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2006.01.25
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カテゴリ: 米外交史
▼エピローグ10

「もちろん! 彼は元気で生きているよ」

「わかったわ。私の望みは彼に会いたいだけ。彼に会いたいわ、フィデル。それは母親の権利よ」
「お前にはほかに二人の子供がいるだろう。この子は必要ないはずだ」

カストロは腹立たしげにドアの方に歩いていった。ロレンツは出て行こうとするカストロの腰にすがりついた。
「フィデル、お願い。教えてくれるだけでいいの」
ロレンツは泣き出していた。

「マリタ、あの子を国外に連れ出させるわけにはいかないんだ」
「フィデル、アメリカに連れて帰るつもりはさらさらないわ。会うだけでいいの。せめて一目その子に会わせて。そうしたら帰るわ」



カストロはずっと黙ったまま、考え込んでいるようだった。カストロとロレンツはしばらく、CIAのことや、ロレンツの娘のことについて言葉を交わした。やがてカストロはロレンツの腰に腕を回し、ロレンツはカストロの肩に頭をあずけた。だんだん心が打ち解けて来るようであった。

カストロが口を開いた。「マリタ、階下にいた老人が息子のことを話してくれるよ」
「私たちの息子よ」

「彼は元気だよ。だが私の息子だ」
「わかったわ。一目会いたいだけなの。それ以上は求めないし、今後連絡を取ることもしないわ。だから彼に会わせて」

カストロはロレンツの肩に手をかけ、ロレンツを抱きしめて言った。
「一度だけ、彼に会わせよう。彼はいい子だ。彼は医者だ。お前も誇りに思うだろう」
「医者ですって?」と、ロレンツは思わぬ言葉を聞いて、涙があふれてきた。「何の医者なの?」

「小児科の医者さ」
「私がなりたいといつも思っていた職業よ」

「彼はいい子だ。階下にいた老人が育ての親だ。ちょっと待ってくれ」

「アンドレですって?」
ああ、それが息子の名前なのだ、とロレンツは思った。
(続く)





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最終更新日  2006.01.25 08:19:45
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