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2007.10.11
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テーマ: いい言葉(573)
カテゴリ: 文学・芸術
悲劇のバラ

嫉妬

ねたみ、猜疑心、怒りの暴走――人間のもつ弱さ、浅はかさゆえに、悲劇へと転落していった武将を描いた『 オセロ 』。シェークスピアの四大悲劇(他は『マクベス』『リア王』『ハムレット』)の一つですが、ここにもバラが登場します。まさに悲劇のバラですね。

ヴェニスの将軍でムーア人のオセロは、元老院の娘デズデモーナと結婚し、妻をこよなく愛していました。ところがオセロの部下で旗手のイアーゴーは、同輩のキャシオが副官へと昇進したことをねたみ、デズデモーナとキャシオの仲をオセロに疑わせ、キャシオを落とし入れようとします。最初は信じなかったオセロも、イアーゴーの巧みな話術の罠にはまって、猜疑心を募らせていきます。

後一押しとばかりに、イアーゴーはデズデモーナのハンカチを盗み、キャシオの部屋に置きます。ハンカチをキャシオが持っていることを知ったオセロは、嫉妬に狂い、イアーゴーにキャシオを殺すよう命じるとともに、とうとう自分はデズデモーナを殺めてしまいます。

殺害後、イアーゴーの妻から真実を知らされたオセロは、自分の愚行を悔い、最後には自分で命を絶つのでした。

バラが出てくるのは、オセロがデズデモーナを殺そうとする場面です。

Yet she must die, else she'll betray more men.
Put out the light, and then put out the light:
If I quench thee, thou flaming minister,

Should I repent me; but once put out thine,
The cunning pattern of excelling nature,
I know not where is that Promethean heat
That can thy light relume: when I have pluck'd the rose,
I cannot give it vital growth again,
It must needs wither. I'll smell thee on the tree.

2行目のput out the lightは火を消すことですが、最初のthe lighはろうそくの火で、二番目のthe lightはデズデモーナの命のことを指しています(lightは形容詞で使うと「軽率な」「尻軽の」という意味もあります)。3行目でろうそくに、6行目にデズデモーナにオセロが呼びかけていることからも、そのことがわかります。ろうそくはthou flaming minister(汝、燃え盛るしもべ)と呼ばれ、デズデモーナはthe cunning pattern of excelling nature(卓越した自然の巧妙な造形物)と呼びかけられています。

前者は何度でも火をつけられますが、後者は一度消したら、 プロメテウスの炎 でもない限り二度と火をつけることはできないとオセロは言っています。プロメテウスとはギリシャ神話に出てくるタイタン族(オリンポスの神々以前に転地一切を支配していた種族)の一人で、天から火を盗んで人間に与えたことで知られていますね。

10行目のneedsは「必ず」「どうしても」という副詞で、mustと一緒に使われます。最後のI'll smell thee on the treeはすごい言葉ですね。まだ枝に咲いているうちに(殺す前に)、バラ(デズデモーナ)の香りを嗅いでおこう、という意味です。

訳は次のとおりです。


ろうそくの火を消して、そしてあいつの命の火も消そう。
燃える下僕であるろうそくよ、お前の火なら消した後でも、思い直せば、再び火をともすことができる。
だが、巧妙に造られた自然の造形美であるお前は違う。お前の火は一度消したら、プロメテウスの炎の在り処をしらない私には、再びともすことはできない。
バラを摘んでしまったら、そのバラの花は二度と枝に咲かせることはできないのだ。
枯れるしか道はない。枝にあるうちに、お前の香りを嗅いでおこう。


何ということでしょう! 猜疑心と嫉妬はとうとう、怒りという激情の炎に火をつけ、最愛の妻の殺害という結果をもたらしてしまいました。

・・・愚かなオセロ。
この戯曲の中では、ムーア人のオセロはアフリカ出身の黒人として、デズデモーナやイアーゴーは白人として描かれています。現代的にこの劇を演じると、どうしても黒人に対する人種差別が背景にあるように思ってしまいますが、シェークスピアはむしろオセロに同情的に描いているように思われます。なんといっても諸悪の根源は、白人のイアーゴーですからね。

この戯曲から、日本人が考案した黒と白の駒を使ったゲームに「オセロ」と名づけれらたのは有名な話ですね。

武勇の誉れ高い高貴なムーア人と、嫉妬に狂う残忍な利己主義者という両面を併せもつオセロが、イアーゴーの言葉巧みな諌言に惑わされて、その二つの性格面を行ったり来たりする様は、確かにゲームのオセロにも似ています。

病理学的にも、配偶者が不貞を働いているという妄想に取り付かれる症状を オセロ症候群 と呼ぶようになりました。O・J・シンプソン事件をつい思い出してしまいます。愚かなオセロはまだ、人間の心の中で生きているんですね。
(続く)





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最終更新日  2007.10.11 13:19:29
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