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2025.05.17
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『かわいそうだね?』綿矢りさ(文芸春秋)

 まず、タイトルの意味がなんとも分かりません。
 というか、もちろん書かれていることは分かるのですが(それは分からないはずはないやろ)、「かわいそうだね」に「?」がついていると、具体的にどのような状況下でこのニュアンスの用い方がされるのか、何だかよくわからないことないですか?

 あれこれ考えて、わたくし的にとりあえず納得できるのは、例えば、小学校の教室であります、授業をしていて、先生が生徒たちにちょっと謎をかけるように言います。こんな感じ。
 「じゃあみんな。答えは3だね? それでいいね?」
 これを国語の授業にして、先生の問いを小説の登場人物の心理読解の質問にします。こんな感じ。
 「じゃあみんな。答えはかわいそうだね? それでいいね?」

 ……、わたくし、そんなシーンしか理解できないんですけどー。
 「?」が付いただけで、この言葉の抑揚もよくわかりません。そんなことないですか?
 実は、後に詳しく書きますが、あの大江健三郎もよくわからないといってるんですねー。
 大江氏はこう発言しています。

​ 「私も最初は『かわいそうだね?』というクエスチョンマークのついたタイトルに、違和感を持ちました。」​

 あ、よくわからないとは言ってないか。違和感、か。でも、近いですよね。やはりこのタイトルは「ヘン」なんですよね。
 で、その大江の発言に対して、綿矢りさはこんな風に答えています。

​「題名にしても文章にしても、目を引きたいというか、奇をてらいたい部分があるから、あまり年代に関係なく、そういう部分に引っかかる人は多いかもしれません。」​

 ……目立ちたかったんですぅ。……んー、世界の大江によくそんなこと言うよ、と思いませんか?
 まー、いいですが、そんな本です。

 私も読みまして、ちょっと戸惑いました。
 何に戸惑ったかという前に、まず、いいなと思ったところから挙げていきますが、お話のテンポもよく、それなりにストーリーも、ぎりぎり無理なく読ませます。私は関西人ですから終盤の主人公が「キレた」(本文では「つながった」と書かれていますが)場面の関西弁もとても楽しく読みました。
 それに、何と言っても、文章力は全編通して、かなり正統的なものがあると感心しました。心理描写時の直喩・隠喩の的確さ、目の付け所が実に秀逸であります。

 以前私は、文章力というものは野球の守備力みたいなもので、あまり大きなスランプがないんじゃないかと考えたことがありましたが、本書も一度最後まで読むと、後はどのページをぱっと開いても、そこから面白く読み進めていけます。文章だけで勝負できるという感じですね。

 でも、その正統的な文章力で、いったい何を描いているかというと、それは、控え目に考えても、私のような年配を主たる読者層とは想定していない内容じゃないか、と。これは、二十代から三十代の女性向けに書かれた小説ではないか、と。初出雑誌は「週刊文春」だし、そんな女性向けのエンタメ小説なんじゃないか、と。

 ところが、本作に大江健三郎が注目するんですねー。
 第6回大江健三郎賞をあげちゃうんですねー。

 ……と、やっとここで、大江健三郎がつながりました。
 で、上記に書いた私の戸惑いとは、ここであります。
 なぜ、これが大江賞なわけ? 大江氏は、このエンタメ小説のどこをどう評価して大江賞に選んだわけ? と、まー、私は戸惑ったわけです。
 で、調べてみると、こんな本が図書館にありました。

 『大江健三郎賞8年の軌跡 「文学の言葉」を恢復させる』(講談社)

 この本は、大江賞の8回分の選評と、大江氏とその年の受賞作家との対談が載っています。(大江賞は大江一人が選者の賞です。)上記の両氏のセリフはここから引用しています。
 で、他にも、大江はこんなことを言っているんですね。

​ 「こういうジジイに読まれて賞をもらうということは不思議で、困ったとも思われたのではないでしょうか?」​

 それに対して綿矢りさは、もちろんそんなことないと否定します。(わたくし、これは嘘だと思いますよ。当然不思議に思ったろうし、さらに、大江健三郎に褒められたら難しい小説かと思われて買ってもらえなくなるんじゃないかとくらいは、ちらっと不安に思ったような気がします。)でも、続けてこう発言しています。

​ 「(略)それで今回、読んでいただいて、無意識のうちに読者を限定してしまったのを、ちょっと反省しました。」​

 (白状しとるやないか。)
 と、そんなふうに、作者も大江も、読者限定小説と一応書いている本書を、大江氏はなぜ賞に選んだのか。
 上記の大江賞についての本のタイトルに「『文学の言葉』を恢復させる」とありますが、これは大江賞設立にあたって大江が書いた文章中にある言葉ですが、本エンタメ小説のどこをどう評価したらこの設立趣意と繋がるのか、私は気になって読んでみました。

 すると、うーん、そう読むのかー、なるほど、さすが、上手に褒めるものだなーと、なかなかに興味深かったのですが、……あー、すみません、次回に続きます。

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Last updated  2025.05.17 08:52:36コメント(0) | コメントを書く
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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