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2017.03.20
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カテゴリ: 観照 [再録]

                                                                                    [探訪時期:2014年4月]
数年前の春、地元宇治市の黄檗周辺を探訪し始めた頃に立ち寄らせていただいた霊園があります。そこで拝見した桜がすばらしかったので、図書館に予約本を借りに行った後、久しぶりに再訪させていただきました。 黄檗山萬福寺の背後の丘陵地に設けられた霊園の桜 です。
冒頭の写真は、その霊園の高みから、萬福寺の山門を眺めたものです。
再録して、ご紹介します。あとしばらくすれば、再びその姿が巡ってきます。

唐の詩人、劉廷芝 (りゅうていし) が詩の一節に

    年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

と詠み上げています。観桜に出歩くことができる間に、自然に咲きほこる花の姿に直にふれて、この今という時と自然美を愛でたいものです。


丘陵地の斜面に設けられた霊園中央の階段を軸にして、左右に段上に墓地が広がっています。中央の階段が桜並木になっていて、ところどころに桜の木が点在します。





ふと連想したのは西行法師の歌でした。

     ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃  

後で手許の本を調べて見ると『山家集』の77番目に載っています。『続古今和歌集』に採られている歌でもあります。 (資料1)

西行法師はこの歌に詠んだように亡くなったと、どこかで聞いた記憶がありました。
ウィキペディアを検索すると、やはりそういう記述が見られます。 文治6年2月16日(1190年3月23日)、享年73歳で、河内国弘川寺にあった庵居で入寂 したそうです。 (資料2)

この歌のすぐ後に、
     ほとけには桜の花をたてまつれ我が後の世を人とぶらはば  78
という歌を詠んでいます。 (資料1)


春、咲き誇る桜の花の美しさを嘆賞したと思うと、一時の盛りの後に早々と散り行く桜。
それは諸行無常の象徴なのかもしれません。
巡り来る季節を明確に感じさせてくれるとともに、盛衰のあることをも鮮やかに感じさせてくれる花。




桜の木々の上の景色は天気が良いと見応えがあります。




この霊園祀られている 水子地蔵尊 です。

西行はこんな詞書を付けて歌を詠んでいます。

       しづかならんと思ける頃、花見に人々まうできたりければ
    花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の科には有ける  87 『玉藻集』2

江戸時代から日本では桜の木の下で、花見の宴を楽しむ文化を繰り広げてきたようです。今も桜満開のシーズンには、あちらこちらで同じ花見の楽しみ方が繰り広げられています。喧騒の中の桜は、桜花を味わうにはやはり落ち着けません。
この霊園の桜を拝見することで、静かに桜の花を介して観照するひとときを得ました。
宇治市内の道路沿いに見事に咲く桜を、通りすぎる序でに見るのとはまた違う味わいです。




横に伸びた太い枝から小さい枝が出て、桜の花を咲かせ、
桜の幹が分かれるところに小さな枝が出て、桜の花を付けていたり、
様々な姿を静かに眺めることができました。


私は丘陵上の入口から再訪させてもらったのですが、本来の入口からは

「京都華僑霊園」 の入口  黄檗山萬福寺の背後に位置します。



中央の少し急な石段を上ると、「京都華僑墓地」の石標があります。      

              丘陵上の最奥部、霊園の山頂側の出入り口の眺めです。
              この地に眠る人々に・・・・・・合掌。

墓地の形から異文化を感じ、インドから日本までの仏教の広がりと伝来を感じることができます。歴史と仏教の受容のあり方について考える刺激を得られる場所でもあります。

西行が桜を詠んだ歌の連想から、一歩進めてみました。
西行が桜という語を詠み込んでいる歌を『山家集 上』の「春」から抽出してみたのです。歌の末尾は歌集での番号です。良い機会なので、本箱に眠っていた本を繙いてみる気になった次第です。

 待つにより散らぬ心を山桜さきなば花の思ひしらなん    56
 あくがるる心はさても山桜ちりなん後やみにかへるべき   67  新後撰2
 何とかやよに有りがたき名を得たる花も桜にまさりもせじ  79
 山ざくら霞のころもあつく着てこの春だにも風つつまなん  80
 ならひありて風誘ふとも山桜尋ぬるわれを待ちつけて散れ  84
 木のもとは見る人しげし桜花よそにながめて香をば惜しまん 95
 待ちきつる八上の桜さきにけり荒くおろすな三栖の山風   98
 ちるをみで帰る心や桜花むかしにかはるしるしなるらん   104  千載集17
 年をへて待つも惜しむも山桜心を春はつくすなりけり    109  続拾遺2
 吉野山谷へたなびく白雲はみねの桜の散るにやあるらん   110
 雪と見えて風に桜の乱るれば花のかさきる春の夜の月    126
 吉野山桜にまがふ白雲の散りなんのちは晴れずもあらなん  132
 山桜枝きる風のなごりなく花をさながらわがものにする   140
 吉野山ひとむら見ゆる白雲は咲きおくれたる桜なるべし   142
 いざ今年ちれと桜をかたらんはなかなかさらば風や惜しむと 150
 ふく風のなめて梢にあたるかなかばかりの人の惜しむ桜に  152

手許の本には通し番号で1552首が載っています。その中で「春」の部は173首です。
その中でに直接「桜」を詠み込んだのが17首です。「春」の部には、「花」という語で詠んでいる歌も多く載っています。西行の生きた時代には、春に「花」といえば桜という理解になっていたのでしょうか。

また「春」の部以外でも「桜」を詠み込んだ歌が『山家集 上』に載っています。
 桜ちる宿を飾れる菖蒲をばはなさうぶとやいふべかるらん   202
 山桜思ひよそへてながむれば木ごとの花はゆきまさりけり   567

『山家集 中』には・・・・・
 つれもなき人に見せばや桜ばな風にしたがふ心よわさを    597
 桜花散り散りになる木の下に名残りををしむうぐひすのこゑ  827
 わび人のなみだに似たる桜かな風身にしめばまづこぼれつつ 1035

『山家集 下』には・・・・
 月見れば風に桜の枝なえて花よと告ぐる心地こそすれ    1069
  類ひなき思ひいではの桜かなうすくれなゐの花のにほひは  1132
  春風の吹おこせむに桜花奈となり苦しく主やおもはん    1168
 ききもせずたはしね山の桜花吉野の外にかかるべしとは   1442
  吉野山高嶺の桜咲き初めばかからんものか花の薄曇     1454
 山桜咲きぬとききて見にゆかん人を争ふこころとどめて   1457
 山桜程なく見ゆるにほひかな盛りを人に待たれ待たれて   1458
 山桜蕾みはじむる花の枝に春をば籠めて霞む成けり     1537




                萬福寺の裏手にて

ご覧いただきありがとうございます。

つづく

参照資料
1)『山家集 金槐和歌集 日本古典文学大系』 岩波書店
2) 西行  :ウィキペディア

【 付記 】 
「遊心六中記」としてブログを開設した「イオ ブログ(eo blog)」の閉鎖告知を受けました。探訪記録を中心に折々に作成当時の内容でこちらに再録していきたいと思います。ある日、ある場所を訪れたときの記録です。私の記憶の引き出しを兼ねてのご紹介です。少しはお役に立つかも・・・・・。ご関心があれば、ご一読いただけるとうれしいです。

補遺
弘川寺  :「河南町」
西行記念館
弘川寺(ひろかわでら)のカイドウ :「大阪府」
弘川寺  :「kazu_sanの 百寺巡礼」 
あの人の人生を知ろう ~ 西行法師  :「文芸ジャンキー・パラダイス」

黄檗山萬福寺  ホームページ 
黄檗山 萬福寺  :「臨黄ネット  臨済宗 黄檗禅 公式サイト」 
萬福寺  :ウィキペディア

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Last updated  2017.03.23 23:31:09
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