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ラビット・アンダーグラウンド11話 「特に変わった様子はないか……なゆかの携帯のデータコピーはまだまだ時間がかかる。あいつが保護室を出る前に回収すればいいか」 垓は窓を空けてベランダに出る。そこで小さなガラス片を見つけた。 「これは窓のガラスと同じか? もしかしてなゆかの窓は最近割れて変えたのか」 ガラス片を回収する垓。窓を閉めるとベッドに向かい布団とシーツをめくりあげてマットレスを手で押してゆく。 「なにも無いか」 垓はジャケットから小さな筒を取り出し中から蟻のようなマシンを取り出した。超小型AI搭載のカメラである。それを床に置くと携帯で設定をする。 「こんなとこか……」 垓の携帯が鳴った。鍵を受け取った管理人からである。 『刑事さんすみません、オーナーがお話をしたいとの事ですが……』 「……こっちはもう終わった。緊急の用があるのでこれで失礼する、オーナーには後日話を聞かせてもらうとお伝えください」 垓は素早くなゆかの部屋を出る。非常階段を使って1階のエントランスが見える吹き抜けの2階に移動、物陰から様子を伺う。 宅配業者からの荷物や来客者は1階エントランスで管理人の確認が行われる。その後荷物などはロボットに渡され来客者はID確認と撮影される。2階の部屋の住民はおらず緊急時に2階の各部屋からセキュリティボットが飛び出す。武装した侵入者は10秒以内にエントランスで蜂の巣になる。元々はサイバネマフィアのアジトだったマンションを昊菜がリフォームしたものである。 「管理人の女の近くには誰も居ない……オーナーとやらに今会うのは面倒だ」 垓は急いだ様子で格子状のゲートを開けホールに降りると管理人に鍵を返して全力疾走で車に向かう。何か言いたげだった管理人とは目を合わさず言葉も交わさない。 「なんだ、対応が早すぎる……セキュリティが高いな……」 車に戻る垓。蟻型カメラが正常に作動してる事を確認する。 「署に戻るか」 *** 「あの……オーナー、刑事さんは帰られましたがよろしいので?」 管理人は不安を感じすぐにオーナーである昊菜に連絡をしていた。 『かまいませんわ。貴女こそよく連絡してくれましたわね。その刑事はどの部屋を見るとか言ってましたか?』 「いえ……マスターキーをかりたいとしか」 『また何かあればすぐに連絡をくださいな』 「はい!」 通話を終える。LavaGerdenの昊菜の部屋ではSliME来夢が分裂し昊菜の声で携帯等で指示してした。昊菜本人はケーブルが多くつながったヘルメットを被り椅子にもたれている。 「どうかしら来夢、わたくし自身が対処しなければならないものはありまして?」 「神名燐火様への連絡とハート様への指示、LavaGerdenの公演スケジュールの見直しをお願いします」 「わかりましたわ」 *** 「カーッカッカッカッ!! 爽快爽快!!」 某所。テンゾウは畳の上で胡坐をかきながら大きな杯を傾け酒を一気に流し込む。 「これこそが忍者、これこそがブラックヴァリー! 野望に一歩近づいたぞ!!」 周囲の天蟲党の忍者たちは無表情で黙っている。多くの党員は今回の作戦に関して不満を感じていた。表立って派手に暴れ街の全てを敵に回し無差別攻撃を仕掛けた事を喜んでいるのはテンゾウのみであった。党員も少なからず死んでいる。 「加藤段蔵の秘伝書さえ解読できればこの街を、いやこの国を支配する事も可能! お前たちはおこぼれを分けてやる、いい暮らしができるぞ?」 テンゾウは酒を注いでいる下忍のくノ一の腕を引きよせて強引に抱きかかえて体に指を這わせる。 「グフフフフ……ブラックヴァリー天忍十五党・天蟲のテンゾウに抱かれて嬉しいだろう?」 「……」 「不安なのか? 心配するな次の作戦も考えてある。次はLavaGerdenの従業員を一人ずつ殺す。そして首を街の目立つ場所に置いて『秘伝書の解読に応じなければいくらでも死ぬ』と書くのだ! グフフフッフハハハハハッ! 一般住民に完全に紛れている我々を探し当てる事など不可能! 常にこっちのターンて訳だ。その内企業も警察もLavaGerdenのバカ女どもも音を上げる……完全に完璧な作戦だ!!」 「……(このままでは天蟲党に先は無い)」 *** 第一地区・警察署。 ブラックヴァリー天蟲党の起こした連続爆破テロ事件の対策本部が建てられていた。 井之頭誠 通称【イノ】長身で大柄の刑事。芹沢基樹 通称【セリ】井之頭のバディとして長年コンビを組んでいる。松上丹吾 通称【マツ】ベテラン刑事。鶴河主次 通称【ツル】新人刑事。がすでに会議室に入っている。 「イノさん、久しぶりだなぁこういうあからさまな事件は」 芹沢は電子タバコを吹かしながら言った。 「キャリバー事件以来だな。企業“様”の案件じゃねえから警察の出番って訳だ」 井之頭はアーモンドチョコレートを噛み砕きながら言った。 「おーおーイノセリ・コンビはやる気だねぇ~」 ネクタイを緩めながら椅子にもたれた松上が言った。 「マツさん、おれらはやる気出さないでいいんすかね?」 シャツの袖で汗を拭いながら鶴河は松上の隣に座っている。 「やる気だぁ? やる気で涼しくなんのか? 暑苦しい」 「相変わらずダラダラしてんなぁ……マツさんも昔はああじゃなかったんだが」 井之頭は頭をかきながら呟いた。 「仕事はしてるぞ? 楽しい楽しい書類仕事だ……なぁツル!」 「そうっすね……」 「ところで最近配属されてきたエリート組のあいつはどこに行った?」 松上は井之頭に顔を向ける。 「大澤か……単独で動いてるみたいだ。課長がやらせてるからどうしようもねぇ」 「課長も定年近いからお偉いさんからの評価下げたくないんだろ。大澤っての本庁のお偉いさんの甥っ子なんだろ?」 「ほっとけあんな奴。それよりうちらは特殊犯罪対策課と合同捜査になりそうなんだが」 うんざりした顔で松上は目の前のA4の用紙を持ち上げた。 「特殊犯罪対策課ってあの比留山陶子の所か。異能だがなんかわかんねえイカれた女と派手な遊び人風の女がいる課だよな」 井之頭はため息をついた。 「イノさん、なんでそんなに嫌そうなんすか? 見た感じ二人ともカワイイじゃないっすか華がないっすからねウチの班は」 「馬鹿野郎ツル! お前らは比留山のチームに関わった事がねえからそんな事言えるんだ、なぁセリさん?」 「ま~かなりぶっ飛んだ娘らだからな。それだけじゃねえんだよツル、イノさんは比留山が気にいらんのさ。元々ウチの課だった女が上のお達しで別の課に異動していまや課長になったからな」 「セリさん! そんな簡単な話じゃないぜあれは! 上はどうにかしてる!!」 「丁度キャリバー事件の時だったよな」 「比留山が一番あの事件に関しては張り切ってた、捜査も進んでたんだ、それがある日突然の異動。今の特殊犯罪対策課にはキャリバーの銃に酷似した物をもった女がいるんだ!」 「兜金柄留。書類上ではキャリバー事件の重要参考人の兜金の親族という事になってる……第六区出身という事で詳しい経歴は不明。もう一人の派手な女、才賀愛来薔薇は東京生まれ東京育ちで本庁からの紹介でオータムホースに来た……と」 「イノさんセリさんに頑張って貰いましょう。俺とツルは地味~な書類仕事に精を出すんで……後は課長の指示に従うだけですよ」 「すっかり駄目になったなマツさんは……で、ウチの碇課長は?」 「便所だよ。あの人超頻尿な上に胃腸も弱いからな。労働時間の半分は便所じゃないかって他の課に笑われてる」 「おいっす~……皆揃ってるな。いや、大澤は別行動だが」 大量の汗をかきながら課長の碇艇輔(いかりていすけ)が現れた。ペットボトルの茶を一気飲みしてプロジェクターの横の席に着いた。 *** 「ギャギギギ……コウナ、あのニンジャ(テンゾウ)殺させろ!」 牙を剥き出しにするギィ(シャパリュ) LavaGerdenではない数ある地下アジトの一つにLOKIの幹部全員が集まっていた。 「ギィ、それならフォックスを連れて行って下さいな。あの子は一族を皆殺しにされた復讐者。敵討ちを成し遂げさせて欲しいのです」 「アギギ……足手まといなら放って自分で殺っちまうぞ?」 「そこは上手く貴女の溜飲も下げられてフォックスの望みも叶える形でお願いしますわ」 「ギィィ……解った、それでやってやる」 ギィは座りこんでグルーミングを始める。 「ご主人様、警察の動きが活発になってきています。事情聴取の為にLavaGerdenに奴らが来た時の対応はどうしましょう」 心鷺(ハート)が直立で腹の前で手を重ねた姿勢で言った。 「省羅と……わたくしと……なゆかで対応しましょう。ラクーンはまだ退院させないように燐火にも言っておきます。心鷺はわたくしのそばで潜んで警察の動きを観察しなさい。LavaGerdenから出たら追跡して貴女のSliMEに記録させなさい」 「承知致しました」 「主、自分は引き続き院瀬見と七曲キョウヤを見張れば良いですか?」 「ええ、エリザ(トニトルス)。貴女はそれで構いません。状況に応じて他のメンバーのサポートに入って下さいな」 「仰せのままに」 「殿、拙者は」 「三葩(アンバー)は第六区で貴女の動かせる人材を使って警察の足止めをお願いしますわ。ギィとフォックスがブラックヴァリーを見つけたタイミングがいいですわね」 「御意! 騒ぎを起こして警察を引き付ければいいんですな?」 「ええ、ただし特殊犯罪対策課にだけは十分気を付けてくださいな」 「グレイキャリバーの生まれ変わりがいる所ですな! 心得ました!」 「わたくしは……警察の対応をすませたらちょっと第二区で舐めてる連中が居ないか回ってきますわ。盗撮の闇バイトも件もあるのでホストクラブのオーナーとも会わなくてはなりません」 「ご主人様一人で行動されるのは危険です」 「それは考えてありますの、心鷺貴女も一緒にやってもらいたいの」 *** 「うぅ~」 なゆかは保護室で仰向けに寝てこれまでの戦闘記録をポポリンのデータを通じて体験している。 『なゆか体が反応して痙攣してるけどまだ見るの?』 「うぅ~ピクピクピクピクピク……」 『なゆか?』 「平気だよ。私ってさ、車とかの映像でも体が動いちゃうんだ。だからこの戦いのも同じ事だよ」 『そうだとしてもちょっとこれ以上は疲労が溜まっちゃうよ』 「じゃあこれくらいにしとこうかな……ちょっと面白い事も思いついたし」 『面白い事って?』 「まだ考えまとまらなくてふわっとぼんやりしてるけど、自分のサキュバスハーフの力とポポリンと武器があれば活躍できるんじゃないかなーって」 『そうなの? 思いついたことなんでも言ってみてよ。ポポが整理するよ?』 「う~んそうだなぁ……じゃあまずは……」 なゆかとポポリンの会話は外には漏れていない。SliMEの扱いに慣れてきたなゆかは瞼を閉じ思い浮かべた文字でポポリンに意思を伝えている。 保護室の監視カメラ映像ではなゆかが時々痙攣して寝ているようにしか見えない。 *** ――翌朝。 「良く寝れたか?」 保護室に垓が迎えに来た。 「ひどいよ突然こんな所に押し込むなんて!」 「そういうな、昨日は警察もテロ対策で忙しかったんだ。10人以上逮捕している、俺も徹夜だぞ? お前を安全な場所に移してなきゃ安心して捜査できねえだろうが」 「こういうのは次からちゃんと言ってね」 「ああ、これで次なにかあったらまた保護室に入る事になるのが理解できたな? 警察寮に入れたいが家族だけなんでな」 【家族】という言葉を強調する垓。 「え? あの、こういうの困るって私は言ってるんだけど……」 「困ろうが何だろうが安全な場所にいることが安心に繋がるだろう?」 「もういい! お家帰る!」 「待てなゆか!」 走り去るなゆかの腕を掴み損ねた垓。追いかけようとしたが思いとどまった。 「ち……なにか美味いものを食べさせて機嫌を取らないとな……」 警察署を飛び出したなゆかは路地裏でポポリンの機能で変身、全身ボディスーツに口だけを露出したサイバーアスリート風の姿になりビルの壁を蹴り駆けあがり一直線に自宅に向かう。 『信じられない成長速度だねなゆか、ポポを使いこなしてこんなに動けるなんて』 「コツを掴んだからね。SliMEのデータを見てどんな動きが自分にできそうかなんとなく理解できたんだ」 『ポポも良いデータ取れるから助かるよ』 「ねぇポポリン、自分もMGM歌劇団に入りたいなーポポリンが居れば皆のレッスンについていける気がする」 『クリムゾン様に伝えてもいいよ?』 「夕方のバイト出勤の前に自分の口で伝えたいから会えるかどうか聞いて? 会えなそうだったらポポリンが伝えて欲しいな」 パルクールで自宅に向かうなゆか、途中で公園を見つける。そこに一人でバスケットボールを練習している少年を見つけた。 「ん~……試してみようかな」 『何を?』 なゆかはポポリンをジャージに変形させて顔は途中で見た女性二人を組み合わせた誰でもない人物に変える。 「こんにちは」 ボールをついている少年に声をかけるなゆか。少年は少し驚いた表情で振り返る。 「何? 金とか持ってないよ」 「バスケットボールの練習してるんでしょ? 実は私もバスケやっててね、勝負したいと思って声をかけたんだよ」 「ハ、変な女。見た所ナチュラルだけど大丈夫? 俺事故で目怪我してサイバネに変えたから動体視力異常にいいんだぜ? 勝負になるかな?」 「へぇちゃんと自己申告でいってくれるんだやさしいじゃん。じゃあ負けた方がジュース奢るってのはどう?」 「いいぜ、何点勝負?」 「ん~先に3回ゴールした方が勝ちってのはどう?」 「よしそれでやろう」 続く
Feb 11, 2026
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