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COPPELION 25巻 鴎外官房長官「我々の内閣にご不満があるなら結構! 本日付で衆議院を解散します」著者・編者井上智徳=著出版情報講談社出版年月2016年4月発行西暦 2036 年(平成 48 年)、お台場の原子力発電所で起きたメルトダウンにより東京は死の街と化していた。遺伝子操作によって放射能に対する抗体をもって生まれた高校生・コッペリオンたちは、生存者を救出するという困難な任務に立ち向かう。ついに最終章突入。レインボーブリッジを渡り、お台場原発の再臨界阻止に向かったコッペリオン一行と忘れもの係の最後の戦いがはじまる。Dr.コッペリウスは伊丹刹那と関係修復できるのか。コッペリオンは突然死から逃れることはできないのか。物語の終盤で、夏目総理と鴎外官房長官のデコボコ・コンビに惹かれた。歳のせいだろうか、こうした渋い脇役が光っている物語は好きだ。
2016.04.09
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呼び覚まされる霊性の震災学 タクシードライバーたちが体験した幽霊現象は、事実上、無賃乗車という扱いになっている。(10ページ)著者・編者金菱清=著出版情報新曜社出版年月2016年1月発行本書のタイトルに「霊性」とあるが、けっしてオカルト本ではなく、東北学院大学のゼミ生たちが綿密なフィールドワークの結果をまとめた論文集である。この 5 年間、メディアの光が当たらない被災地の現実を取材し、私たちが生と死の狭間で何を感じるのか、ありのままを報告している。学生たちの文章は、失礼ながら、稚拙な論理構成で読みにくいと感じる部分もあるのだが、それを補ってあまりある被災地の生の声と、当の学生たちの故郷に対する熱意が感じられる良書である。最初に、石巻や気仙沼の多くのタクシードライバーが体験した幽霊現象を取材する。タクシードライバーのひとりは、「最初はただただ怖く、しばらくその場から動けなかった」(5 ページ)というが、いまでは「また同じように季節外れの冬服を着た人がタクシーを待っていることがあっても乗せるし、普通のお客さんと同じ扱いをするよ」と語る。このドライバーは、震災で娘さんを亡くしているという。論者は、この現象について、絶望から畏敬が生まれたと結論づけている。津波を受けて骨組みだけの無残な姿になった南三陸町防災対策庁舎を取り上げ、震災遺構を残すかどうか、遺族の心の移り変わりを取材する。論者は「負の遺産のシンボルである原爆ドームの永久保存にも 20 年という歳月が必要であった(65 ページ)として、「時間は人びとの認識と心情の面で変化を与える。外部のさまざまな人びととの交流や環境の変化、供養という節目などがご遺族に変化をもたらしている」という。津波で墓地が流されてしまった中浜の人びとは、「(新しく造成された)お墓と(流された墓地の後に建てられた)慰霊碑という異なる場でご先祖様に対して祈っている」(81 ページ)。「遺骨が見つかっていないために、まだ元のお墓のあった場所にご先祖様の存在を感じる人もいる」というのだ。「震災後、避難所や仮設住宅、お年寄りや子どもに復興のスポットライトが強烈にあたるなか、夫も子どももいて、家も流されなかった「普通のおばさん」は蚊帳の外におかれ、焦燥感と虚無感に苛まれ」(97 ページ)、うつ状態になった母親がいる。たった 9 人で、672 人のご遺体を土葬し、再び掘り起こして荼毘に付す作業に従事した民間葬儀会社がある。「掘り起こしの現場で一番大事にしたのは、厳粛なイメージから懸け離れた“笑い”であった」(113 ページ)という。「東日本大震災での消防団の犠牲者数は、岩手県で 119 人、宮城県で 107 人、福鳥県で 27 人、計253 人となった。同 3県の消防本部の職員の犠牲者は 27 人だった」(128 ページ)という。論者は、「消防団には明確な「目的」と「価値」がある」(145 ページ)としたうえで、「この恨底が崩れない限り、彼らは再び現場へと向かうだろう」と結論づけた。本書を執筆した学生は、高校 3 年の春に震災を体験したという。当事者が書いた文章は主観的になりやすいという原則は当てはまらない。むしろ、客観的であるはずのマスメディアの方が偏っているのではないかと感じさせるほど、本書の調査は客観的で、微に入り細を穿っている。本書を執筆した学生の皆さんは、このフィールドワークを忘れることなく、社会に貢献できる仕事に就かれんことを祈っている。また、今後遭遇するであろう艱難辛苦にあっては、ご遺体を掘り起こしていた葬儀会社を思い出し、笑顔で前へ進んでいってほしい。そして、震災に見舞われた全ての皆さん、私たちは常にあなた方の側にいます。どうか、あきらめないでください。
2016.03.06
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「戦略力」が身につく方法 値引きは「麻薬」だ。(117ページより)著者・編者永井孝尚=著出版情報PHP研究所出版年月2013年9月発行著者は、日本アイ・ビー・エムで商品プランナーや製品開発マネージャーを務めた永井孝尚さん。永井さんは「顧客の言いなりになることは必ずしも正しくない」(29 ページ)と指摘する。なぜなら「顧客は課題を持っているが、その課題を自分で認識しているとは限らないからだ」。そこで、「顧客中心主義」を提唱する。これは、「顧客を大切なパートナーと考え、顧客の期待値を常に上回ろうとする考え方だ。顧客自身が気がつかない課題を解決し、それにより顧客を大きく感動させる」(9 ページ)。永井さんは、顧客中心主義を貫けば、街の電器店が家電量販店を凌ぐこともできるという。そのためには、「顧客の課題は、自分の頭だけで考えてはいけない。必ず最初の段階で検証すべき」(49 ページ)とアドバイスする。また、「短期間で市場が激変している現代、市場調査に過度に頼るのはリスクが伴う。市場調査を鵜呑みにせずに、顧客の声を検証する等、自分自身で確認することが必要」(58 ページ)とも。さらに「マーケティング理論はあくまで手段であり、道具に過ぎないということだ。そして、ビジネスの現場のあらゆる場面に万能なマーケティング理論は存在しない」(80 ページ)と指摘する。「役に立つ商品を出し続けるためには、商品を買ってくれる顧客よリも、商品を実際に使う本当のユーザーの声に耳を澄まさなければいけない」(91 ページ)とも。永井さんは、「企画に数カ月かけることができた古きよき時代は終わったのだ。むしろ半日で仮説としてたたき台の企画を作り、関係者を巻き込んで実行してみる。そして数週間から数カ月で成果を着実に出し、結果を検証する。仮説と検証を繰り返しながら企画を育てていくことが必要」(148 ページ)と述べる。これは、システム開発をウォーターフォールモデルからスパイラルモデルへの転換を求めることと似ている。永井さんは最後に、「自分の意見を表明することで誤りを指摘され、それに気づくことで成長する」(198 ページ)とアドバイスする。市場や経済構造が変化している以上、われわれビジネスマンも変身していなかければいけないと感じた次第。
2016.02.08
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戦略がすべて 身の回りに起きている出来事や日々目にするニュースに対して、戦略的に「勝つ」方法を考える習慣を身につければいい。(255ページ)著者・編者瀧本哲史=著出版情報新潮社出版年月2015年12月発行著者は、マッキンゼー&カンパニーでコンサルティング業に従事し独立した瀧本哲史さん。ビジネス書大賞受賞作『僕は君たちに武器を配りたい』の著者でもある。紹介されている事例や理論は、ビジネス戦略というより戦術に分類されるように感じた。ただ最後に、「戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ」(245 ページ)と指摘した上で、「身の回りに起きている出来事や日々目にするニュースに対して、戦略的に『勝つ』方法を考える習慣を身につければいい」(255 ページ)というアドバイスは「戦略」といえよう。冒頭、AKB48 を取り上げ、「『人』を売るビジネスには、『成功の不確実性』『稼働率の限界』『交渉主導権の逆転』の壁がある」(23 ページ)としたうえで、それを回避する戦略としてプラットフォームビジネスを提案する。「人、物、金、情報をネットワーク化し、そのハブとして利益を上げる」(35 ページ)と説く。また、2020 年(平成 32 年)東京五輪の招致プレゼンを取り上げ、「プレゼンテーションにおいて、最も重要なのは、『聴衆が何を求めているか』ということである。そこから、内容と見せ方が決まってくる」(37 ページ)と説く。そして、オリンピックの目的が「東京ないし日本の『ブランド』を再構築するまたとない機会」(42 ページ)という。瀧本さんは、「アルバイトの店員は、「儲ける仕組み」に関与していない」(51 ページ)として、「みずからが『資本=儲ける仕組み』の形成に関わり、リスク・リターンをシェアすること」(54 ページ)と指摘する。また、「不確実で厳しい未来においては、『自分の労働をコモディティ化させないこと』が重要になる」(87 ページ)と提案する。瀧本さんは、ネットの炎上事件について、「ネットにおける発信者は、閲覧数を増やすことを基準に執筆をするので、より炎上しやすい、極端で質の低い情報発信を行うインセンティブを持つようになる」(136 ページ)と指摘する。そして「主張が極端であれば極端であるほど、ごく一部の人間を深く『ハマらせる』構造になっているネットの世界では、危険な思想を助長させやすい」(140 ページ)ともいう。さらに、話題は教育や政治に及ぶ。話があちらこちらに飛ぶために、最終章のアドバイスが弱いものになってしまったのは残念である。
2016.01.23
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侵略!イカ娘(21) イカ娘「エビは全部美味い!」著者・編者安部真弘=著出版情報秋田書店出版年月2016年1月発行「海の家れもん」を拠点に、今日も地球侵略活動を続けるイカ娘。南風を逃げ出し、相沢家にやって来たニセイカ娘。イカ娘に手作り料理を出そうと精神修養した早苗は、瓦15 枚を割るほどの集中力を身につける。イカ娘探偵事務所の初仕事は。『解決!宇宙人君』はブームになるか。3バカが3カマに。食ブログ界の女王が海の家レモンに降臨。地球侵略は進まぬまま、何と次巻が最終巻!
2016.01.16
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アンドロイドは人間になれるか 未来は勝手にやってこない。(139ページ)著者・編者石黒浩=著出版情報文藝春秋出版年月2015年12月発行著者は、ジェミノイド、マツコロイドなど、人間そっくりのロボットを作り続ける工学者の石黒浩さん。関西弁で親しみやすいトークを展開するが、よい意味で傲慢な先生である。石黒さんは、子どもの頃から人の気持ちを理解することができず、長じて「わかっていないくせに子どもにえらそうなことを言っているのが、大人」(11 ページ)と分かったという。美術を志すも、人工知能の研究に転じ、「『人の気持ちを考える』を理解するための人工知能を作るには、脳の神経団路を研究し真似しているだけではダメ」(13 ページ)だという考えから、動く身体を持つロボットの研究に没頭したという。これが、石黒さんが傲慢な背景なのだろう。テレノイドやジェミノイドなど、ある程度、複雑な動作をプログラミングしたロボットを開発し、周囲の人間の反応を見て、石黒さんは、「心とは、複雑に動くものに実体的にあるというより、その動きを見ている側が想像しているものなのだ」(55 ページ)と確信したという。観察する側が勝手に存在していると思い込んでいるもの――それが「心」というのは、なんとなく納得がいく。また、ペッパーの開発を通じて、「音声認識ゼロでも、ロボットと対話ができる。人間とロボットの間に必要なのは『会話している感』なのだ」(77 ページ)という、美しすぎるロボット「ジェミノイドF」「エリカ」を開発した石黒さんは、当然、性的利用についても考察している。そして、「僕は人間がボランティア精神でセックスするよりも、アンドロイドを与えた方が、尊厳は保たれるような気がする」(90 ページ)という。政治家や宗教的指導者、そして祖先をもアンドロイドで代替できると言い放つ。こういう傲慢さは好きである。さらに、ロボットによる高齢者や自閉症者のケアを通じて、「ロボット相手のコミュニケーションで練習すれば、人間相手とは違って遠慮する必要もない」(100 ページ)と言い切る。人間に比べて、遠慮なく「何度でも同じことをさせることができる」からだ。人間不信も、ここまで来ると天晴れである。石黒さんは、人の心を超えて、人間の存在そのものをロボットに投映してゆく。本書でも『攻殻機動隊』や『アイ・ロボット』に言及しているが、ロボット工学三原則で有名なアイザック・アシモフの SF ロボット・シリーズに登場する、人間不信で陽電子ロボットを開発したスーザン・キャルビンは石黒さんに似ている。そして、最もロボット化された植民惑星ソラリアでは、ロボットが家族や社会の役割を担っている設定だ――。石黒さんは、「考え続ける限り、人間は、他の動物とも、ロボットとも違う存在でいられるはずだ」(223 ページ)と述べて締めくくる。アシモフ SF の正統な後継者を、ここに見た思いがした。
2016.01.11
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すごい家電 いちばん身近な最先端技術 そのような考え方に基づき、一般的な掃除機に比べて吸引力を抑えたロボット型掃除機は、「最後は人がカバーする」ことを前提にした掃除機なのです。(57ページ)著者・編者西田宗千佳=著出版情報講談社出版年月2015年12月発行著者は、ネットワーク、IT、先端技術分野を中心に活躍するフリージャーナリストの西田宗千佳さん。洗濯機、冷蔵庫、掃除機など身近な家電の変遷を取り上げ、紹介されるトリビアは、家電の正しい使い方や省エネの役に立つものばかりだ。サイクロン掃除機には「完全にホコリを分離できないという欠点」(50 ページ)があるため、「特に、粉じんが多い場所で使う頻度が高いなら、サイクロン式より紙パック式のほうが向いて」いるという。ロボット型掃除機については、「一般的な掃除機に比べて吸引力を抑えたロボット型掃除機は、『最後は人がカバーする』ことを前提にした掃除機」(57 ページ)という。電子レンジが無線LAN と同じ周波数帯域 2.4GHz を使っていることについて、「『水の加熱に適した帯域だから』と言われることもありますが、実は大きな関連性はありません」(65 ページ)そうだ。アメリカでは 915MHz も使われているという。エアコンの除湿機能は、「暖房機能を使って冷えた空気を温め直すことで、気温の調節」(173 ページ)を行っているという。このため、除湿は冷房より電気を多く消費する場合があるという。ヒトの「ヒゲの硬さは、同じ太さの銅線と同程度」(195 ページ)という。硬いヒゲをカッとするため、高級シェーバーの刃には、日本刀と同じ技術が用いられているそうだ。エコキュートの正式名称は「自然冷媒(C02) ヒートポンプ給湯機」。「冷媒に二酸化炭素を使ったものだけを『エコキュート』とよぶ」(235 ページ)そうだ。大気がもっている熱も取り込むので、純粋な電気温水器に比べ 3 倍も効率が良いそうだ。太陽光発電パネルは CPU と同じ半導体。このため、高温下では発電効率が落ちる。「最悪の場合、熱によって、出力が理想的な状態に比べ 25%も低下」(274 ページ)することがあるという。夏場のかんかん照りの時に発電量が上がるというわけではなさそうだ。
2016.01.10
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「上司」という病 そもそも「上司になる」「上の立場に立つ」というのは「何かが許される立場になる」ということにほかならない。(21ページ)著者・編者片田珠美=著出版情報青春出版社出版年月2015年11月発行著者は、精神科医の片田珠美さん。「どんな職場にも『困った上司』『迷惑な上司』というものがいる」として、その傾向と対策として、「賢いイエスマン」になることを勧める。片田さんは、「このご時世、問題を隠蔽し続けることなどほとんど不可能」(57 ページ)と指摘する。これには同感だが、権力とは「相手が嫌がることを、無理矢理にでもやらせることができる力」(49 ページ)という定義はどうだろう。片田さんの指摘は、通読すると現実をよく言い表しているように感じるのだが、逆の論理が成り立たない。つまり、「相手が嫌がることを、無理矢理にでもやらせることができる力」は、そもそも「権力」とは呼ばない。また、「他人に任せられない上司」として、「個人としては本当に優秀なタイプ」を挙げる。確かにそういうタイプはいるが、経験を楯に部下にプレッシャーをかけることは問題だろうか。部下の「他人の欲望を満たそう」「承認欲求」「波風を立てたくない」といった心理にも問題があると指摘する。こうした心理を持つ部下が、常に問題だと限らない。さらに、「老害と呼ばれる人たちの多くが、業績に関する責任を担っていない」(161 ページ)と指摘する。これもその通りなのだが、業績に関する責任を担っていない老人たちがすべて「老害」だとは限らない。つまり、片田さんが挙げている、問題のある上司の傾向は必要条件であって、十分条件ではない。したがって、その対策も不十分、場合によっては上司と部下の関係を壊すことになりかねない。本書は、自分が「困った上司」「迷惑な上司」にならないようにするための 1 つのガイドラインにはなるが、この通りに行動したから必ず問題解決するものではないと感じた。
2016.01.03
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下町ロケット どんな会社も設立当初から大会社であるはいすはない。(254ページより)著者・編者池井戸潤=著出版情報小学館出版年月2013年12月発行著者は、慶應義塾大学文学部・法学部を卒業して、銀行に入行したものの、独立してビジネス書や税理士・会計士向けのソフト監修をしていたという変わり種作家の池井戸潤さん。本書で第145 回直木賞を受賞した。タイトルから町工場の技術ドラマかと思いきや、中小企業の経営、特許訴訟など、池井戸さんの経験に裏打ちされた、リアルで日本を元気にするような話になっている。ロケット打ち上げに失敗した佃航平は、研究者の道を諦め、家業の町工場・佃製作所を継いだ。そんなある日、ライバルのナカシマ工業から特許侵害で訴えられる。悪い噂がたち、次々に顧客を失ってゆく佃製作所。資金繰りがショートしそうになったが、銀行から出向できていた殿村直弘が立ち上がる。離婚した妻が、特許に詳しい神谷修一弁護士を紹介してくる。辛くも危機を脱した佃製作所の前に立ちはだかったのは、新型ロケット打ち上げを担う巨大企業・帝国重工だ。帝国重工の財前道生から特許譲渡を持ちかけられるが、佃は「知財ビジネスで儲けるのはたしかに簡単だけども、本来それはウチの仕事じゃない。ウチの特許は、あくまで自分たちの製品に活かすために開発してきたはずだろう。いったん楽なほうへ行っちまったら、ばかばかしくてモノ作りなんかやってられなくなっちまう」(226 ページ)と言い放つ。水原重治や富山敬治の嫌がらせにも、佃は地道に真摯に対応し、帝国重工と対等に渡り合う。そして、帝国重工の藤間秀樹社長と佃には意外な接点が――佃製作所が修めたバルブを載せた帝国重工の新型ロケットの打ち上げが迫る。次から次へと佃製作所に迫る危機を、社員と一丸となって解決していく佃航平は、ヒーローでもリーダーでもない。くそ真面目にモノ作りをしている、われわれ日本人の根っこの部分を投映したキャラクターである。
2016.01.02
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下町ロケット(2) 貴船「患者のためといいつつ、私が最優先してきたのは、いつのまにか自分のことばかりだったな。だけどな、久坂君。医者は医者だ。患者と向き合い、患者と寄り添ってこそ、医者だ。地位とか利益も関係なくなってみて思い出したよ」(360ページ)著者・編者池井戸潤=著出版情報小学館出版年月2015年11月発行著者は、慶應義塾大学文学部・法学部を卒業して、銀行に入行したものの、独立してビジネス書や税理士・会計士向けのソフト監修をしていたという変わり種作家の池井戸潤さん。第145 回直木賞を受賞した『下町ロケット』の続編。前作でロケットエンジンのバルブ開発と納品の漕ぎ着けた佃製作所の新たな挑戦は、医療分野だ。前作に伏線が張られているが、本書から読んでも楽しめる。佃製作所の佃航平社長のところに、試作品開発の依頼が舞い込む。依頼料は安く、何の部品なのかも明らかにされなかった。佃社長が人脈を使って調べてみると、それは埋め込み型人工心臓「ガウディ」であることがわかった。開発に成功すれば多くの患者を救い名声が得られるだろうが、失敗すれば多額の賠償金を負うことになるだろう。開発がハイリスク・ハイリターンというだけではない。その裏で、前作で帝国重工に納めることが決まったロケットエンジンのバルブの開発を進めている新進気鋭のライバル工場サヤマ製作所や、心臓外科学会で対立する貴船恒広・アジア医科大学心臓血管外科部長と一村隼人・北陸医科大学教授。そして、同じ町工場の立場で佃製作所に支援を申し入れてくる株式会社サクラダ。医療機器認可に当たる PMDA という、実在の組織も登場――一癖も二癖もある登場人物たちが、物語を牽引していく。佃製作所・技術開発部の中里淳は、バルブ開発に携わりながらサヤマ製作所へ転職を決意する。だが、サヤマ製作所で新型バルブの開発は失敗続き。一方、佃製作所もピンチの連続だ。そんな時、佃航平が語る。「理詰めや数式で解決できる部分は実は易しい。ところが、あるところまで行くと理屈では解き明かせないものが残る。そうなったらもう、徹底的に試作品を積み上げるしかない。作って試して、また作る。失敗し続けるかも知れない。だけど、独自のノワハウっていうのはそうした努力からしか生まれないんだ」(173 ページ)、「スマートにやろうと思うなよ。泥臭くやれ。頭のいい奴つてのは、手を汚さず、椅麗にやろうとしすぎるキライがあるが、それじゃあ、ダメだ」(174 ページ)。権謀術策をめぐらせたサヤマ製作所にも最後の時がやってくる。地位を追われた貴船部長は、こうつぶやく。「患者のためといいつつ、私が最優先してきたのは、いつのまにか自分のことばかりだったな。だけどな、久坂君。医者は医者だ。患者と向き合い、患者と寄り添ってこそ、医者だ。地位とか利益も関係なくなってみて思い出したよ」(360 ページ)。中小企業、大企業、医療者、PMDA‥‥それぞれが矜持を示したとき、物語は大団円を迎える。同じ製造業に携わるものとして、佃航平の台詞「自分のやりたいことさえやっていれば、人生ってのは、そんなに悪いもんじゃない」(368 ページ)に、胸が熱くなった。どんなに窮しても貧しても、この仕事ができるなら、そんなに悪いもんじゃない!
2015.12.30
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火星年代記 新版 「ああ、あの連中を破壊したら殺人です!」(374ページ)著者・編者レイ・ブラッドベリ=著出版情報早川書房出版年月2010年7月発行レイ・ブラッドベリの名作 SF『火星年代記』の“新版”である。何が新版かというと、目次を見れば分かるが、1999 年(平成 11 年)スタートだった年代記が 2030 年(平成 42 年)スタートに変わっている。それだけでなく、いくつかの短編が追加になった。もちろん新訳は読みやすくなり、活字は大きくなり、少年時代にレイ・ブラッドベリに魅せられた我々も老眼で再び名作を楽しむことができるという仕組みだ。21 世紀に入り、レイ・ブラッドベリ自らが改訂した、最新で最後の『火星年代記』である。最初に『火星年代記』を呼んだのは 35 年前のこと。その直後、アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡』シリーズを読む。『銀河帝国の興亡』が『ローマ帝国衰亡史』をオマージュしているように、火星年代記はアメリカ開拓史を彷彿とさせる。では、本書は歴史書か。いや、違う。とはいえ、純粋な SF ではない。ファンタジーでもないし、風刺小説でもない。もう、レイ・ブラッドベリの世界としか言いようがない。『火星年代記』が名作であるとする私なりの理由は、本書は、読んだ人の年齢や経験に応じて、その感想が千変万化することである。私が最初に読んだときは、これはスペースオペラだと感じた。ちょうどスター・ウォーズ(エピソード 4)が上映され、スペースオペラが息を吹き返した時期だった。本書には派手な戦闘シーンがあるわけではないが、火星人と地球人の戦いは、幼い頃に読んだ E ・ E ・スミス『レンズマン』シリーズを想起させた。大学生の時に読み返したとき、本書は風刺小説だと感じた。エドガー・アラン・ポーやラヴクラフトを読み、体制に胡散臭さを感じていた私は、『第二のアッシャー邸』に涙したものである。そして、わが子が大学生になろうとしている今、再び読み返してみると、これは家族の愛を描いた小説であり、生命の普遍性を謳う人間ドラマであると感じる。『長の年月』で、製造者の家族の生き写しとしてつくられたロボットたちが、にっこり笑って破壊者に対応する。破壊者は思わず、「ああ、あの連中を破壊したら殺人です!」(374 ページ)と逃げ出す。だが本編には、ロボットという言葉も、アンドロイドという言葉も登場しない。これが「レイ・ブラッドベリの世界」なのである。何度読み返しても面白みが尽きない――これこそ小説の真骨頂ではないか。というわけで、本書は定本として、本棚のいつでも取り出せる位置に置かれることを、強くお勧めする。ページが手垢で黒くなるまで、何度でも読み返そう。
2015.12.27
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自分のついた嘘を真実だと思い込む人 「相手の話をうのみにせず、『他者の欲望』を分析する」(153ページ)著者・編者片田珠美=著出版情報朝日新聞出版出版年月2015年9月発行著者は、精神科医の片田珠美さん。2014 年(平成 26 年)の STAP細胞事件の小保方晴子氏、ゴーストライター騒動の左村河内守氏、号泣会見の野々村竜太郎・元兵庫県議などを取り上げ、息を吐くように嘘をつく人の傾向と対策を解説する。SNS 上で「息を吐くように嘘をつく人」が増えている感じを受けたので、本書を購入した。まず、片田さんは、嘘つきの片棒を担ぐイネイブラー(支え手)にならないようにと注意を呼びかける。そのために、プチ悪人になることを勧める。第1章で、嘘をつく動機として、自己愛、否認、利得の 3 つをあげる。このうち近年増加傾向にあるのが、自己愛のための嘘という。親から過大な期待をかけられたり、匿名性をいいことにネットでいい格好するためにつく嘘がそれである。問題は、嘘をつくことそのものが目的になっている人だ。パスカルは『パンセ』の中で、「この世には、嘘をつくという目的のためにだけ嘘をつくという人も存在する」(27 ページ)と述べているとのこと。どうやら人類は、この 350 年間、進歩していないようである。息を吐くように嘘をつく人のまわりには、嘘つきに心酔するイネイブラーがいるという。片田さんは、そうした嘘つきの「『他者の欲望』を察知する能力の高さ」(40 ページ)を指摘する。欲望をくすぐられ、イネイブラーになってしまうのだ。イネイブラーもまた、犯罪者である。片田さんは精神科医という立場上、患者の訴えを信じていたが、イネイブラーにならず、嘘つきを見破るためには、「性善説だけではやっていけないことを痛感」(128 ページ)したという。まず、「嘘をつく人は○○しがちという思い込みにとらわれて、相手が嘘をついているかどうかを判断するのは危険」(145 ページ)、「嘘を見抜くのにこれといった決め手があるわけではない」(158 ページ)としながらも、「相手の話をうのみにせず、『他者の欲望』を分析する」(153 ページ)プチ悪人になることを勧める。そして第5章では、さまざまな質問によって、嘘つきに喋らせ、尻尾を掴む方法を紹介する。「究極の目的は敵失を誘い出すことにある」(186 ページ)。第6章では、嘘が分かったときの対応だ。まず、「嘘の証拠を突きつけたら、相手が正直に白状するだろうなどという甘い期待は捨てなければならない」(194 ページ)とアドバイスする。最後に、「『プチ悪人』になって観察力と分析力を養い、自分の身は自分で守っていただきたい(217 ページ)と締めくくる。私は性善説を信奉していたはずだが、仕事などリアル世界で歳をとるうちに自然に、片田さんが勧める「プチ悪人」となっていた(苦笑)。ただ、ネット世界では、片田さんが言うようなプチ悪人にならずとも、より多くの人の投稿に目を通していれば、自ずと嘘つきがあぶり出されるように感じる。とりあえず Twitter では、耳が痛い意見を言うアカウントをブロックせず、傾聴してみることをお勧めする。
2015.12.26
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聖☆おにいさん(12) 弁財天「大丈夫よ、加減して踏んであげているから」著者・編者中村光=著出版情報講談社出版年月2015年11月発行IKEA の家具が大きいのは巨人族用のため!? 北欧神話から、ロキさん登場!!新しいスニーカーを探しに来たブッダとイエスの前に現れたのは、サンダルフォンさん。巻き爪のためインソールを愛用しているという。そして、ブッダの足の扁平足の秘密が明かされる。天部衆や天使によって急速発展を遂げた立川は、今日も平和でしたとさ。
2015.12.08
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エゴの力 人間の強さとは何かといえば、ぞれはその人聞の備えた個性の力です。(100ページ)著者・編者石原慎太郎=著出版情報幻冬舎出版年月2014年10月発行著者は、作家で政治家の石原慎太郎さん。本書では、「人間の強さとは何かといえば、ぞれはその人聞の備えた個性の力」(100 ページ)というテーマを中心に、エゴについて語っている。石原さんほど老成しているわけではないが、私も 50 歳を過ぎ、このテーマには賛同するものである。石原さんは冒頭、「エゴとは人生を左右する力、人間の個性。個性とはその人間の感性の発露以外の何ものでもない」(4 ページ)と定義し、織田信長、東郷平八郎、出光佐三などの行動を引き合いに出し、成功の裏にはエゴの発露があることを紹介する。そして、松下幸之助の言葉「経営には勘が必要だが、勘だけではだめだ。またデータ、コンピューターだけではだめだ。資料をいくら重ね、データをいくら分析しても限界がある。経営に成功するための原則がある。その原則のなかで絶対必要条件ともいえるのは経営の哲学、経営理念や志だ」(46 ページ)を引用する。第2章では、恋愛とエゴについて語る。『八百屋お七』『娘道成寺』を引き合いに、「男のエゴの虚弱さというものを、またある意味で人間の備えた弱さを示す象徴かもしれません」(81 ページ)と解説する。また、明治維新の功労者や太平洋戦争の英霊達にもエゴを見いだすという。古今東西の小説や歴史上の人物に典拠を求めるあたりは、いかにも石原さんらしい展開である。第3章では、趣味であるヨットを通じて、好きなことを通じてエゴを磨くことができると語る。第4章では教育や就職について語り、「他者との関わりが自分のエゴ、自我を切りつけ、損なうことの端的な事例は間違った教育、あるいは間違った躾によるものが実に多い。特に躾・教育は幼年から始まって成人になるまでの、まだ自我が確立される前の未成年の段階で一方的に行われる作業ですから、その影響は極めて容易だし、また大きなものがあります」(148 ページ)と指摘する。第5章では田中角栄による金権政治を振り返り、「お金というものは決してただのお金ではなしに、人生を左右しかねぬ、その使いようによって極めて貴重で微妙な人生のための小道具」(213 ページ)と語る。そして最後に、「世界がアメリカンスタンダードで統一されることはありえないのと同じように、人間全体に統一規格があてはまることは絶対にありえない。それと同じように、それぞれの強いエゴを備えている人間たちに人間のスタンダードがありうるはずはありません」(217 ページ)と結んでいる。石原さんも政界を引退し、さすがに往時の筆致は感じられないが、経験に裏打ちされたインテリジェンスには学ぶべきことが多い。若い人にも読んでほしい 1 冊である。
2015.11.23
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物語中東の歴史 「このような狂信性は中南米を征服したスペインのキリスト教徒にこそ当てはまるべきもので、アラブの征服者にそのような非寛容性はまったく見られない。」(77ページ)著者・編者牟田口義郎=著出版情報中央公論新社出版年月2001年6月発行著者は、朝日新聞社記者として中東特派員をつとめ、退社後は成媛大学や東洋英和女学院大学で中東近現代史を教えている牟田口義郎さん。欧米とイスラームの緊張が高まる中、中東の歴史をおさらいしようと考え購入した。冒頭で、「マホメット Mahomet とはムハンマドのフランス語表記が一般化したんだそうな。いつだったか、カイロでエジプト人の新聞記者と話していたとき、マホメットといったら、相手はいやな顔をして、『それはヨーロッパなまりだから、どうかムハンマドまたはモハンメドと呼んでくれ』といっていたね」(2 ページ)と紹介。まず、イエス誕生の際にやって来た東方の三博士が持参する「2種類の香料(乳香、没薬)は、中東の古代文化の実態を知るための重要なキーワード」(20 ページ)になるという。時間を更に遡り、古代エジプト、ソロモン王とシバの女王、アルサケス朝ペルシア(パルティア)、アレクサンダーの帝国、そしてイスラームの台頭。牟田口さんは、「コーランか剣か」という選択は欧米の作り話で、イスラームが求めたのは、この 2 つに加え、降伏して貢納することがあり、貢納を最も求めていたと指摘する。また、エルサレムをめぐり、ヨーロッパはイスラームへ十字軍を差し向けるが、じつはモンゴル帝国の存在があったと指摘する。イスラームと欧米とでは文化習俗が異なる。イスラーム世界における主人と奴隷との関係は、「アメリカの場合に比べてはるかに開放的なところが特徴」(182 ページ)という1453 年、コンスタンティノープルがオスマン・トルコ軍によって陥落しビザンツ帝国が消滅する一方、1492 年にスペイン軍がグラナダ王国を攻略し、レコンキスタが完成する。イサベル 1 世とフェルナンド 2 世はユダヤ人やイスラームの排除に乗り出す。エンリケ航海王子やヴァスコダ・ガマなど、「西ヨーロッパの先兵としてインド洋に侵入したポルトガルの戦略目標は、このスパイス貿易の主導権をムスリムの手から奪取することにあった」(243 ページ)。「グラナダの陥溶とセリムのエジプト征服により、アラブ世界は以後 400 年にわたる衰亡の時代に入る。以後オスマン帝国のスルタンはアラブを徴税の対象としか見なかった」(253 ページ)。なお、コンスタンティノーブル陥落の際、多数のギリシア人の学者・文人がイタリアに亡命した。これがルネサンスへの効果的な知的カンフル注射になったという。オスマン帝国はスレイマン 1 世の時代に最盛期を迎え、フランスと結び、ポルトガルやスペインと対立する。しかし、レパントの海戦でスペイン海軍に敗れる。オスマン海軍はすぐに再建されるが、これについて世界史ではあまり触れられない。だが、スルタンによる親征が止まると同時に、オスマン帝国の凋落が始まる。第一次中東戦争では、ばらばらに戦ったアラブはイスラエルに各個撃破されてしまった。エジプト軍再建に乗り出したナセルは、アスワン・ハイダムを建設し、スエズ運河の国有化宣言を出した。エジプト国民に歓喜して迎えられたナセルだったが、これは第二次中東戦争に発展し、ソ連が核兵器の使用をちらつかせたため、世界機器へとエスカレートする。
2015.11.17
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カリスマ論 今は、望むと望まないにかかわらず、すべてがカリスマのキャラクターと人気投票で決まります。(141ページ)著者・編者岡田斗司夫=著出版情報ベストセラーズ出版年月2015年11月発行著者は、自身がカリスマだと公言している岡田斗司夫さん。岡田さんの著作を読むのは、『いつまでもデブと思うなよ』以来である。最初にお断りしておくが、私自身はカリスマではなく、カリスマになるつもりもない。にもかかわらず、本書を購入したのは、ネット上で炎上を繰り返すカリスマ達が、どういう気持ちで人生を送っているのかを、少しでも知りたかったから。冒頭、堀江貴文さんや津田大介さんの有料メルマガや有料サロンを取り上げ、これらがカリスマはビジネスになると指摘する。「高い評価を得られる人間ほど、他人に強い影響を与えられる社会。これが『評価経済社会』です」(34 ページ)。第2章では、カリスマを 3 つに分類し、また、教祖やメンター、トレーナーなどとの違いを解説する。「カリスマというと、相手にものすごく強い影響力を与えて心身を縛る。自分の言う通りに相手を支配する、そんなイメージを持っかもしれませんが、それは教祖型やメンター型リーダーの特徴です」(60 ページ)などの解説は、論理的で分かりやすい。また、「カリスマの 4要素」を説明しており、これも分かりやすい。非カリスマの私から見たカリスマというのは、「お節介焼きの中2病のオタク」というイメージなのだが、これを良いイメージでとらえ直すと 4要素に当てはまるように感じた。第3章では、小カリスマの例として、1 件 50 円でどんな依頼も引き受ける「ホームレス小谷くん」、面白いことをやり続けることが仕事になった「旅人のジョー」を紹介する。そして、「カリスマはファンという土壌があってこそ成立する存在」(141 ページ)と指摘する。ここが分水嶺なのだろう。私は、ファンに支えられるという生き方はできない。ものを作り、そのものを使うユーザーに喜んでもらえれば、それでいい。ただ、岡田さんが書いているとおりが、ディズニーランドのキャラクターのように、ヒト以外もカリスマになり得るものだとしたら、私は自分が作った「もの」がカリスマになってほしい。自分が死んでも生き続けるカリスマに。第4章は、一見すると本書の主旨とは関係ない情報リテラシーの話題に転じる。ここからが、私が本当に読みたかったところである。岡田さんは、カリスマの行動原理は「自身の持つ強い影響力を行使して、世界を変えようとする」(62 ページ)だという。これが炎上の原因ではないか。さらに、カリスマの要件であるシナリオや思想性が不十分だから炎上するのかもしれない。岡田さんが書いているとおり、われわれ普通の人たちにとっては、世界は現象であり、「自分が関与したり、変化させたり、未来を予測できるものではありません」(65 ページ)。そこへ影響を与えるカリスマ(もどき)に対しては、強い違和感を覚える。第5章ではプーチン大統領や安倍首相を取り上げ、その政策が分かりやすく、キャラ立ちしていると指摘する。そして、「じっくりと政策についての自分の意見を持ち、何年かに一度の選挙で投票する。そういう行動はもう『コスパが悪い』んです」(200 ページ)と言い切る。ここが、私の考えと決定的に違うところだ。私はものづくりに生きている人間であるが、何かを考え、手を動かすためのコストパフォーマンスは度外視している。だから、カリスマが見せるシナリオを吟味するのに時間がかかるし、その間に退場してしまうカリスマが大多数だ。ネットでの炎上騒動が良いことだとは思わないが、結論を急ぐあまりにネット民を扇動しようとするカリスマは間違っている。岡田さんは「世界はカリスマで動いている」(206 ページ)と言う。確かにそうかもしれない。だが、私は子どもたちに、何度ミスしてもいいから自分の頭で考え、どんなに時間がかかってもいいから自分が決めた人生を歩め、と伝えたい。最後に、岡田さんは私たちのような非カリスマに、「楽しく生きるコツは、自分が誰かのサボーターになること」(215 ページ)とアドバイスしてくれている。その通りである。だが世の中には、楽しく生きるのではなく、どんなに苦しくても後悔しない生き方をしたいという、私のようなマイノリティが残っていることをお忘れなく。
2015.11.15
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COPPELION 24巻 成瀬荊「うちらが後始末をします。だから、みんなで幸せに生きてください」著者・編者井上智徳=著出版情報講談社出版年月2015年11月発行西暦 2036 年(平成 48 年)、お台場の原子力発電所で起きたメルトダウンにより東京は死の街と化していた。遺伝子操作によって放射能に対する抗体をもって生まれた高校生・コッペリオンたちは、生存者を救出するという困難な任務に立ち向かう。海ほたるに入った成瀬荊委員長一行は、イエローケーキと対峙。ついに渋谷の生存者達の救出に成功する。だが、「死神」の正体は一体何だったのか。そして、復活した伊丹刹那はどう出る。そして、コッペリオンたちは、最終目的地、お台場の石棺へ向かう。本巻では正気を取り戻した夏目総理と、政治家・鴎外官房長官の活躍が光る。
2015.11.10
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ムダヅモ無き改革(16) 「我が名はレオン・トロツキー。裏切り者の名をうけて、すべてを捨てて戦う男」著者・編者大和田秀樹(漫画家)=著出版情報竹書房出版年月2015年10月発行著者は『機動戦士ガンダムさん』『大魔法峠』でお馴染みの大和田秀樹さん。シリーズ累計250 万部を突破した政治+麻雀アクション漫画だ。麻雀仮面は小泉ジュンイチローではない!?世界の首脳が注目する親子げんか、ついに終結。
2015.10.13
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メカニックデザイナーの仕事論 アーティスト気質ではメカニツクデザイナーはやっていられない。(146ページ)著者・編者大河原邦男=著出版情報光文社出版年月2015年8月発行アニメ「タイムボカン・シリーズ」「ガンダム・シリーズ」でお馴染みの、日本初のメカニックデザイナーである大河原邦男さんが、自らの仕事について振り返る。大河原さんは、アニメのメカをデザインするだけでなく、アトリエの隣にある通称「大河原ファクトリー」でモックアップを作ることで知られている。本人は「モックアップを試作していくのには、別の理由もあります。私は絵がうまくないし、何枚も描くのが嫌なんです」(148 ページ)と謙遜するが、これが玩具メーカーの心を掴んで、何本ものアニメ作品を世に送り出してきた。大河原さんは、「空想のアニメだから、好き勝手にデザインしてもいいかというとそうでもない。私が心掛けているのは、たとえアニメの世界であったとしても『嘘のないデザイン』をすること」(20 ページ)と語る。漫画やアニメより機会が分解することが好きだった大河原少年は、東京オリンピックのポスターに触発され、東京造形大学の 1 期生として入学。当初はグラフィックデザイナーを目指していたが、すぐにテキスタイルデザイン科に変更し、オンワード樫山へ就職する。すぐに結婚し退職、奥さんの実家の近くにあるタツノコプロに転職する。タツノコプロでは中村光毅さんの下で背景を描いていたが、やがてメカのデザインを担当するようになる。その大河原さんをして「あ、この人には一生かなわないな」(183 ページ)と感じさせる中村さんは、「ニルスのふしぎな旅」「うる星やつら」「北斗の拳」「風の谷のナウシカ」「フレッシュプリキュア!」などの美術監督を務めたアニメ界の恩人だが、残念ながら 2011 年(平成 23 年)に 67 歳という若さで他界している。ガンダムのキャラクターデザインを担当した安彦良和さんについては、「ご本人は否定しますが、誰もが安彦さんを天才と言います。私もそう思います。あの口の悪い富野監督ですら安彦さんを天才と呼びますから」(188 ページ)と評する。監督の富野由悠季との不仲説については、「もし本当に仲が悪かったら、40 年も仕事を一緒にしません」(190 ページ)と笑いを誘う。大河原さんは、「私は仕事でないと絵を描きませんが、ものづくりは仕事抜きで大好きです」(206 ページ)という。そして、「ネジがたまらなく好き」とのこと。大河原さんが今も一線で仕事を続けられるのは、好きなことを仕事にしているからだと感じた。若い頃に、進路や仕事を変えるのは、一種の通過儀礼なのだ。そして、組織人であるから仕事を頼みやすいのだろう。大河原さんは、「アーティスト気質ではメカニツクデザイナーはやっていられない」(146 ページ)と指摘する。いま、世間では東京五輪のエンブレムは新国立競技場のデザインで揉めているが、大河原さんの仕事っぷりを見習ってほしいものだ。
2015.08.30
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侵略!イカ娘 第20巻 千鶴「そこいらにいる目障りな人間どもを一掃しましょうか」著者・編者安部真弘=著出版情報秋田書店出版年月2015年8月発行「海の家れもん」を拠点に、今日も地球侵略活動を続けるイカ娘。イカ娘は口笛が吹けない!? 三バカの新兵器とは?? 医療用ロボ登場!! イカ娘のあの能力が退化!?毎日が夏休みの「海の家れもん」に、今日もお馬鹿なメンバーが集う。20 巻、おめでとうございます!本巻ではイカ娘を取り巻くメンバーが大活躍。お巡りさんのドジッ娘ぶりも堂に入ってきた。また、任天堂から発売中の Wii U用ソフト「Splatoon」とのコラボポスターが綴じ込みになっている。このポスターに関連する話も収録されている。
2015.08.21
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機動戦士ガンダムさん(13の巻) セイラ・マス「しょーもない兄を持つ苦しみ‥‥わかります」 キシリア・ザビ「おお わかってくれる者がいたか!!」著者・編者大和田秀樹(漫画家)=著出版情報KADOKAWA出版年月2015年7月発行奇才・大和田秀樹によるトホホなガンダムワールド――35 年前のアニメに旬なネタがてんこ盛り。アニメ放送が終わってもコミックで快進撃!「4コマの章」では、1 年戦争から 15 年後、ハロ男とブライト・ノアが出会う。さりげなくハサウェイのネタを織り込むとは、さすが。「女医セイラの章」では、セイラさんのドSぶり全開。キシリアとセイラは、ともに「しょーもない兄」を持っていた! 妙に納得。「女医セイラの章」では、ブラックなブライト艦長の一人語りが暴走。まあ、普通の軍人だったら、そう思うわな。ホワイトベースの軍曹サンマロが、所々に登場するが、彼は歴とした看護兵。対してセイラさんは医療ボランティア。声を当てている塩沢兼人さんのブラックな方の声色で「医療行為のみならずカウンセリングもどきまでやり出しましたョ。相当調子乗っていますネ、この女」と言ってほしいですね。
2015.08.12
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魔法陣グルグル2(04) ジュジュ「クーちゃんは、ニケくんのアホな部分こそステキに見えるのよ」(144ページ)著者・編者衛藤ヒロユキ=著出版情報スクウェア・エニックス出版年月2015年6月発行勇者ニケと魔法使いククリによる魔法ギリとの戦いから(わずか)2週間――世界は再び魔王の力に屈しようとしていた。ニケ、ククリ、ジュジュの一行は、オーガスの町にいるミグミグ族に会いに行く。そこは、“軽く”呪われた町だった。ひのきの棒で戦う勇者ニケ。そして、ついに伝説のグルグル使いが‥‥例によって、装備も攻撃魔法もない勇者ご一行の活躍に心が洗われます。
2015.07.24
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レイヤー化する世界 近代ヨーロッパのつくった国民国家、それに基づく民主主義というシステムは、いま終わりに近づいています。おそらくこの古いシステムは、22世紀を迎えることはできないでしょう。たぶんこれからの数十年間で滅んでいきます。(173ページ)著者・編者佐々木俊尚=著出版情報NHK出版出版年月2013年6月発行著者は、IT と社会の変化を追っているジャーナリストの佐々木俊尚さん。本書の考え方の最も大きな土台になっているのは『〈帝国〉――グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』(アン卜ニオ・ネグり、マイケル・ハート=著、水嶋一憲=他訳。以文社、2003 年)という。佐々木さんは、国民国家という「古いシステムは、22 世紀を迎えることはできないでしょう。たぶんこれからの数十年間で滅んでいきます」(173 ページ)との予見する。まず、国民国家の成立を振り返る。「複数の民族やエリアをひとつに治めている国が帝国」(68 ページ)と定義したうえで、古代の終わりから中世にかけては帝国による平和の時代だったと述べている。そして、帝国の間には緩やかな交易ネットワークがあった。その後、ヨーロッパが強い軍事力を背景に世界支配に成功したのは、「国民が団結できたから」(101 ページ)と指摘する。だが、団結した結果、国家間の戦争が頻発した。「国民国家は『国民』がひとつであるということを維持するために、ソトに敵をつくりたがります」(122 ページ)ということもある。現代アメリカの外交を見ればうなずける。現代になり、国民国家に代わるのが、インターネットが提供する〈場〉だという。「インターネットはウチソトの壁を壊し、ただひとつの〈場〉のようなものをつくり、その〈場〉はインターネットに接続している限りすべての人びとに開放されていて、無限に広がっていきます」(174 ページ)というものだ。「国民国家のなかで全員が同じ好みを共有するという文化がほとんどなくなって」(183 ページ)きているため、製造業も大量生産ではなく、中世の家内制手工業へ逆戻りするだろうと予見する。インターネットという〈場〉では、さまざまな物事がレイヤーにスライスされていくという。たとえば インターネットというインフラのレイヤー。 楽曲や番組、本などが販売されるストアのレイヤー。 どんな音楽や番組が面白いのかという情報が流れる、メディアのレイヤー。 購入した楽曲や番組を、テレビや音楽プレーヤーやスマートフォンやパソコンで楽しむ という機器のレイヤー。 そして楽曲や番組そのものというコンテンツのレイヤー。(207 ページ)といった感じで、各々のレイヤーが横方向に繋がりをもつという。レイヤーは、いままでの人間関係や、仕事のやり方、価値観を覆す。いままでマイノリティだった人々は、レイヤーを乗り換えることによってマジョリティに変わる可能性があるという。そして〈場〉は国民国家に税金を払わないため、莫大な税金を必要とする国家の軍事力は衰退していくという。いままで国家間に存在していた賃金格差も徐々に消滅していく。しかし、〈場〉はバラ色の未来を約束するものではない。佐々木さんは、〈場〉は「目的がはっきりしないから、失敗することのほうが成功することよりも多い」(194 ページ)という。もしそうなら、わが国は失敗を許容する教育・社会にあらためていく必要がある。国家間の戦争はなくなるとしても、レイヤー間の紛争は止まないだろう。テロもあるかもしれない。そうしたとき、私たちを守ってくれるのは一体誰なのだろう。プライバシーが、国家から個人を守るために発達してきた概念なら、〈場〉ではプライバシーは無くなるだろう。ビッグデータからプライバシーを守ろうとする抵抗は無意味かもしれない。ネット上で愛国心をアピールするネトウヨの存在も、じつは旧時代人の最後の抵抗なのかもしれない。本書を読んでひとつ確かに言えることは、私たちは中世帝国の歴史を学び直すことで、不安な未来を少しでも予測可能な未来に変えることができるということだ。
2015.06.29
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サイエンス異人伝 20世紀科学のおもしろさを2つの国に代表させるとしたら、それはやはりドイツとアメリカということになる。(227ページ)著者・編者荒俣宏=著出版情報講談社出版年月2015年3月発行作者は、サラリーマンから作家に転身し、『帝都物語』で日本 SF 大賞を受賞した荒俣宏さん。1991 年(平成 3 年)から 93 年にかけて、荒俣さんが取材した、ドイツ博物館、スミソニアン博物館、プリンストン高等研究所などを中心とした、科学史の参考書である。チェスをするアンドロイド「ターク」や、グラハム・ベルとヘレン・ケラーの関係など、世界史の教科書では目にすることがないディープな西欧科学史を、400 ページという大ボリュームの本書で垣間見ることができる。
2015.05.26
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戦略は「1杯のコーヒー」から学べ! 藤岡「企業の目的は社会貢献であって金儲けではない。利益は手段であって目的ではない。企業の事業と社会貢献は、本来は同じものだ。分けて考えるべきものではない。社会貢献にビジネスとして取り組むことに意義がある。儲けがあるから続けられるのだ」(200ページ)著者・編者永井孝尚=著出版情報KADOKAWA出版年月2014年9月発行私はコーヒー好きだ。帯に、スタバ、ドトール、ネスレ、そしてマクドナルドやセブンーイレブンの名前まで踊っていたので、思わず手にとって読んでみた。読了し、美味しいコーヒーを 1 杯飲んで、自分の仕事を見つめ直すことにした。著者は、慶應義塾大学工学部卒業後、日本アイ・ビー・エムの製品プランナー、マネージャーとして 30 年間勤め上げて独立した永井孝尚さん。理系出身だけあって、エビデンスに基づいたマーケティング戦略論が展開される。面白いのは、ブラック金融会社を逃げ出した新町さくらを中心に展開する小説の形態をとっていること。ドリーム・コーヒーの社長に拾われた新町さくらは、コーヒー豆が入った麻袋が転がっている倉庫を改造した SP 室に配属になる。会社にほとんど姿を見せない室長の藤岡と、新規事業を任される羽目に。さくらがまず出会ったのは、ドリーム・コーヒーに低価格攻勢を仕掛ける高津珈琲。だが藤岡は、低価格路線で成功したドトールを引き合いに「鳥羽社長の考え方はシンプルだ。美味しいコーヒーを半額で提供しても、4 倍の顧客が来れば、売上は 2 倍」(39 ページ)と説明するものの、時代は変わり、「どんなに素晴らしい戦略でも永遠には続かないということだ。どんな戦略にも賞味期限がある」(46 ページ)と指摘する。さくらは新規事業を立ち上げるにはアンケート調査が必要だと主張するが、藤岡は「顧客に何がほしいかを聞いて、その通りにつくっても、顧客のためになるとは限らない」(66 ページ)と切って捨てる。「どうして DVD のリモコンが、こんなに使いにくいものになってしまったのか。それは顧客がほしいという機能を全部実現したからだ」(63 ページ)。さらに、自社農園から焙煎、コーヒーショップまでサプライチェーンを持つドリーム・コーヒーについて、「すべて自社でまかなっているというのは、能力にすぎない。問われているのは、その能力を活かして顧客にどんな価値を提供するかだ」(126 ページ)と言い切る。藤岡はさくらに、「もっとターゲットを絞り込んで、具体的に『こういう人』というところまで落とし込まなければ、自社らしさは出せないし、他社との差別化もできない。そうなれば、泥沼の価格競争に陥って疲弊するだけだ」(128 ページ)と畳みかける。そして、ついに DD プロジェクトが立ち上がる。藤岡とさくらに加え、お嬢様の町田南、無口だが分析能力に秀でている青葉大、熱血営業の永田兆司、高津珈琲を退職した玉川が加わる。藤岡は「企業の目的は社会貢献であって金儲けではない。利益は手段であって目的ではない。企業の事業と社会貢献は、本来は同じものだ。分けて考えるべきものではない。社会貢献にビジネスとして取り組むことに意義がある。儲けがあるから続けられるのだ」(200 ページ)と熱く語る。さくらは、「 コーヒー農園の人たちに、私たちの『夢の一滴』を届ければいいんだ!」(226 ページ)と閃く。経済的に貧しいコーヒー農園の人びとでもドリーム・コーヒーが飲めるような仕組みを整えられ、6 人が各々の個性を発揮し、DD プロジェクトは大成功。現実には、新規ビジネスがこんなにうまく行くことは希だ。著者の永井さんも日本アイ・ビー・エムで苦労したに違いない。だが、企業の存在目的が「社会貢献であって金儲けではない」ではないことには同意する。社会貢献できる企業が老舗となり、われわれは老舗を守るために購買行動する。その好循環が、わが国の強みであると信じる。
2015.05.25
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企業危機管理実戦論 「危機だ、リスクだ」と騒ぐ前に、「何の危機か」を正確に把握しておかないと、対応を誤ってしまう。(54ページ)著者・編者田中辰巳=著出版情報文藝春秋出版年月1999年5月発行著者は、リクルートに入社しリクルート問題に関わり、その後、企業危機コンサルタントとして独立した田中辰巳さん。さまざまな企業危機との対峙した経験から、現実的で緊迫感のある内容だ。冒頭、田中さんは、日本人が平和に慣れすぎており、「企業の人々の心には、どこか油断があるように思えてならない」(18 ページ)と語る。その結果、面倒な仕事を反社会勢力に依頼してしまうことになるが、「『正義のアウトロー』などいないと知るべき」(19 ページ)と警鐘を鳴らす。そして、意外なことだが、「渉外担当には、およそ体育会とはかけ離れた印象の人物こそ適任」(21 ページ)という。「言語が不明確で、“のれんに腕押し”のような、それでいて結構撤密な人」。「そんな人物を闇社会の住民はもっとも苦手としている」からだ。田中さんは、「『危機だ、リスクだ』と騒ぐ前に、『何の危機か』を正確に把握しておかないと、対応を誤ってしまう」(54 ページ)と指摘する。守るべきものを間違えた結果、ミドリ十字は姿を消し、ジョンソン&ジョンソンは存続し続けている。リスク管理の第一歩は、守るべきものを棚卸することである。私はシステム開発に携わっている立場上、設計書などの機密情報や、個人情報を毎年棚卸している。いままで漏洩したことはないが、こうして管理しておくことで万が一の時の訓練ができる。田中さんは「危機管理はマニュアルになじみません」(91 ページ)という。マニュアルは作業を標準化したものであるから、イレギュラーケースを扱う機器管理には馴染まないのだ。それより「部下の育成や危機意識の高揚を図るために自前で取り組むことをお勧めしたい」と低減する。また、危機に際しては「共通の敵」を作ることで組織を結束できると説く。怪文書に対しては、句読点の位置を変えるなどの「ホクロ作戦」をとり、流通ルートを特定する。犯人には炙り出した結果を伝えるだけで十分という。田中さんは、「起きることを前提とした予防」(115 ページ)が大切と説く。しかし、多くの経営者は、起こさない努力をすることに注力してしまうという。また、「危機管理が難しいのは、限られた情報の中で、早い判断を求められ、やり直しがきかないから」(122 ページ)と指摘する。だから、その時点でベターな選択をとるしかなく、マスコミのコメンテーターなどがベストとされる「タラ・レバ」を突きつけるのは酷だという。田中さんが言うように、危機管理にマニュアルは無い。だとすると、日々のニュースに目を通し、自分が勤めている会社のについて、常に客観的に分析できる姿勢でいることが大切だと思った。
2015.05.12
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COPPELION(23) 「ここが東京なんだ‥‥俺は‥‥20年ぶりに東京(ここ)へ帰ってきた‥‥!」(夏目総理)著者・編者井上智徳=著出版情報講談社出版年月2015年5月発行西暦 2036 年(平成 48 年)、お台場の原子力発電所で起きたメルトダウンにより東京は死の街と化していた。遺伝子操作によって放射能に対する抗体をもって生まれた高校生・コッペリオンたちは、生存者を救出するという困難な任務に立ち向かう。アニメ放映は終了したが、漫画は続く。潜水艦「幻龍」が羽田沖に到着。しかし、救出すべき人びとがいない。Dr.コッペリウスや夏目首相が味方に付くなか、黒澤遥人が帰還する。忘れもの係との決着は? お台場原発は再臨界しているのか? 成瀬荊らは海ほたるへ向かう。
2015.05.02
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荒れ野の40年新版 罪の有無、老幼いずれを問わず、われわれ全員が過去を引き受けねばなりません。だれもが過去からの帰結に関わり合っており、過去に対する責任を負わされております。著者・編者リヒアルト・フォン・ヴァイツゼッカー=著出版情報岩波書店出版年月2009年10月発行
2015.03.30
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聖☆おにいさん(11) 「書(コミック)ではなくアニメ版『頭文字D』を見ることで‥‥内道をはずれ外道を走ることすら怖くなくなったのです!」(サーリプッタ)著者・編者中村光=著出版情報講談社出版年月2015年2月発行ユダは生前、銀貨30 枚で地上に畑を買っていた。サーリプッタは運転免許をとったが、アニメ版『頭文字D』に感化され。イエスのカメラロールは自撮りばかり。動物が大好きノアは週末になると多摩動物公園へ――。神も仏も立川にいる!
2015.03.10
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侵略!イカ娘(19) 私もエビで鯛を釣るでゲソ!(イカ娘)著者・編者安部真弘=著出版情報秋田書店出版年月2015年3月発行「海の家れもん」を拠点に、今日も地球侵略活動を続けるイカ娘。たけるが非行少年に!? 宿敵に再戦を挑むイカ娘!! 渚ちゃんが魔法少女に変身?? シンディが転職活動!?毎日が夏休みの「海の家れもん」に、今日もお馬鹿なメンバーが集う。作者によると、本巻からフルデジタルへ移行。液タブになれずに歪んでしまったキャラの顔を、単行本化の際に書き直したという。その努力と根性に脱帽です。いよいよ次は 20 巻! 応援してます!!
2015.03.09
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スリジエセンター1991 鏡「日本の未来がかかっていようが、世界が破減しようが、そんなことは知ったこっちゃねえ。オイラにとって大切なのは目の前の患者のいのちだけだ。」(357ページより)著者・編者海堂尊=著出版情報講談社出版年月2012年10月発行手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城雪彦は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・モーターズ会長の公開手術を目論む。『ブラックペアン 1988』『ブレイズメス 1990』を続くから連なる「ブラックペアン」シリーズが完結。医局長に指名された世良雅司は、高階権太・講師と天城の対立に巻き込まれながらも公開手術を終えると、新入医局員を迎える。そのなかに、若き日の速水晃一がいた。速水は初日から遅刻する一方、すさまじいスピードで外科手技をマスターしてゆく天才だった。ウエスギ・モーターズの上杉会長は公開手術を断るが、天城が行う医学生の講義へ出席する。そこで、5 年生の彦根新吾が天城に食ってかかる。そんな中、佐伯病院長は大胆な病院改革をぶち上げる。高階講師と藤原婦長がタッグを組み、反旗を翻す。国際心臓外科学会の公開手術では、天城のピンチを高階が救う。反目する 2 人ではあったが、患者を救うという使命感を帯びていた。一方、桜宮市ではデパートで火災が起き、多数の怪我人が東城大学病院へ搬送されていた。留守番の速水は、血染めの白衣を身に纏い現場の指揮を執る。天城はスリジエセンターをオープンできるのか。高階が起こした反乱に翻弄される佐伯外科の運命は。そして、日本の医療の未来はどうなるのか。ソ連が崩壊した 1991 年(平成 3 年)冬、すべてが新しい方角へ向かって動き始める。
2015.02.24
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大型商談を成約に導く「SPIN」営業術 大型商談で重要なのは、どれだけ多くの潜在ニーズを発見できるかではなく、発見したあとにそれをどう料理するか、なのだ。(78ページ)著者・編者ニール・ラッカム=著出版情報海と月社出版年月2009年12月発行著者は、行動心理学の研究者からセールスに関するコンサルティングやトレーニング、セミナーを手がけるハスウェイト社を創業したニール・ラッカムさん。タイトルの通り、大型商談を成約に導くノウハウを解説する。大型案件を扱うプロジェクトマネージャやシステム営業におすすめの 1 冊だ。冒頭で、「低額商品のセールス(小型商談)で彼を成功に導いたスキルは、高額製品のセールス(大型商談)では逆に成功をさまたげる要因となっている」(10 ページ)とバッサリ。そして、「大型商談では、むしろ感情の方が大きな影響力をもっているのではないか」(29 ページ)と指摘する。感情を動かすためには質問が重要と指摘する。「商談で質問をする目的は、顧客のニーズを見つけだし、育てること」(69 ページ)だからだ。ラッカムさんは、第4章冒頭で、セールスマンによる顕在ニーズと潜在ニーズの掘り起こしの事例分析を行い、「大型商談で重要なのは、どれだけ多くの潜在ニーズを発見できるかではなく、発見したあとにそれをどう料理するか」(78 ページ)と指摘する。そして「大型商談における質問の目的は、潜在ニーズを見つけだし、それを顕在ニーズに発展させること」(86 ページ)とアドバイスする。潜在ニーズを顕在ニーズへ発展させるためには、「発展のための質問」が必要だ。ここで本書のタイトルとなっている「SPIN(スピン)」の正体が明かされる。4 つの質問「状況 Situation」「問題 Problem」「示唆 Implication」「解決 Need-payoff」の頭文字をとると、SPIN となる。示唆質問とは「買い手がたいしたことはないと思っていた問題を、アクションを起こすに足る大きな問題だと認識させる」(112 ページ)ことだ。示唆質問と解決質問の実例をあげながら、わかりやすく解説している。売り手は状況津指紋を使って背景情報をつかみ、次に問題質問を使って買い手の潜在ニーズを見つけ、示唆質問を使って買い手に問題の重大さを認識させ、解決質問を使って書いてから顕在ニーズを引き出し、買い手自身に求めているものやその効用をいわせ、商談成立へ導くのだ。顕在ニーズを引き出せたら、次に「利点」ではなく「利益」をアピールするといい。利益とは、特徴や利点では無く、「見込み客の口にした顕在ニーズに商品がどう応えられるかを示すこと」(154 ページ)だ。ラッカムさんは、「小型商談では「利点」をたたみかけることが成功につながる。しかし大型商談では、「利点」にプラスの効果はない」(193 ページ)と指摘する。「売り手がニーズを育て上げる前に解決策を提供」(184 ページ)してしまうため、利点を口にすると顧客は反論するというのだ。また、「セールス・トレーニングはクロージングに重点を置きすぎてきた」(243 ページ)としたうえで、「顧客から約束をとりつける効果的な戦略の第一は、『商談の調査段階に力を注ぐ』」(245 ページ)としている。最後に、本書のまとめと、SPIN の効果測定の研究レポートが付随している。小型商談と大型商談でセールスの方法が違うことは感覚的に分かっていたが、本書を読んで、理論的な補強がなされた。
2015.02.22
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そんな謝罪では会社が危ない 『謝罪が下手な』というより『謝罪すら満足にできない』会社の末路は、あまりにも哀れである。(51ページ)著者・編者田中辰巳=著出版情報文藝春秋出版年月2006年10月発行著者は、リクルートで企業危機を体験し、危機管理の専門企業を設立した田中辰巳さん。冒頭で「危機管理のカギは「お詫び」がにぎっていると言っても過言ではない」(13 ページ)と述べ、なぜ企業は謝罪が下手なのかを解説してゆく。田中さんは、「論語のなかに『(子日く、)過ちて改めざる、これを過ちと謂う』という孔子の言葉がある。この『過ちを犯すことより、犯した過ちを改めないのが過ちなのだ』という言葉を、私は問題を起こした企業のトップに幾度となくお伝えしてきた」(28 ページ)という。すべては、この言葉に集約されている。また、「危機管理には手順書という意味でのマニュアルは存在しない」というが、謝罪と赦しは、コンサルタントが示した手順通りに進むとは限らない。コンサルタントとしてのリスクヘッジだろうが、本書は、それを割り引いたとしても、必要十分な内容となっている。第1章では、「許されないお詫び」10 分類について、実例を挙げて解説する。ソフトバンク BB の個人情報漏洩事故、ダスキンの肉まんスキャンダル、三菱自動車のリコール隠しなど、企業による情報隠蔽は最悪だ。田中さんは「『謝罪が下手な』というより『謝罪すら満足にできない』会社の末路は、あまりにも哀れ」(51 ページ)と厳しい。賠償については、「一般的には『謝罪』や『処分』が終わってから、最後にダメ押しとして『賠償』を行う。言いかえると、ある程度許してもらった段階で申し出るのが普通である」(101 ページ)とアドバイスする。500 円の商品券ありきで処理したソフトバンク BB の個人情報流出事件から後、多くの企業が情報漏洩テロの標的にされたと指摘する。確かに個人情報管理のコストは洒落にならない額となっている。ソフトバンク BB の罪は重い。「処分のともなわない謝罪」では、トップの引責辞任の効用を述べる。「けじめ」では、せっかくの効果が失われるばかりか、追求と批判は収まらない。第2章では、謝罪に直面したときの企業のために、『心・技・体』の研鑚法とあるべき姿について解説する。田中さんは、記者会見は社会的制裁を受ける場であり、これを回避すると法的制裁が待っていると指摘する。逆に、記者会見を利用し、すべての情報を開示してしまえば、司直の手が及びにくくなるという。新しい証拠が出なければ、逮捕や起訴がしにくいからだ。技については、「たんなるテクニックではなく、宗教や哲学に近い思考を根底に置く技が必要」(147 ページ)という。また、「落としどころを定めた上で謝罪会見を聞くべき」(163 ページ)、「十分な贖罪なき謝罪はまったく効果がなく、いつまでも終わらない」(185 ページ)とアドバイスする。また、効果的な謝罪記者会見として、『西部警察』のロケ中に起きた自動車の暴走事故で見物客に重傷者を出したことに対する、石原プロモーションの会見を挙げている。
2015.02.13
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捨てる力 山ほどある情報のなかから、自分に必要な情報を得るためには、「選ぶ」よりも「いかに捨てるか」のほうが重要。(105ページより)著者・編者羽生善治=著出版情報PHP研究所出版年月2013年2月発行50 歳を目前にして、記憶力や集中力が衰えてきた。仕事のスタイルを変えるべきかと悩んでいたのだが、5 歳年下の羽生善治さんがどう考えているのかを学ぶことにした。棋士という仕事は、私よりはるかに厳しい頭脳労働だと感じたからである。羽生さんは、「覚えている必要がなくなったものはどんどん忘れていかないと、新しいものが入らない。そういう意味で忘れるようにしています」(33 ページ)と言う。その通りである。さらに、「年齢的に記憶力が落ちたところは、『覚える』ことを『思い出す』ことにシフトすれば対応できる」とアドバイスしてくれる。なるほど。その一方で、「年齢を重ねると、知らないうちにブレーキを踏んでいることが多いので、意識してアクセルを強く踏み込むということをしなければなりません。そうしないと、知らないうちに減速してしまう」(65 ページ)とも書いている。そして、「『誰もずっと安全な場所にい続けることはできない』と考えれば、前を向くしか方法はなくなります」(124 ページ)とアドバイスする。歳をとると、たしかに「不安に襲われた時に、自信のある人はそこで動じない。自分のやり方を信じて、方向を間違わないで、そのまま進んでいけます」(178 ページ)ということはある。「山ほどある情報のなかから、自分に必要な情報を得るためには、『選ぶ』よりも『いかに捨てるか』のほうが重要」(105 ページ)という。私もネットの海に溺れないようにしたい。本書を読み終わって、安心して 50 歳を迎えることができそうだ。
2015.02.07
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ボクには世界がこう見えていた 薬物療法は僕をおとなしくさせたが、同時に創作者としてもっとも大事な想像力まで奪われたような気がしてならなかった。(182ページ)著者・編者小林和彦=著出版情報新潮社出版年月2011年11月発行著者の小林和彦は 1962 年生まれ。早稲田大学アニメーション同好会からアニメーション制作会社「亜細亜堂」に入社し、アニメーター、演出家として「魔法の妖精ペルシャ」「魔法の天使クリィミーマミ」「うる星やつら」などの作品に携わった。しかし、1986 年 7 月に幻覚妄想状態に陥り、精神神経科に入院。本書は、精神病者として体験したことが子細に綴られている。当時、小林さんと同じ同じテレビやアニメ番組を見て、同じニュースに接し、現在ではトンデモ本に分類される書籍を読んだ者とし、ヒトとしてどこに正気と狂気の境があるのか、自分の常識が揺らぐ強烈な内容であった。小林さんは、「現実世界でできないことはアニメーションでもできない」(101 ページ)と、きわめて常識的な考えをもっている。一方で、アニメーションで体制を変えようという革命思想を持ち続け、「1986 年の上半期は、他にも大きな事件・事故が相次いで起こり、僕はそれをハレーすい星の影響と考えていた」(56 ページ)。とはいえ、その主張を出版したり団体を立ち上げたりするトンデモさんではなく、アニメーションという手段を使って社会にアピールしようという真っ当な考えをもっている(当時そういうアニメを作れば人気が出たに違いない)。だが、突然、病気に襲われる。「立ち上がると、世界が変わってしまった。空はオレンジ色になり、建物や地面はあやふやで、手や足がそれらを通り抜けてしまうのではないかと感じ、すべてのものが自分への脅威となった」(116 ページ)。そして、仕事を休み、病院へ入院することになる。少し長いが、小林さんの意見を引用する――。薬物(化学)療法は確かに有効で、僕は発狂という恐怖のどん底からは救われたが、同時につかみかけていた真実からも遠ざかってしまった。だから入院が正解だったかどうかは今もってよく分からない。7 月の末に僕が挑んだ真実探求の冒険は、ウヤムヤのままで中断してしまい、再開できる日が来るとは思われなかった。平穏を得た代わりにパワーをなくしてしまったのだ。もっとも医者をはじめ、世の常識人は、それでいいのだ、真実を知ることなど人間が生きていく上でプラスにはならない、と思っているだろうが、というより、僕が覗こうとしていたのは真実でも現実の究極の姿でもなく、ただの幻だと言うだろうが。薬物療法は僕をおとなしくさせたが、同時に創作者としてもっとも大事な想像力まで奪われたような気がしてならなかった。これが病院の目指している患者の社会復帰というものなのか。僕は大いに疑問を感じてしまう。社会や体制(病院はその象徴)に対して反抗していたものを、薬の力で無理矢理、おとなしく無気力な人間に変えるための洗脳ではないかという思いはいまだに払拭されない。(182 ページ)――小林さんの体験が幻覚・妄想だと言うことはたやすい。だが、クリエイターの頭の中から幻覚・妄想の類いを取り除くことが、本人にとって果たして幸せだろうか。退院した小林さんは亜細亜堂に復帰するが、自分の創作能力がないと判断して退職してしまう。その後も小林さんは何度か入院するが、精神病の状態を肯定的に受け入れる。「それを矯正するのではなく、うまく人と折り合いをつけて、入院せずに暮らしていきたい。暴力をふるったり、人に迷惑をかけたりさえしなければできるはずだ」(210 ページ)。そして、精神科医が言った「妄想しても仕事ができればいい」という言葉を大切にしている。「大事なのは病気を治すことではない。仕事をすることなのだ」(214 ページ)
2015.01.29
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タブーすぎるトンデモ本の世界 差別をする者はたいてい、自分の行為が間違っていると思っていない。むしろ、タブーに挑戦する自分をかっこいいと感じ、酔っているふしがある。だが、実際には無知で、頭が悪い。(287ページ)著者・編者と学会=著出版情報サイゾー出版年月2013年8月発行と学会が、タブーとされてきた皇室や宗教、右翼・左翼、ヤクザ、病気と食から、政治と差別、芸能界やオカルトまで、「アブナイ」作品を厳選してツッコミを入れる。冒頭、「タブーにされてきた話題には、触れてはいけない何らかの理由があったわけで、何でもかんでも破ればいいというものじゃない」(2 ページ)と注意したうえで、トンデモ作品の紹介が始まる。幸福の科学の霊言集は読んだことはないが、「明治です」「アマテラスです」と自己紹介するとは、いやはや。大川隆法総裁は、前妻との離婚が成立するやいなや 29 歳年下の才女と再婚し、タブーとされる皇室や宗教の霊言集を矢継ぎ早に出版している。Twitter でウヨク/サヨクのレッテル貼りが盛んだ。山本弘一さんは、「車の運転ができない者を『ドライバー』とは呼べないように、ネットを正しく使いこなせない者を「ネット右翼」と呼ぶべきではない」(109 ページ)と断じる。私も「ネトウヨ」というレッテルを貼られたが、ネットを使いこなしている点は同意するとして、左翼教育全盛期に育った人間を果たして「右翼」と呼んでいいものか。本書にも引用されている一水会の鈴木邦夫さんに失礼ではないかと思う。さらに「本当の自由はこんな平凡な人間であるはずがないと言う切実な願い、現実と理想の落差が、『何ものかが自分から幸福を奪っている』という妄想に発展するのだろうか」(110 ページ)と分析する。これは鋭いと思った。また、嫌韓と放射脳の共通性を指摘し、認知的不協和の心理で説明する。すなわち、放射脳は、実際のリスクは小さいのに、それを過大なものを信じようという認知的不協和を抱えている。「放射能に関する不安を煽る情報を信じ、拡散することで、不協和を解消し、安心感を得る」(147 ページ)のだという。嫌韓レイシストの心理も同じだと指摘する。「医療と食を扱ったトンデモ」では、自称、電磁波過敏症の人がアルミ箔で電磁波を防げると主張していることから、電磁波測定器を金属網で包んで、さらにアルミホイルでくるんだ上、電子レンジとの間に鉄板を置くという実験が行われた。結果、電磁波を防ぐことができなかった。話題は北朝鮮にも及ぶ。『銀河英雄伝説』『サイレントメビウス劇場版』などの下請けをしている北朝鮮アニメーションの技術力は非常に高いが、国内では子ども向け作品史か作れないため、人を殺すシーンがやたらにリアルだという。YouTube にある動画を見てみると、確かにヌルヌル動く。「あとがき」で山本弘一さんは、「差別をする者はたいてい、自分の行為が間違っていると思っていない。むしろ、タブーに挑戦する自分をかっこいいと感じ、酔っているふしがある。だが、実際には無知で、頭が悪い」(287 ページ)と断じる。いま現在、フランスのシャルリー・エブド紙がムハンマドの風刺画を描いて問題になっている。彼らも、そして我々も、「無知で、頭が悪い」ままでいいわけがない。
2015.01.28
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比べてわかる!フロイトとアドラーの心理学 部分より全体、原因ではなく目的、過去より今。これらを重視するのが、アドラー心理学と森田療法の共通点です。(129ページ)著者・編者和田秀樹=著出版情報青春出版社出版年月2014年8月発行著者は、精神科医で、老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学を専門に扱う和田秀樹さん。フロイト、アドラー、ユングの学説の違いが分かると共に、アドラー心理学と森田療法との類似性を再認識した。序章から分かりやすい。脳と心の関係について、「臓器としての脳細胞や神経伝達物質が『脳のハードウェア』だとすれば、心は『脳のソフトウェア』ということになる」(22 ページ)と定義したうえで、薬を使って治療する生物学的精神医学の対象は脳で、薬を使わない臨床心理学の対象は心だとする。また、神経症について「ハードの部分には何も問題がないのに、あたかも神経に問題があるかのような症状が出る」(24 ページ)と解説する。第1章、第2章では、フロイト、アドラー、ユングの人となりについて解説する。厳格な家庭に育ち、なんでも性欲で説明しようとしたフロイト。トロツキーと交友のあった女性を妻に迎え、貧しい労働者を診察しながら、劣等感コンプレックスという概念を打ち立てたアドラー。正妻と愛人を同じ家に住まわせるなど自由奔放な生活を送りながら、無意識のルーツを神話や古代思想に求めていったユング。三人三様の考え方が、現代の臨床心理学を築いていると言えるかもしれない。和田さんは、フロイトの治療を原因追求型、アドラーを目的型としたうえで、アドラーと同じ時代に日本で活躍した「森田療法」で有名な森田正馬を取り上げる。そして、「部分より全体、原因ではなく目的、過去より今。これらを重視するのが、アドラー心理学と森田療法の共通点」(129 ページ)と整理する。そして、「森田療法やアドラー心理学は、単に『心の病を治す精神療法』ではありません。より積極的に相手を『元気にする心理療法』だといえるでしょう」と評価する。一方、症状の重いボーダーライン患者には、森田療法やアドラー心理学では治療が困難なようで、今後もフロイトの影響は残り続けるだろうとしている。第5章で大和田さんは、現代社会に必要な心理療法の基本方針を 3 つ挙げている――思い込みから解放し、対人関係を良好にし、感情をコントロールすること。言われてみれば当たり前のことばかりだが、健常人でもこれらを実践できている人は少ないのでは無いだろうか。大和田さんは、謝罪会見で堂々とした態度で口から出まかせのような言い訳を並べ立てたりする人物がパーソナリティ障害ではないかと疑念を呈します。「アドラー流の目的論でいえば、そういう人は会見でどんなに厳しい質問を受けても、嘘をつくのをやめないでしょう」(153 ページ)と指摘します。また、原則的に治療不可能な反社会性パーソナリティ障害(サイコパス)は「最悪の殺人だけは法律の力で食い止めたいところです」(155 ページ)と述べる。また、学校のいじめ問題については、「アドラーのいうように、別のことで注目される、以前のような成績優秀者やスポーツなどで評価されるシステムが再確立されるほうが望ましいかもしれません」(167 ページ)と意見提起する。
2015.01.05
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COPPELION(22) だから女は嫌いなんだ(Dr.コッペリウス)著者・編者井上智徳=著出版情報講談社出版年月2014年12月発行西暦 2036 年(平成 48 年)、お台場の原子力発電所で起きたメルトダウンにより東京は死の街と化していた。遺伝子操作によって放射能に対する抗体をもって生まれた高校生・コッペリオンたちは、生存者を救出するという困難な任務に立ち向かう。アニメ放映は終了したが、漫画は続く。東京ステーションホテルでの「忘れもの係」戦いが終わり、成瀬荊は Dr.コッペリウスの秘密を知る。伊丹刹那のクローンを作った目的とは。一方、羽田空港へ向かう野村タエ子たちの前にイエローケーキが立ちはだかる。舞台は秋葉原に移り、Dr.コッペリウスとの決戦が幕を切って落とされる。コッペリオンは核戦争を止めることはできるのか!?
2014.12.09
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ムダヅモ無き改革(14) ダライラマ「旧き邪教(共産主義)とともに滅せよ毛沢東!!」著者・編者大和田秀樹(漫画家)=著出版情報竹書房出版年月2014年12月発行著者は『機動戦士ガンダムさん』『大魔法峠』でお馴染みの大和田秀樹さん。シリーズ累計230 万部を突破した政治+麻雀アクション漫画だ。舞台は前巻に引き続き尖閣諸島沖――毛沢東とダライラマの闘いに決着がつく。ダライラマの究極奥義で、牌に砂曼荼羅が。毛沢東の来世とは。そして、大将として登場したレーニンのおヒキは、あの人ではないか!内容がヤヴァすぎて輸出は不可能、加えて麻雀ルールもガン無視の抱腹絶倒漫画は続く。
2014.12.06
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高野山 虚空尽き、衆生尽きなば、涅槃尽き、我が願いも尽きん(125ページ)著者・編者松長有慶=著出版情報岩波書店出版年月2014年10月発行夏休みに高野山と比叡山を訪れたので、復習の意味で本書を手にした。著者は、高野山大学名誉教授で高野山真言宗管長の松長有慶さん。高野山を訪れて意外だったのは、ごく普通の田舎町に見えたこと。「現在の高野山は人口およそ二千数百人。そのうち僧侶はほぼ一割、大多数は在家の人々によって構成されている」(13 ページ)そうである。学校からコンビニまで何でもある。もうひとつ、「比叡山は山頂に立てば、東は琵琶湖、西は京都の市街を遠望することができる」(15 ページ)のだが、高野山は盆地になっており外界を見下ろすことができない。「このように異なった地形の中で生まれ、育った真言・天台両宗の歩んだ足跡は、対照的な歴史をそれぞれが刻んできた」(15 ページ)ということである。そして、高野山奥之院にある膨大な数の墓に驚かされたが、他宗派の創始者の墓まである。これは「異端者であっても、反逆者であっても、みんな知らぬうちに包み込み抱き取ってしまう真言密教の包摂の原理」(56 ページ)によるものだという。「真言密教では、人間と自然は対立関係にあるのではなく、ミクロコスモスとしての人間と、マクロコスモスとしての大自然とは、本質的に一体、不二の関係においてあると考える」(118 ページ)という。これはキリスト教に似ているが、日本人は「物質にいのちを認める」。空海は 835 年に 62 歳で死去するが、醍醐天皇の治世である 921 年 10 月、朝廷から弘法大師という贈り名が届けられた。「このころから、大師は高野の山に今もいまして、人々に救いの手を差し伸べられておられるという入定留身の信仰が、日本全国に広がっていく。」(123 ページ)仏教宗派の中で、開祖が生きて人々を見守っているという信仰をもつ人物は弘法大師に限られる。それは、大師が 832 年、「虚空尽き、衆生尽きなば、涅槃尽き、我が願いも尽きん」(125 ページ)という壮大な願いをかけたことによるという。生きとし生けるものがいる限り、大師の救済活動は続くというのだ。空海の死後、高野山は何度か盛衰を繰り返すが、1023 年に藤原道長が参詣すると、上皇や貴族の高野詣でが流行するようになる。そんな中、高野山は念仏も禅も受け入れた。南北朝の動乱期、高野山は両陣営の勧誘を退け教学の研究に邁進し、室町時代に「応永の大成」と呼ばれる真言教学のピークを迎える。松長さんは「あとがき」で「社会性と非社会性を一人の人格の中で見事に融合させた大師の生涯は、複雑な問題を抱えた社会を生きる現代人に、今なお理想的な生活規範の一端を示しているとみてよい」(223 ページ)と結んでいる。バーチャルリアリティがいくら進歩したとしても、高野山に一度登ってみないと味わえない感覚である。
2014.12.01
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首都水没 地震対策と洪水対策とは根本的に異なります。(238ページより)著者・編者土屋信行=著出版情報文藝春秋出版年月2014年8月発行著者は、東京都で道路、橋梁、下水道、まちづくり、河川事業に従事してきた土屋信行さん。その豊富な経験と、江戸時代からの歴史を紐付け、水害に対する首都の脆さを説く。東京都民としてゲリラ豪雨の時に地下鉄が水没するのを経験しているので、たいへん身近な問題だ。冒頭で、「ゲリラ豪雨が山の手台地にやってくると、水害を起こす可能性がある」(16 ページ)と指摘する。武蔵野台地を流れる神田川や石神井川などは勾配が急なため、降った雨がすぐに集まってきて、短時間に水位が上がる。「ゲリラ豪雨で、気をつけなければならない場所は、中小河川を暗渠化して道路にした所や、その周りに建設された住宅地、溜め池だった所を埋めたてて住宅地にした所など」(26 ページ)という。ひとたび東京で洪水が起きると、「東京の地下を繋げているのは地下鉄だけではありません。共同溝も洪水時に浸水を広げていく可能性」(51 ページ)があるという。江戸時代の土木工事で、利根川の流れは東へ移動したが、その水は、「堤防一枚で東京から銚子の方へ無理矢理流している」(84 ページ)と指摘する。いざ洪水となれば、旧来の川筋に沿って水が流れるため、東京東部は、あっという間に水浸しになってしまう。さらに問題なのは、首都の治水に具体策がないことだ「治水に関しては、気候変動による降雨強度が増えるという地域ごとの計算をしているものの、それを具体的な河川の整備計画に反映していない」(72 ページ)。土屋さんは、「祭りという統一目標に向かって地域の住民が集まり協力をすることが、実は災害対策になっています」(88 ページ)と指摘する。「祭りで重い神輿を共に担ぐこと、その準備のために顔見知りになることなどが、実際に洪水が起こったときの地域を挙げての協力体制を、日常的につくり上げることになる」という。土屋さんは、「すべての自治体に、地震、水害などの災害対策を専門的に担当できる技術職員がいる訳ではありません」(214 ページ)、「自治体ごとの判断が異なり、そのために犠牲が出れば自治体への非難となってしまう」(215 ページ)と指摘する。そこで、「避難勧告も避難指示も、国から発令されることが必要」(224 ページ)と提案する。東日本大震災以降、BCP を検討する企業・自治体は多いが、土屋さんは「地震対策と洪水対策とは根本的に異なります」(238 ページ)と指摘する。「地震対策で準備してきたことが洪水対策では役に立たなくなることがあります」。そして最後に、「宰相ビスマルクは『賢者は過去の歴史に学び、愚者は己の経験に学ぶ』と言いました。まさにこのことが、いま東日本大震災から学ばなければならないことだと思うのです」(243 ページ)と締めくくる。大震災発生時の帰宅ルートは確保したが、通勤途中で洪水に遭ったときにどう行動するか、考えておかなければならない。
2014.11.30
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侵略!イカ娘(18) 侵略の秋! きのこ狩り、もみじ狩り‥‥(イカ娘)著者・編者安部真弘=著出版情報秋田書店出版年月2014年11月発行「海の家れもん」を拠点に、今日も地球侵略活動を続けるイカ娘。早苗が3バカにスカウト? 侵略部の部長は誰に? 愛子先生はつまらない大人? イカ娘がケータイデビュー? イカ娘がホームレスに?あとがきによると、第342話からフルデジタルに移行したとのこと。デジタルとネットを活かして、読者とのコラボが出来たりすると面白いのではないでしょうか。この読者は、電子書籍より紙の漫画を買って読むことを至上の喜びとしておりますので、そこのところもヨロシク!頑張れ安部先生! 読者の頭は今日も夏休みでゲソ!
2014.11.09
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機動戦士ガンダムさん(12の巻) 「仕方ないからアムロに出撃しろと言ったら拒否しやがった。マジありえん」(ブライトさん)著者・編者大和田秀樹=著出版情報KADOKAWA出版年月2014年10月発行奇才・大和田秀樹によるトホホなガンダムワールド――35 年前のアニメに旬なネタがてんこ盛り。アニメ放送が終わってもコミックで快進撃!「4コマの章」では、iPhone6 とネオ・ジオングが登場。旬なネタを逃さない。司令のザクさんとガンダムさん、ついに最終決戦へ。ブライト航海日誌では、ブライトさんの深層心理に迫る!ホワイトベースの司厨長の名前がタムラだったなんて、すっかり忘れていました。そういえば、カイさんにつまみ食い疑惑をかけられていましたね。
2014.11.04
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魔法陣グルグル2(3) 今回(グルグル2)はいける!! キタキタ踊りで世界を救える!!(キタキタおやじ)著者・編者衛藤ヒロユキ=著出版情報スクウェア・エニックス出版年月2014年10月発行勇者ニケと魔法使いククリによる魔法ギリとの戦いから(わずか)2週間――世界は再び魔王の力に屈しようとしていた。キタキタおやじとともに座ビーナ山のダンジョンに入ったニケとククリを待ち受けるモンスターは!? おともだち召喚で登場する懐かしいキャラたち。ついでに、タテジワねずみも合体進化!3 巻にして早くも魔王が登場。ククリが奪われた友だちとは!?
2014.11.03
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千年企業の大逆転 老舗の最大の敵――、それはまぎれもなく戦争である。(30ページより)著者・編者野村進=著出版情報文藝春秋出版年月2014年8月発行著者は、ベストセラー『千年、働いてきました』の野村進さん。冒頭で「日本は、文句なしに『世界一の老舗大国』」(25 ページ)と指摘する。創業 200 年を超える老舗は、日本には約 3 千ある。日本に次ぐのはドイツだが、約 800 と彼我の差がある。韓国を含む朝鮮半島はゼロ、中国は 6、インドは 3 しかないという。野村さんによると、「被侵略や内戦の期間が長ければ長いほど、その国に老舗は残らない」(28 ページ)という。日本国内でも、「老舗企業率のトップは京都だが、最下位は沖縄」(29 ページ)という地域差がある。本書では、そんな老舗から 5社を選び、経営者の考え方や人となりを突っ込んで紹介している。新撰組に御用の縄を納めていた近江屋ロープの野々内達雄社長は、「ひとりのユーザーさんを心底満足させられたら、ほかのおおぜいのユーザーさんのご希望にもきっと応えられるはず」(43 ページ)と語る。野村さんは、「代々家業としてきた本業を守り、かりに新たなビジネスを手がけるにしても、本業の“レール”の延長線上からは決してはずれない。この本業力こそ、つぶれない老舗の共通点のひとつ」(45 ページ)と指摘する。減築により古びた巨大団地を生き返らせるヤシマ工業の小坂幸彦・副社長は、「『正義の味方』求めます」という求人広告に惹かれて入社したという。同い年の者として、その気持ちは理解できる。同業者の信頼も厚く、ミサワホーム本社ピルの外壁まで改修している。単なる商業主義ではなく、公を尊ぶ社風のためである。野村さんは、「『正義の味方』は、一見ばかばかしいほど単純に思えて、実は老舗企業のバックボーンにあるものを、だれにでもわかる形で示した言い方」(90 ページ)と指摘する。プラスチックキャップのトップメーカー三笠産業の中興の祖、林田孝一は、住友商事から、金型の特許の譲渡を持ちかけられたとき、こんな芝居がかった吹阿を切ったという。「住友さん、三笠の技術ちゅうのは、私、林田孝一の命より大切なもんだす、私は死ねばそれで終わりでんね、そやけどこの三笠の技術というのは、林田孝一が死んだ後もずっと残していく財産ですんで、この技術は絶対にお渡しできません、そのかわり、不良のない製品をしっかり納入することを約束させてもらいますで」(181 ページ)。野村さんは、三笠のキャップが海外のニーズを遙かに超える過剰品質である事を紹介し、「鎧兜や鉄砲からガラケーにまで一貫している過剰品質を否定したなら、日本の技術の最良の部分が失われはしまいか。日本の老舗を老舗たらしめているものを奪う結果にもなるのではなかろうか」(193 ページ)と指摘する。吉川廣和・ DOWA ホールディングス会長は、「夢は一人ひとり違うのです。それなのに、社長が一人ひとりの夢に対応できるわけはないじゃないですか」(231 ページ)と語る。まったくその通りである。今日、夢を手帳にした某飲食系企業の創業者にはブラックのレッテルが貼られた。野村さんは、「一族経営と非上場が、日本の老舗企業を語る際に不可欠な二大要素」(204 ページ)とまとめる。私は、やりたい仕事があり、東証一部上場企業から一族経営・非上場の中小企業に転職した。上場し、有能な社長をヘッドハンティングしてくるのは、一瞬の輝きに過ぎないと感じたからだ。一流企業では粉骨砕身努力して歯車で終わるが、老舗企業では、100 年、200 年の歴史を刻む礎となれる。
2014.10.22
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千年、働いてきました 「こういう十年とか二十年とか、あるいは三十年とか、それだけの期聞をかけないとできない研究って、山ほどあるわけですよ。そして、大企業にはこれができないんです」(200ページより)著者・編者野村進=著出版情報角川書店出版年月2006年11月発行著者は、アジア・太平洋地域、先端医療、メディア、事件、人物論などの分野で取材と執筆を続ける野村進さん。冒頭で、世界一古い会社として、西暦 578 年から続いている金剛組を紹介。598 年に難波に四天王寺を完成させたのが最初の仕事という超老舗企業である。これ以外にも、創業 100 年を超える老舗企業は、わが国に 10 万以上あるという。そして「およそ 4 万 5 千軒が製造部門」(29 ページ)なのだ。野村さんは、「製造業のアジア」と「商人のアジア」があり、わが国は紛れもなく「職人のアジア」だとしたうえで、「『職人のアジア』には“王”すなわち権力者への根強い信頼感が根底にある。それはしばしば、国家や政府への信頼感につながる」(33 ページ)と指摘する。「老舗の土台を築くのは、三代目あたりの養子」と言われるが、本書の取材でもそういう老舗企業を多く取り上げている。「商人のアジア」代表の中国には「有能な他人より無能な血族を信頼せよ」という格言があるが、大阪には「息子は選べないが、婿は選べる」という言い習わしがある。野村さんは、これこそ日本のプラグマティズムだとする。第2章以降では、携帯電話の部品で活躍する老舗企業を紹介する。バイブレーションの部品を作る田中貴金属――金を扱う技術を金極細線の製造にも応用している。福田金属は金箔・銀箔の老舗で、11 代目社長は「身の程をわきまえる」(50 ページ)ことを続けてきたという。小坂製錬を傘下に置く DOWA ホールディングスは、小坂銅山での製錬技術を活かし、都市鉱山の発掘や土壌汚染の浄化を行っている。そして、かつての鉱山を最終処分場としている。長年の仕事場であり地域の理解を得てきたことから、最終処分場建設に対する大きな反対はなかったという。末期肺がんから奇跡的に生還したセラリカ NODA社長・野田泰三さんは、農林業者から害虫として嫌われているカイガラムシが分泌するロウが安定した化学物質であることに目を付け、「殺す発想」から「生かす発想」に転換する必要があると指摘する。筆ペンでお馴染みの呉竹創業者の綿谷奈良吉さんは、カーボンや微粒子分散技術の強みを活かし、「うちは、あくまでもアナログの世界に特化してゆこうと思っています。アナログ・反デジタルへのこだわりは、ずっと持ちつづけてゆこう」(129 ページ)という。徹底している。1899 年(明治 32 年)創業のカタニ産業は金箔づくりの老舗だが、現社長の蚊谷八郎さんの座右の銘は、「伝統は、革新の連続」(143 ページ)というものだ。台湾向けのアルミ箔や、箔転写で使うスタンピング・フォイルも生産する。1871 年(明治 4 年)創業の鋳物工場・永瀬留十郎工場の永瀬社長は「ある条件を入れたら、こういう答えが出ますよというのが、コンピューターだよね。でも、その条件を入れるのは、あくまでも人間でしょ? 鋳物の場合、図面を描いてくれたユーザーさんの意図があるんだけれど、その意固までコンピューターは読み取ってくれないんだよね。この部分は最後まで絶対残っちゃう。ここは、たぶん永久になくならないと思う」(168 ページ)と語る。たしかに、システム要件定義も人間でなければできない。水飴屋から研究所に転身した林原の三橋常務取締役は「うちの社長はわれわれに、なんぼでできるかという質問はしないんですよ。できあがったとき、どれだけ役に立っかという質問だけです」(198 ページ)と語る。老舗の社長は格好いい。エピローグとして、金剛組倒産の顛末が語られる。2006 年(平成 18 年)、大阪の同業者が奇策を用いて金剛組を破産から救ったという。老舗企業は、単なる同族会社ではなく、みんなに支えられている/みんなが支える価値のある会社と信じているのである。
2014.10.08
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職場は感情で変わる 「相手に関心を持ち、相手の変化に気づき、思いやる力」(227ページより)著者・編者高橋克徳=著出版情報講談社出版年月2009年9月発行著者は、人材育成・組織改革手法の開発や研修・講演・コンサルテインクに取り組む、株式会社ジェイフィール執行役員の高橋克徳さん。「組織感情は、一人ひとりを元気にするとともあれば、一人ひとりを追い詰めてしまうとともあります。だから、その感情を自分たちで知り、自分たちを追い詰めている不快な感情は取り除き、自分たちを元気にしてくれる良い感情を引き出し、伝え合い、共有しよう。そして、自分たちで良い感情の連鎖を起こしていこう」(208 ページ)というのが本書の主張だ。高橋さんは、個人個人の認知のフレームが異なるので、感情も十人十色になるという。ここまでは納得できるが、認知の歪みをチェックする必要があるという意見には反対である。組織はヒトで動いている以上、個々人の認知に歪みは避けようがなく、その歪みの総体が、その組織の“個性”だと考える。歪みをチェックして補正できるとしたら、組織の個性がなくなってしまうのではないか。高橋さんは、「修羅場体験を一緒に乗り越えていくととは、連帯感、一体感を共有する大きなきっかけになっていきます」(134 ページ)と指摘している。ただ、コンプライアンス遵守、労働環境改善という社会的要請の中、学生時代のように大勢が徹夜で目的に向かって取り組むということをやりにくくなっているのも事実である。修羅場体験を作り出す方法が紹介されているので、会社として、社員旅行や合宿研修の場で修羅場体験させる必要があるように感じた。また、会社にいることで安心感を得られる、困ったことを仲間に相談できる、そういった感情を共有できることも大切だ。仲間がうつ病に陥らないための処方箋も用意されている。最後に高橋さんは「相手に関心を持ち、相手の変化に気づき、思いやる力」(227 ページ)が大切だと締めくくる。自分も「最近の若い者は‥‥」という枕詞が口をついて出る年齢になってしまったが、「最近の若い者」は自分のことで精一杯で、周囲に気を遣う余裕がないことは見ていて明らかだ。では、われわれの世代は、「最近の若い者」の変化に気づき、思いやっているだろうか――仕事でも家族でも、自己の利益・都合はさておき、相手に最大限の関心を払う姿勢を保ち続けようと考えた次第。
2014.09.11
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侵略!イカ娘(17) 私を普通の女の子扱いするの やめてくれなイカ?著者・編者安部真弘=著出版情報秋田書店出版年月2014年9月発行「海の家れもん」を拠点に、今日も地球侵略活動を続けるイカ娘。イカ娘に飽きられた早苗のとった行動は? イカ娘を普通の女の子だと言うシンディと、イカ娘のことを忘れたくて仕方の無い渚はどうなる? ヤンキー看護師・留夏の描く絵は、なぜファンシーなのか?7 年間ずーっと真夏の「海の家れもん」。OAV 付限定版も同時発売で、TV アニメ・シリーズは Blu-ray BOX 化。頑張れ安部先生! 読者の心は完全侵略されているぞ!!
2014.09.10
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魔女の世界史 〈魔女〉は、現実に閉ざされている私たちに、別世界への旅をかき立ててくれる。(278ページ)著者・編者海野弘=著出版情報朝日新聞出版出版年月2014年7月発行著者は、平凡社『太陽』編集長を経て、幅広い分野で執筆活動を行う海野弘さん。海野さんは、魔女狩りの時代の魔女と一線を画し、「19 世紀末に魔女が見えるものとなった」(28 ページ)という仮説を立てる。人々は、近代に入り科学の明かりに照らされた都市の裏に、何かあるのではないかという疑念を感じる。かつて太陽の光が届かない森の奥深くに魔女が住んでいたように、都市の裏にも魔女が住んでいるのではないか。メディアが過去の魔女の情報を集め、その情報が拡散し、近代の魔女が形作られていく。中世の森のようなゴシック建築は、魔女と相性がいい。女性作家が書く非現実なゴシック文学は新しい魔女を生み出し、ゴシックロリータが流行る。第1章の最後では「世紀末魔女図鑑」として、サロメ、リリス、メディア、ユーディット、スフィンクス、メデューサ、イヴ、キルケ、等々を挙げている。彼女たち全ての名前を記憶している自分は、いかに世紀末オカルト・オタクであるかを再認識させられた。魔女とオカルトはセットで現れるのだ。20 世紀に入り、「〈ウーマン・リブ〉と新魔女運動は重なっている」(111 ページ)という。ニューエイジや SF と魔女の関係について、ヨーロッパを中心に詳しく紹介している。海野さんは、1970 年代のパンクから始まった〈ゴス〉は、1995 年(平成 7 年)に入ってサブカルチャートなり公民権を得たと指摘する。さらに、「〈ゴス〉はメイクやファッションを通して、魔女になる術を教えたのだ。そして日本では〈ゴスロリ〉という魔法少女たちが生まれた」(208 ページ)という。ただし、「〈オタク〉は男性中心で、〈ゴス〉を支える女性をカヴァーできない」(251 ページ)とも指摘する。最後に、アニメの魔法少女たち、AKB48、きゃりーぱみゅぱみゅ、初音ミクなどを魔女として紹介しているが、考察がやや弱いように感じられた。海野さんは最後に、現代に魔女が横行する背景として、別世界に飛び立ちたいという願望から魔女がもてはやされる一方、敵を魔女として投影することで差別論に繋がるとしている。いずれにしても、インターネットがサブカルチャーであった魔女をメジャーにしたことは確かである。そして、腐女子が真の魔女なのではないかと感じる次第(笑)。
2014.08.25
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ムダヅモ無き改革(13) 發が6枚‥‥!!?(タイゾー)著者・編者大和田秀樹(漫画家)=著出版情報竹書房出版年月2014年7月発行著者は『機動戦士ガンダムさん』『大魔法峠』でお馴染みの大和田秀樹さん。シリーズ累計200 万部を突破した政治+麻雀アクション漫画だ。舞台は前巻に引き続き尖閣諸島沖――江青と蒼井うさぎの闘いに決着がつく。副将戦は、復活した毛沢東とダライ・ラマ 14 世――こんなヤヴァイ内容では輸出できませんがね――お引きに周恩来が見参。さて、7 千万の国民を餓死させたジェノサイド部門のワールドホルダー毛沢東と、観音様の生まれ変わりのダライ・ラマ 14 世の超絶闘牌の行方はいかに。闘牌気は物質ではないので、イカサマの手が音速を超え、亜高速にも到達することができるとは‥‥そんな無茶苦茶な。生臭い政治の話はともかく、見開きを使った迫力バトルは麻雀を知らなくても楽しめる。
2014.08.04
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