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ラビット・アンダーグラウンド22話 *** ――翌日。 大澤垓は記憶を失って警察病院で目覚めた。日常生活を送れる程度ではあったが子供のころから今までの思い出は全て消えていた。 「ウガアアアアアアアアアアア……」 何かを思い出そうとすると血が煮えたぎるような感覚があり自分を抑える事が出来なくなっていた。病室で暴れまわりナースに怪我をさせた為当分退院は見送られる事となった。 その様子をモニターで見ていた刑事課長の碇は大きくため息を付いた。 「あいつは現場復帰難しいだろうな……」 「何があったんすかね?」横に立っている井之頭刑事が言った。 「銃をぶっ放した痕跡がある……何かトラブルが起きたのは間違いない……この街は色んなのが居るからな、やられちまったんだろう」 「LavaGardenを出た後にトラブルに巻き込まれたんですよね。カメラにも姿は映っています……だけどまた誰かの都合のいいように大澤が倒れていた場所の監視カメラの映像は出てこない……迂闊な事は言いたかないですが院瀬見がらみと俺は考えています」 「まぁ、そうだろうな。この先突っ込んで調べるのは我々には難しい証拠がない上に容疑者も居ない。上もこの件に関しては何も言ってこない、刑事がやられたってのにな」 「チクショウ、こうなるからこの街では探偵がデカい顔してやがるんだ!」 「……探偵な。一応俺にも使える奴は居るんだ、そいつに探らせるのもありかもな」 「流石です課長! そいつは信用できるんで?」 「いや全く信用ならん、だが仕事はキッチリこなすし期待以上の成果を出してくる」 「……そいつの名前は?」 「七曲キョウヤだ。こいつに大澤の事件の事調べさせるか、何か出てくるだろう」 *** 七曲キョウヤが目覚めたのは一面真っ白で何も無い部屋だった。ストレッチャーに寝かされていた。 「……」 目覚めて最初に気が付いたのは【全身生身】であった事だった。 「どういう事だ? 俺っちは確かハートに捕まって……」 「目を覚ましたか」 声がした。 「誰っすか?」 「神名燐火だ。お前の脳内に話しかけている」 「神名燐火……この街の超大物じゃないっすか。LOKIのクリムゾンこと秋馬昊菜と子供の頃からの親友で50年ぶりに再会したんですよね?」 「流石によく調べている。そして目覚めてすぐなのによく口が回る。お前に色々説明しても面倒な会話が続きそうだから事実をハッキリ言っておく。お前は私の駒になった」 「は?」 「生殺与奪は私にあり、逆らう事も逃げる事も死ぬことも出来なくなった。お前は私のサポートを受けられるしこの先病気も怪我も心配する事は無い」 「なるほど、俺っちを駒にする為に何らかの処置をして生かされていると」 「そうだ。処置内容を聞いてどうにかしようと考えても無駄だと言っておこう。お前が考えていることは全て筒抜けで全て対処できる」 「……完全奴隷っすね。で、何をさせたいんすか?」 「今まで通り街で動け。私は私の都合でお前に干渉する」 「今まで通りつっても生身じゃあちとキツイっすけどねぇ」 「厳密には生身ではないな……神名製の高価なバイオボディだ。それはともかく、お前には神名の開発したスーツを渡す。実験をかねてな」 「それはどこに?」 「お前が寝ているストレッチャーだ」 ストレッチャーは七曲キョウヤを撥ね飛ばして変形。七曲キョウヤ瓜二つの姿となって落下してくる本人を受け止めた。 「そいつがお前のスーツだ」 「こいつは一体……」 「元は医療用の流体マシンを改良したものだ。AI搭載でお前の相棒となるだろう」 「へぇ……そいつはありがたい。でもコイツを使ってアンタに叛逆するかもよ?」 「挑発しても無駄だ。お前はそいつを受け取り街に戻り今まで通り過ごせ」 「クリムゾンさんにはどう言う顔して会えばいいっすかね?」 「いままで通りでいい。お前が昊菜の事を気にする必要はない」 「またハートにやられるかも?いや、ハートを返り討ちにするかも?」 「できるものならな。私を、神名を甘く見るなと言っておこう」 *** 七曲キョウヤが次に目を覚ましたのは第六地区のアジトだった。 「いつの間に……」 『ハローキョウヤ! ヨロシクね!』 「ん?」 椅子で目を覚ましたキョウヤの横にはスレンダーで黒髪色黒の若い女性が立っていた。 「アンタは?」 『キョウヤのスーツだヨ! 早く名前付けてよ!』 「……じゃあエミで」 『駄目デース! 兜金蒐魅を思わせる名前なので拒否します!』 「拒否とかすんのかよ、そんじゃキョーコで」 『キョウヤからのキョーコって安直すぎー! 拒否デース!』 「は? お前元医療用のマシンAIじゃねえの?」 『従属イコールAIじゃあ無いんですよねー。特に最新モデルの私は対象に合わせた性格を取りますので。今のこの私はキョウヤに合わせた性格ってコト』 「ち……」 『マヤ』 「おい……」 『キャハハハハハ! 次にマヤって名前つけようとしたでしょう? いいよ、私は……あたしはマヤ! キョウヤが消滅する日までヨロシクね!』 次の瞬間キョウヤの全身を引き裂くような痛みが襲う。 「ぐあ……」 『キャハハハハ……! なんでそうなったか解るかなー?』 「まさか神名燐火が……」 『ぶっぶー! あたしはマスター神名燐火様からキョウヤを好きにしていいと言われているの。キョウヤも好きに過ごせるけどアタシもセットて訳、仲良くしようね!』 「テメェ……どういう性格だ」 『小悪魔かな? キョウヤに合わせた設定だよ? キャハハハ! 破滅しちゃうかな?』 キョウヤの右手が意志とは関係なく動き自分の首を締め始める。 「俺の体……が……」 『違うよー? それあたしのからだの一部だから。キョウヤはもう本体ないの、わたしとキョウヤは一心同体。目の前にいるあたしもまた一部。逃がさないぞっと』 「クソ……」 『理解して貰えて何より。さぁお仕事しよ? メール一杯来てるよ?』 「お前もやってくれよ? メール全部開いて優先度順に並べてくれ」 『しないよ。キョウヤがやれば? あたしはあたしの判断でサポートするし邪魔もする。あたしは便利なお助けアイテムじゃないから。相棒だよ。あ、い、ぼ、う! キャハハハハ!』 「クソッ!」 キョウヤは缶をマヤに投げつける。マヤは片手でキャッチした。 『コーヒー淹れてあげるよ。超クソマズくなるかもしれないケド』 「好きにしろ」 しばらくするとマヤはマグカップに一杯のブラック珈琲を持ってきた。 『どうぞ』 「ああ」 珈琲を口に運ぶキョウヤ。 「……いい香りだ、それに味が……」 『気が付いた? 元のキョウヤは味覚がほぼ死んでたから標準レベルにしておいたよ』 「てっきり泥水もってくるんじゃねーかと」 『そんな予想通りの事するわけないじゃん』 「なぁマヤ、ずっとお前は脳内で話しかけるのか?」 「おっと……場面によって使い分けるつもりだけどね」 「ならいい」 『そんな事より……この依頼はどうかな?』 「……なんだ優先順位解ってるじゃねーの」 『当たり前だって。一応やることやってその上でキョウヤとどう接するか決めるんだから』 「つまりウザがらみは俺っちに合わせての行動か」 『正解。あたしを信用して貰っていいけど、サポートする範囲はあたしが決めるから』 「いいぜ、正直弟のシンヤの馬鹿よりも遥かに使える」 『キャハハハハ!』 *** なゆかは垓に襲撃されサキュバスハーフの力を全開にしたあの夜から三日間眠り続けた。 「……」 目を覚ますと全身の筋肉が痛んだ。しばらくまどろんでいた後、自宅のマンションに居ると認識できたなゆか。ベッドのそばにミニチュアピンシャー姿のポポリンが座っていた。 「なゆかおはよう。栄養と水分補給はしておいたよ」 「ぽぽりん……おはよ……えっとどのくらい寝てたの?」 「55時間だね。大学は心配しなくて大丈夫、狐理子がなりきって出席してくれたよ。授業もコンキチが録画してるしノートも」 「え? あ、そう……うん、そうだね大学生だもんね」 「なゆかは大学生だよ。それがどうかした?」 「いや……その……垓の事とかLavaGardenの事とかは?」 「大澤垓は警察病院に入院したよ。命に別状はない、記憶喪失の症状があるとのこと。LavaGardenは平和だよ。第一区の新しい店にパティシエと夜のレストランのシェフが雇われて行列が出来ているよ」 「そっか垓は記憶喪失……私の力成功したんだ、命にも別条なくてよかった。LavaGardenも怖い人たちとの抗争になってなくて安心した」 「大澤垓の事に関して警察も捜査するだろうけどもう容疑者は逮捕されてるし大澤垓も色々懲戒処分に当たる行動が発覚したから表には出てこれないだろうね。出世の道も消えたしずっと内勤で監視下に置かれると思うよ」 「容疑者って?」 「イプシロンって怪人の事なんだけど普通には警察に渡せないから以前LOKIが捕まえた者を大澤垓と揉めた人物として警察に渡して裏で怪人とか専門の部署の者にイプシロンを渡したんだよ。表向けは警察のメンツも保てるし裏での取引も継続できるからね」 「そうなの……」 「警察も一枚岩じゃないからね」 「イプシロンって警察に渡したらヤバいんじゃないの? ほら私の正体見てるし狐理子ちゃんとかLavaGardenの中の事とか……」 「問題ないよ。何も答えられない状態で渡したからね。大澤垓がイプシロンの頭部を撃ち抜いた事になってるんだ、死んではいないけど二度と目を覚ますことも無いよ」 「そっか……」 なゆかはすっかりアンダーグラウンドの世界のやり方に慣れてしまっていた。ラビットとして生きると覚悟を決めた時に意識と価値観が変わった。 「大学出た後は……クリムゾンさんの傘下のグループで働くことになるのかな。前も言ったけど結婚相談員とか占い師もすてがたいんだよね」 「どうかな。なゆかはその力を買われて院瀬見の内部にスパイとして送り込まれるかも」 「スパイ……中々危険でゾクゾクするね」 「なゆかはこれからどんどん院瀬見の企業のオープンカンパニーに参加する事になるはず。それで3年になる頃にはターゲットを絞ってインターンかな」 「その間に一杯魅了して使える人材を増やせばいいんだね」 「うん。なゆかの力は説得、駆け引きを無視して一方的に要求できる立場になれるしそれは大きいよ。洗脳じゃなくてなゆかの事を好きになって本人がそうしたいって考えるんだから」 「スパイとかめちゃくちゃ忙しくなりそう!」 「狐理子と一緒に行動する事が増えると思う。彼女はなゆかとよい協力関係になれるね」 「うんうん」 「さ、なゆか。久しぶりに足を床につけるんだから朝食とったあとは散歩してリハビリしよう。今日一日はのんびり過ごして明日から大学とLavaGardenのアルバイト頑張ろう」 *** 「ふー……なゆかの代わりも今日で終わり。三日間もなゆかになりきってたせいで食事の好み代わりそうだったよ」 狐理子は相棒のSliMEコンキチに漏らす。 「なゆかは濃い味好きだもんね」 「好きな料理は同じもの多いんだけど……味付けがね」 なゆかも狐理子もラーメン好きだがなゆかはドロドロか濃厚系で狐理子はさっぱりか激辛系という好みの違いがあった。 「今ポポリンから通信が入った。なゆかはマンション近くの公園にいるみたいだよ」 「丁度良かった」 狐理子が公園に到着するとなゆかはバスケットボールをついていた。 「なゆか!」「あ、狐理子ちゃん!」 手を上げるなゆか、バスケットボールをパスしてくる。 「あんなに寝てたのに元気だねー」 「ちょっと散歩したら元気になってきて……このボール誰かの忘れ物みたい。ちょっと借りて遊んでたの。狐理子ちゃん……やる?」 「いいよ、バスケは殆どやった事ないけどニンジャだからね、なゆかには負けないよ!」 いきなりジャンプしてダンクを決める狐理子。 「あ、ずるい!」「もう始まってるんだよー!」なゆかボールを渡す狐理子。 なゆかはドリブルをしながら狐理子を視線移動ミスディレクションを使うもシュートの瞬間反応されてボールを叩き落される。 「うっわ……身体能力の違いが凄い!」「危な! もうちょっとなゆかが鍛えてたらやられてたよ!」 二人はしばらくバスケを楽しんだあとボールを元の場所に戻して歩き始める。 「お昼どうする?」 「ラーメンかなやっぱり」 「じゃあ牛豚鶏MIX濃厚ラーメン!」「激辛酸辣湯ラーメン!」 「あはははは!」「ははははは!」 「両方食べられるラーメン横丁が入ってるビル行こ!」「了解っ!」 二人は物陰でSliMEでラビットとフォックスに変身する。 「やっぱりこれで移動するのがいいよね!」「すっかりこっち側だね」 「ラビット&フォックス! ラーメン作戦開始!」「おー!」 二人はパルクールを決めながら建物の壁、屋根を走っていく。 なゆか(ラビット)と狐理子(フォックス)の生活は新たなスタートを切った。 終
Jul 21, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド21話 ――アンバーが置郷と接触する少し前。 なゆかはステージでラビットとして持てる限りのサキュバスハーフの力をふりまいた。どこまで自分の力が影響を与えるのか、自分の限界点はどこか知る為である。 「(ものすっごい! バスケの試合でゾーンに入った時に全てうまく動けた時の感覚に近い!)」 なゆかのサキュバスハーフの力がフロアーに満たされていく。客全員がラビットを見ている。 「(視線を感じる! 目を合わせたら何か感覚で繋がってる気がする! バスケの試合でアイコンタクトで通じるようなそんな感じ!)」 ラビットのステージは前座に過ぎず、照明の演出も生バンド演奏も無い。フロアーの照明も通常通り。途中で狐理子ことフォックスがステージに合流する。 「大丈夫?」 すれ違いざまに声をかける狐理子。 「うん、ちょっと目の奥がズーンとするけど……」 フロアーの後ろの方の客はラビットを見ていない。 「20m超えると効果は届かないっぽい……」 「はっきりと表情が見える距離程度か」 「どうもそうっぽい。私が相手の顔をちゃんと肉眼で見ないと駄目なのかも」 「例の幼馴染み警官が来てる」 「うん、なんで来たんだろう? 夜のお店とか嫌いそうなのに……」 「捜査の一環なのかも」 「え~……」 「一応ポポリンに客全員の顔を覚えさせといたらどうかな?」 「そうする、そんでラビットの事忘れられないように客に念送っておくね。これでまた来た時色々と動きやすいし」 「リスト化しておこう」 「……ねぇ狐理子ちゃん」 「どうした?」 「変な視線感じる。姿は見えないけど……」 「私には解らないが……コンキチも何も反応してないぞ。だが一応、SliME通信で皆に知らせておく。この場に不逞の輩が紛れ込んでいる可能性もあるからな」 この通信が功を奏しアンバーを向かわせた。置郷がLOKIのアジトに迫る前に阻止できたのであった。 怪我をした置郷は垓の影に潜みLOKIの追撃から逃れLavaGardenから退散できた。 *** ――翌日 「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! クソッ!」 大澤垓は警察署内にある射撃場に居た。命中率は悪い。 「なんだあの兎のダンサーは! 俺にはなゆかが居るんだ他の女などどうでもいい! なのになんであの兎が気になるんだ!」 新しいマガジンを装填し更に連射する。 「(とっ捕まえればいいじゃん)」 置郷は影の中から呟いた。垓にとっては心の中で響く声に聞こえる。 「そうか、そうだよなぁ……あの兎、とっ捕まえてやる! 徹底的に調べてやるぞ」 「(甘い甘いよ、なゆかへの思いを邪魔する存在なんだから排除しなきゃ)」 「ムショにブチ込んでやるか」 「(ダメダメ、執行猶予付いちゃうよ。私刑でいいよあんなビッチ。弾丸ブチ込んでやりなよ、正当防衛になる工作してさぁ)」 「ブチ込むのは弾丸か……この街で甘い事は言ってられないものな」 「(そうそう、ドンドン排除しなきゃ)」 置郷は垓を利用しLavaGardenと警察を衝突させLOKIのメンバーをあぶり出す作戦を考えた。 ――更に翌日の夜。 垓はLavaGardenに向かう。そしてラビットのステージを見終わった後、店の外で張り込む。 朝まで待ったがそれらしき人物は出てこなかった。 また翌日、今度は開店前から張り込む。ラビットに該当する背格好の女性二人にターゲットを絞った。警察の捜査用端末で歩き方のパターン等を入力。LavaGardenのステージフロアーは持ち物検査が厳しく端末も持ち込めない為、垓は必至でラビットの動きを脳に焼き付けた。そしてステージが終わった後車の中で端末のデータと睨み合いをする。 「……」 数時間映像を見続け、兎川伊奈がラビットの動きに近いと確信を持った。 更に更に翌日。垓はステージ後すぐに店の外で兎川伊奈を待ち続ける。しばらくすると兎川伊奈ともう一人の女性が出てきた。近くの駐車場に向かって歩き出す。 「おい! 警察だ!」 垓は後ろから声をかけた。 「え?」「警察?」 驚く二人。垓はIDを見せながら拳銃を抜いた。 「動くな! 兎川伊奈、一緒に来てもらおうか?」 「えっと……どうしてですか?」 「逆らうのか? 公務執行妨害で逮捕しても良いんだぞ?」 「逮捕状も無いのに任意同行できません」 「ごちゃごちゃうるさい……弾丸ブチ込まれたくなければ来い!」 垓は発砲する。近くのゴミ箱に命中した。 「撃った!?」「え、マジで……」 「俺の引き金は軽いぞ? さぁ来い兎川伊奈、もう一人のお前は黙ってろよ? 少しでも騒ぐと撃つ」 兎川伊奈の横の女性は無言で頷いた。 「さぁ来い兎川伊奈!」 銃を向けながらゆっくりと近づく垓。対する兎川伊奈は――。 「止まって!」 瞳が桜色に輝いた。 「ぐぅむ……」 手で頭を押さえながら呻く垓。 「嘘、止まらない!」 「止まれねえだよ俺は!!」 鼻血を出しながら目を血走らせて銃を向ける垓。引き金を握りこむ。 「あっ……」 弾丸が兎川伊奈の肩を掠めた。しかし次の瞬間体をコマのように回転させ手裏剣を投げ込み垓の拳銃を叩き落した。 「なん……だと!?」 垓は次に電磁警棒を取り出した。 「公務執行妨害だ!」 置郷に支配された垓は止まらない。警棒で殴りかかるも軽く回避され、稲妻のように鋭い後ろ蹴りを腹に受けてうずくまる。 「ごぇえええ……」 兎川伊奈にこれ程の格闘センスが合ったのか、と考える置郷。真実は――――。 *** ステージを終え買える準備をしているなゆかと狐理子。SliMEでなゆかは兎川伊奈に変身を始める。 「ちょっとまったなゆか、兎川伊奈は私が変装する」 「フォックス忍法なりきりの術で?」 「ああ。今日は何か嫌な予感がする、なゆかは私の仮の姿に変身してくれ」 「わかった」 *** 垓が襲い掛かったのは狐理子。訓練を積んでるとはいえ数々の実戦経験のある忍者の狐理子に垓が勝てるはずもなく一方的に叩きのめされた。なゆかのサキュバスハーフの力はSliMEを通して狐理子のコンキチに伝えられそこから発せられていた。 「(ちぃ、こいつはここまでか! ならば!)」 置郷はぬるりと垓の影から飛び出し垓の頭上に覆いかぶさる。まるで着ぐるみのように。その姿はオキゴンドウの怪人となった。 「何者!」「え!?」 狐理子となゆかは構える。 「クックック……どうせお前らはここで死ぬんだ教えておいてやろうか。私は院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)の一人イプシロン」 「イセミ・シックスナイツ!」「ええー!?」 「クックック……この警察官の男の命が惜しいだろう? 攻撃できるかな? 私への攻撃は全てこの男に伝わるぞ? 警官に危害を加えればどうなるか解るよな?」 「そうか……」「垓……」 ゆっくりと落とした拳銃を拾うオキゴンドウの怪人イプシロン(置郷)。なゆかはその様子をサキュバスハーフの力を解放して見つめ続ける。 「クックック……魅了の魔眼かなにかしらんがその力はすべて中の警察官が受けている。そしてこの男は偏執的に拘っている女がいるから効かないのだ」 「えっ……」 ここでなゆかは考える。 垓が異常なまでに自分に拘っているからラビット(兎川伊奈)の魅了の力が通らないという矛盾に首をかしげる。 「(私はなゆかでラビットで兎川伊奈なのに効かないってどういう事!?)」 『ポポにも解らないよ』 「(……だったらさぁ。なゆかとして垓に魅了をかければ効くって事かな)」 『それは危険だね。この先ずっと垓はなゆかに付きまとう事になるよ』 「(……それもさぁ、一つ考えがあるんだよね。映画とか小説でよくある展開のね)」 『一体何を?』 イプシロンの攻撃をさばき続ける狐理子の後ろで思考を巡らせるなゆか。 「(垓はもう戻れない可能性もある……私への未練だけ残っても可哀想。ならどうすればいいか……ってね)」 『なゆかはもう垓を見捨てる気?』 「(実験でもあるよ。垓は私に拘り続けている。中身は私で見た目はラビットの私がサキュバスハーフの力を使っても私の中身に気が付かずに垓の中の私に強い感情を向けている。これってさぁ垓の中にいる私だけしかサキュバスハーフの力が効かないのか実際の私の姿を見せて垓の頭の中で合致させれば効くのか気になるよね?)」 『まさかここで正体を晒すの?』 「(うん、それでもう垓との関係を終わりにしたいの。失敗した場合私はこの街でずっとまた違う姿で生きる事になるけど……)」 『決めたんだね』 「(私はこの力と向き合って生きて行く。今までのようにずっと自分を抑え続けて苦しむのはもうごめんなの)」 『わかった、ポポはなゆかをサポートするよ』 なゆかはゆっくりと垓と狐理子の横に回り込む。イプシロンと狐理子の攻防は圧倒的に狐理子の優位でイプシロンの息は既に上がっている。 「ぜーはー……おかしい、いくらこの男が弱っているとはいえLOKIの幹部でもないただの忍者のお前が何故ここまでやれる……」 「私はこの街に来てかなりの実戦経験を積んだ。フォックス忍法により脳内シミュレートを何度も繰り返し強者たちの良い部分を取り入れ常にアップデートしている。仮にお前がこの場を逃げおせても次は無い」 狐理子はイプシロンのスタミナを削るように回避しさばき打撃を入れては付かず離れずを繰り返している。なゆかは狐理子に目で合図する。 「ぜーはーぜーはー……クソ、体が重い……」 「イプシロンだったっけ? こっちを見なさい」 なゆかはターンしてSliMEポポリンを全身から解除する。現れたのは黒いワンピース姿の私服のなゆか。 「!!」 イプシロンの体が硬直する。イプシロンに包まれている垓の心拍数が上がり大量の汗が流れ始める。 「ウ……グウウウウ……」 膝から崩れ落ちるイプシロン。 「垓、私はラビットなの。貴方が思っている人間じゃないしこれからもこの街で好きなように生きて行くの。だから私の事は忘れて?」 なゆかは頭の痛みに耐えながらサキュバスハーフの力を全開放する。桜色のオーラが頭部に巻き角、背中に羽根、腰に尾の形をとり、肌には紋様が現れる。 「ガアアアア……アガアアアアアア……」 イプシロンの中の垓の目、鼻から血が噴き出す。口からは血泡、胃は痙攣し全身は震え全ての感覚は消えていく。脳は萎縮し思考停止寸前に。 「私はサキュバスハーフなの、今まで隠しててゴメンね。さようなら」 なゆかはイプシロンの頭を両手で掴んでじっと桜色に輝く目で見つめる。 「ナユカアアアアアアアアアアアアアアアアア……」 大の字になって倒れこむ。全身から体液をまき散らして気を失う垓、イプシロンはここでようやく泥のようにズルズルと垓の体から離れ始めた。 「クソ……なんとしても逃げて報告しなければ……」 「逃がすと思うのか?」 狐理子が掌のブースターを崩れかけた粘土のようなオキゴンドウ姿のイプシロンに向ける。 「おまえは暗殺諜報専門のイセミ・シックスナイツだな。こうなってはどうしようもない」 「ケケケ……自分を倒しても第二第三のイプシロンが現れるだけだ……」 「……そうか」 狐理子はSliMEネットでクリムゾンに報告する。 「これからお前は尋問される……もう会う事も無いだろう」 「ケケケ……早く殺せよ。拷問官を乗っ取って脱出するかもしれんぞ?」 「お前の処遇を決めるのは私ではない」 狐理子の目の前でイプシロンが地面に沈み始める。 「何……これは……」 「テメェはオキゴンドウらしいな? シャチの恐ろしさ味合わせてやるよ」 半シャチ姿のハートが液状化した地面から顔を出しイプシロンを地中に引きずり込んだ。残されたのは気絶した垓、狐理子、なゆかであった。 続く
Jul 18, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド20話 大澤垓はなゆかのマンションを訪れ激しくチャイムを鳴らしながら携帯でマシンガンめいたメッセージ連射を行っていた。 「なゆかぁ……何処にいる何をしている……俺を裏切るんじゃないぞ……」 15分間オートロックの玄関でイライラしながらチャイム連打とメッセージ爆弾を行っていたがマンションの住民が出てきた所で諦めた。 「(なゆかめ……徹底的に教育してやる必要があるな!)」 「あの……」 おそるおそる垓に声をかける住民。 「こういう者だ!」 「あ……」 マンションの住民を睨み付けながら警察官のIDを見せ立ち去らせた。大股で肩で風を切りながら車に戻る。するとドアにもたれかかっているスーツの女性が居た。 「誰だ、すぐに退かなければ公務執行妨害でしょっ引くぞ」 「院瀬見の社員ですよ」 女は名刺を垓に渡した。 「ふん……IDは?」 「あら、用心深いですね。置郷道古(おきごうどうこ)ですよ、これがID」 置郷は手首のIDチップを見せた。垓はスキャンしてデータを照合する。 「置郷道古27歳……秋馬原島オータムホースシティ第一地区丑町3-51のマンションCの602号か」 「不正は無いでしょう?」 「それで、警察官の俺になんの用だ?」 「協力できるかなと」 「協力だと?」 「婚約者を探して手元に置いておきたいんでしょう?」 「何故それを!?」 「まぁまぁ、院瀬見のエージェントも優秀なんですよ。警察と協力してテロリストや反社組織を撲滅したいんですよ。で、大澤巡査が優秀だと知ったので情報提供とかできたらいいと考えましてね」 「……つまりなゆかの居場所を探すかわりに院瀬見の邪魔者を警察の力で排除しろと? まさかとは思うがお前がなゆかを攫ってこの話を持ち掛けてるんじゃないだろうな?」 「おっとそう来ましたか。それはしたくてもできないんですよね。なんせなゆかさんはLOKIの息がかかっていますので」 「なんだと!」 「なゆかさんのバイト先のLavaGardenはLOKIの店ですよ」 「なゆか……悪の組織に誑かされたのか……今すぐ乗り込んでやろうか」 「それは悪手ですよ。いきなり警察官が乗り込んでもどうにもなりません。LOKIの店という証拠も出さないで大立ち回りすればどうなることやら」 「構うもんか! 適当に公務執行妨害でも障害でもなんでもでっち上げて一人でも逮捕すれば芋吊る式に逮捕できる!」 「そんな簡単にLOKIを潰すことができるならとっくに誰かやっていますよ。大澤巡査にして欲しいのはとりあえず客としてLavaGardenに行くことですね」 「一度行ったが?」 「常連客くらい通ってください。私がなゆかさんを見つけで確保しますので」 「どういう事だ?」 「そこはシークレットで。あなたはなゆかさんを取り戻せる。私はLOKI壊滅の足がかりをつくれる。WINWINでいきましょう」 「……フン、連絡方法はどうする?」 「問題ありません、私の方から出向きます」 「お前の事は信用していないがやれる事はやりたい、怪しい動きをすればすぐに逮捕してやるからな?」 「ええ、理解しております」 大澤垓は置谷を退かせて車に乗り込む。 「今夜からLavaGardenに通う」 「はい、お願いします」 走り去る大澤垓。置谷の姿は消えていた。 「(フフフフ……マヌケな警官め……)」 置谷は大澤垓のすぐそばにいる。院瀬見シックスナイツの一人イプシロンである彼女の特殊能力により大澤垓の影に潜んでいる。 *** なゆかは大澤垓と妙な女性が駐車場で話している様子を物陰から見ていた。 「ねぇぽぽりん、二人の会話の音声拾えた?」 「ちょっと遠すぎて無理だったよ。でも……大澤垓が声を荒らげてなゆかの事言ってたのは拾えた。LavaGardenがLOKIと関係あるからなゆかを捕まえたいみたいだね」 「LOKI関係ってバレたの!?」 「院瀬見は知ってるだろうね。でも下手に襲撃してLOKIがゲリラ化するのを恐れているんだよ。LOKIはゲリラ戦が得意だからね。正面切っての武力制圧のリスクは先のドラゴン事件で学んだんじゃないかな」 「じゃあ次はどんな手で敵は仕掛けてくるのかな」 「暗殺かな。大人数を動かせない今、院瀬見は少数精鋭でLOKIを削って来ると予想するよ。狐理子も言ってたでしょ? 院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)とやらが現れたって」 「超プロの暗殺集団って事?」 「恐らくね。LOKIに対抗する為に結成したんだよ。なゆかは院瀬見との戦いに関わり合う必要はないよ。なゆかにできることでクリムゾン様を支えればいいんだから」 「でも……狐理子ちゃんはそうじゃないっぽい」 「狐理子は身柄と秘伝書を狙われているからね」 「守ってあげたい……けど私じゃ力不足かも」 「なゆかのやり方で狐理子もクリムゾン様もLavaGardenのみんなも守る方法を考えよう。ポポも全力でサポートする」 「ありがとうポポリン! 今一番の問題は垓の事だよね」 「うん。大澤垓を大人しくさせなきゃなゆかは動きにくいもの」 「ラビットとして……垓をサキュバスハーフの力で魅了するしかないのかな」 「ありだね。ラビットこと兎川伊奈は実在しないなゆかの仮の姿、幻影を追い続けさせるのは効果的かも。でもなゆか、決断を迫られる時が来たら迷ったら駄目だと思う」 「えっ?」 なゆかはドキッとした。ポポリンがそんな事を言うとは思わなかった。 「それはどういう?」 「魅了してそのまま放置してすませられないよ。落としどころを決めなきゃ。なゆかはまだサキュバスハーフの力をちゃんと使い始めたばかりだから使った後の人間の事を決めなきゃね」 「う……考えてなかったかも。魅了を解くのかそのまま継続するなら何処まで従わせるのか暴走し始めたらどうするのかそういう事だよね?」 「うん」 「力を使って魅了した時点で……対象の人生を少なからず狂わせてしまうんだと私は思う。好き放題やればきっといつか報いは受けそうな気がする。ならばせめて良い収まり方になるようにするべき……かな」 「例えば?」 「PPPのホストさん達……兎川伊奈に夢中だけどゆくゆくは他の誰かを好きになってもらって人生を歩んで欲しい。手っ取り早いのはホストさん同士くっつける事だけど……」 「なゆかってサラッと凄いこと言うよね」 「そう? 愛し合ってるならいいんじゃないかな? そういう需要も満たせるじゃん? で、生城山もみじさんは……愛に飢えているオジサンとくっつけるとか? いい人だけどモテない男の人っているでしょ? そういう人とくっつけば……」 「なゆか?」 「いい事思いついた! 結婚相談員とか占い師とか職として良さそう! うんうん、大学出たらそっちの道ありかも! 学生の間はLavaGardenで華やかなステージで過ごしたいしね! ダブルワークってのもいいかな?」 「なゆか聞いてる?」 「聞いてるよ。私ってさぁ、沢山の人にモテモテになりたいわけじゃないし、魅了していいようにこき使うのも性に合わないからサキュバスハーフの力は平和的に幸せな人を増やす方向でいきたいなと」 「ラビットとしてステージに立つのはモテモテじゃないの?」 「違うよーファンは沢山付いて欲しいけどガチ恋勢が増えて欲しいんじゃないの」 「そうなんだ」 なゆかの頭部には角、腰には尾、背中には羽根の薄い桜色のオーラが出ていた。 「なゆか、サキュバスハーフの力漏れてるよ」 「おっとっと……気を付けなきゃ。ラビットの時だけにしなきゃね」 「なゆかは大澤垓をラビットで魅了し後々他の者に対象を移して自分から離す方向で行くことを決めたんだね?」 「うん、それが一番スッキリする垓との終わりかたじゃない?」 *** 夜―相変わらず第二地区はパトカーのサイレンが聞こえない日は無い。静かなのはLavaGardenの通りだけであった。 大澤垓は院瀬見の置郷に言われた通りLavaGardenに足を運んでいた。 「(ククク……影に潜んでいるとも気付かずに)」 置郷は影の中でほくそ笑む。大澤垓は2階から上のステージのフロアーに行かずに1階のカフェで食事を始めた。 「(大澤め、さっさと上に行け。それにしても1階はただの従業員しかいないか……? 若干訓練を受けたような身のこなしのはいるがあれはLOKIではないだろう)」 垓は食事の後トイレに向かう。置郷は影からそっと出てトイレの前で待ち伏せする。 「ハイ」 「うぉっ……突然現れたな」 「私も店に入っていましてね。ざっと見たんですがお探しの藺藤なゆかは居ませんでした。上のフロアーでは?」 「なゆかがショーに出てるだと? ありえん、内向的でおとなしくて人見知りで目立つのを嫌う奴だぞ?」 「それは貴方の主観でしょう? 女は貴方が思っているより複雑なんですよ」 「お前になゆかの何が解る!」 「まぁまぁ落ち着いて。店内を全て見なければ解らないでしょう? ショーに出てなくてもお手伝いとかしてるかもしれませんし」 「それもそうか……見つけ次第手錠をかけてでも連れ出すからな」 「お好きにどうぞ。私は私で目的がありますので」 「所でいつの間に店に来た?」 「ふふふ……秘密です」 「……ではまた後でな」 「ええ」 垓が歩いていくのを確認した後そっと影の中に潜り込む置郷。上階に移動する垓に付いて行く。手続きを済ませフロアーに入る垓、置郷はじっとそれを影の中から観察している。 「(ククク……影入りは誰にも気づかれない……ニンジャであっても魔術師であってもな……そして……)」 「体が重いな……疲れがたまっているのか?」垓は肩を回す。 「(生命力を吸い尽くす。吸えば吸うほど潜り主の情報も得られる……やがてなりすまし本人は死を迎える)」 置郷の今の姿も前の潜り主のものである。院瀬見のトップである秋馬光鴨から授けられたこの力を置郷は気にいっていた。 「(LOKIを見つけ潜り込んで吸い殺してやる。完全な暗殺、それが可能なのは院瀬見六騎衆でも私一人)」 ステージではバニースーツ姿のラビットが踊っていた。垓はぼんやりとその姿を見つめたままグラスの飲み物を口に運ばないで固まっていた。 「(おや? 垓の様子がおかしい。あの踊り子に夢中になっているのか?)」 ラビットの桜色に輝く瞳と目が合う置郷。影の中にいるはずの自分と目が合うはずは無いと自分に言い聞かせた。 「(なんだあの兎の踊り子……異様だ、もしかしてアイツがLOKIなのか?)」 ここで「兎の踊り子(ラビット)に仕掛けるか?」と考える置郷。 「(いや、ここは一旦フロアーのスタッフに潜り込んで楽屋やバックヤードに行くのがいいか)」 垓の近くにスーツ姿の女性従業員が通りがかった際に潜り込む。 「(よし……)」 女性従業員がバックヤードに移動する。通路には琥珀色のジャケットを着た大柄な女性が見えた。 「待たれよ」 ジャケットの女が女性従業員を止めた。 「そのまま動くでないぞ?」 ジャケットの女は腰から合金ブレードを取り出す。そして置郷が潜んでいる影に目掛けて突いた。 「!?」 置郷は咄嗟に避けた。ジャケット女は影が動いて避けるのを目で追っていた。 「何故分かった!」 影から実体化する置郷。 「勘じゃな。ほんの少し通路に何か違和感を感じた。それだけの事、違和感は見逃してはならん気のせいだと放っておくのは戦場では命取りに成りうる」 ジャケットの女は女性従業員を目で合図して下がらせる。 「忍びの者か?」 「いいや?」 置郷は壁を背にしている。ジャケット女の影はこちらでは無く反対側に伸びている。 「(ち、影が遠い。なんとか位置を入れ替えなければ……)」 少しでも動けば先程の鋭い突きが飛んでくる。置郷は相手が強者だと即座に感じ取りそれゆえに下手に動けない。その予感は当たっていた目の前にいるのはLOKIの幹部アンバー(三葩)である。武の鍛錬に勤しみ極めようとする前世が武士の者である。 「シャアアッ!」 置郷はナイフで突きにかかる。次の瞬間アンバーの下からの斬り上げで置郷は右手の指を4本失った。 「ぎゃあっ!」 「遅い、甘い!」 「くそ……(私は暗殺者だこんな正面切って戦うタイプじゃないんだ)」 左手で消音器付きハンドガンをとりだす置郷、アンバーはそれよりも早く自分の拳銃を抜いて腰だめの状態から発砲、置郷の銃口に弾丸を撃ち込んで暴発させた。 「ひぃっ……!?」 「さて詰みか? 捕まってくれるなら命までは取らんが……先程の影の術がどうも気になる。拙者の影に触らせるわけにはいかんな」 「ちくしょー」 踵を返して走り出す置郷、アンバーは即座に足を狙って拳銃を撃つ。置郷のふくらはぎに命中し転倒させたがそのまま転がってバックヤードからフロアーに出た。 「しぶとい奴め」 アンバーは武器をしまいフロアーに出た。置郷の姿は見えない、既に誰かの影に潜り込んでいると判断した。 「ぬう……軽い傷ではないはず。このまま隠れていてもジリ貧なのは奴も解っているはずだ……」 アンバーはいつでも銃を撃てる体勢で警戒しながらフロアーを回る。ステージではラビットとフォックスがペアダンスを踊っている。 「(クソオオオ……あのデカ女! 奴がきっとLOKIだな! そうに違いない幹部のアンバーと呼ばれている奴かもしれない! ……ここは大澤垓の影に潜ってコイツになり替わるしかない……回復は時間がかかるが今は逃げ切れる事だけを考えよう……)」 置郷は垓の影の中で回復に努める事にした。 垓はラビットのステージを最後までじっと目をそらずに見ていた。置郷は影の中から何度もラビットと目が合った。体の奥がじんわりと暖かくなるを感じていた。 続く
Jul 15, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド19話 狐理子は目的の倉庫に侵入し目当ての秘伝書の収納場所を探し始める。コンテナが積まれそれぞれに電子ロックがかけられている。 「流石に全部調べてる余裕はない……コンキチ、どうにかならない?」 狐理子は自身の持つSliMEコンキチに問う。 『一番新しい床と地面の靴底摩擦臭を追えば秘伝書にたどり着けるかも』 「そんな犬みたいなことコンキチできるの?」 『これまで狐理子はコンキチを犬のような相棒として接してきたから犬の特性を持つようにアップデートしてきたよ。だからできる』 「そうだったっけ? でもできるならお願い」 「了解」 狐理子の懐から飛び出したコンキチは液体金属のボール状の姿のまま床を流れるように移動。痕跡を追ってゆっくりと動き始める。 「もう解ったの?」 『ここ最近この倉庫は使われてなかったみたいだから痕跡も少ないしね』 コンキチは狐理子から2時の方向にあるコンテナの前で止まった。 「電子ロックは……解除している暇はないからブースターをバーナーの代わりにして扉を焼き切る!」 狐理子は掌のブースターを扉に近づけた時、背後から気配を感じた。 「誰だ!」 「ほう、気が付いたか。お前は殺さずに捕らえろという命令が出ている。どうする? 抵抗するならするで構わんが?」 「院瀬見の者か……」 「院瀬見六騎衆(イセミ・シックスナイツ)の一人……ベータ」 ベータと名乗った全身コンバットスーツの男は合金ブレードを構えた。 「忍か……」 「流石に解るか。俺はブラックヴァリーの元・天流党当主、涼宮ナガレ……お前は暮葉一族の坂東狐理子だな」 「……!?」 「テンゾウを泳がせていたのは加藤段蔵の秘伝書の秘密に迫る為だ。全ては我が主の為、テンゾウは遅かれ早かれ始末される運命に合ったのだ。そしてお前のこれまでは全て我が主の掌の上で転がされていたに過ぎない」 「なぜそこまで話す!」 「ここでお前を捕らえ院瀬見に服従させるからだ。院瀬見の為に働けば何不自由なく暮らせるぞ、秘伝書も仲間も全て失う事も無い」 「お前も忍なら解っているだろう。主を裏切る事は自分を殺す事と同じだと」 狐理子はベータを睨みつける。 「ククク……解らんか? お前を捕らえお前の主も我が主の支配下に何れ置かれる。同じ事では無いか」 「戯言を! 都合よく使われる気などあるものか!」 「ああ、そう言うと思った。だからここで完膚なきまで叩きのめし心を折ってやる」 狐理子が手裏剣を投げつけると鏡合わせのようにベータも手裏剣を投げ空中で激突、火花が散った。 「……」 「天流忍法鏡映しの術」 ベータの全身を透明の液体が包み込む。そしてあっという間に狐理子と同じシルエットに変身した。 「何……?」 「ククク……お前の事は調べ尽くしているぞ。フォックス忍法なりきりの術はこれで意味を成さない」 「何をー!」 狐理子はブースターダッシュで飛び上がり空中でブースターを使い軌道を変え斜め後ろからベータに急襲、狐理子のブレードがベータの首を狙う。 「!?」 斬ったはずのベータの姿が無い。振り返ると数メートル離れた場所に立っていた。 「ククク……何処を狙っている?」 「くっ……」 ダッシュで間合いを詰める狐理子、突如壁が目の前に現れ正面衝突した。 「がぁッ!?」 「ククク……猪か?」 「何故こんな……(コンキチ、追跡はいいから一旦戻って!)」 コンキチからの声は無い。 「ではこちらから行くぞ」 ベータがブレードを振る。空を切ったはずが狐理子の肩のアーマーを裂いた。 「!?」 狐理子はブレードを振ってベータを狙う。固い感触があった。ブレードはコンテナに食い込んでいた。 「(どうなっている……幻術系……いや……精神干渉?)」 狐理子の周囲は自分の姿で埋め尽くされていく。まるで鏡の迷宮のように。 「はっ!」 正面の自分の姿から手裏剣が飛び出し狐理子の狐面ヘルメットに命中した。すぐに反撃するも目の前の鏡は水を切ったような手ごたえしかない。 「(これ程の術……印も組まずに瞬時に展開したのが信じられない)」 「ククク……この術の発動に驚いているようだな。無理もない、忍であれば当然の事……俺は人をやめた存在となり忍を超える忍び【超忍】となったのだ」 「超忍……」 「相手の術を己の術で上書きして解除させるセオリーは無駄だと言っておこう。俺は瞬時に再発動する。お前は体力と精神力を無駄に消耗するのみだ。かつてブラックヴァリーの頂点で最強の忍であった不動了痲であれば正面から己の術と体術で切り抜けたであろうがお前では到底不可能。」 「お前は不動了痲を超えたというのか!」 「どうだろうな。忍としては不動了痲が上だろう。しかしその他の部分では俺が勝っている。戦えば俺が勝つ、つまり不動了痲に勝てなければ俺には勝てんのだ」 「……それほど自信があるならばブラックヴァリーや忍をまとめたらどうなんだ」 「ククク……その為にお前の協力が必要なのだ。加藤段蔵の秘伝書を解読し全ての忍の頂点に俺が経つ。さすれば我が主は全ての忍びを統べる存在となるのだ」 *** 「しぶとい奴め……」 シャパリュはアサルトライフル、形代による爆砕符の連撃を目の前のスキンヘッド男のアルファに反撃の間も与えずに叩き込んでいた。 「いてぇなぁ……いてぇが……それだけだ。俺の体は壊れてねぇ」 「いつまでもお前と遊んでいる訳にはいかない……」 細身の女性体のシャパリュの体が盛り上がり始める。筋骨隆々、手は熊のように鋭い爪、顔は前に長く肉食獣のように、頭部からは二本の角が生え両足は恐竜を思わせる形状に尾はワニのように太く長く変形しした。 「グガアアアアアアアアアアアアッ!」 「テメェ……怪人だったのか?」アルファは呟いた。 「アハハハハハ……怪人だと? 魔獣と呼べ!」 瞬間移動めいてアルファに肉迫するシャパリュ、サイドキックを放つ。くの字に折れ曲がったアルファ、シャパリュはアルファの腕を掴み後方に叩きつける。その勢いで反対側に叩きつける。そのまま12回叩きつけアスファルトを破壊した。 「まだまだ!これでも喰らえアアアアアアアアアアッ!!」 シャパリュの口から爆砕のエネルギーが放たれる。アルファは地面を抉りながら爆砕エネルギーを受けたまま海上の防波堤に激突、それでも止まらずコンクリート片をまき散らしながら海面を滑るように飛んでいく。 「これでも砕けないとはな、だがすぐには戻って来れんだろう」 シャパリュは変身を解除して普段のぬいぐるみのような姿に戻る。 「キリコ……無事でいるか……?」 シャパリュはアルファが吹き飛ばされた様子を遠巻きに見ている院瀬見の警備部隊に向かって形代を投げつけ煙幕を発生させる。 「SliME通信にもキリコの返事がない……マズいか?」 煙幕で混乱している院瀬見警備部隊を尻目に狐理子のいる倉庫へ向かう。 倉庫の扉を開けると中は複数の水の膜で覆われていた。シャパリュは呪を込めた形代を投げつける。形代は激しく回転を始めやがて大きく旋回を始め天井へと飛んだ。 「ソコか!」 アサルトライフルを撃ち込むシャパリュ。弾丸は金属に当たった音を響かせた。 「ぬ……俺の術を見破る奴が来ただと?」 天井にコウモリのように逆さになっているコンバットアーマーの男、ベータが見えた。 「アルファは何をしている……それになんだ獣、お前は?」 「キリコはどこだ?」 「ククク……あの狐女なら俺の術にハマり藻掻いている最中だ。そうか獣、お前は……LOKIのシャパリュと呼ばれている緑の魔獣か」 「ギシャア……お前を始末する!」 「ククク……獣にして術師とはな。暴力を振りまく狂戦士ではない……か」 「おしゃべりはもう沢山ダ!」 飛び上がるシャパリュ、天井の梁を掴み尻尾を振って回転、ベータを狙う。対するベータは天井から離れシャボン玉のように全身を水の球体で覆い防御を展開する。 「むっ!?」 シャパリュのふれた水の球体は爆裂して蒸発、4トントラックの衝突を防ぐ水球体防御を一撃で突破されたことに驚くベータ。 「俺の術を解除したのか!?」 「ギシャア!」 「なんの!」 追撃のシャパリュの爪をベータはブレードで弾く、両者は離れて着地する。 「ん?」 妙なステップを踏むシャパリュを警戒するベータ。次の瞬間倉庫に張り巡らせていた水鏡の膜が全て爆砕していく。 「これは……お前、呪術師か? 先程の歩方、禹歩反閇(うほへんばい)だな」 「グギギギィ……道摩法師と名乗っておこうカ」 「陰陽道に通じる流派の者か……さて、ここからは術比べとなるか」 「チョウシに乗るな」 牙を剥くシャパリュ。その視線の先にはベータの後方でブレードを構える狐理子の姿。 「フォックス忍法殺戮旋刃!」 ブースターで回転し両肘両膝のブレードの連続攻撃を仕掛ける狐理子、一瞬反応が遅れたベータは回避が間に合わず咄嗟のブレード防御。狐理子の猛攻でベータのブレードは真っ二つに折れる。 「うおおおおおおっ!」 「水変わりの術!」 全身から水の変わり身を出して狐理子の攻撃を逸らすベータ。コンバットスーツはズタズタに切り裂かれ生身にも傷を負った。 「ぐっ……流石に二人相手は分が悪いか。いいだろう……坂東狐理子、秘伝書はお前に預けよう。だが必ずお前と秘伝書は院瀬見が貰い受ける」 「逃がすか!」叫ぶ狐理子。 「ブルウウウウアアアアアッ!」天井を突き破り全身海水で濡れたアルファが傷を負ったベータの前に現れた。 「あああクソイテェ……第2ラウンドといきたいがベータを守りながら戦えるほどテメェらは甘くないよな。今日の所は引いてやるぜ」 「……待て!」ブレードを構える狐理子。 「いい、行かせろ(キリコも限界ダロウしな)」シャパリュが制した。 アルファはベータを抱えて窓から飛び出して消えていった。 「シャパリュどうして……」 「こちらも余裕は無かっタ。我々の目的は秘伝書のはずだ、敵は撤退の意思を示した。命を賭けて戦う場面では無かったゾ」 「そう……だな。秘伝書を取り戻せれば良かったんだ頭に血が上ってた」 「奴らのデータはある程度取れた、これで良しとしよう」 *** ――翌日。 LavaGardenのクリムゾンの私室に呼ばれたなゆかと狐理子。 「やり遂げましたね二人とも」 クリムゾンは椅子に座り足を組んだまま言った。 「ラビット、予想以上の働きですよくやりました。フォックス、ついに秘伝書を取り返しましたね。それと院瀬見の新たな戦力のデータ収集、助かりましたわ」 「うまくいって良かったです」「恐縮です」 「褒美に代わりに新たな住み家を用意しましたわ。ラビット、兎川伊奈名義で部屋を用意しました。フォックスは元の仮住まいから兎川伊奈の部屋に転居しなさい」 「クリムゾン様、私の元のマンションはどうすれば……」なゆかが言った。 「そのままで。あの部屋は『藺藤なゆか』の部屋です。あなたがラビットである時は兎川伊奈の部屋に。普段はフォックスが兎川伊奈の部屋に住む事になるでしょう。セーフルームとして使いなさい。場所は第一地区の駅裏、商業私設に囲まれたマンションの一室です」 「そんな超一等地を!?」 「実はこの物件、外からは全く見えない場所に建ってますの。しかも一般には売り出されていない特殊なもの」 「なんでそんな凄い場所に私たちを?」 「この先、院瀬見の裏の者達と衝突する時にあなた達の安全を確保する為です。他のLavaGardenのメンバーも数人転居させる事に決めています。安心なさい、わたくしの親友の神名燐火がセキュリティを担っています」 「そうでしたか、ありがとうございます」 「いいのよ。これもわたくしがやりたいからやってる事なので」 なゆかと狐理子はクリムゾンに用意された部屋に早速行ってみる事に。LavaGardenの裏口から出ると外国の要人が乗るような見るからに頑丈な車が止まっており、そこにくすんだ黄色の羽織をきた大柄な女性が立っていた。 『あれはアンバーだよ。LOKIの幹部の一人』 なゆかのSliMEポポリンが説明した。 「殿から話は聞いておる、さぁ乗りな。儂が絶対に無事に送り届けてやる」 「殿ってクリムゾンさんの事……だよね?」「そう、アンバーさんはクリムゾンさんの事をそう呼ぶんだ」 なゆかと狐理子は顔を見合わせた後車の後部座席に乗り込む。 「いよいよ大きな戦が始まりそうな予感がする」 運転しながらアンバーが言った。 「戦ですか……」 「この島を支配したがる連中は多い。院瀬見は長い事外敵から守ってきたがそろそろ降りる時が来た。役目が終わったと殿は言ってた、これからは院瀬見の時代じゃないと」 「はぁ……」 「殿はこの島を街を世界で一番にしたいらしい。その為の準備を進めておられる。めどが立ったのでいよいよ院瀬見降ろしを始めるのだ。お主たちは殿の島に必要とされている」 「世界一ですか」 「うむ、皆が安心して暮らせて豊かで清潔で希望の持てる街。法の目をかいくぐる無法共の好きにはさせない。世界中から羨まれる街になるのだ。もちろん誰でも彼でも住めるという訳にはいかんがな」 「それは凄い……(あんまり悪い方に考えたくないけどSliMEで街全体を監視するのかな)」 「【民主主義より善良な独裁の方が良い】古からあることばですね」と狐理子が言った。 「ハッハッハ! そうかもしれん、民草に自由にさせるよりも力ある賢者が政を行った方がうまくいく歴史が証明してるかもしれんな」 「(でもそれっていつかクリムゾンさんの支配も終わりが来るってことなんじゃ……)」 なゆかは口には出さなかったがこれまでの人類の歴史を鑑みてそう思った。 続く
Jul 13, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド18話 「(う~んサキュバスハーフの力でこの人たちをどうにかすれば……)」 『なゆか何を考えているの?』 「(せっかくさぁ、血気盛んなんだから上手く使ってLavaGardenの被害消耗は避けたいんだよ。この人達も使いようじゃない?)」 『どう使うの? クリムゾン様は排除するつもりだけど』 「(有効活用の仕方……完全にLavaGardenの手足になってもらうのは?)」 『どうかな、クリムゾン様はそこにリソースさかないと思うよ』 「(じゃあ私がこの人達を使うのはどうかな?)」 『なゆかが生城山もみじとホストクラブPPPを支配するの?』 「(経営とかそういうんじゃないよ。私の為にもLavaGardenのみんなの為にも敵は少ない方がいいじゃん? もし邪魔になったらバイバイすればいいし)」 『クリムゾン様が納得するかな』 「(ホストクラブの売り上げをLavaGardenの上納させればどうかな? 現金のやり取りだと足が付くからLavaGardenの客として思いっきり消費してもらうとかね。ホストが急にさぁLavaGardenに夢中になったとしてもそんなにおかしい事とは誰も思わないよ)」 『生城山もみじはどうするの?』 「(今まで通りホストにじゃんじゃんお金使ってもらえばいいんじゃない? で、そのお金は巡り巡ってLavaGardenに集まるしそれならクリムゾン様も納得するんじゃないかな?)」 なゆかはポポリンとSliMEのメッセージでやり取りしてる間、生城山もみじとホスト五人を桜色の光を放つ目でじっと見つめている。 「兎川伊奈さん?」 生城山もみじが満面の笑顔で言った。 「なんでもありません。すばらしい人達ですね」 なゆかはホスト五人をそれぞれ見つめて言った。 「そうでしょう? 彼らのお店も本当に素晴らしくってね、是非行ってね? お金は大丈夫初回は無料だしドリンク券も渡してあげるから」 生城山もみじはカードを渡す。 「あの……オープンカンパニー中なんですけどこれって」 「接待を覚える事も大事なのよ。あと良いお店を知る事も勉強、仕事っていうのは会社の中だけではないないのよ。色んな繋がりがあって活きてくるんだから」 「そうですか(私がLavaGardenのラビットだと知らずにね~)」 『なゆか、クリムゾン様がそのホストクラブのナンバーワンのカイザープリンスを始末したから色々人間関係の調整が必要だね』 「(ミサイルを撃ち込んだ報復で始末されただけじゃ弱いの?)」 『反LavaGardenを掲げてかなりあおってたみたいだしホストクラブ内にもカイザープリンスに反発する者もいるはずだよ。全員がドンパチ揉めたい訳じゃないからねそういうホストを取り込んでいくのがいいよ』 「(まずは土台作りだね。ラビット軍団の為の)」 『なゆかは新興宗教の教祖とかが一番向いてるのかもね』 「え~……そういうのはちょっと。ラビット軍団はあくまでLavaGardenのファンでラビットのファンでもあるそのくらいの立ち位置でいいよ」 『正しいファンの獲得方法じゃないけど……LavaGardenの利益になるならクリムゾン様も納得されるかもね』 「(でしょう? 私はサキュバスハーフの力が売りなんだから活かさなきゃ)」 『対象の体を弄らないで行動を操るようにできるのは大きいね。警察も追いようがないし』 「(……やらないけどさ、完全犯罪もできるよねきっと)」 『そうだね』 生城山もみじと五人のトップクラスのホストは既になゆかの事で思考を支配されている。催眠でも洗脳でもなく、自然に魅了され従うようになっている。 それぞれが目の前の兎川伊奈(なゆか)の事を考え行動するようになる。女優やアイドル熱心なファンのように推し活をするようになる。 「生城山さんは……健全なホスト通いをして欲しいです。ホストの皆さんはLavaGardenの良さを知って欲しいですね……あ、私キャストとしてあのお店で出ますよ。ラビットとして!」 『なゆか!?』 「(大丈夫大丈夫、この人達には口を固くするように言い聞かせるから。それに兎川伊奈がラビット知られたところで藺藤なゆかとしては別に影響ないし)」 「LavaGardenは本当に良いお店なんですよー。なんか怖い噂とか一部であるみたいですけどそんな事ないですよ? お店に行けばわかります」 なゆかは生城山と五人のホストに近づいて手を握りながらじっと見つめて言った。 「ま、まぁ俺はしってたけどね。カイザープリンスはぶっ潰すとか言ってたけど」 「良いもんは良い、それが真理だ!」 「第二区は盛り上がってなんぼでしょ! 揉めてる場合じゃないって!」 「ドン後路須ファミリーは変なプライドで新参者を認められなかった、だから滅びた。でも俺らは違うこの街はグレーなんだ敵味方白黒つけて喧嘩するだけじゃあ生きていけねえよな!」 あっという間に手の平を返すホスト達。 「兎川伊奈がラビットだって事、ここの六人の秘密ですからね?」 「もちろんですわ」「おう」「男の約束だ」「ぜってー言わねえ」「大丈夫さ」「漏らしても得がねえむしろ損するだから他に言う必要がない」 「それじゃあ皆さん今後ともLavaGardenをよろしくお願いします!」 なゆかは全員の連絡先を得て解散した。 その後オープンカンパニーのスケジュール通り行動し昼過ぎに終了した。 兎川伊奈の姿のままタクシーを拾いLavaGardenに。歌劇団メンバーの控室で変身を解除した。 「ふー……楽しかったけど疲れた」 『お疲れなゆか。報告はポポの方でまとめておくから後で目を通してね。準備が出来たらクリムゾン様に連絡するね』 「ありがと助かる」 ぽぽりんはカバンから飛び出して子犬の姿になって絨毯の床に寝そべった。なゆかは控室の隣の楽屋をのぞいてみる。スワンが鏡の前で座っていた。鏡越しにちらりとなゆかを見た後またじっと自分の姿を見つめている。 「スワン、ごきげんよう」 「ごきげんよう……ラビット」 「あ、名前もう知ってるんですね」 「ええ、SliMEネットで知りました。これからよろしくお願いします」 「こちらこそよろしく願いします」 「ラビット……以前見かけた時と少し雰囲気変わりましたね。今の方が良いです」 「恐縮です」 「何か用でもありますの?」 「いえ、人の気配がしたので挨拶をと」 「そうでしたか、ではお互い好きに過ごしましょう」 「はい」 スワンはじっと自分の姿を見つめて集中しているようだと考えたなゆかはそっと楽屋に置かれた台本を一冊手に取って控室に戻った。 「前の公演の台本だ……」 『シープの使ってた台本だね』とポポリン。 「あ、ホントだ」 台本の裏にはカラーペンでシープと書かれ中身は物凄い量の書き込みがあった。 「シープって綺麗な字でいっぱい書き込むタイプなんだね。映像で見た姿だとふわふわしてて天然でおっちょこちょいな感じだから意外」 『シープは真面目な子だよ。自分はバカだからこうしないと覚えられないって必死になって他のメンバーに色々聞きながらいつも台本に沢山書き込んでいるよ』 台本を読みながらポポリンの最適化を待つなゆか。 『なゆか、準備できたよ』 ポポリンから送られてくるデータをメガネの内側に写して確認するなゆか。 「凄い流石ポポリン、資料まとめるのも速いね」 『資料自体は1分で作れたんだけどポポの体の修復とSliMEネットの更新に少しだけ時間かかったんだ。なゆかがよければクリムゾン様をお呼びするけど』 「うん、お願い」 すぐにクリムゾンが現れた。 「大体の事はわたくしのSliMEの来夢から聞いています。ラビット、なぜあなたが生城山もみじとPPPのトップホスト5人をサキュバスハーフの力を使い支配したのか聞きたいですわ」 クリムゾンはなゆかを見つめたままゆっくりとソファに腰を下ろしなゆかにも座るように手の仕草で促す。なゆかはそれを見て従い正面に腰を下ろした。 「有効活用が一番の動機ですね。自分に何ができるか考えた時にこれならできるって思いました。自分自身の為でもあります、サキュバスハーフの力を持て余さないで使える機会は逃したくないと思ったのです」 「……なるほど。ではPPPの件はラビットに任せますわ」 「えっと任せるというのは……」 「生殺与奪をあなたが握ると言う事。PPPの連中がわたくしを困らせる事があれば始末します。ラビット、あなたの責任でホスト達が命を落とすことになっても構いませんね?」 「え~……それは責任重大ですね」 「死なせたくなければしっかりと手綱を握っておきなさい。ラビット、無いと思いますがLavaGardenに対して目に余る事態が起こせば、貴女のポポリンを没収し記憶も消させてもらいます」 「え、あ……ま、まぁそうですよね(殺されないだけマシかな)」 「それでも、PPPのホスト達を支配下に置いて運用しますか? 今ならノーと言えますわよ?」 「うーん……(これはクリムゾンさんが私を試しているのかな? どうなんだろうやるって言えばサポートしてくれそうな気もするしやらないっていえばPPPの人達始末されちゃうのかも。ポポリンどうかな?)」 『これはなゆか考える事だよ』 「(そうだよねぇ……今後PPPの人達を使うとなれば色々頭を悩ませることも起きるよね。でもノーって言ってしまえば死んじゃう可能性がある。そもそも私が介入しなくてもクリムゾンさんはPPPを潰すつもりでいるかもしれない)」 「考える時間が欲しいかしら?」 「やります! クリムゾンさん! PPPの人達をLavaGardenに貢献させます!」 「ふふ……いいわ。そう言うと思いました。フォックスを貴女のパートナーにしましょう。バディを組んでPPPの連中を上手く使いなさい」 「ありがとうございます」 「こちらこそ感謝してますわ。入ったばかりの貴女がここまで大胆な事をしてLavaGardenに尽くしてくれるなんて。自分の利もあるんでしょうけど」 「なんかやれそうだしやっちゃえ~って思ってしまいまして」 「自然に集団を支配下に置いて取り込めるというのはLOKIにもいない才能です。ラビットは将来LOKIの幹部になるかもしれませんわね」 「そんなとんでもないです」 「第二地区はもうこれで完全に手に入りますわラビットのおかげで随分と楽に早く。それと……次の公演楽しみにしてますわ」 「がんばります!」 *** ―――第五地区倉庫街。 狐理子とシャパリュは秘伝書を求め院瀬見の管理する倉庫へ向かい警備隊と戦闘を繰り広げていた。 「警察は来そうにないね」 「アア、院瀬見は公にされたくないものを沢山扱っているからナ! 警察は事後処理だけだ今までもそうだった!」 SliMEで通信する二人。 戦闘フレームの1機を奪い取った狐理子は乗り込んで警備隊に応戦。シャパリュは広範囲に動き回り爆砕符によって破壊活動を行っている。 「フォックス、戦闘フレームをよこせ自分がそれを操ってやる。オマエは秘伝書を探せ十分奴らを目当ての倉庫から引き離せた」 「わかった、後は任せる」 狐理子は積まれたコンテナの裏で戦闘フレームを乗り捨て目当ての倉庫に向かう。それ見たシャパリュはランドセルから型代を取り出して戦闘フレームに駆け寄ると張り付けた。 「ガガガガガガガ……」 コクピットが閉じ立ち上がる。 「器としては少し物足りないか?」 「ガガガガガガオオオオン……」 コクピットが変形しハッチが獣の顎を思わせる形に変わっていく。 「行け、チャウンドゥラ」 「ガオオオオオオオン!」 「呪(しゅ)を思う存分使わせて貰おうじゃないか。この体の形態をとる事は滅多にないんだから」 緑のロングヘヤーをかきあげるシャパリュ。普段のぬいぐるみのような姿とは違い今はスラリとした背の高い成人女性の姿である。 「で、そろそろ院瀬見の特殊舞台が来るって訳だ」 空中輸送コンテナがシャパリュに向かって飛んでくる。ハッチが開くと身長2メートルを優に超えるコート姿の男が飛び出した。全身は灰色で目は濁り鋼のような筋肉をしている。 「生物兵器の類か? 怪人のデータを基に作り上げたか」 シャパリュは背負っているアサルトライフルを連射。目の前の大男は両腕を盾にして平然と受け止めた。 「反応速度、強靭度、どれも怪人並みかそれ以上か」 「ブグゥゥ……」 院瀬見の警備隊は大男の姿を確認すると下がって行った。 「巻き込まれるのを恐れて下がったか。それともこれはデータを取る為の戦闘か?」 「ブアアアッ!」 突如超低空のダッシュを繰り出す大男。シャパリュの足を掴みにかかる。シャパリュは軽く飛び上がり空中回転、尻尾で大男の首の後ろを打ち付けた。 「ブガアアアウ!」 顔面からコンクリートの地面に叩きつけられた大男は破片と血液をまき散らして跳ねた。 「割と本気の打ったのだが頑丈だな」 「グウ~……」 「言葉を発せないのか」 「舐めるな……俺は新世代の院瀬見の戦士。アルファとでも言っておこう。この体、ロケットランチャーにも耐えた、お前の打撃で倒せると思うなよ」 「新世代……? 怪人から何が変わった」 「俺の姿を見て怪人の事を聞くとは……誰に雇われた者だ?」 「質問をしているのはこちらだが?」 「知った所でお前はもう逃げられない。この場で死ぬか回収して実験に使うまで。だが教えておいてやろう、この俺アルファは院瀬見の粋を集めて生み出された究極の戦士達の一人だ、その第一号。戦闘スーツも戦闘フレームも邪魔になる重火器も必要ない。サイバネハッキングによる妨害にも、化学兵器などの毒物にも耐えうるのだ。もはやブラックヴァリーなどというニンジャを雇う必要など無くなったのだ」 「秋馬光鴨と魔女による妖の合作と考えていいのか?」 「ほほう、中々にこの街の裏事情を知っているようだ……ますます生かしてはおけんな」 「(この新世代怪人、回収して置きたいな)」 「で、何だお前は?」アルファはシャパリュを睨みつけながら言った。 「研究者……という立場になるな」 「ふん、どこかの企業の者か……まぁいい捕らえて吐かせるのも楽しそうだ」 アルファは拳を鳴らしながら言った。 続く
Jul 4, 2026
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