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ラビット・アンダーグラウンド17話 狐理子は10秒ほど考えブラックヴァリーになりきる事にした。 「……やるよ。シャパリュはどうするの?」 「まぁ見てオケ」 メキメキと音を立て身長が伸びていくシャパリュ。やがて細見の成人女性の姿となり獣らしさは牙と尻尾のみとなった。全体的に薄い緑がかった肌、青緑の長髪、幼さを残しつつも整っている顔、手の爪は少し伸びている程度、趾行性の足はハイヒールに変わった。 「驚いた……でも服は? そんな破れそうなくらいぴちぴちのTシャツとギリギリの短パンのブラックヴァリーいるかな?」 「鼻と口を隠す布を付ければニンジャに見えるだろう。どうせ院瀬見の社員は始末するから問題ない。さぁ行くぞこの形態は疲れる」 狐理子はコンキチに命じてダークブルーの忍者装束に着替える。 マンションの隣のビルの非常階段を登り屋上から飛び移る二人。ワイヤーを使って目当ての階の廊下に入り込んだ。 「1109号室」「ああ」 1109号室の金属扉を目の前にする。狐理子は電子ロックの解除を始めるがシャパリュが制止した。 「そんな事をする必要はない」 ランドセル型バックパックから札を取り出し扉の四隅に張り付ける、そして印を組むと札同士が熱線を伸ばし四角を描くと切れ込みが入って行く。シャパリュは扉を強く蹴り倒した。 「爆砕呪はこういう使い方もできる」 「おお~」 突撃する二人。ベッドで裸の男女が携帯を持って震えていた。 「ブラックヴァリーだ……通報すればその場で殺す……」なりきった狐理子がナイフを構えていった。 「携帯をよこせ」 シャパリュが手で仕草をすると男は黙って投げてよこした。それを尻尾で受け止め捻り潰した。 「秘伝書を渡せ。さもなくば命は無い」 「ひひひひひひ、秘伝書? なななななな何のことだ?」 「テンゾウ殿から受け取っていたはずだ。警察に押収されるまえに我らが回収する」 「あああ、あれか! 中身は何か知らんが院瀬見の資材倉庫にある」 「場所と鍵は?」 「テンゾウさんから知らされてないので?」 「あの人は襲撃された、聞く暇はなかった。早くしろ、追手がここに来るぞ?」 「そそそそっか……第五地区の8番倉庫だ……キーはそこの引き出しにある」 ナイフを構えたままの狐理子、シャパリュが引き出しからキーを取り出す。 「この部屋臭うな……薬の匂いだ。窓を開けるぞ」 シャパリュが窓を開けると風が一気に入り込んで来た。 「さて……」 怯える院瀬見の男と横で震えてる女。二人とも失禁している。 「女、お前はなんだ?」シャパリュが言った。 「こここ殺さないで……」 「何者か答えろ」 「この男の人に買われた者です……親の借金のかたに……」 「そうか……」 シャパリュは尻尾で突いて男を立たせて窓からベランダに移動させる。そしてランドセルから銃を取り出し女に握らせ自分の手を重ねて握る。 「ななななにを?」 「あの男を撃てそうすれば解放されるぞ?」 「……え!?」 「や、やめろ!」男は両手を上げている。 「あの男が憎ければ撃て。これからも支配されたければ撃たなくていい。5秒で決めろ」 「……でも人殺しなんてそんな……」 「4、3、2、1」 「あああああああああっ!」 引き金を握りこむ女。しかし何も起きなかった。 「え?」「た、たすかった……」 「いいや?」 シャパリュは尻尾で男の首を締め上げながらベランダの外に吊るす。 「く、苦しい……」 「逝け」 横蹴りで男を吹っ飛ばすシャパリュ。放物線を描き落下していく、地面に落ちる前に体が爆発四散。肉片が下に降り注いだ。 「アハハハハ」 「……秘伝書を取りに行こう」ナイフを納めた狐理子がシャパリュに言った。 「ああ」 ベランダからワイヤーで降りていく狐理子とシャパリュ。女は濡れたベッドで座ったまま呆然としていた。 「シャパリュ、あの女も始末するのかと思ったよ」 「生かしておいた方が面白いと考えた。強烈な場面を見せつけたうえでな……」 「何を考えている?」 「心配するな」 狐理子はシャパリュの事を殺戮戦闘獣だと思い込んでいた。実際は獣と人間の思考を合わせ持ち実験、研究を好む性格である。 「(シャパリュは他のLOKIの幹部とは何か少し違うように感じる……クリムゾン様の為に動いているというように見えない)」 他のメンバーと違いシャパリュはクリムゾン秋馬昊菜の親友である神名燐火が連れて来た者である。 偽造ID(マンションで爆裂した男のIDをコンキチでコピーした物)でレンタルバイクを借りた狐理子はシャパリュを後ろに乗せ第五地区の8番倉庫を目指す。 「第五地区の倉庫街・院瀬見の所有エリアは警備が厳しい。以前のドラゴン事件があってからな」 シャパリュが言った。 「どの程度?」 「プラズマ装備の軍用戦闘フレームに武装ドローン、自走式タレット……まるで軍基地並みだ」 「キツイね」 「自分が警備を引き付ける破壊活動を行う、お前は8番倉庫から秘伝書を回収しろ。十分警戒しろ院瀬見の戦闘エージェントもいるはずだからな」 「援軍呼ばなくてもいけそうなの?」流石に二人は心許ないと感じる狐理子。 「ここを制圧するんじゃない、だから必要ない。自分は本気を出してここを滅茶苦茶にする、ドラゴンに負けてられない」 「……そういうことなら、任せる(都市伝説のドラゴンに張り合いたいんだ)」 憎き敵のテンゾウを討った今、狐理子は秘伝書を取り戻す事が今の最優先事項。シャパリュの事が心配でも止めるわけには行かない。クリムゾンへの連絡はSliMEネットでコンキチが送信済みであった。 *** オープンカンパニーに参加している兎川伊奈に扮したなゆか。講堂には100人程度の学生が集まって壇上に居るターゲットの生城山もみじの話を聞いている。 「(兎川伊奈本人って前のオープンキャンパスの後行方不明になってんじゃん。事情を知る人間が今のこの兎川伊奈見たらビックリするんじゃないの? ポポリン?)」 『だろうね。でもそれをチェックできるのは大きいよ』 携帯に変身したポポリンが答えた。 「(なんとか生城山もみじに接触して情報を得ないと)」 『監視カメラの数が物凄く多いから下手な動きは出来ないよなゆか』 「(サキュバスハーフの力を使うしかないね)」 『ホストに狂ってる生城山もみじに効くかな?』 「(どうだろう……やってみる)」 なゆかの目が桜色に変わり生城山もみじをじっと見つめる。壇上でスピーチをしている生城山と目が合う。生城山は一瞬目を反らしたがその後もチラチラとなゆかを見ている。 「(うーん……どうかな……もっと強く念じないと駄目かな)」 なゆかは強く、これまでにないほど強くサキュバスハーフの力を意識する。 「なんか良い匂いしない?」周囲を嗅ぐ後ろの女学生。「体がなんかポカポカする」襟に指を当ててぱたぱたと空気を体に送り込む隣の女学生。「やべっ」前かがみになる前の学生。 周囲が騒めき始める。甘い匂いを感じた警備の院瀬見エージェントが戦闘スーツに搭載された毒ガスセンサーを確認するも異常なし。 壇上の生城山もみじは汗を垂らしながらなゆかをじっと見つめたままスピーチを終えた。場は解散となりそれぞれ気になる部署に移動する事になっている。 なゆかは片付けをしている生城山に近づく。 「(なんかみんなが私を見ている気がする……)」 『そりゃあ今までで一番強い力の発動だからね、影響された人間がなゆかを見るのは仕方ないよ』 「(……私って完全なサキュバスでもないのにこんな大勢の人たちに影響与えるのちょっと怖いよ)」 『完全なサキュバスの例が無いから解らないけど……なゆか以上の力を持つサキュバスが大勢いるのならもっと世の中にサキュバスの脅威が伝わっているはずだね』 「(そうするとサキュバスってやっぱり夢魔って呼ばれるくらいだから限定的な状況でしか力を発揮できないのかも? 私のおばあちゃんが特別な存在だったのかな)」 『とにかく今は任務に集中しようなゆか』 「うん」 なゆかは生城山の前に立つとじっと目を見つめる。 「あの……」 「なにかしら……」 「どこかでお話しできますか? できれば他の人に聞かれない場所で……」 「それは……どうしてでしょう?」 「……」 なゆかは唾液を飲み込んで―― 「ホストクラブとの関係について色々と聞きたくて……」 と、耳元で囁いた。 「……い、いいでしょう。では13会議室に行きましょうあそこなら誰も来ないはずです」 なゆかと生城山は二人で院瀬見社員専用エレベーターに乗り上級役職しか立ち入れない階に向かう。 エレベーターの扉が開くとそこは高級ホテルのように絨毯が敷かれ大理石の壁と彫刻の装飾が施された柱が見えた。 「(これが企業のフロアー? ホテルじゃん)」 「さぁこちらです」 13会議室に向かう二人。途中二人の屈強なビジネススーツにサイバーゴーグルの男らとすれ違った。 「(あれってきっとセキュリティの人だよね)」 『体内温度からサイバネ率50%程度の強改造者だね』 「(50%……ヤバ。精神的な病発症するギリギリのラインだね)」 『ごくまれに90%を突破できるくらいの人間もあらわれるよ。なゆかも調べたこの街の歴史の中に登場する【キャリバー】とかね』 「(反院瀬見体制の象徴となった伝説のサイバネ少女……兜金蒐魅ことキャリバー……)」 『キャリバーはもういないけど反院瀬見体制の盛り上がりはこの街ができて以来一番の熱量だと思われるね。院瀬見の実行部隊の弱体化も繋がってるし』 「(そのっきかけが龍の気を纏いし者の伝説!)」 『うん伝説のドラゴンだね。今は関西に戻って大人しく日常を送っている諸田和音と亜瑠の双子の兄妹の事。院瀬見は二人のドラゴンを監視しているね』 「(院瀬見の実行部隊を潰したんだっけ?)」 『色々事情は複雑なんだけど……諸田和音は所謂正義の味方で、妹を追ってたまたま来たこの街で降りかかる火の粉を払い続けた結果周囲を巻き込んで院瀬見の実行部隊は大きく弱体化したんだ。和音の妹の亜瑠と兜金蒐魅は親友でね、縁があったんだ』 「(反院瀬見の蒐魅と親友の亜瑠(ドラゴン妹)がきっかけで院瀬見は弱体化したんだね)」 『その流れにのってクリムゾン様はLOKIを結成して裏社会の支配を進めたんだよ。今、この街のパワーバランスは院瀬見と反院瀬見で半々位までになったよ』 「(私もLavaGraden所属になったから反院瀬見でクリムゾン様に絶対勝ってもらわないと駄目な立場になったんだね)」 『うん。もうなゆかは一般人じゃないよ。アンダーグラウンドの住人だよ』 「(そうだよね……でもまぁ……この力を思う存分に振るえるのはここしかないし後悔はしてないよ)」 『LavaGradenのラビットとしてなゆかの活躍をずっとサポートするよ』 「(よろしくね)」 ラビットとしてアンダーグラウンドな世界に身を投じてしまった事を少しも後悔していないといえば嘘になる。しかしサキュバスハーフの特性を生涯隠し続け押さえたまま生きていくのも無理だと最近は特に感じていた。理想のサキュバスハーフライフになるか解らないけれど、この街でクリムゾンに出会わなければサキュバスハーフの力の使い方を誤りつまらない小悪党のトラブルに巻き込まれ死んでいたかもしれない。 「失礼します」 生城山もみじに続いて13会議室にはいるなゆか。高級スーツを身に着けた顔立ちが整った男ら5人が座っていた。 「やぁ、最高ホストクラブPPPの最強プリンス5人組の王子V(おうじふぁいぶ)ダヨお姫様」 「カイザーはなんか連絡取れなくったなったけど……俺たち5人がいれば心配ない」 「ちょっと前まで第二地区はPPPの天下だったんだ。取り戻すぜウェーイ!」 「言っとくけど半グレのG/TもLavaGradenも怖かねえから!」 「第二地区のワルは大体みんなPPPの配下だぜ? 最強マフィアのドン後路須ファミリーがいなくなった今第二区の覇権はPPPよ! なにがLOKIだ! ぽっと出の新参ものがちょーしこいてんじゃねえっての」 続く。
Jun 27, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド16話 「どうしました?」 兎川伊奈(なゆか)のサキュバスハーフの目を見て呆けている黒防と大澤垓に向かって省羅(クリムゾン)は声をかける。 「あ、いや……なんでもありやせんよ~(なんであんな小娘から目が離せない? 自分は女よりも金が大事なんだ。カミさんの話も子供の話もでまかせでとっくの昔に別れてる)」 「ふん……あの女、こんな店では無く堂々とした表舞台に出すべきだと俺は思うがね」 垓はネクタイの位置を直しながら言った。 なゆかは見様見真似でポポリンのデータから得た情報でポールに登りポールダンスを披露する。筋力は元々平均女性よりもありそれに加えポポリンのサポートがある為難なくこなせることができた。 「見事な者ですなぁ~」「下劣なものだと思っていたがそうでもないらしい」 すっかり兎川伊奈(なゆか)のダンスに魅了されている二人。 「あの……お気に召されたのなら専用サイト配信を見れますよ? 残念ながら警察関係者の方は店でご覧になる事はできませんが」 「それはどうしてだね?」と黒防。 「ここはあくまで楽しんでいただく場。警察の捜査目的の為に使われるのは避けたいと考えています。どうしてもとおっしゃるのであれば上に報告させてもらいます」 「そうですか……(禁止しようがなんだろうがいくらでも潜入手段はある……この店はあやしいと刑事の勘が言っている徹底的に調べてやりましょう~)」 「調子に乗るんじゃないぞ風俗店が! 無理やり全員しょっ引いてもいいんだぞ?」 大澤垓は拳銃を抜いて省羅(クリムゾン)を睨みつけた。 「大澤! こんなところで銃を出すんじゃあない!」 「撃たないですよ。俺は女が偉そうにしてるのが一番嫌いなんでつい……」 「もういい、帰るぞ大澤。今日の所はこの位にしよう」 「……はい」 去っていく黒防と大澤。 監視カメラで二人が出て行くのを確認したクリムゾンは変身を解除する。 「クリムゾン様……」省羅が駆け寄る。 「大丈夫よ。LavaGardenは必ず守ります、従業員も全て。警察相手でもわたくしは怯みませんわ」 「今日の営業はどうしましょう?」 「流石に今日は止めておきましょう。でも安心して、LavaGardenはここだけじゃあありませんの。なにかあった時の為に支店も準備していますのよ」 「え!」 「より安全な第1区です。大型商業施設があるでしょう? その一角にあります、カフェとリアルタイムで本店の舞台が見れる部屋を用意してます。省羅、明日から今のカフェの従業員は全て支店に移りなさい。明日は最終準備と研修、明後日にオープンします」 「は、はい!」 「あなたが支店の店長となります、頼みましたよ」 「はい!」 「今日は色々ありましたね、ゆっくりしなさい。今日のシフトの従業員には他の者に連絡をさせます」 「はい」 省羅は一礼するとバックヤードの奥にある丹羽家の住み込み区画に向かった。 「ラビット」 クリムゾンは舞台で小声で歌っているなゆかに声をかける。 「あ、はい」 「この後は自由になさい。このまま残って歌劇団のメンバーと交流を深めるも家に帰って休むもあなたに任せます。明日の院瀬見オープンカンパニーの準備は忘れないで」 「わかりました」 なゆかはクリムゾンがフロアーから去るのを見届ける。 「どうしよっかな……」 『なゆか、大澤垓が来てたけど大丈夫だった? 心拍数上がってたよ』 「かなり動揺したよ、けど今は私は【ラビット】なんだって思い込むと楽になって何とかやり過ごせた。ラビットの名前もらってよかった~」 『チワワじゃなかったね』 「チワワって予想してたんだけどな~でもウサギも大好きだし。昔話とかでさぁよく出てくるじゃん? いたずら好きとか賢いとか情に厚いとか。クリムゾンさんにとっての私のイメージってそういう事なのかな?」 『どうだろう。ウサギが似合うとか直感の可能性もあるよ? 今までがそうだったから』 「ウサギが似合う女か……サキュバスハーフとしてはウサギのイメージは合いそうかも」 『なゆか、かなりサキュバスハーフとしての自信持ってきてるね。さっきのダンスの時も力を解放してた』 「まぁね。ラビットの姿を目に焼きつけておけば他の歌劇団のメンバーにあの嫌な感じの警察官二人が付きまとわないようにできるかなって。黒防さんはともかく垓が常連になるのは不安だけど【なゆか】じゃなくて【ラビット】の方を向いてくれるならいいかな……」 『なゆかよりもラビットの方を追うようになったらどうするつもり?』 「ある日突然姿を消して永遠に幻影を追わせるとか? その内他に良い人見つかって一緒になるんじゃない?」 『もうすっかりなゆかは大澤垓に情はないみたい』 「元々幼馴染みってだけで特別な感情はなかったよ。今はもう【元・幼馴染みの怖い警察官】だよ、これからの人生に関わって欲しくないって思ってる」 『完全なる拒絶だね』 「うん。勝手に部屋に入って弄り回してカメラまで設置したのは許せないもの」 『またひとつなゆかの事解った。やっぱりチワワよりウサギが合ってるね』 「そうなの?」 『チワワは溌剌、警戒心が強い、敏捷、攻撃的、勇敢、献身的なんだけど、なゆかには当てはまらないかもね』 「えーでもさぁウサギって気が強く独立心が高く好奇心旺盛で臆病で体が脆くて寂しがりでしょ?」 『クリムゾン様から見てそうなのかも。後はさっきも言ったけど直感だね』 「じゃあさ、いつもクリムゾンさんの横に居るハートさんはクリムゾンさんのイメージはなんなの?」 『鯱(しゃち)だよ』 「シャチ……へぇ~……そうなんだ」 『納得してるね』 「あの可愛らしい見た目と何とも言えない怖い雰囲気がピッタリだなって」 なゆかは控室に戻る、省羅が携帯端末を操作していた。 「お疲れ様です」「お疲れ様、大変でしたね」 なゆかは省羅の隣に腰を下ろした。 「クリムゾン様の機転で何とか警察は追い払えましたが……例のブラックヴァリーの方はどうなるのでしょう? 他の従業員が心配です」 省羅は小さくため息をついて言った。 「あ、それなんですけど……もう少しで解決できるかもしれません」 その頃警察と消防が図書館でテンゾウの焼死体を発見していた。狐理子とシャパリュは図書館の見える位置で隠れて待機しSliMEで情報を送っていた。 「SliME所有者のネットワークですか」「はい」 テンゾウが率いていたブラックヴァリーの一つの組織、天蟲党の残党はすでに何名かLOKIで見つけ出しアジトをしらみつぶしにしている最中だという。狐理子はテンゾウを討った後は秘伝書を取り戻さなくてはならないとなゆかにSliMEネットで伝えた。 「ホストクラブ側との衝突はどうなるのでしょう?」 不安な表情を浮かべる省羅。 「それは……えっと院瀬見の生城山もみじって人が裏で糸を引いていたみたいです。なので……オープンカンパニーで私が院瀬見に潜入して接触できないかとクリムゾンさんは考えておられますね」 「そんな大役……大丈夫なのですか?」 「その……私の力を試されるんだと思います。本気でクリムゾンさんが今すぐ生城山もみじをどうにかしたいのなら他の人を選ぶと思います。100%ナチュラルで特殊能力持ちの私なら院瀬見の中でも上手く立ち回れると判断されたのでしょう。兎川伊奈さんの名前を使う意味もありそうでしたし」 院瀬見からしてみれば会長の秋馬光鴨の息子・秋馬鷹光の暴走で命を落とした院瀬見の者は全て行方不明扱いにしている為、存在を掘り返されてましてや生きている状態で現れても何も無かった事にするしかない現状であった。実際、鷹光の犠牲者の一人である江藤紅子に成りすましているクリムゾンには直接接触してこない。幾度か再び闇に葬ろうと刺客を放ったがその度消滅(ハートによる地下深くの永久監禁)しそれ以来安易に送り込んでくることは無くなっていた。 なゆかは省羅と別れ今日は狐理子の事を考えビジネスホテルに泊まる事にする。部屋に着くとベッドに大の字で寝転がりポポリンからSliMEネットに繋げる。 クリムゾン(秋馬昊菜)は変幻自在のSliMEと錬金術で復活させた生体ゴーレムの集団LOKI。秋馬家と契約しているプロフェッショナル執事メイド組織の丹羽家。天才集団神名一族の一人、SliMEの生みの親の神名燐火。院瀬見派閥で唯一の良心とされる若手カリスマの鈴村功太朗とコンプレックス持ちであるが頭脳明晰で器用な弟の影彦を従えている。 対する秋馬光鴨(院瀬見グループ会長)は院瀬見グループの頂点に立つ者であり肉体変化の錬金術を使う。あらゆる手を使い長年オータムホースシティを支配していたが突如現れたグレイキャリバー、龍の兄妹、LOKIに苦汁を飲まされ続けオータムホースシティに所有している戦力の7割をそれらの闘いで失っている。 なゆかはこれらの情報をSliMEネットから収集しラビット(兎川伊奈)としてオープンカンパニーに備える。 *** ――翌日。 捜査会議を終えた刑事たちが交流している。 「碇課長、ちょっとお話が」 大澤垓が碇艇輔(いかりていすけ)にそっと近づきポケットから小袋を出して言った。 「なんだ大澤? それはなんだ?」 「盗聴器です。俺のジャケットに張り付いていました」 「やられたな、心当たりは?」 「LavaGardenの事件の捜査に向かった昨日に仕掛けられたのかと。LavaGardenの人間が怪しいですね」 「さて、それはどうかな? 警察相手にそんなバレたら困る事を安易にやるかね? やり手の経営者なんだろうLavaGardenのオーナーは。従業員にもそんなヘマをする奴を置かないだろう……と思うがな」 「しかしLavaGardenの可能性も捨てきれません」 「そうだな。それでいい、決めつけて視野を狭くするのはいかん。盗聴器は鑑識に回して出どころを探らせよう、昨日はクロと組んで捜査してたんだったな」 「はい、黒防(こくぼう)さんでした」 「今日は別の奴と組ませる」 「なぜですか?」 「まぁ~捜査の為だとだけ言っておくか。とにかくお前はLavaGarden襲撃事件を引き続き捜査しろ。クロには別件を頼む事にする」 「了解です」 「百合崎」 碇課長に呼ばれ立ち上がった緑髪の女性刑事。改造度50%のサイバネである。 「大澤と一緒に捜査しろ」 「了解であります!」 大澤垓は百合崎を見る。 「百合崎和香(ゆりざきわか)捜査官ですか……元・自衛官で特殊部隊の所属だったと噂される……」 「ああ、百合崎はヒグマでも6秒でバラバラに解体出来るほどの超武闘派のサイバネ捜査官だ。LavaGardenがらみの捜査は危険だからな、百合崎をつけておく」 碇課長は茶を煤って言った。 「よろしくであります大澤捜査官!」 瞬間移動めいた全身で大澤垓の目の前に移動して握手を求める百合崎。 「あ、ああ。よろしく」 大澤垓は百合崎に手を握られた瞬間大型の工業機械をイメージした。目の前に居るのは無害そうな顔をしている殺戮マシーンかもしれないと不安を覚えた。 碇課長はここ数日、大澤垓の不審な動きを知っており百合崎を付ける事にした。不良刑事の黒防には同じく不良刑事(第六地区と繋がっている)の粕谷白基(かすやしろき)を付けることにした。 「シロ、クロと一緒に捜査しろ。例の六区暴動の件だ」 「うっす……クロさんと俺、気が合いますし六区なら任せてくださいよー」 リーゼントの髪型を櫛で整えながら答える粕谷、出て行った黒坊を追いかける。 「碇さん」 コーヒーを持って碇課長の横に現れたのは特殊犯罪対策課・課長の比留山陶子。 「どうした比留山」 「柔軟なチーム編成と指示、流石です」 「俺はもう体がガタガタだからな、こうやって頭で捜査するしかねえのさ。で、なんの用だ比留山」 「DMCの残党を昨日ウチの捜査官が六区で発見しました」 「ここでコソコソ話するってぇ事は……ヤベェ大物か」 「ええ、大臣の息子です」 「……怪人化してたか?」 「はい。ウチの兜金と才賀が確保しました」 「……行方不明のままの方が良かったな。確保しちまった以上対処しなければならん。上の判断は?」 「碇さんに取り調べをお願いしたいと。ウチの兜金と才賀で無理やり口を割らせる事も出来ると説明したのですが……」 「ちっ……面倒なのを押し付けやがる。解った、後で行くと言っておいてくれ」 「はい」 *** 一晩中狐理子はシャパリュと共にブラックヴァリーのアジトを順に巡っていた。 「秘伝書は何処に……」 「残りのザコ共は歯ごたえナイ……」 抵抗する者は容赦せずに降伏するものは拘束して情報を吐かせていく。テンゾウの天蟲党はほぼテンゾウのワンマンチームで配下の者は殆ど何も知らされていなかった。 「残りは……院瀬見社員のマンション……一般人を巻き込むと面倒な事に」 「催眠術をかけて一般人に保管させている可能性が高まったナ」 「院瀬見のマンション……厳重なセキュリティを超えても部屋の中を探さなくてはならないし催眠術をかけられているのなら本当に秘伝書と知らないでいるのかも」 「問題はソレダナ。侵入するのは難しくない、隠し場所を特定するのが困難」 「部屋にないかもしれなし院瀬見ビルの中に保管されてたら……」 「だったらもうSliMEに社員を喰わせてなりかわればイイ。バレてSliMEを捕獲されるのをコウナは絶対に避けたいだろうガナ」 以前にクリムゾンとハートが院瀬見ビルに潜入し破壊活動を行った。それ以来院瀬見のセキュリティは一層厳しいものになっている。 『狐理子、SliMEが取り付いている警官を利用するのもありだよ』とコンキチが言った。 「呼んだところで通報記録残るから面倒な事になるんじゃない?」 『違うよ、狐理子がその警官にフォックス忍法で成りすませばいいんだよ。本物の警官側とはSliMEネットでアリバイ工作できるし』 「バレないの?」 『バレたところでSliMEネットは見る事は不可能だしSliMEは離脱すれば追跡されない』 「う~ん……それはちょっとリスク大きいかな。クリムゾン様の手駒の警官が減っちゃうからな~」 『じゃあプランB、ブラックヴァリーになりすまして正面から堂々と制圧。狐理子は憎い敵になりきらないといけないけどね』 つづく
Jun 24, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド15話 「武装ヘリはオートパイロット……武器はマニュアルですか。ではミサイルをPPPに撃ち込んで見ましょう」 クリムゾンは片手でカイザー・プリンスの全身の水分を抜きながら片手でパネルを操作して2発のミサイルを発射、前方500mほど先にある城の形をしたホストクラブに命中した。 「ごほごほ……なにしやがる……俺の城が……」 急激に水分を抜かれ皺だらけのカイザー・プリンス。 「さて、質問に答えなさい」 「言ったら助けてくれるんだろうな?」 「嘘でなければ」 「ここで俺が嘘を言った場合どうなる? 真偽を確かめるまでヘリでお散歩か?」 「面倒な男ですわね……このまま院瀬見ビルに突撃して思う存分暴れましょうか。出資者が巻き込まれて死ねばそれで良し違ってもそれはそれですわね」 クリムゾンはカイザー・プリンスを後部座席に投げ込む。 「何を考えている! イカれてんのか?」 「馬鹿な女を今まで騙してきて調子に乗ってきたようですけど、わたくしには通じませんよ。わたくしはやりたいことをやりたいようにやるだけ」 「狂人め……」 「見抜けなかったあなたが愚かでしたね。……そうですわ、良い事を思いつきました! ミサイルにあなたを装着して院瀬見ビルにブチ込みましょう。最高に派手な死に様ですわよ? きっとみんなしばらくは話題にしてくれるでしょう。ホスト界の伝説になれますわ!」 「はぁ!? ふざけんな! やめろ!」 「叫んで喚いてもどうにもできないですわよ。自力で逃げてみなさい」 クリムゾンはカイザー・プリンスの高級スーツに触れると錬金術で漁網に変えた。漁網に変える際に高熱を発した為カイザー・プリンスの全身には網の跡が付いた。 「ぐぎゃああああああああっ!」 「さぁ、伝説になりましょう?」 「やめろー! ババアの事を教える! 教えるから!」 「ではどうぞ」 「【生城山(ふきの)もみじ】だ!」 「ありがとうございます。でもそれはそれ、これはこれですの。ナンバーワンホストミサイル突撃とか面白い事思いついてしまったのでやります」 「なんでだよ! 約束がちげえだろうが!」 「約束?」 「嘘じゃなきゃ助けるっていったよな!?」 「それが嘘かどうか確かめて見ては? 好きでしょう? こう言う言葉遊び」 「なに……」 「ナンバーワンホストなんでしょう? この場でわたくしを楽しませて気分を変えてみなさい。そうすればミサイル発射止めるかもしれませんわよ?」 クリムゾンは漁網のカイザー・プリンスを抱えて操縦席のハッチを開けて翼に装着されているミサイルに向かって歩き出す。 カイザー・プリンスは街の噂、LavaGardenの事、クリムゾンの見た目、流行りのグルメなど思いつく限りの話題を次々と言い放つ。 「はいはい、それで?」 「……だから今度一緒に……」 クリムゾンは相槌を打ちながらミサイルにカイザー・プリンスを取り付ける。 「おい、おい! やめろよ!」 「辞世の句を読みなさい」 「ジセーノク? 何だそれは!」 「はぁ……ではさよならです」 「待て待て待て! 教えてくれよ! 覚えるから! それになんでもやる絶対俺はアンタの役に立つ! ナンバーワンホストと組めば最強だろう?」 「……残念ですがそういう者はもう確保する予定ですの。あなたよりずっと優秀でデキる者です。あ、そうそう。LavaGardenのにミサイルを撃ち込んだ時点であなたは詰んでますので」 操縦席に戻るクリムゾン。ミサイルの照準を院瀬見ビルに向ける。 「このヘリも追撃で突っ込ませましょう。オートパイロットで進路指定。衝突回避システムは……来夢、解除お願いしますわ」 『はい、ご主人様』クリムゾンに取り付いているSliMEの来夢が答えた。 「発射」 カイザー・プリンスを装着したミサイルが放たれる。 「地獄に落ちろオオオオオオオオオオオおおオオオオオオオオオオオッ!」 カイザー・プリンスの声が響き渡った。ミサイルは院瀬見ビルの直前でフォースフィールドで阻まれ爆発四散した。 「流石にもう防衛システムは万全ですのね。確認できましたわ。ではこの武装ヘリの突撃を止められるほどの強度があるか確かめますわ……速度はゆっくりと」 フォースフィールドは速度の出ている物に反応し強固なエネルギーフィールドとなる。通常は鳥も無害で通り抜ける事ができる。 クリムゾンはオートパイロットで院瀬見ビルを指定し飛び降りる。外套を翼のように広げ減速、羽毛のようにLavaGardenの屋上に着地した。 武装ヘリは院瀬見ビルに到達することなく警備ドローンの一斉射撃で撃墜され公園に墜落した。 「警備ドローン……わたくしも大量に欲しいですわね。警察に警戒されますが……」 「ご主人様」 クリムゾンの横の床からぬるりと現れたハート。 「七曲キョウヤを確保しました」 生体保護パックに入れた七曲キョウヤの頭部を見せるハート。 「ご苦労様。燐火に渡しましょう、ハートお願いしますわ」 「承知致しました」 床に沈んで消えるハート。 「近いうちにお兄様と会える気がしますわ」 院瀬見ビルに黄金の杖を向けて呟くクリムゾン。 *** なゆかがLavaGardenに到着すると、消防と警察が店を取り囲んでいた。「あ、ヤバい!」パトカーの傍に大澤垓を見つけ咄嗟に身を隠した。 「どうしようポポリン、お店に入れないよ」 『裏口の方にも消防がいるね。屋上から入ろう、ポポからクリムゾン様に連絡しておく』 なゆかはポポリンを全身に纏い工事業者風に変装、LavaGradenの路地を挟んで隣のビルの壁を登っていく。 「なんか映画のレディ・アラクニドみたいだね」 『蜘蛛の力を身に着けたヒーローの映画だね。確かに今やってる事それっぽい』 隣のビルからLavaGardenの屋上に飛び移るなゆか。屋上の扉を開けるとクリムゾンが待っていた。 「来ましたわね。付いてきて、省羅とあなたに話がありますの」 深紅のドレスのクリムゾン、前にあった時よりも少し怖い気がしたなゆか。 「(ねぇポポリン、クリムゾンさん何かあったの?)」 『SliMEネットで聞いた所、襲撃者に対処されたんだって。暴れた後だから少し興奮されてるのかも』 「(そうなの? そんな武闘派なんだ……)」 『そうだよ』 ポポリンとなゆかのやり取りは全てクリムゾンのSliMEの来夢が把握している。そしてテンゾウとの戦いのデータを今まさにクリムゾンは来夢を通じて見ている。 二人はオフィス移動する。部屋の壁際には丹羽省羅が既に待機していた。 「二人ともかけて、警察が来た時の対応を話合いましょ」 クリムゾンが言った。 なゆかは他の従業員に変装しIDもLOKIが用意した何名かの行方不明者のを使用。省羅はいつも通り。クリムゾンはいつも通り江藤紅子のIDを使うと伝える。 「私は兎川伊奈(とがわいな)ですね」となゆか。 「ええ、なので今この瞬間からなゆかはLavaGardenでの呼び方は【ラビット】とします」 「はい!」 クリムゾンは飛び跳ねるなゆかの姿をデータで見てイメージの合う名前のIDを探しラビットと名付けた。彼女の中ではもうなゆかはLavaGardenの歌劇団入りを決めている。 「(ラビット! 私は今日からLavaGardenのラビットだ!)」 テンションを上げるなゆか。体の内側から力が沸き上がるのを感じる。サキュバスハーフの力が増しより一層馴染んでいくのを感じる。 「ラビット、明日から舞台のレッスンに参加しなさい。省羅、ラビットのシフト調整お願いしますわ」 「はい!」「はい」 「それからラビット、明日の院瀬見のオープンカンパニーに参加してもらいますわ。兎川伊奈の名前で登録済みです。大学側に兎川伊奈のデータを送っているので心配ありません」 「そうなんですか、クリムゾン様凄い……」 「少し前まで院瀬見の傀儡の学長が好き放題していましたが今はわたくしの仲間が学長ですので色々融通がきくのです」 クリムゾンのSliMEの来夢に連絡が入る。 「……警察が来たようですね。では省羅はカフェで対応を、ラビットは舞台で練習している様子を見せながら警察としっかり目を合わせるのですよ」 「はい」「はい!」 カフェのフロアーに入ってきたのは眠そうな中年警官と大澤垓。 「ど~も~黒防といいます~隣の若いのは大澤です~」 「丹羽省羅です」 営業スマイルで対応する省羅。 「なるほど~これは娘も一度行ってみたいっていうわけだ。只のカフェじゃない、高級感というか別世界感が凄い。カミさんと初めてベガスに旅行に行った時を思い出しますね」 頭をかきながら周囲を見渡す黒防刑事。よれて覇気のない中年男性と思いきや鋭い目つきを一瞬見せた。 「外の爆破事件の事でちょいとだけ聞きたいことがありましてね」 「はい」 「何か心当たりはありませんかね? ついこの前もここの従業員が狙われたりしましたよね?」 「心当たりと言うほどではありませんが……会員証を不正に使用したりスタッフに付きまとう人がいたりはしました」 「それはいつ頃の話ですか? その後は?」 「少しお待ちを……メモしているので……」 端末を操作する省羅。監視カメラで撮った写真を黒防刑事に見せる。 「派手な格好の男に……もう一つは店の外で……コイツは街で有名な探偵ですなぁ」 「探偵さんだとは聞いていますが女性スタッフに付きまとうのが怖くて……」 「良い噂聞きませんからねぇこの七曲キョウヤって男は。ただ、この男は性欲で近づくような人物じゃないんですよ。なにかネタを掴んだか何かを追っている最中でスタッフにからんでたんだとあたしゃ思いますがねぇ~」 「ウチは健全なお店ですしそんな危ない人が興味を持つようなものは無いと思いますが」 「ええ、そうでしょうとも。【普通の従業員】はそうでしょうなぁ。しかしこのお店、裏社会ではかなり注目されてるんです。この街の裏の連中から恐れられているLOKIと関係あるんじゃないかってね。名前くらい知ってるでしょ?」 「はい、LOKIの名前は噂では」 「このお店にLOKIのメンバーが出入りしている可能性はあると思いますがねぇ~」 「そうなんですか?」 「あなたが知っている従業員も実はLOKIだったなんて事もあり得るわけですよ。恐縮ですが従業員の履歴書を確認させてもらう事はできますかね~?」 「それは私の一存では決めれません。少々お待ちください」 スタッフルームに向かう省羅。黒防刑事は後ろを向いた省羅の背中に小さな盗聴器を指ではじいて着けた。 「黒防さん、いいんですか?」大澤垓が呟いた。 「バレなきゃ何やってもいいんだよ~この街でキレイごと言ってたら警察なんざ何の役にも立たないからね~」 「バレたら?」 「開き直って知らんふりすればいい。他の刑事に知られようがどうでもいい~自分なんて可愛いもんさとんでもねぇ悪徳汚職警官なんてこの街にはいくらでもいる」 「そうですか……(黒防さんは駄目だな……)」 スタッフルームに入った省羅。そこには江藤紅子に変身したクリムゾンがソファに座っている。ゆっくりと立ち上がり、口に指を当て声を出さないように指示すると省羅の背中から盗聴器を摘まみ取った。そして自分の背中に装着しクリムゾンは省羅に変身して携帯端末を持って黒防と大澤の元に歩き出す。残された省羅は胸に手を当て大きく息を吐いた。 「お待たせしました」 省羅(クリムゾン)は来夢で包んだ携帯端末を黒防刑事に渡した。 「すみませんね~ちょっと見させてもらいますよ~」 黒防の右目は録画機能付きのサイバネアイでありこれは違法品で軍使用の横流し物をサイバネ闇医者に施術させたものである。 「ええっと……(このリストは後々役に立つねぇ)」 携帯端末から黒防のスーツに移り頭部に移動する来夢の分身。 「ん? ……おかしいな……」 一瞬右目の見えている景色が乱れた。 「黒防さんどうしました?」大澤垓が顔を覗き込む。 「何でもねぇちょっと右目の調子が悪かっただけだ」 来夢の分身はサイバネアイに取りつきデータを全て削除。録画機能を停止させる。エラー表示をさせないように関係の無いデータをインストールした。 「よろしいでしょうか?」 省羅(クリムゾン)が言った。 「あ、ああ確認した。協力感謝しますよ~」 「次に行きましょう黒防さん」 「ではこちらに」 背中に取り付いた盗聴器を大澤垓の背中にさりげなく付け替える省羅(クリムゾン)2階の舞台があるフロアーに案内する。 「ここが特別会員しかは入れないフロアーですか~いや~カミさんと見たベガスのバーレスクを思い出します~」 「今舞台で練習しているのが兎川伊奈です。最近雇った者です」 「白いドレスに兎を思わせた仮面……なかなか可憐な動きをする子ですなぁ~やっぱりダンスとかの経験者を雇うので?」 黒防と大澤垓は舞台で踊っている兎川伊奈(なゆか)を凝視している。舞台の上のなゆかは大澤垓の姿に驚いたが平静を装いサキュバスハーフの力で桜色に輝く目で刑事の二人を見つめ返した。 「ほう……ポールダンスまで。いやはや、ポールダンスなんて脱ぐほうのしかあたしゃ見たことありませんわ。あの子ももしかして?」 黒防は舞台に設置されているポールと兎川伊奈を舐め回すように見ながら言った。 「まさか。このお店は健全をモットーにしておりますのでそのような行為は致しません。衣装変え程度の事しかしませんよ」 一瞬省羅(クリムゾン)の目に殺意が宿るもすぐに収めた。 「ああ……いい……」 大澤垓は兎川伊奈を見て中高時代のなゆかを思い出し、現在のなゆかの姿を当てはめてじっとダンスの様子を眺めている。目の前にいるのがなゆかだと気付かないまま。 黒防は右目の偽りのデータを確認する。院瀬見のインターンで行方不明になった兎川伊奈と判明し首をかしげる。 「(他の従業員のリストも……どいつもこいつも院瀬見がらみで姿を消した者ばかりだな……どうなっている? LavaGardenは院瀬見と関係あるのか? LOKIではないのか?)」 続く
Jun 21, 2026
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ラビット・アンダーグラウンド14話 「(火災報知器を鳴らした、この建物のシステムは生きている……次は)」 なゆかは図書館のフリーペーパー手に取り指先にプラズマを宿して火をつける。テンゾウの突進を回避して天井の防火センサーに燃えたフリーペーパーを近づけた。 「うおっ」 フロアのスプリンクラーが作動し一気に水が噴き出す。なゆかは既に玄関に移動。 「まず1発!」 スプリンクラーの水が降り注ぐフロアーにプラズマ弾を撃ち込む。水に触れたプラズマ弾は次々と反応して水蒸気を発生させ周囲を白く包んでいく。 「ぬう?」 印を結び警戒するテンゾウ。そこになゆかは水蒸気の外からプラズマ弾を撃ち込みマイクロ放電を起こさせる。 「クソ! だがこの程度でテンゾウのスペシャルな戦闘スーツは壊れん!」 爆進で前に飛び出すテンゾウ、水蒸気から飛び出た瞬間目の前にはプラズマ弾が。 「げええええええええっ!」 プラズマ弾はテンゾウの左目に命中、もんどりうって床を転げまわる。 なゆかは殺さないために出力を抑えたプラズマ弾を放っていた。テンゾウは超人的な反射神経で回避を試みるも空中であった為僅かに頭部を動かす程度しかできなかった。 「やってくれたな……やってくれたな女ぁああああああああっ!」 なゆかは既に図書館を出ていた。ポポリンのスーツを変形させて一般人に変装し群集に紛れ込んだ。 「どこだ……どこだ女……クソ、部下共を呼ぶか。フル装備を持ってこさせるか……」 「テンゾウ!」 声がした。左目を抑えながら振り返ると狐面で戦闘スーツを身に着けた狐理子が立っていた。 「暮葉一族の女!」 「一族の敵ここで取らせてもらう!(なゆかのおかげで思わぬチャンスが来た!)」 なゆかはSliMEネットを使い狐理子を呼んでいた。そしてシャパリュも図書館の外で人払いの結界を張り待機している。 「邪魔者は入らんぞテンゾウ! 警察が来るまでの4分、この場はお前と私だけだ!」 「しゃらくせえ! フル装備でなくてもお前程度にこのテンゾウは討てんぞ!」 スプリンクラーの雨が止んだ。それを合図に狐理子がブースターで飛び出す。 「甘いわ!」 テンゾウは狐理子の動きを見切ってカウンターの突きを入れた……かに思えた。 「何……!?」 狐理子の1身離れた箇所を突いてしまっていた。なゆかの力、プラズママイクロ放電、片目、右膝のダメージ、全てが影響しテンゾウの感覚を完全に狂わせている。 「イイイイイヤアアアアッ!」「グハアアアアアアッ!」 狐理子の高速ブースター加速回し蹴りがテンゾウの頭部に命中、装甲を凹ませる。 「馬鹿な……俺はテンゾウ! 天蟲党のテンゾウ! ブラックヴァリーの次期首領だ!」 「イイイイヤアアアアアアアアアッ!」 さらに加速したソバットがテンゾウの顎に命中、顎と歯を砕いた。 「ぐがぁ……(撤退しなければ……このままでは……)」 「慢心し単独行動をしたのが貴様の運の尽きだ!」 狐理子は吹き飛んで本棚に激突したテンゾウを睨みつける。テンゾウは寿命と引き換えに爆発的な身体能力を得る丸薬を取り出して口に放り込む。だが…… 「ぐううううおおおおお……」 強烈な胃の痛みで吐き出した。テンゾウの丸薬は謀反を企てる部下によって毒とすり替えられていた。 「馬鹿な……何故だ……」 「因果応報! 全てが今、貴様に返ってきているのだ!」 「このテンゾウ……ただでは終わらんぞ」 戦闘スーツの自動撃退システムを起動。これは装着者が意識を失っても命を落としたとしてもバッテリーの続く限り殺戮を続ける世界中で禁止されたバーサーカーシステム。停止させるにはスーツのAIを破壊するしかない。 「……これは本当に最後の手だ。サイバネムシ忍法神経節殺戮(バーサーカーモード)!」 万全な状態のテンゾウを思わせる動きで飛び上がって空中回転。サイバネアームのブレードを構える。 「来る」 ジグザグに動きながら接近するテンゾウ、腱が切れ筋肉が損傷し体の限界を超えた動きで狐理子に迫る。対する狐理子は冷静であった。 「フォックス忍法……蜃気楼火山閃」 バック転でテンゾウを避ける狐理子、飛び上がる前に設置した床のブースターをテンゾウの位置に合わせて作動。さりげない動作で床に設置しギリギリのタイミングで避けて設置ブースターを作動させるこの技は単に地雷や手榴弾で応用が利くだけでなく、状況に応じて虚実を織り交ぜ翻弄にも使えるものであった。 「!?」 テンゾウの腹部に突き刺さる短刀。火山閃の勢いで射出されたそれは暮葉一族の短刀。 「ごふ……止まらんぞ……この程度では……」 短刀を抜いて投げ捨てるテンゾウ。僅かに装甲を貫いただけでテンゾウの肉体には殆ど届いて無かった。それでも狐理子には十分だった。 テンゾウは突如後方に吹き飛んで壁に貼り付けになる。 「何だ!?」 火山閃で浮き上がった時、狐理子は無数のブースターを投げつけテンゾウの体に張り付けていた。それをこのタイミングで発動させた。 「フォックス忍法噴射操体!」 「ぐ、この……」 自動迎撃のバーサーカーモードの為張り付いたブースターを取る動作に移れないテンゾウ、AIは狐理子の迎撃を優先してしまっている。掌にブースターを張り付けた狐理子が肉迫。 「終わりだテンゾウ!」 腹部の穴の空いた部分にブースターを押し付けて最大出力。狐理子は全力で踏ん張り大理石の床にひびが入る。 「がああああああああああああっ!」 ブースターの火が戦闘スーツの内部に入り込みテンゾウの体と内部機構を焼いていく。やがて火は全身を包み込み炎の塊となった。 「フォックス忍法・轟熱神掌!」 全てのブースターのエネルギーをテンゾウの腹部に押し付けているブースターに集中。轟熱神掌はフォックス忍法の最大火力技である。 「おのれええええええええええええっ!」 テンゾウの戦闘スーツのバッテリーが破裂、狐理子は火花を見てすぐに離れた。次の瞬間テンゾウは爆発四散した。 「父さん……みんな……やったよ……」 *** なゆかはLavaGerdenからのメッセージを受け取り向かっていた。 「狐理子ちゃんあの後大丈夫だったかな? 強そうな緑のモフモフさん居たし大丈夫だとは思うけど」 『シャパリュだね。彼女はとても強いから大丈夫。そろそろ決着つきそうだよ狐理子のコンキチから通信あった』 「ならよかった……図書館滅茶苦茶になったけどどうしよう」 『警察はブラックヴァリー追ってるし全部そいつらのせいになる可能性高いからなゆかは疑われないと思うよ』 「そうじゃなくて……貴重な本も駄目になったかもって」 『あの場所にある本は全て他の図書館にもあるものだから気にしないでいいよ』 「……それで、クリムゾンさんからの呼び出しってなんだろう?」 『打ち合わせっぽいよ。丹羽省羅と三人でするんだって』 「ふーん」 *** 狐理子とテンゾウの決着から数十分後。井之頭と芹沢の二人の刑事は図書館の爆破の通報を受け現場に向かっていた。 「流石に警察を舐めすぎじゃねえか?」「今度は院瀬見がらみかねぇ」 現場に到着すると野次馬をかきわけて図書館の中に入り消火済みのフロアーを進む。 「破壊の規模の割には燃えた場所はここだけか。抗争でもあったか?」 井之頭が最初に現場に駆けつけた警官に声をかける。 「身元不明の焼死体が一体です」 「発見者は?」 「火災報知器の作動を知り駆けつけた消防職員が二人ですね。不思議な事に事件があった時に図書館の利用者は丁度いなかったんです」 「監視カメラの映像は?」 「怪しい男が入ってきた直後に壊されて映っていません」 「そいつが黒焦げのホトケに繋がってるかもしれんな。施設内に潜んでいた利用者にホシがいる可能性も……」 芹沢刑事が言った。 「男が入る前の監視カメラの映像では怪しい者は見つかりませんでしたが」 「いや、全て確認する必要があるな。マツさんとツルに仕事持っていくとしようか」 芹沢刑事は井之頭刑事を見る。 「課長には言っといてくれ監視カメラのデータは借りていくぞ」 「あ、はい」 「LavaGerdenへの聞き込みは新人の大澤に行かせるか」「それでいいでしょ」 *** 「……」 クリムゾンはLavaGradenの監視カメラの映像を見て眉をひそめていた。LavaGerdenの前に大勢のホストが押し寄せ騒いでいる。 「でてこいやオラー!」「LavaGerdenなんざ怖くねえぞ!」「びびってんのかー?」 100人のホストを見つめるクリムゾン。 「ご主人様、全員始末しますか?」と横に立つハートが言った。 「それは今すぐじゃなくていいですわ。気になるのは……なぜこんな真似ができるのかです。何か後ろ盾があっても無駄なのは知ってるでしょうに」 「どうしますか?」 「邪魔なので……大型トラックを突っ込ませて排除しましょう。トニトルスに任せます、後始末はハートお願いしますね」 「承知致しました」 外で騒いでいるのは院瀬見が用意した何処にも行き場の無い者達である。ホストの恰好をさせて騒いでいるのは七曲キョウヤの指示であった。 「おーおー派手にやってる……さてさてLavaGerdenはどう動くかな?」 カメラを構えてビルの一室から見ている七曲キョウヤ。 「高みの見物か、七曲キョウヤ」 背後から声がした。 「トニトルス……さん」 「お前を泳がせていて正解だったな」 「何故ここに……俺っちは完璧に尾行をまいていたはず」 「LOKIを出し抜くなど無理だ。お前のやり口は知っている。さぁあの騒いでいる者共を解散させろ。できなければどうなるか理解しているな?」 「へへへ……この携帯はオンラインで院瀬見と繋がっているんすよ? 今の会話も全てあっちに聞こえてるっすよ?」 「聞こえなかったか? あの者共を解散させろ、次はもう聞き直さない」 「へへへ……分かりましたよ」 携帯を操作する七曲キョウヤ。すると眼下のホストまがい達が次々と爆発。 「おや? おかしいっすね……なんであんな?」 「とぼけるなよ?」 「いやマジですよ」 「……もういい。ハート、七曲キョウヤを連れて行ってくれ」 「何ッ!?」 七曲キョウヤの体が床に沈んでいく。下のフロアにはハートが待ち構えていた。 「やっと会えたなクソ野郎!」鋭い歯を剥き出しにするハート。 「お前の飼い主に会わせろ」 「そいつは無理な相談っすね。俺っちは誰の下にもついてないんでね」 「恐怖心が無いってのは本当のようだな。だが口を割らせる方法はある、お前は実験動物になって貰う」 「そいつは俺っちを捕らえてから言ってもらいたいね」 軍用サイバネの超早撃ちでハートを狙う七曲キョウヤ。弾丸はハートに命中したが豆腐のように通り抜けた。 「ん?」 「私を甘く見ているな」 一瞬で背後に現れたハートはイプシロンアックスで七曲キョウヤの右手首を切断する。 「ぐっ……」 「私も錬金術を使えるのは知っているんだろう?今のは自分のデコイを作っただけだ。クオリティには自信があるんだよ」 「そいつは想像以上っすね……」 右手から火花を散らす七曲キョウヤ。 「ご主人様の指示だからお前は殺さないが自由もなくなる。消耗しきるまで実験され続ける」 「そうなりますかねぇ?」 ビルの外からけたたましいヘリコプターの音が聞こえる。七曲キョウヤの視線の先には武装ヘリが。 「おい、お前が呼んだのか?」 「SOSはしましたが……こんなのが来るとは思ってなかったっすけど?」 武装ヘリからミサイルが発射される。LavaGradenの玄関扉に着弾、火柱が上がる。 「てめぇ……もうここで首を落としていくか」 ハートがイプシロンアックスを構えた瞬間、武装ヘリのミサイルがハート達の居るビルに向かって撃ちこまれた。 「ハッハッハッハ! 俺はカイザー・プリンス! この街の最強王子だ!!」 武装ヘリから声がする。カイザー・プリンスとはオータムホースシティのホストクラブの頂点に君臨する超巨大店PPPのオーナーでありNo.1ホストである。 「院瀬見の色ボケババアには感謝だぜ! これでLavaGradenのクソメス共を皆殺しにして俺が頂点に立つ! 警察に対しても院瀬見の力でもみ消してくれるしなぁ!」 「やってくれましたわね……わたくしを甘く見過ぎですわよ」 武装ヘリのスクリーンに張り付いているのは深紅のドレス姿のクリムゾン。黄金の杖を鞭のように伸ばし、武装ヘリに取り付いていた。左手で防弾スクリーンを飴のように溶かして操縦席に侵入する。 「クリムゾン!? ハァ!? どうなって……」 「錬金術ですわ。さて、院瀬見の色ボケババアとは誰なんですの?」 近づくクリムゾン、カイザー・プリンスはサイバネ筋力強化されたパンチを咄嗟に繰り出す。受け止めるクリムゾン、カイザー・プリンスの拳は一瞬にして黒焦げになった。 「イギャアアアアアア……」 暴れるカイザー・プリンスを黄金の杖を変形させた鞭で拘束する。 「武装ヘリ一機でわたくし達を倒せるとでも? 院瀬見の制圧部隊と渡り合ったLOKIを舐めすぎですわよ」 「ババババババケモノめ!」 「質問に答えなさい。あなたの出資者は誰ですの?」 クリムゾンは指をカイザー・プリンスの眉間に突きつける。 「言ったら殺されるだろうが!」 「そうですの? このままではあなたはドンドン干からびていきますわよ?」 クリムゾンはカイザー・プリンスの眉間に触れる。体は急激にしぼんで皮膚は乾燥し土気色に変わっていく。 「かは……のどが……水……」 続く
Jun 20, 2026
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