2004.05.03
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「どこにおるん?ケータイ持ってる奴探してるけどどこにもおらへんで?なんでや。」
待ち合わせ時刻きっかりにケータイが鳴った。とんぼりからだった。「河原町三条、三条大橋西詰南側」という詳細な場所を指定されていた。京都の地図を焼きつくほど読んでいたオレは、その指定された場所をピンポイントでイメージすることが出来きていた。
三条通りから少し路地に入ったところに座って待っていたが、とんぼりが我々を探す視線は大通りに向けられていた。オレはケータイで話しながら立ち上がりとんぼりに近づいた。なおもとんぼりはオレに気付かず、あらぬ方向を向いている。50センチぐらいの距離になり声をかけると、驚いた表情で「おったおった」といいながらとんぼりはケータイをたたんだ。
「なんや関東の人間は冷たいのう、こっち来たら来たで電話のひとつもいれてくれたらええがな、ほんま冷たいわ」
まるで緊張感の無い口調でとんぼりは言った。だだしこの男が緊張しているところは見たこともないし、想像もつかない。

橋の上、歩道のフェンスに沿ってとんぼりの奥に杖レがいた。
ここで杖レに会うということが、なんとなく不思議な感じだった。浜松や嵐山でのフランスオフや去年の京都、それら主だった宴会に、この男はことごとく欠席している。
杖レとは、彼がたとえば単独でレースに出場した後の東京で会うことのほうが多い。
「広島ではエセ広島人よばれてるしな、大阪帰ってもエセ関西人やねん」


杖レの後ろには、ラガーシャツを着た色白の男がいてちらちらとこちらを気にしていたから、オレはとんぼりや杖レに、紹介を求める目配せを送った。すると男はその気配を悟ったのか、自分から進み出てきて、「54号です」と名を名乗った。
杖レの友人だということは知っていた。掲示板での投稿も読んだことがある。おそらく1度か2度、会話を交わしたこともある。
照れくさそうにしながらオレも、「中村です」と短く名乗ると、あろうことか「ファンです」と言われたから、もっと照れくさくなってしまった。
面と向かってそういうことを言われたのはもしかしたら始めてかもしれなくて、純粋に嬉しい反面、ファンの期待を裏切らないためには、どんな中村不思議を演じたらいいのだろうか、ということを考えたりして、呪いの言葉をかけられたみたいになって、どうしていいかわからなくなった。

とんぼりや杖レが「おー」というような声を上げた。つられてオレも顔を上げると、でかいナリのコビックが、かなりの至近距離に立っていた。ボディーブローのまねをしてきたから、オレもそれに応えた。コビックのわき腹にオレの拳が触れた瞬間、違和感を覚えた。去年よりも、スリムになっているかもしれない。
少し離れて見てみるとやはり少し、縦長になった印象を受ける。公開されている彼のハタチぐらいの金髪写真にはほど遠いが、モンベルのジャケットにナイキのトレイルランニングシューズというスポーティーなファッションもあいまって、だいぶサワヤカくんへのイメージチェンジに成功しているようだ。

駅とは反対方向から、アイボクが現われた。
最近は「ヤングチャーハン」と名乗っているらしいが、オレは彼の顔を見ても、「アイボク」という呼び名以外の名前が全く浮かんでこない。
身長190を超えるこの「無駄にデカイ男」は、オレが知る限りの、オレがいない全ての「オフ会」や「宴会」に顔を出していて、カラコによるレポートや写真などで、よくその所在を目にする。
学生だから時間があり余っているのは理解できるとしても、彼は日本中をかなりの頻度で移動していて、そのためには体力以外に経済力も必要なはずだ。学生という身分と、経済力の間を埋めるもの。これが彼の持つ謎のひとつになっている。

ぎこちなく嫁を紹介すると、丁重な言葉を使ったり、深々と頭を下げたりするような挨拶が交わされた。自転車板で知り合ったこれら友人らが、仲間内には絶対に見せない態度だ。オレは他人事のようにその光景を眺めながら、こいつらがどんな顔をして仕事をしているのだろうか、ということなどを想像していた。

その点でオレとは意見が一致しないし、そういった意味ではおそらく、今日来る誰とも性質が違うと思われる。
誤解や先入観によるところも大きいのだろうが、オレは他人の価値観を矯正したりしない。お互いの性質が違うという情報が共有できてさえいれば共存できると信じているからだ。
それにタイプが違っているほうが、刺激になる。今日の嫁投入が、この集団にどんな刺激をもたらすか、あるいは全く影響しないのか、どうなるかはこの時点では、全くわからない。

カラコとフランスから、「遅れる」という旨の連絡が入った。
場所を移動しながら、他のメンバーを待つことになったのかどうなのか、とんぼりは一切アナウンスをしないからよくわからない。とにかく現時点で5,6人になっている集団は、目的地の宴会場へ向かって歩き出した。

オレはとんぼりにきいた。
「お好み焼き屋や。好き嫌いに関してめっちゃわがままな奴おるやろ、それに東京からわざわざ出てきてチェーンの居酒屋ちゅうのも味気ないと思ってやな、消去法でお好み焼き屋になったちゅうわけや」
「好き嫌いうるさいのはフランスしかおらん」
とは杖レ。
先斗町(ぽんとちょう)先端あたりの入り組んだ路地裏には、揚屋建築の古い店がいくつも軒を連ねていた。もしかしたらこの辺一帯は、むやみに改築することを禁じられているのかもしれないと思った。

とんぼりにケータイで誘導されながら、自転車に乗った連中がやってきて合流しはじめた。こすりつけは自転車から降りてコビックと話しながら、顔だけこちらへ向けて、なぜかにやけた視線をオレに送ってきた。
「なんで中村京都やねん」とPCBに言われて、苦笑いを浮かべてしまった。観光で来ているという情報はあまり伝わっていないらしい。
「住職はどないした」
誰かが「住職」の所在を気にした。これもハンドルネームの一つだ。嫁は「住職?」と不思議そうな顔をした。
杖レ側の人間であり、ということは広島あたりに住んでいるのだろうから、もちろんオレは面識がない。ネットでも、ほとんど会話をしたことはないだろう。ただし名前はよく耳にしていた。どんな住職が現われるのか楽しみしていると、坊主頭のいかつい顔、いかつい体格の男が、青いロードに乗って現われた。なるほど袈裟でも着せたら立派な住職になりそうだ。

とんぼり、杖レ、54号、コビック、アイボク、こすりつけ、PCB、住職、オレ、嫁。
現時点で10名になった集団は、まとまりなくそぞろ歩き騒ぎながら、古い店構えのお好み焼き屋へ入っていった。
どういうわけか幹事のカラコが遅れていて、「特急に乗って今七条にいます、急いでます」というメールをとんぼりが受信した。その内容をきいたこすりつけが、「急ぐちゅうてもな、電車の中いったりきたりしとるだけやねん、それで急いでるつもりやねん」といった。

フランスは、昼に電話した時点では「体調不良」ということだったが、おそらく飲みすぎで寝足りなかったのだろう。観光案内してくれる約束を蹴られてしまい、そのため伏見稲荷や御香宮神社にはいけなかった。
危機管理として、フランスによる突然のキャンセルも考慮のうちだったとはいえ、東京からの旅行者を屁とも思っていないあたり、京都人の冷たさに触れたような気がして切なくなった。
お好み焼きの材料はすでにテーブルに並べられている。
一人ずつ遠慮がちに座席を選んでいった。
ビールが続々と、運ばれてきた。





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最終更新日  2004.05.10 13:13:02
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