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2017.03.19
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カテゴリ: 観照 [再録]

地元宇治市にある植物公園では毎年、数日間無料入園できて桜のライトアップを見る事ができます。 2014年3月30日(日) に家族で夜桜を眺めてきました。
当日曇り空で少し寒く、風の吹く時がありました。それ故か桜見物に来ている人は思ったより少ない感じでした。 2014年に観桜をシリーズでまとめていました。それを再録しておきたいと思います。
まずは、2013年の昼間の宇治市植物公園の再録、ご紹介に続けて、夜のライトアップをご紹介することから始めます。


いつもの手頃なデジカメで、三脚も使わずに撮った写真です。

今年も行ってきましたという記録写真程度ですが、
まあ撮った中で、ましな部類を日記として記録しておきたいと思います。

この公園の桜そのものとは直接の関係はありませんが、桜を鑑賞し、その観照から桜についての記憶と連想をきっかけにして、手許の本その他も参照しながら勝手きままに綴ってみたいと思います。写真をベタに並べるだけではおもしろくありませんので。



『万葉集』 には、花という表現だけですが、桜と特定できる歌6首を含めると、 47首の歌 (資料1) 。犬養孝もある文で約40首と記しています。 (資料2)  以下敬称表記の区別が煩わしいので敬称は省略します。

 梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや  薬師張氏福子
                     巻5-829
という歌が載っています。 梅は119首 あるそうです。

折口信夫がこう説明しています。「桜花は、既に人々から賞翫されて居た。庭に植えて愛する事もあったが、それはむしろ梅に多くて、桜にはなほ山野に自生したのを愛した方が多かった。」 (資料3)



奈良で桜といえば今は吉野山が有名ですが、 万葉の時代には吉野山の桜は一首もない のです。 当時は、春日野・高円山・三笠山・香具山などと大和から河内の公道となっていた竜田の山越えあたりの桜 が多く詠まれたようです。

 あおによし寧樂 (なら) (みやこ) は咲く花のにほふがごとく今さかりなり
              太宰少貳小野老朝臣  巻3-328
 春雨のしくしくふるに髙圓の山の桜はいかにあるらむ    河邊朝臣東人
                         巻8-1440
 春雉 (きぎし)
 阿保山のさくらの花は今日もかも散り乱るらむ見る人無しに     巻10-1867
 見渡せば春日の野邊に霞立ち咲きにほへるは桜花かも        巻10-1872



丘辺の道は、平城京-大和川(古代の竜田川)沿い-河内国府-難波 というルートで、竜田の山を越えて通じていたのでしょう。
「大和川の渓谷は、西からの台風などが大和へはいる通路でもあるから、この竜田に、竜田彦・竜田姫の風の神がまつられた。竜田は神奈備であって、いまの位置とは異なるが、竜田本宮がこれにあたる」 (資料2)  神奈備は「神道で、神の鎮座する場所」 (『日本語大辞典』講談社) のことです。

 わが行きは七日は過ぎじ竜田彦ゆめ此の花を風にな散らし      巻9-1748
 暇あらばなづさひ渡り向 (むか) つ峯 (を) の桜の花も折らましものを    
                                 巻9-1750
 い行相 (ゆきあひ) の坂のふもとに咲きををる桜の花を見せむ兒もがも  巻9-1752

これら三首はその直前の長歌に対する反歌として載っていますが、詠み人は具体的な名前の記載がありません。長歌には「龍田の山の、桜の花は」(1947)、「立田の山を、桜の花は」(1949)、「丘邊の道ゆ、桜の花は」(1751)という語句が詠み込まれています。一書には高橋虫麿歌集と明記しています (資料1)  1748の歌は犬養孝の文でも虫麻呂の作とされています。



天平12年(740)9月に、「藤原広嗣の乱」として歴史年表に記載されている 藤原広嗣が詠んだ歌 が『万葉集』巻8の「春相聞」として載っています。

   藤原朝臣広嗣、桜の花を娘子 (をとめ) に贈れる歌一首    巻8-1456
 この花の一瓣 (ひとよ) のうちに百種 (ももくさ) の言ぞ隠れるおほろかにすな
   娘子の和 (こた) ふる歌一首
 この花の一瓣のうちは百種の言持ちかねて折らえけらずや     巻8-1457

この相聞歌を折口信夫は次のように口譯しています。 (資料4)
「此花の一瓣(ヒラ)の中に、百通りからの語が籠もってゐる。口では何も云はないが、其語を、よく考へて疎かに見てくれるな。」
「此花の一瓣の中には、百通りもの語が籠もってゐる為に、それに持ちこたへかねて、とうとう折られて了うたという訣ではありませんか。」
折口信夫は、娘子が広嗣の歌に対して「軽く揶揄したのである」という説明を付記しています。
そうであれば、広嗣は思いを遂げられなかったのでしょうね。やはり・・・悲しみを残す人なのでしょうか。





さて、最後に学校時代に名前を覚えた歌人たちが詠んだ歌をあげておきましょう(長歌を除く)。
まずは、 山部赤人の歌 です。

 あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも  巻8-1425

次に 柿本人麻呂の歌 です。彼の歌集に掲載されているという説明が出ている歌です。
 桜花咲きかも散ると見るまでに誰がもここに見えて散り行く 巻12-3129

大伴家持 も桜花を詠んでいます。
 吾背子が古き垣内 (かきつ) の桜花いまだ含 (ふふ) めり一目見に来ね
                               巻18-4077
 今日のためと思ひてしめしあしひきの峯 (を) の上 (へ) の桜かく咲きにけり
                               巻19-4151
 桜花今さかりなり難波の海おし照る宮に聞こしめすなへ     巻20-4361
 龍田山見えつつ越え来 (こ) し桜花散りか過ぎなむわが帰るとに   巻20-4395

家持の龍田山の歌が、桜を詠んだ歌では万葉集の最後尾の歌になります。



吉野山の桜が歌に詠まれたもの が歌集に載っているのは、 『古今和歌集』が初見のようです (資料5)
 み吉野の山べにさける桜花雪かとのみぞあやまたれける   紀 友則   60

この歌は詞書に「寛平御時きさいの宮の歌合の歌」とあります。これは寛平初年(889)頃のようです。
『万葉集』は最終的に20巻本万葉集となったのです。大伴家持が編者として関わったのは確実なようで、現在の形にまとまったのは奈良時代後期。所収の歌の時代区分で見ると、第4期が734~759で、収録歌の最後は759年のようです (資料6) 。一説には家持が完成させたのは延暦2年(783)頃で、公式に完成と言えるのが延暦25年(806)ととらえることもできるようです (資料7) 。つまり、吉野山の桜が歌に詠まれるのは100年ばかりの時を経てからになるのですね。



ご覧いただきありがとうございます。

つづく

参照資料
1)『萬葉植物事典 普及版』 大貫茂著 馬場篤[植物監修] クレオ
2)『万葉十二ヵ月』 犬養孝著 新潮文庫 「峠のさくら」 p79-84
3)『折口信夫全集 第六巻 萬葉集辞典』 中公文庫
4)『折口信夫全集 第四巻 口譯萬葉集(上)』 中公文庫
5)  吉野山  :ウィキペディア 
6)『クリアカラー 国語便覧』 監修 青木・武久・坪内・浜本  数研出版
7)  万葉集  :ウィキペディア

【 付記 】 
「遊心六中記」としてブログを開設した「イオ ブログ(eo blog)」の閉鎖告知を受けました。探訪記録を中心に折々に作成当時の内容でこちらに再録していきたいと思います。ある日、ある場所を訪れたときの記録です。私の記憶の引き出しを兼ねてのご紹介です。少しはお役に立つかも・・・・・。ご関心があれば、ご一読いただけるとうれしいです。

補遺
宇治市植物公園  ホームページ
   今年(2017)も、宇治市植物公園開園20周年記念「しだれ桜夜間無料公開」
   3月18日(土)~31日(金) 始まりました。
ヤマザクラ  :ウィキペディア 
吉野山観光協会  公式サイト 
龍田大社  :ウィキペディア 
龍田坐天御柱国御柱神社二座  :「神社資料データベース」(國學院大學)
名に負へる社に 風祭せな  :「万葉散歩」
藤原広嗣  :ウィキペディア

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Last updated  2017.03.23 23:27:13
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