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2007.12.09
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テーマ: いい言葉(573)
カテゴリ: 文学・芸術
シェイクスピアから生まれたバラ6(黒い貴婦人2 )

薔薇

シェイクスピアの『ソネット』の前半は美青年を賛美する歌が延々と続きます。彼は美青年に対して早く結婚するように勧めもするんですね(勧婚歌)。複雑な男心ですね。

シェイクスピアがゲイ(同性愛者)なのかどうかの議論は後に回すとして、ソネットの第127番~152番が黒い貴婦人を歌った一連の詩編となっています。この一連の詩編で黒い貴婦人がどのような女性なのか、一枚一枚ベールを脱ぐように明らかにされていきます。では、その最初の127番を見てみましょう。

127
In the old age black was not counted fair,
Or if it were it bore not beauty's name:
But now is black beauty's successive heir,
And beauty slandered with a bastard shame,
For since each hand hath put on nature's power,
Fairing the foul with Art's false borrowed face,

But is profaned, if not lives in disgrace.
Therefore my mistress' eyes are raven black,
Her brows so suited, and they mourners seem,
At such who not born fair no beauty lack,
Slandering creation with a false esteem,
  Yet so they mourn becoming of their woe,
  That every tongue says beauty should look so.

127
かつて黒は、美しい色とはみなされず、
そうであったとしても、美と呼ばれることはなかった。
しかし今日、黒は美の正統な後継者であり、

というのも、誰もが自然の力を拝借して、
人工的な偽りの仮面で、醜いものを美しく見せるようになってからは、
真の美は、もてはやされも、崇められもせず、
屈辱こそ受けていなくても、汚されているからだ。
従って、私の恋人の眼は鴉のように黒く、

色白に生まれなくても美しいはずなのに、
偽りの評価で自然の造形を冒涜している者たちを
喪に服して嘆いているように思われる。
彼女の眼が悲しみにふさわしい黒であるがゆえに
黒こそ美であると、誰もが語るのである。

ソネットを訳すのは、非常に骨が折れます。その理由の大きな一つは、ソネットが弱強五歩格で14行、脚韻を踏むという制約があるために、ある程度、論理や文法を無視して言葉を作り上げたり、つなげたりしている箇所が散見されるからです。つまり、論理を使ったり、辞書を引いたりしても、意味がわからない場合が多いんですね。

では、どうやってソネットを理解すればいいかと言うと、それは言葉の持つイメージとリズムを把握して、それを楽しめばいいのです。かなり想像力を必要とする作業でもあります。

まずソネットの形式を見ていくと、弱強五歩格で脚韻は行毎にABABCDCDEFEFGGという韻の踏み方をしています。これはシェイクスピアのソネットのどの詩編を見ても同じです。この制約の中で、黒が今ではbeauty's successive heir(美の正統な後継者)になったのだと言っていますね。なぜこう言わなければならないかというと、黒は美とはみなされない風潮があったからです。

ここでポイントとなるのは、fairという言葉です。fairには美しいという意味のほかに、淡い色という意味もあるんですね。たとえば、fair hairと言えば金髪、fiar eyesと言えば青い眼、fair skinと言えば白い肌となります。ところが黒は違います。黒には闇、死などのイメージが付きまといます。シェイクスピアは、そうした美の既成概念、美の基準を打ち破ろうとした。それがこの詩編127番です。

一方、darkはfairの反対語で「濃い色」という意味があります。Dark Ladyを黒い貴婦人と訳すのもそのためですね。間違っても暗い貴婦人ではありません。

5行目から6行目にかけてのput on nature's power, fairing the foul with Art's false borrowed faceは難解です。特にnature's power(自然の力)とは何か、ということになりますが、どうやら自然から作られた化粧品のことを言っているように思われます。put onは take over(譲り受ける)と同じ意味。自然の産物から材料を譲り受けて(化粧の力を借りて)、fair skin(白い肌)に見せかけようと、顔にべたべた偽の色(化粧)を塗りたくることを指しているようです。Fairing the foulのfairは辞書には載っていませんが、fairで「白く塗りたくる」「綺麗にする」という動詞にしていますね。「醜いものを美しくする」という意味になります。

10行目のher brow suitedのsuitedは「装った」とか「~にふさわしい」という語ですが、sooted(すすけた=黒くなった)とのpun(地口)である可能性があります。ついでに言うと、3行目のheirもhair(髪)とかけた地口であるかもしれません。正式な発音では異なる言葉ですが、「一部の地域(ロンドンの下町)」ではhairの「h」の発音をしないからです。

このように、美に見せかけた「醜」がはびこっているのだと、シェイクスピアは嘆いてみせます。そして恋人である黒い貴婦人の眼が黒いのも、それを嘆いて喪に服しているからだ、と黒の正統性を説きます。最後には、悲しみに映えるからこそ黒は美しいのだと歌ってこの詩編を結びます。かなり強引な理論、というか理屈も何もありませんが、これは詩ですからイメージで理解しないといけませんね。

さあ、黒い貴婦人が何者なのか少しわかってきました。「私(シェイクスピア)」の恋人であり、眼が黒いわけですね。次の128番では、楽器(おそらくバージナルという小ピアノ)を妙に奏でる女性であることがわかり、129番では、かなり官能的な女性であることが示唆されます。

美青年を狂おしいほど称えたかと思うと、今度は恋人の黒い貴婦人を賛美する。いったいシェイクスピアの性癖はどっちなんでしょうね。さらにその謎に迫りたいと思います。
(続く)

薔薇





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最終更新日  2007.12.09 10:27:04
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ソネット127  
furafuran  さん
こんにちは。

ピアノの楽譜のような番号つきのものは、きのうとはうってかわって、今日は訳していただいたものがあっても、さらに補足がなければ(それがあっても難しいです)、まったく読めない(泣)原文でした。日本語の俳句や短歌を読むとき以上に、ひとつの単語の意味がどれにあたるのか、自分のようやく知っている意味ではまったくあてはまらないですし、今日は早々と降参して、訳していただいたものを読みました(笑)。

nature's powerで覆われた美に見せかけた「醜」がはびこるうわべと、飾ることのできない(今はカラーコンタクトがありますが)悲しみにふさわしい黒い瞳は内面ということでしょうか。不可思議なシェークスピアの思考回路が、ちょっとおもしろいです。 (2007.12.09 13:31:13)

Re:ソネット127(12/09)  
白山菊理姫  さん
furafuranさん
こんばんは。

>ピアノの楽譜のような番号つきのものは、きのうとはうってかわって、今日は訳していただいたものがあっても、さらに補足がなければ(それがあっても難しいです)、まったく読めない(泣)原文でした。日本語の俳句や短歌を読むとき以上に、ひとつの単語の意味がどれにあたるのか、自分のようやく知っている意味ではまったくあてはまらないですし、今日は早々と降参して、訳していただいたものを読みました(笑)。

本当に苦労しますね、ソネットは・・・。学生時代に四苦八苦した苦い記憶があります。辞書に載っていない単語は想像力で補いつつ、言葉のイメージをつなげて連想ゲームをするしか方法がありません。当たるも八卦という感じです(苦笑)。

>nature's powerで覆われた美に見せかけた「醜」がはびこるうわべと、飾ることのできない(今はカラーコンタクトがありますが)悲しみにふさわしい黒い瞳は内面ということでしょうか。不可思議なシェークスピアの思考回路が、ちょっとおもしろいです。

内面と外面という対比は確かに存在しますね。とにかく黒は凄いんだぞ、ということを語るために、うわべの美ばかりを追求した現状を嘆く黒い眼が美しいので、黒は美になったのだという論理についていくのは大変です。雨が降るのも、雪が降るのも、みんなあなたの眼のせいよ、と言っているようなものでしょうか。まあ、感覚で理解させていただきましょう。 (2007.12.09 19:30:04)

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