偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2018.07.28
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カテゴリ: 銀輪万葉
承前 ​)
​ 昨日の日記の続きです。
 聖神社から信太森葛葉稲荷神社に向かう処で終わりましたので、そこから始めます。聖神社はかなり高い地にあるので、一気に坂を下ることになる。予定では、坂の途中、未だ高い位置の府道新30号を南に進み突き当りで右に曲がり西に下り、幸小学校南で左折、細い路地を進んで和泉中学校前で府道30号(旧)に合流という段取りであったのだが、信太の森のもう一つの候補地、信太森葛葉稲荷神社をやり過ごしては平仄を欠くことになると言うもの。新30号の広い道を渡り、次の道で右折し、中央寺の先の辻を左折、南海電車本線の踏切を渡ると信太森葛葉稲荷神社前である。
 この道すがら昼食の店を探しながらの走行であったが結局見つからず、神社へのご挨拶を先に済ませることとする。​

(信太葛葉稲荷神社)
 こちらの境内は狭く、何やらごちゃごちゃとした感じ。​

(同上・拝殿)

(同上・由緒ほか)

(葛葉伝説)
​ 上の伝説の歌の歌碑が拝殿の左手にある。​
​​

(うらみ葛の葉の歌碑)
恋ひしくは 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉
 この歌碑の背後にあるのが、神木のクスノキ。
 千枝のクス、知恵のクス、夫婦クスなどとも呼ばれているそうな。​

(神木のクスノキの大木)

(同上・説明碑)
​ 神木のクスノキの左側には葛の葉の姿見の井戸がある。​


(葛之葉姿見の井戸) ​​

(和泉式部歌碑)
秋風はすこし吹くとも葛の葉のうらみがほにはみへじとぞおもふ
(注)
 秋は「飽き」と掛けている。

 「うらみ」は「裏見」と「恨み」を掛けている。
 この歌は、和泉式部と彼女の最初の夫・和泉守橘道貞との間で離別する話が持ち上がった時に、親友の赤染衛門が式部に「 うつろはでしばし信田の森を見よかへりもぞする葛の裏風 」​
(歌意:宮様のもとに上がるのをやめて、しばらく辛抱して様子を見たらどうかしら。葛の葉が風に翻るように、あなたのもとに帰って来るかもしれませんよ。) ​という歌を贈って来たのに対して、式部が返した歌である。
 歌碑では「すこし吹く」となっているが、和泉式部集
(岩波文庫) ​では「すごく吹く」となっていて、歌の意味からは「すごく」の方が正しいように思う。あの方​ (道貞のこと) ​が私に飽きて辛く当ったとしても恨み顔は見せまいと思う、というのが歌の意味でしょうから、「少し吹く」では意味が弱いと言うか、やさしい感じになってしまうではないか。
 まあ、結論から言えば、二人は離婚し、和泉式部さんは、冷泉天皇の第三皇子・為尊親王、その死後はその弟の第四皇子・帥宮敦道親王の愛を受けることになるから、この歌は空振りであったことになりますな。
 尤も、和泉式部集の上記の赤染衛門の歌の詞書は「道貞去りて後、帥の宮に参りぬと聞きて」とあるから、これも実際の流れとは矛盾している。
 なお、新古今集にもこの両歌は掲載されていて (巻18-1820、1821) 、その題詞は「和泉式部、道貞に忘られて後、程なく敦道親王かよふと聞きて遣はしける」とある。
 隣には芭蕉の句碑がある。​

(芭蕉句碑)
葛の葉の面見せけり今朝の霜
(葉裏の白い葛の葉が、今朝の霜で白くなった表を見せていることだ。)
​​  この句は、元禄4年(1691年)の作。森川許六に宛てた竹田野坡の書簡(許野消息)によれば、芭蕉に背いた服部嵐雪がその釈明に赴いた折の吟とあるので、「面見せけり」で「顔を見せた」意を込め、「おもて(表)見せけり」で、「裏見(恨み)はない」ことを示した寓意の句となる。
 和泉式部の歌といい、芭蕉の句といい、まこと人間臭いものが背後にある歌、俳句でありますが、此処では、裏見をしない、裏読みをしないのが礼儀でしょうか。
 しかし、「うら」というのは、うら寂しい、うら悲しいなどという言葉があるように、何とはない心の中の状態を言う言葉で、古くは「心」を意味した。顔・面が「オモテ・表」で、心が「ウラ・裏」である。「裏を読む」のは何か品格の劣る行為のような印象を受けるが、心を読むのであるから本来はそういうことではなかった筈。
 これで思い出すのは、「忖度」。これも、忖度するというのは人間関係を円滑にするために必要な徳目であった筈だが、妙な「忖度」をする人がいて、この言葉が汚れてしまったようだ。要は、それをする人の心のありよう、動機、目的によって良くも悪しくもなる。言葉は、そうした人間の営みによって、時代と共に、微妙にそのニュアンスを変質させて行くものであります。美しい言葉は美しい心と共にある。そう言うべきか。​

(利休作 ふくろうの灯篭)
 こんなものもありました。由来などは何の説明もないので分からぬが、利休作の灯篭だそうな。灯篭の上に梟がとまっているのですかな。「不苦労」または「福来郎」の洒落で御座灯篭。
 この神社には色々なものがある。他にもあったようだが、撮影はしていない。当神社のホームページをご参照下さい。
<参考> 信太森葛葉稲荷神社ホームページ
 神社を後にした時には午後1時近くになっていました。
 早く、昼食の店を見つけなくては(笑)。
 神社の南側の細道を東へ行く。南海電車の踏切を渡り、府道30号と府道新30号の中間にある旧道を南へ走る。
 王子町3丁目辺りで「お好み焼き栄吉」という店があったので、ここで昼食とする。鉄板に火を入れると暑いので、奥で焼いてもらって、出来上がりを持って来ていただく。氷の入った冷たいお茶を何杯(3杯)もいただく。
 遅い昼食を済ませて元気回復。店を出て南へ。目印の幸小学校、和泉中学の前を通り、府道30号に入る。和泉中学校前交差点から500mほど南に行った交差点を左(東)に入ると、間もなく泉井上神社。​

(泉井上神社)

(同上・説明碑)
​ 鳥居を潜って直進すると、正面にあるのは、の泉井上神社の本・拝殿ではなく、境内社の和泉五社総社の拝殿である。​


(和泉五社総社・拝殿)

(同上・説明板)

(同上・本殿)

​(和泉井上神社・拝殿)
 泉井上神社の拝殿は南東向きに建てられている。
 この社殿の裏手にあるのが、国府清水或は和泉清水と呼ばれる、大阪市指定史蹟の泉である。裏手には回らず、手前の説明碑を撮影したのみ。これも暑さの所為による注意力散漫という奴でしょう。
 神功皇后が三韓征伐(今はこのような言葉使いは不適切なのか「渡韓出兵」などと表記されている。)の折に、この地を通られると、この地に突如泉が湧き出たと伝えられて居り、泉井上神社の名も、和泉国の国名もこれに由来するという。
 確かに、和泉国の古名は茅渟県
(ちぬのあがた) ​であり、「ちぬ(茅渟、血沼、千沼)」である。
 万葉集でも、美少女・菟原処女​
(うなひをとめ) ​を、莵原壮士 (うなひをとこ) ​と争ったのは千沼壮士 (ちぬをとこ) ​である。
 高橋虫麻呂の歌では、
墓の上の木の枝なびけり聞きしごと千沼壮士にし依りにけらしも(巻9-1811)
と、この地出身の千沼壮士に軍配が上げられているが。​​​
​​

(同上・説明碑)
 泉井上神社から500mほど東に行くと御館山公園という小さな公園がある。此処に和泉国庁趾の碑がある。泉井上神社も含めこの付近一帯が和泉国の国府、国庁であったのでしょう。​

(和泉国府庁趾の碑)​
​​
​​​(和泉国由来の碑)
 碑に刻まれている歌は、赤染衛門の歌である。
人よりもわきて嬉しき泉かな雪げの水の勝るなるべし(赤染衛門集329)

​​ (ほかの人よりも格別に嬉しい泉です。雪解けの水が何にもまさるように、女院さまのお心配りが誰よりもまさっていたのでしょう。)
​  この歌は、赤染衛門が自分の息子の大江挙周 (たかちか) ​を和泉国の国守にして欲しいと、自分が仕える女院(上東門院、藤原道長の娘・彰子のこと)に口添えを頼んでいたところ、願いが叶って、息子が和泉守に決まり、その翌日に、女院から「 払ひけるしるしもありてみゆる哉雪間を分けて出づるいづみの 」​ (頭に降りかかる雪を払って願われたしるしがあったようですね。雪をかき分けて湧き出る泉の、その和泉守になられたとは。) という歌を頂戴したことへの返歌である。今なら、情実人事、忖度人事、裏口人事であるが、児童たちが遊ぶ公園に、かかる歌が適切なのかどうか、など言うのは不粋でありますかな(笑)。まあ、現代の常識や倫理観で平安時代の事を論じても始まらぬことではあります。
和泉​​
国庁趾を「アト」にし、和泉府中駅へ。此処からJRで電車移動、日根野駅の一つ先の駅、長滝駅まで参ります。区切りがいいようなので、本日はここまでとします。明日以降も亦お付き合い賜れば幸甚に存じます。
つづく

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最終更新日  2018.08.08 22:38:56
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