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2007.12.01
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カテゴリ: 文学・芸術
史劇のバラ16(ヘンリー8世パート4

ヘンリー8世の宗教改革は、不純な動機だったにせよ、ローマ教会の支配を排除して国民国家の建設を推進した点において歴史的にも評価されるものでした。ただいかんせん、教義・哲学上の改革でなかったため、中途半端だったんですね。そのため、イギリスの政治は迷走します。

ヘンリー8世の死後、エドワード6世(三番目の王妃の息子)の時代には、英国国教会のプロテスタント化が進んだのですが、次に王位に就いた、ヘンリー8世の最初の后の娘メアリー1世は逆のことをします。カトリックの信仰厚いスペインの血を引く彼女は、ヘンリー8世らが制定した宗教改革に関する法律をすべて破棄し、ローマ・カトリック教会に復帰。同時にプロテスタントに対する厳しい弾圧を加え、多数の指導者を処刑しました。

そのため、彼女は「血なまぐさいメアリー」、つまり現在ではカクテルの名前で知られる「Bloody Mary(ブラディ・メアリー)」と呼ばれ、国民から恐れられました。このカクテルを飲むときは、処刑で流されたプロテスタントの血に思いを馳せることが正しい飲み方となるわけです。すごいブラックユーモアですね。

そして彼女の死後就任したのが、ヘンリー8世と二番目の后アンとの間に生まれた女王エリザベス1世です。彼女はカトリックとプロテスタントの激突を避けるために中道政策をとり、ヘンリー8世が設立した英国国教会を確立させました。1588年には当時の超大国スペインの「無敵艦隊」を破り、国家の独立を守り抜いたことなどから、「Fairy Queen(神仙女王)」と呼ばれ、国民から熱烈に支持されました。特に女王在位後半の治世は安定し、イギリスも繁栄を謳歌、シェイクスピアを代表とするイギリスのルネッサンス文化が開花しました。

『ヘンリー8世』の最後では、予言という形で将来のエリザベス1世の業績を賛美する台詞が出てきます。この戯曲が書かれたときには、すでに女王エリザベス1世は亡くなっていますから、実際は予言ではなく、過去の業績を称えていることになりますね。

その「予言」で、カンタベリーの大監督クランマーは次のように言います。

CRANMER
She shall be, to the happiness of England,

And yet no day without a deed to crown it.
Would I had known no more! but she must die,
She must, the saints must have her; yet a virgin,
A most unspotted lily shall she pass
To the ground, and all the world shall mourn her.

クランマー
イングランドにとって幸福なことは、彼女(生まれたばかりのエリザベス王女)は長くその地位にとどまられます。いくつもの歳月が過ぎるでしょう。だが、一日たりともその業績で輝かぬ日はございません。
ああ、これ以上の予言ができなければいいのですが! しかし、彼女にも寿命が尽きる日がやってまいります。お隠れにならなければなりません。聖者が彼女をお迎えに参るでしょう。しかも、処女の、もっとも穢れのないユリのままで、冥土へと旅立たれます。そして、全世界が喪に服するでしょう。

シェイクスピアも長い間エリザベス一世の庇護の下にあったわけですから、女王のことを悪くは書けなかったわけですね。かなりヨイショしています。ここに書かれているように女王の在位期間は長く、1558-1603年の45年間に及びました。4行目のWould I had known no more! のwouldは願望を表し、「予言のその先を知らなければいいのに」という意味になります。6行目のpassはdie(死ぬ)と同じ意味です。そして「予言」どおり、誰とも結婚せずに、多分処女のままで亡くなりました。

女王のたとえにバラではなくユリを使っていますね。バラには情熱や戦いのイメージがあり、ユリには清楚で可憐なイメージがあります。やはりバラ戦争の記憶がよみがえるので、シェイクスピアは『ヘンリー8世』では、あえてバラを使わなかったのではないかと思います。バラで始まったシェイクスピアの戯曲は、ユリで幕を閉じます。

姥ユリ

これで「史劇のバラ」は終わりです。明日はシェイクスピアのロマンス劇『ペリクリーズ』のバラを紹介し、そろそろシェイクスピアのバラシリーズをお仕舞いにしようと思います。



薔薇

ただし、現女王のエリザベス2世をモチーフにしています。





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最終更新日  2007.12.01 10:39:37 コメント(6) | コメントを書く
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