆国がシークレットで開発していた兵器だ。貫通力であれば核兵器など比べ物にならないそうだ。問題は試作品の為1度外せば第2射まで数時間かかるところだな」 「確実に動きを止め一発で仕留められる体勢から撃ち込む必要があると……どの位の範囲までいけるん?」 「奴を地面に倒せると想定すれば……体長100メートルでも貫通して砕くことができる」 「外しても影響のない射線、設置場所、撃つまでの準備、グレイ・イーターの誘導、拘束……全部クリアしないと無理ってことやね?」 「そうだ……」 TMIのエージェントら、冥珂たちはそれを聞いて沈黙する。 「アリナさんにもう一度グレイ・イーターの相手をしてもらえれば……」 刀耶は発言する。 「……それはかなり難しいな。彼女は先程のグレイ・イーターとの戦闘でかなりの負担を受けた……異能者の力は精神に大きく影響する彼女はしばらく出せない」 「そうなんですか……」 「一部の者には説明したが……現在のアリナ君とハリーの状態をもう一度説明しよう」 ジェームスは壁のパネルに資料を映す。 「ジェームズの状態だが……記憶が無くなった。再生できる異能者と最高の医療器具を使った。だが肉体は治せても記憶はどうにもならない。生まれた直後の赤子と変わらない状態で今は睡眠ポッドに入っている」 「グレイ・イーターに脳を喰われたせいやね」 「ああ、一部残っていた細胞から再生したが記憶だけはどうにもならなかった。彼は今の所再起不能だ」 「アリナちゃんは?」 「PTSDを発症し非常に不安定な状態だ。グレイ・イーターに対抗するために倒したはずの念爆者に対する怒りの感情を無理やり呼び起こしグレイ・イーターを念爆者と思い込む自己暗示をかけて異能を発動させた。自己嫌悪と過去のトラウマと消えない念爆者への怒りで彼女はとても戦場に立てる状態ではない。今はUチームが付きっきりで彼女の傍にいる」 「……そう」とだけ呟いた冥珂はタバコを消して窓を閉める。 「グレイマンが活動を始めたのなら白魔女がしゃしゃり出て来るはずなんやけどジェームズ、どうなってんの?」 「実は……アイスクラーピウスに滞在している。今はセレスティア博士と一緒に居るはず」 「ふ~ん……」 ジェームズと冥珂のやり取りを聞いてざわつくTMIエージェント達。 「で、何やってる訳?」 「勿論グレイ・イーターに対抗する為の準備だとも。しかし……あの者に任せて良いものか疑問なのだ」 「どういう事?」 「白魔女はオーグルのデータに興味を持ちセレスティア博士に近づいて新兵器の開発を提案した。グレイ・イーターに対抗するには数が必要だと、完璧に統率された兵士なら勝てるとね」 「はああああ!? 冗談じゃないですよ‼」リティーシャが叫ぶ。 「解るよリティーシャくん、しかしこれはオーグルを使ったものではなくてあくまでデータを参考にしただけだ。流石に白魔女もそこはわきまえている」 「ちょっと詳しい資料を見せてください!」 リティーシャはジェームズの端末から資料をダウンロードする。 「これは……蝗害!?」白魔女の周囲を舞う夥しい量の白い飛蝗の群れが映っている。 「その通り。グレイ・イーターに対抗する為現れた白魔女は飛蝗使いだ」 「……あ~あ、最悪な魔女が白魔女になったもんやね」 冥珂は大きくため息をついた。 「白魔女が言うには東海岸にグレイ・イーターが到着した時が奴の終わりらしい。だがそれでは被害が大きすぎる……それまでに止めたいと考えているのが大統領と我々だ」 「ハイパーレールガンの準備はいつからできますか?」 リティーシャはハイパーレールガンの画像を見ながらナイトケースと組み合わせられないか考えながらジェームズに質問する。 「既に連絡はしてある、これから向かっても構わんよ」 「わかりました……ナイトケースのストライクスマッシュと合わせればグレイ・イーターを消滅させられるハズです。対象をオーグルではなく、本体に設定します」 「ふむ……では冥珂、刀耶君、リティーシャ君はすぐにハイパーレールガンの準備に向かってくれたまえ、現在侵攻中のグレイ・イーターについてはTMIのエージェントらと軍でなるべく足止めをする作戦だ」 「行きますよ師匠、トーヤ!」 透明の完全紫外線シャットアウトバブルヘルメットを装着したリティーシャはナイトケースハートのドローンに乗る。 「はいはい」「ちょっとまて……ああもういいぜ行こう!」 ジェームズから渡された座標を入力し飛ぶリティーシャ、続く冥珂に刀耶。 *** ――超大型病院飛空艇アイスクラーピウス 「ミス・グラス」 神名・セレスティア・白夜は薄緑色のロングヘアの女性話しかける。 「なにかねミス……えっと」「セレスティアでおねがいします」 ああそうだと手を叩いて薄い複眼模様の付いた眼鏡の位置を治すグラス。 「すまないね、どうも人の名前を思えるのが苦手で。君の姿声匂いは覚えているんだが」 「それで、オーグル兵量産について話をしたいのですが」 「おぉー……ワタシの魔法の力を借りたいってコトね?」 「話が早くて助かります」 「しかしねぇ……この施設に魔法に詳しいものが居ないってのは問題ダヨ? ワタシが退去した後どうするのかね?」 「大丈夫です、データを取るのに必要なだけですから。最終目標到達点は別の所ですし」 「フゥ~ン……いやぁこの施設とんでもないよねぇ。君たちは神にでもなる気かい?」 「まさか、神とは常に目標にすべき存在、自ら至ってしまう事ではないですよ」 「今の時代の人類が禁止しているものがここにはあるよね~まぁワタシはグレイマンを倒したらこの時代のこの世界から退去して白魔女神殿に戻るだけだしどうでもいいか」 「話はこのくらいで、行きましょう」 二人はアイスクラーピウスの甲板に上がる。 「おや? 施設内ではない?」 「ええ、ここはサンプルとデータ管理の保管です。何かあった時困るでしょう?」 セレスティアの操る人型戦闘兵器が4体現れる。 「ミス・グラス、そちらに乗って」「ん?ああ、背面から中に入るのね……ほうほう」 飛び上がる人型戦闘兵器。北に飛び山に向かう。 「これはこれは……こんなもの量産出来てるなら戦争で圧倒できるでしょうね」 「いえ、これは限定的な場面でしか使いません。最前線や過酷な戦場に送り込むのは別のものです」 「へぇ~……」 山の中腹にカモフラージュされたトンネル。そこに二人は入って行く。 「さぁこちらです」 人型戦闘兵器から降りる二人。厳重な金属扉にエネルギーフィールドが張られている。 続く
Feb 25, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その3「お前は念爆者です、わたしはそう認識しました。排除します」 嘘をつけないアリナが自己暗示をかける事は難しい。過去の記憶をフラッシュバックさせ無理やり目の前の相手に定着させ自分を騙す事で自己暗示をかけた。 ――目の前に居るのは念爆者。 アリナの体中の細胞が燃焼するようにサイコキネシスを発動する。 「ぐっはああああああっ!」 アリナの正拳突きをうけて弾丸の如く吹き飛ばされるグレイ・イーター。最初に念爆者に放った正拳突きとほぼ同等の威力であった。 「……この星を統べるほどの力を持ったフォームのハリーにこんなダメージを与えるとは!」 「念爆者覚悟」 「サイコビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!!」 「はあああああああああああっ!」 アリナは正面から正拳突きでサイコビームを迎え撃ち押し返す。 「90%」 「なんだと……ならば最強のサイコキャノンでこの辺り全てを吹き飛ばしてやる!」 サイコキャノンの構えをとった時すでにアリナは目の前に詰めている。そして手刀を叩きつけて指を折り、半身の状態からのカギ突きをグレイ・イーターの腹に打ち込んだ。 「おごっ」 アリナの拳の形に凹んだまま腹部が戻らない。アリナは体を捻り後回し蹴りをグレイ・イーターの胸に叩き込んだ。ブーツの踵が胸にめり込み衝撃の強さから打撃箇所から発光する。 アリナのブーツは崩壊。グレイ・イーターは猛烈な回転をしながら後方に飛んでいく。 岩壁を砕き跳ね飛び肉片をまき散らしながら更に飛んでいく。カギ突きのエネルギーと後ろ回し蹴りのエネルギーはグレイ・イーターの中で炸裂しネズミ花火のように飛んでいく。岩壁に衝突するとカギ突きのエネルギーが反応し肉体を破壊しながら跳ね後ろ回し蹴りは体を更に遠くに飛ばしていく。肉体が崩壊するかアリナの叩きこんだエネルギーが尽きるまで止まらない。 『風雷神殺』アリナが祖父から授かった奥義の一つである。 「ぐうううあああああ……止まらねぇ……痛ぇ……このまま崩壊するしかないのか……いや、ここは弱体化を覚悟で肉体を捨てるしか無い……ほぼ0からのやり直しになるが喰った経験知識は消えねぇからな……」 グレイ・イーターはナメクジのような体でハリーの鼻から脱出。 「あの肉体はもう使い物にならねぇ……最後に残った力で盛大に自爆してやるか」 ハリーの肉体は地面岩壁を跳ねながら徐々に光り輝いていく。 「ククク……」 自爆の命令を実行しようとした時、アリナを気配を感じ慌てて隠れるグレイ・イーター。 「(マズい……今の奴は身体能力が超人……迂闊な事は出来ん……このままやり過ごすしかないか……)」 アリナはハリーの肉体を追いかけながら違和感に気が付いた。 「気が消えた……」 跳ね飛んでいるハリーの肉体を見て呟いた。 「何かおかしい、あの敵から何かが抜けた……」 アリナは徐々に冷静さを取り戻し目の前のハリーの肉体を正常に認識出来るようになっていた。 ボロ雑巾になったハリーの肉体がようやく停止する。アリナはいつでも迎え撃てる残心の構えで接近。サイコパワーが消えていないのを確認した。 「……フロー、哿さん。わたしの座標まできてくれますか」『わかった』『はい』 通信機で二人を呼ぶ。哿の連続テレポートですぐに到着する。 「フロー、お願い」 アリナはハリーの肉体から目を離さずに言った。そして哿は二人の肩に手を置いていつでもテレポート出来る準備をする。 三人はテレポートでハリーの肉体の横に移動。すぐにフローレンスが治療を始める。 「内蔵がズタズタ……全身骨折……でも死んでない、いける!」 フローレンスの異能の力でハリーの肉体は再生していく。数十秒で元の姿に戻ったが目を覚まさない。 「体は元に戻ったけど……後は詳しい検査をしなければわからないですね」 「長官に報告しましょう。ハリーは確保したと」 「グレイ・イーターは? アリナさん?」 哿が聞く。 「どういう訳か消えました」「私もハリーの治療した時に何も感じなかったです」 「ハリーさんの肉体を捨てて逃げたのでしょうか……」 「恐らくわたしの攻撃を受けた時にどこかのタイミングで……」 「そういえばアリナ! 50%超えなんてどうやって!」 「詳しい話は後で」 *** 「トーヤ、その近くで反応があります」 「薄い反応だなぁ……消えそうだぞ」 アリナがハリーを止めた後、リティーシャと刀耶は荒野でグレイ・イーターの捜索を始めていた。 「今トーヤのナイトケースからの情報をドローンに反映させてますが……靄のようにハッキリしませんねぇ」 「そうなんだよなー……今までこういう時どうしてたんだ?」 「街中であれば同じような靄を探しますね……しかしこの荒野では……」 「グレイ・イーターにオーグルの特性が付いて追いやすいと考えてたんだけど中々うまくいかねえよな」 「そもそもこの靄ってどういう時に発生するんだ?」 「オーグルが生命の危機を感じた時ですね」 「なるほど……この周辺で奴は死にかけた。だけどその後の痕跡が無い……どういう事だ」 「考えられるのはここで飛翔する生物に取り付いたのかと」 「鳥とか虫かぁ……大分厄介だな」 「グレイ・イーターは解りませんが、オーグルは知的生命体に取り付きたいという本能があるので虫とかは一時的な緊急脱出手段かと。やはり人間に取り付くことが目的です」 「グレイ・イーターは喰って強くなるっぽいし荒野じゃあ碌なものがないから……人がいて喰うものが沢山ある街に向かったか?」 「それですね。念のためにこの近くに発信機を置いてマーキングしておきましょう、東にしばらく行くと街があるので他のメンバーに連絡をして向かいましょう」 「大丈夫かリティーシャ? もうすぐ日が昇るぞ眠くないか? ミルクは足りてるか?」 「ナイトケース・ハートを装着している間は平気ですよ。師匠を呼んで街に向かいますよ」 「ああ」 ――東の街 「流石に人が多いな……ステルスモードで探索だな」 「今日のエネルギー残量ですと連続使用1時間が限界ですから気を付けて」 「リティーシャはどこか建物の中でサポートしてくれ。ところで冥珂さんは?」 「師匠は先にこの街の核となる場所にルーンを刻みに行きました」 「核?」 「まぁ……この街の人々が何となく共通で認識している街の中心地点の事ですね。魔法などで街全体に影響を及ぼしたければ核を抑えるのが基本ですから」 「じゃあ魔法使いはまずそこを取り合うと? 陣取りゲームみたいだな」 「う~ん……大都会なんかは既に守護する何かが置かれてたり監視役がいるのでそう簡単なものでもないんですがこの国は先住民達の呪術を除いて魔法の歴史も何もないのでそうなりますかね」 「手あたり次第探すわけにもいかないし……どうする?」 「とりあえず警察、救急の回線をジャックして動きをチェックします。トーヤは私のドローンと共に空中から街の様子を観察してください」 「それでいいのか?」 「師匠のルーンから街の人々の感情を揺さぶって、私の回線ジャックで動き、トーヤの目視のデータを合わせこの街のどこで普段と違う事が起きたのか分かります」 「すげぇ……」 「この街が小さいからできるんですけどね。オータムホースの第二地区位ですから」 「あ~なるほど。俺たちのミラージュ探偵事務所は第二地区の様子を把握しているものな」 「ええ、ですから普段と同じパトロールと思って飛んでください」 「了解」 ――中央ショッピングモール 「はいはいここが街の中心やね……」 冥珂はショッピングモールの中心にある噴水を眺めて言った。 「魔法の痕跡も無し全く何も弄られてない街……そのかわり銃弾は飛び交ったんかも知れんけど」 犠牲者を弔う献花台を見つける。 「怪異なんかより銃の方が恐ろしい街……そんな街に異物が入ってきたらすぐ解るやろうな……スフィンクス?」 冥珂はギターケースに入っている猫型使い魔であるスフィンクスに話しかける。 『冥珂、人間の視線を感じるぞ。お前の格好からここでソロライブでも始まるんじゃないかと勘違いしてんじゃねーか?』 「革ジャンにパンツスタイルにギターケース……確かにね。せやけどこうやって注目されてる方が分かりやすいというか」 『銃撃事件が最近あったっぽいから見慣れない奴を警戒してんのもあるかもな』 「さーて映えスポット撮るふりしてルーン刻んで……あたしの魔力放出しよかな。反応があったらビンゴやしなくてもこの噴水に来たくなるはずや」 『扇動の暗示魔法か……近くに魔女やら魔術師がいたら勘づかれて即バトルだな』 「魔法に縁のない街やしどの道わかりやすい反応見れるで」 『いっそここでマジでギターでも弾くか?』 「アホか聞かせられるような腕してへんって! そもそもギター生成しな無いし」 『箒の姿かえて音響は端末から演奏はエアギターでいいじゃねえか適当に人気バンドのメタルのソロギターパートでも流せばどうだ?』 「なんやアンタ今日はやけにノリがええな」 『そうか? 昼食に食べた肉が上手かったからゴキゲンなのかもな』 「なんやそれ……」 冥珂は箒をギターの姿に変え音響は端末から流しエアギターを始める。徐々に感覚を思い出し音響に合わせコードを押さえる。 『傍から見たらエアギターに見えないぞ』 「いやいや、演奏の癖とか真似できひんし実際あたしが弾いたらこんな音出えへんて」 『冥珂……ショッピングモール北側にほんのわずか反応する奴がいたぜ』 「え、早っ……リティーシャと刀耶君に連絡や! スフィンクス頼むで!」 『おう』 冥珂はリティーシャと刀耶に配っているカードから音声メッセージを送る。 「中央ショッピングモールの北側に怪しい反応アリ!?」「トーヤすぐに向かって!」 ナイトケースのブースターの出力を上げて加速する刀耶。ショッピングモールの北側駐車場に膝と拳を着いて着地した。 「トーヤその着地するのなんで?」「前も言ったろ? カッコいいからだって」 立ち上がる刀耶、ナイトケースの装備を飛行モードからアサルトモードに変更する。 「さぁどいつだ?」 スキャンを始める。群集の中ひとり緑色のオーラを放っている人物を見つけた。 「アイツか!?」「確認を!」 ローラーダッシュで一気に加速して対象の前に回り込む。その人物はオーバーオールの小太りの男だった。 「どうだリティーシャ?」「胸にオーグルの反応アリです! ストライクスマッシュで一気にカタをつけるのです!」 「そうはいくか!」 刀耶は右腕の銃口を構えたと同時に小太りの男は口を大きく開け火球を吐き出した。 「くっ!」 刀耶は火球を避けながらストライクスマッシュ銃撃を放ったが僅かにそれ男のハンチング帽を掠めただけだった。 「早えええよおおおおおおおっ! ぜんっぜん喰ってねぇのにモノの数時間で追いついてきやがるとは!」 「グレイ・イーター! お前の中のオーグルが臭うんだよ!!」 「そーかよ! だがお前ひとりで追ってきたのは間違いだったな! おれはTMI最強の男ハリー・ハーマンの異能を手に入れたぜ? おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 腰を落とし全身に力を込める。 「ふううう……まだまだ喰う量が少ない……本領発揮とはいかないか。だが逃げ切るくらいの力はあるはずだ! サイコパワーフラッシュ!!」 全身を虹色に輝かせるグレイ・イーター。 「そしてサイコフラッシュタックルだ!」 瞬間移動めいた速度の体当たりを仕掛けるグレイ・イーター。 「ぐっはぁ!」 ナイトケースの装甲には衝撃吸収膜魔術が刻まれているが限界近い衝撃を受け後方に吹き飛ばされる。 「くっそ……今の一撃で意識が飛びかけたぜ」「トーヤ!何度もアレを受けるのは危険です! 空中に離脱するのです!」 「ふうううん!」 タックルを仕掛けるグレイ・イーター。刀耶は反射的に横に転がって避ける。 「あぶねー……ホーミングなしの一直線攻撃、僅かな溜めアリ……反応できれば避けれるぜ。最高難度のアクションゲーみたいだな」 「なにをのんびりしたことを!」 「飛ぶよりも機動力あげて避けて反撃した方が良さそうだぞ」 「ああもう! もう一度受けたら危ないんですからね!」 刀耶のナイトケースは常人の10倍程度まで身体能力を上げる事が出来る。ハリーの全開時の力にはとても及ばないが刀耶のゲーマーとしての勘と腕前でナイトケースの性能を十二分にまで引き出して戦闘できている。 「ここで奴を叩かないとな! 逃げられて大量に喰われた終わりだ!」 刀耶の体がオレンジ色の光に包まれていく。 『刀耶君、あたしも協力するで。ナイトケースの性能あたしのカードからの魔力供給で補助してあげる!』 冥珂の声がする。刀耶は目の前に映るUIを思考操作してナイトケースのステータスを確認する。 「あざーっす冥珂さん! まるでジョーカー着た時のような性能っすよ!」 『あたしも仕掛けつくったらすぐそっち行くで!』 「はい!」 グレイ・イーターの直線的なタックルを回避し続ける刀耶。 「ぬう……まだサイコパワーの扱いに慣れてない……ハリーの記憶から解っているつもりだったがエスパーの異能とは中々扱いが難しい」 グレイ・イーターは突っ込んだトラックを貪りながら呟く。 「やはり只の人型ではこの星の奴と戦うのに不便だな……デカく大きく硬くならないとな……」 続く
Feb 15, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その2 「9時方向……おらんで」「2時方向発見できず」「私たちを中心に全方位観察しましたがオーグルは発見できず」 「消えただと?」 「既に移動したのかもしれんよ」「なんちゅうやりにくい奴だ」「逃げに徹する行動されると厄介ですね」 「ふむ……奴の目的は喰って食って喰いまくる事だから必ず何かしらの痕跡は残る。それを辿るしかあるまい」 最後にアリナ、哿、フローレンスのUチームが到着する。 「何がありましたか?」アリナがハリーに聞く。 「一度戦闘になったがここで撒かれてしまってね」 「そうでしたか。この後はどうしますか?」 「3チームに別れて捜索したいところだが……今の所追えるのは魔女チームだけだからなそして魔女チームの武器であればグレイ・イーターからオーグルだけを取り除くことができる。魔女チームに捜索を続行してもらいワタシら合衆国チームは上空から、Uチームは地上から魔女チームの護衛としよう」 「承知致しました」 アリナは周囲を見渡す。 「大規模な事故が起きていますね……人々の負の感情が渦巻いています」 「アリナ」「アリナさん」 フローレンスと哿の言葉にハッとして二人に視線を向ける。アリナは事故の光景を見て家族を失った時の場面と重ねてしまっていた。 「……大丈夫ですフロー、哿さん」 「うん」「何かあればすぐに言ってください」 アリナは家族の敵念爆者を倒す為に全ての怒りのエネルギーを鍛えるために使っていた。念爆者を倒した今アリナは感情が不安定になり異能のコントロールにも影響していた。任務に集中している時は安定していて少しずつコントロールも戻ってきていた。 フローレンスは再生の異能を持っている為医学の知識を蓄えている。アリナの状態は良くなっていると考えるかは疑問に感じていた。 「(このままではアリナは壊れてしまうかもしれない。私と哿さんが支えてあげている間は良いけれど……感情のコントロールが上手くなれば異能の強度が戻る訳ではないし)」 アリナの精神が安定したとして、異能は大きく減衰するだろうとフローレンスは考える。アリナの異能は強い怒りのエネルギーによって成長してきたためその矛先を失った今成長する事はない。今のアリナは鍛え上げてきた肉体によって保っているに過ぎないと。 「(何かを敵視してそれを目標になんて……でもそうやってアリナはここまで生きてきたもう止めろなんて言えない代わりに何か目標を作ればいいのか新たな敵を見つければいいのか私にはわからない。体は治療できても私は精神を癒すことができない……)」 哿はフローレンスとは違いどんなになってもアリナとフローレンスに付き添うと考えている。それは必要とされ居場所であるUチームが自分の全てであるからである。 ――日没 「これだけ探しても何も見つからんとはねぇ」 冥珂はタバコに火をつけて言った。 「一応街中にオーグルに反応するようにルーン刻んでおいたけど」 「ただのオーグルであればこんな事にはならなかったんですがね。やはりグレイ・イーターの影響が大きいのでしょう」 リティーシャはデータを端末に入力しながら言った。 「マジで疲れたぜ……グレイ・イーターってのは喰わなきゃ弱るんだろ? なのにちっとも姿現わさねえって不思議だよなぁ」 刀耶は携帯食料のチョコバーを齧って言った。 「ルーンとドローンに調査の続きは任せて一旦支部に戻ろうか、これ以上の作戦は消耗が大きすぎる」 実際ハリーは異能を使い続けて12時間が経ち限界が近かった。 3チーム全員が合衆国支部へと戻る。 「何か動きがあればすぐに知らせるし皆出来るだけ休んどいてな。あたしは2徹くらい余裕やし監視しといたげる」 冥珂はそう言うと支部から出て近くにとってあるホテルに向かう。あわてて刀耶とリティーシャが追う。 「魔女のいう通りできるだけ体力を回復させなければな……Uチームはどうする? 一旦本部に戻るかね?」 「いえ、この近くの宿泊施設に泊まります食事もしたいので」 アリナは窓から見えるハンバーガーショップを見ながら言った。 「わかった、では我々合衆国チームは支部の仮眠室で休むとしようでは解散!」 ハリー、イグネイシャス、ルキナはそれぞれ別の仮眠室へ移動。就寝前にルキナがシャワーを浴びていると突如大きな物音がした。 慌ててバスタオルを巻いてシャワー室を出るルキナ。 「何の音?」TMIの制服に取り付けられた通信機に向かって叫ぶルキナ。 『HAHAHAHA! HAHAHAHAHA!!』 ハリーの声が聞こえる。 「ハリー? 酔っぱらっているの?」 『HAHAHAHAHA! 待ってたぜこの瞬間を!!』 「ハリーじゃない!? イグネイシャス!! 聞こえてる??」 『がは……ルキナ……逃げろ……グレイ・イーターだ……』 次の瞬間、壁を突き破ってハリーがルキナに飛び掛かってきた。エアロキネシスで防御する間もなく首を掴まれる。 「HAHAHAHAHA! マヌケめぇ! このハリーっておっさんは24時間異能を使い続ける事は無理なんだなぁ~マントの隅で張り付いて気配を伺っていたのさ! 寝た瞬間鼻から一気に脳に達した抵抗する時間すら無かっただろうなぁこのおっさん!」 「あが……(そんな! ハリーがグレイ・イーターに!?)」 「このまま縊り殺してもいいがそれじゃあつまらん。ここで喰ってやってもいいがこのハリーって奴の能力に今上書きはしたくないんでなぁ……ってことで実験に付き合え!」 ルキナを掴んでいない左手の掌にサイコパワーを集めるグレイ・イーター。 「頭部だけ残して弁当にしてやるよ!」「んんんんんんっ!」 サイコパワーを充填する左腕が突然燃え上がった。穴の開いた壁から満身創痍のイグネイシャスがパイロキネシスを放った。 「HAHAHAHAHA! まだ生きていたとは! 隣のビルに突っ込んで死んだかと思ってたぜ!」 「生憎ガードの仕方には自信があってね……グレイビースト戦で更に鍛えられてるって訳さ、そうじゃなかったら死んでるぜ」 「HAHAHAHAHA! バカめ、むざむざと殺されに戻ってきやがって。このおっさんはTMIって組織の中でもトップクラスの異能者なんだろう? 詰んでるなお前ら!」 「それはどうかな!」 グレイ・イーターの目の前で爆発を発生させるイグネイシャス。一瞬手が緩んだ隙にルキナを引っ張り抱きかかえ窓から飛び出す。 「HAHAHAHAHA! 逃げても無駄だぞう……サイコボール!」 バレーボール大のエネルギー弾を放つグレイ・イーター、ビルに直撃し破片がイグネイシャスを襲う。 「くっ……バランスが……」 パイロキネシスを利用したフレアガードで破片を弾き飛ばしたものの衝撃までは吸収しきれずに急降下、ハンバーガーショップのガラスに突っ込む。 「HAHAHAHAHA! もう逃げられんぞ……安心しろ首だけ残して即死させてやる! くらえサイコビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームゥッ!!」 「(やべぇ……防ぎきれるか?)」 グレイ・イーターの放ったサイコビームはイグネイシャスとルキナには届かなかった。射線上にハンバーガーショップで食事をしていたアリナが飛び出し両腕でサイコビームを受け止めている。 「20%……」 アリナは異能の発動率を強化してサイコビームを上空に弾き飛ばした。 「……気配でわかりました。ハリーはグレイ・イーターに乗っ取られたのですね」 「ああ、そうだ……最悪の展開だぜ」血まみれのイグネイシャスが答える。 「哿さん、フロー、イグネイシャスとルキナを離れた場所に。グレイ・イーターの相手はわたしがします」 「アリナ!」「アリナさん……」 「大丈夫ですフロー、哿さん、やれます」 構えるアリナ。両腕のガントレットの装甲は破壊されフレームがむき出しになっている。 「HAHAHAHAHA! ハリーの記憶が言ってるぞ! TMI最強は終夜アリナではなくこのハリーだと! それをこのグレイ・イーターが証明してやる!!」 マッハ3で突撃するハリー、しかし簡単に軌道を反らされ後方のビルに激突する。 「なんだ今のは……」 「空手です」 「フウン……なるほど、このハリーもボクシング、レスリングを身に着けている。良いだろうお前の得意なジャンルで圧倒してやろうじゃあないか!」 ゆっくりとハンバーガーショップの前に着地するグレイ・イーター。 「ここの場所は悪いです、ついて来なさい」 飛び上がるアリナ1度のジャンプで数ブロックを進む。 「いいだろう」 追いかけるグレイ・イーター。二人は郊外の荒野に移動する。 「いくぞぉおおおおおおお!」 マッハ3からの間合い詰め、ボクシングのラッシュ。アリナは全て最小限の動きで弾く。 「まだまだまだ! サイコパワーマキシマムドライブ!」 体内のサイコパワーを高速循環させて出力をあげるグレイ・イーター、ラッシュの速度がが二倍になる。 対するアリナは弾きからガードに切り替えラッシュの隙間を狙って突きを入れる。 「ぐっはぁ……」 たたらを踏むグレイ・イーター、ハリーは鼻から出血。 「なるほど……近接戦闘ではお前の方が分があるか……ではこれならどうかな?」 大きく後ろに下がり、両手の人差し指にサイコパワーを集めるグレイ・イーター。 「サイコショットの乱れ撃ちだぁ!」 指鉄砲の構えで両手からサイコパワーの弾丸を連射。アリナはポーチに残ったベアリング弾を指ではじいて撃ち出して相殺していく。 「乱れ撃ちからの~特大サイコショットキャノン!」 両手の指を合わせトラックサイズのサイコ弾を撃つ。アリナは足を前後に開き地面すれすれに伏せて避け飛び上がり踵落としでグレイ・イーターを狙う。 「サイコリフレクター!」 サイコパワーは反発エネルギーに生成した盾を構えてアリナの攻撃を受け止める。アリナの超合金ブーツが砕ける。グレイ・イーターの左腕の数カ所から出血。 「なにぃ……衝撃を受け止めきれないだと!?」 「……50%」 50%まで解放するアリナ、着地と同時にグレイ・イーターに仕掛ける。 「ぐぐぐぐぐっはぁ……」 アリナの打撃を一瞬で100発受けて転がっていくグレイ・イーター。衝撃を中に残す撃ち方をしたはずなのに後方に転がったグレイ・イーターを見て睨みつけるアリナ。 「ふぅ~危なかったぜサイコスキンバリアのおかげで後方に衝撃をいくらか逃がせた……でなければ今頃爆散してるな……なるほど、これはハリーのとっておきを出すしかないようだな。対念爆者用に編み出していた究極のフォームを見せてやる!」 グレイ・イーターの体が青白く輝き始める。 「サイコパワーマキシマムドライブフュージョン!」 「……」 「核分裂をヒントにハリーが編み出したフォームだ! これをやると1週間サイコパワーを使えなくなるそうだがワタシには関係ない!! 行くぞ!!」 マッハ10からの突進でアリナを掴み水平に飛んで岩壁に叩きつける。 「どうだ! お前じゃなくても念爆者は倒せた! そんなに英雄になりたかったのか!」 マッハ10のパウンドを仕掛ける。アリナはガードを固めて耐える。 「違う……」 「TMI最強で英雄でこの星のリーダーはこのハリーになるべきだったんだ!!」 「だったら他のグレイマンを全て倒せばいい、念爆者である必要はない」 「念爆者を倒したお前がTMI最強だと噂されてるのが気に入らないんだよ!」 「わたし一人の力で倒したわけじゃない……皆の力があって運にも恵まれて奇跡が重なっての勝利だった」 「家族が殺されたという理由だけでお前が優遇されてるのが気に入らなかった! ハリーがどれだけ努力して合衆国支部長にまで上り詰めたか解るか!」 「……許せない」 「あん?」 「やはりお前はグレイマン、ハリーの深層にそのような感情があったとしてもお前が勝手に発言して良い訳がない。それとわたしの家族の事を語るな」 「怒ったか? 怒りでパワーアップするコミックのヒーローかな? それで強くなるのらいくらでも怒れ! お前はここで敗北してワタシに喰われる、そしてなりすましてTMIの連中を全員ブチ殺すぜ!」 「……(駄目、こいつの事が許せなくても念爆者に対するような体の底から煮えたぎるような怒りが湧いてこない)」 「HAHAHAHAHA! 念爆者を倒して家族の敵を討ってもここで死んだら意味ないな! お前の家族もお前も無意味な人生だ!」 「無意味……」 アリナの頭の中でこれまでの記憶が流れていく。 「無意味なんかじゃない、わたしは念爆者を倒すために強くなった。そして同じような悲劇を起こさせない! お前が念爆者と同じ道を辿るのなら……」 「ああん?」 「お前『も』念爆者と同じだ!」 アリナの体から虹色のオーラが溢れだす。 「80%」 「これが怒りのパワーアップかぁ?」 続く
Feb 11, 2025
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DHHU外伝グレイ・イーター編その1 シーア財団がいよいよ作戦の大詰めに差し掛かった頃、TMIエージェントのUチーム(終夜アリナ、フローレンス・フランシス、哿 希世美)に緊急招集がかかった。 「長官、緊急招集とは」 『哿くん、詳しい説明は後だすぐに本部から合衆国支部に飛んでくれ』 「了解しました」 ホテルで待機していたUチーム三人はバスルームに繋がっているはずの扉からTMI本部に移動する。異次元に存在するTMIの本部はそれ自体が意志を持ちエージェントを管理している。 「合衆国支部への扉は確かこっちですね」 本部のエージェントと軽く会釈を交わしながら移動する。USAと書かれた扉を開けてくぐると超高層ビルの一室に移動した。 「おお来たかUチーム!」 TMI長官のジェームズ・スチュワートは両手を広げて言った。 「早速ですが長官、話を聞かせてもらいますか?」 哿はジェームズとしっかり目を合わせて言った。 「……ふむ。日本でも重要な任務中だった君たちを呼び寄せたのは……あまりに最悪な方向に事態が進み始めたからなのだ」 「詳しく」 「西海岸でミュータント暴動事件が起きたのは知ってるね?」 「はい」 「その後、ミュータントを見破るのに原種オーグルが有効な事が判明したのも知っているね?」 「はい」 「その協力者として魔女レヴィと弟子と助手を日本から呼び寄せ『クイーン』と名付けたミュータントの首魁を見つけ出す事に成功した。そして捕らえたのだが……」 ジェームズは苦い顔をして腕に取り付けた端末を操作する。 「クイーンはグレイマンの一人『グレイ・イーター』と同化していた。気付いた時には原種オーグルの一部を喰われ逃亡されてしまった……奴はミュータントを吸収し始め急速に力をつけ始めた、TMIエージェントらと魔女レヴィ達で一度は追い詰めたのだがミュータント能力と原種オーグルの力を身に着けた奴は逃げるのも上手くてね。次に遭遇した時は確実に倒したいのだよ」 「ハリー・ハーマン氏がいれば大丈夫なのでは?」 ハリー・ハーマン43歳。アメリカ支部長。サイコキネシスト。半径100mまで干渉できる。体を包み込むようにサイコパワーを纏い超人的な身体能力を発揮できる。飛行能力持ち。深海での活動も可能。能力を発動しない時は常人。TMI身体強化系最強能力者の一人。 「ああ、彼がいなければ一度目の撃破は成しえなかっただろう……捕らえるのにあと一歩届かなかった」 「それで僕たちUチームを呼んだわけですか」 「そうだ、次こそは奴を完全撃破しなくてはならない」 「グレイ・イーターについてもう少し聞かせてもらえますか?」 「うむ、手元の資料だけでは分からない事もあるだろう、質問したまえ」 グレイ・イーターは最初は犬の姿をしていた。ミュータント事件をきっかけに活発に活動を始めた。グレイ・イーターは食べる事で対象を取り入れる力を持っている。完全に消化してしまえばその能力を失い石炭に似た物質を排出する。取り入れた対象の記憶は残る為再現するためにそれに見合ったコストの食事をする。例えばミサイルを取り込み完全消化した後再現の為にそれに近い物質と質量を取り込む。人間を取り込んだ場合は別の人間を取り込むか哺乳類を取り込んで維持する。 「ミュータントクイーンと原初オーグルは既に記憶されてしまっているのですね」 アリナは資料を見ながら言った。 「ああ、消化した後は再現するために大量の人間と動物、無機物を取り込むだろう……念爆者の話していた情報が確かならグレイマンの一人であるグレイ・イーターは他のグレイマンとの決戦の為に自分のエリアを確保するために動くはずだつまり、合衆国を手に入れるつもりだろう」 ジェームズは大きくため息をついて言った。 「念爆者&グレイストームとは違い力任せの大雑把な支配をするつもりなんですね」 「グレイ・イーターは分かりやすいぶん対処がしやすい……初動を抑えれば恐らく最弱のグレイマンだろう。グレイストームは世界征服に王手をかけていた、グレイリキッドは世界大戦を引き起こす寸前まで計画を進めていた、グレイビーストはグレイマンの星とこの星をゲートで繋げる所だった……それらに比べればまだ……な」 「長官、グレイキャリバーは?」 「ああ……グレイキャリバーはTMIが動くまでもなくオータムホースで消えた。白魔女が早い段階で対処したおかげで大した事は起きてない。ただ……」 「ただ?」 「一部は残っているのだ白魔女と同化してね。今の所不安な要素はないと聞いている」 「グレイキャリバーの脅威とは何だったのですか?」 「うむ……その気になればグレイキャリバーは核の雨をいつでも降らせることができたしどんな要人も暗殺する事が出来たとされている。力をつけていればグレイストームに並ぶ存在だっただろう」 「そうでしたか」 「グレイキャリバーについてはもういいかね?」 「はい」 「ではUチームはグレイ・イーター作戦に合流してくれ」 *** ――合衆国TMI支部 「HAHAHAHA! ワタシ達に任せておけ! グレイ・イーター何するものぞ!」 中年体形でツナギのスーツを着た支部長のハリー・ハーマンは葉巻を吹かしながら言った。 「かなりマズい状況やねんけど……ハリーさんは自信満々やねぇ」 隣でタバコを吸いながら魔女・立花冥珂(レヴィ)が言った。 「要するにパワーで打ち砕けば良いのだろう? 喰われずに圧倒すれば!」 「そうやねんけど……オーグルを吸収したのが厄介すぎてね。分裂してバラバラになったら主思考の個体叩かんとイタチごっこになるんよ。もっと恐ろしいのは……」 冥珂は喫煙ルームの外にいるバブルヘルメット(紫外線完全カット)を装着したリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲを見る。 「もっと恐ろしいのはオーグルの特性を持っているのなら知らないうちに誰かに乗り移る可能性があるって事ですね! わたしとトーヤ、師匠は対策できてますけど他の人達はそうではないので」 リティーシャは声を張って言った。 「ここにはカテゴリー5が3人も揃ってる! ワタシ、イグネイシャス(パイロキネシス)、ルキナ(エアロキネシス)だ。ここに更にあのアリナが合流する! 心配無用!」 「いや~強ければ逆にリスクも大きいんじゃねえっすかね? 例えばそのアリナさんとかいう人がオーグルに乗っ取られたらかなりヤバいんじゃないんすか?」 宗像刀耶はソファに座って腕を組みながら真剣な顔で言った。 「心配無用! アリナは常に戦闘状態の異能者。彼女の守りはTMIナンバー1といって良い、あの念爆者の猛攻を耐えきった実績がある」 「他の皆さんは?」 「ワタシは触れられた瞬間叩き潰せるし、イグネイシャスは一瞬で燃やす、ルキナには触れる事も出来ないだろう」 「う~ん……そうですか」 刀耶は膝の上に肘を置いて考える。 「気付かれないように尾行されて隙を狙って寄生されたらどんなに強くても無意味じゃないっすか? いくら異能者とは言え24時間異能を使った状態じゃないだろうし……」 「心配性だねトウヤ」 「オーグルのヤバさは思いっきり身に染みてるんで……」 「魔女のマジックパワーで何とかその辺はカバーしてくれんかね?」 ハリーは冥珂を見る。 「それがねぇ相性が良くないんよ異能者に魔法はかかりにくいし。でも部屋に結界を張るのが一番ベターでええかなと考えてるんやけど」 冥珂は朝タロットカードで占った結果は良くなかった。『最悪な事態に陥るも希望はある』といった内容だった。 冥珂はこれまで蓄えた知識と経験と入念な準備に臨機応変な魔術の行使で事件を解決してきた。だがグレイ・イーターのオーグル吸収は完全に想定外で明確な打開策を出せないでいた。 「……」 冥珂が懸念しているのはグレイ・イーターが『魔法も食べて吸収するかもしれない』点であった。その場合下手に魔術の行使はできない。支援に回る方が無難であると考える。 リティーシャを見る冥珂。 「(あの子が完全覚醒してあたしなんかを超える魔女になれば一番早いんやけど)」 「Uチーム到着しました」 ドアを開けて入ってきたのはアリナ、哿、フローレンスの三人。 「え……」「は?」 冥珂とリティーシャはアリナを見て固まる。 「どうかしましたか?」 「いえ……」「あの……アンタその状態で平気なん?」 冥珂とリティーシャの目には強大な力を無理やり体内に押し込めているように見える。 「この状態?ああ、わたしの異能の事ですか気にしないで下さいこれがわたしの通常状態です。わたしは癖で完全に異能をシャットダウンできないのです、強く意識すれば可能ですがむしろ疲れるのでこの0.1%状態でいます」 「へぇ……100%とか想像もできんけどめちゃくちゃ頼りになりそうやな」 「申し訳ありません、現在わたしは異能の制御が不安定で50%までの解放しかできませんですがチームで作戦にあたればカバーできると思います」 アリナの発言を聞いて哿とフローレンスは『50%でもやりすぎ』と思った。念爆者との決戦で異能者共有状態で三人の思考は一体化した時にアリナは100%解放に達した。あの時の半分の力でも街中で解放するのは危険すぎると二人は思った。 ハリーと同じサイコキネシスではあるもののアリナはサイコパワーを放出する事は出来ない空を飛ぶこともできない。身体能力強化のみであるため暴れ回る訳にはいかない。 「……グレイ・イーターの反応を感知したで場所は……」 冥珂は水晶玉を机の上に置いた。使い魔に街中を探らせていたところ異常なほど喰っているホームレスを発見したのだ。 「うむ! でかした! では作戦開始!!」 ハリー、イグネイシャス、ルキナは異能で飛べるため窓から出る。刀耶とリティーシャはナイトケースを装着、冥珂はホウキをスケートボードのように乗り窓から出る。Uチームは哿がアリナとフローレンス腕を掴んでテレポート、窓の外に飛び連続テレポートで後を追う。 ――街中 「バババババウッ! ババウッ!」 頭部が二つの犬になったグレイ・イーターは飲食店の廃棄物を貪り喰っている。 「うわああああバケモノだああああああああっ!」 人々はグレイ・イーターを見て逃げ出す。携帯端末で写真動画を撮ろうとする者も少しは居たが昔と違いSNSは完全に個人IDで管理されているために炎上狙いではなく記者やフリーのカメラマンが殆どである。 「ババババババウ!」 動画撮っていた男の頭部を噛み千切るグレイ・イーター。首を伸ばし携帯端末をしまい逃げ出す男の足に食らいつき転倒させる。 「ひいいいいいいいいいいっ!」 護身用のスタンガンを放つもグレイ・イーターに通じずそのまま風船のように膨らんだ頭部に丸呑みされる。 「ババウ……お、お……ようやくこの星の言語に慣れてきたな。やはり純原住民を喰うのが一番かミュータントは雑念が多すぎてマズかったからな」 グレイ・イーターは最初に頭部を食べた男の姿に変身する。 「オーグルとやらのおかげで変身変形が捗る捗る。ゲロまずだったが喰った甲斐はあったなぁ~……おや? 早速邪魔者が来たか」 グレイ・イーターが空を見上げるとハリー、イグネイシャス、ルキナの姿。 「グレイ・イーター! 貴様をスマッシュしてくれる!!」 マントを翻してハリーが叫ぶ。 「いいねぇあの男を喰えば俺はもっと成長できる」 「サイコ……ビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!!」 ハリーは目から緑色の光線を放つ。グレイ・イーターは反応できずに直撃。胸に大穴が開いた。 「今のはあいさつ代わりだ!」「痛えなぁ~」 グレイ・イーターは即時再生し両腕を翼に変形させて飛び上がる。 「もっと街中で食事しねえとなぁ」 「待てい!」 マッハ3の速度で飛べるハリーが追う。あっという間に追いついてグレイ・イーターの前に回り込んだ。 「逃がさんぞ侵略者(グレイマン)め!」 「そうかよ、じゃあこれでも受けな! グレイビーーーーーーーーーーーム!」 グレイ・イーターはハリーのサイコビームを真似して体内のエネルギーを圧縮して放出。 「ぬうううう……」 両腕で咄嗟にガードするハリー。分裂したグレイ・イーターはビーム攻撃をしている分身を残し街中に飛んで行った。 「しまったワタシとしたことが! サイコソード!」 右手からサイコパワーで作ったソードで分身を両断する。後ろからはイグネイシャスとルキナが追いついてきた。 「ハリーさん! 奴は?」「どこに行きました?」 「北西に飛んで行った、街の中心の方だ」 「マズいっすね……」「オーグルを感知できる魔女さんのチームを待った方がいいのでは?」 「まだ大丈夫だ匂いで追える、すぐに追わなければ人々の命が危ない!」 マッハ3で街中に向かうハリー。慌てて追うイグネイシャスとルキナ。 薄れかけた臭いを辿り街の中心である大通りに着いたハリー。交差点では数十台を巻き込む大きな事故が起きていた。 「グレイ・イーターの仕業か?」 交通事故で混乱している交差点の傍にある銀行で強盗が起きていた。渋滞の為警察はまだ到着する気配はない。 「こんな時に銀行強盗だと! TMIは警察の協力が無い限り勝手には動かんのだが……見て見ぬふりは出来ん!」 ハリーは急降下して強盗の二人をラリアット。地面に転がすと特殊合金結束バンドで拘束する。 「これでよし……」 「おじちゃん、なにしてるの?」 少年がハリーのマントの端を掴んでいる。 「おおっ!? なんだ子供か、ここは危ない安全な場所に行きなさい」 「はーい……」 子供は走って去っていった。 「ウチの息子もあのくらいの歳だな……さてグレイ・イーターを探さねば」 「やっと追いついた……速すぎやでホンマ」 冥珂、刀耶、リティーシャが到着した。 「おお、来たか! オーグルの探知を頼む!」 「せやね、はよせんとね」 冥珂は眼鏡をかけ、刀耶はナイトケースのスキャン、リティーシャはセンサー付きのドローンを複数操作する。 続く
Feb 1, 2025
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DHHUその38 ――京都・地下都市碁盤の目町 「――以上が報告となります」 冬華、谷川、茉白は椅子に座る華月に向かって一礼した。 「良い経験をしたな冬華、我にはできぬ方法での勇者のサポート見事だ」 椅子から下りて冬華の頭に手を乗せる華月。 「谷川、褒美を取らせる。なんなりと言ってみよ」 「では……華月様の髪を少し頂きとうございます。茉白の美の研究の為に」 「……いいだろう」 華月はうなじから生えている髪の一束を切り取り谷川に渡した。 「こんなにも! ありがたく頂戴致します!!」 基本華月は髪を切った後は自分で消滅させている。ジークベルトが華月の一部を大量に保管しているの知ってから自分の体から出たものは全て自分で始末するようになっていた。 保管物はあまりにしつこく食い下がるので勝手に増やさない事を条件に始末するのを中断した。 ジークベルトはダンジョンで華月が自ら切り落とした髪と手も後で申請していた。 「茉白、お前は何かあるか?」 「いえ、何もございません。先生が望むものが全てです」 「そうか」 ――別室。 「捗りますなぁ捗りますなぁジークベルト殿!」 勝田波留夫は財団と関わったすべてのデータを整理しながら新開発の冬華のボディの設計図を眺めて言った。 「素晴らしい! 流石は天才科学者の勝田さん!! ニューボディのフォルム、最高です」 両手を広げ大きな手振り身振りでいいはなつジークベルト。 「精神的年齢思春期を迎えるであろう冬華たんのこのボディは従来のものより小さくなりますが……より経験値を積める仕様になっています。冬華たんと……例の勇者とのバランスを考えてます」 「ふむ、肉感的過ぎず機械的でもない……超高級サイバネのような存在感を放ちながらも親しみを覚える。細かいパーツは少年勇者の厨二心を刺激すると」 「その通り! 最高最強サイボーグ美少女。冬華たん!! かづたん様と並べば姉妹にも見えますぞー」 「実にいい! 今の華月様の姿で横に並ぶのであればこの冬華のボディこそ最高。親子逆になど見られることはもうないでしょう」 「デメリットはですねぇ……以前のボディ程の拡張製はない所ですかね。前のフルアーマー冬華たんも良かったんですが。その代わり支援ポッドを着けます」 「それがこのシロクマのキャラクターのマシンですか」 「ええ、背負えばバックパックに。抱っこすればぬいぐるみに手を放しても自律して着いてきます。カメラ付きで我々はいつでも冬華たんを見守れます。収納スペースも十分」 「何を騒いでおる」 華月が入ってきた。 「何もやましい事は致しておりませんぞーかづたん様」 「冬華の新ボディの開発状況を勝田さんと話しておりました」 「ふむ……これが良いのか?」 華月は少し首をかしげて言った。 「お前たちの好みは解らん。冬華が拒否しなければよいお前たちに任せる」 「はいいいいっ!」背筋を伸ばして叫ぶ勝田。 「さぁさ、華月様新しい御召し物を用意しておりますので自室に行きましょうか」 ジークベルトは肩に手を乗せて華月を誘導する。 *** ――センジョービル地下 「で、【凶】のダンジョンとやらの痕跡は回収できたのか?」 酒呑童子・仙丈隼磨は褐色で派手な格好のギャル、夜叉童子に言った。 「ダンジョンのものか解りませんが呪符の欠片を見つけました」 「慎重に解析しろ。山の施設でやれ」 「は」 夜叉童子が去った後、仙丈隼磨は秘匿性の高い電話通信を使う。 『……なんだ?』 「久しぶりだな」 『用件を言え鬼め』 「面白い話があるんだが会って話さねえか?」 『……今更どういう風の吹き回しだ』 「そっちにとってもいい話なんだがな。ちょいと新しいプロジェクトを思いついてな。いっちょ噛みしねえかってな」 『何を考えている』 「ビジネスだ。俺は常にビジネス思考なんだよ。儲かりそうだから適任者に話を持ってきた、そういう訳だ」 『いいだろう、いつまでも貴様らに貸しをつくったままではいられん』 「いいねぇそう言うと思ってたぜ」 『では例の山小屋で付き人はお互い一人、十分警戒しろ』 「ああ、解ってるお前も気を付けろよ大天狗」 *** 「32ヒット!」 柄留はゴム弾並みに柔らかくした弾丸で銀行強盗をグレイブラスターで撃ち抜いた。 「全弾急所に命中!」 はしゃぐ柄留の横で愛来薔薇は小さくため息を着いた。 「どう考えても撃ちすぎ」 「大丈夫大丈夫、痛みだけだし。早く手錠かけよ?」 「はいはい」 ミニパトから降りる二人。銀行強盗二人は顔と股間を抑えて呻いている。 「はぁ~い逮捕~只のサイバネでよかったねぇ~怪人化してたら特別収容所にぶち込まれるところだよ」 愛来薔薇は慣れた様子で事務的に犯人に手錠をかけ、柄留は現れた護送車に犯人を押し込む。 「おわったおわった~」 「おつかれ~……ところで勇者くん達の事聞いた?」 「え? どうしたの?」 「ほら先日無事に解決したって話、その後世界中飛び回るんだって」 「え~そうなんだ」 「あんまり興味なさげだね」 「そうじゃないよ、無事でよかったし塞ぎこまないで前を向いてるんだって関心してるよ」 「あんたって時々マジでよくわかんない」 「そう? 悩んでも仕方ない事は悩みたくないだけかなぁ」 「え~~~~~? 例の彼(諸田和音)の事で四六時中悩んでるくせに」 「それは別の問題かな~~~~~~~~~」 「今朝だって旨味パウダー鬼盛りポテトと無臭ガーリックスパイシーチキン1本増しどっち買うかで悩んでたじゃん」 「それは悩むところだよ?」 「やっぱりわかんないわ」 手続きを済ませ愛来薔薇の運転で署に向かう二人。 「そういやさ、ウチの課に新人君が配属されるんだって」 「そうなの!? 男? 女?」 「男だって、将来の幹部候補だから経験積ませたいんじゃないかって課長が言ってた」 「めんどくさそう~……でもすぐにまた転属するんでしょ?」 「多分ね。1年くらいウチにいるんじゃない? テキトーに相手してやりすごそ」 「だね~」 *** ――太平洋上空飛行機内 「あんな巨大な敵を倒せたのが今でも信じれないよなぁ」 宗像刀耶は合衆国に出現した正体不明生物大量発生事件を相棒のリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ、魔女・立花冥珂、TMIと合同で解決し帰国している途中であった。 「グレイ・イーター……恐ろしい敵でした」 リティーシャがつぶやいた。 「大怪獣合衆国横断とか勘弁して欲しかったで……」 冥珂はタバコの代わりにミントフレーバーを吸いながら言った。 「TMIの人達が居なかったら合衆国はもっと酷い事になってたんだろうなぁ」 TMI長官が世界各地からエージェントを集めて指揮をしていた。日本から呼び寄せた終夜アリナが弾丸のように飛び掛かり大怪獣となったグレイ・イーターの顎を撃ち抜いて転倒させた場面を思い出す冥珂。 「オーグルの力はやはり危険でしたね最初から利用するべきじゃなかったんです」口をとがらせるリティーシャ。 「途中までは皆うまくいくと思ってたから余計にあの瞬間は肝を冷やしたわ」 冥珂はグレイ・イーターが突然変異を起こした時に感じた絶望を思い出す。 「合衆国のオーグル兵器化は白紙になるだろうってセレスティア博士が言ってました。結果良かったですよ……」 「あ~久しぶり日本に帰れる~……しばらくゆっくりしてぇな~」 コーラを喉に流し込んで刀耶が言った。 「何を言ってるんですトーヤ。休学してるんですからさっさと復学して単位をとるのです」 「は? いいだろ2週間くらい休ませてくれよ」 「駄目ですせめて1週間。私の仕事の手伝いもあるんですから」 「おまえって本当に仕事好きだよな……そのせいでミルク切らして死にかけたもんな」 「またその話ですか! あんなことは滅多にないですよ今はトーヤがいるのですからその辺のサポートはお願いします」 「さらっと面倒な事言いやがる……お世話しろってかハイハイ」 「そのおかげでトーヤは最新のゲームテストプレイできるのですからWinWinな取引では」 「お、おう……そうだな。それはそう……」 刀耶とリティーシャの様子を笑顔で見つめる冥珂。 「師匠はこの後どうするのです?」 「そうやねぇ……ちょっとオータムホースシティに居ようかなって」 「そうなんですか、師匠の好きそうな街ではないんですけど何か理由が?」 「気になる事がいくつかあってねぇ……少し前に感じた魔女の気配、まだあの街にある気がしてるのと……大きなうねりを感じたんよ」 「うねり……魔女の予感は軽視できませんからね……師匠がいるならちょっと安心します」 「魔女の領域に他の魔女が侵入すると碌な事にならないんだけどね」 「いえ、それでも悪しき流れがきているとしたら阻止しなくてはなりません!」 「ん~……難しい所なんやけど……お節介な性格のせいで魔女界隈から嫌われてるし警戒されまくってるし結果良ければすべて良しって訳でもないのが毎回やし」 「やけに弱気ですね」 「年取ったのかもね、アンタや刀耶君みたいなのが成長してくれてちょっと気が緩んでるのかもしれんわ。一人でやっとった時と違って色々考えなあかん事も変わるしな」 「師匠は背後でドンと構えていてくださいよ。私とトーヤが前面に立ってやりますし!」 「まぁ、そうなるか。そろそろアンタを一人前の魔女にせなあかんしな。アタシも全盛期終わりそうやし今回の事件でどっと疲れたわ」 「まだまだ引退は早いですって! もっと私の活躍を近くで見ていてくださいよ」 「冥珂さんに尻ぬぐいして欲しいんじゃないのか?」と刀耶はすぐにツッコミを入れた。 「な! 失礼な!」 「怒るな怒るな……思いっきりノビノビとやりゃあいいじゃないか。冥珂さんが近くにいてくれてる間はよ」 「いうやんか刀耶君も。だんだんリティーシャの厚かましいところ似てきたんちゃう?」 「いえそんな……でもやれる時にやるべき事を思いっきりやらないのはきっと後悔するんで……」 「そっか。せやな、弟子とその助手の補助くらい任せとき」 *** ――東京の財団ギルド 「良くやってくれた皆……真邪王は封印され【凶】のメンバーは全員死亡。完全に壊滅した」 セイはユウ、ケン、集まったギルドメンバーに言った。 「これまでにない規模の被害が出てしまったが【凶】と真邪王の野望を打ち砕けて本当に良かった」 セイは被害状況と真邪王の封印の事、【凶】の関係者の洗い出しなどを話し、1時間ほどで解散を言い渡した。 ユウとケンは荷物を置いている自室へと戻る。 「なぁユウ……」 「なんだい?」 照れくさそうにしながらケンは不死鳥の剣士のカードをユウに渡す。 「これは! ケンの一番大事にしてるカードじゃないのか?」 「いいんだ。俺にはもう使えない、だからユウに使って欲しいんだ、着装もできるユウならそいつの性能を十二分に発揮できるしね」 「あ……ダメージ受けたらランダムで他のカードを消費する不死鳥の剣士を使って月光姫を使う前に消費したくないのか」 「うん、だからさ。ユウは獅子王を真邪王に斬られて使用不可能になったんだろ?代わりに使ってくれ」 「そうなんだ、あれから使えなくなったんだ。じゃあありがたく不死鳥の剣士使わせてもらうよ」 「龍帝はどんな感じなんだ?」 「全然使いこなせてない……まだまだこれからなんだ」 「そっか……」「うん……」 そこから沈黙する二人。お互いカードのメンテナンスを行い始める。 「あの……ハオランの事残念だったな」 「あ、うん……俺がもっと強ければ……」 「仲間って……凄く大事だよな。出会いも絆も」 「うん……ケンは色んな凄い人と組めて良い経験になったね」 お互い自分のカードを触りながら話す。 「本当に勇者の幸運に感謝してる、最高の出会いがあった、だから俺は成長できた」 「俺も最高の仲間に出会って最高の絆を築けた。だから成長できた」 「ユウ、これまでの事すまなかった。これからは兄弟勇者として力を合わせて頑張ろう」 「うん! 嬉しいよケン、そう言ってくれて。俺は今までケンの足を引っ張ってばかりいるから嫌われてるんだと思ってたよ」 「俺はバカだったんだ、自分に出来る事、ユウに出来る事を考えずに……」 「いいんだ、俺が未熟でイライラさせてたのは本当だし。【凶】の残党と世界中に散らばっている真邪王の欠片が原因の突発的発生ダンジョン処理、まだまだ勇者には仕事が一杯あるから一緒にやっていこう!」 「ああ!」 ユウとケンは目を合わせて大きく頷いた。 終
Jan 10, 2025
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DHHUその37 龍帝のブレスを背中に受けて加速したユウは真邪王の顔面に蹴りを叩き込む。ブレスのエネルギーが足から伝わり真邪王の顔面から黒いオーラが放出される。 「ぎいいいいえええええええああああああああああっ!」 「どうだ! 龍帝のブレスは邪悪な者にしか効かないんだ!」 「おのれぇ……こうなったら……」 床に激突して転倒する真邪王、素早く立ち上がり回転を始める。徐々に速度を増し独楽のように高速回転。 「この場にいる全てを無差別に斬りまくってやる!」 シェルターの壁、棚など所かまわず切り裂き始める。 「いくら結界の力が強力でもあんなに暴れられたらまずいね」と才賀。 「どうする……動きを止めなくては」ドウェイン。 「今は無差別攻撃だろ? じゃあ何かに狙いを定めさせてユウの魔眼でやれば」ハオラン。 「つまり?」 「囮になるって事だぜ。チャンスは一度きり、絶対に外すなよユウ」 「え? え?」 「凄剣イクスバーンいつでも撃てる準備しておけよ!」 スライディングで真邪王に接近しながら軸足を狙うハオラン。 「甘い! 飛び上がればいいだけの事!」「そうかよ! だが俺もそうするだろうと思ってたぜ!」 全身のバネを使ってしゃがんだ状態から飛び上がり空中に回避した真邪王の足に飛びつくハオラン、途端に回転速度が落ちていく。 「バカめ! この状態で邪腕剣は回避できんぞ!」「いいんだよ!」 足にしがみついたハオランを狙い逆手に持った剣を突き下ろす真邪王。ハオランは直剣で受け流す動作を取るが邪腕剣に耐えきれず直剣は折れ肩から胸に突き刺さった。 「ギャハハハハ!」「ぐぅ……」 そのまま床に落下する二人。 「ぐっ!? 抜けん! それにこの感触、貴様……」 「逃がさねえぞ! ここが俺の人生のクライマックスなんだからよぉ!」 「ハオラン!」叫ぶユウ。 「撃てユウ! 魔眼を使って確実に!」 「そんな……でも!」「でもじゃねえ! 俺の覚悟を無駄にすんな!!」 「うあああああああっ! 凄剣イクスバーン!!」 龍帝に強化された凄剣イクスバーンの崩壊波は真っすぐにビーム状に黄金の閃光となり真邪王の心臓を貫いた。 「gaaaaaaaaaaaaaaaaaa! 馬鹿な! 心臓が……そうか……」 全身から黒いオーラをまき散らして仰向けに倒れる真邪王。 「ハオラン!」 駆け寄るユウ。真邪王に貫かれた胸からは血液が殆ど出てない事に気付く。 「え? なにこれ! どうなってんの?」 「へへ……実はよ……心臓が無いんだわ」 「え……」 「最初の邪腕攻撃で俺の心臓は潰された。才賀さんがネクロマンシーを使って仮の生命維持してくれたって訳なんだ。どの道長くは無かったんだ最後にこうやってクソッタレに一矢報いて死ぬ前に別れの挨拶できる……出来すぎだぜ」 「そんな! そんなああああああああっ!」 「へへっ……そんな顔すんなってユウ、お前は最高の勇者だったぜ。お前と組めてよかった、楽しかった」 「駄目だ駄目だ! 今治療のカードを使って……」 「無駄だ……俺の心臓は戻ってこない、もう死んでいるんだ」 「うああああああああああああっ!」 「姉貴によろしくなユウ、最後に大仕事やってのけたって言っといてくれよな」 「わかった、わかったよおおおおおおおおおっ……」 *** 魔王最終ダンジョンの玉座のジンガは最後のコピーを使う。 「京都で得た最後の切り札……酒呑童子コピー。これで決着をつける……」 波動を探るジンガ。 「……真邪王の奴、追い詰められてるのか? 呪力が乱れている、奴はしたたかだ、危なくなればこっちのダンジョンに来るだろう」 しかしそれは出来なかった。邪体を封じているシェルターに閉じ込められたことをジンガは知らない。 「早々に決着をつけるか……『領域酒樽発動』」 床に手を着けるジンガ。酒呑童子の能力である領域酒樽をダンジョン内に展開。酒気で満たしていく。 「防御不可能、回避不可能の広範囲必中攻撃……恐ろしいぜこれは展開されたが最後本体を叩き潰さなければどうにもできないぞ~……」 ――ダンジョン内 ケンは冬華、谷川、茉白と無事合流していた。 「うっ……これは……」冬華に支えられているケンが言った。 「これはもしや酒呑童子の?」「領域酒樽だと思われます」谷川と茉白。 「私の魔力放出範囲を広げます、みんな私の近くにきて……これでダメージは相当に抑えられるはずです」冬華が言った。 「酒気を浴び続ければ1分程度しかこの状態は持ちませんが」 「使い捨てのアーマーを複数使えば……」 谷川は大量に得た怪人の血液から人数分のアーマーを3着は作れる事を説明した。 「1分以内にジンガの元にたどり着いてアーマーを着て即戦闘……か」 ケンは三人の姿を見る。 「この場で皆さんを運んで高速移動できるのはこの茉白。皆さんを運びます。変形、運搬モード」 車輪のついた4足に変形する茉白。背中に谷川、谷川の右腕に冬華、左腕にケンがしがみつく。 「ジンガは動く気配はないですね、行きましょう茉白」冬華はジンガの反応を見て言った。 冬華の放出限界まであと20秒の所でジンガの待つ玉座のある広間にたどり着いた。 「ヌウウウウウウウウウウウンッ!」 金棒を持った筋骨隆々の二本角ジンガが飛び掛かってきた。受け止めたのはケンの月光姫。 「酒螺掌!」 ジンガが手をかざすと掌から酒の渦巻きが発生し月光姫を吹き飛ばす。 「酒は力、万物酒に変えればそれは力に変わる。京都で酒呑童子に敗北し学びえたこの領域酒樽の中では全てのものが弱化する!」 ケンは酒を浴びた月光姫の動きが鈍くなったのを感じた。 「いけません、みなさん私のスーツで防御を!」 谷川が全員に布をかぶせるとたちまち全身スーツとなって身を包み込んだ。 「これでも1着30秒持てばいい所ですが……」 「やるしかないですね……」 冬華は血液カプセルを噛み砕いて魔力を補充する。 「茉白、冬華様のサポートを。私はケン君を守ります」「はい先生」 ジンガはケンに狙いを定める。 「徹底的に! 勇者を狙って潰す! 後の奴らなど放っておいてもダンジョンは消せねぇ!」 怒涛のラッシュを仕掛ける酒呑童子ジンガ。月光姫を自在に操りケンは自分に攻撃を向かわせない。 「酒流走」 酒の水流に乗り足場を増やして多角的に攻撃を仕掛ける。水流は月光姫に降り注ぎダメージを与えていく。 「クソ! この酒を吸収して月光姫の魔力変換するには少し時間がかかる……それに量が多すぎる」 「ギャハハハハハ! ダンジョンにおいて最強のコピー体だ!」 横から冬華の波動弾の牽制が入るも金棒で受け止める。 「解る解る、手に取るように空間を把握できるぞ……離れていても反応できる」 月光姫のエネルギーソードを軽く回避し酒を浴びせかけるジンガ。 「しぶといなその召喚者……流石テメェの切り札って訳だ」 「月光姫は負けない……負けないんだ!」 その様子をしっかりと観察する冬華。 「(いつかくるかもしれない本物の酒呑童子との対決の為にもデータを取らなくては)」 ケンから月光姫は白峰家をイメージして発現させたと聞いていた冬華。動きからすぐに華月がモデルだと解った。 「(この場合お母様よりも雪名や吹雪の能力の方が有利……)」 冬華は冷凍エネルギーを体内で生成し始める。 「ケン! 吹雪のように戦うのです! 出来ますか?」 「……!? なるほど、そうか!」 月光姫は後ろに下がりドレスアーマーをパージする。再構築したドレスアーマーは青白く輝き冷気を放ち始めた。 「月光姫は四元素を自在に操る!」 先の戦闘で苦しめられた吹雪のダイアモンドダストモードの再現に入る。 「酒が……凍る……」 凍結した酒気は分解され氷気に。ジンガが酒気を放てば放つほどダイアモンドダストの勢いは強くなる。 「火を使えば一瞬でテメェら爆死させられたのによぉ……どうやら先に吹雪を出したのは間違いだったな(サイバネを無視して先に勇者に酒呑童子を当てれば良かったな……)」 先にコピー酒呑童子とケンが当たってた場合、月光姫は完成に至らず不死鳥の剣士では相性が悪く撃破するのは難しかった。運よく冬華がジンガとダンジョンで初遭遇して吹雪のコピー体を使わせた事が功を奏した。 冬華はケンとジンガの様子を録画し続ける。 「(これが勇者の幸運の力……私が先にコピー吹雪と対峙した事が結果、月光姫を生み出す流れとなった。そしてコピー酒呑童子に対抗できるように)」 ジンガは酒気を浴びせ続けていたが突如距離を取った。 「酒気だけがコイツの力じゃねえ……」 大きく酒気を吸い込んだジンガの体が一回り大きくなる。 「シンプルにパワーアップだ! 小細工が通じねえのなら解りやすくねじ伏せにいくぜ」 「む……」 未来予知の魔眼で突進してくるジンガを見たケンは左に回避する。ダイアモンドダストで凍り付く前に痛恨の一撃を叩き込む気でいる。 「これでまた形勢逆転か? お前は今他のカードを使えない、自身を守るために気を使い仲間に守られなくてはならない」 「私を忘れてもらっては困りますよ」 茉白のパーツを取り付けた冬華がジンガを睨む。 「ふん、酒気で碌に動けねぇポンコツなど眼中にねえ」 矢のような突進で冬華に迫るジンガ、金棒の振り下ろしと同時に酒気ブレスを浴びせかける。谷川のフード付きボディスーツは一瞬で溶解、冬華のボディから煙が上がる。 「何!?」 冬華の左肘に取り付けられた茉白の予備腕がジンガの右腕を掴んだ。触れた箇所から凍結を始める。 「どうですか? コストは悪いですが私も直に触れれば魔力に干渉する事も可能。酒気で溶けるよりも速く凍結させます」 「テメェ!」 冬華が魔力を冷気に変換できるなどジンガには予想外だった。事実ダンジョンに入るまでは戦闘で使用できるほどの強力な変換は出来なったがコピー吹雪との戦闘経験が冬華を刺激し完成させるに至った。 左拳で冬華を振り払うジンガ。パージした茉白の腕はジンガの右腕を掴んだまま凍結を続ける。 「無理に剥そうとすると右腕ごと崩壊しますよ」 「……やってくれたな」 「たあああああああああっ!」 ゼクスミニアドを月光姫に持たせジンガに仕掛けるケン。 「ぬぅ……」 「ここで一気に決める!」 離れようとするジンガ、後方からマニュピュレーターを伸ばす谷川。 「うぜぇ!」 酒気で払うジンガ、体勢が崩れた所に月光姫の赤黒いオーラを纏った中段回し蹴りが炸裂、凍結した右腕を粉砕、金棒が床を滑っていく。 「ぐぎゃああああああっ!」 「終わりだ!」 「ここで終われるか! 酒樽領域出力全開! 酒の津波でダンジョンごと溶かしつくしてやるわ!」 ジンガの左手が床に触れる直前、飛翔してきた茉白のチェーンソー腕によって切断される。 「なんだとおおおおおおおっ!?」 「やりました」 既に谷川のスーツはなく、酒気でボロボロになりながら力を振り絞りチェーンソー腕を飛ばした茉白。その場で膝をつく。 「馬鹿な! こんなっ!」 「撃槍! ゼクスミニアド!!」 螺旋状の光帯を纏う槍。それを持った月光姫は華月を思わせる背中と足裏の魔力噴出によって爆発的加速。 「ちくしょおおおおおおおおおおっ!」 防御も回避も間に合わないジンガ、心臓にゼクスミニアドが突き刺さる。 「ごふぁ……これで……全て終わりだと思うなよ……真邪王いる限り再び魔王は現れる」 「その時はまた! 勇者と仲間がお前たちを倒す!!」 「ギャハハハハ……」 ゼクスミニアドの崩壊波で塵になっていくジンガ。 「終わった……」 「まだです勇者ケン、脱出しなければ」 冬華が言った。 「残りの血液カプセル全てを使用して全員を抱えて脱出します」 ドレスパーツは崩壊しほぼ素体状態の冬華。 「魔力放出……さぁ皆行きましょう」 球状の魔力を放出して生命維持空間を作り出す冬華。ケン、谷川、茉白を抱えて飛ぶ。 「津波が来ますしっかりと捕まって」 加速する冬華、穴の開いた壁面から脱出、直後円錐建物は大量の酒をまき散らしながら崩壊していった。 「やった……ついに魔王を……【凶】を壊滅させたんだ……後はユウが……」 ケンは崩壊するダンジョンを見ながら意識を失った。 丁度その頃、ユウも真邪王を撃破していた。 冬華はそのままホテルに向かって飛びながら財団の者に連絡を入れた。 続く
Jan 4, 2025
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DHHUその36 着装を試すか? ケンの頭をよぎったがそれにはまずミスリルの鎧を解除しなければならない。今の状況で着装を失敗すればそれは死を意味する。 「(不死鳥の剣士では俺の理想の動きを再現できない……だけど今あるカードで不死鳥の剣士より強いのはもう無い……!)」 コピー体吹雪の連続攻撃によりケンのカードデッキは最後の一つ半分まで減っていた。 「(このままでは全てのカードが……全ての……カード?)」 ケンは何も描かれていないブランクカードの存在を思い出した。 「(ブランクカードなら消費されない……だけどこのままじゃ使えない……)」 遂にマシンカウボーイのカードが消費されケンは機動力を失った。 「ハハハハー! チェックメイトかぁ?」 「(どうする……ここで機動力のあるカードを作ってしまうか? でもそれじゃあ奴に勝てない……でも俺にこの場で不死鳥の剣士を超えるカードを作れるのか?)」 ケンの頭の中に目の前の敵に対抗できる者のイメージを浮かべる。 「(勝てる存在は居る! だけど俺が……俺なんかが再現できるのか?)」 下手に作成してイメージと違った場合ケンは自分を許せないと考えた。唯一無二で最高で最強の存在。従者の人達が人生をかけて推す気持ちが理解できた。『あの方に出会えたこと、関われたことが奇跡なのだ』と谷川が言っていたのを思い出した。 「(谷川先生は華月さんを見て理想の存在のインスピレーションを得て茉白さんを作った……茉白さんは華月さんのコピーじゃない。谷川さんの想いを込めた魂の傑作……)」 ケンは考える。 「(谷川先生は華月さんを作るのではなく自分の理想を追い求めた……冬華さんも華月さんになろうとしてる訳じゃない……じゃあ俺も華月さんを作ろうなどと考えるのは間違いなんだ)」 ケンは華月の周囲の人々を思い浮かべる。 「(ジークベルトさんは華月さんに自分の理想を押し付けていなかった。かといって全行程の下僕になってる感じじゃなかった。寄り添ってお互い支え合う夫婦だった。ジークベルトさんの中にも理想の華月さんがいるはずなんだ)」 ケンは歯を食いしばる。 「(くやしい、俺には人生経験が足りない! 子供だ!)」 ふと京都で華月の従者・勝田波留夫と話した事を思い出した。 『君は自分が子供だからって焦る必要はないさ。子供には子供にしかできない柔軟な発想と自由さがある。それは大人になってしまえば失われるものでね。幼女化したかづたん様を見ているとひしひしと感じるよ。子供である事、それは弱みだけではない、強みもある。要は活かせるかどうかなんだね』 ケンは思い出す。 「(子供状態の華月さん、力を解放して本来の姿になった華月さん……)」 成人状態の華月の存在感は圧倒的で初めて出会った時にあの状態だったのなら只々圧倒されまともに会話などできなかったとケンは考えた。 「(俺より年下の子供の姿だったからまともに話せたんだ……じゃあ俺がイメージして作るのは子供の華月さんなのか)」 一方で圧倒的力に魅了されたのは成人状態の華月。 「(でも、華月さんが子供の姿のままなら凄く強い綺麗な女の子で終わったかもしれないんだ……脳を焼かれるほどの衝撃を受けたのは成人の華月さんの姿!)」 ならばどうすればいいか。 「(華月さんを再現できないのは当たり前ならば俺の作れる華月さんをイメージした最強のカードを作れば……超加速爆発力に加え臨機応変に対応できる柔軟さ。そして大事な事は見た目が最高な事)」 少年のケンにとって好みの異性の形を作るのは抵抗があった。ならば最高に好きな物の形にすれば良いのではないかと考える。 「(最高にカッコいいキレイな……変形する……)」 冬華の姿が思い浮かんだ。 「(冬華さんも一つの答えだ……であれば……)」 しなやかな流線形、ボディは金属質。夢中になったヒーロー物のドラマシリーズの主人公のメカ。それに華月のイメージを合わせていく。 カードに画像が浮かび始める。 「(デメリットがあればより強力なカードになる。このカードのデメリットは……このカードを召喚する場合手持ちとデッキ全てのカードが使えない……とか)」 最強の切り札にすべく設定をしていく。だがそれは同時に不死鳥の剣士との決別を意味する。不死鳥の剣士のデメリット、ランダムでカード消費で切り札を消してしまう場合があるからだ。 「(不死鳥の剣士は……ユウに譲ろう。今までありがとう……)」 「何かわからんが! 切り札は切らさせねぇっ!」 冷気を纏った斬撃を繰り出すコピー体吹雪のジンガ。 「くううううううっ!」 ゼクスミニアドで受け止めるケン、冷気が全身を襲う。 「ぐうううううう……」 「このまま凍って砕けちまいなー!」 「あと5秒……持ちこたえればカードは完成できるのに……」 全身の感覚が薄れていくケン。意識が朦朧とし始めた時、銀色に輝くビットが飛翔しジンガの腕に向かって光線を放った。 「クソッ! 邪魔がはいったか!」 円錐の建物に入った際に冬華が放ったビットの一つ。それがケンにたどり着いた。 「冬華さんのビット!」 「あのサイバネめ思った以上に厄介な存在だな……だがここで勇者の窮地に駆けつける事は間に合わなかったな!」 再びダイアモンドダストモードも入るコピー体吹雪のジンガ。ビットはケンの脇を支え何とか立たせている。 「冬華さんが間に合わなくても俺はここでお前に勝つ!」 震える手でカードを構える。 「召喚! 月光姫!」 流線形ボディのマシンと人体が見事に融合されたデザイン。シルエットはドレスを着た白峰華月。顔は赤く光る双眸のみであり流麗なカーブを描いた輪郭。頭部は髪をモチーフにした兜とマニュピュレーター。胴体部には余計な装飾はなく、両腕は裾が広がったデザイン腰から足にかけては後部のドレス部分は長く裏側にビット。前部は短くブーツを模したデザイン。 「なんだそりゃ! ガキの見る漫画に出て来そうだなぁ!」 「言ってろ。月光姫はお前の想像を凌駕する」 月光姫が手をかざす。ダイアモンドダストモードの冷気は吸い込まれるように周囲に広がっていかない。 「あん?」 「月光姫はとても高コストなんだ。お前の力を吸い取って利用させてもらうぞ」 「バカめ! 勇者と言えど俺様の呪力を大量に吸収すれば……」 月光姫に黒紫の光の翼が生えていくのが見える。 「例えお前のエネルギーが邪悪なものであっても月光姫は利用する」 「なんだと……? じゃあこれならどうだ!」 巨大な氷塊を形成するジンガ。氷の太刀で突いて月光姫を狙う。 「粉砕するまで!」 腕の袖部分から見える銃口から炸裂弾を発射、連続で撃ち込んで氷塊を砕きジンガのダイアモンドダストを削る。 「ならば直接破壊するのみ!」 氷弾を飛ばしながら接近、太刀を上段から振り下ろす。月光姫は掌で形成した青白いエネルギーで太刀を受け止め赤黒いエネルギーを纏った右足でジンガを蹴った。 「(もっともっとだ! イメージを膨らませろ、もっと月光姫とシンクロしろ!)」 ケンは魔眼を発動させながら月光姫とリンクする。 月光姫の腰部のスカート状の装甲が砲塔に変形。二門から赤黒い波動が放たれる。 「こんなものおおおおおおおおおおおっ!」 多重構造の氷の盾を展開するジンガ。月光姫の波動弾は全ての盾を破壊してジンガの肩を掠めた。 「お前がダンジョンからエネルギーを得ているなら俺の月光姫はお前から吸い取る。お前がどんなに強くなろうとしてもそれを超えてやる!」 「ハァ~……何を勝った気でいやがる。このコピー体吹雪を倒したとしても俺には最後の最強コピーが残ってる……その気になればこのダンジョン内全ての奴を無差別に処理できるって解ってないよな?」 「それが本当だとしても今しないって事は相当なリスクがあるんだろ?」 「……ククク、流石は頭が切れる方の勇者か」 冷静に判断できる状況になれば勇者ケンは父のセイよりも兄のユウよりもスペックは高い。 「認めよう勇者、お前は確かに俺を追い詰めている。だが、まだ終わってねぇ勝負というものは最後まで解らんものだからな」 「……ああ、もう俺は最後の最後まで欠片も油断しない」 「このダンジョンでは……俺は負けるかもしれねぇだが外にいる真邪王ともう一人の勇者はどうだ? お前が俺を倒したとしても真邪王が勝てば泥沼の戦いは続く。逆もだ」 「俺は勝つ! ユウも真邪王に勝つ! 信じるだけだ!」 「(……ゆさぶりにも動じなくなるとはガキとは思えねぇ存在になったな)」 「これで終わりだ!」 突進する月光姫、ジンガの首を片手で掴んでダンジョンの通路を飛んでいく。エネルギーを吸い取り光の羽は一層輝きを増し加速する。 「剥せねぇ……」 壁に叩きつけられるジンガ。クレーター状に壁は崩壊。円錐建物の外に放り出る。 「が……」 ジンガを掴んだまま地面に向かって流星めいて急降下片足をジンガの首に当てそのまま激突する。 「はがぁっ……」 首から全身にひび状に月光姫のエネルギーが広がていく。離脱する月光姫、その直後赤黒い光の柱を放ってコピー体吹雪のジンガは爆散した。 「はぁはぁはぁ……やったぞ……」 戻った月光姫がケンを支える。月光姫召喚中は全てのカードを使えない消費した状態。ケンはゆっくりと腰を下ろし少し体を休ませることにした。 「ユウ頼んだぞ……こっちは任せろ……」 目を閉じて呼吸を整える。 *** ユウのブランクカードが光り輝く。浮かび上がったのは黄金に輝く東洋龍。 「……龍帝」 呟くユウ。カードから召喚された龍帝、体長10メートルを超えている。 ユウ、ハオラン、才賀、ドウェインの体が黄金色に輝く。 「なんなのです! その龍は!」 「覚醒勇者の力を増幅させている、真邪王! お前に勝ち目はないぞ!」 ハオランが叫ぶ。 「黙れ黙れ黙れ!」 無数の触手を伸ばす真邪王。才賀の骨盾が受け止め影からドウェイン、ハオランが飛び上がり触手を切断。たたらを踏んだ真邪王にイクスバーンを構えたユウが肉迫。 「やあああああああああああああっ!」 「くっそおおおおおおおおおおおっ!」 切っ先が真邪王の体を掠めて黒いオーラをまき散らす。 「今四人は強い絆で結ばれている。以心伝心、真邪王お前は詰みだ」 ドウェインが言った。 「黙れなのです! 人間無勢がこの真邪王に……!」 刃物のように鋭い崩壊波を走らせる真邪王。左右に飛ぶ四人、漂う龍帝の体を足場にして真邪王に再び攻撃を仕掛ける。 「ぐううううっ……」 四人の攻撃が真邪王の体を削る。 「人間の力を舐めるんじゃないよ! その邪腕、使わせないよ!」 才賀は骨武者飛び上がらせの上から大量の付与矢を放つ。 「ぎゃあああああああああっ!」 大量の矢を受け膝をつく真邪王。 「(ちぃ……ダンジョンからの供給が追いつかない……ダメージ修復で精一杯とは)」 「終わりだ真邪王!」 「それはどうかなぁ!」 体から延ばした無数の触手、翼、角、尾を全て収納する真邪王。右腕の邪腕は消え左腕の隻腕となり漆黒の禍々しいオーラを放つ剣を持つ。 「呪力をすべて体の中に押しとどめた。ダンジョンからの供給で進化する体を燃焼に変換。膂力、体力、再生力に回した。人間は脆い、真っ向からの圧倒的力の前には成す術がだろう?」 もはや目暮沙那の姿ではなく、誰でもない少年の容姿に変わっていた。 「……」 「力でゴリ押しってのは獣のようであまり好きじゃないんだがたまには良いだろう」 瞬間移動めいた速度でユウに接近する真邪王、なんとか反応できたユウはイクスバーンで邪腕剣を受け止める。 「ムン!」「くっ!」 獅子王の肩部分の装甲が切り裂かれる。 「!?」 真邪王の肩に獅子王の装甲によく似たものが出現した。 「クククク……邪腕剣に斬られたものはこの真邪王のものになる」 四人は距離を取る。 「これでお互い下手に出れなくなった訳だ……」 「獅子王の鎧を切り裂くなんて」 「本命はそのイクスバーン。破壊して真邪王が頂くつもりだったんだがな……」 「邪腕剣の方こそイクスバーンで破壊してやる!」 過去干渉の魔眼を発動するユウ、真邪王の浮かび上がった邪腕剣の側面にイクスバーンを叩き込む。 「おっと……手がしびれるじゃないか」 「流石に硬いか」 「今のは賢明な判断だったな、もう少し踏み込んで俺の首を狙っていたら相打ち覚悟で邪腕剣を突き出してた所だぞ? お前は過去干渉の魔眼を発動させた際の行動が読みやすすぎる。最強の後出しだろうが相打ち覚悟の攻撃は避けられん」 「……」 その通りだとユウは思った。真邪王には魔眼発動は感知される、対処もとって来る。 「(慎重に使い所を考えなければ負ける)」 「まずは一人づつ始末していくか~?」 ハオラン、ドウェイン、才賀を見る真邪王。 「龍帝! ブレスだ!」 宙を漂う龍帝が真邪王に狙いを定め青白いエネルギーを溜め始める。 「邪魔な龍から消してやる!」 飛び掛かる真邪王、ユウは間に割って入る。 「この……」「龍帝そのまま撃て!」 続く
Dec 31, 2024
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DHHUその35 「なんだと……」 真邪王の右手に握られているのは誰かの心臓だという。 「さーて誰の心臓かな~?」「やめろおおおおおおおおおおおおっ!」 邪悪な笑みを浮かべて心臓を握りつぶす真邪王。 「キャハハハハハハハハ! これでお前の仲間一人は死んだのです!」 「魔眼発動!」 ユウは真邪王が邪腕を発動させる前の状態の過去幻影を浮かべて斬りつける。 しかし、真邪王が過去幻影を邪腕で掴み移動させた。 「そんなバカな!」 「キャハハハハハ! 実体の無いものもこうやって掴めるのです! これで私はお前の魔眼に対抗できるのです!」 「じゃあ更に魔眼発動!」 「最強の後出しじゃんけんの過去干渉魔眼であっても! 邪腕を上手く使えば!」 ユウの背後の空間から右腕を出現させて殴りつける。 「忌々しい事に勇者の加護のせいでお前の心臓は掴めないのですだけどこうやって物理攻撃を仕掛ける事ならできる、魔眼の邪魔をしまくるのです!」 「くそおおおおおおおおおっ!」 「キャハハハハハ! 後はこの場にいるお前と他のメンバーを片付ければいいだけです。邪腕を手にいれた私が次にとる行動はわかるのです?」 「まさか……」 「全ての邪体を邪眼邪腕の力で集めるのです! チェックメイトなのです!」 「大丈夫かユウ!」「勇者!」「ユウ君!」 ハオラン、才賀、ドウェインがシェルターに突撃してきた。 「な! 心臓を握りつぶしたのに何故!?」 駆けつけた3名のうち一人は確実に真邪王によって心臓を潰され即死している――はずだった。 「みんな! 無事だったんだね!」 「まぁ何とかな!」「遅くなってゴメンね!」「まだまだ戦えるぞ!」 「ちっ! ぞろぞろと揃いやがって……一々相手するのも面倒なのです!」 真邪王はドウェインに向かって邪腕を伸ばす。それをドウェインは抜き打ちで斬りつけた。 「は?」真邪王の拳が縦に割れる。 「驚いたか? 私はお前を斬れるぞ。しっかりとお前の構造を理解した。ならばどうすれば斬れるか調整するだけだ。さぁ解剖してやろう」 ドウェインはこれまで様々な魑魅魍魎を相手にしてきた。物理的に硬い者、実体の無い者、存在があやふやな者。医学と剣術と魔術の知識を合わせ剣に魔術を付与してきた。ドウェインは勇者ユウの武具の特性、ダンジョンでの真邪王の特性考え遂に真邪王に通じる付与を完成させた。 「真邪王、お前はもう無敵ではない。この場にいる全員がお前を倒せる!」 ハオランの直剣、才賀の鎧武者の槍にもドウェインの付与がされている。 「只の医者だと侮っていたな」 「この……このおおおおおおおおおっ! 有象無象の雑魚の分際でよくも私にこんな傷をおおおおおおおっ!」 「ジンガのいるダンジョンには行かせねーぜ!」 ハオランは直剣を向ける。 「ここで終わりだよ真邪王! あーしの娘とトモダチの柄留ちゃんももうすぐここに来るからね!」 「ここは……一旦体勢を整えて……」 シェルターの穴に向かう真邪王、しかしそこは既に才賀の骨杭で埋め尽くされドウェインの付与がかけられていた。 「このシェルターはお前の力では破壊できない勇者の封印が効いている。唯一の出入り口も無理やり通ろうものなら体が千切れ飛ぶよ!」 才賀は真邪王を睨みつける。 「オノレエエエエエエエエエエエッ! 邪腕を手に入れたというのにいいいいいいいっ!!」 「テメーは俺たちを舐めすぎたんだよ!」 ハオランの斬撃が真邪王の肩を掠める。 「こうなったら……力ずくでお前らを始末するのみ! お前らの攻撃が私に通じる、それだけで勝てると思うななのです!」 真邪王は目暮沙那の姿のまま頭に山羊めいた角、背に翼、太い尾を生やす。 「ダンジョンから力を得ている私はお前らと違ってほぼ無制限に力を使える! これがどれだけ絶望か思い知らせてやるのです!」 「ここでお前を封印する!」 「お前の貧弱なカード力で出来るわけないのです!」 ユウは何も描かれていないブランクカードを見つめる。 「(作れるかな……俺だけの最強カード……獅子王を超えるカードを)」 ユウは先代勇者セイの専用カード『ジライヤ』を思い浮かべる。 「(父さんはどうやってジライヤを作ったんだっけ……)」 猛攻を仕掛けてくる真邪王の攻撃を受け止めるユウ。間髪入れずハオラン達がカバーに入り真邪王に反撃を仕掛ける。 「猪口才な!」 対真邪王の付与がされた武器が掠った箇所は煙が出ている。大きく後方に飛んで距離を開けた。 「いいぞ、奴はこの武器のおかげでゴリ押しが出来ねぇ!」 「……だがこちらには邪腕がある。安心しきってると即死するのです!」 真邪王は邪腕の右手に力を込め始める。 「さっきの心臓握り潰しは確かにお前たちの一人を潰したはず! 今度は念には念をいれて脳を潰してやるのです!」 「させるかー!」 才賀の骨武者が骨の大弓を放つ。飛翔する矢は空中で無数に分かれ嵐のように真邪王に襲い掛かる。 「ちいいいっ!だけどこんな付与されてない矢なんて!」 ハリセンボン状態になった真邪王に才賀の骨武者が付与された槍を持って接近する。 「遅い! そんな動きで私を捕らえられると思うななのです!」 薙ぎ払いの一撃を飛んで回避。 「まだまだ!」 ハイエナ獣人に変身したハオランが付与剣をもって上から斬りかかる。 「ちっ」剣が右邪腕を掠める。 「ムン!」 ドウェインが真邪王の左側面から斬りつける。脇腹を付与刀が傷つけた。 「(いいぞ、奴はなまじ邪腕を手に入れちまってそれにこだわるあまり動きが単純で読みやすくなった)」 ハオランとドウェイン、二人は反撃を許さない連携を仕掛ける。 「この真邪王がたかが4人の人間に苦戦しているだと……なのです!」 「体が妙に軽くて絶好調なんでな!」「全盛期に戻ったようだ」 真邪王に仕掛ける二人を眺め弓の第二射を構えさせる才賀。 「これが覚醒勇者の恩恵さ。パーティーメンバーと勇者の絆が限界を超えた力を引き出す」 横にいるユウに微笑みかける。 「そうなの……?」 「ああ、真の勇者は個人の力のみにあらず、人々を救い導くもの。勇者の力は武力だけじゃあないんだよ」 「……」 救えなかった人々、出来なかった後悔。それでも挫けずに立ち向かった。勇気ある行動がパーティーメンバーとの絆を高め覚醒に至った。 これは計算してできるものではなく、なるべくしてなるものだと才賀は言った。 「ユウ、あんたは真の勇者だよ。父のセイ、弟のケンと比べたってしょうがない、あんたはあんたの勇者でいいんだ!」 「……うん!」 ユウのブランクカードが光を放ち始める。 *** ジンガの魔王城ダンジョンを進むケン。湧きだす怪人を退けながら茉白、谷川の反応がある方向へと進む。 「怪人は大した事ないけど……数が多すぎる」 不死鳥の剣士の前に怪人は成すすべなく焼かれて消えていく。大きな扉を空けると礼拝堂を思わせる広い空間に出た。 「来たか! 勇者ぁああああああ!」 一番奥の祭壇の腰を掛けていたジンガが立ち上がる。怪人の肉塊を纏い吹雪のコピー体へと変身した。 「え……!?」 「ギャハハハハッ! 驚いたか? 白峰家の一人吹雪のコピー体だ! 京都で邪眼コピーしておいたのさ!!」 氷気を纏いながらゆっくりと近づいてくるコピー体吹雪。手には氷の太刀。 「(華月さんの身内の吹雪さん……いったいどれほどの力を持ってるんだ)」 ミスリルの鎧に撃槍ゼクスミニアドを構えるケン、不死鳥の剣士をコピー体吹雪に向かわせる。 「シャッ!」 氷光一閃、間合いに入った途端コピー体吹雪の氷の太刀は不死鳥の剣士の首を撥ね飛ばした。次の瞬間、ケンのカードデッキの中からランダムに消費され不死鳥の剣士はその場で復活した。 「速い……!」 「ハハー! こいつは強えぞ? なにせ白峰家当主候補の一人だからな!」 「む……」 それはそうかとケンは納得した。華月を間近で見てきたケンにはそれがどういうことかすぐに理解した。 「華月さんが認める実力者でなければ……候補にも上がらないはずだから……」 ケンは不死鳥の剣士を一歩下がらせ盾を前に旋回して様子を見る。 「シャシャー!」 コピー体吹雪は刺突からの左右斬撃の連携。高速の刀から放たれる氷気は軌道上の者を凍てつかせる。不死鳥の剣士の盾は凍結し斬撃によって深く切れ込みが入った。 「不死鳥の剣士の盾でも防ぐのが精一杯か……」 ガードは得策ではない、そう判断したケンは魔眼でコピー体吹雪の未来を視て回避をする。怒涛の連撃からの氷弾の連射全てを回避する。 「ほう~勇者の未来視魔眼の力だな……いいのかそんなに使って」 コピー体吹雪は氷気の噴射で加速し周囲を凍結させながら嵐の連撃で不死鳥の剣士に襲い掛かる。礼拝堂の気温は急激に下がりケンの吐く息は白くなっていた。 「ハハハハハハ! 環境によるスリップダメージは魔眼で回避できねえもんなぁ? 俺も色々考えてんのさ! これでも魔王だからよー!」 ここでファランクスで固めるか? と考えたがコピー体吹雪の前では2.3秒持てばいい方、その隙にゼクスミニアドを確実に叩き込めるかはわからない。ケンは思いとどまり不死鳥の剣士の炎範囲攻撃でコピー体吹雪を後ろに下がらせた。 「(下手に沢山カードを出してもあのコピー体吹雪さんには通じない……せめて5秒欲しい)」 コピー体吹雪は不死鳥の剣士から離れケンに向かって来る。 「勇者! 本体のテメェを叩けば手っ取り早く終了だよなぁ! 着装の出来ねぇテメェは吹雪の攻撃を防ぎきれねぇ!」 ケンはすぐに不死鳥の剣士を自分の前に戻し氷の剣戟を受け止める。不死鳥の剣士の再生に3枚のカードが消費された。 「その召喚者が不死身だといってもよぉ~カードの枚数分だけだよな? つまりテメーはこのまま死ぬのを待つだけだ。カードの消費が死へのカウントダウンって訳だ!」 「(ジンガの言う通りだこのままじゃあどうにもならない! 思いつくことを全て試さなきゃ!)」 ファランクスと虎狩りの戦士、石の処刑人、大地の壁を召喚しファランクスに突撃させ大地の壁でコピー体吹雪の退路を断ち虎狩りの戦士、石の処刑人の一斉攻撃を仕掛けた。 「やったか!?」 「クククク……ハハハハハァー!」 氷瀑が起こり武器を突き刺していたファランクス、虎狩りの戦士、石の処刑人は瞬間凍結の後粉々に砕け散る。キラキラと宝石のように光る暴風氷を纏うコピー体吹雪。 「残念だったな! ゼクスミニアドを撃ち込む隙など与えねーよ!」 コピー体吹雪は三つの氷竜巻をケンに向かって放つ。 「く……」 不死鳥の剣士で耐えるケン。床は凍り付き周囲の温度はますます下がっていく。カードは3枚消費された。 「攻防一体のダイアモンドダストモード。攻撃に転じる事も範囲を狭めることも飛び道具として使う事も自由自在! 良いコピー体を手に入れたぜ!!」 「(なにか……なにかないか? コピー体吹雪さんを止める方法……)」 マシンカウボーイを召喚し馬に乗るケン。 「逃げ回ってもどうにもならんぞ」 氷弾と竜巻を放つコピー体吹雪。ケンの回避に合わせて突進し剣戟を放ち不死鳥の剣士を斬りつけ再生のカード消費をさせる。 「(こんな時……父さんならどうする? 黒谷さんなら? 華月さんなら?)」 父のセイであればジライヤの忍法を駆使して相手の隙を作り必殺の一撃を叩き込んだか。 黒谷であれば……黒い渦で防御を展開し黒魔術によるトラップで状況を変えたか。 華月であれば……華月なら……華月がこの場に居れば…… ケンは不死鳥の剣士に華月の姿を重ね炎の噴出による加速と内部の炎を体中に巡らせて高速魔力練製を行う。 「動きが……変わっただと!?」 不死鳥の剣士は分身めいた高速移動と炎の爆発めいた連撃でコピー体吹雪の体を削っていく。 「あ、あああ……駄目だ……」 デッキから次々とカードが消えていく。華月をイメージした運用は不死鳥の剣士には耐えられず自壊していた。 「(俺のカードの中で……華月さんのように動かせるのはどれだ……)」 その間にもコピー体吹雪の攻撃と不死鳥の剣士の自壊によるカード消費は進んでいく。 ケンはまだ気がついていなかった。華月をイメージた動きを不死鳥の剣士にさせて感覚を共有している状態は少し前には出来なかった事を。 理想を追い求めるだけでなく、確かな到達点を見据えたことによりケンの才能が爆発的に開花した。これまでは何処か歯車が噛み合わずどうすればよいのかわからず藻掻く日々であった。そこに度重なる仲間の喪失による精神的ダメージ、ケンはどん底にまで追い込まれた。運命的な出会いによって歯車は嚙み合い真の勇者への道を歩み始めた。 「ククククク! お前の仲間がここに到着する頃には決着付きそうだな!!」 「くっ……」 減っていくカードの枚数が加速していく持ち込んだ4デッキの内3デッキを既に失っていた。不死鳥の剣士の再生に使われるカードは選べない。あまり枚数が減ると詰みかねない。 「(一度撤退なんてさせてくれそうにない。冬華さんに谷川先生に茉白さんも今どういう状態かわからない、俺が自分の力でここを切り抜けなきゃ駄目なんだ!)」 気温は既に-100度にまで下がっていた。ミスリルの鎧はありとあらゆる環境から身を守るが全てシャットアウトするわけではない。ケンの体感温度は-25度にまでなっていた。 「(体力が奪われる……クソ、俺が不死鳥の剣士を着装できていればこんな低温で苦しめられることも無いのに……)」 続く
Dec 16, 2024
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DHHUその34 「蛇のように自在に動く鎖分銅か」「呪力を感じます。茉白は人形なので平気ですが先生はお気をつけて」 「テメェらか、俺のストックを勝手に使ってたのはよ~」 あたり一面血の海と化した様子を見てコピー体を操るジンガは言った。 「こんな厄介な奴が居たとはな、早速潰すぜ!」 鎖分銅と鎌を振り回し始める夜叉童子コピー体。 「先生は身の安全を最優先に、茉白が前に出ます」 装甲をチェーンソー4本腕に変える茉白。両足は膝で前後に割れ車輪が出現、4輪走行モードに。 「邪ジャーッ!」 分銅と鎖鎌の同時攻撃、命中すれば打撃、斬撃からの呪力汚染。勇者や高位の術者でなければ対抗手段を持たないジンガの邪気攻撃であったが―― 「見切れない速度ではありません」 チェーンソーで弾く茉白。生物の枠ではない自動人形である茉白に呪いの類は通用しない。 多少の影響は強い想いの力で跳ねのける。 「なんだと……!?」 「驚いていますね。この茉白に通じない事に」 「サイバネであっても俺の術は通じるはずだ……どんな対呪力装備を……」 「通常ならそうでしょうね、ですが茉白は人形。生物に非ずです」 「あ?」 「理解できませんでしたか? この茉白は先生の手によって生み出された至高の人形なのです」 「たかが人形が人間のふりをしているのか」 「いいえ違います。茉白は人形であることに誇りを持ち人間に成りたいなどと思っていません。先生も人形を愛するお方、茉白は最愛で至高の人形であり続けるのみです」 「狂ってやがるぜ……てめぇも後ろの男もよぉ~」 「愛とは狂おしいもの。貴方に理解してもらわなくても結構です」 間合いを詰める茉白。チェーンソー4本腕で連続攻撃を仕掛ける。 「クソが! 予測不能な軌道で攻撃してきやがる!」 4本腕チェーンソーで削られていく夜叉童子コピー体。 「だったら数で押し切るまで!」 周囲の壁から怪人が飛び出す。一斉に飛び掛かり茉白の足を止める。 「人形、テメェには大蝦蟇のコピー体をぶつけるぜ、後ろにいる俺の怪人ストックを勝手に使ってやがるおっさんは夜叉童子だ!」 十字槍を持った大蝦蟇のコピー体が天井から飛び出す。茉白はチェーンソー腕で受け止める。 「邪気が効かねぇのなら力押しすればいい!」 「茉白は負けませんよ」 大蝦蟇コピー体は十字槍の連撃で完全に茉白を足止め。溶解液を組み合わせた連携で茉白の装甲を傷つけていく。 「要は相性なんだな~ほれ、人形お前のマスターのおっさんも防戦一方だぞ?」 夜叉童子の当たれば致命傷に繋がる鎖鎌攻撃に対し谷川は全身からマニュピュレーターを伸ばして防御、破壊されればその場で怪人血液のストックで形成している。 「白峰吹雪のコピー体は勇者にぶつけるのが良さそうだな。サイボーグの女は……切り札のコピー体で迎え撃つぜ」 ジンガの本体はダンジョン城中央の玉座で札を4枚浮かべている。それぞれ適合者の肉体とリンクしたコピー体の操作をする為である。真邪王の邪眼の力でマルチタスクを可能としていたが負担は大きい。 「持って半日か……それまでに真邪王の奴『邪体』を手に入れろよ~……」 *** ――東京都某所。 財団の邪体保管庫である建屋はドーナツ状のダンジョンの入口に囲まれ絶え間ない怪人の襲撃に追われていた。 「キャハハハハー! まだ抵抗を続けるのです?」 ツインテールに黒い装束の真邪王が言った。 「こんなダンジョン……中に入って攻略できない!」 ユウは保管庫の建屋上空に浮かぶ真邪王の姿を睨みつけて言った。 「ロープのように細ーいダンジョンなのです!ダンジョン主はこの細ーい中のどこかに居るのですよ~? 勇者の聖なる武具を突っ込んで探してみては~? 次々と湧いてくる怪人の相手をしながらねー」 「真邪王ッ!!」 「どうしてこんなに小さくて細いダンジョンから一杯怪人出せるか解らないでしょう~? キャハハハハハー!!」 「ユウ! アイツの言葉に惑わされるな! お前はそこで建屋にアイツを入れさせないように守らないと駄目なんだぞ!」 ハオランが叫んだ。 「この前の虫機械ダンジョン思い出して? 虫はどうやって子供を産むと思う?」 ロープ状ダンジョンから飛蝗の群れが出現する。見る見るうちに建屋を覆い尽くしていく。 「ぐわああっ!」「ぎゃああああっ!」「ひぎいいいいいいっ!」 狂暴化した飛蝗の群れに食いつかれ倒れていく財団のギルドメンバー達。 才賀は骨の鎧を纏いドウェインにも着せる。ユウは黄金の鎧をハオランに、自身は獅子王を着装する。 「邪飛蝗に食われた人間はどうなると思う? 邪飛蝗の栄養となりその性質を取り込んで卵を生むのです!」 邪飛蝗の卵から飛蝗怪人が次々と誕生。残ったギルドメンバーに襲い始める。 「そ、そんな……」 「キャッハハハハー! こいつらの寿命は短すぎるから普通のダンジョンには使えないけど、こういう襲撃の場面ではとても有用なのです!」 邪飛蝗怪人の数は増え続け財団のメンバーは減り続けていく。100人以上集まったギルドメンバーは30人にまで減っていた。 「邪飛蝗怪人はパンチ力10トン以上、キック力は30トン以上にもなるのです! 並みのギルドメンバーじゃあ勝ち目無いのです!」 「クソッ! 確かに厄介だぜ! 動きは単純だが予想以上にタフで2撃以上かけて倒してられねえぞ!」 ハオランは青龍刀を振るい邪飛蝗怪人の足や首を斬り応戦している。才賀は骨で格子を作りその隙間からドウェインが刺突で撃破。連携で耐えている。 「ほらほら~私を狙ってみる? それが一番手っ取り早い解決方法なのですよ?」 ユウを挑発する真邪王。 「クッ……」 扉の前で歯ぎしりをするユウ。 「せめてあと一人……いや二人俺の代わりにこの扉を守ってくれる人がいたら……」 他の財団メンバーは各配置場所の防衛に手一杯でユウ達の守る扉に応援できる者は居ない。邪飛蝗怪人の押し寄せる勢いは増している。 「どうしたのです? 北の防衛線突破できそうですよ?」 「そんな……」 最後まで粘って北出入口を守っていたアーマー兵のジェイガンが倒されると一気に邪飛蝗怪人が建屋になだれ込む。 「ユウ! 行け!! ここは俺たちが持たせる、奴らに邪体を奪われるな!」 ハオランは刃の折れた青龍刀を捨て直剣に持ち変える。 「わかった!」 天馬の騎士を召喚して北の出入り口に飛ぶユウ。凄剣イクスバーンを構えて突撃、邪飛蝗怪人を蹴散らし建屋に侵入した。 建屋の中に設置された箱型のシェルターを囲んでいる邪飛蝗怪人。猛烈な勢いで齧りついている。 「ギャギャギャギャギャギャッ!」 「数が多すぎる! 鮫の闘士、鰐王を召喚! 魔眼発動!」 過去干渉の魔眼発動により突撃時の邪飛蝗怪人の姿が浮かび上がる。それに目掛け鮫の闘士のトライデント、鰐王の斧が炸裂。次々とシェルターに張り付いた邪飛蝗怪人は倒れていく。 「ギャギャー!」 ユウに襲い掛かる邪飛蝗怪人、攻撃を躱し魔眼で浮かび上がった残像をイクスバーンで斬りつけて倒す。 「ハァハァハァ……」 魔眼の連続使用でユウに激しい頭痛が襲い掛かる。 「なのです~」 真邪王が建屋に入ってきた。 「あの時、箱の解除をとめていれば『目暮沙那』は死ななかったのにです」 「黙れ!」 「何でも長いが叶う箱なんて物の話をお前がしたせいで目暮沙那もその兄も死んだのです!」 「黙れ黙れ黙れ!」 「丁度この場所だったのです……しっかりと思い出して欲しいのです!」 「元はと言えば……真邪王! お前が捲いた種だろう!!」 「キャハハハハハ! おかげで【凶】は滅びなくて済んだのです、それに目暮沙那の願い通りあの子の兄の病気は治ったのです。通りすがりのサイバネに殺されたのは不運でしたがね~」 「お前さえいなければ沙那は……沙那はー!!」 「何言ってるのです? きちんと調べる事もしないで周囲の者にも相談しないで思い込みとお節介のせいでしょう? まぁ子供特有の行動なので仕方ないと思えばいいのです! キャハハハハ! 目暮沙那はお前のせいで仕方なく無駄死にしたのです!!」 ユウが5歳の時に幼馴染みの目暮沙那はこの世を去った。 財団に伝わる秘宝の話を耳に挟んでいたユウは沙那の為に、難病で苦しむ兄を救いたいと願っている沙那の為に密かに秘宝を使おうとした。後で怒られても沙那を助けられればいい、自分は勇者になるのだから人助けはできるだけしたい。弟のケンは止めたがやはり沙那の為になるのならと父のセイには黙っておいた。 そして悲劇は起きた。 10cm四方の飾り箱はパズル構造になっており正しい手順で動かさなければ決して開かない。しかし開けることができれば奇跡を起こすことができるという。 だがこれは財団の敵である【凶】に伝わるものであり、財団からすれば封印であった。 沙那は持ち前の運の良さと器用さで10分でパズルを解いてしまった。あと5分解けなければ財団の警備の者が気付いていた。 間の悪い事にその日は保管庫の前で大きな交通事故があり警備員はその対応に追われていた。 全てが悪い方向に事が進み箱は開けられ真邪王の魂の一部が解放された。目暮沙那はその場で真邪王に食い尽くされ跡形もなくこの世から消え去った。 1分後、父のセイ達が駆けつけた時、ただうずくまるユウと横で罵声を浴びせるケンの姿があった。 数日後。 沙那の兄が退院しユウとケンと話をした。「誰も攻めてはいない、ならこの奇跡をくれた沙那の為に精々長生きしてみるよと」言った。 だが沙那の兄は次の日にサイバネ通り魔によって呆気なく殺されてしまった。 それから3ヶ月ユウは口を聞かず勇者の訓練もできなかった。 「歴代の勇者の中でお前は一番愚かで無能なのです! だから殺さないのですなるべく長生きして無能を晒し続けて欲しいのです! 何も守れない! 救えない! 力も並みのクズ勇者!! 真邪王を楽しませるだけの存在!!」 「うううううううううあああああああああああああああああっ!!」 ユウは 狼の銃士 鮫の闘士 蛇の暗殺者 天馬の騎士(ペガサスナイト) 樹の神官 鰐王 キョンシー(飛僵) チョウチンアンコウ 怪盗コウモリ ネコマタネコ ゴリラボクサー を、一斉召喚。真邪王に突撃させる。これまでやった事がない一斉召喚であったが成功した。 「キャハハハハハー! それでどうにかなるとでも?」 真邪王はカード召喚者をかいくぐりユウに肉迫、鋭い爪で斬りかかる。 「雑なゴリ押しなんで私は倒せないのです! カードも所詮は借り物、真の実力から程遠いのです」 「くそ! くそ! くそおおっ!!」 獅子王を着装したユウはイクスバーンを振り回す。真邪王軽く回避して蹴りを撃つ。 「過去干渉の魔眼を使わないのです? そうすれば私に攻撃は当たるのでは?」 「うるさい!」 真邪王の狙いは魔眼を無駄使いさせる事。ユウは頭に血が上っているもののそこには気が付いた。 「粘るのですね~最後まで諦めないのは流石ですがこのまま時間が経てば有利なのはこちら。少しくらいゆっくりしても全然かまわないのです」 挑発して凄剣イクスバーンの必殺技を撃たせようとする真邪王。 「(外さないように当てるには……奴に攻撃させるしかない)」 ユウは腰だめにイクスバーンを構える。召喚者達が真邪王に攻撃を仕掛けるが木の葉のような動きで全て回避。 「邪眼でこいつらの動きは全て見切っているのです!」 「魔眼……」 1秒だけ魔眼を発動するユウ。イクスバーンの刺突が真邪王の脇腹を捕らえた。 「ギャエエエエエエエエエエッ!」 「このまま! 出力全開! 凄絶イクスバーン!!」 真邪王に突き刺さった刀身が青白く輝く。苦悶の表情を浮かべていた真邪王の口角が上がる。 「ガハッ……そうするだろうと……思ってたのです!」 「なに?」 イクスバーンの閃光が真邪王の体を崩壊させていく。貫通した崩壊波はシェルターに命中しバレーボール大の穴を空けた。 「キャ……キャハハハハハ……! 後10秒で私は消滅する、だがその前にあそこにある邪腕に届く!」 崩壊波に吹き飛ばれバラバラになりながら真邪王はシェルターの穴に飛び込んだ。呆気にとられるユウ。咄嗟に手を伸ばすも真邪王はシェルターの中に消えていった。 「く、くそおおおおっ!」 鰐王を突撃させて開いた穴を広げて中に入るユウ。中央のクリスタル性の箱は空けられ中身は消えていた。 「キャハハハハハハ! 私の方が一枚上手だったのです! 」 天井にぶら下がる真邪王、崩壊しかけた体は元に戻り、右腕が異常なまでに長く青黒く全体の輪郭は蜃気楼のように揺らめいていた。 「左手は使い物にならなかったですが右手が健在なら問題ないのです。さて早速試運転を行うとするのです!」 真邪王は天井に禍々しい右腕を突き刺す。すぐに引き抜くと血の滴る塊を掴んでいた。 「この邪腕は選択した座標の物を掴み取れるのです! 邪眼で座標を確認し邪腕を発動させればこの通りここから見えない所にいる奴の心臓を奪い取ることも可能なのです!」 続く
Dec 9, 2024
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DHHUその33 ケン、茉白&谷川に続きダンジョンに飛び込んだ冬華に突然襲い掛かって来る虫羽を生やした怪人。左手のプラズマショットガンで粉砕して落とした。 「これがダンジョン……」 中央に円錐状の巨大な建物。それを囲む塀、地面はあちこち燃えている。 「気温50度……この環境では人間は長く活動できない。勇者ケンと茉白、谷川先生は?」 *** ――冬華突入前。 不死鳥の剣士に乗っているケンはミスリルの鎧を装着し円錐状の建物を囲む塀の上に着地した。 「建物の入口はどこだ……」 周囲を見渡すケン、目の前の巨大な円錐建物の他は燃えている荒野があるだけで何も無い。上空は黒い靄が広がりハッキリと見えない。 「谷川先生に茉白さん、冬華さんは?」 塀を登って来る気配を感じたケンはゼクスミニアドを装備して下を覗き込む。4本腕の怪人が縦割れの口を広げて威嚇するのが見えた。 「タァー!」 ゼクスミニアドで頭を貫き落下させる。落下した後に塀の下側からゾロゾロと怪人が這い出して来た。 「ゲゲゲゲ!」「グゲゲゲゲ!」 這い上がって来る怪人の群れ、ケンは不死鳥の剣士の炎の範囲攻撃で焼き払う。 「ゲゲゲゲ!」「グゲゲゲゲ!」次々と塀から湧いて出る怪人。 「クソ!きりがない、入口を見つけなきゃ駄目だ」 不死鳥の剣士に乗り中央の円錐建物に向かって飛ぶケン。窓や扉らしいものは一切見当たらない。 「壁に穴を開けないと駄目な感じかな」 「グゲゲゲゲゲゲー!」 壁から染み出すように現れる先程とは様子の違う怪人。真邪王がコピーした大蝦蟇・周防美古都の怪人であった、十字槍を持っている。 「くっ!」 斜面で足の踏ん張りがきかないケン、咄嗟に攻撃をガードしたが体勢を崩して下に滑っていく。 「ゲゲゲゲー! 来たな勇者ァ! このダンジョンは簡単に攻略出来ねえぞ? 俺の呪力と真邪王の力を振り絞って作った最終ダンジョン魔王城だぁ!!」 「ジンガ!」 「今頃真邪王の奴は邪体を狙ってシーア財団の保管庫を襲っているだろうよ。邪体を手に入れ覚醒魔王となれば東京全域をダンジョンに変えてやるこの国は呪いの【凶】国となるのだ!」 「そんな事をして何になる!」 「馬鹿な人間どもが呪力を持つ怪人に入れ替わる。呪い呪われ呪力の強いものが上に立つ新しい秩序が生まれる。混沌のパワーは魔王の俺に活力をくれる!真邪王の世界征服も進むのだ」 「成り立たないそんな事!」 「そうかな? 今はまだ獣のような呪力怪人だがやがて理性を持って落ち着けば以前と同じような生活に戻る。しかし中身は完全に別の存在それだけだ」 舌を伸ばす大蝦蟇ジンガ、不死鳥の剣士の盾がケンを守る。 「不死鳥の剣士、炎の薙ぎ払いだ!」 扇状の放たれる炎、大蝦蟇ジンガは大きく口を広げて炎を飲み込んだ。 「なんだと!?」 「残念! この大蝦蟇は飲み込めると確信したものは全て飲み込めるのだ。チョイとでも無理だと感じたらできないがこの俺のメンタルなら元の大蝦蟇よりも多くのものが飲み込めるって訳よ」 十字槍がケンを襲う。不死鳥の剣士が剣で払う。 「その召喚カード、優秀な剣士、中々の物だが――」 建物の壁から飛び出した翼竜がジンガを掴む。 「本当に手足のように使いこなせてるか? 所詮は自分で生み出したカードではない」 翼竜に掴まれたジンガは空中から槍で攻撃。盾で弾く不死鳥の剣士。 「黙れ!」 「借り物の力で俺に勝とうなどと思い上がり……叩き潰してやるぜ」 円錐建物の一部がクレーター上に変形、その中央に穴が開く。ジンガは翼竜に運ばれ穴に飛び込んでいく。 「待て!」 不死鳥の剣士に乗ったケンはジンガを追い穴に飛び込む。 「ギャハハハハ! 釣られやがった! これでテメェは仲間と分断された! 次に来た人形と眼鏡のおっさんは別の場所でぶっ殺してやんゼ!」 *** 円錐建物の頂点から侵入した茉白と谷川。暗いトンネルを進む二人。 「怪人だらけだな」 谷川は襲い掛かって来る怪人をマニュピュレーターで貫きながら言った。 「渋谷の取り込まれた人間の数を考えると膨大な敵を相手にするかもしれません」 茉白は壁から現れた怪人を肘のチェーンソーで切り裂いた。 「ふむ……幸いこの者達の血は使える。私は吸血鬼だから補充しながら長期戦はいける。茉白のメンテナンスもな」 「はい先生。先生のお力で『作成』された部品であれば茉白は万全の性能を発揮できます」 谷川は血で無機物を作成できる。更にそれを他の無機物に組み込むことで自在に操ることや性能を向上させることができる。 「平時では中々思う存分に使う事が出来ない私の能力だが……このダンジョンであれば気にせずに解放できる」 「そうです。先生、思う存分に力を解放してください。茉白はそんな先生をより一層愛します」 ジンガの誤算はこの二人であった。戦闘能力だけで茉白と谷川は閉じ込めておけばいいと思い込んだ。一番の強敵と見た冬華と勇者ケンを引き離し残りはどうにでもなると考えてしまった。真邪王も茉白と谷川についてはノーマークであった。 狭いトンネルの中で数で押し切るつもりだったジンガ、茉白と谷川は焦ることなくペースを保ちながら怪人を処理して自らの備蓄へと変えていく。谷川の脳内で思い描いた茉白の新パーツが次々と形となっていく。 二人の足元に広がる血の海は保管庫でありいつでも取り出せる状態にあり、茉白と谷川は新パーツを試しながら怪人を処理してそれを材料へと変える。 ジンガは呪力の源であるダンジョン内の人間(怪人)が想像を絶する速さで減っている事に気が付かない。ジンガの最大容量の10倍の呪力を確保したつもりであった。勇者ケンと冬華、残りの二人を始末するのに使いきれないと考えていた。真邪王が邪体をあと一つでも手に入れれば勝ちは確定、それまでの時間稼ぎに過ぎないと。 *** 冬華は円錐建物の周囲を飛び建物全体のスキャンを終えていた。人格分裂させた並列思考に処理をまかせて冬華は周囲を警戒する。 「建物の中に大きな反応……中央に勇者ケンらしき反応、上部に茉白と谷川克政先生の反応を確認……」 冬華は勇者ケンに合流することが先決だと判断。ケンの反応がある高さに合わせ円錐建物に接近する。 「さて……壊して入るしかなさそうですね」 突如壁から無数の手が伸び冬華を掴みにかかる。射出していたビットが反応しフォースフィールドを展開して防いだ。 「私を中に入れるつもりはないと」 「ギャハハ! テメェを中に入れて壊されちゃあ敵わんからな!」 壁から飛び出したジンガの操る真邪王コピー体。冷気を纏い氷の太刀を持っている。 「来いよ!」 円錐建物を囲む塀の上に立つコピー体。 「その魔力……白峰吹雪をコピーしたのですね」 「そうだ! お前と同じ一族だ! 俺様の天才的センスと呪力にこのコピー体、負ける気がしねえな!」 「丁度良かった、雪名の子供たちとは全力で仕合ってみたかったのです」 「ギャハハハ、負けたら自殺もんの恥ずかしい台詞吐くじゃねえかまぁいい、テメェはここでスクラップにしてやるから安心しろ」 ジンガを追い塀に着地する冬華。 「吹雪の真似で何処までできるか確認します」 冬華のビットは不規則な動きで吹雪コピージンガを囲む。ビットからプラズマが放たれる。 「おっとぉ!」 ビットの前に氷の鏡を出現させてプラズマを防ぐ。6機のビットのランダムプラズマ攻撃にあわせ氷の鏡を出現させる。 「なるほど、ビットによるランダム攻撃、並みの相手はこれで何も出来ずに敗北だな」 「ではこれは」 冬華はビットに向かって右手のプラズマ砲を撃つ。乱反射したプラズマが全方位で吹雪コピージンガに襲い掛かる。氷の盾で防ぎきれないプラズマ弾が体に降り注いだ。 「ぐあああっ……」 さらに追撃を加える冬華。しかしジンガは体からダイアモンドダストを放ちビットを蹴散らせた。 「いてぇだろうがよ……やりやがったな……だが俺もコイツの能力の使い方を理解したぞ……」 ダイアモンドダストはジンガの周囲2メートルを浮遊。 「触れるもの全てを凍結させる冷気のエネルギー……この能力には更に上の段階があるな……」 「そこまでお前が吹雪の力を引き出せるでしょうか」 「なんだぁ? 俺を試してやがるのか?」 「(あのモードになった吹雪は通常5分が限界……それがのジンガと言う者に適応されるとは限らない従って時間切れを待つわけにはいかない)」 吹雪のダイアモンドダストモードは攻防一体の彼女の能力の奥義ともいえるものであったが5分程度しか持続できず、移動する事に向いていない。 「(あのモードを正面から潰せなければ勝てない。それには質量が必要。あれを打ち破る方法は防ぎきれない大質量の攻撃しかない)」 マシンガン、電撃等のエネルギー、魔術の連続攻撃程度ではダイアモンドダストモードは破れない。例えば大型トラックをぶつけるような大質量の攻撃が必要。 「(こちらは自在に飛行できるアドバンテージがある。考える時間がある。吹雪のあのモードは本来必殺の一撃を入れるための前準備。あのように展開して長く敵に見せるものではないはず)」 ジンガは短期決戦の為にすぐに最大能力を出したが、本人の吹雪はダイアモンドダストモードは決着をつける為の最終手段であり出せば終わるようにする。長々と展開し敵に策を練らせて逃亡させたり対応させ無い為である。 「(逆にありがたい。吹雪のダイアモンドダストモードはデータでしか知らない。こうしてじっくりと見せてもらうのは良い経験になる)」 冬華は宙で停止、体内のVドライブを高回転で起動させる。 「(お母様の覚醒状態ハンドキャノンの威力まで……出力をあげる。直径100mが吹き飛ぶ威力ならダイアモンドダストモードを貫けるはず)」 『一撃では吹雪には届かない』 並列人格が冬華の思考に割って入る。 「邪魔をしないで、貴女は周囲のスキャンを続けなさい」 『スキャンした結果あのダイアモンドダストモードは破った時に爆発して威力を軽減させる可能性が高いと出たので進言を。なので二連射を推奨します』 「なるほど、では二連射分のチャージを始めます」 ジンガは翼竜を呼び寄せる。 「なんだなんだ?打つ手がなくて逃げたのか?じゃあ……」 ダイアモンドダストモードを解除し翼竜に捕まるジンガ。冬華はビットを放つ。幾何学模様めいた軌道で飛行する冬華に対しジンガは緩やかなカーブを描く飛行しかできない。 「ちぃ! 当たらねぇ!」 吹雪の氷弾に呪力を込めて連続発射するジンガ、当たれば凍結と呪いの二重効果で対象を蝕むが冬華には当たらない。 冬華はビットからのプラズマ弾を発射、氷の盾で防御するジンガ。全方位からの攻撃は防ぎきれず翼竜に命中する。 「空中戦を挑んだのが間違いでしたね」「黙れ!」 ジンガはダンジョンに捕らえられた人々から1000人分の生命力を消費して一気に呪力を放出。墜落した翼竜を捨て呪力の推進で冬華を追いかける。 「ギャハハハハハー! 10万人程度の人間を取り込んでいるこのダンジョン内では俺様はやりたい放題! 真邪王の力を借りるまでもねえんだよぉー!!」 ジンガはUターンを決めダンジョン中央にそびえたつ巨大な円錐建物の頂点に立つ。 「テメェの相手は後でしてやる。先に勇者をぶっ殺す。お前は何もできずに彷徨ってな!」 「消えた……!?」『ジンガの反応、円錐建物の中央に移動しました』 スキャンデータを確認する冬華。 「建物の一番下……不自然な空間がある。ここの壁が一番薄いか」『破壊可能と推測』 エネルギーチャージで溜まったプラズマブラスターを放ち壁を破壊する。冬華は円錐建物の最下層から中に侵入した。 *** 「なんて雑なダンジョンなんだ」 ケンはファランクスを自分の周囲に展開しながら円錐建物の中トンネル状の通路を進む。壁から染み出すように現れる怪人はどれも並の人間に毛が生えた程度の脅威で容易く倒すことが出来た。 「ただただ巨大なダンジョン……なにかこのダンジョンにした意味はあるはずだ。今頃真邪王はジンガの体の代わりになりえる適合者の肉体を使い財団の保管庫を襲っていると考えられる……そっちは財団とユウに任せるしかない……」 ケンは怪人を倒しながら考える。 「保管庫から邪体を盗られたらどうなる? 真邪王はジンガと合流してダンジョンの拡張を始める? それはこのダンジョンからか?」 円錐建物が揺れ始める。震度3程度の揺れを感じるケン。 「なんだ?」 建物内にいるケンは気が付かない。円錐建物は地中で広がり全体的にせり上がり徐々に巨大化している事を。 渋谷の外に溢れだした巨大怪人が人々を取り込みダンジョンにエネルギーを供給している状態であった。 ――ダンジョン中央の玉座に座るジンガ。横には先ほどまで乗り移っていた吹雪のコピー体。ジンガは想定よりもダンジョンの拡張が遅れている事に気が付いた。 「おかしい……勇者どもが怪人を処理しても残骸はダンジョンが吸収する永久機関のはずだ……誰がエネルギーを横取りしてやがる?」 ジンガは呪符を取り出して床に投げつける。 「面倒だが……調べるか」 床から肉塊がせり上がりセンジョーの鬼である夜叉童子の姿に変わる。 「貴重なコピー体だがまぁまだストックはある、とっておきのもな。とりあえずはこの夜叉童子を向かわせるか」 ――茉白と谷川は怪人を倒し血を吸収し続けパーツを作りストックの部品を確保し続けていた。 「先生、茉白たちの行動に敵は気付いたようです」「ふむ、流石にそろそろ気付くか」 茉白たちの目の前に夜叉童子のコピー体が染み出してくる。 「……これまでとは違いますね」「ここからが本番という事か、さぁ十分にストックしたものを使おうじゃないか」 「ジャッ!」 夜叉童子コピー体が鎖分銅を放つ。茉白と谷川はシールドパーツを構える。 「!?」「む……」 鎖分銅は茉白と谷川のシールドパーツに命中。一投で二人を攻撃していた。 続く
Dec 1, 2024
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DHHUその32 「緊張されなくてもよいですよ。お母様とパーティーを組んで戦ってきたのなら私たちはもう同士ではありませんか?」 部屋につくとリビングに案内して冬華が言った。財団の者はケンと別れホテルのロビーへ移動する。 「え、ああはい。そうですね」 冬華と目を合わせようとしないケン。茉白と谷川はソファの端に腰を下ろした。 「……んんっ」 咳ばらいをする冬華。 『どうしたケン、そよそよしいではないか』 華月の声、口調を完全コピーした冬華が言った。 「え」 『適度の緊張感は必要だが萎縮はするでない。のびのびと話そうではないか』 「そう……ですね」 「……成程、わかりました。お母様の人との距離のとり方、歯に衣着せぬ物言いが貴方にとって心地よいのですね」 「えっと……」 「ではまず勇者ケン、貴方の話を聞きましょう。ここにいる3人はまずそれを聞きたいです」 冬華はケンの話に相槌を打ちながら質問をし全て録音していく。 「その歳で立派な事です」 「いやそんな冬華さんなんてまだ1歳にもなってないのに俺より落ち着いてて……」 「実年齢は1歳未満ですが、睡眠中のシミュレーションで白峰家3代の人生を体験している最中ですのでケンよりも人生経験豊富と言えます。その影響でしょう。歳の事を持ちだしたしたのは迂闊でした、ケン貴方を一人の人間として接しなければならないのに」 冬華は脳内で巻き戻しケンに対して言ったことを変え複数の反応パターンをシミュレートする。そして思考パターンと口調を変えなければならないと出た。 「……」 「冬華さん?」 「なんでもないですよ、ケン。共に【凶】を斃しましょう! 私は貴重な経験値を得ることができます。次の白峰家の当主として様々な経験を積みたいのです!」 「え? うん」 冬華の急な変化に戸惑うケン。 「これが本音です。私は経験が欲しい、そして国内にそんな危険な組織がいるのなら排除しておきたい。財団とも繋がりを持ちたいです今後も友好的でいたいです」 「う、うん! 俺も白峰家と知り合えてよかった!」 「ケン、貴方のカードの事とか教えてほしい実戦でスムーズな連携を行うために。お母様のように瞬時に思い切りのよい判断を私はまだできないから」 「いいよじゃあまずこのファランクスのカードはね――」 打ち合わせを1時間ほど行い、ケンは隣にとった部屋に戻って行った。 「おじさま」 冬華は勝田波留夫に通信を試みる。 『何だい冬華ちゃん』 「Vドライブの拡張ユニット2機を明日までに用意できますか?」 『先日テストを終えたばかりのやつだね……かづたん様の動きを再現したくなったの?』 「勇者ケンと作戦行動を共にするにあたって、お母様の戦闘スタイルは取り入れていきたいなと考えています。なぜなら彼はオリジナルカードの構想にお母様の影響を受けたと発現していたからです」 『んん? 意味がよく分からないねぇ』 「勇者ケンの中でお母様の存在はとても大きくなっているので私はお母様の娘であることのインパクトを強く与えたいのです。私も勇者ケンの記憶の中で無視できない存在になりたいのです」 『なるほどなるほど……』 「おじさま?」 『いや、気にしないでね冬華ちゃん、君の成長っぷりに思わず嬉しくて顔がにやけてしまっただけだよ。京都のかづたん様の元を離れて正解だったと言える。かづたん様にジークベルト殿、僕や他の従者がいる環境では皆が望む冬華ちゃんの型にはまってしまっていた可能性があるからね。外部の人間である勇者ケンと接触して自分で案を出し僕に相談してきたことが嬉しいんだ』 「そうなのですか」 『以前の冬華ちゃんなら真っ先にかづたん様やジークベルト殿に聞きその通りに動いていただろう疑いもせずにね。イレギュラーがあれば対応できずに暴走してたかもしれない。僕にパーツを頼む時も必要ですとしか言わなかっただろう』 「その可能性はあります」 『自分で考え相談相手を選び検討する。これがスムーズに出来ている事が素晴らしい。自分の能力に振り回される様子も無いし良い成長をしているよ、それでVドライブ拡張ユニットだけど……すぐに佐久間殿にでも送らせるよ。朝までに間に合えば良いかな?』 「いえ、自分で取りに向かいます。飛べばすぐですので」 『そうか、じゃあ用意して待ってるよ』 通信を終える冬華。 「……茉白、貴女が羨ましいと感じる事が多々あります」 冬華の問いに首をかしげる茉白。 「茉白は先生の理想の人形であり続けるそれだけです」 「それです、貴女にはゆるぎない信念、理想像がありそれに向かって試行錯誤できる」 「冬華にはないのですか?」 「迷いがあります」 「迷い、悩みこそ人間らしいではありませんか。そこから成長するのでしょう?人形には必要ありませんが」 「……」 「ですが理解はできます。茉白は先生に捨てられて存在意義を失う事が耐えられない。先生に飽きられないように愛し続けて貰えるように試行錯誤する。うまくいってるかわからない時は不安を感じます。冬華は自分の芯が何か掴みかねていていると推測します」 「私の芯」 「人形の茉白が言う事は参考にならないかもしれませんが、譲れないものが何か冬華もあるはずでは?」 「私の譲れないもの……」 じっと手を見つめる冬華。 「……いいですか、冬華様」 谷川が言った。 「貴女の悩みは華月様も幼い頃感じていたものです、きっかけは覚えていないとおっしゃってましたがある日突然電撃が走ったようにひらめいたとの事です」 「ある日突然……」 「うまくいかない魔力操作、白峰家の縛りで思い通りにならない、理解者もいないそんな日々の中でひらめいたらしいです、丁度今の華月様の肉体と同じ年齢9歳頃だと」 「しかし谷川先生、私はあと2年で完成しなければなりません、当主選を勝つために」 「完成する必要などありませんよ。華月様と冬華様は違う、貴女に期待しているのは白峰家の未来です。どのように導かれるのかと従者一同は期待しているのです」 「確かに私とお母様は違う」 「生まれつきサイボーグの冬華様はこの時代に適し未来へと繋がる道を示せるはずです。プレッシャーを与えるつもりはないのですが私はそう考えています」 「……谷川先生は私が当主になった時、従者として付いてくれるのですか?」 「華月様は茉白が生まれるきっかけになった最高の存在です、最高の存在を見て聞いて感じて着想を得て茉白を作ることができました。この恩は一生をかけて返すつもりですので。しかし華月様が望むのであれば冬華様に付く事になるでしょう」 「自分の従者は自分で選べという事ですか」 「そうでもありません、華月様に仕えている従者の殆どはジークベルト殿が集めた者達です。白峰家に縁があり華月様を支持していた家の者中から厳選したのです。結果とてもよい関係になりました従者同士のトラブルもありません。なのでジークベルト殿に頼むのも一つの案ですね。それと白峰家には古くから仕えている御三家がおりますので」 「御三家……須原家、吉良家、水元家ですね。お母様が当主の時も御三家は仕えていたのでしたね」 「かといってそこから選択しなければならない決まりはありません。従者はいつの間にか集まっている、そのくらいの気軽さで良いのかと。貴女に魅力を感じ仕えたいと希望する者が必ず現れるはずです」 「そうですか……」 冬華は一旦問題を置いておく事にする。他の事をしている時にノイズが入るのを避ける為である。誕生して2ヶ月ほどは情報処理が追いつかず拡張パーツを着けて対応していたが勝田波留夫に思考分裂による仕分けを提案され問題は解決した。最初に誕生した冬華の思考をメインとし他に5つの思考を持つようになった。 『分裂した思考を切り離し独立したAIとしてみるのも将来面白いかもね』 と勝田波留夫は言った。神名からの技術提供のバイオプリンターで生体ボディも作っているのでAIを搭載した冬華の子たちを作ることも可能だと言う。 *** ケンは冬華と話をして意外と親しみやすいと感じていた。 偉大な親を持ち後を継いで立派になりたいとお互いに考えている。 ケンは父親のセイに憧れ、華月に生涯忘れる事が出来ない程の強烈な衝撃を受けた。 冬華との出会いに少し運命を感じていた。 『ケン様』 財団の男から通信が入った。 『渋谷にダンジョンが発生しました。3万人を超える人数がダンジョンに吸い込まれたとのことです。財団は動けるギルドメンバーを総動員しました』 「なんて事だ……ジンガと真邪王はもうなりふりかまっていないのか」 『……それと、今入った情報ですが財団の邪体保管庫がある建物が襲撃を受けています!ユウ様が近い為そちらに向かって貰います、ケン様は渋谷のダンジョンへお願いします』 「わかった!」 通信を聞いていた冬華、茉白、谷川はケンの目を見て頷く。 「みんな、渋谷のダンジョンへ行こう!」 「屋上へ行きましょう、そこから飛べばすぐです」 屋上へ移動するケン達。ヘリポートへ出る。 「茉白が谷川先生を、私がケンを掴んで飛びます」 谷川を後ろから抱えて飛び上がる茉白。羽を広げて滑空する。 「行きましょう」 「大丈夫、俺も飛べるよ【不死鳥の剣士】でね!」 不死鳥の剣士を召喚、その背中に乗る。 「そうでしたかでは行きましょう」 先頭を飛ぶケン、続く茉白&谷川、冬華。 「あれは……」 ドーム状に展開した黒いオーラが渋谷を包み込んでいた。 「なんて規模のダンジョン……本当に真邪王とジンガはここで決着する気なのか」 「通常、このように目立つものなのですか?」 冬華は黒ドームをスキャンしながら言った。 「いや、普通は建物の扉とか通路の間とかに入口を作るものなんだ……こんなに大きくて一般人に目立つダンジョンの入口なんて初めてだよ」 「次々に車、人々が黒いドームに入って行ってるが」 谷川が言った。 「マズい……【凶】のダンジョンで邪気にあてられたら一般人は正気を保てない……魂まで蝕まれたらもう元に戻れないモンスターになってしまう……だけどこんな大規模な入口全て封鎖できないどうすれば……」 「今までこのような展開をしなかったのは向こうにもリスクがあるからなのですよね?」 茉白が言った。 「うん、こんな展開の仕方すればダンジョン主にはとんでもない負荷がかかる。入口をでっかくすればそれだけ邪気が霧散しやすくなるしダンジョンが消滅しないようにしなきゃならないから」 「どうやら新宿でも同じようなダンジョンが発生してたようですね」 冬華は周囲の人々の携帯電話にハッキングを仕掛け新宿御苑のダンジョンを撮影した者を発見し写真をコピーしてケンに見せた。 「――これはユウが対応した方のダンジョンか……奴らはもう世間に隠す気はないんだな……それほどのリスクを冒してでもやり遂げる覚悟か」 『ガオオオオオオオン……』 黒いドームの中から複数の人間が合体した巨人が現れる。 「まさにお構いなしですな……」 谷川は眼鏡を触って言った。 『ガオオオオン』『ギャオオオオオン』『ゴオオオオオン』 次々と合体巨人がドームから現れる。 「取り込まれた渋谷の一般人は数万人……大惨事になりますよ」 既に警察車両、消防救急のサイレンが鳴り響いている。 「突撃しよう!ダンジョン攻略は速ければ速いほどいい!」 ケンが叫んだ。 「出現するモンスターは無視して攻略に舵をきる判断……流石勇者。追いましょう茉白」 「はい先生」 急降下してドームに向かうケンを追う谷川&茉白。 「あの三体だけでも潰しておきます」 右腕を変形させた冬華。プラズマキャノンのチャージを始める。 「爆散した後始末は誰かがするでしょう」 三体の合体巨人にプラズマ弾を撃ち込む。命中したプラズマ弾は巨人の全身に広がり爆散させる。 「これで犠牲者の数は少しは減るでしょう」 ケン達を追って黒いドームに急降下する冬華。ダンジョンに入る。 続く
Nov 24, 2024
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DHHUその31 「やった……これでジンガの配下は全て斃した!」 「真邪王の気配はまるで無かったな、魔女を見捨てたのか?」 「華月様お手当を……」「華月様治す~」 切断した左手と髪を回収したジークベルト。その横には自らの肉を千切った滑田。 「失礼しますよ華月様」「ん」 滑田は肉を華月の左手と頭に当てる。すると溶け込むように吸収され左手は瞬時に再生、髪は元の長さに戻った。 「何度見ても驚かさせる」 「えへへ……これしか取り柄が無いから」 ジークベルトはそっと黒渦空間に左手と髪を収納した後、頭を抱えて膝をつく。 「あああああ……申し訳ございません華月様……あんな事をさせてしまうとは。魔術が使えないだけで魔女に遅れをとってしまうなど筆頭従者として不甲斐無く……」 「喚くでない、魔女の仕掛けたあの状況で対応できる者など多くないだろう。全員無事であったことを喜べ。我はこの通り、もう何とでもないではないか」 「うおおおおおん!」 華月に抱き着くジークベルト。 「落ち着け、いつも冷静なお前が珍しい」 「あの時、魔女の弾丸が華月様の心臓に命中していたらと思うと……」 「あの弾丸は脅威であったな。誰に命中していても不味い状況であった、あの時奴はケンを狙って放った。我が受け止めて良かったのだケンに命中していればそこで終わりであった、ジークベルトが受けていれば我との連携で魔女を追い詰める事は難しかったであろう、滑田が受けていれば負傷者は治療できず命を落としていたかもしれん」 「ですが……」 「もう良い、この場でこれ以上反省会は不要。ギルドに戻るぞ」 *** 京都、財団のギルドの一室。 「――と、いう訳だ。ケンも東京へ向かって欲しい」 セイは真邪王が用意したジンガの適合者が東京にいる事を説明した。 「財団は奴らを追い詰めているんですか?」 「ああ、だからなりふり構っていられないのだろうな。財団は真邪王の邪体保管庫の警備強化もしなくてはならない。長引けばこちらが不利だ、ユウとケンのパーティーでジンガを捕らえ真邪王の野望を打ち砕く」 「はい! 今のパーティーメンバーなら……やれます!」 ケンは華月、ジークベルト、滑田の姿を頭に浮かべる。 「次の任務だが……東京へはケンの今のパーティーメンバーでは行けない……」 「ええっ!?」 「華月は行動を制限されている身、京都からは出られん。従者のジークベルトは彼女からは離れない、滑田はセンジョーから派遣された者だ京都内のダンジョン攻略までが契約条件なのだ」 「そんな……」 「その代わり……東京には華月の娘、冬華がいる。冬華には自動人形の茉白、そのマスターである吸血鬼・谷川克政が付いている。この三人と合流し新たなパーティーを組みジンガを捕らえるのだ」 「はい……」 「心配するな、華月と上手くやれたお前なら大丈夫だ」 部屋を出るケン。リビングには華月、ジークベルト、滑田が座って待機していた。 「みんな……突然なんだけどパーティー解散になった」 ケンは3人に説明する。 「仕方ない事だ。なに、そんな顔をするな。今生の別れではあるまい京都に来ればまた我と会う事もあるだろう。滑田も京都住みだしな」 「う、うん……」 「土産話待ってるぞ」「そうですよ、きっとまた会えますとも」「うんうん」 「みんな……」 「冬華、茉白、谷川なら大丈夫だ。皆頼りになるきっとお前を支えてくれる」 *** 東京銀座。 アンティークショップが入っているビルから出てきた冬華、茉白、谷川。 「……通信が入りました。おじさま(勝田波留夫)からです。勇者ケン・シーアがこちらに向かっています、合流しパーティーを組み【凶】のジンガを捕らえる作戦に協力するようにとの事」 サイドテールの髪、背中の開いたドレス、華月に似た容姿のサイボーグ・冬華が言った。 「財団は自分達のメンバーを使わずに我々を指名したと言う事ですね」 高級ビジネススーツに太い縁の眼鏡をかけた谷川が言った。 「先生、これはチャンスです」 髪から足の先まで純白、ゴシックドレスの自動人形・茉白が言った。 「先生の最高傑作の人形であるこの茉白が活躍すれば先生の評価も上がるというものです。そして茉白と先生の絆を見せつけましょう」 茉白はつま先立ちで回転して言った。 「――おじさまからお母様らの戦闘データを入手しました。ホテルに戻り情報共有しましょう」 飛び上がる冬華、足の裏と背中からバーニア噴射。飛行形態になる茉白それに捕まる谷川。三人は飛んでホテルに向かう。 「あれは……」 ホテルの前に紫色の光を放った怪人が見える。全身タイツのようなスーツに触角。 「――データ解析。【凶】の者と推測。戦闘モード起動」 怪人の背後に着地する冬華、掌を向けプラズマブラスターの発射準備待機。 「そのまま答えなさい。【凶】の者ですね?」 「ゲゲゲゲゲゲ……飛んで火にいる夏の虫ってか?財団の関係者だな?【凶】の名を口にする者は全員始末する!」 ブリッジから触角攻撃。電光石火の不意打ちであったが冬華は回避。 「不意打ちのパターンは予測済みです」 「邪体を狙うと財団の者が現れる……確かなようだ!」 「邪魔ですよ」 足をチェーンソーに変形させた茉白が上空から怪人の背中を切り裂いた。 「ぎゃがっ!」 「ふん!」 続いて下りてきた金属アーマーに包まれた谷川の飛び蹴りが脳天に炸裂。 「ぐげ……」 空中反転した谷川はアーマーのバーニアで姿勢制御、頸椎にクロスチョップを叩き込む。 「クソやべぇ……話が違うじゃねえかよ集まって来る雑魚をぶち殺すだけじゃ……」 膝をつく怪人。 「【凶】の呪符によって怪人化したサイバネですか」 「げっげっげ……なんか知らねーおっさんに【チケット】貰ったんだよぉ……トブぜこれはよー」 「機械率50%……なるほどサイバネ障害を発症しドラッグに依存してる典型的なパターンですね」 冬華はスキャンしながら呟く。 「サイレンの音が聞こえます誰かが通報したようですね」 「げっげっげ……パクられてもサイバネ障害特権で執行猶予の弁当付きだぁ……仮にテメーらをぶち殺しても2、3年で娑婆に戻れるだろうよ」 「そうですか、ならばここで駆除してもよいですね? 私は機械率99.99%のサイボーグです。手が滑って殺害に至ってもサイバネ障害ですよね?」 「フかしてんじゃあねーぞ! 機械率99.99%なんざ聞いたことねえ!そんなもん脳だって生身じゃいられねーだろうが!」 「その辺の人間と私を同じに考えないことですね。生まれた時からサイボーグの私はあなた達とは次元が違うのです」 「そんな奴存在するかー!」 男は叫びながら触手を伸ばす、猛然と襲い掛かった触手は冬華の眼前で急停止した。 「は? なんで……」 「スキャンは完了しています。あなたの体のサイバネ部分は私の意のままです」 触手を曲げ足首を掴ませる、そのまま引き絞りエビぞりの状態で体を折り曲げていく。 「このまま二つ折りになればいいでしょう。サイバネ暴走により自死ですね」 「グガアアあああ……やめろ……」 「あなたに呪符を渡した男のデータも眼球から得ました。もう用はありません」 「ギイイイイイイアアアアアアアアッ!」 エビぞりで二つ折りになる男。サイバネ部分から火花が走っている。 「長居は無用ですホテルの部屋に行きましょう、茉白、谷川先生」 部屋に移動する冬華、茉白、谷川。 「お母様の京都での戦闘、【凶】のダンジョンについて――」 冬華は光伝送通信で茉白と谷川の持つ端末にデータを送る。 「勇者ケンを守る方法。【凶】の真邪王やジンガの呪術に対抗する手段――」 「流石です冬華、先生もそう思いますよね?」 「ああ、どの案もよく考えられている……一つ気になる点があるとすれば冬華様は京都にバックアップを用意しているからと無茶をする可能性が高いところですな」 谷川は太縁眼鏡を上げて言った。 「それは自身の性能を限界まで引き出して次のアップデートの為の有用なデータを得る為です。そこに何か不満でも?」 「真邪王の邪眼はコピーする力を持っていると京都から送られてきたデータに記載されています。冬華様をコピーさせるわけには……」 「私は私の事を熟知しています。コピーには負けません、なので問題ありません」 「直接対決される場合ならそうでしょう。しかし真邪王は別の用途で冬華様のコピーを使用する可能性があります。貴女なら行わない非道な行為もやって見せるでしょうそこが不安なのです」 谷川は冬華の力をもってすればサイバネ者の集団扇動、都市の機能破壊、大量殺戮兵器の自動化など例をあげて言った。 「文明社会において冬華様の力は絶大です。かつて居た世界的サイバーテロリスト『G』など貴女の前では勝敗にすらなりえない。今の冬華様であればグレイビースト事件はもっと早く解決できていたでしょう。それほどの力なのです」 「言いたいことはわかりました谷川先生。……そうですね敵に手の内は晒さないに越した事はない。作戦パターンを変更します」 「宜しくお願いします」 白峰冬華は華月とジークベルトの娘でありサイボーグボディを作った勝田波留夫の事は勝田本人の希望もあり『おじさま』と呼んでいる。親友である自動人形・茉白のマスター谷川克政の事は今の所、華月の従者の中で一番信頼をしている。 谷川克政は従者の中では一番長く冬華との時間を過ごしている。彼は冬華の事を次期白峰当主に申し分無いと評している。他の候補者、霄、吹雪、霞とは比べものにならないとさえ。万が一冬華が選ばれなかった時……何が起きるかは用意に想像できた。 過去に華月の娘である雪名がエクレシアに従わざるを得なかったとはいえ華月を完全消滅寸前にまで追いやった。その事に関して華月本人よりも周囲は憤っており何かのきっかけで爆発し現当主側を滅ぼすつもりでさえいる。 冬華の当主落選はその引き金になると谷川克政は考えている。そして華月もそれを止めようとしない事も解っている。冬華は両方を念頭に置いていると感じている。当主に選ばれると99%思っているが1%は現当主側を滅ぼす構えだと。 現当主側もそれを薄々感じているのか当主選に向けての意気込みをあまり感じない。エクレシアの建前上、当主選をする姿勢を見せているが実際は冬華に譲る気なのだと谷川克政は考えている。 「(冬華様が当主になればエクレシアの束縛から華月様は自由となる)」 作戦会議を終えると冬華はベッドに横になりスリープモードに。半自動システムに切り替える。人間と同じサイクルで睡眠をとり思考を整理する。これは勝田波留夫の助言で実行していた。人間らしさを失わないように通常の時間を生きている者の気持ちが解るようにと。その代わり意識を分割し待機させいつでも動けるようにしていた。 冬華は誕生してまだ1年にも満たない。経験不足を補う為にスリープ中に時間を圧縮しシミュレーションしていた。 データから抽出した旧白峰邸で幼いころから育ち学校生活を送りながら白峰家の者として闇の住人とのやり取り。白峰華奈、華月、雪名とデータに残っている限りのシミュレーションを自分に置き換えて過ごす。 存在しないはずの記憶を経験として得ていく。 自我の崩壊、人格破壊に繋がりかねないと勝田波留夫は注意したが冬華は生まれながらにサイボーグの自分はシミュレーションであることを絶対に忘れないと言い放ち進めた。 冬華にとってこのシミュレーションは演劇や映画を見ているようなものだと。 ――翌日 冬華の受信システムに着信。 『冬華ちゃん、おはよう』勝田波留夫の声。 「システムオールチェック、起動。おはようございますおじさま」 『今日から勇者ケンとパーティーを組んでの作戦だね。何か必要なものがあったら遠慮しないで言うんだよ』 「いつもありがとうございますおじさま。何かあればすぐに連絡いたします」 『じゃあね、作戦がんばってね』 「はい」 ベッドから体を起こすと茉白は化粧台の前で谷川と身支度をしていた。 「おはようございます冬華。きょうも良い朝ですね」「おはようございます冬華様」 「おはよう茉白、谷川先生」 冬華は自分の冷蔵バッグから血液パックを手に取りストローで一気に飲み干した。 「朝食完了。勇者ケンとの待ち合わせまであと1時間ですね」 バスルームに向かう冬華。シャワーを浴び自らの発熱で濡れた体を乾かし髪をサイドテールに結ぶ。鏡の前でボディスーツと背中のあいたドレスを纏い準備を終える。 ――1時間後ホテルのラウンジ。 黒いビジネススーツの財団の男と共にカーボン調のパーカーを来た少年、勇者ケンが現れた。 「ケン・シーアです」 「白峰冬華です、こちらは茉白に谷川克政」 銀髪に金色のメッシュが入ったサイドテールの冬華を見てケンは握手すべく右手を出した。 「宜しくお願いします」 「こちらこそ。京都での活躍はデータで拝見させていただきましたよ」 握手に応じる冬華。触れた瞬間からデータ解析を開始。 「お母様、お父様と一緒に作戦をされてどうでしたか?」 「えっと……うまく言えませんが素晴らしい経験でした」 「そうでしょうお母様は歴代白峰家最高の存在、お父様は黒魔術の他に多才でよく気が付く紳士ですものね」 「はい……」 「どうかしましたか?」 「いえその……華月さんの娘さんと言われてちょっと戸惑ってしまって」 「ああ、今お母様は幼い姿になってしまってますものね100歳を超えていますが。私は見た目は貴方よりも年上ですがまだ1歳にもなっていませんよ」 「不思議な感覚です……」 「挨拶はこのくらいにして部屋で打ち合わせをしましょう」「はい」 冬華の顔は華月に似ているが雰囲気はまるで違う。茉白は人形そのもので谷川は優しくて真面目そうな大人に見えた。 続く
Nov 17, 2024
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DHHUその30――列車ダンジョンの少し前。ユウが新宿御苑ダンジョンの後気絶している間。――京都 ケン達は京都最後の魔女アカネダンジョンに挑んでいた。「大丈夫? 華月さん……」 ケンは鼻と口を抑える華月に向かって言った。「苦手な臭いだがそれだけだ、問題ない」 芥子の匂いが充満する薄暗い洋館のダンジョン。「どこかで香を焚いているのか……この洋館は迷宮になっているのか」 華月の言葉を聞いたジークベルトは後ろを振り返る、入ってきた玄関の扉はなく何処までも続く廊下が見える。「んあ~」 滑田が足の裏に違和感を覚え靴の裏を見る。べとつく粘液が廊下の絨毯にしみ込んでいた。「どうしたの滑田君?」「絨毯、べとべとしてる……」「え? そうかな……?」 ケンは自分の足裏を確認するが何もついていない。「それよりもこの埃のような塵、鬱陶しいですねぇ」 ジークベルトが言った。しかしケンにはそのようなものが見えない。「なんかおかしいよ! 芥子のような匂いはしないし床はべとついてないし何も空中に舞ってないよ!」「む?」「え?」「なんですと?」「ダンジョンの仕掛けだよこれは! ずっと誰かの鳴き声が聞こえてるけど皆には聞こえてない?」「聞こえんぞ」「聞こえない」「まったく」 ケンは洋館の中が徐々に寒くなっていくのを感じる。「真冬の寒さだ……みんなはどうなの?」「我は暑く感じる……気温50度湿度100程度のなまるで蒸し風呂だ」「生ぬるくて気持ち悪い……吐き気がするよ」「極寒の冷凍庫と言った所でしょうか……」 四人は足を止め周囲を警戒する。「何らかの攻撃を受けている……でもなんなのか分かんない」 ケンは3人の様子を見る。華月は顎に滴る汗を拭い、滑田は浅い息をして上を向いている。ジークベルトは外套で体を包み込んでしゃがみ華月の顔を見ていた。「汗をかくなど久しぶりだぞ」 華月はジークベルトのハンカチで汗を拭かれながら言った。「常時魔力で防御している華月様は終日快適な状態にしているはずなのです。なのにこれとは」「ここの主の魔術か……」「ちょっと確認します……これ、見てください!」 ケンは召喚したモニターマンに現在の気温湿度を表示する。そこには23度湿度40%と映し出されていた。手に持ったモニターマンの表示を3人に見せる。「実際の温度湿度と各々が感じているものとは違うのか」「どんな魔術だろう?……財団の情報では魔女のアカネはジンガの部下で原因不明の死因で100人以上殺していると」「つまり魔女アカネの魔術の事を知っている者はいないのか」「そういう事になります」 華月とケンの話を聞きながらジークベルトは解析を開始している。「これは厄介な……魔法自体が上手く発動しませんね……あまり得意ではないのですが黒谷の忍法なら……」ジークベルトは両手で印を結ぶ。「どうだ?」華月が聞く。「気は練れますね……しかし体内で練った忍法の忍術が発動しません。いえ正確には発動しているのですが何故か効果が現れない」「成程……」 華月は少し考えるとドレスのリボンを解き魔力で硬化させナイフのように尖らせた。そして洋館の壁紙を斬りつける。中身のコンクリートが剥き出しとなった。「ふむ……」 次にリボンナイフを壁に投げつける。鋭いナイフとなったリボンナイフは壁に突き刺さると全員が思ったがそうはならなかった。柔らかい生地は壁に衝突し床にゆっくりと落下した。「……大体解ったぞ」「そうなの?」「流石です」「おお~」「ケン、武器と召喚者を出してみろ。武器は使えるが召喚者はすぐに消えるはずだ」「え? わかった……」 ケンはカードを取り出し撃槍ゼクスミニアドと虎狩りの戦士を召喚。ゼクスミニアドはケンの手に残り虎狩りの戦士はすぐに霧のように消えカードに戻った。「むむ?」「この洋館が魔女アカネの魔術なのだろう。術を行使しても術者本人から離れた時点で効果を失う……いや、吸収されているのか」 華月は自身を膜のように包み込んでいた魔力を体内に納め体温を調節する。みるみる内に汗は引いていく。戦闘用の状態にもっていくには普段とは違い体内に魔力を完全に留め身体強化と同時に魔力操作もしなくてならかった。「これは慣れないな」「では私も華月様に倣って……」 ジークベルトも魔力完全に体内に納める。「なんともむずがゆくてストレスが溜まりますねこれは。しかし魔力効率で言えば悪くない。異能者のサイコキネシスによる身体強化、あれはこういうものらしいですね」「ほう……こういった方式の身体強化なのか」「空を飛ぶサイコキネシスの場合は我々の魔力操作に近いようですが」「異能者にも色んな使い手がいるのだな……ケンと滑田はなんとかなりそうか?」「ミスリルの鎧を着て対処するよ、滑田君は盾を貸してあげる」「ありがとう~」「しかしこれは困りましたね、攻撃手段がかなり限られます」「そうだな……それにしても敵が仕掛けてこないのが気になるな」 華月は廊下の壁を触りながら言った。「時間稼ぎが目的かあるいは何かを待っているのか」 ジークベルトは周囲を見渡す。 4人の背後、廊下の窓にかけてある赤いカーテンの影からリボルバー拳銃を持った手が伸びる。「む」 僅かな殺気を感知して振り返る華月、リボルバーを発見した。「まずいぞ」 華月がつぶやいたと同時に弾丸が発射される。咄嗟に手を伸ばしケンを守る。「ぐっ……」 弾丸は棘のように食い込み華月の体に突き刺さる。「あらあ~今ので一発昇天で終わらせようと思ったのに」 カーテンの影から現れる赤ずきんにボンテージドレスの女。魔女アカネが現れた。「ここの主だな」「魔女のダンジョンにようこそ。今からお前たちはなすすべなく嬲り殺されるのみよ」 リボルバーを構える魔女アカネ、ジークベルトが前に出る。「このダンジョンでは魔法の類は使えないわよ!」「忍法は例外だったようですがね!」 瞬歩で肉迫しナイフで突きにかかるジークベルト、魔女アカネは華麗な足さばきで回避、流れるような動きでリボルバーの銃口をジークベルトに向ける。「ぬっ!?」「あはは!」 弾丸がジークベルトの髪を掠める。「接近すれば魔女は容易く倒せるとでも? 甘い甘い、何のために魔女はバレットアーツを仕込まれるんだか!」 バレットアーツとは体術と銃撃を組み合わせた魔女独自の近接戦闘術。常に銃を携帯し魔法発動の隙を狙われないように魔女の間で開発された護身術。様々な流派がありバレットアーツに磨きをかけた銃撃戦闘特化魔女なんて者も存在する。 赤ずきんの中から羽の生えた子豚が飛翔する。魔女アカネの使い魔である。「レットン! 勇者のガキとチビ妖怪を始末しな!」「ブキキー!」 レットンと呼ばれた使い魔は瞬時に2mを超えるオークウォリアーへと変貌。「ケン!滑田!」叫ぶ華月は左手を抑え苦悶の表情を浮かべている。「あはは! 神経を蝕み魔力を吸い取る魔弾はどうだい? 通常高位の妖には魔力ガードで弾かれるんだけどこのダンジョンにおいては魔力ガードは通用しない!」「用意周到で残虐……まさに魔女!」ジークベルトが吐き捨てるように言った。「そんじょそこらの人間の魔術師と魔女を比べんじゃないよ? 魔法を操る為に存在してるのがアタシら魔女なんだから」 魔弾を体術と共に繰り出す魔女アカネ、ジークベルトのスーツと外套に穴をあける。「華月様一旦退きましょう、体勢を整えなくては!」「いや、このまま奴を討ち取る!」 華月は魔弾が食い込んだ左手を手刀で切断した。「華月様! なんてことを!!」「この異空間結界から出れば再生は出来る心配するな、片手であっても魔力を放出できなくてもこの魔女に勝たなくてはならん」 華月は腰まであった髪を肩のあたりで手刀で斬り切断した左手に巻きつけた。「うあああっ! 髪まで!!」「放出できなくても我自身の体であれば……問題なさそうだな」 巻きつけた髪が硬化、鋭い銀色の刃となった。「へぇ面白い……華月、アンタは只の尊大な妖かと思っていたけど見た目では判断できないね!」 リボルバーを浮かべて空中リロードを行う魔女アカネ。「行くぞ! 我に合わせろジークベルト!」「はい!」 左右に別れる華月とジークベルト。魔女アカネは冷静に眼球を左右別々に動かし照準を合わせる。 銃弾を避けながら華月は髪の剣でジークベルトはナイフで仕掛ける。魔女アカネはリボルバーで髪の剣とナイフをいなしながら爪先に魔弾を取り付けたブーツの蹴りで反撃。「驚いた、二人とも素の戦闘技術が高い……魔力放出と魔術を奪われてこんなに戦えるなんて!」「その余裕もいつまで続きますかね」 魔女アカネに言い放つジークベルト。「なに? 華月の動きがだんだん速く……」「神経、血管、筋肉の隅々にまで魔力を行き渡らせている。普段の感覚と変わるので戸惑ったが慣れてきたぞ。これはこれで細胞レベルまでの強化操作が出来れば想像もできない程の力を得ることができるだろうな」 細胞レベルでの強化。魔力操作で妖、人間ではそのレベルに達した者はいない。 ただ例外として異能者でサイコキネシスの身体強化を細胞レベルで行える者は存在する。 カテゴリー5に認定されたTMIの『終夜アリナ』 「調子にのるなよ妖無勢が!」「吠えるな、貴様の動きはもう見切ったぞ魔女!」 華月は魔女アカネの体重移動の癖を見抜いた。そこをついて攻撃を仕掛けるとほんのわずかに反応が遅れる事に気が付いた。 すれ違いざまに魔女アカネの左手を切断する華月。「ぎゃああああああああっ……テメェ~~~~~」「我はやり返さんと気が済まない性質でな」 魔女アカネの銃を拾い魔弾を全弾撃ち込む華月。「ぎゃああああああああああああっ!!」「おわりだな魔女」「こんな所で終われない……ジンガ様の為にもね……レットン!」 ケンと滑田を追いまわしていたオーク戦士レットンが魔女アカネの元に戻って来る。「魔合体!」 使い魔レットンと合体する魔女アカネ。オーク女戦士の姿へと変貌する。「これで……五次元とパスを繋いだ状態を常時保てる……無尽蔵の超高速魔力供給によって受けた魔弾の効果は無効になった!」「そうか、だがその状態では体が持つまい」「持って1分、だけどそれだけあればお前ら全員始末できるんだよ!」「1分だと? ならば我も全力全開で行く」 ジークベルトから血液小瓶を受け取り飲み干す華月。身長は伸び髪は輝く銀髪、瞳は深紅へと変わる。「華月さん、これを使って!」 ケンはゼクスミニアドのカードを華月に投げる。受け取ると光の槍が出現した。「死ねやああああっ!!」 オーク魔女アカネは全ての魔弾エネルギーを込めた斧を振り上げる。「(キヒヒ! 回避すれば地面で炸裂し破片が刺さる、防御すればその瞬間炸裂破片が刺さる、回避不能ガード不能の! この必殺の一撃で死ね!)」 華月はゼクスミニアドで受け止めた。魔弾エネルギーは光の力で霧散する。「なにぃ!? 何だその槍は!!」「うぅ……」 華月の後ろでゼクスミニアドの魔力消費が激しく呻き声をあげるケン。「そこだ!」 華月はゼクスミニアドの連続突きでオーク魔女アカネを刺していく。「ぐふっ……(だが超高速回復魔術で対応可能だ)」「ケン、必殺の一撃の準備をしろ。我の合図で発動させるのだ」「でもこのダンジョンの中では発動できないよ」「この空間の中ではな」「?」「よいな、我の合図でやるのだぞ」「は、はい」 華月は左手に巻きつけた髪でオーク魔女アカネの斧を絡めとる。「クソ! 魔弾をチャージできない……」「むん!」 ゼクスミニアドを腹に深々と突き刺す華月。「今だやれケン!」「撃槍! ゼクスミニアド!!」 オーク魔女アカネの体内でゼクスミニアドの光の破壊エネルギーが螺旋状に炸裂する。「ごへえああああああああああっ!」「やはり思った通りだ、空間で無ければ発動できる」 光のエネルギーで塵になっていくオーク魔女アカネ。「バカナぁ~……再生が間に合わない……ジンガ様~……」 魔女アカネは塵となって消えていった。 ダンジョンは徐々に薄れ元の場所に戻されるケン達。続く
Nov 10, 2024
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DHHUその29 ユウの額に汗がにじむ。「くそ、くそ……どうすればいいんだ……」「ギャハハハハ! 苦しめ苦しめ!!」 蜘蛛ジンガは黒粘糸を車両に着けスイング、窓を蹴破って車内に飛び込む。「おらおら! クソ雑魚共無駄死にしな!!」 蜘蛛ジンガの姿に驚く車内の人々、避ける暇もなく黒粘糸を浴びせかけられて捕らえられる。「ほらよっ!」 力を込めて一気に引く蜘蛛ジンガ二人の男女が割れた窓から投げ出された。「ああっ!」 車両の天井居たユウが声を上げる。投げ出された男女に気が付いたが間に合わない漆黒の地面に消えていった。「これで二人死んだな! ダンジョンの外に放り出されてホテルビルから落下死だ!」「ジンガあああああああっ!」 獅子王の鎧と凄剣イクスバーンを装備したユウが割れた窓から車内に飛び込む。「ククク、さぁこい! 来いよ!」 黒粘糸を網状に広げて車内の人々を捕らえている蜘蛛ジンガ。「やめろ!」「止めて見せろよ勇者!もたもたしてっと先頭車両から俺のモンスターがコイツらを殺しまくるぜ」 黒粘糸を連続で飛ばす蜘蛛ジンガ、ユウはイクスバーンで受け止める。「使えば使うほど馴染んでくるぜこの適合者の体とコピー能力……」 狭い車内の為突き攻撃を仕掛けるユウに対しバック転で回避しながら黒粘糸で牽制する。「くっそ……」 いつの間にか床に仕掛けられた黒粘糸に足を取られるユウ。「不注意だぜ勇者!」 目の前で網に包まれた子供3人を窓を破って外に放り投げる蜘蛛ジンガ。「やめろおおおおおおおおおおおっ!」 投げ捨てられた子供は間一髪、車両の上にいた桜桃色の骨武者の手によってキャッチ。「あーしらも居る事を忘れてないかい? 魔王さん」 骨武者が車内に入って来る。「俺もいるぜ」 気配を消して近づいたハオランが蜘蛛ジンガに直剣で斬りつける。咄嗟の反応で避けられたが刃は肩を掠めた。「ふん……ならば……」 割れた窓から飛び出し再び車両の屋根にあがる。そして連結部に向かって走り出す。「待て!」「待ちやがれ!」 ユウとハオランが追いかける。「連結部の接続を解除してやるぜ。そうすればどうなるか解るか?」「そんな事をしたら……」 円周の線路上を走っているダンジョン列車、ここで車両の接続を解除されると置いて行かれた車両に先頭車両が激突する事になる。「させるかー!」 ペガサスナイトを召喚するユウ、飛び乗って蜘蛛ジンガに仕掛ける。過去に干渉できる魔眼を上手く使えば激突を防げるかもしれないと考えたが無駄使いは出来ない。タイミングを見極めてジンガが車両を切り離す直前を狙わなければならない。「(回避不可能な必殺の一撃をここぞという時に当てなければ駄目なんだ)」 大きな隙を狙って魔眼で過去の幻影を浮かび上げ凄剣イクスバーンを叩き込みたいユウ。「(ケンなら……魔眼で未来予測をして不死鳥の剣士を使って炎の範囲攻撃で決められるはず……黒粘糸も焼き払えるだろうし)」 ペガサスナイトは蜘蛛ジンガに向かって突進、ユウは凄剣イクスバーンを構える。すれ違いざまに剣で狙うが回避される。Uターンしたユウは蜘蛛ジンガを見失った。「何処だ!?」「ここだぜ」 ペガサスナイトの腹に張り付いていた蜘蛛ジンガは胴体を伝って逆立ち蹴りをユウに放つ。兜の側面を蹴られたユウは大きく仰け反った。「ギャハハハハ!このまま車両の間に落ちて礫死しなー!」 連続蹴りを撃ち込む蜘蛛ジンガ、ユウはペガサスナイトからずり落ちて手綱でぶら下がった状態となった。「ぐう……」「そらあっ!このまま墜落だぁ!」 ペガサスナイトはダンジョン車両に向かって墜落を始める。「負けて……たまるかぁっ!」 車両に激突寸前にペガサスナイトを解除して屋根の上を転げていくユウ。蜘蛛ジンガは片手をついて音もなく屋根に着地した。「ククククク……魔王と勇者が対等だと思っていたか? そんな訳ねえよな、魔王側は常に不利なんだぜ? 俺がお前を圧倒してるのは俺自身を理解し、お前の嫌がる事を理解しているからだ。もう一人の勇者ならこんな展開にはなってなかったという事だ」「はぁはぁ……」「武器、防具、魔力、戦力の数、どれもお前の方が上だ。だがお前は俺には勝てない、俺の方が理解力に優れているからだ」 再び降りて車両の中に戻る蜘蛛ジンガ。「連携もとらせない、人質は最大限利用する。お前にできるのは俺を追って空振りするだけだ」 車内の椅子で頭を抱えていた青白い顔をした学生を黒粘糸で捕らえ外に投げる。「うわぁぁぁぁ……」 叫び声は車両の走行音と漆黒の地面に吸い込まれ消えていった。「また一人死んだぞ?」「うおおおおおおっ!」 屋根を切り裂き飛び込んでくるユウ、蜘蛛ジンガは横に居た中年女性を盾にしてユウの剣を止まらせた。「く……卑怯な……」「卑怯でもなんでもいいんだよ! こっちは魔王だからな!」蜘蛛ジンガの右腕が女性を貫く、鮮血がユウの視界を遮る。蜘蛛ジンガは指先から黒粘糸を飛ばしてユウの鎧に着け貫いた女性をそのまま蹴って押し付けた。「そのままそいつが死んでいくのを間近で見とけよ!」 ユウの鎧に縫い付けられた女性の眼の光が消えていく。「うわああああああっ! 獅子王解除! 樹の神官召喚!」 獅子王はカードに戻り癒し手の樹の神官が召喚される。「ハ! 馬鹿が!」 接近した蜘蛛ジンガはユウを殴りつける。「こうなりゃ只のガキだな! ボロクズになるまで痛めつけてやるぜ」 蜘蛛ジンガのうしろでは樹の神官が女性に手をかざし傷を塞いでいく。馬乗りになって殴りかかってくる蜘蛛ジンガに対しユウは無言でゴリラボクサーを召喚して蜘蛛ジンガの腕を掴ませた。「簡単にはやられないってか」 ゴリラボクサーのパンチが蜘蛛ジンガを捉える。右ストレート、右フック、右アッパーでフィニッシュ、車両の廊下を滑っていく。「許さない! 許さないぞジンガああああああああっ!」「今のは効いたぜ……だがお前に更なる絶望を与えてやるぞ。このダンジョンで俺様を倒せたとしても後2回は蘇る……ここで負けても更に卑劣で残虐で強くなり財団に挑むぞ」「なん……だと!?」「やれよ勇者!必殺の一撃で車両ごと吹き飛ばせばこのダンジョンは一瞬で消えるぜ?」「何やってんだユウ!」 二人の居る車両に飛び込んで来たハオラン。「こんな奴の話を聞く必要なんてねぇ!」「ハオラン……」「サイガは先頭車両に向かってったぜ、運転席について出入口のあるトンネル内で停車させるんだと。その間コイツを自由にさせなきゃいいんだ」 ハイエナ獣人に変身するハオラン。「倒せなくたっていい、今は時間稼ぎだぜユウ!」「わかった……」 蛇の暗殺者を着装するユウ。「チッ! 目の輝きが戻りやがったか……どうやら勇者よりも先にパーティーメンバーを始末した方が良さそうだな」 体当たりを仕掛けるハオラン、体で刀身を隠して肉迫。「馬鹿が!」 黒粘糸を指から発射すべくハオランに向ける。ハオランは手を払い体で隠していた直剣で斬りつける。狙いは蜘蛛ジンガ本体ではなく手首。「ぐっ」 払いのけられ上がった蜘蛛ジンガ右手はハオランの直剣によって深い傷を負った。「ちっ! 切断まではいかなかったか」「テメェ……」 蜘蛛ジンガは割れた窓の縁に飛び乗って距離を取る。そのまま屋根へ。「行けユウ! 車内は俺に任せろ!」「わかった!」 追いかけるユウ、屋根では蜘蛛ジンガが黒粘糸で右腕の出血を止めていた。「やってくれたなあの獣人……だが片手のハンデがあっても俺の優位は変わらない。お前は人質を見捨てることはできない。その気になれば俺はこの列車を脱線させて全員ダンジョンから放りだすこともできるんだ」 列車は出入口のあるトンネルへ突入する。「さぁさぁさぁ……列車は止まるか? 止まらなければまた1周走る間に人質を殺すぜ」「余裕がないのはお前もだジンガ!」「なんだと?」「もう惑わされない、俺はハオランとサイガを信じる! お前を止める!」「やってみろよ勇者ァ!」 陰陽の双剣を装備した蛇の暗殺者フォームのユウ、トンネルの中で暗く揺れて不安定な列車の屋根でも難なくバランスを取り連続攻撃を繰り出す。「動きが違う……!」「この装備の選択が正しかったんだ、お前に挑発されて俺は獅子王とイクスバーンを装備してしまった。こんな場所で戦うの向いてないのに!」 ユウは勝利の絵を頭で描いていた。魔眼を使い過去の幻影のジンガの左腕を切り完全に黒粘糸の能力を封じる。「(あとは大きな隙をつくらせれば……!)」「コイツ……急に動きが良くなった」 黒粘糸を固めた棒を右手に取り付け振り回して双剣を凌いでいる蜘蛛ジンガ、真邪王のコピー元である土蜘蛛は手の指からだけではなく様々な場所から糸を出せるのだがジンガにはまだ無理であった。「(先頭車両の蜘蛛怪人は何をしている……)」 ジンガが放った蜘蛛怪人は既に才賀桜桃色の手によって無力化され骨で固められていた。桜桃色は列車の操作が解からず頭をひねっていた。「これがブレーキだとして……」 列車の速度が落ちていく。「サイガ! やってくれた!」「クソガアアアアアアッ!」 屋根を駆けだす蜘蛛ジンガ、先頭車両に向かう。それを追いかけるユウ。「車両を爆破するしかねぇ」「何だと!?」 呪符を取り出す蜘蛛ジンガ、それを見たユウは魔眼を発動。過去の幻影を浮かび上がらせる。「(呪符を取り出す少し前のジンガの幻影を斬る!)」 陰陽の双剣の4連撃が幻影の背中、肩、両腕を切り裂く。少し前を行く蜘蛛ジンガ本体に斬撃が浮かび上がる。「ぐわあああああああああっ!クソがああああああああっ!」 呪符は発動することなく列車から落ちていく。「やったか」「ちくしょうおおおお……黒粘糸をもっと有効活用すべきだったぜ……やはり慣らし運転はしとくべきだったな」「おわりだジンガ!」「ククク……これで終わりじゃねえぞ」 うつ伏せに倒れているジンガは僅かに体を起こしてユウを睨みつける。「何をする気だ!」「ククククク……」 体を起こしたジンガは腹に手を当てる。すると仕込んでいた呪符が光を放つ。「今から盛大に自爆してやるよ! 次の俺様は負けねーからな」 魔眼はまだ使用できない。ここで自爆されればトンネルが崩落する危険がある。「だったらここは……!」 鰐王を召喚。蜘蛛ジンガを頭からかぶりつき上半身を飲み込む。「そのまま列車から飛び降りろ!」「グラアアアアアアアアアッ!」 落下する鰐王と蜘蛛ジンガ、漆黒の地面に吸い込まれダンジョンから放り出される。「グラアアアアアアアアッ!」 ホテルビルの最上階の高さに転送、空中で鰐王は顎に力を入れ蜘蛛ジンガを噛み砕く。「……」 空中で呪符が発動し鰐王と蜘蛛ジンガは爆発四散。衝撃でホテルビルのガラスが割れていく。『あと少しと言う所で負けたのです……次はもっとジンガ君に良いコピーとダンジョンを用意するのです』 真邪王の声がする。「絶対に負けないぞ……真邪王!」『アハハハハハ! いいですねぇ~それでこそ勇者潰しがいがあるのです! 次からは一切の出し惜しみも無く全力全開で行くのです覚悟しておくのですよ』 真邪王の声が消える。同時にダンジョンも薄れていく。列車は消えユウ達はホテルビルの廊下に出現した。「無事か!」 ドウェインが駆け寄って来る。「なんとか……でも犠牲が出ちゃったんだ……」「くやしいな……」「めちゃくちゃ疲れたよ」 ホテルの部屋からハオランと桜桃色が出て来た。続く
Oct 27, 2024
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DHHUその28「シャッ!」 蹴りを放つハオラン、黒い人物は天井から離れ音もなく床に着地、片手を着いた低い姿勢でハオランを見つめている。「全身タイツっぽいふざけた見た目だが……殺気は凄いなこいつ」「……」 粘弾を飛ばしつつ低い姿勢で突進、ハオランの間合いに入ると体を横にひねり死角から蹴りを放つ。ハオランは冷静に動作の起こりを見極めガードする。「!?」 ガードした左腕には黒い粘糸、床と繋がっている。反撃のストレートを放つハオランだが黒い人物はひらりと蝶のように回避する。「クソ、なんだこの糸は」 糸を引き千切るべくハオランは手に取って引く。「伸びやがる……ゴムみたいに」「……」 天井を利用してスイングした黒い人物は飛び蹴りでハオランを襲う。何とか回避をしたが腕につけられた糸のせいでその場から動けない。「やべ」 黒い人物の先には縫い付けられたドウェインがいる。「させない!」「あーしらを無視してんじゃないよ!」 獅子王を着装したユウ、骨武者を召喚する桃色桜がドウェインの前に立って壁を作る。 イクスバーンを抜いて斬りつけるユウ、黒い人物は軽く躱して粘弾をユウの顔面にぶつける。獅子王の仮面の視界が遮られる。「この!」 左手で顔の糸を千切りながらイクスバーンを振るユウ、妙な手ごたえを感じる。「……」 イクスバーンは黒い人物が両手を上下に広げ粘糸の束に受け止められていた。「コイツ……強い!」 見ていたハオランが呟いた。「うおおおおおおお!」 イクスバーンにエネルギーを送り粘糸を千切り飛ばすユウ。「コイツ只の影コピーじゃない……」『そうなのです! ……かなり精度を上げたコピーをジンガ君が操っているのです』「真邪王!」『テストもかねて勇者の一人でも始末できれば万々歳ですからねー』「テストだと?」『適合者のですよ。邪眼コピーした影を適合者に移してジンガ君が操作する』「……影がここ居るって事は近くにダンジョンがあるんだな」『そういう事になるのです。ダンジョンはこのタワーホテルなのです! 気が付かなったです? 準備はしておいて待機、ルームサービスが部屋にたどり着いたのを確認して発動したのです!』「柄留が追跡弾を付けた奴ってのは……」『コイツなのです! どうやっても追跡弾を除去できないのでいっそのこと割り切ってテスト用に使う事にしたのです! そしてやっぱりジンガ君は才能あるのです私の用意した影のデータを読み込んですぐに使いこなしているのです。オリジナルに比べると動きは違いますけどジンガ君のセンスで十分戦えているのです!』「蜘蛛みたいな能力の者をコピーしたのか」『大正解! コイツの能力は頭の回転が速くないと使いこなせないのです』「やっかいな奴をコピーしやがって」ハオランがつぶやく。『奇襲は失敗に終わったのですがダンジョンはちゃんと残ってるのです。このタワーホテルの従業員と客は全て取り込んだのです! 助けたければ早く攻略するのですよ~?』 投網のように糸を大きく広げて浴びせかける黒い人物。連続バック転で扉を出ていく。 ユウはイクスバーンで網を除去してドウェインを拘束から解く。「向こうから攻めてくるとは余程余裕がないと見える……」 手首をさすりながらドウェインが言った。「息つく暇もないねまったく……」 桃色桜は廊下で気まずそうに待っているルームサービスに気が付いた。「とりあえず腹ごしらえだね。せっかく無事に届けてくれたんだから頂こうよ」「食べたら出発だな、幸い物資はここにある救出した人達はこのフロアーに集めよう。後で屋上からヘリで脱出してもらえばいい」 ハオランが言った。 ――食事後。「救出メインのダンジョン攻略になりそうだな……私は深くまで潜らずに救出された者達の応急処置にあたった方がよいかな?」 ドウェインは医療器具の入ったカバンをチェックしながら言った。「……」「ユウ?」 暗い顔のユウをみたハオランが声をかける。「ごめん……」「財団の作戦本部には連絡したんだろう? 応援も来てくれるんだし何が気になる?」「……これ以上犠牲者を出したくないんだ。【凶】の連中と戦うだけじゃなくて無関係な人も守れなきゃ勇者じゃないなって」「それは……」 会話を聞いていた才賀桃色桜。「全てを救うなんて無理だよ。なるべく多くを救いたいのなら出来るだけ早くダンジョンを潰すしかない……セイも同じ事で悩んでたよ」「父さんも……」「真邪王を封印できるのは勇者だけなんだ、一番やるべきことはそれ。他の事を無視するなんてできないけど時間をかければかけるだけ犠牲者は増えてしまう」「うん……」「勇者を支えるのがあーしらの役目、財団は真邪王封印のためにある。もっともっと勇者は財団やあーしらを頼っていいんだよ。セイも勇者を引退してからは同士を集めるのに頑張ってたからね」「そうだぜユウ! 勇者がなにもかも背負うんじゃねえ、もっと財団のギルドメンバーを頼りな!」「医療の知識があるメンバーと機器を用意するように本部に頼む」「わかった……」 ユウは作戦本部のセイと通信を繋げメンバーの要望を伝える。『東京のギルドメンバーを集結させよう。30分後にはそのビルの屋上に到着するはずだ』***「クソ……もう半身はほとんど動かねぇ……もうダンジョンを作るのは無理だ」 ジンガはリクライニングシートに座ったままの姿勢で動かない。『まぁ短期間で作り過ぎましたからねぇ……でもホラ適合者が4人もいるし気に入ったのがあれば乗り換えるのです!』 真邪王の声がする。動かなくなったジンガの半身の眼球から声を出す。「簡単に言いやがる……」『何とか力を振り絞ってあと一つ作るのですよ。勇者どもを一網打尽にするために』「いい案があるのか?他の邪体も取り返さねえといけねえのに……」『今勇者のギルドのビルをダンジョン化してますよねぇ?ビルはホテルですから人質を大量に確保しています、解放するために奴らは全力で来るでしょう。ジンガ君は適合者の一人を使って出来るだけ全力で相手して欲しいのです』「はぁ? それでどうなるってんだ? あわよくば勇者の一人を始末できるかもしれないってか?」『それもあるのですが、奴らがダンジョン攻略中に財団の保管庫を残りの適合者3人を使って襲撃します。戦力がホテルビルと京都に分散してる時を狙ってね』「……適合者の一人と京都に居るアカネを囮にするってか」『まぁまぁ、勝てばいいだけでしょう?魔女アカネも適合者の一人も使い捨てるつもりじゃないです、場合によってはというだけで』「アカネのダンジョンとホテルビルが突破されたらどうする?」『自爆処理ですね。ジンガ君は次の適合者に紐づけてあげますので安心するのです。邪体の一つでも財団の保管庫から取り返せればその場でダンジョンを作るのです』「ダンジョンで保管庫を包み込み数の暴力でゴリ押して残りの邪体も手に入れるって算段か……」『死に物狂いで適合者を酷使すれば邪体の一つくらいはとれるはずです安心してくださいジンガ君は絶対死なせないので……ジンガ君に死なれると私も身動きできなくなるので』「渋谷、台場、オータムホース……この三カ所に財団の保管庫があるんだな?」『京都にも都内にもまだあるんですけど……そっちはほぼ諦めています。本命は渋谷、台場、オータムホースの3つ、この中でどれか一つでも取れれば私たちの勝利にぐっと傾きますよ』「しかし可能なのか?ホテルビルのダンジョンからも俺自身からも離れているが……」『大丈夫なのです!適合者4人は互いに繋がっていて一人でもダンジョンの主になってれば力を得られるのです!今設置している全てのダンジョンを破壊されなければ!』「邪体を一つでも取れれば俺の負担は減るんだろうな?」『勿論なのです! 邪体を得て勇者を潰し【凶】を復活させ配下を増やせばジンガ君は悠々自適なのです!』「京都のアカネのダンジョン、東京のホテルビルのダンジョン……そして最後に作る最強のダンジョン、お前は邪体を得る。これで勇者を潰せば勝ちなんだな?」『そうなのです!』「想定以上に財団は手ごわい……親父の代に比べてかなりの力をつけていた。【凶】を復活させたら対抗できる組織作りをしなくてはな」『そうですねぇ』「……気合、入れ直したぜ。ホテルビルダンジョンの適合者とのリンク再接続頼む。東京にいる勇者をぶっ潰すつもりで全力でやるぜ。もし俺が勇者との戦いで不全になると思ったらお前の判断で適合者に俺の魂を移してくれ」『了解なのです!1体は邪体奪取に残すとして2回コンテニュー出来るのです!』「最悪相打ちに持ち込んでもいけるか……真邪王頼んだぞ」『お任せなのです!』 真邪王はホテルビルダンジョンの主である適合者(邪眼コピー済み)とジンガをリンクさせる。「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 適合者の右目にジンガ、左目に真邪王の邪眼を宿した適合者。肉体は邪眼のコピー能力によって魔改造され長くは生きられない。『さぁジンガ君、京都で得たこの能力は君でなくては扱いきれないよ。元の主はきっと恐るべき頭の回転の速さだったんだろうね』「ハ! 映画ミスターアラクニドの蜘蛛人間の要領だろ? コツを掴めばなんとかなる」『クレメンタインもジンガ君に任せればよかったのですそうしたらあんなしょうもないやられ方しなかったのに』「お前は能力が強すぎる、だから戦い方が雑なんだよ」『これからは無くて惜しいコピーはジンガ君に任せるのです』「戦力としてストックしとくのも悪くねえな」***少し仮眠を取り装備のチェックを終え準備万端のユウとパーティーメンバー。屋上に財団の大型ヘリが到着したのはその時であった。「よし……じゃあダンジョンに突入だ!ドウェインはダンジョンの入り口で待機お願い」「うむ」 ユウ、才賀桜桃色、ハオランはホテルビルの廊下に出現しているダンジョンの入口に飛び込む。「はっ」 飛び込んだ先は高速で走っている列車の上だった。「ホテルビルの中だから縦長のダンジョンかと思ってたら!」 ユウは思わずしゃがんで言った。「緩やかに反時計周りに進んでいるね、ダンジョンの広さ自体はホテルビルの面積と変わらないと思うけど」 骨の杖をついて列車の天井を突きながら才賀桜桃色が言った。「周回する線路の上を列車が走っているダンジョンか……これは人質を救出するの大変だぞ……」 ハオランは周囲を見渡しながら言った。後方に見えるのはトンネルの上部にあるダンジョンの出入り口。「あのトンネルを出た所で列車を止めて人質を出さないといけねぇぞ」「人質の安全を確保して列車をあの場所で止め邪魔をするモンスターやダンジョン主と戦わないといけない……か」 ユウの目の下に残ったクマが気になるハオラン。「いや、大丈夫。あーしが骨はしごをかければ列車がどこで止まろうとも人質は脱出させられるよ優先すべきは列車を止める事だね」 桜桃色がそう言った直後、背後から黒い影が出現した。下の列車の中から飛び出したそれは飛び蹴りで襲い掛かって来る。「シャッ!」「むっ!?」 咄嗟に出現させた骨武者でガードする桜桃色。蹴りの反動で空中に飛び上がった黒い影は黒い粘糸を飛ばして列車に着けパチンコめいて自身を発射させる。「シャシャー!」 強烈な飛び蹴りを放つ、骨武者は肩の大袖でガードするが大きく仰け反った。「このっ!」 直剣で突きに掛かるハオラン。空中で姿勢を変え錐もみ回転で回避、着地と同時に黒粘糸をハオランに向けて発射。咄嗟の反応でなんとか直剣で受け止める。「獅子王! イクスバーン!」 獅子王に着装し凄剣イクスバーンを抜くユウ。ハオランの後ろから飛び出して斬りつける。黒い影はバック宙返りで飛んで避けた。「いきなり出てきたな」「そろそろこっちも余裕がないんでな。俺様直々に相手してやるって訳だ」「その声……ジンガか!? でもその体は女性みたいだ……」「ククク……まぁ俺様にも色々隠し玉ってのはあるのさ。ここでオマエを始末して残りの勇者もじきに同じところに送ってやるぜ」「蜘蛛みたいな能力……それがお前の呪力の本領発揮か」「いいや? これは借り物の力にすぎねぇ……だが天才の俺様はこの土蜘蛛の能力も使いこなして見せるぜ」「土蜘蛛?」「本来の土蜘蛛とは違うが俺様の天才的操縦力に呪力を合わせたアレンジ。真邪王のバックアップ……お前らに負ける訳がねぇ」「俺も負けられない!」「威勢のいいことで……言っておくがこの列車から落ちればダンジョンから強制退場、ホテルビルの最上階高さの空中に放り出されるぜ。ちなみに線路の上は強烈な電流と呪いがかかってる一般人なんて一瞬で黒焦げ、お前らでも身動きとれなくなるだろうな」「そんな……」「ククククク……この状況で人質は救えるかなぁ?全員落下死もしくは感電死もしくは俺の可愛いモンスターの餌食になるかもなぁ?」「なに!?」「先頭車両から放たれた蜘蛛怪人はゆっくりと車内の人質を襲いながら進むぜ……さぁどうする勇者ァ!!」続く
Oct 13, 2024
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DHHUその27『どうするのです? 私はこの四人を行かせてほしいのだけど?』「く……」 歯ぎしりをするユウ。「ユウ! 迷ってる場合じゃねえよ! 一人でも多く救助するんだ!!」 ハオランが叫ぶ、開かれたシャッターの前でこっちに来いと腕を大きく振っている。「ダンジョンの広さ的にトラックを飛ばせば1分くらいで外に出られるはずだよ、運転はあーしと死霊に任せな! 護衛は柄留に!」 トラックに向かっていく桃色桜。『仲間はああ言ってるのですよ』「わかった……行けよ!」 真邪王の操る四人はユウの横を通り過ぎていく。「急げ、出来るだけ多くの人を救助するぞ」 先にシャッターの中に入っていたドウェインが子供を抱きかかえて出てきた。「わかった」 ユウは心にどす黒くモヤモヤしたものを感じながらやるべき事を実行すべく動く。怪盗コウモリで柄留に連絡、救助に使えそうなカードを全て召喚、工場の中に向かわせる。「(真邪王許さない……沙那の声であんな極悪な事ばっかり……)」*** トンネルの外に出る真邪王の操る四人。周囲の施設は破壊しつくされ機械兵は残骸と化していた。『おや? 思ってた光景とは違うのです』「ストリーキング? 怪人? ともかくヤバそうなの見っけ」 デモンズエッジ・スキャバードに乗った柄留が降りてくる。『邪魔なのですよ』「邪魔してるからねー」『じゃあ死ねなのです』 一人が暗黒の波動弾を放つ。柄留はデモンズエッジ・スキャバードで受け止めた。「これで公務執行妨害かな」 グレイブラスターを放つ柄留。弾丸は四人の頭部に向かって放たれるが触れる数ミリ前で火花を散らして弾かれる。「はぁ~……そっち系ね。あんまり得意じゃないけど」 デモンズエッジ・スキャバードの柄に手をかける柄留。「初めから思いっきりいくよ……【童子切安綱】」 デモンズエッジ・スキャバードをゆっくり引き抜く柄留。輝く刀身は日本刀。『へぇ~……面白いものを使うのです。ただの具現化じゃなくて伝承や想い願いを込めた高位の剣の魔法かな?』「あれ、初見で解かっちゃうんだ。そっか初見の解からん殺しはこれで無しかー」『高位の魔女が使う魔法を行使するだけでなくて正体不明の銃まで持ってるとは。簡単に通してくれなそう』「まぁね、出来る事なら全員ここで捕まえておきたい」『はぁ~……仕方ない。一人はここで諦めるか……三人になっちゃうけどコイツは放っておけないのです』 真邪王の操る四人の内一人が飛び出し柄留に迫る。他の三人は別方向に散る。「あ! しまった!!」『ついでなのですお前もじっくり邪眼で観察してやるのです!』「だったらこうする! 弾着キャリバー!!」 柄留は自分の腹にグレイブラスターを撃ち込み瞬時に全身を鈍い銀色のスーツ姿に変える。『……何だこれは。邪眼で情報が読み取れないのです』「さんきゅーキャリバー! 宇宙パワーさいこー!!」 童子切安綱で切り込みつつグレイブラスターで牽制する。対する真邪王の傀儡の人間はドス黒い半身側の腕から触手を伸ばして刃と弾丸を防ぐ。『(こんな所に厄介な伏兵が居たのです。残る三人は渋谷、台場、オータムホースに向かわせるのです。折角見つけたジンガ君の適合者なのです)』*** 工場に突入したユウが見たものは―― コンベアーで仕分けされた人間が棺のようなカプセルに入れられ片方は焼却炉に片方は薬品の槽に運ばれる機械だった。 待機させられている人々は目がうつろで動こうとしない。「駄目だ! 誰も彼も反応が薄いぜ!!」とハオラン。「命に区別などできないが……抱えて運べる子供を私はトラックに運ぶ」とドウェイン。「ちくしょうちくしょう……」 カード召喚者を7体操り動かない人々を抱えて運ぶユウ。「クソ! 硬いぞこの棺!!」 ハイエナ獣人に変身したハオランは棺の中に見える子供を見ながら言った。「ハオランくん、動かせる人間を優先的に救助しよう!」「ドウェイン先生! だけどよ……」「この状況で全員を救出は無理だ、出来るだけ多く救いたい!」「……くっ……そうだよな」 コンベアーから飛び降りたハオランはコンベアーの前で待機している子供を4人抱えてトラックに向かって走り出す。 駐車場では桃色桜の操る骸骨たちがトラックに人々を誘導している。「残り3分! あと1分が限度だよ!!」「クソ! マジかよ……!」 ハオランは顔をしかめ歯を食いしばり汗を垂らしているユウの姿を見る。「ユウ! 大丈夫か!?」「ちょっと今話しかけないで!」「ユウ……」 脱出可能時間ギリギリまで救出作業を続けるユウ達、2台のトラック30人を乗せる事ができた。「皆は先に行って! 俺はペガサスナイトを使えばすぐに脱出できるから本当にギリギリまで助ける!!」 イクスバーンで棺を壊しながら叫ぶユウ。「もうトラック出すよ!」「絶対戻って来いよ!」「無事でな!」 桃色桜と死霊が運転する2台のトラックが出発。制御できる限界の速度を出す。「このまま真っすぐ突き進むよ! 柄留は大丈夫なんだろうね?」 トンネルを抜けるトラック、するとデモンズエッジ・スキャバードに跨った柄留が空中から合流する。「ちょっとトラブったけどもう大丈夫! 出口までの邪魔者はボクが排除する!!」 真邪王の傀儡と戦闘していた柄留だったが決着を着けるには時間が足りないと考え追跡弾を密かに撃ち込んで傀儡を撤退させていた。「ママさん、勇者君は?」「ギリギリまで粘るってさ!」「え~……」 柄留は前方の機械兵や瓦礫をグレイブラスターで吹き飛ばしながら言った。 二台のトラックがダンジョンの境界から脱出した10秒後に二人の子供をペガサスナイトに乗せたユウが現れる。ダンジョン崩壊の爆発の影響で煤まみれになっていた。「ダンジョンの爆発の影響は外には無いのか……」ハオランが呟く。「真邪王……許せない……」 ユウは意識が朦朧としている子供を降ろす。「財団に連絡しようぜ人が集まってくる前に撤退した方がいい」 ハオランは消えていくダンジョンと周囲の野次馬が増えていることを見ながら言った。「撤退撤退! デッカイ花火をボクが打ち上げるからその隙に!」 柄留がグレイブラスターを空に向かって構える。「一応ボクも警察関係者だしここは何とかしてみせるよ皆はアジトに戻っておいて」***『ねえどうしてお父さんとお母さんはいないの?』『他の子よりもママを助けてよ!』『嫌だ死にたくない』『助けに来るのが遅いんだよ!』『勇者といっても所詮ガキだな』「うあああああああああああああああっ!」 叫びながら目を覚ますユウ。アジトのホテルラウンジだった。「随分うなされていたな」 ハオランが水を持ってくる。「あ……そうか……ダンジョンから帰ってすぐに気絶したのか……」「ビックリしたぜ……どうだ? どっか調子悪い所はねえか?」「大丈夫……ちょっと疲れただけかな。それよりもダンジョンから助けた人らはどうなった?」「兜金柄留が警察と協力して全員保護したってよ。あの子と相棒の才賀愛来薔薇は新宿の警察で事情説明、しばらく戻ってこれないそうだ」「そっか……」「それと……TMIのエージェント三人だけど」「うん? アリナさんたちがなにか?」「合衆国でデカい事件が起きたらしい。TVはずっとその話題だぜ」 TVをつけるハオラン、そこに映っているのは西海岸の大都市が火の海になっている光景だった。「TMIの三人は本部からの招集でついさっき去っていったんだ。ここに居るのは才賀の母ちゃんの方とドウェイン先生、財団の二人だけだ」「俺が気を失っている間にそんなに色々動きが……どのくらい時間経った?」「12時間だな」「父さんに報告しなきゃ……真邪王が新たに4人の下僕を用意したって」 ユウは重い体を起こして財団のネットワークに繋ぐ。『ユウ、目を覚ましたか』 眉間に皺を寄せたセイが言った。「うん、父さん大変なんだ! 真邪王が――」 ユウは真邪王が明らかに様子の変な4人組を操っていたと話す。『どうやら【凶】側もなりふり構っていられないようだな』「どういうこと?」『真邪王の邪悪な力を受けて人間の体は無事ですまない。適合する【凶】の魔王でなければな。しかし適合するといってもそれだけでは魔王としては力が振るえない、精々小さなダンジョンを作るくらいだろう』「じゃあなんで真邪王は4人も下僕を?」『現魔王のジンガのバックアップだろうな。何かトラブルが生じてジンガは危機に瀕しているのだろう。奴の父親で先代魔王のジンバは財団に追い詰められた際自決することによってバックアップの肉体に乗り換え逃げ切った事があった』「そんな! じゃあ永遠にイタチごっこって事?」『いや、そんな事はない。適合者はそう簡単に見つかるものではないしな』「でも4人がどこに行ったか分かんないし……」「その事なんだが……」横で聞いていた才賀桃色桜が言った。『何かな? サイガ・ピンクピーチ』「その4人の行方は多分大丈夫かな。3人はあーしが死霊に追わせたし一人は柄留が追跡弾を着けたからね」『そうなのか! よくやってくれた』「異様な邪気を放ってたからね、見逃す訳にはいかなかったのさ。で、一人は柄留が追跡弾を着けたから居場所の詳細まで分かるって訳」「凄いよサイガ!」『ふむ、ではその者達の居場所とは?』「渋谷と台場とオータムホースシティ……追跡弾の奴は歌舞伎町のビルに居るよ」『一人はオータムホースか……ヘリを用意しなくてはな……パーティの再編成を行おう。幸いオータムホースにも財団のギルドがある』「父さん、これからどうすればいい? ダンジョンを潰してジンガを追うのか適合者の身柄を抑えるのか……」『そうだな……』 セイは目を瞑り思考をめぐらせる。『適合者の確保は勇者が行う必要はない。勇者のすべき最優先事項は魔王であるジンガを見つけ出し邪眼を封印する事だ……よってユウは引き続きダンジョン攻略を頼む。適合者の追跡は財団で人材を確保する。京都のダンジョンは残る一つ、そちらはケンに任せよう。残る一つ京都のダンジョンにジンガが居なければケンを東京に向かわせる』「分かった」『……一つ気になる事と言えば……【凶】はこのままだとジリ貧だ。何か逆転の策があって動いているに違いない。財団の邪体保管施設の警戒も強めておくとしよう』「うん」『ユウ、しばらくそこで待機していろ。こちらからまた連絡する』「分かった」 通信を終えるユウ。「腹減ってねえかユウ? このホテルのルームサービスでも頼もうか?」「そういえばお腹すいたね」「あーしも何か食べよかな、せんせーは?」「私はパンとスープを頼む」 窓の外を眺めながらドウェインは桃色桜に言った。「あーしはスペシャルイカライスにしよっと。ハオランとユウは?」「俺は肉が食いてえからフライドチキン10ピース頼むわ、ユウは?」「えっと……ラーメン食べたいかな。豚骨味噌ラーメン」 しばらくするとルームサービスの者がチャイムを鳴らした。「お、思ってたより早いな流石一流ホテル……」「待ちなハオラン! 扉の外に居るのは――」 桃色桜が言い終わる前に扉を開けるハオラン、扉の前に立っていたのは全身黒タイツに見える人物。シルエットから女性だというのはわかった。ルームサービスの男は真横で震えている。「コイツは……」 一目見て真邪王の作り出したコピーの影だと分かった。黒い女性は指鉄砲の構えをとる。「おっと……」 指先から黒い物質が放たれる、ブリッジバック転で回避するハオラン。黒い人物はもう片方の手から黒い粘液めいた糸を飛ばして天井に着け張力を利用して一気に部屋の中に飛び込んで来た。「何!?」 ドウェインが抜刀する。天井に逆さまに張り付いた黒い人物は粘弾を飛ばしてドウェインを狙う。一発は回避、もう一発はスーツを掠めた。「む?」 粘弾は広がり窓とドウェインを縫い付ける。それを見た黒い人物は粘弾を連続発射、ドウェインを固めていく。「せんせ!」「ドウェイン!」「先生!」続く
Sep 29, 2024
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DHHUその26「なんだありゃ?」 才賀桃色桜と合流したハオランはキノコ雲を見て言った。「敵に見つかった誰かが戦闘始めやがったか? だけどユウがそんな迂闊な事するとは思えねえ……」「兜金柄留だねきっと」「あのギャル警官か……」「あの爆発で敵はそっちに向かうだろうから今のうちにあーしらは動くとしよう」「おうよ」 崩れた建物の影に身をひそめながらキノコ雲が発生した方角に進む二人。「うじゃうじゃと居やがるぜ」 ハオランは銃火器を持った異形頭の虫機械兵が隊列を組んでキノコ雲の方に向かっているのを見た。「見つかったら銃弾の雨あられを受けることになる、だけど銃弾が怖くないなら無茶できる。そんな考え何だろうよ兜金柄留は」「マジかよ、でもそれって油断から不意をつかれやすいような気がするな」「あれはそんなおバカじゃないと思うよ? オータムホースシティでバリバリにやってるならね」 さらに進むと柄留がデモンズエッジ・スキャバードに跨って飛んでいる姿が見えた。「飛んでる……しかもなんだあれ魔女の箒のつもりかよ」「白魔女の魂とも混ざってると言ってたからね。でもあんな飛び方アリなんだ」 着地する柄留、虫機械兵に囲まれる。「やべぇ!」「間に合うかな!」 柄留は強烈な閃光弾を放つ。光に怯む虫機械兵たち。視力が戻ったハオランと桃色桜が見たのはコミックや特撮ヒーロー番組に出て来そうなアーマーを装着した柄留だった。「弾着! キャリバーモード!!」 腰を落として両手を広げて見得を切る動作をする柄留。「ギャギャギャギャー!」 囲んでいた虫機械兵の視力も戻り柄留に向けて一斉掃射。だが倒れていくのは虫機械兵達であった。「何だ?」「攻撃を全て相手に返している?」「ギャギャギャギャー!」 装甲車が駆けつける。そして機銃掃射を柄留に向ける。「機銃なんて流石に……」「大丈夫みたいだよ」 大口径の機銃の弾丸は柄留に触れた瞬間消えていく。弾丸を撃ち尽くした機銃の銃口は真っ赤になり煙を上げている。「返すよー!」 グレイブラスターを構える柄留。銃口から空中に浮いた4本レールが伸びていく。「レールガン!!」 爆発音と共に青白い閃光が走る。装甲車は一撃で粉砕され爆発炎上。「は? あんなの一人殺戮兵器じゃねえか」「元々のグレイキャリバーの恐ろしさが垣間見えた気がするね」 ターゲットロックで索敵する柄留。瓦礫の影に隠れているハオランと桃色桜を発見する。「あ~! 居た居た~!!」 変身解除をして二人に駆け寄る柄留。「ボクの活躍見てくれたんだ」「まあな、滅茶苦茶だよアンタ」「ホントにね」「いやほら……ダンジョンの敵って思いっきりやれるんでしょ? 久しぶりに派手にブチかましたくて……えへへ」「アンタは警官だし外ではできねえもんな」「なるほど、あーしの娘の愛来薔薇じゃなきゃコンビ組めない訳だ。普通の警官じゃあ無理だね」「それにしても全部ひとりで解決しちまいそうな勢いだな」「いやーどうかなー……敵が物理オンリーだったからボクはキャリバー無双出来たわけ。別の系統が違う敵だったらこんな風にはできないよ」「そうなのか」「超スピード超パワーの超近接型の怪人とか得意じゃないし、魔術、呪術、超能力とかの集団に囲まれたら今みたいにはできないかも」「オータムホースシティやべぇとは聞いてるがそんなのがウジャウジャしてるのか」「まー大体……週1で変なの現れるかな? 多い時は毎日」「ヤバすぎんだろ……それでも人生一発逆転の夢を見て行くやつは絶たないし成功すればこの国で一番の娯楽サービスに技術に触れられる……」「光が強すぎるから闇も濃くなる、そんな街だね」 桃色桜はオータムホースシティの光景を目に浮かべながら言った。「治安が良い所と悪い所の差が凄いし善人と悪人の振れ幅も大きい。何事にも程々にのんびり暮らしたい人間には向かないんだろうねぇ」「ホムラちゃんあっちに行ったけど大丈夫かな?」「大丈夫でしょ! おばあちゃんが院瀬見の役員ならきっと」柄留が言った。「……話をしている場合じゃねえな、ユウ達と合流しねえと」 *** ユウとドウェインはキノコ雲が上がった場所に向かう途中、機械兵に見つかりロケットランチャーを撃ち込まれ建物の影に隠れていた。「蛇の暗殺者の超反応で助かった……」「だが……囲まれてしまったな」「黄金の鎧をドウェインに装備してあげるから俺は鰐王を着装して機械兵を蹴散らす。先にキノコ雲の所に向かって」「無茶だ」「鰐王ならそう簡単にやられないよいざとなったら脱出するし」「すぐにハオラン達を連れて戻る」 ドウェインが走り出す。ユウは鰐王を着装して機械兵の行く手を阻む。「グルウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアッ!!」 丸太のように太い尻尾で機械兵を3体薙ぎ払う。「ギギ!」「ギギギギ!」「グウウウウウウアアアアアアアッ!」 飛び掛かる鰐王ユウ。鰐の頭部を模した兜は大きな顎を持っている。機械兵に食らいつき捻じり切るように回転する。「ギギギギー」 火花を散らして上半身が捥げる機械兵。ユウは【破鎚ワイル】のカードを取り出して召喚。棘状の装飾品が施されたドラム缶程の巨大なハンマーを振り上げる。「ワイルドスタンプ!」 目の前のアサルトライフルの射撃を続ける機械兵に破鎚ワイルを叩きつける。青白い稲妻が走り放射状に広がり次々と機械兵を巻きこんでいく。「時間を稼がないと……鰐王は制御がきついけど……」「ギギギギ!」 後方に居る隊長クラスの機械兵がロケットランチャーを発射、ユウは破鎚ワイルで受け止めるが爆発の衝撃で倒れこむ。「ちくしょう……負けるかー!」 鰐のように腹ばいになりながら起き上がり肩に破鎚ワイルを構えて体を沈み込ませる。「ギギー!」 再び放たれるロケットランチャー。しかしユウは鰐王の強靭な尻尾を使って跳躍回避、エネルギーを込めた破鎚ワイル空中から振り下ろす。 「ギギギギギー!」 隊長機械兵の頭部を破壊、インパクトの瞬間電撃が周囲に放たれ機械兵を巻き込む。「よし……これでここの機械兵は居なくなったかな」 ユウは機械兵の残骸が動かないのを確認し注意しながら通りの方に進む。「あれは……」 トラックに鉄格子が積まれその中に人々がすし詰め状態で入れられているのが見えた。「ダンジョンに取り込まれた新宿の人達か」 機械兵はダンジョンに取り込まれた人達が変異した姿ではないと確認していた。では取り込まれた人々はどこに何の目的で運ばれているのか気になった。「ハオラン達と合流しなきゃだけど……あのトラックを見逃したくない……怪盗コウモリ、ドウェインを追ってこの事を伝えて」 怪盗コウモリにメモを持たせて飛ばす。ユウは鰐形態に変身した鰐王の鎧に乗ってトラックを追う。 トラックは以前ホムラが示した地図の真ん中に向かっていた。検問が敷かれたゲートを通り抜けトラックはスロープになっているトンネルに入って行った。「ここまでかな……この先は皆を待とう……」*** 程なくしてユウはハオラン、ドウェイン、才賀桃色桜、兜金柄留と合流する。「あのトンネルの先に何かあると」 ハオランは携帯式の双眼鏡で見ながら言った。「それじゃあまたボクがステルス弾でみんなを透明化してあげるよ」「全員で突入? 二人くらい残ってた方が良くない?」桃色桜が言った。「確かに……ボクはどっちでもいいよ対応して見せるからスーパーエリートポリス(自称)なので」 柄留はグレイブラスターをガンスピンしながら言った。「スーパーエリートがあの大騒ぎを起こすんだ……」「いやぁ~面目ない。でもきれいさっぱり片付けたでしょ?」「圧倒的勝利で誰も怪我してないけど敵の警戒度はMAXになったね」「じゃあさ……いっその事ボクが囮になってこの戦場ダンジョンをかき乱しまくるから勇者君たちは調査に集中してよ」「え? 一人で囮するの?」ユウが言った。「そっちのが動きやすいからね。ボクは飛ぶしついてこれる人いないでしょ?メグルージュのママならなんとか出来るかな?」「いや、やめとくよ。あーしは愛来薔薇みたいにあんたについていけないって」「じゃあやっぱりボク一人でやるね。もし勇者君たちが30分経っても戻ってこなかったらダンジョンから離脱してTMIとメグルージュに救援要請するよ」「了解、じゃあそれで行こう」 柄留を残してユウ達4人はステルス弾で透明化してトンネルに向かう。「先に何があるんだ……」 ユウ達は慎重にトンネルを進んでいく。時折見張りの機械兵を見かけるが気付いている様子はない。「もうすぐ抜けるぞ」 ハオランは先からくる匂いで判断しそう言った。 左に曲がるとT字路の駐車場になっており鉄格子を積んだトラックが4台止まっている。「シャッターが見えるな……あの先はなんだ? 機械音が聞こえるぞ」 ドウェインが言った。「そろそろステルス弾の効果時間が切れる……怪盗コウモリを飛ばして偵察するよ」 怪盗コウモリを飛ばしシャッターの隙間から写真を撮って戻って来る。「どうだ?」とドウェイン。「これ見てみんな……中は工場っぽい」 怪盗コウモリが撮った写真にはベルトコンベアー、鉄格子に入れられていた人々が一人一人機械兵に掴まれてコンベアーに寝かされて居る様子が映っていた。「碌なもんじゃないってのは見てすぐ解かるね」顔をしかめる才賀桃色桜。「死の気配が漂ってる……相当な数の人間がここでやられてるよ」「何が行われてるんだ……ユウ達が見た広場の見せしめと何が違うんだ?」「あの時の機械兵は言葉を発してた……その他大勢の虫みたいな機械兵とは違ったんだ見せしめというか……う~ん誰かを探していた気もするんだ」「と言うと?」「えっとハオラン……『違う、コイツも違う』とか言ってた……違うと判断してたらその場で射殺してた。後は……その他大勢の機械兵と違って軍服を着てた」「この戦場ダンジョン内ではある程度上の階級って事か? ダンジョン主の側近であるかもな……」「先に工場をどうにかしないとね……死霊達の様子を見るに地獄って感じだし」 桃色桜は骨武者を召喚する。「どうする?一気に踏み込むか?」 ハオランはユウを見る。「無関係の人達の救出もやらないといけない事だしやろう!」「かなりの人数が予想される、誘導はどうするのだ?」 ドウェインが言った。「えっと……サイガお願いできる?」「まぁ……トラックの運転もできるし足りない分は死霊にお願いすれば可能だよ、安全の保障はできないけど」「外に出たら兜金柄留に護衛ついてもらえばいいんじゃないか?」「それだ! 怪盗コウモリで伝えよう!! じゃあ突入準備……」 ユウ達が意を決して通路の角から飛び出そうとした時、突然シャッターが開き中から四人の男女が現れた。 服は着ておらず全員半身がどす黒い紫色に染まり片目は光を放っている。「なのです」「ナノデス」「なのデス」「ナノです」「この声……真邪王か!?」『正解なのです! 正直驚いたのですがギリギリ間に合って良かったのです』 実体の無い真邪王は四人の男女の声帯を使って話す。「間に合う? 何を?」『この四人を揃えることです! もうここには用が無くなったのでダンジョンごとお前たちを始末するのです……そうですねぇ予告なしでドカンとやるのもいいですがここは無様に慌てふためく姿を拝みたいので5分の猶予を与えるのです!』「何をするつもりだ!」『カウントダウン開始から5分後にこのダンジョンは大爆発崩壊するのです。まぁお前たちなら3分もあれば余裕で脱出できるでしょうけど一般人はどうですかねぇ?』「そんな!」『アハハハハハ! その顔! そういうのが見たいのです! もう一人の勇者は京都で快進撃を続けていい気になってるけど根本的な解決には至ってないです! ジンガ君を捕まえて私を封印しない限りこんな感じでずっと大勢が不幸になる出来事が起き続けるです』「うあああああっ! 獅子王! 凄剣イクスバーン!!」 瞬時に着装して最大火力の必殺技を繰り出すユウ。横薙ぎの黄金の光波が真邪王の操る四人に向かっていく。「オン」「怨」「おん」「ON」 四人から放たれた暗黒の波動が凄剣イクスバーンの光波と衝突。「ぐうっ!」『流石勇者の必殺技なのです、四人がかりで相殺とはね』「もう一発!」『ここでやり合うのもいいですが今の一撃をもってカウントダウンを開始したのです! さぁさぁ残り時間は5分弱なのですよ』「くそう……」『よーく考えて悩んで傷つくのです! 全員は救えないし救える者をお前が選ぶのです! アハハハハハハー! 自分も他も全員死亡の超絶バッドエンドも期待してますよ』続く
Sep 9, 2024
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DHHUその25 ユウ達は一度撤退し東京のマンションの最上階にあるギルドに戻っていた。「ユウさん、防弾装備の準備できていますよ」 財団の女が言った。「ありがとう」 台車で運ばれてきた防弾プロテクターとヘルメットを確認するユウ達。「超軽量の素材で造られた軍用装備です。財団が東京で活動する際に準備していたものですどうぞ」「召喚防具が使えない状況でもこれを着けてれば少しは安心できるね」「ダンジョンつーよりかあの場所は戦場だしな。いつもと違った装備で挑まなきゃな」「うむ、十分な備えをしていこう」「あーしも今回はガチガチに固める」 装備を着けていくユウ達。「そういえば兜金柄留さんはどこに?」「ああ、彼女は今シャワー中です」 財団の女がそう言うと奥の浴室から兜金柄留が出てきた。「ふーさっぱりした……あ」 濡れた髪にタオルを当てながらそのままの姿で出てきた柄留。「やば……」 その場の空気が固まったことを察した柄留は申し訳程度に体を隠しながらムーンウォークめいて後ずさりして浴室に戻っていく。「えへへ……どもども……気ゆるみすぎてた」 舌をぺろりとみせてバスタオルを巻いた柄留が出てきた。「着替え着替えっと」 カバンから着替えを持って再び浴室に戻っていく柄留。数十秒後服を着て出てくる。「こほん……まぁ今のはなかったことにして……始めまして兜金柄留でーす!」 固まっているユウとハオラン。肩をすくめるドウェインに笑いをこらえている桃色桜、あきれ顔の財団の女。「そこの少年、お兄さん! ボクの体を見て忘れられないのはわかるけど一旦忘れよう、ほらあっちのソファに座って話しよ」 柄留は無意味に側転をしてソファに勢いよく座る。「ほらぁ」 何の前触れもなく突如柄留の右手に現れた銀色のレトロフューチャーな銃を天井に向かって撃つ。弾丸は発射されずに空砲が響く。「は!?」「大丈夫大丈夫、空砲だし。少年勇者にハイエナ獣人武道家にドクターに愛来薔薇(メグルージュ)ちゃんのママだね?」「え、あ、はい」「座って座って、お話しよ?」 マイペースな柄留に戸惑いながらユウ達は新宿御苑のダンジョンについて話した。「弾丸飛び交うダンジョンねー……確かにボク向けだわ。ステルス迷彩もそんなに長い時間は無理だけど着けてあげられるよ」 柄留はまた唐突に銃を撃ちスタンドライトに命中させる。するとスタンドライトは壊れることなく徐々に透明化して全員の目の前から姿を消した。「多分1発3分くらい持つかな? ボクも疲れるし無駄撃ちはあんまり出来ないケド」「いや、凄いけどさっきからパンパン軽く銃撃ちすぎじゃね?」ハオランが言った。「え? 別に良いでしょ? グレイブラスターは只の銃じゃないしボクの体の一部のようなもんだし危ない弾は込めてないし」「いやいやいや」「生まれた時からボクはグレイブラスターと共にあるんだよ。他にもデモンズエッジ・スキャバードとかも。キミの爪や牙と何も変わんないよ」「俺の獣人姿見た事あるのか」「資料でさっき見たよパーティー全員分のね」「そうか。で、アンタが全弾飛び交う戦場向きってのはその特殊な銃があるからか?」「半分は正解。グレイブラスターは弾丸作成だけでなくって銃作成もできるんだよ。使い捨てになるけど簡易版グレイブラスターを誰でも持てる」「俺たちがその銃を持てば楽々攻略できるってそういう事か?」「いや~それはまぁ……どっちかというとボクには弾が当たらない事の方が大きい理由のような。グレイブラスターと一体化してるボクにはありとあらゆる弾とされてるものが当たらないんだ。理由は知らない造った本人はもういないし」「は? そんな出鱈目な……」「判定微妙な弾は当たるけど軽減される感じかな? 水鉄砲の水とか……そういうの」「銃使いってより……魔法使いに近いんだね」桃色桜が言った。「そうなの! 流石愛来薔薇ちゃんのママ!! 弾丸はボクが知らないもの理解できないものは造れないし効果によっては長持ちしないんだ」「あ、じゃあ俺の【狼の銃士】に簡易版グレイブラスターっての持たせられる!?」「うん、いけるよ。素材になる銃は用意しといてね?プラスチックのモデルガンとかだとすぐ壊れるから見た目よりも頑丈さ優先でお願い。無かったら鉄パイプとかでいいから」「そんなんでいけるんだ……」「そだよ、それが強みっていうか……ボクじゃなくてこれを作ったグレイキャリバーってのはやる気になれば1週間でオータムホースの住民全員兵にして簡易版持たせる事もできたっぽい」「え」「簡単で強烈な思考を植え付ける弾丸を最初の一人に撃ち込んでその弾丸を込めた簡易版で撃たせて……を繰り返せば……すぐらしい。宗教団体とか大企業のトップにグレイブラスターを最初に持たせればすぐに実行できたんだけどしなかったんだって」「ちょっと怖すぎるんだけどその銃」「だよね? ボクもそう思うし前の持ち主もそう思ってた。グレイキャリバーが前の持ち主を選んだ理由は『魂の波長』が合ったからなんだって。その子が極悪人でも私利私欲の塊でも快楽主義者でも無かった。純粋な怒りと守りたいものの為に自分を投げだせる覚悟があって挫けない……そういう子」「怖い銃なのに何か……」ユウはじっとグレイブラスターを見つめる。「グレイキャリバーってのは不屈の精神を持つ革命家とか叛逆者とかそういったのが好みだったわけね」桃色桜が言った。「で、前の持ち主はどうなったんだ?」ハオランが言った。「死んじゃった。グレイキャリバーとのシンクロ率が上がりすぎて人間を辞める寸前の所でその子の親友が止めに入って相打ちでね。親友の子も生死の境をさまよった。あと一日止めるのが遅かったらグレイキャリバーに飲み込まれてたし更に1週間放って置いたらオータムホースはキャリバーの軍勢に支配された街になってたはずだよ。ある意味平和になると言えばそうなんだけど……」「君は大丈夫なのかね?」ドウェインが言った。「うん、もう一つの力が中和して別の魂になってるし大丈夫」「ふむ……もう一つの力とは先ほど少し触れたデモンズエッジ・スキャバードかね?」「そう! 流石ドクタードウェイン頭いい! 剣の白魔女ミレーヌ・ジンデルがもってたデモンズエッジ・スキャバードのおかげ!」「君がグレイブラスターとデモンズエッジ・スキャバードを所持してるのは……キャリバーと白魔女の対決後何があったんだね?」「えっと……説明が難しいんだけど白魔女側が頑張ってグレイキャリバーと適合者の分離をなんとかしようとしてちょっとうまくいかなくて……ボクが偶然生まれたんだ」「なんと……」「え!」「は!?」「ふむ」「だからボク実年齢1歳なんだよね……えへへ」 胸を張って頭を掻く柄留。「宇宙人と白魔女と人間の魂が合わさってるのがボク」「非常に興味深いな……姿形は三者の誰に一番似ているのかね?」ドウェインが柄留の目を見て言った。「それが……この姿はその三者誰でもないんですよねー……生死の境を彷徨うほど頑張って助けようとした適合者の親友の女の子にそっくりなんだー」「益々興味深い……君はオータムホースシティの警察という事だが」「うん、そのおかげでまぁまぁ快適にすごせてます。ボクはあまりに特殊だから実験動物にされそうだったし実際そうなりかけたっぽいけど」 全員が言葉を失う。「しんみりしないで。ボクは今の生活気に入ってるし好きな人もいるし気の合う相棒もいるし上司は厳しいけど理解あるやり手だし暗くなる事なんてなにもないから!」「柄留さん……」ユウは顔を近づける柄留に照れながら言った。「ダンジョン攻略しちゃうよー!」*** 新宿御苑に到着するユウ一行。 大勢の警備ロボを眺める柄留。「は~なるほどね~……火炎放射装備の警備ロボがあんなに沢山……ユウくん、アイツらってダンジョン消えたら居なくなるの?」「多分……消えますね。場合によっては何か別の形で残るかもですが」「じゃあ無視して突入しよう。気を付けることはある?」「恐らくだけど入ったらランダムでダンジョンのどこかに現れるんだ。前回入った時パーティー全員少し離れた場所に出たから」「それは面倒だね」「ハオランが匂い辿ってくれたおかげで皆と合流してホムラちゃんを救出出来たので」「そっか、じゃあ入ったら下手に動かずにハオランくん待ちがいいのかな?」「あの……出来たらでいいんだけど柄留さんが敵に気づかれないようにマーカー弾とか出来るだけ着けてって欲しい」「おっけ~もし見つかったら全力で騒ぎにならないように倒すよ」「お願い」「前回侵入した時にホムラちゃんのデータとあーしのマッピングで簡単な地図作っておいたからみんな一人一枚持っていきな。アナログは慣れないだろうけど傾いている高層ビルがあっただろ?そいつを見て方角を合わせながら地図を確認すればいい」「ありがとう才賀」革製の地図を受けとる。「それとこの骨も渡しておく、地図に乗せると現在地が解るよ」 桃色桜は小さな指の骨を全員に渡す。「助かるよ」「私からはこれを」ドウェインは小さなスプレー缶をカバンから取り出す。「救急スプレーだ応急処置に使ってくれ」「離れ離れになる事が分かっているからありがたいよ」「最後にボクがみんなに閃光弾が入った簡易グレイブラスターミニを渡しておくね」 柄留は手のひらに収まるサイズのデリンジャーを4人に渡す。黒と白とグレーのモザイク模様の奇妙な銃だった。「2発撃てるよ。威力もそれなりにあるからもしもの時にも使って」「了解」 柄留のステルス迷彩弾で全員透明化してダンジョンに突入する。「ん?」 ユウは式典などが行われるようなホールに出た。壇上には縛られ棒に張りつけられた人が何十人と見える。「なんて事だ……あの虫機械兵士あんなことまでするのか」 ユウからは聞こえないが虫機械兵同士が何かを話すと壇上の袖から勲章を大量に取り付けた軍服の男が出てきた。そして縛られている人々の顔を覗き込む。「チガウ! コイツもチガウ!」 そういうと懐から取り出した拳銃で縛られている人を撃った。「何っ!」 ユウは柱の影から飛び出しそうになるが何とかこらえて周囲を見渡す。ホールにいる虫機械兵は50体以上は居る。「どうしたら……まずはホールから出るべきかな……」 そっと蛇の暗殺者を着装し足音を立てずに出口を探す。階段を降り温度感知で敵が居ないのを確認して扉を開けると目の前には傾いた高層ビルが見えた。「あれは……地図と骨で確認しよう」 地図を広げ骨を置くとユウは傾いたビルの6時の方向に居ると確認できた。「ホムラちゃんを見つけたのがここから2時の方向……じゃあ虫機械兵の巡回円の中心はこの近くになるのか……」 ハオランが見つけやすくするために屋外に出たが現在地が敵が多い。「ユウ君聞こえるか……?」 声がした。ドウェインがホールから少し離れた物陰で囁いている。蛇の暗殺者の超感覚で聞き取ることができた。「よかった……」 素早く物陰に隠れながらユウはドウェインの元に移動する。「ステルス迷彩弾の時間切れになる前に合流出来て良かった……」「君が蛇の暗殺者を装備してくれてて良かったよ。いくらステルス迷彩弾で透明化していても物音は消せないからな。敵の数が多くて動けなかった……ざっと見た所虫機械兵は大隊規模の数だぞ」「見つかったら面倒な事になるね。洞窟型のダンジョンなら少しずつ相手にできるんだけど今回は開けた箱庭型だしね」「ここは幸いにも風上だハオラン君も探しやすいだろう。ステルス迷彩弾の時間がある間はしばらくここで様子見だ下手に動き回らないほうがいい」「うん、一応【怪盗コウモリ】をタイミングを見て飛ばしてみようかな」「敵の警戒レベルが上がらなければ良いがこのままじっとしているのも勿体無いか」「混乱させるのもいいかもしれない。ホールで殺されてる人たちを見た。これ以上奴らに好き勝手させたくない」「ふむ……ではこういうのはどうか。怪盗コウモリにスイカ爆弾のカードを持たせて探索、才賀君やハオラン君や柄留君が見つかれば良し、見当たらなければ適当に敵を空爆して敵の注意を惹かせよう」「それでいこう! 怪盗コウモリにスイカ爆弾のカードを持たせるよ。遠隔発動で100発は召喚して落とせるはず」 ユウが準備をしていると10時の方向で大きな爆発音、視線をやると大きなキノコ雲が上がっていた。「なんだあれ……」***「やっちゃったやっちゃった! みつかったものしょうがないよね?」 純白で肉々しい鞘と剣のデモンズエッジ・スキャバードに跨って空を飛ぶ柄留。地上から柄留に向かって放たれる銃弾の雨あられ。虫機械兵はアサルトライフルや拳銃を装備している。「撃っても無駄当たらない! ボクの方からはドカンともう一発いくよー!」 グレイブラスターの銃口からペットボトル大の砲弾が出現。「エルボムカッター!」 砲弾を虫機械兵のいる足元に炸裂させる。まばゆい閃光と共にキノコ雲があがり周囲10メートル程を完全に焼き払った。「ジャジャッジャー!」 飛行タイプの虫機械兵が近くの建物から3体飛び出してくる。「そこ!」 マグナム弾に匹敵する弾丸を腰だめで撃つ柄留。火花を散らして虫機械兵の頭部装甲が吹っ飛ぶ。「硬い! じゃあこれだ!」 後ろから接近してくる虫機械兵をトンボ返りで回避して緑光のプラズマ弾を背中に打ち込む。衝突で光の爆発が起き虫機械兵の体を円形にえぐり取った。「ビンゴ! オータムホースの企業兵みたいに電磁バリアー張ってないからプラズマ弾が効く!!」続く
Sep 5, 2024
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DHHUその24「サイガ・メグルージュ、感謝します」 アリナはワゴン車の中で静かに言った。「改まってどうしたの?」「わたしは貴女の容姿を見てどこか侮っていました」「そりゃしょーがなくない? ママリスペクトでこんな格好してるからアタシの事に関してフィルター掛かるのは当然っしょ」「これまでの経験と統計で判断してしまいました。最初から貴女の立ち振る舞いを見ていれば失礼な思考をせずに済んだはずです」「アリナさん真面目過ぎー! いや真面目なのが悪い事じゃないけどもうちょっと楽に接していいよ。相棒の『えるえる』なんてアリナさんと真逆なんだから」「えるえるとは……兜金柄留の事ですか」「そ、あの子ぶっ飛びすぎてるんよ。まー特殊な出生だししょーがないけど」「……兜金柄留の事も色眼鏡で見ないようにします」「あー……まぁあの子は裏表無さ過ぎというか合う人と合わない人ハッキリしすぎというか……馬鹿っぽいけど賢いからアリナさんのように真面目で正直者は合うかもね」「そうですか」「うん、絶対大丈夫。嘘つきやいいかげんな人間はえるえるも嫌うから、アリナさんはうまく付き合えるよ」 アリナと愛来薔薇の会話を聞いているフローレンスと哿。アリナの緊張がほぐれていく事に驚いていた。「オータムホースの特殊警察のエリートって肩書に納得しました」 フローレンスが言った。「アリナは人付き合いが得意な方ではありません。悪気はなくても相手を警戒させたり誤解されたりはよくある事なのです。アリナの力を見た後は皆距離を置きます愛来薔薇さんは自然に接してくれます流石です」「いやいや誉め過ぎだよフローレンスさん。アタシはそんな大層なもんじゃないよこの性格もママの影響だし成りたい自分を描いて無理してるだけかもよ?」「なりたい自分を描いて行使できるのは凄い事ですよ」と哿。「素の自分を認めなくないだけっていうかまぁ……やりだしたら続けるしかないみたいな?」「僕はずっと不安定な状態で生きてます。アリナさんやフローレンスさんのようにしっかりと自分を持てない。愛来薔薇さんのように振舞えない。テレポートの異能を持つ者に多い傾向だそうですが……」「……そっか、ちょっと安心したかも。TMIのエージェントとエリート中のエリートだから一緒に作戦うまく出来るかなって考えてたけど……Uチームは思ってたより普通の子たちだったわ。といっても哿さんとアタシ歳かわんないか」「サイガ・メグルージュ、貴女は非凡な存在です。わたし達がここまで打ち解けることはそうそうありません」アリナが言った。「恥ずかしいね。でも仲良くなって悪い事なんてないこれからもよろしく!」***――新宿南側、新宿御宛「なんだあ? 御苑に入れねーぞ?」 ランニングを日課としている男が足踏みをしながら見えない壁に触りながら言った。「鉄拳制裁」 何も見えない御苑の壁から突如警備ロボが出現し男を殴りつけた。「ぐがあ……」「新宿御苑は封鎖中です。侵入者は排除します」「ひいいいいい!」 鼻血を出しながら逃げていく男。「封鎖中封鎖中」 次々と警備ロボが新宿御苑から出現する。外周を全て囲む数の警備ロボ。「オイオイオイ! こんなに大量の警備ロボ見た事ねえって!」「何が起きてんだよ?」 新宿御苑の周囲の人々が騒ぎ出す。「新宿御苑はテロリストに占拠されました。現在立ち入り禁止です」 警備ロボが言った。しかしこれらはダンジョンで生成された偽の警備ロボ。「聞いてねえって! 勝手に封鎖すんじゃねーよポンコツが!」 生身に見えるサイバネ改造した若者が警備ロボに殴りかかる。油圧式のピストンパンチでこれまで地下サイバネボクシングで何十人も病院送りにしてきた彼は自信に満ち溢れていた。「公務執行妨害です! 排除します」 殴られ転倒した警備ロボの隣のロボが言った。胸のハッチが開き火炎放射器が出現。「マジかよ!?」 それが若者の最後の言葉になった。猛烈な火炎放射で黒焦げとなった。「排除します」「排除します」「排除します」 警備ロボたちは一斉に火炎放射の準備をする。「うわあああああああっ」「逃げろおおおおおおお!」 混乱が広がる新宿御苑の周囲。外から見るに中は何も起きてない様子。しかし透明の壁の中はダンジョンと化しユウ達が攻略中であった。*** 新宿御苑ダンジョン内はまるで違う光景が広がっていた。空襲を受けたように崩れかけたビル群。鳴り響く銃声、まるで市街地の戦争地区のようであった。「クマ……」 穴の開いた壁の建物の中に幼い少女が座り込んでいる。鏡面仕上げの銀色に輝く奇妙なクマのぬいぐるみを見つめている。「おばあちゃんは言ってた、よく考え学べば成長できる。大変な事も乗り越えられる」 クマの瞳にデータが表示される。「光ネットに接続……むり。外との連絡手段は今の所ない……」 クマは融けたように崩れ始め姿を変え少女の体に張り付き雨合羽のようになる。「……ステルス迷彩起動。これでとりあえずまわりを見る」 建物からそっと出る少女。目の前を4輪駆動のオフロード車が走っていく。乗っていたのは異形頭の兵士たち。銃頭、トンカチ頭、時計頭など。「あれは何?」 雨合羽クマを使ってスキャン。心音が無い事から生物ではないと判断する。「ロボット?」 通りの方を除くとこの場に似つかわしくない姿をした一団が見えた。ユウ達である。「救助に来た人たち? どうだろう」 黄色い武闘家っぽい服を着た男が鼻を鳴らしながらこちらに接近してくる。「おおーい……子供だろ隠れているのは? 匂いで解るぞ。救出に来たんだ」「どうしよう、出てみようか。知らない大人は信用してはいけない、だけどこのままではいけない」 祖母からプレゼントされたクマを肌身離さず持っていてよかったと少女は思った。「怖がってるのかー?大丈夫、あっちの少年勇者ユウを見ろよ? 何処をどう見てもヒーローだろ?」 少女は足音を消しながら黄色い服の男ハオランの横を通り過ぎてユウの目の前に行く。「ねぇお兄ちゃんは何者?」 ステルス迷彩を解いて姿を現わす少女。「おっと、びっくりした! こんにちは俺はユウ・シーア! 君のお名前は?」「……ホムラ」「お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」「タロウさん……運転手のおじさんと一緒だったけど御苑の前で待ってるの。あたしは御苑に粘菌を取りに来たの。お母さんはお家で仕事してる……」「お家は近いの?」「うん、車で5分のマンション」「苗字……お家にいるお母さんの名前は?」「釜戸ショウコ。でもね、ちょっと前に苗字変わったのお父さんが死んじゃって」「そうなんだ……辛かったね」「ううん、お父さんの記憶殆どないから寂しくないよ。おばあちゃんが良くしてくれたし毎日おかあさんに内緒でクマをつかって連絡とってるの」「そっか……おばあちゃんは何処にいるの?」「オータムホースシティ……おばあちゃんのお名前は神名燐火……」「神名……」「うん、だからね本当はあたしも神名ホムラなんだっておばあちゃんが言ってた」 ユウはハオラン、ドウェイン、才賀桃色桜(ピンクピーチ)の顔を見る。「神名のお嬢さんだとはな……」「ふむ……」「ん?確か院瀬見の役員じゃなかったかな神名燐火って」「お兄ちゃん達は何?」 ユウ達を見つめるホムラ。「シーア財団に所属する勇者パーティーだよ。信用してもいいおばあちゃん……神名燐火さんにも聞いてみるといいよ」「そうする、でも外に出ないと……ネットも繋がらないし」「だよねー……他に見かけた人はいないかい?」「いない、あたしだけ」「そっかじゃあ一旦ホムラちゃんを外まで送るよ」「さ、俺がおぶってやるよ」ハオランがしゃがむ。「大丈夫、クマに乗るから」 ステルス雨合羽は1mほどのクマの姿になり後頭部からハンドルが飛び出す。「すげぇ何だこれ?」「スライム……おばあちゃんがあたしにプレゼントしてくれたの名前はクマ」「これが神名の最新技術かぁ……」 見つめる才賀桃色桜。「あまりおしゃべりしてる暇はなさそうだ」 ドウェインが眼鏡を触りながら言った。 迷彩柄の軍服を着てる異形頭達の姿が見えた。「アイツらはこちらを見つけ次第問答無用で襲って来る。機械のように」 ハオランが言った。「あの変なの虫みたい」 ホムラが呟いた。「虫?」「動き方とかが」「なるほどね……」 桜桃色が言った。「妙な気配だとは思ってたけどあれは人間の骸を利用してるんじゃないんだね……虫と機械の融合体って所かね」「高度な行動パターンを設定せずに昆虫の習性を利用して操っているのか」 桜桃色とドウェインが合わせて言った。「このダンジョンは虫の縄張りとするのなら女王の居る巣があるはず」「そこに今回のダンジョンの主……ジンガか真邪王が居れば当たりだな」「まずはホムラちゃんを外に避難させよう」 ユウが言うとハオラン、桜桃色、ドウェインは頷いた。「クマで虫機械の動き辿ってマッピングしてみたよ」「え?」 乗っているクマの目から光の立体地図が飛び出しダンジョンと虫機械が表示される。「光の線が虫機械の通った跡だよ」「円形に進んでいる……これって円の中心にいけば主がいるかもしれないって事かな」 ユウが見つめる。「わかんない。アリのデススパイラルかもしれないし」「デススパイラル……? わかんないけど良く知ってるね」「さっき知った。おばあちゃんがクマにインストールしてくれてる本で読んだの」「円の外に外に行けば出られる?」「そうかも!」 ユウ達一行は敵に見つからないように最大限注意しながら円の外へ外へと進む。「おや?なんかこの先変だね?」 桃色桜が言った。骨武者の槍を突き出すとある場所から見えなくなる。槍を引くとまた見えるようになった。「ここがダンジョンと外の境目? 【ネコマタネコ】召喚!」 ユウがネコマタネコに境界を探らせる。「にゃああああん」「大丈夫みたい。外は普通に新宿御苑の前っぽい」 ユウ達はゆっくりと外に出る。「そうだった、今は夜なんだね。ダンジョンの中は昼間の戦場っぽいところだったから忘れてた」「ふあああ……」 あくびをするホムラを見るユウ。「ホムラちゃん、ここからは一人で帰れる?」「うん、おばあちゃんに連絡したら迎えの人が来るって」「あれ? お母さんの雇っている運転手さんじゃないの?」「うん、なんかおばあちゃんが今は新宿危ないからこっちに来なさいって。お母さんたちには連絡しておくって」「そっか……」「警備ロボ? が一杯こっち見てるしもう行くね。バイバイお兄ちゃんたち」 クマのステルス迷彩で姿を消すホムラ。後に残されたユウ達は迫って来る大量の警備ロボに警戒する。「一旦新宿御苑から離れよう、中の戦場ダンジョンは敵の数もめちゃくちゃ多いし対策を考えようよ」「だな」「虫機械の円の中心に向かうって目標は決まってるしね」「しかし今回のダンジョンはスニーキングメインで行動してるよな……見つかったらワラワラ来るだろうし一々戦ってられねえのは分かるけどもどかしいぜ」「ホムラちゃんがやってたようにステルス迷彩的な事ができるといいんだけどね」「財団にそう言う装備とか術者とかは居ないのか?」「父さんに相談してみるよ」 ユウ達は新宿御苑から離れ財団のオペレーターのいるワゴン車へ移動する。すぐに車内のモニターを起動させ本部へと繋ぐ。『ユウ、どうしたんだ私に直接通信とは』「実は……」 ユウは攻略中のダンジョンの事を話した。『成程……ステルス迷彩の用意に銃弾飛び交う戦場ダンジョンか……ふむ。ならば兜金柄留を頼るとよい。ギルドに待機させている彼女ならお前の要望に応えてくれるはずだ』「わかった」『後は東京のメンバーに防弾装備を人数分用意させておこう。一度ギルドに戻り装備を整えて兜金柄留と合流するんだ』「はい!」続く
Aug 26, 2024
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DHHUその23 十分後、アリナ達が乗るワゴン車の元に才賀愛来薔薇が現れた。「貴女がサイガ・メグルージュですか」 アリナが出迎える。「そうだよ。苗字ママと名前被るし愛来薔薇の方で呼んでもらってOK?」「わかりました。ではメグルージュ早速作戦を開始しましょう」 フローレンスの治療で完全回復した哿がワゴン車から出てくる。「ごめん僕があのモンスターに近づけなければ……」「いえ、あの程度の怪我で済んで敵の情報を得られたので哿さんは何も悪くありません。あの状況で子供を見つければ救出に向かうのが普通です。本来ならわたしが最初に行くべきでした」「行きましょう、哿さん、アリナ。愛来薔薇さんが居れば大丈夫ですよ」 フローレンスがワゴン車から下りる。 哿のテレポートで1階の婦人服売り場に再度突入する。「うわぁ凄い邪気……2階に向かうエスカレーターの方から漂ってるよ」 愛来薔薇は横ピースサインの2本指の間から覗いて言った。「それでこのフロアーに無事な人は居ますか?」 アリナが聞く。「えっとね……2時の方向にあるバリアフリートイレの中に大人と子供が隠れてるよ」「ではすぐに救出しましょう」 アリナが頷くと哿がテレポートを発動する。アリナとフローレンスはバリアフリートイレの中に瞬間移動する。「うわぁ!」「ひぃいいい!」 抱き合っている父親と幼い息子の姿。「もう大丈夫ですよ、救出に着ました。外まで一緒に行きましょう」 アリナが二人の手に触れる。そして哿がアリナの肩に手を触れテレポート。一度フロアーに出て連続テレポートでビルの外にあるワゴン車の前に移動した。「え?え?」「あれ?外に?」「後は任せました」とアリナが言うと再び瞬間移動でビルの中に戻る。 ゾンビであふれていたはずの1階フロアーは骨が散らばっているだけとなっていた。「このフロアーの死者は全員成仏してもらったよー骨は遺族に渡って欲しいから残したんだよ」 カラフルな数珠を腕に巻き付けている愛来薔薇が言った。「2階に続くエスカレーターの先にダンジョンの入口があるね」「あの化物のいう事が本当なら中のダンジョンは擬態だらけという事ですかね」 フローレンスは銃をチェックしながら言った。 ダンジョンに足を踏み入れるアリナ、愛来薔薇、哿、フローレンス。 「ブンブブブブブーン!」 機械音に合わせて叫ぶ声、天井が割れチェーンソーを持った男がアリナに飛び掛かってきた。「ブンブンミンチー!」 振り下ろされるチェーンソーアリナは合金製のブーツに仕込まれたアンカーボルトを使って瞬時に蹴り火花を散らす。「おおっと……」 仰け反るチェーンソー男、アリナは一歩踏み込んで横蹴りをチェーンソーの本体に叩き込む。「おわあああ」 吹き飛んでいくチェーンソー男、両手の指は衝撃で砕けて反対側に曲がっている。「お、おれの――ごぶっ」 間髪入れずフローレンスのサイレンサー付き拳銃の弾丸が喉、心臓部に炸裂する。「あと数秒生きてるはずです。で、この男はどうですか愛来薔薇さん、人間かどうかの判定を」「邪気に飲まれてるから人間じゃないね~」「なら治療せず始末しましょう」 更に頭部に弾丸を2発撃ち込むフローレンス。「怖……TMIってプロって感じする」 何の躊躇もなく銃弾を撃ち込むフローレンスの姿を見て愛来薔薇は思わず呟いた。「死にさえしなければ私の異能でどうとでもなるので愛来薔薇さんは先に教えて下さると助かります」「おっけ~……」 暗く湿った空気のコンクリートの通路を進んでいく一行。「う~んこの反応……邪気を持った死者がドンドン増えてるよ~邪気死者に殺された人が邪気死者になってってる……」 愛来薔薇は携帯に表示した魂の光の点が変わっていくのを見せる。「急いで首魁を探さなくてはならないという事ですね」アリナが言った。「最初っから全部邪気死者ならアタシとTMIの皆で蹴散らしてドンドコ進めるんだけど生存者が結構いるからコレかなり嫌らしいよ」「見捨てて進むなんて事は私達にはあり得ませんから」フローレンスが言った。「せめてボスの居場所が分かれば僕のテレポートで最短ルートを進めるんですが」と哿。「あーね……ちょい待って探す方法あるかも」 愛来薔薇はチェンソー男の死体を浄化して骨を拾う。「コイツの死ぬ寸前の記憶をたどって更にまた殺した奴の記憶をたどってを繰り返せば最初の奴にたどり着けるハズ」「うまく行きます?」とフローレンス。「正確な位置を哿さんに伝えてテレポートして邪魔な奴がいたらアリナさんが退けて生存者がいたらフローレンスさんが治療してをやりながらになりますが多分これが最短かな?」「他に良い方法も今は思いつかないのでメグルージュさんの案で行きましょう」とアリナ。 愛来薔薇の指示でテレポートする一行。キャンプ用品売り場に到着。そこにはブタの皮を被った男が電動ドリルを持って生存者を追いかけまわしていた。「あのピッグマンだよ!」「了解」 アリナは目の前にあった薪割り用の斧を手に取って投げつける。ピッグマンの電動ドリルは粉砕され手は崩壊。「ブギャアアアアアアアアアッ!」 接近したアリナは鞭のようにしならせた横薙ぎの裏打ちでピッグマンの顎を砕きそのまま素早く引いて裏拳を胸に撃ち込んだ。拳大の大きさにピッグマンの体は凹み背中の肉が爆ぜうつ伏せに倒れる。「うわヤバ……それも異能なの?」 哿と一緒にテレポートして接近してきた愛来薔薇が言った。「いえこれは空手です。異能は使っていませんよ」「えーカラテすごーい!」「鍛えるのに異能は使ってきましたね。今は制御に不安が残るのであまり異能は使わない事にしています」「は~イザって時だけ使う感じ~?」「そのように思っていただいて結構です。それよりも早く次の記憶を読んでもらえますか?」「おっけおっけー」 骨から記憶を読む愛来薔薇、アリナ達はテレポートする。 次はレストランの階に到着。「肉サイコー! 肉ラヴー!!」 獣のように這いつくばり人も食肉の塊も混ざりあった状態のものを頬張る長身の男。「新しい肉か……新鮮な肉だあ!」 包丁を投げつける男、アリナは二本指で受け止め即座に投げ返す。包丁は長身男の目に突き刺さった。「ほぎゃああああああっ!」「……」 アリナは一気に踏み込んで手刀を振り下ろして長身男の脳天を粉砕する。「次行きましょう」 そしてたどり着いたのは映画館を思わせるフロアーだった。「な、の、で、すー!」 手を叩きながら少年とも少女とも判断できない声の兎仮面を着けた子供が現れた。「素晴らしい速さなのです! 誰も助ける事が出来ずに絶望に打ちひしがれ死者にまみれて精神崩壊を起こさせるつもりだったのに驚きなのです!」「何者ですかお前は」 アリナはベアリング弾を準備する。「真邪王といいますです! まぁ上位の存在というか【凶】の崇める邪神的な存在なのですよ!」「お前が話に聞いていた真邪王ですか。ではその寄り代を倒せばこのダンジョンは消えるのですね」「正解なのです! でもこの少年を殺すことができるかな? まだ生きてるのですかわいそかわいそなのですよ?」「死なせなければ可能性はありますよ」「へぇ~随分と自信があるのですね~……まぁどっちみち負けないのですけど」「ちょいちょいちょい」 二人のやり取りを聞いていた愛来薔薇がおもむろに前に出てくる。「ここはアタシにやらせてよ。死者の冒涜マジで頭キテんだから!」「なんなのです?」「ネクロマンサー・才賀愛来薔薇よろしく!」「鬱陶しい雑魚は消えるのです!」 映画館の座席を複数浮かせる真邪王、手をかざして愛来薔薇に向けて飛ばす。「舐めんなっての!」 地面から生えた骨の集合体の腕が座席を受け止める。「死者の話を聞いて安らかに逝ってもらう、それは大事な事だけど折角できた縁、アタシは現世でも大事にしていきたい。だから少しだけ皆に力を借りる。アタシがあっちに行ったら一杯恩返しするからねって」「なにを言ってるのです」「アタシは精一杯色んな事を体験して縁が出来た人達にお話を聞かせたい、武勇伝の中にあなた達(死者の皆)も居たよって言いたい」「骨の大軍を操った所でこの子供エスパーに取り付いた私には勝てないのです!」「デッドアンドリビングアンダーワールドコンサート(死者と生者の冥界葬奏領域)!!」 愛来薔薇の体から波動が広がっていく。空間は塗り替えられ星の瞬く野外コンサート場に変わっていく。「馬鹿な! 真邪王のダンジョンの一部を塗り替えるなんて信じられないのです!」「Naaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」 骨で出来たマイクに向かって叫ぶ愛来薔薇。「ナアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 怖気のする叫び声が一斉に響く。コンサート会場には骨達で満員状態。「こ、こんなの只の大げさな仕掛けなのです! お前さえ殺せば……」「無理だよお前は既に会場を敵に回してる! 一人一人はお前に敵わなくてもみんなの意思の力が合わされば恐れる事なんてない!」「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」「……なんで体に力が入ら……ない」「上位の存在だろうが何だろうが人間舐めんな! 動物も舐めんな! その少年から出ていけお前はここに居てはいけない!!」「ウオオオオオオオオオオオオッ!!」「だ、黙れー!」 歯を食いしばって愛来薔薇に殴りかかる少年に取り付いた真邪王。「それは悪手! アタシにだって近接の手段はあるし!!」 愛来薔薇の全身を骨のアーマーが包み込む。そして真邪王の顔面を平手で打った。「力が抜けていく……」「あと何発でお前は成仏するかな?」「この真邪王相手にこんな真似が出来るとは……でも邪眼でじっくり観察できたのです」「おや退散? じゃあ少年は返してもらうよジョーイソンザイ」「才賀愛来薔薇……覚えておくのです……絶対に殺してやるのです!」「じゃあまたねっと!」 追撃の平手で糸が切れたように倒れこむ少年。左目が欠損していたものの他に外傷はない。「コンサート終了! 皆ありがとーーーーーーーーー!!」「ワアアアアアアアアアアアアア!!」 デッドアンドリビングアンダーワールドコンサートを解除する愛来薔薇。「ただいま」 目の前にいるアリナに声をかける愛来薔薇。「メグルージュと真邪王が突然姿を消したので驚きました。貴女の能力ですか?」「そう、ゴメン前もって言っとくべきだったかな?」「そうですね……ですが少年を救出できたので良しとします。フローなら問題なく治療してくれるはずです」「良かった」 愛来薔薇は後ろに控えていたフローレンスに少年を引き渡す。「真邪王は逃がしてしまったけど……」「仕方ありません。次に会った時捕らえれば良いのです。封印には勇者が必要ですが」「勇者君じゃなきゃ真邪王を封印出来ないんだったね……」「感謝します才賀愛来薔薇、貴女が居なければこの少年は助けられなかったでしょう。アリナも私も哿さんも少年を死ぬ寸前まで追い込んで真邪王を離れさすしか手段はなかったはずです」「役に立ったのなら良かった……オータムホースでは取りこぼした命が一杯あったから」 ダンジョンが消えていく。元の商業ビルに戻っていく。「ダンジョン消滅を確認」 アリナが携帯に向かって言った。『こちらでも確認した。次は南側に向かって欲しい。勇者ユウがダンジョン攻略中だが周囲に漏れだした影モンスターの数が多い。対処してくれ』シーア財団の男が言った。「了解、直ちに向かいます」続く
Aug 18, 2024
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